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  • 特許-フィルムロール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】フィルムロール
(51)【国際特許分類】
   B65H 18/28 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
B65H18/28
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019027532
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020055689
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2018180206
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野田 紘志
(72)【発明者】
【氏名】三石 剛司
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-252853(JP,A)
【文献】特開2013-086263(JP,A)
【文献】特開2012-046736(JP,A)
【文献】特開2005-170613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 18/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの表面から5mm離れた点における硬度をH、フィルムロールの表面の硬度をH、コアの表面からフィルムロール表面までの距離をD(mm)とした際に、硬度低下率((H-H)/(D-5))が0.00/mm以上0.70/mm以下であり、Hが900以下であり、かつHが700以上であることを特徴とする、フィルムロール。
【請求項2】
前記Hが800以上であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルムロール。
【請求項3】
前記Dが150mm以上350mm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィルムロール。
【請求項4】
フィルムの厚みが50μm以上500μm以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のフィルムロール。
【請求項5】
フィルムが光学用途に用いられることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のフィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き込み異物に起因する欠陥の少ないフィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム(特にポリエステルフィルム)はその優れた機械特性、電気的性質、寸法安定性、耐熱性、透明性、及び耐薬品性などから、各種工業材料用途、包装材料用途、及び磁気材料用途等に好適に使用されている。特に近年は、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの表面保護フィルムや反射フィルム、タッチパパネル、表示板、銘板、窓貼、及び表面加飾材などの拡大により、ポリエステルフィルムの市場は近年益々大きく成長しており、将来に亘っても大きな成長が見込まれている。一方、これらの用途においては、ディスプレイ画面の高精細化や意匠性から図柄の精密化等が進み、ポリエステルフィルムの非常に微細なキズや、平面性といった、最終製品での外観上の改善要求が強くなってきている。
【0003】
近年のタッチパネルなどに代表される透明導電性積層体は、主に、高分子樹脂からなる基材層に他の部材との接着性を高めるための接着層、他の部材との干渉を抑えるための高屈層が設けられ、その上に必要に応じてハードコート層と呼ばれる硬化樹脂層が設けられて、表面に導電性層が設けられる(特許文献1)。上記の接着層、高屈層、ハードコート層、及び導電性層は、干渉抑制や視認性の観点から薄膜化が進んでおり、基材層の物性が、最終構成となる透明導電性積層体に影響を及ぼす可能性がある。そのため、基材の物性の均一性が求められている(特許文献2)。特に、フィルム表面に生じたキズ等の基材層の局所的な高低差を有する欠陥は、透明導電性積層体としたときの導電性の蒸着抜けの原因となり、これが断線を誘発して欠陥商品になることがある。
