(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】薬剤の投与を支援するためのシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20230220BHJP
【FI】
A61M5/315 550A
(21)【出願番号】P 2020516626
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2018073299
(87)【国際公開番号】W WO2019057460
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-16
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】596113096
【氏名又は名称】ノボ・ノルデイスク・エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ニサラト, プラカーン
(72)【発明者】
【氏名】コーネル, カーク
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-521963(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0012205(US,A1)
【文献】特表2015-514483(JP,A)
【文献】特表2014-516599(JP,A)
【文献】特表2015-527128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射装
置を用いた注射可
能薬剤
の投与
において対象者を支援するためのシステムであって、前記注射装置が、少なくとも放出用量サイズおよび各用量が前記
注射装置から放出された時に関するタイムスタンプについてのデータを通信するための通信手段を有し、
前記システムが、
前記データを受信するために前記注射装置と通信するように適合された通信ユニットであって、前記対象者に情報および命令を提示するためのディスプレイを備える通信ユニットと、
一つ以上のプロセッサと、注射されるべき薬剤の推奨用量サイズを計算するように適合された、用量サイズ計算プログラムを保存するメモリと、を備えるプロセッサユニットと、を備え、
前記メモリは、前記一つ以上のプロセッサによって実行され
る時、注射されるべき推奨用量サイズを計算する要求に応答して、
a) 前記ディスプレイを介して、推奨用量サイズを計算するための前記プログラムの実行を可能にするために、所定のプライム用量
のサイズを設定および放出することによって、前記注射装置をプライミングする工程を実施するように前記対象者を促す方法工程
を実施する命令をさらに保存し、
前記メモリは、前記一つ以上のプロセッサによって実行される時、前記注射装置をプライミングするように前記対象者に促す前記方法工程に続いて、
b) 少なくとも前記放出用量サイズおよび各放出用量が放出された時に関するタイムスタンプについての前記データを含む用量データの第一の組を、前記注射装置から得る方法工程と、
c) 前記用量データの第一の組を処理して、前記用量データの第一の組の中の前記プライム用量を特定する方法工程と、
d) 前記用量データの第一の組から前記プライム用量を除去し、かつ前記プライム用量を注射用量としては記録せず、前記プライム用量を含まない用量データの第二の組を提供する方法工程と、
を実施する命令をさらに保存する、システム。
【請求項2】
前記メモリが、前記一つ以上のプロセッサによって実行される時、前記プライム用
量を除去する工程に続いて、
e) 前記用量データの第二の組に基づいて、注射されるべき推奨用量サイズを前記プログラムによって計算する方法工程と、
f) 前記ディスプレイを介して前記推奨用量サイズを前記対象者に提示する方法工程と、を実施する命令をさらに保存する、請求項
1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プライム用量を特定する前記工程c)が、前記プライム用量として、前記用量データの第一の組の中の
任意の数の放出用量サイズの中から最新の登録済み放出用量サイズを選択する工程を含む、請求項
1または
2に記載のシステム。
【請求項4】
前記用量データの第一の組が、薬剤タイプデータをさらに含み、前記メモリが、前記一つ以上のプロセッサによって実行される時、推奨用量
サイズを計算する前記工程の前に、
i. 前記用量データの第一の組を処理して
、プライミングした
前記注射装置内の薬剤のタイプを特定する方法工程と、
ii.
