(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】リグニン画分を形成する方法及び装置、リグニン組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08H 7/00 20110101AFI20230221BHJP
【FI】
C08H7/00
(21)【出願番号】P 2017560173
(86)(22)【出願日】2016-05-26
(86)【国際出願番号】 FI2016050362
(87)【国際公開番号】W WO2016193535
(87)【国際公開日】2016-12-08
【審査請求日】2019-05-16
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-17
(32)【優先日】2015-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】ミエッティネン マウノ
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】杉江 渉
【審判官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0271875(US,A1)
【文献】国際公開第2014/143657(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/192572(WO,A1)
【文献】特開2013-241391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08H 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系原料、木質バイオマス、リグニン含有バイオマス、バガス及びトウモロコシ茎葉、多年生木材、維管束植物、再生褐色板材、脱インキパルプ並びにそれらの組合せからなる群から選択される出発材料に酵素加水分解を用いた処理ステップによる加工を施すことによって形成された粗製リグニンからリグニン画分を形成する方法であって、
少なくとも1つのリグニン遊離ステップにおいて前記粗製リグニンを、前記リグニンが水熱処理によって遊離される又は希酸加水分解によって遊離されるリグニン遊離によって処理
し、
前記リグニン画分及びリグノセルロース画分の2つの固相を形成する、ステップ、及び
前記リグニン画分及び
前記リグノセルロース画分を
、分離が固固分離
に基づいた分離である少なくとも1つの分離ステップにおいて分離するステップを含み、
カルボキシメチルセルロース(CMC)又はグアーガムである安定化化学物質が、前記
リグニン遊離によって処理された粗製リグニンに前記固固分離ステップに関連して添加される、方法。
【請求項2】
前記リグニン遊離中の温度が130~400℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グルカンの70%未満が前記リグニン遊離中に溶解する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
グルカンの60%未満が前記リグニン遊離中に溶解する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
グルカンの50%未満が前記リグニン遊離中に溶解する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
グルカンの40%未満が前記リグニン遊離中に溶解する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記リグニン遊離前に少なくとも1つの洗浄及び分離ステップにおいて脱水、洗浄、濾過及び/又は遠心によって前記粗製リグニンが処理される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分離が、1つを超える分離ステップで行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
リグノセルロース画分の少なくとも一部が前記分離ステップから前記酵素処
理に循環される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
木質系原料、木質バイオマス、リグニン含有バイオマス、バガス及びトウモロコシ茎葉、多年生木材、維管束植物、再生褐色板材、脱インキパルプ並びにそれらの組合せからなる群から選択される出発材料に酵素加水分解を用いた処理ステップ(24)による加工を施すことによって形成された粗製リグニン(1)からリグニン画分(6)を形成する装置であって、
前記粗製リグニン(1)を、前記リグニンが水熱処理によって遊離される又は希酸加水分解によって遊離されるリグニン遊離によって処理
し、
前記リグニン画分(6)及びリグノセルロース画分(7)の2つの固相を形成する、少なくとも1台の遊離反応器(3)、
前記リグニン画分(6)及び
前記リグノセルロース画分(7)を
、分離が固固分離
に基づいた分離である少なくとも1つの分離ステップにおいて分離する少なくとも1台の分離装置(5)、
前記粗製リグニン(1)を前記遊離反応器(3)に搬送する少なくとも1台の第1の搬送装置、
前記
リグニン遊離によって処理された粗製リグニン(4)を前記遊離反応器(3)から前記分離装置(5)に搬送する少なくとも1台の第2の搬送装置、及び
カルボキシメチルセルロース(CMC)又はグアーガムである安定化化学物質(8)を前記
リグニン遊離によって処理された粗製リグニン(4)に前記固固分離ステップに関連して添加する少なくとも1台の第3の搬送装置、を備える、装置。
【請求項11】
前記装置が、前記リグニン遊離(3)前に少なくとも1つの洗浄及び分離ステップ(2)において、脱水、洗浄、濾過及び/又は遠心によって前記粗製リグニン(1)を処理する少なくとも1台の装置を備える、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記装置が、リグノセルロース画分(7)を前記分離装置(5)から前記酵素処
