(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】一方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20230221BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230221BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230221BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C21D8/12 B
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2020566466
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001194
(87)【国際公開番号】W WO2020149348
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2019005129
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真介
(72)【発明者】
【氏名】片岡 隆史
(72)【発明者】
【氏名】牛神 義行
(72)【発明者】
【氏名】村上 健一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩康
(72)【発明者】
【氏名】岡田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】竹林 聖記
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-001980(JP,A)
【文献】特開平07-278668(JP,A)
【文献】特開2002-060843(JP,A)
【文献】特開2010-236013(JP,A)
【文献】特開2008-001979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/12
C21D 9/46
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.10%以下、Si:0.80~7.00%、酸可溶性Al:0.01~0.07%、N:0.012%以下、Mn:1.00%以下、S:0.08%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなる鋼片を熱間圧延して熱延鋼板とする熱延工程と;
前記熱延鋼板を焼鈍する焼鈍工程と;
前記焼鈍工程後の前記熱延鋼板を酸洗する酸洗工程と;
前記酸洗工程後の前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする冷延工程と;
前記冷延鋼板を脱炭する脱炭焼鈍工程と;
前記脱炭焼鈍工程後の鋼板を仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程と;
を備え、
前記脱炭焼鈍工程は、
(i-1)550℃以上、720℃未満の温度域を、40~500℃/秒である平均加熱速度HR1で加熱する第1加熱処理と;
(i-2)前記第1加熱処理に続いて、720℃以上、下記式(2)を満たす温度T1℃以下の温度域を、5~50℃/秒である平均加熱速度HR2で加熱する第2加熱処理と;
(ii-1)前記第2加熱処理に続いて、前記温度T1℃で50~1000秒保持する第1焼鈍処理と;
(ii-2)前記第1焼鈍処理に続いて、前記温度T1℃から下記式(4)を満たす温度T2℃までの温度域を、5~50℃/秒である平均加熱速度HR3で加熱する第3加熱処理と;
(ii-3)前記第3加熱処理に続いて、下記式(3)を満たす酸素分圧P2の雰囲気下で、前記温度T2℃で3~500秒保持する第2焼鈍処理と;
を有し、
前記第1加熱処理、前記第2加熱処理及び前記第1焼鈍処理は、下記式(1)を満たす酸素分圧P1の雰囲気下で行われ、
前記第1焼鈍処理後の前記鋼板では、C量が25ppm以下である
ことを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。
0.0010≦P1≦0.20 ・・・(1)
770≦T1(℃)≦900 ・・・(2)
P2<P1 ・・・(3)
960≧T2≧T1+10 ・・・(4)
【請求項2】
前記鋼片が、質量%で、Cr:0.01~0.50%、Cu:0.01~0.50%、Sn:0.01~0.02%の1種又は2種以上を含有する
ことを特徴とする請求項
