(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】インク組成物及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20230221BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20230221BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230221BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C09D11/322
C09K11/08 G
B41J2/01 501
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2018170661
(22)【出願日】2018-09-12
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土屋 瑞穂
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-032918(JP,A)
【文献】特開2010-009995(JP,A)
【文献】特開2015-121702(JP,A)
【文献】国際公開第2018/093034(WO,A1)
【文献】特開2017-214486(JP,A)
【文献】特開2017-078120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/322
C09K 11/08
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドット(A)及び溶剤(B)を含むインク組成物であって、前記量子ドット(A)は、下記
構造式で示される
処理剤3、処理剤7、処理剤8、処理剤9または処理剤10である処理剤で表面処理された半導体微粒子である、インク組成物。
【化1】
【請求項2】
前記半導体微粒子が化合物半導体である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記半導体微粒子がコア・シェル型であり、前記
処理剤でシェル表面が処理されてなる、請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記溶剤(B)が、溶解度パラメータ値(SP値)が8~13である溶剤を含む、請求項1~
3いずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項5】
インクジェット方式で用いられる、請求項1~
4いずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
請求項1~
5いずれか1項に記載のインク組成物を用いて形成される印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式に最適なインク組成物及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットは、量子力学に従う独特な光学特性を発現させるために、電子を微小な空間に閉じ込めるために形成された極小さな粒(ドット)である。1粒の量子ドットの大きさは、直径1ナノメートルから数10ナノメートルであり、約1万個以下の原子で構成されている。発する蛍光の波長が、粒の大きさで連続的に制御できること、蛍光強度の波長分布が対称性の高いシャープな発光が得られることから近年注目を集めている。
量子ドットは、人体を透過しやすい波長に蛍光を調整でき、体内のあらゆる場所に送達できることより生体イメージング用途としての発光材料、褪色の恐れがない太陽電池用途としての波長変換材料、エレクトロニクス・フォトニクス用途としての発光材料又は波長変換材料への展開検討が行われている。
【0003】
これらの用途に展開するときに、必要となる特性として、蛍光の量子収率があげられる。非特許文献1には、PbSeの量子ドットの周囲のオレイン酸をエタンジチオールに置換する事によって、量子ドット同士が近接化し、電気伝導性が向上することが開示されている。また、特許文献1には、複数の超微粒子がベンゼンジチオールで結合されてなる超微粒子が記載されており、光学材料、電子材料等の各種用途に使用可能であることが記載されている。更に特許文献2には、PbSeの量子ドットの周囲のオレイン酸を2-アミノエタン-1-チオール等に置換する事によって、量子ドット同士がより近接化し、高い光電流値と膜剥れと、を両立することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-60109号公報
【文献】国際公開第2014/103536号
