(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】血液浄化カラム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
A61M1/36 165
A61M1/36 163
(21)【出願番号】P 2018233323
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭平
(72)【発明者】
【氏名】神田 峻吾
(72)【発明者】
【氏名】島田 薫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/074420(WO,A1)
【文献】特開昭57-059544(JP,A)
【文献】特開2018-102659(JP,A)
【文献】特開昭59-017356(JP,A)
【文献】特開2001-204500(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105126787(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液導入口及び血液排出口を有する容器と、
該容器の内部に、中心パイプと、酸性官能基又は塩基性官能基を含むリガンドが表面に結合した繊維状吸着担体と、を備え、
前記容器は、抗凝固剤を含む水溶液を含み、
前記中心パイプは、側面に複数の孔を有し、
前記繊維状吸着担体は、前記中心パイプの周りに配置され、
前記繊維状吸着担体に吸着している抗凝固剤平均吸着量は、該繊維状吸着担体の乾燥重量1g当たり60~220IUであり、
前記中心パイプに接触する軸線方向における繊維状吸着担体の端面を線分Mとし、中心パイプに非接触で、該容器内部の内壁に接触又は近接している軸線方向における繊維状吸着担体の端面を線分Nとし、繊維状吸着担体の展開長さを線分Kとした場合において、前記線分Mと前記線分Nのそれぞれの中点を結ぶ線分と、前記線分Kの中点から軸線方向に延長した線とが交わる点をAとし、前記線分Mと前記線分Nのそれぞれの中点を結ぶ線分の1/10倍に相当する距離を前記線分Mの中点から展開方向に移動した点をBとしたとき、前記点Aにおける抗凝固剤吸着量を前記点Bにおける抗凝固剤吸着量で除した値(A/B)が0.5~1.0である、血液浄化カラム。
【請求項2】
前記容器の血液容量は、50~220cm
3であり、前記繊維状吸着担体の充填密度は、0.2~0.5g/cm
3である、請求項1記載の血液浄化カラム。
【請求項3】
前記抗凝固剤を含む水溶液中の前記抗凝固剤の濃度は、2~40IU/cm
3である、請求項1又は2記載の血液浄化カラム。
【請求項4】
前記繊維状吸着担体は、編地又は織物である、請求項1~3のいずれか一項記載の血液浄化カラム。
【請求項5】
前記抗凝固剤は、ヘパリン、メシル酸ナファモスタット又は低分子ヘパリンである、請求項1~4のいずれか一項記載の血液浄化カラム。
【請求項6】
前記繊維状吸着担体を構成する繊維は、海島複合繊維であり、
海成分が、ポリスチレン及びその誘導体、ポリスルホン及びその誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択され、
島成分が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリエチレン共重合体並びにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項記載の血液浄化カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに炎症性疾患患者を対象に、血液中の炎症性タンパク質や活性化した血球を吸着・除去する目的で吸着担体と生理食塩水等の溶液を充填した種々の血液浄化カラムが開発されている。
【0003】
炎症性疾患患者に対して、血液浄化カラムを用いて体外循環を実施する場合、その準備工程として抗凝固剤を含む溶液を用いたプライミングがある。該カラムの使用前にプライミングを行う理由としては次の二つが挙げられる。一つ目は血液浄化カラム内に残留する可能性がある微粒子や浮遊物、酸性又は塩基性の溶出物等を排出するため、二つ目は該カラム内に抗凝固剤を充填することで、血餅や血栓の発生・付着の原因の1つである血液成分の凝固を防ぐことで血液浄化カラム使用時に循環圧力の上昇を抑制し、吸着サイト喪失による吸着対象物質の吸着率低下を抑制するためである。したがって、血液浄化カラムを使用するうえでプライミングは必須であることは周知の事実である。しかし、予め抗凝固剤を充填した血液浄化カラムはこれまでに報告はない。
【0004】
プライミングで血液浄化カラム内に充填する液体としては、抗凝固剤等が溶解した溶液が挙げられる。プライミング前の血液浄化カラムとしては、乾燥状態(以下、乾式)のものと湿潤状態(以下、湿式)のものがあり、特に湿式のカラムには、充填液として塩を含まない水(以下、無塩水)又は生理食塩水が充填されているのが一般的である。しかし、カラム内に無塩水、又は、上記酸性又は塩基性の溶出物によりpHが変動した充填液のままプライミングをすることなく体外循環を実施すると、血液の凝固を促進する懸念がある。
【0005】
臨床現場、特に救急の現場では様々な時間的制約から、血液浄化カラムの使用前のプライミング時間を5分程度としているが、該プライミング時間では血液浄化カラム内の抗凝固剤を含む水溶液の液置換が不十分な結果、抗凝固剤の吸着ムラが発生し、場合によっては血液浄化カラム内に通液した血液成分が該カラム内部で凝固し、液体導入口や液体排出口、吸着担体空隙等に血栓等が詰まる可能性がある。血液浄化カラムの循環圧力の急激な上昇が発生した場合には体外循環を停止せざるを得ず、一刻を争う患者にとって迅速な治療を受けられないリスクがある。
【0006】
特許文献1には、吸着担体表面にアミノ基を介して抗凝固剤の一種であるヘパリンを固定化し、該アミノ基の静電相互作用を利用して病因物質を除去する方法が開示されている。フィルターホルダーに充填した直径25mmほどの円形に切り出した多孔質膜状又は不織布状担体は、血液凝固を誘導することなくHIV及びエンドトキシン除去に好適であることが開示されている。
【0007】
特許文献2には、中空糸が充填された容器のポッティング部に、脂溶性抗酸化剤を被覆することにより、血小板の活性化や血液凝固を抑制する方法が開示されており、脂溶性抗酸化剤がポッティング部端面に均一に存在することが好適であることが開示されている。
【0008】
特許文献3には、側面に孔を有する中心パイプを備えたカラムにおいて、孔の配置に着目してカラム内での血液の滞留を抑制する方法が開示されており、孔と孔の距離を適切にすることが好適であることが開示されている。
【0009】
特許文献4には、アミド基とアミノ基を含む繊維について開示されている。開孔率を0.1~30%とした編地は、血液通液時の圧力上昇の抑制に好適であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平11-267421号公報
【文献】特開2018-171431号公報
【文献】特開2017-170140号公報
【文献】国際公開2018/047929号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の実施例で用いられているカラムのように、吸着担体近傍のみにヘパリンが存在する場合では、カラム容器の内容積が大きくなった際に、担体近傍以外の空間で血液凝固が発生する懸念がある。さらに、特許文献1のカラムを湿式で用いる場合には担体表面のヘパリンが充填液中に徐放され、十分な血液凝固抑制を発揮できない懸念がある。
【0012】
特許文献2の実施例に記載の中空糸型血液浄化器では、脂溶性抗酸化剤を血液入口又は出口側のポッティング部に被覆しているが、担体全体に一様に被覆されているわけではないため、抗酸化剤の被覆量が少ない部分で血液の滞留等が発生すると、血液の凝固が発生する懸念があり、上記抗酸化剤のみではカラム内部の血液凝固を完全に抑制することは難しいものと推測される。
【0013】
特許文献3には、中心パイプの孔の配置と血液の滞留の関係について記載はあるが、担体への抗凝固剤の吸着量やプライミングについては記載がない。
【0014】
特許文献4には、編地の開孔率と血液通液時の圧力上昇の関係について記載はあるが、担体への抗凝固剤の吸着量やプライミングについては記載がない。
