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特許7230176ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法、および、分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法、および、分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20230220BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230220BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230220BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20230220BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20230220BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20230220BHJP
   C01B 37/02 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D71/02 500
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/00
B01D69/02
C01B39/48
C01B37/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021503521
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2020006209
(87)【国際公開番号】W WO2020179432
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2019038444
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】市川 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】谷島 健二
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】木下 直人
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046545(WO,A1)
【文献】特開平10-057784(JP,A)
【文献】特開2005-262189(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180563(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180243(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169591(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C01B 39/48
C01B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜複合体であって、
多孔質の支持体と、
前記支持体上に形成されたゼオライト膜と、
を備え、
前記ゼオライト膜は、
前記支持体を覆う低密度層と、
前記低密度層を覆い、前記低密度層よりもゼオライト結晶相の含有率が高い緻密層と、
を備え、
前記低密度層の厚さは、0.01μm以上かつ20μm以下であり、
前記低密度層の厚さは、前記緻密層の近似表面に垂直な方向において、前記緻密層と前記低密度層との境界面と、前記支持体の近似表面との間の平均距離として求められ、
前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、前記低密度層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径よりも大きい。
【請求項2】
請求項1に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、前記低密度層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径の100倍以下である。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、0.1μm以上かつ10μm以下である。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記緻密層の厚さは、前記低密度層の厚さの0.05倍以上かつ50倍以下である。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記緻密層におけるゼオライト結晶相の含有率は95%以上であり、
前記低密度層におけるゼオライト結晶相の含有率は5%以上かつ95%未満である。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記低密度層の粒界相は無機物により形成される。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記低密度層の粒界相は非晶質を含む。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記緻密層と前記低密度層とは、同じ種類のゼオライト結晶を含む。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8である。
【請求項10】
ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)種結晶を準備する工程と、
b)多孔質の支持体上に前記種結晶を付着させ、前記種結晶の層が2層以上に積層された種結晶積層体を前記支持体上に形成する工程と、
c)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶積層体からゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、
を備え、
前記ゼオライト膜は、
前記支持体を覆う低密度層と、
前記低密度層を覆い、前記低密度層よりもゼオライト結晶相の含有率が高い緻密層と、
を備え、
前記低密度層の厚さは、0.01μm以上かつ20μm以下であり、
前記低密度層の厚さは、前記緻密層の近似表面に垂直な方向において、前記緻密層と前記低密度層との境界面と、前記支持体の近似表面との間の平均距離として求められ、
前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、前記低密度層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径よりも大きい。
【請求項11】
請求項10に記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記原料溶液に含まれる水に対する構造規定剤のモル比率は0.01以下である。
【請求項12】
分離方法であって、
a)請求項1ないし9のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体を準備する工程と、
b)複数種類のガスまたは液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記混合物質中の透過性が高い物質を、前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより他の物質から分離する工程と、