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. M. Lutherら著、「Structural, Optical, and Electrical Properties of Self-Assembled Films of PbSe Nanocrystals Treated with 1,2-Ethanedithiol」、ACS Nano(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、インクジェットインキの形態とする場合、上記発明では、量子ドット同士がエタンジチオール、ベンゼンジチオール、又は2-アミノエタン-1-チオール等で結合されていることで、量子ドットの流出(以下、ブリードともいう)は抑制されるが、エタンジチオール、ベンゼンジチオール、2-アミノエタン-1-チオール等は、インクジェットインキにおいて汎用的に用いられる高沸点中極性溶剤(760mmHgにおける沸点が120℃~260℃程度、溶解度パラメータ値(以下、SP値ともいう)Fedors法で8~13MPa^1/2程度)との相溶性に劣り、量子ドットが安定した分散状態を保つことが出来ない。
したがって、本発明の目的は、量子ドットを含むインクジェットインキであって、優れた蛍光量子収率とブリード抑制を可能とし、さらに、量子ドットの分散安定性に優れた吐出性の高いインクジェットインキ及び印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために、鋭意検討した結果、一般式(1)で示される特定の処理剤で表面処理された半導体微粒子である量子ドットを含むことにより、量子効率の維持、ブリード抑制だけでなく、吐出性に優れたインクジェットインキに最適なインク組成物とすることができることを見出した。
すなわち本発明は、以下の〔1〕~〔7〕に関する。
【0008】
〔1〕 量子ドット(A)及び溶剤(B)を含むインク組成物であって、前記量子ドット(A)は、下記一般式(1)で示される処理剤で表面処理された半導体微粒子である、インク組成物。
一般式(1): X(SH)n
[一般式(1)中、nは2~6の整数であり、Xはエーテル結合、エステル結合、スルフィド結合及びカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む2~6価の連結基である。]
【0009】
〔2〕 前記半導体微粒子が化合物半導体である、〔1〕に記載のインク組成物。
【0010】
〔3〕 前記半導体微粒子がコア・シェル型であり、前記一般式(1)で示される処理剤でシェル表面が処理されてなる、〔1〕又は〔2〕に記載のインク組成物。
【0011】
〔4〕 前記一般式(1)におけるXが、エーテル結合及びエステル結合からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む2~6価の連結基である、〔1〕~〔3〕いずれか1項に記載のインク組成物。
【0012】
〔5〕 前記溶剤(B)が、溶解度パラメータ値(SP値)が8~13である溶剤を含む、〔1〕~〔4〕いずれか1項に記載のインク組成物。
【0013】
〔6〕 インクジェット方式で用いられる、〔1〕~〔5〕いずれか1項に記載のインク組成物。
【0014】
〔7〕 〔1〕~〔6〕いずれか1項に記載のインク組成物を用いて形成される印刷物。
【発明の効果】
【0015】
本発明に示すように、半導体微粒子間が特定の構造を有する連結基によって結合された量子ドットを用いることにより、優れた蛍光量子収率とブリード抑制を可能とし、さらに、量子ドットの分散安定性に優れた吐出性の高いインクジェットインキに最適なインク組成物を提供することができる。また、優れた蛍光量子収率とブリード抑制とを可能とした印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のインク組成物は、量子ドット(A)及び溶剤(B)を含み、前記量子ドット(A)が、前記一般式(1)で示される、エーテル結合、エステル結合、スルフィド結合及びカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む2~6価の連結基でチオール基が結合したチオール基含有化合物である処理剤で表面処理された半導体微粒子であることを特徴とする。以下、本発明を詳細に説明する。なお、特段記載のない限り、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0017】
<量子ドット(A)>
本発明の量子ドット(A)は、下記一般式(1)で示される処理剤で表面処理された半導体微粒子である。
一般式(1): X(SH)n
[一般式(1)中、nは2~6の整数であり、Xはエーテル結合、エステル結合、スルフィド結合及びカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む2~6価の連結基である。]
【0018】
[半導体微粒子]
半導体微粒子は、主に無機物を成分とする半導体であり、単一組成でも、コア・シェル型でも、3層以上の複数層になっていてもよい。
