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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】環状部品のプレス成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/30 20060101AFI20230221BHJP
   B21D 19/08 20060101ALI20230221BHJP
   B21J 5/08 20060101ALI20230221BHJP
   F16H 1/28 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
B21D22/30 B
B21D19/08 D
B21J5/08 Z
F16H1/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019562502
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2018048447
(87)【国際公開番号】W WO2019132000
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2017253991
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100088731
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】望月 智行
(72)【発明者】
【氏名】三輪 正道
(72)【発明者】
【氏名】市川 俊之
(72)【発明者】
【氏名】大庭 正明
(72)【発明者】
【氏名】前島 正英
(72)【発明者】
【氏名】加田 修
(72)【発明者】
【氏名】吉川 伸麻
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-248520(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109240(WO,A1)
【文献】特開平07-124657(JP,A)
【文献】特開昭60-087932(JP,A)
【文献】特開2005-000977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/30
B21D 19/08
B21J 5/08
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一枚の鋼板から成形されたプレス成形品であり、円板部と、円板部に対しその外径側若しくは内径側に位置し、軸方向の両側に張出した張出し部を有し、円板部と張出し部との接続部は横断面が字形状をなしている環状部品のプレス成形方法であって、
一枚の鋼板より成る円板形状のワークに内径側若しくは外径側においてバーリング加工を行なうことによりワークの片側を円筒状の第1の張出し部に成形する工程と、
ワークを上下にて保持しつつ第1の張出し部をしごくことにより第1の張出し部と反対方向に第2の張出し部を成形することにより前記環状部品とするしごき工程とより成り、
前記しごき工程は、第1の張出し部の付け根側に向けて肉を寄せる第1段階のしごき加工と、ワークを上下にて保持しつつ、第1の張出し部を、少なくとも肉を寄せられた側において更にしごく第2段階のしごき加工との少なくとも2段階のしごき加工より成るプレス成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、
第1段階のしごき加工際し
内径側に横断面がT字形状の張出し部を成形する場合、均一径の中実の円筒状パンチ及び均一径の中空の円筒状ワーク押えを使用し
外径側に横断面がT字形状の張出し部を成形する場合、均一径の中空の円筒状パンチ及び均一径の中実の円筒状ワーク押えを使用し、
第2段階のしごき加工に際し、
内径側に横断面がT字形状の張出し部を成形する場合、均一径の中実の円筒状パンチ及び均一径の中空の円筒状ワーク押え、または、均一径の中実の円筒状パンチ及び均一径の中空の円筒状ダイを使用し、
外径側に横断面がT字形状の張出し部を成形する場合、均一径の中空の円筒状パンチ及び均一径の中実の円筒状ワーク押え、または、均一径の中実の円筒状パンチ及び均一径の中空の円筒状ダイを使用し、
バーリング加工により得られた第1の張出し部の全長に亘るしごきを行なうプレス成形方法。
【請求項3】
請求項に記載の発明において、
2段階のしごき加工に際し
