(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/06 20060101AFI20230220BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20230220BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20230220BHJP
A01M 1/20 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
A01N25/06
A01N53/06 110
A01P7/04
A01M1/20 C
(21)【出願番号】P 2020572236
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004980
(87)【国際公開番号】W WO2020166535
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2019025647
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼林 良輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋子
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-191639(JP,A)
【文献】特開2007-320639(JP,A)
【文献】特開2009-227286(JP,A)
【文献】特開2008-254751(JP,A)
【文献】特許第5517496(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 53/06
A01N 25/06
A01P 7/04
A01M 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫防除成分であるトランスフルトリン及び/又はメトフルトリン
と低級アルコール及び/又は炭化水素系溶剤
からなる有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤が封入される耐圧容器と、
ステムとステムラバーとスプリングとを含む弁機構、及び前記弁機構を収容するハウジングを有し、前記耐圧容器の口部に組み付けられる定量噴射バルブと、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備えた蚊類防除用エアゾールであって、
前記エアゾール原液(a)と前記噴射剤(b)との容量比率(a/b)は、6/94~50/50であり、
前記ステムラバーの材質は、アクリロニトリルブタジエンゴムであり、
前記スプリングは、強化スプリングであり、
前記ステムは、前記強化スプリングの螺旋の内側を貫通しており、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~1.0mLであり、
前記噴射口から噴射される噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が10~80μmであ
り、
前記強化スプリングは、バネ定数が3.3N/mm以上のスプリングである蚊類防除用エアゾール。
【請求項2】
前記害虫防除成分は、トランスフルトリンである
請求項1に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項3】
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率が0.05~5%であり、且つ前記害虫防除成分の効果持続時間が33.3m
3以下の空間に対して18時間以上である
請求項1又は2に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項4】
前記噴射口から噴射される前記噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が25~70μmである
請求項1~3の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項5】
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.2mLである
請求項1~4の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項6】
前記噴射ボタンを1回押下したときの前記害虫防除成分の噴射量が18.8~33.3m
3の処理空間あたり5.0~30mgである
請求項1~5の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項7】
前記有機溶剤は、炭素数が2~3の低級アルコールである
請求項1~6の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項8】
前記エアゾール原液は、トランスフルトリンの感受性低下対処助剤として、炭素数の総数が13~20の高級脂肪酸エステル及び/又は炭素数が3~6のグリコール類を含有する
請求項2~7の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾールを用いて前記エアゾール原液を処理空間に噴射して蚊類をノックダウン又は死滅させる蚊類防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤が封入される耐圧容器と、耐圧容器の口部に組み付けられる定量噴射バルブと、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンとを備えた蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛翔害虫を駆除する方法として、例えば、殺虫成分を含む薬剤を含浸させた担体から薬剤を蒸散させて処理空間に揮散させる方法、飛翔害虫に薬剤を直接噴霧する方法、飛翔害虫が現われ易い場所に予め薬剤を噴霧しておく方法等がある。これらの方法に関し、屋内に侵入する飛翔害虫を駆除する製品として、殺虫成分を含有するエアゾール殺虫剤が開発されている。エアゾール殺虫剤は処理空間に殺虫成分を簡単に噴霧することができるため、使い勝手の良い製品として広く利用されている。
【0003】
従来、エアゾール殺虫剤に関して、室内の気中における薬剤の残存率の低下を抑制するものがあった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、薬剤を放出した後、その薬剤を空気中にとどめて気中濃度の低下を抑制することで、物陰に潜む蚊に対して十分な駆除効果を持続させることができるとしている。
【0004】
また、薬剤を室内に噴霧した場合の粒子径を特許文献1より大きく設定したエアゾール殺虫剤があった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2は、特許文献1と同様の技術思想に基づくエアゾール殺虫剤であり、薬剤を室内の気中にできるだけ長く残存させ、蚊に対する殺虫効果を高めようとするものである。
【0005】
一方、エアゾール殺虫剤に関し、室内の構造物または備品の表面に付着させることを特徴とする家屋室内における飛翔性害虫の駆除方法があった(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3によれば、室内の構造物等に付着させた特定の化合物が蒸散するため、繰り返し噴霧や、電気器具等の継続的な運転を必要とせず、簡便な手段によって家屋内飛翔性害虫を効率的に駆除することができるとされている。
