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7230616管状体、パイプ及びホース並びに変性エチレン・α-オレフィン共重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】管状体、パイプ及びホース並びに変性エチレン・α-オレフィン共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20230221BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20230221BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20230221BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20230221BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C08J5/00 CES
C08L23/26
C08K5/5415
C08J3/24 A
F16L11/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019053172
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020152834
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中出 宏
(72)【発明者】
【氏名】林 義晃
(72)【発明者】
【氏名】上田 卓也
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-116438(JP,A)
【文献】特開2017-128658(JP,A)
【文献】特開昭57-012051(JP,A)
【文献】特開2006-342284(JP,A)
【文献】特開2000-230025(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070491(WO,A1)
【文献】特開昭57-147507(JP,A)
【文献】特開2013-057070(JP,A)
【文献】特開2019-172896(JP,A)
【文献】特開2019-131797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08F 251/00-283/00
C08F 283/02-289/00
C08F 291/00-297/08
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00;301/00
B29C 48/00-48/96
F16L 9/00-11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α-オレフィン共重合体を不飽和シラン化合物によりグラフト変性した変性エチレン・α-オレフィン共重合体を架橋触媒の存在下に架橋反応させてなるシラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体よりなる管状体であって、
該エチレン・α-オレフィン共重合体の示差走査熱量計(DSC)で測定される融解終了点が160℃以上であり、該変性エチレン・α-オレフィン共重合体が下記(1)~(3)を満たす、管状体。
(1) 構成単位であるα-オレフィンがプロピレンを含む
(2) ゲル分率が65質量%以上
(3) 190℃、2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.05g/10分~2g/10分
【請求項2】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体が、エチレン・プロピレン共重合体と、エチレン・プロピレン共重合体以外のエチレン・α-オレフィン共重合体とを含む混合物である、請求項1に記載の管状体。
【請求項3】
前記エチレンプロピレン共重合体を構成する構成単位としてのプロピレンの割合が55~98質量%、エチレンの割合が2~45質量%である、請求項2に記載の管状体。
【請求項4】
前記架橋触媒がシラノール縮合触媒である、請求項1~のいずれかに記載の管状体。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の管状体からなるパイプ。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の管状体からなるホース。
【請求項7】
エチレン・プロピレン共重合体を含むエチレン・α-オレフィン共重合体を不飽和シラン化合物によりグラフト変性した変性エチレン・α-オレフィン共重合体であって、
該エチレン・α-オレフィン共重合体の示差走査熱量計(DSC)で測定される融解終了点が160℃以上であり、該変性エチレン・α-オレフィン共重合体が下記(1)~(3)を満たす、変性エチレン・α-オレフィン共重合体。
(1) 構成単位であるα-オレフィンがプロピレンを含む
(2) ゲル分率が65質量%以上
(3) 190℃、2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.05g/10分~2g/10分
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体、パイプ及びホース並びに変性エチレン・α-オレフィン共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料に比べて耐腐食性や施工性に優れたプラスチックが、管状体、中でも給水・給湯用のパイプやホースの材料として用いられている。この中でも、特に耐圧強度や高温度領域での耐クリープ性に優れている不飽和シラン変性ポリエチレンを架橋処理した、いわゆるシラン変性ポリエチレン架橋パイプ(以下架橋パイプという)を用いることが主流となっている。
【0003】