プライミングした
前記注射装置内の前記薬剤のタイプを、推奨用量が要求されている薬剤のタイプと比較する方法工程と、
二つの
前記薬剤のタイプが同一であると特定された場合にのみ、
iii. 前記プログラムを実行して推奨用量サイズを計算する方法工程と、をさらに実施する命令を保存する、請求項2
または3に記載のシステム。
【請求項5】
前記薬剤がインスリン、インスリン含有薬剤、GLP-1含有薬剤、または成長ホルモンである、請求項1~
4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記通信ユニットがスマートフォン、タブレット、またはコンピュータである、請求項1~
5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記一つ以上のプロセッサおよびメモリが、前記スマートフォン、タブレット、またはコンピュータ上に提供される、請求項
6に記載のシステム。
【請求項8】
前記一つ以上のプロセッサおよびメモリが、前記通信ユニットから離れたクラウドベースのサーバ上に提供される、請求項1~
6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記通信ユニットが、前記対象者のグルコース値を測定するグルコース測定装置から、履歴グルコース値および各グルコース値が測定された時に関するタイムスタンプについてのグルコースデータを受信するように適合され、かつさらに注射されるべき推奨用量サイズの前記計算が前記グルコースデータに基づく、請求項1~
8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
薬剤の投与において対象者を支援するためのキットであって、
薬剤の用量を前記対象者の身体の中へと注射するための注射装置であって、
薬剤貯蔵部と、
前記薬剤のための出口と、
用量設定機構と、
設定用量の薬剤を前記出口を通して放出するための用量放出機構と、
設定および/または放出され
ている用量のサイズを感知するための用量感知ユニットと、
少なくとも前記放出用量サイズおよび前記
注射装置からの各放出用量に対するタイムスタンプについての、前記
注射装置からの用量データを通信するための通信手段と、を備える
注射装置と、
請求項1~
9のいずれか一項に記載のシステムと、を備えるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、糖尿病などの疾患の治療のための薬剤の注射の管理における対象者を支援するためのシステムおよびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病は、正常な生理的インスリン分泌の進行性の妨害を特徴とする。健康な個体では、膵β細胞による基礎インスリン分泌が連続的に起こり、食間で長期間にわたって定常グルコースレベルを維持する。健康な個体でも、食事に応答してインスリンの食事による分泌があり、続いて2~3時間後に基礎レベルに戻る長時間のインスリン分泌が続く。インスリン分泌は2型糖尿病では損なわれ、また1型糖尿病の患者に対しては、インスリン分泌が非常に少ないか全くないので、1型および2型の患者は血糖値を制御するためにインスリン注射を必要とする。
【0003】
糖尿病治療に対する共通のアプローチは、一つのインスリンペンを使用して、患者のための継続的なインスリンレジメンに従って、食事事象または食事事象の予想に応答して単一の速効型インスリン薬剤(ボーラス)用量を注射することである。こうしたアプローチでは、患者は、食事からもたらされる血糖値を下げるために、毎日一回以上の食事のすぐ前またはすぐ後に速効型インスリン薬剤を注射する。こうした速効型インスリン薬剤の例としては、Lispro(HUMALOG、インスリンリスプロ[rDNA由来]注射、Eli Lilly and Company)及びAspart(NOVOLOG、インスリンアスパート[rDNA由来]注射、NOVO NORDISC Inc)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、患者は、食事事象とは関係なく糖血症制御を維持するために、継続的なインスリンレジメンに従って持続型インスリン薬剤(基礎)用量を投与する。こうした持続型インスリン薬剤の例としては、Insulin DegludecまたはInsulin Detemirが挙げられるが、これらに限定されない。集合的な長期間の作用を有するインスリン薬剤の混合物の例は、Insulin Degludec/Insulin Aspartの組み合わせである。集合的に長い作用持続時間を有する他の薬剤を有するインスリン薬剤の混合物の例は、Insulin Degludec/Liraglutideの組み合わせである。
【0004】
