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特許7230035治療を強化するための細胞会合免疫アジュバントならびに同アジュバントを含むキットおよび処方物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】治療を強化するための細胞会合免疫アジュバントならびに同アジュバントを含むキットおよび処方物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20230220BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230220BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20230220BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20230220BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230220BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230220BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
A61K39/39 ZNA
A61K47/34
A61K9/51
A61K31/704
A61P9/00
A61P35/00
A61P37/02
A61P31/00
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020537204
(86)(22)【出願日】2019-01-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-01
(86)【国際出願番号】 US2019012138
(87)【国際公開番号】W WO2019136118
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】62/613,574
(32)【優先日】2018-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】フー、チェ-ミン ジャック
(72)【発明者】
【氏名】チャットパディヤイ、サボーニ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/027874(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0280929(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0135459(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0127253(US,A1)
【文献】特表2005-513081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0236504(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0195963(US,A1)
【文献】Int. J. Pharm. (2013) vol.445, issue1-2, p.171-180
【文献】Cancer Biol. Ther. (2008) vol.7, issue3, p.440-447
【文献】Int. J. Pharm. (2015) vol.495, issue 2, p.972-980
【文献】JETI (2014) vol.62, no,8, p.51-54
【文献】J. Colloid Interface Sci. (Nov 2017) vol.513, p.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/39
A61K 47/34
A61K 9/51
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療キットであって、
細胞と物理的に会合することができる免疫アジュバント処方物と、
細胞からの抗原放出を誘導するための手段と、
を含み、
前記免疫アジュバント処方物は、アジュバントを封入するポリマーナノ粒子を含み、前記ポリマーナノ粒子は、水不透過性のポリマーシェルと、同ポリマーシェルによって封入された1つ以上の水性コアと、を含み、
前記ポリマーシェルは、COOH-末端PLGAから構成され、
前記細胞からの抗原放出を誘導するための手段はアントラサイクリン系薬剤であり、
前記免疫アジュバント処方物は、細胞質パターン認識受容体に対するアゴニストまたはインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)のアゴニストを含み、
前記アゴニストは環状di-GMPまたは環状GAMPである、治療キット。
【請求項2】
治療キットであって、
細胞と物理的に会合することができる免疫アジュバント処方物と、
細胞からの抗原放出を誘導するための手段と、
を含み、
前記免疫アジュバント処方物は、アジュバントを封入するポリマーナノ粒子を含み、前記ポリマーナノ粒子は、水不透過性のポリマーシェルと、同ポリマーシェルによって封入された1つ以上の水性コアと、を含み、
前記細胞からの抗原放出を誘導するための手段は、前記ポリマーナノ粒子に封入され、
前記ポリマーシェルは、COOH-末端PLGAから構成され、
前記細胞からの抗原放出を誘導するための手段はアントラサイクリン系薬剤であり、
前記免疫アジュバント処方物は、細胞質パターン認識受容体に対するアゴニストまたはインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)のアゴニストを含み、
前記アゴニストは環状di-GMPまたは環状GAMPである、治療キット。
【請求項3】
前記ポリマーシェルは、25nm未満の厚さを有し、前記ポリマーナノ粒子は、30~600nmの外径を有する、請求項1または請求項2に記載の治療キット。
【請求項4】
前記免疫アジュバント処方物は、MPLA、CpG、ポリ(I:C)、または環状ジヌクレオチドの変異体を含む、請求項1または請求項2に記載の治療キット。
【請求項5】
前記免疫アジュバント処方物は、細胞表面上の部分を認識してそれに結合するために、小分子、ペプチド、抗体、アプタマー、糖部分、ポリマーまたはそれらの組み合わせにコンジュゲートされたアジュバントを含む、請求項1または請求項2に記載の治療キット。
【請求項6】
前記抗体は、免疫グロブリン分子、Fv、ジスルフィド結合Fv、モノクローナル抗体、scFv、キメラ抗体、単一ドメイン抗体、CDR移植抗体、ダイボディ、ヒト化抗体、多特異的抗体、Fab、二重特異的抗体、Fab’フラグメント、二重特異的抗体、F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント、VHドメインとCH1ドメインとからなるFdフラグメント;抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、dAbフラグメント、単離された相補性決定領域(CDR)、または単鎖抗体、である、請求項に記載の治療キット。
【請求項7】
前記免疫アジュバント処方物は、細胞膜に繋留することができる分子にコンジュゲートされている、請求項1または請求項2に記載の治療キット。
【請求項8】
前記分子が親油性分子または両親媒性分子である、請求項に記載の治療キット。
【請求項9】
前記親油性分子は、脂肪酸鎖、コレステロール、またはリン脂質を含む、請求項に記載の治療キット。
【請求項10】
前記両親媒性分子が脂質-PEGコンジュゲートを含む、請求項に記載の治療キット。
【請求項11】
前記免疫アジュバント処方物は、細胞内送達のためにナノ粒子または細胞透過性ペプチドとコンジュゲートされたアジュバントを含む、請求項1または請求項2に記載の治療キット。
【請求項12】
細胞透過性ペプチドは、HIV-1 TATペプチド(GRKKRRQRRRPPQ)、ペネトラチン(RQIKIWFQNRRMKWKK)、ポリアルギニン(Rn)、またはトランスポータン(GWTLNSAGYLLGINLKALAALAKKIL)を含む、請求項11に記載の治療キット。
【請求項13】
前記免疫アジュバント処方物および前記細胞からの抗原放出を誘導するための手段が単回用量で処方化される、請求項1または請求項2に記載の治療キット。
【請求項14】
前記免疫アジュバント処方物および前記細胞からの抗原放出を誘導するための手段は疾患の治療を必要とする対象に投与されるものである、請求項1に記載の治療キット。
【請求項15】
前記抗原放出を誘導するための手段は、前記免疫アジュバント処方物の投与前または投与後に、前記対象に投与されるものである、請求項14に記載の治療キット。
【請求項16】
前記抗原放出を誘導するための手段は、前記免疫アジュバント処方物と同時に、前記対象に投与されるものである、請求項14に記載の治療キット。
【請求項17】
前記免疫アジュバント処方物および前記細胞からの抗原放出を誘導するための手段は、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内、嚢内、軟骨内、腔内、皮内、小脳内、脳室内、結腸内、子宮頸管内、胃内、肝臓内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、滑膜内、胸腔内、子宮内、膀胱内、ボーラス、膣、直腸、頬、舌下、経鼻、および経皮、からなる群より選択される少なくとも1つの様式によって前記対象に投与される、請求項1416のいずれか一項に記載の治療キット。
【請求項18】
前記疾患が心血管疾患、癌、自己免疫疾患、または感染症である、請求項1417のいずれか一項に記載の治療キット。
【請求項19】
前記アントラサイクリン系薬剤はダウノルビシンである、請求項1または請求項2に記載の治療キット。
【請求項20】
疾患を治療するための免疫アジュバント処方物であって、
疫アジュバント処方物は細胞と物理的に会合することができ、
前記免疫アジュバント処方物は、アジュバントを封入するポリマーナノ粒子を含み、前記ポリマーナノ粒子は、水不透過性のポリマーシェルと、同ポリマーシェルによって封入された1つ以上の水性コアと、を含み、
前記免疫アジュバント処方物は、細胞からの抗原放出を誘導するための手段をさらに含み、
前記ポリマーシェルは、COOH-末端PLGAから構成され、
前記細胞からの抗原放出を誘導するための手段はアントラサイクリン系薬剤であり、
前記免疫アジュバント処方物は、細胞質パターン認識受容体に対するアゴニストまたはインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)のアゴニストを含み、
前記アゴニストは環状di-GMPまたは環状GAMPである、免疫アジュバント処方物。
【請求項21】
前記細胞からの抗原放出を誘導するための手段は、前記ポリマーナノ粒子に封入されている、請求項20に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項22】
前記免疫アジュバント処方物は、MPLA、CpG、ポリ(I:C)、または環状ジヌクレオチドの変異体を含む、請求項20に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項23】
前記免疫アジュバント処方物は、細胞表面上の部分を認識してそれに結合するために、小分子、ペプチド、抗体、アプタマー、糖部分、ポリマーまたはそれらの組み合わせにコンジュゲートされたアジュバントを含む、請求項20に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項24】