【0015】
血液浄化カラム使用時の圧力上昇を抑制するためには、プライミング時の抗凝固剤の吸着ムラを低減する必要があり、そのためには予め血液浄化カラムに抗凝固剤を充填すればいいと考えられる。その場合、吸着担体表面での血液の凝固を抑制する観点から、吸着担体にも抗凝固剤を固定化又は吸着できるような構造や官能基を含むことが望ましい。しかしながら、充填液のpHに影響を与えない化学的安定性と吸着対象物質の吸着能を両立しなければならないことから、そのような製品はこれまでに開発されていないものと考えられる。
【0016】
そこで、本発明は、吸着対象物質の吸着能を低下させることなく圧力上昇の抑制を達成できる血液浄化カラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、繊維状吸着担体に事前に抗凝固剤を吸着させる処理を施してカラム内に充填した後、さらに、抗凝固剤を含む水溶液を容器内に充填した血液浄化カラムは、繊維状吸着担体への吸着対象物質の吸着能を低下させることなく、血液成分の活性化に起因する吸着担体への血餅又は血栓の付着、カラムの循環圧力上昇を抑制できることを見出した。
【0018】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(6)を包含する。
(1) 血液導入口及び血液排出口を有する容器と、
該容器の内部に、中心パイプと、酸性官能基又は塩基性官能基を含むリガンドが表面に結合した繊維状吸着担体と、を備え、
前記容器は、抗凝固剤を含む水溶液を含み、
上記中心パイプは、側面に複数の孔を有し、
上記繊維状吸着担体は、上記中心パイプの周りに配置され、
上記繊維状吸着担体に吸着している抗凝固剤平均吸着量は、該繊維状吸着担体の乾燥重量1g当たり60~220IUであり、
上記中心パイプに接触する軸線方向における繊維状吸着担体の端面を線分Mとし、中心パイプに非接触で、該容器内部の内壁に接触又は近接している軸線方向における繊維状吸着担体の端面を線分Nとし、繊維状吸着担体の展開長さを線分Kとした場合において、上記線分Mと上記線分Nのそれぞれの中点を結ぶ線分と、上記線分Kの中点から軸線方向に延長した線とが交わる点をAとし、上記線分Mと上記線分Nのそれぞれの中点を結ぶ線分の1/10倍に相当する距離を上記線分Mの中点から展開方向に移動した点をBとしたとき、上記点Aにおける抗凝固剤吸着量を前記点Bにおける抗凝固剤吸着量で除した値(A/B)が0.5~1.0である、血液浄化カラム。
(2) 上記容器の血液容量は、50~220cm3であり、
上記繊維状吸着担体の充填密度は、0.2~0.5g/cm3である、(1)記載の血液浄化カラム。
(3) 上記抗凝固剤の濃度は、2~40IU/cm3である、(1)又は(2)記載の血液浄化カラム。
(4) 上記繊維状吸着担体は、編地又は織物である、(1)~(3)のいずれかに記載の血液浄化カラム。
(5) 上記抗凝固剤は、ヘパリン、メシル酸ナファモスタット又は低分子ヘパリンである、(1)~(4)のいずれかに記載の血液浄化カラム。
(6) 前記繊維状吸着担体を構成する繊維は、海島複合繊維であり、海成分が、ポリスチレン及びその誘導体、ポリスルホン及びその誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択され、島成分が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリエチレン共重合体並びにそれらの混合物からなる群から選択される、(1)~(5)のいずれか一項記載の血液浄化カラム。
【発明の効果】
【0019】
本発明の血液浄化カラムは、吸着対象物質の高い吸着能を有し、かつ、血餅又は血栓の付着を抑制でき、カラムの圧力上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ラジアルフロー型の血液浄化カラムの一例の縦断面図である。
【
図2】ラジアルフロー型の血液浄化カラムの一例に充填する中心パイプに巻き付けた円筒形状の繊維状吸着担体を示した図である。
【
図3】ラジアルフロー型の血液浄化カラムの一例を解体した後、中心パイプに巻き付けた繊維状吸着担体を展開した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明の血液浄化カラムは、血液導入口及び血液排出口を有する容器と、該容器の内部に、中心パイプと、酸性官能基又は塩基性官能基を含むリガンドが表面に結合した繊維状吸着担体と、を備え、上記容器は、内部に抗凝固剤を含む水溶液を含み、上記中心パイプは、側面に複数の孔を有し、上記繊維状吸着担体は、上記中心パイプの周りに配置され、上記繊維状吸着担体に吸着している抗凝固剤平均吸着量は、該繊維状吸着担体の乾燥重量1g当たり60~220IUであり、上記中心パイプに接触する軸線方向における繊維状吸着担体の端面を線分Mとし、中心パイプに非接触で、該容器内部の内壁に接触又は近接している軸線方向における繊維状吸着担体の端面を線分Nとし、繊維状吸着担体の展開長さを線分Kとした場合において、上記線分Mと上記線分Nのそれぞれの中点を結ぶ線分と、上記線分Kの中点から軸線方向に延長した線とが交わる点をAとし、上記線分Mと上記線分Nのそれぞれの中点を結ぶ線分の1/10倍に相当する距離を上記線分Mの中点から展開方向に移動した点をBとしたとき、上記点Aにおける抗凝固剤吸着量を前記点Bにおける抗凝固剤吸着量で除した値(A/B)が0.5~1.0であることを特徴としている。
【0023】
「吸着担体」とは、有機物を吸着する性能を有する担体を意味し、有機物の吸着性能を有していれば、その他の物質の吸着性能の有無については特に制限されない。
【0024】
「吸着」とは、特定の物質が材料に付着し、容易に剥離しない状態、又は吸着平衡状態を意味する。吸着の原理に特に制限はないが、例えば、静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等の分子間力によって付着した状態や、細胞の接着や白血球の貪食等、物理的に付着している状態を意味する。
【0025】
「血液成分」とは、血液を構成する成分を意味し、例えば、血液中の液性因子や血液中の細胞が挙げられる。本実施形態に係る血液浄化カラムが吸着対象物質とする血液成分に特に制限はないが、血液成分の中でも血液中の液性因子が吸着対象物質として好適である。
【0026】
「血液中の液性因子」とは、血液中に溶解している有機物を指す。具体的には、尿素、β2-ミクログロブリン、サイトカイン、IgE、IgG等のタンパク質、lipopolysaccharide(LPS)等の多糖類が挙げられる。中でも、尿素、サイトカイン等のタンパク質やLPS等の多糖類が吸着対象物質として好ましく、さらに炎症性疾患の治療を目的とする場合はサイトカインが吸着対象物質としてより好ましい。
【0027】
「サイトカイン」とは、感染や外傷等の刺激により、免疫担当細胞を始めとする各種の細胞から産生され細胞外に放出されて作用する一群のタンパク質を意味し、例えば、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン1~インターロイキン15、腫瘍壊死因子-α、腫瘍壊死因子-β、ハイモビリティーグループボックス-1、エリスロポエチン又は単球走化因子が挙げられる。
【0028】
「血液中の細胞」とは、血液中に含まれる細胞を意味し、例えば、顆粒球、単球、好中球、好酸球等の白血球成分や、赤血球、血小板等が挙げられるが、中でも炎症性疾患の治療を目的とする場合は、血液中の液性因子に加えて、白血球成分、活性化白血球又は活性化白血球-活性化血小板複合体を吸着して除去するのが望ましいとされている。
【0029】
「活性化白血球」とは、サイトカインやLPS等の刺激によりサイトカイン又は活性酸素等を放出する白血球を意味し、例えば、活性化顆粒球や活性化単球が挙げられる。活性化白血球の活性化の程度は、活性化酸素量の測定又は表面抗原の発現をフローサイトメトリー等で測定することで判別できる。
【0030】
「活性化血小板」とは、サイトカインやLPS等の刺激によりサイトカイン又は活性酸素等を放出する血小板を意味する。
【0031】
