(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】溶接継手
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
B23K31/00 F
(21)【出願番号】P 2019057900
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】横関 耕一
(72)【発明者】
【氏名】冨永 知徳
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-161677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0233128(US,A1)
【文献】特開2018-172888(JP,A)
【文献】特開2015-33709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する第1の方向および第2の方向を面内方向とする接合面を有し、前記第1の方向における第1のヤング率が前記第2の方向における第2のヤング率よりも小さい第1の部材と、
前記接合面に接合され、前記接合面の面外方向の荷重を伝達する第2の部材と
を備え
、
前記第2の部材は、前記第1の方向の寸法が前記第2の方向の寸法よりも大きい部材である、溶接継手。
【請求項2】
前記第1のヤング率は、前記第2のヤング率よりも10%以上小さい、請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
前記第1の部材は、前記第1の方向の両端、および前記第2の方向の両端でそれぞれ変位を拘束される矩形の板状部材であり、
前記板状部材の前記第1の方向の寸法および前記第2の方向の寸法のうち、長い方は短い方の2倍以上である、請求項1
または請求項2に記載の溶接継手。
【請求項4】
前記第1の部材は、ウェブおよびフランジを有し、長手方向の両端で他の部材に接合されるH形断面部材のウェブである、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の溶接継手。
【請求項5】
前記第1の部材は、ウェブおよびフランジを有し、前記溶接継手を挟む長手方向の2箇所で前記ウェブおよび前記フランジがリブに接合されるH形断面部材のウェブである、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の溶接継手。
【請求項6】
前記第1の部材は、3つ以上の側面を有し長手方向の両端で他の部材に接合される多角形鋼管の1つの側面である、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の溶接継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、鋼構造物は多くの溶接継手部を含む。溶接継手部は形状の急変に伴う応力集中が生じやすく、かつ溶接熱による引張残留応力の導入や材料組織の劣化も生じるため、変動荷重が作用する場合には疲労き裂の起点になる場合がある。特に、溶接継手部において板状部材を接合面の面外方向に変形させるような荷重がかかる場合は、同様に面内方向に荷重がかかる場合に比べて変形量および発生応力が著大になる場合が多く、疲労き裂発生の可能性も高くなる。この課題に対し、例えば特許文献1に記載されたように溶接部の表面を切削して応力集中を緩和する技術や、特許文献2に記載されたように打撃処理によって引張残留応力を取り除き圧縮残留応力を導入する技術などが提案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-69128号公報
【文献】特開2013-71140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば特許文献1および特許文献2に記載されたような技術はき裂発生防止に有効であるものの、鋼構造物の製作工程が増えること、き裂起点が表面からアクセスできない個所(溶接ルート部や閉断面内部など)の場合には適用できないことが問題であった。
【0005】
そこで、本発明は、付加的な工程を要することなく、接合面の面外方向の荷重が作用する溶接継手における局所的な応力を低減することが可能な、新規かつ改良された溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある観点によれば、互いに直交する第1の方向および第2の方向を面内方向とする接合面を有し、第1の方向における第1のヤング率が第2の方向における第2のヤング率よりも小さい第1の部材と、接合面に接合され、接合面の面外方向の荷重を伝達する第2の部材とを備える溶接継手が提供される。第2の部材は、第1の方向の寸法が第2の方向の寸法よりも大きい部材であってもよい。また、第1のヤング率は、第2のヤング率よりも10%以上小さくてもよい。
面内の第1の方向と第2の方向との間でヤング率が異なる異方性鋼板で第1の部材を形成することによって、相対的にヤング率が小さい方向における局所的な応力を低減し、面外方向の荷重が作用する場合の亀裂の発生を防止することができる。
