(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】センサホルダ部を有する保護カバー、及び前記保護カバーを備えた軸受装置、並びにセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/76 20060101AFI20230221BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20230221BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230221BHJP
B29C 45/34 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
F16C33/76 A
F16C41/00
F16C19/18
B29C45/34
(21)【出願番号】P 2019094729
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】上願 豊
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-015246(JP,A)
【文献】特開平06-166064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00,33/00,41/00
B29C 45/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受と、
前記軸受の内方側端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダと、
前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサと
を含む軸受装置に用いる、
前記軸受の内方側端部を密封するように前記外輪に取り付ける、カップ状の保護カバーであって、
前記軸受装置は、自動車のホイール支持用であり、
前記保護カバーは
、樹脂と金属とのインサート射出成形で一体化された繊維強化合成樹脂製
本体及び金属製環体からなり、
前記本体は、カップ状を成す円盤部
及び円筒部、並びに前記円盤部から内方へ突出するセンサホルダ部
からなり、
前記合成樹脂は熱可塑性であり、
前記円盤部には、前記磁気エンコーダ及び前記磁気センサ間を仕切る仕切壁が形成されており、
前記仕切壁は前記合成樹脂のみからなり、前記仕切壁の厚みは、0.3~1.0mmであり、
前記仕切壁の前記磁気エンコーダに対向する面、又は前記仕切壁の前記磁気センサに対向する面に、射出成形金型のガス抜きピンの跡がある、
センサホルダ部を有する保護カバー。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサホルダ部を有する保護カバーを備えた軸受装置。
【請求項3】
外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受と、
前記軸受の内方側端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダと、
前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサと
を含む軸受装置に用いる、
前記軸受の内方側端部を密封するように前記外輪に取り付ける、カップ状の保護カバーの製造方法であって、
前記軸受装置は、自動車のホイール支持用であり、
前記保護カバーは
、樹脂と金属とのインサート射出成形で一体化された繊維強化合成樹脂製
本体及び金属製環体からなり、
前記本体は、カップ状を成す円盤部
及び円筒部、並びに前記円盤部から内方へ突出するセンサホルダ部
からなり、
前記合成樹脂は熱可塑性であり、
前記円盤部には、前記磁気エンコーダ及び前記磁気センサ間を仕切る仕切壁が形成されており、
前記仕切壁は前記合成樹脂のみからなり、前記仕切壁の厚みは、0.3~1.0mmであり、
前記保護カバーを成形する射出成形金型は、
成形品を突き出す機構とは別に、
前記仕切壁を成形する位置に、ガス抜きピンを備え、
前記射出成形金型を閉じて、前記金型のキャビティ内にゲートから溶融樹脂材料を注入して固化させる射出成形工程と、
前記射出成形金型を開いて、前記成形品を突き出す機構により成形品である前記保護カバーを突き出して取り出す成形品取出し工程と、
を含む、
センサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【請求項4】
前記ガス抜きピンは、前記金型のキャビティ内に進出し、進出した後に元の位置まで後退するようにスライド可能であり、
前記ガス抜きピンは、
前記成形品を突き出す機構が動作した後に前記キャビティ内に進出するように動作し、
当該動作により前記仕切壁を押圧しない、
請求項3に記載のセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【請求項5】
前記射出成形金型の、前記仕切壁を成形する位置に備える前記ガス抜きピンを、
予め樹脂流動解析を行って得た前記溶融樹脂材料の合流部に配置してなる、
請求項3又は4に記載のセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受の外輪に取り付けて磁気エンコーダを被うカップ状の保護カバーにおいて、特に磁気センサを保持するセンサホルダ部を有する保護カバーに関わり、さらに詳しくは、磁気エンコーダ及び磁気センサ間に仕切壁を有する保護カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車において、車輪のロックを無くして効率良く安全に制動するアンチロックブレーキシステムが広く普及している。前記アンチロックブレーキシステムは、例えば、回転速度検出装置(車輪速センサ)により各車輪の回転速度を検出し、制御装置により加速度及び減速度を演算するとともに車体速度とスリップ率を推定し、その結果に基づいてアクチュエータを駆動してブレーキ液圧の制御を行うものである。
【0003】
前記回転速度検出装置を自動車のホイール支持用の転がり軸受(ハブベアリング)に備えた軸受装置も広く用いられている。このような軸受装置において、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べた磁気エンコーダを軸受の軸方向の一端部の内輪に取り付け、カップ状の保護カバーを軸受の軸方向の一端部の外輪に取り付けて密封するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1の保護カバーは、磁気エンコーダに対向する磁気センサを保持するセンサホルダ部を有するとともに、磁気エンコーダ及び磁気センサ間に仕切壁(底部22a)を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-170001号公報
【文献】国際公開第2011/093265号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなセンサホルダ部を有する保護カバーに設ける、磁気エンコーダ及び磁気センサ間の仕切壁の厚みは、例えば特許文献1では、強度及び剛性を保ちつつ検出精度を向上するという観点から、0.1~1.0mmとしている(特許文献1の[0042]参照)。
前記仕切壁の厚みは、薄く設定するほど磁気センサの検出精度を向上できるが、射出成形で形成する際における成形性等を考慮すると、0.3~1.0mm程度に設定される。
特許文献1のようなセンサホルダ部を有する保護カバーは、本体部の厚みと仕切壁の厚みとの相対差が大きいとともに、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂等の繊維強化樹脂で射出成形されることが多い。それにより、金型のキャビティ内に溶融樹脂材料を充填した際に、仕切壁内にウェルド(溶融樹脂材料の合流部)が発生する。
【0007】
薄肉の仕切壁内にウェルドが発生する場合、射出成形金型のキャビティ内の空気が仕切壁内に溜まり易くなる。前記空気を金型外へ排出させないと、ガス焼け又はショートショットに繋がる場合がある(例えば、特許文献2参照)。
ここで、ガス焼けは、射出成形金型のキャビティ内に流入してきた溶融樹脂材料により、キャビティ内の空気が行き場のない閉塞状態となってしまった場合に、圧縮された空気が自己発熱して燃焼し、溶融樹脂材料を焦がす現象である。また、ショートショットは、空気溜まりが生じて成形品の一部に不完全な充填が起きる現象である。
【0008】
ガス焼け又はショートショットが仕切壁に生じると、仕切壁の外観不良又は欠肉等の不良、及び/又は剛性及び強度が低下する不良に繋がるので、センサホルダ部を有する保護カバーの良品率が低下する。