「活性化白血球-活性化血小板複合体」とは、活性化白血球と活性化血小板とが結合し、自己組織への貪食作用を有し、サイトカインを放出する複合体であれば白血球の種類は特に制限されるものではなく、例えば、活性化顆粒球-活性化血小板複合体や活性化単球-活性化血小板複合体が挙げられる。特に、炎症性疾患患者の治療においては、病態に直接関与していると考えられる活性化顆粒球-活性化血小板複合体を除去することが重要と考えられる。
【0032】
「炎症性疾患」とは、体内で炎症反応が惹起される疾患全体を表し、例えば、全身性エリテマトーデス、悪性関節リウマチ、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、クローン病、薬剤性肝炎、アルコール性肝炎、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎若しくはE型肝炎、敗血症(例えば、グラム陰性菌由来の敗血症、グラム陽性菌由来の敗血症、培養陰性敗血症、真菌性敗血症)、インフルエンザ、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS、急性呼吸促迫症候群、急性呼吸促進症候群とも表記される。)、急性肺傷害(acute lung injury;ALI)、膵炎、特発性間質性肺炎(Idiopathic Pulmonary Fibrosis;IPF)、炎症性腸炎(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)、血液製剤の輸血、臓器移植、臓器移植後の再灌流障害、胆嚢炎、胆管炎又は新生児血液型不適合等が挙げられる。炎症性疾患の中でも、血液中に原因物質が放出され、血液浄化による治療効果が特に期待できる、薬剤性肝炎、アルコール性肝炎、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎若しくはE型肝炎、敗血症(例えば、グラム陰性菌由来の敗血症、グラム陽性菌由来の敗血症、培養陰性敗血症、真菌性敗血症)、インフルエンザ、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、膵炎、特発性間質性肺炎、が挙げられる。本実施形態の吸着用カラムの用途としては、例えば、上記の炎症性疾患の治療用途が好ましく、中でも薬剤のみでは治療が困難であり、サイトカインと活性化白血球-活性化血小板の両方が関与している疾患と考えられる、敗血症(例えば、グラム陰性菌由来の敗血症、グラム陽性菌由来の敗血症、培養陰性敗血症、真菌性敗血症)、インフルエンザ、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、特発性間質性肺炎の治療用途がより好ましい。
【0033】
「抗凝固剤」とは、トロンビンに代表される血液凝固因子の活性化等で進行する血液凝固を阻害する性質を有している化合物を意味する。抗凝固剤としては、例えば、アスピリン、クロピドグレル硫酸塩、プラスグレル硫酸塩、塩酸チクロピジン、ジピリダモール、シロスタゾール、ベラプロストナトリウム、リマプロストアルファデクス、オザグレルナトリウム、塩酸サルポグレラート、イコサペント酸エチル、トラピジル、ワルファリンカリウム、ダルテパリンナトリウム、パルナパリンナトリウム、レバピリンナトリウム、リバーロキサバン、アピキサバン、エンドキサバン、ダビガトラン、アルガトロバン、ヘパリン(例:ヘパリンナトリウム、ヘパリンカリウム、ヘパリンカルシウム)、低分子ヘパリン、アセチル化ヘパリン等のヘパリン誘導体、デキストラン硫酸、クエン酸、メシル酸ナファモスタット、ポリビニルスルホン酸又はポリスチレンスルホン酸等が挙げられる。その中でも、血液浄化カラム内に充填あるいは直接血液に添加する場合は、生体に対する安全性の観点から、ヘパリン、メシル酸ナファモスタット、低分子ヘパリン、アセチル化ヘパリン等のヘパリン誘導体、デキストラン硫酸、ポリビニルスルホン酸又はポリスチレンスルホン酸等が好ましく、なかでも体外循環において臨床実績の多い、ヘパリン、メシル酸ナファモスタット又は低分子ヘパリンがより好ましい。また、ヘパリン、メシル酸ナファモスタット又は低分子ヘパリンは、精製されていてもよいし、されていなくてもよく、ナトリウム、カリウムなどと塩を形成していてもよく、血液凝固反応を阻害できるものであれば特に限定されない。
【0034】
「抗凝固剤を含む水溶液」とは、抗凝固剤を水に溶解させた水溶液であっても、以下に示す水溶液に抗凝固剤を加えて溶解させた液体であってもよい。かかる抗凝固剤を溶解させる前の液体としては、特に限定されないが、例えば、蒸留水、塩水、他の緩衝液及び脱イオン水が挙げられる。好ましい水溶液は、無機塩を含む水溶液であり、生理食塩水がさらに好ましい。無機塩としては、特に限定されないが、例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、又は同酸の対応するカリウム塩が挙げられ、これらを混合したリン酸緩衝生理食塩水が一例として挙げられる。これらの成分は酸及びその共役塩基を含む緩衝液を形成するので、酸や塩基を加えても、液体のpHには比較的小さな変化しか起こらない。緩衝液はさらに、例えば、ホウ酸ナトリウム、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、水酸化ナトリウム、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-2,2’,2’’-ニトリロトリエタノール、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸又はそれらの組合せをさらに含んでいてもよい。抗凝固剤を含む水溶液は、容器の内部に充填されている。
【0035】
カラムに充填する前の抗凝固剤を含む水溶液中の抗凝固剤の濃度は1.5~40IU/cm3が好ましく、2~40IU/cm3がより好ましい。抗凝固剤の濃度を1.5IU/cm3以上にすることで、血液がカラムに流入した際に、カラム内又は血液回路内で血液が凝固し、循環圧力が上昇するリスクをより抑制できる。また、抗凝固剤の濃度を40IU/cm3以下にすることで、血中の抗凝固剤濃度が上昇、出血時に止血することが困難となり、患者に重篤な出血をもたらすリスクをより抑制することができる。
【0036】
「血液浄化カラム」とは、少なくとも血液導入口、血液排出口を有する容器を意味する。該カラムの容器形状としては、例えば、ラジアルフロー型のカラムが挙げられる。血液浄化カラムの容器形状としては、血液導入口及び血液排出口に加えて、蓋材、ケース部を有する容器で、当該ケース部内に吸着担体を充填できる形状であればよい。
【0037】
以下に、図面を参照して本実施形態に係る血液浄化カラムについて詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。また、図面の比率は説明のものとは必ずしも一致しない。
【0038】
図1に示される中心パイプ4は、供給された液体を流出するために設けられた孔9を中心パイプ4の長手方向の側面に複数備える。この孔の数は限定されるものではなく、実施する形態によって適宜設定してよい。また、中心パイプの材質は、使用する溶媒や吸着・除去対象物質に対して不活性であればどのような材質を用いてもよい。
【0039】
繊維状吸着担体5は、中心パイプ4の周りに充填された担体である。血液浄化カラム1に供給された液体は蓋材11の血液導入口2から中心パイプ4へ流れ、孔9を介して繊維状吸着担体5に流出する。上記液体は該吸着担体5を通過する際に、上記液体中に含まれる吸着対象物質が吸着され、吸着処理後の液体は蓋材12の血液排出口3からカラム外に排出される。
図1において、繊維状吸着担体5は、シート状の編地を中心パイプ4に巻きつけることで中心パイプ4の周りに円筒状の担体として充填されている。繊維状吸着担体5の形状及びカラムへの充填の方法は、上記方法に限定されるものではなく、容器8内部に配置できるものであればどのようなものでもよいが、その形状としては、シート状のもの等が挙げられる。また、繊維状吸着担体5の材質は、吸着対象物質の種類によって適宜選定される。
【0040】
