(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】摩擦値推定方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230220BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230220BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230220BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230220BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230220BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2020513329
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(86)【国際出願番号】 FR2018052190
(87)【国際公開番号】W WO2019053356
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-16
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギルモン アラン
(72)【発明者】
【氏名】ボドワン ニコラ
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/014399(WO,A1)
【文献】特開2014-139059(JP,A)
【文献】特表2017-507844(JP,A)
【文献】特開2014-098591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線角に対して交差する結果となる
ハンドルの旋回を行う際に、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、前記旋回は、予め決められた
範囲に含まれる実質的に均一な速度で行われるとともに、
ハンドルの角度は予め決められた
範囲に含まれ、
複数の車両データ(d)を取得するステップ(1)であって、前記車両データ(d)には、ラックに掛かるアシストモータの作動力についての少なくとも1つの値と、前記ラックに掛かる
ハンドルの作動力についての少なくとも1つの値と、が含まれる、ステップ(1)と、
前記ラックに掛かる前記
ハンドルの作動力と、同じくラックに掛かる前記アシストモータの作動力とを、足し合わせたものを平均化することにより、前記摩擦値(f)を推定するステップ(4)と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、前記旋回の速度は5~20°/sの範囲に含まれることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、前記
ハンドルの角度は、前記車両が実質的に直線状の軌道に沿って動く場合の
ハンドルの角度と比べて、+/-2°の範囲内に含まれることを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、角距離が、直近で逆方向に旋回した際の角距離に対して、5°であることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、前記摩擦値(f)に応じて繰り返すことにより暫定的な摩擦値(fn)を算出するステップ(5)を含むことを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、複数の車両データ(d)を取得する前記ステップ(1)の後に、コンピュータの少なくとも1つの温度を、予め決められた値の範囲と、比較する、比較のステップ(2)を含むことを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、前記比較のステップ(2)は、前記車両データ(d)が予め決められた範囲にある場合に有効化信号(v)を出力することに加えて、またはこれに代えて、少なくとも1つのデータ(d)が予め決められた範囲にない場合に無効化信号を出力することを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、