半導体は、周期表1族元素、2族元素、10族元素、11族元素、12族元素、13族元素、14族元素、15族元素、16族元素及び17族元素で示される元素の群から選ばれる少なくとも2種以上の元素を含む化合物からなる半導体である。より好ましくは化合物半導体であり、化合物半導体は、H、K、Rb、Cs、Cu、Ag、Zn、Cd、Hg、B、Al、Ga、In、Tl、C、Si、Ge、Sn、N、P、As、Sb、Pb、O、S、Se、Te、F、Cl、Br及びIで示される元素群から選ばれる少なくとも2種の元素を含む化合物からなる半導体であり、具体的にはCuCl、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、MgTe、GaAs、GaP、GaSb、GaN、HgS、HgSe、HgTe、InAs、InP、InSb、InN、AlAs、AlP、AlSb、AlS、PbS、PbSe、Ge、Si、CuInS2、AgInS2、Si、Ge、Pb、InGaP、CH3NH3PbF3、CH3NH3PbCl3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbI3、CsPbF3、CsPbCl3、CsPbBr3、CsPbI3、RbPbF3、RbPbCl3、RbPbBr3、RbPbI3、KPbF3、KPbCl3、KPbBr3、KPbI3などが挙げられる。さらに好ましくは、人に対する安全性が懸念される元素を除いた、H、K、Rb、Cs、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、N、P、O,S,Te、Cl、Br及びIで示される元素群から選ばれる少なくとも2種の元素を含む化合物からなる半導体である。
可視光を発光する用途では、バンドギャップの狭さからInを構成元素として含む半導体が、さらに好ましい。
【0019】
コア・シェル型の半導体微粒子はコアを形成する半導体と異なる成分からなる半導体でコア構造を被覆された構造となる。外部がバントギャップの大きい半導体をすることで、光励起によって生成された励起子(電子-正孔対)はコア内に閉じ込められる。その結果、半導体微粒子表面での無輻射遷移の確率が減少し、発光の量子収率及び半導体量子ドットの蛍光特性の安定性が向上するため好ましい。
【0020】
半導体微粒子の平均粒径は0.5nm~100nmであることが好ましく、所望の発色が得られる粒径を選択することができる。コア・シェル型の場合、一つの半導体微粒子の中に複数のシェル微粒子を含有してもよい。単一半導体組成である場合の半導体微粒子の平均粒径及び、コア・シェル型のコアの平均粒径は0.5nm~10nmであることが好ましい。平均粒径が0.5nm未満となる合成は困難であり、また、10nmを超えると量子閉じ込め効果が得られず、求める蛍光が得られない場合がある。
【0021】
量子ドットは、平均粒径が2nm~1μmであることが好ましい。量子ドットの形状は、球状に限らず、棒状、円盤状、そのほかの形状であっても良い。
【0022】
半導体微粒子は、コア・シェル型であり、一般式(1)で示される処理剤でシェル表面が処理されてなることが好ましい。
【0023】
[一般式(1)で示される処理剤]
一般式(1)で示される処理剤は、前述のとおり、エーテル結合、エステル結合、スルフィド結合及びカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む2~6価の連結基でチオール基が結合してなることを特徴とするチオール基含有化合物である。
このような連結基としては、より好ましくは、エーテル結合及びエステル結合からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む連結基であり、特に好ましくはエステル結合を含む連結基である。
上記連結基はさらに、アルキレン基及びアリーレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を含むことが好ましく、より好ましくは、アルキレン基を含むものである。
すなわち、上記連結基の具体例として好ましくは、アルキレン基及びアリーレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基と、エーテル結合、エステル結合、スルフィド結合及びカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を少なくとも含む2~6価の連結基であり、特に好ましくは、アルキレン基と、エステル結合と、を組み合わせてなる2~6価の連結基である。
また、ブリード抑制の観点では、半導体微粒子同士のより緻密な架橋構造を形成することから、連結基が3価以上であることが好ましい。また一般式(1)で示される処理剤中の複数のチオール基間の距離が短すぎると、チオール基と半導体微粒子との反応性が低下するため、ブリード抑制観点では、複数のチオール基間の距離は長い方が好ましく、量子収率の観点からも、複数のチオール基間の距離は長い方が、自己吸収が抑制され好ましい。
【0024】
アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、ヘキシレン基、ドデシレン基又はエイコシレン基等の直鎖アルキレン基が挙げられ、前記アルキレン基は、炭素数1~8のアルキル基で置換されていてもよく、また、一部の水素が脱落し2重結合を形成していてもよいし、環を形成していてもよい。炭素数1~6のアルキレン基が好ましく、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基である。