その上、ガス焼けが生じると、空気の燃焼によって溶融樹脂材料が焦がされて生じる煤やタールが金型に付着するので、センサホルダ部を有する保護カバーを成形する金型の保守間隔が短くなる。
【0009】
仕切壁にガス焼け又はショートショットが生じることを防止するために、射出成形金型の仕切壁を成形する位置に成形品を突き出すエジェクタピンを設け、当該エジェクタピンをガス抜き機能を有するものとすることが考えられる。
このようなガス抜き機能を有するエジェクタピンを射出成形金型に備えた場合、前記のとおり仕切壁の厚みは0.3~1.0mm程度と薄いことから、成形品を突き出す際に仕切壁が破損してしまうことがあり、それによりセンサホルダ部を有する保護カバーの良品率が低下してしまう。
ここで、ガス抜き機能を有するエジェクタピンとしては、特許文献2の
図3のような外周部にガスベントを設けたエジェクタピン、及び特許文献2の
図4のような先端部にガスベントピースが埋め込まれたエジェクタピン等がある。
【0010】
そこで、本発明は、センサホルダ部を有するとともに、磁気エンコーダ及び磁気センサ間に仕切壁を有する保護カバーにおいて、当該保護カバーの良品率が低下することなく、ガス焼け又はショートショットに基づく不良が仕切壁に生じないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受と、
前記軸受の内方側端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダと、
前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサと
を含む軸受装置に用いる、
前記軸受の内方側端部を密封するように前記外輪に取り付ける、カップ状の保護カバーであって、
前記軸受装置は、自動車のホイール支持用であり、
前記保護カバーは、樹脂と金属とのインサート射出成形で一体化された繊維強化合成樹脂製本体及び金属製環体からなり、
前記本体は、カップ状を成す円盤部及び円筒部、並びに前記円盤部から内方へ突出するセンサホルダ部からなり、
前記合成樹脂は熱可塑性であり、
前記円盤部には、前記磁気エンコーダ及び前記磁気センサ間を仕切る仕切壁が形成されており、
前記仕切壁は前記合成樹脂のみからなり、前記仕切壁の厚みは、0.3~1.0mmであり、
前記仕切壁の前記磁気エンコーダに対向する面、又は前記仕切壁の前記磁気センサに対向する面に、射出成形金型のガス抜きピンの跡がある、
センサホルダ部を有する保護カバー。
【0012】
〔2〕前記〔1〕に記載のセンサホルダ部を有する保護カバーを備えた軸受装置。
【0013】
〔3〕外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受と、
前記軸受の内方側端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダと、
前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサと
を含む軸受装置に用いる、
前記軸受の内方側端部を密封するように前記外輪に取り付ける、カップ状の保護カバーの製造方法であって、
前記軸受装置は、自動車のホイール支持用であり、
前記保護カバーは、樹脂と金属とのインサート射出成形で一体化された繊維強化合成樹脂製本体及び金属製環体からなり、
前記本体は、カップ状を成す円盤部及び円筒部、並びに前記円盤部から内方へ突出するセンサホルダ部からなり、
前記合成樹脂は熱可塑性であり、
前記円盤部には、前記磁気エンコーダ及び前記磁気センサ間を仕切る仕切壁が形成されており、
前記仕切壁は前記合成樹脂のみからなり、前記仕切壁の厚みは、0.3~1.0mmであり、
前記保護カバーを成形する射出成形金型は、
成形品を突き出す機構とは別に、
前記仕切壁を成形する位置に、ガス抜きピンを備え、
前記射出成形金型を閉じて、前記金型のキャビティ内にゲートから溶融樹脂材料を注入して固化させる射出成形工程と、
前記射出成形金型を開いて、前記成形品を突き出す機構により成形品である前記保護カバーを突き出して取り出す成形品取出し工程と、
を含む、
センサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【0014】
〔4〕前記ガス抜きピンは、前記金型のキャビティ内に進出し、進出した後に元の位置まで後退するようにスライド可能であり、
前記ガス抜きピンは、