インスリン治療のための最も一般的なタイプの注射送達システムは、インスリン注射ペンであり、これはインスリン薬剤治療レジメンを自己投与するために使用することができる。今日の一部のインスリン注射ペンは、放出される用量のサイズ、注射の時間、およびインスリンのタイプについてのデータを登録し、かつこのデータをペンからスマートフォンなどの別の装置へと無線で通信することができる。これは、患者の自主的なグルコース測定値を行い、そして無線でグルコースデータを装置へとアップロードする、グルコースセンサーである、ABBOTT社のFREESTYLE LIBRE Flash Glucose Monitor(「LIBRE」)などのグルコース測定装置を有することと組み合わせて、今日の患者が、患者にインスリン用量サイズガイダンスを提供するこれらのデータを収集する装置/システムへのアクセスを有することを意味する。これはすべて、疾患の自己治療を行う患者に役立ち、かつ患者をより良好な糖血症制御に保つ一方で、しばしば医者にかかる必要をなくすことを目的としている。
【0005】
こうした装置/システムは、今日では、例えば、履歴的なグルコースデータおよびインスリンデータに基づいて注射されるべきインスリンの用量を計算および推奨することができるアルゴリズムを含む。正しい用量計算を確実にするために、こうしたシステムは、各用量計算の前にインスリンペン(またはインスリンポンプ)から転送される最新の用量データ履歴を必要とする。これらの装置/システムは特定の医薬品治療ガイダンスを与えるため、計算は可能な限り正確であり、可能な限り正確な履歴データに基づいていることが明らかに重要である。特に糖尿病に関しては、過剰投与に関連する危険性があり、アルゴリズムが安全な用量よりも高いインスリンの用量を示唆した場合、低血糖症および潜在的に危険な状況につながる可能性がある。
【0006】
今日のペンベースの治療の患者は、注射されるべきインスリンの用量をダイヤルする前に、インスリンペンをプライムすることが要求され、これはペンのインスリンカートリッジまたは針の中のあらゆる空気の気泡を除去して、患者がいかなる用量をペン上でダイヤルしたものが、また身体の中へと注射されたものであることを確実にするためである。通常、患者は、2~3単位のインスリンをプライミング用量として放出することを要求される。ペンは、異なるタイプの投与を区別することができないため、このプライム用量を通常の投与イベントとして登録することになる。次いで、さらなる分析、用量計算などのために、用量データが別の装置またはサーバーにアップロードされる時、このプライム用量は、注射用量として登録される。しかしながら、上記で述べた用量計算については、計算が真の注射されたインスリン用量に基づいており、プライム用量ではないことがきわめて重要であり、先述のプライム用量が注射されたインスリン用量の履歴の組の中に含まれている場合には、まず第一に患者療法の追跡が間違ったものであることになり、それだけでなく今後の用量の推奨の計算も間違ったものになり、患者に深刻な悪影響を与える可能性がある。
【0007】
上記の理由で、可能な限り正しい用量の推奨を与えるために、システムは、計算においてプライム用量を無視することができるように、プライム用量と実際の用量とを区別する必要がある。従来、これはユーザー入力で行われており、すなわち、ユーザーは、各注射の直後に「プライム」用量または「注射」用量のいずれかとして各用量事象をマーク付けする必要がある。しかしながら、これは、各用量放出後にユーザーが用量タイプをマーク付けするのを忘れるか、または投与を誤ってマーク付けするかのいずれかの可能性がある場合、ユーザー体験に対して摩擦を生じさせる。
【0008】
プライム用量と注射用量を区別する方法については、例えば、国際特許公開公報第2016/007935号に記載されるように異なる解決策が提案されてきた。しかしながら、この文書において開示される解決策を用いてもまだ間違いが発生する可能性がある。すなわち、システムが誤って区別する、または患者が用量を誤って分類する、もしくはこれを分類することを忘れる。
【0009】
その他の背景となる参照は、国際特許公開公報第2013/156510号、同第2012/127046号、同第2014/020008号および文献「“A novel-pen based Bluetooth-enabled insulin delivery system with dose tracking and advice”by Timothy S.Bailey and Jenine Y.Stone (2017)、Exp.Op. Drug Del.14、697-703」である。
【0010】
本発明の目的は、上記に関して、接続された注射装置から転送されるデータの組の中で、注射されていない薬剤の用量(プライム用量など)を除去する、改善され、かつより安全なやり方を提供することある。
【0011】