前記抗体は、免疫グロブリン分子、Fv、ジスルフィド結合Fv、モノクローナル抗体、scFv、キメラ抗体、単一ドメイン抗体、CDR移植抗体、ダイボディ、ヒト化抗体、多特異的抗体、Fab、二重特異的抗体、Fab’フラグメント、二重特異的抗体、F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント、VHドメインとCH1ドメインとからなるFdフラグメント;抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、dAbフラグメント、単離された相補性決定領域(CDR)、または単鎖抗体、である、請求項23に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項25】
前記免疫アジュバント処方物は、細胞膜に繋留することができる分子にコンジュゲートされている、請求項20に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項26】
前記分子が親油性分子または両親媒性分子である、請求項25に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項27】
前記親油性分子は、脂肪酸鎖、コレステロール、またはリン脂質を含む、請求項26に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項28】
前記両親媒性分子が脂質-PEGコンジュゲートを含む、請求項26に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項29】
前記免疫アジュバント処方物は、細胞内送達のためにナノ粒子または細胞透過性ペプチドとコンジュゲートされたアジュバントを含む、請求項20に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項30】
前記細胞透過性ペプチドは、HIV-1 TATペプチド(GRKKRRQRRRPPQ)、ペネトラチン(RQIKIWFQNRRMKWKK)、ポリアルギニン(Rn)、またはトランスポータン(GWTLNSAGYLLGINLKALAALAKKIL)を含む、請求項29に記載の免疫アジュバント処方物。
【請求項31】
前記アントラサイクリン系薬剤はダウノルビシンである、請求項20に記載の免疫アジュバント処方物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、治療キットおよび治療キットを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原標的に対する効果的な免疫増強は、抗原と免疫刺激シグナルとの協調的な提示に左右される。病原体認識受容体のアゴニストを介した自然免疫シグナルの活性化は、特定のサイトカイン環境の分泌を誘発し、それが次に抗原標的に対する適応免疫を形成する。ワクチン抗原は、免疫増強を強化するために免疫アジュバントと共に製剤化されることが多いため、このメカニズムは、ワクチン設計でしばしば利用される。一旦免疫系が外来抗原に対して予備刺激を受けると、適応免疫細胞は同じ抗原の記憶を保持しながら、同様に疑わしい細胞を認識して排除するように働き、感染の再発に対してより迅速かつ強力な攻撃をすることができる[1]。
【0003】
細胞傷害性Tリンパ球のような免疫細胞はこれらの細胞標的の根絶を促進することができるので、悪性細胞、すなわちがんとの戦いにおいて適応免疫の役割がますます認識されている。腫瘍細胞は、腫瘍関連抗原を頻繁に発現し、同抗原はワクチン開発の標的としての機能を果たす。最近の研究では、腫瘍関連抗原を免疫アジュバントと処方化することにより、得られたワクチン製剤が腫瘍特異的免疫を増強し、より優れたがん治療の結果を促進できることが示されている[2]。これらのがんワクチン製剤は、特異的ペプチド配列の同定のために腫瘍試料のゲノム分析を必要とし、次いで、ワクチン開発のために合成することができる。
【0004】
あるいは、全細胞ベースの腫瘍ワクチンは、患者のがん細胞サンプルを抽出することによって、または同種異系のがん細胞を使用することによっても開発されてきた。これらのアプローチにおいて、腫瘍細胞由来の派生物は、投与前に外因的にアジュバントと共に処方される。次に、アジュバント混合物は、腫瘍細胞由来の派生物において腫瘍関連抗原の免疫原性を増加させることができる。一例では、死んだがん細胞をアジュバントナノ粒子でエクスビボで機能化し、皮下腫瘍に対してワクチン接種した[3]。プラットフォーム自体の効率は30%であり、それは、免疫チェックポイント遮断薬療法と併用すると78%まで高めることができる。別の例では、同種異系性がん細胞を、ワクチン製剤として、エクスビボでSTINGアゴニストと共に製剤化した。STING-WAXとして知られているこの製剤は、動物モデルに投与すると抗腫瘍免疫を誘発することができた。
【0005】
内因性免疫刺激分子の誘導もまた、がん治療の成功の背後にある重要な要素として同定されている。いくつかのタイプの化学療法、放射線および腫瘍溶解性ウイルスを含むいくつかのがん治療は、がん細胞に細胞ストレスを誘発し、免疫原性細胞死(ICD)を引き起こすことが示されている。このタイプの細胞死は、死に向かっている細胞由来のペプチド、タンパク質、または核酸の組み合わせで構成される危険関連分子パターン(DAMP)の内因性放出に関連している[5]。死に向かっている細胞からの抗原性物質とともに、これらの内因性の危険シグナルは、抗原特異的な適応免疫を促進する。多くの証拠から、共表示抗原と免疫刺激分子のこの先天的なメカニズムが、大量の新生物に冒された患者の疾患進行を抑制するのに重要であることが示唆されている[6]。したがって、このようなメカニズムは、がん細胞の死後に放出された腫瘍抗原に対する免疫応答をさらに増幅し得る外因性アジュバントの助けを借りて増強され得ると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願では、細胞と関連付けることができる(associated with cells)免疫アジュバントを開発し、治療中に細胞から放出された抗原の免疫原性を増強するためのその使用を実証する。図1に示すように、外因性免疫アジュバントを、例えば細胞内在化(cellular internationalization)、膜会合(membrane association)、または表面リガンド結合の手段を介して、がん細胞と会合し得る機能性と関連付けることによって、同アジュバントは、免疫増強のために細胞標的を標識することができる。したがって、細胞破片(cellular debris)、小胞、抗原の放出を誘導するその後の治療は、治療自体が内因性の危険シグナルを誘発するかどうかにかかわらず、免疫応答を誘発する。したがって、本出願は、免疫アジュバントの機能化および機能化されたアジュバントに関連する治療法(treatment modalities)の両方に関する。請求項の発明は、がん以外の任意の病原性細胞に適用することができる。具体的には、免疫アジュバントは、細胞内手段(細胞内在化)または細胞外手段(膜繋留(membrane-tethering)または表面リガンド結合)のいずれかを介して、悪性細胞と会合するように設計される。次に、機能化されたアジュバントで処理された悪性細胞は、細胞破片、小胞(vesicles)、および抗原を放出するように誘導される。抗原放出の誘導は、当技術分野で知られている任意の刺激によって誘発され得る。例えば、刺激は少なくとも化学薬剤(chemical agents)、生物薬剤(biological agents)、光、または機械的刺激を含み得る。
【0007】
本発明の範囲において、病原性細胞に対する治療法が提供され、ここでは、罹患した細胞(diseased cells)がまず外因性アジュバントとともに投与される。外因性アジュバントは、次のように細胞と関連付けることができる(be associated with):(1)例えばナノ粒子、エキソソーム、操作された細胞浸透性ペプチドのような所望のアジュバントの細胞内送達を可能にするアジュバント処方物;(2)例えば親油性リンカーを含むアジュバント、両親媒性アジュバントのような、細胞膜に分配することができるアジュバント処方物;および(3)例えば、抗体と結合したアジュバント、アプタマーと結合したアジュバント、アジュバント糖処方物のような細胞表面部分に結合親和性を有し、細胞膜部分と物理的に会合する(physically associating with)ことができるアジュバント処方物。
【0008】
アジュバントが感染した細胞と会合されると、同細胞は、化学療法薬、生物薬剤、放射線照射、光分解剤、機械的破壊などを含むがこれらに限定されない小胞形成性の抗原放出刺激で処理される。このレジメンは、インビボでの外因性アジュバントとの共局在抗原の産生を促進する。原則として、細胞と会合する(cell-associating)免疫原性アジュバントは、病原性細胞の根絶を目的とする既存または新規の治療法を補完するために適用できる。
【0009】
一態様において、本明細書で提供されるのは治療キットであり、同治療キットは、細胞と物理的に会合することができる免疫アジュバント処方物と、細胞からの抗原放出を誘導するための手段と、を含む。
【0010】
別の態様において、本明細書で提供されるのは、疾患を治療する方法であって、同方法は、それを必要とする対象に、細胞と物理的に会合することができる免疫アジュバント処方物を投与することと、それを必要とする対象に細胞からの抗原放出を誘導するための手段を投与することと、を含む。
【0011】
好ましくは、免疫アジュバント処方物は、アジュバントを封入するポリマーナノ粒子を含み得、そしてポリマーナノ粒子は、水不透過性のポリマーシェルと、同ポリマーシェルによって封入された1つ以上の水性コアとをさらに含み得る。
【0012】
好ましくは、ポリマーシェルは、25nm未満の厚さを有し得、そしてポリマーナノ粒子は、30~600nmの外径を有する。
好ましくは、細胞からの抗原放出を誘導するための手段は、ポリマーナノ粒子に封入され得る。
【0013】
好ましくは、免疫アジュバント処方物は、MPLA、CpG、ポリ(I:C)、または環状ジヌクレオチドの変異体を含み得る。
好ましくは、免疫アジュバント処方物は、細胞質パターン認識受容体に対するアゴニストまたはインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)を含み得る。
【0014】
好ましくは、アゴニストは、環状di-GMPまたは環状GAMPであり得る。
好ましくは、免疫アジュバント処方物は、細胞表面上の部分を認識してそれに結合するために、小分子、ペプチド、抗体、アプタマー、糖部分、ポリマーまたはそれらの組み合わせにコンジュゲートされたアジュバントを含み得る。
【0015】
好ましくは、抗体は、免疫グロブリン分子、Fv、ジスルフィド結合Fv、モノクローナル抗体、scFv、キメラ抗体、単一ドメイン抗体、CDR移植抗体、ダイボディ、ヒト化抗体、多特異的抗体、Fab、二重特異的抗体、Fab’フラグメント、二重特異的抗体、F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント、VHドメインとCH1ドメインとからなるFdフラグメント;抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、dAbフラグメント、単離された相補性決定領域(CDR)、または単鎖抗体、であり得る。
【0016】
好ましくは、免疫アジュバント処方物は、細胞膜に繋留する(tethering)ことができる分子にコンジュゲートしたアジュバントを含むことができる。
好ましくは、分子は親油性または両親媒性であり得る。
【0017】
好ましくは、親油性の分子は、脂肪酸鎖、コレステロール、またはリン脂質を含み得る。
好ましくは、両親媒性の分子は脂質-PEGコンジュゲートを含み得る。
【0018】
