(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】焼結鉱の還元粉化性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2055 20180101AFI20230221BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20230221BHJP
C22B 1/16 20060101ALI20230221BHJP
G01N 33/204 20190101ALI20230221BHJP
【FI】
G01N23/2055 320
G01N23/207
C22B1/16 Q
G01N33/204
(21)【出願番号】P 2019079647
(22)【出願日】2019-04-18
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】高山 透
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179692(JP,A)
【文献】特開平05-133910(JP,A)
【文献】特開昭61-201739(JP,A)
【文献】特開2016-194114(JP,A)
【文献】高山 透、ほか,リートベルト解析による高炉原料用焼結鉱の鉱物相評価,鉄と鋼,日本,2016年11月04日,Vol. 103 , No. 6,pp. 161-170,doi:10.2355/tetsutohagane.TETSU-2016-069
【文献】Stuart NICOL, et al.,A Review of the Chemisutry, Structure and Formation Conditions of Silico-Ferrite of Calcium and Aluminum ('SFCA') Phases,ISIJ International,Vol. 58 , No. 12,2018年,pp. 2157-2172,doi:10.2355/isijinternational.ISIJINT-2018-203
【文献】XRD-リートベルト法による焼結鉱中の鉱物相の定量解析,新日鉄住金技報,日本,2017年,第408号,第67-75頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
C22B 1/16
G01N 33/20-G01N 33/208
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有原料、副原料、炭材を含む原料を造粒、焼成して得た焼結鉱を、粉砕して粉末試料とする試料調製工程と、
X線回折法によって前記粉末試料のX線回折パターンを得るX線回折パターン測定工程と、
前記X線回折パターンからカルシウムフェライト
SFCA(Silico-Ferrite of Calcium and Aluminum)の回折ピークを少なくとも3つ以上特定し、特定した前記回折ピークの位置から求めた面間隔に基づき、カルシウムフェライトSFCAの単位セル体積を求める解析工程と、
前記焼結鉱の還元粉化指数を測定する工程と、
複数の焼結鉱のカルシウムフェライトSFCAの単位セル体積と、前記還元粉化指数との相関関係を求める工程と、
前記相関関係に基づき、他の焼結鉱について前記解析工程において求められた前記カルシウムフェライト
SFCAの単位セル体積から、前記
他の焼結鉱の還元粉化性を評価する還元粉化性評価工程と、
を備え
、
前記相関関係は、前記複数の焼結鉱のカルシウムフェライトSFCAの単位セル体積と、前記複数の焼結鉱の還元粉化指数との近似直線式であり、
前記他の焼結鉱のカルシウムフェライトSFCAの単位セル体積を、前記近似直線式に代入することによって、前記焼結鉱の還元粉化性を評価することを特徴とする焼結鉱の還元粉化性評価方法。
【請求項2】
前記カルシウムフェライト
SFCAの回折ピークとして下記のSFCA(Silico-Ferrite of Calcium and Aluminum)の回折ピークのうちのいずれか3つ以上の回折ピークを特定する請求項1に記載の焼結鉱の還元粉化性評価方法。
