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特許7230398犠牲層用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】犠牲層用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20230221BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08G73/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018180204
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020050734
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有本 真治
(72)【発明者】
【氏名】岡沢 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健典
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152906(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105676(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105675(WO,A1)
【文献】特開2018-104599(JP,A)
【文献】特開2017-141317(JP,A)
【文献】特開昭61-181829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08G73/00- 73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)ヒドロキシ基を樹脂全体の~30質量%含むポリイミド樹脂および(B)溶媒を含有する犠牲層用樹脂組成物であって、
前記犠牲層用樹脂組成物を用いて形成した犠牲層の厚み1μmでの波長355nmにおける光透過率が12.2%以上35.1%以下である、犠牲層用樹脂組成物
【請求項2】
前記(A)ヒドロキシ基を樹脂全体の~30質量%含むポリイミド樹脂が、一般式(1)で表されるジアミンの残基を含む請求項1に記載の犠牲層用樹脂組成物。
【化1】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30のフルオロアルキル基、水素、ハロゲン、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、フェニル基、スルホン基、ニトロ基およびシアノ基から選ばれる基を示す。aおよびbはそれぞれ1~3の整数を示す。Xは直接結合、または下記の結合構造を示す。)
【化2】
【請求項3】
前記(A)ヒドロキシ基を樹脂全体の~30質量%含むポリイミド樹脂が、一般式(2)で表されるジアミンの残基を含む請求項1または2に記載の犠牲層用樹脂組成物。
【化3】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30のフルオロアルキル基、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、スルホン基、ニトロ基およびシアノ基から選ばれる基を示す。cおよびdはそれぞれ0~2の整数を示し、c+d=2である。)
【請求項4】
前記(B)溶媒が一般式(3)または一般式(4)で表される化合物を含む請求項1~3のいずれかに記載の犠牲層用樹脂組成物。
【化4】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基または水素から選ばれる基を示す。Rは水素または水酸基を示す。RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基から選ばれる基を示す。)
【化5】
(R10~R13はそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基または水素から選ばれる基を示す。)
【請求項5】
少なくとも(1)支持基板の一方の面に請求項1~4のいずれかに記載の犠牲層用樹脂組成物を塗布し、犠牲層を形成する工程、(2)犠牲層上に少なくとも半導体電子部品を形成する工程、(3)犠牲層が形成された支持基板から半導体電子部品を剥離する工程、をこの順に有する半導体電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記(2)犠牲層上に少なくとも半導体電子部品を形成する工程に、200~500℃で熱処理する工程を含む請求項5に記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記(3)犠牲層が形成された支持基板から半導体電子部品を剥離する工程が、支持基板の犠牲層が形成されていない側から支持基板を通して犠牲層へレーザー照射して半導体電子部品を剥離する工程である請求項5または6に記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記レーザー照射に用いられるレーザーの波長領域が、200~400nmである請求項7に記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記レーザー照射に用いられるレーザーの波長が、266nm、308nm、343nm、351nm、355nmの少なくともいずれかである請求項8に記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記犠牲層の厚み1μmでの波長355nmにおける光透過率の最小値が40%以下である請求項5~9のいずれかに記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記支持基板の波長308nmにおける光透過率が、40~100%である請求項5~10のいずれかに記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記(3)犠牲層が形成された支持基板から半導体電子部品を剥離する工程が、有機溶媒またはアルカリ水溶液で犠牲層を溶解させて、半導体電子部品を剥離する工程である請求項5または6に記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項13】
前記(3)犠牲層が形成された支持基板から半導体電子部品を剥離する工程の後に、(4)犠牲層を有機溶媒または、アルカリ水溶液で除去する工程を有する請求項5~11のいずれかに記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項14】
前記有機溶媒がモノエタノールアミンを含有する請求項12または13に記載の半導体電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は犠牲層用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法に関する。より詳しくは、犠牲層上に半導体電子部品を製造する工程において、200~500℃の耐熱性を有し、その後、半導体電子部品を剥離することができ、さらにその後、温和な条件で除去することができる犠牲層用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体電子部品の高性能化に伴い、半導体チップの小型化、高集積化が求められており、半導体チップの外部接続用の電極(端子、バンプ)の数は多くなる傾向にある。そのため半導体チップの外部接続用の電極のピッチは小さくなる傾向にあるが、微細なピッチのバンプを回路基板上に直接実装するのは容易ではない。