架橋パイプは一般的に、ポリエチレン、有機不飽和シラン化合物、有機過酸化物及びシラノール縮合触媒を混合して成形して得られるパイプを、水分の存在下で架橋する方法で生産されるが、その製造方法には、上記材料を一度に混合し、パイプを成形するモノシル法と、一旦ポリエチレン、有機不飽和シラン化合物、有機過酸化物を用いてシラン変性ポリエチレンを作成しておき、パイプの成形加工時にシラノール縮合触媒を添加して成形する2段法とがある。
【0004】
これらの方法において、いずれも水の沸点領域での耐熱性を発現するために高融点の高密度ポリエチレンを原料として架橋パイプを製造することが主流である。
特許文献1には、破断伸び等のパイプ物性の変化を抑制しつつ、耐久寿命(特には、曲げて配管した場合の耐久寿命)を延ばした架橋ポリオレフィンパイプとして、シリコーンオイルを含む架橋ポリオレフィンパイプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-40299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように架橋パイプは、成形されたパイプに対して水分の存在下で架橋する方法で製造されるが、その際、通常、パイプは成形後にロール状に巻き取られ、高温高湿下、あるいはパイプ内部に温水を通水して架橋処理が行われる。架橋処理時間は通常16~24時間であり、成形および架橋処理によってパイプはロール状の状態で収縮する。そのため施工時にロール状の原反からパイプを引き出すと、パイプは巻癖(曲げ癖)のついた波打ち状態で引き出される。従って、施工時には、この巻癖を曲げ戻す必要があり、この際に無理な力が掛りクリープ性能などの力学的特性が悪化し、漏水などの原因となる問題があった。また、施工場所の形状に合わせて、架橋パイプを過度に曲げ伸ばしすると、初期機械物性や長期クリープ不良等が発生するという問題もあった。
【0007】
その対策として、パイプを直線状に伸ばした状態で架橋処理を行う方法があるが、この場合には架橋設備が大型となり、ひいてはコストに大きく影響を与えるので、工業的に有利な方法とは言えない。
【0008】
なお、上記特許文献1に記載の架橋ポリオレフィンパイプは、特殊なシリコーンオイルを用いており、またシリコーンオイルの添加量が少ないため、ゲル分率が低く、架橋が十分ではなく、耐クリープ性において十分に満足し得るものではない。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、架橋パイプ製品としての曲げにくさを低減することができ、曲げ伸ばしによって巻癖を直し易く、ゲル分率が高い管状体、パイプ及びホース並びにこれらを製造するのに適した変性エチレン・α-オレフィン共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、エチレン・α-オレフィン共重合体の中でも、構成単位としてプロピレンを含むもの、特にプロピレン・エチレン共重合体を含むエチレン・α-オレフィン共重合体であって、特定のメルトフローレート及びゲル分率を有するものを用いて、不飽和シラン化合物によりグラフト変性した変性エチレン・α-オレフィン共重合体を架橋させて得られる管状体が、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
[1] エチレン・α-オレフィン共重合体を不飽和シラン化合物によりグラフト変性した変性エチレン・α-オレフィン共重合体を架橋触媒の存在下に架橋反応させてなるシラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体よりなる管状体であって、該変性エチレン・α-オレフィン共重合体が下記(1)~(3)を満たす、管状体。
(1) 構成単位であるα-オレフィンがプロピレンを含む
(2) ゲル分率が65質量%以上
(3) 190℃、2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.05g/10分~2g/10分
【0012】
[2] 前記エチレン・α-オレフィン共重合体が、エチレン・プロピレン共重合体と、エチレン・プロピレン共重合体以外のエチレン・α-オレフィン共重合体とを含む混合物である、[1]に記載の管状体。
【0013】
[3] 前記エチレン・α-オレフィン共重合体混合物について、以下の方法で測定、算出されたエチレン含有指標が0.10~0.95である、[2]に記載の管状体。
<エチレン・α-オレフィン共重合体混合物のエチレン含有指標の測定・算出方法>
膜厚100μmのエチレン・α-オレフィン共重合体混合物のシートについて、下記測定条件で透過モードでFT-IR測定を行い、下記算出方法で算出した。
<測定条件>
積算回数:32
分解:4cm-1
スキャンスピード:2mm/sec
<算出方法>
エチレン含有指標
=(エチレン・α-オレフィン共重合体混合物のエチレン基に由来するピーク高さ)
/(エチレン・α-オレフィン共重合体混合物のプロピレン基に
由来するピーク高さとメチレン基に由来するピーク高さの和)
【0014】
[4] 前記エチレン・α-オレフィン共重合体の示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が160℃以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の管状体。
【0015】
[5] 前記架橋触媒がシラノール縮合触媒である、[1]~[4]のいずれかに記載の管状体。
【0016】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の管状体からなるパイプ。
【0017】
[7] [1]~[5]のいずれかに記載の管状体からなるホース。
【0018】
[8] エチレン・プロピレン共重合体を含むエチレン・α-オレフィン共重合体を不飽和シラン化合物によりグラフト変性した変性エチレン・α-オレフィン共重合体であって、該変性エチレン・α-オレフィン共重合体が下記(1)~(3)を満たす、変性エチレン・α-オレフィン共重合体。
(1) 構成単位であるα-オレフィンがプロピレンを含む
(2) ゲル分率が65質量%以上
(3) 190℃、2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.05g/10分~2g/10分
【発明の効果】
【0019】
