(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】ダイカスト法によるエナメルコーティングフライパンの製造方法及びエナメルコーティングフライパン
(51)【国際特許分類】
C22F 1/04 20060101AFI20230220BHJP
C22F 1/043 20060101ALI20230220BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20230220BHJP
C22C 21/04 20060101ALI20230220BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230220BHJP
【FI】
C22F1/04 L
C22F1/043
C22C21/00 M
C22C21/04
C22F1/00 611
C22F1/00 613
C22F1/00 673
C22F1/00 681
(21)【出願番号】P 2021563977
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045710
(87)【国際公開番号】W WO2021117731
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】10-2019-0164221
(32)【優先日】2019-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522227163
【氏名又は名称】廣川 恭子
(73)【特許権者】
【識別番号】522227174
【氏名又は名称】金 俊 洙
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】廣川 恭子
(72)【発明者】
【氏名】金 俊 洙
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/033791(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109468497(CN,A)
【文献】特開2004-156117(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0035180(KR,A)
【文献】特開2005-329464(JP,A)
【文献】特表2014-503281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/04- 1/057
C22F 1/00
C22C 21/00-21/18
A47J 37/10
B22D 17/00
C23D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~ 3.8wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物
からなるアルミニウム合金 溶湯を提供する工程と、
前記アルミニウム合金溶湯をダイカストして製造するものの、前記アルミニウム合金溶湯をダイカスト金型内に注入する前に前記ダイカスト金型内に前記アルミニウム合金溶湯と反応する反応性ガスを注入し、この後に前記アルミニウム合金溶湯を注入することにより注入された前記アルミニウム合金溶湯と前記反応性ガスを発熱反応させ、この後に前記ダイカスト金型内で前記アルミニウム合金溶湯を凝固させてフライパンを製造する工程と、
前記フライパンを550℃~570℃の温度範囲でエナメルコーティングをする工程と、を含むダイカスト法によるエナメルコーティングフライパンの製造方法。
【請求項2】
重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、ニッケルを0.2wt%~1.0wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物
からなるアルミニウム合金溶湯を提供する段階と、
前記アルミニウム合金溶湯をダイカストして製造するものの、前記アルミニウム合金溶湯をダイカスト金型内に注入する前に前記ダイカスト金型内に前記アルミニウム合金溶湯と反応する反応性ガスを注入し、この後に前記アルミニウム合金溶湯を注入することにより注入された前記アルミニウム合金溶湯と前記反応性ガスを発熱反応させ、この後に前記ダイカスト金型内で前記アルミニウム合金溶湯を凝固させてフライパンを製造する工程と、
前記フライパンを550℃~570℃の温度範囲でエナメルコーティングをする工程と、を含むダイカスト法によるエナメルコーティングフライパンの製造方法。
【請求項3】
重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、マンガンを0.4wt%~1.8wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物
からなるアルミニウム合金溶湯を提供する段階と、
前記アルミニウム合金溶湯をダイカストして製造するものの、前記アルミニウム合金溶湯をダイカスト金型内に注入する前に前記ダイカスト金型内に前記アルミニウム合金溶湯と反応する反応性ガスを注入し、この後に前記アルミニウム合金溶湯を注入することにより注入された前記アルミニウム合金溶湯と前記反応性ガスを発熱反応させ、この後に前記ダイカスト金型内で前記アルミニウム合金溶湯を凝固させてフライパンを製造する工程と、