内径側および外形側に横断面が段付T字形状の張出し部を成形する場合、中空の段付円筒状のダイ及び中実の段付円筒状パンチを使用して、第1段階のしごき加工により得られた第1の張出し部の端部を拘束しつつ、第1の張出し部の拘束された端部から離間側の部位において第1の張出し部の更なるしごきを行い、これによる肉の流動により第2の張出し部に成形するプレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車変速機のキャリアベース等の環状部品のプレス成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータ方式の自動車用トランスミッションにおいては、遊星歯車による自動車変速機が使用される。遊星歯車は、複数のピニオンと、複数のピニオンの内周、外周の夫々に噛合するサンギヤ、リングギヤが設けられ、複数のピニオンは回転可能に軸支する回転部品であるキャリア部品(キャリア、キャリアベース)が設けられる。周知のように、遊星歯車による変速動作は、キャリア、サンギヤ及びリングギヤの3回転要素のうちの一つを制動させ、残りの二つの回転要素の一つの回転要素を入力側に、もう一つの回転要素を出力側に接続することにより行われる。キャリアは、ハウジング等の支持部に回転可能に取り付けられるが、キャリアの遊星歯車の支持部は板状をなしており、ハウジング等の支持部への取り付けのためボス部を形成していることが多く、また、ボス部を、遊星歯車のための板状の取り付け部から両側に延設する構成の場合もある。
【0003】
キャリアも含めて自動車変速機用の回転部品としては軽量化されていることが必須であり、焼結部品とすることにより軽量化は実現可能である。板状部とボス部の一体化を直接開示するものではないが焼結によるキャリア部品については特許文献1がある。また、鋼板からのプレス品とすることにより軽量化するため、別体のボス部を溶接や特殊な嵌着構造により一体化するものが提案されている(特許文献2)。
また、本発明との関連では、一枚の鋼板からのバーリング及びその後のしごき加工による筒状部品のプレス成形については特許文献3がある。また、本発明の実施形態としてのトルクコンバータを備えた自動車変速機におけるキャリアベースの構造については特許文献4がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-208585
【文献】特開平7-290185
【文献】特開平11-138219
【文献】特開2009-85389
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
焼結品(特許文献1)では生産タクトが長くなるためコストアップとなる。また、2部品の溶接若しくは嵌着構造の場合(特許文献2)も工程としては複雑化し、これもコストアップの原因となる。このような問題点に鑑み、本発明は、キャリア等の自動車変速機における環状部品を一枚の鋼板からのプレス加工により成形することにより素材コストを低減すると共に生産タクトの短縮を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明になる、一枚の鋼板から成形されたプレス成形品であり、円板部と、円板部に対しその外径側若しくは内径側に位置し、軸方向両側に張出した張出し部を有し、円板部と張出し部との接続部は横断面が字形状をなしている環状部品のプレス成形方法は、
一枚の鋼板より成る円板形状のワークに内径側若しくは外径側においてバーリング加工を行なうことによりワークの片側を円筒状の第1の張出し部に成形する工程と、
ワークを上下にて保持しつつ第1の張出し部をしごき、その際の肉の流動により、ワーク保持部に関し、第1の張出し部と反対方向に第2の張出し部を成形することにより前記環状部品とするしごき工程とから成り、
前記しごき工程は、
第1の張出し部の内径をしごくことにより第1の張出し部の付け根側に向けて肉を寄せる第1段階のしごき加工と、ワークを上下にて保持しつつ、第1の張出し部を、少なくとも肉を寄せられた側において更にしごく第2段階のしごき加工との少なくとも2段階のしごき加工より成る。環状部品に切削など必要な後加工を施すことにより自動車変速機におけるキャリア部品とすることができる。
【0007】
第1段階のしごき加工際し、内径側に横断面がT字形状の張出し部を成形する場合、均一径の中実の円筒状パンチ及び均一径の中空の円筒状ワーク押えを使用し、外径側に横断面がT字形状の張出し部を成形する場合、均一径の中空の円筒状パンチ及び均一径の中実の円筒状ワーク押えを使用し、第2段階のしごき加工に際し、内径側に横断面がT字形状の張出し部を成形する場合、均一径の中実の円筒状パンチ及び均一径の中空の円筒状ワーク押え、または、均一径の中実の円筒状パンチ及び均一径の中空の円筒状ダイを使用し、外径側に横断面がT字形状の張出し部を成形する場合、均一径の中空の円筒状パンチ及び均一径の中実の円筒状ワーク押え、または、均一径の中実の円筒状パンチ及び均一径の中空の円筒状ダイを使用し、バーリング加工により得られた第1の張出し部の全長に亘るしごきを行なうことができ、これにより板状部の両側に筒状部を備えた筒状部品とすることができる。
