(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】レーダセンサの高周波モジュールの位相を較正する方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/40 20060101AFI20230220BHJP
H01Q 3/30 20060101ALI20230220BHJP
H01Q 21/08 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
G01S7/40 117
H01Q3/30
H01Q21/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022077596
(22)【出願日】2022-05-10
(62)【分割の表示】P 2020564490の分割
【原出願日】2019-03-07
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】102018207718.5
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【氏名又は名称】鳥居 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】ショール,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,マルセル
(72)【発明者】
【氏名】バウル,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】レッシュ,ベネディクト
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-281775(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0306902(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0146925(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103728591(CN,A)
【文献】GODRICH, Hana et al.,An analysis of phase synchronization mismatch sensitivity for coherent MIMO radar systems,2009 3rd IEEE International Workshop on Computational Advances in Multi-Sensor Adaptive Processing (CAMSAP) [online],米国,IEEE,2010年02月17日,インターネット: <URL: https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=5413314><DOI: 10.1109/CAMSAP.2009.5413314>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
H01Q 3/00 - 3/46
21/00 - 25/04
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダセンサの2つの送信ユニット(16)の位相を較正する方法であって、
前記レーダセンサは、複数の受信アンテナ(E1~E8)からなる現実のアレイ(20)と、前記受信アンテナで受信された信号間の位相差に基づいて、探知されたレーダ目標の角度推定を行うように構成された解析装置(32)と
、制御ユニット(36)とを備え、
各送信ユニット(16)は、少なくとも1つの送信アンテナ(S1,S2)に給電し、
複数の異なる送信ユニットに属する複数の送信アンテナは、前記送信ユニットの双方が使用されたときに前記現実のアレイ(20)を仮想的なアレイ(38)で拡張するように、前記アレイ(20)の方向に互いにオフセットされており、
前記方法は、
前記制御ユニット(36)により実施される方法であり、
当該受信された信号を解析して、多目標または単一目標の状況が存在するかどうかを判定するステップと、
単一目標の状況のときは、当該受信された信号の位相を測定して、前記現実のアレイ(20)と前記仮想的なアレイ(26)との間の位相オフセット(Δφ)を計算するステップと、
当該計算された位相オフセットに基づいて前記2つの送信ユニット(16)の位相を較正するステップと