【0006】
また、定量噴射タイプのエアゾール殺虫剤が普及していることを鑑み、本発明者らは、メトフルトリン、プロフルトリン及びトランスフルトリンからなる群から選択される少なくとも1種の害虫防除成分を使用し、溶剤として炭素数が2~3の低級アルコールを使用するとともに、噴射力、噴霧粒子の粒子径分布、及び噴霧粒子の室内の床面や壁面への付着効率を特定し、処理空間を5~12時間にわたり飛翔害虫及び匍匐害虫のいずれも防除可能な、定量噴射タイプのエアゾールによる害虫防除方法を開発した(特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-17055号公報
【文献】特開2013-99336号公報
【文献】特開2001-328913号公報
【文献】特許第5517496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のエアゾール殺虫剤は、室内に拡散する薬剤の粒子径を調整することによって薬剤が気中に残存する時間を長くし、薬剤の持続時間を長時間にすることが試みられている。しかし、処理開始から12時間以上での薬剤粒子の気中残存率は0.5%以上であり、気中残存率の維持を目的とする特許文献1のエアゾール殺虫剤では、持続時間に限度がある。特許文献2においても、薬剤粒子の気中残存率は特許文献1と同様であり、長期の持続時間を期待できるエアゾール殺虫剤ではない。
【0009】
ここで、防除対象である蚊類(通常の蚊であるアカイエカ、ヒトスジシマカ等のみならず、カ亜目に属するユスリカ類やチョウバエ類等も含むものとする。)のうち、特に、アカイエカやヒトスジシマカは、吸血するだけでなく感染症を媒介する蚊であるため、これらの蚊から身を守ることが必要であり、従来に増して効果的な駆除方法の確立が求められている。蚊類は、昼夜を問わず屋内に侵入する飛翔害虫であるため、一日中、つまり、効果を奏する持続時間が24時間であるような殺虫剤が理想的である。
【0010】
ところが、上記のとおり、特許文献1、及び特許文献2に開示されているエアゾール殺虫剤では、12時間程度しか効果が持続しない。また、特許文献1、及び特許文献2は、薬剤の粒子径を調整することにより、気中に積極的に薬剤を残存させるものであるが、薬剤粒子が気中に残存しているということは、処理空間内にいる人やペットが当該薬剤を吸入する環境に長時間置かれるということである。そのため、人体やペットへの影響という点においても、好ましいエアゾール殺虫剤とは言い難い。
【0011】
特許文献3の駆除方法においても、安定した効果を長時間に亘って維持できるかどうか不明である。空気中に噴射された薬剤粒子は、(A)空気中に浮遊し残存する、(B)床や壁に付着する、(C)(B)の後に再び揮散する、もしくは(D)光等により分解し消失する、の何れかの挙動を辿ると考えられる。これらに照らしてみた場合、特許文献3の駆除方法は、(C)のタイプに該当する。しかしながら、室内の構造物等に付着した薬剤が再び空気中に揮散する場合、温度や風量等の影響を受け易いため、特許文献3の駆除方法では、飛翔害虫の駆除に対して安定した効果を得られるとは限らない。
【0012】
特許文献4の害虫防除方法において溶剤として使用する炭素数が2~3の低級アルコールは、高級脂肪酸エステル等の他の溶剤に較べると速乾性が高く、噴射後速やかに揮発することで噴射粒子中の害虫防除成分濃度が高まり防除効果が向上するため、定量噴射タイプのエアゾールにおいて有用性の高い溶剤である。しかしながら、特許文献4の害虫防除方法で用いられるエアゾール殺虫剤についても、害虫防除効果は12時間程度しか持続しない。また、溶剤として2~3の低級アルコールを使用した定量噴射タイプのエアゾールについて、本発明者らが様々な検討を行ったところ、定量噴射タイプのエアゾールの繰り返し使用後に、定量噴射バルブの作動安定性に影響を及ぼす可能性があることが判明し、特許文献4のエアゾール殺虫剤においても、なお改善の余地が残されている。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、繰り返し使用後の定量噴射バルブの作動安定性を向上させつつ、飛翔害虫の中でも、特に、蚊類に対して優れた防除効果を長時間に亘って発揮することができ、しかも、人体やペットへの影響を低減した蚊類防除用エアゾール、及び当該蚊類防除用エアゾールを用いた蚊類防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明に係る蚊類防除用エアゾールの特徴構成は、
害虫防除成分であるトランスフルトリン及び/又はメトフルトリンと有機溶剤である低級アルコール及び/又は炭化水素系溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤が封入される耐圧容器と、
ステムとステムラバーとスプリングとを含む弁機構、及び前記弁機構を収容するハウジングを有し、前記耐圧容器の口部に組み付けられる定量噴射バルブと、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備えた蚊類防除用エアゾールであって、
前記エアゾール原液(a)と前記噴射剤(b)との容量比率(a/b)は、6/94~50/50であり、
前記ステムラバーの材質は、アクリロニトリルブタジエンゴムであり、
前記スプリングは、強化スプリングであり、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~1.0mLであり、
前記噴射口から噴射される噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が10~80μmであることにある。
【0015】
「発明が解決しようとする課題」にて述べたとおり、従来のエアゾール殺虫剤は、処理空間に積極的に薬剤粒子を拡散させ、気中に残存する時間をできるだけ長期化させる方向で開発が進められていた。しかし、処理空間に浮遊している薬剤粒子の滞留時間が長時間になると、処理空間内に人やペットが立ち入った場合、薬剤粒子を吸入する可能性があるため、健康への影響が懸念される。
【0016】
ところで、本発明者らの研究により、蚊を代表とする蚊類(以下、本発明においては、単に「蚊類」と称する。)は飛んでいる時間よりも、壁面等に止まっている時間の方が長いことが判明した。すなわち、屋内に侵入してきた蚊類の大半は壁面等に止まり、人を吸血する機会を窺っているということになる。このため、従来のように、処理空間内の薬剤粒子が浮遊する時間を長期化させる手法は、飛翔中の蚊類の防除に対しては一定の効果を奏することができるが、壁面等に止まっている蚊類に対しては薬剤の効果を充分に及ぼすことができず、結果的に、蚊類の防除が不完全となり得る。本発明者らは、上記の研究結果から、壁面等に止まっている蚊類に対する防除の効果を高めることが、人やペットが薬剤を吸入することを抑制しつつ、屋内に侵入してくる蚊類全体の防除の向上に繋がると考えた。
【0017】
そこで、本発明の蚊類防除用エアゾールでは、エアゾール原液が処理空間に噴射されると、その噴射粒子が処理空間内の露出部(例えば、処理空間内に存在する床面や壁面、家具等の構造物の表面等)に移動し、露出部に付着するようにした。これにより、露出部に止まっている蚊類、及び処理空間を飛んでいる蚊類の両方の蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができ、蚊類全体の防除効果を向上させることができる。エアゾールの噴射粒子に関し、本発明者らは鋭意検討の末、害虫防除成分としてトランスフルトリン及び/又はメトフルトリンを使用し、有機溶剤として低級アルコール及び/又は炭化水素系溶剤を使用するエアゾール原液を使用すれば、蚊類の防除に適した粒子の形成が有利になることを突き止めた。この場合、噴射粒子に含まれる害虫防除成分の効果を確実、且つ効率良く発揮させることができる。また、エアゾール原液の調製を容易に行うことができる。