前記成形品を突き出す機構が動作した後に前記キャビティ内に進出するように動作し、
当該動作により前記仕切壁を押圧しない、
前記〔3〕に記載のセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【0015】
〔5〕前記射出成形金型の、前記仕切壁を成形する位置に備える前記ガス抜きピンを、
予め樹脂流動解析を行って得た前記溶融樹脂材料の合流部に配置してなる、
前記〔3〕又は〔4〕に記載のセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明に係るセンサホルダ部を有する保護カバー、及び前記保護カバーを備えた軸受装置、並びにセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法によれば、主に以下に示す作用効果を奏する。
【0017】
(1)センサホルダ部を有するとともに、磁気エンコーダ及び磁気センサ間に仕切壁を有する保護カバーを製造する際に、射出成形の途中で仕切壁の位置に溜まる射出成形金型のキャビティ内の空気は、射出成形金型の仕切壁を成形する位置に備えたガス抜きピンにより金型外へ排出される。それにより、射出成形された保護カバーの仕切壁にガス焼け及び/又はショートショットが生じない。
(2)よって、仕切壁の外観不良又は欠肉等の不良、及び/又は剛性及び強度が低下する不良に繋がらないので、センサホルダ部を有する保護カバーの良品率が低下しない。
(3)その上、ガス焼けが生じないことから、空気の燃焼によって溶融樹脂材料が焦がされて生じる煤やタールが射出成形金型に付着しないので、センサホルダ部を有する保護カバーを成形する射出成形金型の保守間隔を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係るセンサホルダ部を有する保護カバーを備えた軸受装置の縦断面図である。
【
図2A】本発明の実施の形態に係るセンサホルダ部を有する保護カバーを内方から見た斜視図である。
【
図2B】本発明の実施の形態に係るセンサホルダ部を有する保護カバーを外方から見た斜視図である。
【
図3A】仕切壁の磁気エンコーダに対向する面に形成された、射出成形金型のガス抜きピンの跡の例を示す要部拡大図である。
【
図3B】仕切壁の磁気エンコーダに対向する面に形成された、射出成形金型のガス抜きピンの跡の別の例を示す要部拡大図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るセンサホルダ部を有する保護カバーを成形する射出成形金型を示す縦断面図である。
【
図5】可動型のエジェクタピンを突き出した状態を示す縦断面図である。
【
図6】溶融樹脂材料の仕切壁への充填を示す樹脂流動解析結果を示す図であり、仕切壁となる部分に外周側から溶融樹脂材料が充填されている状態を示している。(A)から(E)まで溶融樹脂材料の充填が進行し、(E)は前記充填が完了した状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
なお、本明細書において、軸受装置Aの回転軸の方向を「軸方向」、軸方向に直交する方向を「径方向」という。
また、軸受11及び保護カバー1について、保護カバー1を軸受11に装着した状態で、自動車の車体から車輪側に向かう軸方向に平行な方向(アウトボード)を「外方」(
図1、
図4及び
図5の矢印OB参照)、自動車の車輪から車体側に向かう軸方向に平行な方向(インボード)を「内方」(
図1、
図4及び
図5の矢印IB参照)という。
【0020】
<軸受装置>
図1の縦断面図に示すように、本発明の実施の形態に係る軸受装置Aは、外輪13に対して内輪12が回転する軸受11の他に、磁気エンコーダ8、保護カバー1、及び磁気センサ6、並びに軸受11の外方(矢印OB参照)側端部に配置したシール部材15等を備える。
【0021】
軸受11は、外周面に内輪軌道面12Aが形成された内輪12、及び内周面に外輪軌道面13Aが形成された外輪13、並びに、内輪軌道面12A及び外輪軌道面13A間を転動する転動体14,14,…等を有する。
【0022】
磁気エンコーダ8は、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べたものであり、軸受11の内方(矢印IB参照)側端部に位置する支持部材9により内輪12に固定される。
【0023】