【0008】
また、別実施形態として、2段階のしごき加工に際し、内径側および外形側に横断面が段付T字形状の張出し部を成形する場合、中空の段付円筒状のダイ及び中実の段付円筒状パンチを使用して、第1段階のしごき加工により得られた第1の張出し部の端部を拘束しつつ、第1の張出し部のこの拘束された端部から離間側の部位において第1の張出し部の更なるしごきを行い、これによる肉の流動により第2の張出し部に成形することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、両側への筒状部を有した環状部品を一枚の鋼板からのバーリング及び多段階のしごき加工によりプレス加工のみで製造することが可能であり、軽量化を実現しつつ素材コストを低減すると共に生産タクトの短縮を実現し、トータルとしての大巾なコストダウンが実現する。
また、バーリングと多段階のしごき加工との併用により構造欠陥がなく、T断面形状部においても高い剛性の確保が可能となり、特に、環状部品をキャリア等の自動車用部品に採用した場合に筒状部を軸方向力の入力部位とした場合においても、高剛性により溶接や嵌着方式等の別体構造と比較して、強度的に有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1はこの発明の筒状部品が利用されるキャリアベースを備えた自動車変速機の本発明との関連部分を中心軸の片側において示す断面図である。
図2図2図1のキャリアベースのための筒状部品の第1の実施形態のプレス成形工程の(A)から(D)までの段階を示す模式的断面図である。
図3図3図2の工程に後続する(E)から(G)までの段階を示す模式的断面図である。
図4図4は本発明の第2の実施形態の主要3工程(1)(2)(3)を示す模式的断面図である。
図5図5は本発明の第3の実施形態の主要3工程(1)(2)(3)を示す模式的断面図である。
図6図6は本発明の第4の実施形態の主要3工程(1)(2)(3)を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下この発明の環状部品の実施形態としてのキャリアベースを備えた自動車変速機について説明すると、図1は自動車変速機におけるキャリアベースの配置の一例を示す概略的断面図であり、変速機中心軸をMにて表す。この自動車変速機は特許文献4に記載のものと構造的には同様のものであり、キャリアベース10は3段構成の変速機構における第3段目の変速機構において採用されている。キャリアベース10は、本発明に従い、一枚の鋼板からのプレス成形品であり、環状板部12と、環状板部12の内周部において環状板部12の軸方向両側に延出したボス部14とからなり、環状板部12とボス部14との接続部の横断面形状は、T字形状をなしている。後述のように、この実施形態において、ボス部14は、素材鋼板に対するバーリング加工により軸方向の片側に延びる第1の筒状張出し部をプレス成形し、この第1の筒状張出し部に対し内周をしごくことにより反対側に延びる第2の筒状張出し部をプレス成形し、その後に切削等の仕上げ加工を行なうことにより得られるものであり、ボス部14は環状板部12に対する一体のプレス成形部となっている。キャリアベース10のボス部14はカバー22のボス部22-1に回転可能に装着される。
【0012】
図1の変速機構は、キャリアベース10に加えて、キャリアベース10に、夫々の回転軸15にて回転可能に円周方向に離間し複数設けられたピニオン16と、ピニオン16に内径側において噛合するサンギヤ18と、ピニオン16に外径側において噛合するリングギヤ20とを備え、これにより3回転要素より成る遊星歯車機構を構成し、変速機カバー22内に収容されている。サンギヤ18はエンジン側からの入力軸24に連結される。入力軸24は変速機カバー22に対して回転可能となっている。28はクラッチドラムであり、リングギヤ20は、板状部クラッチドラム28の内周部に成形されている。クラッチドラム28は円板状部28-1を備えており、クラッチドラム28の円板状部28-1と変速機カバー22との間にベアリング29が配置される。ブレーキ30は簡略化して示すが、環状円板としての形状をなしたドライブプレート32及びドリブンプレート34を備え、周知の如くドライブプレート32は、内周に円周方向に等間隔に歯部を有し、この歯部がクラッチドラム28の外周に、それぞれが軸方向に延び、円周方向に等間隔に離間された溝部28-1と係合することにより、ドライブプレート32は回転方向にはクラッチドラム28と一体であるが、長手方向には摺動可能となっている。ドリブンプレート34は、周知のように、外周に円周方向に等間隔に歯部を有し、この歯部が変速機カバー22の内周に、それぞれが軸方向に延び、円周方向に等間隔に離間された溝部22-2と係合することにより、ドリブンプレート34は回転方向には変速機カバー22と一体であるが、長手方向には摺動可能となっている。