(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】電気作動および電気的バックアップを設けられた車両用ブレーキ・バイ・ワイヤ制動システム
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20230220BHJP
B60T 17/22 20060101ALI20230220BHJP
B60T 8/88 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T17/22
B60T8/88
(21)【出願番号】P 2020516426
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(86)【国際出願番号】 IB2018056863
(87)【国際公開番号】W WO2019058204
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】102017000105896
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】501016696
【氏名又は名称】フレニ・ブレンボ エス・ピー・エー
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】マッシモ・ディ・ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】サムエレ・マッツォレーニ
(72)【発明者】
【氏名】ルカ・カッペレッティ
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-212814(JP,A)
【文献】特開2017-013669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 17/18
B60T 17/22
B60T 8/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用制動システム(4)であって、
車両の前車軸(12)用である右側前方ブレーキ群(8d)および左側前方ブレーキ群(8s)、並びに車両の後車軸(20)用である右側後方ブレーキ群(16d)および左側後方ブレーキ群(16s)であって、各ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)は、ブレーキディスク(24)、前記ブレーキディスク(24)に関連付けられた制動装置(28)、および各制動装置(28)の電気油圧式または電気機械的アクチュエータ(32)を備える、右側前方ブレーキ群(8d)および左側前方ブレーキ群(8s)並びに右側後方ブレーキ群(16d)および左側後方ブレーキ群(16s)と、
関連するパイロット装置(40)を通じて各ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)の前記電気機械的アクチュエータ(32)に動作可能に接続された各ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)用の制御ユニット(36)と、を備え
各制御ユニット(36)は、独立電源(44)によって電力を供給され、その他の電源(44)から電気的に絶縁され、
各制御ユニット(36)は、前記パイロット装置(40)を介して、各ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)に故障が発生し
ていないときは標準制動戦略を、前記ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)の一つ以上の電気的な故障を検出したときは故障制動戦略を実行するようにプログラムされている、車両用制動システム(4)。
【請求項2】
各パイロット装置(40)は、前記標準制動戦略に対応する第1のスイッチ位置から、前記故障制動戦略に対応する第2のスイッチ位置に切り換えるようにプログラムされている、請求項1に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項3】
全ての前記制御ユニット(36)は、それぞれが、その他の制御ユニット(36)のそれぞれで実行されている標準または故障の動作の種類を知ることができるように、互いに動作可能に接続されている、請求項1または請求項2に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項4】
各電気機械的アクチュエータ(32)は、関連する電気機械的または電気油圧式アクチュエータ(32)の、および/または関連する制動装置(28)の動作状態を監視するのに適し、対応する制御ユニット(36)に標準または故障動作の指示を送るのに適した動作センサ(52)を備えられている、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項5】