理に循環させる手段を備える、請求項10又は11に記載の装置。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって得られた前記リグニン画分から形成されたリグニン組成物の使用であって、前記リグニン組成物が、活性炭、炭素繊維、リグニン複合体、結合剤材料、ポリマー、樹脂、フェノール成分、分散剤、飼料、食品もしくはそれらの組合せ、又は油、炭化水素組成物もしくは重金属の吸着剤からなる群から選択される生成物における成分として使用される、使用。
【請求項14】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって得られた前記リグノセルロース画分から形成されたリグノセルロース組成物の使用であって、前記リグノセルロース組成物が、複合材、木質複合材、リグニン-木材複合材、木材-プラスチック複合材、樹脂、木質系材料、木質系充填剤、建設資材、建築用板材、接着板材及び/又は他の木質系板材からなる群から選択される生成物における成分として、又は可燃性物質として、又は微結晶セルロース、ナノ結晶セルロース若しくはナノフィブリル化セルロースの製造における原料として、使用される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン画分を形成する方法及び装置に関する。さらに、本発明は、リグニン組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスなどの種々の原料からリグニンを形成する様々な方法が先行技術から知られている。多数のバイオリファイナリープロセス、例えば加水分解は、バイオマスの加水分解後にリグニン残留物などの粗製リグニンを生成する。この水不溶性リグニン残留物は、通常、かなりの割合の非加水分解リグノセルロース粒子を含む。
【0003】
さらに、リグニンをNaOH、アルコール-水混合物、有機酸などの溶媒に溶解させることによってリグニンを化学的に処理すること、及びリグニンを例えば硫酸又は水で沈殿させることが先行技術から知られている。次いで、純粋なリグニンを提供することができるが、公知のプロセスは、運転費及び資本費が高い。溶媒又は形成された塩の除去及び/又は回収は、追加の費用がかかる。リグニンの最終脱水は、通常、濾過によって行われる。沈殿リグニン粒子のサイズは一般にかなり小さく、それは濾過速度及び濾過ケークの乾燥固形分に負の効果を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、リグニン画分を形成する新しい方法を開示することである。本発明の別の目的は、リグニンを精製する新しい方法を開示することである。本発明の別の目的は、性質が改善された精製リグニン組成物を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るリグニン画分を形成する方法は、請求項1に記載のものを特徴とする。
【0006】
本発明に係るリグニン画分を形成する装置は、請求項12に記載のものを特徴とする。
【0007】
本発明に係るリグニン組成物は、請求項17に記載のものを特徴とする。
【0008】
本発明に係るリグニン組成物の使用は、請求項18及び19に記載のものを特徴とする。
【0009】
添付図面は、本発明の理解を深め、本明細書の一部を構成するものであり、本発明の一部の実施形態を示し、明細書と一緒に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の別の一実施形態に係る方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、リグニン画分(6)を粗製リグニン(1)から形成する方法、及び好ましくは純粋なリグニン画分を形成するために粗製リグニンを精製する方法に関する。粗製リグニン(1)は、酵素処理、イオン性液体を用いた処理、及びそれらの組合せから選択される処理ステップ(24)によって加工されている。該方法は、リグノセルロースと遊離リグニン粒子の2つの固相を形成するためにリグニンが遊離されるように粗製リグニン(1)のリグニンを遊離させる少なくとも1つのリグニン遊離ステップ(3)において粗製リグニン(1)をリグニン遊離によって処理するステップ、及びリグニン画分(6)を少なくとも1つの分離ステップ(5)で分離するステップを含む。好ましい一実施形態においては、リグニン画分(6)は、精製された粗製リグニンである。
【0012】
本発明の方法の一実施形態を
図1に示す。本発明の方法の別の一実施形態を
図2に示す。
【0013】
本発明の装置は、粗製リグニン(1)を少なくとも1つの遊離ステップにおいて遊離させる少なくとも1台の遊離反応器(3)、リグニン画分(6)を少なくとも1つの分離ステップにおいて分離する少なくとも1台の分離装置(5)、粗製リグニン(1)を遊離反応器(3)に搬送する少なくとも1台の第1の搬送装置、及び処理された粗製リグニン(4)を遊離反応器(3)から分離装置(5)に搬送する少なくとも1台の第2の搬送装置を備える。
【0014】
好ましくは、粗製リグニン(1)は、出発材料(20)から形成されている。この文脈においては、出発材料(20)とは、任意の木質系又は植物系原料を意味する。出発材料は、リグニン、リグノセルロース、セルロース、ヘミセルロース、グルコース、キシロース、バイオマスの抽出物及び他の固有の構成成分、並びに酵素、化学物質などの異質な成分を含み得る。一実施形態においては、出発材料は、木質系原料、木質バイオマス、農業残留物などのリグニン含有バイオマス、バガス及びトウモロコシ茎葉、多年生木材、維管束植物、再生褐色板材、脱インキパルプ並びにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0015】