を備える。
【請求項13】
請求項12に記載の分離方法であって、
前記混合物質は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法、および、ゼオライト膜複合体を用いた混合物質の分離方法に関する。
[関連出願の参照]
本願は、2019年3月4日に出願された日本国特許出願JP2019-038444からの優先権の利益を主張し、当該出願の全ての開示は、本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
現在、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してゼオライト膜複合体とすることにより、ゼオライトの分子篩作用を利用した特定の分子の分離や分子の吸着等の用途について、様々な研究や開発が行われている。例えば、複数種類のガスを含む混合ガスの分離では、混合ガスをゼオライト膜複合体に供給し、高透過性のガスを透過させることにより他のガスから分離させる。
【0003】
例えば、特開平10-57784号公報(文献1)では、多孔質基材の表面に、厚さ0.5μm~30μmの緻密なゼオライト膜が密着したゼオライト分離膜が提案されている。多孔質基材の気孔率は10%~50%であり、平均気孔径は0.5μm~10μmである。ゼオライト膜は、平均結晶粒径が多孔質基材の平均気孔径の0.4倍~8倍である種結晶を、多孔質基材の表面に0.2mg/cm~3mg/cm付着させた後、原料溶液中にて水熱合成することにより形成される。
【0004】
一方、文献1の図2には、従来技術に係るゼオライト分離膜の断面が開示されている。当該ゼオライト分離膜では、基材と緻密層との間に、ブリッジ構造(すなわち、大きな空隙)を有する疎なゼオライト層が存在する。当該疎なゼオライト層は、ブリッジ構造が存在する部分においては基材の表面を覆っておらず、強度が低いため使用耐圧に劣ると記載されている。また、当該ゼオライト分離膜は、膜厚が厚く透過流速が小さいという問題点を有するとも記載されている。
【0005】
ところで、ゼオライト膜複合体において、高透過性ガスを他のガスから効率良く分離するためには、欠陥を有しない緻密なゼオライト膜が多孔質支持体上に設けられる必要がある。また、高透過性ガスの透過量を増大させるためには、ゼオライト膜を薄くする必要がある。しかしながら、ゼオライト膜を薄くすると、ゼオライト膜に欠陥が生じる可能性が高くなるため、ゼオライト膜複合体における高い透過性能および高い分離性能の両立は容易ではない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ゼオライト膜複合体に向けられており、高い透過性能および高い分離性能を有するゼオライト膜複合体を実現することを目的としている。
【0007】
本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体は、多孔質の支持体と、前記支持体上に形成されたゼオライト膜と、を備える。前記ゼオライト膜は、前記支持体を覆う低密度層と、前記低密度層を覆い、前記低密度層よりもゼオライト結晶相の含有率が高い緻密層と、を備える。前記低密度層の厚さは、0.01μm以上かつ20μm以下である。前記低密度層の厚さは、前記緻密層の近似表面に垂直な方向において、前記緻密層と前記低密度層との境界面と、前記支持体の近似表面との間の平均距離として求められる。前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、前記低密度層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径よりも大きい。本発明では、高い透過性能および高い分離性能を有するゼオライト膜複合体を実現することができる。
【0009】
より好ましくは、前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、前記低密度層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径の100倍以下である。
【0010】
好ましくは、前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、0.1μm以上かつ10μm以下である。
【0011】
好ましくは、前記緻密層の厚さは、前記低密度層の厚さの0.05倍以上かつ50倍以下である。
【0012】
好ましくは、前記緻密層におけるゼオライト結晶相の含有率は95%以上であり、前記低密度層におけるゼオライト結晶相の含有率は5%以上かつ95%未満である。
【0013】
好ましくは、前記低密度層の粒界相は無機物により形成される。
【0014】
好ましくは、前記低密度層の粒界相は非晶質を含む。
【0015】
好ましくは、前記緻密層と前記低密度層とは、同じ種類のゼオライト結晶を含む。
【0016】
好ましくは、前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8である。
【0017】
本発明は、ゼオライト膜複合体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法は、a)種結晶を準備する工程と、b)多孔質の支持体上に前記種結晶を付着させ、前記種結晶の層が2層以上に積層された種結晶積層体を前記支持体上に形成する工程と、c)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記種結晶積層体からゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、を備える。前記ゼオライト膜は、前記支持体を覆う低密度層と、前記低密度層を覆い、前記低密度層よりもゼオライト結晶相の含有率が高い緻密層と、を備える。前記低密度層の厚さは、0.01μm以上かつ20μm以下である。前記低密度層の厚さは、前記緻密層の近似表面に垂直な方向において、前記緻密層と前記低密度層との境界面と、前記支持体の近似表面との間の平均距離として求められる。前記緻密層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、前記低密度層に含まれるゼオライト結晶の平均粒径よりも大きい。本発明では、高い透過性能および高い分離性能を有するゼオライト膜複合体を実現することができる。
【0018】
好ましくは、前記原料溶液に含まれる水に対する構造規定剤のモル比率は0.01以下である。
【0019】
本発明は、分離方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る分離方法は、a)上述のゼオライト膜複合体を準備する工程と、b)複数種類のガスまたは液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記混合物質中の透過性が高い物質を、前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより他の物質から分離する工程と、を備える。
【0020】
好ましくは、前記混合物質は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0021】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ゼオライト膜複合体の断面図である。
図2】ゼオライト膜複合体の一部を拡大して示す断面図である。
図3】ゼオライト膜複合体の一部を拡大して示すSTEM画像である。
図4】緻密層と低密度層との境界面近傍を拡大して示す模式図である。
