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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】潤滑グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 125/00 20060101AFI20230220BHJP
   C10M 163/00 20060101ALI20230220BHJP
   C10M 169/06 20060101ALI20230220BHJP
   C10M 125/24 20060101ALN20230220BHJP
   C10M 125/10 20060101ALN20230220BHJP
   C10M 159/06 20060101ALN20230220BHJP
   C10M 117/04 20060101ALN20230220BHJP
   C10M 117/02 20060101ALN20230220BHJP
   B23B 31/00 20060101ALN20230220BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20230220BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20230220BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20230220BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230220BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20230220BHJP
【FI】
C10M125/00
C10M163/00
C10M169/06
C10M125/24
C10M125/10
C10M159/06
C10M117/04
C10M117/02
B23B31/00 C
C10N40:00 G
C10N50:10
C10N10:02
C10N10:04
C10N10:06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020533763
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 US2018063831
(87)【国際公開番号】W WO2019125757
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】62/608,595
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520210295
【氏名又は名称】ディーディーピー スペシャルティ エレクトロニック マテリアルズ ユーエス 9 リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トバイアス シュラーブ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン クラーネンベルク
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-075036(JP,A)
【文献】特開2003-013083(JP,A)
【文献】特開2013-216810(JP,A)
【文献】特開2006-095612(JP,A)
【文献】特開平05-301107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑グリース組成物であって、
a)15~65重量%の1種以上の固体潤滑剤粉末であって、水和リン酸三カルシウムと、ステアリン酸で処理された炭酸カルシウムとを含む、固体潤滑剤粉末
b)15~84.0重量%の1種以上の基油;
c)0.5~20重量%の1種以上の付着性向上剤;
d)0.5~15重量%の1種以上のワックス;及び
e)0~30重量%の1種以上の増粘剤
を含む潤滑グリース組成物。
【請求項2】
基油(b)は、合成炭化水素油、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)、パラフィン型鉱油、ジエステル、ポリオール-エステル若しくは類似のエステル型合成油;エチレンとα-オレフィンとのコオリゴマー、ポリブテン若しくは類似の合成炭化水素油;アルキレンジフェニルエーテル、ポリアルキレンエーテル若しくは類似のエーテル型合成油;ポリジメチルシリコーン、ポリメチルフェニルシリコーン及びシリコーンベースのコポリマー又はそれらの混合物から選択される、請求項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項3】
前記付着性向上剤(c)は、200~6000の数平均分子量(Mn)を有するポリイソブチレン、又はポリ(メチルメタクリレート)溶解した他のポリマー並びにTPE-A、熱可塑性コポリエステル(TPE-E)、熱可塑性オレフィン(TPE-O)、熱可塑性スチレンブロックコポリマー(TPE-S)、熱可塑性ポリウレタン(TPE-U)及び/又はエラストマーアロイ(TPE-V)の群からの熱可塑性エラストマーブロックコポリマーの1種以上から選択される、請求項1または2に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項4】