環状ピストン36は変速機カバー22の環状凹部22-3内に設けられ、内外周の環状弾性部材38A, 38Bにより、図1における左行位置を通常はとり、このとき、ドライブプレート32はドリブンプレート34に対しその間の油膜により円滑回転を行なうことができる。凹部22-3内への作動油圧の導入により、環状ピストン36は弾性部材38A, 38Bの弾性力に抗して右行され、ドライブプレート32とドリブンプレート34とは係合され、ストッパ39により拘束される。そのため、クラッチドラム28は変速機カバー22により制動される。遊星歯車機構のピニオン16はキャリアプレート37にて図示しない出力軸、即ち、車輪側に連結される。
【0013】
特許文献1においては、図1の遊星歯車式変速機構に加えて別の遊星歯車による変速機構が設けられ、また、ブレーキ30とは別のブレーキ又はクラッチが設けられ、それぞれのブレーキ又はクラッチの締結若しくは非締結により所期の変速比又は前進若しくは後退を得るようにしている。ブレーキ30については、非締結状態においては、クラッチドラム28は拘束を受けないためフリーに回転し、この場合は変速比には関与せず、締結状態においては、クラッチドラム28は制動され、この場合はギヤ比に応じてキャリアベース10、即ち、キャリアプレート37の回転が制御される。
【0014】
キャリアベース10は、この変速機においては、変速機制御用の図示しない回転数センサの設置箇所となっている。また、キャリアベース10は変速機の動作中にスラスト力を受けるため、ボス部14に対する接続部において環状板部12は両面にスラスト軸受42, 44が配置される。ボス部14のサンギヤ側はサンギヤに向け幾分肉薄部14-1を呈している。
【0015】
従来のキャリアベース10の構成においては、キャリアベース10全体を焼結品とすることにより環状板部12とボス部14とを一体化するか、又は鋼板からのプレス成形の場合は環状板部12とボス部14とを別々に製作して溶接等により一体化していた。しかしながら、焼結品とする場合は、原料混合、成形、焼結といった複雑な工程からなり、生産タクトが長く、相当なコストアップとなる。また、別部品から出発し、溶接等により一体化する場合も接合工程を伴うことから、これもコストアップに繋がることになる。
【0016】
本発明は、以上の問題点に鑑み、キャリアベース10を一枚の鋼板からプレス加工により材料欠陥を伴うことなく成形を行なうようにしたもので、以下、これについて説明する。
【0017】
図2及び図3は、第1の実施形態における一枚の鋼板からの本発明の筒状部品のプレス成形工程を説明するものであり、簡明のため中心軸Lの片側のみ表示している。図中、黒塗りの矢印は、プレス機のメインの加圧力(機械プレスの場合はクランクによる加圧力)をその加わる方向と共に表示しており、白抜きの矢印はダイクッションの力(スプリング力)をその加わる方向と共に表示している。
【0018】
図2(A)(B)は、プレスラインにおけるバーリング装置の中心線Lの片側を示し、(A)においてワークWは一枚の円形鋼板(中心線Lの片側のみ示す)より成り、中心に円形開口Wを打抜いた状態にて示す。ワークWはその外周部においてリフタ52上に載置され、加圧機構(図示しない)に連結されたストレートの内周面を有する環状ダイ54がワークWの外周部を介してリフタ52と対向位置している。外周面がストレート形状のパンチ55は、図示しないダイベースに直立固定されている。図2(A)におけるワークWはトランスファーライン上に位置する。
【0019】
図2(B)では、バーリングのためダイ54が下降した状態を示し、ワークWはダイ54とリフタ52間で外周部を保持されつつダイクッション下で下降され、パンチ55により、ワークWはその内周部がダイ54とパンチ55との間においてバーリングされ、ワークWの中心部におけるワーク片側(図の上側)にワーク中心線Lと同軸の筒状張出し部Wが成形される。張出し部Wの成形後、ダイ54は上昇され、ダイクッションによりリフタ52が図2(A)の位置まで上昇し、ワークWはトランスファーライン上に復帰位置される。
【0020】
図2(C)(D)は、バーリング装置に隣接した第1段階のしごき加工装置を示す。図2(C)においては、バーリングによる張出し部Wを成形したワークWは、トランスファーライン上においてリフタ56とワーク押え58間にダイクッションの力により保持されている。図2(C)では加圧機構に連結されたパンチ60は上方に位置される。パンチ60は、バーリングにより得られたワークWの筒状張出し部Wの内径より幾分大きな外径を有しており、パンチ60の外径とワークWの筒状張出し部Wの内径との差がしごき代となる。図2(D)に示すように、下降するパンチ60によってワークWの筒状張出し部Wの内径部分が全長に亘りしごきを受け、筒状張出し部Wのように肉厚が薄くなり、しごかれた分の肉は、塑性流動によって、Wのようにリフタ56側(リフタ56の環状凹部56-1)に向けて図の下方に寄せられる。第1段階のしごき加工後にパンチ60は上死点位置(C)まで戻り、ダイクッションの力によりワークWはトランスファーラインまで上昇される。