前記フライパンを550℃~570℃の温度範囲でエナメルコーティングをする工程と、を含むダイカスト法によるエナメルコーティングフライパンの製造方法。
【請求項4】
重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、チタンを0.1wt%~0.5wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物
からなるアルミニウム合金溶湯を提供する段階と、
前記アルミニウム合金溶湯をダイカストして製造するものの、前記アルミニウム合金溶湯をダイカスト金型内に注入する前に前記ダイカスト金型内に前記アルミニウム合金溶湯と反応する反応性ガスを注入し、この後に前記アルミニウム合金溶湯を注入することにより注入された前記アルミニウム合金溶湯と前記反応性ガスを発熱反応させ、この後に前記ダイカスト金型内で前記アルミニウム合金溶湯を凝固させてフライパンを製造する工程と、
前記フライパンを550℃~570℃の温度範囲でエナメルコーティングをする工程と、を含むダイカスト法によるエナメルコーティングフライパンの製造方法。
【請求項5】
重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、ニッケルを0.2wt%~1.0wt%、マンガンを0.3wt%~0.8wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物
からなるアルミニウム合金溶湯を提供する段階と、
前記アルミニウム合金溶湯をダイカストして製造するものの、前記アルミニウム合金溶湯をダイカスト金型内に注入する前に前記ダイカスト金型内に前記アルミニウム合金溶湯と反応する反応性ガスを注入し、この後に前記アルミニウム合金溶湯を注入することにより注入された前記アルミニウム合金溶湯と前記反応性ガスを発熱反応させ、この後に前記ダイカスト金型内で前記アルミニウム合金溶湯を凝固させてフライパンを製造する工程と、
前記フライパンを550℃~570℃の温度範囲でエナメルコーティングをする工程と、を含むダイカスト法によるエナメルコーティングフライパンの製造方法。
【請求項6】
前記反応性ガスは、酸素であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のダイカスト法によるエナメルコーティングフライパンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメルコーティング用アルミニウム合金に関することであり、より詳細には、高温におけるエナメルコーティング時にブリスタが発生しないエナメルコーティング用アルミニウム合金およびこのようなアルミニウム合金をダイカストによって製造したエナメルコーティングフライパンの製造方法及びエナメルコーティングフライパンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術によるエナメルコーティングアルミニウムフライパンは、プレス成形、ダイカスト、および重力鋳造または溶湯鍛造法によって製造されている。
【0003】
アルミニウム板材のプレス成形によって製造する方法は、アルミニウム板材をプレス成形後、内部にフッ素樹脂、外部にはセラミックまたはエナメルをコーティングする方法により生産性に優れて低価格の生産が可能であり、570℃以上に加熱してもフライパンの表面に膨らみ(ブリスタ)のような形状変化がなくてセラミックもしくはエナメルコーティングが可能である。
【0004】
一方、アルミニウム板材のプレス成形法は、プレス成形によって製造されたフライパンの底面と側面の厚さが一定であって調理食材が過度に局部的に過熱される現象が現れ、また取手部分をピースで固定させなければならないなどの製品デザインの自由度が限定される問題点がある。
【0005】
アルミニウム合金をダイカスト工法によってフライパンを製造する方法は、ADC12もしくはADC10などのようにケイ素含量が高くて流動性に優れたアルミニウム合金を用いてダイカストする方法である。
【0006】
ダイカスト法によるフライパンの製造方法は、プレス成形法とは異なりフライパンの底面と側面の厚さに変化を付与できるので(一般的に側面は2mm、底面は6~8mm程度の厚さ)、調理食材が過度に局部的に過熱される現象はなく、取手部分の結合方式も多様化できるなどの製品デザインの自由度が高い。
【0007】
しかし、ダイカスト法によるフライパンの製造方法は、フライパンを400℃以上に加熱する場合、表面形状の変化(ブリスタ)が発生してエナメルコーティングが不可能であり、フッ素樹脂もしくはセラミックコーティングのように400℃以下の低温コーティングしかできない。
【0008】
重力鋳造もしくは溶湯鍛造法によるフライパンの製造方法は、ダイカスト法でのようにダイカスト製品を塗装工程で570℃以上に加熱しても表面形状の変化(ブリスタ)が発生せずにセラミックもしくはエナメルコーティングが可能な長所がある。
【0009】
しかし、重力鋳造もしくは溶湯鍛造法は、製品コーティングのために570℃程度に加熱する時、鋳造製品の内部に気泡もしくは鋳造欠陥は発生しないが、2mm程度の厚さに鋳造するのが難しく、まず厚肉に鋳造後、機械加工工程によりフライパンの厚さを調整しなければならないので、製造工程が複雑な問題点がある。