図5】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
図6】製造途上のゼオライト膜複合体の一部を拡大して示す断面図である。
図7】分離装置を示す図である。
図8】混合物質の分離の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、ゼオライト膜複合体1の断面図である。図2は、ゼオライト膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に形成されゼオライト膜12とを備える。ゼオライト膜とは、少なくとも、支持体11の表面にゼオライトが膜状に形成されたものであって、有機膜中にゼオライト粒子を分散させただけのものは含まない。図1では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。図2では、ゼオライト膜12に平行斜線を付す。また、図2では、ゼオライト膜12の厚さを実際よりも厚く描いている。
【0024】
支持体11はガスおよび液体を透過可能な多孔質部材である。図1に示す例では、支持体11は、一体成形された一繋がりの柱状の本体に、長手方向(すなわち、図1中の上下方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられたモノリス型支持体である。図1に示す例では、支持体11は略円柱状である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。図1では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。ゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面上に形成され、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する。
【0025】
支持体11の長さ(すなわち、図1中の上下方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。支持体11の形状が管状または円筒状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0026】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質(例えば、セラミックまたは金属)が採用可能である。本実施の形態では、支持体11はセラミック焼結体により形成される。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。
【0027】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0028】
支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11の表面および内部を含めた全体における細孔径の分布については、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、例えば25%~50%である。
【0029】
支持体11は、例えば、平均細孔径が異なる複数の層が厚さ方向に積層された多層構造を有する。ゼオライト膜12が形成される表面を含む表面層における平均細孔径および焼結粒径は、表面層以外の層における平均細孔径および焼結粒径よりも小さい。支持体11の表面層の平均細孔径は、例えば0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができる。多層構造を形成する複数の層の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
ゼオライト膜12は、細孔を有する多孔膜である。ゼオライト膜12は、複数種類の物質が混合した混合物質から、分子篩作用を利用して特定の物質を分離する分離膜として利用可能である。ゼオライト膜12では、当該特定の物質に比べて他の物質が透過しにくい。換言すれば、ゼオライト膜12の当該他の物質の透過量は、上記特定の物質の透過量に比べて小さい。
【0031】
ゼオライト膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。ゼオライト膜12を厚くすると分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くすると透過速度が増大する。ゼオライト膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。ゼオライト膜12の平均細孔径は、1nm以下である。
【0032】
ゼオライト膜12の平均細孔径は、好ましくは0.2nm以上かつ0.8nm以下であり、より好ましくは、0.3nm以上かつ0.7nm以下であり、さらに好ましくは、0.3nm以上かつ0.6nm以下である。ゼオライト膜12の平均細孔径は、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径よりも小さい。
【0033】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの最大員環数がnである場合、n員環細孔の短径と長径の算術平均を平均細孔径とする。n員環細孔とは、酸素原子がT原子と結合して環状構造をなす部分の酸素原子の数がn個である細孔である。ゼオライトが、nが等しい複数のn員環細孔を有する場合には、全てのn員環細孔の短径と長径の算術平均をゼオライトの平均細孔径とする。このように、ゼオライト膜の平均細孔径は当該ゼオライトの骨格構造によって一義的に決定され、国際ゼオライト学会の“Database of Zeolite Structures”[online]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。
【0034】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの種類は特に限定されないが、例えば、AEI型、AEN型、AFN型、AFV型、AFX型、BEA型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、FAU型(X型、Y型)、GIS型、LEV型、LTA型、MEL型、MFI型、MOR型、PAU型、RHO型、SAT型、SOD型等のゼオライトであってよい。
【0035】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトとしては、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO)の中心に位置する原子(T原子)がSiとAlとからなるゼオライト、T原子がAlとPとからなるAlPO型のゼオライト、T原子がSiとAlとPとからなるSAPO型のゼオライト、T原子がマグネシウム(Mg)とSiとAlとPとからなるMAPSO型のゼオライト、T原子が亜鉛(Zn)とSiとAlとPとからなるZnAPSO型のゼオライト等を用いることができる。T原子の一部は、他の元素に置換されていてもよい。
【0036】
ゼオライト膜12は、例えば、ケイ素(Si)を含む。ゼオライト膜12は、例えば、Si、アルミニウム(Al)およびリン(P)のうちいずれか2つ以上を含んでいてもよい。ゼオライト膜12は、アルカリ金属を含んでいてもよい。当該アルカリ金属は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)である。ゼオライト膜12がSi原子を含む場合、ゼオライト膜12におけるSi/Al比は、例えば1以上かつ10万以下である。当該Si/Al比は、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは100以上であり、高ければ高いほど好ましい。後述する原料溶液中のSi源とAl源との配合割合等を調整することにより、ゼオライト膜12におけるSi/Al比を調整することができる。
