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特許7230265大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関及びこれを動作させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関及びこれを動作させる方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/08 20060101AFI20230220BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20230220BHJP
   F02D 9/04 20060101ALI20230220BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20230220BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20230220BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20230220BHJP
   F02B 33/00 20060101ALI20230220BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20230220BHJP
   F02M 26/34 20160101ALI20230220BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20230220BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
F02D19/08 C
F02D13/02 J
F02D9/04 H
F02D9/04 C
F02D23/00 E
F02B37/00 302F
F02B37/00 302G
F02M21/02 311D
F02B33/00 C
F02M26/05
F02M26/34
F02D21/08 301C
F02B25/04
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022115164
(22)【出願日】2022-07-20
(65)【公開番号】P2023018664
(43)【公開日】2023-02-08
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】PA202170392
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン マーク
(72)【発明者】
【氏名】イェンスン キム
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-200831(JP,A)
【文献】国際公開第2012/057310(WO,A1)
【文献】特開2017-133464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/00
F02M 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス運転モードにおいて主燃料としてガス燃料で動作する大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関であって、
それぞれシリンダライナ、往復ピストン、シリンダカバーで画定される複数の燃焼室と;
前記燃焼室に掃気を導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナに配される掃気ポートと;
前記シリンダカバーに配され、排気弁により制御される排気ガス排出口と;
各燃焼室について排気弁タイミングの制御を可能とする可変タイミング排気弁作動システムと;
前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配され、前記往復ピストンの前記シリンダカバーへの行程の最中にガス燃料を投入するように構成される1つ又は複数のガス導入口と;
前記機関に関連付けられる少なくとも1つのコントローラとを備え;
前記少なくとも1つのコントローラは、各燃焼室について、前記排気弁の開閉タイミングを決定及び制御するように構成されると共に、各燃焼室について、前記ガス導入口から燃焼室に導入されるガス燃料の量を制御するように構成され、
前記少なくとも1つのコントローラは、前記機関の動作条件を監視し、前記機関が安定状態動作条件で動作している時を決定するように構成され、
前記燃焼室は、少なくとも前記安定状態動作条件を逸脱した動作条件において、既知の望ましくない燃焼状態を有し、前記既知の望ましくない燃焼状態においては、空燃比が既知の動作条件依存臨界値を超えると、部分ミスファイアイベント、ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションが生じる可能性が高く、
前記可変タイミング排気弁作動システムは、各燃焼室について個別に排気弁タイミングの制御を可能とし、
前記少なくとも1つのコントローラは、各燃焼室について個別に、前記排気弁の開閉タイミングを決定及び制御するように構成されると共に、各燃焼室について個別に、前記ガス導入口から燃焼室に導入されるガス燃料の量を制御するように構成され、
前記少なくとも1つのコントローラは、前記機関が安定状態動作条件で動作していると決定した時に、安定状態モードで動作するように構成され、
前記安定状態モードにおける前記少なくとも1つのコントローラは、
各燃焼室について個別に、動作条件の関数として空燃比を制御し、初めは第1の値にセットされるマージンによって、前記空燃比の値が前記既知の動作条件依存臨界値より低くなるように制御し、
各燃焼室について個別に、前記マージンを、前記第1の値より小さく0より大きな第2の値へと、実際の値からデクリメントして徐々に小さくし、
各燃焼室について個別に、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、プレイグニッションイベントを監視し、
部分ミスファイアイベント、ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントを検出すると、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、プレイグニッションイベントが検出されなくなるまで、前記マージンを、実際の値から前記第1の値へ向かってインクリメントして大きくする、
ように構成される、機関。
【請求項2】
前記少なくとも1つのコントローラは、前記望ましくない燃焼状態及び前記既知の動作条件依存臨界値を知らされるように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項3】
前記コントローラは、前記値を最後に増加させてから既定の長さの時間が経過した時に、及び前記値が前記第2の値に等しくない時に、各燃焼室について個別に、前記マージンを実際の値から小さくデクリメントして徐々に小さくすることを再開するように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項4】
前記コントローラは、好ましくは段階的に、排気弁閉弁タイミングを進めることにより、前記マージンをデクリメントして小さくするように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項5】
前記コントローラは、好ましくは段階的に、排気弁閉弁タイミングを遅らせることにより、前記マージンをインクリメントして大きくするように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項6】
排気バイパス制御弁を有する排気バイパスを備え、
前記コントローラは、前記排気バイパス制御弁を閉じるか絞りをきつくすることにより、前記マージンをデクリメントして小さくするように構成される、
請求項1に記載の機関。
【請求項7】
排気バイパス制御弁を有する排気バイパスを備え、
前記コントローラは、前記排気バイパス制御弁を開けるか絞りを緩くすることにより、前記マージンをインクリメントして大きくするように構成される、
請求項1に記載の機関。
【請求項8】
内部に排気再循環ブロワを備える排気再循環管を有し、
