(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】旋回流付与装置、タンディッシュ、鋼の連続鋳造システム及び鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/11 20060101AFI20230221BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20230221BHJP
B22D 11/103 20060101ALI20230221BHJP
B22D 11/116 20060101ALI20230221BHJP
B22D 35/00 20060101ALI20230221BHJP
B22D 37/00 20060101ALI20230221BHJP
B22D 41/50 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
B22D11/11 B
B22D11/10 320F
B22D11/10 330Z
B22D11/103 Z
B22D11/116
B22D35/00 F
B22D37/00 Z
B22D41/50 540
(21)【出願番号】P 2019060551
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
(72)【発明者】
【氏名】川端 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】鶴川 雄一
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-300698(JP,A)
【文献】特開2010-064124(JP,A)
【文献】特開2007-044731(JP,A)
【文献】特開2005-254245(JP,A)
【文献】特開2012-152796(JP,A)
【文献】実開昭54-174620(JP,U)
【文献】特表2017-535430(JP,A)
【文献】特開平11-090593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
B22D 37/00
B22D 41/00-41/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋からタンディッシュ内に溶鋼を注入するロングノズルの下に設置され、前記ロングノズルからの溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する、旋回流付与装置であって、
円断面の中心線が上下方向となるように設置される円筒状の本体と、前記ロングノズルから前記本体の内部へと流入する前記溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する羽根体とを備え、
前記本体の全体が前記タンディッシュ内の前記溶鋼中に浸漬するように、前記タンディッシュの容器内側の底面に設置可能に構成され、
前記羽根体よりも下方に存在する前記本体の流出口の内径が前記羽根体よりも上方に存在する前記本体の流入口の内径よりも小さい、
旋回流付与装置。
【請求項2】
前記羽根体よりも下方に存在する前記本体の流出口の内径が前記羽根体よりも上方に存在する前記本体の流入口の内径の1/10以上1/3以下である、
請求項1に記載の旋回流付与装置。
【請求項3】
前記本体を支持する脚部を備える、
請求項1又は2に記載の旋回流付与装置。
【請求項4】
前記羽根体が中心部材と前記中心部材の周囲に配置された複数の羽根とを備え、
前記中心部材が上に向かって凸となる凸部を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の旋回流付与装置。
【請求項5】
前記羽根体が中心部材と前記中心部材の周囲に配置された複数の羽根とを備え、
前記羽根は上部から下部に向かうにつれて水平面に対する角度が減少するような羽根形状を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の旋回流付与装置。
【請求項6】
さらに、前記本体上端から上に立設部を配置し、前記タンディッシュの蓋の上にまで到達できるよう延伸するものとし、前記立設部の肉中を不活性ガス供給経路がさらに延びて、コネクターを介して外部の不活性ガス管に接続可能に構成され、
前記羽根体よりも下方において、前記本体の内面から前記溶鋼へと不活性ガスを吹き込む構造を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の旋回流付与装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の旋回流付与装置を容器内に備え
、
溶鋼のショートパスを防止するための堰をタンディッシュの内側に有さない、
タンディッシュ。
