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特許7230018ジベンゾフランおよびジベンゾチオフェン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】ジベンゾフランおよびジベンゾチオフェン
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/91 20060101AFI20230220BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20230220BHJP
   C09K 19/32 20060101ALI20230220BHJP
   C09K 19/30 20060101ALI20230220BHJP
   C09K 19/18 20060101ALI20230220BHJP
   C09K 19/16 20060101ALI20230220BHJP
   C09K 19/12 20060101ALI20230220BHJP
   C07D 333/76 20060101ALI20230220BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20230220BHJP
   H01Q 3/36 20060101ALI20230220BHJP
   H01P 1/18 20060101ALI20230220BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
C07D307/91
C09K19/54 Z
C09K19/32
C09K19/30
C09K19/18
C09K19/16
C09K19/12
C07D333/76 CSP
H01Q21/06
H01Q3/36
H01P1/18
G02F1/13 500
G02F1/13 505
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020522010
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 EP2018078164
(87)【国際公開番号】W WO2019076852
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】17197304.3
(32)【優先日】2017-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】593033142
【氏名又は名称】メルク・パテント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent GmbH
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250, 64293 Darmstadt
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー ウシャコフ
(72)【発明者】
【氏名】ベアーテ シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】カーステン フリッチュ
(72)【発明者】
【氏名】ダークマー クラス
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/126570(WO,A1)
【文献】特表2016-534108(JP,A)
【文献】特開2015-205879(JP,A)
【文献】特開2015-174864(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047896(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/156773(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/133374(WO,A1)
【文献】特開平06-228555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/91
C09K 19/54
C09K 19/32
C09K 19/30
C09K 19/18
C09K 19/16
C09K 19/12
C07D 333/76
H01Q 21/06
H01Q 3/36
H01P 1/18
G02F 1/13
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物
【化1】
[式中、
WはOまたはSであり、
1およびR2は、H、1~15個のC原子を有するアルキル基であり、ここでさらに、それらの基における1つ以上のCH2基は互いに独立して
【化2】
によって、O原子が互いに直接的に結合しないように各々置き換えられることができ、およびさらに、1つ以上のH原子はハロゲンによって置き換えられることができ、
ここでR1およびR2の少なくとも1つはHとは異なり、
Lはそれぞれ、同一または異なって、各々10個までのC原子を有し且つ1つ以上のH原子がフッ素によって置き換えられ得るアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシまたはアルコキシアルキル; または3~6個のC原子を各々有するシクロアルキルまたはシクロアルケニル; またはハロゲン、CN、OH、SF5であり、
rおよびsは同一または異なって、0、1、2または3である]。
【請求項2】
前記化合物が、下位式Ia-1~Ia-4
【化3】
[式中、存在する基は請求項1に示された意味を有する]
の化合物の群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物が、下位式Ib-1~Ib-4
【化4】
[式中、存在する基は請求項1に示された意味を有する]
の化合物の群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
1およびR2が7個までのC原子を有するアルキルまたはアルケニルであり、且つ
Lはそれぞれ、同一または異なって、F、Cl、CF3、OCF3、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、またはシクロブチルである、
請求項1から3までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の1つ以上の化合物を含むことを特徴とする、液晶媒体。
【請求項6】
前記媒体が、式II
【化5】
[式中、
11はR11またはX11であり、
12はR12またはX12であり、
11およびR12は互いに独立して、1~17のC原子を有するフッ素化されていないアルキルまたはフッ素化されていないアルコキシ、または2~15のC原子を有するフッ素化されていないアルケニル、フッ素化されていないアルキニル、フッ素化されていないアルケニルオキシまたはフッ素化されていないアルコキシアルキルであり、