を備え
、
前記位相オフセット(Δφ)を計算する当該ステップは、
前記複数の受信アンテナ(E1~E8)の位置に応じて、前記複数の受信アンテナ(E1~E8)でそれぞれ受信された信号の位相の測定結果に適合する直線を決定するステップと、
当該決定された直線を前記仮想的なアレイ(38)について外挿することにより、前記仮想的なアレイ(38)をなす複数の仮想的な受信アンテナ(V1~V8)でそれぞれ受信された信号の位相を推定するステップと、
当該推定された位相と、前記複数の仮想的な受信アンテナ(V1~V8)でそれぞれ受信された信号の測定された位相とを比較することにより前記位相オフセット(Δφ)を算出するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の方法であって、角度推定関数の品質を評価して、多目標の状況または単一目標の状況が存在するかどうかを判定する、方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の方法であって、前記現実のアレイ(20)および前記仮想的なアレイ(38)について個別の角度推定関数を計算し、両方の角度推定関数の品質を評価する、方法。
【請求項4】
請求項1から
3までのいずれか1項に記載の方法であって、
複数の連続した周波数ランプのシーケンスにしたがって各測定サイクルで送信信号を変調するFMCWレーダセンサについて、
前記周波数ランプのいずれか1つについて各測定サイクルで位相オフセットを検出し、当該検出された位相オフセットを統計的に評価して位相較正のための補正値を生成する、方法。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか1項に記載の方法であって、各測定サイクルで位相較正を行う、方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の方法であって、各測定サイクルにおいて、同一の測定サイクル内で前記位相較正で得られた複数の位相補正値に基づいて角度推定を行う、方法。
【請求項7】
レーダセンサであって、
2つの送信ユニット(16)と、複数の受信アンテナ(E1~E8)からなる現実のアレイ(20)と、前記複数の受信アンテナで受信された信号間の位相差に基づいて、探知されたレーダ目標の角度推定を行うように構成された解析装置(32)と、前記レーダセンサの機能を制御するための制御ユニット(36)とを備え、
各送信ユニット(16)は、少なくとも1つの送信アンテナ(S1,S2)に給電し、
複数の異なる送信ユニットに属する複数の送信アンテナは、前記送信ユニットの双方が使用されたときに前記現実のアレイ(20)を仮想的なアレイ(38)で拡張するように、前記アレイ(20)の方向に互いにオフセットされており、
前記制御ユニット(36)は、請求項
1に記載の方法を実施するように構成されている、ことを特徴とするレーダセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダセンサの2つの高周波モジュールの位相を較正する方法に関するものであり、レーダセンサは、2つのサブアレイによって構成された複数の受信アンテナからなるアレイと、当該複数の受信アンテナによって受信された信号間の位相差に基づいて、探知されたレーダ目標について角度推定を行うように構成された解析装置とを有し、それぞれの高周波モジュールは、いずれか一方のサブアレイの受信アンテナの信号のための並列な受信経路を有する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の運転者支援システム、特に自律走行用の車両誘導システムでは、他の道路利用者、特に他の車両との距離、その相対速度および方向角(特に方位角)を高い精度および信頼性をもって測定することができる高性能のレーダセンサが必要とされる。
【0003】
自動車用の多くの公知のレーダセンサは、FMCW(周波数変調連続波)方式にしたがって動作し、この方式では、送信レーダ信号がランプ状に周波数変調され、受信されたレーダエコーが、現在時刻で送信された信号の一部と混合される。このようにして、送信信号と受信信号との間の周波数差に相当する周波数をもつ中間周波数信号が得られる。レーダ信号の伝搬時間および周波数変調により、当該周波数差は、当該ランプの勾配に比例した距離に依存する成分を含む。さらに周波数差は、ドップラー効果により、探知された物体の相対速度に依存する成分を含む。複数の異なるランプの勾配を用いて得られた測定結果を比較することによって、当該2つの成分を互いに分離することができ、これにより、探知された物体の距離dおよび相対速度vを決定することができる。
