(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】製箔用電着ドラムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/00 20060101AFI20230221BHJP
C25D 1/04 20060101ALI20230221BHJP
C23C 24/08 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C25D1/00 Z
C25D1/04
C23C24/08 B
(21)【出願番号】P 2018230116
(22)【出願日】2018-12-07
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】594014340
【氏名又は名称】日進化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 清
(72)【発明者】
【氏名】加藤 桂太郎
(72)【発明者】
【氏名】大坂 高志
(72)【発明者】
【氏名】松原 幸夫
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-272993(JP,A)
【文献】特公昭61-60149(JP,B2)
【文献】特公平02-055510(JP,B2)
【文献】特開平10-330982(JP,A)
【文献】特開2003-049292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00
C25D 1/04
C23C 24/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナードラムの外周面にアウタースキンが配置される、製箔用電着ドラムの製造方法であって、
前記アウタースキンの内周面に、アウタースキンの材料よりも電気伝導率の高い粒子を含む導電性ペーストを塗布する、塗布工程を有することを特徴とする製箔用電着ドラムの製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程において、前記インナードラムの外周面に前記導電性ペーストを塗布することを特徴とする請求項
1に記載の製箔用電着ドラムの製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程の後に、前記導電性ペーストを常温放置又は加熱して、複数の空孔を有するスポンジ状の導電層を形成する、導電層形成工程を有することを特徴とする請求項
1又は
2に記載の製箔用電着ドラムの製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程の後に、前記アウタースキンを加熱して膨張させ、前記インナードラムを嵌め入れる焼嵌め工程を有し、
前記焼嵌め工程における加熱により、前記アウタースキンの内周面に塗布した導電性ペーストを加熱し、複数の空孔を有するスポンジ状の導電層を形成することを特徴とする請求項
1又は
2に記載の製箔用電着ドラムの製造方法。
【請求項5】
前記粒子が、金、銀、白金、銅、スズ、カーボンの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項
1から
4のいずれか1項に記載の製箔用電着ドラムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着法による金属箔製造に用いられる、電着ドラム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅箔,鉄箔,ニッケル箔,ステンレス箔等の金属箔製造に用いられる電着ドラムは、一般に軟炭素鋼等を材料とするインナードラムの外周面に、チタン等を材料とするアウタースキンを焼嵌めて形成される。
図1、2はインナードラム2の外周面に、アウタースキン1が配置される、一般的な製箔用電着ドラムの構造を示す図である。円筒状のインナードラム2の外周面に、加熱膨張したリング状のアウタースキン1をはめ込む焼嵌めにより、製箔用電着ドラムが製造される。
【0003】
図2に示す製箔用電着ドラムは、軸3を回転可能に支えられ製箔用電着ドラムの下側が、電解槽に満たされためっき液中に浸される。製箔用電着ドラムを陰極として陽極との間で通電し、アウタースキン1の表面に電析物である金属箔を析出させた後、これを剥離して金属箔が生産される。金属箔が析出するアウタースキン1は、インナードラム2を介して通電されるため、インナードラム2とアウタースキン1との密着性を高め、均一な通電性を確保することが重要である。通電が不均一な状態で金属箔を製造すると、電析物である金属箔の厚みの不均一や異常析出が生じやすい。
【0004】
しかし、アウタースキン1とインナードラム2を焼嵌めする際に、アウタースキン1は高温に加熱されるため、アウタースキン1の表面に酸化被膜を生じることがある。アウタースキン1の内周面に酸化被膜を生じると、インナードラム2と接合した後も酸化被膜が残り、電気抵抗の増加と通電性を不均一にする要因となる。
【0005】
また、アウタースキン1は製法により、大きく「鍛造リング(鍛造法によりアウタースキンを作成する)」「板巻きスキン(板材で輪を作り溶接する)」に分けられる。鍛造リングの場合は、最終的な研磨時にアウタースキン1の内周面にバイト傷による凹凸が生じる。また、板巻きスキンの場合は、圧延素材(板材)の板厚公差や表面平滑度の不均一により内周面に凹凸が残る。これらの凹凸により、焼嵌めしたアウタースキン1とインナードラム2の境界には、
