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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】プロトン伝導性膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20230220BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20230220BHJP
   C08K 5/34 20060101ALI20230220BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
H01B1/06 A
C08L101/12
C08K5/34
C08J5/22 101
C08J5/22 CER
C08J5/22 CEZ
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021113405
(22)【出願日】2021-07-08
(65)【公開番号】P2022019606
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】109124284
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】506021156
【氏名又は名称】律勝科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】イエ,チャン-チン
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,シー-チ
(72)【発明者】
【氏名】ライ,ボ-ハン
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111416140(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111205641(CN,A)
【文献】特開平03-291847(JP,A)
【文献】特開平11-081139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
C08L 101/12
C08K 5/34
C08J 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性の有機ポリマーと、
尿素含有親水性材料、酸性物質と塩基性物質から形成される親水性複合体、およびこれらの組み合わせのうちの1つを含むプロトン伝導性成分と、
を含むプロトン伝導性膜であって、
親水性の前記プロトン伝導性成分が、前記プロトン伝導性膜の総重量を基準にして、23~70重量%の範囲の量で存在し、
前記プロトン伝導性成分が、前記親水性複合体を含み、前記酸性物質が、硫酸、塩酸、ポリリン酸、ピロリン酸、シアヌル酸、シュウ酸、リン酸、スルホン酸、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれ、
前記塩基性物質が、メラミン、金属塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれ、
前記親水性複合体が、硫酸メラミン、塩酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、シアヌル酸メラミン、シュウ酸メラミン、金属リン酸塩、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、
プロトン伝導性膜。
【請求項2】
前記疎水性有機ポリマーが、フルオロ基、シロキサン基、親油性基、アルケニル基、エステル基、エーテル基、アミン基、アミド基、アリール基、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる疎水性官能基を有する、請求項1に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項3】
前記疎水性有機ポリマーが、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルケトン、ポリアミド、ポリウレタン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ニトリルブタジエンゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニリデンジフルオライド、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、請求項2に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項4】
前記プロトン伝導性成分が、前記プロトン伝導性膜の総重量を基準にして、35~70重量%の範囲の量で存在する、請求項1に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項5】
前記プロトン伝導性成分が、5員環の複素環化合物、6員環の複素環化合物、およびそれらの組み合わせのういずれかを含む前記尿素含有親水性材料を含む、請求項1に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項6】
前記尿素含有親水性材料が、シアヌル酸、2-ヒドロキシベンゾイミダゾール、トリアリルイソシアヌレート、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリルオキシエチル)イソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、トリス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、アラントイン、4-フェニル-3H-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジオン、尿酸、トリクロロイソシアヌル酸、ヒダントイン、バルビツール酸、ビオルル酸、チミン、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、請求項5に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項7】