【0004】
1回の測定サイクルに大きい勾配を有する多数の「高速の」周波数ランプ(高速チャープ)を含めて、それらの中心周波数を「低速の」ランプで順次変調するというFMCWレーダセンサも知られている。中間周波数信号の2次元フーリエ変換によって、一方では高速のランプにより、他方では低速のランプにより、距離および相対速度の測定でより高い測定精度を達成することができる。
【0005】
角度を測定すべき方向(一般には水平方向)において複数の受信アンテナをアレイ内で互いにオフセットすることによって、探知されたレーダ目標の方向角推定が可能になる。複数の受信アンテナそれぞれで受信された信号は、レーダエコーの入射角に依存する位相差を有する。角度分解能は、アレイの開口および受信アンテナの数を大きくすることによって改善できる。しかしながら、これにより、受信チャネルの数も増すので、高周波モジュールの受信部の複雑さが著しく増大する。
【0006】
受信アンテナの数を増やすことなしにアレイの開口を大きくすることもできる。しかしながら、この場合、位相差の解析にアンビギュイティが生じるので、物体の実際の方向角を確実に検出することができない。MIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダの場合、高周波モジュールの送信ユニットは複数の送信アンテナを有し、これらの送信アンテナも水平方向において互いにオフセットされている。オフセットされた送信アンテナを、例えば、時分割多重方式または符号分割多重方式で動作させることにより、受信チャネルの数を増加させる必要なしに、アレイの開口は仮想的に大きくなる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、特に、実質的に構造が同じ2つ以上の高周波モジュールを有するレーダセン
サに関する。1つにはこれらのモジュールは、例えば運転者支援システムにおいて、低パフォーマンス要件を有するレーダセンサにて個別に使用することができ、他には、より高い性能、特により高い角度分解能を有するレーダセンサを構成するために複数のモジュールを相互接続することができる。ただし、後者の場合には、種々の高周波モジュールの受信部および/または送信部における位相差に起因する誤差を防止するために、種々の高周波モジュールを互いに正確に同期させる必要がある。
【0008】
原則として、全ての高周波モジュールの全ての能動電子部品はこのような位相差に寄与できるものである。受信信号は、様々な受信経路で別々に処理されるので、同じ高周波モジュール内の様々な受信経路間にも位相差が生じることがある。位相差が大幅に除去されるようにレーダセンサを工場で較正することが可能であり、一般的である。しかしながら、レーダセンサの動作時に動作条件が変化した場合には、較正ができなくなることがある。
【0009】
このような問題は、特に、複数の高周波モジュールを有するレーダセンサにおいて生じ、これらの高周波モジュールは、必然的に、互いに所定の間隔をおいて配置されている必要があるので、レーダセンサ内の発熱に起因して互いに異なる温度をもつことがある。したがって、レーダセンサの動作時の温度変化は、関連する電子部品の温度応答に起因して、較正の精度を損なう位相差をもたらすこともある。
【0010】
本発明の課題は、レーダセンサの複数の高周波モジュールを「オンライン」で、すなわちレーダセンサの連続動作時に再較正することを可能にする方法を提供することである。
【0011】
本発明によれば、この課題は、独立請求項に記載された特徴によって解決される。
【0012】
本発明の対象は、まず、レーダセンサの2つの受信ユニットを較正する方法であり、レーダセンサが、複数の受信アンテナからなる2つのサブアレイによって構成されたアレイと、受信アンテナで受信された信号間の位相差に基づいて、探知されたレーダ目標の角度推定を行うように構成された解析装置とを備え、各受信ユニットが、いずれか1つのサブアレイの複数の受信アンテナの信号のための並列な受信経路を有している。この方法は、
当該受信された信号を解析して、多目標の状況または単一目標の状況が存在するかどうかを判定するステップと、
単一目標の状況のときは、サブアレイで受信された信号の位相を測定して2つのサブアレイ間の位相オフセットを計算するステップと、
