(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】情報処理装置、制御システム、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 18/2131 20230101AFI20230220BHJP
G06F 18/241 20230101ALI20230220BHJP
G06N 3/0464 20230101ALI20230220BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230220BHJP
G06F 123/02 20230101ALN20230220BHJP
【FI】
G06F18/2131
G06F18/241
G06N3/0464
G01H17/00 Z
G06F123:02
(21)【出願番号】P 2021186424
(22)【出願日】2021-11-16
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】596072287
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ティ・ティ・データCCS
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】土井 利次
(72)【発明者】
【氏名】籔内 篤淑
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎司
【審査官】多賀 実
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0256991(US,A1)
【文献】特開2020-064286(JP,A)
【文献】市川 嵩人 ほか,「畳み込みニューラルネットワーク及びLSTMを用いた異常心音の識別」,情報処理学会研究報告 高齢社会デザイン(ASD) [オンライン] ,情報処理学会,2020年02月21日,第2020-ASD-17巻, 第7号,pp.1-7,[検索日 2020.02.25], インターネット:<URL: https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_uri&item_id=203440&file_id=1&file_no=1>, ISSN 2189-4450
【文献】石田 康二 ほか,「変動音解析を用いた機械音,自然音の音質評価」,日本音響学会 2010年 秋季研究発表会講演論文集CD-ROM [CD-ROM],社団法人日本音響学会,2010年09月07日,pp.1001-1004,ISSN 1880-7658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 18/00-18/40
G06F 123/02
G01H 1/00-17/00
G06N 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列データに基づき、各々が周波数帯域及び変動周波数帯域の組に対応づけられた複数の値を算出することと、
前記複数の値をモデルに入力して、前記時系列データに異常が含まれる確率を算出することと、
を実行するように構成されたプロセッサを備えた、
情報処理装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記算出された確率に基づき、前記時系列データに異常が含まれるか否かを判定することを更に実行するように構成された、
請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記時系列データは、時系列に並ぶ複数の第1部分データを含み、
前記複数の値を算出することは、
前記複数の第1部分データの各々を周波数領域に変換することと、
前記複数の第1部分データの周波数領域への変換結果に基づいて、各々が対応する周波数帯域で時系列に並ぶ複数の第2部分データを生成することと、
前記複数の第2部分データの各々を変動周波数領域に変換することと、
前記複数の第2部分データの変動周波数領域への変換結果を、対応する周波数帯域及び変動周波数帯域にマッピングすることと、
を含む、
請求項1記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記周波数領域に変換すること及び前記変動周波数領域に変換することの少なくとも一方は、バーク尺度を除く尺度に基づく帯域でデータを分割することを含む、
請求項3記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記周波数領域に変換すること及び前記変動周波数領域に変換することの少なくとも一方は、高速フーリエ変換することを含む、
請求項3記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記周波数領域に変換すること及び前記変動周波数領域に変換することの少なくとも一方は、オクターブバンド又はメル尺度に基づく帯域でデータを分割することを含む、
請求項3記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記モデルは、畳み込みニューラルネットワークである、
請求項1記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記時系列データは、前記モデルの教師データであり、
前記プロセッサは、前記複数の値、及び前記時系列データに対応するラベルに基づいて、前記モデルを更新することを更に実行するように構成された、
請求項1記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記複数の値は、各々が同一の周波数帯域及び変動周波数帯域の組に対応づけられ、かつ互いに異なる時間帯に対応づけられた第1値及び第2値を含み、
前記確率を算出することは、前記第1値及び前記第2値のうちの大きい方を前記モデルに入力することを含む、
請求項8記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記時系列データは、音データ又は振動データである、
請求項1記載の情報処理装置。
【請求項11】
機構と、
前記機構の動作に応じて、前記時系列データを計測するセンサと、
前記センサに接続された請求項2記載の情報処理装置と、
前記判定の結果に基づき、前記機構の動作の制御及び判定の結果の送出の少なくとも一方を行うように構成された制御装置と、
を備えた、制御システム。
【請求項12】
時系列データに基づき、各々が周波数帯域及び変動周波数帯域の組に対応づけられた複数の値を算出することと、
前記複数の値をモデルに入力して、前記時系列データに異常が含まれる確率を算出することと、
を備えた、情報処理方法。
【請求項13】
時系列データに基づき、各々が周波数及び変動周波数の組に対応づけられた複数の値を算出することと、
前記複数の値をモデルに入力して、前記時系列データに異常が含まれる確率を算出することと、