【0018】
続いて、エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が6/94~50/50、噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~1.0mLとなるように調整した場合、噴射粒子は迅速に処理空間内の露出部に移動して付着する。その結果、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0019】
さらに、噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が10~80μmの範囲となるように形成される。このような範囲であれば、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0020】
また、本発明の蚊類防除用エアゾールの定量噴射バルブは、ステムとステムラバーとスプリングとを含む弁機構、及び弁機構を収容するハウジングとを有するが、ステムラバーの材質をアクリロニトリルブタジエンゴムとし、スプリングとして強化スプリングを採用することにより、定量噴射バルブの作動安定性が向上し、蚊類防除用エアゾールを繰り返し使用した後にも押下した噴射ボタンの戻り状態が良いものとなる。
【0021】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記強化スプリングは、バネ定数が3.3N/mm以上のスプリングであることが好ましい。
【0022】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、スプリングとしてバネ定数が3.3N/mm以上のスプリングを採用することにより、定量噴射バルブの作動安定性がさらに向上し、蚊類防除用エアゾールの噴射ボタンを繰り返し多数回押下しても確実に元に戻ることから、エアゾールとしての品質及び性能を長期に亘って維持することができる。
【0023】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記害虫防除成分は、トランスフルトリンであることが好ましい。
【0024】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、害虫防除成分が、トランスフルトリンである場合、より効果的に蚊類を防除することができる。
【0025】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率が0.05~5%であり、且つ前記害虫防除成分の効果持続時間が33.3m3以下の空間に対して18時間以上であることが好ましい。
【0026】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、害虫防除成分の2時間経過後の気中(処理空間内)残存率が0.05~5%であり、且つ害虫防除成分の効果持続時間が33.3m3以下の空間に対して18時間以上であるように調整されていることにより、処理空間に噴射された噴射粒子は、処理空間内の露出部に迅速に移動して付着する。一方、処理空間中に漂う噴射粒子は、露出部に付着した噴射粒子の分低減されることとなる。つまり、本発明の蚊類防除用エアゾールは、従来品のように処理空間全体にエアゾール原液が拡散するものではないため、従来品よりも人体やペットに影響を及ぼす虞が格段に低減されたものとなる。そして、処理空間中に漂う噴射粒子の害虫防除成分により、処理空間中を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させる効果を発揮することもできる。しかも、本発明に係る蚊類防除用エアゾールであれば、エアゾール原液を処理空間にたった1回噴射するだけで、33.3m3以下の空間に対して18時間以上に亘って害虫防除効果を持続させることができるため、一日の大半に亘って害虫を寄せ付けない快適な空間を維持することができる。
【0027】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記噴射口から噴射される前記噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が25~70μmであることが好ましい。
【0028】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、噴射粒子が上記の最適な範囲に調整されることにより、噴射粒子が処理空間内の露出部により迅速に移動して付着する。このため、露出部に止まっている蚊類をより確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0029】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.2mLであることが好ましい。
【0030】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、噴射容量が上記のような最適な範囲に調整することにより、噴射された噴射粒子がより適した状態で存在し、害虫防除成分の効果を最大限発揮することができる。
【0031】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記噴射ボタンを1回押下したときの前記害虫防除成分の噴射量が18.8~33.3m3の処理空間あたり5.0~30mgであることが好ましい。
【0032】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、噴射ボタンを1回押下したときの害虫防除成分の噴射量が、上記の最適な範囲になるように調整されているため、噴射粒子は迅速に処理空間内の露出部に移動して付着する。その結果、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0033】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記有機溶剤は、炭素数が2~3の低級アルコールであることが好ましい。
【0034】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、有機溶剤が、炭素数が2~3の低級アルコールである場合、害虫防除成分の効果をより効率良く発揮させることができる。
【0035】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記エアゾール原液は、トランスフルトリンの感受性低下対処助剤として、炭素数の総数が13~20の高級脂肪酸エステル及び/又は炭素数が3~6のグリコール類を含有することが好ましい。
【0036】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、炭素数の総数が13~20の高級脂肪酸エステル及び/又は炭素数が3~6のグリコール類は、トランスフルトリンと組み合わせて用いた場合、感受性低下対処助剤として作用するので、トランスフルトリンに対して感受性が低下した蚊類に対しても高い防除効果を発揮することができる。
【0037】
上記課題を解決するための本発明に係る蚊類防除方法の特徴構成は、
前記の何れか一つに記載の蚊類防除用エアゾールを用いて前記エアゾール原液を処理空間に噴射して蚊類をノックダウン又は死滅させることにある。