前記プロトン伝導性成分が前記尿素含有親水性材料を含む場合、前記プロトン伝導性成分がアミン化合物をさらに含む、請求項1に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項8】
前記アミン化合物が、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシル、メラミン、アミノピリジン、アミノピペリジン、アミノピリミジン、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、請求項7に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項9】
前記尿素含有親水性材料が、前記プロトン伝導性成分の総重量を基準にして、50重量%より少なくない量で存在する、請求項7に記載のプロトン伝導性膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についてのクロスレファレンス
本願は、2020年7月17日に出願の台湾特許出願番号第109124284号に基づく優先権を主張する。
分野
本開示は、膜に関し、より詳しくは、プロトン伝導性膜(Proton-Conductive Membrane)に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウムフロー電池(Vanadium Flow Battery:VFB)、例えば、全バナジウムレドックスフロー電池(All-Vanadium Redox Flow Battery:VRFB)は、高速応答、長いサイクル寿命、比較的安全、電力及びエネルギー規模の設計自由度が高いなどの有利な特性を有する。そのため、VRFBは、最も幅広く研究がなされているエネルギー蓄積装置の1つである。
【0003】
プロトン伝導性膜は、VRFBの性能を左右する重要なコンポーネントの1つである。現在、VRFBに使用されているプロトン伝導性膜としては、デュポン社製のナフィオン(Naifon、登録商標)膜が一般的である。しかし、VRFBの電解液に浸されたナフィオン膜は、使用時に膨らみやすく、安全上の問題を生じる可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本開示の目的は、先行技術の欠点の少なくとも1つを軽減することができるプロトン伝導性膜を提供することにある。
【0005】
本開示によれば、プロトン伝導性膜は、疎水性有機ポリマーとプロトン伝導性成分を含む。プロトン伝導性成分は、尿素含有親水性材料、酸性物質と塩基性物質とから形成される親水性複合体(hydrophilic complex)、およびそれらの組み合わせのうちの1つを含む。プロトン伝導性成分は、プロトン伝導性膜の総重量を基準にして、23~70重量%の範囲の量で存在する。
【0006】
本開示のプロトン伝導性膜は、疎水性有機ポリマーおよびプロトン伝導性成分の成分と量を制御することで、優れたプロトン伝導性および低減された膨潤性を有し、バナジウムイオンの拡散を効果的に抑制、すなわちバナジウムイオン透過性を低減することができる。さらに、本開示のプロトン伝導性膜は、膨潤性が低いため、電池の安全性の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示は、疎水性有機ポリマーとプロトン伝導性成分とを含むプロトン伝導性膜を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、プロトン伝導性膜は、水に浸漬した後の平衡膨潤比が1.1未満であってもよい。また、プロトン伝導性膜は、結晶相を有していてもよい。
【0009】
疎水性有機ポリマーは、例えば、有機溶媒に溶解する可溶性の疎水性有機ポリマーまたは熱可塑性の疎水性有機ポリマーであってもよい。疎水性有機ポリマーは、疎水性の官能基を有していてもよい。疎水性官能基の例としては、フルオロ基、シロキサン基、親油性基、アルケニル基、エステル基、エーテル基、アミン基、アミド基、アリール基、およびこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。疎水性有機ポリマーの例としては、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルケトン、ポリアミド、ポリウレタン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ニトリルブタジエンゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニリデンジフルオライド、およびこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0010】
プロトン伝導性成分は、親水性のプロトン伝導性成分であってもよい。プロトン伝導性成分は、プロトン伝導性膜の総重量を基準にして、23~70重量%の範囲の量で存在してもよい。いくつかの実施形態では、プロトン伝導性成分は、プロトン伝導性膜の総重量を基準にして、35~70重量%の範囲の量で存在する。このように、プロトン伝導性膜は、より高いエネルギー効率またはより高い電圧効率などの改善された電気的性能を有することができる。
【0011】