プレート6は、液体が中心パイプ4を通過せずに繊維状吸着担体5と接触するのを防ぐためのプレート状の部材である。プレート6は、血液浄化カラム1内に流入してきた液体が中心パイプ4の内腔部を通るように中心パイプ4の上流端に連通されるように配置されている。また、プレート7は、血液浄化カラム1内に流入してきた液体が中心パイプ4を通過するものの孔9を通らずにカラム外に流れるのを防ぐためのプレート状の部材である。プレート7は、中心パイプ4の下流端を封鎖し繊維状吸着担体5を中心パイプ4の周りの空間に固定するように中心パイプ4の下流端に配置されている。ここで、プレート6及びプレート7の形状は、特に限定されるものではなく、容器8内部に配置できる形状であればどのようなものでもよい。また、プレート6及びプレート7の材質は、使用する溶媒や吸着・除去対象物質に対して不活性であればどのような材質を用いてもよい。また、容器の形状は、円柱状又は三角柱状、四角柱状、六角柱状若しくは八角柱状等の角柱状容器が挙げられるが、この構造に限定されるものではない。
【0041】
血液浄化カラム1の容器8の素材としては、ガラス製、プラスチック・樹脂製、ステンレス製等のものが挙げられ、特に制限はないが、臨床現場や測定場所での操作性・廃棄の容易さを考慮すると、材質としてはプラスチック・樹脂製が特に好ましい。
【0042】
蓋材11、蓋材12としては、血液導入口又は血液排出口を備え、容器8内に充填した繊維状吸着担体5と抗凝固剤を含む水溶液10を密閉するための部材である。蓋材11及び蓋座12の素材としては、ガラス製、プラスチック・樹脂製、ステンレス製等のものが挙げられ、特に制限はないが、良好な接着性の観点から、カラム容器と同じ素材であることが好ましい。
【0043】
なお、血液導入口2と血液排出口3は液体を流す方向により、相互に入れ替えることができる。
【0044】
図2に示される中心パイプ4及び繊維状吸着担体5は、容器8に充填する際の形態であり、シート状の繊維状吸着担体5を中心パイプ4に円筒形状に巻き付けた状態を示す。巻き付ける繊維状吸着担体5は、予め中心パイプ4の軸線方向の長さにカットして巻き付けてもよいし、巻き付けた後に中心パイプ4より余分な長さの繊維状吸着担体5をカットしてもよい。
【0045】
図3に示される繊維状吸着担体5は、血液浄化カラム1を解体し、
図2に示される中心パイプ4に巻き付けられた該吸着担体5を展開した図である。
図3において、繊維状吸着担体5の展開方向の長さを線分Kとし、該吸着担体5が円筒形状となっていた際に、中心パイプ4に接触していた軸線方向における担体の端面を線分Mとし、中心パイプ4に非接触で、容器8内部の内壁に接触又は近接している軸線方向における担体の端面を線分Nとし、線分Kの中点をkとし、線分Mの中点をmとし、線分Nの中点をnとした場合に、中点mと中点nを結ぶ線分と、中点kから軸線方向に延長した線とが交わる点をAとし、中点mと中点nを結ぶ線分の1/10倍に相当する距離を中点mから展開方向に移動した点をBとし、中点nと中点mを結ぶ線分の1/10倍に相当する距離を中点nから展開方向に移動した点をCとする。
【0046】
以下、抗凝固剤の吸着量について、ヘパリンを一例として説明するが、本発明の抗凝固剤はヘパリンに限定されるものではない。
【0047】
「抗凝固剤吸着量A」とは、
図3に示す交点Aにおける繊維状吸着担体の抗凝固剤吸着量を意味する。抗凝固剤吸着量Aの測定は、交点Aにおける繊維状吸着担体をΦ8mmの円形に3枚切り出し、テストチームヘパリンS(積水メディカル社)の添付文書記載の操作手順に従って反応させ、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(コロナ電気株式会社、MTP-300)でN=3で測定することにより求めることができる。「抗凝固剤吸着量B」、「抗凝固剤吸着量C」についても、交点B、交点Cにおける各繊維状吸着担体を用いて抗凝固剤吸着量Aと同様の手法により求めることができる。
【0048】
「抗凝固剤平均吸着量」とは、上記手法により求められた交点A、交点B及び交点Cにおける各繊維状吸着担体への抗凝固剤吸着量の和の平均値を算出することにより求められ、以下の式1で算出できる。
抗凝固剤平均吸着量(IU/g)=[{抗凝固剤吸着量A(IU/g)}+{抗凝固剤吸着量B(IU/g)}+{抗凝固剤吸着量C(IU/g)}]/3 ・・・式1
【0049】
抗凝固剤平均吸着量は、繊維状吸着担体に接触した血液の凝固を抑制する観点から、60IU/g以上にすることで、血液通液中に抗凝固剤が繊維状吸着担体から徐放されにくく、十分に血液凝固の抑制が達成できる。また、220IU/g以下にすることで、吸着担体に過剰に抗凝固剤が吸着することを抑制し、サイトカイン等の吸着対象物質に対する吸着能が低下する懸念を低減することができる。すなわち、抗凝固剤平均吸着量は繊維状吸着担体の乾燥重量1g当たり60~220IUである必要があり、80~150IUが好ましく、80~100IUがより好ましい。
【0050】
「AをBで除した値(A/B)」とは、上記手法により算出した交点Aにおける抗凝固剤吸着量を、上記手法により算出した交点Bにおける抗凝固剤吸着量で除した値を意味し、繊維状吸着担体全体における抗凝固剤吸着量のムラを表す指標となる。このA/Bの値が1.0に近いほど、中心パイプに円筒形状に巻き付けた繊維状吸着担体の中心パイプ近傍における抗凝固剤吸着量と、円筒形状に巻き付けた吸着担体の内部における抗凝固剤吸着量に差が無いことを表しており、円筒形状の繊維状吸着担体内部で血餅又は血栓が発生することを抑制することができる。このA/Bの値が低いと、円筒形状の吸着担体内部の抗凝固剤吸着量が低いことを表しており、血液導入口及び中心パイプ接触部に流入した血液が繊維状吸着担体を通過する際に、円筒形状の吸着担体内部に達した時点で血餅又は血栓が発生する懸念がある。そのため、A/Bの値は0.5~1.0である必要があり、0.6~1.0が好ましく、0.7~1.0がより好ましく、0.8~1.0であることがさらに好ましい。A/Bの値をより1.0に近づけるためには、繊維状吸着担体をカラムに充填する前に、シート状の該吸着担体を予め抗凝固剤を含む水溶液に含浸させ、該吸着担体全体に抗凝固剤を均一に吸着させることにより達成される。さらに、繊維状吸着担体に含む酸性官能基又は塩基性官能基の含量を、繊維状吸着担体の乾燥重量1g当たり0.8~1.5mmolの範囲で制御することで、さらにA/Bの値をより1.0に近づけることができる。
【0051】
本実施形態の血液浄化カラムへの繊維状吸着担体の充填密度は、0.2g/cm3以上にすることで、吸着対象物質の吸着能をより発揮でき、0.5g/cm3以下にすることで血液容量を確保し、十分な量の抗凝固剤を含む水溶液を充填できることから、0.2~0.5g/cm3であることが好ましく、0.2~0.4g/cm3がさらに好ましい。
【0052】
「充填密度」とは、血液浄化カラムの内部に繊維状吸着担体を充填する前の単位内容積(cm3)当たりの充填した繊維状吸着担体の乾燥重量(g)であり、例えば、カラム内容積1cm3の容器に乾燥重量1gの繊維状吸着担体を充填した場合、充填密度は1g÷1cm3=1g/cm3となる。
【0053】
「血液容量」とは、カラム内容積からカラム容器内に充填された湿潤状態の繊維状吸着担体の体積を差し引いた値として算出できる。カラム内容積に対して繊維状吸着担体の充填量が多くなることで充填密度が増大した場合、相対的に血液容量は少なくなる。血液容量を50cm3以上にすることで、血液の流路を十分に確保することができ、220cm3以下にすることで、血液の滞留及び繊維状吸着担体への抗凝固剤の充填にムラが生じることを抑制できることから、血液容量としては50~220cm3が好ましく、60~200cm3がより好ましく、100~150cm3がさらに好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0054】
血液容量の測定方法を以下に示す。
繊維状吸着担体を充填した血液浄化カラムに、血液排出口をふさいだ状態で空気が入り込まないように水を充填する。次に、血液排出口を開放してカラム内に充填した水を全てメスシリンダーに取り出し、取り出した水の量を測定することで算出できる。
【0055】
血液浄化カラム中に充填された、繊維状吸着担体の乾燥重量を測定する方法を以下に示す。
【0056】
まず、血液浄化カラム容器内の吸着担体を充填できる空間と同じ長さ、同じ内径の繊維状吸着担体を用意する。すでに血液浄化カラム内に充填されたものを分析する場合は、該カラム中の繊維状吸着担体を全量取り出す。乾燥前の重量を測定した後、30℃に設定した真空乾燥機で1mmHg以下の真空状態で繊維状吸着担体を8時間静置する。静置後、電子天秤で繊維状吸着担体の質量を測定する。なお、該吸着担体が乾燥したことを判断するには、質量を1時間ごとに測定した時の質量差が1質量%以下であることを指標にする。