前記コントローラは、前記排気再循環ブロワをアクティブにするか速度を上げることにより、前記マージンをインクリメントして大きくするように構成される、
請求項1に記載の機関。
【請求項9】
内部に排気再循環ブロワを備える排気再循環管を有し、
前記コントローラは、前記排気再循環ブロワを非アクティブにするか速度を下げることにより、前記マージンをデクリメントして小さくするように構成される、
請求項1に記載の機関。
【請求項10】
メインの掃気冷却機の上流にシリンダバイパスを有し、
前記コントローラは、ホットシリンダバイパス管を開けるか前記ホットシリンダバイパス管内の制御弁の絞りを緩くすることにより空燃比を上げ、前記ホットシリンダバイパス管を閉じるか前記ホットシリンダバイパス管内の制御弁の絞りをきつくすることにより空燃比を下げるように構成される、
請求項1に記載の機関。
【請求項11】
前記コントローラは、動作条件が要求する場合に液体燃料噴射をアクティブにするように構成され、また、液体燃料噴射をアクティブにしたときに前記マージンを前記第1の値にリセットするように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項12】
前記インクリメントは小さなインクリメントであり、前記デクリメントは小さなデクリメントであり、前記段階的の段階は小さな段階である、請求項4又は5に記載の機関。
【請求項13】
各シリンダに個別にシリンダ圧力を検知するセンサーを備え、
前記コントローラは、各シリンダついて個別に、検知されたシリンダ圧力を監視すると共に、各シリンダについて個別に、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントが発生したかどうかを決定するように構成される、
請求項1に記載の機関。
【請求項14】
前記コントローラは、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントが発生しないときのシリンダ圧力の期待される変化からのシリンダ圧力変化の逸脱を決定することにより、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントを決定するように構成される、請求項13に記載の機関。
【請求項15】
前記コントローラは、望ましい機関速度と実際の機関速度との差が逸脱閾値より低く、同時に機関負荷が機関負荷閾値より高い場合に、前記機関は安定状態条件下で動作していると決定するように構成される、請求項1に記載の機関。
【請求項16】
前記少なくとも1つのコントローラは、前記燃焼室内の瞬間的な平均圧縮空燃比を決定する圧縮空燃比観測手段を備えるか、そのような圧縮空燃比観測手段に接続される、請求項1に記載の機関。
【請求項17】
ガス運転モードで複数の燃焼室を有する大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関を動作させる方法であって、
前記燃焼室内には燃焼の前にある空燃比の混合気が存在し、
前記燃焼室は、少なくとも安定状態動作条件を逸脱した動作条件において、既知の望ましくない燃焼状態を有し、前記既知の望ましくない燃焼状態においては、空燃比が既知の動作条件依存臨界値を超えると、部分ミスファイアイベント、ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションが生じる可能性が高く、
前記方法は:
前記機関の動作条件を監視して、前記機関が前記安定状態動作条件で動作している時を決定し、
前記安定状態動作条件であると決定すると、
各燃焼室について個別に、動作条件の関数として空燃比を制御し、初めは第1の値にセットされるマージンによって、前記空燃比の値が前記既知の動作条件依存臨界値より低くなるように制御し、
各燃焼室について個別に、前記マージンを、前記第1の値より小さく0より大きな第2の値へと、実際の値からデクリメントして徐々に小さくし、
各燃焼室について個別に、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、プレイグニッションイベントを監視し、
部分ミスファイアイベント、ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントを検出すると、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、プレイグニッションイベントが検出されなくなるまで、前記マージンを、実際の値から前記第1の値へ向かってインクリメントして大きくする、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ガス燃料を使用する大型2ストローク内燃機関に関し、特に、ピストンがBDCからTDCに向かう途中に燃料弁から導入されるガス燃料によって運転される、クロスヘッド式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関に関する。
【背景】
【0002】
クロスヘッド式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関は、例えば大型船舶の推進システムや、発電プラントの原動機として用いられる。この大型2ストロークエンジンのサイズは巨大である。サイズが巨大であることだけが理由ではないが、この大型2ストロークエンジンは、他の内燃機関とは異なる構造を有する。例えば、排気弁の重量は400kgに達することもあり、ピストンの直径も100cmに達することがある。運転中における燃焼室の最大圧力は、典型的には数百barになる。このような高い圧力レベルとピストンサイズから生まれる力は莫大なものである。
【0003】
大型2ストロークターボ過給式内燃機関には、シリンダライナの長手方向中央付近又はシリンダカバーに配される燃料弁から導入されるガス燃料で運転されるタイプのものがある。このタイプのエンジンにおいて、ガス燃料は、ピストンの上昇ストロークの途中であって、排気弁が閉じるかなり前に、シリンダ内に導入される。エンジンは、燃焼室内においてガス燃料と掃気との混合物を圧縮し、圧縮された混合気を上死点(TDC)又はその付近で同期着火手段(例えばパイロット油着火手段)によって点火する。
【0004】
大型2ストロークターボ過給式内燃機関において、ピストンが上死点(TDC)又はその付近でガス燃料を噴射する場合、燃焼室内の圧縮圧力はほぼ最大になっている。それに比べると、シリンダライナ又はシリンダカバーに配される燃料弁(ガス導入弁)を用いる上記のタイプのガス導入は、燃焼室の圧力が比較的低い時にガス燃料を噴射するため、かなり低い燃料噴射圧力を用いることができるという利点を有する。TDC又はその付近でガス燃料を噴射するタイプのエンジンの場合、既にほぼ最大圧力となっている燃焼室の圧力よりも、更に十分に高い燃料噴射圧力を実現しなければならない。このような極めて高い圧力でガス燃料を扱うことができる燃料システムは、高価かつ複雑である。その理由には、ガス燃料の揮発性や高圧下の挙動があり、それによって燃料システムの鋼部材の中に(又はそれらを通じて)拡散していくことがある。
【0005】
このため、圧縮ストロークの途中にガス燃料を噴射するエンジンの燃料供給システムは、ピストンがTDC付近にあるときの高圧下でガス燃料を噴射するエンジンのものに比べて、コストがずっと低い。
【0006】
しかし、圧縮ストロークの途中にガス燃料を噴射する場合、ピストンは、ガス燃料と掃気の混合物を圧縮することになるが、これには異常早期着火(プレイグニッション)の危険性を伴う。非常に薄い混合気で運転することにより、プレイグニッションの危険性を減少させることができる。しかし、薄い混合気を用いると、ミスファイア又は部分ミスファイア(partial misfire)の危険性が増大し、燃料スリップをもたらす。
【0007】
このため、上記のような大型2ストロークターボ過給型内燃機関において、ミスファイアやプレイグニッション、ディーゼルノックの問題を解消または少なくとも減少させるために、圧縮中の燃焼室の状態の制御を改善することの必要性が存在する。プレイグニッションやミスファイアが発生することを防ぐためには、燃焼室の状態を非常に的確に制御することが必要になる。
【0008】
エンジンが定常状態で運転されているとき、エンジンのパフォーマンス設計は通常、プレイグニッションが発生しないようになされている。これは、燃焼室の設計や燃料噴射のタイミング、排気弁のタイミングを、注意深く選択することによって達成されている。しかしこれは、ミスファイア又は部分ミスファイア、プレイグニッションが発生する可能性が高い燃焼状態から安全な距離を取って動作させることを要する。この大きな安全距離は、最適とはいえない燃焼状態をもたらす。特に燃料効率の点で、最適とはいえない燃焼状態をもたらす。
