(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】マイクロ波処理装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/64 20060101AFI20230221BHJP
H05B 6/74 20060101ALI20230221BHJP
H05B 6/72 20060101ALI20230221BHJP
H05B 6/68 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
H05B6/64 D
H05B6/74 E
H05B6/72 D
H05B6/68 350Z
H05B6/68 320Z
H05B6/68 320B
(21)【出願番号】P 2019527659
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2018024538
(87)【国際公開番号】W WO2019009174
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2017130891
(32)【優先日】2017-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100164035
【氏名又は名称】村山 正人
(72)【発明者】
【氏名】吉野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】久保 昌之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 修
(72)【発明者】
【氏名】須賀 良介
【審査官】西尾 元宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/081855(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/173601(WO,A1)
【文献】特表2003-529261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0035857(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/64
H05B 6/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の壁面で囲まれ、1つまたは複数の被加熱物を収容するように構成された処理室と、
前記処理室にマイクロ波を供給するように構成されたマイクロ波供給部と、
前記複数の壁面の一つの壁面に設けられ、前記マイクロ波の周波数帯域において共振周波数を有する共振部と、を備え、
前記マイクロ波供給部が、前記マイクロ波を発生させるように構成されたマイクロ波発生部と、
前記マイクロ波の発振周波数を調整するように、前記マイクロ波発生部を制御するように構成され、前記マイクロ波の前記発振周波数を制御することにより、前記処理室内の定在波分布を制御することができるように、前記共振部の反射位相を変化させる制御部と、を備え、
前記共振部は、各々が誘電体と導体とを有する一つ以上のパッチ共振器を含み、
前記制御部は、
入力された情報に基づいて、少なくとも前記複数の被加熱物のうちの一つの被加熱物をより重点的に加熱するための周波数を選択可能とし、前記複数の被加熱物を均等に加熱するための周波数、または、前記1つの被加熱物の中央部を周辺部に比べて強く加熱するための周波数、または、前記1つの被加熱物の中央部を周辺部に比べて弱く加熱するための周波数に、前記マイクロ波の前記発振周波数を変化させるように構成された、マイクロ波処理装置。
【請求項2】
前記一つ以上のパッチ共振器が、パッチ面が前記処理室の内側を向くように配置され、前記パッチ面と反対側の面が、前記処理室の前記一つの壁面と同電位を有する、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項3】
前記一つ以上のパッチ共振器がマトリクス状に配置された、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項4】
前記一つ以上のパッチ共振器のすべてが、前記複数の壁面の一つの壁面に設けられた、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項5】
前記共振部が、前記複数の壁面の一つの壁面を等分した場合の一つの分割領域に配置さ
れた、請求項4に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項6】
前記マイクロ波供給部が、前記複数の壁面の一つの壁面に設けられ、前記処理室に前記マイクロ波を供給するように構成された給電部を備え、