データ(d)を比較するステップ(2)で有効化信号(v)が出力された場合、および/または、データを比較するステップで無効化信号が出力されない場合に、摩擦値(f)を推定するステップ(4)が行われることを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、前記車両データおよび前記推定された摩擦値(f)の信頼度係数(p)を推定するステップ(3)を含むことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、暫定的な摩擦値(fn)の算出においては、少なくとも、前記車両データ(d)の前記信頼度係数(p)と、前記推定された摩擦値(f)とによって、重み付けがされることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、暫定的な摩擦値(fn)の算出においては、平均化係数(w)によって重み付けがされることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、複数の車両データ(d)を取得する前記ステップ(1)は、前記車両データ(d)を処理する段階を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項7から請求項12までのいずれか一項に記載の、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、暫定的な摩擦値(fn)を算出する段階(5)は、前記車両データ(d)を比較する前記ステップ(2)において有効化信号(v)が出力されなかった場合、および/または、前記車両データを比較する前記ステップにおいて無効化信号が出力された場合に、行われることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワーステアリングシステムに関し、より詳細には、パワーステアリングラックに掛かる摩擦の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵システムのおかげで、運転者は、ハンドルに作動力を掛けて車両軌跡を決めることができる。
【0003】
一般的に、操舵システムは、操舵コラムに接続されるハンドル、ラック、および、リンクにそれぞれ接続される2つの車輪を含むいくつかの要素を備える。ラックは、間に操舵コラムを介在させて、ハンドルを、リンクを介して車輪へ接続可能とする部位である。すなわち、ラックは、運転者がハンドルに掛けた作動力を変換して、車両の車輪を回転させる。
【0004】
車両のパワーステアリングシステムにおいては、運転者により掛けられた作動力を減少させて車両の車輪の進路を変更するために、操舵コンピュータにより制御されるアシストモータを利用する。ハンドルに掛けられた作動力に応じて、車輪の進路が変更されるように、アシストモータはラックを制御する。
【0005】
パワーステアリングシステムを構成する要素は、接触するように互いに調整された複数の機械的要素である。同種の2つの車両の間においても、すなわち同様の特性を有する2つの車両の間においても、生産時に公差が生じることから、機械的要素の調整が厳密に同一にはなされていないことが示唆される。そのため、同種の2つの車両が同じ条件下におかれた場合に、機械的要素の調整の差異に起因して、機械的要素間の互いの接触に関わる摩擦値にも差異が生じる。
【0006】
また、パワーステアリングシステムに掛かる摩擦は、ハンドル角度、車両速度、パワーステアリングシステムの温度などによっても、変わってくる。
【0007】
同種の2つの車両の間でパワーステアリング装置に掛かる摩擦値が異なっているが故に、これら2つの車両の間における運転者の運転フィーリングにも差異が見られる。
【0008】
車両メーカーは、同一の条件下で同種の2つの車両の間で生じる運転フィーリングの差異を、できるだけ少なく抑えたいと考えている。メーカーは、同種の2つの車両を同一条件下で運転したときのフィーリングが略同じであることを保証するためには、例えばハンドルの作動力やハンドルのヒステリシス等の、いくつかの基準となる値が予め決められた範囲内にあるべきだ、という結論に達した。
【0009】
これらの基準が予め決められた許容範囲内にあることを保証するためには、車両のパワーステアリングシステムに掛けられる摩擦値を推定することが必要である。
【0010】
続いて、ハンドルにより掛けられる作動力と、ラック上のアシストモータにより掛けられる作動力との合計が、ラック力の推定値(RFe)として定義される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】欧州特許出願公開第3120124号明細書 欧州特許出願公開第3120124号明細書には、出願人の代わりに、公知の解決策について記載されている。これによれば、各点が、RFeの測定値と、摩擦値の測定値と、を関係付けている点群に基づいて、経験的な摩擦モデルを構築することにより、車両のパワーステアリングシステムに掛けられる摩擦値を推定している。摩擦モデルは、パワーステアリングシステムのコンピュータにより予め決められた相関関係を示す規則に基づいて、点群を回帰させたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の解決策は、広範囲のRFeに対して摩擦値の推定ができる点で、有利である。しか