プロトン伝導性成分は、尿素含有親水性材料および/または酸性物質と塩基性物質とから形成される親水性複合体を含んでいてもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、酸性物質を塩基性物質と反応させて親水性複合体を生成する。酸性物質は、ルイス酸、またはブレンステッド-ローリー酸であってもよい。酸性物質の例としては、硫酸、塩酸、ポリリン酸、ピロリン酸、シアヌル酸、シュウ酸、リン酸、スルホン酸、およびこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。塩基性物質は、ルイス塩基、またはブレンステッド-ローリー塩基であってもよい。塩基性物質の例としては、メラミン、金属塩、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。金属塩の金属としては、ナトリウム、カリウム、鉄、マグネシウム、マンガンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。複合体は、好酸性基を有していてもよい。好酸性基としては、アミン基、硫酸基、スルホン酸基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。複合体の例としては、硫酸メラミン、塩酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、シアヌル酸メラミン、シュウ酸メラミン、金属リン酸塩、およびこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
尿素含有親水性材料は、疎水性有機ポリマーのコンパクトスタッキング(compact stacking)を低減することができる。尿素含有親水性材料は、カルバミド基、すなわち、
【化1】
を有し、5員の複素環式化合物、6員の複素環式化合物、およびそれらの組み合わせのいずれかを含んでもよい。いくつかの実施形態では、5員の複素環化合物および6員の複素環化合物のそれぞれは、少なくとも1つのカルボニル基を有していてもよい。5員複素環化合物の例としては、2-ヒドロキシベンゾイミダゾール、アラントイン、4-フェニル-3H-1,2,4-トリアゾール-3,5(4H)-ジオン、ヒダントイン、およびこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。6員環複素環化合物の例としては、シアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリルオキシエチル)イソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、トリス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、尿酸(例えば、1,3-ジメチル尿酸)、トリクロロイソシアヌル酸、バルビツール酸、ビオルル酸、チミンなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、尿素含有親水性材料は、シアヌル酸、2-ヒドロキシベンゾイミダゾール、トリアリルイソシアヌレート、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリルオキシエチル)イソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、トリス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、アラントイン、4-フェニル-3H-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジオン、尿酸、トリクロロイソシアヌル酸,ヒダントイン、バルビツル酸、ビオルル酸、チミン、およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0014】
プロトン伝導性成分が尿素含有親水性材料を含む場合、プロトン伝導性成分は、相分離を低減し、疎水性有機ポリマー中での尿素含有親水性材料の分散をさらに補助するためにアミン化合物をさらに含んでいてもよく、それはプロトン伝導性膜の形成の助けとなる。なお、アミン化合物のアミン基は、尿素含有親水性材料のカルバミド基と水素結合を形成する。このように形成された水素結合は、プロトン伝導性膜の製造工程における安定性を高めることができる。アミン化合物の例としては、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシル、メラミン、アミノピリジン、アミノピペリジン、アミノピリミジン、およびこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、尿素含有親水性材料は、プロトン伝導性成分の総重量を基準にして、50重量%より少なくない量で存在する。他のいくつかの実施形態では、プロトン伝導性成分の総重量を基準にして、アミン化合物が50重量%よりも少ない量で存在する。
【0015】
本開示のプロトン伝導性膜は、低膨潤性、バナジウムイオンへの低透過性、プロトン伝導性を有することが示されており、VRFBなどのVFBに適用しうる。
【0016】
本開示のプロトン伝導性膜を調製する方法は、以下のステップを含むことができる。
【0017】
まず、疎水性有機ポリマー、プロトン伝導性成分、および有機溶媒を混合して混合物を得る。混合プロセスの条件(例えば、温度や時間)は、使用する疎水性有機ポリマー、プロトン伝導性成分および有機溶媒の量や種類に応じて調整してよい。いくつかの実施形態では、混合プロセスは、60℃から100℃の範囲の温度で、2時間から4時間の範囲の時間で行われる。有機溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N,N-ジメチルホラミド(N,N-dimethylforamide)、N,N-ジメチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン、ジクロロベンゼン、ジオキサン、トルエン、キシレン、クロロホルム、アセトン、ブタノン、エタノール、メタノール、およびこれらの組み合わせを挙げられるが、これらに限定されるものではない。有機溶媒100重量部を基準にして、疎水性有機ポリマーおよびプロトン伝導性成分は、総量として、10重量部から30重量部の範囲で存在する。