前記共振部が、前記給電部に対向する前記複数の壁面の他の壁面に配置された、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【請求項7】
前記制御部が、前記被加熱物の前記配置に応じて、2.40GHzから2.50GHzの範囲で前記発振周波数を変化させるように構成された、請求項1に記載のマイクロ波処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、食品などの被加熱物を誘電加熱するマイクロ波処理装置(Microwave treatment apparatus)に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジは、マイクロ波処理装置の代表的な例である。電子レンジでは、マイクロ波発生放射部であるマグネトロンにより発生されたマイクロ波が、金属製の壁面で囲まれた処理室内に供給される。処理室内に載置された被加熱物は、マイクロ波により誘電加熱される。
【0003】
マイクロ波は、処理室内の壁面で反射を繰り返す。壁面には、マイクロ波を閉じ込めることができる小さな穴が配置されることもある。この種の壁面の場合、壁面で反射されたマイクロ波は、壁面に照射されたマイクロ波と180度の位相差を有する。
【0004】
壁面に垂直な線を基準線とすると、基準線と入射波との間の角度である入射角は、反射波と基準線との間の角度である反射角と同じである。
【0005】
通常、処理室の大きさは、マイクロ波の波長(電子レンジでは約120mm)と比べて充分大きい。そのため、壁面で生じる入射波と反射波との振る舞いにより、処理室内に定在波が生じる。
【0006】
定在波の腹では電界は常に強く、定在波の節では電界は常に弱い。従って、被加熱物は、定在波の腹に相当する位置に載置されると強く加熱され、定在波の節に相当する位置に載置されるとあまり加熱されない。すなわち、被加熱物の載置位置によって、被加熱物が異なって加熱される。これが、電子レンジにおいて加熱むらが生じる主たる要因である。
【0007】
加熱むらを防ぐための実用化された方法には、被加熱物を載置するテーブルを回転させる、いわゆるターンテーブル方式と、マイクロ波を放射するアンテナを回転させる、いわゆる回転アンテナ方式とが含まれる。これらの方法では、定在波を無くすことはできないが、これらの方法は、食品の均一加熱を実施する方法として用いられている。
【0008】
均一加熱とは対照的に、局所加熱を積極的に実施するマイクロ波加熱装置が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
この装置は、GaN半導体素子を用いて構成された複数のマイクロ波発生部を備える。この装置は、局所加熱のために被加熱物にマイクロ波を集中させるように、マイクロ波発生部の各々により発生されるマイクロ波を異なる位置から処理室に供給するとともに、これらのマイクロ波の位相を制御する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構ほか「GaN増幅器モジュールを加熱源とする産業用マイクロ波加熱装置を開発」2016年1月25日
【発明の概要】
【0011】
しかしながら、上記従来のマイクロ波処理装置では、局所加熱のために、複数箇所から、処理室にマイクロ波を供給する必要があり、装置が複雑で大型化するという問題がある。
【0012】
例えば、複数の被加熱物を同時に加熱する場合、一方の被加熱物にマイクロ波を集中させても、その被加熱物がすべてのマイクロ波を吸収することはない。その被加熱物に吸収されなかったマイクロ波は、他方の被加熱物に入射する。このため、上記従来のマイクロ波処理装置では、複数の被加熱物を同時に加熱する際に、局所加熱の集中度を向上させることが難しい。
【0013】
本開示は、上記従来の問題を解決するために、処理室内の定在波分布を制御することで、複数の被加熱物の各々に所望の誘電加熱を施すことができるマイクロ波処理装置を提供することを目的とする。
【0014】
本開示の一態様のマイクロ波処理装置は、処理室とマイクロ波供給部と共振部とを備える。処理室は、複数の壁面で囲まれ、被加熱物を収容する。マイクロ波供給部は、処理室にマイクロ波を供給する。共振部は、複数の壁面の一つの壁面に設けられ、マイクロ波の周波数帯域において共振周波数を有する。
【0015】
本開示によれば、処理室に供給する周波数を制御することで、共振部の表面のインピーダンスを変化させることができる。これにより、処理室内の定在波分布、すなわち、処理室内のマイクロ波エネルギー分布を制御することができる。その結果、複数の被加熱物を同時に加熱する場合、各被加熱物に所望の誘電加熱を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係るマイクロ波処理装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、パッチ共振部により生じる反射位相の周波数特性を示す図である。