【0037】
COの透過量増大および分離性能向上の観点から、当該ゼオライトの最大員環数は、8以下(例えば、6または8)であることが好ましい。ゼオライト膜12は、例えば、DDR型のゼオライトである。換言すれば、ゼオライト膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「DDR」であるゼオライトにより構成されたゼオライト膜である。この場合、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの固有細孔径は、0.36nm×0.44nmであり、平均細孔径は、0.40nmである。
【0038】
20℃~400℃におけるゼオライト膜12のCOの透過量(パーミエンス)は、例えば100nmol/m・s・Pa以上である。また、20℃~400℃におけるゼオライト膜12のCOの透過量/CH漏れ量比(パーミエンス比)は、例えば100以上である。当該パーミエンスおよびパーミエンス比は、ゼオライト膜12の供給側と透過側とのCOの分圧差が1.5MPaである場合のものである。
【0039】
図3は、ゼオライト膜複合体1のゼオライト膜12近傍の断面を研磨した研磨面を、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)により観察した図(すなわち、STEM画像)である。
【0040】
ゼオライト膜12は、低密度層13と、緻密層14とを備える。低密度層13は、支持体11の表面に直接的に接触し、支持体11の表面を覆う。緻密層14は、低密度層13の表面に直接的に接触し、低密度層13の表面を覆う。緻密層14は、支持体11の表面には直接的には非接触であり、低密度層13を介して間接的に支持体11の表面に接触する。緻密層14におけるゼオライト結晶相の含有率は、低密度層13におけるゼオライト結晶相の含有率よりも高い。図3では、緻密層14と低密度層13との境界面(すなわち、低密度層13の表面)を、実線15にて示す。
【0041】
緻密層14におけるゼオライト結晶相の含有率は、好ましくは95%以上であり、より好ましくは96%以上である。低密度層13におけるゼオライト結晶相の含有率は、好ましくは5%以上かつ95%未満であり、より好ましくは20%以上かつ90%以下である。緻密層14におけるゼオライト結晶相の含有率は、緻密層14におけるゼオライト結晶相の容積を、緻密層14におけるゼオライト結晶相および粒界相の合計容積で除算することにより求められる。低密度層13におけるゼオライト結晶相の含有率についても同様にして求められる。
【0042】
上述の粒界相は、複数のゼオライト結晶の間の領域である。粒界相は、例えば、非晶質(すなわち、アモルファス)、ゼオライト結晶以外の結晶、および/または、空隙を含む相である。粒界相の密度は、ゼオライト結晶相の密度よりも低い。
【0043】
緻密層14におけるゼオライト結晶相の含有率は、上述のSTEM画像を用いて求められる。具体的には、当該STEM画像において、1個の任意のゼオライト結晶を選択し、選択されたゼオライト結晶に隣接する全てのゼオライト結晶との間の粒界相を含む領域を選択する。続いて、当該領域を所定の閾値にて二値化する。当該閾値は、選択されたゼオライト結晶と粒界相とを識別できるように、適宜決定される。次に、二値化した上記領域の画像に基づいて、当該閾値未満の濃度を有する部分(例えば、ゼオライト結晶相)の面積と、当該閾値以上の濃度を有する部分(例えば、粒界相)の面積とをそれぞれ求める。そして、ゼオライト結晶相の面積を、ゼオライト結晶相および粒界相の合計面積で除算することにより、当該領域におけるゼオライト結晶相の含有率を求める。本実施の形態では、STEM画像上の緻密層14における10個の領域について、ゼオライト結晶相の含有率をそれぞれ求め、これらの含有率の平均を、緻密層14におけるゼオライト結晶相の含有率としている。低密度層13におけるゼオライト結晶相の含有率も、緻密層14と同様の方法にて求められる。
【0044】
低密度層13の粒界相は、好ましくは非晶質を含む。より好ましくは、低密度層13の粒界相は非晶質を10重量%以上含む。また、低密度層13の粒界相は、無機物により形成されることが好ましい。換言すれば、低密度層13の粒界相は、好ましくは無機物のみにより形成され、有機物を実質的に含まない。有機物を実質的に含まないとは、有機物を5重量%以上含まないことを指す。
【0045】
緻密層14と低密度層13との境界面15は、上述のSTEM画像を用いて求められる。具体的には、まず、当該STEM画像において、緻密層14の表面143(すなわち、境界面15とは反対側の外表面)を、最小二乗法にて直線近似した近似表面142を求める。図3では、緻密層14の近似表面142を二点鎖線にて示す。続いて、近似表面142に平行な複数の直線(図示省略)を、近似表面142に垂直な方向(すなわち、図3中の下方)に等間隔に配列する。当該複数の直線の間隔は、緻密層14の厚さに対して十分に小さい距離である。
【0046】
次に、当該複数の直線のうち、STEM画像の背景を含まない各直線について、各直線上における粒界相の割合(すなわち、粒界相の占有率)を求める。そして、近似表面142から離れる方向において、粒界相の割合が初めて5%以上になった直線と、当該直線の近似表面142側に隣接する直線との中間に位置する近似表面142に平行な直線を、境界面15として決定する。
【0047】
緻密層14の厚さは、緻密層14の近似表面142に垂直な方向における、近似表面142と境界面15との間の距離として求められる。また、低密度層13の厚さは、緻密層14の近似表面142に垂直な方向における、境界面15と支持体11の近似表面112との間の平均距離として求められる。図3では、支持体11の近似表面112を二点鎖線にて示す。支持体11の近似表面112は、上述のSTEM画像において、支持体11の表面を最小二乗法にて直線近似することにより求められる。境界面15と支持体11の近似表面112との間の平均距離とは、当該STEM画像の左右方向(すなわち、図3中の左右方向)の各位置における境界面15と支持体11の近似表面112との間の距離の算術平均値である。ゼオライト膜12の厚さは、緻密層14の厚さと、低密度層13の厚さとの合計である。なお、緻密層14および低密度層13の厚さを求める際に使用されるSTEM画像は、ゼオライト膜12および支持体11の合計厚さ、および、ゼオライト膜12の左右方向の幅が、ゼオライト膜12の厚さの約3倍および約4倍となるように取得される。
【0048】
ゼオライト膜12の厚さは、上述のように、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。緻密層14の厚さは、例えば0.01μm~20μmであり、好ましくは0.03μm~10μmであり、さらに好ましくは0.05μm~8μmである。低密度層13の厚さは、例えば0.01μm~20μmであり、好ましくは0.05μm~10μmであり、さらに好ましくは0.1μm~5μmである。緻密層14の厚さは、低密度層13の厚さの0.05倍以上かつ50倍以下であることが好ましく、0.1倍以上かつ30倍以下であることがより好ましい。
【0049】
ゼオライト膜12では、緻密層14と低密度層13とは、同じ種類のゼオライト結晶を含む。図3に示す例では、緻密層14および低密度層13はそれぞれ1種類のゼオライト結晶を主に含み、緻密層14に含まれるゼオライト結晶の種類と、低密度層13に含まれるゼオライト結晶の種類とは同じである。緻密層14および低密度層13に含まれるゼオライト結晶は、例えば、DDR型のゼオライトである。緻密層14に含まれるゼオライト結晶の最大員環数は8である。低密度層13に含まれるゼオライト結晶の最大員環数も8である。緻密層14および低密度層13におけるゼオライト結晶の固有細孔径は、0.36nm×0.44nmである。