をプロセッサ実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、情報処理装置、制御システム、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機構から発生する音を解析する技術が知られている。例えば、官能検査では、機構から発生する音を検査員が聞くことによって、異常の有無が判定される。
【0003】
また、ISO(International Organization for Standard)532には、音の解析における指標として、ラウドネス(Loudness)が定義される。ラウドネスは、人の聴感に基づく音の大小を示す心理量である。官能検査において、ラウドネスは、検査員による判定に補助的に用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】ISO 532, “Method for calculating loudness level”, 1975
【文献】ISO 532-1, “Methods for calculating loudness - Part 1: Zwicker method”, 2017
【文献】ISO 532-2, “Methods for calculating loudness - Part 2: Moore - Glasberg method”, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の官能検査では、異常の有無の判定は、検査員によってなされる。このため、機構から発生する音の異常の有無を自動的に判定することができない。
【0006】
また、上述の官能検査による判定基準は、検査員の主観に依存し得る。このため、検査員によって異なる判定結果が得られる可能性がある。すなわち、上述の官能検査では、機構の異常の有無を客観的に判定することができない。
【0007】
本発明は、上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、機構の異常の有無を自動的かつ客観的に判定する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様の情報処理装置は、時系列データに基づき、各々が周波数及び変動周波数の組に対応づけられた複数の値を算出することと、上記複数の値をモデルに入力して、上記時系列データに異常が含まれる確率を算出することと、を実行するように構成されたプロセッサを備える。
【発明の効果】
【0009】
実施形態によれば、機構の異常の有無を自動的かつ客観的に判定する手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る機構制御システムの構成の一例を示すブロック図。
【
図2】実施形態に係る異常判定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図。
【
図3】実施形態に係るモデル学習装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図。
【
図4】実施形態に係る異常判定装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【
図5】実施形態に係る異常判定装置で生成されるスペクトログラムの一例を示す図。
【
図6】実施形態に係る異常判定装置で生成される特徴量マップの一例を示す図。
【
図7】実施形態に係る異常判定装置で生成される判定履歴の一例を示す図。
【
図8】実施形態に係るモデル学習装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【
図9】実施形態に係るモデル学習装置で生成される複数の教師特徴量候補マップと教師特徴量マップとの関係の一例を示す図。
【
図10】実施形態に係る機構制御システムにおける機構制御処理の一例を示すフローチャート。
【
図11】実施形態に係る異常判定装置における異常判定処理の一例を示すフローチャート。
【
図12】実施形態に係る異常判定装置における特徴量マップ生成処理の一例を示すフローチャート。
【
図13】実施形態に係るモデル学習装置におけるモデル学習処理の一例を示すフローチャート。
【
図14】実施形態に係るモデル学習装置における教師特徴量マップ生成処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。
【0012】
1. 構成
1.1 機構制御システム
まず、実施形態に係る機構制御システムの構成について説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る機構制御システムの構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、機構制御システム1は、機構2と、センサ3と、異常判定装置4と、モデル学習装置5と、制御装置6と、を含む。
【0014】
機構2は、異常判定対象の音源である。機構2は、例えば、モータ等が組み付けられた自動車の電動シートや風力発電設備である。機構2には、各々が同等の仕様を有する複数のモータが組み付けられていてもよい。機構2は、所定の動作モードで動作する際に音及び振動を発生させる。機構2が電動シートの場合、動作モードは、例えば、リクライニング動作、前後移動動作、左右移動動作等である。機構2からの音及び振動は、機構の動作モード、及び機構内の異常の有無によって変化し得る。機構2の動作モードは、制御装置6からの制御信号CNTによって制御される。制御信号CNTは、例えば、動作モードの開始、中断、及び終了を機構2に指示する情報を含む。
【0015】
センサ3は、例えば、マイク又は振動計である。センサ3は、機構2の近傍に、又は機構2に接触するように配置される。センサ3は、機構2が動作することによって発生する音又は振動を計測する。センサ3によって計測された音又は振動は、時系列の計測データSとして異常判定装置4に送信される。計測データSは、アナログ信号及びデジタル信号のいずれであってもよい。
【0016】
異常判定装置4は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。異常判定装置4は、制御装置6からの動作モード信号MODEに基づき、計測データSに関する異常判定処理を実行する。動作モード信号MODEは、機構2の動作モードを識別するための信号である。異常判定装置4は、異常判定処理の結果として、判定履歴R及び異常通知信号ANOMを生成する。異常通知信号ANOMは、計測データSに異常があることを制御装置6に通知するための信号である。判定履歴Rは、計測データSに異常があるか否かを示す情報である。異常判定装置4は、異常通知信号ANOMを制御装置6に送信し、判定履歴Rをユーザに出力する。異常判定処理の詳細については、後述する。
【0017】