この文脈においては、粗製リグニン(1)とは、実質的に遊離リグニンのない、リグニンを含む任意の材料又は組成物を指す。一実施形態においては、粗製リグニンは、20重量%未満の遊離リグニンを含む。さらに、粗製リグニンは、グルカン単位を有するリグノセルロースも含む。グルカン単位などのリグノセルロースとリグニンは、不均一な構造中で互いに結合しており、これは、一般にリグニンが材料中に均等に分布していないことを意味する。主に、粗製リグニンは、リグニン及びリグノセルロースを含むが、ヘミセルロースも含むことがある。粗製リグニンは、1種以上のリグニン材料成分を含み得る。粗製リグニンは、異なる含有量のリグニン及びグルカンを含み得る。さらに、粗製リグニンは、特に酵素処理後に、酵素を含み得る。一般に、粗製リグニンは、水、酸、例えば、ギ酸、酢酸若しくは硫酸、アルコール又は別の液体を含む懸濁液の形態であり、又は塊などのケークの形である。一実施形態においては、粗製リグニンは、懸濁液の形態である。好ましくは、粗製リグニンは、加水分解からのリグニン残留物、例えば、セルリグニンである。
【0016】
一実施形態においては、特に酵素処理及び/又はイオン性液体を用いた処理後に、粗製リグニン(1)は、固体リグノセルロースの形態で高い割合の炭水化物(high share carbohydrates)を含む。酵素処理及び/又はイオン性液体を用いた処理後に、リグニンは、粗製リグニンのリグノセルロース中で強固に結合されている。次いで、更なる加工ステップがリグニンを遊離させるのに必要である。リグニン粒子の分離は、本発明によって促進することができる。好ましくは、分離は、固固分離に基づく。同時に、粗製リグニンを精製して、種々の用途に利用するのにより適切なリグニン材料を得る。本発明においては、リグノセルロース画分を循環させて酵素加水分解などの酵素処理及び/又はイオン性液体を用いた処理に戻すことができる。別の選択肢は、回収されたリグノセルロース画分を外部用途に利用することである。
【0017】
一実施形態においては、粗製リグニンは、液体、例えば水で希釈されている。一実施形態においては、粗製リグニンのWIS%(水不溶性固体)は、遊離ステップにおいて1~50%又は20~40%である。一実施形態においては、粗製リグニンのWIS%(水不溶性固体)は、分離ステップにおいて1~35%、10~30%又は15~30%である。水不溶性固体WIS%は、WIS%=(洗浄、乾燥材料の重量)/(洗浄用湿潤スラリーの重量)で計算することができる。懸濁液の濃度(consistency)が低いと、遊離リグニン粒子とリグノセルロース粒子の機械的分離が促進される。一実施形態においては、粗製リグニンの重量平均粒径は、1000μm未満、好ましくは500μm未満である。
【0018】
一実施形態においては、粗製リグニン(1)のセルロース含有量、すなわちグルカン含有量は、グルコースとして分析して、3~70重量%、好ましくは5~60重量%、より好ましくは10~60重量%である。
【0019】
一実施形態においては、リグノセルロース粒子は、粗製リグニン中で繊維スティックの形態である。一実施形態においては、リグノセルロース粒子の重量平均粒径は1000μm未満、一実施形態においては500μm未満、一実施形態においては300μm未満である。
【0020】
粗製リグニンは、酵素処理及び/又はイオン性液体を用いた処理(24)によって加工されている。一実施形態においては、粗製リグニンは、粗製リグニンが出発材料(20)から形成される加水分解(21)後に、酵素処理及び/又はイオン性液体を用いた処理によって加工されている。
【0021】
一実施形態においては、粗製リグニンは、酵素処理(24)によって加工されている。一実施形態においては、酵素処理は、酵素加水分解である。一実施形態においては、粗製リグニンは、出発材料から形成され、酵素加水分解によって加工されている。
【0022】
一実施形態においては、粗製リグニン(1)は、リグニン遊離(3)前に、少なくとも1つの洗浄及び分離ステップ(2)において脱水、洗浄、濾過及び/又は遠心によって処理される。好ましくは、粗製リグニン(1)が洗浄され、可溶性炭水化物がリグニン遊離(3)前に分離される。好ましくは、可溶性C6炭水化物などの可溶性炭水化物(14)を洗浄及び分離ステップ(2)中に粗製リグニンから分離することができる。一実施形態においては、装置は、リグニン遊離(3)前に少なくとも1つの洗浄及び分離ステップ(2)において、脱水、洗浄、濾過及び/又は遠心によって粗製リグニン(1)を処理する少なくとも1台の装置、例えば、フィルタ又は遠心分離機を備える。
【0023】
一実施形態においては、粗製リグニン(1)は、酸の存在下で遊離によって処理される。一実施形態においては、粗製リグニン(1)は、酸なしで、遊離によって処理される。一実施形態においては、粗製リグニン(1)は、リグニン遊離ステップ(3)において、水熱処理などの熱処理によって遊離される。一実施形態においては、粗製リグニンは、自己加水分解によって遊離される。一実施形態においては、粗製リグニンは、希酸加水分解によって遊離される。一実施形態においては、粗製リグニンは、2段階で遊離される。一実施形態においては、1段階は酸なしで実施され、別の1段階は酸を用いて実施される。一実施形態においては、遊離反応器(3)は、蒸解釜である。一実施形態においては、遊離反応器(3)は、ガラスライニング蒸解釜、例えば、バッチガラスライニング蒸解釜、又は標準連続蒸解釜である。一実施形態においては、遊離反応器(3)は、滞留時間が短く、反応器相(reactor phase)後に急激な圧力放出を含む、連続パイプ反応器である。一実施形態においては、遊離反応器(3)は、パーコレーション又は流通式反応器である。
【0024】
一実施形態においては、リグニン遊離(3)中の温度は130~400℃である。一実施形態においては、リグニン遊離(3)中の温度は少なくとも170℃である。一実施形態においては、リグニン遊離(3)中の温度は170~240℃である。遊離においては、遊離リグニンが粗製リグニンから遊離され、リグノセルロースと遊離リグニン粒子の2つの固相が形成される。一実施形態においては、粗製リグニンが遊離によって処理されるときには、蒸煮爆砕効果がリグニン遊離中に得られて、遊離リグニン粒子の形成を助け、リグノセルロース粒子の粒径を減少させる。最も効果的なリグニン遊離は、高温における短い滞留時間によって成され、すなわち、リグニンを遊離させるいわゆるフラッシュ効果を生じる。粗製リグニンの性質、精製リグニン及びリグノセルロース画分の目標の性質、並びに経済的及び生態学的値によって、最適なプロセス条件が設定される。