11およびX12は互いに独立して、F、Cl、Br、-CN、-NCS、-SCN、SF5、1~7個のC原子を有するフッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ、または2~7個のC原子を有するフッ素化アルケニル、フッ素化アルケニルオキシまたはフッ素化アルコキシアルキルであり、
p、qは互いに独立して0または1であり、
11~Z13は互いに独立してトランス-CH=CH-、トランス-CF=CF-、-C≡C-または単結合であり、
【化6】
は互いに独立して
【化7】
であり、且つ
13はそれぞれ、互いに独立して、1~12個のC原子を有し、互いに独立して1つ以上の「-CH2-」基がOによって置き換えられ得る分枝または非分枝のアルキル、アルケニルまたはアルキニルであるか、またはC3~C6-シクロアルキル、C3~C6-シクロアルケニル、フッ素化アルキルまたはアルケニル、フッ素化アルコキシまたはアルケニルオキシ、F、Cl、Br、CN、NCS、SCNまたはSF5である]
の1つ以上の化合物を含む、請求項5に記載の媒体。
【請求項7】
液晶媒体中での、請求項1から4までのいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項8】
請求項1に記載の式Iの化合物の製造方法であって、式I’の化合物
【化8】
[式中、
L、rおよびsは請求項1において式Iについて定義された意味を有し、且つ
1およびX2はCl、Br、I、アルカンスルホネート、アリールスルホネートまたはペルフルオロアルカンスルホネートである]
を、薗頭反応において末端アルキンと反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項9】
請求項5または6に記載の液晶媒体を含むことを特徴とする、高周波技術用部品。
【請求項10】
前記部品がマイクロ波領域における稼働のために適している、請求項9に記載の部品。
【請求項11】
前記部品が、マイクロ波領域で稼働できるチューナブル移相器、チューナブルフィルタ、チューナブルマッチング回路、チューナブルバラクタまたはLCアンテナエレメントである、請求項9または10に記載の部品。
【請求項12】
請求項9から11までのいずれか1項に記載の1つ以上の部品を含むことを特徴とする、マイクロ波アンテナアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジベンゾチオフェン、それを含む液晶媒体、およびそれらの媒体を含む高周波部品、特に高周波デバイス用のマイクロ波部品、例えばマイクロ波の位相をシフトさせるためのデバイス、チューナブルフィルタ、チューナブルメタマテリアル構造、および電子線ステアリングアンテナ(例えばフェーズドアレイアンテナ)に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶媒体は、情報を表示するための電気光学的ディスプレイ(液晶ディスプレイ; iquid rystal isplays: LCD)において長年使用されてきた。
【0003】
近年、例えば独国特許出願公開第102004029429号明細書(DE102004029429A)および特開2005-120208号公報(JP2005-120208(A))において、液晶媒体をマイクロ波技術のための部品において使用することも提案されている。
【0004】
高周波技術における液晶媒体の産業的に価値のある用途は、それらの誘電特性が、特にギガヘルツ領域について可変電圧によって制御できるという特性に基づく。これは、いかなる可動部も含有しないチューナブルアンテナの構成を可能にする(A.Gaebler, A.Moessinger, F.Goelden,et al., “Liquid Crystal-Reconfigurable Antenna Concepts for Space Applications at Microwave and Millimeter Waves”, International Journal of Antennas and Propagation, Vol.2009(2009), 文献ID 876989, 7ページ, doi:10.1155/2009/876989)。
【0005】
A.Penirschke, S.Mueller, P.Scheele, C.Weil, M.Wittek, C.Hock and R.Jakoby: “Cavity Perturbation Method for Characterization of Liquid Crystals up to 35 GHz”, 34th European Microwave Conference-アムステルダム, 545~548ページは、とりわけ、既知の単独の液晶物質K15(Merck KGaA,ドイツ)の周波数9GHzでの特性を記載している。
【0006】
独国特許出願公開第102012004393号明細書(DE102012004393A1)においては、マイクロ波用途のための液晶媒体中で使用するための複素環式化合物が、以下のように記載されている:
【化1】
前記式中、R1およびR2は例えばアルキルである。該出願は、この種のジベンゾチオフェン誘導体も包括する。
【0007】
これまでに知られている個々の化合物の組成は一般に欠点に悩まされている。それらの大半は、他の欠陥の他に、不利なことに高い損失および/または不適当な位相シフトまたは不適当な材料品質をもたらす。
【0008】
マイクロ波用途において使用するための液晶材料の分野における開発は、完成からはかけ離れている。マイクロ波デバイスの特性を改善するために、そのような素子の最適化を可能にする新規の化合物を開発するための試みが常になされてきた。高周波技術において使用するために、特にこれまではむしろ通常ではない、慣例的ではない特性、または特性の組み合わせを有する液晶媒体が必要とされる。
【0009】
従って、改善された特性を有する液晶媒体のための新規の成分が必要である。特に、マイクロ波領域における損失が低減され且つ材料品質(η)が改善されなければならない。
【0010】
さらに、前記部品の低温挙動における改善についての要請がある。ここでは、稼働特性と貯蔵寿命との両方における改善が必要とされる。
【0011】
従って、実際的な用途に相応するために適した特性を有する液晶媒体についての著しい要請がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】独国特許出願公開第102004029429号明細書
【文献】特開2005-120208号公報