【0007】
上記の溶接継手において、第1の部材は、第1の方向の両端、および第2の方向の両端でそれぞれ変位を拘束される矩形の板状部材であり、板状部材の第1の方向の寸法および第2の方向の寸法のうち、長い方は短い方の2倍以上であってもよい。より具体的には、第1の部材は、ウェブおよびフランジを有し、長手方向の両端で他の部材に接合されるH形断面部材のウェブであってもよい。また、第1の部材は、ウェブおよびフランジを有し、溶接継手を挟む長手方向の2箇所でウェブおよびフランジがリブに接合されるH形断面部材のウェブであってもよい。あるいは、第1の部材は、3つ以上の側面を有し長手方向の両端で他の部材に接合される多角形鋼管の1つの側面であってもよい。
第1の部材が上記のような条件を満たす場合、板状部材の2方向の寸法比(アスペクト比)と異方性鋼板におけるヤング率の変化率との関係を解析して、適切な設計をすることが容易である。なお、このような場合以外でも、接合面の面内の2つの方向の間でヤング率が異なる場合にヤング率がより小さい方向で応力が低減されるという効果は同様であるため、本発明の適用範囲が上記のような条件を満たす溶接継手に限定されることはない。
【発明の効果】
【0008】
以上で説明したように、本発明によれば、付加的な工程を要することなく、接合面の面外方向の荷重が作用する溶接継手における局所的な応力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶接継手における荷重の方向と潜在的な疲労き裂の発生箇所との関係について説明するための図である。
【
図3】接合部において面外方向の荷重を受ける板状部材のモデルを示す図である。
【
図4】
図1および
図2で説明した溶接継手を
図3の例と同様にモデル化した図である。
【
図7】解析結果に基づいて応力低減効果と板状部材のアスペクト比との関係を示すグラフである。
【
図8】解析結果に基づいて応力低減効果と板状部材のアスペクト比との関係を示すグラフである。
【
図9】解析結果に基づいて応力低減効果とヤング率の変化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶接継手における荷重の方向と潜在的な疲労き裂の発生箇所との関係について説明するための図である。
図2は、
図1のII-II線断面図である。
図1および
図2に示された例において、溶接継手1は、ウェブ2Wおよびフランジ2Fを有するH形断面部材2のウェブ2W(第1の部材)と、ウェブ2Wに対して垂直な方向に延びるT形断面部材3に接合されるガセット板4(第2の部材)との間に形成される。ガセット板4がウェブ2Wに接合される面(接合面)の面内方向として、互いに直交する第1の方向(図中のx方向)および第2の方向(図中のy方向)を定義する。
【0012】
ここで、T形断面部材3の長手方向に荷重Pがかかる場合、ガセット板4はウェブ2Wの接合面の面外方向の荷重を伝達することになる。この場合、特に
図2に示されるように、ウェブ2Wにおいてガセット板4の板面に平行な方向(x方向)の局所応力Sによる疲労き裂Cが発生する可能性がある。より一般化していえば、第1の部材の接合面に接合された部材が、第1の方向(x方向)の寸法が第2の方向(y方向)の寸法よりも大きい部材である場合、寸法が相対的に大きい方の方向(図示された例ではx方向)に沿う局所応力Sによる疲労き裂Cが発生する可能性がある。
【0013】
本発明の一実施形態では、上記で
図1および
図2を参照して説明したような溶接継手1において、ウェブ2Wを異方性鋼板で形成することによって局所応力Sを低減し、疲労き裂Cの発生を防止する。本明細書において、異方性鋼板は、面内の第1の方向におけるヤング率が通常の鋼板(等方性鋼板)よりも低く、面内で第1の方向に直交する第2の方向のヤング率が通常の鋼板よりも高い鋼板である。つまり、異方性鋼板において、面内の第1の方向における第1のヤング率は、面内で第1の方向に直交する第2の方向における第2のヤング率よりも小さい。
【0014】
より具体的には、
図1および
図2に示された例の場合、接合面の面内方向のうち、ガセット板4の寸法が相対的に大きい方の方向(x方向)のヤング率がそれに直交する方向(y方向)のヤング率よりも小さい異方性鋼板で形成することによって、付加的な工程を要することなく局所応力Sを低減させることができる。このような手法による局所応力Sの低減は、接合面に接合される部材(第2の部材)がガセット板4のような板状断面である場合に限られず、例えば長方形断面や楕円形断面、長円形断面など、接合面の面内の2つの方向でそれぞれ寸法が異なる形状である場合に可能である。
【0015】
図3は、接合部において面外方向の荷重を受ける板状部材のモデルを示す図である。
図3には、第1の方向(x方向)の長さa、y方向(第2の方向)の長さbであり、x方向の両端およびy方向の両端でそれぞれ変位を拘束される矩形の板状部材が示されている。この板状部材の場合、x方向およびy方向を含むx-y平面内の方向が面内方向であり、x-y平面に垂直な方向が面外方向である。
【0016】