本発明のさらなる目的は、自分たちの注射を投与する患者を支援するためのシステムおよびキットを提供し、患者が推奨されるものとは異なる用量サイズを注射すること、および/または装置上でダイヤルすることのリスクを最小限に抑えることである。
【0012】
当然のことながら、様々な要素を説明するために第一、第二などの用語が本明細書では使用される場合があるが、これらの要素はこれらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、一つの要素を別の要素と区別するためにのみ使用される。さらに、「対象者」、「ユーザー」、および「患者」といった用語は、本明細書では互換的に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際特許公開公報第2016/007935号
【文献】国際特許公開公報第2013/156510号
【文献】国際特許公開公報第2012/127046号
【文献】国際特許公開公報第2014/020008号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Timothy S.Bailey et. al.,A novel-pen based Bluetooth-enabled insulin delivery system with dose tracking and advice, (2017),Exp.Op. Drug Del.14、697-703
【発明の概要】
【0015】
したがって、少なくとも放出用量サイズおよび各放出用量に対するタイムスタンプについてのデータを通信するための通信手段を有する注射装置の使用によって注射可能薬剤を投与する対象者を支援するシステムであって、先述のシステムは、先述のデータを受信するために注射装置と通信するように適合された通信ユニットと、対象者に対して情報および命令を提示するためのディスプレイと、一つ以上のプロセッサを備えるプロセッサユニットと、注射されるべき薬剤の推奨用量サイズ計算するように適合された用量サイズ計算プログラムを保存するメモリと、を備える。先述のメモリは、一つ以上のプロセッサによって実行される時、要求に応答して注射されるべき推奨用量サイズを計算する方法工程を実施する命令をさらに保存し、推奨用量サイズを計算するための先述のプログラムの実行を可能にするために、所定のプライム用量サイズを設定および放出することによって先述の注射装置をプライミングする工程を実施するために先述のディスプレイを介して対象者に促す。
【0016】
用量サイズを計算するためのプログラムの実行を可能にするための最初の初期工程として、患者がプライム用量(時として、「空打ち」とも呼ばれる)を実施することが必要とされるシステムを提供することによって、患者が装置をプライムするのを忘れる可能性がなくなり、そしてそれ故に患者が間違ったインスリン用量を得る潜在的なリスク(例えば、装置内の気泡に起因する)が軽減される。先述の所定のプライム用量サイズは、プライミングの工程を実施するようにユーザーを促すのと同時に、先述のディスプレイに表示されてもよい。
【0017】
メモリは、一つ以上のプロセッサによって実行された時、対象者に装置のプライミングを促す工程に続いて、すなわち、装置から、放出用量サイズについての用量データの第一の組を取得し、次いで先述の用量データの第一の組を処理してデータの組の中の先述のプライム用量を特定し、その後用量データの第一の組からプライム用量データを除去して用量データの第二の組を提供する方法工程を実施する命令をさらに保存する。
【0018】
メモリは、一つ以上のプロセッサによって実行された時、先述のプログラムによって、先述の用量データの第二の組に基づいて注射されるべき推奨用量サイズを計算し、先述のディスプレイを介して先述の推奨用量サイズを対象者に提示する方法工程を実施する命令をさらに保存する。
【0019】
これは、用量データの非常に単純かつ安全なフィルタリングであり、装置から放出される異なる用量の間で間違って区別される可能性を残さない。プライム用量の特定は、プロセッサユニット内で実行されてもよい。
【0020】
プライム用量を特定する工程は、プライム用量として、用量データの第一の組の中の数多くの放出用量サイズの中から最新の登録された放出用量サイズを選択することを含むことが好ましい。
【0021】
この単純な前回の用量の除去と組み合わされたシステムが推奨用量サイズの計算を開始する前に、患者が装置のプライミングを行わなければならないという事実は、用量データの第一の組の中の異なる用量の誤った分類を与える可能性が高い異なる放出用量の間で区別するために、患者の手動の入力に頼る、または別の方法として複雑なアルゴリズムに頼る必要がないことを意味する。
【0022】