当該計算された位相オフセットに基づいて2つの受信ユニットの位相を較正するステップとを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の基本概念は、同じサブアレイに属する受信アンテナからの信号間の位相差を、互いに異なるサブアレイに属する受信アンテナの対応する位相差と比較することである。較正が適切である場合、位相差は、探知された物体の測位角度およびこれに対応する受信アンテナの相対位置にのみ依存し、受信アンテナがどのサブアレイに属しているかには依存しない。このようにサブアレイからサブアレイへの有意な位相差は較正誤差を示しているので、これを識別して補正することができる。
【0014】
しかしながら、多目標の状況では位相差が判別しにくく、2つのサブアレイ間で位相オフセットがもはや一意に検出可能ではないことが問題である。多目標の状況は、ここでは、特に、2つの目標が同時に探知され、これら2つの目標の距離および相対速度が、ほぼ同じ周波数をもつ中間周波数信号をつくりだすように互いに関連付けられる状況として理解される。これに対して、単一目標の状況は、単一の物体のみが探知される状況、または2つ以上の物体が探知される場合に、中間周波数信号におけるこれらの物体の周波数が互いに著しく異なり、これらの周波数が、中間周波数信号のスペクトル内において互いに明確に分離されて区別可能な2つのピークを形成する状況であると理解される。
【0015】
例えば、中間周波数信号のスペクトルを解析することによって、および/または、好ましくは、測定した位相差から計算され、物体の可能なそれぞれの測位角度について、物体が当該角度に位置することを示す角度推定関数の品質を評価することによって、単一目標の状況と、実際には極めて稀にしか発生しない多目標の状況とを区別することができる方法が知られている。品質が高い場合には、角度推定関数は特定の角度で鋭いピークを有し、この角度は物体の測位角度を表す。しかしながら、多目標の状況では、ピークは、一般に、かなり広い幅にわたって「不明瞭」であり、正確な測位角度をあまり確実に検出することができない。
【0016】
本発明によれば、このような効果に基づいて、単一目標の状況と多目標の状況とが区別され、再較正は、2つのサブアレイ間の位相オフセットを明確に検出することができる単一目標の状況の場合にのみ行われる。この位相オフセットを検出するために2つのサブアレイの受信信号が互いに比較される。原則として、受信アンテナの異なる対(ペアリング)について、アンテナ間隔への位相差の依存性が検査される。較正が適切である場合、複数の異なるサブアレイからのアンテナは、同一のサブアレイからのアンテナと同じ距離依存性を有するはずである。2つの受信ユニットの誤った較正は、距離に基づいて予想される位相差に加えて、異なるサブアレイからのアンテナについてほぼ同じ大きさの付加的な位相オフセットが常に存在することによって検出することができる。受信アンテナの異なるペアについて位相差を統計的に解析することによって統計的変動を平均化することができ、これにより、補正されるべき位相オフセットの有意義な尺度が得られる。
【0017】
本発明の対象は、さらにレーダセンサの2つの送信ユニットの位相を較正する方法であり、レーダセンサは、複数の受信アンテナからなる現実のアレイと、当該受信アンテナで受信された信号間の位相差に基づいて、探知されたレーダ目標の角度推定を行うように構成された解析装置とを備えており、各送信ユニットが少なくとも1つの送信アンテナに給電し、複数の異なる送信ユニットに属する複数の送信アンテナは、送信ユニットの双方が使用されるときに現実のアレイを仮想的なアレイで拡張するように、アレイの方向に互いにオフセットされる。この方法は、
当該受信された信号を解析して、多目標の状況または単一目標の状況が存在するかどうかを判定するステップと、
単一目標の状況のときは、当該受信された信号の位相を測定して、現実のアレイと仮想的なアレイとの間の位相オフセットを計算するステップと、
当該計算された位相オフセットに基づいて2つの送信ユニットの位相を較正するステップとを備えることを特徴とする。
【0018】
この方法は、同じ基本概念に基づいており、唯一の違いは、同じ現実のアレイの2つのサブアレイが考慮されるのではなく、代わりに、(完全な)現実のアレイと、現実のアレイの受信アンテナが別の送信アンテナから信号を受信することで生じる関連する仮想のアレイとが考慮され、受信アンテナと送信アンテナとの間の空間的なオフセット変化に基づいて、異なる信号経路、したがって異なる位相シフトが生じることである。この場合にも、較正が適切である場合の位相差は、同じ(実際の、または仮想的な)アレイからの2つのアンテナを考慮するか、または異なるアレイからの2つのアンテナを考慮するかに無関係であるといえる。したがって、有意な位相オフセットは、関連する送信ユニットの位相較正における誤差を示す。