上記のモデルにおいて、板状部材の面外方向に作用する荷重Pが一定である場合、x方向、y方向のそれぞれについて、板状部材の変形は支持長さaまたは支持長さbの曲げたわみ変形として考えることができる。この場合、x方向およびy方向のそれぞれで発生する応力σx,σyは、板状部材のx方向およびy方向のヤング率Ex,Eyに影響を受ける。従って、例えばEx<Eyである場合、ヤング率の大きい方向に力が流れることによって、Ex=Eyである場合に比べて応力σxはより小さく、応力σyはより大きくなる。この場合、板状部材のヤング率が変化することで、板状部材の面外方向の変形量も変化することになる。
【0017】
一方、上記のモデルにおいて、荷重Pによって生じる面外方向の変形量δが一定である場合、板状部材のヤング率が変化しても板状部材に生じるひずみεの大きさは変化しないと考えることができる。この場合、x方向およびy方向のそれぞれで発生する応力σx,σyについて、板状部材のx方向およびy方向のヤング率Ex,Eyとの間にσx=εEx、σy=εEyの関係が成り立つ。従って、例えばEx<E0<Eyである場合、Ex=Ey=E0である場合に比べて応力σxはより小さく、応力σyはより大きくなる。ここでE0は通常の鋼板(等方性鋼板)のヤング率である。この場合、板状部材のヤング率が変化することで、荷重Pの大きさも変化することになる。
【0018】
図4は、
図1および
図2で説明した溶接継手を
図3の例と同様にモデル化した図である。H形断面部材2の長手方向をx方向、高さ方向をy方向とした場合、ウェブ2Wの接合面はx-y平面に沿って広がる。つまり、x方向およびy方向を含むx-y平面内の方向が接合面の面内方向であり、x-y平面に垂直な方向が接合面の面外方向である。H形断面部材2が長手方向の両端で柱などの他の部材に接合されているものとすると、ウェブ2Wは、
図3のモデルと同様に、x方向の両端の変位が接合される他の部材によって拘束され、y方向の両端の変位がフランジ2Fによって拘束される矩形の板状部材になる。ガセット板4は、板面がx方向に平行になるように接合されている。
【0019】
上記で
図4の例でも、
図3の例と同様に、ウェブ2Wのx方向およびy方向のヤング率を例えばE
x<E
yとすることによって、E
x=E
yである場合に比べてx方向の応力σ
xをより小さく、y方向の応力σ
yをより大きくすることができる。従って、例えばガセット板4の板面に平行なx方向の応力σ
xを低減したい場合、ヤング率がE
x<E
yとなる異方性鋼板でウェブ2Wを形成することによって、切削や打撃処理といった付加的な工程を要することなく、応力σ
xを低減することができる。
【0020】
図5および
図6は、溶接継手の他の例を示す図である。
図5に示された例では、
図1の例と同様にH形断面部材2のウェブ2Wとガセット板4との間に溶接継手1Aが形成されているが、
図1の例との違いとして、
図5の例では、溶接継手1Aを挟む長手方向の2箇所で、H形断面部材2のウェブ2Wおよびフランジ2Fがリブ5に接合されている。この場合、ウェブ2Wは、H形断面部材2の長手方向(x方向)の両端の変位がリブ5によって拘束され、H形断面部材の高さ方向(y方向)の両端の変位がフランジ2Fによって拘束される矩形の板状部材になり、
図4の例と同様にモデル化することが可能である。
【0021】
図6に示された例では、4つの側面を有し長手方向の両端で他の部材に接合される角形鋼管6の1つの側面6Sとガセット板4との間に溶接継手1Bが形成される。この場合、側面6Sは、角形鋼管6の長手方向(x方向)の両端の変位が接合される他の部材によって拘束され、角形鋼管6の断面方向(y方向)の両端の変位が隣接する他の側面によって拘束される矩形の板状部材になり、
図4の例と同様にモデル化することが可能である。
【実施例】
【0022】
上記で
図3を参照して説明したモデルを用いて、本発明の実施形態に係る溶接継手の応力低減効果について解析を行った。荷重Pは、板状部材の接合面の図心、すなわち(x,y)=(a/2,b/2)の位置に加えられるものとし、応力参照点も図心とした。通常の鋼板(等方性鋼板)のヤング率をE
0=200GPaとし、異方性鋼板ではx方向およびy方向のヤング率E
x,E
yがそれぞれE
x=E
0×(1-k)、E
y=E
0/(1-k)になるものとした。ここで、kはヤング率の変化率である。解析では、ヤング率の変化率k、および板状部材のアスペクト比a/bを変化させながら、直交異方性板の面外曲げたわみの解析解を利用して、板状部材を異方性鋼板で形成したときのx方向応力の変化率を算出した。
【0023】
図7および
図8は、解析結果に基づいて応力低減効果と板状部材のアスペクト比との関係を示すグラフである。グラフに示されるように、荷重Pを一定にすると、ヤング率の変化率kが同じ場合、アスペクト比a/bが大きい、すなわち板状部材がx方向に長いほど、x方向応力および変形量δの低減幅が大きい。x方向応力については、アスペクト比a/bが小さくなると徐々に低減幅は縮小し、0.5<a/b<2.0の範囲で縮小が相対的に顕著であるが、アスペクト比a/bが1よりも小さくなり、板状部材がy方向に長くなっても、等方性鋼板の場合の値(縦軸で1)に達することはない。変形量δについては、アスペクト比a/bが1よりも小さくなると、異方性鋼板の場合の値が等方性鋼板の場合の値を超える。これは、長方形の短い辺の方向のヤング率が長い辺の方向のヤング率よりも変形量δに与える影響が大きいためである。以上の解析結果より、荷重Pが一定の場合、例えばアスペクト比a/b≧2.0を応力低減効果がより高い領域として特定することができる。