【文献】独国特許出願公開第102012004393号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】A.Gaebler, A.Moessinger, F.Goelden,et al., “Liquid Crystal-Reconfigurable Antenna Concepts for Space Applications at Microwave and Millimeter Waves”, International Journal of Antennas and Propagation, Vol.2009(2009), 文献ID 876989, 7ページ, doi:10.1155/2009/876989
【文献】A.Penirschke, S.Mueller, P.Scheele, C.Weil, M.Wittek, C.Hock and R.Jakoby: “Cavity Perturbation Method for Characterization of Liquid Crystals up to 35 GHz”, 34th European Microwave Conference-アムステルダム, 545~548ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、マイクロ波用途のための部品中で使用するための液晶媒体において使用するために有利な特性を有する化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
意外なことに、本発明による化合物を使用して、適したネマチック相領域および高いΔn、低い誘電損失、高いチューナビリティおよび高い材料品質を有し、従来技術の材料の欠点を有さないかまたは少なくとも著しく低減された程度にしか有さない、液晶媒体を達成することが可能であることが判明した。
【0016】
本発明の課題は、一般式Iの化合物によって解決される
【化2】
[式中、
WはOまたはSであり、
1およびR2は、H、1~15個のC原子を有するアルキル基であり、ここでさらに、それらの基における1つ以上のCH2基は互いに独立して
【化3】
によって、O原子が互いに直接的に結合しないように各々置き換えられることができ、およびさらに、1つ以上のH原子はハロゲンによって置き換えられることができ、
且つここでR1およびR2の少なくとも1つはHとは異なり、
Lはそれぞれ、同一または異なって、各々10個までのC原子を有し且つ1つ以上のH原子がフッ素によって置換され得るアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシまたはアルコキシアルキル; または3~6個のC原子を各々有するシクロアルキルまたはシクロアルケニル; またはハロゲン、CN、OH、SF5であり、
rおよびsは同一または異なって、0、1、2または3、好ましくは0または1、特に好ましくは0である]。
【0017】
本発明による化合物は、比較的低い融点、高い透明点および高い光学的異方性(Δn)を有することにより、ギガヘルツ領域における使用のために特に適する。マイクロ波スペクトルにおける比較的低い誘電損失および高いチューナビリティは有利である。前記化合物は、単独またはさらなるメソゲン成分との混合物において、広い温度範囲にわたってネマチック相を有する。前記の特性全体により、それらは高周波技術のための部品、特に液晶移相器において使用するために特に適したものになる。本発明による液晶媒体は相応の特性を有する。
【0018】
本発明のさらなる課題は、マイクロ波領域における用途のために、特にマイクロ波(MW)領域における移相器またはLCアンテナエレメントのために適した液晶媒体を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる課題は、電磁スペクトルのマイクロ波領域で稼働できる部品および前記部品を含むデバイスである。
【0020】
好ましい部品は、マイクロ波領域で稼働できるチューナブル移相器、チューナブルフィルタ、チューナブルマッチング回路、チューナブルバラクタまたはLCアンテナエレメント、およびその他である。
【0021】
1またはR2がアルキル基および/またはアルコキシ基である場合、これは直鎖または分枝鎖であってよい。それは好ましくは直鎖であり、2、3、4、5、6または7個の炭素原子を有し、従って好ましくはエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシまたはヘプトキシ、さらにはメチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、メトキシ、オクトキシ、ノノキシ、デコキシ、ウンデコキシ、ドデコキシ、トリデコキシまたはテトラデコキシである。
【0022】
オキサアルキルは、好ましくは、直鎖の2-オキサプロピル(=メトキシメチル)、2-(=エトキシメチル)または3-オキサブチル(=2-メトキシエチル)、2-、3-または4-オキサペンチル、2-、3-、4-または5-オキサヘキシル、2-、3-、4-、5-または6-オキサヘプチル、2-、3-、4-、5-、6-または7-オキサオクチル、2-、3-、4-、5-、6-、7-または8-オキサノニル、2-、3-、4-、5-、6-、7-、8-または9-オキサデシルである。
【0023】
1またはR2が、1つのCH2基が-CH=CH-によって置き換えられたアルキル基である場合、これは直鎖または分枝鎖であってよい。それは好ましくは直鎖であり且つ2~10個の炭素原子を有する。従って、それは特にビニル、プロパ-1-または-2-エニル、ブタ-1-、-2-または-3-エニル、ペンタ-1-、-2-、-3-または-4-エニル、ヘキサ-1-、-2-、-3-、-4-または-5-エニル、ヘプタ-1-、-2-、-3-、-4-、-5-または-6-エニル、オクタ-1-、-2-、-3-、-4-、-5-、-6-または-7-エニル、ノナ-1-、-2-、-3-、-4-、-5-、-6-、-7-または-8-エニル、またはデカ-1-、-2-、-3-、-4-、-5-、-6-、-7-、-8-または-9-エニルである。
【0024】
1またはR2が、1つのCH2基が-O-によって置き換えられており且つ1つが-CO-によって置き換えられているアルキル基である場合、それらは好ましくは隣接している。従って、それらはアシルオキシ基-CO-O-またはオキシカルボニル基-O-CO-を含有する。それらは好ましくは直鎖であり且つ2~6個の炭素原子を有する。
【0025】
従って、それらは特にアセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、ペンタノイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、アセトキシメチル、プロピオニルオキシメチル、ブチリルオキシメチル、ペンタノイルオキシメチル、2-アセトキシエチル、2-プロピオニルオキシエチル、2-ブチリルオキシエチル、3-アセトキシプロピル、3-プロピオニルオキシプロピル、4-アセトキシブチル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、ペントキシカルボニル、メトキシカルボニルメチル、エトキシカルボニルメチル、プロポキシカルボニルメチル、ブトキシカルボニルメチル、2-(メトキシカルボニル)エチル、2-(エトキシカルボニル)エチル、2-(プロポキシカルボニル)エチル、3-(メトキシカルボニル)プロピル、3-(エトキシカルボニル)プロピルまたは4-(メトキシカルボニル)ブチルである。