【0038】
本構成の蚊類防除方法は、本発明の蚊類防除用エアゾールを用いて実行するものであるため、上述したとおりの優れた蚊類防除効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、本発明に係る蚊類防除用エアゾールが備える定量噴射バルブの断面図である。
【
図2】
図2は、処理空間にエアゾール原液を噴射したときの噴射粒子の挙動を示したモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の蚊類防除用エアゾールは、害虫防除成分であるトランスフルトリン及び/又はメトフルトリンと有機溶剤として用いられる低級アルコール及び/又は炭化水素系溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤が封入される耐圧容器と、耐圧容器の口部に組み付けられる定量噴射バルブと、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンとを備える。以下、本発明の蚊類防除用エアゾールについて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0041】
<エアゾール原液>
[害虫防除成分]
エアゾール原液の主成分の一つである害虫防除成分としては、ピレスロイド系化合物に該当するトランスフルトリン及び/又はメトフルトリンを使用する。また、トランスフルトリン、メトフルトリンには、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、それらも本発明に含まれる。好ましい害虫防除成分は、トランスフルトリンである。トランスフルトリンは、ピレスロイド系化合物に対する感受性が低下した飛翔害虫に対しても、メトフルトリンやプロフルトリンに較べて有利に対処できる。そのため、害虫防除成分としてトランスフルトリンを使用した場合、本発明の蚊類防除用エアゾールは、ピレスロイド抵抗性系統の飛翔害虫に対しても、その防除効果の低下は比較的小さいものとなる。
【0042】
エアゾール原液中の害虫防除成分の含有量は、有機溶剤として用いられる低級アルコール及び/又は炭化水素系溶剤に溶解させた後、処理空間に噴射されることを考慮して、1.0~60重量%とすることが好ましい。このような範囲であれば、害虫防除成分が低級アルコール及び/又は炭化水素系溶剤(有機溶剤)に溶解し易く、また、エアゾール原液が噴射された際、噴射粒子が最適な状態で形成され、害虫防除成分の効果を奏することができる。エアゾール原液中の害虫防除成分の含有量が1.0重量%未満である場合、害虫防除成分を効果的に発揮することができず、蚊類の防除効果が不十分となる。一方、エアゾール原液中の害虫防除成分の含有量が60重量%を超える場合、害虫防除成分の濃度が高くなるため、エアゾール原液を適切に調製し難くなる。
【0043】
上述のとおり、本発明の蚊類防除用エアゾールに含有される害虫防除成分は、トランスフルトリン及び/又はメトフルトリンであるが、これに加えて、プロフルトリン、メパフルトリン、エムペントリン、ジメフルトリン、モンフルオロトリン、ヘプタフルスリン、フタルスリン、レスメトリン、シフルトリン、フェノトリン、ぺルメトリン、シフェノトリン、シペルメトリン、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン、イミプロトリン、エトフェンプロックス等の他のピレスロイド系化合物、シラフルオフェン等のケイ素系化合物、ジクロルボス、フェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物等を含有させることも可能である。
【0044】
害虫防除成分は、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、2時間経過後の気中(処理空間中)残存率が0.05~5%となるように調整されることが好ましい。気中残存率は、噴射直後に処理空間に存在する粒子の数(P)に対する所定時間経過後の処理空間に存在する粒子の数(Q)の割合、すなわち、Q/P × 100(%)で表されるが、簡易的には後述の実施例で説明するように、理論上の害虫防除成分の気中濃度(重量ベース)、及び所定時間経過後における害虫防除成分の気中濃度(重量ベース)から求めることができる。エアゾール原液の噴射量は、トランスフルトリンの噴射量として、18.8~33.3m3の処理空間(面積7.5~13.3m2、高さ2.2~3.0mの4.5~8畳の部屋に相当する)あたり5.0~30mgに調整することが好ましい。このような範囲であれば、エアゾール原液から噴射粒子が最適に形成され、害虫防除効果を発揮することができる。また、上記のように比較的低い気中残存率であっても、蚊類に対して効果的にノックダウン又は死滅させることができる。さらに、処理空間内にいる人やペットが吸入しても人体やペットに影響を及ぼす虞がなく、安全に使用することもできる。
【0045】
[有機溶剤]
エアゾール原液の主成分には、上記の害虫防除成分の他に有機溶剤が含まれる。有機溶剤は、上記の害虫防除成分を溶解してエアゾール原液を調製することができ、また、調製したエアゾール原液を処理空間に噴射したとき、最適な噴射粒子を形成し得るものが使用される。本発明の蚊類防除用エアゾールにおいては、有機溶剤として低級アルコール及び/又は炭化水素系溶剤が用いられる。低級アルコールは、炭素数が2~3のものが好ましい。炭素数が2~3の低級アルコールとしては、エタノール、ノルマルプロパノールやイソプロパノール(IPA)があげられる。炭化水素系溶剤としては、ノルマルパラフィンやイソパラフィンがあげられる。これらのうち、炭素数が2~3の低級アルコールが好適であり、エタノールが特に好適である。炭素数が2~3の低級アルコールは、速乾性が高く噴射後速やかに揮発するので噴射粒子中の害虫防除成分濃度が高まり、蚊類の防除に適した粒子を形成し、噴射粒子に含まれる害虫防除成分の効果を確実、且つ効率良く発揮させることができる。また、エアゾール原液の調製を容易に行うことができる。また、有機溶剤として、更に、グリコールエーテル類等を混合することも可能である。
【0046】
[感受性低下対処助剤]
エアゾール原液には、ピレスロイド系化合物の感受性低下対処助剤として、炭素数の総数が13~20の高級脂肪酸エステル、及び/又は炭素数が3~6のグリコール類を配合することが好ましい。炭素数の総数が13~20の高級脂肪酸エステルとしては、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)、ミリスチン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸イソプロピル等が挙げられる。炭素数が3~6のグリコール類としては、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール等があげられる。本発明者らは、上記した炭素数の総数が13~20の高級脂肪酸エステルや炭素数が3~6のグリコール類が、ピレスロイド系化合物に対する感受性が低下した害虫、特に蚊類に対して特異的に有効で、その作用を感受性低下対処助剤として活用できることを見い出した。これらをエアゾール原液中に2.0~20重量%配合することは特に有用性を高め得るものである。なお、従来、ピレスロイド感受性の害虫に対し、その本来の殺虫効果を増強させる化合物を「効力増強剤」と称することが多いが、本明細書においては、感受性が低下した害虫を対象とした場合に防除効果の低下度合を軽減するような化合物を、従来の「効力増強剤」と区別し、「感受性低下対処助剤」と定義する。両者の作用メカニズムは明確に解明されているわけではないが、「効力増強剤」が必ずしも「感受性低下対処助剤」に該当するとは限らない。感受性低下対処助剤の配合量が2.0重量%未満であると、害虫防除効果の低下度合を小さくする効果が乏しくなる。一方、20重量%を超えて配合しても害虫防除効果が頭打ちとなるばかりか、エアゾール原液の性状に影響を及ぼす懸念がある。