前記ワックス(d)は、1種以上の天然ワックス、合成炭化水素ワックス、ポリマーワックス及びそれらの混合物から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項5】
前記ワックス(d)は、蜜蝋を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項6】
最大10重量%の1種以上の添加剤を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項7】
前記添加剤は、1種以上の摩擦調整剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、シール膨潤剤、錆及び腐食防止剤、流動点降下剤、酸化防止剤、フリーラジカル捕捉剤、過酸化水素分解剤、金属不動態化剤、界面活性剤、消泡剤、分散剤、堆積制御添加剤、膜形成添加剤、粘着付与剤、抗菌剤、生分解性潤滑剤のための添加剤、曇り防止剤、発色団、及び滑り抑制剤、並びにそれらの混合物から選択される、請求項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項8】
増粘剤(E)が存在する場合、それは、リチウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、バリウム及びカルシウムの単一及び複合の金属石鹸、ポリウレア、PTFE、シリカ及び/又はベントナイト、並びにそれらの混合物から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項9】
増粘剤(E)は、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムとステアリン酸亜鉛との混合物である、請求項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の物品クランプ装置潤滑グリース。
【請求項11】
装置は、キー付きチャック装置、キーなしチャック、コレット並びに研削ディスク又は鋸刃を駆動スピンドルに取り付けるための締結装置又は機構である、請求項10に記載の物品クランプ装置潤滑グリース。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑グリースを製造する方法であって、
(i)付着促進剤c)、ワックスd)及び存在する場合には増粘剤e)を基油b)に添加し、撹拌し、且つ任意選択的に、均質に混合されるまで加熱するステップと;
(ii)成分a)の前記固体潤滑剤を(i)の組成物に添加し、且つ均質になるまで混合するステップと;
(iii)連続的に撹拌しながら室温まで冷却するステップと;
(iv)ステップ(iii)中、必要に応じて任意選択的な添加剤を添加するステップと;
(v)任意選択的に、適切な仕上げ装置を使用して仕上げ処理するステップと
による方法。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑グリース組成物を含む物品クランプ装置。
【請求項14】
キー付きチャック装置、キーなしチャック、コレット、並びに研削ディスクまたは鋸刃を駆動スピンドルに取り付けるための締結装置又は機構である、請求項13に記載の物品クランプ装置。
【請求項15】
物品クランプ装置の潤滑のための、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑グリースの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑グリース組成物に関し、より具体的には物品クランプ装置と共に使用される場合、優れた潤滑特性を生じさせながら、装置のクランプ機構において金属部品に強く付着されたままであり、且つそれらが接触する切削液などの流体に対する向上した化学的及び物理的耐性を示す潤滑グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
物品クランプ装置は、様々な用途のための当該技術分野で周知である。それらとしては、例として、例えばドリル及びミルにおいて径方向に対称な工具を保持するために使用されるチャック装置(キー付き及びキーなしの両方)のためのもの又は旋盤などにおいて回転するワークピースをクランプするためのものが挙げられる。他のクランプ装置としては、保持される物品の周りにカラーが必要とされる状況で一般的に使用され、通常、先細の外側カラーによって締め付けられる際に物体に強いクランプ力を発揮するコレット装置が挙げられる。本開示の目的のために、物品クランプ装置は、研削ディスク、鋸刃などを駆動スピンドルに取り付けるための締結装置又は機構を含むとみなすこともできる。これらの締結装置としては、従来のナット、トルク増強ナット又は同様の機構を挙げることができる。
【0003】