【0003】
上記のような課題に対して、半導体チップの外周に、電極に接続された再配線層を形成し、バンプのピッチを大きくするファンアウト型ウエハレベルパッケージ(FO-WLP)が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
特許文献1は、支持基板上に、再配線層を形成し、その後、バンプを介して半導体チップと当該再配線層を接続する方法である。
【0005】
特許文献2は、犠牲層を形成した支持基板上に、複数の半導体チップを仮固定後、当該半導体チップを封止材で埋め込み、その後、封止材を研削することによって露出した半導体チップ表面に再配線層を形成する方法である。
【0006】
ファンアウト型ウエハレベルパッケージのように、支持基板上に半導体電子部品を製造する方法では、作成した半導体電子部品を破損することなく支持基板から剥離する工程が必要である。特許文献1では、支持基板として用いた金属基板をウエットエッチングで溶解除去する方法が提案されている。特許文献2では、支持基板に、アクリル系材料の犠牲層を形成したガラス基板を用い、ガラス基板側から犠牲層にレーザーを照射して半導体電子部品を剥離する方法が提案されている。
【0007】
半導体電子部品に広く用いられる耐熱性樹脂の一つとして、ポリイミド系材料が知られている。前記アクリル系材料の代替品としてポリイミド系材料を用いた場合、200℃~500℃の熱処理工程でボイドが発生する問題はないが、その後、高温の有機溶剤などで除去する必要があり、容易に除去できない問題がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-94003号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開2017-98481号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開平3-227009号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、金属基板をウエットエッチングで溶解除去する方法は、エッチング時間が長く、さらに、コストが高くなる問題がある。また、アクリル系材料の耐熱性は150℃程度であり、半導体電子部品の製造工程に、200℃~500℃の熱処理工程がある場合、犠牲層でボイドが発生する問題や、熱処理工程で犠牲層が変質して、その後に除去できない問題がある。
【0010】
かかる状況に鑑み、本発明の目的は、犠牲層上に半導体電子部品を製造する工程において、200~500℃の耐熱性を有し、その後、半導体電子部品を剥離することができ、さらにその後、温和な条件で除去することができる犠牲層用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、少なくとも(A)ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を樹脂全体の1~30質量%含むポリイミド樹脂および(B)溶媒を含有する犠牲層用樹脂組成物である。
【0012】
また、少なくとも(1)支持基板の一方の面に前記犠牲層用樹脂組成物を塗布し、犠牲層を形成する工程、(2)犠牲層上に少なくとも半導体電子部品を形成する工程、(3)犠牲層が形成された支持基板から半導体電子部品を剥離する工程、をこの順に有する半導体電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、犠牲層上に半導体電子部品を製造する工程において、200~500℃の耐熱性を有し、その後、半導体電子部品を剥離することができ、その後、温和な条件で除去することができる犠牲層用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、犠牲層とは、後工程で除去することを前提に形成した層のことを言う。本発明は、少なくとも(A)ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を樹脂全体の1~30質量%含むポリイミド樹脂および(B)溶媒を含有する犠牲層用樹脂組成物である。
【0015】
本発明の(A)ポリイミド樹脂は、(A)ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を樹脂全体の1~30質量%含む。(A)ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基の含有量が1質量%以上であると、犠牲層を温和な条件で除去する事ができる。好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上である。一方、30質量%以下であると、ポリイミド樹脂の構造が剛直になり、200~500℃の熱処理工程でボイドの発生を防ぐことができる。好ましくは20質量%以下である。有機溶剤への溶解性の観点から、ヒドロキシ基が好ましい。
【0016】
ポリイミド樹脂中のヒドロキシ基およびカルボキシル基の含有量は、合成に用いられる全成分中のヒドロキシ基およびカルボキシル基の含有量から算出することができる。
【0017】
具体的な方法としては、下記のとおりである。
(1) ポリイミド樹脂の重合に用いた全原料の質量を計算する。
(2) ポリイミド樹脂の重合工程およびキュア工程で発生する水の質量を計算する。
(3) (1)-(2)を計算し、ポリイミド樹脂の質量を求める。
(4) ポリイミド樹脂に含まれるヒドロキシ基または、カルボキシル基の質量を計算する。
(5) (3)と(4)の商より、ヒドロキシ基または、カルボキシル基の含有量を算出する。
【0018】
また、(A)ポリイミド樹脂は、加熱により閉環しポリイミドとなるポリイミド前駆体であっても、加熱により閉環したポリイミドであっても、ポリイミド樹脂の一部が加熱により閉環したポリイミド前駆体であってもよい。
【0019】
また、(A)ポリイミド樹脂は、芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物残基と、芳香族環を含むジアミン残基を有することが好ましい。芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物残基とジアミン残基を有することで、ポリイミド樹脂の構造が剛直になり、耐熱性が向上するため、200~500℃の熱処理工程でボイドの発生を防ぐことができる。
【0020】