モデル学習装置5は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。モデル学習装置5は、モデル学習処理を実行する。モデル学習装置5は、モデル学習処理の結果として、判定モデルMを生成する。モデル学習装置5は、生成された判定モデルMを異常判定装置4に送信する。モデル学習処理の詳細については、後述する。
【0018】
判定モデルMは、例えば、ニューラルネットワークを含む数学モデルである。判定モデルMは、異常判定装置4における異常判定処理に用いられる。判定モデルM内のニューラルネットワークは、複数のパラメタを含む。判定モデルM内の複数のパラメタは、モデル学習処理によって異常判定処理に対して最適化される。判定モデルMは、例えば、機構2の動作モード毎に異なるモデルを有する。
【0019】
制御装置6は、主に機構2の動作を制御する制御端末である。機構2が電動シートの場合、制御装置6は、出荷前検査において電動シートの動作を確認するための試験装置である。機構2が風力発電設備である場合、制御装置6は、設置された設備に対する動作制御及び不具合モニタをリアルタイムで行うための管制装置である。制御装置6は、異常判定装置4に動作モード信号MODEを送信する。制御装置6は、異常判定装置4から異常通知信号ANOMを受信する。制御装置6は、機構2に制御信号CNTを送信する。
【0020】
1.2 ハードウェア構成
次に、実施形態に係る機構制御システムのハードウェア構成について説明する。
【0021】
1.2.1 異常判定装置
図2は、実施形態に係る異常判定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、異常判定装置4は、制御回路11、ストレージ12、通信モジュール13、ユーザインタフェース14、ドライブ15、及び記憶媒体16を含む。
【0022】
制御回路11は、異常判定装置4の各構成要素を全体的に制御する回路である。制御回路11は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)等を含む。
【0023】
ストレージ12は、異常判定装置4の補助記憶装置である。ストレージ12は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はメモリカード等である。ストレージ12は、異常判定処理に用いられる計測データS及び判定モデルM等を記憶する。また、ストレージ12は、異常判定処理を実行するためのプログラムを記憶してもよい。
【0024】
通信モジュール13は、センサ3との間、及びモデル学習装置5との間のデータの送受信に用いられる回路である。
【0025】
ユーザインタフェース14は、ユーザと制御回路11との間で情報を通信するための回路である。ユーザインタフェース14は、入力機器及び出力機器を含む。入力機器は、例えば、タッチパネル及び操作ボタン等を含む。出力機器は、例えば、ディスプレイ及びプリンタ等を含む。また、出力機器は、ランプやブザー等を含んでいてもよい。
【0026】
ドライブ15は、記憶媒体16に記憶されたソフトウェアを読み込むための機器である。ドライブ15は、例えば、CD(Compact Disk)ドライブ、及びDVD(Digital Versatile Disk)ドライブ等を含む。
【0027】
記憶媒体16は、ソフトウェアを、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって記憶する媒体である。記憶媒体16は、異常判定処理を実行するためのプログラムを記憶してもよい。
【0028】
1.2.2 モデル学習装置
図3は、実施形態に係るモデル学習装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3に示すように、モデル学習装置5は、制御回路21、ストレージ22、通信モジュール23、ユーザインタフェース24、ドライブ25、及び記憶媒体26を含む。
【0029】
制御回路21は、モデル学習装置5の各構成要素を全体的に制御する回路である。制御回路21は、CPU、RAM、及びROM等を含む。
【0030】
ストレージ22は、モデル学習装置5の補助記憶装置である。ストレージ22は、例えば、HDD、SSD、又はメモリカード等である。ストレージ22は、モデル学習処理に使用されるデータを記憶する。また、ストレージ22は、モデル学習処理を実行するためのプログラムを記憶してもよい。
【0031】
通信モジュール23は、異常判定装置4との間のデータの送受信に使用される回路である。
【0032】
ユーザインタフェース24は、ユーザと制御回路21との間で情報を通信するための回路である。ユーザインタフェース24は、入力機器及び出力機器を含む。入力機器は、例えば、タッチパネル及び操作ボタン等を含む。出力機器は、例えば、ディスプレイ及びプリンタ等を含む。
【0033】
ドライブ25は、記憶媒体26に記憶されたソフトウェアを読み込むための機器である。ドライブ25は、例えば、CDドライブ、及びDVDドライブ等を含む。
【0034】
記憶媒体26は、ソフトウェアを、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって記憶する媒体である。記憶媒体26は、モデル学習処理を実行するためのプログラムを記憶してもよい。
【0035】
1.3 機能構成
次に、実施形態に係る機構制御システムの機能構成について説明する。
【0036】
1.3.1 異常判定装置
図4は、実施形態に係る異常判定装置の機能構成の一例を示すブロック図である。制御回路11のCPUは、ストレージ12又は記憶媒体16に記憶された異常判定処理に関するプログラムをRAMに展開する。そして、制御回路11のCPUは、RAMに展開されたプログラムを解釈及び実行する。これにより、異常判定装置4は、第1変換部31、スペクトログラム生成部32、第2変換部33、特徴量マップ生成部34、確率算出部35、及び判定部36を備えるコンピュータとして機能する。
【0037】
第1変換部31は、時系列の計測データSを周波数領域に変換する機能ブロックである。計測データSがアナログ信号の場合、第1変換部31は、計測データSをアナログ信号からデジタル信号に変換する。第1変換部31は、デジタル信号に変換後の計測データSを期間T1の長さのデータ単位に分割する。期間T1は、例えば、数ミリ秒~数十ミリ秒である。時系列に隣り合う2個のデータ単位は、互いに重複する期間を有していてもよい。時系列に隣り合う2個のデータ単位は、互いに重複する期間を有していなくもよい。第1変換部31は、例えば、計測データSに対して、データ単位毎に高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)処理を実行し得る。また、第1変換部31は、例えば、オクターブバンド分析のように、互いに異なる周波数帯を透過させる複数のバンドパスフィルタを用いることによって、計測データSを周波数領域に変換してもよい。第1変換部31は、データ単位毎の変換処理の結果をスペクトログラム生成部32に送信する。以下の説明では、周波数領域への変換処理は、“第1変換処理”とも呼ぶ。
【0038】