【0019】
本発明の有利な構成および改良形態が従属請求項に記載されている。
【0020】
位相オフセットを測定する場合、統計的雑音は、送信信号の多数の連続する周波数ランプ(例えば、高速チャープ)について得られた測定結果を統計的な評価に含めることによって、低減できる。例えば、様々な周波数ランプにおける位相オフセットの中央値または平均値を考慮することができる。
【0021】
必要とされる精度に応じて、再較正は、各測定サイクルで、または所定の時間間隔でのみ行うことができる。さらに、位相較正の結果は、ハードウェアの性能および能力に応じて、正確な角度推定のために現在の測定サイクルで使用するか、または最初は単に保存しておき、次の測定サイクルで、または後続の複数の測定サイクルで使用することができる。
【0022】
この方法は、3つ以上の受信ユニットもしくは送信ユニットを有するレーダセンサにも同様に使用することができる。
【0023】
以下に図面を参照して、例示的な実施形態をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明を適用できるレーダセンサを示す図である。
【
図2】2つの受信ユニットの位相を較正する方法を説明するためにレーダセンサを示す概略図である。
【
図3】本発明に係る方法の本質的なステップを説明するためのフローチャートである。
【
図4】
図1に示したレーダセンサにおける2つの送信ユニットの位相を較正する方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、自動車用のレーダセンサを概略的に示す図であり、このレーダセンサは、共通の回路基板14に2つの高周波モジュール10, 12を有している。高周波モジュール10, 12は、例えば、MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit:モノリシックマイクロ波集積回路)により構成され、送信ユニット16と受信ユニット18とをそれぞれ有する。回路基板14は、水平面上で規則的な間隔をおいて配列された受信アンテナE1~S8からなるアレイ20を有する。アレイ20は、各々が4つの受信アンテナを有する2つのサブアレイ22,24に分割されている。各受信アンテナは、互いに平行でかつ垂直方向の2つのアンテナパッチ列によって形成され、これらの列により仰角に受信ローブの所定の束が実現される。サブアレイ22の受信アンテナE1~E4は、それぞれ導体路26,…,26を介して高周波モジュール10の受信ユニット18に接続されている。これに対応する形で、サブアレイ24の受信アンテナE5~E8は、高周波モジュール12の受信ユニット18に接続されている。導体路26,…,26の長さは、複数の異なる受信アンテナで受信された信号間の位相関係が受信ユニット18への経路上で劣化しないように、マイクロ波の波長λの整数倍だけ互いに異なるように必要に応じて調整される。
【0026】
2つの高周波モジュール10, 12の送信ユニット16,16は、それぞれ導体路28,28によって送信アンテナS1,S2に接続されている。また送信アンテナS1,S2の各々は、垂直方向の2つのアンテナパッチ列によって形成され、アレイ20に関して対称に配置されているが、アレイ20に対して垂直方向にずれるようにして回路基板14に配置されている。また導体路28,28は、送信ユニット16からこれに対応する送信アンテナまでの複数の信号経路が必要に応じてλの整数倍だけ互いに異なるように配置されている。
【0027】
各高周波モジュール10の受信ユニット18は、各々が受信アンテナからの信号を処理する4つの並列な受信経路を有する。それ自体知られているように、各受信経路はミキサを含み、このミキサによって、受信信号は、これに対応する送信アンテナに供給される送信信号の一部と混合されるので、受信経路毎に中間周波数信号が生成される。2つの受信ユニット18,18の中間周波数信号は、信号線30を介して解析装置32に供給され、この解析装置32では、探知されたレーダ目標の距離d、相対速度vおよび方位角θが検出するために、当該信号がさらに解析される。
【0028】
また各高周波モジュール10は、制御ライン34を介して、2つの高周波モジュール10, 12の動作の制御および調整を行う制御ユニット36に接続されている。
【0029】