【0009】
Dk201970370は、大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関を開示している。この機関は複数の燃焼室と、前記機関に関連付けられた少なくとも1つのコントローラとを備え、前記コントローラは、燃焼開始時における平均圧縮空燃比及びバルク圧縮温度を決定すると共に、
・ 前記決定した平均圧縮空燃比が圧縮空燃比下閾値を下回る場合、圧縮空燃比を上げるための方策を実行すること;
・ 前記決定した平均圧縮空気過剰率が圧縮空燃比上閾値を上回る場合、圧縮空燃比を下げるための方策を実行すること;
・ 前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための少なくとも1つの方策を実行することと;
・ 前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための少なくとも1つの方策を実行することと;
【0010】
を遂行するように構成される。
【摘要】
【0011】
上述の課題を解決するか又は少なくとも緩和する、エンジン及び方法を提供することが目的の一つである。
【0012】
上述の課題やその他の課題が、独立請求項に記載の特徴により解決される。より具体的な実装形態は、従属請求項や発明の詳細な説明、図面から明らかになるだろう。
【0013】
第1の側面によれば、ガス運転モードにおいて主燃料としてガス燃料で動作する大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関が提供される。この機関は、
それぞれシリンダライナ、往復ピストン、シリンダカバーで画定される複数の燃焼室と;
前記燃焼室に掃気を導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナに配される掃気ポートと;
前記シリンダカバーに配され、排気弁により制御される排気ガス排出口と;
各燃焼室について個別に排気弁タイミングの制御を可能とする可変タイミング排気弁作動システムと;
前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配され、前記往復ピストンの前記シリンダカバーへの行程の最中にガス燃料を投入するように構成される1つ又は複数のガス導入口と;
前記機関に関連付けられる少なくとも1つのコントローラとを備え;
前記少なくとも1つのコントローラは、各燃焼室について個別に、前記排気弁の開閉タイミングを決定及び制御するように構成されると共に、各燃焼室について個別に、前記ガス導入口から燃焼室に導入されるガス燃料の量を制御するように構成され、
前記少なくとも1つのコントローラは、前記機関の動作条件を監視し、前記機関が安定状態動作条件で動作している時を決定するように構成され、
【0014】
前記少なくとも1つのコントローラは、前記機関が安定状態動作条件で動作していると決定した時に、安定状態モードで動作するように構成され、
【0015】
前記燃焼室は、少なくとも安定状態動作において、既知の望ましくない燃焼状態を有し、前記既知の望ましくない燃焼状態においては、空燃比が既知の動作条件依存臨界値を超えると、部分ミスファイアイベント、ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションが生じる可能性が高く、
【0016】
前記安定状態モードにおける前記少なくとも1つのコントローラは、
・ 各燃焼室について個別に、動作条件の関数として空燃比を制御し、初めは第1の値にセットされるマージンによって、前記空燃比の値が前記既知の動作条件依存臨界値より低くなるように制御し、
・ 各燃焼室について個別に、前記マージンを、前記第1の値より小さく0より大きな第2の値へと、実際の値からデクリメントして徐々に小さくし、
・ 各燃焼室について個別に、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、プレイグニッションイベントを監視し、
・ 部分ミスファイアイベント、ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントを検出すると、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、プレイグニッションイベントが検出されなくなるまで、前記マージンを、実際の値から前記第1の値へ向かってインクリメントして大きくする、
ように構成される。
【0017】
通常の安定状態動作条件における値と比べてマージンを小さくすることを可能とすることにより、機関動作パラメータを臨界値に近い値で使用することができ、機関動作及び燃焼プロセスを最適化する可能性を高める。この機関動作パラメータとは、例えば、(最大化された)燃料効率(エネルギー効率)、(最小化された)NOx排出量、(最小化された)炭化水素スリップ(HCスリップ)(炭化水素は、燃焼した燃料ではなく、又は部分的に燃焼した燃料)である。従って、機関は、これらの動作パラメータのいずれかを最適化するように設計されることができる。
【0018】
この最適化は、燃焼プロセスを最適な方向にプッシュするために、アクチュエータの設定点が通常の安定状態動作条件からどのくらい逸脱するかを指定する。(外気条件や部品のメンテナンスなどの)制御できない要因が、どのくらいの最適化が可能かを決定するために、最適化を図る手法としては、逸脱ルールを指定するだけである。そして、望ましくない燃焼状態が検出されたときに、最適化手法は少なくとも部分的に反転させられる。従って、制御できない要因は、どのくらいの範囲でルール(アクチュエータ設定点の逸脱のサイズ)が適用できるかを決定するだろう。
【0019】
望ましくない燃焼状態は、ミスファイアイベント、ミスファイアイベント、又はプレイグニッションが生じる燃焼状態である。
【0020】
安定状態動作についての空燃比の動作条件依存臨界値が、機関の設計中に、及び/又はテストランに基づいて、及び/又はコンピュータシミュレーションに基づいて、決定される。
【0021】
マージンの最初の値が、機関の設計中に、及び/又はテストランに基づいて、及び/又はコンピュータシミュレーションに基づいて、決定される。動作条件の関数としてのマージンの値は、ルックアップテーブルに格納されるか、アルゴリズムに実装される。
【0022】
コントローラは、機関が安定状態条件で動作していると決定すると、直ちに、又は既定の遅延をもって(すなわち既定の時間後に)、最初にセットした初期値からマージンを減少させる処理を開始する。
【0023】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記少なくとも1つのコントローラは、前記望ましくない燃焼状態及び前記既知の動作条件依存臨界値を知らされる。
【0024】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記値を最後に増加させてから既定の長さの時間が経過した時に、及び前記値が前記第2の値に等しくない時に、各燃焼室について個別に、前記マージンを実際の値から小さくデクリメントして徐々に小さくすることを再開するように構成される。
【0025】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記ントローラは、好ましくは段階的に、排気弁閉弁タイミングを進めることにより、前記マージンをデクリメントして小さくするように構成される。
【0026】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記ントローラは、好ましくは段階的に、排気弁閉弁タイミングを遅らせることにより、前記マージンをインクリメントして大きくするように構成される。
【0027】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関は排気バイパス制御弁を有する排気バイパスを備え、前記コントローラは、前記排気バイパス制御弁を閉じるか絞りをきつくすることにより、前記マージンをデクリメントして小さくするように構成される。