面間隔が3.03±0.03Åの範囲内にある(031)面の回折ピーク。
面間隔が3.01±0.05Åの範囲内にある(311)面の回折ピーク。
面間隔が2.61±0.05Åの範囲内にある(02-2)面の回折ピーク。
面間隔が2.75±0.05Åの範囲内にある(320)面の回折ピーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の還元粉化性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の操業においては、焼結鉱とコークスを積層させ、高炉内を通過する還元性ガスによって焼結鉱を還元し、溶銑とした後に、炉底から溶銑とスラグを取り出している。
【0003】
高炉原料用の焼結鉱は、鉱石と炭材と副原料を焼結して製造される。具体的には、以下の手順で製造される。まず、鉱石、石灰石等の副原料、炭材、水をミキサーあるいは混錬機を用いて造粒して焼結原料とする。造粒によって、焼結原料は、平均粒径3~5mm程度の粒子を核粒子とし、核粒子の周囲を、「付着粉」と呼ばれる平均粒径1mm以下の粒子が取り巻いた、擬似的な粒子(以下、「擬似粒子」とも言う)に造粒される。
【0004】
次に、焼結原料を焼結機のパレット上に装入して充填層を形成し、バーナーで充填層の上面に着火する。着火により、充填層内の炭材が燃焼し、燃焼帯を形成する。さらにパレットの下方からパレット内の空気を吸引する。燃焼帯は、吸引によって充填層の上層から下層に進行する。燃焼帯では、燃焼熱によって周囲の擬似粒子が昇温されて部分的に溶融し、その融液により擬似粒子間が架橋されて焼結し、焼結鉱が製造される。製造された焼結鉱はパレットから排鉱され、クラッシャーによって粉砕されて、篩で整粒される。篩上が焼結鉱となり、篩下は返鉱として焼結原料に戻される。
【0005】
高炉に装入された焼結鉱は、還元される初期の低温段階で粉化する場合がある。これは、焼結鉱中のヘマタイトが還元されてマグネタイトが生成する際に、体積が膨張するのが原因と推測されている。焼結鉱が粉化すると、高炉内の通気性を悪化させて、荷下がりの不調や、棚吊りを引き起こし、高炉操業を不安定化させる恐れがある。従って、高炉操業を安定して行うためには、適度の還元粉化性を有する焼結鉱を高炉に装入する必要がある。そこで、焼結鉱の還元粉化性の評価方法として、JIS M 8720(2009年(2017年に追補あり)が知られている。
【0006】
しかし、JIS法による焼結鉱の還元粉化性の評価は、焼結鉱を一酸化炭素と窒素とから構成される還元ガスを用いて所定の温度で所定時間の等温保持を行い、次いで、回転ドラムによって回転させた後に、篩い分けを行うことで評価するものであり、評価手順が煩雑である。このため、JIS法に代わる、焼結鉱の還元粉化性の評価方法が検討されている。
【0007】
焼結鉱には、ヘマタイト、マグネタイト及びカルシウムフェライトと、少量のスラグとが含まれる。カルシウムフェライトは、擬似粒子を焼結して焼結鉱を生成する際に、次のような反応によって生成すると考えられる。まず、擬似粒子中の炭材である粉コークスの燃焼により、Fe2O3とCaOとの界面で固相拡散が進行し、固体のCaO-Fe2O3が生成し、さらに温度上昇により、CaO-Fe2O3が融液になり、更に焼結層内の温度が上昇すると、融液量がさらに増加し、融液の拡散が活性化することで周りの原料を焼結させる。焼結が進むとCaO-Fe2O3系融液が冷却され、カルシウムフェライト、2次ヘマタイト、マグネタイト等の鉱物相に変化すると推測されている。
【0008】
焼結鉱は、生成するカルシウムフェライト量(≒融液量)が多い程、強度や歩留が向上する傾向がある。このようなことから、焼結鉱中のカルシウムフェライトに着目して、焼結鉱の還元粉化性の評価が試みられている。
【0009】
非特許文献1には、カルシウムフェライトが焼結の際に焼結原料の粒子間を結合する作用があること、カルシウムフェライトが、主にSFCA(Silico-ferrite of calcium and aluminum)とSFCA-Iという組成の異なる2種に分離できること、および温度や塩基度が、SFCAとSFCA-Iの比率に影響する可能性があることが記載されている。