【0025】
アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、フェナントリレン基又はアントリレン基等が挙げられる。前記アリーレン基は、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル鎖、ヒドロキシル基、ハロゲン原子又はニトロ基のような置換基を有していてもよく、アリーレン基を構成する一部の炭素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子又は硫黄原子等に置換され、ヘテロアリーレン環となっていてもよい。炭素数6~20のアリーレン基が好ましく、より好ましくは炭素数6~8のアリーレン基である。
【0026】
一般式(1)で示される処理剤の具体例を下記表1、2に示す。また、一般式(1)で示される処理剤に類似の処理剤を表3に示す。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
<溶剤(B)>
本発明のインク組成物は、溶剤(B)を含有する。
溶剤(B)は有機溶剤であることが好ましく、インクジェットインキにおいて通常使用されている有機溶剤を用いることが好ましい。一般に、インクジェットインキに用いられる有機溶剤は、後述の、インクジェットインキが含んでもよい樹脂に対して高い溶解性を有するとともに、インクジェットプリンタからインクを吐出する際に、インクと接するプリンタ部材に対して膨潤作用が少なく、溶剤の粘度がなるべく低いものが好ましい。有機溶剤は、樹脂に対する溶解性、及びプリンタ部材に対する膨潤作用、粘度、及びノズルにおけるインクの乾燥性の点から選択され、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、エステル系溶剤、及びケトン系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を含むことが好ましい。これらは単独で、又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0031】
アルコール系溶剤としては、例えば、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、又はアミルアルコール等を挙げることができる。
【0032】
グリコール系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1-ブトキシエトキシプロパノール、又は1-メトキシ-2-プロピルアセテート等を挙げることができる。
【0033】
エステル系溶剤としては、例えば、乳酸エチル、乳酸プロパン、又は乳酸ブチル等を挙げることができる。
【0034】
ケトン系溶剤としては、例えば、シクロヘキサノン、エチルアミルケトン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、イソホロン、メチルシクロヘキサノン、又はアセトフェノン等を挙げることができる。
【0035】
好ましくは、粘度、ノズルにおけるインキの乾燥性、含有成分に対する溶解性及び装置部材に対する膨潤作用の点から、一般式(2)で表される溶剤(S-1)、及び一般式(3)で表される溶剤(S-2)及びアセテート構造を2つ以上持つ溶剤(S-3)からなる群から選ばれる、760mmHgでの沸点が120℃~260℃、好ましくは170℃以上の1種類以上の溶剤を含むことが好ましい。
一般式(2): R18-(O-C2H4)m-O-C(=O)-CH3
[一般式(2)中、R18は炭素原子数1~8のアルキル基であり、C2H4は直鎖若しくは分岐エチレン鎖であり、1≦m≦3である。]
一般式(3): R19-(O-C3H6)p-O-C(=O)-CH3
[一般式(3)中、R19は炭素原子数1~8のアルキル基であり、C3H6は直鎖若しくは分岐プロピレン鎖であり、1≦p≦3である。]
【0036】
溶剤(S-1)~(S-3)の具体例としては、例えばプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、トリアセチン等を挙げることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。中でも、好ましくはプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが、吐出安定性の点から好ましい。
【0037】
さらに好ましくは、760mmHgでの沸点が170℃以上の有機溶剤を、全溶剤(B)中60質量%以上含むことが吐出安定性やノズルにおけるインキの乾燥性の点から好ましい。
【0038】
また、溶剤のSP値は、好ましくは8~13である。本発明では、SP値は、分子構造から計算するFedorsの推算法によって算出し得る。
【0039】
<インク組成物>
本発明のインク組成物は、量子ドット(A)及び溶剤(B)を含む。本発明のインク組成物は、インクジェットインクとして特にインクジェット方式に好適に用いられる。