本発明の管状体は、収縮率が低いので架橋時の収縮応力の発生が少ないために、巻癖を直し易く、かつ曲げ易い。このため、本発明の管状体は給水・給湯用のパイプやホースとして使用する際に施工し易い。また、曲げて施工したときの耐久寿命の向上も期待される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0021】
〔変性エチレン・α-オレフィン共重合体〕
本発明の管状体の原料として使用される、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体は、下記(1)~(3)の条件を満足するものである。
(1) 構成単位であるα-オレフィンがプロピレンを含む
(2) ゲル分率が65質量%以上
(3) 190℃、2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.05g/10分~2g/10分
なお、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン・α-オレフィン共重合体を不飽和シラン化合物によりグラフト変性したものである。また、変性エチレン・α-オレフィン共重合体が構成単位のα-オレフィンとしてプロピレンを含むということは、シラン変性前のエチレン・α-オレフィン共重合体が構成単位としてプロピレンを含むことに等しい。
【0022】
<エチレン・α-オレフィン共重合体>
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体が挙げられるが、該エチレン・α-オレフィン共重合体は、構成単位であるα-オレフィンとしてプロピレンを含む、即ちエチレン・プロピレン共重合体を含有することを特徴とする。好ましくは、本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン・プロピレン共重合体とエチレン・プロピレン共重合体以外のエチレン・α-オレフィン共重合体とを含む混合物(以下、「エチレン・α-オレフィン共重合体混合物」と称す場合がある。)である。
【0023】
エチレン・プロピレン共重合体以外のエチレン・α-オレフィン共重合体(以下、「その他のエチレン・α-オレフィン共重合体」と称す場合がある。)において、エチレンと共重合させる炭素数4~20のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、6-メチル-1-ヘプテンなどが挙げられるが、エチレンと共重合させるα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。
【0024】
エチレン・α-オレフィン共重合体としては、構成単位であるα-オレフィンとしてプロピレンを含む、即ちエチレン・プロピレン共重合体を含有するものであれば、エチレンと1種類のα-オレフィンとの共重合体であってもよく、エチレンと2種類以上のα-オレフィンを組合わせた共重合体であってもよい。また、単独のエチレン・α-オレフィン共重合体でも、2種類以上のエチレン・α-オレフィン共重合体を混合したエチレン・α-オレフィン共重合体混合物でもよいが、相溶性の観点から、2種類以上のエチレン・α-オレフィン共重合体を混合したエチレン・α-オレフィン共重合体混合物であることが好ましい。
【0025】
その他のエチレン・α-オレフィン共重合体は、共重合体を構成する構成単位として、1種又は2種以上のα-オレフィン2~45質量%と、エチレン55~98質量%とを共重合させたものが好ましい。
また、エチレン・プロピレン共重合体としては、共重合体を構成する構成単位としてのプロピレンの割合が55~98質量%、エチレンの割合が2~45質量%であることが好ましい。
【0026】
また、エチレン・α-オレフィン共重合体が、2種類以上のエチレン・α-オレフィン共重合体を混合した混合物である場合、その中に占めるエチレン・プロピレン共重合体の割合は0.20~30質量%が好ましく、より好ましくは2~25質量%、特に好ましくは5~22質量%である。この割合が30質量%以下であれば管状体の押出外観が良好となり、また、架橋処理後のゲル分率が向上する傾向がある。一方、0.2質量%以上であれば架橋パイプとして曲げ易くなる傾向がある。
【0027】
なお、エチレン・α-オレフィン共重合体がエチレン・プロピレン共重合体とその他のエチレン・α-オレフィン共重合体との混合物の場合、エチレン・プロピレン共重合体とその他のエチレン・α-オレフィン共重合体との相溶性は、該エチレン・α-オレフィン共重合体混合物について、以下の方法で測定・算出されたエチレン含有指標として評価することができる。
<エチレン・α-オレフィン共重合体混合物のエチレン含有指標の測定・算出方法>
膜厚100μmのエチレン・α-オレフィン共重合体混合物のシートについて、下記測定条件で透過モードでFT-IR測定を行い、下記算出方法で算出した。
<測定条件>
積算回数:32
分解:4cm-1
スキャンスピード:2mm/sec
<算出方法>
エチレン含有指標
=(エチレン・α-オレフィン共重合体混合物のエチレン基に由来するピーク高さ)
/(エチレン・α-オレフィン共重合体混合物のプロピレン基に
由来するピーク高さとメチレン基に由来するピーク高さの和)
【0028】
上記エチレン含有指標の測定・算出方法の詳細は後述の実施例の項に記載の通りであるが、本発明において、このエチレン・α-オレフィン共重合体混合物のエチレン含有指標は0.10~0.95であることが好ましく、より好ましくは0.20~0.90であり、更により好ましくは0.50~0.85であり、特に好ましくは0.55~0.80である。エチレン含有指標が0.10以上であれば、変性エチレン・α-オレフィン共重合体として架橋した後の管状体が硬くなり難く、ゲル分率も向上するため、十分な曲げ易さを得ることができ、クリープ性能に優れる傾向がある。一方、エチレン含有指標が0.95以下であれば、架橋後の収縮率が抑えられる傾向があり、管状体として過度な巻癖がつかず、巻き戻しし易い傾向がある。
なお、エチレン・プロピレン共重合体は融点が高いため、架橋後の収縮率は低くなる傾向がある。パイプなどの管状体は、押出成形後ロール状に巻き取られそのまま架橋されるため、成形および架橋による収縮により巻癖がつく。そのため収縮が小さい成形材料は架橋による巻癖効果が少なくなるため巻き戻しし易い材料となる。