【0010】
特許文献1では、カルシウムフェライトの中でもSFCA-Iに着目し、焼結鉱のX線回折パターンにリートベルト解析を適用してSFCA-Iの相分率を求め、SFCA-Iの相分率から、焼結鉱の還元粉化性の評価を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】NATHAN A.S.WEBSTER et.al, “Fundamentals of Silico-Ferrite of Calcium and Aluminum (SFCA) and SFCA-I Iron Ore Sinter Bonding Phase Formation : Effects of CaO:SiO2 Ratio”,METALLURGICAL AND MATERIALS TRANSACTIONS B,VOLUME45B,DECEMBER(2014),p2097-2105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1の記載された評価方法は、JISに規定された評価方法に比べると、簡便かつ迅速に評価できるものであり、JIS法に比べて有用であるが、X線回折パターンに対してリートベルト解析を行う必要があり、評価手法が煩雑なことから、更なる簡便かつ迅速な評価方法が望まれている。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、焼結鉱の還元粉化性の評価を簡便かつ迅速に行うことが可能な焼結鉱の還元粉化性評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため,本発明は以下の構成を採用する。
[1] 鉄含有原料、副原料、炭材を含む原料を造粒、焼成して得た焼結鉱を、粉砕して粉末試料とする試料調製工程と、
X線回折法によって前記粉末試料のX線回折パターンを得るX線回折パターン測定工程と、
前記X線回折パターンからカルシウムフェライトSFCA(Silico-Ferrite of Calcium and Aluminum)の回折ピークを少なくとも3つ以上特定し、特定した前記回折ピークの位置から求めた面間隔に基づき、カルシウムフェライトSFCAの単位セル体積を求める解析工程と、
前記焼結鉱の還元粉化指数を測定する工程と、
複数の焼結鉱のカルシウムフェライトSFCAの単位セル体積と、前記還元粉化指数との相関関係を求める工程と、
前記相関関係に基づき、他の焼結鉱について前記解析工程において求められた前記カルシウムフェライトSFCAの単位セル体積から、前記他の焼結鉱の還元粉化性を評価する還元粉化性評価工程と、
を備え、
前記相関関係は、前記複数の焼結鉱のカルシウムフェライトSFCAの単位セル体積と、前記複数の焼結鉱の還元粉化指数との近似直線式であり、
前記他の焼結鉱のカルシウムフェライトSFCAの単位セル体積を、前記近似直線式に代入することによって、前記焼結鉱の還元粉化性を評価することを特徴とする焼結鉱の還元粉化性評価方法。
[2] 前記カルシウムフェライトSFCAの回折ピークとして下記のSFCA(Silico-Ferrite of Calcium and Aluminum)の回折ピークのうちのいずれか3つ以上の回折ピークを特定する[1]に記載の焼結鉱の還元粉化性評価方法。
面間隔が3.03±0.03Åの範囲内にある(031)面の回折ピーク。
面間隔が3.01±0.05Åの範囲内にある(311)面の回折ピーク。
面間隔が2.61±0.05Åの範囲内にある(02-2)面の回折ピーク。
面間隔が2.75±0.05Åの範囲内にある(320)面の回折ピーク。
なお、(02-2)の「-2」は、「2」の上に棒線を付したものであることを意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焼結鉱の還元粉化性の評価を簡便かつ迅速に行うことが可能な焼結鉱の還元粉化性評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、焼結鉱試料の還元粉化指数(RDI-2