【請求項8】
前記旋回流付与装置が前記本体を支持する脚部を備え、前記脚部が前記タンディッシュの容器内側の底面に固定されている、
請求項7に記載のタンディッシュ。
【請求項9】
取鍋と、
前記取鍋の下方に設置さ
れ、溶鋼のショートパスを防止するための堰をタンディッシュの内側に有さない、タンディッシュと、
前記取鍋から前記タンディッシュ内に溶鋼を注入するロングノズルと、
前記タンディッシュの下方に設置された鋳型と、
前記タンディッシュから前記鋳型へと溶鋼を注入する浸漬ノズルと、
前記ロングノズルの下方、且つ、前記タンディッシュの容器内側の底面に設置され、前記ロングノズルからの溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する、請求項1~6のいずれか1項に記載の旋回流付与装置と
を備える、鋼の連続鋳造システム。
【請求項10】
取鍋からロングノズルを介してタンディッシュ内に溶鋼を注入する第1工程と、
前記タンディッシュ内に注入された溶鋼を鋳型へと注入する第2工程と、
を備え、
前記第1工程において、前記ロングノズルから吐出された溶鋼吐出流を、前記タンディッシュの容器内側の底面に設置された請求項1~6のいずれか1項に記載の旋回流付与装置の本体の流入口から本体の内部へと流入させ、前記旋回流付与装置の本体の内部に備えられた羽根体を介して前記溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与したうえで、前記本体の流出口から前記溶鋼吐出流を流出させ
、
前記タンディッシュが、溶鋼のショートパスを防止するための堰をタンディッシュの内側に有さない、
鋼の連続鋳造方法。
【請求項11】
定常操業時において、前記タンディッシュにおける溶鋼湯面を前記本体の上端よりも上方とする、
請求項10に記載の鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、鋼の連続鋳造において、中間容器であるタンディッシュの内部で、非金属介在物を効果的に浮上させて除去する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
タンディッシュにおける非金属介在物の浮上除去技術として、以下のような技術が知られている。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、取鍋下部に装着するロングノズル内で溶鋼を旋回させることによって、非金属介在物の凝集(浮上促進)効果と、ロングノズル吐出流の分散効果(流速低減効果)を得て、溶鋼を清浄化する技術である。特許文献2に記載された技術は、ロングノズルの出口を側面に設けることによって、非金属介在物の浮上を促進して、溶鋼を清浄化する技術である。特許文献3~5に記載された技術は、取鍋からの溶鋼流を受ける注入管の内部で溶鋼を旋回させるとともに不活性ガスを導入し、非金属介在物の凝集(浮上促進)に高い効果を発揮する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4713956号公報
【文献】特開平5-200507号公報
【文献】特開2005-254245号公報
【文献】特開2007-044731号公報
【文献】特開2010-064124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術においては、ロングノズルの使用時間の経過に伴い、内面に形成した溝や突起がアルミナを主体とした付着物で埋まり、持続的な効果を得られない虞がある。特許文献2に記載された技術においては、ロングノズルに作用する溶鋼流の動圧によってロングノズルを把持する荷重が増大し、把持装置の強化が必要となる場合がある。特許文献3~5に記載された技術は、特許文献1及び2に記載された技術に比べて顕著な清浄化効果を有するが、取鍋からの溶鋼流量が増大したとき、注入管内の湯面が大きく上昇して溶鋼が注入管から溢れ出てしまい、一部の溶鋼をタンディッシュへと適切に注入できない虞がある。
【0006】
ロングノズルを用いて取鍋からタンディッシュへと溶鋼を注入する場合に、十分な清浄化効果を発揮し、かつ、ロングノズルの把持荷重を増すことなく、また溶鋼が溢れ出る虞もない新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、取鍋からタンディッシュ内に溶鋼を注入するロングノズルの下に設置され、前記ロングノズルからの溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する、旋回流付与装置であって、円断面の中心線が上下方向となるように設置される円筒状の本体と、前記ロングノズルから前記本体の内部へと流入する前記溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する羽根体とを備え、前記本体の全体が前記タンディッシュ内の前記溶鋼中に浸漬するように、前記タンディッシュの容器内側の底面に設置可能に構成され、前記羽根体よりも下方に存在する前記本体の流出口の内径が前記羽根体よりも上方に存在する前記本体の流入口の内径よりも小さい、旋回流付与装置を開示する。