なお、第1変換部31の第1変換処理における周波数領域のサンプリング幅(周波数帯域)は、FFT処理のように定幅に分割されなくてもよい。例えば、第1変換部31の第1変換処理における周波数帯域は、1/3オクターブバンドやメル尺度に基づく帯域で分割されてもよい。ただし、周波数帯域へのバーク尺度の適用は、計算機負荷の観点から好ましくない。
【0039】
スペクトログラム生成部32は、第1変換部31による第1変換処理の結果を用いて、スペクトログラムを生成する機能ブロックである。スペクトログラム生成部32は、第1変換部31によるデータ単位毎の第1変換処理の結果を、時系列に期間T2にわたって蓄積する。期間T2は、期間T1より長い。期間T2は、例えば、数百ミリ秒である。スペクトログラム生成部32は、期間T2にわたって蓄積された複数の第1変換処理の結果に基づき、スペクトログラムを生成する。スペクトログラム生成部32は、生成されたスペクトログラムを第2変換部33に送信する。
【0040】
図5は、実施形態に係る異常判定装置で生成されるスペクトログラムの一例を示す図である。スペクトログラムは、3次元データの集合である。スペクトログラムにおける各3次元データの3成分はそれぞれ、時間、周波数、及び信号強度(振幅)に対応する。
図5の例では、X軸及びY軸がそれぞれ、時間及び周波数に対応する。そして、或る時間幅及び周波数帯域に対応する振幅の大小が、グリッド毎の色の濃淡で示される。スペクトログラムにおけるグリッドとは、1個の時間幅と1個の周波数帯域とで区切られるスペクトログラム内の矩形領域である。
【0041】
このスペクトログラムにおいて、或る時間幅に対応する(Y方向に並ぶ)複数のグリッドが、1個のデータ単位についての第1変換処理の結果に対応する。このようなデータ単位についての第1変換処理の結果が時系列に(X方向に)期間T2に対応する個数並ぶことにより、スペクトログラムが形成される。言い換えると、スペクトログラムは、各々が対応する周波数帯域で時系列に並ぶ複数のデータ群の集合である。
【0042】
再び
図4を参照して、異常判定装置4の機能構成について説明する。
【0043】
第2変換部33は、スペクトログラム生成部32によって生成されたスペクトログラムを変動周波数領域に変換する機能ブロックである。変動周波数とは、或る周波数で振動する信号における、ピーク値の時間変化の周波数表現である。第2変換部33は、スペクトログラムを、複数のデータ群に分割する。複数のデータ群は、互いに異なる周波数帯域に対応する。すなわち、複数のデータ群の各々は、スペクトログラムのうち、或る周波数帯域に対応する(X方向に並ぶ)複数のグリッドを含む。第2変換部33は、例えば、データ群毎にFFT処理を実行し得る。また、第2変換部33は、例えば、オクターブバンド分析のように、互いに異なる周波数帯を透過させる複数のバンドパスフィルタを用いることによって、スペクトログラムを変動周波数領域に変換してもよい。第2変換部33は、データ群毎の変換処理の結果を、特徴量マップ生成部34に送信する。以下の説明では、変動周波数領域への変換処理は、“第2変換処理”とも呼ぶ。
【0044】
なお、第2変換部33の第2変換処理における変動周波数帯域のサンプリング幅(変動周波数帯域)は、FFT処理のように定幅に分割されなくてもよい。例えば、第2変換部33の第2変換処理における変動周波数帯域は、1/3オクターブバンドやメル尺度に基づく帯域で分割されてもよい。ただし、変動周波数帯域へのバーク尺度の適用は、計算機負荷の観点から好ましくない。
【0045】
また、第2変換処理に先立ち、第2変換部33は、ラウドネス算出時に実行されるようなレベル補正処理、時間マスキング処理、周波数マスキング処理、及び時間重み付け処理の各々を実行してもよい。ただし、計測データSの異常の有無を人の聴感によらずに判定する観点から、レベル補正処理、時間マスキング処理、周波数マスキング処理、及び時間重み付け処理は、不要である。このため、第2変換部33は、レベル補正処理、時間マスキング処理、周波数マスキング処理、及び時間重み付け処理を実行しなくてもよい。
【0046】
特徴量マップ生成部34は、第2変換部33による第2変換処理の結果を用いて、特徴量マップを生成する機能ブロックである。特徴量マップ生成部34は、1個のスペクトログラムから生成される全てのデータ群に対する第2変換処理の結果を、特徴量として蓄積する。特徴量マップ生成部34は、蓄積された特徴量をマッピングすることにより、特徴量マップを生成する。特徴量マップ生成部34は、生成された特徴量マップを確率算出部35に送信する。
【0047】
図6は、実施形態に係る異常判定装置で生成される特徴量マップの一例を示す図である。特徴量マップは、3次元データの集合である。特徴量マップにおける各3次元データの3成分はそれぞれ、周波数、変動周波数、及び信号強度(振幅)に対応する。
図6の例では、X軸及びY軸がそれぞれ、周波数及び変動周波数に対応する。そして、或る周波数帯域及び変動周波数帯域に対応する振幅の大小が、グリッド毎の色の濃淡で示される。特徴量マップにおけるグリッドとは、1個の周波数帯域と1個の変動周波数帯域とで区切られる特徴量マップ内の矩形領域である。
【0048】
この特徴量マップにおいて、或る周波数帯域に対応する(Y方向に並ぶ)複数のグリッドが、1個のデータ群についての第2変換処理の結果に対応する。このようなデータ群の第2変換処理の結果が周波数方向に(X方向に)複数個並ぶことにより、特徴量マップが形成される。
【0049】
再び
図4を参照して、異常判定装置4の機能構成について説明する。
【0050】
確率算出部35は、計測データSに異常がある確率を算出する機能ブロックである。確率算出部35は、動作モード信号MODEに基づき、機構2の動作モードに応じた判定モデルMを選択する。確率算出部35は、選択された判定モデルMに、特徴量マップを入力する。確率算出部35は、特徴量マップが入力された判定モデルMからの出力結果に基づき、計測データSの異常確率を算出する。異常確率は、例えば、0以上1以下の実数である。例えば、異常確率が大きいほど、計測データSが異常である確率が高いことを示す。確率算出部35は、算出された異常確率を判定部36に送信する。
【0051】
上述の通り、判定モデルMは、ニューラルネットワークを含む。より具体的には、判定モデルMに含まれるニューラルネットワークは、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)である。この場合、特徴量マップは、あたかも画像情報として、判定モデルMに入力される。これにより、特徴量マップの各グリッドにおける振幅値は、判定モデルMによって、画像におけるピクセル値と同等に取り扱われる。
【0052】
判定部36は、異常確率に基づき、計測データSの異常の有無を判定する機能ブロックである。判定部36は、確率算出部35から異常確率を受信するたびに、判定処理を実行する。異常確率が条件を満たす場合、判定部36は、計測データSに異常があると判定する。条件は、例えば、異常確率が第1閾値(例えば0.5)以上となることであってもよい。また、条件は、例えば、異常確率が第1閾値以上となった回数が第2閾値以上となることであってもよい。このように、条件は、機構2の動作モード及び機構2の特性に応じて、任意の条件が適用される。判定部36は、判定処理の結果を時系列に並べた判定履歴Rを生成し、ユーザに出力する。また、計測データSに異常があると判定された場合、判定部36は、異常通知信号ANOMを生成し、制御装置6に送信する。なお、計測データSに異常があると判定された場合、判定部36は、ブザーを鳴らしたり、ランプを点灯させたりする等の手段で、異常をユーザに通知してもよい。