【
図4】
図4は、処理室に二つの被加熱物が収容された状態を示す、実施の形態1に係るマイクロ波処理装置の縦断面図である。
【
図5】
図5は、処理室に収容された二つの被加熱物に吸収される電力の比の周波数特性を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、
図4において共振部を設けない場合の、処理室内の電界分布を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、マイクロ波の周波数が2.40GHzの場合の処理室内の電界分布を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、マイクロ波の周波数が2.44GHzの場合の処理室内の電界分布を示す図である。
【
図7C】
図7Cは、マイクロ波の周波数が2.45GHzの場合の処理室内の電界分布を示す図である。
【
図7D】
図7Dは、マイクロ波の周波数が2.46GHzの場合の処理室内の電界分布を示す図である。
【
図7E】
図7Eは、マイクロ波の周波数が2.50GHzの場合の処理室内の電界分布を示す図である。
【
図8】
図8は、実施の形態2に係るマイクロ波処理装置のブロック図である。
【
図9】
図9は、
図8に示
す処理室内
の電界分布を示す図である。
【
図10A】
図10Aは、実施の形態3に係るマイクロ波処理装置における、共振部が配置される位置を示す図である。
【
図10B】
図10Bは、実施の形態3に係るマイクロ波処理装置における、共振部が配置される位置を示す図である。
【
図10C】
図10Cは、実施の形態3に係るマイクロ波処理装置における、共振部が配置される位置を示す図である。
【
図11】
図11は、実施の形態3に係るマイクロ波処理装置の処理室内の電界分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の第1の態様のマイクロ波処理装置は、処理室とマイクロ波供給部と共振部とを備える。処理室は、複数の壁面で囲まれ、被加熱物を収容する。マイクロ波供給部は、処理室にマイクロ波を供給する。共振部は、複数の壁面の一つの壁面に設けられ、マイクロ波の周波数帯域において共振周波数を有する。
【0018】
本開示の第2の態様のマイクロ波処理装置では、第1の態様に加えて、共振部が、一つ以上のパッチ共振器で構成される。
【0019】
本開示の第3の態様のマイクロ波処理装置では、第2の態様に加えて、一つ以上のパッチ共振器が、パッチ面が処理室の内側を向くように配置され、パッチ面と反対側の面が、処理室の壁面と同電位を有する。
【0020】
本開示の第4の態様のマイクロ波処理装置では、第2の態様に加えて、一つ以上のパッチ共振器がマトリクス状に配置される。
【0021】
本開示の第5の態様のマイクロ波処理装置では、第2の態様に加えて、一つ以上のパッチ共振器のすべてが、複数の壁面の一つの壁面に設けられる。
【0022】
本開示の第6の態様のマイクロ波処理装置では、第5の態様に加えて、共振部が、複数の壁面の一つの壁面を等分した場合の一つの分割領域に配置される。
【0023】
本開示の第7の態様のマイクロ波処理装置では、第1の態様に加えて、マイクロ波供給部が、複数の壁面の一つの壁面に設けられ、処理室にマイクロ波を供給するように構成された給電部を備え、共振部が、給電部に対向する複数の壁面の他の壁面に配置される。
【0024】
本開示の第8の態様のマイクロ波処理装置では、第1の態様に加えて、マイクロ波供給部が、マイクロ波発生部と制御部とを備える。マイクロ波発生部は、マイクロ波を発生させる。制御部は、マイクロ波の発振周波数を調整するように、マイクロ波発生部を制御する。
【0025】
以下、本開示に係るマイクロ波処理装置の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0026】
(実施の形態1)
図1は、本
開示の実施の形態
1に係るマイクロ波処理装置20Aを示すブロック図である。
図1に示すように、マイクロ波処理装置20Aは、金属製の複数の壁面で囲まれた処理室1と、処理室1にマイクロ波を供給するように構成されたマイクロ波供給部13とを備える。
【0027】
マイクロ波供給部13は、マイクロ波伝送部2と給電部3とマイクロ波発生部4と制御部5とを有する。マイクロ波伝送部2は、矩形形状の断面を有し、TE10モードでマイクロ波を伝送する。給電部3は、処理室1の下壁面に設けられた矩形状の開口である。給電部3の中心は、処理室1の下壁面の中央、すなわち、処理室1の左右方向の中心線L1と前後方向の中心線L2との交点に位置する。
【0028】