【0047】
[その他の成分]
本発明の蚊類防除用エアゾールは、上記成分に加え、エアゾール原液に可溶化助剤として非イオン系界面活性剤を添加することもできる。非イオン系界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類などのエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミド等が挙げられ、これらのうち、エーテル類を好適に使用することができる。
【0048】
また、殺ダニ剤、カビ類や菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤、殺菌剤、芳香剤、消臭剤、安定化剤、帯電防止剤、消泡剤、賦形剤、共力剤等を適宜配合することもできる。殺ダニ剤としては、5-クロロ-2-トリフルオロメタンスルホンアミド安息香酸メチル、サリチル酸フェニル、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート等が挙げられる。防カビ剤、抗菌剤、及び殺菌剤としては、ヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等が挙げられる。芳香剤としては、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α-ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分等が挙げられる。共力剤としては、ピペロニルブトキサイド、オクチルビシクロヘプテンジカルボキシミド等が挙げられる。
【0049】
<噴射剤>
本発明の蚊類防除用エアゾールで用いる噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、ハイドロフルオロオレフィン等の液化ガス、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等の圧縮ガスが挙げられる。上記の噴射剤は、単独又は混合状態で使用することができるが、LPGを主成分としたものが使い易い。
【0050】
本発明の蚊類防除用エアゾールは、エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が、6/94~50/50となるように調整される。このような範囲に調整すれば、耐圧容器に設けられる定量噴射バルブに接続された噴射口から噴射粒子を最適に形成することができる。そして、一旦噴射された噴射粒子は、迅速に処理空間内の露出部に移動し、付着することができる。一方、噴射粒子のうち露出部に付着しなかった噴射粒子は、処理空間中に漂うこととなるが、人体やペットに影響を与えない程度の量で存在している。このように、噴射粒子は処理空間中に最適な状態で存在し、害虫防除効果を最大限発揮することができる。容量比率(a/b)が6/94に対して、噴射剤(b)の割合を大きくする、つまり、耐圧容器内に封入する噴射剤を多量にすると、噴射されるエアゾール原液から形成される噴射粒子が必要以上に微細化されるため、処理空間内の露出部に付着する噴射粒子の量が減少する。これにより、露出部に止まっている蚊類を確実に防除することができない場合がある。一方、容量比率(a/b)が50/50に対して、噴射剤(b)の割合を小さくする、つまり、耐圧容器内に封入する噴射剤を少量にすると、噴射されるエアゾール原液から上記の最適な範囲の噴射粒子として形成することが困難となるため、噴射された噴射粒子はすぐに沈降する。そのため、噴射粒子は量的に不十分となり、蚊類を早期にノックダウン又は死滅させることが困難になる。
【0051】
<蚊類防除用エアゾール>
本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、主に、耐圧容器(エアゾール容器)、定量噴射バルブ、及び噴射ボタンから構成されている。上記のように、害虫防除成分、有機溶剤、噴射剤、その他必要に応じて配合される成分を選択し、これらを口部に定量噴射バルブを組み付けた耐圧容器に封入し、噴射口が設けられた噴射ボタンを定量噴射バルブに接続することで、エアゾール製品が完成する。このエアゾール製品は、本発明の蚊類防除用エアゾールであり、処理空間にエアゾール原液を噴射粒子として噴射するものである。エアゾール原液は、主に、害虫防除成分と有機溶剤とを含むものであり、厳密には噴射剤とは別のものであるが、エアゾール原液は噴射剤と同時に耐圧容器の外部に放出されるため、以降の説明では、エアゾール原液及び噴射剤を含むエアゾール内容物を「エアゾール原液」として取り扱う場合がある。
【0052】
<定量噴射バルブ>
図1は、本発明に係る蚊類防除用エアゾールが備える定量噴射バルブ100の断面図である。定量噴射バルブ100は、耐圧容器の口部に固着され、噴射ボタンに接続する。噴射ボタンは、エアゾール原液を噴射するための作動部であり、この噴射ボタンには、エアゾール原液がエアゾール容器から外部(処理空間)へ噴出する噴射口が設けられている。定量噴射バルブ100は、ステム11とステムラバー12とスプリング13とを含む弁機構10と、弁機構10を収容するハウジング20とを有する。スプリング13には、強化スプリングを採用する。また、ステムラバー12の材質として、アクリロニトリルブタジエンゴムを使用する。本発明の蚊類防除用エアゾールにおいて有機溶剤として用いる炭素数が2~3の低級アルコールは、高級脂肪酸エステル等の他の溶剤に較べると速乾性で噴射後速やかに揮発するので、噴射粒子中の害虫防除成分濃度がアップする。この点では、定量噴射タイプのエアゾールにおいて有用性の高い溶剤であるが、エアゾールの繰り返し使用後に、定量噴射バルブの作動安定性に影響を及ぼす可能性がある。繰り返し使用後の定量噴射バルブの作動安定性を向上する手段としては、ステムラバーの材料の改質が考えられるが、溶剤とステムラバーとの適合性を検証するには数多くのファクターが存在する。この点を考慮し、(1)ステムラバーの材料の改質に加えて、(2)構造仕様の変更にも着目して、ステムラバーの材質としてアクリロニトリルブタジエンゴムを使用し、また、スプリングとして強化スプリングを採用することによって、定量噴射バルブの作動安定性を向上できることを知見し、本発明を完成したものである。強化スプリングは、バネ定数が3.3N/mm以上のスプリングであることが好ましい。ここで、バネ定数は、以下の式(1):
バネ定数(N/mm)=(横弾性係数×線径の4乗)/(8×有効巻数×中心径の3乗) ・・・(1)
から算出することができる。バネ定数が3.3N/mm以上のスプリングとしては、例えば、株式会社三谷バルブ製の強化スプリング(品番:SP-C321)等が挙げられる。株式会社三谷バルブ発行のカタログによれば、従来スプリング(品番:SP-C314)は、材質がステンレス(SUS304)であり、線径がφ0.55mmであり、巻数が9 3/4であるのに対し、強化スプリングは、その線径をφ0.55mmからφ0.6mmに太くし、バネ圧が高められている。
【0053】