【0024】
一方、変形量δを一定にすると、ヤング率の変化率kが同じ場合、アスペクト比a/bが小さい、すなわち板状部材がy方向に長い場合の方が、x方向応力および荷重Pの低減幅が大きい。x方向応力については、0.5<a/b<2.0の範囲で低減幅が大きく変化するが、アスペクト比a/bが1を超えて、板状部材がx方向に長くなっても、等方性鋼板の場合の値(縦軸で1)に達することはない。荷重Pについては、アスペクト比a/bが1を超えると、異方性鋼板の場合の値が等方性鋼板の場合の値を超える。これは、荷重Pが一定の場合について説明したのと同様に、長方形の短い辺の方向のヤング率が長い辺の方向のヤング率よりも荷重Pに与える影響が大きいためである。以上の解析結果より、変形量δが一定である場合、例えばアスペクト比a/b≦0.5を応力低減効果がより高い領域として特定することができる。
【0025】
上記で
図7に示した荷重Pが一定の場合の解析結果ではアスペクト比a/b≧2.0の領域が、
図8に示した変形量δが一定の場合の解析結果ではアスペクト比a/b≦0.5の範囲が、それぞれ応力低減効果がより高い領域として特定された。これらの範囲は、a,bのうち長い方の寸法が短い方の寸法の2倍以上である、という点で共通する。つまり、接合面の寸法a,bのうち長い方が短い方の2倍以上である場合、x方向およびy方向のうちヤング率E
x,E
yをより小さくする方向を適切に選択すれば、異方性鋼板を用いることによって大きな応力低減効果を得ることができる。
【0026】
図9は、解析結果に基づいて応力低減効果とヤング率の変化率との関係を示すグラフである。グラフに示されるように、板状部材のアスペクト比a/bを10に固定すると、応力Pが一定の場合、および変形量δが一定の場合の両方について、ヤング率の変化率kとy方向応力との関係はほぼ線形になる。従って、例えば
図7および
図8に示した解析結果から、任意のヤング率の変化率kの場合の結果を線形補間によって予測することができる。
【0027】
ここで、例えば、溶接継手について、疲労寿命を20%程度改善したい場合、局所応力を6%程度低減できればよい。この場合、板状部材のアスペクト比a/bに対してx方向応力の低減率が6%(縦軸の値で0.94)以上になるように、異方性鋼板におけるヤング率の変化率kを決定することができる。例えば、
図7のグラフを参照すると、アスペクト比a/b≦0.5の範囲で、変形量δが一定であり、k=0.05の場合に、x方向の応力の低減率は6%以上になる。このとき、x方向のヤング率E
x(E
0×(1-k)=0.95E
0)は、y方向のヤング率E
y(E
0/(1-k)≒1.05E
0)よりも約10%小さい。ヤング率の差を大きくすれば、応力の低減率も大きくなるため、この例では、(アスペクト比a/bにもよるが)E
xがE
yよりも10%以上小さい場合に応力の低減率が6%以上になるといえる。より好ましい範囲として、E
xがE
yよりも20%以上小さくてもよいし、E
xがE
yよりも30%以上小さくてもよい。
【0028】
なお、上記の解析は、板状部材が矩形板状であり、かつx方向の両端およびy方向の両端でそれぞれ変位を拘束される場合について実施した。この場合、上述したように、板状部材のアスペクト比a/bとヤング率の変化率kとの関係を解析して適切な設計をすることが容易である。このような例は、具体的には、上記で
図1を参照して説明した長手方向の両端が他の部材に接合されるH形断面部材のウェブの例、
図5を参照して説明したリブが接合されるH形断面部材のウェブの例、および
図6を参照して説明した角形鋼管の側面の例を含む。
図6に示された角形鋼管は、断面が多角形の鋼管のうち4つの側面を有する多角形鋼管の例である。側面の数は3つ以上であれば特に制限されない。これ以外でも、同様の条件が成立する場合には上述のようなモデル化による解析および設計が可能である。
【0029】
また、本発明の適用範囲は、
図3および
図4に示したようなモデル化が可能な溶接継手に限定されるものではない。接合面の面内の2つの方向の間でヤング率が異なる場合にヤング率がより小さい方向で応力が低減されるという効果は、部材の形状、および部材の各辺の拘束状態に限らず発揮される。従って、本発明の実施形態に係る溶接継手は、例えばH形断面部材のフランジや、円形鋼管の周面に他の部材を溶接によって接合する場合にも適用することができる。円形鋼管の場合、接合面の面内の第1および第2の方向は、それぞれ鋼管の長手方向および周方向に相当する。
【0030】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0031】
1,1A,1B…溶接継手、2…H形断面部材、2F…フランジ、2W…ウェブ、3…T形断面部材、4…ガセット板、5…リブ、6…角形鋼管、6S…側面。