電気機械的アクチュエータ(32)は、三相モータを備え、各三相モータは、対応するブレーキ群(8d、8s、16d、16s)のそれぞれの電源(44)と、それぞれのパイロット装置(40)とに動作可能に接続されている、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項6】
前記制御ユニット(36)は、ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)が故障したときに、
故障が後方ブレーキ群(16d、16s)に関する場合、車両の動的な制御ができるように、二つの前方ブレーキ群(8d、8s)が作動され、次第に、残っている後方ブレーキ群(16s、16d)が作動され、
故障が前方ブレーキ群(8d、8s)に関する場合、その他の前方ブレーキ群(8s、8d)が作動され、かつ対応するクロスオーバ後方ブレーキ群(16d、16s)、すなわち機能している前方ブレーキ群(8s、8d)とは反対側に配置された後方ブレーキ群(16d、16s)が作動され、次第に、前記機能している前方ブレーキ群(8s、8d)と同じ側にある残っている後方ブレーキ群(16s、16d)が作動されるように、
残っているブレーキ群の作動が確保されるようにプログラムされている、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項7】
前記制御ユニット(36)は、ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)の故障が発生したとき、三つの残っているブレーキ群の作動が確保されるようにプログラムされ、
前記制動システムは、前記車両のステアリング機構に動作可能に接続され、ステアリング機構の動作と機能しているブレーキ群の作動を連係できる、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項8】
前記制御ユニット(36)は、ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)の故障が発生したとき、三つの残っているブレーキ群の作動が確保されるようにプログラムされ、
前記制動システムは、前記ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)に動作可能に接続された発電手段に動作可能に接続され、前記車両のさらなる制動作用を得ることができる、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項9】
前または後車軸(12、20)のブレーキ群(8d、8s、16d、16s)の各制御ユニット(36’、36”)は、前記ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)に接続された第1のパイロット装置(40’)と、同じ車軸(12、20)のその他のブレーキ群(8s、8d、16s、16d)に接続された第2のパイロット装置(40”)との両方に動作可能に接続され、標準動作の場合、各制動装置(28)は、自身の第1のパイロット装置(40’)によって作動され、ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)に電気的な故障が生じた場合、故障中の前記ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)の前記制動装置(28)は、前記同じ車軸(12、20)のその他の制御ユニット(36”、36’)によって制御された前記第2のパイロット装置(40”)によって作動される、請求項1に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項10】
前または後車軸(12、20)のブレーキ群(8d、8s、16d、16s)の各制御ユニット(36’、36”)は、第1のパイロット装置(40’)と、第2のパイロット装置(40”)との両方に動作可能に接続され、前記第1のパイロット装置(40’)と前記第2のパイロット装置(40”)のそれぞれは、同じ車軸(12、20)の前記ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)に動作可能に接続され、
標準動作の場合、各制動装置(28)は、前記第1のパイロット装置(40’)と前記第2のパイロット装置(40”)の少なくとも一方または両方によって作動され、前記第1のパイロット装置および前記第2のパイロット装置の一方に電気的な故障が生じた場合、故障中の前記ブレーキ群(8d、8s、16d、16s)の前記制動装置(28)は、その他のパイロット装置(40”、40’)によって作動される、請求項1に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項11】
前記車軸は、前記車両の前車軸(12)または後車軸(20)である、請求項9または請求項10に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項12】