【0029】
エチレン・α-オレフィン共重合体は常法に従って、触媒の存在下に、エチレンとα-オレフィンとを共重合させることにより製造することができる。その際に用いる触媒としては、チーグラーナッタ系触媒やメタロセン触媒などを用いることが可能であるが、必要密度範囲の入手可能性を考慮すると、チーグラ-ナッタ系の触媒が好ましい。メタロセン系触媒を用いて得られるエチレン・α-オレフィン共重合体は通常密度の低い材料が主体である。
【0030】
エチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、880kg/m以上、965kg/m以下が好ましく、より好ましくは890kg/m以上、960kg/m以下である。
なお、エチレン・α-オレフィン共重合体の中でもエチレン・プロピレン共重合体の密度は、860kg/m以上、920kg/m以下が好ましく、より好ましくは880kg/m以上、910kg/m以下である。
【0031】
エチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、主にエチレンと共重合する他のα-オレフィンの導入量等によって調整することができ、おおよそ不飽和シラン化合物によるグラフト変性後の変性エチレン・α-オレフィン共重合体と等しい。
エチレン・α-オレフィン共重合体の密度が上記上限以下であれば、架橋により得られる架橋体及びパイプなどの管状体の剛性が高くなりすぎることがなく、例えば、パイプの配管施工性も良好となる。エチレン・α-オレフィン共重合体の密度が上記下限以上であれば、長期耐久性、特に耐クリープ特性や、耐熱性が良好となる傾向がある。
ここで、エチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、JIS K7112(1999)に記載の方法により測定される。
【0032】
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体の190℃、2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)は、0.5g/10分以上、5g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは1.0g/10分以上、2g/10分以下である。
【0033】
エチレン・α-オレフィン共重合体の190℃、2.16kgのMFRが0.5g/10分以上であれば、変性時の粘度が高くなりすぎることがなく、変性時の押出特性も良好になると共に、得られる変性エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRの低下を抑えることができ、その結果、パイプなどの管状体の成形時の圧力の上昇を抑えることができる。従って、例えばトルク異常や、表面性が悪化するメルトフラクチャーの発生等の問題もなく、良好な押出成形性を得ることができる。一方、エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが5g/10分以下であれば、得られる変性エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRも低くなり、パイプなどの管状体の成形時のドローダウンの発生等を抑え、良好な押出成形性を得ることができる。
【0034】
なお、エチレン・α-オレフィン共重合体及び後述の本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRは、JIS K7210に記載の方法により190℃、2.16kg荷重で測定される。
ただし、エチレン・プロピレン共重合体のMFRはJIS K7210に記載の方法により230℃、2.16kg荷重で測定される。
【0035】
また、本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度(以下「融解終了点」と称す場合がある。)が160℃以上であることが好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点が160℃以上であると高温でも結晶により形状を保持可能である。ただし、エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点が過度に高いと、成形昇温時の未溶融のブツや成形冷却時の早期結晶化(メルトフラクチャー)により外観不良となる恐れがあることから、エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点は通常175℃以下であることが好ましい。
エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0036】
本発明において、エチレン・α-オレフィン共重合体としては、市販品を用いることもでき、例えば、JPE社製ノバテックスシリーズ、Lyodellbasell社製Q300Fなどを選択して用いることもできる。また、エチレン・α-オレフィン共重合体は、1種のみを用いてもよく、コモノマーのα-オレフィンの種類や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。前述の通り、好ましくは、エチレン・プロピレン共重合体とその他のエチレン・α-オレフィン共重合体とを混合して用いる。
2種以上のエチレン・α-オレフィン共重合体を混合して用いる場合は、それぞれのエチレン・α-オレフィン共重合体のMFR及び密度が上記範囲内であればよい。
【0037】
<変性エチレン・α-オレフィン共重合体>
本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体は、上記のエチレン・α-オレフィン共重合体を不飽和シラン化合物によりグラフト変性してなり、上記のエチレン・α-オレフィン共重合体に、加水分解可能な有機基を有するオレフィン性不飽和シラン化合物を、ラジカル発生剤の存在下に共重合させることによって得ることができる。この反応において、不飽和シラン化合物は、ベースとなるエチレン・α-オレフィン共重合体相互の架橋点となるようにエチレン・α-オレフィン共重合体にグラフト化されるものである。
【0038】