芳香族環を含むジアミンの具体例としては、2,5-ジアミノフェノール、3,5-ジアミノフェノール、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルプロパン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルプロパンメタン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノベンゾフェノン、1,3-ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、ビス(4-(4-アミノ-3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン)プロパン、ビス(4-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン)スルホン、ビス(4-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェノキシ))ビフェニル、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,6-ジアミノ安息香酸、2-メトキシ-1,4-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノベンズアニリド、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3,5-ジメチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-メトキシ-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-カルボン酸、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-メチル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-メトキシ、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-エチル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-スルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-3-カルボン酸、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-3-メチル、1,3-ジアミノシクロヘキサン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,4-ジアミノピリジン、2,6-ジアミノピリジン、1,5-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノフルオレン、p-アミノベンジルアミン、m-アミノベンジルアミン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルサルファイド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。上記芳香族ジアミンは単独でもよく、2種以上を使用してもよい。
【0021】
これら芳香族ジアミンの中でも、ヒドロキシ基または、カルボキシル基を有する芳香族ジアミンが好ましい。ヒドロキシ基または、カルボキシル基を有する芳香族ジアミンを含むことで、(A)ポリイミド樹脂にヒドロキシ基または、カルボキシル基を導入する事ができ、犠牲層の溶解性が向上し、犠牲層を温和な条件で除去する事ができる。より好ましくは一般式(1)で表される芳香族ジアミン化合物である。
【0022】
【化1】
【0023】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30のフルオロアルキル基、水素、ハロゲン、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、フェニル基、スルホン基、ニトロ基およびシアノ基から選ばれる基を示す。aおよびbはそれぞれ1~3の整数を示す。Xは直接結合、または、下記の結合構造を示す。)
【0024】
【化2】
【0025】
また、一般式(1)で表される化合物のXの構造は、犠牲層の溶解性の観点から下記の結合構造が好ましい。
【0026】
【化3】
【0027】
また、本発明の(A)ポリイミド樹脂は、芳香族ジアミンとして、一般式(2)で表される化合物の残基を含むことが好ましい。一般式(2)で表される化合物の残基を含むことで、320nm~400nmの波長域における光透過率を下げることができるため、同波長域のレーザー照射により、半導体電子部品を剥離することができる。
【0028】
【化4】
【0029】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30のフルオロアルキル基、水素、ハロゲン、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、スルホン基、ニトロ基およびシアノ基から選ばれる基を示す。cおよびdはそれぞれ0~2の整数を示し、c+d=2である。)
本発明では、一般式(2)で表される芳香族ジアミンを単独で使用してもよく、一般式(2)で表される芳香族ジアミンと、一般式(1)で表される芳香族ジアミンを組み合わせて使用してもよい。
【0030】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、2,6-ジアミノアントラキノン、1,4-ジアミノアントラキノン、1,5-ジアミノアントラキノン、1,8-ジアミノアントラキノン、1,4-ジアミノ-2,3-ジクロロアントラキノン、1,5-ジアミノ-4,8-ジヒドロキシアントラキノン、1,4-ジアミノ-2,3-ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。コストの観点から、2,6-ジアミノアントラキノン、1,4-ジアミノアントラキノン、1,5-ジアミノアントラキノン、1,8-ジアミノアントラキノンが好ましい。より好ましくは、光透過率の低下が大きい2,6-ジアミノアントラキノンである。
【0031】
本発明の(A)ポリイミド樹脂では、芳香族ジアミンとして、一般式(2)で表される化合物の残基の含有量は、全ジアミン残基中5モル%以上、60モル%以下が好ましい。5モル%以上含有することで、320nm~400nmの波長域における光透過率を下げ、同波長域のレーザー照射により、半導体電子部品を剥離することができる。より好ましくは10モル%以上である。また、ポリイミド樹脂の溶解性の観点から、60モル%以下が好ましく、より好ましくは40モル%以下である。
本発明の(A)ポリイミド樹脂では、芳香族環を含むジアミン残基の含有量は、耐熱性の観点から、全ジアミン残基中80モル%以上、100モル%以下が好ましい。
【0032】
また、(A)ポリイミド樹脂の耐熱性を損なわない程度に脂環式ジアミンまたは、シリコン原子含有ジアミンの残基を有してもよい。これらのジアミンの例としては、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、3,3’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシル、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アニリノ)テトラメチルジシロキサンなどを挙げることができる。これらのジアミンは単独でもよく、2種以上用いてもよい。
【0033】
一方、芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’ジメチル-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、5,5’ジメチル-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルメチレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-イソプロピリデンジフタル酸無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3”,4,4”-パラターフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3”,4,4”-メタターフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。上記芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物は単独でもよく、2種以上使用してもよい。