【0057】
繊維状吸着担体において、用いる繊維の断面形状は特に制限されるものではないが、例えば、海島断面を有する海島複合繊維が挙げられる。該海島複合繊維には、海島複合繊維単独のもの及び海島複合繊維に適当な補強材を固定化又は混合したものを含む。ここで、固定化又は混合の操作は、繊維の高次構造を加工する前に行ってもよいし、加工した後に行ってもよい。
【0058】
繊維状吸着担体を構成する成分に特に制限はないが、例えば、当該繊維の形状が海島複合繊維の場合、海成分としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ芳香族ビニル化合物、ポリエステル、ポリスルホン、ポリスチレン及びポリビニルアルコールからなる群から選択されるポリマーが挙げられる。島成分としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンとポリエチレンのアロイ又は共重合体並びにそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーが挙げられる。海成分については、吸着対象となる有機物との相互作用を向上する観点で、酸性官能基又は塩基性官能基を含むリガンドが繊維状吸着担体の表面に結合させていることから、ポリスチレン及びその誘導体、ポリスルホン及びその誘導体、並びにそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーであることが好ましく、島成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリエチレン共重合体及びそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーであることが好ましい。
【0059】
繊維状吸着担体を構成する繊維の単糸径はいずれの太さであってもよいが、吸着対象物質との接触面積の向上と材料の強度維持の観点から3~200μmが好ましく、5~50μmがより好ましく、10~40μmがさらに好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0060】
「単糸径」とは、繊維の小片サンプル10個をランダムに採取して、走査型電子顕微鏡を用いて1000~3000倍の写真をそれぞれ撮影し、各写真辺り10カ所(計100箇所)の繊維の直径を測定した値の平均値を意味する。
【0061】
繊維状吸着担体の形状としては、例えば、編地、織物、フェルト、ネットが挙げられ、編地又は織物が好ましい。これらは、繊維を原料として、公知の方法により製造することができる。例えば、フェルトの製造方法としては、例えば、湿式法、カーディング法、エアレイ法、スパンボンド法又はメルトブロー法が挙げられ、織物の製造方法としては平織法、ジャカード織法が挙げられ、編地及びネットの製造方法としては、丸編み法又は筒編み法が挙げられる。特に、単位体積当たりの充填重量が多く、血液浄化器に充填する観点から、編地が好ましい。
【0062】
ここで、編地形状の吸着担体を用いた血液浄化カラムの場合、編立の際の目付を制御することにより、当該編地の開孔率を制御することができる。開孔率を0.1%以上にすることで、血液の流路を十分確保することができ、血栓が詰まることで循環圧力が上昇することをより抑制できる。また、開孔率を30%以下にすることで、対象物質に対する吸着性能を十分に発揮できる。そのため、編地形状の吸着担体の開孔率は、0.1~30%が好ましく、1~30%がより好ましく、7~15%が特に好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0063】
「圧力損失」とは、編地形状の吸着担体を用いた血液浄化カラムの軸線方向に向かって、血液導入口から血液を通過させた際、血液にかけた圧力に対して、血液浄化カラムを通過した後に血液にかかっている圧力との差分を表す。具体的には、編地形状の吸着担体を用いた血液浄化カラムに血液を流した時の血液導入口圧力及び血液排出口圧力をそれぞれ測定し、血液導入口圧力の値から血液排出口圧力の値を引いた値が圧力損失である。
【0064】
血液浄化においては圧力損失が発生すると血液浄化時の圧力上昇の懸念があるという理由から、繊維状吸着担体をカラムに充填し、100cm3/minで30分間血液を通液したときの導入口圧力の値から排出口圧力の値を差し引いた圧力損失が50mmHg以下であることが好ましく、30mmHg以下がさらに好ましく、15mmHg以下が特に好ましい。
【0065】
「リガンド」とは、繊維状吸着担体の表面に結合する化合物を意味し、酸性官能基又は塩基性官能基を含んでいればその化学構造は特に制限されるものではなく、例えば、酸性官能基(アニオン性官能基)であるスルホン酸基若しくはカルボキシル基を含む化合物又は塩基性官能基(カチオン性官能基)であるアミノ基を含む化合物が挙げられる。本実施形態において、リガンドとしては、塩基性官能基を含む化合物、特にアミノ基を含む化合物が好ましい。なお、上記官能基は、同一又は異なる官能基を複数組み合わせていてもよい。なお、リガンドは、上記酸性官能基又は塩基性官能基を有していれば、さらに中性官能基を有していてもよく、該中性官能基としては、例えば、メチル基若しくはエチル基等のアルキル基又はフェニル基、アルキル基で置換されたフェニル基(例えば、パラ(p)-メチルフェニル基、メタ(m)-メチルフェニル基、オルト(o)-メチルフェニル基、パラ(p)-エチルフェニル基、メタ(m)-エチルフェニル基又はオルト(o)-エチルフェニル基等)若しくはハロゲン原子で置換されたフェニル基(例えば、パラ(p)-フルオロフェニル基、メタ(m)-フルオロフェニル基、オルト(o)-フルオロフェニル基、パラ(p)-クロロフェニル基、メタ(m)-クロロフェニル基又はオルト(o)-クロロフェニル基等)等のアリ-ル基が、酸性官能基又は塩基性官能基を含む化合物に結合した化合物(例:パラ(p)-クロロフェニル基が結合したテトラエチレンペンタミン)は、リガンドに含まれる。その際、中性官能基とリガンドは、直接結合していても、スペーサーを介して結合していてもよい(当該結合に関与するスペーサーをスペーサー1とも称する。)。当該スペーサー1としては、例えば、尿素結合、アミド結合、ウレタン結合が挙げられる。
【0066】
「アミノ基」とは、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン若しくはドデシルアミン等の1級アミン由来のアミノ基、メチルヘキシルアミン、ジフェニルメチルアミン、ジメチルアミン等の2級アミン由来のアミノ基、アリルアミン等の不飽和アルキル鎖を持つアミン由来のアミノ基、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、フェニルジメチルアミン、ジメチルヘキシルアミン等の3級アミン由来のアミノ基、1-(3-アミノプロピル)イミダゾール、ピリジン-2-アミン、3-スルホアニリン等の芳香環を有するアミン由来のアミノ基又はトリス(2-アミノエチル)アミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、ポリエチレンイミン、N-メチル-2,2’-ジアミノジエチルアミン、N-アセチルエチレンジアミン、1,2-ビス(2-アミノエトキシエタン)等の、アルキル鎖、芳香族化合物、複素環式化合物や単素環式化合物等でアミノ基を2個以上結合させた化合物(以下、「ポリアミン」)由来のアミノ基が挙げられるが、ポリアミン由来のアミノ基であることが好ましく、特に、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン又はテトラエチレンペンタミン由来のアミノ基であることが好ましく、テトラエチレンペンタミン由来のアミノ基がより好ましい。また、アミノ基は、1級アミン又は2級アミン由来のアミノ基であることがより好ましい。
【0067】
本実施形態において、繊維状吸着担体と酸性官能基又は塩基性官能基を含むリガンドとは、直接結合してもよいし、上記繊維状吸着担体と上記リガンドとの間に反応性官能基由来のスペーサーを介してもよい(当該結合に関与するスペーサーをスペーサー2とも称する。)。当該スペーサー2としては、尿素結合、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、ウレタン結合等の電気的に中性の化学結合を有しているものであればよく、アミド結合又は尿素結合を有しているものが好ましい。
