(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】温度測定方法、光加熱方法及び光加熱装置
(51)【国際特許分類】
G01J 5/00 20220101AFI20230220BHJP
H01L 21/26 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
G01J5/00 101C
H01L21/26 T
(21)【出願番号】P 2021021084
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2021-10-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆博
(72)【発明者】
【氏名】谷口 真司
(72)【発明者】
【氏名】溝尻 貴文
【合議体】
【審判長】福島 浩司
【審判官】上田 泰
【審判官】石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-141896(JP,A)
【文献】特表2006-509367(JP,A)
【文献】特開平7-134069(JP,A)
【文献】特開2006-66452(JP,A)
【文献】特開2016-46531(JP,A)
【文献】特開昭61-176131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0064198(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0391017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00-5/62
H01L 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主発光波長域が0.3μm以上0.5μm未満の範囲内である光を出射する複数の半導体発光素子を有する光源部を点灯させ、加熱対象である被処理基板に対して加熱用の光を照射する工程(A)と、
前記工程(A)の後、前記光源部を消灯する工程(B)と、
前記工程(B)の後、前記光源部の消灯状態を維持する工程(C)と、
前記工程(C)の間に、前記光源部が出射する光の前記主発光波長域とは異なる波長域に感度波長域を有する光学式の温度計を用いて前記被処理基板から放射される光を観測し、前記被処理基板の温度を測定する工程(D)とを含むことを特徴とする温度測定方法。
【請求項2】
前記温度計の感度波長域が0.5μm以上5μm未満の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の温度測定方法。
【請求項3】
前記工程(D)は、放射温度計によって前記被処理基板の温度の測定をすることを特徴とする請求項1又は2に記載の温度測定方法。
【請求項4】
主発光波長域が0.3μm以上0.5μm未満の範囲内である光を出射する複数の半導体発光素子を有する光源部を点灯させ、加熱対象である被処理基板に対して加熱用の光を照射する工程(A)と、
前記工程(A)の後、前記光源部を消灯する工程(B)と、
前記工程(B)の後、前記光源部の消灯状態を維持する工程(C)と、
前記工程(C)の間に、前記光源部が出射する光の前記主発光波長域とは異なる波長域に感度波長域を有する光学式の温度計を用いて前記被処理基板から放射される光を観測し、前記被処理基板の温度を測定する工程(D)と、
前記工程(D)の後、前記光源部を点灯する工程(E)とを含むことを特徴とする光加熱方法。
【請求項5】
被処理基板を加熱処理する光加熱装置であって、
前記被処理基板を収容するチャンバと、
前記チャンバ内において、前記被処理基板を支持する支持部材と、
主発光波長域が0.3μm以上0.5μm未満の範囲内である光を出射する複数の半導体発光素子を有し、前記支持部材で支持された前記被処理基板に対して加熱用の光を照射する光源部と、
前記被処理基板から放射される光によって前記被処理基板の温度を測定する、前記光源部が出射する光の前記主発光波長域とは異なる波長域に感度波長域を有する光学式の温度計と、
前記光源部の点灯と消灯とを切り替える点灯制御部と、
前記光源部の消灯状態下で前記被処理基板の温度を測定するように、前記温度計を制御する測定制御部と
、
前記光源部の点灯時間を計測し、前記点灯制御部に温度測定のタイミングを通知するための通知信号を出力するタイマとを備えることを特徴とする光加熱装置。
【請求項6】
前記温度計の感度波長域が0.5μm以上5μm未満の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の光加熱装置。