図7に示すような間隙5が生じ、アウタースキン1とインナードラム2の通電状態が不均一になる。
【0006】
境界に生じる間隙5を埋めて通電状態を均一にするために、特許文献1にはインナードラムの外周面に、ビスマス合金のめっき層を設けることが提案されている。しかし、ビスマス合金めっき層を形成するには、めっき設備が必要となり製造工程も増え実施するのは困難である。
【0007】
また、特許文献2には、インナードラムの外周面に軟質な銅線を巻き回し、その上にアウタースキンを焼嵌めることで接触状況を均一にする方法が提案されている。しかし、この方法では電流は銅線との接触部を流れることになり、局部的な通電になってしまうおそれがある。また、銅線を捻じれや撓みなく均一に巻き回す必要がある等、均一な通電性を確保することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-330982号公報
【文献】特開平4-116190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、インナードラムとアウタースキンとの密着性が高く、良好で均一な通電性を確保できる製箔用電着ドラム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の製箔用電解ドラムは、アウタースキンとインナードラムの間に、導電性ペーストから形成されたアウタースキンの材料よりも電気伝導性の高い粒子を含む導電層を有することを特徴とする。
【0011】
また、前記粒子が、金、銀、白金、銅、スズ、カーボンの少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の製箔用ドラムの製造方法は、インナードラムの外周面にアウタースキンが配置される、製箔用電着ドラムの製造方法であって、前記アウタースキンの内周面に、アウタースキンの材料よりも電気伝導率の高い粒子を含む導電性ペーストを塗布する、塗布工程を有することを特徴とする。
【0013】
また、前記塗布工程において、前記インナードラムの外周面に前記導電性ペーストを塗布することを特徴とする。
【0014】
そして、前記塗布工程の後に、前記導電性ペーストを常温放置又は加熱して、複数の空孔を有するスポンジ状の導電層を形成する、導電層形成工程を有することを特徴とする。
【0015】
また、前記塗布工程の後に、前記アウタースキンを加熱して膨張させ、前記インナードラムを嵌め入れる焼嵌め工程を有し、前記焼嵌め工程における加熱により、前記アウタースキンの内周面に塗布した導電性ペーストを加熱し、複数の空孔を有するスポンジ状の導電層を形成することを特徴とする。
【0016】
また、前記粒子が、金、銀、白金、銅、スズ、カーボンの少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インナードラムとアウタースキンとの密着性が高く、良好で均一な通電性を確保できる製箔用電着ドラム及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】アウタースキンとインナードラムを模式的に示す図である。
【
図2】焼嵌めした製箔用電着ドラムを模式的に示す図である。
【
図3】スポンジ状の皮膜が形成されたアウタースキンとインナードラムの断面を模式的に示す図である。
【
図4】焼嵌め後のアウタースキンとインナードラムの断面を模式的に示す図である。
【
図5】スポンジ状の導電層の断面SEM写真である。
【
図7】従来のアウタースキンとインナードラムの断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の製箔用電着ドラムは、
図1、2に示すように円筒状のインナードラム2の外周面に、リング状のアウタースキン1を焼嵌めした構造を有する。アウタースキン1の材料にはチタン、インナードラム2の材料には軟炭素鋼を用いることができるが、アウタースキン1とインナードラム2の材料は、適宜選択することが可能であり、チタンと軟炭素鋼に限定されるものではない。また、アウタースキン1及びインナードラム2には、めっき皮膜等が形成されていてもよい。
【0021】
そして、本発明の製箔用電着ドラムは、
図4に示すようにアウタースキン1とインナードラム2の間に、アウタースキン1の材料よりも電気伝導性の優れた粒子を含有する導電層4を有する。導電層4はアウタースキン1の材料よりも電気伝導率の高い粒子を含む導電性ペーストにより、アウタースキン1及びインナードラム2の少なくとも一方に形成されたスポンジ状の皮膜であり、焼嵌めにより圧縮されている。導電層4は焼嵌めで圧縮される際に、アウタースキン1の凹凸等に応じて変形し、アウタースキン1とインナードラム2の間に生じる隙間を埋める。
図7に示すような隙間5は、導電層4により埋められており、良好で均一な通電性を確保できる。
【0022】
本発明の製箔用電着ドラムの製造方法を説明する。まず、アウタースキン1とインナードラム2を準備し、アウタースキン1の内周面とインナードラム2の外周面に、導電性ペーストを塗布する。導電性ペーストは導電性粒子と、バインダーである樹脂、有機溶剤を含む公知の材料である。本発明では電気抵抗を小さくするために、導電性ペーストに含有される導電性粒子には、アウタースキン1の材料よりも電気伝導率の高い粒子を選択する。導電性粒子には、金、銀、白金、銅、スズ、カーボン等の粒子を単独、又は組み合わせて用いることができる。導電性粒子はフレーク状、球形、樹状等の形状のものが使用でき、好ましくはフレーク状のものが良い。また、導電性粒子の平均粒子径は、サブミクロンから100ミクロン程度のものを使用することができる。導電性ペーストの乾燥温度は常温から600℃程度のものを用いることができる。
