(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20230221BHJP
B60W 10/11 20120101ALI20230221BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20230221BHJP
B60W 10/119 20120101ALI20230221BHJP
B60K 17/356 20060101ALI20230221BHJP
F16H 59/74 20060101ALI20230221BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20230221BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20230221BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230221BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20230221BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20230221BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20230221BHJP
B60W 20/30 20160101ALI20230221BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20230221BHJP
B60W 20/14 20160101ALI20230221BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20230221BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20230221BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20230221BHJP
【FI】
B60W10/00 108
B60W10/11
B60W10/26
B60W10/119
B60K17/356 B
F16H59/74
F16H61/02
F16H63/50
B60L15/20 K
B60L15/20 S
B60L7/14
B60W10/10 900
B60W10/18 900
B60W20/30 ZHV
B60W20/15
B60W20/14
B60K6/46
B60K6/52
B60K6/547
(21)【出願番号】P 2019040640
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】弓削 勝忠
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-087251(JP,A)
【文献】特開2008-253038(JP,A)
【文献】特開2007-050866(JP,A)
【文献】特開2013-158201(JP,A)
【文献】特開2008-238836(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053605(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 ~ 20/50
B60K 17/356
F16H 59/74
F16H 61/02
F16H 63/50
B60L 15/20
B60L 7/14
B60K 6/46
B60K 6/50 ~ 6/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪又は後輪の一方の左右車輪に接続された第一モータと、
車両の前輪又は後輪の他方の左右車輪に接続された第二モータと、
前記第二モータと左右車輪との間に介在する変速機と、
前記変速機の変速動作を制御する制御部と、
を備え、
車両の減速に伴って、車速が高速ギアから低速ギアに切り替える切替標準車速に到達し、かつ、前記第一モータと前記第二モータの両方で回生を行う場合よりも、該第一モータのみで回生を行った方が回生効率は高いと判断されたときに、前記制御部が、前記変速機を高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替えた上で、車両の走行状態に基づいて、その後のギアの切替状態を決定する変速制御装置。
【請求項2】
前記車速が前記切替標準車速に到達したときに、車両に要求された要求回生量が前記第一モータの最大回生量を超えている場合において、前記制御部は、該要求回生量が該最大回生量を下回るまで、高速ギアからニュートラル状態へのギアの切り替えを保留する