【請求項7】
前記温度計は、放射温度計であることを特徴とする請求項5又は6に記載の光加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定方法、光加熱方法及び光加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスでは、半導体ウェハ等の被処理基板に対して、成膜処理、酸化拡散処理、改質処理、アニール処理といった様々な熱処理が行われる。これらの処理は、非接触での処理が可能な光照射による加熱処理方法が多く採用されている。例えば、下記特許文献1には、半導体レーザを光源部とした光加熱装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体製造プロセス等における加熱処理は、加熱処理のために維持する温度、時間、又は昇降温速度によって、製造される半導体デバイスの出来栄えが左右される。このため、半導体ウェハの加熱処理工程は、被処理基板の加熱処理中の温度を高精度に測定できることが求められる。
【0005】
半導体製造プロセス等では、被処理基板にゴミが付着したり、傷が生じたりしないように、被処理基板から放射される赤外光を利用して非接触で温度測定が可能な温度計が多く採用されている。
【0006】
しかしながら、光加熱装置において、被処理基板から放射される赤外光を受光して被処理基板の加熱処理中の温度を測定しようとすると、半導体レーザ等の加熱用の光源部から出射されて、チャンバの内壁面で反射しながらチャンバ内を進行する光、又は被処理基板を透過した光を、温度計が受光してしまう。そうすると、温度計が被処理基板の温度を測定するために観測する光に、光源部から出射される光の一部が重畳してしまい、被処理基板の実際の温度と温度計による測定結果に誤差が生じてしまう。
【0007】
そこで、上記特許文献1には、光源部から出射される光の波長範囲と、温度計が温度測定に利用する所定の波長範囲とを異ならせることで、温度測定における迷光対策が不要となるように構成された光加熱装置が開示されている。
【0008】
ところが、上述のような構成の光加熱装置を用いて温度管理を行いつつ、加熱処理を行ったとしても、想定よりも歩留まりが低い場合があった。また、作製される素子の特性が、期待される範囲にまで到達しないことが度々発生していた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、光照射によって加熱処理される被処理基板の温度をより高精度に測定できる温度測定方法、光加熱方法及び光加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の温度測定方法は、
主発光波長域が0.3μm以上0.5μm未満の範囲内である光を出射する複数の半導体発光素子を有する光源部を点灯させ、加熱対象である被処理基板に対して加熱用の光を照射する工程(A)と、
前記工程(A)の後、前記光源部を消灯する工程(B)と、
前記工程(B)の後、前記光源部の消灯状態を維持する工程(C)と、
前記工程(C)の間に、前記光源部が出射する光の前記主発光波長域とは異なる波長域に感度波長域を有する温度計を用いて前記被処理基板から放射される光を観測し、前記被処理基板の温度を測定する工程(D)とを含むことを特徴とする。
【0011】
本明細書における「主発光波長域」とは、スペクトルの光強度のピーク値に対して、1%以上の光強度を示す波長域をいう。
【0012】
また、本明細書における「感度波長域」とは、温度計の波長ごとの感度に関し、感度のピーク値に対して、20%以上の感度を示す波長域をいう。なお、放射温度計の感度波長域は、分光感度測定器等を用いて実際に測定して確認されるが、温度計の構成上感度波長域の測定が困難等の事情が存在する場合は、温度計の製造元が規定する感度波長域が参照される。
【0013】
本発明者らは、光加熱装置に関して鋭意研究を行っていたところ、上述した測定誤差について、以下の要因が存在することを突き止めた。
【0014】
本発明者らは、半導体発光素子から出射される光の影響を確認するために、半導体発光素子から出射される光について、ピーク強度に対して0.5%未満の非常に低い強度を示すレベルまで確認するスペクトル解析を試みた。その結果、半導体発光素子から出射される光には、「発明を実施するための形態」において参照される
図2Bに示すように、主発光波長域λ1よりも長波長側の波長域において、微弱な光が含まれていることが確認された。
【0015】