-2.8)とユニットセル体積との関係を示す図である。
【
図2】
図2は、焼結鉱試料の還元粉化指数(RDI-2
-2.8)と気孔率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
焼結鉱の還元粉化性は、その因子が完全に解明されてはいないが、還元を伴う指標であることから、焼結鉱の被還元性に影響を受けやすい指標であると推測される。焼結鉱は、還元が進むにつれて強度が低下して粉化しやすくなる。従って、被還元性と還元粉化性との間にはトレードオフの関係があるといえる。
【0019】
また、焼結鉱中に含まれるカルシウムフェライトは、焼結鉱中に質量%で20~40%程度含有されており、焼結鉱の品質の鍵となる相である。カルシウムフェライトは、Fe、Ca及びOを含有し、更に脈石成分でもあるAlが固溶されている。また、Mgや、脈石成分であるSiが固溶される場合もある。カルシウムフェライトは、焼結反応中にて生成したカルシウムフェライト融液が、周囲の脈石を取り込む形で広がり、急冷されることで生成されると推測されている。そのため、焼結鉱は、カルシウムフェライト量が多い程、強度や歩留が向上する傾向がある。すなわち、カルシウムフェライトの含有量やその存在状態が、焼結鉱の還元粉化性に影響を与えている可能性がある。
【0020】
焼結鉱中のカルシウムフェライト自身の被還元性は、SiやAl等の脈石成分の比率が増大すると、低下する傾向にあることが知られている。このことから、カルシウムフェライトに含まれるSiやAlの比率が増大すると、カルシウムフェライトに対する還元速度が低下する一方で、還元時の焼結鉱の強度低下を抑制し、結果として還元粉化性が改善することが期待される。そこで、本発明者らは、カルシウムフェライト中の脈石量(Si、Al)を評価することによって、焼結鉱の還元粉化性を評価することを検討したところ、下記の知見を得るに至った。
【0021】
すなわち、脈石元素であるSi、Alは、他の元素に比べて有効イオン半径が小さく、カルシウムフェライト中におけるこれらの元素の比率が増大すると、カルシウムフェライトの単位セル体積が減少する。本発明者らは、カルシウムフェライトの単位セル体積が小さいほど、脈石元素であるSi、Alが多く含まれ、カルシウムフェライトの被還元性が小さくなり、還元粉化性が改善される(JISにおける還元粉化指数(RDI-2-2.8)が小さくなる)方向になると推測した。
【0022】
また、カルシウムフェライトは、非特許文献1に記載されているように、SFCA(Silico-ferrite of calcium and aluminum)とSFCA-Iという組成の異なる2種に分離できることが知見されているが、本発明者らは、カルシウムフェライトをSFCAとSFCA-Iとに分離するまでもなく、X線回折パターンからSFCAに由来する回折ピークを特定し、その面間隔から単位セル体積を求めることで、JISにおける還元粉化指数(RDI-2-2.8)との相関が得られることを知見した。そこで、X線構造解析技術を用いて焼結鉱中のSFCAの単位セル体積を決定し、還元粉化性を評価するという着想に至った。
【0023】
非特許文献1によれば、SFCAは、Fe、Ca,Si及びAlを含むカルシウムフェライト相であってFe含有量が比較的低いとされる。一方、SFCA-Iは、Fe、Ca及びAlを含むカルシウムフェライト相であってFe含有量が比較的高く、微量のSiを含有する場合もあるとされる。結晶構造は、SFCA及びSFCA-Iともに三斜晶系であり、単位セル体積は僅かに異なる。このため、X線の種類にもよるが、X線回折パターン上では、SFCAの由来する回折ピークのピーク位置と、SFCA-Iに由来する回折ピークのピーク位置が近接しており、X線回折パターン上でほぼ重なる場合が多く、SFCA及びSFCA-Iの各回折ピークが一体化したピークとして観察される。
【0024】