【0008】
本開示の旋回流付与装置は、前記羽根体よりも下方に存在する前記本体の流出口の内径が前記羽根体よりも上方に存在する前記本体の流入口の内径の1/10以上1/3以下であってもよい。
【0009】
本開示の旋回流付与装置は、前記本体を支持する脚部を備えていてもよい。
【0010】
本開示の旋回流付与装置は、前記羽根体が中心部材と前記中心部材の周囲に配置された複数の羽根とを備え、前記中心部材が上に向かって凸となる凸部を有していてもよい。
【0011】
本開示の旋回流付与装置は、前記羽根体が中心部材と前記中心部材の周囲に配置された複数の羽根とを備え、前記羽根は上部から下部に向かうにつれて水平面に対する角度が減少するような羽根形状を有していてもよい。
【0012】
本開示の旋回流付与装置は、前記羽根体よりも下方において、前記本体の内面から前記溶鋼へと不活性ガスを吹き込む構造を有していてもよい。
【0013】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、上記本開示の旋回流付与装置を容器内に備えるタンディッシュを開示する。
【0014】
本開示のタンディッシュは、前記旋回流付与装置が前記本体を支持する脚部を備え、前記脚部が前記タンディッシュの容器内側の底面に固定されていてもよい。
【0015】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、取鍋と、前記取鍋の下方に設置されたタンディッシュと、前記取鍋から前記タンディッシュ内に溶鋼を注入するロングノズルと、前記タンディッシュの下方に設置された鋳型と、前記タンディッシュから前記鋳型へと溶鋼を注入する浸漬ノズルと、前記ロングノズルの下方、且つ、前記タンディッシュの容器内側の底面に設置され、前記ロングノズルからの溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する、上記本開示の旋回流付与装置とを備える、鋼の連続鋳造システムを開示する。
【0016】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、取鍋からロングノズルを介してタンディッシュ内に溶鋼を注入する第1工程と、前記タンディッシュ内に注入された溶鋼を鋳型へと注入する第2工程と、を備え、前記第1工程において、前記ロングノズルから吐出された溶鋼吐出流を、前記タンディッシュの容器内側の底面に設置された上記本開示の旋回流付与装置の本体の流入口から本体の内部へと流入させ、前記旋回流付与装置の本体の内部に備えられた羽根体を介して前記溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与したうえで、前記本体の流出口から前記溶鋼吐出流を流出させる、鋼の連続鋳造方法を開示する。
【0017】
本開示の鋼の連続鋳造方法は、定常操業時において、前記タンディッシュにおける溶鋼湯面を前記本体の上端よりも上方としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本開示の技術によれば、ロングノズルを用いて取鍋からタンディッシュへと溶鋼を注入する場合に、旋回流付与装置によって溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与することができる。これにより、タンディッシュ内の溶鋼中の非金属介在物を浮上させることができ、高い清浄化効果が発揮される。また、本開示の技術においては、旋回流付与装置がタンディッシュの底面に設置されることから、ロングノズルの把持荷重を増すことがなく、溶鋼が溢れ出る虞もない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】鋼の連続鋳造システム1000における旋回流付与装置100の配置について説明するための概略図である。
【
図2】旋回流付与装置100の構成を説明するための概略図である。旋回流付与装置100の中心を通る垂直面にて切断した場合の装置100の端面形状を概略的に示している。
【
図3】本体10の構成を説明するための概略図である。本体10の中心を通る垂直面にて切断した場合の本体10の端面形状を概略的に示している。
【
図4】羽根体20の構成を説明するための概略図である。
【
図5】羽根22の角度を説明するための概略図である。
【
図6】羽根体120の構成を説明するための概略図である。
【
図7】旋回流付与装置100を備えるタンディッシュ2の構成について説明するための概略図である。
【
図8】実施例Aに係る旋回流付与装置の構成を説明するための概略図である。
【