キーあり及びキーなしのチャック並びにコレットなどのこれらの装置の多くは、作動部材の摺動摩擦接触の原理に基づいて、装置に保持された工具を係合部材に把持させる。したがって、摩擦界面は、操作上不可避であり、予想されるように、そうではないにしても、これが物品クランプ装置の摩耗及び最終的な劣化の主な原因である。当該技術分野では、そのような装置への摩擦の影響を低減して、その機能寿命を延ばすために常に努力がなされている。大きい課題となってきている1つの具体的な問題は、クランプ装置を潤滑できると同時に、それらが一定の間隔で接触する切削液などの流体に対する化学的及び物理的耐性を向上させることができる、例えばグリースなどの適切な潤滑材料を特定できないことである。しかしながら、適切なクランプ力を確保するために、摩擦制御を強化する必要もある。上述したクランプ装置における摺動部品には、従来、潤滑グリースが使用されている。典型的には、基油として鉱油を使用し、増粘剤として1種以上のアルカリ金属石鹸又はアルカリ土類金属石鹸を使用する汎用グリースがそのようなグリースにおいて使用されている。
【0004】
物品クランプ装置のための潤滑グリース組成物は、優れた潤滑特性を生じさせながら、装置のクランプ機構において金属部品に強く付着されたままであり、且つそれらが接触する切削液などの流体に対する向上した化学的及び物理的耐性を示すことが必要とされる。そのような潤滑剤のほとんどは、金属加工用途で使用され、水性切削液にさらされる。
【0005】
疑義を回避するために明記しておくと、切削液は、金属の機械加工及び/又はスタンピングなどのプロセスで使用するために設計されたクーラント及び/又は潤滑剤の一種である。切削液は、油、油-水エマルション、ペースト、ゲルの形態であり得、また例えば石油蒸留物、脂肪、植物油及び/又は水から製造され得る。切削液は、例えば、機械加工中にワークピースを安定した温度に保つために使用され、切削工具の先端部などの有効寿命を延ばすことができる。しかしながら、それらの化学的性質により、特に、これらは、使用されるグリースを洗い流したりグリースと化学的に相互作用したりする場合があるため、物品保持装置の可動部品の潤滑に悪影響を与える可能性がある。
【0006】
切削液に対する耐性は、上述した物品クランプ装置を潤滑するのに適した製品に必要とされる特性として言及されている。このような切削液は、要求の厳しい環境衛生安全(EHS)要件を満たすために近年改良されている。現行の潤滑剤(グリース)は、これらの改良された切削液組成物の多くに対する耐性が限定的であることが判明している。
【0007】
様々な配合の様々な潤滑剤が「チャックグリース」として使用するために市場で入手可能である。しかしながら、これらの製品のほとんどは、一定のクランプ力及び/又は切削液に対する耐性に関して欠点を有しており、実際に危険な成分が含まれているとみなされている。
【0008】
したがって、適切な潤滑グリース組成物は、以下の特性を示す必要がある。
・数サイクルにわたって高い一定な(又はわずかにのみ低下する)レベルのクランプ力
・金属表面への強い付着力及び遠心分離に対する耐性
・金属加工用途で使用される全ての流体(特に切削液)に対する十分な化学的及び物理的耐性。潤滑剤が硬化するか洗い流されると、潤滑が不十分になり、再潤滑の間隔が短くなる。
・使用される切削液の性能は、(チャック)潤滑剤によって悪影響を受けてはならない。
・潤滑剤は、有毒物質、環境毒性物質又は有害物質を含んでいてはならない。
・潤滑剤は、潤滑力及びクランプ力に悪影響を及ぼす腐食を抑制するために、ある程度の防食を有する必要がある。
【0009】
これらの種類の用途に使用される多くの現在入手可能な潤滑剤は、これらの要件の全てを提供することができない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、潤滑グリース組成物であって、
a)15~65重量%の1種以上の固体潤滑剤粉末;
b)15~84重量%の1種以上の基油;
c)0.5~20重量%の1種以上の付着性向上剤;
d)0.5~15重量%の1種以上のワックス;及び
e)0~30重量%の1種以上の増粘剤
を含む潤滑グリース組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載の潤滑グリースは、高レベルの固体潤滑剤を有し、産業界で「ペースト状」と定義されるか、又は「ペースト」若しくは「グリースペースト」と記述される場合があるグリースを包含することが意図されており、これらの名称は、潤滑剤組成物の硬さに大きく寄与する、その中の固形分の寄与を強調するために使用される場合がある。
【0012】
成分a)は、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、炭酸塩、例えば炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム等、フッ化カルシウム、フッ化亜鉛、フッ化マグネシウム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二酸化チタン、リン含有塩、例えばリン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(例えばトリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩又は次亜リン酸塩等、及び上で列挙されていない亜鉛塩の群からの1種以上から選択され得る。
【0013】