全ての前記制御ユニット(36)は、それぞれが、その他の制御ユニット(36)のそれぞれで実行されている標準または故障の動作の種類を知ることができるように、互いに動作可能に接続されている、請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項13】
各電気機械的アクチュエータ(32)は、関連する電気機械的アクチュエータ(32)の、および/または関連する制動装置(28)の動作状態を監視するのに適し、両方の前記制御ユニット(36)に標準または故障動作の指示を送るのに適した二つの動作センサ(52’、52”)を備えられている、請求項9から請求項12のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項14】
前記電気機械的アクチュエータ(32)は、六相モータ(35)を備え、各六相モータ(35)は、前記第1のパイロット装置(40’)自身が属するブレーキ群(8d、8s、16d、16s)の前記第1のパイロット装置(40’)と、その他のブレーキ群(8s、8d、16s、16d)の前記第2のパイロット装置(40”)とに動作可能に接続されている、請求項9から請求項13のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項15】
前記制動システム(4)は、関連作動センサ(60)を備えて使用者からの制動要求を各制御ユニット(36)に送信できる手動操作装置(56)、レバー、フットペダルおよび/またはプッシュボタンを備えている、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【請求項16】
前記制動システム(4)は、車両の運動状態を管理し且つ車両の運動状態の誘導および独立した制動作用を実行できる前記車両の制御ユニット(36)によって管理される、請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の車両用制動システム(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気作動と電気的バックアップの両方を設けられた、車両用のブレーキ・バイ・ワイヤ制動システムに関する。
【0002】
本発明は、車両用のブレーキ・バイ・ワイヤ制動システムに関する。
【背景技術】
【0003】
既知のブレーキ・バイ・ワイヤシステムでは、制動装置の作動は、運転手の直接の作用によって行われない。しかし、典型的にはレバーまたはペダルに作用する、制動作用に関する使用者の要求は、例えばディスクブレーキキャリパなどの制動装置に作用する電気機械的手段によって駆動するよう変換される。
【0004】
また、車両のステアリングシステムがタイミングおよび制動量を決め、それによって制動装置に接続された電気機械的手段を作動させる、自動制動システムが知られている。
【0005】
明らかな安全上の理由のため、制動システムは、少なくとも一つの装置に電気的な故障が発生した場合に実行されるバックアップ戦略を提供しなければならない。
【0006】
これに関して、例えば、電気的な故障が発生した場合、制動作用が、機械的に、従来のように、すなわち制動作用を要求するユーザによって操作される流体的に接続されたレバーまたはペダルによって、制動装置に直接及ぼされる、ブレーキ・バイ・ワイヤ制動システムが知られている。
【0007】
しかしながら、これらのシステムは、常に標準操作状態下で操作される電気的なシステムと、電気的な故障が発生した場合に操作される油圧システムとの両方を必要とするという欠点を有する。油圧システムの存在により、費用、質量の増加、高吸湿性油圧流体の管理、油圧流体シールの管理および保守などが必要になる。
【0008】
加えて、油圧バックアップ解決策は、自動運転車には適用できず、油圧バックアップの場合、最大制動性能を常に保証するとは限らない。
【0009】
また、制動システムの油圧部品なしに実施し、電気的な故障が発生した場合、最適ではないが、制動能力の部分的な復旧を、したがって制動自体の性能を確保するバックアップ戦略を導入する、純電気解決策がある。しかしながら、これらの解決策は、最適ではなく、故障が生じた場合、常に最適な制動を保証するとは限らない。
【発明の概要】
【0010】
したがって、先行技術を参照して述べられた欠点と制限を解決する必要性がますます感じられる。
【0011】
当該要求は、請求項1に記載の車両用制動システムによって満たされる。
【0012】
特に、当該要求は、車両用制動システムであって、
車両の前車軸用である右側前方ブレーキ群および左側前方ブレーキ群、並びに車両の後車軸用である右側後方ブレーキ群および左側後方ブレーキ群であって、各ブレーキ群は、ブレーキディスク、ブレーキディスクに関連付けられた制動装置、および各制動装置の電気油圧式または電気機械的アクチュエータ手段を備える、右側前方ブレーキ群および左側前方ブレーキ群並びに右側後方ブレーキ群および左側後方ブレーキ群と、