しながら、この推定範囲は、車両メーカーの基準に適合するために必ずしも必要とされていない。
【0013】
さらに、記載された解決策の欠点としては、摩擦モデルは予め決められた相関関係を示す規則に委ねられている点がある。このことは、摩擦値の推定において、+/-30Nを
超えるような容認できない誤差を招くこととなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、下記の方法を提案することにより、上述の欠点の一部または全部を克服することである。この方法は、直線角に対して交差する結果となる旋回を行う際に、車両のパワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法であって、前記旋回は、予め決められた範囲に含まれる実質的に均一な速度で行われるとともに、ハンドルの角度は予め決められた範囲に含まれ、
複数の車両データ(d)を取得するステップ(1)であって、前記車両データ(d)には、ラックに掛かるアシストモータの作動力についての少なくとも1つの値と、前記ラックに掛かるハンドルの作動力についての少なくとも1つの値と、が含まれる、ステップ(1)と、
前記ラックに掛かる前記ハンドルの作動力と、同じくラックに掛かる前記アシストモータの作動力とを、足し合わせたものを平均化することにより、前記摩擦値(f)を推定するステップ(4)と、
を含む方法である。
【0015】
直線角は、車両が直線状の軌道に沿って動くときのハンドルの角度である。
【0016】
「直線角に対して交差する結果となる旋回」という用語は、旋回、すなわちハンドルの回転を意味し、直線角に対していずれか一方側へのハンドルの角度の値を変更可能とするものである。
【0017】
「実質的に均一な旋回速度」という用語は、ハンドルの回転速度が実質的に一定であることを意味し、それ故に0またはそれ以下の予め決められた値の加速度を有する。
【0018】
そのため、車両の旋回が直線角に対して交差する結果となる場合、その前記旋回は、予め決められた範囲に含まれる実質的に均一な速度で行われる。また、ハンドルの角度は予め決められた範囲に含まれることとなり、ラックに掛かる作動力のバランスに基づいて、RFeが摩擦値に等しいと推定することが可能となる。
【0019】
車両データを取得するステップは、前記推定のステップを実行するのに必要なデータを、摩擦値を推定するステップにおいて利用できるようにすることを可能とする。
【0020】
複数のパラメータが時としてRFeの値に対して影響し得るため、摩擦値を推定するステップにおいては、条件が確認された場合に、RFeを平均化する。したがって、平均を算出することにより、ある一点における値だけを見た場合よりも現実の値に近い数値を取得することが可能となる。
【0021】
本発明の一つの特徴によれば、旋回速度は5~20°/sの範囲内に含まれる。
【0022】
本発明の一つの特徴によれば、ハンドルの角度は、車両が実質的に直線状の軌道に沿って動く場合の角度と比較して、+/-2°の範囲内にある。
【0023】
本発明の一つの特徴によれば、直近で逆方向に旋回したときと比べての角距離の値は、5°である。
【0024】
本発明の一つの特徴によれば、推定方法は、摩擦値に応じて繰り返すことにより暫定的な摩擦値を算出するステップを含む。
【0025】
暫定的な摩擦値は、以前に算出された暫定的な摩擦値と相関関係にある要素である。したがって、暫定的な摩擦値を算出することにより、算出された摩擦値に対して様々なフィルタリングを掛けることが可能となる。これらの多様性はとても重要である。実際のところ、条件は満たされるものの、その他の様々な制御不能な外的因子が、データに影響し得る。このような外的要因としては、例えば、特別な被膜、傾斜、または歪曲した舗装道路などが挙げられる。
【0026】
暫定的な摩擦値は、摩擦値よりも現実に即している。
【0027】
本発明の一つの特徴によれば、推定方法は、複数の車両データを取得するステップの後に、少なくとも1つのコンピュータの温度の値と、予め決められた値の範囲と、を比較する比較のステップを含む。
【0028】
予め決められた範囲は、例えば、0~60℃を含んで成る。
【0029】
本発明の一つの特徴によれば、比較のステップにおいて、データが予め決められた範囲内にある場合には有効化信号を出力し、および/または、少なくとも1つのデータが予め決められた範囲内にない場合には無効化信号を出力する。
【0030】
本発明の一つの特徴によれば、データを比較するステップにより有効化信号が出力された場合、および/または、データを比較するステップにより無効化信号が出力されない場合に、摩擦値を推定するステップが実行される。
【0031】
したがって、摩擦値の推定を実行するための条件がより多いため、推定される摩擦値はより正確である。
【0032】
本発明の一つの特徴によれば、推定方法は、車両データおよび推定された摩擦値の信頼度係数を概算するステップを含む。