請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサをさらに有し、
前記変速機が高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替えられた状態であって、前記アクセルセンサで検出した踏み込み量が所定のアクセル閾値以上である場合において、前記制御部は、前記変速機をニュートラル状態から高速ギアに戻す制御を行なう
請求項1又は2に記載の変速制御装置。
【請求項4】
ドライバによるブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサをさらに有し、
前記変速機が高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替えられた状態であって、前記ブレーキセンサで検出した踏み込み量が所定のブレーキ閾値以上である場合において、前記制御部は、前記変速機をニュートラル状態から低速ギアに切り替える制御を行なう
請求項1から3のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【請求項5】
前記変速機が高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替えられた状態であって、車速が、停車前に最も低速のギアに切り替え完了可能な最低車速である切替下限車速に到達した場合において、前記制御部は、前記変速機をニュートラル状態から低速ギアに切り替える制御を行なう
請求項1から4のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や電気自動車のように前輪及び後輪にそれぞれモータが設けられた4輪駆動式の車両においては、力行時にモータによって各車輪を駆動する一方で、制動時に各車輪の回転力をモータに伝達して電力を回生するように構成したものが多い。このモータには、例えば、低速ギアと高速ギアの2段から構成される変速機が併設されることがある。この変速機を設けることにより、車両の発進直後の低速領域から高速領域までの広い速度領域において、モータの駆動力を効率良く車輪に伝達する一方で、回生時において効率良く回生し得るようにしている。
【0003】
この変速機は、後輪側モータのみに併設されることが多く、この場合、前輪側モータは前輪車軸に直結される。2段式変速機の場合、停車状態からドライバがアクセルペダルを踏み込んで車両を加速すると、所定の速度(
図2(b)中のV2)で変速機のギアは低速ギアから高速ギアに切り替えられる。その一方で、走行中にドライバがブレーキペダルを踏み込んで減速すると、所定の速度(
図2(b)中のV1)で変速機のギアは高速ギアから低速ギアに切り替えられる。
【0004】
高速ギアから低速ギアへの切り替えに際しては、モータと車輪との間の回転力の伝達が一旦解除されるニュートラル状態となるため、モータによる回生動作が不安定になりやすい。そこで、回生動作を安定的に行うために様々な工夫が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1では、後輪に有段の自動変速機が搭載されたハイブリッド車において、自動変速機の変速前に後輪側モータによる回生制動力を0とし、後輪側の回生制動力を前輪側モータに上乗せする制動力制御手段を設け、回生動作が不安定となる後輪側での回生を抑制している(特許文献1の段落0037~0039)。特許文献2では、モータジェネレータによって前後輪の両方から回生可能な車両において、例えば、後輪の回生制動が正常に実施されていないと判断されたときに、この後輪に設けられた変速機の変速比を高速側に移動させて、回生制動トルクを減少し、車両の走行安定性を確保する制御が行われる(特許文献2の段落0102~0108)。特許文献3では、前後輪に別々のモータを有する車両において、車両の走行状態に応じて設定される所定回生電力が、フロントモータ又はリアモータの一方の回生能力を下回った場合、すなわち、一方のモータのみで所定回生電力が得られると判断された場合、他方のモータのインバータの駆動を停止して消費電力の抑制を図っている(特許文献3の段落0037~0038)。特許文献4では、前輪にフロントモータ、後輪にリアモータを備えた車両において、フロントモータとリアモータの回生量をそれぞれ算出し、これらのモータのうち回生量の多い方で回生を行うよう制御している(特許文献4の段落0021)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-238836号公報
【文献】特開2006-325397号公報