【0004】
フィルム表面に生じるキズ等の欠陥を防止するためには、フィルムの製造工程における異物を減らすことが重要であり、雰囲気中の異物が一定以下の環境下において、コアにフィルムを巻き取る際の面圧、張力を特定して巻き取ることで、コアにフィルムを巻き取った際に生じる欠陥を軽減する方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-61745号公報
【文献】特開2012-91496号公報
【文献】特開2001-39590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フィルム製造に関する操業を続けるにあたり、製造設備の経年劣化による錆や、フィルム自体からの析出物等が飛散し、製造工程内の微小な異物が増加する場合がある。このような場合、フィルムをコアに巻き取ってフィルムロールとする際に異物を巻き込むため、得られるフィルムロールに、巻き込んだ異物に起因するキズ等の局所的な高低差を有する欠陥が生じるという問題があった。
【0007】
このような巻き込み異物起因の欠陥を軽減する方法として、特許文献3のポリエステル系フィルムの巻き取り方法が提案されている。しかしながら、近年、ディスプレイを初めとした光学部材はより精細な性能を発揮するため、より微細な欠陥も抑制することが求められており、特許文献3の方法は、工程内の異物が増大した場合におけるキズ等の欠陥抑制や、より微細な欠陥の抑制には、効果が十分ではなかった。
【0008】
本発明は、これらの従来技術における問題点に鑑み、巻き込み異物起因の欠陥の少ないフィルムロールを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1) コアの表面から5mm離れた点における硬度をH、フィルムロールの表面の硬度をH、コアの表面からフィルムロール表面までの距離をD(mm)とした際に、硬度低下率((H-H)/(D-5))が0.00/mm以上0.70/mm以下であり、Hが900以下であり、かつHが700以上であることを特徴とする、フィルムロール。
(2) 前記Hが800以上であることを特徴とする、(1)に記載のフィルムロール。
(3) 前記Dが150mm以上350mm以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のフィルムロール。
(4) フィルムの厚みが50μm以上500μm以下であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載のフィルムロール。
(5) フィルムが光学用途に用いられることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載のフィルムロール。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、巻き込み異物起因の欠陥の少ないフィルムロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】幅方向と垂直な面でフィルムロールを切断したときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフィルムロールは、コアの表面から5mm離れた点における硬度をH、フィルムロールの表面の硬度をH、コアの表面からフィルムロール表面までの距離をD(mm)とした際に、硬度低下率((H-H)/(D-5))が0.00/mm以上0.70/mm以下であり、Hが900以下であり、かつHが700以上であることを特徴とする。以下に、本発明を実施するための望ましい形態について、具体的に説明する。
【0013】
本発明のフィルムロールは、本発明の効果を損なわない限り、フィルムを構成する樹脂の種類は制限されない。フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル、及びポリアセタール等の樹脂が挙げられる。その中でも透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性の観点から、フィルムを構成する樹脂は、ポリエステル樹脂を主成分とすることが好ましい。ポリエステル樹脂を主成分とするフィルムは前記の特性に優れるため、例えば、導電性フィルム用表面保護フィルムや、透明導電基材フィルム用途として好ましく用いることができる。なお、本発明において、主成分とするとは、フィルムを構成する樹脂成分全体を100質量%としたときに、50質量%以上含有することを指す。