好ましくは、免疫アジュバント処方物は、細胞内送達のためにナノ粒子または細胞透過性ペプチドと処方化されたアジュバントを含み得る。
好ましくは、細胞透過性ペプチドは、HIV-1 TATペプチド(GRKKRRQRRRPPQ)、ペネトラチン(RQIKIWFQNRRMKWKK)、ポリアルギニン(Rn)、またはトランスポータン(GWTLNSAGYLLGINLKALAALAKKIL)を含み得る。
【0019】
好ましくは、抗原放出を誘導するための手段は、化学薬剤、生物薬剤、放射線照射、光分解剤、機械的破壊、またはそれらの組み合わせを含み得る。
好ましくは、化学薬剤は細胞毒性剤を含み得る。
【0020】
好ましくは、細胞毒性剤は、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、メルタンシン(DM1)、アントラサイクリン、ピロロベンゾジアゼピン、α-アマニチン、ツブリジン、ベンゾジアゼピン、エルロチニブ、ボルテゾミブ、フルベストラント、スニチニブ、レトロゾール、メシル酸イマチニブ、PTK787/ZK222584、オキサリプラチン、ロイコボリン、ラパマイシン、ラパチニブ、ロナファルニブ(SARASAE(登録商標)、SCH66336)、ソラフェニブ、ゲフィチニブ、AG1478、AG1571、アルキル化剤;アルキルスルホン酸塩;アジリジン;エチレンイミン;メチルアメラミン;アセトゲニン;カンプトテシン;ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065;クリプトフィシン;ドラスタチン;デュオカルマイシン;エレウテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン;スポンジスタチン;クロラムブシル;クロルナファジン;クロロフォスファミド(cholophosphamide);エストラムスチン;イホスファミド;メクロレタミン;メクロレタミンオキサイド塩酸塩;メルファラン;ノベンビチン;フェネステリン;プレドニムスチン;トロフォスファミド;ウラシルマスタード;カルムスチン;クロロゾトシン;ホテムスチン;ロムスチン;ニムスチン;ラニムスチン;カリケアミシン;ダイネマイシン;クロドロネート;エスペラマイシン;ネオカルジノスタチン発色団;アクラシノマイシン;アクチノマイシン;オートラマイシン;アザセリン;ブレオマイシン;カクチノマイシン;カラビシン;カミノマイシン;カルジノフィリン;クロモマイシン;ダクチノマイシン;ダウノルビシン;デトルビシン;6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン;ドキソルビシン;エピルビシン;エソルビシン;イダルビシン;マルセロマイシン;マイトマイシン;ミコフェノール酸;ノガラマイシン;オリボマイシン;ペプロマイシン;ポピロマイシン;ピューロマイシン;クエラマイシン;ロドルビシン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メトトレキサート;5-フルオロウラシル(5-FU);デノプテリン;プテロプテリン;トリメトレキセート;フルダラビン;6-メルカプトプリン;チアミプリン;チオグアニン;アンシタビン;アザシチジン;6-アザウリジン;カーモーファー;シタラビン;ジデオキシウリジン;ドキシフルリジン;エノシタビン;フロクスウリジン;カルステロン;プロピオン酸ドロモスタノロン;エピチオスタノール;メピチオスタン;テストラクトン;アミノグルテチミド;ミトタン;トリロスタン;フロリン酸;アセグラトン;アルドホスファミド配糖体;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アンサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラクセート;デホファミン;デメコルシン;ジアジコン;エルホルミジン;酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシッド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシン;アンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール;ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド;シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド;パクリタキセル;ドセタキセル;クロランブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン;カルボプラチン;ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド;イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エデトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼロダ;イバンドロン酸;トポイソメラーゼ阻害剤;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド;カペシタビン;またはその組み合わせ、を含み得る。
【0021】
好ましくは、光分解剤は、フォトフリン、レーザーフィリン、アミノレブリン酸(ALA)、シリコンフタロシアニンPc 4、m-テトラヒドロキシフェニルクロリン(mTHPC)、クロリンe6(Ce6)、アルメラ、レブラン、フォスキャン、メトビクス、ヘクスビックス、フォトクロル、フォトセンス、フォトレックス、ルマカン、ビソナック、アンフィネックス、ベルテポルフィン、プリチン、ATMPn、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)、プロトポルフィリンIX(PpIX)、ピロフェオホルビデア(PPa)、フェオホルビド a(PhA)、またはこれらの組み合わせ、を含み得る。
【0022】
好ましくは、方法は、ポリマーナノ粒子にアジュバントを封入することをさらに含み得る。ポリマーナノ粒子は、水不透過性のポリマーシェルと、ポリマーシェルによって囲まれた1つ以上の水性コアとを含むことができる。
【0023】
好ましくは、抗原放出を誘導するための手段は、免疫アジュバント処方物の投与の前または投与の後に、必要とする対象に投与され得る。
好ましくは、抗原放出を誘導するための手段は、免疫アジュバント処方物の投与と同時に、必要とする対象に投与され得る。
【0024】
好ましくは、方法は、免疫アジュバント処方物に細胞からの抗原放出を誘導するための手段を封入することをさらに含み得る。
好ましくは、方法は、細胞表面上の部分を認識してそれに結合するために、アジュバントを、小分子、ペプチド、抗体、アプタマー、糖部分、ポリマーまたはそれらの組み合わせとコンジュゲートして免疫アジュバント処方物を形成することを、さらに含み得る。
【0025】
好ましくは、方法はさらに、細胞膜に繋留することができる分子とアジュバントとをコンジュゲートすることを、さらに含み得る。
好ましくは、方法は、細胞内送達のためにナノ粒子または細胞透過性ペプチドとともにアジュバントを処方化することを、さらに含み得る。
【0026】
好ましくは、対象に投与するステップは、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内(intraabdominal)、嚢内(intracapsular)、軟骨内、腔内(intracavitary)、皮内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、子宮頸管内(intracevical)、胃内、肝臓内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内(intraperitoneal)、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、滑膜内、胸腔内、子宮内、膀胱内、ボーラス、膣、直腸、頬、舌下、経鼻、および経皮、なる群より選択される少なくとも1つの様式によるものであり得る。
【0027】
好ましくは、疾患は、心血管疾患、がん、自己免疫疾患、または感染症であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】病原細胞と会合する(pathogenic cell-associating)免疫アジュバントおよびその後の治療を増強する際のそれらの機能を示す。免疫アジュバントは、細胞内送達、膜繋留、および表面結合などのさまざまな手段を通じて病原細胞と会合するように機能化される。得られた細胞は、その後、アジュバント会合細胞破片の生成を誘導する処理に供され、調整された抗原およびアジュバント輸送を介して適応免疫を促進することができる。
図2】核酸およびタンパク質に対するポリマーナノ粒子の封入化(encapsulation)の効率を示す。A:超遠心分離によるペレット化の後の、空のナノ粒子(左)、色素標識されたDNA負荷(loaded with)ナノ粒子(中央)、および色素標識されたウシ血清アルブミン(右)負荷ナノ粒子の観察。特徴的な色のペレットは、DNAおよびBSAタンパク質の封入化が成功したことを示す。B:cryoEM(低温電子顕微鏡法)で可視化された空のナノ粒子。C:cryoEMで可視化されたDNA負荷ナノ粒子。D:cryoEMで可視化されたBSAタンパク質負荷ナノ粒子。効果的なDNAおよびタンパク質負荷は、ナノ粒子内部の非常に粒状の組織を通して観察できた。
図3】免疫刺激のためのSTINGアゴニストの封入化および制御放出に対するポリマーナノ粒子の効果を示す。A:アジュバントを装填した薄いシェルの中空ナノ粒子の調製。B:ナノ粒子追跡分析によって測定されたナノ粒子のサイズ。C:グラジエントHPLCにより確認された環状-di-GMPの封入化。D:薄いシェルの中空ナノ粒子のcryoEMでの可視化。E:カーゴ放出試験(Cargo release study)は、ナノ粒子のpH感受性誘発放出プロファイルを明らかにした。
図4】全身性サイトカインを最小にしながらリンパ性サイトカインを増強するSTINGアゴニスト負荷ナノ粒子を示す。A:cd-GMPナノ粒子および遊離cd-GMPとのインキュベーション後のマウス樹状細胞株におけるTNF-αの誘導。B:同じマウス樹状細胞株におけるIL-6の誘導。C:マウス樹状細胞株におけるIFN-βの誘導。D:遊離分子形態およびナノ粒子処方物中の等用量のcd-GMPとのインキュベーション時のJAWSIIの活性化。E:遊離cd-GMP又はナノ粒子cd-GMPの足蹠注射(footpad injection)48時間後のリンパ節IFN-βの定量。F:遊離cd-GMPおよびナノ粒子cd-GMPの足蹠注射後の全身TNF-αのレベル。
図5】腫瘍細胞と会合する免疫アジュバント(cGAMP負荷ナノ粒子)に基づく治療法を示す。ナノ粒子の取り込み後、外因性アジュバントを含有する細胞を処理して、死滅細胞破片を生成する。外因性アジュバントを含有する細胞破片は、その後、適応免疫を誘発して治療結果を改善する。
図6】(a)蛍光標識されたcGAMP負荷ナノ粒子のcryoEMでの可視化;(b)共焦点分析;を示し、(c)フローサイトメトリー分析は、cGAMP負荷ナノ粒子による処理後のcGAMPと死滅した細胞および破片との会合を示す。
図7】cGAMPナノ粒子とインキュベートされたHeLa細胞によって生成された細胞破片が、遊離cGAMPとインキュベートされたものよりも免疫原性が高かったことを示す。HeLa細胞と会合するcGAMPナノ粒子(HeLa cell-associating cGAMP nanoparticles)は、CD80(a)、CD86(b)のDCでの発現の増加およびTNF-α(c)およびIFN-β(d)のDCでの分泌の上昇を生じた。