【0034】
これら芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物の中でも、ピロメリット酸二無水物を含むことが好ましい。ピロメリット酸二無水物を含むことで、ポリイミド樹脂が剛直になり、耐熱性が向上するため、200~500℃の熱処理工程でボイドの発生を防ぐことができる。また、芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物の中で最も分子量が低いため、ヒドロキシ基または、カルボキシル基を有する芳香族ジアミンと組み合わせることで、ポリイミド樹脂のヒドロキシ基または、カルボキシル基の含有量を高くすることができ、犠牲層を温和な条件で除去する事ができる。
【0035】
本発明の(A)ポリイミド樹脂は、芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物の残基の含有量は、耐熱性の観点から、全テトラカルボン酸二無水物残基中80モル%以上、100モル%以下が好ましい。
【0036】
また、(A)ポリイミド樹脂の耐熱性を損なわない程度に脂肪族環を持つテトラカルボン酸二無水物を含有させることができる。脂肪族環を持つテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ビシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオンが挙げられる。上記テトラカルボン酸二無水物は単独でもよく、2種以上を使用してもよい。
【0037】
また、(A)ポリイミド樹脂の分子量の調整は、合成に用いるテトラカルボン酸成分およびジアミン成分を等モルにする、またはいずれかを過剰にすることにより行うことができる。テトラカルボン酸成分またはジアミン成分のどちらかを過剰とし、ポリマー鎖末端を酸成分またはアミン成分などの末端封止剤で封止することもできる。酸成分の末端封止剤としてはジカルボン酸またはその無水物が好ましく用いられ、アミン成分の末端封止剤としてはモノアミンが好ましく用いられる。このとき、酸成分またはアミン成分の末端封止剤を含めたテトラカルボン酸成分の酸当量とジアミン成分のアミン当量を等モルにすることが好ましい。
【0038】
テトラカルボン酸成分が過剰、あるいはジアミン成分が過剰になるようにモル比を調整した場合は、安息香酸、無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、アニリンなどのジカルボン酸またはその無水物、モノアミンを末端封止剤として添加してもよい。
【0039】
本発明において、ポリイミド共重合体およびポリイミド樹脂のテトラカルボン酸成分/ジアミン成分のモル比は、樹脂組成物の粘度が塗工等において使用し易い範囲になるように、適宜調整することができ、100/100~100/95、あるいは100/100~95/100の範囲でテトラカルボン酸成分/ジアミン成分のモル比を調整することが一般的である。モルバランスを崩していくと、樹脂の分子量が低下し、形成した膜の機械的強度が低くなり、粘着力も弱くなる傾向にあるので、粘着力が弱くならない範囲でモル比を調整することが好ましい。
【0040】
本発明の(A)ポリイミド樹脂を重合する方法には特に制限は無い。例えば、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を重合する時は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを有機溶剤中、0~100℃で1~100時間撹拌してポリアミド酸樹脂溶液を得る。ポリイミド樹脂が有機溶媒に可溶性となる場合には、ポリアミド酸を重合後、そのまま温度を120~300℃に上げて1~100時間撹拌し、ポリイミドに変換し、ポリイミド溶液を得る。この時、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンなどを反応溶液中に添加し、イミド化反応で出る水をこれら溶媒と共沸させて除去しても良い。
【0041】
本発明の犠牲層用樹脂組成物に含有する(A)ポリイミド樹脂の濃度は、塗布性の観点から通常5~80質量%が好ましく、さらに好ましくは10~70質量%であることが好ましい。 本発明の犠牲層用樹脂組成物は、(B)溶媒を含有する。
ポリイミド樹脂の重合では、溶解性の観点から、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用することが多い。しかしながら、NMPは生体への影響が懸念される。さらに、大気圧下での沸点が202℃と高いため、ポリイミド樹脂のキュア工程で溶媒が十分に揮発せず、犠牲層の耐熱性が低下する問題がある。
【0042】
本発明の(B)溶媒は、大気圧下での沸点が150~180℃であることが好ましい。大気圧下での沸点が180℃以下であれば、ポリイミド樹脂のキュア工程で溶媒が十分に揮発し、犠牲層の耐熱性を向上することができる。また、大気圧下での沸点が150℃以上であれば、重合溶媒として好適に用いることができ、さらに、重合溶液を除去することなく、犠牲層用樹脂組成物に含まれる(B)溶媒とすることもできる。
【0043】
また、(B)溶媒は、ポリイミド樹脂の溶解性の観点から、窒素含有極性溶媒が好ましく、さらに、生体への影響の観点から、一般式(3)または一般式(4)で表される溶媒を含むことが好ましい。
【0044】
【化5】
【0045】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基または水素から選ばれる基を示す。Rは水素または水酸基を示す。RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基から選ばれる基を示す。)
【0046】
【化6】
【0047】
(R10~R13はそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基または水素から選ばれる基を示す。)
一般式(3)で表される溶媒の具体例としては、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、N-エチル,N,2-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-メチルプロピオンアミド、N,N,2-トリメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N-エチル-N,2-ジメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0048】
一般式(4)で表される溶媒の具体例としては、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア、N,N,N’,N’-テトラエチルウレアなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0049】
本発明の犠牲層用樹脂組成物に含まれる(B)溶媒は、一般式(3)または一般式(4)で示され、かつ大気圧下での沸点が150~180℃の溶媒がより好ましい。具体例としては、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド(沸点;175℃)、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(沸点;177)などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0050】