半導体発光素子から出射されている光として、主発光波長域の光と共に、主発光波長域よりも長波長側の波長域において、強度自体は主発光波長域の強度と比較して非常に低いながらも、ガウシアン分布で近似した場合における裾の強度よりは少し高い強度を示す光が認められる。このような、主発光波長域よりも長波長側の波長域に微弱な強度を示す光は、ディープ発光とも称される現象によって出射される光であって、活性層中の欠陥、又は不純物準位での発光が要因で生じると推定されている。このディープ発光は、主に紫外領域、又は可視光領域の中でも短波長側の領域(紫色、青色)に主発光波長域を有する半導体発光素子で顕著に確認されている。
【0016】
以下、このように非常に低い強度を示す光を「ディープ光」と称することがある。このディープ光の強度は、ピーク強度と比べると極めて微弱であり、高くてもピーク強度に対して0.15%未満程度であるが、半導体発光素子によって個体差はあるもののピーク強度に対して0.1%程度の強度を示す場合がある。
【0017】
つまり、光源部から出射される光の主発光波長域と、温度計の感度波長域とを異ならせても、光源部から出射される光には、主発光波長域とは異なる波長域の微弱な光(ディープ光)が含まれるために、温度計による温度測定の結果と、被処理基板の実際の温度との間で誤差が生じていたものと推察される。
【0018】
上記課題の対策として、上記方法では、温度計が被処理基板から放射される光を観測して被処理基板の温度を測定するときには、光源部が有する半導体発光素子は消灯している。このため、温度計が半導体発光素子から出射される光に含まれるディープ光を観測することがない。したがって、温度計が被処理基板の温度を測定する際に生じる誤差が抑制される。
【0019】
上記温度測定方法は、
前記温度計の感度波長域が0.5μm以上5μm未満の範囲内に設定されて行われても構わない。
【0020】
上記温度測定方法は、
前記工程(D)は、放射温度計によって前記被処理基板の温度の測定をする方法であっても構わない。
【0021】
本発明の温度測定方法では、光源部の消灯後すぐに被処理基板の温度を測定できる早い応答速度であること、及び数十度から数千度まで測定範囲を選択できることから、放射温度計を採用することが好ましい。
【0022】
ここで、被処理基板がシリコンウェハであった場合を検討する。放射率の特性が特徴的であるシリコン(Si)は、「発明を実施するための形態」において参照される
図3に示すように、可視光の波長域から赤外光の波長域にわたって放射率の特性を見ると、5μm以上の波長域では、波長の変化に対する放射率の変動が大きくなる。このため、温度計は、感度波長域が5μm以下の波長域であることが好ましい。また、1μm以下の波長域では温度によって放射率がほとんど変化しない。このため、温度計は、感度波長域が5μm以下の波長域であって、できる限り短い波長域のもの、例えば、感度波長域に1μm以下の波長域が含まれるものが選択されることが好ましい。
【0023】
本発明の光加熱方法は、
主発光波長域が0.3μm以上0.5μm未満の範囲内である光を出射する複数の半導体発光素子を有する光源部を点灯させ、加熱対象である被処理基板に対して加熱用の光を照射する工程(A)と、
前記工程(A)の後、前記光源部を消灯する工程(B)と、
前記工程(B)の後、前記光源部の消灯状態を維持する工程(C)と、
前記工程(C)の間に、前記光源部が出射する光の前記主発光波長域とは異なる波長域に感度波長域を有する温度計を用いて前記被処理基板から放射される光を観測し、前記被処理基板の温度を測定する工程(D)と、
前記工程(D)の後、前記光源部を点灯する工程(E)とを含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の光加熱装置は、
被処理基板を加熱処理する光加熱装置であって、
前記被処理基板を収容するチャンバと、
前記チャンバ内において、前記被処理基板を支持する支持部材と、
主発光波長域が0.3μm以上0.5μm未満の範囲内である光を出射する複数の半導体発光素子を有し、前記支持部材で支持された前記被処理基板に対して加熱用の光を照射する光源部と、
前記被処理基板から放射される光によって前記被処理基板の温度を測定する、前記光源部が出射する光の前記主発光波長域とは異なる波長域に感度波長域を有する温度計と、
前記光源部の点灯と消灯とを切り替える点灯制御部と、
前記光源部の消灯状態下で前記被処理基板の温度を測定するように、前記温度計を制御する測定制御部とを備えることを特徴とする光加熱装置。
【0025】
上記光加熱装置は、
前記温度計の感度波長域が0.5μm以上5μm未満の範囲内であっても構わない。
【0026】
上記光加熱装置において、
前記温度計は、放射温度計であっても構わない。
【0027】