マイクロ波発生部4は、発生させるマイクロ波の発振周波数を調整することができる。制御部5は、入力された情報に基づいて、マイクロ波発生部4により発生されるマイクロ波の発振周波数および出力電力を所望の値に調整するように、マイクロ波発生部4を制御する。発振周波数の制御可能な帯域は2.4GHz~2.5GHzである。分解能は、例えば1MHzである。
【0029】
処理室1内の、給電部3に対向する上壁面に、共振部6が設けられる。共振部6は、左右方向に関しては上壁面の右端に、前後方向に関しては上壁面の中央に設けられる。
【0030】
図2は、共振部6の構成を示す平面図である。
図2に示すように、共振部6は、九つのパッチ共振器6aを有する。九つのパッチ共振器6aは、マトリクス状に配列される。本実施の形態では、九つのパッチ共振器6aは三行三列(3×3)に配列される。以下、このマトリクス状の構成をセグメント構成という。
【0031】
パッチ共振器6aは、マイクロ波発生部4により発生されるマイクロ波の周波数帯域内に、共振周波数を有する。パッチ共振器6aは、誘電体6bと導体6cとを有する。誘電体6bは、所定の誘電特性を有する誘電体基板である。導体6cは、誘電体6b上に設けられた円形の板状の導体である。
【0032】
パッチ共振器6aは、導体6cの設けられた面が処理室1の内側を向くように、処理室1の上壁面に設けられる。導体6cの設けられた面の反対側の面、すなわち、誘電体6bの裏面は、処理室1の壁面と直接的に接触し、処理室1の壁面と同電位を有する。以下、導体6cが設けられた面を、共振部6のパッチ面という。
【0033】
パッチ共振器6aは、導体6cに照射されるマイクロ波と導体6cにより反射されるマイクロ波との位相差が、照射されるマイクロ波の周波数に依存する特性を有する。以下、この位相差を反射位相という。
【0034】
図3は、パッチ共振器6aにより生じる反射位相の周波数特性を示す。
図3に示すように、パッチ共振器6aの反射位相は、2GHzの場合はほぼ180度であり、3GHzの場合はほぼ-180度である。パッチ共振器6aの反射位相は、2.4GHzから2.5GHzの周波数帯域にかけて、+180度近傍から-180度近傍に大きく変化する。
【0035】
以下、マイクロ波処理装置20Aの機能と特性を、処理室1に二つの被加熱物8、9を収容した場合を例に挙げて説明する。
【0036】
図4は、処理室1に二つの被加熱物が収容された状態を示す、マイクロ波処理装置20Aの縦断面図である。
図4において、被加熱物8、9が処理室1内の左側、右側にそれぞれ配置される。
【0037】
図4に示すように、処理室1内には、給電部3を覆うように、低誘電損失材料からなる載置板7が給電部3の上方に配置される。被加熱物8、9は、載置板7上に載置される。この状態において、マイクロ波発生部4は、所定の周波数のマイクロ波10を供給する。
【0038】
図5は、被加熱物8、9に吸収される電力の比の周波数特性を示す。具体的には、吸収される電力の比とは、被加熱物9に吸収される電力に対する、被加熱物8に吸収される電力の比である。
【0039】
図5に示すように、供給するマイクロ波の周波数を2.45GHzに設定すると、被加熱物8に吸収される電力は、被加熱物9に吸収される電力の2.5倍以上となる。
【0040】
図6A、
図6Bは、この現象を解明するため実験結果を示す。
図6Aは、
図4における処理室1内の電界分布を示す。
図6Bは、
図4において共振部6を設けない場合の、処理室1内の電界分布を示す。
【0041】
図6Aに示すように、被加熱物8が収容された処理室1内に、共振部6近傍の電界が弱い、偏向した定在波分布が現れる。
【0042】
図3に示すように、2.45GHzのマイクロ波に関して、パッチ共振器6aの反射位相は略0度である。通常の壁面における入射波と反射波との位相差は180度であることを勘案すれば、共振部6が配置された場所の近傍で、通常とは異なる定在波分布が形成されたことが理解できる。
【0043】
反射位相が略0度であるということは、インピーダンスが無限大であることを意味する。このため、パッチ面を流れる高周波電流は抑制され、共振部6の近傍の空間から、マイクロ波が遠ざかる。その結果、共振部6の近傍の電界が弱まる。
【0044】
すなわち、
図6Aに示すように、共振部6により、処理室1内の定在波分布を偏向させることができる。その結果、共振部6が設けられない場合(
図6B参照)に比べて、処理室1内により強い電界が形成される。この電界により、被加熱物8に吸収される電力を、被加熱物9に吸収される電力の約2.5倍にすることができる。
【0045】
図7A~
図7Eは、処理室1に供給するマイクロ波の周波数を変化させた時の処理室1内の電界分布を示す。
図7A~
図7Eは、マイクロ波の周波数がそれぞれ、2.40GHz、2.44GHz、2.45GHz、2.46GHz、2.50GHzの場合の処理室1内の電界分布を示す。
【0046】
図7A~
図7Eに示すように、処理室1内の電界分布をより大きく変化させるには、パッチ面での反射位相が0度近くとなる周波数のマイクロ波を処理室1に供給するのが好ましい(