ここで、加水分解可能な有機基を有するオレフィン性不飽和シラン化合物としては、下記一般式(1)で表されるシラン化合物が好適に用いられる。
RSiR’3-n (1)
(式(1)中、Rは1価のオレフィン性不飽和炭化水素基を示し、Yは加水分解し得る有機基を示し、R’は脂肪族不飽和炭化水素以外の1価の炭化水素基あるいはYと同じものを示し、nは0、1又は2を示す。)
【0039】
一般式(1)において、Rはビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基等が好ましく、R’はメチル基、エチル基、プロピル基、デシル基、フェニル基等が好ましく、Yはメトキシ基、エトキシ基、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基、アルキルないしアリールアミノ基が好ましい。
【0040】
また、より好ましい不飽和シラン化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
CH=CHSi(OA) (2)
(式(2)中、Aは炭素数1~8の1価の炭化水素基を示す。)
上記一般式(2)で表される不飽和シラン化合物としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0041】
不飽和シラン化合物としてはまた、下記一般式(3)で表される化合物も好ましく用いることができる。
CH=C(CH)COOCSi(OA) (3)
(式(3)中、Aは式(2)におけると同義である。)
上記一般式(3)で表される不飽和シラン化合物としては、例えばγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0042】
これらの中で、不飽和シラン化合物としてはビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0043】
これらの不飽和シラン化合物は1種を単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0044】
グラフト変性に用いる不飽和シラン化合物の添加量は、エチレン・α-オレフィン重合体の全質量を基準にして、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上であり、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。不飽和シラン化合物の添加量が少なすぎると充分なグラフト化が困難となる傾向があり、また多すぎると目ヤニ発生の原因となる傾向があるとともに経済的でなくなる。ここで、不飽和シラン化合物の添加量は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体における不飽和シラン化合物に由来する単位と同じ意味をもつものである。
【0045】
グラフト変性時に使用されるラジカル発生剤としては、重合開始作用の強い種々の有機過酸化物及びパーエステル、例えば、ジクミルパーオキサイド、α,α′-ビス(t-ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。これらの中で、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイドが好ましい。これらのラジカル発生剤は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0046】
ラジカル発生剤の添加量は、得られる変性エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが最終的に以下のMFRの範囲になるよう調整することが必要であるが、得られる変性エチレン・α-オレフィン共重合体の全質量を基準にして、通常0.01質量%以上、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、通常0.5質量%以下、好ましくは0.4質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。ラジカル発生剤の使用量が少なすぎると充分なグラフト化反応が困難となる傾向があり、また多すぎると得られる変性エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが低下して、押出加工性が低下するとともに成形表面が悪くなる傾向がある。
【0047】
本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体の190℃、2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)は0.05g/10分以上、2g/10分以下である。このMFRは好ましくは0.1g/10分以上で、好ましくは1g/10分以下である。
【0048】
変性エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが0.05g/10分より低い場合、パイプ等の管状体の成形時の圧力が大幅に上昇してしまい、たとえばトルク異常や、表面性が悪化するメルトフラクチャーの発生等、押出成形性が悪化する。一方、変性エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRが2g/10分を超えると、パイプ等の管状体の成形時のドローダウンの発生等で、やはり押出成形性が悪化してしまう。
【0049】
また、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、変性前のエチレン・α-オレフィン共重合体と同様に880kg/m以上、965kg/m以下が好ましく、より好ましくは890kg/m以上、960kg/m以下である。
なお、変性エチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、JIS K7112(1999)A法に準拠して測定される。
【0050】