【0023】
アウタースキン1の内周面とインナードラム2の外周面に導電性ペーストを塗布した後、常温放置又は加熱により導電性ペーストを乾燥し導電層4を形成する。導電性ペーストを常温放置又は加熱により乾燥させることにより、導電性ペースト中に含まれる有機溶剤は気化し微細な空孔が生じる。このため、乾燥後の導電層4は複数の空孔を有し、クッション性のあるスポンジ状の皮膜となる。
図3は焼嵌め前の、導電層4を形成したインナードラム2とアウタースキン1の断面を模式的に示す図である。形成する導電層4の膜厚は、1μm以上1000μm以下とすることが望ましい。膜厚が1μm未満だと、焼嵌めしたときのアウタースキン1とインナードラム2の隙間を埋められる割合が少なくなる。また、膜厚が1000μmを超えると、導電性ペーストの消費量が多くなり経済的に好ましくない。
【0024】
次に、導電層4が形成されたインナードラム2とアウタースキン1が対向するように、焼嵌め等の方法により圧接する。スポンジ状の導電層4は、アウタースキン1の凹凸に応じて変形し、
図4に示すようにアウタースキン1の内周面とインナードラム2の外周面の間は、導電層4により隙間なく埋められる。
図7に示したような隙間5は残らないので、インナードラム2とアウタースキン1の密着性が高く、良好で均一な通電性を有する製箔用電着ドラムを製造することができる。
【0025】
なお、上述した製造方法では、スポンジ状の導電層4をアウタースキン1の内周面とインナードラム2の外周面の両方に形成する場合について説明したが、スポンジ状の導電層4はアウタースキン1の内周面のみに設ける製造方法としてもよい。この場合、焼嵌め工程でアウタースキン1を加熱する際に、アウタースキン1の内周面に塗布した導電性ペーストを乾燥させることができる。焼嵌め工程の熱処理でアウタースキン1の内周面に複数の空孔を有するスポンジ状の導電層4が形成されるため、新たにアウタースキン1の内周面に塗布した導電性ペーストを乾燥させる熱処理工程を設ける必要はなく、工程を簡略化できる。
【0026】
また、アウタースキン1の内周面に導電性ペーストを塗布することにより、焼嵌め工程でアウタースキン1が加熱されても、アウタースキン1の内周面は導電性ペーストの塗布膜に覆われているので、表面の酸化を抑制することもできる。
【0027】
[通電性の評価]
アウタースキン1とインナードラム2の間に導電層4を設ける効果を確認するため、アウタースキン1とインナードラム2を想定したチタン板と鉄板を圧接した試料を用い、導電層4の有無による通電性の評価を行った。
【0028】
厚さ10mm、縦100mm、横100mmのチタン板10と鉄板11を複数枚準備し、一部のチタン板10と鉄板11にスポンジ状の導電層4を形成した。導電層4の形成は板の表面をエタノールの含侵した布で拭き清浄面とした後、銀粉末を含有する導電性ペーストを刷毛で塗布し、これを電気炉で350℃、10分間の熱処理で乾燥させることにより行い、チタン板10と鉄板11の表面に、銀を含む平均厚さ約20μmのクッション性のあるスポンジ状の導電層4を形成した。チタン板10に形成した導電層4のSEM観察を行った結果を
図5に示す。SEM観察の結果から、導電層4には銀粒子の間に微細な空孔が多数存在し、スポンジ状になっていることを確認した。
【0029】
アウタースキン1とインナードラム2の焼嵌めを想定し、チタン板10と鉄板11をボルト12とナット13で、締め付けトルク10N・mで締め付け圧接した。そして、
図6に示すように、1mol/L硫酸14中で、陽極に酸化イリジウム電極15、陰極にチタン板16を設置し、回路内にチタン板10と鉄板11を圧接した試料を挟み、電流値3A、6A、9Aで電解したときの浴電圧Vを測定した。
【0030】
表1に示すように、スポンジ状の導電層4ありのチタン板とスポンジ状の導電層4なしの鉄板の組み合わせを実施例1、チタン板と鉄板の両方に導電層4ありの組み合わせを実施例2、導電層4なしのチタン板と導電層4ありの鉄板の組み合わせを実施例3とした。また、チタン板と鉄板のどちらにも、スポンジ状の導電層4を形成しない組み合わせを比較例1とした。そして、各組み合せについて電流値を3A、6A、9Aとしたときの、浴電圧Vを測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【0032】
表1の結果から、スポンジ状の導電層4を設けた実施例1~3では、比較例1に比べて浴電圧が低くなっている。これはチタン板と鉄板の接合面の相違を示しており、スポンジ状の導電層4を形成することにより、通電性が改善されることがわかる。また、チタン板のみにスポンジ状の導電層4を設けた実施例1でも、比較例1に対して通電性の改善は認められる。このことから、アウタースキン1のみにスポンジ状の導電層4を設けても通電性が改善できることがわかる。
【0033】
本発明では、導電性ペーストの塗布によりスポンジ状の導電層4を形成するので、めっき層を形成する場合のような設備を必要としない。また、アウタースキン1の内周面に塗布した導電性ペーストは、焼嵌め工程の加熱により乾燥させスポンジ状の導電層4とすることができるので、製箔用電着ドラムの製造工程を大きく変更することなく実施が可能である。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 アウタースキン
2 インナードラム
3 軸
4 導電層
5 隙間