図9】実施例Bに係る旋回流付与装置の構成を説明するための概略図である。
【
図10】実施例Cに係る旋回流付与装置の構成を説明するための概略図である。
【
図11】実施例Bに係る旋回流付与装置をタンディッシュの容器底面に設置した状態について説明するための概略図である。
【
図12】比較例の構成を説明するための概略図である。
【
図13】比較例に対する実施例A~Cの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.旋回流付与装置
図1に、鋼の連続鋳造システム1000における旋回流付与装置100の配置例を概略的に示す。また、
図2に、旋回流付与装置100の構成を概略的に示す。
【0021】
図1に示すように、旋回流付与装置100は、取鍋1からタンディッシュ2内に溶鋼を注入するロングノズル3の下に設置され、ロングノズル3からの溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する装置である。
図2に示すように、旋回流付与装置100は、円断面の中心線が上下方向となるように設置される円筒状の本体10と、ロングノズル3から本体10の内部へと流入する溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する羽根体20とを備えている。
図1及び2に示すように、旋回流付与装置100は、本体10の全体がタンディッシュ2内の溶鋼中に浸漬するように、タンディッシュ2の容器内側の底面2aに設置可能に構成されている。また、
図2に示すように、旋回流付与装置100は、羽根体20よりも下方に存在する本体10の流出口10bの内径が羽根体20よりも上方に存在する本体の流入口10aの内径よりも小さい。
【0022】
1.1.本体
図3に、本体10の中心を通る垂直面にて切断した場合における当該本体10の端面形状を概略的に示す。
図3に示すように、本体10は、全体として円筒状であり、当該円筒の円断面の中心線が上下方向となるように設置される。円筒の円断面の中心線が上下方向となるようにすることで、ロングノズル3から下向きに吐出される溶鋼の運動エネルギーを、旋回流の角運動エネルギーに効率的に変換することができる。
【0023】
本体10は、羽根体20よりも下方に存在する本体10の流出口10bの内径が、羽根体20よりも上方に存在する本体の流入口10aの内径よりも小さい。例えば、
図3に示すように、本体10は、羽根体20よりも下方において、円筒の内径が絞り込まれたような構造を有していてもよい。これにより、羽根体20で生じた周方向の流速を角運動量保存則を利用して加速させることができる。内径の絞り込み量は特に限定されるものではない。例えば、羽根体20よりも下方に存在する本体10の流出口10bの内径(例えば、
図2及び
図3(A)の最小径D2)が羽根体20よりも上方に存在する本体10の流入口10aの内径(例えば、
図2及び
図3(A)の最大径D1)の1/10以上1/3以下である場合に、上記の加速効果が一層顕著となる。
【0024】
本体10の高さ方向の寸法は特に限定されない。本体10の上部11の高さ(
図3(A)のH1)については、羽根体20を収容することが可能な高さとすることができる。例えば、
図2に示すように羽根体20が本体10の内部に設置された状態において、羽根体20の上端よりも本体10の上端のほうが上となっていてもよい。また、操業を容易とする観点から、本体10の上端が定常操業におけるタンディッシュ2内の溶鋼湯面高さを超えないようにする。一方、本体10のうち内径が絞られた部分である下部12の高さ(
図3(A)のH2)については、例えば、流出口10b側の最小内径D2の1倍以上4倍以下とすることができる。内径が絞られた部分は旋回流が集まり非金属介在物の凝集が進行する領域であることから、H2をある程度の長さ以上とすることで、溶鋼清浄化の効果を一層高めることができる。一方、H2が長すぎると、流れに対する抵抗が増して、本体10内を流通する溶鋼の流量が減少する虞がある。
【0025】
本体10の寸法の目安を例示する。例えば、
図3(A)に示す本体10の流入口10a側の最大内径D1を300mm以上1500mm以下とすることができる。下限は400mm以上であってもよく、上限は1000mm以下であってもよい。また、
図3(A)に示す流出口10b側の最小内径D2を50mm以上200mm以下とすることができる。下限は80mm以上であってもよく、上限は180mm以下であってもよい。さらに、
図3(A)に示す本体10の高さH(流入口10aから流出口10bまでの長さ)を400mm以上1200mm以下とすることができる。下限は500mm以上であってもよく、上限は800mm以下であってもよい。
【0026】