従来のとおり、送信ユニット16,16で生成される送信信号には、ランプ状の周波数変調が施される。2つの送信ユニット16,16は、2つの送信アンテナS1,S2のうちの1つのみが一度にアクティブとなるように、時分割多重方式で動作する。
【0030】
受信ユニット18,18から供給された中間周波数信号は、解析ユニット32でデジタル化され、またはオプションとして高周波モジュール10, 12でデジタル化されて、周波数ランプの継続期間にわたって記録される。解析装置32では、このようにして得られた(全部で8つの)時間信号から高速フーリエ変換によりそれぞれスペクトルが生成され、これらのスペクトルには、探知された各物体が、当該物体との距離およびその相対速度に応じた特定の周波数でピークとして現れる。既知の解析方法では、距離および速度に応じた成分は互いに分離されて、探知された各物体の距離dおよび相対速度vを検出することができる。
【0031】
また原則として、探知された各物体について、受信アンテナE1~E8で受信された信号間の位相関係に基づいて、および、複数の中間周波数信号間の対応する位相関係に基づいて、探知された物体の方位角を検出することもできる。この目的のために、解析装置32では、当該位相関係に基づいて、当該物体の測位角の確率分布を示す角度推定関数(例えば、最尤関数)を計算する角度推定アルゴリズムが実装される。
【0032】
この目的のために、通常の測定サイクルにおいては、アレイ20の8つ全ての受信アンテナの信号が各周波数ランプで解析される。アレイ20の開口が大きくなればなるほど、角度推定の達成可能な精度は高くなる。
【0033】
しかしながら、純粋な角度推定のための前提条件は、8つの受信アンテナの信号間の位相関係が信号受信および信号解析の過程で劣化しないことである。2つの高周波モジュール10, 12の各々は、全部で8つの受信信号のうちの4つしか処理しないので、2つの高周波モジュールは互いに正確に同期されている必要がある。この目的のために、2つの高周波モジュールは同期ライン38を介して互いに接続されている。この同期によって、2つの受信ユニットのミキサにおいて受信信号と同相の送信信号の一部とを混合することが実現される必要がある。例えば、送信アンテナS1がアクティブである場合、同期を目的として、高周波モジュール10で生成された送信信号を高周波モジュール12に伝送することができ、この伝送に起因する信号伝播時間により位相オフセットが生じないことが保証されなければならない。あるいは、2つの高周波モジュールの受信ユニット18,18内のミキサは、それぞれ、ローカルな送信ユニット16,16で生成された信号を受信することができる。しかしながら、この場合、2つの送信ユニット16,16の発振器は、互いに同期される必要がある。
【0034】
原理的には、全部で8つの受信経路内の能動電子部品はそれぞれある程度の位相シフトを引き起こすことがあり、これにより、角度推定の結果を劣化させる位相差が受信経路間
に生じることもある。これらの位相シフトが経時的に安定している場合、これらの位相シフトを、レーダセンサの始動前に工場で測定し、適切な較正手段によって除去するか、または信号解析時にて対応する補正によって補償することができる。
【0035】
しかしながら、高周波モジュール10,12が動作する動作条件がレーダセンサ動作時に安定していない場合には、位相差は経時的に変化することもあり、レーダセンサの初期較正によっても測定誤差を永続的に排除することができない。
【0036】
位相差の経時変化の主な原因は、2つの高周波モジュールにおける能動電子部品の機能に影響を及ぼす温度変動である。1つには、2つの高周波モジュール10, 12が動作時に互いに異なる温度で発熱することにより位相差が生じることがある。他には、2つの半導体モジュール内の電子部品が温度変動に対して異なる応答を示すことも考えられる。
【0037】
したがって、精度の要求が高い場合には、2つの高周波モジュール10, 12の受信ユニット18,18および送信ユニット16,16の位相較正を動作時に時々チェックし、必要に応じて補正する必要がある。
【0038】
図2を参照して、受信ユニット18のこのような再較正のための方法を説明する。
図2は、上述のレーダセンサの簡略図を示し、さらに
図2においては、特定の方位角θでレーダエコーが受信されて探知された単一のレーダ目標について受信アンテナE1~E8で受信された信号の位相φが、これらの受信アンテナの位置xに応じて(水平方向において)プロットされている。ここで、各受信ユニット18における4つの受信経路間に生じうる位相差は、初期較正によって除去されたと仮定して、一方の高周波モジュール10における受信経路と他方の高周波モジュール12における受信経路との間の、温度変動による位相差のみが想定されている。