【文献】特開2018-11488号公報
【文献】特開2004-187331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記において、特許文献1のように後輪側の回生制動力を前輪に全て負担させた場合、前輪側モータの回生効率を考慮すると、最大の回生効率を得られていない虞がある。また、特許文献2のように後輪の回生制動トルクを減少させた場合、車両の走行安定性の面ではメリットがあるが、回生電力は低下する問題がある。また、特許文献3、4のように、前後輪の一方のモータのみで回生を行う場合、モータの回生効率を考慮すると、前後輪の両方のモータで回生する場合と比較して、回生量が低下する虞がある。
【0008】
そこで、この発明は、前輪及び後輪にそれぞれモータが設けられた4輪駆動式の車両において、回生を効率良く行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明においては、車両の前輪又は後輪の一方の左右車輪に接続された第一モータと、車両の前輪又は後輪の他方の左右車輪に接続された第二モータと、前記第二モータと左右車輪との間に介在する変速機と、前記変速機の変速動作を制御する制御部と、を備え、車両の減速に伴って、車速が高速ギアから低速ギアに切り替える切替標準車速に到達し、かつ、前記第一モータと前記第二モータの両方で回生を行う場合よりも、該第一モータのみで回生を行った方が回生効率は高いと判断されたときに、前記制御部が、前記変速機を高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替えた上で、車両の走行状態に基づいて、その後のギアの切替状態を決定する変速制御装置を構成した。
【0010】
前記構成においては、前記車速が前記切替標準車速に到達したときに、車両に要求された要求回生量が前記第一モータの最大回生量を超えている場合において、前記制御部は、該要求回生量が該最大回生量を下回るまで、高速ギアからニュートラル状態へのギアの切り替えを保留する構成とすることができる。
【0011】
前記各構成においては、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルセンサをさらに有し、前記変速機が高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替えられた状態であって、前記アクセルセンサで検出した踏み込み量が所定のアクセル閾値以上である場合において、前記制御部は、前記変速機をニュートラル状態から高速ギアに戻す制御を行なう構成とすることができる。
【0012】
前記各構成においては、ドライバによるブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサをさらに有し、前記変速機が高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替えられた状態であって、前記ブレーキセンサで検出した踏み込み量が所定のブレーキ閾値以上である場合において、前記制御部は、前記変速機をニュートラル状態から低速ギアに切り替える制御を行なう構成とすることができる。
【0013】
前記各構成においては、前記変速機が高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替えられた状態であって、車速が、停車前に最も低速のギアに切り替え完了可能な最低車速である切替下限車速に到達した場合において、前記制御部は、前記変速機をニュートラル状態から低速ギアに切り替える制御を行なう構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明では、車両の減速に伴って、車速が前後一方の左右車輪に接続された変速機を高速ギアから低速ギアに切り替える切替標準車速に到達し、かつ、前後輪に設けられた第一モータと第二モータの両方で回生を行う場合よりも、該第一モータのみで回生を行った方が回生効率は高いと判断されたときに、制御部が、前記変速機を高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替えた上で、車両の走行状態に基づいて、その後のギアの切替状態を決定するように変速制御装置を構成した。このため、各モータによる回生効率を最大限に高めるとともに、車両の走行状態に対応して変速機の切替状態を決定することによって、安定した走行状態を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明に係る変速制御装置が搭載された車両の一例(4輪駆動式のシリーズ式ハイブリッド車)を示す模式図である。
【