【0053】
図7は、実施形態に係る異常判定装置で生成される判定履歴の一例を示す図である。
図7の例では、判定履歴Rが、異常確率を時系列に並べたグラフとしてユーザに出力される場合が示される。判定履歴Rは、新たな異常確率が算出されるたびに、時間方向に更新されていく。
【0054】
図7の例において、異常確率が0.5以上の際に計測データSに異常があると判定される場合、判定部36は、時刻t1~t8の各々のタイミングで、異常通知信号ANOMを制御装置6に送信する。
【0055】
以上のように構成されることにより、異常判定装置4は、計測データSに基づき、判定モデルMを用いて、機構2の異常の有無を判定し、その結果をユーザ及び制御装置6に通知することができる。そして、制御装置6は、異常判定装置4からの異常通知信号ANOMを受信することにより、機構2の動作モードを中断させることができる。
【0056】
1.3.2 モデル学習装置
実施形態に係るモデル学習装置の機能構成について説明する。
【0057】
図8は、実施形態に係るモデル学習装置の機能構成の一例を示すブロック図である。制御回路21のCPUは、ストレージ22又は記憶媒体26に記憶されたモデル学習処理に関するプログラムをRAMに展開する。そして、制御回路21のCPUは、RAMに展開されたプログラムを解釈及び実行する。これにより、モデル学習装置5は、第1変換部41、スペクトログラム生成部42、第2変換部43、教師特徴量マップ生成部44、確率算出部45、及び更新部46を備えるコンピュータとして機能する。また、モデル学習装置5は、教師データセットT及び学習前モデルM0を記憶する。
【0058】
学習前モデルM0は、ニューラルネットワークを含む数学モデルである。学習前モデルM0の構成は、パラメタの値が異なる点を除いて、判定モデルMと同等である。学習前モデルM0は、初期状態、すなわちパラメタが異常判定処理に対して最適化される前の状態の判定モデルである。
【0059】
教師データセットTは、複数の教師データを含む。複数の教師データの各々は、互いに対応づけられたデータ及びラベルを含む。
【0060】
各教師データ内のデータは、例えば、機構2からの音又は振動を予め測定したデータである。各教師データ内のデータの長さは、例えば、期間T3以上である。期間T3は、期間T2より長い。このため、各教師データ内のデータからは、複数の特徴量マップを生成することができる。
【0061】
各教師データ内のラベルは、対応するデータに関する真の判定結果を示す情報である。具体的には、各教師データ内のラベルは、対応するデータの異常確率を含む。すなわち、異常な音又は振動を含むデータに対応するラベルは、異常確率“1”を示す。一方、異常な音又は振動を含まないデータに対応するラベルは、異常確率“0”を示す。
【0062】
教師データセットTは、教師データを処理単位として、モデル学習装置5によって処理される。以下では、各教師データに対するモデル学習装置5の機能構成について、説明する。
【0063】
第1変換部41、スペクトログラム生成部42、及び第2変換部43の機能構成は、計測データSに代えて教師データが入力である点を除き、第1変換部31、スペクトログラム生成部32、及び第2変換部33と同等である。
【0064】
第1変換部41は、時系列の教師データを周波数領域に変換する機能ブロックである。第1変換部41は、教師データを期間T1の長さのデータ単位に分割する。第1変換部41は、例えば、教師データに対して、データ単位毎に第1変換処理(例えば、FFT処理)を実行する。第1変換部41は、データ単位毎の第1変換処理の結果をスペクトログラム生成部42に送信する。なお、第1変換部41の第1変換処理における周波数帯域は、判定モデルMと学習前モデルM0との整合性の観点から、第1変換部31と同じ周波数帯域が適用されることが望ましい。
【0065】
スペクトログラム生成部42は、第1変換部41による第1変換処理の結果を用いて、スペクトログラムを生成する機能ブロックである。スペクトログラム生成部42は、第1変換部41によるデータ単位毎の第1変換処理の結果を、時系列に期間T2にわたって蓄積する。スペクトログラム生成部42は、期間T2にわたって蓄積された複数の第1変換処理の結果に基づき、スペクトログラムを生成する。スペクトログラム生成部42は、生成されたスペクトログラムを第2変換部43に送信する。
【0066】
第2変換部43は、スペクトログラム生成部42によって生成されたスペクトログラムを変動周波数領域に変換する機能ブロックである。第2変換部43は、スペクトログラムを、複数のデータ群に分割する。第2変換部43は、例えば、データ群毎に第2変換処理(例えば、FFT処理)を実行する。第2変換部43は、データ群毎の第2変換処理の結果を、教師特徴量マップ生成部44に送信する。なお、第2変換部43の第2変換処理における変動周波数帯域は、判定モデルMと学習前モデルM0との整合性の観点から、第2変換部33と同じ変動周波数帯域が適用されることが望ましい。
【0067】
教師特徴量マップ生成部44は、第2変換部43による第2変換処理の結果を用いて、教師特徴量マップを生成する機能ブロックである。教師特徴量マップ生成部44は、1個のスペクトログラムから生成される全てのデータ群の第2変換処理の結果を、教師特徴量候補として蓄積する。教師特徴量マップ生成部44は、蓄積された教師特徴量候補をマッピングすることにより、スペクトログラム毎に教師特徴量候補マップを生成する。そして、教師特徴量マップ生成部44は、複数のスペクトログラムに対応する複数の教師特徴量候補マップに基づき、教師特徴量マップを生成する。教師特徴量マップ生成部44は、生成された教師特徴量マップを確率算出部45に送信する。
【0068】
図9は、実施形態に係るモデル学習装置で生成される複数の教師特徴量候補マップと教師特徴量マップとの関係の一例を示す図である。
図9に示すように、教師特徴量マップにおける各グリッドの振幅値には、例えば、複数の教師特徴量候補マップの対応するグリッドにおける振幅値の最大値が適用される。
【0069】
再び
図8を参照して、モデル学習装置5の機能構成について説明する。
【0070】
確率算出部45の機能構成は、特徴量マップに代えて教師特徴量マップが入力である点、及び判定モデルMに代えて学習前モデルM0が用いられる点を除き、確率算出部35と同等である。
【0071】
確率算出部45は、教師データに異常がある確率を算出する機能ブロックである。確率算出部45は、学習前モデルM0に教師特徴量マップを入力する。確率算出部45は、教師特徴量マップが入力された学習前モデルM0からの出力結果に基づき、教師データの異常確率を算出する。確率算出部45は、算出された異常確率を更新部46に送信する。