【0010】
特許文献1は、金属材のフライパンの内外面にホーローコーティング後、内面にサンドブラスト処理をした後にテフロン(登録商標)コーティングをして耐摩耗性と焼結性を高めた内容を開示しているが、前述したエナメル(ホーロー)コーティングと関連した問題点については開示していない。
【0011】
本発明は、前述したダイカスト法によるエナメルコーティングの問題点を解決したフライパン製造用アルミニウム合金およびこれを用いたダイカストフライパンの製造方法及びエナメルコーティングフライパンを提供するためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】大韓民国実用新案登録第20-0301176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような問題点を含め様々な問題点を解決するためのものであって、エナメルコーティングが施される温度範囲で局部的な溶解が起きずにブリスタが発生しないエナメルコーティングが可能なアルミニウム合金を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、ケイ素含量の少ないアルミニウム合金溶湯をダイカスト法によってフライパンを製造する時、溶湯注入前に反応性ガスを金型内に注入した後、溶湯を注入することにより溶湯の流動性を改善して気孔などの欠陥がかなり低減されたダイカストフライパンの製造方法及びエナメルコーティングフライパンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の実施例1によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、エナメルコーティングの温度範囲である550℃~570℃で高温強度を維持することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の実施例2によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、ニッケルを0.2wt%~1.0wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、エナメルコーティングの温度範囲である550℃~570℃で高温強度を維持することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の実施例3によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、マンガンを0.4wt%~1.8wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、エナメルコーティングの温度範囲である550℃~570℃で高温強度を維持することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の実施例4によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、チタンを0.1wt%~0.5wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、エナメルコーティングの温度範囲である550℃~570℃で高温強度を維持することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の実施例5によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、ニッケルを0.2wt%~1.0wt%、マンガンを0.3wt%~0.8wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、エナメルコーティングの温度範囲である550℃~570℃で高温強度を維持することを特徴とする。
【0020】
本発明の他の実施例によるエナメルコーティングフライパンの製造方法は、アルミニウム合金溶湯を提供する工程と、前記アルミニウム合金溶湯をダイカストして製造するものの、前記アルミニウム合金溶湯をダイカスト金型内に注入する前に前記ダイカスト金型内に前記アルミニウム合金溶湯と反応する反応性ガスを注入し、この後に前記アルミニウム合金溶湯を注入することにより注入された前記アルミニウム合金溶湯と前記反応性ガスを発熱反応させ、この後に前記ダイカスト金型内で前記アルミニウム合金溶湯を凝固させてフライパンを製造する工程と、および前記フライパンを550℃~570℃の温度範囲でエナメルコーティングをする工程と、を含む。
【0021】
前記エナメルコーティングフライパンの製造方法において前記反応性ガスは、酸素であることを特徴とする。
【0022】
本発明の他の実施例によるエナメルコーティングフライパンは、フライパンの内部に1μm未満の微細な酸化物粒子(Al2O3)が分布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、エナメルコーティングが施される550℃~570℃の温度範囲で局部的な溶解が起きないことによりブリスタが発生しない。
【0024】