図2】(a)はフロントモータのトルク特性を、(b)はリアモータのトルク特性をそれぞれ示す図である。
【
図5】要求回生量に対する回生効率を示す図であって、(a)は1モータの方が高効率の場合、(b)は2モータの方が高効率の場合である。
【
図9】この発明に係る変速制御装置における処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る変速制御装置が搭載された車両10の一例を
図1に示す。この車両10は、前輪11及び後輪12の両方の車輪をモータによって駆動する4輪駆動式のシリーズ式ハイブリッド車である。この変速制御装置は、前輪11を駆動する第一モータ13(以下、フロントモータ13という。)、後輪12を駆動する第二モータ14(以下、リアモータ14という。)、リアモータ14の出力軸から後輪12に伝達される回転の回転数を変速する変速機15、及び、変速機15の変速動作等を制御する制御部16を主要な構成要素としている。
【0017】
フロントモータ13は、前輪11のドライブシャフトに変速機を介さずに直結されている。
図2(a)に示すように、フロントモータ13は、低速で最大トルクFmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルク(ドライブシャフトの軸トルク)が減少するトルク特性を有している。
【0018】
リアモータ14は、後輪12のドライブシャフトに変速機15を介して設けられている。この変速機15は、高速ギアと低速ギアとを有する2段変速機である。
図2(b)に示すように、高速ギアは、それほど大きなトルクを必要としない低速から高速までの広い車速域(例えば、街中や高速道路での通常走行時)に対応している。この高速ギアは、低速で最大トルクRHmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルクが減少するトルク特性を有している。
【0019】
低速ギアは、車速が比較的低速で大きなトルクを必要とする走行状態(例えば、登坂時や低速からの全開加速時)に対応している。この低速ギアは、低速で最大トルクRLmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルクが減少するトルク特性を有している。中間車速域では、高速ギアと低速ギアのトルクはほぼ一致している。
【0020】
停車状態から加速を開始して、車速が所定の車速(
図2(b)中のV2(例えば60km/h))を上回ると、ギアが低速ギアから高速ギアに切り替えられる。その一方で、減速に伴って車速が所定の車速(
図2(b)中のV1(例えば50km/h)。以下、切替標準車速という。)を下回ると、ギアが高速ギアから低速ギアに切り替えられる。高速ギアと低速ギアとの間の切り替えの際には、一旦、後輪12の左右車輪とリアモータ14の間の動力伝達が遮断されたニュートラル状態とされる。
【0021】
フロントモータ13の最大トルクFmaxは、後述する高速ギアから低速ギアへの変速の際に、フロントモータ13のみでリアモータ14に割り振られた要求トルクを負担できるように、リアモータ14の高速ギアにおける最大トルクRHmaxよりも大きく、かつ、低速ギアにおける最大トルクRLmaxよりも小さく設定されている。
【0022】
減速の際には、ドライバによるブレーキペダル17の踏み込み量や車速等の走行状態に基づいて要求回生量が決定される。この要求回生量は、バッテリ18の所定の充電状態を維持するために必要な回生量である。
【0023】
フロントモータ13とリアモータ14の両モータによって回生を行っている状態において、リアモータ14に設けられた変速機15のギアを切り替えると、この変速機15が一旦ニュートラル状態となるため、リアモータ14で回生を行うことができない。そこで、フロントモータ13で、リアモータ14の分も併せて回生が行なわれる。
【0024】
ジェネレータ19は、エンジン20の駆動力によって発電を行う。そして、その電力によって直接、又は、発電後に一旦バッテリ18に蓄えられた電力によって、フロントモータ13及びリアモータ14が駆動される。
【0025】
アクセルペダル21には、ドライバによるアクセルペダル21の踏み込み量を検出するアクセルセンサ22が、ブレーキペダル17には、ドライバによるブレーキペダル17の踏み込み量を検出するブレーキセンサ23が、それぞれ設けられている。また、この車両10には、車速を検出する車速センサ24が設けられている。アクセルセンサ22、ブレーキセンサ23、及び、車速センサ24による検出結果はそれぞれ制御部16に伝達され、変速機15の変速動作の制御に利用される。
【0026】
変速タイミングの第一例を