【0072】
更新部46は、確率算出部45によって算出された異常確率に基づき、学習前モデルM0のパラメタを更新する機能ブロックである。具体的には、例えば、更新部46は、算出された異常確率とラベルとに基づき、評価関数を算出する。評価関数には、例えば、算出された異常確率とラベルとが一致した場合に最小となるような関数が適用される。算出された評価関数が閾値以上である場合、更新部46は、学習前モデルM0のパラメタを更新する。パラメタの更新に際して、更新部46は、例えば、誤差逆伝播法を用いる。更新部46によってパラメタが更新された学習前モデルM0は、確率算出部45にフィードバックされる。教師データセットTに関して算出された全ての評価関数が閾値未満である場合、更新部46は、学習前モデルM0を、判定モデルMとして異常判定装置4に送信する。
【0073】
以上のように構成されることにより、モデル学習装置5は、異常判定処理に最適化された判定モデルMを異常判定装置4に提供することができる。
【0074】
2. 動作
次に、実施形態に係る機構制御システムの動作について説明する。
【0075】
2.1 機構制御処理
まず、実施形態に係る機構制御システムにおける機構制御処理について説明する。
【0076】
図10は、実施形態に係る機構制御システムにおける機構制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0077】
ユーザから機構2の動作モードが入力されると(開始)、制御装置6は、入力された動作モードに応じた動作モード信号MODEを異常判定装置4に送信する(S1)。動作モード信号MODEは、異常判定装置4における判定モデルMの選択に用いられる。
【0078】
S1の処理の後、制御装置6は、入力された動作モードに応じて機構2の動作を開始させる(S2)。
【0079】
S2の処理の後、機構2は、制御信号CNTで指示された動作モードを開始する。異常判定装置4は、センサ3から計測データSを受信すると、S1の処理で送信された動作モード信号MODEに基づき、計測データSに対する異常判定処理を実行する。一方、制御装置6は、入力された動作モードが終了するまで、又は異常通知信号ANOMを受信するまで待機する(S3)。
【0080】
動作モードの終了後、又は異常通知信号ANOMの受信後、制御装置6は、異常通知信号ANOMを受信したか否かを判定する(S4)。S4の処理は、制御装置6が機構2の動作モードが終了したか否かを判定することと同義である。
【0081】
異常通知信号ANOMを受信した場合(つまり、動作モードが終了していない場合)(S4;yes)、制御装置6は、実行中の動作モードを中断することにより、機構2の動作を停止させる(S5)。
【0082】
異常通知信号ANOMを受信していない場合(つまり、動作モードが終了した場合)(S4;no)、又はS5の処理の後、機構制御処理は終了となる(終了)。
【0083】
以上のように動作することにより、異常判定装置4が機構2の異常を判定した場合、機構2の動作モードを自動的に中断させることができる。
【0084】
2.2 異常判定処理
次に、実施形態に係る異常判定装置における異常判定処理について説明する。
【0085】
図11は、実施形態に係る異常判定装置における異常判定処理の一例を示すフローチャートである。
図11の例では、異常判定装置4は、モデル学習装置5から判定モデルMを予め受信しているものとする。
【0086】
図11に示すように、制御装置6から動作モード信号MODEを受信すると(開始)、確率算出部35は、受信した動作モード信号MODEに基づいて、判定モデルMを選択する(S11)。
【0087】
S11の処理の後、異常判定装置4は、計測データSの受信を開始するまで待機する(S12)。
【0088】
計測データSの受信が開始すると、第1変換部31、スペクトログラム生成部32、第2変換部33、及び特徴量マップ生成部34は、特徴量マップ生成処理を実行する(S13)。特徴量マップ生成処理の詳細については、後述する。
【0089】
確率算出部35は、S13の処理で生成された特徴量マップを判定モデルMに入力することにより、異常確率を算出する(S14)。
【0090】
判定部36は、S14の処理によって算出された異常確率に基づき、ユーザに判定履歴Rを出力する(S15)。
【0091】
また、判定部36は、S14の処理によって算出された異常確率に基づき、計測データSに異常があるか否かを判定する(S16)。
【0092】
計測データSに異常があると判定された場合(S16;yes)、判定部36は、異常通知信号ANOMを制御装置6に送信する(S17)。
【0093】
計測データSに異常がないと判定された場合(S16;no)、又はS17の処理の後、異常判定装置4は、計測データSの受信が終了したか否かを判定する(S18)。
【0094】
計測データSの受信が終了していない場合(S18;no)、第1変換部31、スペクトログラム生成部32、第2変換部33、及び特徴量マップ生成部34は、新たに受信した計測データSに基づく特徴量マップ生成処理を実行する(S13)。そして、S13の処理に続いてS14~S18の処理が実行される。このように、計測データSの受信が終了するまで、S13~S18の処理が繰り返される。
【0095】
なお、S13~S18の処理は、例えば、リアルタイムで実行される。より具体的には、或るループにおけるS13~S18の処理は、1つ前のループにおけるS13~S18の処理を実行中に受信した計測データSに対して実行される。
【0096】
計測データSの受信が終了した場合(S18;yes)、異常判定処理は終了となる(終了)。
【0097】
2.3 特徴量マップ生成処理
次に、実施形態に係る異常判定装置における特徴量マップ生成処理について説明する。
【0098】
図12は、実施形態に係る異常判定装置における特徴量マップ生成処理の一例を示すフローチャートである。
図12におけるS21~S28の処理は、
図11におけるS13の処理の詳細に対応する。
【0099】
図12に示すように、計測データSを受信すると(開始)、第1変換部31は、期間T1分(すなわち、データ単位)の計測データSが蓄積されるまで待機する(S21)。
【0100】
期間T1分の計測データSが蓄積された後、第1変換部31は、蓄積された期間T1分の計測データSを周波数領域に変換する(S22)。
【0101】
第1変換部31は、期間T2分の計測データSがS22の処理によって変換されたか否かを判定する(S23)。
【0102】
期間T2分の計測データSが変換されていない場合(S23;no)、第1変換部31は、期間T1分の新たな計測データSが蓄積されるまで待機する(S21)。そして、期間T1分の計測データSが蓄積されると、第1変換部31は、S22の処理を実行する。このように、期間T2分の計測データSがS22の処理によって変換されるまで、S21及びS22の処理が繰り返される。
【0103】
期間T2分の計測データSが変換された場合(S23;yes)、スペクトログラム生成部32は、時系列に期間T2にわたって複数回実行されたS22の処理の結果に基づき、スペクトログラムを生成する(S24)。