リン酸塩の具体例は、PO4 3-により表される対アニオンを有する金属塩である。塩の例は、以下の式:Na3PO4、Ca3(PO42、AlPO4、Zn3(PO42、FePO4、Fe3(PO42、Sn3(PO42、Pb3(PO42などにより表されるが、これらに限定されない。メタリン酸塩の具体例は、限定するものではないが、PO3-、P39 3-、P412 4-により表される対アニオンを有する金属塩又は同様の金属塩である。最も好ましいものは、(NaPO3)n、K339、K2Na2(P412)などである。二リン酸塩(ピロリン酸塩)の具体例は、限定するものではないが、P27 4-により表される対アニオンを有する金属塩である。最も好ましいものは、以下のピロリン酸塩である:Ca227、Pb227、Fe4(P273、Zn227、Sn227等。三リン酸塩(トリポリリン酸塩)の具体例は、限定するものではないが、P310 5-により表される対アニオンを有する金属塩である。最も好ましいものは、以下のトリポリリン酸塩である:Zn5(P310)、Na5310等。亜リン酸塩は、限定するものではないが、PHO2-により表される対アニオンを有する金属塩によって例示することができる。最も好ましいものは、以下の式の亜リン酸塩である:ZnHPO3、PbHPO3等。二亜リン酸塩(ピロホスファイト)は、限定するものではないが、P225 2-により表される対アニオンを有する金属塩によって例示することができる。最も好ましいものは、Na2225である。次亜リン酸塩は、PH22 -により表される対アニオンを有する金属塩によって例示することができる。最も好ましいものは、NaPH22等である。しかしながら、可能な次亜リン酸塩は、これらの化合物に限定されない。潤滑グリース組成物においてより均一に分散させ、潤滑された部品の摩擦係数を下げる有効期間を延ばすために、好ましい固体潤滑剤は、上述した炭酸塩(例えば、炭酸カルシウム)、リン酸塩(例えば、リン酸三カルシウム)及び亜鉛塩である。
【0014】
適切な成分a)の場合、固体潤滑剤は、例えば、ステアリン酸及び/又は脂肪酸の金属塩、例えば脂肪族モノカルボン酸又は脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸の金属塩並びに金属石鹸の製造に使用される動物油又は植物油、例えば種子油に由来する脂肪酸の金属塩を使用して、疎水性になるように水和又は処理され得る。脂肪族モノカルボン酸又は脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸の金属塩、特に8~22個の炭素原子を有する前述した脂肪酸の金属塩が好ましい。以下は、上述した脂肪族モノカルボン酸の金属塩の具体例である:ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸又はリノール酸の金属塩。以下は、ヒドロキシモノカルボン酸の金属塩の具体例である:12-ヒドロキシステアリン酸、14-ヒドロキシステアリン酸、16-ヒドロキシステアリン酸、6-ヒドロキシステアリン酸又は9,10-ヒドロキシステアリン酸の金属塩。前述した脂肪酸の金属塩は、リチウム、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム又はアルミニウムの脂肪酸塩から選択される1つ以上のタイプの金属塩を含み得る。上の任意の適切な混合物、例えば水和リン酸三カルシウム及びステアリン酸で処理された炭酸カルシウムを利用することができる。成分a)は、組成物の15重量%~65重量%、代わりに組成物の20重量%~60重量%、代わりに組成物の30重量%~60重量%の範囲で存在し得る。
【0015】
成分b)は、1種以上の基油である。その例としては、米国石油協会によりグループI、II、III、IV及びVに分類されている1種以上の基油が挙げられる。潤滑基油としては、天然潤滑油、合成潤滑油及びそれらの混合物が挙げられる。グループI~IIIには、石油に基づく油に由来する基油が含まれ、グループIV及びVには、シリコーンを含む合成基油が含まれる。グループI、グループII及びグループIIIに由来する基油の化学組成は、例えば、芳香族、パラフィン系及びナフテン系の比率に関して大きく変動し得る。精製の程度及び潤滑油基油を製造するために使用される原料は、通常、この組成を決定する。グループI、グループII及びグループIIIの潤滑油基油としては、パラフィン系鉱油、芳香族系鉱油及びナフテン系鉱油が挙げられる。
【0016】
グループI、II及びIIIの材料は、硫黄含有率及び粘度指数に基づいて次のグループに分類される。
・グループIの基油は、通常、約80~120の粘度指数を有し、約0.03重量%を超える硫黄及び/又は約90重量%未満の飽和有機成分(以降では「飽和物」という)を含む。
・グループIIの基油は、通常、約80~120の粘度指数を有し、約0.03重量%以下の硫黄及び約90重量%以上の飽和物を含む。
・グループIIIの油は、通常、約120を超える粘度指数を有し、約0.03重量%以下の量の硫黄及び約90重量%を超える飽和物を含む。
【0017】
グループIVの基油は、アルファオレフィンモノマーのオリゴマー化から得られる水素化オリゴマーであるポリアルファオレフィン(PAO)からなる。これらのアルファオレフィンモノマーは、ヘキセン、オクテン又はデセンなどのように約4~約30個、又は約4~約20個、又は約6~約12個の炭素原子を有し得る。オリゴマーは、アルファオレフィンモノマーの二量体、三量体、四量体、五量体、六量体であり得る。
【0018】