図8】腫瘍およびがん細胞のアジュバント保持を、色素標識STINGアゴニスト(赤色)の、その遊離型(遊離アジュバント)およびナノ粒子形態(アジュバントナノ粒子)での腫瘍内注射にて試験したことを示す。アジュバント投与の24時間後に、腫瘍および抽出したがん細胞を(a)全身イメージング、(b)フローサイトメトリー分析、および(c)蛍光顕微鏡検査によって調べた。試験は、ナノ粒子投与時に腫瘍内およびがん細胞内でのアジュバントの有意な保持を示す。
図9】プラセボ、シスプラチンのみ(CTTPのみ)、cGAMP負荷ナノ粒子のみ(NPのみ)、遊離cGAMPとその後のシスプラチン(cGAMP+CTTP)、およびcGAMP負荷ナノ粒子とその後のシスプラチン(NP+CTTP)を含む、種々のアジュバントおよび化学薬物の組み合わせによる腫瘍処理の有効性を示す。(a)B16-OVAマウスメラノーマ皮下モデルに対する腫瘍移植と処理のレジメン。(b)60日間にわたる全処理群の腫瘍進行。(c)異なる処理群(n=9~11)の生存分析曲線。(c)NP+CTTP群(n=4)からの腫瘍のない生存動物での腫瘍再チャレンジ実験における平均腫瘍体積の比較。腫瘍の成長を、同じ数の腫瘍細胞を接種した未処理対照動物(n=1)と比較した。
図10】抗体-コンジュゲートCpG-ODNの調製を示す。
図11】(A)遊離CpG-FAM(中央)および抗体コンジュゲートCpG-FAM(αCD44-CpG-FAM;右)との3時間のインキュベーションに続くHeLa細胞単層の蛍光顕微鏡観察を示す。抗体-コンジュゲートCpG-FAMによるCpG会合(association)の増強は、より多数の蛍光点で観察された。(B)CpG-FAMでの細胞のフローサイトメトリー分析。(C)CpG-FAMと会合する細胞の定量化。抗CD44コンジュゲート(αCD44)は、遊離CpG-FAM(遊離)よりもHeLa細胞上でより高いCpG-FAM会合を生じた。
図12】遊離CpG(遊離)または抗CD44コンジュゲートCpG(αCD44)で処理されたHeLa細胞破片とのインキュベーションに続くJAWSII細胞による成熟マーカー(A)CD80および(B)CD86の発現を示す。
図13】(A)ナノ粒子封入化(nanoparticle-encapsulated)CpGの略図;(B)ナノ粒子封入化CpGのcryoEM可視化、を示す。
図14】(A)遊離CpG-FAM(中央)およびナノ粒子封入化CpG(CpG-FAM NP;右)との24時間のインキュベーションに続く、HeLa細胞単層の蛍光顕微鏡観察を示す。CpG会合の増強は、より多数の蛍光点で観察された。(B)CpG-FAMでの細胞のフローサイトメトリー分析。(C)CpG-FAMと会合する細胞の定量化。抗CD44コンジュゲート(αCD44)は、遊離CpG-FAM(遊離)よりもHeLa細胞上でより高いCpG-FAM会合を生じた。
図15】遊離CpG(遊離)またはナノ粒子封入化CpG(NP)で処理されたHeLa細胞破片とのインキュベーションに続くJAWSII細胞による成熟マーカー(A)CD80および(B)CD86の発現を示す。
図16】(A)化学療法薬(ダウノルビシン)およびアジュバント(cd-GMP)を共に封入するナノ粒子の略図;(B)ダウノルビシンとcd-GMPを共に封入するナノ粒子のcryoEMでの可視化、を示す。
図17】ダウノルビシンおよびcd-GMPを共に封入するナノ粒子((cdGMP+DR)NP)、遊離cd-GMPおよびダウノルビシンのナノ粒子(cdGMP+DR NP)またはダウノルビシンのナノ粒子のみ(DR NP)で処理されたCT26細胞破片とのインキュベーション後のJAWSII細胞による成熟マーカー(A、B)CD86および(C、D)CD80の発現を示す。
図18】ダウノルビシンおよびcd-GMP((cdGMP+DR)NP)を共に封入するナノ粒子、遊離cd-GMPおよびダウノルビシンのナノ粒子、またはダウノルビシンのナノ粒子のみ(DR NP)で処理したCT26細胞破片とのインキュベーション後のJAWSII細胞によるIFN-βの分泌を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示の前述のおよび他の態様は、以下において、本明細書で説明される他の実施形態に関してより詳細に説明される。本発明は異なる形態で具体化することができ、本明細書に記載された実施形態に限定されると解釈されるべきではないことを理解されたい。むしろ、これらの実施形態は、この開示が徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。
【0030】
本明細書において本発明の説明で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数形も含むことを意図する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(have)」、「有する(having)」、「含有する(contains)」、「含有する(containing)」、「によって特徴付けられる(characterized by)」、またはそれらの任意の他の変形は、明示的に示された任意の制限に従うことを条件として、非排他的な包含をカバーすることを意図している。たとえば、要素のリストを含むプロセス、方法、システム、組成物、キット、または装置は、必ずしもそれらの要素に限定されるものではなく、明示的にリストされていない他の要素、またはそのようなプロセス、方法、システム、組成物、キット、または装置に固有の他の要素を含む場合がある。
【0032】
「~からなる(consisting of)」という移行句は、特定されていない任意の要素、ステップ、または成分を含まない。それが請求項に記載されている場合、通常それに付随する不純物を除いて、請求項に記載されている材料以外の材料を含めることはできない。「~からなる」という句が、前提部分の直後ではなく、請求項の本文の条項に現れる場合、それは、その条項に記載されている要素のみを限定し、その他の要素はクレーム全体から除外されない。
【0033】
「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という移行句は、文字通りに開示されたものに加えて、材料、ステップ、特徴、成分、または要素を含む組成物、方法を定義するために使用される。ただし、これらの追加の材料、ステップ、特徴、成分、または要素が、クレームされた発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないことを条件とする。「本質的に~からなる」という用語は、「含む(comprising)」と「~からなる(consisting of)」との間の中間点を占める。
【0034】
出願人が「含む(comprising)」などの制限のない用語で発明またはその一部を定義している場合、(特に明記されない限り)説明は「本質的に~からなる」又は「~からなる」という用語を用いてそのような発明も記載していると解釈されるべきであることは容易に理解されるべきである。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「約」は、値が、例えば、測定装置に対する誤差の固有の変動、値を決定するために使用される方法、または研究対象の間に存在する変動を含むことを示すために使用される。典型的には、この用語は、状況に応じて、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%または20%未満の変動を含むことを意味する。
【0036】
特許請求の範囲における用語「または(or)」の使用は、代替物のみを参照するように明示的に示されていない限り、「および/または(and/or)」を意味するために使用され、又は代替物は相互に排他的であるが、とはいえ、本開示は、代替物のみ及び「および/または」を参照する定義を支持する。
【0037】
「治療する(treating)」または「治療(treatment)」は、本明細書では、障害、障害の症状、障害に続発する病態、または障害に対する素因を、治癒、緩和、軽減、治療、予防、または改善する目的で、治療組成物を対象に投与することを指す。
【0038】
本明細書で使用される「対象」は、心血管疾患、がん、自己免疫疾患、または感染症などの疾患を有するか、または発症していると診断された、または疑われる哺乳動物対象を指す。例示的な患者は、ヒト、類人猿、イヌ、ブタ、ウシ、ネコ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯類および治療から利益を得ることができる疾患を有する他の哺乳動物であり得る。
【0039】
「投与する(Administering)」または「投与(Administration)」は、本明細書では、本出願の治療キットを対象に提供することを指す。限定ではなく例として、投与は、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、気管支内、腹腔内、嚢内、軟骨内、腔内、皮内、小脳内、脳室内、結腸内、子宮頸管内、胃内、肝臓内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸腔内、前立腺内、肺内、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、滑膜内、胸腔内、子宮内、膀胱内、ボーラス、膣内、直腸、頬、舌下、経鼻、および経皮を介して行われ得る。例えば、注射は、静脈内(i.v.)注射、皮下(s.c.)注射、皮内(i.d.)注射、腹腔内(i.p.)注射、または筋肉内(i.m.)注射によって行われ得る。1つまたは複数のそのような経路を使用することができる。非経口投与は、例えば、ボーラス注射によるか、または時間をかけて徐々に灌流することによることであってもよい。あるいは、または同時に、投与は経口経路によるものであり得る。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「免疫アジュバント処方物(immunologic adjuvant formulation)」は、対象に投与された場合に、対象において免疫応答を誘導することができる処方物を意味する。抗原と組み合わせて投与すると、「免疫アジュバント処方物」は抗原特異的免疫応答を引き出すことができる。「免疫アジュバント処方物」は、対象によって投与された後、細胞内在化、膜会合、および/または表面リガンド結合を介して細胞と関連付けられるであろう。
【0041】
本明細書で使用される場合、「細胞内在化(cellular internationalization)」は、所望のアジュバントの細胞内送達を可能にするアジュバント処方物を意味する。例えば、所望のアジュバントの「細胞内在化」は、少なくともナノ粒子、エキソソーム、操作された細胞透過性ペプチドなどによって達成され得る。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「膜会合(membrane association)」は、細胞膜に分配され得るアジュバント処方物を意味する。例えば、所望のアジュバントの「膜会合」は、少なくとも親油性リンカー、両親媒性アジュバントなどによって達成され得る。
【0043】
本明細書で使用される「表面リガンド結合(surface ligand binding)」は、細胞表面部分に対する結合親和性を有し、細胞膜部分と物理的に会合することができるアジュバント処方物を意味する。例えば、所望のアジュバントの「表面リガンド結合」は、少なくとも抗体、アプタマー、糖処方物などによって達成され得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、「細胞からの抗原放出を誘導するための手段」は、化学的または物理的アプローチを使用して、免疫応答を引き起こす細胞破片、小胞、および/または抗原を放出するように処理された細胞を誘導することを意味する。例えば、同手段は、化学薬剤、生物薬剤、放射線照射、光分解剤、機械的破壊、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0045】