関連パイロット装置を通じて各ブレーキ群の電気機械的または電気油圧式アクチュエータに動作可能に接続された各ブレーキ群用の制御ユニットと、を備え
各制御ユニットは、独立電源によって電力を供給され、その他の電源から電気的に絶縁され、
各制御ユニットは、パイロット装置を介して、各ブレーキ群に故障が発生していないときは標準制動戦略を、ブレーキ群の一つ以上の電気的な故障を検出したときは故障制動戦略を実行するようにプログラムされている、車両用制動システムによって満たされる。
【0013】
一実施形態によると、各制御装置は、故障が生じたときに標準モードから規模縮小モードに切り換えることができるようにプログラムされている。
【0014】
実施形態によると、全ての制御ユニットは、それぞれが、その他の制御ユニットのそれぞれによって実行されている標準または故障の動作の種類を知ることができるように、互いに動作可能に接続されている。
【0015】
実施形態によると、各電気機械的または電気油圧式アクチュエータは、関連電気機械的または電気油圧式アクチュエータの、および/または関連制動装置の動作状態を監視するのに適し、対応する制御ユニットに標準または故障動作の指示を送るのに適した動作センサを備えられている。
【0016】
実施形態によると、電気機械的アクチュエータは、三相モータを備え、各三相モータは、対応するブレーキ群のそれぞれの電源と、それぞれの制御装置とに動作可能に接続されている。
【0017】
実施形態によると、制御ユニットは、ブレーキ群が故障したときに、
故障が後方ブレーキ群に関する場合、車両の動的な制御ができるように、二つの前方ブレーキ群が作動され、次第に、残っている後方ブレーキ群が作動され、
故障が前方ブレーキ群に関する場合、その他の前方ブレーキ群が作動され、かつ対応するクロスオーバ後方ブレーキ群、すなわち機能している前方ブレーキ群とは反対側に配置された後方ブレーキ群が作動され、次第に、前記機能している前方ブレーキ群と同じ側にある残っている後方ブレーキ群が作動されるように、
残っているブレーキ群の作動が確保されるようにプログラムされている。
【0018】
実施形態によると、制御ユニットは、ブレーキ群の故障が発生したとき、三つの残っているブレーキ群の作動が確保されるようにプログラムされ、
制動システムは、車両のステアリング機構に動作可能に接続され、ステアリング機構の動作と機能しているブレーキ群の作動を連係できる。
【0019】
実施形態によると、制御ユニットは、ブレーキ群の故障が発生したとき、三つの残っているブレーキ群の作動が確保されるようにプログラムされ、
制動システムは、ブレーキ群に動作可能に接続された発電手段に動作可能に接続され、車両のさらなる制動作用を得ることができる。
【0020】
実施形態によると、車軸のブレーキ群の各制御ユニットは、そのブレーキ群に接続された第1の制御装置と、同じ車軸のその他のブレーキ群に接続された第2の制御装置との両方に動作可能に接続され、標準動作の場合、各制動装置は、自身の第1の制御装置によって作動され、ブレーキ群に電気的な故障が生じた場合、故障中のブレーキ群の制動装置は、車軸のその他の制御ユニットによって制御された第2の制御装置によって作動される。
【0021】
想定される実施形態によると、前または後車軸のブレーキ群の各制御ユニットは、第1のパイロット装置と第2のパイロット装置との両方に動作可能に接続され、第1のパイロット装置と第2のパイロット装置のそれぞれは、同じ車軸のブレーキ群に動作可能に接続され、標準動作の場合、各制動装置は、第1のパイロット装置と第2のパイロット装置の少なくとも一方または両方によって作動され、電気的な故障が生じた場合、故障したブレーキ群の制動装置は、その他のパイロット装置によって作動される。
【0022】
実施形態によると、前記車軸は、車両の前車軸または後車軸である。
【0023】
実施形態によると、全ての制御ユニットは、それぞれが、その他の制御ユニットのそれぞれで実行されている標準または故障の動作の種類を知ることができるように、互いに動作可能に接続されている。
【0024】
実施形態によると、各電気機械的アクチュエータは、二つの動作センサを備えられており、それぞれは、関連電気機械的アクチュエータの、および/または関連制動装置の動作状態を監視するのに適し、同じ車軸の両方の制御ユニットに標準または故障動作の指示を送るのに適している。
【0025】
実施形態によると、電気機械的アクチュエータは、六相モータを備え、各六相モータは、第1の制御装置自身が属するブレーキ群の第1の制御装置と、同じ車軸のその他のブレーキ群の第2の制御装置とに動作可能に接続されている。
【0026】
実施形態によると、システムは、少なくとも関連作動センサを備えて使用者からの制動要求を各制御ユニットに送信できる手動操作装置、レバー、フットペダルおよび/またはプッシュボタンを備えている。
【0027】