保護カバー1は、カップ状であり、軸受11の内方側端部を密封するように外輪13に取り付けられ、磁気センサ6を保持するセンサホルダ部4を有する。
保護カバー1のセンサホルダ部4に装着された磁気センサ6は、例えば厚みが0.3~1.0mm程度である仕切壁5を隔てて磁気エンコーダ8に対向し、磁気エンコーダ8の回転を検知する。
【0024】
保護カバー1には仕切壁5があり、厚み方向に貫通する貫通穴がないので、Oリング等のシール部材を組み込む必要がない。
また、保護カバー1により軸受11の内方側端部が密封されるので、磁気エンコーダ8に小石や泥水等が当たらないことから磁気エンコーダ8の破損を防止できる。
【0025】
さらに、保護カバー1により軸受11の内方側端部が密封されるので、磁気エンコーダ8の内方側のシール部材が不要になるため、摺動抵抗の低減により軸受11の回転トルクを低減できる。
さらにまた、保護カバー1がセンサホルダ部4を備えているので、磁気エンコーダ8と磁気センサ6とのエアギャップ調整作業の煩雑さを解消できる。
【0026】
<保護カバー>
図1の縦断面図、並びに
図2A及び
図2Bの斜視図に示す本発明の実施の形態に係る保護カバー1は、樹脂と金属とのインサート射出成形で一体化された繊維強化合成樹脂製本体1A及び金属製環体1Bからなる。
【0027】
ここで、本体1Aを成形する繊維強化合成樹脂としては、例えば、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン612等)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、又はポリブチレンテレフタレート(PBT)等の合成樹脂に、ガラス繊維を20~70重量%含有したものを用いる。
また、金属製環体1Bは、低炭素鋼であるSPCC等の冷間圧延鋼板を使用するのが望ましい。
【0028】
本体1Aは、カップ状を成す円盤部2及び円筒部3、並びに円盤部2から内方へ突出するセンサホルダ部4からなる。
【0029】
センサホルダ部4は、磁気センサ6を取り付けるための取付ボルトBが螺合する、例えば真鍮であるナット7を保持するとともに、磁気センサ6を挿入するセンサ取付穴4Aを有する。
【0030】
円盤部2には、磁気エンコーダ8及び磁気センサ6間を仕切る、他の部分よりも薄肉の仕切壁5が形成されており、仕切壁5の磁気エンコーダ8に対向する面(外方の面)には、
図3A及び
図3Bの要部拡大図に示すようなガス抜きピンの跡Mがある。
保護カバー1には、後述する製造方法を経て保護カバー1が製造されることにより、ガス抜きピンの跡Mが必ず残り、ガス抜きピンの跡Mは視認できる。
【0031】
なお、ガス抜きピンの跡Mは、射出成形金型に設けるガス抜きピンの位置により、仕切壁5の
図3A及び
図3Bと反対側の面、すなわち仕切壁5の磁気センサ6に対向する面(内方の面)にある場合もある。その場合であっても、ガス抜きピンの跡Mは視認できる。
【0032】
図3Aに示すガス抜きピンの跡Mは、ガス抜きピン外周部の微小バリ16Aである。このガス抜きピンの跡Mは、後述するガス抜きピンEであるガス抜き機能を有するピン10が、特許文献2の
図3のような外周部にガスベントを設けたエジェクタピン等と同様の構造である場合に相当する。
【0033】
図3Bに示すガス抜きピンの跡Mは、ガス抜きピン外周部の微小バリ16A、及び溝穴跡16Bである。このガス抜きピンの跡Mは、後述するガス抜きピンEであるガス抜き機能を有するピン10が、特許文献2の
図4のような先端部にガスベントピースが埋め込まれたエジェクタピン等と同様の構造である場合に相当する。
【0034】
<保護カバーの製造方法>
次に、
図2A及び
図2Bに示す保護カバー1の製造方法について、
図4及び
図5の縦断面図を参照して説明する。
【0035】
(射出成形金型)
図4の縦断面図に示すように、射出成形金型Dは、固定型17及び可動型18を有し、成形品を突き出す機構を構成するエジェクタピン20とは別に、仕切壁5を成形する位置に、ガス抜きピンEであるガス抜き機能を有するピン10を備える。
ピン10は、射出成形金型DのキャビティC内に進出し、進出した後に元の位置まで後退するようにスライドできる。
【0036】
ガス抜き機能を有するピン10は、例えば、特許文献2の
図3のような外周部にガスベントを設けたエジェクタピンと同様の構造、又は特許文献2の
図4のような先端部にガスベントピースが埋め込まれたエジェクタピン等と同様の構造である。