本体10は、羽根体20よりも下方において、本体10の内面から溶鋼へと不活性ガスを吹き込む構造を有していてもよい。通常、連続鋳造の操業時、ロングノズル3の上端と取鍋1下のノズルとの勘合部をシールするために不活性ガスを吹き付けることから、当該勘合部からロングノズル3内の溶鋼流に自ずと不活性ガスが吹き込まれることとなる。そのため、旋回流付与装置100内に不活性ガス吹き込み孔を設けずとも、一定の効果が期待できるが、旋回流付与装置100の内部において不活性ガスを吹き込んだ場合、以下のメカニズムによって、気泡が非金属介在物の浮上を助け、清浄化効果が一層高まる。すなわち、旋回流の周方向流速が大きくなる羽根体20よりも下方の位置(本体10の内径が絞り込まれた位置)において、本体10の内壁から溶鋼へと不活性ガスを吹き込むことで、向心力の吸い出し作用によって小さな気泡が発生し、さらにその気泡が向心力を受けて溶鋼流を横切りながら旋回中心へ移動する際、非金属介在物を効率的に捕捉する効果が期待できる。この際、本体10の内壁の全周から不活性ガスを吹き込むと、気泡群が全断面を覆うフィルターのように分布し、非金属介在物の捕捉効果を一層高めることができる。尚、このように吹き込まれた不活性ガスは、遠心力場で作用する向心力によって旋回中心へと集まり、気柱を形成する。気柱の下端は、本体10の下端の出口において激しく旋回しながら分断され、微細な気泡を数多く生じる。こうして生じた微細気泡は、タンディッシュ2内で非金属介在物を捕捉しながら緩やかな上昇流を形成し、さらなる溶鋼清浄化効果を発揮する。
【0027】
羽根体20よりも下方において、本体10の内面から溶鋼へと不活性ガスを吹き込む構造としては、種々の構造が考えられる。例えば、
図3(B)に示すように、本体10の壁の内部に不活性ガスを流通させるための流通路13を設けるとともに、羽根体20よりも下方にある本体10の壁面に当該流通路13の出口として吹き出し孔14を設けるとよい。この場合、吹き出し孔14は本体10の内面の周方向に複数設けられていてもよい。また、
図3(B)に示すように、本体10の上端に立設部15を接続してもよい。立設部15は、本体10の上端から連続するように一体に結合されていてもよいし、本体10とは別体で本体10の上端に取り付けられていてもよい。立設部15は、タンディッシュ2内の溶鋼湯面よりも上方に存在していてもよい。立設部15は内部に不活性ガスを流通させるための流通路16を備えるとともに、系外の不活性ガス供給源からの流路(不図示)に接続されるコネクタ17を備えていてもよく、この場合、系外の不活性ガス供給源からコネクタ17を介して流通路16へと供給された不活性ガスが、本体10の壁の内部に設けられた流通路13へと到達した後、本体10の壁面に設けられた吹き出し孔14を介して、溶鋼へと供給されることとなる。
【0028】
旋回流付与装置100は、本体10の全体がタンディッシュ2内の溶鋼中に浸漬するように、タンディッシュ2の容器内側の底面2aに設置可能に構成されている。この点、本体10は、溶鋼に浸漬された状態において溶解することなく安定して存在可能な耐火物により構成されることが自明である。そのような耐火物は公知であることから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0029】
1.2.羽根体
羽根体20は、ロングノズル3から本体10の内部へと流入する溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する。そのような羽根体20としては種々の形態が考えられる。以下、一例を説明するが、羽根体の形態はこれに限定されるものではない。
【0030】
図4に羽根体20の構成の一例を概略的に示す。
図4(A)が羽根体20の上面概略図、
図4(B)が羽根体20の側面概略図、
図4(C)が
図4(A)のIVC-IVC切断面を示す端面図である。
図4に示す羽根体20は、中心部材21と中心部材21の周囲に配置された複数の羽根22とを備えている。
【0031】
中心部材21の形状は特に限定されるものではなく、必要な強度にて複数の羽根22を固定可能な形状であればよい。特に、羽根体20にはロングノズル3からの吐出流が直接当たることから、中心部材21は上からの圧力や衝撃に対して構造的な強度が求められる。かかる観点から、中心部材21は上に向かって凸となる凸部21aを有していてもよい。言い換えれば、中心部材21は、上部に設けられた凸部21aと、凸部21aの下に設けられた側部21bとを有し、凸部21aが上に向かって凸となる形状を有し、側部21bに複数の羽根22が固定され得る。例えば、中心部材21を円錐又はドーム状とし、その周囲に複数の羽根22を備える形状としてもよい。尚、「円錐又はドーム状」とは、円形である横断面の直径が、上端部で最も小さく、下端部で最も大きい形状であることを指す。
図4(C)に示すように、中心部材21は、釣鐘のように底面に凹部21cを有していてもよい。この場合、十分な強度を確保する観点等から、中心部材21の肉厚を10~150mmとしてもよい。
【0032】