【0026】
1またはR2が、1つのCH2基が非置換または置換された-CH=CH-によって置き換えられており且つ隣接のCH2基がCOまたはCO-OまたはO-COによって置き換えられているアルキル基である場合、これは直鎖または分枝鎖であってよい。それは好ましくは直鎖であり且つ4~13個の炭素原子を有する。従って、それは特にアクリロイルオキシメチル、2-アクリロイルオキシエチル、3-アクリロイルオキシプロピル、4-アクリロイルオキシブチル、5-アクリロイルオキシペンチル、6-アクリロイルオキシヘキシル、7-アクリロイルオキシヘプチル、8-アクリロイルオキシオクチル、9-アクリロイルオキシノニル、10-アクリロイルオキシデシル、メタクリロイルオキシメチル、2-メタクリロイルオキシエチル、3-メタクリロイルオキシプロピル、4-メタクリロイルオキシブチル、5-メタクリロイルオキシペンチル、6-メタクリロイルオキシヘキシル、7-メタクリロイルオキシヘプチル、8-メタクリロイルオキシオクチルまたは9-メタクリロイルオキシノニルである。
【0027】
1またはR2が、CNまたはCF3によって一置換されたアルキルまたはアルケニル基である場合、この基は好ましくは直鎖であり、CNまたはCF3による置換はω位である。
【0028】
1またはR2が、ハロゲンによって少なくとも一置換されたアルキルまたはアルケニル基である場合、この基は好ましくは直鎖であり、且つハロゲンは好ましくはFまたはClである。多置換の場合、ハロゲンは好ましくはFである。生じる基は、過フッ素化基も含む。一置換の場合、フッ素または塩素置換基は任意の所望の位置にあってよいが、好ましくはω位である。
【0029】
分枝の側基(wing group)R1またはR2を含有する式Iの化合物は、場合により、液晶のホスト材料中でのより良好な可溶性に起因して、しかし特にそれらが光学的に活性である場合にはキラルドーパントとして重要であり得る。この種のスメクチック化合物は強誘電材料の成分として適している。
【0030】
この種の分枝基は一般に1つより多くの鎖の分枝を含有しない。好ましい分枝基R1またはR2は、イソプロピル、2-ブチル(=1-メチルプロピル)、イソブチル(=2-メチルプロピル)、2-メチルブチル、イソペンチル(=3-メチルブチル)、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2-エチルヘキシル、2-プロピルペンチル、イソプロポキシ、2-メチルプロポキシ、2-メチルブトキシ、3-メチルブトキシ、2-メチルペントキシ、3-メチルペントキシ、2-エチルヘキソキシ、1-メチルヘキソキシおよび1-メチルヘプトキシである。
【0031】
1またはR2が、2つ以上のCH2基が-O-および/または-CO-O-によって置き換えられたアルキル基である場合、これは直鎖または分枝鎖であってよい。それは好ましくは分枝鎖であり且つ3~12個の炭素原子を有する。従って、それは特にビスカルボキシメチル、2,2-ビスカルボキシエチル、3,3-ビスカルボキシプロピル、4,4-ビスカルボキシブチル、5,5-ビスカルボキシペンチル、6,6-ビスカルボキシヘキシル、7,7-ビスカルボキシヘプチル、8,8-ビスカルボキシオクチル、9,9-ビスカルボキシノニル、10,10-ビスカルボキシデシル、ビス(メトキシカルボニル)メチル、2,2-ビス(メトキシカルボニル)エチル、3,3-ビス(メトキシカルボニル)プロピル、4,4-ビス(メトキシカルボニル)ブチル、5,5-ビス(メトキシカルボニル)ペンチル、6,6-ビス(メトキシカルボニル)ヘキシル、7,7-ビス(メトキシカルボニル)ヘプチル、8,8-ビス(メトキシカルボニル)オクチル、ビス(エトキシカルボニル)メチル、2,2-ビス(エトキシカルボニル)エチル、3,3-ビス(エトキシカルボニル)プロピル、4,4-ビス(エトキシカルボニル)ブチルまたは5,5-ビス(エトキシカルボニル)ヘキシルである。
【0032】
式Iは、それらの化合物および光学対掌体のラセミ化合物、およびそれらの混合物を包含する。
【0033】
式Iおよびその下位式の化合物のうち、そこに存在する少なくとも1つの基が示された好ましい意味の1つを有するものが好ましい。
【0034】
本発明の目的では「1-E-アルケニル」との用語は、ビニル、1-E-プロペニル、1-E-ブテニル、1-E-ペンテニル、1-E-ヘキセニル、1-E-ヘプテニル、1-E-オクテニル、1-E-ノネニルおよび1-E-デセニルなどの基を包含する。「2-Z-アルケニル」との用語は、アリル、2-Z-ブテニル、2-Z-ペンテニル、2-Z-ヘキセニル、2-Z-ヘプテニル、2-Z-オクテニル、2-Z-ノネニルおよび2-Z-デセニルなどの基を包含する。「3-E-アルケニル」との用語は、3-E-ブテニル、3-E-ペンテニル、3-E-ヘキセニル、3-E-ヘプテニル、3-E-オクテニル、3-E-ノネニルおよび3-E-デセニルなどの基を包含する。「4-アルケニル」との用語は、4-ペンテニルおよびE-および/またはZ-形態の3-ヘキセニル、4-ヘプテニル、4-オクテニル、4-ノネニルおよび4-デセニルなどの基を包含する。
【0035】
「アルケニルオキシ」との用語は、酸素が直接的に飽和炭素原子に結合しているアルケニルオキシ基(つまり、二重結合と酸素原子との間に1つ以上の炭素原子を有する基)であり、例えば(2-E-アルケニル)オキシ、(3-アルケニル)オキシ、(4-アルケニル)オキシ、(5-アルケニル)オキシおよびその種のものである。「(2-E-アルケニル)オキシ」との用語は、ここでは、アリルオキシ、(2-E-ブテニル)オキシ、(2-E-ペンテニル)オキシ、(2-E-ヘキセニル)オキシ、(2-E-ヘプテニル)オキシ、(2-E-オクテニル)オキシ、(2-E-ノネニル)オキシおよび(2-E-デセニル)オキシなどの基を包含する。「(3-アルケニル)オキシ」との用語は、(3-ブテニル)オキシおよびE-および/またはZ-形態の(3-ペンテニル)オキシ、(3-ヘキセニル)オキシ、(3-ヘプテニル(hepentyl))オキシ、(3-オクテニル)オキシ、(3-ノネニル)オキシおよび(3-デセニル)オキシなどの基を包含する。「(4-アルケニル)オキシ」との用語は、(4-ペンチル)オキシおよびE-および/またはZ-形態の(4-ヘキセニル)オキシ、(4-ヘプテニル)オキシ、(4-オクテニル)オキシ、(4-ノネニル)オキシおよび(4-デセニル)オキシなどの基を包含する。「(5-アルケニル)オキシ」との用語は、(5-ヘキセニル)オキシおよびE-および/またはZ-形態の(5-ヘプテニル)オキシ、(5-オクテニル)オキシ、(5-ノネニル)オキシおよび(5-デセニル)オキシなどの基を包含する。