【0025】
一実施形態においては、リグニン遊離(3)前に水を添加する。水の温度は、約20~100℃とすることができる。
【0026】
一実施形態においては、装置は、粗製リグニン(1)のリグニンを遊離させる少なくとも2台の並列遊離反応器(3)を備える。好ましくは、並列反応器は、連続プロセスを促進する。一実施形態においては、装置は、粗製リグニン(1)のリグニンを遊離させる少なくとも2台の逐次遊離反応器(3)を備える。
【0027】
一実施形態においては、遊離処理の苛酷度は、標準ヘミセルロース(C5)とセルロース(C6)加水分解の間であり、リグニンを遊離させるのに最低限の苛酷度である。典型的なpH調節複合苛酷度(CS:combined severity)又は苛酷度指数(SI:severity index)は、1.5~2.5(下式で定義される)であり、式中、tは分単位の時間であり、Tはセ氏温度である。
【0028】
【0029】
できるだけ少ない割合のセルロースを溶解させるために低い苛酷度が有利である。というのは、これによって、酵素プロセスにおけるC6炭水化物収率が向上するからである。さらなる利点は、リグニンの本来の反応性が維持され、遊離処理の選択性が高められ、糖液が清浄化されることである。
【0030】
一実施形態においては、グルカンの70%未満、好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満、最も好ましくは40%未満がリグニン遊離(3)中に溶解する。
【0031】
図3aは、リグニン遊離前の粗製リグニンの一実施形態であり、
図3bは、リグニン遊離後の粗製リグニンの一実施形態である。
図3bにおける暗い円形の形状は、遊離したリグニン粒子であり、明るい色の材料はリグノセルロースである。
【0032】
一実施形態においては、リグニン遊離からの蒸解液は、リグニン遊離中又は遊離後に除去することができる。蒸解液の可溶性炭水化物は、回収することができる。あるいは、蒸解液をそのまま、又は後続の処理後に、廃水処理プラントに供給することができる。
【0033】
一実施形態においては、リグニン遊離前にカルボナートを添加する。一実施形態においては、リグニン遊離中にカルボナートを添加する。一実施形態においては、カルボナートは、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、二酸化炭素、別の適切なカルボナート、それらの誘導体、又はそれらの組合せの形態である。カルボナートを添加することによってリグニン粒径を増加させることができる。CO2が遊離ステップ中に発生するときには、軟化したリグニン粒子が、細孔内の膨張ガスのために膨潤する。次いで、粒径の増大したリグニン粒子を粗製リグニンから、より容易に分離することができる。
【0034】
一実施形態においては、処理された粗製リグニン(4)は、リグニン遊離(3)後に冷却される。
【0035】
一実施形態においては、処理された粗製リグニン(4)は、リグニン遊離(3)後に洗浄される。
【0036】
一実施形態においては、リグニン画分(6)は、リグニン遊離ステップ(3)後に、1つ以上の分離ステップ(5)で分離される。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)は、1つ以上の分離ステップ(5)で分離される。一実施形態においては、分離は、機械的分離によって行われる。一実施形態においては、分離方法は、遠心力、沈降、水簸、濾過、浮選、篩分及びそれらの組合せからなる群から選択される。一実施形態においては、分離は、遠心力によって行われる。一実施形態においては、分離は、沈降によって行われる。一実施形態においては、分離は、水簸によって行われる。一実施形態においては、分離は、濾過によって行われる。一実施形態においては、分離は、浮選によって行われる。一実施形態においては、分離は、篩分によって行われる。一実施形態においては、各分離ステップは、類似の方法で行われる。あるいは、分離ステップごとに異なる方法で行われる。一実施形態においては、リグニン画分(6)は、残りの粗製リグニンがリグノセルロース画分(7)であるように、処理された粗製リグニン(4)から分離される。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)は、残りの粗製リグニンがリグニン画分(6)であるように、処理された粗製リグニン(4)から分離される。好ましくは、リグニン画分(6)は、精製リグニンである。
【0037】
一実施形態においては、装置は、処理された粗製リグニン(4)からリグニン画分(6)を分離する、好ましくはリグニン画分(6)を精製する、少なくとも1台の分離装置(5)を備える。一実施形態においては、装置は、少なくとも2台の分離装置(5)を備える。一実施形態においては、分離装置は、遠心力、沈降、水簸、濾過、浮選、篩分又はそれらの組合せに基づく。分離装置は、反応器、容器、タンク、ボウル、サイクロン、フィルタ、カラム、セル、水盤、濃縮器などとすることができる。一実施形態においては、リグニン画分を分離する少なくとも1つの分離ステップは、遠心力、例えば、バスケット型遠心分離機、若しくはソリッドボウル型遠心分離機などのデカンタ型遠心分離機、又は浮選、例えば、泡沫浮選若しくはカラム浮選によって行われる。
【0038】