図3に示す。車両10の通常走行時において、変速機15のギアは高速ギア(HI)となっている。ここで、ドライバがブレーキペダル17を踏み込むと、その踏み込み量や車速等に基づいて要求回生量が決定される。この要求回生量が、フロントモータ13によって回生可能な最大の回生量(以下、最大回生量P1という。)よりも大きいときに、車速が切替標準車速V1に到達して変速機15を高速ギアから低速ギア(LO)に切り替えると、ニュートラル状態となったリアモータ14の回生量をフロントモータ13のみで受け持つことができない。このため、要求回生量と最大回生量の差分を各車輪に設けられた機械式ブレーキ(図示せず)で熱として消費しなければならず、回生効率の点で好ましくない。
【0027】
そこで、要求回生量が最大回生量P1よりも大きいときは、車速が切替標準車速V1を下回っても高速ギアをそのまま維持する(
図3中のA点以降)。そして、車速が、停車前に低速ギアへの切り替えが完了可能な最低車速V1’(例えば、30km/h。以下、切替下限車速という。)に到達したときに(
図3中のB点)、高速ギアから低速ギアへの切り替えを行う。なお、
図3(及び後述する
図4)においては、高速ギアから低速ギアに短時間のうちに切り替えられる際のニュートラル状態の図示は省略している。
【0028】
このようにすると、フロントモータ13及びリアモータ14の両モータによる回生を継続して、回生効率の低下を防止することができる。しかも、停車前に確実に低速ギアに戻すことによって、停車状態からの再加速をスムーズに行うことができる。
【0029】
変速タイミングの第二例を
図4に示す。車両10の通常走行時において、変速機15のギアは高速ギア(HI)となっている。ここで、ドライバがブレーキペダル17を踏み込むと、その踏み込み量や車速等に基づいて要求回生量が決定される。要求回生量がフロントモータ13の最大回生量P1よりも大きいときは、車速が切替標準車速V1を下回っても高速ギアをそのまま維持する(
図4中のA点以降)。そして、要求回生量が最大回生量P1を下回った時点で、フロントモータ13のみで回生するよりも、フロントモータ13とリアモータ14の両モータで回生する方が回生効率は高いと判断したときに(要求回生量が
図4中のP2を上回っているときに)、高速ギアをそのまま維持するように制御している(
図4中のB点以降)。そして、車速が、切替下限車速V1’に到達したときに(
図4中のC点)、ギアが高速ギアから低速ギア(LO)に切り替えられる。
【0030】
このようにすると、フロントモータ13及びリアモータ14の両モータによる回生を継続して、回生効率の低下を防止することができる。しかも、停車前に確実に低速ギアに戻して、停車状態からの再加速をスムーズに行うことができる。
【0031】
フロントモータ13とリアモータ14の2モータ、又は、フロントモータ13のみの1モータのいずれで回生するのが回生効率の点で好ましいかについては、
図5(a)(b)に示すマップを用いて判断することができる。このマップは、要求回生量に対する回生効率を示しており、図中の等高線の中央側ほど回生効率が高く、周縁に向かうほど低下する分布、すなわち、モータの中速回転領域かつ中トルク領域で高効率となる分布となっている。このマップは、実機の実測値に基づいて予め作成される。
【0032】
ここで、フロントモータ13とリアモータ14が同じトルク特性を有するモータであって、かつ、2モータで回生する際には、各モータにトルクが等分に振り分けられるように設定した場合を例に挙げて説明する。
【0033】
図5(a)に示すように、制動時の要求回生量A1’が比較的大きい場合(例えば20kW)、1モータで回生すると、このモータが受け持つ回生量はA1’となり、2モータで回生すると、各モータはそれぞれ要求回生量A1’の半分の大きさの回生量A1(=A1’/2)を受け持つ。
図5(a)に示すマップから、回生量A1’及びA1に対応する回生効率が例えばそれぞれ80%、90%である場合、1モータで回生すると、その回生量は20kW/モータ×0.8×1モータ=16kWとなり、2モータで回生すると、その回生量は10kW/モータ×0.9×2モータ=18kWとなる。すなわち、この場合、1モータよりも2モータの方が、回生効率は良いと判断できる。
【0034】
その一方で、
図5(b)に示すように、制動時の要求回生量A2’が比較的小さい場合(例えば10kW)、1モータで回生すると、このモータが受け持つ回生量はA2’となり、2モータで回生すると、各モータはそれぞれ要求回生量A2’の半分の回生量A2(=A2’/2)を受け持つ。
図5(b)に示すマップから、回生量A2’及びA2に対応する回生効率が例えばそれぞれ90%、80%である場合、1モータで回生すると、その回生量は10kW/モータ×0.9×1モータ=9kWとなり、2モータで回生すると、その回生量は5kW/モータ×0.8×2モータ=8kWとなる。すなわち、この場合、2モータよりも1モータの方が、回生効率は良いと判断できる。