このように、中心部材21が上に向かって凸となる凸部21aを有することで、上からの耐圧力性及び耐衝撃性を高めることができるとともに、ロングノズル3からの吐出流を半径方向外側へと分散させることができる。吐出流を半径方向外側へと分散させることで、吐出流を羽根22へと効率的に到達させることができ、吐出流に対して大きな角運動量を付与することができる。
【0033】
羽根22の各々の形状は特に限定されるものではなく、ロングノズル3からの吐出流に対して角運動量を付与することが可能な形状であればよい。上述の通り、羽根体20にはロングノズル3からの吐出流が直接当たることから、羽根22についても、中心部材21と同様に、上からの圧力や衝撃に対して構造的な強度が求められる。かかる観点から、羽根22は、上部から下部に向かうにつれて水平面に対する角度が減少するような羽根形状を有していてもよい。すなわち、
図5に示すように、垂直断面における羽根の表面形状(溶鋼吐出流を受ける側の面形状)において、羽根22の上端部と水平面とのなす角度をθ1、羽根22の下端部と水平面とのなす角度をθ3、羽根22の上端部及び下端部の間の中間部と水平面とのなす角度をθ2とした場合、θ1>θ2>θ3の関係を有していてもよい。θ1及びθ3の具体例は特に限定されない。例えばθ1を25°以上90°以下、θ3を5°以上45°以下としてもよい。
【0034】
このように、羽根22が上部から下部に向かうにつれて水平面に対する角度が減少するような羽根形状を有することで、上から下に向かう流れの衝撃を分散しながら、流れに周方向の流速を付与することが一層容易となる。羽根の形状が平面或いは上に凸(上部から下部に向かうにつれて水平面に対する角度が増大するような羽根形状)である場合、ロングノズル3からの吐出流が最初に当たる羽根の上部に衝撃力が集中するのに対し、羽根の形状が下に凸(上部から下部に向かうにつれて水平面に対する角度が減少するような羽根形状)である場合には、吐出流による衝撃力を羽根の上部から下部に分散させながら、徐々に周方向流速成分を増加させて、旋回流を形成することができる。このように、徐々に周方向の流速を増大させることで、むやみに流れを乱すことなく、効率良く角運動エネルギーを生むことにもなる。
【0035】
羽根22の枚数は特に限定されるものではなく複数(2枚以上)であればよい。ロングノズル3からの吐出流に対してより均一に角運動量を付与する観点等からは、羽根22の枚数を4枚以上10枚以下としてもよい。また、羽根22の肉厚についても特に限定されるものではなく、必要な強度を確保可能な肉厚であればよい。例えば、羽根22の肉厚を10mm以上50mm以下としてもよい。
【0036】
羽根体20は、本体10と同様に、溶鋼に浸漬された状態において溶解することなく安定して存在可能な耐火物により構成されることが自明である。本体10を構成する耐火物と羽根体20を構成する耐火物とは、同じであっても異なっていてもよい。そのような耐火物は公知であることから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0037】
羽根体20は本体10と一体となるように固定されていてもよい。或いは、羽根体20は本体10に対して着脱可能に固定されていてもよい。例えば、羽根体20は、本体10の内壁に引っ掛かるようにして設置されていてもよい。
【0038】
羽根体として、羽根体20に替えて、例えば、以下のような羽根体120を採用することも可能である。
図6に羽根体120の構成を概略的に示す。
図6(A)が羽根体120の上面概略図、
図6(B)が羽根体120の側面概略図、
図6(C)が
図6(A)のVIC-VIC切断面を示す端面図である。
図6に示す羽根体120は、中心部材121と中心部材121の周囲に配置された複数の羽根122とを備えている。中心部材121は上に向かって凸となる凸部121aを有していてもよい。また、羽根122は、上部から下部に向かうにつれて水平面に対する角度が減少するような羽根形状を有していてもよい。
【0039】
1.3.脚部30
上述したように、旋回流付与装置100は、本体10の全体がタンディッシュ2内の溶鋼中に浸漬するように、タンディッシュ2の容器内側の底面2aに設置可能に構成されている。例えば、
図2に示すように、旋回流付与装置100は、本体10を支持する脚部30を備えていてもよい。脚部30は、本体10の下端とタンディッシュ2の底面2aとの間に隙間を確保可能な長さを有していればよい。脚部30は本体10のどの部分に固定されていてもよい。脚部30の数は、本体10を支持可能な数であればよく、特に限定されるものではない。
【0040】
2.タンディッシュ
旋回流付与装置100をタンディッシュ2の一部品とみなすことも可能である。
図7にタンディッシュ2の形態の一例を示す。
図7に示すように、タンディッシュ2は、その容器内に、旋回流付与装置100を備えている。
【0041】