【0104】
第2変換部33は、S24の処理で生成されたスペクトログラムの周波数領域から、周波数帯域を選択する(S25)。
【0105】
第2変換部33は、スペクトログラムのうち、S25の処理で選択された周波数帯域に対応する時系列データ(すなわち、データ群)を変動周波数領域に変換する(S26)。
【0106】
第2変換部33は、スペクトログラムから全ての周波数帯域が選択されたか否かを判定する(S27)。
【0107】
選択されていない周波数帯域がある場合(S27;no)、第2変換部33は、S24の処理で生成されたスペクトログラムの周波数領域から、未選択の周波数帯域を選択する(S25)。そして、S25の処理に続いて、S26及びS27の処理が実行される。このように、スペクトログラム内の全ての周波数帯域に対応するデータ群がS26の処理によって変換されるまで、S25~S27の処理が繰り返される。
【0108】
全ての周波数帯域が選択された場合(S27;yes)、特徴量マップ生成部34は、同一のスペクトログラム内の全てのデータ群に対してそれぞれ実行された複数回のS26の処理の結果に基づき、特徴量マップを生成する(S28)。
【0109】
以上により、特徴量マップ生成処理は終了となる(終了)。
【0110】
2.4 モデル学習処理
次に、実施形態に係るモデル学習装置におけるモデル学習処理について説明する。
【0111】
図13は、実施形態に係るモデル学習装置におけるモデル学習処理の一例を示すフローチャートである。
図13の例では、モデル学習装置5は、教師データセットT及び学習前モデルM0を予め記憶しているものとする。
【0112】
図13に示すように、ユーザからモデル学習処理を開始する旨の指示が入力されると(開始)、制御回路21は、教師データセットTから教師データを選択する(S31)。
【0113】
第1変換部41、スペクトログラム生成部42、第2変換部43、及び教師特徴量マップ生成部44は、S31の処理で選択された教師データに基づき、教師特徴量マップ生成処理を実行する(S32)。教師特徴量マップ生成処理の詳細については、後述する。
【0114】
確率算出部45は、S32の処理で生成された教師特徴量マップを学習前モデルM0に入力することにより、異常確率を算出する(S33)。
【0115】
更新部46は、S33の処理によって算出された異常確率が、S31の処理で選択された教師データ内のラベルに対して条件を満たすか否かを判定する(S34)。例えば、更新部46は、異常確率及びラベルに基づいて評価関数を算出する。そして、更新部46は、算出された評価関数を閾値と比較することにより、異常確率及びラベルの一致性を判定する。
【0116】
異常確率がラベルに対して条件を満たさない(すなわち、異常確率がラベルと一致しない)と判定された場合(S34;no)、更新部46は、学習前モデルM0を更新する(S35)。
【0117】
S35の処理の後、確率算出部45は、S32の処理で生成された教師特徴量マップを、S35の処理で更新された学習前モデルM0に入力する(S33)。そして、S33の処理に続いてS34及びS35の処理が実行される。このように、異常確率がラベルに対して条件を満たすと判定されるまで、S33~S35の処理が繰り返される。
【0118】
異常確率がラベルに対して条件を満たす(すなわち、異常確率がラベルと一致する)と判定された場合(S34;yes)、制御回路21は、教師データセットT内の全ての教師データが選択済みであるか否かを判定する(S36)。
【0119】
選択されていない教師データがある場合(S36;no)、制御回路21は、教師データセットTから未選択の教師データを選択する(S31)。そして、S31の処理に続いてS32~S36の処理が実行される。このように、全ての教師データが選択されるまで、S31~S36の処理が繰り返される。
【0120】
全ての教師データ選択済みである場合(S36;yes)、更新部46は、学習前モデルM0を判定モデルMとして異常判定装置4に送信する(S37)。
【0121】
S37の処理が終了すると、モデル学習処理は終了となる(終了)。
【0122】
2.5 教師特徴量マップ生成処理
次に、実施形態に係るモデル学習装置における教師特徴量マップ生成処理について説明する。
【0123】
図14は、実施形態に係るモデル学習装置における教師特徴量マップ生成処理の一例を示すフローチャートである。
図14におけるS41~S50の処理は、
図13におけるS32の処理の詳細に対応する。
【0124】
図14に示すように、教師データセットT内の教師データが選択されると(開始)、第1変換部41は、選択された教師データのうち期間T1分(すなわち、データ単位)を選択する(S41)。
【0125】
期間T1分の教師データが選択された後、第1変換部41は、選択された期間T1分の教師データを周波数領域に変換する(S42)。
【0126】
第1変換部41は、期間T2分の教師データがS42の処理によって変換されたか否かを判定する(S43)。
【0127】
期間T2分の教師データが変換されていない場合(S43;no)、第1変換部41は、期間T1分の未選択の教師データを更に選択する(S41)。そして、期間T1分の教師データが選択されると、第1変換部41は、新たに選択された期間T1分の教師データに対してS42の処理を実行する。このように、期間T2分の教師データがS42の処理によって変換されるまで、S41及びS42の処理が繰り返される。
【0128】
期間T2分の教師データが変換された場合(S43;yes)、スペクトログラム生成部42は、時系列に期間T2にわたって複数回実行されたS42の処理の結果に基づき、スペクトログラムを生成する(S44)。
【0129】
第2変換部43は、S44の処理で生成されたスペクトログラムの周波数領域から、周波数帯域を選択する(S45)。
【0130】
第2変換部43は、スペクトログラムのうち、S45の処理で選択された周波数帯域に対応する時系列データ(すなわち、データ群)を変動周波数領域に変換する(S46)。
【0131】
第2変換部43は、スペクトログラムから全ての周波数帯域が選択されたか否かを判定する(S47)。
【0132】
選択されていない周波数帯域がある場合(S47;no)、第2変換部43は、S44の処理で生成されたスペクトログラムの周波数領域から、未選択の周波数帯域を選択する(S45)。そして、S45の処理に続いて、S46及びS47の処理が実行される。このように、スペクトログラム内の全ての周波数帯域に対応するデータ群がS46の処理によって変換されるまで、S45~S47の処理が繰り返される。
【0133】
全ての周波数帯域が選択された場合(S47;yes)、教師特徴量マップ生成部44は、同一のスペクトログラム内の全てのデータ群に対してそれぞれ実行された複数回のS46の処理の結果に基づき、教師特徴量候補マップを生成する(S48)。
【0134】
S48の後、教師特徴量マップ生成部44は、教師データの全期間にわたって教師特徴量候補マップが生成されたか否かを判定する(S49)。
【0135】