【0021】
図3(E)(F)は、第1段階のしごき加工装置に隣接した第2段階のしごき加工装置を示す。図3(E)では、第1段階のしごき加工で得られた図2(D)のワークWの外周部がトランスファーライン上においてリフタ62とワーク押え64間にダイクッションの力により保持されている。図3(E)では加圧機構に連結されたパンチ65は上方に後退位置される。パンチ65は、第1段階のしごき加工により得られたワークWの筒状張出し部Wの内径より幾分大きな外径を有しており、パンチ65の外径とワークWの筒状張出し部Wの内径との差がしごき代となる。図3(F)に示すように、下降するパンチ65によってワークWの筒状張出し部Wの内径部分が全長に亘りしごきを受け、図の下方への肉の流れが生じ、筒状張出し部Wのように肉厚が薄くなり、しごかれた分の肉は、塑性流動によって、リフタ62の環状凹部62-1に向けて塑性流動され、筒状張出し部Wと反対側(図の下方)にワーク中心線Lと同軸に筒状張出し部Wの成形が行なわれる。しごき加工後にパンチ65は上死点位置(E)まで戻り、ダイクッションの力によりワークWはトランスファーラインまで上昇される。
【0022】
図3(G)は、以上説明のように一枚の鋼板からプレス加工によって成形されたワークWである筒状部品を示し、円板部66とその両側における中心線Lを共通する第1の張出し部67(W)及び第2の張出し部68(W)よりなる。この筒状部品に、必要な切削等の仕上げ工程を施すことにより図1のキャリアベース10となる。
【0023】
以上の実施形態において、バーリング後のしごき加工は、均一径の円筒状のパンチ及びダイを使用し、バーリングによる張出し部の内径をしごき、根元側に向けて肉を流動させる第1段階のしごき加工、第1段階のしごき加工により成形した張出し部をパンチの径を変えて更に全長に亘りしごくことにより、反対側に張出し部を成形する第2段階のしごき工程により実施しているが、スムースな肉の流れのため必要あれば第1段階のしごき加工においても第2段階のしごき加工においても、中間の径のパンチ及びダイによるしごき加工(1段階若しくは複数段階)を追加することは可能である。
【0024】
図4は本発明のプレス成形方法の第2の実施形態を示しており、本実施形態においても、一枚の鋼板から外周に軸方向両側に延出するボス部をプレス成形することができる。第1の実施形態(図2及び図3)と同様に、少なくとも、バーリングと、第1段階のしごき加工と、第2段階のしごき加工の3工程によるものであり、簡略化して、第1の実施形態における図2及び図3の(B)、(D)、(F)に相当若しくは関連する工程を、夫々、(1),(2),(3)にて示している。この第2の実施形態においては第1の実施形態と同様均一径の円筒状のダイ及びパンチを使用する。即ち、バーリング工程(1)ではリフタ69上の環状円板形状のワークW´の中央部をパンチ70にて押圧し、外周の環状ダイ72によりワークW´の外周部に張出し部W´を成形する。第2段階のしごき加工(2)では、ワークW´を張出し部W´の内側部位をリフタ74とワーク押さえ76間で保持し、環状パンチ78により張出し部W´の外径部を図の下方にしごくことにより、ワークW´片側に薄肉化された中心線Lと同軸筒状の外周張出し部W´に成形すると共に、付け根側にW´のように肉を寄せる。第2段階のしごき加工(3)では、ワークW´を外周張出し部W´より内側の部位をリフタ80とワーク押さえ82間で保持し、外周張出し部W´の外径部を環状パンチ84によりしごくことにより、更に薄肉化された中心線Lと同軸筒状の張出し部W´と反対側に筒状張出し部W´の成形が行なわれる。この実施形態においても、第1の実施形態と同様、必要あれば、第1段階のしごき加工においても第2段階のしごき加工においても、中間の径のパンチ及びダイによるしごき加工(1段階若しくは複数段階)を追加することは可能である。
【0025】