また、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体は、ゲル分率が65質量%以上であることが必要である。これは一般的に架橋ポリエチレン管の規格であるJIS K6769や、暖房用ポリエチレン管の規格であるJXPA401にて規定されている。ここで、ゲル分率は、樹脂の架橋度を示す指標となるものであり、ゲル分率が大きければ架橋度が高く、逆にゲル分率が小さければ架橋度は低いといえる。変性エチレン・α-オレフィン共重合体の架橋度が65質量%より低い場合、最終的に得られる製品の耐熱性、クリープ特性が低下してしまう。この観点から、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体のゲル分率は68質量%以上であることが好ましい。一方、完全にすべての分子を架橋させることは現在の技術上困難であることから、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体のゲル分率の上限は通常90質量%以下である。
【0051】
JIS K6769やJXPA401にて規定されているゲル分率測定方法は、実際のパイプ成形を実施した後、パイプ状態で架橋処理を実施したパイプを用いて測定されるが、本発明においては簡便のため、次の方法により変性エチレン・α-オレフィン共重合体のゲル分率を測定するものとする。
【0052】
<変性エチレン・α-オレフィン共重合体のゲル分率の測定方法>
変性エチレン・α-オレフィン共重合体にジオクチルスズラウリレートを0.05質量%添加(実際にはMFR:1g/10分、密度920kg/mの直鎖状低密度ポリエチレンにジオクチルスズラウリレートを1質量%添加したマスターバッチを添加)し、溶融混練後、210℃にて0.5mm厚みに押出したシートを80℃温水中、24時間架橋処理したサンプルを用い、1mm四方に裁断したサンプル約0.5g(試料質量をG1(g)とする)を200メッシュの金網中で、キシレン中、ソックスレー抽出にて120℃で8時間還流した後、金網上に残った沸騰キシレン不溶分を10Torrの真空中において80℃で8時間乾燥させてその質量を精量し(精量した沸騰キシレン不溶分の質量をG2(g)とする)、下記(4)式により求める。
ゲル分率(%)=G2(g)÷G1(g)×100 (4)
【0053】
また、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体は、不飽和シラン化合物に由来する単位の含有量が適当であり、混合物としてのゲル分率及びMFRが前述の規定範囲内であれば、2種以上の変性エチレン・α-オレフィン共重合体をブレンドしたもの、又は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体と変性されていないエチレン・α-オレフィン共重合体とをブレンドしたものであってもよい。
【0054】
〔シラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体〕
本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体は、架橋触媒の存在下、架橋反応させてなるシラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体として、本発明の管状体を構成する。
【0055】
<架橋触媒>
変性エチレン・α-オレフィン共重合体の架橋反応に用いる架橋触媒としては、シラノール縮合触媒が好ましく使用される。以下、シラノール縮合触媒について詳述する。
【0056】
シラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジラウレート等の錫触媒;ナフテン酸鉛、ステアリン酸鉛等の鉛触媒;カプリル酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の亜鉛触媒;ナフテン酸コバルト等のコバルト触媒、チタン酸テトラブチルエステル等のチタン触媒;ステアリン酸カドミウム等のカドミウム触媒;ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム等のアルカリ土類金属触媒等の有機金属触媒が挙げられる。これらの中で錫触媒が好ましい。これらのシラノール縮合触媒は1種を単独で用いても、2種以上を任意の組合せで併用してもよい。
【0057】
シラノール縮合触媒の添加量は、シラノール縮合触媒を添加する変性エチレン・α-オレフィン共重合体の全質量を基準として、通常0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。シラノール縮合触媒の添加量が少なすぎると十分な架橋反応が進まず、また多すぎるとコスト的に不利になる。
【0058】
なお、シラノール縮合触媒は、一般的にマスターバッチ形式で添加することが簡便である。シラノール縮合触媒のマスターバッチは、例えば、シラノール縮合触媒をエチレン単独重合体(ポリエチレン)やエチレン・α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンの1種又は2種以上に添加して混練することにより製造することができる。
【0059】
シラノール縮合触媒を、ポリオレフィンにシラノール縮合触媒を配合したマスターバッチとして用いる場合、マスターバッチ中のシラノール縮合触媒の含有量には特に制限は無いが、通常0.1~5.0質量%程度とすることが好ましい。
【0060】
シラノール縮合触媒含有マスターバッチには、必要に応じて、混和可能な他の熱可塑性樹脂や、安定剤、滑材、充填剤、着色剤、発泡剤、その他の補助資材を添加することができる。これらの添加剤は、それ自体既知の通常用いられるものであればよい。また、第3成分として、シラノール縮合触媒と共にこれらの添加剤を、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体に添加することも可能である。
【0061】
<架橋剤反応の条件>
シラノール縮合触媒による架橋反応は、通常、変性エチレン・α-オレフィン共重合体にシラノール縮合触媒を配合した組成物を押出成形、射出成形、プレス成形等の各種成形方法により成形した後、水雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させて行われる。水雰囲気中に曝す方法は、各種の条件を採用することができ、水分を含む空気中に放置する方法、水蒸気を含む空気を送風する方法、水浴中に浸漬する方法、温水を霧状に散水させる方法等が挙げられる。