1に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記脱炭焼鈍工程と前記仕上げ焼鈍工程との間に、前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板を窒化処理する窒化処理工程をさらに備え、
前記仕上げ焼鈍工程では、前記窒化処理工程後の鋼板を仕上げ焼鈍する
ことを特徴とする、請求項1
または2に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の鉄芯材料として使用する一方向性電磁鋼板の製造方法、特に、脱炭性に優れたフォルステライト皮膜を有しない一方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
本願は、2019年1月16日に日本に出願された特願2019-005129号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
一方向性電磁鋼板は、{110}<001>方位(以下、Goss方位)に高配向集積した結晶粒により構成された、Siを7%以下含有した電磁鋼板で、主に、変圧器の鉄芯材料として用いられる。
【0003】
一方向性電磁鋼板におけるGoss方位の高配向な集積は、二次再結晶とよばれる粒成長現象を利用して実現される。一方向性電磁鋼板は、磁気特性として、磁束密度が高く(磁界の強さ800A/mにおける磁束密度B8値で代表される)、鉄損が低い(W17/50値で代表される)ことが要求される。特に、最近では、省エネルギーの見地から電力損失の低減に対する要求が一層高まっている。
【0004】
一方向性電磁鋼板において、磁区は交流磁場の下では、磁壁の移動を伴って変化する。この磁壁移動がスムーズに行われることが、鉄損改善に効果的である。しかし、磁区の動きを観察すると、動かない磁区も存在しており、一方向性電磁鋼板の鉄損値を更に低減するためには、磁区の動きを阻害する鋼板表面のフォルステライト(Mg2SiO4)系皮膜(以下「グラス皮膜」ということがある。)による界面凹凸からのピン止め効果をなくすことが重要である。
【0005】
そのようなピン止め効果をなくすには、磁区の動きを阻害する鋼板表面のグラス皮膜を形成しないことが有効であり、その手段として、脱炭焼鈍の露点を制御し、脱炭焼鈍時に形成される酸化層において、Fe系酸化物(Fe2SiO4、FeO等)を形成させないこと、及び、焼鈍分離剤としてシリカと反応しないアルミナ等の物質を用いることにより、仕上げ焼鈍後に表面の平滑化を達成することが可能であることが、特許文献1~10に開示されている。
【0006】
しかし、一般に、脱炭反応は、雰囲気中の水蒸気と鋼板中の固溶炭素との化学反応であるため、低酸素分圧化することで、脱炭性は悪くなるという問題がある。例えば、特許文献10では、一回目の冷延後に酸素分圧0.50~0.88の雰囲気で中間焼鈍を行い、脱炭を促進させた後に、二回目の冷延を行い、酸素分圧0.0001~0.2の範囲で脱炭焼鈍を実施する方法が提案されている。
【0007】
この方法により、良好な脱炭性を確保しつつ、Fe系酸化物の生成をより強く抑制することが可能となるが、冷延及び焼鈍を各々2回行うため、工業的にはコストの問題が大きい。
【0008】
特許文献6では、脱炭焼鈍を前段と後段とに分離し、前段及び後段の均熱範囲を、770℃≦T1≦860℃で表されるT1(℃)とT1+10≦T2≦950℃で表されるT2(℃)との二段階に分けて実施することによる、脱炭性改善の技術が提案されている。しかしながら、特許文献6で想定されている酸素分圧の下限値が0.01程度であるため、より低酸素分圧下では、脱炭性を確保できず、特に、最終板厚が0.23mm以上となるような厚手材の難脱炭性はとりわけ顕著であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特開昭64-062417号公報
【文献】日本国特開平07-118750号公報
【文献】日本国特開平07-278668号公報
【文献】日本国特開平07-278669号公報
【文献】日本国特開2002-173715号公報
【文献】日本国特開2003-055717号公報
【文献】日本国特開2003-003213号公報
【文献】日本国特開2003-041320号公報
【文献】日本国特開2003-247021号公報