しかし、SFCAの回折ピークの中にもSFCA-Iとの重なりの影響をほとんど受けないものがある。このようなピークに着目すると、それらのピーク位置、すなわち対応する面間隔が試料によって、シフトしていることが観察された。このシフトは、SFCAの脈石、すなわちAl、Siの含有率によって変動したものと考えられる。これらの面間隔をもとにSFCAの単位セル体積を求め、JIS法により測定した還元粉化指数(RDI-2-2.8)と比較したところ、高い相関を有していたことから、本発明によって求められるSFCAの単位セル体積によって、JISにおける還元粉化指数(RDI-2-2.8)を予測できることが判明した。
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の焼結鉱の還元粉化性評価方法は、鉄含有原料、副原料、炭材を含む原料を造粒、焼成して得た焼結鉱を、粉砕して粉末試料とする試料調製工程と、X線回折法によって粉末試料のX線回折パターンを得るX線回折パターン測定工程と、X線回折パターンからカルシウムフェライトの回折ピークを少なくとも3つ以上特定し、特定した回折ピークの位置から求めた面間隔に基づき、カルシウムフェライトの単位セル体積を求める解析工程と、カルシウムフェライトの単位セル体積から、焼結鉱の還元粉化性を評価する還元粉化性評価工程と、を備える評価方法である。
【0026】
以下、本実施形態に係る還元粉化性評価方法の各工程の詳細について説明する。以下の説明では「X線回折」を「XRD」という場合がある。
【0027】
<試料調製工程>
本実施形態の評価対象は焼結鉱である。焼結鉱は例えば、以下に説明する手順によって製造されたものを用いることができる。
【0028】
すなわち、鉄鉱石や返鉱等の鉄含有原料、石灰石等の副原料、およびコークス等の炭材を造粒した後、焼成することによって焼結鉱を得る。焼結設備としてはDL(ドワイトロイド)式が例示できるが、焼結鍋を用いてもよい。
【0029】
次に、焼成後の焼結鉱から、焼結鉱試料を採取する。焼結鉱試料は、DL式焼結設備によって得られた焼結ケーキ、または焼結鍋によって得られた焼結鉱塊から採取する。以下の説明では焼結ケーキから採取した場合について説明する。採取の際には、鉱物相の相分率以外の還元粉化性因子の影響を抑制するような採取を行う必要がある。具体的には、焼結ケーキからの採取部位を統一して、焼結鉱の粒度や焼結反応の熱履歴などに、差が無い試料を採取するのが好ましい。また、評価する焼結鉱の代表値を得る必要がある。焼結ケーキ部位全体の代表値を得るためには、採取範囲内から偏りがないように試料を採取することが好ましい。実際は化学分析用の粉末試料を採取するのと等しい水準の試料採取をすれば、最低限の代表値を得られる。
【0030】
次に、採取した焼結鉱試料に対して、粉砕および縮分を行う。焼結鉱試料の粉砕方法は、鉱物相に影響を与えなければ特に限定しない。振動ミル、ボールミル(回転ミル)、スタンプミルなどの粉砕装置を用いてもよい。粉砕された焼結鉱試料は、XRDによって分析するため、焼結鉱試料の粒度は平均粒径で10μm以下の範囲になるように調整することが好ましい。平均粒径は、例えばレーザー回折法によって得られた平均粒径としてもよい。焼結鉱試料の粒度が粗すぎると、配向によってXRDパターンに悪影響を及ぼす。逆にナノメートルオーダーの粒径の場合、結晶性が悪化しアモルファスのようなXRDパターンになってしまう。
【0031】
縮分については、焼結鉱試料の粉砕後、乳鉢などを用いて粉末試料を混ぜる程度でよい。振動ミルやボールミルは粉砕と混合を同時に実施するため、基本的に粉砕後の縮分作業は必要ない。スタンプミルで粉砕した場合は、試料の混合が不十分である可能性があるため、縮分作業を実施して均一な粉末を製造するのが好ましい。焼結鉱試料が多すぎて、一度の作業で試料を粉砕できない場合は、複数回に分けて粉砕作業を行う。この場合は、粉砕法に関わらず、すべての試料を粉砕した後に、乳鉢にて試料を再混合することが好ましい。
【0032】
<X線回折パターン測定工程>