【0062】
この架橋反応では、エチレン・α-オレフィン共重合体のグラフト変性に用いた不飽和シラン化合物由来の加水分解可能なアルコキシ基がシラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解することによりシラノール基が生成し、更にシラノール基同士が脱水縮合することにより、反応が進行し、変性エチレン・α-オレフィン共重合体同士が結合してシラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体を生成する。
【0063】
架橋反応の進行速度は水雰囲気中に曝す条件によって決まるが、通常20~130℃の温度範囲、かつ10分~1週間の範囲で曝せばよい。特に好ましい条件は、20~130℃の温度範囲、1時間~160時間の範囲である。水分を含む空気を使用する場合、相対湿度は1~100%の範囲から選択される。
【0064】
シラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体が長期間に亘って優れた特性を発揮するために、シラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体のゲル分率(架橋度)は、0%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。ゲル分率は、変性エチレン・α-オレフィン共重合体の不飽和シラン化合物のグラフト率(変性量)、シラノール縮合触媒の種類と配合量、架橋させる際の条件(温度、時間)等を変えることにより、調整することができる。このゲル分率の上限は特に制限されないが通常90%である。ゲル分率の測定方法は前述の通りである。
【0065】
<用途>
本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体を上記の通り架橋反応させてなるシラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体の用途は特に限定されないが、本発明によるシラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体は、以下の通り、本発明の管状体として有用である。その他、自動車用エラストマー部材、例えば、自動車用グラスランチャンネル、ウェザーストリップ、ゴムホース、ワイパーブレードゴムや、工業用ゴムエラストマー製品、例えば、パッキン、ガスケット、防振ゴム等として好適に用いることもできる。
【0066】
〔管状体〕
本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体を架橋触媒の存在下に架橋反応させてなるシラン架橋エチレン・α-オレフィン共重合体よりなる管状体は、通常、変性エチレン・α-オレフィン共重合体に架橋触媒を混合してなる上記原料を押出機に円筒状のダイスを設置した成形機で溶融混練、押出成形することにより成形される。管状体としては、パイプやホースなどが好ましい。以下、管状体としてパイプの場合を例に挙げて説明する。
【0067】
押出されたパイプはロール状に巻き取られ、高温高湿下、あるいはパイプ内部に温水を通水して架橋処理を行う。架橋処理時間は通常16~24時間であり、成形および架橋処理によってパイプはロール状の状態で収縮する。そのため施工時にロール状の原反からパイプを引き出すと、パイプは巻癖のついた波打ち状態で引き出される。このため施工時に巻癖を曲げ戻す必要があり、この際に無理な力が掛りクリープ性能などの力学的特性が悪化し、漏水のなどの原因となる。その対策として、直線状態で架橋処理を行う方法があるが、架橋設備が大型となり、ひいてはコストに大きく影響を与えることとなるが、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体を用いることにより、このような問題は解決される。
【0068】
従って、得られたパイプは、温水又は水蒸気の存在下でロールの状態でシラン基を架橋させる。架橋条件に関しては、最終的に得られるゲル分率を考慮して決定される。
【0069】
本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体を用いた架橋パイプは巻げ癖が低減され、外観や長期耐久性に優れた高品質のパイプであり、本発明によれば、このような架橋パイプを歩留りよく製造することができる。
【実施例
【0070】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0071】
[製造例1]
JPE社製ノバッテックHY430(エチレン・n-ブテン共重合体、MFR(190℃,2.16kg):0.8g/10分、密度:956kg/m、構成単位としてエチレンの割合:97質量%、n-ブテンの割合:3質量%)(表-1中、「PE1」と記載する。)と、Lyodellbasell社製Q300F(プロピレン・エチレン共重合体、MFR(230℃,2,16kg):0.8g/10分、密度:890kg/m、構成単位としてエチレンの割合:35質量%、プロピレンの割合:65質量%)(表-1中、「PP1」と記載する。)を90:10の質量割合で混合してエチレン・α-オレフィン共重合体混合物1とした。
【0072】
エチレン・α-オレフィン共重合体混合物1について以下の方法で測定した融解終了点及びエチレン含有指標を表-1に示す。
【0073】
<融解終了点>
日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計、商品名「DSC6220」を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し融解終了点とした。
【0074】
なお、JPE社製ノバッテックHY430について測定した融解終了点は132℃であった。
【0075】
<エチレン・α-オレフィン共重合体混合物のエチレン含有指標>
エチレン・α-オレフィン共重合体混合物におけるエチレン含有指標は、FT-IR(赤外分光)装置(FT/IR-610、JASCO社製)により測定した。この時、試料を膜厚100μmとなるように160℃でプレスし、下記の条件で透過モードで測定し、以下の方法で算出した。