【0033】
車両データおよび推定された摩擦値の信頼度係数は、各データについての予め決められたマップおよびグラフに基づいて概算された値である。
【0034】
本発明の一つの特徴によれば、暫定的な摩擦値の算出においては、少なくとも車両データの信頼度係数および推定された摩擦値によって重み付けがされる。
【0035】
したがって、信頼度係数に応じて暫定的な摩擦値の重み付けがされる。信頼度係数が低いほど、暫定的な摩擦値が大きくなることで、算出された摩擦値の変化量をフィルタリングすることができる。
【0036】
信頼度係数により暫定的な摩擦値を重み付けすることに、最も信頼できる摩擦値に対してより重要性を付与することが可能となる。
【0037】
本発明の一つの特徴によれば、暫定的な摩擦値の算出においては、平均化した係数により重み付けがされる。
【0038】
平均化係数は、暫定的な摩擦値に対してフィルタリング効果を有する。この係数は、車両を操作している期間中に計測可能である。このことにより、車両運転の時期に応じて、暫定的な摩擦値の算出に際して、高速性と安定性との間でどこに妥協点をおくかを変動させることが可能である。
【0039】
本発明の一つの特徴によれば、複数の車両データを取得するステップには、車両データを処理する段階が含まれる。
【0040】
したがって、処理段階では、受信した生データからの車両データの抽出が保証される。処理段階では、とりわけ、ローパスフィルタを適用することにより、受信した生データから動的成分が除去される。
【0041】
本発明の一つの特徴によれば、データを比較するステップにおいて有効化信号が出力されないとき、および/または、データを比較するステップにおいて無効化信号が出力された場合に、暫定的な摩擦値を算出する段階が実行される。
【0042】
このように、条件がそれ以上有効化されない場合に、暫定的な摩擦値の算出が実行される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、本発明に係る車両の
パワーステアリングシステムに掛かる摩擦値を推定する方法について示している。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、下記の説明のおかげで、より理解されるであろう。下記の説明では、限定的ではない例を示すとともに、添付の
図1を参照することにより、本発明の実施形態について触れる。
図1では、本発明に係る方法において実行されるステップについて、概略的に示してある。
【0045】
図1は、本発明に係る方法について示している。当該発明は、車両の
パワーステアリングシステムに掛かる作動力のバランスに基づくアルゴリズムを実行する。
【0046】
車両のパワーステアリングシステムは、操舵コラムに接続されるハンドルと、ラックと、アシストモータと、操舵コンピュータと、それぞれがリンクに接続される2つの車輪と、を備える。
【0047】
車両は、特に、前記車両の速度、ハンドルの回転速度、およびハンドルの角度に依存して決まる軌道に従って動く。ハンドルの回転速度は、旋回速度とも言う。
【0048】
パワーステアリングシステムにおいては、アシストモータがラックに対し力F→motor(→はベクトル。以下同じ。)を掛ける。同様に、車輪を回転させるために運転者がハンドルを回
転させたときに、ハンドルには力F→ steering wheelが掛かり、それはラック上の操舵コラムを経由する。さらに言えば、ラックはリンクによって車輪に接続されているので、ラックはリンクおよび車輪に力F→ linkの力を掛ける。最終的に、操舵システムに掛かる摩擦は、乾燥摩擦力F→ dryと、粘性摩擦力F→ viscousとに、分けられる。
【0049】
粘性摩擦は、パワーステアリングシステムに付与された力によって決まる。これは、パワーステアリングシステムに掛けられている最小の摩擦である。乾燥摩擦は、後述するfと一致する。
【0050】
粘性摩擦は、ハンドルの回転速度によって決まる。
【0051】
このように、作動力のバランスはラックを基準にして記載される。
【0052】
Ma=Fmotor+Fsteering wheel-Flink-f-fviscous
ここで、Mは、パワーステアリングシステムの質量であり、aは、パワーステアリングシステムに掛けられる加速度、すなわちハンドル回転の加速度である。
【0053】
ここで、旋回速度が実質的には均一であると推定すると、言い換えればハンドルの回転速度が実質的には一定であると推定すると、パワーステアリングシステムにおいて掛かるハンドルの加速度の値は無視してよいと言える。そのため、上述の式において、a=0であ
る。
【0054】
加えて、車両が実質的に直線状の軌道に沿って動くと推定すると、ハンドル角度は、直線角に等しいと考えることができる。そのため、ラック上においてリンクの力F→linkによって掛かる作動力は、無視してよいと言える。そのため、上述の式において、F link=0である。