次に、X線回折パターン測定工程について説明する。前述した手法で粉砕した焼結鉱試料をサンプルホルダーに詰める。XRD測定に影響がない限りにおいて、サンプルホルダーの材質は限定しない。例えば、ガラス製がよい。試料粉末をサンプルホルダーに充填する際には、必要以上に圧密化しないことが好ましい。圧密化すると焼結鉱の結晶方位が揃って、正確なXRDパターンが測定されないおそれがある(すなわち配向が起こる)。充填後の試料の表面は平滑にするのが好ましい。これは、表面に凹凸があるとX線の侵入深さが一定でなくなり、XRDパターンに悪影響が生じるためである。なお、焼結鉱の粉末は、特に配向が起こりやすい試料ではないため、配向を防ぐための特別な構造や方法は必要ない。
【0033】
後述するように、XRDで用いるX線源は、特に限定するものではないが、鉄元素から発生する蛍光X線を考慮するとCo管球を用いることが好ましい。Co管球以外のX線源を用いてもよい。Co管球の場合、入射X線の侵入深さは約1μmであるので、サンプルホルダーへの焼結鉱試料の充填厚さは0.2mm以上あればよい。このような条件で作製した焼結鉱の粉末試料をX線回折装置にセットして、XRDパターンを測定する。
【0034】
XRDパターンの測定条件について説明する。XRDパターンの測定には、ディフラクトメータ(集中法)を用いる。解析対象である回折ピークが入るようにXRDパターンの測定範囲2θは設定すると好ましい。一般的には2θ=10°~140°など広い範囲で測定すれば回折ピークの取りこぼしがないのでよい。ステップ刻み(Δ2θ)は0.02°あるいは0.04°のどちらかを選択する。スキャンタイプはステップスキャン、連続スキャンどちらでもよい。ステップスキャンの場合の検出器の露光時間または連続スキャンの場合のスキャンスピードは、最大強度が2万~3万カウントになるように設定するのが好ましい。スリット条件は、入射X線の照射面積が試料面積を超えないようにする。X線はCoKα線を使用できる。X線源の元素に合わせたKβフィルター(Co線源の場合はFe板)を検出器前に装入して、CoKβ線を軽減させるのが好ましい。
【0035】
以上の工程を経ることで、焼結鉱のXRDパターンを得る。
【0036】
<解析工程>
解析工程では、XRDパターンからカルシウムフェライトの回折ピークを少なくとも3つ以上特定し、特定した回折ピークの位置から当該回折ピークの結晶方位の面間隔を求め、求めた面間隔に基づき、SFCAの単位セル体積を求める。
【0037】
カルシウムフェライトの回折ピークは、焼結鉱の回折パターンに現れるピークの中から、下記表1のSFCAの4本の回折ピークのうちから3つ以上を選定するとよい。選定は、なるべく回折強度が大きく、また、ピーク幅が狭い回折ピークを選ぶとよい。下記表1には、一例として、利用可能な回折ピークの面指数(結晶方位)と面間隔d値を記載する。単位セル体積の計算に用いる回折ピークの数が多いほど、単位セル体積の測定精度が向上するため好ましい。なお、(02-2)の「-2」は、「2」の上に棒線を付したものであることを意味する。
【0038】
なお、本発明において単位セル体積の計算に用いる回折ピークは、下記表1に記載の回折ピークに限定するものではなく、単位セル体積を精度よく計算できるならば、他の回折ピークを用いてもよい。
【0039】
【0040】
これらの回折ピークは、焼結鉱のいくつかの試料について実際にXRD測定を行ってXRD回折パターンを取得し、更に、SFCAの標準回折パターンを参考にして、決定したものである。実際の焼結鉱のXRDパターンにおけるカルシウムフェライトの回折ピーク位置は、標準試料の回折ピーク位置とは若干異なる場合があるため、本実施形態の方法では表1に記載した回折ピークのいずれかを用いることが好ましい。なお、表1に記載した回折ピークの特定にあたっては、SFCAの標準回折パターンとして、2012年版のICDD-PDF(International Centre for Diffraction Data - Powder Diffraction File(TM))のデータベースに含まれる、Calcium Iron Aluminum Silicate(化学式:Ca2.8Fe8.7Al1.2Si0.8O20、No:08-1-080-0850)(Fe2O3/CaO=1.6)を用いた。
【0041】
X線回折パターン上では、SFCAの由来する回折ピークのピーク位置と、SFCA-Iに由来する回折ピークのピーク位置が近接しており、X線回折パターン上でほぼ重なる場合が多い。本発明では、リートベルト解析等のピーク分離手段は特に用いずに、上記のピークのうちの3つ以上を単位セル体積の計算に用いればよい。