<測定条件>
積算回数:32
分解:4cm-1
スキャンスピード:2mm/sec
<算出方法>
エチレン含有指標は以下の式で算出した。
エチレン含有指標
=(エチレン・α-オレフィン共重合体混合物のエチレン基に由来するピーク高さ)
/(エチレン・α-オレフィン共重合体混合物のプロピレン基に
由来するピーク高さとメチレン基に由来するピーク高さの和)
なお、エチレン基に由来するピーク高さは700~750cm-1におけるピーク高さであり、プロピレン基に由来するピーク高さは2700~2900cm-1におけるピーク高さである。
【0076】
このエチレン・α-オレフィン共重合体混合物1の100質量部に対してジ-t-ブチルパーオキサイド(表-1中、「Pox」と記載)0.1質量部とビニルトリメトキシシラン(表-1中、「Si」と記載)2質量部とを添加、混合した後、二軸押出機にて230℃で混練押出し、変性エチレン・α-オレフィン共重合体1を得た。
得られた変性エチレン・α-オレフィン共重合体1のMFR(JIS K7210,190℃,2.16kg)と密度を以下の方法で測定した。結果を表-1に示す。
また、変性エチレン・α-オレフィン共重合体1について、前述の方法でゲル分率を測定し、結果を表-1に示した。
【0077】
<MFR>
JIS K7210(1999)に準拠して、190℃、2.16kg荷重にて測定した
【0078】
<密度>
JIS K7112(1999)A法に準拠して、徐冷プレスにて成形した厚さ2mm、長さ40mm、幅15mmの試験片を用い、水中置換法にて測定した。
【0079】
[製造例2]
JPE社製ノバッテックHY430(エチレン・n-ブテン共重合体、MFR(190℃,2.16kg):0.8g/10分、密度:956kg/m)と、Lyodellbasell社製Q300F(プロピレン・エチレン共重合体、MFR(230℃,2,16kg):0.8g/10分、密度:890kg/m)を80:20の質量割合で混合してエチレン・α-オレフィン共重合体混合物2とした。
得られたエチレン・α-オレフィン共重合体混合物2について、前述の通り融解終了点とエチレン含有指標を測定し、結果を表-1に示した。
【0080】
このエチレン・α-オレフィン共重合体混合物2の100質量部に対してジ-t-ブチルパーオキサイド0.1質量部とビニルトリメトキシシラン2質量部とを添加、混合した後、二軸押出機にて230℃で混練押出し、変性エチレン・α-オレフィン共重合体2を得た。
得られた変性エチレン・α-オレフィン共重合体2のMFR(JIS K7210,190℃,2.16kg)と密度とゲル分率を前述の方法で測定した。結果を表-1に示す。
【0081】
[製造例3]
JPE社製ノバッテックHY430(エチレン・n-ブテン共重合体、MFR(190℃2.16kg):0.8g/10分、密度:956kg/m)の100質量部に対してジ-t-ブチルパーオキサイド0.1質量部とビニルトリメトキシシラン2質量部とを添加、混合した後、二軸押出機にて230℃で混練押出し、変性エチレン・α-オレフィン共重合体3を得た。
得られた変性エチレン・α-オレフィン共重合体3のMFR(JIS K7210,190℃,2.16kg)と密度とゲル分率を前述の方法で測定した。結果を表-1に示す。
【0082】
[実施例1]
変性エチレン・α-オレフィン共重合体1の100質量部に対して、シラノール縮合触媒マスターバッチ(1質量%錫触媒(ジオクチル錫ジラウレート)含有直鎖状低密度ポリエチレン(MFR:4g/10分、密度:900kg/m)マスターバッチ)5質量部をドライブレンドし、ダイ径17mm、コア径13mmのパイプ用ダイスを備えた40mm単軸押出機に供給し、未架橋パイプを作製した。このパイプを2mの長さに切り出しループ状に固定し蒸気槽で95℃にて16時間放置して架橋処理し、シラン架橋パイプを作製した。このパイプを用いて、以下の方法でパイプストレート性を評価した。
【0083】
<パイプストレート性評価>
以下の評価基準で評価した。
○:治具から解放後、両端部が1cm以上離れ直線状態に戻り、曲げ戻しし易い。
×:治具から解放後も、パイプ両端部が戻ることはなく曲げ戻しし難い。
【0084】
上記パイプとは別に、上記と同様に変性エチレン・α-オレフィン共重合体1の100質量部に対して、シラノール縮合触媒マスターバッチ(1質量%錫触媒(ジオクチル錫ジラウレート)含有直鎖状低密度ポリエチレン(MFR:4g/10分、密度:900kg/m)マスターバッチ)5質量部をドライブレンドしたものを用いて厚さ2mm、長さ70mm、幅120mmの試験片を射出成形し、この試験片を以下の条件で架橋処理して収縮率を測定した。
【0085】
<収縮率>
厚さ2mm、長さ70mm、幅120mmの試験片を用い、成形直後(架橋処理前)および85℃,85%の条件で16時間架橋処理後の寸法(幅)を測定し、収縮率を下記式(5)で算出した。
収縮率={(架橋処理前の寸法-架橋処理後の寸法)/架橋処理前の寸法}×100
(5)
【0086】
上記パイプストレート性評価の評価結果と収縮率の測定結果から、以下の基準で総合評価を行った。
<総合評価>
◎:パイプストレート性評価が「○」で収縮率が4.2%未満
△:パイプストレート性評価が「×」であるか或いは収縮率が4.2%以上
×:パイプストレート性評価が「×」でありかつ収縮率が4.2%以上
【0087】
これらの結果を表-1に示す。
【0088】
[実施例2]
変性エチレン・α-オレフィン共重合体1の代りに、変性エチレン・α-オレフィン共重合体2を用いたこと以外は、実施例1と同様に架橋パイプ及び試験片を作成し、同様に評価を行った。結果を表-1に示す。
【0089】
[比較例1]
変性エチレン・α-オレフィン共重合体1の代りに、変性エチレン・α-オレフィン共重合体3を用いたこと以外は、実施例1と同様に架橋パイプ及び試験片を作成し、同様に評価を行った。結果を表-1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
以上の結果から、本発明の変性エチレン・α-オレフィン共重合体によれば、架橋パイプの製造後の曲げ戻しを容易に行うことができ、またゲル分率が高く、外観に優れ、施工後の長期耐久性に優れる架橋パイプを製造することができることが分かる。