【0035】
なお、上記においては、説明を簡便に行うため、フロントモータとリアモータのトルク特性が同じであって、リアモータに設けられた変速機を考慮しなかったが、変速機を備えたモータについては、高速ギアと低速ギアのそれぞれに対する上記マップを準備した上で、回生効率の判断が行なわれる。また、各モータが受け持つ回生量の分配比も適宜変更することができる。
【0036】
変速タイミングの第三例を
図6に示す。車両10の通常走行時において、変速機15のギアは高速ギア(HI)となっている。ここで、ドライバがブレーキペダル17を踏み込むと、その踏み込み量や車速等に基づいて要求回生量が決定される。要求回生量がフロントモータ13の最大回生量P1よりも大きいときは、車速が切替標準車速V1を下回っても高速ギアをそのまま維持する(
図6中のA点以降)。そして、要求回生量が最大回生量P1を下回った時点で、ギアが一旦ニュートラル状態(N)に切り替えられる(
図6中のB点)。その後、ドライバが所定の閾量以上アクセルペダルを踏み込むと(後述する
図9中のアクセル閾値X参照)、ギアがニュートラル状態から再び高速ギア(HI)に切り替えられる(
図6中のC点)。
【0037】
このようにすると、フロントモータ13及びリアモータ14の両モータによる回生を継続して、回生効率の低下を防止することができる。しかも、ドライバの再加速意思に対応して、ギアが高速ギアに切り替えられるので、スムーズに通常走行を継続することができる。
【0038】
変速タイミングの第四例を
図7に示す。車両10の通常走行時において、変速機15のギアは高速ギア(HI)となっている。ここで、ドライバがブレーキペダル17を踏み込むと(
図7中のブレーキ1)、その踏み込み量や車速等に基づいて要求回生量が決定される。要求回生量がフロントモータ13の最大回生量P1よりも大きいときは、車速が切替標準車速V1を下回っても高速ギアをそのまま維持する(
図7中のA点以降)。そして、要求回生量が最大回生量P1を下回った時点で、ギアが一旦ニュートラル状態(N)に切り替えられる(
図7中のB点)。その後、ドライバが所定の閾量以上ブレーキペダル17をさらに踏み込むと(
図7中のブレーキ2、後述する
図9中のブレーキ閾値Y参照)、ギアがニュートラル状態から低速ギア(LO)に切り替えられる(
図7中のC点)。
【0039】
このようにすると、フロントモータ13及びリアモータ14の両モータによる回生を継続して、回生効率の低下を防止することができる。しかも、ドライバの減速意思に対応して、ギアが低速ギアに切り替えられるので、停車前に余裕をもってその切り替えを行って、停車後の再加速をスムーズに行うことができる。
【0040】
変速タイミングの第五例を
図8に示す。車両10の通常走行時において、変速機15のギアは高速ギア(HI)となっている。ここで、ドライバがブレーキペダル17を踏み込むと、その踏み込み量や車速等に基づいて要求回生量が決定される。要求回生量がフロントモータ13の最大回生量P1よりも大きいときは、車速が切替標準車速V1を下回っても高速ギアをそのまま維持する(
図8中のA点以降)。そして、要求回生量が最大回生量P1を下回った時点で、ギアが一旦ニュートラル状態(N)に切り替えられる(
図8中のB点)。その後、車速が、切替下限車速V1’に到達したときに(
図8中のC点)、ギアがニュートラル状態から低速ギア(LO)に切り替えられる。
【0041】
このようにすると、フロントモータ13及びリアモータ14の両モータによる回生を継続して、回生効率の低下を防止することができる。しかも、停車前に確実に低速ギアに戻すことによって、停車状態からの再加速をスムーズに行うことができる。
【0042】
この発明に係る変速制御装置における処理フローのフローチャートの一例を
図9を用いて説明する。
【0043】
この処理フローは、車両10の通常走行時に開始される。その開始時点において、変速機15のギアは高速ギア(HI)となっている(ステップS1)。
【0044】
この通常走行時に、ドライバがブレーキペダル17を踏み込むと、車両10が減速するとともに回生が開始される(ステップS2)。車両10の減速に伴って、車速センサ24で検出された車速と、変速機15のギアを高速ギアから低速ギアに切り替える切替標準車速V1との大小を比較する(ステップS3)。車速が切替標準車速V1よりも大きいときは(ステップS3のNo側)、この比較ステップを繰り返す。
【0045】
その一方で、車速が切替標準車速V1以下のときは(ステップS3のYes側)、ブレーキペダル17の踏み込み量や車速等に基づいて決定される要求回生量と、フロントモータ13の最大回生量P1との大小を比較する(ステップS4)。
【0046】