【0014】
本発明のフィルムロールは、コアの表面から5mm離れた点における硬度をH、フィルムロール表面の硬度をH、フィルムロールのコアの表面からフィルムロール表面までの距離をD(mm)とした際に、硬度低下率((H-H)/(D-5))が0.00/mm以上0.70/mm以下であることが重要である。
【0015】
本発明のフィルムロールにおける硬度(H、H)は、図面1を参照しながら後述する測定方法に基づいて、紙・フィルム巻き硬さ試験機PAROtester(スイス、proceq社製)及び付属のD型インパクト装置を用いて測定することができる。
【0016】
図1は、幅方向と垂直な面でフィルムロールを切断したときの断面図である。フィルムロール1とは、コア2上にフィルム3が巻き取られた状態のロールをいう。Hの測定位置は、コアの中心点4からフィルムロールの直径方向に伸ばした直線上において、コア2の外径であるコアの表面の点5から5mm離れた点6(以下、測定位置Aという)である。Hの測定位置は、前記直線上におけるフィルムロールの表面の点7(以下、測定位置Bという)である。前記の各測定ポイントにおいて、フィルムロール幅方向に等間隔で10箇所の測定点を設け、各測定点で硬度の測定を行い、得られた値の平均値をそれぞれH、Hとする。なお、実際の測定に際して、前述した各測定位置について、まず測定位置Bでの測定を行い、コア上のフィルムを切開した後に測定位置Aでの測定を行う。なお、Dとは、コアの表面の点5とフィルムロールの表面の点7との間の距離をいう。
【0017】
硬度低下率が0.70/mmを超えることは、フィルムロールの表層に近いほどフィルム間の空気含有量が多いことを意味する。フィルムロールがこのような状態にあると、面圧により空気が抜ける際にフィルムが微動し、巻き込んだ異物を起点として発生するキズが増加することがある。一方、硬度低下率が0.00/mm未満であることは、HがHよりも小さいことを意味するが、通常このような状態は実現しえない。コアにフィルムを巻き取るときに張力をかけながら巻き取るが、フィルムロールにした場合、この張力による内部応力はロールの巻き芯方向にかかり、必然的に内層ほど硬巻きになるためである。仮に、硬度低下率が0.00/mm未満であるフィルムロールが実現できたとしても、内層ほどフィルム間の空気含有量が多く、フィルムに係る張力による巻き締りにより内層の空気が抜けた際にフィルム同士が擦れ、噛み込んだ異物を起点としてキズが発生すると考えられる。すなわち、硬度低下率((H-H)/(D-5))が0.00/mm以上0.70/mm以下であることにより、フィルムロールに巻き込まれた異物に起因するキズ等の発生を軽減できる。上記観点から、硬度低下率は0.00/mm以上0.60/mm以下が好ましく、0.00/mm以上0.50/mm以下がより好ましく、0.00/mm以上0.30/mm以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明のフィルムロールは、フィルムロール表面の硬度Hが700以上であることが重要である。Hが700未満であることは、フィルムロール中の空気含有量が過剰であることを意味する。フィルムロールがこのような状態にあると、面圧により空気が抜ける際にフィルムが微動し、巻き込んだ異物を起点として発生するキズが増加することがある。また、Hは850以下であることが好ましい。Hが850を超えると、フィルムと巻き込んだ異物との接触圧が高いため、フィルムへ巻き込んだ異物が転写し易くなることがある。
【0019】
本発明のフィルムロールは、Hが900以下であることが重要である。Hが900を超えることは、フィルムロールにかかる内部応力が過剰であることを意味する。フィルムロールがこのような状態にあると、フィルム同士の接触圧が高いため、巻き込んだ異物や、フィルムの巻きはじめの段差等が転写し易くなることがある。一方、Hの下限は本発明の効果を損なわない限り特に制限されない。但し、キズ等の発生を軽減する観点から、Hが800以上であることが好ましい。Hを800以上とすることにより、空気の巻き込みが軽減されるため、巻き締まりによるフィルム同士の摩擦や巻き込んだ異物に起因するキズ等の発生が抑えられる。
【0020】