上記構成とすることで、温度計が被処理基板から放射される光によって被処理基板の温度を測定するときには、光源部が有する半導体発光素子は消灯している。このため、温度計が半導体発光素子から出射される主発光波長域の光、及びディープ光のいずれも観測することがない。したがって、温度計が被処理基板の温度を測定する際に生じる誤差が抑制され、被処理基板の温度をより高精度に測定することができる。
【0028】
上記光加熱装置において、
前記光源部の点灯時間を計測し、前記点灯制御部に温度測定のタイミングを通知するための通知信号を出力するタイマを備えていても構わない。
【0029】
上記構成とすることで、光加熱装置が、所定の時間間隔で自動的に被処理基板の温度測定を繰り返すように構成することができる。所定の時間間隔で自動的に被処理基板の温度確認が行われることで、被処理基板の温度の変動を把握することができるため、昇降温、又は温度の維持が適切に行われているかを確認しながら加熱処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、光照射によって加熱処理される被処理基板の温度をより高精度に測定できる温度測定方法及び光加熱装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】光加熱装置の一実施形態の構成をY方向に見たときの模式的な断面図である。
【
図1B】
図1Aのチャンバを+Z側から見たときの図面である。
【
図2A】一実施形態におけるLED素子が出射する光の発光強度比と、放射温度計の感度比の一例を示すグラフである。
【
図2B】
図2AのLED素子の発光強度比を対数スケールで表示したグラフである。
【
図3】シリコン(Si)の各温度における赤外線の波長と放射率の関係を示すグラフである。
【
図5】制御部が光源部に供給する電流と測定トリガ信号の制御の一例を示すグラフである。
【
図6】光加熱装置の別実施形態の構成をY方向に見たときの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の温度測定方法及び光加熱装置について、図面を参照して説明する。なお、光加熱装置に関する以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比又は個数は、実際の寸法比又は個数と必ずしも一致していない。
【0033】
まず、光加熱装置1の構成を説明する。
図1Aは、光加熱装置1の一実施形態の構成をY方向に見たときの模式的な断面図であり、
図1Bは、
図1Aのチャンバ10を+Z側から見たときの図面である。
図1Aに示すように、第一実施形態の光加熱装置1は、被処理基板W1が収容されるチャンバ10と、光源部11と、放射温度計12と、制御部13とを備える。
【0034】
光源部11は、
図1Aに示すように、半導体発光素子であるLED素子11aがLED基板11b上に複数搭載され、支持部材10aで支持された被処理基板W1の第一主面W1aに向かって加熱用の光を出射するように配置されている。
【0035】
本実施形態では、加熱対象である被処理基板W1がシリコンウェハであることを前提として説明するが、シリコン以外の材料からなる半導体ウェハであってもよく、ガラス基板であっても構わない。なお、被処理基板W1が有するそれぞれの主面は、パターン(不図示)が形成された第一主面W1aと、パターンが形成されていない第二主面W1bとに区別される。これは、被処理基板W1が、シリコン以外の材料からなる半導体ウェハであっても同様で、ガラス基板であっても同様である。
【0036】
以下の説明においては、
図1A及び
図1Bに示すように、LED基板11bと被処理基板W1が対向する方向をZ方向とし、Z方向と直交する平面をXY平面とする。なお、
図1Bに示すように、チャンバ10の壁面が対向する方向をそれぞれX方向とY方向として説明するが、本実施形態ではX方向とY方向に関して、特に差異がないため、
図1Aに示すように、Y方向に見たときの構成で説明する。
【0037】
また、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0038】
チャンバ10は、
図1A及び
図1Bに示すように、被処理基板W1を支持する支持部材10aと、光源部11から出射される光をチャンバ10の内側(より詳細には被処理基板W1の第一主面W1a)に導くための透光窓10bと、放射温度計12が被処理基板W1の第二主面W1bの温度を測定するための観測用窓10cとを備える。なお、
図1Bにおいては、チャンバ10内の構成が確認できるように、透光窓10bが形成されている領域がハッチングされていない。
【0039】