【0068】
上記繊維状吸着担体と上記リガンドとの結合を媒介する反応性官能基としては、例えば、ハロメチル基、ハロアセチル基、ハロアセトアミドメチル基若しくはハロゲン化アルキル基等の活性ハロゲン基、エポキサイド基、カルボキシル基、イソシアン酸基、チオイソシアン酸基又は酸無水物基が挙げられるが、適度な反応性を有する観点から、活性ハロゲン基が好ましく、ハロアセトアミドメチル基がより好ましい。反応性官能基を導入した高分子材料の具体的な例としては、クロルアセトアミドメチル基を付加したポリスチレン、クロルアセトアミドメチル基を付加したポリスルホンが挙げられる。
【0069】
反応性官能基は、予め、繊維状吸着担体と適当な試薬を反応させることで繊維状吸着担体に結合させることができる。例えば、繊維状吸着担体を構成する成分がポリスチレンで、反応性官能基がクロロアセトアミドメチル基の場合は、ポリスチレンとN-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミドを反応させることでクロロアセトアミドメチル基が結合したポリスチレンを得ることができる。クロロアセトアミドメチル基が結合したポリスチレンに対し、例えば、アミノ基を有するテトラエチレンペンタミンを反応させることで、テトラエチレンペンタミンがアセトアミドメチル基を介して結合したポリスチレンが得られる。この場合、アセトアミドメチル基はスペーサー2に相当し、テトラエチレンペンタミンは、リガンドに相当する。繊維状吸着担体の海成分及び島成分の材質、スペーサー(スペーサー1及びスペーサー2)、リガンドは、任意に組み合わせることができる。リガンドが結合した繊維状吸着担体の構成成分の例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン又はテトラエチレンペンタミン由来のアミノ基を含む化合物がアセトアミドメチル基を介して結合したポリスチレンやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン又はテトラエチレンペンタミン由来のアミノ基を含む化合物がアセトアミドメチル基を介して結合したポリスルホンが挙げられる。
【0070】
酸性官能基又は塩基性官能基の含量に特に制限はないが、繊維状吸着担体の乾燥重量1g当たり0.4mmol以上にすることで、血液成分等の電荷を有する有機物に対する吸着性能を十分に向上させることができ、2.0mmol以下にすることで、血液成分のpHを変化させないようにすることができる。そのため、酸性官能基又は塩基性官能基の含量は、繊維状吸着担体の乾燥重量1g当たり0.4~2.0mmolであることが好ましく、0.8~1.5mmolがより好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0071】
酸性官能基又は塩基性官能基の含量は、塩酸又は水酸化ナトリウム水溶液を用いた酸塩基滴定法により測定できる。
【0072】
繊維状吸着担体において、吸着対象物質と相互作用する必要があるため、少なくとも血液等の有機物と接触する表面側にリガンドが結合していることが必要である。ここで表面とは、繊維状吸着担体の表面を意味し、表面に細孔を有する形状の場合は、細孔の凹凸に沿った最外層部分も表面に含まれる。さらに、繊維の内部に貫通孔を有する場合は、繊維状吸着担体の最外層部分だけではなく、該吸着担体の内部の貫通孔の外層も表面に含まれる。
【0073】
繊維状吸着担体は、以下の方法により製造することができるが、この方法に限られるものではない。
【0074】
繊維状吸着担体の繊維径は、紡糸時のポリマー吐出量の減少、巻取り速度高速化により細くすることができる。また、リガンドを導入する場合はリガンド導入時の溶媒含浸によって膨潤させることで繊維径を太くすることができるため、条件を適時調整することで繊維径を目的の範囲に制御することができる。
【0075】
繊維表面に細孔を有する形状の場合、繊維を溶媒に含浸、エッチングにより製造することで制御することができる。例えば、繊維が海島複合繊維の場合、その海成分が溶解しやすい溶媒への含浸によって細孔を増大させることができる。また、同時に混合液中に架橋剤と触媒を添加することでも増大させることができるため、条件を適時調整することで細孔形状を制御することができる。
【0076】
上記の溶媒としては、例えば、海成分がポリスチレンの場合、ニトロベンゼン、ニトロプロパン、クロロベンゼン、トルエン又はキシレンが挙げられ、ニトロベンゼン又はニトロプロパンが好ましい。
【0077】
架橋剤としては、例えば、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド又はベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物が挙げられる。
【0078】
架橋用の触媒としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸又はハロゲン化アルミニウム(III)(例えば、塩化アルミニウム(III))若しくはハロゲン化鉄(III)(例えば、塩化鉄(III))等のルイス酸が挙げられ、硫酸又は塩化鉄(III)が混合されていることが好ましい。
【0079】
混合液中の触媒の濃度は、5~80wt%が好ましく、30~70wt%がより好ましい。
【0080】
含浸温度は、0~90℃が好ましく、5~40℃がより好ましい。
【0081】
含浸時間は、1分~120時間が好ましく、5分~24時間がより好ましい。
【0082】
繊維状吸着担体へのリガンド修飾方法の一例を以下に記載する。ルイス酸(例えば、塩化アルミニウム(III))及びハロゲン化アルキル基を有するカルバミン酸クロリド(例えば、N,N-ビス(2-クロロエチル)カルバミン酸クロリド)を無極性溶媒(例えば、ジクロロメタン)に溶解した溶液に海島複合繊維を添加し、攪拌することでカルバミン酸クロリド結合海島複合繊維を作成する。その後、当該繊維を取り出し、続けてリガンドとしてアミン化合物(例えば、テトラエチレンペンタミン)を溶解したジメチルスルホキシド(以下、DMSO)溶液に上記のカルバミン酸クロリド結合海島複合繊維を添加、取り出した後、水で洗浄したものが、リガンドとしてアミノ基を含む化合物を表面に結合した海島複合繊維である。
【0083】
本実施形態に係る血液浄化カラムの作成方法としては、血液導入口及び血液排出口を有する容器に、中心パイプに巻き付けた繊維状吸着担体を充填し、抗凝固剤を含む水溶液を充填することにより達成される。具体的な作成例として以下の方法が挙げられるが、以下の形態に限定されない。シート状にした繊維状吸着担体5を中心パイプ4に円筒形状になるように巻き付ける。巻き付けた円筒形状の繊維状吸着担体5の直径は、円筒形の容器8の、吸着担体を充填できる空間の内径以下であることを確認する。続いて、繊維状吸着担体5を巻き付けた中心パイプ4の両端にプレート6及びプレート7をそれぞれはめ込み、容器8内にこれらを充填、血液導入口となる蓋材11及び血液排出口となる蓋材12を取り付ける。最後に、抗凝固剤を含む水溶液10を血液導入口2から充填することにより作成できる。
【0084】
本実施形態の血液浄化カラムは、血液成分の吸着を目的にしているが、中でも炎症性疾患の場合は血液中の液性因子であるサイトカインが吸着対象物質として特に好適に用いられる。従って、本実施形態の血液浄化カラムは、炎症性疾患患者の体外循環治療に用いることができる。
【0085】
繊維状吸着担体の血液浄化性能の評価方法としては、例えば、インターロイキン8(以下、IL-8)吸着率を測定する方法が挙げられる。IL-8は血液成分中に含まれるサイトカインの一種であり、炎症性疾患患者において、特に細気管支炎やウイルス感染により発症した疾患の血液成分に顕著に高値となることが知られていることから、血液浄化性能評価用の血液成分として好適である。IL-8の吸着率が高いほど、繊維状吸着担体の血液浄化性能が高いと判断できる。
【実施例】
【0086】
以下、本実施形態に係る血液浄化カラムについて実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0087】
(繊維Aの作製)