インク組成物には、印刷物への要求物性により、上記(A)及び(B)の他に、樹脂、架橋剤、重合性単量体、熱感応性物質、光感応性物質等のその他成分を添加することができる。本発明のインク組成物を印刷し、紫外線照射により、フォトリソグラフィー法によりパターニングする際には、光感応性物質、重合性単量体を添加して、ポジ型レジスト、又はネガ型レジストとして用いることができる。これらを単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0040】
[樹脂]
樹脂としては、石油系樹脂、マレイン酸樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、環化ゴム、塩化ゴム、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ビニル樹脂、又はブチラール樹脂等があげられ、基材により適時選択することができる。中でもアクリル樹脂が処理剤との親和性の観点で好ましい。
【0041】
[架橋剤]
架橋剤としては、架橋剤はメラミン化合物、ベンゾグアナミン化合物、アクリレート系モノマー、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、フェノール化合物、ベンゾオキサジン化合物、ブロック化カルン酸化合物、ブロック化イソシアネート化合物、及びシランカップリング剤からなる群から選ばれる化合物1種若しくは2種以上であることが耐熱耐性を持つ熱架橋性の架橋剤である点から好ましい。
【0042】
[重合性単量体]
重合性単量体には、紫外線や熱などにより硬化して樹脂を生成するモノマー若しくはオリゴマーが含まれ、これらを単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
重合性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、エステルアクリレート、メチロール化メラミンの(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート等の各種アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、スチレン、酢酸ビニル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、アクリロニトリル等を挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
これらの重合性化合物は、1種を単独で、又は必要に応じて任意の比率で2種以上混合して用いることができる。
【0043】
[熱感応性物質、光感応性物質]
熱感応性物質としては、熱重合開始剤が挙げられ、有機過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤等を挙げることができる。光感応性物質としては、光重合開始剤、光酸発生剤、光塩基発生剤が挙げられる。これら熱感応性物質及び光感応性物質は、1種を単独で又は必要に応じて任意の比率で2種以上混合して用いることができる。
【0044】
(光重合開始剤)
光重合開始剤としては、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、トリアジン系化合物、オキシムエステル系化合物、ホスフィン系化合物、キノン系化合物、ボレート系化合物; カルバゾール系化合物;イミダゾール系化合物;あるいは、チタノセン系化合物等が用いられる。
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、テトラヒドロチオフェニウム塩、 N-スルホニルオキシイミド化合物などが挙げられる。
【0045】
光重合開始剤及び/又は光酸発生剤は、インク組成物が後述の樹脂を含む場合、樹脂成分100部に対して、0.01部~20部であることが好ましい。0.01部未満であると硬化が不十分であり、20部より多い場合、光酸発生剤由来の着色や他の諸物性の低下を招く。
【0046】
光塩基発生剤としては、複素環基含有光塩基発生剤、2-ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、[[(2,6-ジニトロベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミン、ビス[[(2-ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]ヘキサン-1,6-ジアミン、トリフェニルメタノール、o-カルバモイルヒドロキシルアミド、o-カルバモイルオキシム、ヘキサアンミンコバルト(III)トリス(トリフェニルメチルボレート)などが挙げられる。
【0047】
(増感剤)