透光窓10bは、少なくともLED素子11aが出射する光を透過し、観測用窓10cは、放射温度計12が観測する赤外光を透過する。なお、透光窓10b及び観測用窓10cは、被処理基板W1の加熱処理、又は放射温度計12による測定が問題なく行えるのであれば、LED素子11aが出射する全ての光、放射温度計12の全ての感度波長域の光に対して透光性を示すものである必要はない。
【0040】
放射温度計12は、
図1Aに示すように、被処理基板W1よりも-Z側に配置され、被処理基板W1の第二主面W1bから放射される光を受光して、被処理基板W1の温度を測定する。
【0041】
図2Aは、本実施形態におけるLED素子11aが出射する光の発光強度比と、放射温度計12の感度比を示すグラフであって、
図2Bは、
図2AのLED素子11aの発光強度比を対数スケールで表示したグラフである。
図2Aに示すように、本実施形態では、光源部11に主発光波長域λ1が0.38μm~0.44μmであるLED素子11aが搭載されている。また、
図2Bに示すように、光源部11に搭載されているLED素子11aは、主発光波長域λ1よりも長波長側の波長域において、ピーク強度に対して0.5%未満の光を出射する。
【0042】
放射温度計12は、感度波長域λ2が0.9μm~1.6μmとなっている。つまり、LED素子11aの主発光波長域λ1と、放射温度計12の感度波長域λ2が異なる波長域となるように構成されている。
【0043】
なお、放射温度計12の感度波長域λ2は、波長域が異なるように設定されるのであれば、実現可能であって期待する効果が得られる範囲で、上述した波長域とは別の波長域で任意に設定しても構わない。
【0044】
本実施形態では、
図2Aに示すように、感度波長域λ2が0.9μm~1.6μmである放射温度計12が搭載されているが、ここで、放射温度計12の感度波長域λ2の選定に関し、シリコン(Si)の放射率特性について説明する。
【0045】
図3は、シリコン(Si)の各温度における赤外線の波長と放射率の関係を示すグラフである。シリコンは、可視光の波長域から赤外光の波長域にわたって放射率の特性を見ると、5μm以上の波長域では、波長域の変化に対する放射率の変化が大きくなる。したがって、誤差を抑制して安定した温度測定が行えるように、放射温度計12の感度波長域λ2は、5μm未満の範囲に設定されることが好ましい。
【0046】
制御部13は、
図1Aに示すように、光源部11に対して電流a1を供給し、放射温度計12に対して、温度を測定するタイミングを制御する測定トリガ信号b1を出力する。また、制御部13は、放射温度計12から測定した被処理基板W1の温度に応じた電気信号b2が入力される。
【0047】
図4は、制御部13の構成を模式的に示す図面である。
図4に示すように、制御部13は、点灯制御部13aと、測定制御部13bと、タイマ13cとを備える。本実施形態の制御部13は、外部機器である操作端末30から入力される点灯制御信号X1に応じて、点灯制御部13aが光源部11に供給する電力を制御するように構成されている。
【0048】
点灯制御部13aは、光源部11に対して電流a1の供給と停止を制御する。また、点灯制御部13aは、測定制御部13bに対して、測定開始のタイミングを知らせる測定開始信号c1を出力する。点灯制御部13aは、例えば、入力される点灯制御信号X1に応じて、光源部11に供給される電流量を調整する電気回路である。
【0049】
測定制御部13bは、点灯制御部13aから測定開始信号c1が入力されると、被処理基板W1の温度を測定するタイミングを制御する測定トリガ信号b1を生成し、測定トリガ信号b1を放射温度計12に対して出力する。
【0050】
また、測定制御部13bは、放射温度計12から、当該放射温度計12によって測定された被処理基板W1の温度の情報を含む電気信号b2が入力されると、被処理基板W1の温度情報を含む出力用データX2を生成して、出力用データX2を操作端末30に対して出力し、点灯制御部13aに対して、温度測定が完了したことを通知する測定完了信号c3を出力する。測定制御部13bはマイクロコントローラであり、例えば、MCU、又はMPUである。
【0051】
タイマ13cは、光源部11が点灯状態を維持している時間を計測し、光源部11の点灯開始から所定の時間が経過すると、点灯制御部13aに対して通知信号c2を出力する。
【0052】
操作端末30は、測定制御部13bから出力された出力用データX2が入力されると、表示部30aに被処理基板W1の温度を表示する。操作端末30は、光加熱装置1専用の操作パネル等、又は汎用の情報処理端末である。汎用の情報処理端末の例としては、タブレット、PCが挙げられる。表示部30aは、タブレット、又はPC等のディスプレイである。