【文献】日本国特表2011-518253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術の課題に鑑み、グラス皮膜を酸洗等の手段により除去し、又は、その生成を意図的に防止して製造した仕上げ焼鈍済み一方向性電磁鋼板、即ち、フォルステライト皮膜を有しない一方向性電磁鋼板の製造において、板厚が厚い場合であっても好適に炭素残留量を下げ、かつ、低鉄損を実現するための脱炭性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、フォルステライト皮膜を有しない一方向性電磁鋼板において、板厚が厚い場合であっても好適に炭素残留量を下げ、かつ、低鉄損を実現するための製造方法について鋭意検討した。
【0012】
その結果、脱炭焼鈍工程を厳密に制御することにより、製造される一方向性電磁鋼板の炭素残留量を好適に低減することができ、かつ、低鉄損を実現できることを見出した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)質量%で、C:0.10%以下、Si:0.80~7.00%、酸可溶性Al:0.01~0.07%、N:0.012%以下、Mn:1.00%以下、S:0.08%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなる鋼片を熱間圧延して熱延鋼板とする熱延工程と、熱延鋼板を焼鈍する焼鈍工程と、焼鈍工程後の熱延鋼板を酸洗する酸洗工程と、酸洗工程後の熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする冷延工程と、冷延鋼板を脱炭する脱炭焼鈍工程と、脱炭焼鈍工程後の鋼板を仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程と、を備え、
脱炭焼鈍工程は、
(i-1)550℃以上、720℃未満の温度域を、40℃/秒~500℃/秒である平均加熱速度HR1で加熱する第1加熱処理と;
(i-2)前記第1加熱処理に続いて、720℃以上、下記式(2)を満たす温度T1℃以下の温度域を、5℃/秒~50℃/秒である平均加熱速度HR2で加熱する第2加熱処理と;
(ii-1)前記第2加熱処理に続いて、前記温度T1℃で、50~1000秒保持する第1焼鈍処理と;
(ii-2)前記第1焼鈍処理に続いて、前記温度T1℃から下記式(4)を満たす温度T2℃までの温度域を、5~50℃/秒である平均加熱速度HR3で加熱する第3加熱処理と;
(ii-3)前記第3加熱処理に続いて、下記式(3)を満たす酸素分圧P2の雰囲気下で、前記温度T2℃で3~500秒保持する第2焼鈍処理と;
を有し、
前記第1加熱処理、前記第2加熱処理及び前記第1焼鈍処理は、下記式(1)を満たす酸素分圧P1の雰囲気下で行われ、
前記第1焼鈍処理後の前記鋼板では、C量が25ppm以下である
ことを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。
0.0010≦P1≦0.20 ・・・(1)
770≦T1(℃)≦900 ・・・(2)
P2<P1 ・・・(3)
960≧T2≧T1+10 ・・・(4)
【0017】
(2)前記(1)に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法では、前記鋼片が、質量%で、Cr:0.01~0.50%、Cu:0.01~0.50%、Sn:0.01~0.02%の1種又は2種以上を含有してもよい。
【0018】
(3)前記(1)または(2)に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法では、前記脱炭焼鈍工程と前記仕上げ焼鈍工程との間に、前記脱炭焼鈍工程後の前記鋼板を窒化処理する窒化処理工程をさらに備え、前記仕上げ焼鈍工程では、前記窒化処理工程後の鋼板を仕上げ焼鈍してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷延後の脱炭焼鈍工程にて、低酸素分圧の雰囲気での焼鈍により、鋼板表面のFe系酸化物の生成を意図的に防止して、フォルステライト皮膜を有しない一方向性電磁鋼板を製造する方法において、Fe系酸化物の生成が抑制される低酸素分圧の雰囲気でも、中間焼鈍を含む二回以上の冷延を経ることなく、安定して脱炭焼鈍を行うことができる。この結果、板厚が厚い場合であっても好適に炭素残留量を下げ、かつ、低鉄損を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る脱炭性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法(以下「本製造方法」ということがある。)は、質量%で、C:0.10%以下、Si:0.80~7.00%、酸可溶性Al:0.01~0.07%、N:0.012%以下、Mn:1.00%以下、S:0.08%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなる鋼片を熱間圧延して熱延鋼板とする熱延工程と、熱延鋼板を焼鈍する焼鈍工程と、焼鈍工程後の熱延鋼板を酸洗する酸洗工程と、酸洗工程後の熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする冷延工程と、冷延鋼板を脱炭する脱炭焼鈍工程と、脱炭焼鈍工程後の鋼板を仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程を備え、