【0028】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関は排気バイパス制御弁を有する排気バイパスを備え、前記コントローラは、前記排気バイパス制御弁を開けるか絞りを緩くすることにより、前記マージンをインクリメントして大きくするように構成される。
【0029】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関は、内部に排気再循環ブロワを備える排気再循環管を有し、前記コントローラは、前記排気再循環ブロワをアクティブにするか速度を上げることにより、前記マージンをインクリメントして大きくするように構成される。
【0030】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関は、内部に排気再循環ブロワを備える排気再循環管を有し、前記コントローラは、前記排気再循環ブロワを非アクティブにするか速度を下げることにより、前記マージンをデクリメントして小さくするように構成される。
【0031】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関は、メインの掃気冷却機の上流にシリンダバイパスを有し、前記コントローラは、ホットシリンダバイパス管を開けるか前記ホットシリンダバイパス管内の制御弁の絞りを緩くすることにより空燃比を上げ、前記ホットシリンダバイパス管を閉じるか前記ホットシリンダバイパス管内の制御弁の絞りをきつくすることにより空燃比を下げるように構成される。
【0032】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは、動作条件が要求する場合に液体燃料(例えばディーゼル油)の噴射をアクティブにするように構成され、また、液体燃料噴射をアクティブにしたときに前記マージンを前記第1の値にリセットするように構成される。
【0033】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記インクリメントは小さなインクリメントであり、前記デクリメントは小さなデクリメントであり、前記段階は小さな段階である。
【0034】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関は各シリンダに個別にシリンダ圧力を検知するセンサーを備え、前記コントローラは、各シリンダついて個別に、検知されたシリンダ圧力を監視すると共に、各シリンダについて個別に、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントが発生したかどうかを決定するように構成される。
【0035】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントが発生しないときのシリンダ圧力の期待される変化からのシリンダ圧力変化の逸脱を決定することにより、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントを決定するように構成される。
【0036】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは、望ましい機関速度と実際の機関速度との差が逸脱閾値より低く、同時に機関負荷が機関負荷閾値より高い場合に、前記機関は安定状態で動作していると決定するように構成される。
【0037】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、加圧ガス燃料の供給部から燃料導入弁を通じて供給されるガス燃料を前記燃焼室に導入するように、一つ又は複数のガス燃料導入孔が構成される。
【0038】
第2の側面によれば、ガス運転モードで複数の燃焼室を有する大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気内燃機関を動作させる方法が提供される。ここで、前記燃焼室内には燃焼の前にある空燃比の混合気が存在し、
前記燃焼室は、少なくとも安定状態動作において、既知の望ましくない燃焼状態を有し、前記既知の望ましくない燃焼状態においては、空燃比が既知の動作条件依存臨界値を超えると、部分ミスファイアイベント、ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションが生じる可能性が高く、
そして前記方法は、
前記機関の動作条件を監視して、前記機関が安定状態動作条件で動作している時を決定し、
安定状態動作条件であると決定すると、
各燃焼室について個別に、動作条件の関数として空燃比を制御し、初めは第1の値にセットされるマージンによって、前記空燃比の値が前記既知の動作条件依存臨界値より低くなるように制御し、
各燃焼室について個別に、前記マージンを、前記第1の値より小さく0より大きな第2の値へと、実際の値からデクリメントして徐々に小さくし、
各燃焼室について個別に、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、プレイグニッションイベントを監視し、
部分ミスファイアイベント、ミスファイアイベント、及び/又はプレイグニッションイベントを検出すると、ミスファイアイベント、部分ミスファイアイベント、プレイグニッションイベントが検出されなくなるまで、前記マージンを、実際の値から前記第1の値へ向かってインクリメントして大きくする。
【0039】
これらの側面及び他の側面は、以下に説明される実施例により更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、様々な捉え方や実施形態、実装例を詳細説明する。
図1】ある例示的実施形態に従う大型2ストロークディーゼル機関の正面図である。
図2図1の大型2ストローク機関の側面図である。
図3図1の大型2ストローク機関の第1の略図表現である。
図4図1の機関のシリンダフレーム及びシリンダライナの断面図である。シリンダカバー及び排気弁が取り付けられており、TDC及びBDCにおけるピストンも描かれている。
図5図1の機関の第2の略図表現である。
図6】圧縮温度オブザーバ及び圧縮空燃比オブザーバの略図表現である。
図7】横軸をバルクシリンダ温度、縦軸を圧縮空燃比としたグラフを描いたものである。安全なゾーンと、それを囲む、安全ゾーンに戻るために何らかのアクションが取られなければならないゾーンが示されている。
図8】大型2ストローク機関を制御する方法の実施例を描いた図である。
図9】個々のシリンダについての最適化プロセスを描いた図である。
【詳細説明】
【0041】
以下の詳細説明では、実施例のクロスヘッド式大型低速2ストロークターボ過給式内燃機関を参照して、内燃機関が説明される。図1図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関の実施例を描いている。このエンジンは、クランクシャフト8及びクロスヘッド9を有する。図1は正面図、図2は側面図である。図3は、図1,2のターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この例において、エンジンは直列に4本のシリンダを有する。ターボ過給式大型低速2ストローク内燃機関は通常、直列に配される4本から14本のシリンダを有する。これらのシリンダはエンジンフレーム11に担持される。またこのような機関は、例えば、船舶の主機関や、発電所において発電機を動かすための据え付け型の機関として用いられることができる。機関の全出力は、例えば、1000kWから110000kWでありうる。
【0042】
この実施例におけるエンジンは、2ストロークユニフロー掃気エンジンであり、シリンダライナ1の下部領域に掃気ポート18が設けられ、シリンダライナ1の頂部中央には排気弁4が配される。掃気は、ピストンが掃気ポート18より下にある時に、掃気受け2から各シリンダライナ1の掃気ポート18へと導かれる。ガス燃料は、電子制御部60の制御下でガス燃料導入弁30から導入される。これは、ピストンの上昇ストロークの間であって、ピストンが燃料弁(ガス燃料導入弁)30を通過する前に行われる。ガス燃料は比較的低い圧力で導入され、30bar未満、好ましくは25bar、より好ましくは20bar未満で導入される。燃料弁は好ましくはシリンダライナの円周に亘って等間隔に分布するように配される。また好ましくは、シリンダライナの長手方向の中央付近に配される。従って、ガス燃料の導入は、圧縮圧力が比較的低い時に行われる。つまり、ピストンがTDCに達するときの圧縮圧力に比べればずっと低いときに行われるので、比較的低い圧力で導入することが可能となる。
【0043】