【0053】
図5は、制御部13が光源部11に供給する電流a1と測定トリガ信号b1の制御の一例を示すグラフであり、(a)は、制御開始直後の電流a1の波形の一部を拡大したものであって、(b)は、制御開始直後の測定トリガ信号b1の波形の一部を拡大したものである。
【0054】
以下、温度測定方法について、光加熱装置1の構成に基づいて
図5を参照しながら説明する。
【0055】
被処理基板W1が、
図1A及び
図1Bに示すように、チャンバ10内において支持部材10aで支持されるように配置されると、作業者は、
図4に示す、操作端末30を操作して加熱処理を開始するように、光加熱装置1に対して操作指示を与える(ステップS1)。
【0056】
作業者が操作端末30を操作して加熱処理を開始する操作を行うと、
図4に示すように、操作端末30は、点灯制御部13aに対して、光源部11への電流a1の供給を開始させる点灯制御信号X1を出力する(ステップS2)。
【0057】
点灯制御部13aは、点灯制御信号X1が入力されると、光源部11に対して電流a1の供給を開始し、光源部11を点灯させる(ステップS3)。このステップS3が工程(A)に対応する。また、この時、タイマ13cが光源部11の点灯時間の計測を開始する。
【0058】
タイマ13cが光源部11の点灯開始から時間T1が経過したことを検知すると、タイマ13cが点灯制御部13aに対して、温度測定のタイミングを通知するための通知信号c2を出力する(ステップS4)。
【0059】
点灯制御部13aは、通知信号c2が入力されると、光源部11に対する電流a1の供給を停止する(ステップS5)。このステップS5が、工程(B)に対応する。
【0060】
また、点灯制御部13aは、光源部11に対する電流a1の供給を停止すると、測定制御部13bに対して測定開始信号c1を出力する(ステップS6)。
【0061】
測定制御部13bは、測定開始信号c1が入力されると、入力された測定開始信号c1から、被処理基板W1の温度を測定するタイミングを制御する測定トリガ信号b1を生成し、放射温度計12に対して測定トリガ信号b1を出力する(ステップS7)。
【0062】
放射温度計12は、測定トリガ信号b1が入力されると、被処理基板W1の第二主面W1bの温度の測定を行う(ステップS8)。なお、
図4に示すように、ステップS5において光源部11に対する電流a1の供給は停止されているため、ステップS8は、消灯状態において実施されることになる。つまり、工程(C)に対応するように、光源部11の消灯状態が維持されており、光源部11の消灯状態下の時間T2の間に行われるこのステップS8が、工程(D)に対応する。
【0063】
放射温度計12は、被処理基板W1の温度測定が完了すると、電気信号b2を制御部13に対して出力する(ステップS9)。電気信号b2は、制御部13に入力されると、そのまま測定制御部13bに入力される。
【0064】
測定制御部13bは、放射温度計12から電気信号b2が入力されると、放射温度計12から入力された電気信号b2から被処理基板W1の温度情報を含む出力用データX2を生成して、出力用データX2を操作端末30に対して出力する(ステップS10)。
【0065】
測定制御部13bは、出力用データX2を操作端末30に対して出力すると共に、点灯制御部13aに対して、温度測定が完了したことを通知する測定完了信号c3を出力する(ステップS11)。
【0066】
点灯制御部13aは、測定完了信号c3が入力されると、光源部11に対する電流a1の供給を再開する(ステップS12)。この時、タイマ13cが、光源部11の点灯時間の計測を開始する。
【0067】
操作端末30は、出力用データX2が入力されると、表示部30aの放射温度計12が測定した被処理基板W1の温度を表示する(ステップS13)。
【0068】
本実施形態では、ステップS13以降は、ステップS4に戻り、
図4に示すように、所定の時間間隔で自動的に被処理基板W1の温度測定が行われる。
【0069】
上記構成及び上記方法とすることで、放射温度計12が被処理基板W1から放射される光を観測して被処理基板W1の温度を測定するときには、光源部11が有するLED素子11aは消灯している。このため、放射温度計12がLED素子11aから出射される光に含まれるディープ光を観測することがない。したがって、放射温度計12が被処理基板W1の温度を測定する際に生じる誤差が抑制され、被処理基板W1の温度をより高精度に測定することができる。
【0070】
本実施形態において、被処理基板W1の温度を測定する温度計は、放射温度計を採用したが、測定したい温度範囲、又は消灯状態を維持する時間等に応じて、光を観測して非接触で温度測定ができるその他の温度計を採用しても構わない。放射温度計以外に採用できる温度計としては、例えば、サーモカメラが挙げられる。