上記から示されるように、本発明によるシステムによって、推奨用量サイズの計算は、常に、いかなるプライム用量も含まない、真の履歴注射用量に基づき、用量計算は、プライムされた後でのみ開始され、プライム用量は、計算がなされた際のデータの組から除去されている。それにより、患者は可能な限り正しい履歴データに基づいて推奨用量サイズが計算され、そしてその後患者が装置上でダイヤルし、かつ注射する推奨用量サイズは、装置がすでにプライムされているので、すなわち、空気の泡などが装置内にないので、実際に注射されたものでもある。
【0023】
さらに、本発明は、一部の先行技術のシステムで提案されるように、患者が実際に注射した用量からプライム用量をマーク付けするように複数回促される代わりに、システムは、装置から用量データを受信する時、これを自動的に取り扱うなどの追加利益を与える。システムが患者のためにより自動的に動作することは、より良好である。糖尿病であるということは、毎日多くの装置に対処し、決定を下し、データをログするなどを意味することであり、これはストレスが多く、かつ面倒である可能性があることを心に留めるべきことであるからである。さらに、患者は、システムによって行うように促された時、通常よりも、装置のプライミング(上述のとおりこれはきわめて重要である)を実施する可能性が高い。これは、患者が、プライミング工程と交換に受け取る用量ガイダンスの即時の利益および価値提案に起因する。この利益がないと、患者はプライミング工程を時間の無駄としてだけでなく、薬剤の無駄としての両方で見ることになる。
【0024】
最新の放出用量をプライム用量として特定する代わりに、システムは、別の方法として、用量データの第一の組の中の数多くの放出用量サイズの中から最も小さい登録された放出用量サイズとして、プライム用量を特定してもよい。
【0025】
別の方法として、プライム用量を特定する工程は、用量データの第一の組の放出用量サイズを先述の所定の用量サイズと比較し、プライム用量として所定の用量サイズと同一の用量サイズを有する第一のデータの組の中の放出用量を選択する工程を含んでもよい。
【0026】
用量サイズの推奨を要求することの一部として、安全上の理由のために、患者は、ディスプレイを介して、自分がどのタイプの薬剤に対して用量の推奨を要求するのかを示すように促される場合がある。装置内の薬剤タイプが正しいタイプであることを確実にするために、用量データの第一の組は、装置内にどの種類の薬剤(例えば、持続型または速効型インスリン)が収容されているかを示す薬剤タイプデータをさらに含んでもよい。その場合、メモリは、一つ以上のプロセッサによって実行される時、推奨用量を計算する工程の前に、プライムした装置内の薬剤のタイプを特定するために先述の用量データの第一の組を処理し、次いでプライムした装置内の薬剤のタイプを推奨用量が要求されている薬剤のタイプと比較し、そして二つの薬剤のタイプが同一として特定される場合にのみ、推奨用量サイズを計算するために先述のプログラムを実行する、方法工程をさらに実施する命令を保存してもよい。
【0027】
これによって、患者は、自分が推奨用量サイズを要求した薬剤がどのようなものであっても、それが装置内にあるものでもあることを常に手近で確認する。何らかの不一致がある場合、システムは、ディスプレイを介して、装置上の薬剤タイプが間違っているので、用量推奨が計算されないことを患者に通知する。
【0028】
インスリン療法に付属するその他の典型的な問題は、使用者の利便性および安全性の両方について、患者の利益のために本発明によるシステムによって軽減される場合がある。例えば、装置が破損している場合、電池がほとんど消耗しきっている場合(例えば、いかなる用量データ履歴もを装置から転送することができないことを意味する)、出口/針が詰まっている場合、またはその他の装置内の機能不全の場合、装置から取得された第一のデータの組は、装置内のこうしたエラー等について通知するデータを含んでもよい。
【0029】
注射装置の使用による注射のために好適な任意の薬剤は、本発明の範囲内であることに留意されたい。薬剤は、インスリン、インスリン含有薬剤、GLP-1含有薬剤、成長ホルモン、または任意の他の注射可能な薬剤であってもよい。そのインスリンの場合、所定のプライム用量サイズは、通常3単位以下(2単位または1単位など)のインスリンである。
【0030】
通信ユニットは、スマートフォン(例えば、AndroidまたはIOS)であってもよいが、タブレットまたはコンピュータとすることも可能である。一つ以上のプロセッサおよび用量サイズ計算プログラムを保存するメモリを有するプロセッサユニットは、同じスマートフォン、タブレット、またはコンピュータ上のいずれかに位置してもよいが、通信ユニットとは別個のクラウドベースのサーバ上に位置することが好ましい。
【0031】
一実施形態では、通信ユニットは、対象者の血糖値を測定するグルコース測定装置から、履歴血糖値および各血糖値が測定された時に対するタイムスタンプについてのグルコースデータを受信するように適合され、そしてさらに注射されるべき推奨用量サイズの先述の計算は先述のグルコースデータに基づく。