グループVの基油には、ポリ内部オレフィン(PIO);ポリアルキレングリコール(PAG);アルキル化ベンゼンなどのアルキル化芳香族化合物(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン及びジ-(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル及びアルキル化ポリフェニル);ジカルボン酸のエステルのような合成エステル(例えば、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル及びセバシン酸ジエイコシル);カルボン酸のエステル、ポリオールエステル(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチルプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトール);リン酸エステル(例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート及びデシルホスホン酸のジエチルエステル);シリコーン、シリコーンベースのコポリマー、ポリイソブチレン(PIB)及びハロゲン化炭化水素などのグループI~IVに含まれない基油が含まれる。
【0019】
他の潤滑油基油としては、植物性脂肪酸、ナタネ油、ヒマシ油及びラード油などの植物起源及び動物起源のものが挙げられる。
【0020】
好ましい基油としては、合成炭化水素油、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール(PAG)、パラフィン型鉱油、ジエステル、ポリオール-エステル又は類似のエステル型合成油;エチレンとα-オレフィンとのコオリゴマー、ポリブテン又は類似の合成炭化水素油;アルキレンジフェニルエーテル、ポリアルキレンエーテル又は類似のエーテル型合成油;ジエステル及びポリオールエステル又は類似のエステル型油;及びポリジメチルシリコーン、ポリメチルフェニルシリコーン又はシリコーンベースのコポリマーを含む同様のシリコーンオイルが挙げられる。これらの基油は、単独で使用され得るか、又は上述したものの混合で使用され得る。1種類以上の基油の動粘度は、40℃で5~2000mm2/sの範囲であることが更に好ましい。基油は、組成物の15重量%~84重量%、代わりに組成物の20~80重量%、代わりに組成物の25重量%~75重量%の量で存在する。
【0021】
成分c)は、200~6000の数平均分子量(Mn)を有するポリイソブチレン又はポリ(メチルメタクリレート)のような油に溶解した他のポリマー並びにTPE-A、熱可塑性コポリエステル(TPE-E)、熱可塑性オレフィン(TPE-O)、熱可塑性スチレンブロックコポリマー(TPE-S)、熱可塑性ポリウレタン(TPE-U)及び/又はエラストマーアロイ(TPE-V)の群からの熱可塑性エラストマーブロックコポリマーなどの1種以上の付着性向上剤である。成分c)は、組成物の0.5~20重量%、代わりに組成物の1~15重量%の量で存在する。
【0022】
成分d)は、摩擦を調整し、疎水性を高めるために供給される1種以上のワックスを含み、例としては、蜜蝋などの天然ワックス、合成炭化水素ワックス及びポリマーワックス並びにそれらの混合物が挙げられる。ワックスは、組成物の0.5~15重量%、代わりに組成物の0.5~10重量%、代わりに組成物の1重量%~8重量%の量で組成物中に存在する。
【0023】
成分e)は、基油を保持し、切削液などの流体に対する耐性を高めるために組成物を安定させる増粘剤である。これらには、リチウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、バリウム及びカルシウムの単一及び複合の金属石鹸並びに非石鹸有機(ポリマー、ポリウレア、PTFE)及び無機(シリカ、ベントナイト)材料及びそれらの混合物、例えば12-ヒドロキシステアリン酸リチウム及びステアリン酸亜鉛が含まれ得る。成分e)は、組成物の0~30重量%、代わりに組成物の1.5~15重量%、代わりに組成物の1.5重量%~10重量%、代わりに組成物の1.5重量%~8重量%の範囲で組成物中に存在し得る。
【0024】
上述したものには、一緒に及び任意選択的に以下で述べる添加剤を用いて供給される各成分の代替範囲の任意の組み合わせが含まれ、組成物の総重量%は、100重量%である。
【0025】
必要に応じて、前述した潤滑グリース組成物は、1種以上の従来使用されている添加剤を含み得る。そのような添加剤としては、摩擦調整剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、シール膨潤剤、錆及び腐食防止剤、流動点降下剤、酸化防止剤、フリーラジカル捕捉剤、過酸化水素分解剤、金属不動態化剤、界面活性剤、例えば洗剤、乳化剤、解乳化剤等、消泡剤、分散剤、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0026】
追加の添加剤としては、堆積制御添加剤、染料、膜形成添加剤、粘着付与剤、抗菌剤、生分解性潤滑剤のための添加剤、曇り防止剤、発色団及び滑り抑制剤が挙げられる。
【0027】
摩擦調整剤の例としては、長鎖脂肪酸及びそれらの誘導体、モリブデン化合物、脂肪族アミン又はエトキシル化脂肪族アミン、エーテルアミン、アルコキシル化エーテルアミン、アシル化アミン、三級アミン、脂肪族脂肪酸アミド、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、ポリオールエステル、脂肪族カルボン酸エステル-アミド、イミダゾリン、脂肪族ホスホネート、脂肪族ホスフェート、脂肪族チオホスホネート、脂肪族チオホスフェートが挙げられる。