硬度低下率を0.00/mm以上0.70/mm以下、Hを700以上、Hを900以下に調整する方法は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、例えば、巻き取り中のフィルムロールにコンタクトロールを接圧させながら巻き取るコンタクトロール方式を用い、後述する巻き取り条件を調整する方法が挙げられる。より具体的には、後述する好ましい範囲で、巻き取り速度を小さくすること、巻き取り工程における面圧や巻き取り張力を大きくすること等により、硬度低下率を小さく、HやHを大きくすることができる。
【0021】
本発明のフィルムロールを製造する際の巻き取り工程における巻き取り速度は、50m/min以上150m/min以下であることが好ましく、より好ましくは60m/min以上120m/min以下である。巻き取り速度を150m/min以下とすることにより、フィルムロールへの過剰な空気の巻き込みが軽減されるため、硬度低下率を小さくすることや、HやHを高くすることが容易となり、巻き込んだ異物に起因するキズ等の発生が軽減される。一方、巻き取り速度を50m/min以上とすることにより、巻き取りに要する時間が過度に増加せず、時間あたりの製品生産効率が保たれる。
【0022】
また、巻き取り工程における面圧(コンタクトロールによる接圧)は、100N/m以上500N/m以下であることが好ましく、より好ましくは170N/min以上440N/min以下である。巻き取り工程における面圧を100N/m以上とすることにより、空気の巻き込みが軽減されるため、硬度低下率を小さくすることや、HやHを高くすることが容易となり、巻き込んだ異物に起因するキズ等の発生が軽減される。一方、巻き取り工程における面圧を500N/min以下とすることにより、巻き込んだ異物に起因するキズやフィルムの巻きはじめにおける段差等のフィルムへ転写を軽減することができる。
【0023】
また、巻き取り工程における巻き取り張力は、200N/m以上400N/m以下であることが好ましく、より好ましくは200N/m以上250N/m以下である。巻き取り張力を200N/m以上とすることにより、厚みが50μm以上の比較的厚いフィルムを巻き取る際にも、曲げ剛性の影響が軽減されて巻き取り中のフィルムがロール形状へ追従し易くなるため、追従不足に伴うフィルムの微小な弛みや微動が軽減され、巻き込んだ異物に起因するキズ等の発生が軽減される。一方、巻き取り張力を400N/m以下とすることにより、フィルムロールの内部応力が抑えられ、巻き込んだ異物に起因するキズやフィルムの巻きはじめにおける段差等のフィルムへ転写を軽減することができる。
【0024】
また、巻き取り速度、巻き取り工程における面圧、及び巻き取り張力は、本発明の効果を損なわない限りフィルムを巻き取りながら漸減、漸増させても良い。
【0025】
本発明のフィルムロールは、Dが150mm以上350mm以下であることが好ましい。Dを150mm以上とすることにより、フィルムロール一本あたりのフィルムの長さが十分に保たれるため、製造する際のフィルムロールの入れ替え回数増加が抑えられ、生産効率を良好に保つことができる。一方、Dを350mm以下とすることにより、製品の外径や重量の増加が軽減されてフィルムロールの運搬等のハンドリング性が良好となる他、硬度低下率やHの制御が容易となり、さらに巻き込んだ異物に起因するキズやフィルムの巻きはじめにおける段差等のフィルムへ転写も軽減することができる。
【0026】
を150mm以上350mm以下とするための手段は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えば、一本のフィルムロールに巻き取るフィルムの長さを調節する方法が挙げられる。より具体的には、一本のフィルムロールに巻き取るフィルムを長くすることにより、Dを大きくすることができる。
【0027】
本発明のフィルムロールは、フィルムの厚みが50μm以上500μm以下であることが好ましい。フィルムの厚みを50μm以上とすることにより、巻き込んだ異物のフィルムへ転写を軽減することができる。一方、フィルムの厚みを500μm以下とすることにより、巻きはじめにおける段差のフィルムへの転写を軽減することが容易となる。
【0028】
本発明のフィルムロールは、巻き込み異物に起因する欠陥の少ないフィルムロールである。そのため、本発明のフィルムロールにおけるフィルムは、光学用途、導電性フィルム用表面保護用途や、透明導電基材用途等に好ましく用いることができ、特に、光学用途として好適に用いることができる。
【0029】
以下、本発明のフィルムロールの製造方法について、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある。)フィルムのロールを例に挙げて具体的に説明する。但し、本発明は以下に記載の態様に限定されない。