前記脱炭焼鈍工程は、
(i-1)550℃以上、720℃未満の温度域を、40~500℃/秒である平均加熱速度HR1で加熱する第1加熱処理と;
(i-2)前記第1加熱処理に続いて、720℃以上、下記式(2)を満たす温度T1℃以下の温度域を、5~50℃/秒である平均加熱速度HR2で加熱する第2加熱処理と;
(ii)前記第2加熱処理に続いて、前記温度T1℃で50~1000秒保持する第1焼鈍処理と;
を有し、
前記第1加熱処理、前記第2加熱処理及び前記第1焼鈍処理は、下記式(1)を満たす酸素分圧P1の雰囲気下で行われ、
前記第1焼鈍処理後の前記鋼板では、C量が25ppm以下である。
0.0010≦P1≦0.20 ・・・(1)
770≦T1(℃)≦900 ・・・(2)
【0021】
以下、本製造方法について説明する。なお、本実施形態において、「~」を用いて表される数値限定範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0022】
まず、本製造方法において熱間圧延に供する、電磁鋼板製造用の鋼片(以下「本鋼片」ということがある。)の化学組成の限定理由について説明する。以下、化学組成に係る%は鋼片(より厳密には、化学組成の分析に使用した鋼片試料)の総質量に対する質量%を意味する。
【0023】
<化学組成>
C:0.10%以下
Cの含有量が0.10%を超えると、二次再結晶焼鈍において鋼が相変態して、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と鉄損特性が得られないので、Cの含有量は0.10%以下とする。鉄損低減の観点から、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.06%以下である。Cの検出限界が0.001%程度であるので、実用鋼板上、0.001%が実質的な下限である。
【0024】
Si:0.80~7.00%
Siの含有量が0.80%未満であると、二次再結晶焼鈍において鋼が相変態して、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と鉄損特性が得られないので、Siの含有量は0.80%以上とする。好ましくは1.00%以上、より好ましくは2.50%以上、より好ましくは3.00%以上である。
【0025】
一方、Siの含有量が7.00%を超えると、鋼板が脆化し、製造工程での通板性が顕著に劣化するので、Siの含有量は7.00%以下とする。好ましくは4.00%以下、より好ましくは3.75%以下である。
【0026】
酸可溶性Al:0.01~0.07%
本発明電磁鋼板において、酸可溶性Al(sol.Al)は、二次再結晶におけるインヒビターとして必須の元素である。即ち、酸可溶性Alは、AlNを形成し、安定して二次再結晶を起こさせる元素である。
【0027】
酸可溶性Alの含有量が0.01%未満であると、インヒビターとして機能するAlNが十分に生成せず、二次再結晶が不十分となり、鉄損特性が向上しないので、酸可溶性Alの含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.020%以上である。
【0028】
一方、酸可溶性Alの含有量が0.07%を超えると、鋼板が脆化し、特に、Siが多い本発明電磁鋼板では、脆化が顕著となるので、酸可溶性Alの含有量は0.07%以下とする。好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下である。
【0029】
N:0.012%以下
Nの含有量が0.012%を超えると、冷延時、鋼板中にブリスター(空孔)が生じるうえに、鋼板の強度が上昇し、製造時の通板性が悪化するので、Nの含有量は0.012%以下とする。好ましくは0.010%以下、より好ましくは0.009%以下である。
【0030】
一方、NがAlと結合して、インヒビターとして機能するAlNを形成するためには、Nの含有量は0.004%以上が好ましい。より好ましくは0.006%以上である。
【0031】
Mn:1.00%以下