ピストン10はシリンダライナ1の中で、ガス燃料と掃気の混合物を圧縮する。圧縮が行われ、TDC又はその付近で着火が開始される。着火は例えば、パイロット油燃料弁50からパイロット油(又はその他の適切な着火液)を噴射することによって、開始されてもよい。パイロット油燃料弁50好ましくはシリンダカバー22に配される。その後燃焼が生じ、排気ガスが生成される。別の形態の着火システムでは、パイロット油の代わりに、又はパイロット油に加えて、プリチャンバやレーザー着火、グロープラグ(いずれも図示されていない)などを、着火を促すために使用するものもある。
【0044】
排気弁4が開くと、排気ガスは、シリンダ1に設けられる排気ダクトを通って排気受け3へと流れ、さらに第1の排気管19を通ってターボ過給器5のタービン6へと進む。そこから排気ガスは、第2の排気管25を通ってエコノマイザ20へ流れ、さらに出口21から大気中へと放出される。タービン6は、シャフトを介してコンプレッサ7を駆動する。コンプレッサ9には、空気取り入れ口12を通じて外気が供給される。コンプレッサ7は、圧縮された掃気を、掃気受け2に繋がっている掃気管13へと送り込む。管13の掃気は、掃気を冷却するためのインタークーラー14を通過する。
【0045】
冷却された掃気は、電気モーター17により駆動される補助ブロワ16を通る。補助ブロワ16は、ターボ過給器5のコンプレッサ7が掃気受け2に必要とされる圧力を供給することができない場合、すなわちエンジンが低負荷又は部分負荷である場合に、掃気流を圧縮する。機関の負荷が高い場合は、ターボ過給器のコンプレッサ7が、十分に圧縮された掃気を供給することができるので、補助ブロワ16は、逆止め弁15によってバイパスされる。
【0046】
図4には、クロスヘッド式大型2ストロークエンジンのために設計されたシリンダライナ1が図示されている。エンジンのサイズに応じて、シリンダライナ1は様々な大きさに作られる。典型的な大きさとしては、直径が250mmから1000mmであり、それに対応する全長が1000mmから4500mmである。
【0047】
図4には、シリンダライナ1はシリンダフレーム23に載置され、シリンダライナ1の上にはシリンダカバー22が搭載されている様子が描かれている。シリンダライナ1とシリンダカバー22とは、その間からガスの漏出が生じないように連結されている。図4において、その下死点(BDC)と上死点(TDC)におけるピストン10の様子が破線で示されている。なおもちろん、これら2つの状態が同時に生じる訳ではなく、これら2つの状態は、クランクシャフト8の回転角で180度隔てられている。シリンダライナ1には、シリンダ潤滑孔25及びシリンダ潤滑ライン24が設けられる。これらはピストン10が潤滑ライン24を通過する際にシリンダ潤滑油を供給する。続いて(図示されていない)ピストンリングが、シリンダライナの走行面全体にシリンダ潤滑油を行き渡らせる。上の機関は典型的には8から15の間の幾何学的圧縮比を有する。しかし、TDC付近の高圧下で、シリンダカバーに配される燃料噴射弁からガス燃料を噴射する、高圧ガス噴射機構を備える機関の場合は、幾何学的圧縮比は20を超えることがある。
【0048】
パイロット油弁50又は、パイロット油弁50を有するプレチャンバは通常、シリンダカバー22に搭載される。パイロット油弁50通常、各シリンダに1つ搭載される。パイロット油弁50は、図示されないパイロット油のソースに接続されている。パイロット油の噴射タイミングは電子制御ユニット60により制御される。
【0049】
燃料弁30はシリンダライナ1(又はシリンダカバー22)に装備される。燃料弁30は、シリンダライナ1の内面と実質的に同じ面に位置するノズルを有する。また燃料弁30の後端はシリンダライナ1の外壁から飛び出ている。典型的には1つ又は2つ、多くても3つか4つの燃料弁30が、各シリンダライナ1に設けられる。これらはシリンダライナ1の円周域に(好ましくは等間隔に)配置される。本実施例において、燃料弁30は、シリンダライナ1の長手方向のちょうど中央部に配されている。
【0050】
図4は、ガス燃料供給管41を通じて複数のガス燃料弁30のそれぞれの入口に接続される加圧ガス燃料源40を備えるガス燃料供給システムの略図を示している。
【0051】
図5は、図2の機関と同様の機関の略図表現であるが、機関のガス交換装置が詳細に描かれている。周囲と同様の気圧及び温度で外気が取り込まれ、空気入口12を通じてターボ過給機5のコンプレッサ7へと送り込まれる。コンプレッサ7からは、圧縮された掃気が、掃気管13を通じて分岐ポイント28へと送られる。
【0052】
分岐ポイント28は、掃気が、ホットシリンダバイパス管29を通じて第1の排気管19のタービン接続部32へと分岐することを可能にする。ホットシリンダバイパス管29の流量は、ホットシリンダバイパス制御弁31によって制御される。ホットシリンダバイパス制御弁31は、コントローラ60によって電子的に制御される。ホットシリンダバイパス管29を開けること、又はホットシリンダバイパス制御弁31の絞りを緩くすることは、空燃比を上げるという効果を奏し、またバルク圧縮温度を上げるという効果を有する。一方、ホットシリンダバイパス29を閉じること、又はホットシリンダバイパス制御弁31の絞りを強くすることは、空燃比を下げるという効果を奏し、またバルク圧縮温度を下げるという効果を有する。
【0053】
掃気管13には、インタークーラー14の上流に第1の掃気制御弁33が設けられる。また、インタークーラー14の下流には第2の掃気制御弁34が設けられる。掃気管13は、掃気受け2へと接続している。インタークーラー14からは、補助ブロワ16を備える管が分岐している。
【0054】
コールドシリンダバイパス管35は、掃気受け2を、第1の排気管19のタービン接続部32に接続する。コールドシリンダバイパス管35の流量は、コールドシリンダバイパス制御弁36によって制御される。コールドシリンダバイパス制御弁36は、コントローラ60によって電子的に制御される。コールドシリンダバイパス35を開けること、又はコールドシリンダバイパス制御弁36の絞りを緩くすることは、バルク圧縮温度を上げるという効果を有する。
【0055】
コールド掃気バイパス管37は、掃気が、掃気管2から周囲環境26へと逃げることを可能にする。コールド掃気バイパス管37の流量は、コールド掃気バイパス制御弁38によって制御される。コールド掃気バイパス制御弁38は、コントローラ60によって電子的に制御される。コールド掃気バイパス制御弁39を開けること、又はコールド掃気バイパス制御弁38の絞りを緩くすることは、掃気圧を下げるという効果を有し、空燃比を下げるという効果を有する。一方、コールド掃気バイパス制御弁39を閉めること、又はコールド掃気バイパス制御弁38の絞りをきつくすることは、掃気圧を上げるという効果を有し、空燃比を上げるという効果を有する。コールド掃気バイパス管37は、掃気受け2から分岐する必要はなく、インタークーラー14の下流であれば掃気管13のどの位置から分岐してもよい。
【0056】
排気受け3と掃気受け2との間を排気再循環管42が接続している。排気再循環管42は、排気再循環制御弁45と、再循環排気ガスクーラー44と、再循環排気ガスブロワ43とを有する。再循環排気ガスブロワ43及び排気再循環制御弁45はいずれも、コントローラ60の電子制御の下で、排気再循環管42の流量を調節するために用いられる。通常運転条件の下では、再循環排気ガスブロワ43がアクティブになっていない限り、排気再循環管42には排気は流れない。しかし、排気受け3内の圧力は通常、掃気受け2内の圧力より低いからである。このため、再循環排気ガスブロワ43がアクティブでない場合、排気再循環制御弁45は閉じられていなければならない。排気再循環管42は、排気受け3に直接接続していなくともよく、第1の排気管19のどこかの位置に接続していてもよい。また排気再循環管42は、掃気受け2に直接接続していなくともよく、インタークーラー14の下流であれば、掃気管13のどこかの位置に接続していてもよい。
【0057】
排気再循環管42において、再循環排気ガスブロワ43をアクティブにするか、再循環排気ガスブロワ43の回転数を上げることは、空燃比を下げ、またバルク圧縮温度を少し低下させる。一方、排気再循環管42において、再循環排気ガスブロワ43を非アクティブにするか、再循環排気ガスブロワ43の回転数を下げることは、空燃比を上げ、またバルク圧縮温度を少し上昇させる。
【0058】