【0055】
さらに、旋回速度が低いと仮定すると、粘性摩擦力F→viscousもまた、無視してよいと言える。そのため、上述の式において、fviscous=0である。
【0056】
最終的には、上述の仮定によれば、作動力のバランスは以下のように記載される。
【0057】
Fmotor+Fsteering wheel=f
あるいは、RFe=fとも記載される。
【0058】
旋回速度が低くかつ実質的に均一であり、また、車両が実質的に直線状の軌道に沿って動くとしたら、RFeを測定すれば自ずと、パワーステアリングシステムに掛かる摩擦の推定値が得られると推測される。
【0059】
これらの仮定は、ハンドルが直線角で、かつ低い一定速度で、およそ直線角で切られる場合に、有効である。
【0060】
直線角での走行は、旋回の継続を可能とする。
【0061】
図1は、上述のアルゴリズムに基づく本発明に係る方法を示している。当該方法は、複数の車両データdを取得するステップ1と、摩擦値fを推定するステップ4と、暫定的な摩擦値fnを算出するステップ5と、データdを比較するステップ2と、車両データdと摩擦値fの推定値との信頼度係数pを概算するステップ3と、を実行する。
【0062】
ステップ1で複数の車両データdが取得されることにより、パワーステアリングシステムの摩擦値fの算出を実行するのに必要なデータdを、当該方法における他のステップにおいても利用可能とすることができる。複数の車両データdを取得するステップ1には、車両データdを処理する段階も含まれる。処理の段階では、特に、ローパスフィルタを適用することにより、受信した生データから動的成分が除去される。複数の車両データdを取得するステップ1では、生データを受信し、データdを出力する。生データとは、車両速度、ハンドルの角度、旋回速度、アシストロータによりラックに掛けられる力、ラックに掛けられる操舵力、および操舵コンピュータの温度である。データdは、車両速度、ハンドルの角度、旋回速度、アシストモータによりラックに掛けられる力、ラックに掛けられる操舵力、および操舵コンピュータの温度の他に、操舵加速度、上記RFe、およびRFeの角微係数も含む。データdを比較するステップ2においては、条件が有効とされる時期を決定することを可能とする。データdを比較するステップ2では、データdを入力値として受信し、予め決められた具体的な範囲で、各データdを比較する。例えば、旋回速度は5~20°/sの間に含まれてもよく、ハンドルの角度は+/-2°の範囲に含まれてもよく、コンピュータの温度は0℃から60℃の間に含まれてもよく、直近で逆向きに旋回したときと比しての角距離の値は約5°でもよい。これらの全てのデータdが対応する範囲に含まれている場合に、データdを比較するステップ2において、有効化信号vが出力される。
【0063】
比較のステップ2において有効化信号vが出力された場合に、摩擦値fを推定するステップ4にて、RFeが平均化されることにより摩擦値fが算出される。摩擦値fを推定するステップ4では、入力値としてデータdと有効化信号vとを受信し、摩擦値fを出力する。
【0064】
車両データdおよび推定された摩擦値fの信頼度係数を概算するステップSでは、各データdおよび摩擦値fの変動に応じて、各データdおよび摩擦値fに対して重み付けをする。重みは、予め定義されたマップやグラフに応じて決定される。こうして、重み付けに基づいて、車両データdおよび推定された摩擦値fの信頼度係数が算出される。車両データdおよび推定された摩擦値fの信頼度係数を概算するステップ3では、入力値としてデータdおよび摩擦値fを受信し、車両データdおよび推定された摩擦値fの信頼度係数pを出力する。
【0065】
暫定的な摩擦値fnを算出するステップ5では、車両データdの信頼度係数pにより重み付けするとともに、平均化係数wによりフィルタリングすることにより、平均化を行う。
【0066】
平均化係数wは、車両運転の時期を通じて測定可能である。このことにより、車両運転の時期に応じて、暫定的な摩擦値の算出に際して、高速性と安定性との間でどこに妥協点をおくかを変動させることが可能である。
【0067】
有効化信号vが消えたときに、ステップ5における暫定的な摩擦値fnの算出が行われる。暫定的な摩擦値fnを算出するステップ5では、有効化信号v、摩擦値f、車両データdの信頼度係数p、および推定された摩擦値fを入力値として受信し、暫定的な摩擦値fnを出力する。
【0068】
それぞれの新しい算出値は、以前に算出された値fn-1を参照するので、暫定的な摩擦値fnは、方法を学習することにより決定される。そのため、暫定的な摩擦値fnは、摩擦値fよりも正確なものとなる。
【0069】
本発明が添付の図面に記載され示された実施形態に限定されるものではないことは勿論のことである。本発明の保護範囲を逸脱しない限りにおいて、とりわけ、様々な要素の組み合わせ、または、技術的に等価なものへの置き換えの観点で、様々な変更を加えることが可能である。