図3参照)。
【0047】
上記構成および作用のほかに、以下のことを付け加える。
【0048】
共振部6は、パッチ共振器6aを用いて構成されるため、扁平な構造体とすることができる。このため、処理室1内部でスペースをほとんど取ることなく、共振部6を配置することができる。
【0049】
すべてのパッチ共振器6aを一つの壁面に設けることにより、パッチ共振器6aを複数の壁面にわたって設ける場合に比べて、共振部6による定在波分布の変化をより容易に予測することができる。これにより、被加熱物8、9の加熱を容易に制御することができる。
【0050】
給電部3に対向する処理室1の壁面に共振部6を配置したことにより、マイクロ波エネルギー分布を給電部3の近傍に引き寄せることができる。その結果、給電部3からのエネルギーと相まって、被加熱物8、9を効率よく加熱することができる。
【0051】
マイクロ波の周波数を制御することで、共振部6の反射位相を変化させて、処理室1内の定在波分布、すなわち、マイクロ波エネルギー分布を制御できる。そのため、例えば、被加熱物8、9を同時に加熱する場合、被加熱物8、9の各々が吸収するマイクロ波エネルギーを制御することができる。
【0052】
2.46GHzのマイクロ波を供給する場合、2.45GHzのマイクロ波を供給する場合に比べて、二つの被加熱物に吸収される電力の比を逆転させることができる。これにより、被加熱物8、9に対して、異なる加熱を実施することができる。
【0053】
例えば、
図4において左側に配置された被加熱物8を重点的に加熱する場合は、2.45GHzの周波数のマイクロ波を供給する。
図4において右側に配置された被加熱物9を重点的に加熱する場合は、2.46GHzの周波数のマイクロ波を供給する。
【0054】
両者を均等に加熱したい場合は、2.40GHzあるいは2.50GHz弱(約2.495GHz)の周波数のマイクロ波を供給すればよい。マイクロ波の発振周波数は1MHzの分解能を有すれば十分である。
【0055】
本実施の形態によれば、処理室1に供給する周波数を制御することで、共振部6の表面のインピーダンスを変化させることができる。これにより、処理室1内の定在波分布、すなわち、処理室1内のマイクロ波エネルギー分布を制御することができる。その結果、複数の被加熱物を同時に加熱する場合、各被加熱物に所望の誘電加熱を施すことができる。
【0056】
(実施の形態2)
図8、
図9を参照して、本開示の実施の形態2に係るマイクロ波処理装置20Bについて説明する。以下の説明において、実施の形態1と同一または相当の部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0057】
図8は、本実施の形態のマイクロ波処理装置20Bを示すブロック図である。
図9は、
図4と同様に、二つの被加熱物を収容する処理室1に、2.45GHzのマイクロ波が供給される場合の、処理室1内の電界分布を示す。
【0058】
図8に示すように、共振部11は、左右方向に関しては上壁面の右端に、前後方向に関しては上壁面の中央に設けられる。共振部11は、パッチ共振器11aとパッチ共振器11bとパッチ共振器11cとを有する。パッチ共振器11a、11b、11cは、左右方向に一列に並べられる。すなわち、共振部11は、一行三列(1×3)のセグメント構成を有する。
【0059】
パッチ共振器11a、11b、11cの各々は、実施の形態1におけるパッチ共振器6aと同じであり、その説明は省略する。
【0060】
図9は、マイクロ波処理装置20Bに被加熱物8、9が収容された場合における処理室1内の電界分布を示す。
【0061】
図9に示すように、本実施の形態によれば、1×3のセグメント構成を有する共振部11を用いて、実施の形態1とほぼ同等の電界分布が得られる(
図6A参照)。被加熱物8,9に吸収される電力の比も、実施の形態1と同じである。すなわち、本実施の形態によれば、共振器の構成をよりコンパクトにすることができる。
【0062】
(実施の形態3)
図10A~
図10C、
図11を参照して、本開示の実施の形態3に係るマイクロ波処理装置20Cについて説明する。以下の説明において、実施の形態1、2と同一または相当の部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0063】
図10A~
図10Cは、マイクロ波処理装置20Cにおける、共振部12が配置される位置を示す。
【0064】
図10A~
図10Cに示すように、マイクロ波処理装置20Cは、マイクロ波処理装置20A、20Bと異なり、一つのパッチ共振器12aを有する共振部12を備える。
【0065】
図10Aに示すマイクロ波処理装置20Cでは、
図8においてパッチ共振器11aが配置される位置に、パッチ共振器12aが配置される。
図10Bに示すマイクロ波処理装置20Cでは、