【0039】
ここで考察する例では、アレイ20の受信アンテナE1~E8は、x方向に等間隔で配置されている。したがって、レーダエコーが特定の方位角で斜め入射するとき、較正が正確である場合には、8つの受信アンテナで受信される信号の位相は、
図2に黒点およびグラフP1によって示すように、位置xの関数として直線上に位置するはずである。この直線の傾きはレーダエコーの入射角に依存している。垂直入射(方位角0°)では、
図2の直線は水平方向に延在する。高周波モジュール10, 12およびこれらに含まれる受信ユニット18,18の間の温度の違いにより、種々の受信ユニットで測定された位相の間に位相差が生じた場合、これにより
図2に白点とグラフP2により示すように、一方のアレイ22の位相と他方のアレイ24の位相との間に位相オフセットΔφが生ずる。しかしながら、各サブアレイ内のアンテナ間の位相差は不変のままである。このような特性パターンに基づいて位相オフセットを検出して定量化し、適切な再較正によって補償することができる。
【0040】
ただし、
図2は、測定された位相がノイズを含まず、干渉効果による劣化のない理想的な場合を示している。
【0041】
干渉効果は、特に、2つ以上のレーダ目標が同時に順序付けされ、中間周波数信号のスペクトルにおけるそれらに対応するピークの拡がりが大きく、かつ/または互いに近接している多目標の状況であって、それらピークが重なり合ってもはや分離できない状況において生じる。そのような場合、8つの全ての受信信号に基づく従来の角度推定では、角度推定関数の品質は単一目標の状況の場合よりも著しく低くなる。単一目標の状況と比較すると、多目標の状況は比較的稀にしか発生しないことから、角度推定関数の品質に基づいて多目標の状況を識別することができ、位相オフセットを計算するときにそれを除外することができる。
【0042】
統計的雑音は、最初に、受信アンテナの複数の異なる対(ペアリング)について位相および位相差を統計的に解析することによって抑制することができる。例えば、
図2には、まずサブアレイ22についての4つの測定点に基づいて、当該測定結果に最も適合する直線の波形(グラフP1)を決定し、次に、その直線をサブアレイ24について外挿することで受信アンテナE5~E8について推定される位相(黒点)を決定することができる。次に、当該推定された位相を、受信アンテナそれぞれについて実際に測定された位相(白点)と比較することができ、これで得られた4つの差を平均することによって、位相オフセットΔφの現実的な値が得られる。このような解析は、受信アンテナ間の距離が全て等しくない場合にも可能である。
【0043】
上述の解析は、原則として、送信信号の各周波数ランプに対して実行可能である。複数の連続するランプについての結果を統計的に(例えば、中央値を考慮して)解析することによって、統計的変動をさらに抑制することができ、これにより、位相オフセットΔφについて得られる値の精度をさらに向上させることができる。
【0044】
図3は、受信ユニット18,18を較正する方法の本質的なステップを示すフローチャートである。
【0045】
ステップS1においては、「通常の」測定サイクルが実施され、距離dおよび相対速度vが検出され、必要に応じて、探知されたレーダ目標の位置角も検出される。測定サイクルで生成される送信信号は、場合によっては互いに異なる中心周波数と同一勾配とを有する多数の連続した周波数ランプを含むことができ、距離および相対速度の計算は、これらのランプで受信された信号の全体基づくものとすることができる。角度推定のためには、原則として、1つまたはいくつかの周波数ランプの信号を解析すれば十分ではあるが、信号対雑音比を向上するために、できるだけ大きいデータ量が使用されることが好ましい。
【0046】
ステップS2においては、2つのサブアレイ22,24について個別の角度推定が行われる。角度推定関数は、受信アンテナE1~E4の信号に基づいて計算され、受信アンテナE5~E8の信号に基づいてさらなる角度推定関数の計算が行われる。2つの受信ユニット18,18の較正が誤って行われたとしても、その較正誤差が同じサブアレイ内の受信アンテナ間の位相差に影響を及ぼさないので、それら角度推定の結果は本来一致するはずである。しかしながら、使用される各サブアレイの開口は、アレイ20全体の開口の半分に過ぎないので、これらの角度推定値の分離精度には限界がある。
【0047】