Mnの含有量が1.00%を超えると、二次再結晶焼鈍において鋼が相変態して、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と鉄損特性が得られないので、Mnの含有量は1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.20%以下である。
【0032】
MnSを、二次再結晶時、インヒビターとして活用することができるが、AlNをインヒビターとして活用する場合、MnSは必須でないので、Mnの含有量の下限は0%を含む。MnSをインヒビターとして活用する場合、Mnの含有量は0.02%以上とする。好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.07%以上である。
【0033】
S:0.08%以下
Sの含有量が0.08%を超えると、熱間脆性が原因となり、熱延が著しく困難になるので、Sの含有量は0.08%以下とする。好ましくは0.04%以下、より好ましくは0.03%以下である。
【0034】
AlNをインヒビターとして活用する場合、MnSは必須でないので、Sの含有量の下限は0%を含むが、MnSを、二次再結晶時、インヒビターとして活用する場合、Sの含有量は0.005%以上とする。好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上である。
【0035】
また、Sの一部を、Se又はSbで置き換えてもよく、その場合は、Seq=S+0.406Se、又は、Seq=S+0.406Sbで換算した値を用いる。
【0036】
本発明電磁鋼板は、上記元素の他、本発明電磁鋼板の特性を向上させるため、以下の元素の一種又は二種以上を含有してもよい。
【0037】
Cr:0.01~0.50%
Crは、一次再結晶の集合組織を改善し、二次再結晶を安定化させ、鉄損低減効果をもたらす元素である。Crの含有量が0.01%未満では、集合組織の改善効果が十分に得られないので、Crの含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上である。
【0038】
一方、Crの含有量が0.50%を超えると、CrがOと結合し、Cr2O3皮膜を形成し、脱炭性を劣化させるので、Crの含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.20%以下である。
【0039】
Cu:0.01~0.50%
Cuは、Crと同様に一次再結晶の集合組織を改善し、二次再結晶を安定化させ、鉄損低減効果をもたらす元素である。Cuの含有量が0.01%未満では、集合組織の改善効果が十分に得られないので、Cuの含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上である。
【0040】
一方、Cuの含有量が0.50%を超えると、熱間圧延中、鋼板が脆化するので、Cuの含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.20%以下、より好ましくは0.10%以下である。
【0041】
Sn:0.01~0.20%
Snは、Cr及びCuと同様に一次再結晶の集合組織を改善する元素である。Snの含有量が0.01%未満では、鋼板表面の平滑化効果が十分に得られないので、Snの含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.02%以上、より好ましくは0.03%以上である。
【0042】
一方、Snの含有量が0.20%を超えると、二次再結晶が不安定となり、磁気特性が劣化するので、Snの含有量は0.20%以下とする。好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.10%以下である。
【0043】
本鋼片の化学組成の残部はFe及び不純物であるが、磁気特性の更なる向上、強度、耐食性や疲労特性などの構造部材に求められる特性の向上、鋳造性や通板性の向上、スクラップ使用などによる生産性向上を目的として、残部の鉄の一部に代えてMo、W、In、Bi、Sb、Ag、Te、Ce、V、Co、Ni、Se、Re、Os、Nb、Zr、Hf、Ta、Y、La等の微量元素を、合計で5.0%以下、好ましくは2.0%以下、含有してもよい。不純物は鋼片の製造過程で鋼片に不可避的に混入する不可避的不純物を含む。本実施形態の効果を損なわない範囲で、上記で列挙した元素以外の元素を不純物として鋼片に添加してもよい。
【0044】
上述した鋼片(あるいは一方向性電磁鋼板中の母材鋼板)の化学成分は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、鋼成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