【0036】
ハロゲンはF、Cl、BrまたはIである。
【0037】
好ましい実施態様において、式Iの化合物は、以下の下位式の化合物の群から選択される:
【化4】
[式中、
1またはR2は、上記で式Iについて示された意味を有し、且つ好ましくは7個までのC原子を有するアルキルまたはアルケニル、特に好ましくはエチル、n-プロピル、n-ブチルまたはn-ペンチルであり、
Lはそれぞれ、同一または異なって、上記で式Iについて示された意味を有し、且つ好ましくはF、Cl、CF3、OCF3、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロブチル、特に好ましくはF、エチルまたはシクロプロピルである]。
【0038】
他の好ましい実施態様において、式Iの化合物は、以下の下位式の化合物の群から選択される:
【化5】
[式中、
1またはR2は、上記で式Iについて示された意味を有し、且つ好ましくは7個までのC原子を有するアルキルまたはアルケニル、特に好ましくはエチル、n-プロピル、n-ブチルまたはn-ペンチルであり、
Lはそれぞれ、同一または異なって、上記で式Iについて示された意味を有し、且つ好ましくはF、Cl、CF3、OCF3、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、シクロブチル、特に好ましくはF、エチルまたはシクロプロピルである]。
【0039】
一般式Iの化合物は、文献内(例えば、Houben-Weyl, Methoden der organischen Chemie[有機化学の方法], Georg-Thieme-Verlag, シュトゥットガルトなどの標準的な研究において)に記載されるような、自体公知の方法によって、既知であり且つ前記反応に適した反応条件下で正確に調製される。ここで、自体公知であるが本願内でより詳細には言及されない変化形が使用できる。望ましい場合、出発材料を、反応混合物から単離するのではなくそれらを直ちに一般式Iの化合物へとさらに変換することによって現場で形成することもできる。
【0040】
本発明による化合物に向かう好ましい合成経路は下記のスキームに示され、実施例によってさらに説明される。適した出発材料を選択することによって、合成を一般式Iのそれぞれの所望の化合物に適合できる。
【0041】
スキーム1:
【化6】
【0042】
スキーム1において、R基は請求項1においてR1について定義された意味を有し、且つX1およびX2は末端アルキンと薗頭カップリング(文献から当業者に周知の反応)されることができる脱離基である。そのような脱離基の例は、Cl、Br、Iおよびスルホネート、例えばトシレート、メシレート、トリフルオロメタンスルホネート、ノシレートおよびその種のものである。X1およびX2は同一または異なってよい。好ましい実施態様において、X1またはX2は同一、好ましくはBrであり、且つスキーム1に示される手順により、R1およびR2が同一である式Iの化合物へと反応させることができる。他の好ましい実施態様において、X1またはX2は互いに異なり、且つスキーム1に示される手順に類似して、R1およびR2が互いに異なる式Iの化合物へと段階的に反応させることができる。特に好ましくは、X1またはX2はBrであり、X1またはX2の他方はIである。公知の前駆体は、3,7-ジブロモジベンゾフランおよび3,7-ジヨードジベンゾフラン(市販)、3,7-ジブロモジベンゾチオフェン(例えばK.Kawabata et al., Macromolecules 2013, 46, 2078~2091内に記載)、3-ブロモ-7-ヨードジベンゾチオフェン(国際公開第2017/071791号(WO2017/071791A1)内に記載)、3-ブロモ-7-クロロ-ジベンゾチオフェン(国際公開第2014/129764号(WO2014/129764A1)内に記載)である。
【0043】
本発明の他の対象は、式Iの化合物の製造方法であり、ここで式I’の化合物
【化7】
[式中、
L、rおよびsは上記で式Iについて定義された意味を有し、且つ
1およびX2はCl、Br、I、アルカンスルホネート、アリールスルホネートまたはペルフルオロアルカンスルホネート、好ましくはBr、I、トシレートまたはトリフレートである]
が、薗頭反応において末端アルキンと反応する。
【0044】
記載された反応は例示としてのみみなされるべきである。当業者は、記載された合成の相応の変化形を行うことができ、且つ他の適した合成経路に従って式Iの化合物を得ることができる。
【0045】
一般式Iの化合物は、液晶媒体中で使用できる。
【0046】
従って、本発明は、一般式Iの1つ以上の化合物を含む、2つ以上の液晶化合物を含む液晶媒体にも関する。
【0047】
本発明による液晶媒体は、式Iの1つ以上の化合物と、任意に少なくとも1つのさらなる、好ましくはメソゲン化合物とを含む。従って、好ましくは、液晶媒体は、好ましくは液晶である2つ以上の化合物を含む。好ましい媒体は、式Iの好ましい化合物を含む。
【0048】
液晶媒体のさらなる成分は好ましくは式IIの化合物から選択される:
【化8】
[式中、
11はR11またはX11であり、
12はR12またはX12であり、
11およびR12は互いに独立して、1~17、好ましくは3~10個のC原子を有するフッ素化されていないアルキルまたはフッ素化されていないアルコキシ、または2~15、好ましくは3~10個のC原子を有するフッ素化されていないアルケニル、フッ素化されていないアルキニル、フッ素化されていないアルケニルオキシまたはフッ素化されていないアルコキシアルキル、好ましくはアルキルまたはフッ素化されていないアルケニルであり、
11およびX12は互いに独立して、F、Cl、Br、-CN、-NCS、-SCN、SF5、1~7個のC原子を有するフッ素化アルキルまたはフッ素化アルコキシ、または2~7個のC原子を有するフッ素化アルケニル、フッ素化アルケニルオキシまたはフッ素化アルコキシアルキル、好ましくはCF3、OCF3、Cl、FまたはNCSであり、
p、qは互いに独立して0または1であり、
11~Z13は互いに独立してトランス-CH=CH-、トランス-CF=CF-、-C≡C-または単結合であり、
【化9】
は互いに独立して
【化10】
であり、
13はそれぞれ、互いに独立して、1~12個のC原子を有し、互いに独立して1つ以上の「-CH2-」基がOによって置き換えられ得る分枝または非分枝のアルキル、アルケニルまたはアルキニルであるか、またはC3~C6-シクロアルキル、C3~C6-シクロアルケニル、フッ素化アルキルまたはアルケニル、フッ素化アルコキシまたはアルケニルオキシ、F、Cl、Br、CN、NCS、SCNまたはSF5である。
【0049】
本発明の好ましい実施態様において、液晶媒体は、式Iの1つ以上の化合物および式IIの1つ以上の化合物を含む。
【0050】