排気受け3又は第1の排気管19からは、排気バイパス管39が分岐しており、所与の背圧で周囲環境27に接続している。排気バイパス制御弁49は、コントローラ60の電子制御の下で、排気バイパス管39の流量を調節するために用いられる。
【0059】
排気バイパス制御弁49を開けること、又は排気バイパス制御弁49の絞りを緩くすることは、シリンダ内の空燃比を下げる。一方、排気バイパス制御弁49を閉めること、又は排気バイパス制御弁49の絞りをきつくすることは、シリンダ内の空燃比を上げる。
【0060】
選択触媒還元(SCR)リアクタ及びリアクタバイパス弁を備える機関においては、排気受け3からターボ過給機5のタービン6への流量のうちSCRリアクタを通過する流量が、コントローラ60の電子制御の下で調節される。
【0061】
図5において、コントローラ60により制御される上述の全ての要素のコントローラ60への接続は、破線を用いて表現されている。
【0062】
図6は、空燃比オブザーバ46及びバルク圧縮温度オブザーバオブザーバを説明するための図である。
【0063】
空燃比オブザーバ46は、コンピュータにより実装されるアルゴリズムであり、掃気圧力、排気弁閉弁タイミング、シリンダの幾何学的形状、理論空燃比、噴射されたガスの量、についての情報を用いる。圧縮空燃比オブザーバ46は、コントローラ60の一部として実装されてもよく、コントローラ60とは異なるコンピュータやコントローラとして実装されてもよい。圧縮空燃比オブザーバ46は、(完全に)圧縮された混合気(すなわちピストン10がTDCにあるときの混合気)についての圧縮空燃比の推定値を出力として提供し、これをコントローラ60に送る。この推定値は、排気弁4が着座している時に燃焼室に捕えられた外気の質量を、噴射されたガスの全質量を完全燃焼させるために必要な空気の質量で割った比に基づく値である。
【0064】
バルク圧縮温度オブザーバ47もコンピュータにより実装されるアルゴリズムであり、掃気圧力、掃気温度、排気弁閉弁タイミング、クランク軸速度、についての情報を用いる。バルク圧縮温度オブザーバ47も、コントローラ60の一部として実装されてもよく、コントローラ60とは異なるコンピュータやコントローラとして実装されてもよい。バルク圧縮温度オブザーバ47は、ガス噴射開始からパイロット噴射時までの時間ウィンドウにおける燃焼室の最大バルク圧縮温度の推定値であるTcomp(Tc)を、出力として提供する。バルク圧縮温度オブザーバ47は、この推定値をコントローラ60に提供する。実施例によっては、Tcompは、ピストン10がTDCにあるときの推定値をいう。
【0065】
図7は、バルク圧縮温度(Tcomp)と空燃比(λ)をグラフ化したものである。空燃比下閾値、空燃比上閾値、バルク圧縮温度下閾値、バルク圧縮温度上閾値で定められる境界内のゾーンは、安定状態デフォルトゾーン51である。この安定状態デフォルトゾーン51において、コントローラ60は、各シリンダに個別に、現在の機関負荷にとって必要な量の燃料を提供し、バルク圧縮温度を変えるための方策はとらない。またコントローラ60は、各シリンダの空燃比を、既知の望ましくない燃焼状態からのマージンとの形をとった安全距離を有する機関動作条件の関数である、或るレベルに個別に制御する。この既知の望ましくない燃焼状態とは、動作条件依存の既知の危機的レベルを空燃比が超えた時に部分ミスファイアやミスファイアのようなイベントやプレイグニッションが生じる可能性が高い状態である。第1のマージンのレベルは、0より大きな第1の値を有する。
【0066】
シリンダライナ1内の燃焼状態が変化し、安定状態デフォルトゾーン51から離れてアクションゾーン52に入ると、コントローラ60は、そのような事態が生じることを防ぐための方策を取る。
【0067】
この目的のため、コントローラ60は、各シリンダに対して個別に次の事項を遂行するように構成される。
・ 決定又は測定した平均圧縮空燃比が、圧縮空燃比下閾値を下回る場合、圧縮空燃比を上げるための少なくとも1つの方策(Compression Air-fuel Ratio Increasing Measure;CAFRIM)を実行する。
・ 決定又は測定した平均圧縮空燃比が、圧縮空燃比上閾値を上回る場合、圧縮空燃比を下げるための少なくとも1つの方策(Compression Air-fuel Ratio Decreasing Measure;CAFRDM)を実行する。
・ 決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための少なくとも1つの方策(Bulk Compression Temperature Increasing Measure;BCTIM)を実行する。
・ 決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための少なくとも1つの方策(Bulk Compression Temperature Decreasing Measure;BCTDM)を実行する。
【0068】
これらの方策を取ることにより、コントローラ60は、各シリンダライナ1内の状態を通常ゾーン51の中に保つようにする。シリンダライナ1内の状態が通常ゾーン51の外に出てアクションゾーン52に入ってしまうことは、一時的に過ぎないようにする。アクションゾーン52は、危険ゾーン53に囲まれている。危険ゾーン53は、プレイグニッションやミスファイアといったイベントが生じる可能性が非常に高いゾーンである。
【0069】
ゾーン51、52、53の境界は、バルク圧縮温度や圧縮空燃比の上の閾値や下の閾値によって定められる。これらの閾値は個々のエンジンに対して経験的・実験的に定めることができ、例えばトライ&エラーや、エンジンサイクルのコンピュータシミュレーションによって、定めることができる。
【0070】
バルク圧縮温度及び圧縮空燃比の両方が安定状態デフォルトゾーン51を逸脱していると、オブザーバ46,47が示している場合、コントローラ60は、シリンダライナ1内の状態を安定状態デフォルトゾーン51内に戻すべく、各シリンダについて個別に、バルク圧縮温度を安定状態デフォルトゾーン51に戻す方策及び圧縮空燃比を安定状態デフォルトゾーン51に戻す方策の両方を遂行する。
【0071】
排気バイパス制御弁49を調節して(排気バイパス制御弁49を開位置へと移動して)、排気バイパス(Exhaust Gas Bypass;EGB)管39を開けること(過給機タービンの入口からタービン出口又は外環境への流れを増やすこと)は、掃気圧の低下をもたらし、従って燃焼室に捕えられる空気質量を減少させる。このため、この方策は、圧縮空燃比を下げる方策として適切である。この方策は、バルク圧縮温度には軽微な影響しか及ぼさない。エンジンが複数のターボ過給機を有する場合でも、EGBを排気受けに接続することで、1つのEGBだけで足りる場合がある。ただし、排気受けへの複数の流れが適切に混合する場所を選んで接続する必要がある。
【0072】
ホットシリンダバイパス制御弁31を開けること(過給機コンプレッサ出口から過給機タービン入口への流れを増やすこと)は、燃焼室内の圧縮空燃比及びバルク圧縮温度の上昇をもたらす。
【0073】
掃気バイパス制御弁38を開けることは、掃気受け2からコンプレッサ入口または外環境への流れを生成する。これは、排気バイパスと質的に同様の効果を、圧縮空燃比にもたらす。しかし掃気プロセスには、(従って燃焼室のバルク圧縮温度には、)異なる影響を及ぼす。掃気バイパス制御弁38を開けることが燃焼室の状態に与える影響は、排気バイパスに比べて迅速に現れる。
【0074】
コールドシリンダバイパス36を開けることは、排気受けから過給機タービン入口への流れを増加させる。これは、バルク圧縮温度の上昇をもたらす。しかし、圧縮空燃比にはほとんど影響がない。
【0075】
排気弁閉弁タイミングは、燃焼室内の圧縮と掃気圧の比を決定する。このタイミングを変化させることは、燃焼室内の圧縮空燃比及びバルク圧縮温度の両方に大きな影響を及ぼす。
【0076】
排気弁開弁タイミングは、燃焼室内の掃気プロセスの初期段階に影響を及ぼす。このタイミングを変化させることは、エンジン効率と掃気プロセスに影響を与える。掃気プロセスが変化すると、結果としてバルク温度も変化する。排気弁4が非常に早く開くと、ピストン10が掃気ポート18を開いたときに、掃気受け2への流れは生じない。排気弁4が非常に遅く開くと、ピストン10が掃気ポート18を開いたとき、掃気受け2への大きな流れが生じる。これらの方策は掃気プロセスを変化させ、燃焼によって生じた'汚れた・熱い'ガスが次の燃焼ストロークに混入する割合を変化させる。
【0077】