上述したように、旋回流付与装置100は、タンディッシュ2の容器内側の底面2aに設置され得る。ここで、旋回流付与装置100が脚部30を有する場合、脚部30がタンディッシュ2の容器内側の底面2aに固定されていてもよい。脚部3を固定する手段は特に限定されるものではない。例えば、
図7に示すように、固定用耐火物40によって、脚部3の下端を底面2aに固定することができる。
【0042】
タンディッシュ2の構成部品のうち、旋回流付与装置100以外の構成部品については従来と同様とすればよい。その他の構成部品については自明であることから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0043】
尚、従来のタンディッシュにおいては、溶鋼のショートパス等を防止するために、タンディッシュの内側に堰を設置する場合がある。一方、旋回流付与装置100を備えるタンディッシュ2においては、溶鋼のショートパス等が生じ難いことから、タンディッシュ2の内側に堰を設置する必要がない。
【0044】
3.鋼の連続鋳造システム及び鋼の連続鋳造方法
本開示の技術は、上記した旋回流付与装置100やタンディッシュ2のほか、鋼の連続鋳造システムとしての側面も有する。
図1に示すように、本開示の鋼の連続鋳造システム1000は、取鍋1と、取鍋1の下方に設置されたタンディッシュ2と、取鍋1からタンディッシュ2内に溶鋼を注入するロングノズル3と、タンディッシュ2の下方に設置された鋳型4と、タンディッシュ2から鋳型4へと溶鋼を注入する浸漬ノズル5と、ロングノズル3の下方、且つ、タンディッシュ2の容器内側の底面2aに設置され、ロングノズル3からの溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与する、旋回流付与装置100とを備える。
【0045】
また、本開示の技術は、鋼の連続鋳造方法としての側面も有する。すなわち、
図1に示すように、本開示の鋼の連続鋳造方法は、取鍋1からロングノズル3を介してタンディッシュ2内に溶鋼を注入する第1工程と、タンディッシュ2内に注入された溶鋼を鋳型4へと注入する第2工程と、を備え、第1工程において、ロングノズル3から吐出された溶鋼吐出流を、タンディッシュ2の容器内側の底面2aに設置された旋回流付与装置100の本体10の流入口10aから本体10の内部へと流入させ、旋回流付与装置100の本体10の内部に備えられた羽根体20を介して溶鋼吐出流に対して旋回周速度を付与したうえで、本体10の流出口10bから溶鋼吐出流を流出させることを特徴とする。第2工程において鋳型4へと注入された溶鋼は、冷却されながら鋳型下方へと引き抜かれ、鋳片となる。
【0046】
上述したように、旋回流付与装置100は、本体10の全体がタンディッシュ2内の溶鋼中に浸漬するように、タンディッシュ2の容器内側の底面2aに設置される。ここで、旋回流付与装置100は、少なくとも定常操業時において、本体10の全体がタンディッシュ2内の溶鋼に浸漬されていればよい。すなわち、本開示の鋼の連続鋳造システムや鋼の連続鋳造方法においては、定常操業時において、タンディッシュ2における溶鋼湯面を本体10の上端よりも上方とすればよい。より具体的には、ロングノズル3から旋回流付与装置100の本体10の内部へと溶鋼の注入を開始した直後(操業開始直後)においては、タンディッシュ2における溶鋼の湯面が本体10の上端よりも下方に存在していてよく、引き続き溶鋼の注入を行うことで当該湯面を上昇させて、定常操業の時点で、当該湯面が本体10の上端よりも上方となっていればよい。
【0047】
4.作用・効果
本開示の旋回流付与装置100によれば、円筒状の本体10の内部で、ロングノズル3から下向きに吐出された溶鋼の運動エネルギーの一部を羽根体20によって旋回流の角運動エネルギーに変換し、さらに、羽根体20よりも下方における内径の絞込みによって、角運動量保存則を利用した周方向流速の加速を行うことができる。こうして得られた旋回流は、下記2つの作用によって溶鋼清浄化に寄与する。
(1)旋回流中では、溶鋼よりも軽い非金属介在物粒子や、気泡に対して向心力が作用する。向心力は、非金属介在物粒子や気泡を旋回中心部に集めてそれらの凝集を促し、装置100から流出後、タンディッシュ2内で、非金属介在物の浮上を促進する。
(2)旋回流それ自体に作用する遠心力は、装置100の流出口10bにおいて装置100からの吐出流を半径方向に拡大・分散させる。その結果、吐出流の有する運動エネルギーが散逸され、タンディッシュ2内の流れが穏やかになり、非金属介在物の浮上時間を確保することができる。
【0048】