本願による液晶媒体は、好ましくは合計で5~95%、好ましくは10~90%、および特に好ましくは15~80%の式Iの化合物を含む。
【0051】
本願による液晶媒体は、好ましくは、合計で10~100%、好ましくは20~95%、および特に好ましくは25~90%の式IおよびIIの化合物を含む。
【0052】
本発明によれば、式IIの化合物は、全体としての混合物の10%~90%、より好ましくは15%~85%、さらにより好ましくは25%~80%、および非常に好ましくは30%~75%の合計濃度で好ましく使用される。
【0053】
さらに、前記液晶媒体は、添加剤、例えば安定剤、キラルドーパントおよびナノ粒子をさらに含み得る。添加される個々の化合物は、0.005~6%、好ましくは0.1~3%の濃度で用いられる。それらのさらなる成分の合計濃度は、全体としての混合物に対して0%~10%、好ましくは0.1%~6%の範囲である。しかしながら、液晶混合物の残りの成分、つまり液晶またはメソゲン化合物についての濃度のデータは、それらの添加剤の濃度を考慮せずに示されている。
【0054】
液晶媒体は、好ましくは0~10質量%、特に0.01~5質量%、および特に好ましくは0.1~3質量%の安定剤を含む。前記媒体は、好ましくは2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,2,6,6-テトラメチルピペリジンまたは2-ベンゾトリアゾ-ル-2-イルフェノールから選択される1つ以上の安定剤を含む。それらの添加剤は当業者に公知であり、例えば光安定剤または酸化防止剤として市販である。
【0055】
従って、本発明の実施態様は、式Iの1つ以上の化合物を1つ以上のさらなる化合物、および任意に1つ以上の添加剤と混合することを特徴とする液晶媒体の製造方法でもある。前記のさらなる化合物は、好ましくは、上に示されるような式IIの化合物、および任意に1つ以上のさらなる化合物から選択される。
【0056】
本願において、誘電率的に正とは、Δε>3.0である化合物または成分を記載し、誘電率的に中性とは、-1.5≦Δε≦3.0であるものを記載し、且つ誘電率的に負とは、Δε<-1.5であるものを記載する。それぞれの化合物の誘電率の異方性は、ネマチックホスト混合物中のそれぞれ個々の化合物の10%の溶液の結果から決定される。ホスト混合物中でのそれぞれの化合物の可溶性が10%未満であれば、濃度は5%に低下される。試験用混合物の容量は、ホメオトロピック配列を有するセルと、ホモジニアス配列を有するセルとの両方において測定される。両方の種類のセルのセル厚さは約20μmである。印加される電圧は、周波数1kHz且つ実効値が典型的には0.5V~1.0Vの矩形波であるが、それは常にそれぞれの試験用混合物の容量の閾値未満であるように選択される。
【0057】
Δεは(ε||-ε)として定義される一方で、ε平均は(ε||+2ε)/3である。
【0058】
誘電率的に正である化合物のために使用されるホスト混合物は、混合物のZLI-4792であり、誘電率的に中性および誘電率的に負である化合物のために使用されるホスト混合物は、混合物のZLI-3086であり、両者ともMerck KGaA(ドイツ)製である。化合物の誘電率の絶対値は、対象の化合物を添加した際のホスト混合物のそれぞれの値における変化から決定される。それらの値は対象の化合物の100%の濃度へと外挿される。
【0059】
測定温度20℃でネマチック相を有する化合物はそのまま測定され、全ての他のものは化合物のように扱われる。
【0060】
本願における閾値電圧との用語は光学的閾値に関し、且つ10%の相対コントラスト(V10)について述べられ、且つ飽和電圧との用語は光学的な飽和に関し、90%の相対コントラスト(V90)について述べられる(両方の場合において特段記載されない限り)。容量性の閾値電圧(V0)(フレデリクス閾値(VFr)とも称される)は、特段言及される場合のみ使用される。
【0061】
特段記載されない限り、本願において示されるパラメータ範囲は全て限界値を含む。
【0062】
特性の様々な範囲について示された種々の上限値および下限値を互いに組み合わせて、さらなる好ましい範囲がもたらされる。
【0063】
特段記載されない限り、本願を通じて以下の条件および定義を適用する。全ての濃度は質量パーセントで述べられ、全体としてのそれぞれの混合物に関し、全ての温度は摂氏度で述べられ、全ての温度の差は度の差分で述べられる。特段記載されない限り、液晶について典型的な全ての物理的特性は、“Merck Liquid Crystals, Physical Properties of Liquid Crystals”, status Nov. 1997, Merck KGaA(ドイツ)に準拠して測定され、温度20℃について述べられる。光学的異方性(Δn)は、波長589.3nmで測定される。誘電率の異方性(Δε)は、周波数1kHzで測定される。閾値電圧、並びに全ての他の電気光学的特性は、Merck KGaA、ドイツで製造された試験用セルを使用して測定される。Δεを測定するための試験用セルは、セルの厚さ約20μmを有する。電極は円形のITO電極であり、面積1.13cm2およびガードリングを有する。配向層は、ホメオトロピック配向(ε||)用には日産化学(日本)製のSE-1211であり、ホモジニアス配向(ε)用には日本合成ゴム(日本)製のポリイミドAL-1054である。容量はSolatron 1260周波数応答アナライザを使用し、電圧0.3Vrmsを有する正弦波を使用して測定される。電気光学的測定において使用される光は白色光である。Autronic-Melchers(ドイツ)製の市販のDMS機器を使用した設定がここで使用される。電圧の特性は垂直の観察下で測定された。閾値(V10)、中間のグレー(mid-grey)(V50)および飽和(V90)電圧を、それぞれ10%、50%および90%の相対コントラストについて測定する。
【0064】
液晶媒体は、A.Penirschke et al.“Cavity Perturbation Method for Characterization of Liquid Crystals up to 35GHz”, 34th European Microwave Conference-アムステルダム, 545~548ページ内に記載されるとおり、マイクロ波の周波数範囲におけるそれらの特性に関して調査される。これに関し、A.Gaebler et al.“Direct Simulation of Material Permittivities…”, 12MTC2009-International Instrumentation and Measurement Technology Conference, シンガポール, 2009(IEEE), 463~467ページ、および独国特許出願公開第102004029429号明細書(DE102004029429A)(同様に測定方法を詳述)も比較。
【0065】