一実施形態においては、リグニン画分(6)の分離は、1つ以上の分離ステップで行われる。一実施形態においては、分離は、1つの分離ステップで行われる。一実施形態においては、分離は、1つを超える分離ステップで行われる。一実施形態においては、分離は、3つの分離ステップで行われる。一実施形態においては、分離装置(5)は、1つ以上の分離ステップを含む。一実施形態においては、分離ステップは、1台以上の分離装置を含む。一実施形態においては、リグニン画分(6)は、最終分離ステップで分離される。一実施形態においては、リグニン画分(6)は、2つの分離ステップの間で分離される。一実施形態においては、リグニン画分(6)は、最初の分離ステップで分離される。一実施形態においては、リグニン画分(6)が最初の分離ステップで分離され、その後、リグニン画分が最終分離ステップで精製される。一実施形態においては、リグニン画分(6)は、各分離ステップで分離される。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)は、最初の分離ステップで分離される。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)は、1つを超える分離ステップで分離される。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)は、各分離ステップで分離される。一実施形態においては、少なくとも1つの分離されたリグノセルロースの流れを分離の所望のステップに循環させる。
【0039】
一実施形態においては、リグニン画分(6)は、さらに、篩分、好ましくは振動篩によって精製されて、チャー及び糖分解生成物を除去する。
【0040】
分離は、広い温度範囲、例えば、温度0~100℃で行うことができる。温度が高いほど、通常は、粘度が低いために分離を促進する。一般には、自然に近いプロセス温度を利用して、加熱も冷却もしないようにする。
【0041】
一実施形態においては、安定化化学物質(8)を、処理された粗製リグニン(4)に分離ステップ(5)に関連して添加する。一実施形態においては、安定化化学物質(8)を、分離ステップ(5)前に、処理された粗製リグニン(4)に添加する。一実施形態においては、安定化化学物質(8)を、分離ステップ(5)中に、処理された粗製リグニン(4)に添加する。一実施形態においては、装置は、処理された粗製リグニン(4)に安定化化学物質(8)を添加する少なくとも1台の搬送装置を備える。
【0042】
安定化化学物質(8)は、処理された粗製リグニン(4)に少なくとも1つのステップで添加される。一実施形態においては、安定化化学物質(8)は、処理された粗製リグニン(4)に1ステップで添加される。一実施形態においては、安定化化学物質(8)は、処理された粗製リグニンに1つを超えるステップで添加される。一実施形態においては、安定化化学物質(8)は、処理された粗製リグニンに各分離ステップに関連して添加される。一実施形態においては、安定化化学物質(8)は、処理された粗製リグニンに最初の分離ステップ及び/又は少なくとも1つの後続分離ステップで添加される。好ましくは、化学安定化及び機械的分離が行われる。
【0043】
一実施形態においては、安定化化学物質が、処理された粗製リグニンに添加され、粗製リグニンが、好ましくは高剪断混合によって、混合される。高剪断混合は、表面への化学物質の吸着を促進するのに有益である。安定化化学物質は、主に、リグノセルロース粒子に吸着する。
【0044】
一実施形態においては、安定化化学物質(8)は、多糖自体であり、又は変性多糖である。この文脈においては、安定化化学物質は、一般に親水性化学物質である。一実施形態においては、安定化化学物質は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアニオン性セルロース(PAC)、別のセルロース誘導体、例えば、エチルヒドロキシエチルセルロース及びメチルセルロース、未変性グアーガム、変性グアーガムなどのグアーガム、天然デンプン、加工デンプン、ペクチン、グリコーゲン、カロース、クリソラミナリン、天然ヘミセルロース、変性ヘミセルロース、キシラン、マンナン、ガラクトマンナン、ガラクトグルコマンナン(GGM)、アラビノキシラン、グルクロノキシラン及びキシログルカン、フコイダン、デキストラン、アルギナート、別の多糖、並びにそれらの組合せからなる群から選択される。前記安定化化学物質は、未変性型でも変性型でもよい。一実施形態においては、安定化化学物質はカルボキシメチルセルロース(CMC)である。一実施形態においては、安定化化学物質はグアーガムである。好ましくは、安定化化学物質の機能は、懸濁リグノセルロース粒子を化学的相互作用によって安定に維持することである。したがって、処理されたリグノセルロース粒子が懸濁液中に残り、遊離リグニン粒子が懸濁液から分離される。
【0045】
一実施形態においては、洗浄水(9)は、例えば温度20~70℃で、好ましくは最終分離ステップで、リグニン画分(6)を洗浄する分離装置(5)に添加することができる。あるいは、リグニン画分(6)は、分離(5)後に洗浄される。一実施形態においては、リグニン画分は、置換洗浄によって洗浄される。精製リグニンは、脱水性能に悪影響を及ぼさずに、洗浄段階で容易に中和することができる。この文脈においては、洗浄水とは、任意の洗浄液又は洗浄水を意味する。洗浄水は、新しい洗浄水又は再生洗浄水とすることができる。洗浄水は、物理的及び/又は化学的に浄化された原水、並びにバイオリファイナリープロセスからの清浄な側流、例えば、糖の蒸発からの凝縮物とすることができる。分離プロセスは、例えばイオン交換、蒸留又は逆浸透によって得ることができる、超清浄水を必要としない。
【0046】
一実施形態においては、リグニン画分(6)は、分離ステップ後に懸濁液、固体、沈降物、汚泥、ケークなどの形である。リグニン画分(6)は、リグニン粒子以外の成分又は薬剤も含み得る。好ましくは、リグニン画分は、遊離リグニンを含む一実施形態においては、リグニン画分は、80%を超える、好ましくは85%を超える、より好ましくは90%を超える、最も好ましくは95%を超えるリグニン、及び20%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満のグルカンを含む。リグニン含有量は、酸不溶性と酸可溶性のリグニンの組合せであるように規定される。
【0047】