特許文献3~5に記載された技術においては、旋回流付与装置がタンディッシュの蓋に固定される注入管として設置されることから、取鍋から注入管への溶鋼注入量が増大して注入管における溶鋼湯面が上昇した場合に、溶鋼が注入管の上端から溢れ出て、溶鋼をタンディッシュへと適切に注入できない虞がある。これに対し、本開示の技術においては、旋回流付与装置100がタンディッシュ2の容器内側の底面2aに設置されることから、上記の溶鋼が溢れ出る問題が生じない。また、旋回流付与装置100はロングノズル3とは別体で設けられることから、ロングノズル3の把持荷重を増すことがない。また、旋回流付与装置100は、その形態から、鋳造時間の経過に伴う作用効果の減少も少ない。すなわち、本開示の技術は、従来の諸技術を総合的に凌駕する溶鋼清浄化技術といえる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示しつつ、本開示の技術について具体的に説明する。ただし、本開示の技術は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0050】
1.旋回流付与装置の設計
1.1.実施例A
図8に実施例Aに係る旋回流付与装置の形態を示す。実施例Aでは、本体上部の内径を480mmとし、本体下部の内径を100mmまで絞るものとした。また、中心部材がドーム状で、その周囲に下に凸の3次元曲面を有する羽根を6枚有する羽根体(
図4参照)を、本体の内部に固定するものとした。さらに、内径を100mmに絞った本体下部の内面には、全周に孔径0.4mmのガス吹き孔を配置し、その内部のスリット状空間にArガスを供給する流通路が本体の肉中を通って延びるものとした。さらに、本体上端から上に立設部を配置し、タンディッシュの蓋の上にまで到達できるよう延伸するものとし、立設部の肉中をArガス供給経路がさらに延びて、コネクターを介して外部のArガス管に接続できる構成とした。
【0051】
1.2.実施例B
図9に実施例Bに係る旋回流付与装置の形態を示す。実施例Bでは、本体上部の内径を600mmとし、本体下部の内径を150mmまで絞るものとした。また、中心部材がドーム状で、その周囲に下に凸の3次元曲面を有する羽根を6枚有する羽根体を、本体内部に固定するものとした。実施例Bの羽根体は実施例Aのものと相似形とした。実施例Bにおいては、実施例Aとは異なり、溶鋼へと不活性ガスを吹き込む構造を設けなかった。
【0052】
1.3.実施例C
図10に実施例Cに係る旋回流付与装置の形態を示す。実施例Cでは、本体上部の内径を540mmとし、本体下部の内径を112mmまで絞るものとした。また、全体が円錐状でその周辺部に斜めの流路を穿った羽根体(
図6参照)を、本体内部に固定するものとした。
【0053】
2.タンディッシュの設計
実施例A~Cに係る旋回流付与装置の各々をタンディッシュの容器内側の底部に設置して、連続鋳造における効果を確認した。
図11に、実施例Bに係る旋回流付与装置を、ロングノズルの下方であるタンディッシュ底面に設置した適用例を示す。
図11に示すタンディッシュは、定常部の溶鋼容量が30tonの舟形タンディッシュである。実施例A及びCについても同様のタンディッシュを採用した。
【0054】
比較例においては、旋回流付与装置を設置せずに、タンディッシュ内に堰を設けて、連続鋳造を行った。
図12に、比較例におけるタンディッシュの形態を示す。
図12に示すタンディッシュは、
図11と同様、定常部の溶鋼容量が30tonの舟形タンディッシュである。
【0055】
3.連続鋳造による性能評価
図11及び12のタンディッシュに対して、下記表1に示す組成の鋼を4ton/minの流量で取鍋からロングノズルを通して注ぎ、タンディッシュ及び浸漬ノズルを介して鋳型(厚み250mm、幅1600mm)に連続的に注入することで連続鋳造を行った。実施例Aについては、Arガスを5NL/minの流量で吹き込んだ。得られた鋳片(スラブ)の幅中央において、表面からスラブの厚み1/8、1/6、1/4、1/3、2/3、3/4、5/6、7/8の計8ヶ所から、直径5mm、長さ40mmのサンプルを切り出し、トータル酸素濃度を分析して、その平均値を各実施例及び比較例の溶鋼清浄化効果の比較に用いた。結果を
図13に示す。
【0056】
【0057】
図13から、旋回流付与装置を設置せずにタンディッシュ内に堰を設けた比較例に対し、タンディッシュ内に旋回流付与装置を設置した実施例A~Cの優位性が明らかである。特に不活性ガスの吹き込みを行った実施例Aの効果が高い。実施例Bは実施例Aに準じる溶鋼清浄化効果を発揮した。実施例Bは実施例Aに対しタンディッシュ内への設置施工が簡単であるというメリットがあり、実用的である。実施例Cは、実施例AやBに比べると溶鋼清浄化効果が低下した。これは、実施例A及びBと比較して、実施例Cにおいては、羽根体による旋回付与効率が低いものと考えられる。
【0058】
以上の通り、実施例A~Cのように、ロングノズルの下方のタンディッシュ底面に旋回流付与装置を設置することによって、清浄な鋼を鋳造することができる。この場合、タンディッシュ内に堰を設置する必要がないことも大きなメリットである。
【符号の説明】
【0059】
1 取鍋
2 タンディッシュ
3 ロングノズル
4 鋳型
5 浸漬ノズル
10 本体
20 羽根体
30 脚部
100 旋回流付与装置