実施形態によると、システムは、車両の運動状態を管理し且つ車両の運動状態の誘導および独立した制動作用を実行できる車両の制御ユニットによって管理される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明のさらなる特徴および利点は、好ましいが非限定的な実施形態の下記記載からより明確に明らかになるであろう。
【0029】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態による車両用制動システムの概略図を示す。
【
図2】
図2は、本発明のさらなる実施形態による制動システムを備えた車両の前車軸の概略図を示す。
【
図3】
図3は、本発明のさらなる実施形態による制動システムを備えた車両の後車軸の概略図を示す。
【
図4】
図4は、本発明による制動システムを備える車両の概略図を示す。
【0030】
以下に記載される実施形態で共通の要素または要素の一部は、同じ符号で参照される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
上記図面を参照して、符号4は、概して、車両用制動システムを示す。
【0032】
本発明に関して、車両は、少なくとも4つの車輪を備えた原動機付き車両を意味する。
【0033】
特に、車両用制動システム4は、車両の前車軸12用である右側前方ブレーキ群8dと左側前方ブレーキ群8s、および後車軸20用である右側後方ブレーキ群16dと左側後方ブレーキ群16sを備える。
【0034】
それぞれのブレーキ群8d、8s、16d、16sは、ブレーキディスク24、ブレーキディスク24に関連付けられた制動装置28、それぞれの制動装置28の電気機械的アクチュエータ手段32を備える。
【0035】
本発明において、制動装置28は、様々な種類のものであってよく、好ましくはディスクブレーキを備えるが、また、本発明の適用範囲にはドラムまたはローラブレーキが含まれることに留意すべきである。
【0036】
電気機械的アクチュエータ手段32は、制動装置を機能させるように、および動作を停止させるように構成された電気モータを備えてもよい。例えば、電気機械的アクチュエータ手段32は、ディスクブレーキキャリパのパッドに作用する少なくとも一つのピストン用に押すものに、ウォームスクリュ機構を用いて、接続された電気モータを備えてもよい。
【0037】
各ブレーキ群8d、8s、16d、16sはさらに、関連パイロット装置40を通じて各ブレーキ群8d、8s、16d、16sの電気機械的アクチュエータ32に動作可能なように接続された制御ユニット36を備える。
【0038】
そのような接続は、例えば電線によって行われる。
【0039】
電気機械的アクチュエータ手段32は、三相モータ34を備えてもよい。各三相モータ34は、それぞれのパイロット装置40と、少なくとも二つの独立電源44に接続された電力供給装置42とに動作可能なように接続されている。
【0040】
好ましくは、各電源は、その他の電源44から電気的に絶縁されている。
【0041】
電源44は、典型的には、鉛蓄電池、リチウムイオンバッテリなどである。
【0042】
好適には、各制御ユニット36は、各ブレーキ群8d、8s、16d、16sが故障していない場合に標準制動戦略を、ブレーキ群8d、8s、16d、16sの一つ以上の電気的な故障を検出した場合に故障制動戦略を、パイロット装置40を介して、実行するようにプログラムされている。
【0043】
標準動作とは、通常の動作状態を意味する。これは、使用者によって、または(設けられている場合)車両の自動運転システムによって要求された制動作用を発揮することができる制動システムに異常がない状態である。
【0044】
電気故障状態は、動作を部分的にまたは完全に妨げる、ブレーキ群8d、8s、16d、16s、例えば供給装置42、パイロット装置40、電力供給源44、電気機械的アクチュエータ手段32、34、35の機能不良を意味する。
【0045】
「故障(Fault)」は、機械的な部品(制動装置28および/または電気機械的アクチュエータ手段32)、および電気的/電子的な部品の両方の問題を含んでもよいが、また、制御ユニットの管理、システムの動作に関するデータの読み込みなどのソフトウェアの問題を含んでもよい、機能不良の包括的な状態を意味する。
【0046】
想定される実施形態(
図4)によると、各パイロット装置40は、標準制動戦略に対応する第1のスイッチ状態から、故障制動戦略に対応する第2のスイッチ位置に切り換えるようにプログラムされている。
【0047】
標準制動戦略は、システムの標準動作パラメータによって各ブレーキ群8d、8s、16d、16sの作動を行うが、故障戦略によると、以下により詳細に記載しているように、標準戦略と比べてシステムのブレーキ群の減少した作動、または緊急の作動が生じる。
【0048】
また、回生またはステアリング制動システムなど、外部システムの寄与を考慮することも可能である。当該システムは、故障状態での、性能および車両の安定性に関する任意の異常を補う。
【0049】
全てのブレーキ群8d、8s、16d、16sの制御ユニット36は、互いに動作可能に接続され、それぞれが、その他の制御ユニット36のそれぞれによって実行された動作の種類(標準または故障)を知ることができる。