【0042】
単位セル体積の計算に用いる回折ピークを特定したならば、それぞれの回折ピークの最大回折強度の位置(回折角度θ)より、当該ピークの面間隔dを求める。面間隔は2dsinθ=λの式から求めればよい。θは、各回折ピークの回折角度であり、λは使用するX線の波長である。X線としてCoKα線を使用する場合の波長λは1.7903Åとする。
【0043】
次に、以下の手順によってカルシウムフェライトの単位セル体積を求める。
【0044】
まず、SFCA及びSFCA-Iは、ともに三斜晶系の結晶(Space Group:P-1)である。三斜晶系の結晶において、単位セル体積Vと、結晶面(hkl)の面間隔dとの関係式は、下記の式(1)で示される。式(1)におけるa、b、cは三斜晶系の結晶における各軸の長さ(nm)である。単位セル体積を算出する場合において未知数として扱う。三斜晶系の単位セル体積Vは式(2)で示される。また、h、k、lはそれぞれ、回折ピークの面指数である。また、S11、S22、S33、S12、S23、S13はそれぞれ、式(3)~式(8)で表される。式(3)~式(8)のα、β、γは、三斜晶系の単位格子の各結晶軸同士の夾角であり、本実施形態ではICDD-PDFのCalcium Iron Aluminum Silicate(No:08-1-080-0850)に記載された値である、α=60.3°、β=73.68°、γ=65.81°を用いる。
【0045】
d-2=V-2(S11h2+S22k2+S33k2+2S12hk+2S23kl+2S13hl) …(1)
V=abc(1-cos2α-cos2β-cos2γ+2cosαcosβcosγ)1/2 …(2)
【0046】
S11=b2c2sin2α …(3)
S22=a2c2sin2β …(4)
S33=a2b2sin2γ …(5)
S12=abc2(cosαcosβ-cosγ) …(6)
S23=a2bc(cosβcosγ-cosα) …(7)
S13=ab2c(cosγcosα-cosβ) …(8)
【0047】
そして、予め特定した回折ピークに対応する結晶面の面間隔d、面指数h、k、l及びα、β、γを式(1)に導入して関係式を立てて、これらの関係式を解いてカルシウムフェライトの単位セル体積Vを求める。また、a、b、cも同時に求める。実際の計算は、解析ソフト等を利用して行ってもよい。
【0048】
<還元粉化性評価工程>
還元粉化性評価工程では、SFCAの単位セル体積Vから、焼結鉱の還元粉化性を評価する。予め、複数の焼結鉱サンプルについて、本実施形態の評価方法によって単位セル体積Vを求めておき、また、同じ焼結鉱サンプルについて、JIS M 8720(2009年(2017年に追補あり)の「鉄鉱石-低温還元粉化試験方法」に準拠して、還元粉化指数(RDI-2-2.8)を求める。そして、単位セル体積Vと還元粉化指数(RDI-2-2.8)との相関関係を求める。そして、この相関関係に基づき、他の焼結鉱について本実施形態の評価方法により単位セル体積Vを求めて、還元粉化指数(RDI-2-2.8)を予測し、焼結鉱の還元粉化性を評価する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の焼結鉱の還元粉化性評価方法によれば、焼結鉱のXRDパターンを取得し、このXRDパターンからSFCAの回折ピークを少なくとも3つ以上特定し、SFCAの単位セル体積を求め、SFCAの単位セル体積から、焼結鉱の還元粉化性を評価するので、従来のJIS法や、リートベルト解析を用いた評価方法に比べて、焼結鉱の還元粉化性の評価を簡便かつ迅速に行うことができる。
【0050】
なお、上記の実施形態では焼結鉱に含まれるカルシウムフェライトのうち、SFCAの回折ピークから単位セル体積を求める例について説明したが、本発明に係るカルシウムフェライトはSFCAに限定されるものではなく、単位セル体積と還元粉化性との間に相関があるならば、他のカルシウムフェライトを用いてもよい。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は上記した実施形態及び、下記の実施例に限定されない。当業者であれば、本発明の思想の範囲内において各種変形例および改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0052】