【0028】
耐摩耗添加剤及び極圧添加剤の例としては、アルキルポリスルフィドなどの有機ポリスルフィド;リン酸トリヒドロカルビル、リン酸水素ジブチル、硫化リン酸水素ジブチルのアミン塩、ジチオリン酸エステルなどのリン酸エステル;ジチオカルバメート、リン酸ジヒドロカルビル;硫化イソブチレンなどの硫化オレフィン;及び硫化脂肪酸エステルのような有機硫黄化合物及び有機リン化合物が挙げられる。
【0029】
シール膨潤剤の例としては、エステル、アジペート、セバケート、アゼアレート、フタレート、スルホン、例えば(3-アルコキシテトラアルキレンスルホン、置換スルホラン、8~13個の炭素原子の脂肪族アルコール、例えばトリデシルアルコール、アルキルベンゼン、芳香族、ナフタレン除去芳香族化合物、鉱油が挙げられる。
【0030】
錆及び腐食防止剤の例としては、オクタン酸、デカン酸及びドデカン酸などのモノカルボン酸;トール油脂肪酸、オレイン酸、リノール酸由来の二量体及び三量体酸などのポリカルボン酸;チアゾール;ベンゾトリアゾール、デシルトリアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールなどのトリアゾール;2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾールなどのチアジアゾール;金属ジチオリン酸塩;エーテルアミン;酸性リン酸塩;アミン;エトキシル化アミンなどのポリエトキシル化化合物;エトキシル化フェノール;エトキシル化アルコール;イミダゾリン;アミノコハク酸及びアミノコハク酸のエステルが挙げられる。
【0031】
流動点降下剤の例としては、ワックス-アルキル化ナフタレン及びフェノール、ポリメタクリレート、スチレン-エステルコポリマーが挙げられる。
【0032】
酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、三級ブチル化フェノール、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤;混合メチレン架橋ポリアルキルフェノール;芳香族アミン酸化防止剤;硫化フェノール系酸化防止剤;有機亜リン酸塩;p-,p’-ジオクチルジフェニルアミン、N,N’-ジ-sec-ブチルフェニレンジアミン、4-イソプロピルアミノジフェニルアミン、フェニルアルファナフチルアミン、環アルキル化ジフェニルアミンなどのアミン誘導体;ビスフェノール;ケイ皮酸誘導体が挙げられる。
【0033】
フリーラジカル捕捉剤の例としては、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート、ヒンダードフェノール及びアルキル化アリールアミンが挙げられる。
【0034】
ヒドロペルオキシド分解剤の例としては、有機硫黄化合物及び有機リン化合物が挙げられる。
【0035】
金属不動態化剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びサリチルアルドキシムなどの多官能性(多座)化合物が挙げられる。
【0036】
洗剤、分散剤、乳化剤、解乳化剤などの界面活性剤の例としては、スルホン酸マグネシウム、スルホン酸亜鉛、マグネシウムフェネート、亜鉛フェネート、スルホン酸リチウム、カルボン酸リチウム、サリチル酸リチウム、リチウムフェネート、硫化リチウムフェネート、スルホン酸マグネシウム、カルボン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、マグネシウムフェネート、硫化マグネシウムフェネート、スルホン酸カリウム、カルボン酸カリウム、サリチル酸カリウム、カリウムフェネート、硫化カリウムフェネートなどの有機酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩;アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸、ポリアミン、多価アルコール由来のポリイソブチレン誘導体などの一般的な酸が挙げられる。
【0037】
消泡剤の例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレート及びスチレンエステルポリマーが挙げられる。
【0038】
分散剤の例としては、アルケニルコハク酸イミド、例えばポリイソブチレンコハク酸イミド、N-置換ポリイソブテニルコハク酸イミド、例えばポリイソブテニルコハク酸イミド-ポリエチレンポリアミン、コハク酸塩、コハク酸エステル、アルキルメタクリレート-ビニルピロリジノンコポリマー、アルキルメタクリレート-ジアルキルアミノエチルメタクリレートコポリマー、アルキルメタクリレート-ポリエチレングリコールメタクリレートコポリマー、ポリステアラミド、高分子量アミン、リン酸誘導体、例えばビス-ヒドロキシプロピルホスホレートが挙げられる。
【0039】
いくつかの添加剤は、複数の特性を有する場合があり、様々な効果のために供給される場合がある。例えば、グラファイトと二硫化モリブデンとの両方が摩擦調整剤及び極圧添加剤として使用され得るか、又は増粘するためだけでなく、極圧及び耐摩耗性能も有するグリースを供給するために官能化された石鹸が使用され得る。この手法は、当業者に周知であり、本明細書で詳細に説明する必要はない。
【0040】
添加剤は、単独で使用されるか又は他の添加剤と組み合わせて使用され得る。
【0041】