液晶は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)または石英のキャピラリー中に導入される。該キャピラリーは内径180μmおよび外径350μmを有する。有効長は2.0cmである。充填されたキャピラリーは、共振周波数19GHzを有する円筒のキャビティの中心に導入される。このキャビティは、長さ11.5mmおよび半径6mmを有する。次いで入力信号(ソース)を印加し、市販のベクトルネットワークアナライザを使用して出力信号の結果を記録する。他の周波数のためには、キャビティの寸法を相応に適合させる。
【0066】
液晶で充填されたキャピラリーを用いた測定と、液晶で充填されたキャピラリーを用いない測定との間の共振周波数およびQ値における変化を使用して、上述の刊行物A. Penirschke et al., 34th European Microwave Conference-アムステルダム, 545~548ページ内の式10および11を用いて、そこに記載されるとおり、相応の目標周波数での誘電率および損失角を決定する。
【0067】
液晶の配向子に垂直および平行な特性の成分についての値は、磁場中での液晶の配列によって得られる。このために、永久磁石の磁場が使用される。磁場の強度は0.35テスラである。磁石の配列は相応して設定され、次いで相応して90°回転される。
【0068】
マイクロ波領域における誘電率の異方性は以下のように定義される:
Δεr≡(εr,||-εr,⊥)。
【0069】
チューナビリティ(τ)は以下のように定義される:
τ≡(Δεr/εr,||)。
【0070】
材料品質(η)は以下のように定義される:
η≡(τ/tan δεr,max
ここで、最大誘電損率tan δεr,maxは、
tan δεr,max≡最大{tan δεr,⊥; tan δεr,||
であり、これはtan δεrについて測定された値の最大値から得られる。
【0071】
好ましい液晶材料の材料品質(η)は6以上、好ましくは7以上、好ましくは10以上、好ましくは15以上、特に好ましくは25以上、および非常に特に好ましくは30以上である。
【0072】
相応の部品において、好ましい液晶材料は15°/dB以上、好ましくは20°/dB以上、好ましくは30°/dB以上、好ましくは40°/dB以上、好ましくは50°/dB以上、特に好ましくは80°/dB以上、および非常に特に好ましくは100°/dB以上の移相器の品質を有する。
【0073】
本発明による液晶媒体は、好ましくは各々の場合において少なくとも、-20℃~80℃、好ましくは-30℃~85℃、および非常に特に好ましくは-40℃~100℃のネマチック相を有する。該相は特に好ましくは120℃以上、好ましくは140℃以上、および非常に特に好ましくは180℃以上までに及ぶ。本願におけるネマチック相を有するとの表現は、一方ではスメクチック相がなく且つ相応の温度での低温での結晶化が観察されないことを意味し、他方では、ネマチック相からの加熱に際して透明化が生じないことを意味する。低温での調査は、相応の温度で流動粘度計において行われ、且つセルの厚さ5μmを有する試験用セルにおける少なくとも100時間の保管によって確認される。高温では、透明点は従来の方法によってキャピラリー内で測定される。
【0074】
本発明による液晶媒体は、好ましくは、90℃以上、より好ましくは100℃以上、さらにより好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上、および非常に特に好ましくは170℃以上の透明点を有する。
【0075】
本発明による液晶媒体のΔεは、1kHzおよび20℃で、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、および非常に好ましくは3以上である。
【0076】
本発明による液晶媒体のΔnは、589nm(NaD)および20℃で、好ましくは0.20~0.90の範囲、より好ましくは0.25~0.90の範囲、さらにより好ましくは0.30~0.85の範囲、および非常に特に好ましくは0.35~0.80の範囲である。
【0077】
本願の好ましい実施態様において、本発明による液晶媒体のΔnは好ましくは0.50以上、より好ましくは0.55以上である。
【0078】
さらには、本発明による液晶媒体は、マイクロ波領域における高い異方性を特徴とする。複屈折は、約8.3GHzで例えば、好ましくは0.14以上、特に好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.20以上、特に好ましくは0.25以上、および非常に特に好ましくは0.30以上である。さらには、複屈折は好ましくは0.80以下である。
【0079】
用いられる液晶は、単独の物質または混合物のいずれかである。それらは好ましくはネマチック相を有する。
【0080】
本願においては、特段記載されない限り、化合物との用語は、1つの化合物と、複数の化合物との両方を意味する。
【0081】
本発明による液晶媒体または少なくとも1つの化合物を含む好ましい部品は、移相器、バラクタ、アンテナアレイ(例えば無線、移動体通信、マイクロ波/レーダーおよび他のデータ送信)、「マッチング回路適応フィルタ」およびその他である。上記に定義されたとおり、高周波技術用の部品が好ましい。異なる印加電圧によって変調できる部品も好ましい。非常に好ましい部品はチューナブル移相器である。好ましい実施態様において、複数の移相器が機能的に接続され、例えば、一般にフェーズドアレイアンテナと称される位相制御グループアンテナをもたらす。グループアンテナは、マトリックス内に配置された送信または受信エレメントの位相のシフトを使用して、干渉によってバンドル化を達成する。列またはグリッドの形態での移相器の並列配置は、いわゆる「フェーズドアレイ」の構成を可能にし、それは高周波(例えばギガヘルツ領域)用のチューナブルまたはパッシブな送信または受信アンテナとして役立つことができる。本発明によるフェーズドアレイアンテナは非常に広い有用な受信コーンを有する。
【0082】
好ましい用途は、自動車、船舶、航空機、宇宙旅行、および衛星技術の分野からの、有人または無人の乗り物におけるレーダー装置およびデータ送信機器である。
【0083】
高周波技術のために適した部品、特に適した移相器を製造するために、本発明による液晶媒体は典型的には、厚さ1mm未満、幅数ミリメートルおよび長さ数センチメートルを有する角形のキャビティ内に導入される。キャビティは、2つの長辺に沿って搭載された対向電極を有する。そのような配置は当業者によく知られている。可変の電圧の印加を通じて、アンテナの稼働の間、液晶媒体の誘電特性を調節して、アンテナの種々の周波数または方向を設定できる。
【0084】
本願において、高周波技術は、1MHz~10THz、好ましくは1GHz~3THz、より好ましくは2GHz~1THz、特に好ましくは5~300GHzの範囲の周波数を有する用途を意味する。前記用途は好ましくは、マイクロ波のスペクトルまたはメッセージ送信のために適した隣接する領域にあり、そこで、フェーズドアレイモジュールを送信また受信アンテナにおいて使用できる。