2つの角度推定関数の各々について品質が計算され、ステップS3においては、両方の角度推定関数の品質が所定のしきい値を超えているかどうかがチェックされる。このしきい値は、当該しきい値を超える品質が通常は単一目標の状況でのみ得られるように選択される。その状況での受信信号は、単一の反射源中心のみから生ずる中間周波数信号のスペクトルで特定の周波数にピークを生じさせるものであるので、様々なサブアレイで受信された信号間の明確な位相オフセットを検出することができる。
【0048】
このような条件が満たされる場合は(Y)、ステップS4において、
図2を参照して説明した手順を用いて位相オフセットΔφが計算され、ステップS5において、この位相オフセットに基づいて位相較正の補正が行われる。
【0049】
原則として、その較正の補正は、2つの受信ユニットのうちの一方の能動電子部品を制御し、受信経路で処理された信号を位相オフセットに応じてシフトすることによって実行できる。好ましくは、位相較正は、2つのサブアレイのうちのいずれか一方の信号の位相から位相オフセットΔφを減算するという純粋な演算で行われる。これにより、受信ユニ
ットに追加の能動電子部品を必要としないという利点がある。
【0050】
ステップS3において多目標の状況が判定された場合は(N)、ステップS4,S5はスキップされる。ステップS6では、単一目標の状況および多目標の状況の両方について、角度推定は、完全なアレイ20の8つの全ての受信信号に基づいて行われる。ここで、ステップS5で更新された位相補正量を使用する。次に、ステップS1に戻り、次の測定サイクルを実施することができる。
【0051】
変更された実施形態では、ステップS6をステップS1に統合することもできる。この場合、ステップS5で更新された位相補正量は、現在の測定サイクルではまだ有効ではなく、後続の測定サイクルのステップS1においてようやく有効になる。
【0052】
さらに別の実施形態では、ステップS2~S5は、全ての測定サイクルで実施されるのではなく、一般に50msという個々の測定サイクルの継続時間よりも長い所定の時間間隔でのみ実施される。
【0053】
ここで、
図1に例示したレーダセンサは、MIMOレーダセンサであり、ここでの2つの送信ユニット16,16は、例えば時分割多重方式に従い、各時点で2つの送信アンテナS1,S2のうちの1つのみをアクティブとするように動作する。これにより、アンテナアレイの開口が仮想的に大きくなるので、角度分解能が高くなる。
【0054】
受信アンテナE1~E8で受信される信号の位相は、送信信号を現在送信している送信アンテナS1またはS2からレーダ目標までの信号経路と、レーダ目標からそれぞれの受信アンテナに戻るまでの信号経路との全長に依存する。したがって、それらの位相は、x方向における受信アンテナE1~E8の位置だけでなく、現在使用されている送信アンテナのx位置にも依存する。例えば、送信アンテナS2がアクティブであるときは、受信アンテナE1~E8で受信された信号の位相については、これらの受信アンテナについて
図4にグラフで示す値が得られる。送信アンテナS1に切り換えられたときは、送信アンテナS1,S2間の距離だけ受信アンテナE1~E8が右方(xの正方向)にシフトした場合と同じ効果を受信信号の位相に及ぼす。したがって、それら受信アンテナのシフト後の位置は、仮想的な受信アンテナV1~V8を有する仮想的なアレイ38を形成することとなる。
【0055】
ここで、送信アンテナS1,S2の位置は、受信アンテナE8と第1の仮想アンテナV1との間の距離が、2つの隣接する受信アンテナ間の距離と同じになるように選択される。送信アンテナS1,S2の活動フェーズにおける受信信号を一緒に考察した場合、仮想アンテナV1~V8における信号について、較正が正しい場合には実際のアレイ20の位相と同じ直線(グラフQ1)上に位置する位相が得られる。しかしながら、2つの高周波モジュールの送信ユニット16,16によって生成された送信信号間に位相差がある場合、一方の現実のアレイ20と他方の仮想的なアレイ38とで受信された位相に対応する位相オフセットΔφが生じる(
図4のグラフQ2)。開口を2倍にすることによってより良好な角度分解を達成するために、アレイ20,
38の組合せに基づいて角度推定を行うと、その角度推定の結果は、位相オフセットΔφにより劣化すると思われる。
【0056】
しかしながら、送信ユニット16,16間の上記の較正誤差は、受信ユニット18について
図2および
図3に関して上述したものと同じ原理にしたがって補正できる。単一目標の状況が判定された場合には、位相オフセットΔφが測定され、この位相オフセットは、実際の角度推定における対応する位相補正のために使用される。