また、(A)ポリイミド樹脂の溶解性を損なわない範囲で、その他の溶媒を添加することができる。例えば、エチレングリゴールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のアセテート類、アセチルアセトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン等のケトン類、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、その他、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0051】
本発明の犠牲層用樹脂組成物に架橋剤を含む場合、架橋剤の含有量は、(A)ポリイミド樹脂に対して0.1質量%以下が好ましい。架橋剤が0.1質量%以下であると、ポリイミド樹脂に架橋が生じず、犠牲層を温和な条件で除去する事ができる。より好ましくは0.01質量%以下であり、さらに好ましくは0.001質量%以下である。ここで言う架橋剤とは、(A)ポリイミド樹脂を架橋するものであれば特に制限はないが、具体的には、エチニル基、ビニル基、メチロール基、メトキシメチロール基、エポキシ基、オキセタン基などの基を1~6個有した化合物である。
【0052】
本発明の犠牲層用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、無機微粒子を含有してもよい。無機微粒子を含有することで樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。無機微粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、石英粉、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、硫酸バリウム、マイカ、タルクなどが挙げられる。
【0053】
本発明の(A)ポリイミド樹脂がポリアミド前躯体の場合は、ウエハやガラス等の基材に塗布、乾燥して塗工膜を形成した後に、キュア工程を通してポリイミドに変換する。塗工後にポリイミド前駆体からポリイミドへの変換には240℃以上の温度が必要であるが、ポリアミド酸樹脂組成物中にイミド化触媒を含有することにより、より低温、短時間でのイミド化が可能となる。イミド化触媒の具体例としては、ピリジン、トリメチルピリジン、β-ピコリン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2,6-ルチジン、トリエチルアミン、m-ヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、p-フェノールスルホン酸、p-アミノフェノール、p-アミノ安息香酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本発明の犠牲層用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でその他の樹脂を添加することができる。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂などの耐熱性高分子樹脂が挙げられる。また、接着性、耐熱性、塗工性、保存安定性などの特性を改良する目的で界面活性剤、シランカップリング剤などを添加しても良い。
【0055】
本発明の犠牲層用樹脂組成物は、半導体電子部品の製造に用いることができる。詳しくは、少なくとも(1)支持基板の一方の面に本発明の犠牲層用樹脂組成物を塗布し、犠牲層を形成する工程、(2)犠牲層上に少なくとも半導体電子部品を形成する工程、(3)犠牲層が形成された支持基板から半導体電子部品を剥離する工程をこの順に有する半導体電子部品の製造に好適に用いることができる。
【0056】
犠牲層を形成した支持基板上に半導体電子部品を製造する方法では、半導体電子部品を破損することなく犠牲層が形成された支持基板から剥離する工程が必要である。本発明の犠牲層用樹脂組成物を用いることで、半導体電子部品を破損することなく支持基板から剥離することができ、その後に温和な条件で除去することができる。
【0057】
また、半導体電子部品の製造工程に、200℃~500℃の熱処理工程がある場合、犠牲層には耐熱性が求められる。本発明の犠牲層用樹脂組成物は、200~500℃の熱処理工程でも、犠牲層でボイドが発生することなく、その後、温和な条件で除去する事ができる。
【0058】
(1)支持基板の一方の面に本発明の犠牲層用樹脂組成物を塗布し、犠牲層を形成する工程について、説明する。
支持基板に本発明の犠牲層用樹脂組成物を塗布する方法としては、スピンコーター、ロールコーター、スクリーン印刷、スリットダイコーターなどが挙げられる。また、樹脂組成物を塗布後100~150℃で乾燥させた後に、200~500℃で1時間~3時間連続的または断続的に熱硬化処理を行うことで、耐熱性の良好な犠牲層を得ることができる。熱硬化処理の温度が、200℃以上であれば、(B)溶媒を十分に除去でき、耐熱性が向上する。より好ましくは250℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。さらに、熱硬化処理の温度が、500℃以下であれば、(A)ポリイミド樹脂の酸化劣化を防止し、犠牲層を温和な条件で除去することができる。より好ましくは430℃以下であり、さらに好ましくは410℃以下である。
【0059】
また、熱硬化処理は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。窒素雰囲気下で熱硬化処理を行うことで、(A)ポリイミド樹脂の酸化劣化を防止し、犠牲層を温和な条件で除去することができる。
【0060】
犠牲層の厚みは、0.1μm以上10μm以下が好ましい。厚みが10μm以下であると、後述する犠牲層の除去工程の時間を短くすることができる。より好ましくは3μm以下である。
【0061】
(2)前記犠牲層上に少なくとも半導体電子部品を形成する工程について、説明する。
【0062】
本発明では、犠牲層を形成した支持基板上に製造する半導体電子部品に制限はない。
特に、200~500℃の熱処理工程がある半導体電子部品の製造工程で、好適に用いることができる。
【0063】
例えば、犠牲層を形成した支持基板上に、再配線層を形成し、その後、バンプを介して半導体チップと当該再配線層を接続するファンアウト型ウエハレベルパッケージ(FO-WLP)などが挙げられる。再配線層は、一般的に、耐熱性樹脂などの層間絶縁膜と、Cu金属配線などの導電性金属膜の積層体である。耐熱性樹脂として、例えば、ポリイミド系耐熱性樹脂(東レ株式会社製フォトニースPWシリーズ等)や、ポリベンゾオキサゾール系耐熱性樹脂(旭化成株式会社製パイメルAM-270シリーズ等)などが挙げられる。
【0064】
より詳しい再配線層の形成方法としては、犠牲層を形成した支持基板上に、層間絶縁膜をして、耐熱性樹脂を塗布し、プリベークを行う。耐熱性樹脂がポジ型感光性樹脂の場合、フォトマスク等を介して開口したい領域にUV光線等の活性光線を照射し、続いてTMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)などの現像液により現像を行う。その後、200~500℃で熱硬化を行うことで層間絶縁膜を得る。続いて、導電性金属膜として、Cuのスパッタリングを行い、さらにフォトレジスト層を形成し配線をパターニングしていく。上記作業を繰り返し、層間絶縁膜と導電性金属膜を多積層することで、再配線層を形成できる。層間絶縁膜の熱硬化で200~500℃の熱処理工程が行われるため、犠牲層には耐熱性が求められる。