また、本発明によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、高温(590℃以上)に加熱しても局部的に溶解が起きないように工程温度が高いことを特徴とし、アルミニウム合金をダイカスト後、金型から取り出す時に変形が発生しない程度の強度を保有し、エナメルコーティング時に接着強度が高いことを特徴とする。
【0025】
また、本発明によるエナメルコーティングフライパンの製造方法は、ケイ素含量が少なく溶湯の流動性が低いアルミニウム合金溶湯をダイカストによってフライパンを製造する時、金型内へのアルミニウム合金溶湯注入前に反応性ガスを注入した後、アルミニウム合金溶湯を注入することにより反応性ガスとアルミニウム合金溶湯との間の発熱反応によってアルミニウム合金溶湯の流動性を良好に維持することにより気孔がないか、あるいはかなり低減されたダイカストフライパンを製造することができる。
【0026】
また、本発明によるエナメルコーティングフライパンは、反応性ガスとアルミニウム合金溶湯との間の反応によって形成された微細な酸化物が均一に分布されることにより引張特性が向上する。
【0027】
本発明によれば、エナメルコーティングが可能なフライパンをダイカスト工程で製作することができ、それにより生産性に優れ、製造時間が短縮されて生産性を極大化できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】エナメルコーティングをする前のフライパンを図示した図面である。
【
図2】本発明の実施例によって製造されたもので、570℃でエナメルコーティングされたフライパンを図示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の利点および特徴、そして、これらを達成する方法は、添付された図面とともに詳細に後述されている実施例を参照すれば明確になるであろう。しかし、本発明は、以下で開示される実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で具現され得るものであり、単に、本実施例は、本発明の開示が完全になるようにし、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇によってのみ定義される。明細書全体にわたって同一の参照符号は、同一の構成要素を指し示す。
【0030】
以下、添付された図面を参照して本発明の好ましい実施例によるエナメルコーティング用アルミニウム合金およびエナメルコーティングフライパンの製造方法及びエナメルコーティングフライパンについて説明することにする。参考に本発明を説明するにあたり関連した公知の機能もしくは構成についての具体的な説明が本発明の要旨を不必要に曇らせ得ると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0031】
図1は、本発明による方法によって製造されたアルミニウム合金ダイカストフライパンを図示した図面である。
【0032】
本発明の実施例1によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、エナメルコーティングの温度範囲である550℃~570℃で高温強度を維持することを特徴とする。
【0033】
アルミニウム合金製品の低温エナメルコーティングは、一般的にエナメルの溶融温度である550℃~570℃の範囲で施す。エナメルが溶ける温度でアルミニウム合金をダイカストする際にダイカスト製品(例えば、フライパン)は、圧縮残留応力によって熱的に変形が発生しないことが好ましい。
【0034】
また、ダイカスト時の製品内の局部溶解および製品内に残存する微細気泡が体積膨張をしても、これを押さえ込める程度の高温強度が要求される。
【0035】
本発明の実施例1によるアルミニウム合金(P590)において鉄は、その含量を1.2wt%~3.4wt%とする。高速高圧で金型内に溶融アルミニウムを注入するダイカスト工法では、鉄の含量が0.8wt%未満になると、金型表面に製品の焼着が発生し、1.2wt%を超えるようになると、ダイカストのように冷却速度の速い工程ではFe-Al-Si系の非常に微細な金属間化合物が生成されてエナメルコーティングが施される温度範囲(550℃~570℃)において高温強度が向上する。
【0036】
特に、このようなFe-Al-Si系金属間化合物は、製品の共融点を低下させることもせず、エナメル層との結合力を強化させる役割をする。鉄の含量が3.4wt%を超えるようになると、非常に脆弱になりダイカストの際に製品に亀裂が発生する。
【0037】
ケイ素は、エナメルコーティング層との接着力を向上させ、鉄とともに製品の高温強度を向上させる非常に微細な金属間化合物を作ってエナメルコーティングの温度範囲でも製品の変形を防止する。ケイ素含量が0.8wt%未満では、このような効果が不十分であり、溶湯の流動性が低下して製品の成形が難しくなる。
【0038】
また、ケイ素含量が3.8wt%を超えるようになると、550℃で溶解するAl-Si共晶組織が多量に生成されてエナメルコーティング時(570℃で)、表面にブリスタが発生するようになり、エナメルコーティング層の接着強度が低下し得る。
【0039】