図8においてパッチ共振器11bが配置される位置に、パッチ共振器12aが配置される。
図10Cに示すマイクロ波処理装置20Cでは、
図8においてパッチ共振器11cが配置される位置に、パッチ共振器12aが配置される。
【0066】
図11は、
図4と同様に、二つの被加熱物を収容する処理室1に、2.45GHzのマイクロ波が供給される場合の、処理室1内の電界分布を示す。
【0067】
表1は、共振部のセグメント構成と共振部の配置位置とに対する、共振部の面積比率と二つの被加熱物に吸収される電力の比とをまとめたものである。共振部の面積比率とは、処理室1の上壁面の面積に対して共振部の占める割合を意味する。
【0068】
【0069】
表1から、次のことが分かる。吸収される電力の比に基づけば、共振部の最良のセグメント構成は、1×3または3×3である。
【0070】
2.0:1程度の吸収される電力の比が許容されるのであれば、一行一列(1×1)のセグメント構成も選択可能である。
【0071】
1×1のセグメント構成では、共振部12を最適な位置に配置する必要がある。しかし、部品点数および実装面積が少ないという観点で、1×1のセグメント構成は実用価値がある。
【0072】
参考のため、五行四列(5×4)のセグメント構成(図示せず)の特性を表1に示す。表1によれば、パッチ共振器の数を増やしても、吸収される電力の比の向上には、有効でないことが分かる。パッチ共振器の数が増加すると、部品点数および面積比率が増加するため、実用価値は低下する。
【0073】
表1を参照すると、面積比率が上壁面の9/81以下となるように、最大で9個のパッチ共振器を設けると、良好な結果を得られることが分かる。
【0074】
各パッチ共振器の共振周波数は同じでなくてもよい。パッチ共振器の共振周波数を少しずつ変化させることにより、供給するマイクロ波の周波数に応じて、共振するパッチ共振器を順次切り替えてもよい。
【0075】
本実施の形態では、3×3のセグメント構成の場合、処理室1の上壁面を等分に分割(左右方向に3分割、前後方向に3分割)したときの一つの分割領域(左右方向の右側、かつ、前後方向の中央)に、共振部が配置される。しかし、他の分割領域に共振部が配置されてもよい。
【0076】
例えば、各分割領域に共振周波数の異なる共振部が配置されて、供給するマイクロ波の周波数を制御すると、左右方向だけでなく前後方向にも定在波分布を偏向させることできる可能性がある。また、例えば、比較的大きな被加熱物を処理室1の中央に載置したときに、被加熱物の中央部を、周辺部に比べて強く加熱したり、弱く加熱したりすることができる可能性がある。
【0077】
本実施の形態では、処理室1の上壁面だけに共振部が配置される。しかし、例えば、右側壁面に共振部を配置してもよい。右側壁面に共振部を配置すれば、右の定在波が左に偏向すると思われる。このため、
図4に示す被加熱物8のみを加熱し、被加熱物9は加熱しないようにするために、上壁面でなく右側壁面に共振部を配置してもよい。
【0078】
処理室1の上壁面および右側壁面に共振部を配置すれば、相乗効果により2.7:1以上の比率が得られる可能性がある。
【0079】
一例として、幅410mm、奥行315mm、高さ225mmの処理室1の上壁面に、3×3のセグメント構成の共振部6を配置する場合、例えば、誘電体基板の厚さを0.6mm、比誘電率を3.5、tanδを0.004、導体6cの半径を19.16mmとすると、
図3に示す特性を得ることができる。
【0080】
言うまでもなく、供給されるマイクロ波のエネルギーが大きくなると、発熱が生じたり、隣り合うパッチ共振器間でスパークが発生したりする可能性がある。従って、本実施の形態は、化学的反応処理などエネルギーが小さい場合に特に有効である。
【0081】
本実施の形態では、導体6cは円形の形状を有する。しかし、導体6cは楕円や四角形の形状を有してもよい。導体6cが円形の形状を有する場合、半径を調整すれば共振周波数を容易に調整することができる。
【0082】
供給するマイクロ波の周波数帯域内における反射位相の変化を大きくする、すなわち、周波数に対して高いQ値を得られる可能性もある。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本開示のマイクロ波処理装置は、具体的には電子レンジである。しかし、本実施の形態は、電子レンジに限定されるものではなく、誘電加熱処理を利用した加熱処理装置、化学反応処理装置、あるいは半導体製造装置などのマイクロ波処理装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 処理室
2 マイクロ波伝送部
3 給電部
4 マイクロ波発生部
5 制御部
6、11、12 共振部
6a、11a、11b、11c、12a パッチ共振器
6b 誘電体
6c 導体
7 載置板
8、9 被加熱物
10 マイクロ波
13 マイクロ波供給部
20A、20B、20C マイクロ波処理装置