特に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのものと同じ意味を有する。本明細書で引用されるすべての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、参考文献が提示されている文および/または段落に関連する教示について、参照によりその全体が組み込まれる。
【0046】
一実施形態において、細胞から放出された抗原の免疫原性を増強するための治療キットが開示される。治療キットは、細胞と物理的に会合することができる免疫アジュバント処方物と、細胞からの抗原放出を誘導するための手段と、を含む。
【0047】
好ましい実施形態において、免疫アジュバント処方物は、アジュバントを封入するポリマーナノ粒子を含み得、そしてポリマーナノ粒子は、水不透過性のポリマーシェルと、同ポリマーシェルによって封入された1つ以上の水性コアとを含み得る。
【0048】
ポリマーシェルは、25nm未満の厚さを有することができ、そしてポリマーナノ粒子は、30~600nmの外径を有する。好ましくは、厚さは、24nm、23nm、22nm、21nm、20nm、18nm、16nm、14nm、12nm、または10nm未満である。外径は、好ましくは30~550nm、30~500nm、30~450nm、30~400nm、30~350nm、30~300nm、30~250nm、30~200nm、30~150nm、30~100nm、35~550nm、35~500nm、35~450nm、35~400nm、35~350nm、35~300nm、35~250nm、35~200nm、35~150nm、35~100nm、40~550nm、40~500nm、40~450nm、40~400nm、40~350nm、40~300nm、40~250nm、40~200nm、40~150nm、40~100nm、45~550nm、45~500nm、45~450nm、45~400nm、45~350nm、45~300nm、45~250nm、45~200nm、45~150nm、45~100nm、50~550nm、50~500nm、50~450nm、50~400nm、50~350nm、50~300nm、50~250nm、50~200nm、50~150nm、または50~100nm、の範囲にある。
【0049】
一実施形態において、ポリマーシェルは、非極性セグメントおよび極性末端基を含む両親媒性ポリマーで形成される。非極性セグメントの例としては、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリカプロラクトン、およびポリウレタンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。PLGAの乳酸対グリコール酸のモル比は、1:99~99:1、10:90~90:10、15:85~85:15、20:80~80:20、25:75~75:25、30:70~70:30で変化する。好ましくは、PLGAの乳酸対グリコール酸のモル比は、50:50または75:25である。極性末端基は、負に帯電した基、正に帯電した基、両性イオン基、または中性基であり得る。負に帯電した基の例としては、カルボン酸、コハク酸、スルホン酸が含まれる。正に帯電した基の例としては、アミンおよびアミジンが含まれる。両性イオン基の例としては、カルボキシベタインおよびスルホベタインが含まれる。中性基の例は糖類である。
【0050】
例示的なポリマーシェルは、非極性セグメントとしてのポリ(乳酸-コ-グリコール酸)および極性末端基としてのカルボン酸を含むポリマーから形成される。
本明細書に記載されるポリマーナノ粒子は、25nm以下の厚さを有する欠陥のない(defect-free)ポリマーシェルを有するポリマー中空ナノ粒子プラットフォームであり得る。中空ポリマーナノ粒子は、典型的には30~600nmの外径を有する。
【0051】
シェルの厚さを最小にすることにより、カーゴ負荷(cargo loading)を最大にすることができる大きな内部水性空間を備えたポリマーナノ粒子を形成できる。外径が100nmを超える粒子の場合、内部の水性空間は、粒子の外径の少なくとも80%の直径を有するか、または大きな集合体積を有する複数の区画であり得る。相補的結合分子の非存在下での薄いシェル中空ナノ粒子による親水性染料及び核酸の高効率封入化を実証した。薄いシェルのナノ粒子は浸透圧ストレスに耐性があることが実証されており、これは水を透過しない完全で欠陥のない高分子シェルに起因する特徴である。本願のポリマーナノ粒子は、薬物送達およびワクチン開発を含む様々な分野で生物活性剤を送達するために使用することができる。
【0052】
ポリマーナノ粒子、特にポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)のような生分解性および生体適合性ポリマーからなるものは、生体適合性、生分解性および合成上の柔軟性を含むポリマーの多くの特徴のため、ナノ医療研究においてかなりの注目を集めている。しかしながら、ポリマー固有の疎水性のために、PLGAベースのナノ粒子は、臨床における水不溶性化合物の送達に制限されてきた。ポリマーは、親水性および高分子量のカーゴ、例えばsiRNAを担持するための水性コア空間をほとんどまたは全く有しない固体ナノスフェアを形成する傾向があるので、ポリマーナノ粒子への親水性および高分子量のカーゴの封入(Encapsulation)は依然として課題である。
【0053】
高分子の封入がウイルスの形の天然ナノ粒子で一般的であることを考慮すると、理想的なナノキャリアは生物活性分子のパッケージのための大きな水性体積を囲む薄いシェルを持つべきである。薄いシェルはまた、好ましくは、欠陥がなく、水不透過性であり、確実なカーゴの封入を可能にする。
【0054】
一実施形態において、疾患を治療する方法が提供される。同方法は、細胞と物理的に会合することができる免疫アジュバント処方物を、それを必要とする対象に投与することと、それを必要とする対象に、細胞からの抗原放出を誘導するための手段を投与することと、を含む。疾患の例としては、限定されるものではないが、心血管疾患、がん、自己免疫疾患、または感染症が含まれる。
【0055】
本明細書においてさらに詳細に開示されるのは、上述のポリマーナノ粒子を調製する方法である。
一般に、薄いシェルの中空ナノ粒子は、末端に高い極性のコントラストを有する両親媒性ポリマーを用いる二重エマルションプロセスに基づいて調製される。より具体的には、ジクロロメタン(DCM)中のカルボキシル末端PLGAの溶液を最初に使用して、音波分散下でカーゴを含有する水相を乳化して、エマルションを形成する。このようにして形成されたエマルションは、その後、流体分散液を使用して外水相に乳化される。
【0056】
ポリマーの濃度および分散力を調節することによって、または二重エマルションプロセスにおいて規定された長さおよび鋭い極性を有するポリマーを使用することによって、上記の調製方法は、外径が30nm~600nm、例えば、30~40nmおよび100~600nmの中空ポリマーナノ粒子を提供することができる。
【0057】
ナノ粒子は、溶媒系に溶解したポリマーを最初に水相を乳化するために使用する水-油-水二重エマルションプロセスに基づいて調製される。エマルションはその後、二次水相によって乳化される。内水相および外水相は、任意の極性溶液、例えば、水、酢酸、およびエタノールであり得る。水相には、溶液の酸性度および粘度を調整するために可溶化された分子が含まれており、これにはリン酸ナトリウムおよび重炭酸ナトリウムが含まれる。一実施形態において、ナノ粒子調製のための抗溶媒として水が使用される。
【0058】
本願のポリマーナノ粒子を調製するための上記水-油-水二重エマルション法は、2つの重要な特徴を有する:すなわち、(i)異なる相間のエマルションは、界面活性剤、例えば、ビタミンE-D-α-トコフェロールポリエチレングリコールコハク酸塩およびポリ(ビニルアルコール)を使用するよりもむしろ、極性において本質的に高いコントラストを有するポリマー(カルボキシル末端基を有するPLGA)を介して達成され、これは、界面活性剤材料を使用することなく、ポリマーシェルの厚さを最小にする乳化能力を高め、より高い商品価値を有すること;および(ii)油相の均質化と内水相中の封入されたカーゴの保持とのバランスを保つために、第2のエマルションプロセスに対してマイクロフルイダイザーまたは超音波処理のいずれかを用いる、制御された流体分散であること。
【0059】
上述の方法によって調製されたポリマーナノ粒子は、薬物送達、セラノスティックス、およびワクチン開発用途のためのプラットフォーム技術として役立つ。それは、小分子、ペプチド、核酸、およびタンパク質を含む大きなクラスの生物活性剤の送達を促進して、それらの治療効力を高めることができる。薄いシェルのポリマー中空ナノ粒子は、小分子、ペプチド、タンパク質、核酸、イメージング剤、無機ナノ粒子、有機ナノ粒子、およびこれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない生物活性剤を封入するために使用することができる。プラットフォームの表面は、必要に応じて、小分子、ペプチド、タンパク質、核酸、イメージング剤、ナノ粒子を含む機能的部分で修飾して、長期の循環薬物送達、標的化薬物送達、および抗原送達などの異なる用途に供することができる。
【0060】
さらに詳細に説明することなく、当業者は、上記の説明に基づいて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。したがって、以下の具体的な実施例は、単なる例示として解釈されるべきであり、いかなる方法においても、本開示の残りの部分を制限するものではない。本明細書に引用される全ての刊行物は、参照により援用される。
【実施例
【0061】
ポリマーナノ粒子の調製
薄いシェルのポリマーナノ粒子を、以下の工程を含むプロトコルに従って製造した:
1.DCM中で10mg/mLのカルボキシ末端PLGAポリマーを調製する。
【0062】
2.50μLの内水相を500μLのPLGA/DCM溶液中に乳化して、第1のエマルションを形成する。音波処理振幅50%で30秒間連続的に超音波処理する。
3.第1のエマルションを5mLの水溶液中で乳化し、マイクロフルイダイザーを用いて制御された流体剪断下で混合物を分散させて第2のエマルションを形成する。
【0063】
4.第2のエマルションにさらなる30mLの水溶液を加え、35℃で溶媒を蒸発させる。
5.DCMをヒュームフード中で3時間蒸発させて溶液を得る。
【0064】
6.22kGで35分間の超遠心分離によって溶液から粒子を単離する。
7.所望の溶液中に粒子を再分散させる。
ポリマーナノ粒子のキャラクタリゼーションおよび封入
上記の工程を用いて、平均直径110.9nmの中空ポリマーナノ粒子を調製した。粒子のシェル厚の統計的平均は、ナノ粒子追跡分析によって得られたパラメータに基づいて導出された。総ポリマー重量、PLGA密度、および得られたナノ粒子の数に基づいて、ナノ粒子はシェル厚さにおいて統計的平均16.5nmを有すると計算された。予想外に、ある種のポリマーナノ粒子は、40nm未満の直径を有していた。
【0065】
薄いシェルの中空ナノ粒子は、水不透過性ポリマーシェルにより浸透抵抗性であることが分かった。ある試験では、親水性の赤い食用着色剤を封入した100nmの中空ナノ粒子を、水から3X PBSに至るまでの範囲の溶液に懸濁させたが、浸透圧の差(0~850Osmo/kg)は、中空ナノ粒子がそれらのカーゴを放出する原因とはならなかった。それぞれの溶液中で10分間インキュベートした後、ナノ粒子を30,000gで5分間遠心分離下でペレット化し、得られたペレットは、粒子内に親水性色素が保持されていることを示す同様の赤みを帯びた色を示した。吸光度法に基づいて放出された染料の上清を検出したところ、検出可能なシグナルは認められなかった。この試験は、20nm以下の薄いポリマーシェルを有するにもかかわらず、中空ナノ粒子が浸透応力に抵抗する欠陥のないシェルを有することを示した。