ガス抜き機能を有するピン10は、円柱状であり、その直径は、ガス抜きを効果的に行うために、0.5mm以上、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上とし、磁気センサ6の直径(センサ取付穴4Aの径)以下とする。
なお、一般的なエジェクタピンでもある程度のガス抜き機能があるので、要求仕様等に応じて、ガス抜き機能を有するピン10として、一般的なエジェクタピンを用いる場合もある。一般的なエジェクタピンを用いる場合は、金型の穴とピンとの間の隙間を通してガス抜きを行う。
【0037】
(射出成形工程)
図4の縦断面図において射出成形金型DのキャビティC内に溶融樹脂材料Pを注入する前に、射出成形金型Dを開いて、インサート品であるナット7を固定型17の支持軸19にセットし、インサート品である金属製環体1Bを可動型18にセットした後、射出成形機に取り付けられた射出成形金型Dを型締めする。
次に、
図4の縦断面図に示すように、溶融樹脂材料Pを図示しないゲートから射出成形金型DのキャビティC内に充填する。
【0038】
本実施の形態のような保護カバー1は、射出成形金型DのキャビティC内に溶融樹脂材料Pを充填した際に、仕切壁5内にウェルド(溶融樹脂材料Pの合流部)が発生する。
本射出成形工程の途中で仕切壁5の位置に溜まるキャビティ内の空気は、ガス抜きピンEであるガス抜き機能を有するピン10により金型外へ排出される。
それにより、本射出成形工程を経た成形品である保護カバー1の仕切壁5にガス焼け及び/又はショートショットが生じない。
【0039】
よって、仕切壁5の外観不良又は欠肉等の不良、及び/又は剛性及び強度が低下する不良に繋がらないので、センサホルダ部4を有する保護カバー1の良品率が低下しない。
その上、ガス焼けが生じないことから、空気の燃焼によって溶融樹脂材料Pが焦がされて生じる煤やタールが射出成形金型Dに付着しないので、センサホルダ部4を有する保護カバー1を成形する射出成形金型Dの保守間隔を長くすることができる。
【0040】
(成形品取出し工程)
次に、溶融樹脂材料Pを冷却・固化させた後、可動型18を開く。成形品である保護カバー1は可動型18側にある。
図5の縦断面図に示すように、エジェクタピン20を矢印Fのように突き出す。それにより、可動型18側にある成形品である保護カバー1を取り出す。
なお、
図5の縦断面図に示すエジェクタピン20は、1本のみを示しているが、可動型18は、所要本数のエジェクタピン20を備えている。
【0041】
図5の縦断面図に示すように、エジェクタピン20を矢印Fのように突き出す際に、ガス抜き機能を有するピン10は、エジェクタピン20が動作した後に矢印Gのようにエジェクタピン20と同じ方向に進出する。それにより、ガス抜き機能を有するピン10は、仕切壁5を押圧しない。
【0042】
したがって、ガス抜き機能を有するピン10の動作で仕切壁5を破損することがないので、センサホルダ部4を有する保護カバー1の良品率が低下しない。
その上、ガス抜き機能を有するピン10は、
図5の矢印Gのように可動型18から進出し、その後
図4の位置まで後退する。それにより、可動型18とピン10との摺動部、及び可動型18のキャビティC側の面とピン10との隙間(周溝)をクリーニングする機能を有する。
【0043】
以上のようなインサート射出成形を経て製造されたセンサホルダ部4を有する保護カバー1において、ナット7の周溝7Aに合成樹脂が入り込んでいるので、ナット7の抜け止めがされる。
また、金属製環体1Bの外方(
図5の矢印OB参照)側端部に円筒部3が回り込んでいるので、金属製環体1Bと繊維強化合成樹脂製本体1Aは機械的に結合する。
【0044】
さらに、センサホルダ部4を有する保護カバー1には、前記射出成形工程を経ることにより、仕切壁5の磁気エンコーダ8に対向する面(外方の面)に、
図3A又は
図3Bのようなガス抜きピンEの跡Mが残る。
射出成形金型Dの仕切壁5を成形する位置に備えるガス抜きピンEを、固定型17側に配置してもよい。その場合は、仕切壁5の
図3A及び
図3Bと反対側の面、すなわち仕切壁5の磁気センサ6に対向する面(内方の面)にガス抜きピンEの跡Mが残る。
【0045】
図3Aに示すガス抜きピンEの跡Mは、ガス抜きピンEがガス抜き機能を有するピン10であり、例えば特許文献2の