海成分としてポリスチレン、島成分としてポリプロピレンを用いて別々に溶融計量し、1つの吐出孔当たり704の島成分用分配孔が穿設された海島複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させて、海島複合流とし、溶融吐出した。島比率を50wt%に制御し、海島複合繊維の表面から最外島成分までの距離を2μmに調整し、単繊度が3.0dtex(繊維径20μm)である海島複合繊維(以下、繊維A)を得た。
【0088】
(編地Aの作製)
繊維Aを用いて、筒編み機(機種名:丸編み機 MR-1、丸善産業株式会社)の度目調整目盛りを調整し、目付けが60g/m2、嵩密度が0.20g/cm3の筒編み編地(以下、編地A)を作製した。
【0089】
(吸着担体1の作製)
N-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミド(以下、NMCA)117gをニトロベンゼン650cm3と98重量%硫酸423cm3の混合溶液に添加後、NMCAが溶解するまで10℃で攪拌して、NMCA溶液を調製した。次に、ニトロベンゼン50cm3、98重量%硫酸33cm3の混合溶液にパラホルムアルデヒド(以下、PFA)5.0gを添加し、PFAが溶解するまで20℃で攪拌し、PFA溶液を調製した。該PFA溶液85cm3を5℃に冷却後、上記NMCA溶液1100cm3に混合した。該混合液を5分間攪拌したのちに、編地A25gを添加して2時間含浸した。含浸後の編地Aを0℃のニトロベンゼン1100cm3中に浸して反応を停止させた後、該編地Aに付着しているニトロベンゼンをメタノールで洗浄した。
【0090】
テトラエチレンペンタミン(以下、TEPA)4.1cm3とトリエチルアミン71cm3をDMSO1000cm3に溶解させた混合液に、上記のメタノールで洗浄した後の編地Aをそのまま添加し、40℃で3時間含浸させた。ガラスフィルターを用いて該編地Aをろ別し、1000cm3のDMSOで洗浄した。
【0091】
活性モレキュラーシーブス3Aで脱水乾燥したDMSO1200cm3に、窒素雰囲気下でパラクロロフェニルイソシアネート1.88gを添加して30℃に加温し、上記洗浄後の編地Aを全量、1時間含浸した。ガラスフィルターを用いて該編地Aをろ別し、繊維状吸着担体1(目付:100g/m2、厚み:0.30mm、開孔率:7.7%、以下、吸着担体1)を得た。
【0092】
吸着担体1に含まれる塩基性官能基の含量測定:
吸着担体1に含まれる塩基性官能基の含量は、該吸着担体1中の塩基性官能基を、酸塩基逆滴定することより決定した。200cm3ナスフラスコに吸着担体1を1.5g、乾燥機にて常圧下、80℃で48時間静置することで乾燥処理をした吸着担体1を得た。次に、ポリプロピレン製容器に、上記吸着担体1を1.0g、6M水酸化ナトリウム水溶液50cm3を添加して30分攪拌し、濾紙を用いて吸着担体1をろ別した。次にイオン交換水50cm3に上記吸着担体1を添加して30分間攪拌し、濾紙を用いてろ別した。上記吸着担体1をイオン交換水に添加、洗浄及びろ別操作を、添加したイオン交換水のろ別後の洗浄液のpHが7になるまで繰り返すことで脱塩後の吸着担体1を得た。該脱塩後の吸着担体1を30℃に設定した真空乾燥機で真空条件下、8時間静置した。続いて、ポリプロピレン製容器に、上記吸着担体1を1.0gと0.1M塩酸を30cm3添加し、10分間攪拌した。攪拌後、溶液のみを5cm3抜き取って、ポリプロピレン製容器に移した。次に、抜き取った溶液に対して、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を0.1cm3滴下した。滴下後10分間攪拌し、溶液のpHを測定した。0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液の滴下後10分間の攪拌、pHの測定操作を同様に100回繰り返した。溶液のpHが8.5を越えた際の0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液滴下量を1g当たりの滴定量とした。1g当たりの滴定量と以下の式2を用いて、吸着担体1の1g当たりの塩基性官能基の含量を算出した。その結果、吸着担体1の塩基性官能基の含量は1.0mmol/gであった。
【0093】
吸着担体1の乾燥重量1g当たりの塩基性官能基の含量(mmol/g)={添加した0.1M塩酸の液量(30cm3)/抜き取った塩酸の液量(5cm3)}×1g当たりの滴定量(cm3/g)×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.1mol/L) ・・・式2
【0094】
(吸着担体2の作製)
テトラエチレンペンタミンの添加量を1.0cm3に変更した以外は吸着担体1の作製方法と同様の操作、同様の測定を行うことで、塩基性官能基の含量が0.2mmol/gの繊維状吸着担体2(目付:95g/m2、厚み:0.32mm、開孔率:6.9%、以下、吸着担体2)を得た。
【0095】
(吸着担体3の作製)
ヘパリンナトリウムを生理食塩水に溶解させ、4IU/cm3のヘパリンナトリウム生理食塩水溶液を2L調製した。次に、編地サイズが15cm×280cmの吸着担体1を2Lの生理食塩水で洗浄した後、調製した4IU/cm3のヘパリンナトリウム生理食塩水溶液2000cm3に吸着担体1を浸漬させ、37℃常圧条件で30分静置した。静置後、上澄みを取り除くことでヘパリンを固定化した繊維状吸着担体3(目付:100g/m2、厚み:0.30mm、開孔率:7.7%、以下、吸着担体3)を得た。
【0096】
(吸着担体4の作製)
浸漬させるヘパリンナトリウム生理食塩水溶液の濃度を2IU/cm3に変更した以外は、吸着担体3の作製方法と同様の操作を行うことで、繊維状吸着担体4(目付:100g/m2、厚み:0.30mm、開孔率:7.7%、以下、吸着担体4)を得た。
【0097】
(吸着担体5の作製)
吸着担体1を吸着担体2に変更した以外は吸着担体3の作製方法と同様の操作を行うことで、繊維状吸着担体5(目付:95g/m2、厚み:0.32mm、開孔率:6.9%、以下、吸着担体5)を得た。
【0098】
(実施例1)
直径12.4cm、直径1.2cmの長手方向の側面に複数の孔を備えた中心パイプに、編地サイズが幅12.4cm、長さ280cm、厚み0.30mmの吸着担体3を巻き付け、ラジアルフローカラム容器に充填した。続いて、4IU/cm
3のヘパリンナトリウム生理食塩水溶液をカラム容器の血液導入口から空気が完全に抜けるよう充填させることで、血液浄化カラム1(血液容量:135cm
3、以下、カラム1)を作製した。なお、以下の3つの試験を実施するために、同一のカラムを3本作成し、それぞれ、実施例1-1、1-2、1-3とした。実施例2~4及び比較例1~3も同様にカラムを3本準備した。カラムのその他の構成は
図1を参照とする。
【0099】
1.カラム1のヘパリン吸着量の測定:
得られたカラム1内に充填された吸着担体3に吸着したヘパリン量を測定するために、カラム1をパイプカッターで解体、中心パイプに巻き付けられた吸着担体を取り出した。次いで、中心パイプに巻き付けられた吸着担体を解いていき、
図3に示す交点A、B、Cにおける吸着担体3をそれぞれΦ8mmの円形に切り出してプラスチック製チューブに入れ、2cm
3の生理食塩水を用いて室温ですすぎ洗いした後、テストチームヘパリンS(積水メディカル社)の操作手順に従って反応させ、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(コロナ電気株式会社、MTP-300)でN=3で測定して、キットの操作手順に従い、交点A及び交点Bでの値並びに交点A、交点B及び交点Cの3点の平均値をそれぞれ算出し、ヘパリン吸着量を求めた。結果を表1に示す(実施例1-1)。
【0100】
2.カラム1の血液通液試験:
得られたカラム1を用いて、牛新鮮血を用いた血液通液試験による圧力測定を行った。カラム1の血液導入口及び血液排出口にそれぞれ回路を接続し、血液導入口直前と血液排出口直後の回路に圧力計(AP32A、キーエンス社製)を取り付け、37℃(外温)で保温した牛新鮮血を100cm3/minで通液し、血液導入口及び血液排出口の圧力を各々測定した。通液開始後30分の時点の血液導入口圧力から通液開始後30分の時点の血液排出口圧力を引いた値(差圧)を算出した。圧力確認後、通液を停止し、生理食塩水を100cm3/minで5分間通液してカラム内を洗浄した後、カラムを解体して、血餅又は血栓の発生の有無を判定した。カラム内や吸着担体に血餅又は血栓の付着が認められたら「あり」、認められなければ「なし」と判定した。圧力測定結果及び血餅又は血栓判定結果を表2に示す(実施例1-2)。