【0050】
図4は、ゼオライト膜12における緻密層14と低密度層13との境界面15近傍を拡大して示す模式図である。図4に示すように、緻密層14に含まれるゼオライト結晶141の平均粒径は、低密度層13に含まれるゼオライト結晶131の平均粒径よりも大きい。なお、図4では、緻密層14に含まれる複数のゼオライト結晶141の大きさを同じとして描いているが、当該複数のゼオライト結晶141の大きさは異なっていてもよい。また、低密度層13に含まれる複数のゼオライト結晶131の大きさも同じとして描いているが、当該複数のゼオライト結晶131の大きさは異なっていてもよい。
【0051】
緻密層14に含まれるゼオライト結晶141の平均粒径は、低密度層13に含まれるゼオライト結晶131の平均粒径の100倍以下であることが好ましく、80倍以下であることがより好ましい。また、緻密層14に含まれるゼオライト結晶141の平均粒径は、低密度層13に含まれるゼオライト結晶131の平均粒径の2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。緻密層14に含まれるゼオライト結晶141の平均粒径は、好ましくは、0.01μm以上かつ10μm以下であり、より好ましくは、0.03μm以上かつ5μm以下である。低密度層13に含まれるゼオライト結晶131の平均粒径は、好ましくは、0.01μm以上かつ10μm以下であり、より好ましくは、0.05μm以上かつ5μm以下である。
【0052】
緻密層14に含まれるゼオライト結晶141の平均粒径は、ゼオライト膜12の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で撮影して15μm×15μmの範囲を選択し、画像内に含まれるゼオライト結晶141の個数とゼオライト結晶141の面積を算出した後、ゼオライト結晶141が円であると仮定してゼオライト結晶141の面積をゼオライト結晶141の個数で除算して算出する。低密度層13に含まれるゼオライト結晶131の平均粒径は、ゼオライト膜12と支持体11とを含むSTEMの断面像から算出する。断面像においてゼオライト膜12の厚さ方向にゼオライト膜12と支持体11の厚さが等しくなる距離のエリアの画面を選択し、上述の方法で二値化した後、画像内に含まれるゼオライト結晶131の個数とゼオライト結晶131の面積を算出し、ゼオライト結晶131が円であると仮定してゼオライト結晶131の面積をゼオライト結晶131の個数で除算して算出する。
【0053】
次に、図5を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1の製造の流れの一例について説明する。ゼオライト膜複合体1が製造される際には、まず、ゼオライト膜12の製造に利用される種結晶が準備される(ステップS11)。種結晶は、例えば、水熱合成にてDDR型のゼオライトの粉末が生成され、当該ゼオライトの粉末から取得される。当該ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。
【0054】
続いて、種結晶を支持体11上に付着させる(ステップS12)。ステップS12では、図6に示すように、支持体11の貫通孔111の内側面115上に、種結晶の層が2層以上に積層された種結晶積層体125が形成される。これにより、種結晶付着支持体が作製される。図6では、各種結晶を円にて示し、実際よりも大きく描いている。
【0055】
図6に示す例では、種結晶積層体125は、支持体11の内側面115に直接的に接触して内側面115を覆う第1種結晶層と、第1種結晶層の表面に直接的に接触して第1種結晶層の表面を覆う第2種結晶層とを備える。第2種結晶層は、支持体11の内側面115には直接的には非接触であり、第1種結晶層を介して間接的に支持体11の内側面115に接触する。種結晶積層体125の厚さ、第1種結晶層の厚さ、および、第2種結晶層の厚さはそれぞれ、支持体11上において略均一であることが好ましい。種結晶積層体125は、第2種結晶層上に積層される種結晶層をさらに備えていてもよい。
【0056】
ステップS12における支持体11への種結晶積層体125の付着は、例えば、種結晶を分散させた溶液に多孔質の支持体11を浸漬することにより行われる。この場合、支持体11上に種結晶積層体125を形成するために、当該溶液への支持体11の浸漬および乾燥を複数回繰り返してもよい。支持体11への種結晶積層体125の付着は、種結晶を分散させた溶液を、支持体11の貫通孔111の内側面115に接触させることにより行われてもよい。また、種結晶積層体125は、他の手法により支持体11に付着されてもよい。
【0057】
種結晶積層体125が付着された支持体11は、原料溶液に浸漬される。原料溶液は、例えば、Si源および構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)等を、溶媒に溶解させることにより作製する。原料溶液の組成は、例えば、1.0SiO:0.015SDA:0.12(CH(NHである。原料溶液の溶媒には、水やエタノール等のアルコールを用いてもよい。原料溶液の溶媒に水が用いられる場合、原料溶液に含まれる水に対するSDAのモル比率は、好ましくは0.01以下である。また、原料溶液に含まれる水に対するSDAのモル比率は、好ましくは0.00001以上である。原料溶液に含まれるSDAは、例えば有機物である。SDAとして、例えば、1-アダマンタンアミンを用いることができる。
【0058】
そして、水熱合成により上述の種結晶積層体125の各種結晶を核としてDDR型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にDDR型のゼオライト膜12が形成される(ステップS13)。水熱合成時の温度は、好ましくは120~200℃であり、例えば160℃である。水熱合成時間は、好ましくは10~100時間であり、例えば30時間である。
【0059】
水熱合成が終了すると、支持体11およびゼオライト膜12を純水で洗浄する。洗浄後の支持体11およびゼオライト膜12は、例えば80℃にて乾燥される。支持体11およびゼオライト膜12を乾燥した後に、ゼオライト膜12を加熱処理することによって、ゼオライト膜12中のSDAをおよそ完全に燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させる。これにより、上述のゼオライト膜複合体1が得られる。
【0060】
次に、図7および図8を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1を利用した混合物質の分離について説明する。図7は、分離装置2を示す図である。図8は、分離装置2による混合物質の分離の流れを示す図である。
【0061】
分離装置2では、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより混合物質から分離させる。分離装置2における分離は、例えば、透過性が高い物質を混合物質から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質を濃縮する目的で行われてもよい。
【0062】
当該混合物質(すなわち、混合流体)は、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0063】