さらに、インク組成物は、増感剤を含有してもよい。増感剤としては、カルコン誘導体、ジベンザルアセトン等に代表される不飽和ケトン類、ベンジルやカンファーキノン等に代表される1,2-ジケトン誘導体、ベンゾイン誘導体、フルオレン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、キサンテン誘導体、チオキサンテン誘導体、キサントン誘導体、チオキサントン誘導体、クマリン誘導体、ケトクマリン誘導体、シアニン誘導体、メロシアニン誘導体、オキソノ-ル誘導体等のポリメチン色素、アクリジン誘導体、アジン誘導体、チアジン誘導体、オキサジン誘導体、インドリン誘導体、アズレン誘導体、アズレニウム誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、テトラフェニルポルフィリン誘導体、トリアリールメタン誘導体、テトラベンゾポルフィリン誘導体、テトラピラジノポルフィラジン誘導体、フタロシアニン誘導体、テトラアザポルフィラジン誘導体、テトラキノキサリロポルフィラジン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、ピリリウム誘導体、チオピリリウム誘導体、テトラフィリン誘導体、アヌレン誘導体、スピロピラン誘導体、スピロオキサジン誘導体、チオスピロピラン誘導体、金属アレーン錯体、有機ルテニウム錯体、又はミヒラーケトン誘導体、α-アシロキシエステル、アシルフォスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン、エチルアンスラキノン、4,4’-ジエチルイソフタロフェノン、3,3’,又は4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。これらの増感剤は、1種を単独で、又は必要に応じて任意の比率で2種以上混合して用いることができる。
【0048】
上記その他成分の含有量は、所望の量子ドット濃度によるが、量子ドット1質量部に対し、その他成分0~100質量部であることが好ましい。100質量部を超えると量子ドット含有率が低くなり、十分な蛍光強度が得られない場合がある。
【0049】
インク組成物がインクジェット方式で用いられる場合、インクジェットインクの粘度は、2-40mPa・sであることが好ましく、より好ましくは4-20mPa・sである。粘度が高すぎると、連続吐出の際の吐出安定性が低下する場合がある。
【0050】
インク組成物がインクジェット方式で用いられる場合、インクジェットインキの表面張力は、20-40mN/mが好ましく、24-35mN/mがより好ましい。表面張力が高すぎるとヘッドからインクが安定して吐出することができず、逆に表面張力が低すぎるとヘッドから吐出後インクが液滴を形成することができなくなる場合がある。
【0051】
<印刷物>
本発明の印刷物はインクジェット印刷方式によって作製されることが好ましい。インクジェット印刷方式として、記録媒体に対しインクジェットインキを1回だけ吐出して記録するシングルパス方式、及び、記録媒体の最大記録幅の間を、記録媒体の搬送方向と直行する方向に短尺のシャトルヘッドを往復走査させながら記録を行うシリアル型方式の何れを採用しても良い。またインクジェット記録装置としては、インクジェットインキを吐出するインクジェットヘッド(インク吐出手段)と、インクジェットヘッドから吐出されたインクを乾燥させる乾燥工程を備える必要がある。インクジェットヘッドからインキが吐出されると、吐出されたインキは印刷基材上に着弾し画像が記録され、画像は印刷基材が搬送されるに従い、乾燥装置内に搬送され、乾燥処理が行われる。
【0052】
インクジェット法には特に制限は無く、公知の方法、例えば静電誘引力を利用してインキを吐出させる電荷制御方法、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインキに照射して放射圧を利用しインキを吐出させる音響インクジェット方式、及びインキを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等の何れであっても良い。
【0053】
またインクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニアス方式でも構わない。さらに吐出法式としては、電気‐機械変換方式(例:シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアモード型、シェアードウォール型等)、電気‐熱変換方式(例:サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例:電解制御型、スリットジェット型等)、及び放電方式(例:スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げる事ができるが、何れの吐出方式を用いても構わない。なお、インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択する事ができる。
【0054】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、乾燥負荷軽減効果が大きく、画像品質の向上という点でも、0.2~20ピコリットル(pL)が好ましく、1~15ピコリットル(pL)がより好ましい。
【0055】
<記録媒体>