【0066】
薄いシェルの中空ナノ粒子のシェルが流体ではなく固体であることをさらに実証するために、中空ナノ粒子に機械的応力を加えてシェルを破壊した。cryo-EMでの可視化において、破壊した中空ナノ粒子を観察した。破壊された中空ナノ粒子の観察画像は、機械的摂動により小胞再編成を起こす高分子ベシクル(polymeric vesicles)とは対照的に、固体シェルを有する中空の球体であることを示していた。固体ポリマーシェルは、既知の中空ナノ構造では観察されなかった水の不透過性と浸透圧抵抗性をもたらした。
【0067】
薄いシェルのポリマーナノ粒子プラットフォームの際立った特徴は、その広い内部水性空間により大量の親水性カーゴを封入できる能力にある。薄いシェルの中空ナノ粒子は、siRNAと免疫アジュバント環状di-GMPを含むいくつかの生物活性剤を封入するために使用した。予想外に、小分子(例えば、スルホ-cy5、環状di-GMP、環状cGAMP)、ペプチド(例えば、オボアルブミンペプチドOTI(SIINFEKL)またはOTII(AAHAEINEA))、核酸(例えば、CpG-オリゴデオキシヌクレオチド、20-mer単鎖DNA、および20-mer siRNA)およびタンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)およびCRISPR-Cas9ヌクレアーゼ)を含む種々の長さスケールの親水性含量に対して高い封入効率を達成し、化合物の溶解限度内で30%以上の効率で封入することに成功した。例えば、siRNAは、ナノ粒子1mg当たり約1nmolの最終負荷収量で50%の効率で封入化され、環状di-GMPは37%の負荷効率で封入化された。GFP発現HeLa細胞における緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子のサイレンシングを、siRNAを担持した薄いシェルの中空ナノ粒子を用いて観察した。
【0068】
親水性高分子によるポリマーナノ粒子の封入。
アッセイを行い、2つの親水性高分子、すなわち核酸(色素標識20-mer一本鎖DNA)とタンパク質(色素標識BSA)に対する高分子ナノ粒子の封入効率を評価した。
【0069】
核酸およびタンパク質に対するポリマーナノ粒子の封入効率の描写については、図2を参照されたい。この実施例において、核酸およびタンパク質の効果的な封入は、色素標識された20-mer一本鎖DNA(A;中央)および色素標識されたBSA(A;右)を用いて実証された。ナノ粒子をペレット化すると、粒子ペレットは空のナノ粒子の白色ペレット(A;左)とは対照的に黄色(黄色がかったFAM色素標識を示す)であることが明らかとなった。蛍光の定量化により、ナノ粒子が予想外に核酸とタンパク質に対してそれぞれ42%と35%の封入効率を示すことが判明した。
【0070】
核酸およびタンパク質の効果的な封入はまた、cryoEMを使用して視覚化した。空の粒子はその水性コア(図2B)の中では、プレーンで均一なテクスチャ(texture)を示したが、DNA負荷粒子(図2C)およびBSA負荷粒子(図2D)は、cryoEM下で濃縮された生物学的内容物の特徴である非常に粒状のテクスチャを示した。本実施形態の8mMのDNAおよび50mg/mLのBSAの負荷濃度に基づくと、DNA負荷ナノ粒子は約3500のDNA分子を、BSA負荷ナノ粒子は約260のタンパク質を含んでいた。重要なことは、核酸およびタンパク質のこのような高負荷は、これまで達成されていなかったということである。実際、既知のPLGAベースのナノ処方物は、一貫して核酸の封入化が非常に悪く、負荷を増強するために核酸上の負電荷を中和するためにポリカチオン性ポリマーを使用しなければならなかった。例えば、Shi他、Angew Chem Int Ed Engl、2011、50(31):7027-31およびWoodrow他、Nature Materials、2009、8(6):526-533、を参照されたい。
【0071】
上述したこれらの結果は、本願の薄いシェルのポリマーナノ粒子が、それらの本来の可溶性状態の親水性高分子に対して予想外に高い封入効率、すなわち高い負荷効率を示し、薄いシェル中空ナノ粒子の利点および独自性を強調していることが分かる。
【0072】
リンパ節における免疫刺激のためのインターフェロン遺伝子(STING)アゴニストの封入化および放出制御におけるポリマーナノ粒子の効果
リンパ節における免疫刺激に対するSTINGアゴニストの封入化および放出制御におけるポリマーナノ粒子の効果を評価するためにアッセイを行った。
【0073】
図3は、免疫刺激のためのSTINGアゴニストの封入化および制御放出に対するポリマーナノ粒子の効果を示す。この例では、本プラットフォームをワクチン開発に適用した。ナノ粒子ワクチンを調製する際の主要な技術的課題は、ナノスケール基質上で抗原とアジュバントを確実に会合させる(associating)ことにある。例えば、Brannon-Peppas他、Adv Drug Deliv Rev、2004、56(11):1649-59、およびLima-Tenorio他、Int J Pharm、2015、493(1-2):313-27、を参照されたい。この技術的課題を克服するために、薄いシェルのポリマー中空ナノ粒子を用いて、生分解性ポリマー、すなわちPLGAを用いて機能性カーゴを高密度にパッケージ化した。
【0074】
より具体的には、直径が100~200nmの間の中空粒子を、二重エマルションプロセスを使用して調製した(図3Aおよび3B)。それらは、約40%の効率(図3C)で、STINGアゴニストアジュバントの環状di-GMP(cd-GMP)を効率的に封入したが、これは、核酸および親水性カーゴをナノ粒子プラットフォームに封入することは非常に困難であることが知られていることから注目に値する。高い封入効率により、ナノ粒子当たり約2,000のSTINGアゴニスト分子を得た。ポリマーナノ粒子に基づくSTINGアゴニストのナノ処方物は報告されていない。cryoEMによる試験は、これら中空ナノ粒子の大きな内部コアを明らかにし、これはcd-GMP(図3D)の高い負荷効率の原因であった。細胞内送達に際して、中空ナノ粒子の薄いポリマーシェルは酸性pHによってトリガーされ、内部含有物を迅速に放出した(図3E)。
【0075】
これらの結果は、薄いシェルのポリマーナノ粒子が合成ワクチンの効果的な調製を可能にしたことを示す。
全身性サイトカインを最小にしながらリンパ性サイトカインを増強するSTINGアゴニスト負荷ナノ粒子の評価
全身性サイトカインを最小にしながらリンパ性サイトカインを増強するSTINGアゴニスト負荷ナノ粒子を評価するためのアッセイを実施した。
【0076】
図4は、全身性サイトカインを最小にしながらリンパ性サイトカインを増強するSTINGアゴニスト負荷ナノ粒子を示す。最初に、cd-GMP負荷ナノ粒子による免疫活性化を、マウス樹状細胞株JAWSIIを用いてインビトロで検討した。遊離のCD-GMPまたはcd-GMPナノ粒子と24時間インキュベートした後、培養上清をELISA分析のために回収し、TNF-α、IL-6およびIFN-βのレベルを定量した。遊離cd-GMP処方物と比較して、ナノ粒子処方物はTNF-α、IL-6及びIFN-βの産生をより効果的に誘発した(図4A、4B、および4C)。細胞上のCD80発現も、遊離cd-GMPの等価用量(図4D)と比較して、ナノ粒子処方物とインキュベートした場合に増強された。ナノ粒子は、ナノキャリアによる細胞内送達の増加に起因して、STINGアゴニストのアジュバント性を約30倍増強することが観察された。遊離の環状-di-ヌクレオチドは膜透過性が低く、細胞質の標的に容易に接近できないと推測される。ナノ粒子封入により、細胞取り込みは粒子エンドサイトーシスを介して増強され、続いて細胞内放出がcd-GMPのサイトゾル侵入を促進し、それによりその免疫増強効果を増強する。
【0077】
さらに、cd-GMPナノ粒子による免疫増強を、マウスにおいてインビボで遊離cd-GMPと比較した。足蹠注射の48時間後に、流出(draining)膝窩リンパ節をIFN-β定量のために採取した。ナノ粒子処方物はリンパ節において有意に高いレベルのIFN-βを誘導し(図4E)、これは適切なT細胞成熟に重要であることが観察された。加えて、反応原性のインジケーターである、TNF-αの全身レベルも、遊離cd-GMPおよびcd-GMPナノ粒子の足蹠投与後にモニターした。ナノ粒子は、リンパ系におけるナノ粒子の分布を反映するTNF-αの有意に低い血清レベルをもたらすことが観察された。一方、遊離cd-GMPは血清中のTNF-αレベルを上昇させ、これらの小分子は血流中に自由に拡散している(図4F)。
【0078】
これらの結果は、STINGアゴニスト負荷ナノ粒子が、リンパ節を標的とした免疫増強のためにリンパ性サイトカインを効果的に増強したことを示す。
細胞と会合する免疫アジュバント(cell-associating immunologic adjuvant)に基づく治療法
一実施形態において、本明細書に記載される治療キットおよび方法は、疾患、例えば、心血管疾患、がん、自己免疫疾患、または感染症を治療するために使用され得る。一実施形態において、本明細書に記載の治療キットおよび方法は、口腔および咽頭のがん(口唇、舌、唾液腺、口腔底、歯肉および他の口腔、鼻咽頭、扁桃、中咽頭、下咽頭、他の口腔/咽頭);消化器系のがん(食道;胃;小腸;結腸および直腸;肛門、肛門管、肛門直腸;肝臓;肝内胆管;胆嚢;他の胆道;膵臓;後腹膜腔;腹膜、大網、腸間膜;他の消化器);呼吸器系のがん(鼻腔、中耳、および副鼻腔;喉頭;肺および気管支;胸膜;気管、縦隔、およびその他の呼吸器);中皮腫;骨および関節;ならびに心臓を含む軟組織のがん;黒色腫および他の非上皮性皮膚がんを含む皮膚がん;カポジ肉腫および乳がん;女性生殖器系のがん(子宮頚部;子宮体部;子宮、卵巣;膣;外陰部;他の女性生殖器);男性生殖器系のがん(前立腺;睾丸;陰茎;他の男性生殖器);泌尿器系のがん(膀胱;腎臓および腎骨盤;尿管;その他の泌尿器);眼および眼窩のがん;脳および神経系のがん(脳;その他の神経系);内分泌系のがん(甲状腺および胸腺を含む他の内分泌);リンパ腫(ホジキン病および非ホジキンリンパ腫)、多発性骨髄腫、ならびに白血病(リンパ球性白血病;骨髄性白血病;単球性白血病;その他の白血病)、のようながんに対して使用されてもよい。
【0079】
一実施形態において、免疫アジュバント処方物は、アジュバントを封入するポリマーナノ粒子を含み得、そしてポリマーナノ粒子は、水不透過性のポリマーシェルと、同ポリマーシェルによって封入された1つ以上の水性コアとをさらに含み得る。好ましい実施形態において、アジュバントは、MPLA、CpG、ポリ(I:C)、環状ジヌクレオチドの変異体、細胞質パターン認識受容体に対するアゴニスト(例えば、環状di-GMPまたは環状GAMP)、またはインターフェロン遺伝子刺激因子(STING)を含む。
【0080】
腫瘍細胞と会合する免疫アジュバント(cGAMP負荷ナノ粒子)に基づく治療法の説明については、図5を参照されたい。本願の一実施形態において、2’3’-cGAMPは、ポリマー中空ナノ粒子内に封入されて、エンドサイトーシスを介した細胞内包化(cell internalization)を増強する。cGAMPは細胞質パターン認識受容体に対するアゴニストであり、TBK1/インターフェロン調節因子3(IRF3)/1型インターフェロン(IFN)シグナル伝達を活性化するインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)である。細胞とのcGAMP会合を促進することにより、アジュバント処方物は免疫プロセッシングのために抗原を活性化する(prime)。抗原放出を誘発する手段により細胞死を誘発する処理に際して、細胞破片は、次いで、アジュバント処方物から外因的に送達されたアジュバントと共に処理され、細胞殺傷のために強化された適応免疫を可能にする(図5)。