要求回生量が最大回生量P1よりも大きいときは(ステップS4のYes側)、高速ギアを保ったまま、車速と、停車前に低速ギアへの切り替えが完了可能な最低車速である切替下限車速V1’との大小を比較する(ステップS5)。車速が切替下限車速V1’よりも小さいときは(ステップS5のYes側)、ギアを低速ギア(LO)に切り替え(ステップS6)、一連の処理フローからリターンする(ステップS7)。車速が切替下限車速V1’以上のときは(ステップS5のNo側)、要求回生量と最大回生量P1の大小の比較ステップに戻る(ステップS4)。
【0047】
その一方で、要求回生量が最大回生量P1よりも小さいときは(ステップS4のNo側)、フロントモータ13とリアモータ14の2モータ、又は、フロントモータ13のみの1モータのいずれで回生したときの回生効率が高いか比較する(ステップS8)。
【0048】
2モータの回生効率が1モータの回生効率よりも高いときは(ステップS8のYes側)、高速ギアを保ったまま、車速と切替下限車速V1’との大小の比較を行う(ステップS9)。車速が切替下限車速V1’よりも小さいときは(ステップS9のYes側)、ギアを低速ギア(LO)に切り替え(ステップS6)、一連の処理フローからリターンする(ステップS7)。車速が切替下限車速V1’以上のときは(ステップS9のNo側)、2モータと1モータの回生効率の比較ステップに戻る(ステップS8)。
【0049】
その一方で、2モータの回生効率が1モータの回生効率以下のときは(ステップS8のNo側)、ギアを高速ギアから一旦ニュートラル状態に切り替える(ステップS10)。そして、アクセルセンサ22で検出したアクセルペダル21のストローク(踏み込み量)と所定のアクセル閾値Xとの大小を比較する(ステップS11)。
【0050】
アクセルペダル21のストロークが、アクセル閾値X以上のときは(ステップS11のYes側)、ギアを高速ギア(HI)に切り替え(ステップS12)、一連の処理フローからリターンする(ステップS7)。その一方で、アクセルペダル21のストロークが、アクセル閾値Xよりも小さいときは(ステップS11のNo側)、ブレーキセンサ23で検出したブレーキペダル17のストローク(踏み込み量)と所定のブレーキ閾値Yとの大小を比較する(ステップS13)。
【0051】
ブレーキペダル17のストロークが、ブレーキ閾値Y以上のときは(ステップS13のYes側)、ギアを低速ギア(LO)に切り替え(ステップS14)、一連の処理フローからリターンする(ステップS7)。
【0052】
その一方で、ブレーキペダル17のストロークが、ブレーキ閾値Yよりも小さいときは(ステップS13のNo側)、車速と切替下限車速V1’との大小の比較を行う(ステップS15)。車速が切替下限車速V1’よりも小さいときは(ステップS15のYes側)、ギアを低速ギア(LO)に切り替え(ステップS14)、一連の処理フローからリターンする(ステップS7)。車速が切替下限車速V1’以上のときは(ステップS15のNo側)、アクセルペダル21のストロークとアクセル閾値Xとの大小の比較ステップに戻る(ステップS11)。
【0053】
上記において説明した変速制御装置の構成、処理フローのフローチャート等は、この発明を説明するための単なる例示に過ぎず、前輪11及び後輪12にそれぞれモータ13、14が設けられた4輪駆動式の車両10において、回生を効率良く行う、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、上記の構成要素、処理フロー等に適宜変更を加えることができる。
【0054】
例えば、上記においては、後輪12のみに変速機15を設けた構成としたが、前輪11のみに変速機15を設けた構成とすることもできる。また、前後輪11、12の両方に変速機15を設けた構成とできる可能性もある。また、変速機15を2段変速機とする代わりに、各段の間にニュートラル状態が介在する、より多段の変速機15を採用することもできる。
【0055】
また、上記においては、シリーズ式ハイブリッド車を例示して説明したが、この変速制御装置は電気自動車にも適用することができる。さらに、プラグインハイブリッド車やパラレル式ハイブリッド車等のように、前後輪11、12にそれぞれモータ13、14を備えた車両10に幅広く適用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0056】
10 車両
11 前輪(駆動輪)
12 後輪(駆動輪)
13 フロントモータ(第一モータ)
14 リアモータ(第二モータ)
15 変速機
16 制御部
17 ブレーキペダル
18 バッテリ
19 ジェネレータ
20 エンジン
21 アクセルペダル
22 アクセルセンサ
23 ブレーキセンサ
24 車速センサ