定量噴射バルブ100において、定量室21には、耐圧容器から所定量のエアゾール原液が導入され、蚊類防除用エアゾールの噴射ボタンを1回押下げた場合、噴射剤の圧力によって定量噴射バルブ100が作動し、定量室21内のエアゾール原液が噴射口に上昇し、処理空間に噴射される。このときのエアゾール原液の噴射容量は、0.1~1.0mLに調整され、好ましくは0.1~0.2mLに調整される。本発明の蚊類防除用エアゾールによれば、アクリロニトリルブタジエンゴム製のステムラバーと、強化スプリングとが協働することで、定量噴射バルブの作動安定性が向上し、エアゾール原液の噴射容量が一層安定化される。エアゾール原液の噴射容量が上記の範囲であれば、噴射されたエアゾール原液から形成される噴射粒子は、処理空間において最適に防除効果を発揮し得るものとなる。噴射容量が0.1mL未満の場合、噴射容量が少な過ぎて処理空間内の露出部に移動する噴射粒子が少量となるため、露出部に付着する噴射粒子の量が不十分となり、露出部に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させることが困難となる。また、噴射粒子の全体的な量が少量となるため、処理空間中に漂う噴射粒子も少量となり、処理空間を飛んでいる蚊類に対してもノックダウン又は死滅させることが困難となる。一方、噴射容量が1.0mLを超えると、処理空間に必要以上の量のエアゾール原液が噴射粒子として放出されるため、人やペットへの影響が懸念される。また、エアゾール原液の使用量も過大となるため、経済的にも不利である。
【0054】
また、害虫防除成分の噴射量は、前述のように、18.8~33.3m3の処理空間あたり5.0~30mgに調整され、好ましくは、6.1~25mgに調整される。ちなみに、18.8~33.3m3の空間は、4.5~8畳の部屋に相当する。このような範囲であれば、害虫防除効果が適切に発揮され、処理空間中の蚊類を確実にノックダウン又は死滅させることができる。害虫防除成分の噴射量が5.0mgより少ない場合、処理空間内の露出部に付着する噴射粒子が少量となるため、害虫防除成分の効果に劣り、露出部に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させることが困難となる。一方、害虫防除成分の噴射量が30mgを超えると、処理空間に必要以上の量の害虫防除成分が放出されるため、人やペットへの影響が懸念される。また、害虫防除成分の使用量も過大となるため、経済的にも不利である。
【0055】
本発明の蚊類防除用エアゾールは、噴射口からの距離が20cmの箇所において、噴射力が25℃において0.3~20.0g・f、好ましくは0.3~10.0g・fとなるように調整されている。このような範囲であれば、1回の噴射によって噴射口から噴射される噴射粒子を処理空間内の露出部に迅速に到達させることができ、害虫防除成分の効果を発揮させることができる。このような噴射力は、エアゾール原液の組成、エアゾール容器の内圧、噴口の形状等により適宜調整され得る。なお、本実施形態では、蚊類防除用エアゾールの噴射力を、デジタルフォースゲージ(FGC-0.5、日本電産シンポ株式会社製)により測定した。さらに、噴射口の噴口径は0.2~1.0mmに設定することが好ましい。この範囲であれば、上記の粒子径、及び噴射力に適切に調整することができ、処理空間に噴射されたエアゾール原液から噴射粒子が最適に形成され、害虫防除効果を発揮することができ、処理空間内の蚊類を確実にノックダウン又は死滅させるこができる。
【0056】
図2は、処理空間にエアゾール原液を噴射したときのエアゾール原液から形成された噴射粒子の挙動を示したモデル図である。
図2(a)は、従来製品に係る蚊類防除用エアゾールを処理空間に噴射した場合のモデル図であり、
図2(b)は、本発明に係る蚊類防除用エアゾールを処理空間に噴射した場合のモデル図である。
図2(a)に示されるように、従来の蚊類防除用エアゾール製品(単に「従来品」とする)は、エアゾール原液が処理空間に噴射されると、粒子径10μm未満の粒子Mとなって処理空間中に拡散する。噴射して暫く経過すると、粒子Mは処理空間全体にさらに拡散し、害虫防除成分が処理空間に行き渡る。これにより、処理空間中を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。しかし、上記のとおり、蚊類は飛んでいる時間よりも処理空間内の露出部に止まっている時間の方が長いため、従来品ではこのような処理空間内の露出部に止まっている蚊類まで確実にノックダウン又は死滅させることができない。また、処理空間の窓を開ける等して風が吹き込んできた場合、処理空間中に浮遊している粒子Mの一部は風に流されてしまい、害虫防除成分の効果が大幅に減少する。さらに、粒子Mが処理空間に浮遊している時間が長時間になると、処理空間内にいる人やペットが粒子Mを吸入する量が増えるため、人体やペットに悪影響を及ぼす虞もある。そこで、本発明者らは、これらの問題を解決する新規な蚊類防除用エアゾール製品を開発した。以下、本発明に係る蚊類防除用エアゾール製品において特徴的な噴射粒子について説明する。
【0057】
[噴射粒子]
図2(b)に示されるように、エアゾール原液を処理空間に1回噴射すると、エアゾール原液から噴射粒子Rが形成される。噴射された噴射粒子Rは、処理空間内の露出部に速やかに移動して付着する。ここで、噴射粒子Rのうち露出部に付着した状態の噴射粒子Rを粒子Xとする(
図2(b)において白丸で示されている。以下、粒子Xは、「噴射粒子Rのうち露出部に付着した噴射粒子R」を意味するものとする。)。一方、露出部に付着せず、処理空間中に漂っている状態の噴射粒子Rを粒子Yとする(
図2(b)において黒丸で示されている。以下、粒子Yは、「噴射粒子Rのうち露出部に付着せず、処理空間中に漂っている噴射粒子R」を意味するものとする。)。噴射粒子Rが露出部に移動して付着する(つまり、粒子Xとして存在する)ための好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が10~80μmである。このような範囲であれば、処理空間に噴射された噴射粒子Rは、
図2(b)に示されるように、処理空間内の露出部に確実に移動して付着し、粒子Xとなる。その結果、露出部に止まっている蚊類を噴射粒子の害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入し、露出部に止まろうとしている蚊類に対しても害虫防除効果を奏するため、処理空間外へ追い出すことも可能となる。噴射粒子Rの粒子径が10μm未満であると、粒子径が小さ過ぎて露出部まで到達する噴射粒子Rの量が低減することとなる。このため、露出部に止まっている、あるいは、止まろうとしている蚊類を防除することが困難となる。一方、粒子径が80μmを超えると、粒子径が大き過ぎて噴射粒子Rの挙動をコントロールし難くなり、露出部に適切に付着させることが困難となる。噴射粒子Rのより好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径25~70μmである。なお、
図2(b)では、説明の便宜上、粒子Xと粒子Yとを区別するために粒子Xを白丸、粒子Yを黒丸で示したが、どちらの粒子も同一の粒子であり、噴射粒子Rに由来する粒子である。なお、本実施形態では、蚊類防除用エアゾールの噴射粒子の25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径を、スプレーテック(STP5321、Malvern社製)により測定した。
【0058】
また、処理空間内の露出部への噴射粒子Rの好ましい付着量は、当該露出部1m2当たり0.01~0.4mgであり、好ましくは、1m2当たり0.05~0.2mgである。このような範囲であれば、露出部に止まっている蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができる。付着量が1m2当たり0.01mg未満であると、露出部に止まっている蚊類に対し充分な防除効果を奏することができず、蚊類をノックダウン又は死滅させることが困難となる。一方、付着量が1m2当たり0.4mgを超えても、害虫防除効果は大きく向上することはなく、また、エアゾール原液の使用量も過大となるため、経済的にも不利である。