【0065】
本発明では、200~500℃の熱処理方法に制限はなく、オーブンのように高温雰囲気で加熱する装置や、ホットプレートのように支持基板と熱板が接する加熱装置などに用いることができる。
【0066】
本発明では、必要に応じて、犠牲層上にバリアメタルを形成し、その上に半導体電子部品をしてもよい。バリアメタルを形成することで、半導体電子部品の製造工程に用いられる薬液により、犠牲層が変質することを防ぐことができる。バリアメタルの材質には、Ti、Cu、または、それらの合金などが挙げられるが、これらに限定されない。また、バリアメタルの形成方法として、スパッタリング法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
(3)前記支持基板から半導体電子部品を剥離する工程を説明する。
犠牲層を形成した支持基板上に半導体電子部品を製造する方法では、半導体電子部品を破損することなく犠牲層が形成された支持基板から剥離する工程が必要である。本発明の犠牲層用樹脂組成物では、(a)支持基板の犠牲層が形成されていない側から支持基板を通して犠牲層へレーザー照射し、半導体電子部品を剥離する方法、または、(b)有機溶媒または、アルカリ水溶液で犠牲層を溶解させて、半導体電子部品を剥離する方法を好適に用いることができる。
【0068】
(a)支持基板の犠牲層が形成されていない側から支持基板を通して犠牲層へレーザー照射し、半導体電子部品を剥離する方法を説明する。
【0069】
犠牲層へレーザー照射すると、レーザー光が犠牲層に吸収されることで発生する熱により、支持基板との界面近傍の犠牲層が熱分解されることで、犠牲層と支持基板の間で剥離することができる。本発明の犠牲層用樹脂組成物は、紫外光域に強い吸収を持つため、レーザー照射が、200~400nmの波長領域のいずれかの波長を有することが好ましい。
【0070】
レーザー照射の波長は特に限定されず、266nm、308nm、343nm、351nm、355nmなどが挙げられる。また、犠牲層が剥離できるのであれば、レーザー装置に限定はなく、XeClエキシマレーザー(308nm)、XeFエキシマレーザー(351nm)、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)個体レーザー(355nm)などが挙げられる。コストの観点から、個体レーザーが好ましい。
【0071】
犠牲層は、厚み1μmとしたときに、200~400nmの波長域における光透過率の最小値が40%以下であることが好ましい。より好ましくは20%以下である。光透過率の最小値が40%以下であることで、レーザー光を吸収して容易に剥離することができる。犠牲層の光透過率が40%以下の波長でレーザー剥離することが好ましい。
【0072】
犠牲層へレーザー照射し、半導体電子部品を剥離する場合、支持基板の308nm波長における光透過率が、40~100%であることが好ましい。より好ましくは50%以上である。支持基板の308nm波長における光透過率が40%以上であることで、レーザー光が支持基板を透過して犠牲層へ到達するため、レーザー剥離することができる。308nm波長における光透過率が40~100%である支持基板として、例えば、ガラス基板、石英基板、セラミック基板などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
(b)有機溶媒または、アルカリ水溶液で犠牲層を溶解させて、半導体電子部品を剥離する方法を説明する。
【0074】
本発明の犠牲層は、有機溶媒またはアルカリ水溶液で溶解することで、半導体電子部品を剥離することができる。溶解方法には、特に限定はなく、ディップ方式、パドル方式などが挙げられるが、これに限定されない。
【0075】
有機溶媒には、アミン系溶媒を含むことが好ましい。具体的には、モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミンなどが挙げられるが、これに限定されない。溶解性の観点から、モノエタノールアミンがより好ましい。アミン系溶媒は、ポリイミド樹脂のイミド基を開環させ有機溶剤に溶解しやすくする効果があり、溶解時間を短縮することができる。
【0076】
有機溶媒の溶解性の効果を損なわない範囲でその他の溶媒を添加することができる。例えば、エチレングリゴールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のアセテート類、アセチルアセトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン等のケトン類、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、その他、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドンN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、N-エチル,N,2-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-メチルプロピオンアミド、N,N,2-トリメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N-エチル-N,2-ジメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドN,N,N’,N’-テトラエチルウレアなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0077】
アルカリ水溶液として、具体的には、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの水溶液などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。有機溶媒とアルカリ水溶液の混合液を用いても良い。
【0078】
犠牲層を溶解する際の有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度は、20~70℃が好ましい。半導体電子部品の少なくとも一部が、前記耐熱性樹脂である場合、有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度が70℃を超えると、耐熱性樹脂が破損するおそれがある。より好ましくは、60℃以下であり、さらに好ましくは、50℃以下である。有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度が20℃未満の場合、有機溶媒またはアルカリ水溶液の冷却装置が必要であり、コストの観点から好ましくない。
【0079】
本発明では、(3)前記支持基板から半導体電子部品を剥離する工程の後に、(4)犠牲層を有機溶剤または、アルカリ水溶液で除去する工程を有することが好ましい。
【0080】
本発明の犠牲層は、有機溶媒またはアルカリ水溶液で除去することができる。
有機溶媒には、アミン系溶媒を含むことが好ましい。具体的には、モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミンなどが挙げられるが、これに限定されない。溶解性の観点から、モノエタノールアミンがより好ましい。アミン系溶媒は、ポリイミド樹脂のイミド基を開環させ有機溶剤に溶解しやすくする効果があり、除去時間を短縮することができる。