【0018】
次に、この混合物を基板上に塗布して、基板上にコーティング膜を形成する。いくつかの実施形態では、混合物は、ブレードコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティングなどの適切なコーティングプロセスによって基板上に塗布される。
【0019】
次に、得られた塗膜に熱処理を施し有機溶媒を除去して、所望のコンパクト性(compactness)を有するプロトン伝導性膜が得られる。熱処理は、混合物の構成成分に応じた温度で行ってよい。いくつかの実施形態では、熱処理は60℃から250℃の範囲の温度で行われる。
【0020】
以下、本開示の実施例について説明する。これらの実施例は例示的かつ説明的なものであり、本開示を限定するものと解釈されるべきではないことを理解されたい。
【実施例
【0021】
実験材料一般
1.疎水性の有機ポリマー:
ポリベンゾイミダゾール(Polybenzimidazole:PBI)(型番:PBI)、ポリイミド(型番:BT-PI)、エポキシ樹脂(型番:PIDA)を、マイクロコスム・テクノロジー社(Microcosm Technology Co., Ltd.)から購入した。
【0022】
2.プロトン伝導性成分として親水性プロトン伝導性成分:
(a)尿素含有親水性材料
シアヌル酸およびアラントインを、いずれもエコー・ケミカル社(Echo Chemical Co., Ltd.)から購入した。
(b)酸性物質と塩基性物質から形成される親水性複合体:
シアヌル酸メラミン(Melamine cyanurate)および硫酸メラミン(melamine sulphate)を、いずれもエコー・ケミカル社から購入した。
(c)アミン化合物:
メラミンは、エコー・ケミカル社から購入した。
【0023】
3.有機溶剤:
N-メチル-2-ピロリドンを、エコー・ケミカル社(Echo Chemical Co., Ltd.)から購入した。
【0024】
<実施例1(E1)>
ポリベンゾイミダゾール(PBI、マイクロコスム・テクノロジー社製、型番:PBI)6.5g(65重量部)、シアヌル酸3.5g(35重量部)、およびN-メチル-2-ピロリドン(エコー・ケミカル社製)40.0g(400重量部)を、60℃、1気圧で2時間攪拌下で混合し、コロイド混合物を得た。すなわち、コロイド混合物中には、疎水性有機ポリマーおよび親水性プロトン伝導性成分が、総量として100重量部存在していた。このコロイド混合物をガラス基板上に覆い、500μmの厚さを有する塗膜を形成した。この塗膜に、140℃で3分間の乾燥処理とこれに続く250℃で1時間の硬化処理を含む熱処理を施し、厚さ50μmのE1のプロトン伝導性膜を得た。乾燥処理において、有機溶媒(すなわち、N-メチル-2-ピロリドン)の大部分を除去することで、硬化処理時に発生する気泡の量を減らし、得られたプロトン伝導性膜が所望のコンパクト性を有するようにした。~
【0025】
<実施例2~18(E2~E18)>。
E2~E18のそれぞれに用いる疎水性有機ポリマーおよび/または親水性プロトン伝導性成分の構成成分および/または添加量を表1に示すように変えたこと以外は、E1と同様の手順で、E2~E18のプロトン伝導性膜を調製した。
【0026】
<比較例1~3(CE1~CE3)>
CE1~CE3のそれぞれで使用する疎水性有機ポリマーの構成成分および添加量を表1に示すように変えた以外は、E1と同様の手順で、CE1~CE3のプロトン伝導性膜を調製した。また、CE1およびCE2においては親水性プロトン伝導性成分を抜きとし、CE3においては親水性プロトン伝導性成分として働くアミン化合物のみを使用した。
【0027】
<比較例4(CE4)>
造孔剤として働くフタル酸ジブチル(エコー・ケミカル社より購入)3.3g(33重量部)を表1に示すようにさらに添加してコロイド混合物を得た以外は、CE2と同様の手順でCE4の多孔性プロトン伝導性膜を調製した。さらに、熱処理後、得られた膜をメタノールに24時間浸漬した後、100℃で1時間乾燥させて、厚さ50μmのCE4多孔質プロトン伝導性膜を得て、分析を行った。
【0028】
<比較例5(CE5)>
CE5のプロトン伝導性膜として、スルホン化したポリテトラフルオロエチレン共重合体で作られた厚さ50μmのナフィオン(NafionTM)212膜(製造元:デュポン社)を使用した。
【0029】
【表1】
【0030】
特性評価
平衡膨潤比(Equilibrium Swelling Ratio)の測定
E1~E18およびCE1~CE5の各プロトン伝導性膜を、10cm×10cmの大きさのテストシートに切断し、100℃の真空条件下で、24時間乾燥させた。乾燥したテストシートの長さ、幅、および厚さを測定して、その体積(V0、単位:cm3)を算出した。その後、乾燥したテストシートのそれぞれを、温度80℃の水中に1日間浸漬し、浸漬したテストシートのそれぞれを得た。浸漬したテストシートの長さ、幅、厚さを測定し、体積(V、単位:cm3)を算出した。E1~E18およびCE1~CE5のプロトン伝導性膜のそれぞれの平衡膨潤比をV/V0として求めた。その結果を表2および表3に示す。
【0031】
ポロシティ(Porosity、(%))の測定
E1~E18およびCE1~CE5の各プロトン伝導性膜について、水銀ポロシメーター(製造元:マクロメリティクス・インストルメント社(Micromeritics Instrument Co.)、型番:AutoPore(登録商標)IV 9520)を用いてポロシティの測定を行った。その結果を表2および表3に示す。
【0032】
引張強度(MPa)と破断伸度(%)の測定
E1~E18およびCE1~CE5の各プロトン伝導性膜について、引張試験機(製造元:ロイド・インストルメンツ社(Lloyd Instruments Ltd.)、型番:LRX)を用いて、延伸速度100mm/分で引張強度および破断伸度を測定した。その結果を表2および表3に示す。