【0032】
通信ユニットは、NFC、Bluetooth、BLE(Bluetooth Low Energy)、Wi-Fi、Zigbee、GSM、または狭帯域通信を介して、注射装置、プロセッサユニット、およびグルコース測定装置と無線通信してもよい。
【0033】
本発明の第二の態様は、薬剤を投与する対象者を支援するためのキットであって、第一の態様に関連して説明されるようなシステム、および薬剤の用量を対象者の身体の中へと注射するための注射装置を備えるキットを提供する。装置は、薬剤貯蔵部と、薬剤のための出口と、用量設定機構と、薬剤の設定用量を出口を通して放出するための用量放出機構と、設定および/または放出される用量サイズを感知するための用量感知ユニットと、少なくとも放出用量サイズについての用量データを装置から通信するための通信手段とを備える。
【0034】
本発明の別の態様は、装置から放出用量サイズについてのデータを通信するための通信手段を有する注射装置の使用によって、対象者の身体の中へと注射されるべき薬剤の推奨用量サイズを提供するためのシステムを提供する。システムは、先述のデータを受信するために注射装置と通信するよう適合され、かつ対象者に情報および命令を提示するためのディスプレイを備える通信ユニットと、一つ以上のプロセッサおよび注射されるべき薬剤の推奨用量サイズを計算するように適合される用量サイズ計算プログラムを保存するメモリを備えるプロセッサユニットとを備える。メモリは、一つ以上のプロセッサによって実行される時、要求に応答して注射されるべき推奨用量サイズを計算する方法工程を実施する命令をさらに保存し、推奨用量サイズを計算するための先述のプログラムの実行を可能にするために、ディスプレイに示される所定のプライム用量サイズを設定および放出することによって先述の注射装置をプライミングする工程を実施するために先述のディスプレイを介して対象者に促す。
【0035】
本発明のさらなる態様は、対象者の身体の中へと注射されるべき薬剤の推奨用量サイズを提供する方法を提供する。方法は、
- システムを使用することを含み、このシステムは、
○ 放出用量サイズについてのデータを受信するために注射装置と通信するように適合され、かつ情報および命令を対象者に提示するためのディスプレイを備える通信ユニットと、
○ 一つ以上のプロセッサおよびメモリを備えるプロセッサユニットであって、先述の一つ以上のプロセッサが、注射されるべき薬剤の推奨用量サイズを計算するように適合された用量サイズ計算プログラムを含むプロセッサユニットと、を含み、
先述のメモリは、一つ以上のプロセッサによって実行された時、注射されるべき推奨用量サイズを計算するための要求に応答する工程、すなわち、
- 先述のディスプレイを介して、推奨用量サイズを計算するために先述のプログラムを実行できるようにするために、ディスプレイに示される所定のプライム用量サイズを設定および放出することによって、先述の注射装置をプライミングする工程を実施するように対象者を促す工程と、
- 装置から用量データの第一の組を取得する工程と、
- 先述の用量データの第一の組を処理して、データの組の中の先述のプライム用量を特定する工程と、
- 用量データの第一の組からプライム用量データを除去して、用量データの第二の組を提供する工程と、
- 先述の用量データの第二の組に基づいて、注射されるべき推奨用量サイズを計算する工程と、
- 先述の推奨用量サイズを先述のディスプレイを介して患者に提示する工程と、を実施する命令を保存する。
【0036】
さらなる態様では、一つ以上のプロセッサおよびメモリを有するコンピュータによって実行される時、注射装置によって対象者の身体の中へと注射されるべき薬剤の推奨用量サイズの計算に対する要求に応答する、方法工程、すなわち、
- 推奨用量サイズの計算を開始するために、所定のプライム用量サイズを設定しかつ放出することによって先述の注射装置をプライミングする工程を実施するように対象者を促す工程と、
- 装置から用量データの第一の組を取得する工程と、
- 先述の用量データの第一の組を処理して、データの組の前記プライム用量を特定する工程と、
- 用量データの第一の組からプライム用量データを除去して、用量データの第二の組を提供する工程と、
- 先述の用量データの第二の組に基づいて、注射されるべき推奨用量サイズを計算する工程と、
- 先述の推奨用量サイズを先述のディスプレイを介して患者に提示する工程と、を実施する命令を含むコンピュータプログラムが提供される。
【0037】
なおさらなる態様では、上述のコンピュータプログラムをその上に保存しているコンピュータ可読データ担体が提供される。
【0038】