混合物質は、例えば、水素(H)、ヘリウム(He)、窒素(N)、酸素(O)、水(HO)、水蒸気(HO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、窒素酸化物、アンモニア(NH)、硫黄酸化物、硫化水素(HS)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0064】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(NO)、三酸化二窒素(N)、四酸化二窒素(N)、五酸化二窒素(N)等のNO(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0065】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO)、三酸化硫黄(SO)等のSO(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0066】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF)、二フッ化硫黄(SF)、四フッ化硫黄(SF)、六フッ化硫黄(SF)または十フッ化二硫黄(S10)等である。
【0067】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C3~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、プロパン(C)、プロピレン(C)、ノルマルブタン(CH(CHCH)、イソブタン(CH(CH)、1-ブテン(CH=CHCHCH)、2-ブテン(CHCH=CHCH)またはイソブテン(CH=C(CH)である。
【0068】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH)、酢酸(C)、シュウ酸(C)、アクリル酸(C)または安息香酸(CCOOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(CS)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0069】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CHCH(OH)CH)、エチレングリコール(CH(OH)CH(OH))またはブタノール(COH)等である。
【0070】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CHSH)、エチルメルカプタン(CSH)または1-プロパンチオール(CSH)等である。
【0071】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0072】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CHO)、メチルエチルエーテル(COCH)またはジエチルエーテル((CO)等である。
【0073】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CHCO)、メチルエチルケトン(CCOCH)またはジエチルケトン((CCO)等である。
【0074】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CHCHO)、プロピオンアルデヒド(CCHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(CCHO)等である。
【0075】
以下の説明では、分離装置2により分離される混合物質は、複数種類のガスを含む混合ガスであるものとして説明する。
【0076】
分離装置2は、ゼオライト膜複合体1と、封止部21と、外筒22と、2つのシール部材23と、供給部26と、第1回収部27と、第2回収部28とを備える。ゼオライト膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、外筒22内に収容される。供給部26、第1回収部27および第2回収部28は、外筒22の外部に配置されて外筒22に接続される。
【0077】
封止部21は、支持体11の長手方向(すなわち、図7中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外側面を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、封止部21には、支持体11の複数の貫通孔111と重なる複数の開口が設けられているため、支持体11の各貫通孔111の長手方向両端は、封止部21により被覆されていない。したがって、当該両端から貫通孔111へのガス等の流入および流出は可能である。
【0078】
外筒22は、略円筒状の筒状部材である。外筒22は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。外筒22の長手方向は、ゼオライト膜複合体1の長手方向に略平行である。外筒22の長手方向の一方の端部(すなわち、図7中の左側の端部)には供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1排出ポート222が設けられる。外筒22の側面には、第2排出ポート223が設けられる。供給ポート221には、供給部26が接続される。第1排出ポート222には、第1回収部27が接続される。第2排出ポート223には、第2回収部28が接続される。外筒22の内部空間は、外筒22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0079】
2つのシール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向両端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外側面と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される。各シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外側面および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。図7に示す例では、シール部材23は、封止部21の外側面に密着し、封止部21を介してゼオライト膜複合体1の外側面に間接的に密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外側面との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過はほとんど、または、全く不能である。
【0080】
供給部26は、混合ガスを、供給ポート221を介して外筒22の内部空間に供給する。供給部26は、例えば、外筒22に向けて混合ガスを圧送するブロワーまたはポンプである。当該ブロワーまたはポンプは、外筒22に供給する混合ガスの圧力を調節する圧力調節部を備える。第1回収部27および第2回収部28は、例えば、外筒22から導出されたガスを貯留する貯留容器、または、当該ガスを移送するブロワーもしくはポンプである。
【0081】
混合ガスの分離が行われる際には、上述の分離装置2が用意されることにより、ゼオライト膜複合体1が準備される(ステップS21)。続いて、供給部26により、ゼオライト膜12に対する透過性が異なる複数種類のガスを含む混合ガスが、外筒22の内部空間に供給される。例えば、混合ガスの主成分は、COおよびCHである。混合ガスには、COおよびCH以外のガスが含まれていてもよい。供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa~20.0MPaである。混合ガスの分離が行われる温度は、例えば、10℃~250℃である。