本発明の潤滑剤組成物中に存在する場合、単一又は複数の添加剤は、潤滑グリース組成物の総重量を基準として0~10重量%、代わりに0.1~5重量%のレベルで使用することができる。
【0042】
したがって、潤滑グリース組成物は、
a)組成物の15~65重量%、代わりに20~60重量%、代わりに組成物の30重量%~60重量%の1種以上の固体潤滑剤粉末;
b)組成物の15~84重量%、代わりに20~80重量%、代わりに組成物の25重量%~75重量%の1種以上の基油;
c)組成物の0.5~20重量%、代わりに組成物の1~15重量%の1種以上の付着性向上剤;
d)組成物の0.5~15重量%、代わりに0.5~10重量%、代わりに組成物の1~8重量%の1種以上のワックス;
e)組成物の0~30重量%、代わりに組成物の1.5~15重量%、代わりに組成物の1.5~10重量%の1種以上の増粘剤;及び組成物の0~10重量%の潤滑剤
の任意の組み合わせを含み、組成物の合計の重量%は、100%である。
【0043】
上述した潤滑グリース組成物は、同じ目的のための市販の材料よりも長期間、装置のクランプ機構において金属部品に強く付着されたままでありながら、物品クランプ装置に優れた潤滑特性を生じさせる。組成物は、切削液など、それらが接触する流体に対する化学的及び物理的耐性を向上させる。組成物は、金属部品の摩擦係数を作業可能な範囲内に維持できると同時に、クランプされている物体又はクランプされる物体に適切なクランプ力を加える能力も保持する。摩擦係数がゼロである場合、クランプされる又はクランプされている物品にクランプ力を効果的に加えることができないため、摩擦係数が十分にゼロより大きい必要があるが、同様に、クランプ部品の摩耗を引き起こす可能性のためクランプ力が大きすぎることも防止する必要があることが理解されるであろう。結果として、前述した組成物で潤滑された物品クランプ装置では、過酷な条件下で使用される場合でも、物品クランプ装置を再潤滑する必要が生じる前の潤滑部品の耐久時間が長くなる。
【0044】
上述した潤滑グリースは、任意の適切な方法で製造することができ、例えば、成分a)~e)を任意の適切な順序で混合し、存在する場合には調製の適切な時点で任意選択的な添加剤を導入することによって調製することができる。ある適切な方法では、潤滑グリース組成物は、付着促進剤c)、ワックスd)及び増粘剤e)を基油b)に添加することにより調製することができる。成分b)~e)を撹拌し、且つ必要に応じて、前記成分b)~e)が均質に混合されるまで加熱する。その後、成分a)である固体潤滑剤を組成物に添加し、均質になるまで混合する。得られた均質な混合物を連続的に撹拌しながら室温まで放冷する。必要に応じて、プロセス中の任意の時点において、任意選択的な添加剤が例えばこの冷却工程中に組成物に添加され得る。得られた均質なグリースは、必要に応じて、3本ロールミル又は他の適切な仕上げ装置を使用して仕上げ処理され得る。
【0045】
本発明の潤滑グリース組成物は、例として、例えばドリル及びミルにおいて径方向に対称な工具を保持するために使用されるチャック装置(キー付き及びキーなしの両方)などの物品クランプ装置の可動部品の表面に潤滑膜を形成する。他のクランプ装置としては、物品の周りにカラーが保持される状況で一般的に使用され、通常、先細の外側カラーによって締め付けられる際に物体に強いクランプ力を発揮するコレット装置が挙げられる。他の物品クランプ装置としては、研削ディスク、鋸刃などを駆動スピンドルに取り付けるための締結装置又は機構(従来のナット、トルク増強ナット又は同様の機構を挙げることができる)及び旋盤などで回転ワークピースをクランプするためのシステムが挙げられる。
【0046】
上述した潤滑グリースは、特に前述した切削液に対するそれらの耐性のため、潤滑剤を交換する必要が生じる前のクランプ装置の機能寿命を改善する。実際、本明細書で提供される潤滑グリースは、以下の望ましい特性を満たすと考えられる。
(i)クランプ力の維持
本明細書に記載の潤滑グリースは、切削液の有無に関係なく、使用される際、物品クランプ装置(チャック)に塗布された後、装置(チャック)のクランプ力を所定の範囲内に長期間及び多数の装置の締め付け及び解除にわたって維持することができること、すなわちクランプ力が、物品を設計できるようにするための、又はタスクを完了するために使用するための多数の物品の把持及びクランプに十分であり、潤滑グリースは、摩耗が開始する程度には切削液の影響によって除去されないことが予期しなかったことに判明した。装置は、同じ目的のために先行技術の市販のグリースを使用して以前に可能であったよりもはるかに多くの数の締め付け及び解除後にグリースを塗り直される。
(ii)金属表面への強い付着性及び遠心分離に対する耐性。上の(i)により、本明細書に記載の潤滑グリースは、クランプ装置の潤滑部分に強く付着し、例えば切削液との相互作用により又は遠心力により(クランプされた物品が特に高速で回転される場合)、容易に除去されないことが理解されるであろう。
(iii)金属加工用途で使用される全ての流体(特に水及び切削液)に対する十分な化学的及び物理的耐性。
【0047】
上の(i)及び(ii)から、直接的な結果として、前述した潤滑グリースが例えば切削液に対して十分な化学的及び物理的耐性を有さなければならず、さもなければ切削液との化学的及び物理的相互作用のため、グリースが除去されることになることが分かる。これが当てはまらない場合、クランプ装置(チャック)をはるかにより定期的に再潤滑する必要が生じるであろう。これは、下の表3に示されているDIN51807pt.1”の修正バージョンに基づく切削液耐性試験の結果から以下で支持される。