つまり、排気弁4を遅く開けることによって、前の燃焼から混入する'汚れた・熱い'ガスを増やし、圧縮空燃比を低下させてバルク圧縮温度を上昇させる。排気弁4を非常に遅く閉じると、前の燃焼から混入する'汚れた・熱いガスが減って、圧縮空燃比が増加してバルク圧縮温度は低下する。排気弁4を早く閉じて圧縮を増やすと、排気弁4から流出するガスの量が減り、多くのガスが燃焼室に留まる。これは、空燃比を上げる。圧縮を増やすことは、燃焼室内でピストン10によってガスになされる圧縮仕事量が増加する。このことは、燃焼室内のガスの温度を上昇させる。
【0078】
排気再循環の流量を増やすことは、排気受け3から過給機コンプレッサ出口(又は掃気受け)への排気の流量を増やす。排気再循環の流量は、排気再循環ブロワ43をアクティブにするか、排気再循環ブロワ43の回転速度を上げることによって、増やすことができる。排気再循環の流量が増えると、圧縮空燃比は下がる。
【0079】
補助ブロワ16の速度を上げると、圧縮空燃比が少し上昇する。
【0080】
ウォーター インジェクションを備える機関である場合、圧縮行程中に燃焼室に水を噴射することは、バルク圧縮温度を低下させる。
【0081】
掃気クーラーバイパス(図示されていない):インタークーラー14をバイパスさせることは、燃焼室のバルク圧縮温度を大きく上昇させる。一方、圧縮空燃比には小さな影響しか与えない。
【0082】
可変ジオメトリタービン6を備えるエンジンにおいて、タービン流路面積(turbine flow area)を減少させることは、掃気圧力の上昇をもたらし、そのため燃焼室で捕えられる空気質量を減少させる。このためこの方策は、圧縮空燃比を下げる方策として適切である。この方策は、バルク圧縮温度には軽微な影響しか及ぼさない。
【0083】
ターボ過給機アシストを備えるエンジンの場合、アシストを強くしてターボ過給機5の速度を上げることは、圧縮空燃比の上昇をもたらす。この方策は、圧縮温度には軽微な影響しか及ぼさない。
【0084】
ガス燃料と液体燃料(例えばディーゼル油や船舶用ディーゼル油)の比を変えることも、方策の一つとなる。噴射される全燃料エネルギー中のガス燃料の割合を少なくすると、圧縮中の圧縮空燃比が上昇する。これに対応して液体燃料の割合が増えると、クランク軸トルクの維持が確保される。
【0085】
排気受け内に熱交換器が搭載されるエンジンの場合(又は排気ガスの一部を受け取る熱交換器を有するエンジンの場合)、熱交換器を通る排気ガスの量を増やすこと、すなわち排気ガスから多くの熱を抽出することは、掃気圧の低下をもたらし、従って、燃焼室に捕えられる空気量が減少する。このためこの方策は、圧縮空燃比を下げる方策として適切である。この方策は、バルク圧縮温度には軽微な影響しか及ぼさない。熱交換器は蒸気の生成に使用されうる。
【0086】
ホット掃気バイパスを備えるエンジンの場合、ホット掃気バイパス制御弁を開けることは、コンプレッサ出口から外環境またはコンプレッサ入口への流れを生成又は増加させる。これは、掃気圧力を大きく低下させる。従って、燃焼室に捕えられる空気量が減少する。このためこの方策は、圧縮空燃比を下げる方策として適切である。
【0087】
ある実施例において、圧縮空燃比下閾値、圧縮空燃比上閾値、バルク圧縮温度下閾値、バルク圧縮温度上閾値は、いずれもエンジン動作条件に依存するパラメータである。エンジン動作条件は、エンジン負荷、周囲温度、周囲湿度、エンジン速度等のパラメータによって決定される。これらの動作条件パラメータは、例えばルックアップテーブルやアルゴリズム、これらの組み合わせ等を通じてコントローラ60が利用可能である。
【0088】
実施例によっては、コントローラ60は次のよう構成される。
・ 決定又は測定した平均圧縮空燃比が、圧縮空燃比下閾値より低い最低圧縮空燃比閾値を下回る場合、圧縮空燃比を上げるための更なる方策を実行する。この更なる方策は、例えば上述の方策から選択されたものであってもよい。
・ 決定又は測定した平均圧縮空燃比が、圧縮空燃比上閾値より高い圧縮空燃比上側最大閾値より高い最大圧縮空燃比閾値を上回る場合、圧縮空燃比を下げるための更なる方策を実行する。
・ 決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値より低い最低バルク圧縮温度閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための更なる方策を実行する。
・ 決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値より高い最大バルク圧縮温度閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための更なる方策を実行する。
【0089】
これら更なる方策が取られるのは、燃焼室の状態がアクションゾーン52から、アクションゾーンを囲む危険ゾーンに移動したときである。コントローラ60は、燃焼室の状態をアクションゾーン52に戻し、更に安定状態デフォルトゾーン51に戻すために、できるだけ多くの必要なアクションを取るように構成される。
【0090】
コントローラ60は、エンジンの動作状態を安定状態デフォルトゾーン51に戻すためのアクションを取ることは、(すなわち上述の方策を取ることは、)最小限にするように構成される。従ってコントローラ60は、燃焼室の状態が通常運転ゾーンに戻ったときには、上述の全て方策を停止するように構成される。
【0091】
図8は、コントローラ60の上述の構成に従ってエンジンを動作させる処理を説明するためのフローチャートである。
【0092】
処理が開始すると、コントローラは、圧縮空燃比が下閾値より低いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合は、コントローラは、機関が安定状態で動作しているかどうかの調査に移行する。調査の結果がYesである場合は、コントローラは、空燃比最適化プロセスの実行に移行する。このプロセスは、図9を参照して詳細に説明される。調査の結果がNoである場合、コントローラ60は、圧縮空燃比が上閾値を超えているかどうかを調査する。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、圧縮空燃比を上昇させる上述の方策のうちの一つを実行する。次にコントローラ60は、圧縮空燃比が最低閾値より低いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラは、圧縮空燃比が上閾値を超えているかどうかの調査に移行する。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、圧縮空燃比を上昇させる上述の方策から更に一つを実行し、圧縮空燃比が上閾値を超えているかどうかの調査ステップに移行する。
【0093】
コントローラ60は、圧縮空燃比が上側閾値より高いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラは、バルク圧縮温度下閾値を逸脱していないかどうかの調査に移行する。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、圧縮空燃比を低下させる上述のうちの一つを実行する。コントローラ60は、圧縮空燃比が最大閾値より高いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラは、バルク圧縮温度下閾値を逸脱していないかどうかの調査に移行する。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、圧縮空燃比を低下させる上述の方策から更に一つを実行し、バルク圧縮温度が下閾値より低いかどうかの調査ステップに移行する。
【0094】
コントローラ60は、バルク圧縮温度が下閾値より低いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度が上閾値より高いかどうかを調査する、次のステップに移行する。そして調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度を上昇させる方策を実行する。次にコントローラ60は、バルク圧縮温度が最小閾値より低いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度が上閾値より高いかどうかを調査するステップに移行する。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度を上昇させる上述の方策から更に一つを実行し、次いで、バルク圧縮温度閾値を超えていないかを調査する次のステップに移行する。