一実施形態においては、リグニン画分(6)は、分離後に、上記分離方法又は別の適切な方法から選択することができる少なくとも1つの脱水ステップ(10)において、リグニン画分を脱水することによって処理される。一実施形態においては、脱水は、分離ステップで行われる。一実施形態においては、リグニン画分(6)は、少なくとも1つの濾過ステップにおける脱水によって、例えば、加圧フィルタ又は減圧フィルタによって、処理される。一実施形態においては、リグニン画分(6)は、少なくとも1つの清浄化分離ステップにおいて脱水によって処理される。一実施形態においては、リグニン画分は、清浄化分離ステップにおいて、例えば液体サイクロンによる遠心浄化、例えば濃縮器による沈降、水簸、凝集、浮選、凝結及び/又は篩分によって処理される。一実施形態においては、リグニン画分(6)は、粉砕によって処理される。
【0048】
一実施形態においては、装置は、リグニン画分(6)を濾過し、精製する、少なくとも1台の濾過装置、例えば、加圧フィルタ又は減圧フィルタを備える。一実施形態においては、装置は、リグニン画分(6)を脱水する少なくとも1台の脱水装置を備える。
【0049】
リグニンの脱水は、本発明によって改善することができる。リグノセルロース粒子の除去は、濾過速度の増加及び/又は固形分の増加によって証明されるように、リグニンの脱水を明らかに改善する。固形分の増加は、リグニンが下流の用途にそのままでより適しており、より少ないエネルギーが乾燥に必要であることを意味する。
【0050】
一実施形態においては、リグノセルロース粒子を含むリグノセルロース画分(7)の少なくとも一部を循環させて、酵素加水分解などの酵素処理及び/又はイオン性液体を用いた処理に戻す。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)の少なくとも一部を、分離ステップ(5)から酵素加水分解などの酵素処理及び/又はイオン性液体を用いた処理に循環させる。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)の少なくとも一部を、処理ステップ(24)の前、好ましくは酵素処理又はイオン性液体を用いた処理の前の段階に循環させる。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)を、加水分解プロセス(21)と処理ステップ(24)の間の段階に循環させる。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)を、処理ステップ(24)前に配置されたリスラリータンク(23)に循環させる。あるいは、リグノセルロース画分(7)の少なくとも一部を、離れた加水分解プロセスに循環させることができる。一実施形態においては、装置は、リグノセルロース画分(7)を循環させる循環手段を備える。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)を分離ステップ(5)から酵素加水分解などの酵素処理及び/又はイオン性液体を用いた処理に循環させる搬送システムを使用する。
【0051】
好ましくは、酵素プロセスの場合には、リグノセルロース画分(7)が酵素加水分解などの酵素処理に再循環されるときに、原料、例えば木質材料をより有効にプロセスに利用することができる。
【0052】
リグノセルロース画分(7)が循環されるときには、転化率は、酵素処理又はイオン性液体を用いた処理で低下し得る。一実施形態においては、転化率は、前の最適な転化率レベルの少なくとも10%又は少なくとも20%低下する。酵素用量は、グルカンからグルコースへの所望の転化率が酵素処理で得られるように選択される。転化率が低下すると、酵素用量を削減することができる。循環リグノセルロース画分の性質、特に粒径が小さく、ヘミセルロース含有量が低く、リグニン含有量が低いと、酵素用量を更に減少させる可能性がある。一実施形態においては、搬送濃度を酵素処理において増加させることができる。これは、より低い転化率を適用するときに、酵素加水分解タンクなどの酵素処理タンクの糖濃度がさもないと減少し、体積がさもないと増加するのを相殺する。搬送濃度の増加は、前処理された出発材料単独に比べて、前処理された出発材料とリグノセルロースの混合物の粘度の低下によって、容易になる。従来のプロセスにおいては、転化率が減少すると、C6糖収率が同じく低下するが、回収されたリグノセルロース画分を酵素加水分解に循環させると、混合C6収率は、一般に、参考例においては通常の転化率レベルよりも高い。
【0053】
リグノセルロース画分(7)は、グルカンなどの炭水化物以外の成分又は薬剤も含み得る。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)は、懸濁液の形態である。この懸濁液は、水などの液体を含む。一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)は、40~90%、好ましくは50~90%、より好ましくは約60~90%のグルカン、及び10~60%、好ましくは10~50%、より好ましくは約10~40%のリグニンを分離ステップ(5)後に含む。
【0054】
一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)は、例えば濾過によって、分離(5)後に脱水される。
【0055】
一実施形態においては、リグノセルロース画分(7)は、希釈リグノセルロース画分(13)を分離ステップ(5)後に形成するために希釈される。一実施形態においては、リグノセルロース画分中の液体は、前処理された出発材料の希釈に必要な淡水を酵素加水分解前に部分的に又は全部置換する。
【0056】
本発明によれば、リグニン組成物を形成することができる。リグニン組成物は、この文脈で記載された方法によって形成されたリグニン画分を含む。リグニン組成物は、活性炭、炭素繊維、リグニン複合体、結合剤材料、ポリマー、樹脂、フェノール成分、分散剤、飼料、食品又はそれらの組合せからなる群から選択される、最終生成物などの生成物の製造における成分として使用することができる。一実施形態においては、リグニン組成物は、油、炭化水素組成物又は重金属の吸着剤として使用される。一実施形態においては、リグニン組成物は、エネルギー生成における可燃性物質として使用される。