上記の態様のいずれかによると、推奨用量を計算する工程は、時間経過にわたって取られた一つ以上の血糖(BG)測定値、および複数の測定値のうちの各測定値のそれぞれに対する、対応する時間経過のうちのそれぞれの測定がなされた時を表すタイムスタンプ、ならびに時間経過にわたって取られた一つ以上の注射された薬剤の用量サイズ、および複数の注射された用量において各注射されたそれぞれの用量サイズに対する、時間経過の中のそれぞれの用量が注射された時を表す対応するタイムスタンプを含むデータの組に基づいて用量サイズを計算および推奨するためのアルゴリズムを特定する処方されたインスリン薬剤投与量レジメンに基づいてもよい。先述のデータの組には、インスリン効果値(ISF)推定値、残存インスリン(IoB)推定値、残存炭水化物(CoB)推定値の履歴データ、地理的位置の履歴、心血管活性、食物摂取量、カレンダー上のイベント、心拍数、皮膚温度、皮膚インピーダンス、および/またはそれぞれの測定値の各々に対する、時間経過の中でそれぞれの測定がなされた時を表す対応するタイムスタンプも含まれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、本発明によるシステムの例示的な実施形態の線図を図示する。
【
図2】
図2は、本発明によるシステムおよびキットを使用してインスリンの用量サイズを要求、計算、および登録する例示的な方法の流れ図を示す。
【
図3】
図3は、本発明によるシステムのユーザーインターフェースの画面レイアウトの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下の詳細な説明では、本開示のより徹底的な理解を提供するために、より具体的な詳細が記載されている。しかしながら、本開示はこれらの具体的な詳細なしに実施されうることが、当業者には明らかであろう。
【0041】
図1では、薬剤の個別の用量を取るために使用されるペン100の形態の注射装置の例が示される。ペンからのデータの登録/ログおよび通信することができる任意の注射ペン(耐久性または使い捨て)は本明細書に記載の本発明に適用可能である。
【0042】
より具体的には、ペン100は、出口を通して薬剤の設定用量を放出するためにその中に薬剤放出機構が配設または一体化されているハウジング110を有する近位側の本体または駆動組立品部分を有する主要部と、変位可能なピストン(図示せず)を有するカートリッジ130の形態である薬剤充填透明薬剤貯蔵部と遠位側の針貫通可能な隔壁140とを保持する遠位側の薬剤貯蔵部ホルダー部分120とを備える。カートリッジホルダーは、カートリッジの一部分を検査することができる開口部150を有する。カートリッジは、例えば、インスリン、GLP-1または成長ホルモン製剤を収容してもよい。最も近位側の回転可能な用量リング部材160は、表示ウィンドウ170に示される望ましい用量の薬剤を手動で設定し、そしてその後、解放ボタン180が作動した時に放出することができるように、用量設定機構として機能する。ペンは、放出される用量のサイズを感知および登録するための用量感知ユニット(図示せず)、およびこの例ではBluetooth(登録商標)を介してペンから用量データを通信するための通信手段をさらに備える。
【0043】
図1は、ペンからの放出用量サイズ、放出用量の各々に関連付けられたタイムスタンプ、ペン内の薬剤のタイプなどについてのデータを受容する注射ペン100と通信するように適合された、本発明によるシステム200をさらに示す。ペン100は、電池の状態、あらゆるペンの機能不全、出口/針の詰まりなどのペンの状態についての情報をさらに通信し得る。
【0044】
システム200は、通信ユニット210、この例では、注射ペン100と無線通信ユニット211を介して通信するように適合された携帯電話213を備える。通信ユニット210は、ユーザーに情報および命令を提示するためのディスプレイユニット212をさらに備える。
【0045】
システムは、一つ以上のプロセッサ221と、ユーザーからの要求に際して注射されるべき薬剤の推奨用量サイズを計算するために適合された用量計算プログラムを保存するメモリ222とを含むプロセッサユニット220をさらに備える。プロセッサユニット220は、通信ユニット210へまたは通信ユニット210からデータを転送するための入力/出力モジュール223をさらに備える。用量計算プログラムは、特定のタイプの薬剤、患者、および/または他のパラメータに対する用量計算アルゴリズムを含むことが好ましい。
【0046】
プロセッサユニット220は、通信ユニット210を介して注射ペン100から受信された履歴用量データを保存するための用量履歴保存ユニット224をさらに備える。
【0047】
図に描かれるように、プロセッサユニット220は、通信ユニット210から離れたクラウド225内のサーバ上に位置し、かつWi-Fiを介して通信ユニット211と通信する。別の方法として、通信ユニット210およびプロセッサユニット220は、スマートフォン、タブレット、またはコンピュータなどの一つの単一のユニット内に含まれてもよい。