【0081】
一実施形態において、抗原放出を誘導するための手段は、化学薬剤、生物薬剤、放射線照射、光分解剤、機械的破壊、またはそれらの組み合わせを含み得る。
好ましい実施形態では、化学薬剤は、当技術分野で知られている任意の細胞毒性剤を含む。例えば、細胞毒性剤は、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、メルタンシン(DM1)、アントラサイクリン、ピロロベンゾジアゼピン、α-アマニチン、ツブリジン、ベンゾジアゼピン、エルロチニブ、ボルテゾミブ、フルベストラント、スニチニブ、レトロゾール、メシル酸イマチニブ、PTK787/ZK222584、オキサリプラチン、ロイコボリン、ラパマイシン、ラパチニブ、ロナファルニブ(SARASAE(登録商標)、SCH66336)、ソラフェニブ、ゲフィチニブ、AG1478、AG1571、アルキル化剤;アルキルスルホン酸塩;アジリジン;エチレンイミン;メチルアメラミン;アセトゲニン;カンプトテシン;ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065;クリプトフィシン;ドラスタチン;デュオカルマイシン;エレウテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン;スポンジスタチン;クロラムブシル;クロルナファジン;クロロフォスファミド(cholosphamide);エストラムスチン;イホスファミド;メクロレタミン;メクロレタミンオキサイド塩酸塩;メルファラン;ノベンビチン;フェネステリン;プレドニムスチン;トロフォスファミド;ウラシルマスタード;カルムスチン;クロロゾトシン;ホテムスチン;ロムスチン;ニムスチン;ラニムスチン;カリケアミシン;ダイネマイシン;クロドロネート;エスペラマイシン;ネオカルジノスタチン発色団;アクラシノマイシン;アクチノマイシン;オートラマイシン;アザセリン;ブレオマイシン;カクチノマイシン;カラビシン;カミノマイシン;カルジノフィリン;クロモマイシン;ダクチノマイシン;ダウノルビシン;デトルビシン;6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン;ドキソルビシン;エピルビシン;エソルビシン;イダルビシン;マルセロマイシン;マイトマイシン;ミコフェノール酸;ノガラマイシン;オリボマイシン;ペプロマイシン;ポピロマイシン;ピューロマイシン;クエラマイシン;ロドルビシン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メトトレキサート;5-フルオロウラシル(5-FU);デノプテリン;プテロプテリン;トリメトレキセート;フルダラビン;6-メルカプトプリン;チアミプリン;チオグアニン;アンシタビン;アザシチジン;6-アザウリジン;カーモーファー;シタラビン;ジデオキシウリジン;ドキシフルリジン;エノシタビン;フロクスウリジン;カルステロン;プロピオン酸ドロモスタノロン;エピチオスタノール;メピチオスタン;テストラクトン;アミノグルテチミド;ミトタン;トリロスタン;フロリン酸;アセグラトン;アルドホスファミド配糖体;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アンサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラクセート;デホファミン;デメコルシン;ジアジコン;エルホルミジン;酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシッド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシン;アンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール;ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド;シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド;パクリタキセル;ドセタキセル;クロランブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン;カルボプラチン;ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド;イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エデトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼロダ;イバンドロン酸;トポイソメラーゼ阻害剤;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド;カペシタビン;またはその組み合わせ、を含む。
【0082】
好ましい実施形態において、一般に光線力学療法に用いたれる光増感剤である光分解剤は、フォトフリン、レーザーフィリン、アミノレブリン酸(ALA)、シリコンフタロシアニンPc 4、m-テトラヒドロキシフェニルクロリン(mTHPC)、クロリンe6(Ce6)、アルメラ、レブラン、フォスキャン、メトビクス、ヘクスビックス、フォトクロル、フォトセンス、フォトレックス、ルマカン、ビソナック、アンフィネックス、ベルテポルフィン、プリチン、ATMPn、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)、プロトポルフィリンIX(PpIX)、ピロフェオホルビデア(PPa)、フェオホルビド a(PhA)、またはこれらの組み合わせ、を含む。
【0083】
抗原放出を誘導するための手段は、免疫アジュバント処方物の投与の前または投与の後に、必要とする対象に投与され得る。この一連の治療において、抗原放出を誘導するための手段および免疫アジュバント処方物は、異なる時期に投与されるための2つの異なる用量として処方化される。
【0084】
あるいは、抗原放出を誘導するための手段は、免疫アジュバント処方物の投与と同時に、必要とする対象に投与され得る。この一連の治療において、細胞からの抗原放出を誘導するための手段は、免疫アジュバント処方物において、同時に投与するための単一用量または2つの異なる用量として処方するか、またはカプセル化(encapsulated)することができる。例えば、アジュバントおよび細胞毒性剤は、1つのナノ粒子中に処方され得るか、または1つの抗体にコンジュゲートされ得る。
【0085】
治療法を示すために、HeLa細胞を、蛍光標識したcAMP負荷ナノ粒子とともにインキュベートした(図6(a))。24時間のインキュベーション後のナノ粒子の細胞内取り込みに際して、図5に示すように、化学療法薬シスプラチンの処理下で、細胞を小胞化し、細胞破片を生成した。アジュバントナノ粒子と癌細胞小胞との会合を示すために、回収した細胞破片を共焦点顕微鏡で分析し、蛍光活性化セルソーティング(FACS)で定量化した。結果は、細胞破片がかなりの量のアジュバント負荷ナノ粒子を含んでいたことを示す(図6(b)、(c))。
【0086】
次に、がん細胞の破片を回収し、JAWSIIマウス樹状細胞(DC)株とインキュベートして、それらの免疫原性を調べた。遊離cGAMPまたはcGAMP負荷ナノ粒子のいずれかと24時間インキュベートしたHeLa細胞をシスプラチンで処理し、得られた細胞破片を回収してDCを刺激した。DCは24時間のインキュベーション後に回収し、DC活性化マーカーCD86およびCD80について試験した。免疫原性細胞破片によるDCのインビトロ活性化は、FACS分析によって実証した。活性化されたDCのサイトカインプロファイルは、TNF-αおよびIFN-βのELISA分析によって推定した。結果は、細胞と会合する能力がほとんどない遊離cGAMPと比較して、cGAMP負荷ナノ粒子とのインキュベーションがCD80とCD86のレベルを有意に増加させ、DCによるTNF-αとIFN-βの分泌を上昇させることを示す(図7)。特に、適応細胞免疫を形成する重要な因子として認識されているI型IFNであるIFN-β[7]は、アジュバント処方物によって100倍以上増強される。
【0087】
ナノ粒子アジュバント処方物の細胞会合効果を検証するために、B6マウスにB16-OVA腫瘍を皮下接種した。B16細胞によるナノ粒子を介したアジュバントの保持は、全身イメージング、フローサイトメトリー分析、および蛍光顕微鏡を用いて検証した。色素標識STINGアゴニスト(2’-[DY-547]-AHC-c-diGMP)をその遊離型およびナノ粒子型で腫瘍内に投与し、24時間後に調べた。STINGアゴニストのナノ粒子処方物が腫瘍内部に十分に保持されていることが観察された(図8(a))。切除した腫瘍からがん細胞を抽出すると、がん細胞内での有意なSTINGアゴニストの会合がフローサイトメトリーと共焦点顕微鏡(図8(b)、(c))からも確認された。対照的に、腫瘍内またはがん細胞内部のいずれかのアジュバント保持は、遊離アジュバントの投与時にほとんど観察されなかった。
【0088】
治療法のインビボ効率を試験するために、B6マウスにB16-OVA腫瘍を皮下接種した。腫瘍が触知可能に見えた場合、シスプラチン(CTTP)による化学療法の前に、それらを遊離cGAMPまたはcGAMP負荷ナノ粒子で前処理した。腫瘍内アジュバント投与の24時間後に、細胞死(図9(a))を誘導するために、マウスに腫瘍内シスプラチン注射を行った。これらの2つのグループは、それぞれ、遊離cGAMPおよびcGAMP負荷ナノ粒子の使用を区別するために、それぞれcGAMP+CTTPおよびNP+CTTPと命名した。対照として、未処理(プラセボ)、シスプラチンのみ(CTTPのみ)およびcGAMP負荷ナノ粒子のみ(NPのみ)を受けた腫瘍担持マウスも調製した。cGAMP投与のために、50μLの溶液中に2.5μgのアジュバントを投与した。シスプラチン投与については、235μgの化学薬剤を100μLの溶液中に投与した。異なる処理の後、腫瘍体積を経時的に監視した。NP+CTTP群では、動物の50%(10匹のうち5匹)が完全な腫瘍退縮を示した。対照的に、他の群では完全退縮した腫瘍はなかった(図9(b)、(c))。特に、CTTPのみまたはNPのみの処理は腫瘍退縮を誘導せず、それらの併用により相乗効果が誘導されることを示した。加えて、どのcGAMP+CTTP動物も完全な腫瘍退縮を示さなかったことから、NP+CTTP群における相乗効果はがん細胞内のアジュバント保持の増強に起因することが示された。NP+CTTP群からの腫瘍のない生存マウスでは、それらのうちの4匹を、60日目にB16-OVA細胞で再チャレンジし、以前に腫瘍チャレンジおよび処理を受けていない動物と比較した。NP+CTTP群の生存動物の間で腫瘍増殖が有意に減少したことが観察され、このことは、これらの動物が適応抗がん免疫を獲得していること(図9(d))を示している。これらの結果は、がん細胞と会合する免疫アジュバントを適用することにより、適応免疫が促進され、その後の抗がん治療の効果が大幅に向上することを検証するものである。
【0089】
本願の一実施形態において、免疫アジュバント処方物は、細胞表面上の部分を認識してそれに結合するために、小分子、ペプチド、抗体、アプタマー、糖部分、ポリマーまたはそれらの組み合わせにコンジュゲートされたアジュバントを含む。好ましくは、抗体は、免疫グロブリン分子、Fv、ジスルフィド結合Fv、モノクローナル抗体、scFv、キメラ抗体、単一ドメイン抗体、CDR移植抗体、ダイボディ、ヒト化抗体、多特異的抗体、Fab、二重特異的抗体、Fab’フラグメント、二重特異的抗体、F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント、VHドメインとCH1ドメインとからなるFdフラグメント;抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、dAbフラグメント、単離された相補性決定領域(CDR)、または単鎖抗体、を含む。