【0081】
有機溶媒の溶解性の効果を損なわない範囲でその他の溶媒を添加することができる。例えば、エチレングリゴールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のアセテート類、アセチルアセトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン等のケトン類、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、その他、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドンN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、N-エチル,N,2-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-メチルプロピオンアミド、N,N,2-トリメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N-エチル-N,2-ジメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドN,N,N’,N’-テトラエチルウレアなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0082】
アルカリ水溶液として、具体的には、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの水溶液などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。有機溶媒とアルカリ水溶液の混合液を用いても良い。
【0083】
犠牲層を溶解する際の有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度は、20~70℃が好ましい。半導体電子部品の少なくとも一部が、前記耐熱性樹脂である場合、有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度が70℃を超えると、耐熱性樹脂が破損するおそれがある。より好ましくは、60℃以下であり、さらに好ましくは、50℃以下である。有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度が20℃未満の場合、有機溶媒またはアルカリ水溶液の冷却装置が必要であり、コストの観点から好ましくない。
【実施例
【0084】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
犠牲層の光透過率測定、犠牲層の熱処理評価、犠牲層のレーザー剥離評価、犠牲層の薬液剥離評価、犠牲層の除去評価、耐熱性樹脂の膜厚評価の評価方法について述べる。
【0085】
(1)犠牲層の光透過率測定
厚さ500μmのガラス基板(イーグルXG、コーニング社製、5cm角)上に、下記合成例1~17で作成した犠牲層用樹脂組成物を硬化後の厚みが1μmになるようにスピンコーターで回転数を調整して塗布し、120℃10分熱処理して乾燥した後、N2オーブンで300℃30分間熱処理して硬化を行い、犠牲層付きガラス基板を得た。
【0086】
紫外可視分光光度計(MultiSpec-1500、島津製作所製)を用いて、犠牲層の厚み1μmとしたときの波長266nm、308nm、343nm、351nm、355nmにおける光透過率を測定した。
【0087】
(2)犠牲層の熱処理評価
(1)で得られた犠牲層付きガラス基板上に、下記合成例18で作成したポリイミド耐熱性樹脂組成物を硬化後の厚みが5μmになるようにスピンコーターで回転数を調整して塗布し、120℃で10分熱処理して乾燥した後、N2オーブンで300℃60分間熱処理して硬化を行い、耐熱性樹脂付きガラス基板を得た。続いて、耐熱性樹脂の上に、スパッタリング装置(SH-450、アルバック製)を用いて厚み100nmのCu金属膜を製膜した。この作業を2回繰り返し、耐熱性樹脂による層間絶縁膜と、Cu金属膜による導電性金属膜の積層体付きガラス基板を形成した。
【0088】
このとき、積層体付きガラス基板のガラス側から目視で観察し、ボイドが無ければ犠牲層の熱処理評価“A”、ボイドが確認できれば犠牲層の熱処理評価“B”とした。
【0089】
(3)犠牲層のレーザー剥離評価
(2)で得られた耐熱性樹脂付きガラス基板の積層体側にカプトンテープを貼り付けて、積層体を補強した後、波長308nmのエキシマレーザー(形状:14mm×1mm、オーバーラップ率80%)をガラス基板側から照射して、レーザー剥離試験を行った。積層体が剥離するのに必要な照射エネルギーを測定し、以下の基準で評価した。
A:照射エネルギーが250mJ/cm以下
B:照射エネルギーが250mJ/cmを超え、350mJ/cm以下
C:照射エネルギーが350mJ/cmで剥離できない。
続いて、(2)で得られた積層体付きガラス基板の積層体側にカプトンテープを貼り付けて、積層体を補強した後、波長355nmの個体レーザー(形状:40mm×0.4mm、オーバーラップ率75%)をガラス基板側から照射して、レーザー剥離試験を行った。積層体が剥離するのに必要な照射エネルギーを測定し、以下の基準で評価した。
A:照射エネルギーが250mJ/cm以下
B:照射エネルギーが250mJ/cmを超え、350mJ/cm以下
C:照射エネルギーが350mJ/cmで剥離できない。
【0090】
(4)犠牲層の薬液剥離評価
(2)で得られた耐熱性樹脂付きガラス基板をダイシング装置(DAD3350、DISCO製)で5mm角の大きさに裁断した。その後、積層体側にカプトンテープを貼り付けて、積層体を補強した後、下記表4に記載の薬液に23℃の温度条件で浸漬させて、薬液剥離評価を行った。評価基準は下記のとおりである。なお、表4において、有機溶剤とあるのは下記製造例1で製造した有機溶剤のことである。
A:20分以内に剥離できた。
B:20分以上30分以内に剥離できた。
C:30分以内に剥離できなかった。
【0091】
(5)犠牲層の除去評価
(2)で得られたレーザー剥離後の積層体を、下記表4に記載の除去液、温度条件で浸漬し、犠牲層を除去した。評価基準は下記のとおりである。なお、表4において、有機溶剤とあるのは下記製造例1で製造した有機溶剤のことである。
A:5分以内に除去できた。
B:5分以上10分以内に除去できた。
C:10分以上20分以内に除去できた。
D:20分以内に除去できなかった。
【0092】
(6)耐熱性樹脂の膜厚評価
(5)犠牲層の除去評価をした積層体の耐熱性樹脂の膜厚を断面SEMで測定し、初期膜厚5μmと比較した。評価基準は下記のとおりである。
A:耐熱性保護膜の膜厚に変化無し
B:耐熱性保護膜の膜減りが1μm以下
C:耐熱性保護膜の膜減りが1μm以上。
【0093】
以下の合成例、製造例に示してある酸二無水物、ジアミン、および溶媒の略記号の名称は下記の通りである。
ODPA:3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BAHF: 2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン
ABPS:4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルスルホン
FDA:9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
SiDA:1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノ プロピル)ジシロキサン