【0033】
酸吸収(%)の測定
E1~E18およびCE1~CE5の各プロトン伝導性膜の重量をW0(g)として測定した後、各プロトン伝導性膜を40℃の硫酸水溶液(濃度3M)に7日間浸漬して、酸浸漬したプロトン伝導性膜を各1枚得た。各酸浸漬プロトン伝導性膜は、その表面に残った硫酸溶液を拭き取った後、W(g)として秤量した。各プロトン伝導性膜の酸吸収を、[(W-W0)/W0]×100%として求めた。その結果を表2および表3に示す。
【0034】
プロトン伝導度(mS/cm)の測定
E1~E18およびCE1~CE5の各プロトン伝導性膜のインピーダンス値を、4プローブ電気化学インピーダンス分光法(ベックテック社(BekkTech LLC)、USA)を用いて、ACインピーダンス分析により25℃で測定した。プロトン伝導度は、以下の式(1)に従って求めた。その結果を表2および表3に示す。
【0035】
C=1/[(I×a×b)/d] (1)
ここでC=プロトン伝導度(mS/cm)
I=プロトン伝導性膜のインピーダンス値(Ω)
a=プロトン伝導性膜の幅(cm)
b=プロトン伝導性膜の厚さ(cm)
d=分光器の基準電極間の距離(cm)
【0036】
バナジウムイオンの拡散速度(cm2/min)の測定
濃度2.5Mの硫酸溶液に硫酸バナジル(vanadyl sulphate:VOSO4)を溶解させてバナジウム溶液(1M)を調製した。濃度2.5Mの硫酸溶液に硫酸マグネシウム(MgSO4)を溶解させて、マグネシウム溶液(1M)を調製した。E1~E18およびCE1~CE5のプロトン伝導性膜のそれぞれを、容器の収容空間を左区画と右区画とに分けるようにして容器内に配置した。バナジウム溶液とマグネシウム溶液を、それぞれ左区画と右区画に導入し、バナジウム溶液中のバナジウムイオンがプロトン伝導性膜を通過してマグネシウム溶液に移行するようにした。バナジウム溶液とマグネシウム溶液に766nmの波長の光を照射した。各溶液(バナジウム溶液はAV、マグネシウム溶液はAMg)の測定時点(分)における吸光度を、紫外可視分光法を用いて、Fickの法則およびBeerの法則に従って測定した。測定時点(分)に対してln(AV-2AMg)をプロットし、以下の式(2)を得て、質量移動係数(ks)を算出した。
【0037】
ln(AV-2AMg)=lnAV-[(2×ks×A×t)/VMg] (2)
ここで、AV=バナジウム溶液の吸光度
Mg=マグネシウム溶液の吸光度
s=質量移動係数(cm/min)
A=プロトン伝導性膜と溶液の接触面積(cm2
t=測定時点(分)
Mg=右コンパートメントの容積(cm3
【0038】
バナジウムイオンの拡散速度(cm2/min)は、以下の式(3)に物質移動係数を代入して算出した。その結果を表2および表3に示す。
【0039】
D=ks×y (3)
ここで、D=バナジウムイオンの拡散速度(cm2/min)
s=質量移動係数(cm/min)
y=プロトン伝導性膜の厚さ(cm)
【0040】
クーロン効率(%)、電圧効率(%)、エネルギー効率(%)の測定
E1~E18およびCE1~CE5の各プロトン伝導性膜を、ポリ塩化ビニルフレーム、グラファイトフェルト電極、バイポーラプレート、および電解液100mLと組み合わせて、E1~E18およびCE1~CE5の各モノセルを作製した。モノセルの有効面積は5cm×5cmであった。電解液は,VOSO4粉末456gを濃度3Mの硫酸水溶液1000mLに溶解して調製した。E1~E18およびCE1~CE5のモノセルのそれぞれについて,充放電テスター(製造元:クロマATC社(Chroma ATE Inc.)、型番:Model 17011)を用いて充電および放電を行い、電荷量を測定した。電流密度120mA/cm2、カットオフ電圧0.7V~1.6V、流速50mL/minの条件で測定した電荷量をもとに、モノセルのクーロン効率、電圧効率、およびエネルギー効率を算出した。また、充放電を500サイクル行った際のエネルギー効率の測定値の平均値を算出し、平均エネルギー効率(%)を求めた。その結果を表2および表3に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表2および表3を参照すると、E1~E18のプロトン伝導性膜のそれぞれは、CE4およびCE5のプロトン伝導性膜と比較して、平衡膨潤比が相対的に低い。このことは、本開示のプロトン伝導性膜が膨潤しにくいことを示しており、これにより製造される電池の安全性を向上させることができる。さらに、E1~E8およびE11~E16の各プロトン伝導性膜は、バナジウムイオンの拡散速度がCE5のそれよりも低く、E1~E18の各プロトン伝導性膜は、バナジウムイオンの拡散速度がCE4のそれよりも低い。このような結果から、本開示のプロトン伝導性膜には、バナジウムイオンに対する低い透過性が付与されていることがわかる。
【0044】
他方、尿素含有親水性材料および/または酸性物質と塩基性物質とから形成される親水性複合体を含まないCE1~CE3の各プロトン伝導性膜は、プロトン伝導性が乏しく、電池に用いるには不適当かもしれない。これに比べ、親水性プロトン伝導性成分を含むE1~E18の各プロトン伝導性膜は、プロトン伝導性に優れているため、電池に好適に適用することができる。


【0045】
表3に示すように、CE1~CE3の各プロトン伝導性膜は、クーロン効率、電圧効率、エネルギー効率が0である。これは、ブレーカーが落ちてしまい、電力が測定できないためである。このような結果は、本開示のプロトン伝導性膜によって、電池の安全性を向上させることができることを反映している。
【0046】
以上のように、本開示のプロトン伝導性膜は、疎水性有機ポリマーと親水性プロトン伝導性成分の構成成分と量を制御することにより、膨潤性が低減され、プロトン伝導性に優れており、そしてバナジウムイオンの拡散を効果的に低減させることができ、すなわちバナジウムイオンに対する透過性を低減することができる。