【0030】
先ず、PETチップを溶融押出機に投入して溶融する。その後、ギヤポンプ等で押出量を均一化して加熱溶融されたPETを押出し、フィルターで異物やゲル化物を取り除く。このとき、押出機は1台であっても複数台であってもよく、複数台の押出機を用いる場合は、フィルターを通過したPETを積層装置に送り込む。積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができ、これらを任意に組み合わせてもよい。
【0031】
このようにして得られたPETの溶融体を、口金からシート状に押し出し、キャストドラム等の冷却体上で冷却固化させて無配向シートを得る。シート状の溶融PETから無配向シートを得る具体的な方法としては、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、シート状溶融物を静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させる方法が好ましい。他には、スリット状、スポット状又は面状の装置からエアを吹き出して、シート状溶融物をキャスティングドラム等の冷却体に密着させて急冷固化させる方法や、ニップロールにてシート状溶融物を冷却体に密着させて急冷固化させる方法も好ましい。
【0032】
次に、このようにして得た無配向シートを、長手方向に延伸(縦延伸)して一軸配向シートを得る。縦延伸は、一本又は周速の等しい複数本の延伸ロールを使用して1段階で行うことも、周速の異なる複数本の延伸ロールを使用して多段階に行うことも可能であり、その温度は70~100℃が、倍率は3.0~5.0倍がそれぞれ好ましい。長手方向とは、フィルムロールの製造過程においてはシート又はフィルムの走行方向、フィルムロールにおいてはフィルムの巻き方向をいう。
【0033】
また、縦延伸後、得られた一軸配向シートの両面若しくは片面に、易接着層等の機能層を形成させるための塗剤を塗布する工程を設けることも可能である。塗剤を塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。
【0034】
その後、一軸配向シートの幅方向両端部を複数のクリップで把持してテンター装置に導き、予熱及び塗剤の乾燥を行い、クリップの幅を広げることで幅方向に延伸(横延伸)して二軸配向フィルムを得る。このときの温度は90~115℃が、倍率は3.0~5.0倍がそれぞれ好ましい。また、本発明の効果を損なわない限り、テンター装置内で延伸後の二軸配向フィルムを200~250℃で熱処理を行い、その後冷却して寸法安定性を付与することもできる。また、上記熱処理中に幅方向に3~12%の弛緩処理を施してもよい。幅方向とは、フィルムロールの製造過程においては長手方向とシート又はフィルム面内で直交する方向をいい、フィルムロールにおいてはコアの中心軸と平行な方向をいう。
【0035】
こうして得られた二軸配向フィルムは、その後の搬送工程で冷却されて、スリッターで幅方向両端部を除去され、必要に応じて所望の幅に裁断される。裁断後の二軸配向フィルムをコアに巻き取ることで、本発明のフィルムロールを得ることができる。硬度低下率を0.00/mm以上0.70/mm以下、Hを900以下、そしてHを700以上に調整する観点から、巻き取り工程における巻き取り速度は、50m/min以上150m/min以下であることが好ましく、より好ましくは60m/min以上120m/min以下である。面圧は、100N/m以上500N/m以下であることが好ましく、より好ましくは170N/min以上440N/min以下である。巻き取り張力は、200N/m以上400N/m以下であることが好ましく、より好ましくは200N/m以上250N/m以下である。
【0036】
こうして得られた本発明のフィルムロールは、巻き込み異物に起因する欠陥の少ないフィルムロールである。そのため、本発明のフィルムロールにおけるフィルムは、光学用途、導電性フィルム用表面保護用途や、透明導電基材用途等に好ましく用いることができ、特に、光学用途として好適に用いることができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、諸特性は以下の方法により測定した。
【0038】
(1)フィルム厚み
フィルムをA4サイズにカットし、ダイヤルゲージ(ミツトヨ社製 “No2110S-10”)を用いて、任意の20点を測定し、得られた値の平均値の小数第一位を四捨五入した値をフィルム厚み(μm)とした。