図5は第3の実施形態を示す。この実施形態はバーリング工程(1)及び第1段階のしごき加工(2)については第1の実施形態と同様であり、均一径の円筒形状のダイ及びパンチを使用し、バーリング工程ではワークW″をダイ54によりリフタ52に押圧することにより、パンチ55によりワークW″内周に張出し部W″を成形する。また、第1段階のしごき加工ではワークW″をリフタ56とワーク押え58とで保持しつつ、張出し部W″のしごきをパンチ60により行い、薄肉化された筒状張出し部W″とすると共に、付け根側にW″のように肉を寄せる。第2段階のしごき加工(3)は、第1の実施形態とは相違しており、ダイ孔が段付円筒状のダイ86と中心の段付パンチ88(図示しないダイベースに直立固定)とが使用され、段付ダイ86は、その内径における下端内周に拡径部86-1を備え、パンチ88は先端が縮径部88-1を備えている。リフタ87上のワークW″をダイ86により加圧することにより、ワークW″は中心に固定されたパンチ88に対して下降される。そして、張出し部W″の上部はパンチ88先端の縮径部88-1とダイ86の下端の拡径部86-1により形成される環状空洞部に流入(流動)し空洞を埋める。また張出し部W″は張出し側端面がダイ86の肩部(環状溝86-1により形成される肩部)に当接(拘束)され、張出し部W″の上部は肉厚が実質的に変わらないが、ダイ86の下降によるワークの下降により、張出し部W″の下部の内径部位がパンチ88の拡径部88-2によりしごかれるため、反対側の拘束を受けていない側(図の下方)への肉の流動が起こり、張出し部W″とは反対側が筒状張出し部W″に成形される。従って、この実施形態では、第2段階のしごきが内周の全長ではなく部分的であるため、しごき後の張出し部W″とW″とは肉厚が同じではない(内周面が段差をもって形成される)が、張出し部W″とW″とはワークの軸方向の夫々両側に筒状に張出しているため、張出し部W″とW″とは接続部において断面は実質的にT形状を呈しているといい得る。この実施形態では第2段階のしごきに際し、張出し部W″の上端側を拘束しているため、反対側への張出し部W″の成形のための確実な肉の流れを得ることができる。この実施形態においても、第1及び第2の実施形態と同様、必要あれば、第1段階のしごき加工においても第2段階のしごき加工においても、中間の径のパンチ及びダイによるしごき加工(1段階若しくは複数段階)を追加することは可能である。
【0026】
図6は第4の実施形態を示し、ワーク外周部に両側で肉厚の異なる張出し部をしごきにより成形するものである。この実施形態はバーリング工程(1)及び第1段階のしごき加工(2)については第2の実施形態(図4)と同様であり、均一径の円筒状のダイとパンチを使用し、バーリング工程ではワークW"'を中心のパンチ70によりリフタ69に向け押圧することにより、環状ダイ72によりワークW"'外周片側に中心軸Lと同芯に筒状張出し部W"'を成形する。また、第1段階のしごき加工ではワークW"'をリフタ74とワーク押え76とで保持しつつ、張出し部W"'の外径部のしごきを環状パンチ78により行い、薄肉化された張出し部W"'とすると共に、付け根側に(図の下方に)W"'のように肉を寄せる。第2段階のしごき加工(3)は、第3の実施形態としごき加工(図5(3))の方式が類似しており、ダイ孔が段付円筒状の環状ダイ90(図示しないダイベースに直立固定)と、外周面が段付き円筒状のパンチ92とが使用され、リフタ94上のワークW"'をパンチ92により加圧することにより、張出し部W"'の上端部はパンチ92の下端の外径の縮径部92-1とダイ90の上端の内径の拡径部90-1の間の環状空洞部に流入(流動)し空洞を埋めると共に、張出し部W"'の端面はパンチ92の下端(縮径部92-1に連なる肩部92-3)により当接・拘束される。そのため、パンチ92の下降によるワークの下降により、張出し部W"'の下部の外径部位が固定ダイ90の拡径部90-2によりしごかれるため、拘束されていない下方への肉の流動が起こり、張出し部W"'とは反対方向の張出し部W"'が形成される。従って、この実施形態でも、図5の実施形態と同様のしごき後の張出し部W"'とW"'とは肉厚が同じではないが、ワークW"'の軸方向の夫々両側に張出しているため、横断面は実質的にT形状を呈することになる。この実施形態において、第1~第3の実施形態と同様、必要あれば、第1段階のしごき加工においても第2段階のしごき加工においても、中間の径のパンチ及びダイによるしごき加工(1段階若しくは複数段階)を追加することは可能である。
【符号の説明】
【0027】
10…キャリアベース
12…環状板部
14…ボス部
16…ピニオン
18…サンギヤ
20…リングギヤ
24…入力軸
28…クラッチドラム
32…ドライブプレート
34…ドリブンプレート
36…環状ピストン
38A, 38B…環状弾性部材
52…リフタ
54…ダイ
55…パンチ
56…リフタ
58…ワーク押え
60…パンチ
62…リフタ
64…ワーク押え
65…パンチ
66…円板部
67…第1の張出し部(W
68…第2の張出し部68(W
70…パンチ
72…ダイ7
74…リフタ
76…ワーク押さえ
78…パンチ
86…段付ダイ
86-1…段付ダイの拡径部
87…リフタ
88…段付パンチ
88-1…段付パンチの縮径部
90…段付ダイ
90-1…段付ダイの内径拡径部
92…段付きパンチ
92-1…段付きパンチの縮径部
W…ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6