MBAA:5,5‘-メチレンビス(2-アミノ安息香酸)
DMIB:N,N,2-トリメチルプロピオンアミド
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
GBL:γ-ブチロラクトン
DMM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル
合成例1(ポリイミドの重合)
温度計、乾燥窒素導入口、温水・冷却水による加熱・冷却装置、および、撹拌装置を付した反応釜に、BAHF 347.9g(0.95mol)、SiDA 12.4g(0.05mol)をDMIB 1735.5gと共に仕込み、溶解させた後、PMDA 218.1g(1mol)を添加し、50℃で4時間反応させて、犠牲層用樹脂組成物である25質量%のポリイミド溶液(PA1)を得た。
【0094】
ポリイミド溶液を室温に戻し、析出物の有無を目視評価で確認し、結果を表1にまとめた。また、ポリイミド樹脂中のヒドロキシル基の含有量を下記のように計算し、結果を表1にまとめた。また、前記犠牲層の光透過率測定を行い、結果を表3に記載した。
【0095】
<ポリイミド樹脂中のヒドロキシ基の含有量>
1.ポリイミド樹脂原料のトータル量を計算する。
【0096】
347.9g(BAHF)+12.4g(SiDA)+218.1g(PMDA)=578.4g
2.ポリイミド樹脂原料のトータル量から、イミド化反応による脱水量を引き、ポリイミド樹脂の重量を計算する。(脱水量は1.8molと仮定)
578.4g-(18.0g/mol×1.8mol)=546.0g(ポリイミド樹脂の重量)
3.ポリイミド樹脂中のヒドロキシ基重量を計算する。(BAHF中に2個有する。)
17.0g/mol×0.95mol×2=32.3g(ポリイミド樹脂中のヒドロキシ基重量)
4.ポリイミド樹脂中のヒドロキシ基含有量を計算する。
【0097】
32.3g/546.0g*100=5.9wt%
合成例2~16(ポリイミドの重合)
酸二無水物、ジアミン、溶媒の種類と仕込み量を表1、表2のように変えた以外は合成例1と同様の操作を行い、犠牲層用樹脂組成物である25質量%のポリイミド溶液(PA2~PA16)を得た。
ポリイミド溶液を室温に戻し、析出物の有無を目視評価で確認し、結果を表1に記載した。また、ポリイミド樹脂中のヒドロキシ基の含有量を合成例1と同様に計算し、結果を表1、表2に記載した。また、前記犠牲層の光透過率測定を行い、結果を表3に記載した。
【0098】
合成例17(ポリイミドの重合)
温度計、乾燥窒素導入口、温水・冷却水による加熱・冷却装置、および、撹拌装置を付した反応釜に、MBAA 272.0g(0.95mol)、SiDA 12.4g(0.05mol)をDMIB 1507.5gと共に仕込み、溶解させた後、PMDA 218.1g(1mol)を添加し、50℃で4時間反応させて、犠牲層用樹脂組成物である25質量%のポリイミド溶液(PA17)を得た。
【0099】
ポリイミド溶液を室温に戻し、析出物の有無を目視評価で確認した結果、析出物は確認されなかった。また、ポリイミド樹脂中のカルボキシル基の含有量を下記のように計算した結果、18.2wt%であった。また、前記犠牲層の光透過率測定を行い、結果を表3に記載した。
【0100】
<ポリイミド樹脂中のカルボキシル基の含有量>
1.ポリイミド樹脂原料のトータル量を計算する。
【0101】
272.0g(MBAA)+12.4g(SiDA)+218.1g(PMDA)=502.5g
2.ポリイミド樹脂原料のトータル量から、イミド化反応による脱水量を引き、ポリイミド樹脂の重量を計算する。(脱水量は1.8molと仮定)
502.5g-(18.0g/mol×1.8mol)=470.1g(ポリイミド樹脂の重量)
3.ポリイミド樹脂中のカルボキシル基重量を計算する。(MBAA中に2個有する。)
45.0g/mol×0.95mol×2=85.5g(ポリイミド樹脂中のカルボキシル基重量)
4.ポリイミド樹脂中のカルボキシル基含有量を計算する。
85.5g/470.1g*100=18.2wt%
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
合成例18(ポリイミド耐熱性樹脂組成物の製造)
温度計、乾燥窒素導入口、温水・冷却水による加熱・冷却装置、および、撹拌装置を付した反応釜に、BAHF20.87g(0.057mol)、SiDA 1.24g (0.005mol)、末端封止剤として、3-アミノフェノール8.18g(0.075mol)をNMP80gに溶解させた。ここにODPA 31.02g(0.1mol)をNMP20gとともに加えて、20℃で1時間反応させ、次いで50℃で4時間反応させた。その後、キシレンを15g添加し、水をキシレンとともに共沸しながら150℃で5時間攪拌した。攪拌終了後、溶液を水3 l に投入して白色沈殿を集めた。この沈殿をろ過で集めて、水で3回洗浄した後、80℃の真空乾燥機で20時間乾燥した。このようにして得られたポリイミドポリマー粉体10gと、熱架橋性化合物のニカラック(NIKALAC)M W - 1 0 0 L M( 商品名、(株)三和ケミカル製)4gをプロピレングリコールモノエチルエーテル20gに溶解させた後、孔径1μmのPTFE製濾紙で濾過を行い、ポリイミド耐熱性樹脂組成物を得た。
【0106】
製造例1(有機溶剤の調整)
撹拌装置を付した反応釜に、モノエタノールアミン30g、DMM30g、N-メチル-2-ピロリドン30gを仕込み、室温で1時間撹拌して、有機溶剤を得た。
【0107】
実施例1
厚さ500μmのガラス基板(イーグルXG、コーニング社製、5cm角)上に、合成例1で作成した犠牲層用樹脂組成物を硬化後の厚みが1μmになるようにスピンコーターで回転数を調整して塗布し、120℃10分熱処理して乾燥した後、N2オーブンで300℃30分間熱処理して硬化を行い、犠牲層付きガラス基板を得た。
【0108】
次に、犠牲層付きガラス基板上に、合成例18で作成したポリイミド耐熱性樹脂組成物を硬化後の厚みが5μmになるようにスピンコーターで回転数を調整して塗布し、120℃で10分熱処理して乾燥した後、N2オーブンで300℃60分間熱処理して硬化を行い、耐熱性樹脂付きガラス基板を得た。続いて、耐熱性樹脂の上に、スパッタリング装置(SH-450、アルバック製)を用いて厚み100nmのCu金属膜を製膜した。この作業を2回繰り返し、耐熱性樹脂による層間絶縁膜と、Cu金属膜による導電性金属膜の積層体付きガラス基板を形成した。得られた積層体付きガラス基板を用いて犠牲層の熱処理評価、犠牲層のレーザー剥離評価、犠牲層の薬液剥離評価、犠牲層の除去評価、耐熱性樹脂の膜厚評価を行い、結果を表4にまとめた。
【0109】
実施例2~21
犠牲層用樹脂組成物、犠牲層の硬化温度を表4のごとく変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、積層体付きガラス基板を得た。
【0110】
得られた積層体付きガラス基板を用いて表4に記載の条件で、犠牲層の熱処理評価、犠牲層のレーザー剥離評価、犠牲層の薬液剥離評価、犠牲層の除去評価、耐熱性樹脂の膜厚評価を行い、結果を表4にまとめた。
【0111】
比較例1~3
犠牲層用樹脂組成物、犠牲層の硬化温度を表4のごとく変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、積層体付きガラス基板を得た。
【0112】
得られた積層体付きガラス基板を用いて表4に記載の条件で、犠牲層の熱処理評価、犠牲層のレーザー剥離評価、犠牲層の薬液剥離評価、犠牲層の除去評価、耐熱性樹脂の膜厚評価を行い、結果を表4にまとめた。
【0113】
【表4】