【0095】
コントローラ60は、バルク圧縮温度閾値を超えていないかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラ60は、圧縮空燃比が下閾値より低いかどうかを調査するステップに戻る。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度を低下させる上述の方策のうちの1つを実行する。次にコントローラ60は、バルク圧縮温度が最大閾値より高いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラ60は、圧縮空燃比が下閾値より低いかどうかを調査するステップに戻る。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度を低下させる上述の方策のうちの1つを実行し、その後、圧縮空燃比が下閾値より低いかどうかを調査するステップに移行する。
【0096】
実施例によっては、コントローラ60には、圧縮空燃比を上昇または低下させるために利用可能な方策のうち、現在のエンジンの運転条件においてどれが最適な方策であるかを決定するためのアルゴリズムやルックアップテーブル等の情報が提供される。
【0097】
図9は、単一のシリンダについての空燃比最適化を図示している。機関の複数のシリンダのそれぞれについて、空燃比最適化ユニットが個別に設けられる。実施例によっては、空燃比最適化ユニットや関連するユニットは、コントローラ60に統合される。実施例によっては、これらのユニットは、コントローラ60に関連付けられた(図示されない)コントローラの一部である。
【0098】
単一のシリンダについての(すなわちそれぞれのシリンダについての)空燃比最適化ユニットの出力は、個別に、シリンダ固有の空燃比最適化ユニットからの信号を受け取るシリンダコントロールユニット(Cylinder Control Unit,CCU)を有する。
【0099】
空燃比の安定状態デフォルトモード値が加算ポイントに送られ、当該加算ポイントの結果が、関連するシリンダのためのシリンダコントロールユニットに送られる。空燃比最適化ユニット(λ最適化ユニット)からの出力も、上記加算ポイントに送られる。
【0100】
空燃比最適化ユニットは、少なくとも、機関負荷を表す信号と、速度誤差(所望の機関速度(RPM)と実際の機関速度(RPM)の差)を表す信号と、FRC(燃焼プロセスを安定化するために使用される、TDC又はその付近における液体燃料(例えばディーゼル油や船舶用ディーゼル燃料)の高圧噴射圧力が、アクティブであることを示す信号)を受け取る。
【0101】
更に、シリンダ圧力変動推定モジュールが、推定対象のシリンダについてのシリンダ圧力測定値を受け取る。シリンダ圧力変動推定モジュールは、ミスファイアイベントや部分ミスファイアイベント、プレイグニッションのような、予想される燃焼イベントが生じたかどうかを決定する。(プレイグニッションは、変動から決定されるのではなく逸脱から決定される。)シリンダ圧力変動推定モジュールは、実際の(即ち測定された)シリンダ圧力の変化と、シリンダ圧力の期待される生のイベントとの間の逸脱を決定し、推定からの変化及び/又は逸脱に基づいて、予想されない燃焼イベントの発生を決定する。
【0102】
最適化ユニットは、初期レベルp1から最小値p2(p2は0以上の値を有する)へ向かってマージンの値を小さくデクリメントして積分する。(徐々に小さくする)。値p2に到達すると、イベントが変化を強いるまでその状態が維持される。初期レベルp1から最小レベルp2へのマージンの値の積分処理は比較的ゆっくりであり、典型的には少なくとも数分を要し、場合によっては10分から15分かかる。
【0103】
コントローラ60が、機関が安定状態条件で動作していると決定すると、コントローラ60は直ちに、又は既定の遅延をもって(すなわち既定の時間後に)、最初にセットした初期値からマージンを減少させる処理を開始する。
【0104】
前述のように、このマージンは、望まれない燃焼イベントが生じる可能性の高いゾーンにあると判っている実際の動作条件についての空燃比のレベルからのマージンである。このマージンは、安全マージンであると考えることができる。
【0105】
機関が安定状態動作にある限り、またコントローラ60がそのことを確認している限り、最適化ユニットは、最小レベルp2に向かって小さな増分でマージンの値を時間的に積分する。
【0106】
しかし、負荷信号が、負荷が負荷閾値を下回っていることを示したり、速度誤差が速度誤差閾値を上回っていることを示す場合、プロセッサ60は、機関がもはや安定状態で動作してはいないと結論し、最適化プロセルをキャンセルする。マージンの値はレベルp1にセットされる。
【0107】
また、シリンダ圧力推定ユニットが、ミスファイアイベントや部分ミスファイアイベント、プレイグニッションのような望まれない燃焼イベントを検出した場合、空燃比最適化プロセスは反転され、空燃比最適化ユニットは、マージンの値を小さな増分で初期レベルp1に向かって積分する。これは、ミスファイアイベントが検出されなくなるか、初期値p1に到達するかするまで続けられる。
【0108】
実施例によっては、マージンの値を最後に増加させてから既定の長さの時間が経過した時に、及びマージンが第2の値に等しくない時に、コントローラ60は、各燃焼室について個別に、実際の値から小さなデクリメントでマージンを徐々に減少させていくことを再開する。この既定の長さの時間は既定の期間である。この既定の期間は秒の長さであることがあり、また分の長さであることがある。
【0109】
実施例によっては、コントローラ60は、排気弁閉弁タイミングを進めることにより(好ましくは小さなステップで進めることにより)マージンをデクリメントして小さくするように構成される。
【0110】
実施例によっては、コントローラ60は、排気弁閉弁タイミングを遅くすることにより(好ましくは小さなステップで遅くすることにより)マージンをインクリメントして大きくように構成される。
【0111】
実施例によっては、コントローラ60は、排気バイパス制御弁49を閉じる又は絞りをきつくすることで、マージンをデクリメントして小さくするように構成される。
【0112】
実施例によっては、コントローラ60は、排気バイパス制御弁49を開く又は絞りを緩くすることで、マージンをインクリメントして大きくするように構成される。
【0113】
実施例によっては、コントローラ60は、排気再循環ブロワ43をアクティブにする又は速度を上げることで、マージンをインクリメントして大きくするように構成される。
【0114】
実施例によっては、コントローラ60は、排気再循環ブロワ43を非アクティブにする又は速度を下げることで、マージンをデクリメントして小さくするように構成される。
【0115】
実施例によっては、コントローラ60は、動作条件が必要とする際に、(例えば不安定な燃焼やミスファイアの連続を防ぐために必要な場合に、)液体燃料噴射(FRC)をアクティブにするように構成される。また、液体燃料噴射がアクティブにされたときに、マージンを初期値p1にリセットするように構成される。液体燃料は、例えばディーゼル油や船舶用ディーゼル燃料など、圧縮着火のために良好で信頼性のある燃焼特性を有する如何なる液体燃料であってもよい。
【0116】
多くの側面及び実装形態が、いくつかの実施例と共に説明されてきた。しかし、本願の明細書や図面、特許請求の範囲を検討すれば、当業者は、特許請求の範囲に記載される発明を実施するにおいて、説明された実施例に加えて多くのバリエーションが存在することを理解し、また具現化することができるであろう。特許請求の範囲に記載される「備える」「有する」「含む」との語句は、記載されていない要素やステップが存在することを排除しない。特許請求の範囲において記載される要素の数が複数であると明示されていなくとも、当該要素が複数存在することを除外しない。特許請求の範囲に記載されるいくつかの要素の機能は、単一のプロセッサやコントローラ、その他のユニットによって遂行されてもよい。いくつかの事項が別々の従属請求項に記載されていても、これらを組み合わせて実施することを排除するものではなく、組み合わせて実施して利益を得ることができる。
【0117】
特許請求の範囲で使用されている符号は発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9