本発明の実施例2によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、ニッケルを0.2wt%~1.0wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、550℃~570℃の温度でエナメルコーティングが可能である。
【0040】
本発明の実施例2によるアルミニウム合金は、本発明の実施例1によるアルミニウム合金(AP590)においてエナメルコーティング層との接着力を向上させるためにニッケルをさらに添加する。
【0041】
ニッケルを0.2wt%~1.0wt%添加すると、Al-Fe-Niの微細な金属間化合物が生成され、アルミニウム組織が微細化されて高温における強度をさらに向上させることができる。また、Al-Fe-Niの金属間化合物は、製品の溶融温度を低下させず、エナメルコーティング時にエナメルコーティング層との結合力を向上させる。
【0042】
ニッケルの含量が0.2wt%未満の場合は、合金の高温強度向上効果が微々であり、1.0wt%を超えるようになると、アルミニウム合金の流動性が低下してダイカスト後、凝固する際に亀裂が発生し得る。
【0043】
本発明の実施例3によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、マンガンを0.4wt%~1.8wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、550℃~570℃の温度でエナメルコーティングが可能である。
【0044】
本発明の実施例3によるアルミニウム合金(AP605)は、本発明の実施例1によるアルミニウム合金において高温強度を向上させるためにマンガンをさらに添加する。
【0045】
マンガンを0.4wt%~1.8wt%添加すると、凝固中に生成されるAl-Fe系金属間化合物の生成形状が球形にその形態が改良されるので、凝固中に発生する亀裂を防止する効果を得ることができる。
【0046】
マンガン含量が0.4wt%未満である場合、Fe-Al系金属間化合物の形態改良の効果が不十分であり、マンガン含量が1.8wt%を超えるようになると、エナメルコーティング層との結合力を低下させ得る。
【0047】
本発明の実施例4によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、チタンを0.1wt%~0.5wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、550℃~570℃の温度でエナメルコーティングが可能である。
【0048】
本発明の実施例4によるアルミニウム合金(AP606)は、本発明の実施例1によるアルミニウム合金(AP590)において選択的にアルミニウム合金の組織を微細化させて強度を向上させるためにチタンをさらに添加する。
【0049】
チタンを0.1wt%~0.5wt%添加すると、工程温度を低下させずにアルミニウム合金の組織とAl-Fe系金属間化合物の生成形状を微細化させて凝固中に発生する亀裂を防止する効果を得ることができる。
【0050】
また、チタンを添加すると、エナメルコーティング層との結合力を向上させることができる。チタン含量が0.1wt%未満である場合、アルミニウム合金の組織の微細化効果は得ることができるが、Fe-Al系金属間化合物の生成形態の改良効果が不十分である。
【0051】
チタン含量が0.5wt%を超えるようになると、溶湯流動性が低下して凝固過程で亀裂が発生し得る。
【0052】
本発明の実施例5によるエナメルコーティング用アルミニウム合金は、重量パーセント(wt%)で鉄を1.2wt%~3.4wt%、ケイ素を0.8wt%~3.8wt%、ニッケルを0.2wt%~1.0wt%、マンガンを0.3wt%~0.8wt%含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物を含有し、550℃~570℃の温度でエナメルコーティングが可能である。
【0053】
本発明の実施例5よるアルミニウム合金(AP610)は、本発明の実施例4によるアルミニウム合金(AP600)において生成されるFe-Al-Ni系の金属間化合物の形状を微細化させて、高温強度を向上させるためにマンガンを追加したものである。
【0054】
マンガンは、0.3wt%~0.8wt%を添加し、これによって凝固中に形成されるFe系金属間化合物が微細化されながら、その形状が球形に形態が改良されるので、製品成形中の凝固時に発生する亀裂を防止することができ、高温における強度を向上させることができる。
【0055】
マンガンの含量が0.3wt%未満では、その効果が不十分であり、0.8wt%を超えるようになると、アルミニウム合金の流動性が低下し、エナメルコーティング層の接着強度が低下し得る。
【0056】
前記本発明による実施例1~実施例5によるアルミニウム合金において、主要成分以外にマグネシウム、銅、亜鉛は、不純物として含有され得るが、銅、亜鉛の場合、それぞれのその含量が重量パーセントで0.25wt%を超えると、工程温度が低下するので、エナメルコーティング温度で局部的に溶解する部分が発生し得る。
【0057】
特に、マグネシウムは、高温酸化が激しく発生してエナメルコーティング層の結合強度を著しく低下させるので、その含量を重量パーセントで0.1wt%以下に規制することが好ましい。
【0058】