【0059】
なお、粒子Yも上記の粒子Xと同様に、蚊類に対し害虫防除効果を発揮することができる。粒子Yは、露出部に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させることができないが、処理空間中を飛んでいる蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しても効果を奏するため、処理空間内への侵入を抑制することも可能となる。このように、処理空間に噴射された噴射粒子Rは、粒子Xあるいは粒子Yの状態となって存在し、夫々の状態を生かして処理空間内の蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができる。
【0060】
上記のように、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した直後において、噴射粒子Rは、処理空間内の露出部へと素早く移動し、付着した状態の粒子X、及び露出部に付着せず処理空間中を漂う状態の粒子Yとなる。1回噴射してから暫く経過しても、粒子Xは露出部に付着した状態を維持しており、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。一方、粒子Yは、処理空間全体に満遍なく拡散が進行し、害虫防除成分が徐々に揮散してゆき、処理空間中を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しては、侵入を防ぐことが可能である。万が一、処理空間内に侵入してきた場合であっても、処理空間内の露出部に当該蚊類が止まったり、露出部付近に近づいてきた場合、当該露出部に付着している粒子Xの害虫防除成分によって、確実にノックダウン又は死滅させることができる。このように、本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、噴射口から噴射された噴射粒子Rが最適な状態(粒子X、及び粒子Yの状態)で存在し、害虫防除効果を最大限発揮することができる。このため、処理空間中に存在する蚊類、及び処理空間内に侵入しようとする蚊類のどちらにも優れた防除効果を発揮することが可能な有用な製品と言える。
【0061】
また、処理空間に風が吹き込んできた場合、粒子Yの一部が風に流されてしまったとしても、露出部に付着している粒子Xが存在する。上記のとおり、処理空間中に存在する蚊類の大半は露出部に止まっている時間の方が長いため、粒子Xが所望の効果を発揮することができれば、粒子Yの量が減少しても、蚊類への防除効果が劣る心配はない。さらに、本発明の蚊類防除用エアゾールは、従来品のように、噴射されたエアゾール原液の略全てが処理空間中に拡散するのではない。処理空間中に拡散している害虫防除成分(つまり、粒子Yによる害虫防除成分)の濃度は、粒子Xの分低減している。従って、従来品と比較して処理空間の濃度は低いものとなり、害虫防除成分の吸入による人体やペットへの影響は低減され、安全な製品として提供することができる。
【0062】
本発明の蚊類防除用エアゾールによってエアゾール原液を処理空間に1回噴射したときの害虫防除成分の効果持続時間は、33.3m3以下の空間に対して、好ましくは18時間以上、より好ましくは20時間以上である。33.3m3以下の空間には、上述のように、4.5~8畳の居間(天井高2.5m)が含まれる。従って、本発明に係る蚊類防除用エアゾールであれば、一般住宅等の通常の居住空間において、略1日中害虫防除効果を持続させることができる。蚊類は昼夜を問わず屋内に侵入し、特に、就寝中に吸血されることを防ぐ必要がある。本発明に係る蚊類防除用エアゾールであれば、20時間以上に亘り害虫防除成分の効果が持続するため、例えば、夜間の就寝前に1回噴射しておけば、翌日の午後まで効果が持続し、安心して就寝することができる。
【0063】
<蚊類防除方法>
本発明の蚊類防除方法は、上記の蚊類防除用エアゾールを用いて実行される。まず、害虫防除成分であるトランスフルトリン及び/又はメトフルトリンと、有機溶剤として用いる低級アルコール及び/又は炭化水素系溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器において、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンを1回押すと、エアゾール原液が噴射口から噴射粒子Rとして処理空間へ噴射される(噴射工程)。このとき、
図2(b)に示されるように、噴射粒子Rは、迅速に処理空間内の露出部に移動し、付着した状態となる粒子X、及び露出部に付着せずに処理空間中を漂う状態の粒子Yとなる。噴射粒子Rのうち粒子Xは、処理空間内の壁面や床面、構造物等の表面に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させ、あるいは、これらの場所に止まろうとする蚊類に対しても効果を奏し、処理空間外へ追い出す。一方、噴射粒子Rのうち粒子Yは、処理空間を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができ、また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しても効果を奏し、処理空間内への侵入を抑制する。上記のような噴射粒子Rの害虫防除効果は、33.3m
3以下の空間に対して18時間以上、好ましくは20時間以上の長時間に亘って持続する。所定の時間が経過した後は、再度、エアゾール原液を処理空間に噴射すればよく、これにより、継続的に蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。
【0064】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、上記のとおり、害虫防除成分の効果持続時間が33.3m3以下の空間に対して18時間以上、好ましくは20時間以上、即ち、略1日である。このため、この蚊類防除用エアゾールを用いて実行される蚊類防除方法であれば、1日1回毎日決まった時刻に噴射する噴射工程を実行するだけで操作を完了させることができる。このように、誰でも簡単にエアゾール原液を処理空間に噴射することができ、且つ、噴射するタイミングを逃すことを防止することができる。
【実施例】
【0065】
本発明の蚊類防除用エアゾールについて、繰り返し使用後の定量噴射バルブの作動安定性、及び蚊類防除効果を確認するため、本発明の特徴構成を備えた蚊類防除用エアゾール(実施例1~13)を準備し、試験を行った。また、比較のため、本発明の特徴構成を備えていない蚊類防除用エアゾール(比較例1~6、参考例1~2)を準備し、同様の試験を行った。
【0066】
実施例1~13として、表1に示す組成及び条件にて蚊類防除用エアゾールを調製し、下記に示す試験を行った。なお、実施例2には、感受性低下対処助剤としてIPM(15重量%)を配合し、実施例3には、感受性低下対処助剤として1,3-ブチレングリコール(15重量%)を配合し、実施例5には、感受性低下対処助剤としてIPM(10重量%)を配合した。比較例1~6、及び参考例1~2についても、表1に示す組成及び条件にて蚊類防除用エアゾールを調製し、実施例と同様の試験を行った。なお、何れの蚊類防除用エアゾールにおいても、定量噴射バルブのステムラバーの材質にはアクリロニトリルブタジエンゴムを使用した。また、スプリングには、比較例1~2の蚊類防除用エアゾールにおいて、従来スプリング(表1中の「A」、線径0.55mm、横弾性係数6.85×104、中心径3.15mm、有効巻数7.75、ばね定数3.24N/mm)を用い、実施例1~13、比較例3~6、及び参考例1~2の蚊類防除用エアゾールにおいて、強化スプリング(表1中の「B」、線径0.6mm、横弾性係数6.85×104、中心径3.2mm、有効巻数8、バネ定数4.23N/mm)を用いた。