【0085】
本発明による液晶媒体は、1つ以上の化合物、好ましくは2~30、より好ましくは3~20および非常に好ましくは3~16の化合物からなる。それらの化合物は従来の方式で混合される。一般に、より少量で使用される所望量の化合物を、より多量に使用される化合物中に溶解させる。温度が、より高い濃度で使用される化合物の透明点を上回る場合、溶解プロセスの完了の観察が特に容易である。しかしながら、他の従来の方法において、例えば化合物の同族体(homologous)または共融混合物であり得る例えばいわゆるプレミックスを使用して、または、その成分がそれ自体すぐに使用できる混合物である、いわゆる「マルチボトル」系を使用して、前記媒体を調製することも可能である。
【0086】
全ての温度、例えば融点T(C,N)またはT(C,S)、スメクチック(S)からネマチック(N)相への転移T(S,N)、および液晶の透明点T(N,I)は全て摂氏度で述べられる。全ての温度の差は、度の差分で述べられる。
【0087】
本願および以下の実施例において、液晶化合物の構造は頭字語によって示され、ここで、化学式への変換は、下記の表AおよびBに従って行われる。Cn2n+1およびCm2m+1の全ての基は、それぞれnおよびm個のC原子を有する直鎖のアルキル基であり、n、mおよびkは整数であり、好ましくは0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12である。表Bにおける符号付けは自明である。表Aにおいては、親構造についての頭辞語のみが示されている。個々の場合において、親構造の頭辞語、ダッシュによる分離、置換基R1*、R2*、L1*およびL2*についての符号が続く:
【表1】
【0088】
適した混合物の成分は、表AおよびB内で見出すことができる。
【0089】
【化11-1】
【0090】
【化11-2】
【0091】
【化12】
【0092】
表Bは、一般に本発明による混合物に添加される可能なキラルドーパントを示す。前記混合物は好ましくは0~10質量%、特に0.001~5質量%、および特に好ましくは0.001~3質量%のキラルドーパントを含む。
【0093】
【化13-1】
【0094】
【化13-2】
【0095】
表C
例えば、0~10質量%の量で本発明による混合物に添加できる安定剤を以下に述べる:
【化14-1】
【0096】
【化14-2】
【0097】
【化14-3】
【0098】
【化14-4】
【0099】
【化14-5】
【0100】
【化14-6】
【0101】
【化14-7】
【0102】
以下の実施例は本発明を説明するが、どのようにも限定することはない。
【0103】
しかしながら、その物理的特性から、どのような特性が達成でき、且つどのような範囲を修正できるのかについては当業者に明らかになる。従って、特に、好ましく達成され得る様々な特性の組み合わせは、当業者にとっては十分に定義される。
【0104】
本願において、特段記載されない限り、複数形の用語は単数形と複数形との両方を示し、その逆もまた然りである。説明に従う本発明の実施態様および変化形のさらなる組み合わせは、特許請求の範囲からももたらされる。
【0105】
略語の一覧
THF テトラヒドロフラン
Xphos 2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル
XPhos Pd G2 クロロ(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-1,1’-ビフェニル)[2-(2’-アミノ-1,1’-ビフェニル)]パラジウム(II)。
【実施例
【0106】
合成例
例1: 3,7-ビス(n-ヘキシ-1-イニル)ジベンゾチオフェン(1)
【化15】
【0107】
3,7-ジブロモジベンゾチオフェン(1.7g、5.0mmol)およびジイソプロピルアミン(27mL)のTHF(25mL)中の溶液を、70℃に加熱し、XPhos Pd G2(3.9mg、0.005mmol)、XPhos(0.006mmol)およびCuI(0.95mg、0.005mmol)を添加し、次いでn-1-ヘキシン(0.94g、11.4mmol)を10分後に添加する。その反応混合物を70℃で終夜攪拌し、ろ過し且つ真空で(i. vac)濃縮する。残留物を、シリカのパッドを通じてろ過し(n-ヘプタン)、フラッシュクロマトグラフィーによって精製する(ヘプタン)。生成物をヘプタンから再結晶化して、ビス(n-ヘキサ-1-イニル)ジベンゾチオフェンを無色の結晶としてもたらす。
【0108】
【表2】
【0109】
相系列: K 52 I。
【0110】
Δε: 2.6
Δn: 0.3220
Clp: 76.3℃
γ: 265mPa s
(全ての値はZLI-4792中10%からの外挿)。
【0111】
例1の合成に類似して得られる:
例2: ビス(n-オクタ-1-イニル)ジベンゾチオフェン
【化16】
【0112】
【表3】
【0113】
相系列: K 30 I。
【0114】
Δε: 1.5
Δn: 0.2756
Clp: 52.3℃
γ1: 316mPa s
(全ての値はZLI-4792中10%からの外挿)。
【0115】
上述の合成に類似して得られる:
例3: 3,7-ビス(n-ヘキサ-1-イニル)ジベンゾフラン(3)
【化17】
【0116】
例4: 3,7-ビス(n-ヘキサ-1-イニル)ジベンゾフラン(4)
【化18】
【0117】
同じ反応条件下で、相応する3-ブロモ-7-ヨードジベンゾフランまたは3-ブロモ-7-ヨードジベンゾチオフェンを、末端アルキンの1つの同族体の第1の半分の等量、続いて末端アルキンの他の同族体の第2の半分の等量を使用することにより段階的に反応させて、以下の化合物をもたらすことができる:
例5: 3-(n-ヘキサ-1-イニル)-7-オクト-1-イニルジベンゾチオフェン(5)
【化19】
【0118】
例6: 3-(n-ヘキサ-1-イニル)-7-オクト-1-イニルジベンゾフラン(5)
【化20】
【0119】
使用例
以下の表に示される組成および特性を有するネマチック液晶媒体N-1を調製する。
【0120】
【表4】
【0121】
混合物の例
混合物の例M-1は上記の液晶ホスト材料N-1および合成例1の化合物1から調製され、90質量%のN-1および10質量%の化合物1からなる。相応して、混合物の例M-2は液晶ホスト材料N-1(90%)および例2(10%)から調製され、混合物の例M-3~M-6は液晶ホスト材料N-1(90%)および例3~6(10%)からそれぞれ調製される。
【0122】
表1: 混合物の例およびN-1(比較)の19GHz(20℃)での特性
【表5】
【0123】
表1のデータから理解されるとおり、本発明による式Iの化合物の使用は、誘電損失(tan δεr,||)の低減およびチューナビリティ(τ)の改善に起因して、媒体N-1の材料品質(η)の改善をもたらす。