【実施例
【0048】
実施例及び比較例を参照しつつ本発明を詳細に説明する。しかしながら、本発明は、前述した実施例によって限定されないことが理解される。
【0049】
前述のグリースの組成物は、表1の配合に従って調製した。
【0050】
【表1】
【0051】
組成物の成分から、本明細書に記載の潤滑グリースは、有毒物質、環境毒性物質又は有害物質を含んでいないことが分かる。
【0052】
次に、サンプルを2つの市販製品と比較して、クランプ力の低下を決定した。試験するサンプル/比較対象を潤滑剤としてSchunk Rota S plus 2.0手動旋盤チャックに塗り、チャックの静的クランプ力を測定した。チャックの側面に取り付けられているネジを使用してチャックのクランプ機構を動かした。ネジは、80Nmのトルクが得られるまで、10回転毎分(rpm又は10 1/minと表される場合もある)の速度でネジ(及び結果としてチャック)を締めるようにプログラムされた社内設計のアダプターに取り付けた。80Nmのトルクしきい値に達した後、そのトルクでネジを5秒間維持し、その後、締め付け工程を逆にして同じ速度(10rpm)でチャックを緩め、サイクルを完了した。このプロセスを100回繰り返し、このプロセスに続いて使用した各潤滑グリースに関する結果を以下の表2に示した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2から、前述した実施例は、全て比較として使用された現在入手可能な市販の製品よりもクランプ力の低下が大幅に小さいことが分かる。これは、前述した潤滑グリースが、チャックの金属部品中/上に保持される非常に優れた内部潤滑を付与し、結果として市販の製品と比較してクランプ力がより長く維持され、その結果、部品の再潤滑が必要とされる前により長い連続時間にわたって使用者がチャックを使用できるためであると考えられる。
【0055】
本発明の組成物は、参照製品と比較して高いレベルで比較的一定のクランプ力を示す。
【0056】
表1に記載の成分から調製され、表2に示される特性を有するグリースの物理的特性を、グリースにとって重要ないくつかの標準特性に関して詳細に評価した。結果を下の表3に示す。
【0057】
グリースちょう度を決定するために、不混和ちょう度及び混和ちょう度を評価した。この用途に最適なグリースのちょう度範囲は、用途に最適な硬さを有することが確認されている265mm/10~340mm/10である。これは、得られた組成物がグリースガンを用いた使用に適していながらも、潤滑される金属部品に貼りつくのに十分な「ペースト状」でもあるためである。この範囲外の値も、適切な場合、特定の用途に基づいた使用に適している場合がある。表中の60xの値は、測定前にグリースが60回混和されたことを示す。流動圧力は、例えば、-20℃未満の温度でグリースが十分にポンプ移送性を有するか否かを決定するために測定される。この場合、1400mbar未満の流動圧力は、通常、そのような低い温度で適切なレベルのポンプ移送性を有するはずであるという意味を有すると解釈される。
【0058】
滴点は、本明細書に記載の潤滑グリース組成物の熱安定性の指標として使用することができる。この値は、クランプ装置の作動温度を大幅に超える必要がある。チャック及びコレットなどのクランプ装置は、特に切削液がクーラントとして作用するため、最大約60℃まで機能すると予想される。
【0059】
切削液は、多くの場合、水系エマルションであることから、耐水性は、これらの用途のためのグリースにとって重要な特徴である。この用途では、DIN51807pt.1で使用される通常の3時間の代わりに、サンプルを完全な24時間の耐水性について試験することにした。切削液耐性は、試験を室温で7日間行ったことを除いて、DIN51807pt.1に基づいて評価した。この試験では、3つの市販の水混和性切削液を使用した。それらは、水中で5重量%~12重量%の様々な濃度で使用したが、以下から分かるように、いずれの場合でも同じ結果がみられた。
【0060】
【表3】
【0061】
上の表3の結果は、ちょう度の結果が許容範囲内であることを示している。流動圧力の結果は、必要とされる1400mbarの値を下回っていることが分かる。全ての実施例での滴点は、クランプ装置の見込まれるおよその作動温度である約60℃を大幅に上回っていることが分かる。耐水性の結果は、サンプルが90℃の水中に保持された後、観察者が視覚的に認識できる変化がなかったことを示している。最後に、室温で7日後、異なる切削液の存在下で同様の結果が決定された。したがって、室温で1週間にわたって様々な市販の切削液中に保管した後も、付着性及び外観に有意な変化は存在しなかった。(切削液耐性試験、実施例を参照されたい)優れた耐水性(耐水性、24時間/90℃、DIN51807pt.1:0-90、実施例を参照されたい)。したがって、前述した潤滑グリース組成物は、物品をクランプするのに適切なレベルのクランプ力を共に提供するようであり、表3は、現在の市販材料の潜在的な問題の組み合わせであった良好な耐水性及び切削液耐性もそれらが有していることを示している。腐食試験は、DIN51802に従って、蒸留水中で1週間後にEMCOR試験リグを使用して行った。結果は、0(最小の腐食~5の最大の腐食)で評価される。