本発明のインク組成物、及び前記インク組成物を含むインキセットを印刷する基材は特に限定されないが、上質紙、コート紙、アート紙、キャスト紙、合成紙の様な紙基材、ポリカーボネート、硬質塩ビ、軟質塩ビ、ポリスチレン、発泡スチロール、PMMA、ポリプロピレン、ポリエチレン、PETの様なプラスチック基材、ステンレスなどの金属基材、ガラス、木材等が使用できる。本発明のインクジェットインキ、及び前記インクジェットインキを含むインキセットは、吸収層を有する専用用紙やコピー用紙のような紙基材だけでは無く、産業用印刷物に一般的に使用されている、コート紙、アート紙や塩化ビニルシートなどの難吸収性基材にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。また、重量平均分子量は、GPCを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた。
【0057】
<量子ドット含有組成物の製造>
(量子ドット含有組成物QD-0の合成)
無水酢酸亜鉛0.55部、ドデカンチオール7.0部、オレイルアミン5.0部を加熱溶解し添加液を作成した。別途、塩化インジウム0.22部、オクチルアミン8.25部を反応容器に入れ、窒素バブリングを行いながら、165℃に加熱した。塩化インジウムが溶解した後、ジエチルアミノホスフィン0.86部を短時間で注入し、20分間165℃に制御した。その後、急冷し、40℃に冷却した。上記添加液を注入し、240℃2時間加熱した後に、室温まで放冷した。放冷後、ヘキサンとエタノールを用いて再沈殿法で精製を行った。トルエンを用いて、固形分濃度10%に調製し、ドデカンチオールで表面処理された量子ドット含有組成物QD-0を得た。
【0058】
(量子ドット含有組成物(QD-1))
量子ドット含有組成物QD-0を、トルエンを用いて固形分濃度1%に希釈した。希釈した液と同量の5%処理剤1のトルエン溶液を添加し、12時間撹拌した。トルエンとエタノールを用いて再沈殿法で精製を行った。トルエンを用いて、固形分濃度10%に調製し、処理剤1で表面処理された量子ドット含有組成物(QD-1)を得た。
【0059】
(量子ドット含有組成物(QD-2~11))
処理剤を表4に示す処理剤2~11に変更した以外は、QD-1と同様にして、量子ドット含有組成物QD-2~11を調製した。
【0060】
(量子ドット含有組成物(QD-12~16))
処理剤を表4に示す化合物に変更した以外は、QD-1と同様にして、量子ドット含有組成物QD-12~16を調製した。
【0061】
処理剤1~17の構造は、表1~3に示したものと同じである。
【表4】
【0062】
<樹脂溶液の製造>
(樹脂溶液1)
セパラブル4口フラスコに温度計、冷却管、窒素ガス導入管、撹拌装置を取り付けた反応容器にキシレン70.0部を仕込み、80℃に昇温し、反応容器内を窒素置換した後、滴下管よりn-ブチルメタクリレート18.0部、メタクリル酸メチル12.0部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間反応を継続し、重量平均分子量(Mw)26,000のアクリル樹脂の溶液を得た。室温まで冷却した後、樹脂溶液約2gをサンプリングして180℃、20分加熱乾燥して固形分濃度を測定し、先に合成した樹脂溶液に固形分濃度が10質量%になるようにキシレンを添加して、アクリル樹脂の樹脂溶液1を得た。
【0063】
(樹脂溶液2)
セパラブル4口フラスコに温度計、冷却管、窒素ガス導入管、撹拌装置を取り付けた反応容器にキシレン70.0部を仕込み、80℃に昇温し、反応容器内を窒素置換した後、滴下管よりn-ブチルメタクリレート14.0部、メタクリル酸メチル10.0部、スチレン6.0部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に3時間反応を継続し、重量平均分子量(Mw)26,000のアクリル樹脂の溶液を得た。室温まで冷却した後、樹脂溶液約2gをサンプリングして180℃、20分加熱乾燥して固形分濃度を測定し、先に合成した樹脂溶液に固形分濃度が10質量%になるようにキシレンを添加して、アクリル樹脂の樹脂溶液2を得た。
【0064】
(樹脂溶液3の調製)
ブチラール樹脂エスレックBL-S(積水化学製)を固形分濃度10%となるようにトルエンに溶解し、樹脂溶液3を得た。
【0065】
(樹脂溶液4の調製)
ノルボルネン200部、シクロペンテン50部、1-ヘキセン180部及びトルエン750部を、窒素置換した反応容器に仕込み、60℃に加熱した。これに、トリエチルアルミニウム(1.5モル/l)のトルエン溶液0.62部、tert-C4H5OH/CH3OHで変性(tert-C4H9OH/CH3OH/W=0.35/0.3/1;モル比)したWCl6溶液(濃度0.05モル/l)3.7部を加え、80℃で3時間加熱攪拌して、開環重合反応、水素添加反応を行い、次いでトリメチルベンゼンを用いて固形分濃度を10%に調製して、樹脂溶液4を得た。
【0066】
<インク組成物の調製>
[実施例1](インクジェットインキ1)