【0090】
1つの好ましい実施形態において、CpG-FAMは、病原性細胞会合のための抗体にコンジュゲートされた。HeLa細胞で高度に発現するCD44を標的とする抗CD44を、アジュバントコンジュゲーションに採用した。1mgの抗体を最初に1XPBS中1:20のモル比で24時間スルホSMCCと混合した。インキュベーションに続いて、分子量カットオフ(MWCO)30kDaの遠心フィルターを用いて、機能化抗体を精製した。次に、抗体を、末端システイン基を含むCpG-ODNと混合した。可視化のためにFAM色素をCpG-ODNに取り付けた(図10)。24時間のインキュベーションに続いて、30kDaのMWCOを有する遠心フィルターを用いて、CpGコンジュゲート抗体を回収した。
【0091】
次に、遊離CpG-FAMおよび抗CD44コンジュゲートCpG-FAMをHeLa細胞と3時間インキュベートすることにより、HeLa細胞へのCpG会合を評価した。インキュベーションに続いて、細胞を洗浄し、CpG会合をFAM蛍光に基づいて評価した。蛍光顕微鏡下で、抗CD44CpGコンジュゲートがHeLa細胞単層に対してより高い蛍光保持をもたらすことを観察した(図11A)。フローサイトメトリー分析のために細胞を分離すると、CpG/がん細胞会合の増強も抗CD44コンジュゲートで観察され、病原性細胞へのアジュバントの標的化が成功したことが示された(図11B,C)。
【0092】
アジュバント会合に続いて、HeLa細胞を細胞毒性薬であるドキソルビシンで処理して、細胞死を誘発し、細胞破片を生成した。20時間のドキソルビシン処理に続いて、細胞破片を回収し、JAWSIIマウス樹状細胞に与えた。次に、JAWSII細胞を、細胞破片との20時間のインキュベーション後に、CD80およびCD86のような活性化マーカーについて評価した。抗CD44コンジュゲートCpGで処理したHeLa細胞の破片が最高レベルの成熟マーカーを誘発することが観察された(図12)。
【0093】
本願の別の実施形態において、CpG-FAMは、腫瘍細胞の取り込みを増強するためにポリマーナノ粒子に封入された。CpG-FAM負荷ナノ粒子を調製するために二重エマルションプロセスを採用した。20mg/mLのCpGを最初に50μLの100mMリン酸塩緩衝液に溶解し、次いで50mg/mLのPLGA(10,000Da、カルボキシル末端、50:50ラクチド:グリコリド)を含有する500μLの酢酸エチル中で乳化した。次に、得られた油中水型エマルションを5mLの10mMリン酸緩衝液で乳化した。インキュベーションの後、水中油中水型エマルションを、次いで10mLの10mMリン酸緩衝液に注ぎ入れ、酢酸エチルを窒素衝撃下で蒸発させた。1時間の溶媒蒸発後、ナノ粒子-封入化CpGを、30kDaのMWCOを有する遠心フィルターを用いて回収した。CpGを含有する100nm以下(sub-100nm)のナノ粒子の調製の成功をcryoEM(図13)を用いて検証した。
【0094】
次に、遊離CpG-FAMおよびナノ粒子封入化CpG-FAMをHeLa細胞と24時間インキュベートすることによる、HeLa細胞へのCpG会合を評価した。インキュベーションに続いて、細胞を洗浄し、CpG会合をFAM蛍光に基づいて評価した。蛍光顕微鏡下で、ナノ粒子封入化CpGがHeLa細胞単層に対してより高い蛍光保持をもたらすことを観察した(図14A)。フローサイトメトリー分析のために細胞を分離すると、CpG/がん細胞会合の増強もナノ粒子封入化CpGで観察され、細胞へのアジュバントの標的化が成功したことが示された(図14B,C)。
【0095】
アジュバント会合に続いて、HeLa細胞を細胞毒性薬であるドキソルビシンで処理して、細胞死を誘発し、細胞破片を生成した。20時間のドキソルビシン処理に続いて、細胞破片を回収し、JAWSIIマウス樹状細胞に与えた。次に、JAWSII細胞を、細胞破片との20時間のインキュベーション後に、CD80およびCD86のような活性化マーカーについて評価した。ナノ粒子封入化CpGで処理したHeLa細胞の破片が最高レベルの成熟マーカーを誘発することが観察された(図15)。
【0096】
本願の別の実施形態において、抗原放出を誘導するための手段は、免疫アジュバント処方物の投与と同時に、必要とする対象に投与され得る。あるいは、抗原放出を誘導するための手段は、免疫アジュバント処方物の投与前または投与後に、必要とする対象に投与され得る。
【0097】
一実施形態において、ダウノルビシンをcd-GMP STINGアゴニストと共にナノ粒子に封入し、細胞死を誘発しながら同時に細胞内アジュバント送達を可能にした。ダウノルビシンおよびcd-GMPを共に封入するナノ粒子を調製するために二重エマルションプロセスを採用した。10mg/mLのダウノルビシンおよび10mg/mLのcd-GMPを含有する溶液を、最初に100mMリン酸塩緩衝液で調製し、その溶液の50μLを、50mg/mLのPLGAを含有する500μLの酢酸エチル中で乳化した(10,000Da、カルボキシル末端、50:50ラクチド:グリコリド)。次に、得られた油中水型エマルションを5mLの10mMリン酸緩衝液で乳化した。インキュベーションの後、水中油中水型エマルションを、次いで10mLの10mMリン酸緩衝液に注ぎ入れ、酢酸エチルを窒素衝撃下で蒸発させた。1時間の溶媒蒸発後、ダウノルビシン/cd-GMPナノ粒子を、30kDaのMWCOを有する遠心フィルターを用いて回収した。対照として、cd-GMPの非存在下でダウノルビシンを封入するナノ粒子を、内水相(inner aqueous phase)として20mg/mLのダウノルビシンを用いて調製した。ダウノルビシンおよびcd-GMPを含有する100nm以下のナノ粒子の調製の成功をcryoEMを用いて検証した(図16)。
【0098】
次に、CT26結腸がん細胞を3つの異なる処方物で処理した:1)ダウノルビシンのナノ粒子のみ(DR NP);2)遊離cd-GMPおよびダウノルビシンのナノ粒子(cd-GMP+DR NP);および3)ダウノルビシンおよびcd-GMPを共に封入するナノ粒子((cd-GMP+DR)NP)。CT26培養物2mLにダウノルビシン10μgおよびcd-GMP10μgを与えた。3時間の処理に続いて、細胞破片を回収し、JAWSIIマウス樹状細胞に与えた。次に、JAWSII細胞を、細胞破片との24時間のインキュベーション後に、CD80およびCD86などの活性化マーカーについて評価した。ダウノルビシンおよびcd-GMPを共に封入したナノ粒子で処理したCT26細胞の破片は、CD80およびCD86のような最高レベルの成熟マーカーを誘発することが観察された(図17)。
【0099】
JAWSII細胞の上清も、T細胞活性化および増殖のための主要なリンパ球活性化シグナルであるIFN-βについて評価した。ダウノルビシンおよびcd-GMPを共に封入したナノ粒子で処理したCT26細胞の破片は、JAWSII細胞において最高レベルのIFN-β産生を誘導することが観察された(図18)。これらの結果は、細胞毒性剤と免疫アジュバントを細胞に同時送達するアジュバント処方物が、有意な免疫原性を備えた細胞破片を誘導できることを示している。
【0100】
要約すると、上記の説明は、免疫アジュバント処方物を含む治療キットが、免疫応答標的特異的細胞を促進することができることを示している。疾患細胞に対する適応免疫を増強することができる細胞会合免疫アジュバントに基づく新しい治療法も示した。本方法および治療キットは、限定されるものではないが、化学療法、放射線療法、光熱療法、免疫療法、および外科的介入を含む、細胞破片および抗原の放出を誘導する任意の既存の治療に適用可能である。限定されるものではないが、細胞内侵入、膜繋留、および免疫アジュバントの表面結合を容易にする方法を含む、病原性細胞に免疫アジュバントを会合させるための他のアプローチもまた企図される。免疫アジュバントとしては、限定されるものではないが、MPLA、CpG、ポリ(I:C)、環状ジヌクレオチドの変異体、および他の免疫刺激分子も挙げられる。細胞会合のために、免疫アジュバント処方物および抗原放出を誘導するための手段(例えば、cGAMPおよび化学療法剤の両方を含有するナノ粒子)の両方を含む治療キットも考えられる。
【0101】
開示された実施形態に対して様々な修正および変更を行うことができることは、当業者には明らかであろう。本明細書および実施例は例示としてのみ考慮されることが意図され、本開示の真の範囲は、以下の特許請求の範囲およびそれらの等価物によって示される。
【0102】
参考文献
以下に列挙され、本明細書で参照される参考文献は、本明細書が別段の定めがない限り、参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
1.バックマン(Bachmann),M.F.およびG.T.ジェニングス(Jennings)、Vaccine delivery:a matter of size,geometry,kinetics and molecular patterns.(ワクチン送達:サイズ、幾何学的形状、動力学および分子パターンの問題)、Nat Rev Immunol,2010、10(11):p.787-96。
【0104】
2.オット(Ott),P.A.他、An immunogenic personal neoantigen vaccine for patients with melanoma.(黒色腫患者に対する免疫原性個人用新抗原ワクチン)、Nature、2017、547(7662):p.217-+。
【0105】
3.ファン(Fan),Y.他、Immunogenic Cell Death Amplified by Co-localized Adjuvant Delivery for Cancer Immunotherapy(免疫原性細胞死は、癌免疫療法のための共存アジュバント送達によって増幅された)、Nano Lett,2017。
【0106】
4.フ(Fu),J.他、STING agonist formulated cancer vaccines can cure established tumors resistant to PD-1 blockade(STINGアゴニスト処方癌ワクチンは、PD-1遮断に抵抗性の確立された腫瘍を治癒することができる)、Sci Transl Med、2015、7(283):p.283ra52。
【0107】
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【0108】
6.フリッドマン(Fridman),W.H.他、The immune contexture in human tumours:impact on clinical outcome(ヒト腫瘍における免疫機構:臨床転帰への影響)、Nat Rev Cancer、2012、12(4):p.298-306。
【0109】
7.ヘルツゾッグ(Hertzog),P.J.、Overview.Type I interferons as primers,activators and inhibitors of innate and adaptive immune responses(概要:自然免疫応答および適応免疫応答のプライマー、活性化因子および阻害因子としてのI型インターフェロン)、Immunology and Cell Biology、2012、90(5):p.471-473。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13(A)】
図13(B)】
図14
図15
図16(A)】
図16(B)】
図17
図18
【配列表】
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