【0057】
一実施形態においては、リグノセルロース組成物を形成することができる。リグノセルロース組成物は、この文脈で記載された方法によって形成されたリグノセルロース画分を含む。リグノセルロース組成物は、複合材、木質複合材、リグニン-木材複合材、木材と一緒にプラスチック、合成高分子、生体高分子、ゴム又はそれらの組合せから形成される複合材を含む木材-プラスチック複合材、好ましくは樹脂中の充填剤としての、樹脂、木質系材料、木質系充填剤、建設資材、建築用板材、接着板材、及び/又はパーティクルボード、配向性ストランドボード、チップボード、イントララム(intrallam)、集成材(gluelam)、ハードボード、コルゲートボード、ウエハボード、繊維板、ベニヤ板、絶縁材料、包装材料、バリア材、発泡材料などの他の木質系板材からなる群から選択される生成物の製造における成分として使用することができる。一実施形態においては、リグノセルロース組成物は、エネルギー生成における可燃性物質として使用される。一実施形態においては、リグノセルロース組成物は、微結晶セルロース、ナノ結晶セルロース又はナノフィブリル化セルロースの製造における原料として使用される。結晶化度指数が高く、粒径が小さいと、微結晶セルロース又はナノ結晶セルロースの製造におけるリグノセルロースの使用が促進される。
【0058】
本発明においては、リグニン画分の分離を最適化することができる。本発明に係る方法は、良好な品質のリグニン画分及びリグニン組成物を提供する。特に、リグニン画分の純度を改善することができる。リグニンの精製を改善し、リグニン画分の乾燥固形分を増加させると、最終生成物の性質を改善することができる。さらに、リグノセルロース画分を回収することができる。本発明のために、原料及び酵素の使用を削減することができる。本発明は、糖収率、糖濃度、又は酵素加水分解タンクのサイズに悪影響を及ぼさずに、酵素加水分解(EH:enzymatic hydrolysis)などの酵素処理における転化率を減少させる実行可能な方法を提供する。さらに、プロセスにおけるC6糖収率を改善することができる。
【0059】
本発明のために、好ましく改善された濾過性が得られる。さらに、本発明のために、乾燥なしの発熱量を少なくとも50%向上させるように、リグニン組成物の発熱量を増加させることができる。
【0060】
本発明は、精製リグニン系組成物を製造し、リグノセルロース系組成物も製造する工業的に適用可能な簡単で手軽な方法を提供する。本発明に係る方法は、製造プロセスとして容易に簡単に実現される。本発明に係る方法は、種々の出発材料からの種々のリグニン及びリグノセルロース系生成物並びに最終生成物の製造に使用するのに適している。好ましくは、粗製リグニンは、リグノセルロース粒子を分離することによって精製される。さらに、リグニン組成物は、エネルギー源として使用することができる。
【実施例】
【0061】
本発明を以下の実施例により添付図面を参照してより詳細に記述する。
【0062】
実施例1
この実施例では、リグニン画分(6)を
図1のプロセスによって形成する。
【0063】
前処理された出発材料をバイオマスなどの出発材料(20)から、例えば半加水分解(21)によって形成する。形成された前処理された出発材料(22)を、粗製リグニン(1)を形成するために、酵素加水分解などの酵素処理又はイオン性液体を用いた処理である処理ステップ(24)で加工する。
【0064】
粗製リグニン(1)を第1の搬送装置によって、粗製リグニンを遊離によって処理する遊離反応器(3)、例えば、好ましくは自己加水分解又は希酸加水分解に基づく、蒸解釜に搬送する。水を遊離反応器(3)に添加することができる。
【0065】
処理された粗製リグニン(4)を第2の搬送装置によって遊離反応器(3)から、リグニン画分(6)を分離する分離装置(5)に搬送する。分離中にカルボキシメチルセルロース(8)を安定化化学物質として粗製リグニンに添加することができる。好ましくは、1つを超える分離ステップで分離を行う。分離装置(5)からのリグニン画分(6)を回収する。リグノセルロース画分(7)も分離する。リグノセルロース画分(7)を循環させて酵素加水分解などの酵素処理又はイオン性液体を用いた処理に戻すことができる。
【0066】
実施例2
この実施例では、リグニン画分(6)を
図2のプロセスによって形成する。
【0067】
前処理された出発材料をバイオマスなどの出発材料(20)から、例えば半加水分解(21)によって形成する。形成された前処理された出発材料(22)をリスラリータンク(23)を介して、酵素加水分解などの酵素処理又はイオン性液体を用いた処理である処理ステップ(24)に搬送する。粗製リグニン(1)を形成するために、前処理された出発材料(22)を処理ステップ(24)で加工する。
【0068】
粗製リグニン(1)を、可溶性炭水化物(14)を除去することができる濾過装置(2)で濾過する。場合によっては、粗製リグニンを、濾過中又は濾過後に、好ましくは置換洗浄によって、水で洗浄することができる。その後、粗製リグニン(1)を第1の搬送装置によって、粗製リグニンを遊離によって処理する遊離反応器(3)、例えば、好ましくは自己加水分解又は希酸加水分解に基づく、蒸解釜に搬送する。好ましくは、装置は、最後に蒸煮爆砕段階を含む。水を遊離反応器に添加することができる。可溶化炭水化物(15)を含む液相を、遊離中又は遊離後に分離することができる。好ましくは、処理された粗製リグニン(4)をリグニン遊離後に洗浄する。
【0069】
処理された粗製リグニン(4)を第2の搬送装置によって遊離反応器(3)から任意選択の洗浄段階に搬送し、さらに、リグニン画分(6)を分離する分離装置(5)に搬送する。リグノセルロース画分(7)も分離する。分離中にカルボキシメチルセルロース(8)を安定化化学物質として粗製リグニンに添加することができる。好ましくは、1つを超える分離ステップで分離を行う。洗浄水(9)を、例えば温度20~60℃で、好ましくは最終分離ステップで、リグニン画分(6)を洗浄する分離装置(5)に添加することができる。分離装置(5)からのリグニン画分(6)を、リグニン画分(6)を例えば加圧フィルタによって更に処理する第2の濾過ユニット(10)に搬送する。最終リグニン組成物(11)を形成するために、リグニン画分(6)を濾過し、精製することができる。