【0050】
そのような接続は例えば、電線および/または例えばCANの類いのようなデータ伝達線33を介して行われる。このようにして、故障状態を検出した制御ユニットは、故障戦略を実行することで車両の制動を管理することができる。
【0051】
この目的のため、想定される実施形態によると、それぞれの電気機械的手段32は、関連電気機械的またはアクチュエータ手段32の、および/または関連制動装置28の動作状態を監視するのに適し、対応する制御ユニット36に標準または故障動作の指示を送るのに適した少なくとも一つの動作センサ52を備えられる。この情報は、その他の制御ユニット36に送られる。
【0052】
上述しているように、制御ユニット36は、ブレーキ群が故障した場合、残りのブレーキ群の作動が確保されるようにプログラムされている。
【0053】
特に、故障が後方ブレーキ群16d、16sに関する場合、車両の動的な制御ができるようにするため、二つの前方ブレーキ群8d、8sが作動され、次第に、残りの後方ブレーキ群16s、16dが作動される。
【0054】
つまり、三つのブレーキ群の全体的な動作が保証され、制動作用の多くを確保する二つの前方ブレーキ群8d、8sを優先することで車両のよりよい安定性を保証し、車両の安定性を妥協しないように、次第に、第3の後方ブレーキ16d、16sの制動さえ可能になる。当然、残りの故障したブレーキ群は、動作しないままである。
【0055】
故障が前方ブレーキ群8d、8sに関する場合、その他の故障していない前方ブレーキ群8s、8d、および対応するクロスオーバ後方ブレーキ群16d、16s、すなわち機能している前方ブレーキ群8s、8dとは反対側に配置された後方ブレーキ群16d、16sが作動され、次第に、機能している前方ブレーキ群8s、8dと同じ側にある残りの後方ブレーキ群16s、16dが作動される。
【0056】
前方ブレーキ群8d、8sと後方ブレーキ群16s、16dの間の最初の同時の、および交差した動作は、車両の動的な安定性を確保するのに役に立つ。特にヨーイングの際に、車両の同じ側(右側または左側)に配置された制動装置28のみが作動するのを避ける。
【0057】
また、第3の制動装置28が加わることにより、システム4の全体的な制動作用の向上に役立つ。したがって、機能不良を単一のブレーキ群8d、8s、16d、16sに制限する。
【0058】
また、ブレーキ群8d、8s、16d、16sが故障した場合に、残っている三つのブレーキ群の動作が保証されるようにすることと、制動システムが車両のステアリング機構に動作可能に接続されるようにすることが可能であり、機能しているブレーキ群の動作とステアリング機構の作動を連係できる。つまり、車両の想定される不安定性は、三つの車輪群が作用すること、または車両のステアリングが自動的に作用することのいずれかにより、修正される。
【0059】
また、制御ユニット36は、ブレーキ群8d、8s、16d、16sが故障した場合に、残っている三つのブレーキ群の動作が保証されるようにプログラムすることが可能であり、制動システムは、ブレーキ群8d、8s、16d、16sに動作可能に接続された発電手段に動作可能に接続され、車両のさらなる制動作用を得ることができる。さらに、回生制動により、車輪群の機能不良を補うことができるさらなる制動効果を得ることが可能である。
【0060】
さらなる実施形態(
図4)によると、前車軸12または後車軸20のブレーキ群8d、8s、16d、16sのそれぞれの制御ユニット36’、36”は、第1のパイロット装置40’と、同じ車軸12、20のその他のブレーキ群8s、8d、16s、16dに接続された第2のパイロット装置40”との両方に動作可能に接続されている。
【0061】
そのような接続は、例えば電線および/またはデータ伝達線33を介して行われる。
【0062】
このようにして、標準動作の場合、それぞれの制動装置28は、その第1のパイロット装置40’によって作動される。一方、故障においてブレーキ群8d、8s、16d、16sの電気的な故障が発生した場合、故障中、制動装置8d、8s、16d、16sの制動装置28は、同じ車軸12、20のその他の制御ユニット36”、36’によって制御された第2のパイロット装置40”によって作動される。
【0063】
上記は、車両の前車軸12と後車軸20との両方に適用する。
【0064】
さらなる実施形態によると、前車軸12または後車軸20のブレーキ群8d、8s、16d、16sの各制御ユニット36’、36”は、第1のパイロット装置40’と第2のパイロット装置40”との両方に動作可能に接続されている。第1のパイロット装置40’と第2のパイロット装置40”のそれぞれは、同一の車軸12、20のブレーキ群8d、8s、16d、16sに動作可能に接続されている。このようにして、標準動作の場合、それぞれの制動装置28は、第1のパイロット装置40’と第2のパイロット装置40”の少なくとも一方または両方によって作動される。前記装置の一つに電気的な故障が生じている場合、故障中、ブレーキ群8d、8s、16d、16sの制動装置28は、その他の機能しているパイロット装置40”、40’によって作動される。