密閉できる容器に、量子ドット含有組成物(QD-1)5部、樹脂溶液1を5部、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート5部、順番で計量し、その後、密閉して3分間振盪してインクジェットインキ1を調製した。
【0067】
[実施例2~11、比較例1~6](インクジェットインキ0、2~16)
密閉できる容器に、表5に示した配合組成にて、量子ドット含有組成物、樹脂溶液、溶剤の順番で計量した以外は、インクジェットインキ1と同様にしてインクジェットインキ0、2~16を調製した。
【0068】
【0069】
以下に、表5中の略称を示す。
PGMAc:プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点147℃、SP値8.7)
DBCA:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点247℃、SP値8.9)
【0070】
<インク組成物の評価>
得られたインクジェットインキについて、以下の評価を実施した。結果を表6に示す。
【0071】
[粘度測定]
得られたインクジェットインキについて、動的粘弾性測定装置により、25℃におけるずり速度100(1/s)の粘度(η:mPa・s)を測定した。
【0072】
[インキ外観]
得られたインクジェットインキの外観を、下記基準で目視評価した。
○:濁りなく透明な状態 :実用上使用可能
△:濁りが生じている :実用上使用不可
×:析出物が生じていている :不良
【0073】
[IJ吐出性]
得られたインクジェットインキを用いて、下記条件で印刷試験を行った。得られた印刷物及び吐出状況について、下記基準で評価を行った。
(印刷条件)
印刷機DimatixMaterialsPrinter
カートリッジ10DimatixMaterialsCartriges、10pL
印刷パターン1mm間隔の格子模様
基板丸カバーガラス・松浪ガラス工業製
基板温度30℃
印刷後乾燥40℃20分
(評価基準)
○:印刷パターン通りに吐出できた :良好
×:ノズル詰りが発生した :不良
【0074】
[ブリード性評価]
得られたインクジェットインキを、ホウケイ酸ガラス基板上に、バーコーターを用いて乾燥後膜厚が2μm程度の塗膜になるように塗布した。塗布物は40℃で10分間乾燥させ、2cm×2cmの大きさに切断した。得られた塗布物をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)溶剤100mLに浸漬し、40℃で6時間静置した。塗布物を取り出した後、使用した溶媒を1cm角蛍光セルに入れ、下記条件で蛍光強度を測定し、下記基準で評価した。また、同様にして、トルエン、N-メチルピロリドン(NMP)溶剤でも評価した。実用上、当該条件で量子ドットの蛍光強度が500未満である事が必要である。
(測定条件)
測定機:日立蛍光光度計 F-2500
励起波長:400nm 蛍光積分範囲: 415-800nm
スキャンスピード:300nm/min
励起側スリット: 2.5nm、 蛍光側スリット: 2.5nm
使用セル:1cm角セル
(評価基準)
◎:蛍光強度が100未満 :良好
○:蛍光強度が100以上500未満 :実用上使用可能
△:蛍光強度が500以上1000未満 :実用上使用不可
×:蛍光強度が1000以上 :不良
【0075】
[量子効率評価]
前記IJ吐出で得られたインクジェット印刷物の量子収率(QY-1)を下記条件下で測定した。また、インクジェット印刷物を温度23℃、湿度50%RH、暗所の条件下で2週間経過させた後の量子収率(QY-2)を同様にして測定し、QY-1を1としたときのQY-2の比率をQY維持率として算出した。QY維持率は、1に近い方が好ましく、0.6以上であれば実用上使用可能である。比較例1~7はインクジェット吐出性が不良であったため、量子効率評価に至らなかった。
(測定条件)
測定機:絶対PL量子収率測定装置C9920-02
励起波長:400nm積分範囲 375-425nm
蛍光積分範囲:430-800nm
【0076】
【0077】
本発明の処理剤を用いた量子ドットを含むインク組成物は、量子収率(QY)及びIJ印刷吐出性が高く、溶剤浸漬に対するブリード抑制されている事が示された。実施例1~11および比較例1~6の処理剤はいずれも多官能チオール構造を有するが、インキ外観およびIJ吐出性は実施例1~11が優れる。これは、実施例1~11に用いた処理剤1~11は分子内に、エーテル結合、エステル結合、スルフィド結合及びカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む2~6価の連結基を有するため、これらの構造の極性が溶剤との親和性を上昇させ、量子ドットの分散安定性に寄与したためであると考えられる。
実施例1~11では、量子ドットの塗膜からのブリードが抑制されており、多官能チオールにより量子ドット間が架橋され、自由度が低減し、塗膜中に固定されるため、ブリードが抑制されると考えられる。
処理剤3、7を用いた実施例3、7ではQYが特に高いが、これは、処理剤3、7はチオール間の距離が長い事により量子ドット間の距離も長くなり、自己吸収が抑制されるためであると考えられる。