【0070】
リグノセルロース画分(7)を循環させて酵素加水分解などの酵素処理又はイオン性液体を用いた処理に戻す。リグノセルロース画分(7)を、希釈リグノセルロース画分(13)を形成する希釈ステップ(12)で希釈することができる。希釈リグノセルロース画分(13)をリスラリータンク(23)に搬送し、処理ステップ(24)に循環する。
【0071】
実施例3
この実施例では、リグニン及びリグノセルロース画分を形成した。
【0072】
前処理されたバイオマス(PTB)を16%全固形分(TS:total solids)搬送によって市販の酵素を用いた酵素加水分解に供した。48時間の加水分解時間後に80%グルコース転化率が得られるように酵素用量を選択した。残留固体材料、すなわち粗製リグニンをC6炭水化物から加圧濾過によって分離した。粗製リグニンを遊離ステップで希酸処理にさらした。粗製リグニンを蒸解釜で以下の条件で遊離させた:20.9%TS、時間210分、温度181℃及び硫酸用量6kg/t TS PTB。遊離処理後にスラリーを反応器中で冷却した。冷却後、スラリーのpHは3.0であった。
【0073】
加圧濾過及び置換洗浄を使用して、水溶性材料を固体粒子から分離した。遊離したリグニン粒子及び残留リグノセルロース粒子を4段階で順次分離した。第1段階(ラファー(rougher)段階)では、リグノセルロース画分及び半精製リグニン画分を生成した。以下の段階(クリーナー段階)を使用して、更にリグニン画分を精製した。標準手順は、リグノセルロース画分を分離プロセスにおいて段階2~4から上流の最適な段階に循環することであった。場合によっては、リグノセルロース画分を更に精製する1段階又は数段階(スカベンジャー段階)が存在し得る。処理された粗製リグニンをリスラリーして、7%TSをラファー段階に搬送した。CMC(カルボキシメチルセルロース)を10kg/t TS添加し、温度は55℃であった。スラリーをGEA Westfalia UCD205デカンタ型遠心分離機を介して、搬送量23kg/minで、ボウル速度2800rpmでポンプ輸送した。分離したリグニン(重)画分を更にリスラリーし、CMCを3kg/t TS添加し、形成されたスラリーを第1クリーナー段階でデカンタ型遠心分離機を用いて加工した。後続の2つのクリーナー段階は、沈降に基づいた。CMCを第2クリーナー段階で1.5kg/t TS添加し、第3クリーナー段階をCMCなしで行った。底流(underflow)を両方の段階で2時間の沈降時間後に収集した。
【0074】
リグニン及び炭水化物をTAPPI法T-222及びT-UM250によって分析した。結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
グルカンの15%を遊離ステップ中に加水分解(可溶化)した。これは、分離段階で100%回収後に、グルカンの85%を酵素加水分解に利用可能であることを意味する。リグニン画分L/SS4は、蒸解釜(CL2)後に粗製リグニンよりもかなり清浄であり、リグニンが希酸加水分解中に粗製リグニンから少なくとも部分的に遊離したことを示している。機械的分離は、蒸解釜の前に粗製リグニンを精製することができない。PTB中に存在する大きいバイオマス粒子は、リグニンの精製を複雑にした。というのは、より大きなリグノセルロース粒子は、重い画分(リグニン画分)中に流れる傾向があるからである。このため、遊離ステップ後の熱風、例えば、蒸煮爆砕は、粒径を減少させる実際的な方法を提供する好ましい選択肢である。グルカンの加水分解の程度がより高くなるより苛酷な条件は、リグニン遊離とその結果の分離にかなり寄与するであろう。
【0077】
実験室規模の酵素加水分解を、全固形分基準で87:13の比のPTBと循環リグノセルロースLC/SS1の混合物に対して行った。参照は、100%PTB材料を用いた同様の酵素加水分解であった。結果を表2に示す。
【0078】
【0079】
結果の示すところによれば、再生リグノセルロース(グルカン)は、未使用PTBと同様に効率的にグルコースに転化された。
【0080】
実施例4
この実施例では、形成スラリーのレオロジーに対する循環リグノセルロース画分の効果を実証した。実施例3からの分離リグノセルロース画分を実験に使用した。前処理されたバイオマス(PTB材料)をリグノセルロース材料と一緒にリスラリーして、全固形分(TS)16.8%及び水不溶性固形分(WIS)16.5%の懸濁液を生成した。PTBと循環リグノセルロースの比を全固形分基準で70:30に設定した。懸濁液の粘度は306mPasであった(ブルックフィールド50rpm)。参照として、同じ前処理されたバイオマス(PTB)を浄水と一緒にリスラリーして、全固形分(TS)16.8%及び水不溶性固形分(WIS)16.5%の懸濁液を生成した。懸濁液の粘度は1876mPasであった(ブルックフィールド50rpm)。この実施例は、リグノセルロースと前処理されたバイオマスの混合が予想外の流体力学的性質をもたらすことを示している。これは、主に双極性粒径分布の効果に応えるものであるが、表面性質の変化もある役割を果たし得る。例えば、酵素加水分解を低転化率、すなわち低炭水化物収率で行うときに、粘度が低いほど、より高い固形分を使用することができ、したがって、さもないと糖濃度が減少し、タンク体積が増加するのを埋め合わせすることができる。より高い固形分にする利点がない場合でも、粘度の低下は、より低強度の混合段階の使用を促進する。
【0081】
本発明に係る方法は、様々な実施形態において、最も異なる種類の粗製リグニンからリグニン画分及びリグノセルロース画分を形成するために使用するのに適している。
【0082】
本発明は、単に上記実施例に限定されず、特許請求の範囲によって定義される本発明のアイディアの範囲内で多数の変更が可能である。