教師データ内に教師特徴量候補マップが生成されていない期間がある場合(S49;no)、第1変換部41は、教師特徴量候補マップの生成に用いられていない期間の教師データから、期間T1分(すなわち、データ単位)を選択する(S41)。そして、S41の処理に続いて、S42~S49の処理が実行される。このように、教師データ内の全ての期間にわたって教師特徴量候補マップが生成されるまで、S41~S49の処理が繰り返される。
【0136】
教師データ内の全ての期間にわたって教師特徴量候補マップが生成された場合(S49;yes)、教師特徴量マップ生成部44は、複数の教師特徴量候補マップに基づいて、教師特徴量マップを生成する(S50)。具体的には、例えば、教師特徴量マップ生成部44は、複数の教師特徴量候補マップのグリッドにおける振幅値の最大値を、教師特徴量マップの対応するグリッドに適用する。
【0137】
以上により、教師特徴量マップ生成処理は終了となる(終了)。
【0138】
3. 効果
実施形態によれば、異常判定装置4の第1変換部31、スペクトログラム生成部32、第2変換部33、及び特徴量マップ生成部34は、計測データSに基づき、各々が周波数帯域及び変動周波数帯域の組に対応づけられた複数の特徴量を算出する。確率算出部35は、算出された複数の特徴量を判定モデルMに入力することにより、計測データSの異常確率を算出する。判定モデルMとしては、畳み込みニューラルネットワークが用いられる。これにより、異常判定装置4は、検査員を介することなく、客観的な判定処理の指標として異常確率を自動的に算出することができる。
【0139】
具体的には、第1変換部31は、計測データS内の複数のデータ単位の各々を周波数領域に変換する。スペクトログラム生成部32は、第1変換処理の結果に基づいて、各々が対応する周波数帯域で時系列に並ぶ複数のデータ群を生成する。第2変換部33は、複数のデータ群の各々を変動周波数領域に変換する。特徴量マップ生成部34は、第2変換処理の結果を、対応する周波数帯域及び変動周波数帯域にマッピングする。第1変換処理では、複数のデータ単位の各々は、バーク尺度を除く尺度に基づく周波数帯域で分割される。第2変換処理では、複数のデータ群の各々は、バーク尺度を除く尺度に基づく変動周波数帯域で分割される。これにより、ラウドネスのような心理量の算出を省略しつつ、特徴量マップを生成できる。このように、人の聴感によらない物理量として複数の特徴量を算出することで、より合理的かつ客観的な判定処理を実行することができる。加えて、ラウドネス算出に要する計算量の多い処理を省略することで、異常判定装置4に汎用計算機が適用される場合でも、計測データSに基づいて、複数の特徴量をリアルタイムで算出することができる。
【0140】
また、判定部36は、算出された異常確率に基づき、計測データSの異常の有無を判定する。これにより、異常判定装置4は、検査員を介することなく、自動的に判定履歴R及び異常の通知をユーザに出力すると共に、異常通知信号ANOMを制御装置6に送信することができる。
【0141】
また、制御装置6は、異常通知信号ANOMに基づいて、機構2の動作モードを中断させる。これにより、機構2から発生する音又は振動に異常があると判定された場合には、機構2を自動的に中断させることができる。このように、機構制御システム1は、異常の有無の判定から機構2の動作制御までを自動的に行うことができる。
【0142】
また、モデル学習装置5の教師特徴量マップ生成部44は、時系列に並ぶ複数の特徴量マップに対応する複数の教師特徴量候補マップを生成する。教師特徴量マップ生成部44は、複数の教師特徴量候補マップの最大値を対応するグリッドにマッピングすることにより、教師特徴量マップを生成する。これにより、機構2が正常な場合には発生しない特徴的な音又は振動が反映された特徴量を教師特徴量マップに反映させることができる。加えて、ラベルを教師データ内のデータ全体に対して1対1に対応づけることができるため、データに対するラベル付けの作業負荷を軽減することができる。
【0143】
また、更新部46は、教師特徴量マップが入力された学習前モデルM0から算出された異常確率と、ラベルとに基づき、学習前モデルM0のパラメタを更新する。これにより、学習前モデルM0から算出される異常確率をラベルの異常確率に近づけることができる。このため、モデル学習装置5は、異常判定処理に最適化された判定モデルMを異常判定装置4に提供することができる。
【0144】
4. その他
なお、上記実施形態には、種々の変形が適用可能である。
【0145】
例えば、上記実施形態では、教師データ内のデータ全体に対してラベルが1対1で割り当てられる場合について説明したが、これに限られない。例えば、ラベルは、教師データ内のデータの期間T2の部分に対して1対1で割り当てられもよい。この場合、
図14に示されたS49及びS50の処理が省略される。そして、S48の処理において生成された教師特徴量候補マップが、教師特徴量マップとして用いられる。これにより、教師データあたりの更新処理の回数を増やすことができる。このため、判定モデルMの判定精度を向上させることができる。
【0146】
また、例えば、上記実施形態では、異常通知信号ANOMを受信した場合、制御装置6が機構2の動作モードを中断させる場合について説明したが、これに限られない。制御装置6は、機構2をセーフモードに移行させる等、各種制御動作を実行してもよい。また、制御装置6は、異常通知信号ANOMに応じて、ユーザに異常の通知をしてもよい。
【0147】
また、例えば、上記実施形態では、異常判定動作を実行するプログラムが異常判定装置4で、モデル学習動作を実行するプログラムがモデル学習装置5で、それぞれ実行される場合について説明したが、これに限られない。例えば、異常判定動作を実行するプログラム及びモデル学習動作を実行するプログラムは、同一の情報処理装置で実行されてもよい。また、例えば、異常判定動作を実行するプログラム及びモデル学習動作を実行するプログラムは、クラウド上の計算リソースで実行されてもよい。
【0148】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0149】
1…機構制御システム、2…機構、3…センサ、4…異常判定装置、5…モデル学習装置、6…制御装置、11,21…制御回路、12,22…ストレージ、13,23…通信モジュール、14,24…ユーザインタフェース、15,25…ドライブ、16,26…記憶媒体、31,41…第1変換部、32,42…スペクトログラム生成部、33,43…第2変換部、34…特徴量マップ生成部、35,45…確率算出部、36…判定部、44…教師特徴量マップ生成部、46…更新部、S…計測データ、M…判定モデル、M0…学習前モデル、R…判定履歴、T…教師データセット。
【要約】
【課題】機構の異常の有無を自動的かつ客観的に判定する手段を提供する。
【解決手段】一実施形態の情報処理装置は、時系列データSに基づき、各々が周波数及び変動周波数の組に対応づけられた複数の値を算出することと、複数の値をモデルMに入力して、時系列データに異常が含まれる確率を算出することと、を実行するように構成されたプロセッサを備える。
【選択図】
図1