【0082】
供給部26から外筒22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中の透過性が高いガス(例えば、COであり、以下、「高透過性物質」と呼ぶ。)は、各貫通孔111の内側面上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外側面から導出される。これにより、高透過性物質が、混合ガス中の透過性が低いガス(例えば、CHであり、以下、「低透過性物質」と呼ぶ。)から分離される(ステップS22)。支持体11の外側面から導出されたガス(以下、「透過物質」と呼ぶ。)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収される。第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収されるガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、約1気圧(0.101MPa)である。
【0083】
また、混合ガスのうち、ゼオライト膜12および支持体11を透過したガスを除くガス(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収される。第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収されるガスの圧力は、例えば、導入圧と略同じ圧力である。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。
【0084】
次に、表1~表2を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1におけるゼオライト膜12の構造および製造方法と、ゼオライト膜複合体1の透過性能および分離性能との関係について説明する。表1~表2の透過性能および分離性能は、上述の分離装置2において、COおよびCHの混合ガスを供給部26から外筒22内のゼオライト膜複合体1に供給し、ゼオライト膜複合体1を透過して第2回収部28にて回収される透過物質(すなわち、透過ガス)から求めた。供給部26から供給される混合ガスにおけるCOおよびCHの体積分率はそれぞれ50%とし、COおよびCHの分圧はそれぞれ0.3MPaとした。
【0085】
表1~表2の透過性能は、第2回収部28にて回収されるCOの透過量(すなわち、パーミエンス)に基づいて求めたCO透過量比である。当該CO透過量比は、表1では比較例1のCO透過量を1として、表2では実施例8のCO透過量を1として、当該基準実施例に対する他の実施例および比較例のCO透過量の割合である。表1~表2の分離性能は、第2回収部28にて回収されるCOの透過量を、第2回収部28にて回収されるCH漏れ量で除算した値(すなわち、COおよびCHのパーミエンス比)である。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示す実施例1~7では、ゼオライト膜12は低密度層13および緻密層14を備える。実施例1~7では、低密度層13の厚さに対する緻密層14の厚さの割合が異なる。実施例2~6では、緻密層14の厚さは、低密度層13の厚さの0.05倍~50倍である。比較例1では、ゼオライト膜は緻密層のみを有し、低密度層を有していない。比較例2では、ゼオライト膜は低密度層のみを有し、緻密層を有していない。実施例1~7におけるゼオライト膜12の厚さは2μm~5μmである。比較例1~2におけるゼオライト膜の厚さは3μmである。実施例5の緻密層14の平均粒径は0.5μm、低密度層13の平均粒径は0.05μmであった。実施例8の緻密層14の平均粒径は0.2μm、低密度層13の平均粒径は0.05μmであった。実施例10の緻密層14の平均粒径は0.4μm、低密度層13の平均粒径は0.1μmであった。実施例5の緻密層14における結晶層の含有率は99%で、低密度層13における結晶層の含有率は51%である。実施例8~10の緻密層14における結晶層の含有率は96~98%で、低密度層13における結晶層の含有率は59~80%である。比較例1のゼオライト膜におけるゼオライト結晶相の含有率は98%である。比較例2のゼオライト膜におけるゼオライト結晶相の含有率は90%である。
【0088】
実施例1~7では、CO透過量比は1.3~15であり、COおよびCHのパーミエンス比は102~231であり、高い透過性能および高い分離性能を示した。特に、実施例2~6では、CO透過量比は3~10であり、COおよびCHのパーミエンス比は163~204であり、高い透過性能および高い分離性能を好適に示した。一方、比較例1では、CO透過量比は1であり、実施例1~7に比べて透過性能が低い。また、比較例2では、COおよびCHのパーミエンス比は11であり、実施例1~7に比べて分離性能が低い。
【0089】
【表2】
【0090】
表2に示す実施例8~10では、ゼオライト膜12の製造時のステップS12において、種結晶の層が2層以上に積層された種結晶積層体125を支持体11上に付着させた。また、ステップS13において、原料溶液に含まれる水に対するSDAのモル比率を異ならせた。当該モル比率が小さくなるに従って、ゼオライト膜12の厚さが薄くなった。ゼオライト膜12は、低密度層13および緻密層14を備える。実施例8~10では、CO透過量比は1~1.8であり、COおよびCHのパーミエンス比は181~194であり、高い透過性能および高い分離性能を示した。
【0091】
比較例3では、ゼオライト膜の製造時において、単層の種結晶(すなわち、非積層状態の種結晶)を支持体上に付着させた。原料溶液に含まれる水に対するSDAのモル比率は、実施例8と同じとした。比較例3では、ゼオライト膜は緻密層のみを有し、低密度層を有していない。比較例3では、CO透過量比は0.2であり、実施例8~10に比べて透過性能が低い。
【0092】
以上に説明したように、ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に形成されたゼオライト膜12とを備える。ゼオライト膜12は、支持体11を覆う低密度層13と、低密度層13を覆う緻密層14とを備える。緻密層14は、低密度層13よりもゼオライト結晶相の含有率が高い。このように、支持体11を覆う低密度層13上に緻密層14を形成することにより、支持体上に直接的に緻密層を形成する場合に比べて、欠陥を有しない薄い緻密層14を容易に形成することができる。その結果、高い透過性能および高い分離性能を有するゼオライト膜複合体1を実現することができる。
【0093】
上述のように、好ましくは、緻密層14に含まれるゼオライト結晶141の平均粒径は、低密度層13に含まれるゼオライト結晶131の平均粒径よりも大きい。このように、緻密層14においてゼオライト結晶141を大きく成長させることにより、緻密層14におけるゼオライト結晶相の含有率を好適に高くすることができる。
【0094】
より好ましくは、緻密層14に含まれるゼオライト結晶141の平均粒径は、低密度層13に含まれるゼオライト結晶131の平均粒径の100倍以下である。これにより、ゼオライト膜複合体1の透過性能および分離性能の双方を、より好適な範囲とすることができる。
【0095】
上述のように、緻密層14に含まれるゼオライト結晶141の平均粒径は、0.1μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜複合体1の透過性能および分離性能の双方を、より好適な範囲とすることができる。
【0096】
上述のように、緻密層14の厚さは、低密度層13の厚さの0.05倍以上かつ50倍以下であることが好ましい。これにより、欠陥を有しない薄い緻密層14を低密度層13上に好適に形成することができる。その結果、高い透過性能および高い分離性能を有するゼオライト膜複合体1を好適に実現することができる。