【0065】
好ましくは、二つの前後車軸12、20の全ての制御ユニット36は、互いに動作可能に接続され、それぞれが、その他の制御ユニットのそれぞれによって実行された動作の種類(標準または故障)を知ることができる。
【0066】
そのような接続は例えば、電線および/または例えばCANの類いのようなデータ伝達線33を介して行われる。
【0067】
それぞれの電気機械的アクチュエータ手段32は、少なくとも一つの動作センサを、好ましくは二つの動作センサ52’、52”を設けられ、それぞれ、関連電気機械的アクチュエータ32の、および/または関連制動装置28の動作状態を監視するのに適し、同一の車軸12、20の両方の制御ユニットに標準または故障動作の指示を送るのに適している。
【0068】
好ましくは、電気機械的アクチュエータ手段32は、六相モータ35を備える。
【0069】
各六相モータ35は、第1のパイロット装置40’自身が属するブレーキ群8d、8s、16d、16sの第1のパイロット装置40’と、同一の車軸12、20のその他のブレーキ群8s、8d、16s、16dの第2のパイロット装置40”とに動作可能に接続されている。
【0070】
そのような接続は、例えば電線および/またはデータ伝達線33を介して行われる。
【0071】
六相モータ35を使用すると、同じ電気機械的アクチュエータ手段32を第1のパイロット手段40’と第2のパイロット手段40”とに分離して容易に接続でき、各ブレーキ群8d、8s、16d、16sの動作を即座に保証することができる。
【0072】
このようにして、制動システムは常に、ブレーキ群8d、8s、16d、16sの一つに電気的な故障が生じたとしても、全ブレーキ群8d、8s、16d、16sの同時制動を利用することができる。
【0073】
本発明の制動システム4は、少なくとも一つの関連作動センサ60を備えて使用者からの制動要求を各制御ユニット36に送信できる手動操作装置56、レバー、フットペダルおよび/またはプッシュボタンを備えてもよい。
【0074】
好ましくは、同じ手動操作装置56に接続された三つの駆動センサ60’、60”、60’’’が設けられる。このようにして、三つのセンサの少なくとも二つの読み取りが同時に発生すると、信号が取得され送られる。
【0075】
また、制動システム4は、車両の運動状態を管理し且つ車両の運動状態の誘導および独立した制動作用を実行できる、車両の制御ユニットによって管理されるようにすることができる。
【0076】
上記内容から分かるように、本発明による車両用制動システムは、先行技術の欠点を克服する。
【0077】
実際、制動システムは、故障が発生した場合でも信頼性または安全性を損なうことなく、従来の制動システムに特有の、油圧バックアップの、および作業者の手動介入を必要とする一般的なバックアップの部品を完全に取り除くことができる。
【0078】
システムのバックアップ部品を除外することにより、全システム質量、油圧線およびそれらに接続される全てのシーリング問題を軽減することができる。さらに、強い吸湿性に起因するブレーキフルードの定期的な交換が必要ではない。
【0079】
さらに、本発明のシステムは、自動運転純電気自動車への統合に非常に役に立ち、制動作用は、車両の運転および制御を担当する制御ユニットによって自律的に制御され得る。
【0080】
さらに、本発明のシステムはまた、使用者が制動作用を手動で要求する非自動運転解決策に非常に役に立つ。
【0081】
さらに、制動システムは、電気的な故障が発生した場合でも制動の安全性を保証する。
【0082】
実際、
図1の実施形態の場合、少なくとも三つのブレーキ群、したがって少なくとも三つの車輪の制動作用は常に保証される。明らかなように、車両の故障位置に基づいて、二つの車輪は常にブレーキをかけ、第3の車輪が徐々にブレーキをかけ、車両の安定性を損なわない。
【0083】
さらに、明らかなように、車両のステアリング制御システムが作用すること、または回生制動装置が作用することのいずれかで、車輪群の機能不良を補うことができる。
【0084】
第1の状況において、車両の確認が実行され、例えばヨーイング現象を修正し、第2の状況において、さらなる制動作用が得られ速度を低下させる。当然、二つの作用は互いに組み合わされ得る。
【0085】
実際、
図2の実施形態の場合、全ての四車輪がブレーキをかけることができ、制動の有効性および車両の安定性を常に確保し、影響がない。
【0086】
したがって、本発明のシステムは、油圧バックアップの欠点を備えることなく、作業者による手動バックアップを必要とせず、自動運転車でも使用できるという利点を備えて、従来の油圧制動システムの信頼性および安全性と同等の水準を有する。
【0087】
当業者は、偶発的な特有の要求を満たすために、上記の車両用制動システムに複数の改良および変更をすることができ、その全ては下記特許請求の範囲によって定められた発明の範囲に含まれる。