【0039】
(2)ロール半径、D
コア半径、フィルム巻長、及び(1)の方法で測定したフィルム厚みより、下記式1でロール半径(mm)を算出した(小数第1位を四捨五入)。さらに、得られたロール半径の値よりコア半径を差し引いて四捨五入した値をDとした。なお、コア半径は全実施例及び全比較例で83.5mmである。
式1:
ロール半径[mm]=((巻長[m]×フィルム厚み[μm])/π+(コア半径[mm]))0.5
(3)硬度、硬度低下率
図1を用いて説明したように、測定位置A6、測定位置B7において紙・フィルム巻き硬さ試験機PAROtester(スイス、proceq社製)、及び付属のD型インパクト装置を用いて、硬度を測定した。各測定ポイントにおいて、フィルムロール幅方向に等間隔で10点測定を行い、測定値(整数)10個を平均し、小数第1位を四捨五入して得られた値をそれぞれH、Hとした。さらに、H、H、及び(2)の方法で測定したDより、((H-H)/(D-5))を算出し、得られた値の小数第3位を四捨五入した値を硬度低下率(/mm)とした。なお、H及びHの測定については、先にHの測定を行い、その後コア上のフィルムロールを測定位置Aまで切開してHの測定を行った。
【0040】
(4)塵埃度
ハンドヘルド型気中パーティクルカウンター(米国Beckman Coulter社製、MET ONE、HHPC3+)を用いて、巻き取り工程における雰囲気中の2μm以上の塵埃の含有量を測定した。
【0041】
(5)転写跡
コアに巻き取ったフィルムロールの測定位置A、測定位置Bから、面積が1mになるようにフィルムをサンプリングした。その後、各サンプルを温度150℃に設定したオーブン中に無緊張状態で10分間保持した後、室温で10分間冷却した。得られたサンプルに蛍光灯で光を照射し、その反射光によりフィルム表面に映し出された蛍光灯の反射像の状態を目視で確認し、下記の基準で評価した。なお、測定位置AとBとで測定結果が異なる場合は、悪い方の結果を採用するものとした。
〇:蛍光灯の反射像に歪みは見られなかった。
△:蛍光灯の反射像に歪みは見られたが、さらに温度150℃に設定したオーブン中に無緊張状態で10分間保持すると蛍光灯の反射像に歪みは見られなくなった。
×:さらに温度150℃に設定したオーブン中に無緊張状態で10分間保持しても蛍光灯の反射像に歪みが見られた。
【0042】
(6)キズ増加数
1mの面積となるように、コアにフィルムを巻き取る前のフィルム、及びコアに巻き取ったフィルムロールの測定位置A、測定位置Bからフィルムをサンプリングした。暗室にて、フィルムサンプルの一方の面を2000lxのLEDライト(OHM社製EB-10KM)で入射角をフィルムサンプルに対して水平30°~150°の範囲で変えながらライト照射面側から観察し、目視で確認出来たキズをサンプリングした。サンプリングしたキズをレーザー顕微鏡で観察し、キズの深さ0.3μm以上、かつ、長さ0.3mm以上であるキズをカウントした。5つのフィルム試料について実施し、その平均値をもって、コアにフィルムを巻き取る前後でのキズ増加数とし、下記の基準で評価した。なお、測定位置AとBとで測定結果が異なる場合は、悪い方の結果を採用するものとした。
◎:キズ増加数≦0個/m
○:0個/m<キズ増加数≦1個/m
△:1個/m<キズ増加数≦5個/m
×:5個/m<キズ増加数。
【0043】
(フィルムの製造に用いた樹脂等)
実施例、比較例で用いる樹脂等の調製法を参考例として示す。
【0044】
[参考例1]ポリエチレンテレフタレート(PET)の調製
酸成分としてテレフタル酸を、グリコール成分としてエチレングリコールを用い、三酸化アンチモン(重合触媒)を得られるポリエステルペレットに対してアンチモン原子換算で300ppmとなるように添加して重縮合反応を行い、極限粘度0.63dl/g、カルボキシル末端基量40当量/トン、ガラス転移温度(Tg)74℃の、粒子を含有しないPETを得た。なお、極限粘度は、JIS K 7367(2000)に従い、25℃のo-クロロフェノール中で測定した値であり、カルボキシル末端基量はMauliceの方法に準じた後述の手順にて測定した値である(参考文献:M.J.Maulice,F.Huizinga,Anal.Chim.Acta,22,363(1960))。また、TgはJIS K 7121(1987)に従って、25℃から300℃まで20℃/分で昇温して測定した値であり、その測定には、セイコーインスツルメント社(株)ロボットDSC-RDC220熱示差走査計を用い、データ解析には、同社製ディスクセッションSSC/5200を用いた。