【0071】
本実施形態では、光源部11は、
図1Aに示すように、被処理基板W1の第一主面W1aに向かって光を出射するように配置されているが、被処理基板W1の第二主面W1bに向かって光を出射するように配置されていても構わない。
【0072】
本実施形態のチャンバ10は、
図1Aに示すように、透光窓10bと観測用窓10cとが設けられているが、光源部11、又は放射温度計12がチャンバ10内に収容される構成の場合は、チャンバ10に透光窓10b、又は観測用窓10cが設けられていなくても構わない。
【0073】
また、本実施形態では、操作者が光加熱装置1とは別の操作端末30を操作して加熱処理の開始等の操作を行う構成を説明したが、光加熱装置1自体に操作部と表示部が設けられていてもよく、搬送されてくる被処理基板W1が所定の位置に配置されたことを検知して、自動的に点灯制御を開始するように構成されていても構わない。なお、このように自動的な制御による加熱処理が行われる場合であって、作業者が加熱処理中の温度を確認する必要がないような場合には、表示部が設けられていなくても構わない。
【0074】
上述した温度測定方法は、ステップS3~ステップS14を繰り返し、所定の時間間隔で自動的に温度測定を繰り返す構成を説明したが、例えば、作業者が操作パネルを任意のタイミングで操作し、一回だけ被処理基板W1の温度を測定するように構成されていても構わない。さらに、このような場合には、光加熱装置1がタイマ13cを備えていなくても構わない。
【0075】
図5に示すように、点灯制御部13aは、光源部11を点灯させる制御を行う場合、常に同じ電流値の電流a1を光源部11に対して供給しているが、点灯制御部13aが光源部11に対して供給する電流a1は、加熱処理の経過時間や、放射温度計12の測定結果に応じて、時間T1ごとに、又は時間T1内で電流値が変動するように構成されていても構わない。
【0076】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0077】
〈1〉
図6は、光加熱装置1の別実施形態の構成をY方向に見たときの模式的な断面図である。
図1Aに示すように、本実施形態における放射温度計12は、被処理基板W1の第二主面W1bの温度を測定するように配置されているが、
図6に示すように、被処理基板W1の第一主面W1aの温度を測定するように配置されていても構わない。
【0078】
また、
図6に示すように、光源部11と放射温度計12は、被処理基板W1から見て、同じ側に配置されていてもよく、放射温度計12が、Z方向に対して傾いた方向から、被処理基板W1の温度を測定するように配置されていても構わない。
【0079】
さらに、支持部材10aによる被処理基板W1の支持は、第一主面W1aがXY平面上に配置されるようなものであればよく、例えば、
図6に示すように、支持部材10aがピン状の突起を複数備え、その突起により被処理基板W1を点で支持するものであっても構わない。
【0080】
被処理基板W1が、放射温度計12の感度波長域における光に対して、透過率よりも反射率が高い場合は、
図6に示す構成よりも、
図1Aに示す構成の方が、光源部11から出射されて放射温度計12に到達する光が抑制されるため、ディープ光の影響をより低減することができる。
【0081】
被処理基板W1が、放射温度計12の感度波長域における光に対して、透過率よりも反射率が低い場合は、
図1Aに示す構成よりも、
図6に示す構成の方が、光源部11から出射されて放射温度計12に到達する光が抑制されるため、ディープ光の影響をより低減することができる。
【0082】
〈2〉 上記実施形態において、出力用データX2は操作端末30以外に送信されてもよい。すなわち、光加熱装置1の操作を指示するための端末(操作端末30)と、測定結果である温度情報を含むデータ(出力用データX2)の入力を受け付ける端末とは、同一であっても異なっていても構わない。
【0083】
〈3〉 上述した光加熱装置1が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0084】
1 : 光加熱装置
10 : チャンバ
10a : 支持部材
10b : 透光窓
10c : 観測用窓
11 : 光源部
11a : LED素子
11b : LED基板
12 : 放射温度計
13 : 制御部
13a : 点灯制御部
13b : 測定制御部
13c : タイマ
30 : 操作端末
30a : 表示部
W1 : 被処理基板
W1a : 第一主面
W1b : 第二主面