図3のような外周部にガスベントを設けたエジェクタピン等と同様の構造である場合に相当する。その場合、ガス抜き機能を有するピン10と射出成形金型D(本実施の形態では可動型18)との隙間分の僅かなバリである微小バリ16Aが発生し、それがガス抜きピンEの跡Mとなり、視認できる。
なお、微小バリ16Aの径方向内方は、ガス抜き機能を有するピン10を金型にセットした際におけるピン10が進退する方向の位置精度により、僅かに窪んだ凹状部、又は僅かに突出した凸状部になる。
【0046】
図3Bに示すガス抜きピンEの跡Mは、ガス抜きピンEがガス抜き機能を有するピン10であり、例えば特許文献2の
図4のような先端部にガスベントピースが埋め込まれたエジェクタピン等と同様の構造である場合に相当する。その場合、ガス抜き機能を有するピン10と射出成形金型D(本実施の形態では可動型18)との隙間分の僅かなバリである微小バリ16Aが発生するとともに、前記ガスベントピースの溝穴跡16Bが残り、それらがガス抜きピンEの跡Mとなり、視認できる。
なお、微小バリ16Aの径方向内方は、ガス抜き機能を有するピン10を金型にセットした際におけるピン10が進退する方向の位置精度により、僅かに窪んだ凹状部、又は僅かに突出した凸状部になる。
【0047】
<ガス抜きピンの配置位置を決定するための樹脂流動解析>
本実施の形態の保護カバー1を成形する射出成形金型Dの一例について、仕切壁5内への溶融樹脂材料Pの充填について、プラスチック射出成形用シミュレーションツールであるSimulation Moldflowを使用して、以下の解析条件で樹脂流動解析を行った結果を
図6に示す。
【0048】
(解析条件)
繊維強化合成樹脂の材料データをPA66にガラス繊維を50重量%添加したものとし、射出流量を70mm
3/s、成形条件を、樹脂温度を300℃、金型温度を95℃とした。
また、ゲート位置は
図6(A)ないし
図6(E)の右下とし、仕切壁5の厚みを0.6mmとした。
【0049】
図6(A)から
図6(E)まで溶融樹脂材料Pの充填が進行し、
図6(E)は溶融樹脂材料Pの充填が完了した状態を示している。
図6(A)ないし
図6(E)における濃淡は、濃い箇所が先に充填された部分を示している。
【0050】
このような樹脂流動解析を行うことにより、例えば
図6(D)から、発生するウェルド(溶融樹脂材料Pの合流部)Wの位置が分かる。
よって、射出成形金型Dの、仕切壁5を成形する位置に備えるガス抜きピンEを、予め樹脂流動解析を行って得た溶融樹脂材料Pの合流部Wに配置することができる。
それにより、前記射出成形工程で溶融樹脂材料Pを射出成形金型DのキャビティC内に注入した際に、溶融樹脂材料Pの合流部Wに向かって溜まるキャビティC内の空気を、合流部Wに配置したガス抜きピンEから効率的に金型外へ排出できる。
【0051】
以上の実施の形態の説明においては、ガス抜きピンEであるガス抜き機能を有するピン10が、射出成形金型DのキャビティC内に進出し、進出した後に元の位置まで後退するようにスライドする場合を示した。ガス抜きピンEは、ピン10のように金型に対して進退するものに限定されず、金型に固定されたものであってもよい。
また、以上の実施の形態の説明においては、ガス抜きピンEであるガス抜き機能を有するピン10が円柱状である場合を示した。ガス抜きピンEは、ピン10のように円柱状のものに限定されず、角柱状(例えば四角柱状)であってもよい。
さらに、以上の実施の形態の説明においては、成形品を突き出す機構をエジェクタピン20により構成する場合を示した。成形品を突き出す機構は、エジェクタピン20により構成する場合に限定されず、ストリッパープレート等により構成してもよい。
【0052】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0053】
1 保護カバー 1A 繊維強化合成樹脂製本体
1B 金属製環体 2 円盤部
3 円筒部 4 センサホルダ部
4A センサ取付穴 5 仕切壁
6 磁気センサ 7 ナット
7A 周溝 8 磁気エンコーダ
9 支持部材 10 ガス抜き機能を有するピン
11 軸受 12 内輪
12A 内輪軌道面 13 外輪
13A 外輪駆動面 14 転動体
15 シール部材 16A ガス抜きピン外周部の微小バリ
16B 溝穴跡 17 固定型
18 可動型 19 支持軸
20 エジェクタピン
A 軸受装置 B 取付ボルト
C キャビティ D 射出成形金型
E ガス抜きピン F,G 突き出し方向
IB 内方 M ガス抜きピンの跡
OB 外方 P 溶融樹脂材料
W ウェルド(溶融樹脂材料の合流部)