【0101】
3.カラム1のIL-8吸着率測定:
得られたカラム1を用いて、IL-8の吸着率を測定した。牛胎児血清にヒトIL-8を10ng/cm3の濃度となるよう調製し、カラム1に37℃(外温)で保温したIL-8含有溶液2Lを、50cm3/minで循環させた。IL-8吸着率は、IL-8含有溶液の濃度をC0とし、1時間循環後のIL-8含有溶液の濃度をC1としたとき、以下の式3によって算出した。結果を表3に示す(実施例1-3)。
IL-8吸着率(%)=(C0-C1)/C0×100 ・・・式3
【0102】
(実施例2)
吸着担体4を用いて、実施例1と同様の操作を行うことで、血液浄化カラム2(血液容量:135cm3、以下、カラム2)を作製した。得られたカラム2は実施例1と同様の測定を行うことで、ヘパリン吸着量(実施例2-1)、血液通液時の圧力、血餅又は血栓の付着判定(実施例2-2)、IL-8吸着率(実施例2-3)を測定した。結果を表1、表2及び表3に示す。
【0103】
(実施例3)
編地サイズが幅12.4cm、長さ175cm、厚み0.30mmの吸着担体4を用いて、充填するヘパリンナトリウム生理食塩水溶液の濃度を36IU/cm3に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、血液浄化カラム3(血液容量:200cm3、以下、カラム3)を作製した。得られたカラム3は実施例1と同様の測定を行うことで、ヘパリン吸着量(実施例3-1)、血液通液時の圧力、血餅又は血栓の付着判定(実施例3-2)、IL-8吸着率(実施例3-3)を測定した。結果を表1、表2及び表3に示す。
【0104】
(実施例4)
編地サイズが幅12.4cm、長さ370cm、厚み0.30mmの吸着担体4を用いて、充填するヘパリンナトリウム生理食塩水溶液の濃度を2IU/cm3に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、血液浄化カラム4(血液容量:100cm3、以下、カラム4)を作製した。得られたカラム4は実施例1と同様の測定を行うことで、ヘパリン吸着量(実施例4-1)、血液通液時の圧力、血餅又は血栓の付着判定(実施例4-2)、IL-8吸着率(実施例4-3)を測定した。結果を表1、表2及び表3に示す。
【0105】
(比較例1)
直径12.4cm、直径1.2cmの長手方向の側面に複数の孔を備えた中心パイプに、編地サイズが幅12.4cm、長さ280cm、厚み0.30mmの吸着担体1を巻き付け、ラジアルフローカラム容器に充填した。続いて、生理食塩水をカラム容器の血液導入口から空気が完全に抜けるよう充填させることで、血液浄化カラム5(血液容量:135cm3、以下、カラム5)を作製した。
【0106】
4.カラム5のヘパリン吸着量の測定:
得られたカラム5を用いて、血液導入口から4IU/cm3のヘパリンナトリウム生理食塩水溶液を100cm3/minで10分間通液させるプライミングを実施した後、カラム5のヘパリン吸着量を、実施例1と同様の操作により測定した結果を表1に示す(比較例1-1)。
【0107】
5.カラム5の血液通液試験:
得られたカラム5を用いて、牛新鮮血を用いた血液通液試験による圧力測定を行った。カラム5の血液導入口及び血液排出口にそれぞれ回路を接続し、血液導入口から4IU/cm3のヘパリンナトリウム生理食塩水溶液を100cm3/minで10分間通液させるプライミングを実施した。続いて、血液導入口直前と血液排出口直後の回路に圧力計(AP32A、キーエンス社製)を取り付け、37℃(外温)で保温した牛新鮮血を100cm3/minで通液し、血液導入口及び血液排出口の圧力を各々測定した。通液開始後30分の時点の血液導入口圧力から通液開始後30分の時点の血液排出口圧力を引いた値を算出した。圧力確認後、通液を停止し、生理食塩水を100cm3/minで5分間通液してカラム内を洗浄した後、カラムを解体して、血餅又は血栓の発生の有無を判定した。カラム内や吸着担体に血餅又は血栓の付着が認められたら「あり」、認められなければ「なし」と判定した。圧力測定結果及び血餅又は血栓判定結果を表2に示す(比較例1-2)。
【0108】
6.カラム5のIL-8吸着率測定:
カラム5のIL-8吸着率を、実施例1と同様の操作により測定した結果を表2に示す(比較例1-3)。
【0109】
(比較例2)
吸着担体4を用いて、充填するヘパリンナトリウム生理食塩水溶液を生理食塩水に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行うことで、血液浄化カラム6(血液容量:135cm3、以下、カラム6)を作製した。得られたカラム6は実施例1と同様の測定を行うことで、ヘパリン吸着量(比較例2-1)、血液通液時の圧力、血餅又は血栓の付着判定(比較例2-2)、IL-8吸着率(比較例2-3)を測定した。結果を表1、表2及び表3に示す。
【0110】
(比較例3)
吸着担体5を用いて、実施例1と同様の操作を行うことで、血液浄化カラム7(血液容量:135cm3、以下、カラム7)を作製した。得られたカラム7は実施例1と同様の測定を行うことで、ヘパリン吸着量(比較例3-1)、血液通液時の圧力、血餅又は血栓の付着判定(比較例3-2)、IL-8吸着率(比較例3-3)を測定した。結果を表1、表2及び表3に示す。
【0111】
【0112】
表1中、吸着量Aは
図3に示される交点Aにおけるヘパリン吸着量を意味し、吸着量Bは
図3に示される交点Bにおけるヘパリン吸着量を意味し、ヘパリン吸着処理「有り」はカラム充填前にヘパリン吸着処理を施した吸着担体を用いたことを意味し、ヘパリン吸着処理「無し」はカラム充填前にヘパリン吸着処理を施していない吸着担体を用いたことを意味し、プライミング「有り」は血液通液試験前に抗凝固剤を含む水溶液を通液するプライミング操作を施したカラムを用いたことを意味し、プライミング「無し」は血液通液試験前に抗凝固剤を含む水溶液を通液するプライミング操作を施していないカラムを用いたことを意味する。
【0113】
表1の結果より、ヘパリン吸着処理を施していない繊維状吸着担体を用いてプライミングのみを行った場合、繊維状吸着担体へのヘパリン吸着量にムラが生じる一方、本実施形態に係る血液浄化カラムでは、予めヘパリン吸着処理を施した繊維状吸着担体を充填することで、ヘパリンの吸着量のムラを低減できることを明らかにした。
【0114】
【0115】
表2の結果より、ヘパリン吸着処理とヘパリンを含む水溶液を充填したカラムを用いることで、プライミングフリーでも、通液時の圧力上昇を抑制でき、血餅又は血栓の付着を抑制できることが明らかとなった。また、カラム内の不純物を洗浄する目的でプライミングを行う際にも、ヘパリンを含む水溶液を用いることにより、吸着担体に吸着したヘパリンのムラが低い状態で血液の循環が可能である。
【0116】
【0117】
表3の結果より、繊維状吸着担体にヘパリンが吸着され、かつ、ヘパリンを含む水溶液が血液浄化カラム内に充填されていても、吸着対象物質であるサイトカインを十分に吸着できたことから、本カラムは、血液浄化カラムとして十分な性能を発揮できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本実施形態の血液浄化カラムは、医療分野における生体成分処理、特に血液成分処理用途に利用できる。
【符号の説明】
【0119】
1.血液浄化カラム
2.血液導入口/血液排出口
3.血液排出口/血液導入口
4.中心パイプ
5.繊維状吸着担体
6.プレート
7.プレート
8.容器
9.孔
10.抗凝固剤を含む水溶液
11.蓋材
12.蓋材
A.中点mと中点nを結ぶ線分と、中点kから軸線方向に延長した線とが交わる点
B.中点mと中点nを結ぶ線分の1/10倍に相当する距離を中点mから展開方向に移動した点
C.中点nと中点mを結ぶ線分の1/10倍に相当する距離を中点nから展開方向に移動した点
K.繊維状吸着担体5の展開方向の長さを表す線分
M.中心パイプ4に接触していた軸線方向における端面を示す線分
N.中心パイプ4に非接触であり、容器8内部の内壁に接触又は近接している軸線方向における端面を示す線分
k.線分Kの中点
m.線分Mの中点
n.線分Nの中点