【0045】
以下、カルボキシル末端基量の測定手順について具体的に説明する。先ず、測定試料2gをo-クレゾール/クロロホルム(質量比7/3)50mLに温度80℃にて溶解した。その後、0.05NのKOH/メタノール溶液によって滴定し、末端カルボキシル基濃度を測定して当量/ポリエステル1tの値で示した。このとき、滴定時の指示薬はフェノールレッドを用いて、黄緑色から淡紅色に変化したところを滴定の終点とした。なお、測定試料を溶解させた溶液に無機粒子などの不溶物がある場合は、溶液を濾過して不溶物の質量測定を行い、不溶物の質量を測定試料の質量から差し引いた値を測定試料の質量とする補正を行った。
【0046】
[参考例2] アクリル樹脂塗料の調製
窒素ガス雰囲気下、減圧状態で溶媒となる水300部中に乳化剤としてp-ドデシルベンゼンスルホン酸Na1質量部、モノマーとしてメタクリル酸メチル(MMA)65質量部、アクリル酸エチル(EMA)30質量部、N-メチロールアクリルアミド(N-MAM)3質量部、アクリル酸(AA)2質量部を乳化重合反応器に仕込み、これに過硫酸ナトリウム(開始剤)を全モノマー成分100万質量部に対して100質量部添加して、30~80℃で10時間反応を行った後、アンモニア水溶液(アルカリ)でpH7.0~9.0となるように調整を行った。その後、70℃の減圧下において未反応モノマーを除去、濃縮し、濃度35質量%のアクリルエマルションを得た。得られたアクリル樹脂100質量部に対して粒径80nmのコロイダルシリカ1質量部を添加した混合水溶液を塗料とした。
【0047】
(実施例1)
参考例1のPETチップを、180℃の温度で5時間、3torrの減圧下で乾燥し、溶融押出機に投入して280℃の温度で溶融した後、濾過精度8μmのフィルターで濾過後、T字型口金からシート状に押し出した。押し出されたシート状物を、静電印加キャスト法により表面温度20℃の温度の鏡面キャストドラム上で冷却固化させて無配向シートを得た。この無配向シートを、連続的に配置されたロール群でまず75℃に予熱を行った後、95℃のロールで加熱し、ラジエーションヒーターでシート面を加熱しつつ、長手方向に3.5倍の延伸を行い、一軸配向シートを得た。一軸配向シートの両表面にバーコーターを用いて参考例2の塗料を乾燥後の塗布層厚みが60nmとなるように塗布した。なお、メタリングワイヤーバーは直径13mm、ワイヤー径0.1mm(#4)のものを用いた。一軸配向シートの幅方向両端部をクリップで把持してオーブンに導き、温度120℃、風速20m/分の熱風にて加熱乾燥した。引き続き連続的に延伸工程に導き、温度100℃、風速15m/分の熱風にて加熱しながら幅方向に3.7倍延伸した。得られた二軸配向フィルムを引き続き連続的に温度230℃、風速20m/分の熱風にて15秒間熱処理を実施後、230℃から120℃まで冷却しながらフィルム幅方向に5%の弛緩処理を施し、続けて50℃まで冷却した。引き続き幅方向両端部を除去した後に巻き取り、厚み188μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムを所定の幅にスリットし、外径167mmのプラスチックコア(FWPコア、天龍コンポジット株式会社製)に、表1の巻き取り条件、ロール半径で巻き取り、フィルムロールを得た。得られたフィルムロールについて、各項目の評価を行った。各項目の評価結果を表1に示す。コアにフィルムを巻き取る工程における2μm以上の塵埃度は、8,000個/立方フィートであった。
【0048】
(実施例2~8、比較例1~5)
フィルム厚みを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム製膜を行い、ポリエステルフィルムを得た後、実施例1と同様の塵埃度の環境下で、表1の巻き取り条件、ロール半径で巻き取ってフィルムロールを得た。各項目の評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、巻き込み異物に起因する欠陥の少ないフィルムロールを提供することができる。本発明のフィルムロールを構成するフィルムは、光学用途、導電性フィルム用表面保護用途、及び透明導電基材用途等に好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1:フィルムロール
2:コア
3:フィルム
4:コアの中心点
5:コアの表面の点
6:コアの表面から5mm離れた点(測定位置A)
7:フィルムロールの表面の点(測定位置B)
図1