【0097】
ゼオライト膜複合体1では、好ましくは、緻密層14におけるゼオライト結晶相の含有率は95%以上であり、低密度層13におけるゼオライト結晶相の含有率は5%以上かつ95%未満である。これにより、高い透過性能および高い分離性能を有するゼオライト膜複合体1を好適に実現することができる。
【0098】
上述のように、低密度層13の粒界相は、無機物により形成されることが好ましい。無機物は一般的に、有機物に比べて、耐腐食性(例えば、耐水性や耐有機溶剤性等)、耐圧性および耐熱性等が高い。したがって、粒界相が有機物を実質的に含まないことにより、低密度層13の耐久性(例えば、耐腐食性、耐圧性および耐熱性等)を向上することができる。その結果、ゼオライト膜12の耐久性を向上することもできる。
【0099】
また、低密度層13の粒界相は、好ましくは非晶質を含む。これにより、ゼオライト膜12が加熱される際に(例えば、ゼオライト膜複合体1の製造時における加熱処理等の際に)、結晶配向が異なるゼオライト結晶間の熱膨張差による応力を低減し、ゼオライト膜12におけるクラック等の損傷の発生を抑制することができる。すなわち、ゼオライト膜12の耐久性をさらに向上することができる。低密度層13の粒界相に含まれる非晶質は、10重量%以上であることが好ましい。
【0100】
上述のように、緻密層14と低密度層13とは、同じ種類のゼオライト結晶を含むことが好ましい。これにより、ゼオライト膜12の製造を簡素化することができ、その結果、ゼオライト膜複合体1の製造を簡素化することができる。
【0101】
上述のように、緻密層14に含まれるゼオライト結晶141の最大員環数は8であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜複合体1において、分子径が比較的小さい透過対象物質の選択的透過を好適に実現することができる。
【0102】
上述のように、ゼオライト膜複合体1の製造方法は、種結晶を準備する工程(ステップS11)と、多孔質の支持体11上に種結晶を付着させ、種結晶の層が2層以上に積層された種結晶積層体125を支持体11上に形成する工程(ステップS12)と、原料溶液に支持体11を浸漬し、水熱合成により種結晶積層体125からゼオライトを成長させて支持体11上にゼオライト膜12を形成する工程(ステップS13)とを備える。ゼオライト膜12は、支持体11を覆う低密度層13と、低密度層13を覆う緻密層14とを備える。緻密層14は、低密度層13よりもゼオライト結晶相の含有率が高い。これにより、高い透過性能および高い分離性能を有するゼオライト膜複合体1を容易に製造することができる。
【0103】
ゼオライト膜複合体1の製造方法では、上述の原料溶液に含まれる水に対するSDAのモル比率は0.01以下であることが好ましい。このように、種結晶の層を2層以上に積層させ、水に対するSDAのモル比を低く抑えることにより、緻密層14と低密度層13とを含むゼオライト膜12を好適に得ることがきる。また、支持体11上に形成されるゼオライト膜12の厚さを薄くすることができる。
【0104】
上述の分離方法は、ゼオライト膜複合体1を準備する工程(ステップS21)と、複数種類のガスまたは液体を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、当該混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより他の物質から分離する工程(ステップS22)とを備える。上述のように、ゼオライト膜複合体1は、高い透過性能および高い分離性能を有しているため、当該分離方法により、混合物質を効率良く分離することができる。
【0105】
また、当該分離方法は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む混合物質の分離に特に適している。
【0106】
上述のゼオライト膜複合体1、ゼオライト膜複合体1の製造方法、および、分離方法では、様々な変更が可能である。
【0107】
例えば、ゼオライト膜12の緻密層14の最大員環数は、8よりも小さくてもよく、8よりも大きくてもよい。ゼオライト膜12の低密度層13の最大員環数についても同様である。
【0108】
低密度層13における粒界相の成分は、様々に変更されてよい。例えば、低密度層13の粒界相は、非晶質のみにより形成されていてもよい。あるいは、当該粒界相は、非晶質を含まなくてもよい。当該粒界相は、ゼオライト結晶以外の結晶を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。また、当該粒界相は、必ずしも無機物のみにより形成される必要はなく、有機物を含んでいてもよい。
【0109】
ゼオライト膜12の厚さは、上述の範囲には限定されず、様々に変更されてよい。また、緻密層14の厚さは、低密度層13の厚さの50倍よりも厚くてもよく、低密度層13の厚さの0.05倍未満であってもよい。
【0110】
緻密層14および低密度層13に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、様々に変更されてよい。例えば、緻密層14に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、0.1μm未満であってもよく、10μmよりも大きくてもよい。また、緻密層14に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、低密度層13に含まれるゼオライト結晶の平均粒径の100倍よりも大きくてもよい。あるいは、緻密層14に含まれるゼオライト結晶の平均粒径は、低密度層13に含まれるゼオライト結晶の平均粒径以下であってもよい。
【0111】
緻密層14におけるゼオライト結晶相の含有率は、低密度層13におけるゼオライト結晶相の含有率よりも高ければ、95%未満であってもよい。
【0112】
ゼオライト膜12では、緻密層14に含まれるゼオライト結晶は、低密度層13に含まれるゼオライト結晶とは異なる種類のゼオライト結晶であってもよい。
【0113】
ゼオライト膜複合体1は、支持体11およびゼオライト膜12に加えて、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜、シリカ膜または炭素膜等の無機膜であってもよく、ポリイミド膜またはシリコーン膜等の有機膜であってもよい。また、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜には、COを吸着しやすい物質が添加されていてもよい。
【0114】
分離装置2および分離方法では、上記説明にて例示した物質以外の物質が、混合物質から分離されてもよい。
【0115】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0116】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明のゼオライト膜複合体は、例えば、ガス分離膜として利用可能であり、さらには、ガス以外の分離膜や様々な物質の吸着膜等として、ゼオライトが利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0118】
1 ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 ゼオライト膜
13 低密度層
14 緻密層
131 (低密度層の)ゼオライト結晶
141 (緻密層の)ゼオライト結晶
S11~S13,S21~S22 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8