【0048】
図2に目を移すと、本発明によるシステムを使用してインスリンの用量サイズを要求、計算、および登録する例示的な方法の流れ図を示す。流れは、ユーザー要求、301、
図3に示すようなモバイルアプリケーション上のインターフェースなどの通信ユニット上の表示インターフェースを介した推奨用量サイズの用量計算によって開始される。用量サイズの計算をトリガするために、ここで通信ユニットは、ディスプレイを介して、ペンから所定の単位数のインスリンを放出すること(プライムショット)によって、ユーザーに注射ペンをプライムするように要求、302、する。次いで、ユーザーはペン上で先述の所定の単位数をダイヤルし、放出機構を起動し、そしてプライム用量303を放出する。
【0049】
ここで、通信ユニットはペンから用量データの第一の組を取得し、そしてそのデータの組をクラウド内に位置するプロセッサユニットへとさらに転送する。プロセッサユニットは、プライム用量が放出され、上述のようにプライム用量が用量データの第一の組から除去されたことを確認し、推奨用量の計算を行うことができる、304。用量計算プログラムは、プライム用量を含まない用量データの第二の組に基づいて用量を計算して実行される、305。
【0050】
推奨用量サイズが計算され、そしてプロセッサユニットから通信ユニットへと送信された時、患者に対する用量サイズが通信ユニットのディスプレイ上に表示される、306。次に、患者は注射ペン上で推奨用量サイズを設定し、そして注射する、307。注射が行われた後、通信ユニットはペンから更新された用量データを受信し、データをプロセッサユニットに転送し、更新された用量データ履歴、308、が用量履歴保存ユニット内に保存される。
【0051】
図3では、本発明によるシステムにおける用量サイズの推奨を受信するための、ユーザーインターフェースおよび関連付けられた必要とされるユーザー工程の例が示される。
【0052】
ユーザーは、スマートフォン上で用量計算アプリケーション400を開き始める。これは任意の種類のスマートフォン(Android/IOS)とすることができる。第一の画面410がポップアップし、ここでユーザーは、「用量ガイダンスを開始」ボタンを押して用量計算を開始することができる。
【0053】
次の画面420がポップアップし、ペン上の用量設定機構上で2単位にダイヤルすることによって、プライム用量(図では、「空打ち」と呼ばれる)のために注射ペンを準備するようにユーザーに要求する。
【0054】
ここで、画面430がポップアップし、ペンを上向きに向けながらボタンを押すことによってペン上で用量放出機構を起動し、そしてユニットウィンドウ内に「0」が示されるまで待つようにユーザーに命令する。
【0055】
ユーザーがボタンを放すとすぐに、用量データの第一の組がペンから携帯電話を介してプロセッサユニット(この場合には、携帯電話)へと送信され、そして2単位のプライム用量は直ちに除去され、かつ注射用量としては記録されない。用量計算アルゴリズムは、2単位のプライム用量を含まない記録された用量データの第二の組に基づいて、推奨用量サイズの計算440を開始する。
【0056】
最終的に、画面450がポップアップして、計算された推奨用量サイズをユーザーに対して表示し、そしてユーザーは推奨用量(またはユーザーの個別に基づいたその他の量)を注射する。用量を注射した後にユーザーがペン上のボタンを放すと、用量データが携帯電話を介してプロセッサーユニットへと送信され、そして注射した用量は用量データ履歴記録に登録される。
【0057】
第一のデータの組は、ユーザーが推奨用量サイズを要求した正しいタイプの薬剤をペンが収容していることをアプリケーションを検証できるようにする、薬剤タイプ情報をさらに含んでもよい。そうでない場合、システムは用量サイズの計算工程へと進まずに、不一致をユーザーに通知することになり、正しいタイプの薬剤を収容するペンを取得するようユーザーに依頼してもよい。
【0058】
ペンからのデータは、ペンの何らかのエラー(ペンが破損している、注射針/出口が塞がれている、電池の電力低下など)についての情報コードをさらに含んでもよい。エラーが発生した場合、システムは、注射ペンから受信したエラーコードに基づいて、ディスプレイを介してユーザーへとエラーメッセージを中継し、用量計算がなされないことになる。
【0059】
本発明の多くの修正および変形を、当業者に明らかであるように、その趣旨および範囲を逸脱することなく行うことができる。本明細書に記載される特定の実施形態は、例証としてのみ提供される。本発明およびその実用的用途の原理を最もよく説明するために実施形態を選択して説明したが、それにより、特定の用途に適した様々な修正を用いて、当業者が本発明および様々な実施形態を最良に利用できるようになる。本発明は、添付の特許請求の範囲の条件と、そのような請求の範囲が適用されるあらゆる等価物によってのみ限定される。