下表1には、本発明によるエナメルコーティングが可能なアルミニウム合金の成分範囲をより具体的に区分して表した。
【0059】
合金実施例のAP590は、アルミニウム合金の融点が590℃付近の合金を示すものであり、AP600は、アルミニウム合金の融点が600℃付近にある合金を示したものである。
【0060】
また、合金実施例のAP605、AP606およびAP610は、それぞれアルミニウム合金の融点が605℃、606℃および610℃付近の合金を示したものである。
【0061】
本発明によるエナメルコーティングが可能な温度範囲において高温強度を維持するアルミニウム合金は、Si含量を3.8wt%以下に調節することにより共晶組織の量を最小化することにより局部的な溶解を極小化した。
【0062】
また、本発明によるアルミニウム合金は、Fe-Al、Ni-Al、Ti-Alなどの金属間化合物の一定量を冷却速度の速いダイカスト工法で凝固させると、前記金属間化合物が微細に分散されるので、分散強化効果によって高温でも合金の熱変形とブリスタが発生しない。
【0063】
【0064】
前記5種類の合金は、従来のダイカスト合金とは異なりエナメルコーティング層との接着力を向上させることができ、アルミニウムの工程温度が低下しない成分と含量で構成されているので、エナメルコーティング用ダイカストのフライパンと鍋の製造に適している。
【0065】
本発明の他の実施例によるエナメルコーティングフライパンの製造方法は、前記実施例1~実施例5によるアルミニウム合金溶湯を提供する工程と、前記アルミニウム合金溶湯をダイカストして製造するものの、アルミニウム合金溶湯をダイカスト金型内に注入する前にダイカスト金型内にアルミニウム合金溶湯と反応する反応性ガスを注入した後、アルミニウム合金溶湯を注入することにより注入されたアルミニウム合金溶湯と反応性ガスを発熱反応させ、この後に金型内でアルミニウム合金溶湯を凝固させてフライパンを製造する工程と、および前記フライパンを550℃~570℃の温度範囲でエナメルコーティングをする工程と、を含む。
【0066】
本発明では、前述した実施例によるAP590、AP600、AP605、AP606およびAP610の5種類のアルミニウム合金をエナメルコーティング用ダイカストフライパンの製造に使用する。これらの合金は、それぞれ溶融温度が590℃、600℃、605℃、606℃、610℃程度なので、エナメルコーティングが施される高温領域である550℃~570℃で局部的な溶解によるブリスタが発生せずに、堅固なエナメルコーティング層の接着強度を確保することができる。
【0067】
しかし、前記アルミニウム合金の鋳造時、流動性に有利なケイ素含量が低くて溶湯の流動性が低下することによりダイカスト製品の内部に鋳造欠陥が発生し得る。したがって、前記アルミニウム合金溶湯を金型内に高速注入する前に金型の内部に反応性ガスである酸素を注入することによりアルミニウム合金溶湯の金型内の充填性を向上させることができる。
【0068】
アルミニウム合金溶湯をダイカスト金型内に注入する前に金型内に酸素を注入した後、アルミニウム合金溶湯を高速で金型内に注入するようになると、アルミニウムと酸素が瞬間的に反応して発熱反応が起き、これによって発生した反応熱によりアルミニウム合金溶湯の流動性を確保することができて内部に鋳造欠陥のないフライパンの製造が可能である。
【0069】
これは、反応性ガスとアルミニウム合金溶湯との間の発熱反応によって溶湯の高温流動性を維持することにより気泡の発生を抑制し、反応性ガスとアルミニウムとの間に微細な金属酸化物(アルミナ、Al2O3)を形成することにより、合金の凝固組織内に微細な金属酸化物を形成することにより高温強度の向上を高めることができる。
【0070】
前記ダイカスト法によるエナメルコーティングフライパンの製造方法において、前記反応性ガスは、酸素であることを特徴とする。
【0071】
本発明においてアルミニウム合金溶湯を注入する前にダイカスト金型内に注入する反応性ガスは、アルミニウム合金溶湯と速い時間内に反応が起こり得る酸素を含むが、これに制限されず、アルミニウム合金溶湯と反応し得る気体であれば、何れも可能である。
【0072】
本発明のまた他の実施例によるエナメルコーティングフライパンは、フライパンの内部に1μm未満の微細な酸化物粒子(Al2O3)が分布することを特徴とする。
【0073】
ダイカスト金型内に注入される反応性ガスとアルミニウム合金との間の急激な反応によって合金の凝固組織内に微細な酸化物粒子(Al2O3)が分布するようになって最終鋳造品の引張特性および疲労特性を向上させるようになる。
【0074】
事前に金型内に酸素を注入した後、前記アルミニウム合金溶湯を高速で金型内に注入するようになると、アルミニウムと酸素が瞬間的に反応して急激な発熱反応が起き、これによって発生した反応熱によりアルミニウム合金溶湯の流動性を確保することができて内部に気孔などの鋳造欠陥のないフライパンの製造が可能である。
【0075】
本発明は、図面に図示された実施例を参考に説明したが、これは、例示的なものに過ぎず、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、これから多様な変形および均等な他の実施例が可能であるという点を理解するであろう。したがって、本発明の真正な技術的保護範囲は、添付された特許請求範囲の技術的思想によって定められるべきである。