まず、焼結鉱試料は、鉄鉱石に石灰石を9.0~11.0質量%、熱源のコークスを外数4.0~5.5質量%の範囲で添加した造粒物を用意した。この造粒物をDL焼結機で焼結し、パレット抜きした焼結ケーキを用意し、焼結ケーキを破砕して、直径5mm以下に整粒したものを試料(Sample1~7)とした。
【0053】
次に、試料(Sample1~7)に対して、JIS M 8720(2009年(2017年に追補あり)の「鉄鉱石-低温還元粉化試験方法」に準拠して、還元粉化指数(RDI-2-2.8)を測定した。
【0054】
次に、還元粉化指数(RDI-2-2.8)の評価後の粉砕された焼結鉱試料から、それぞれ約1kg採取して、振動ミルによる粉砕を行った。その後、XRDパターンを評価した。XRDの測定条件は以下の通りとした。
【0055】
XRD測定条件
管球:CoKα (40kV、40mA)
検出器:1次元検出器D/tex(Rigaku製)
2θ:10~140deg
Δ2θ:0.02deg
スキャン速度:1deg/min
【0056】
測定したXRDパターンから、SFCA由来の回折ピークの回折強度の位置を特定した。本例にて評価に使用したSFCAの回折ピークは、(031)面、(230)面、(02-2)面由来の3つの回折ピークとした。なお、(02-2)の「-2」は、「2」の上に棒線を付したものであることを意味する。
【0057】
これらのピークの位置から、2dsinθ=λの式より(031)面、(230)面、(02-2)面の面間隔dをそれぞれ求めた。そして、これらの面間隔dを上記の式(1)~式(8)に代入することで、SFCAの単位セル体積Vを求めた。なお、式(3)~式(8)のα、β、γはα=60.3°、β=73.68°、γ=65.81°を用いた。
【0058】
表2に、各試料(Sample1~7)の還元粉化指数(RDI-2
-2.8)(表2では還元粉化率(%)と表記)と、ユニットセル体積(表2ではSFCAのUCV(Å
3)と表記)を示す。また、
図1に、各試料(Sample1~7)の還元粉化指数(RDI-2
-2.8)(
図1ではRDI(%)と表記)及びユニットセル体積(UC体積)をプロットした図を示す。還元粉化指数(RDI-2
-2.8)はその値が低い程、還元粉化性が優れていると判断する。
【0059】
次に、比較例の評価方法として、焼結鉱試料から約20mmφの焼結鉱粒をそれぞれ3個採取して、Micrometarics社製ポロシメータ装置(オートポア9520)を用いて、3個の焼結鉱粒に水銀を圧入して気孔率を算出し、得られた各気孔率の平均値を各水準に対する気孔率とした。
【0060】
表2に、気孔率を併せて示す。また、
図2に、各試料(Sample1~7)の還元粉化指数(RDI-2
-2.8)(
図2ではRDI(%)と表記)及び気孔率(PAC気孔率)をプロットした図を示す。
【0061】
【0062】
表2及び
図1に示すように、単位セル体積と還元粉化指数(RDI-2
-2.8)との間には、強い相関があることが確認された。
図1中にはSFCA-Iの近似直線とR
2値も示した。この近似直線の式にSFCAの単位セル体積を代入することで、おおよその還元粉化指数(RDI-2
-2.8)を見積もることが可能である。
【0063】
一方、表2及び
図2に示すように、気孔率と還元粉化指数(RDI-2
-2.8)との相関関係は見られなかった。これは、気孔率の焼結鉱中のばらつきが大きく代表性が不十分であるためと考えられる。
【0064】
以上の結果から、焼結鉱のXRDパターンを取得し、このXRDパターンからSFCAの回折ピークを少なくとも3つ以上特定し、SFCAの単位セル体積を求めることで、SFCAの単位セル体積と焼結鉱の還元粉化性との間に強い相関が得られ、得られた相関から還元粉化性を精度よく評価できることが分かった。