【0067】
【0068】
(1)繰り返し使用後の定量噴射バルブの作動安定性
供試蚊類防除用エアゾールにつき、繰り返し使用して噴射ボタンの戻り状態を調べ、繰り返し使用後の定量噴射バルブの作動安定性を以下の評価基準により評価した。
a:20回以上使用後も噴射ボタンの戻り状態に変化なし
b:3~7回使用後に噴射ボタンの戻り状態が悪化
c:1~2回使用後に噴射ボタンの戻り状態が非常に悪化
【0069】
(2)蚊成虫に対する防除効果
閉めきった25m3の部屋の中央で蚊類防除用エアゾールを斜め上方に向けて1回噴射し、この直後、アカイエカ雌成虫50匹を放ち、2時間暴露させた後、全ての供試蚊を回収した。その間、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫を数え、KT50値(分)を求めた。同じ部屋で、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから、12時間後、及び18時間後について同様の操作を行った。実施例1~10、比較例1~6及び参考例1~2では、アカイエカ雌成虫は、ピレスロイド感受性系統及びピレスロイド抵抗性系統の2種類を用いた。実施例11~13では、アカイエカ雌成虫は、ピレスロイド感受性系統のみを用いた。
【0070】
(3)噴射粒子の気中残存率
閉めきった25m3の部屋の中央に向けて蚊類防除用エアゾールを斜め上方に向けて1回噴射した。部屋の中央より50cm後方(壁面から130cm)、床上120cmの位置に空気捕集管(ガラス管にシリカゲルを充填し、両端を脱脂綿で詰めたもの)を設置し、真空ポンプに接続して噴射処理から2時間経過した後に所定量の空気を吸引した。空気捕集管をアセトンで洗浄し、捕集された害虫防除成分量をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、型式GC1700)により分析した。得られた分析値に基づき、害虫防除成分の気中濃度(重量ベース)を算出し、理論上の気中濃度に対する比率を気中残存率として求めた。
【0071】
上記(1)~(3)の試験結果を表2に示す。
【0072】
【0073】
定量噴射バルブにバネ定数が3.3N/mm以上の強化スプリングを用いた実施例1~13では、何れも20回以上使用後も噴射ボタンの戻り状態に変化がなく、繰り返し使用後の定量噴射バルブの作動安定性が良好であった。一方、定量噴射バルブにバネ定数が3.3N/mm未満の従来スプリングを用いた比較例1~2においては、3~7回使用後に噴射ボタンの戻り状態が悪化しており、繰り返し使用後の定量噴射バルブの作動安定性が格別良好とは言えなかった。また、比較例3のように、バネ定数が3.3N/mm以上の強化スプリングを用いたとしても、有機溶剤としてメチルエチルケトンを用いた場合には、1~2回使用後に噴射ボタンの戻り状態が非常に悪化し、噴射不良に繋がる虞がある状態となった。これは、メチルエチルケトンがアクリロニトリルブタジエンゴムを劣化させ、ステムラバーの弾性が低下したためと考えられる。このように、ステムラバーの材質と有機溶剤との適合性は極めて重要な検討項目であって、バネ定数が3.3N/mm以上の強化スプリングを採用しても、有機溶剤がアクリロニトリルブタジエンゴムに悪影響を与えるものであると、繰り返し使用後の定量噴射バルブの作動安定性を向上することはできないことが分かった。
【0074】
蚊成虫に対する防除効果については、実施例1~13は、害虫防除成分としてトランスフルトリン及び/又はメトフルトリンを含有する蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから18時間後もKT50値が有意な数値に維持されており、優れた蚊類防除効果を示すことが確認された。また、有機溶媒としてエタノールを用いた実施例1と、有機溶媒としてイソプロパノールを用いた実施例4と、有機溶媒としてネオチオゾールを用いた実施例10とは、トランスフルトリンの配合量が同じであるが、実施例1及び4の蚊類防除効果が優れ、とりわけ実施例1の蚊類防除効果がより優れることから、害虫防除成分のトランスフルトリンと組み合わせる有機溶剤としては、低級アルコール及び/又は炭化水素系溶剤のうち、炭素数が2~3の低級アルコール(エタノール又はイソプロパノール)が効果的で、このうち、エタノールがより効果的であることが分かった。
【0075】
更に、感受性低下対処助剤を配合していない実施例1と、感受性低下対処助剤を配合した実施例2~3とは、トランスフルトリンの配合量が同じであるが、実施例2~3では、ピレスロイド系化合物に対する感受性が低下したピレスロイド抵抗性系統のアカイエカに対しても、ピレスロイド感受性系統を対象とした場合と較べて防除効力の低下度合いが実施例1よりも小さかった。このことから、ミリスチン酸イソプロピルのような高級脂肪酸エステル類や1,3-ブチレングリコールのような炭素数が3~6のグリコール類を感受性低下対処助剤として配合することは、ピレスロイド抵抗性系統の蚊類を防除する上で極めて有効であることが確認された。なお、害虫防除成分としてプロフルトリンを使用した参考例1~2では、ピレスロイド抵抗性系統のアカイエカに対する防除効果が、ピレスロイド感受性系統を対象とした場合と較べて著しく劣り、この低下度合いはミリスチン酸イソプロピルを配合しても改善されなかった。従って、ピレスロイド抵抗性系統の蚊類に対してはトランスフルトリンが依然有効であり、また、ミリスチン酸イソプロピルのような高級脂肪酸エステル類や1,3-ブチレングリコールのような炭素数が3~6のグリコール類は、害虫防除成分としてトランスフルトリンと組み合わせた場合、感受性低下対処助剤として特異的に有用となることも判明した。
【0076】
一方、有機溶剤としてメチルエチルケトンを用いた比較例3においては、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから18時間後にはKT50値が120分以上となり、蚊類に対する防除効果を長時間に亘って発揮するものではなかった。エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が6/94~50/50の範囲から外れた比較例4~5や、噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~1.0mLの範囲から外れた比較例6は、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから12時間後にはKT50値が120分以上となり、蚊類に対する防除効果を長時間に亘って発揮するものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、蚊類に対して高い防除効果を有する蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 弁機構
11 ステム
12 ステムラバー
13 スプリング(強化スプリング)
20 ハウジング
21 定量室
100 定量噴射バルブ
R 噴射粒子
X 露出部に付着した噴射粒子
Y 処理空間中に漂っている噴射粒子