【0045】
次に、本製造方法について説明する。
<製造方法>
本実施形態に係る脱炭性に優れた一方向性電磁鋼板の製造方法は、質量%で、C:0.10%以下、Si:0.80~7.00%、酸可溶性Al:0.01~0.07%、N:0.012%以下、Mn:1.00%以下、S:0.08%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなる鋼片を熱間圧延して熱延鋼板とする熱延工程と、熱延鋼板を焼鈍する焼鈍工程と、焼鈍工程後の熱延鋼板を酸洗する酸洗工程と、酸洗工程後の熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板とする冷延工程と、冷延鋼板を脱炭する脱炭焼鈍工程と、脱炭焼鈍工程後の鋼板を仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程と、を備える。
ここで、脱炭焼鈍工程は、冷延鋼板を脱炭するとともに、結晶粒径を二次再結晶に好ましい大きさに制御する(二次再結晶前の粒径を一次再結晶粒径という)工程である。
【0046】
本製造方法の脱炭焼鈍工程は、
(i-1)550℃以上、720℃未満の温度域を、40~500℃/秒である平均加熱速度HR1で加熱する第1加熱処理と;
(i-2)第1加熱処理に続いて、720℃以上、下記式(2)を満たす温度T1℃以下の温度域を、5~50℃/秒である平均加熱速度HR2で加熱する第2加熱処理と;
(ii)第2加熱処理に続いて、温度T1℃で50~1000秒保持する第1焼鈍処理と;
を有する。
また、第1加熱処理、第2加熱処理及び第1焼鈍処理は、下記式(1)を満たす酸素分圧P1の雰囲気下で行われる。
さらに、第1焼鈍処理後の前記鋼板では、C量が25ppm以下である。
0.0010≦P1≦0.20・・・・・・(1)
770≦T1(℃)≦900・・・・・・(2)
【0047】
以下、重要な制御因子について説明する。
【0048】
焼鈍雰囲気の酸素分圧P1:0.0010以上、0.20以下
脱炭焼鈍において、鋼板表面に酸化膜(例えば、Mn、Siに由来する酸化膜)が生成すると、脱炭反応が阻害されるので、酸化膜の生成を制御することは重要である。
【0049】
酸化膜の生成を制御する因子は、加熱速度(後述)、保持温度と保持時間(後述)の他、雰囲気の酸素分圧がある。酸化膜は、金属原子と酸素の酸化反応であるので、酸化膜の生成挙動は、とりわけ、焼鈍雰囲気の酸素分圧(酸化度)に敏感である。
【0050】
酸素分圧(酸化度)は、水蒸気(H2O)分圧を水素(H2)分圧で除したものとして定義される。即ち、酸素分圧が大きい雰囲気は、水蒸気分圧が高い雰囲気である。脱炭は、C+H2O→H2+COの反応で進行するので、酸素分圧は大きい方が好ましい。
【0051】
本製造方法の脱炭焼鈍雰囲気の酸素分圧P1は、上記式(1)を満たす酸素分圧とする。
【0052】
酸素分圧P1が0.0010未満であると、外部酸化型の緻密なSiO2が急速に形成され脱炭反応が阻害されるので、酸素分圧P1は0.0010以上とする。好ましくは0.010以上である。
【0053】
脱炭反応を促進する点で、酸素分圧の上限は特に限定されないが、酸素分圧P1が0.20を超えると、鋼板表面に、二次再結晶の進行を抑制する作用をなす鉄系酸化物が生成しやすくなるので、酸素分圧P1は0.20以下とする。好ましくは0.15以下である。
【0054】
(i-1)1段目加熱(第1加熱処理と呼称する場合がある)
加熱温度域:550℃以上、720℃未満
平均加熱速度HR1:40℃/秒以上、500℃/秒以下
脱炭反応を阻害するSiO2の生成挙動は、雰囲気の酸素分圧のみならず、加熱速度にも依存する。そのため、脱炭焼鈍における加熱は、SiO2の生成を極力回避する熱サイクルを経ることが重要である。
【0055】
それ故、SiO2の生成温度域である550℃以上の温度域における平均加熱速度HR1を40℃/秒以上とする。好ましくは70℃/秒以上である。加熱速度が速いほど脱炭には好ましいが、加熱速度が速すぎると鋼板の温度がオーバーシュートする(T1の上限値を超える)可能性がある。鋼板の温度がオーバーシュートした場合、一次再結晶粒集合組織中の結晶粒が粗大化し、二次再結晶が不良となる。したがって、加熱速度は500℃/秒以下とする。好ましくは200℃/秒以下である。
【0056】
平均加熱速度HR1:40℃/秒以上、500℃/秒以下の加熱速度で、加熱到達温度が上記式(2)を満たす温度T1℃を確実に超えないように、上記加熱速度を適用する温度域は720℃未満(<770℃[温度T1℃の下限])とする。即ち、平均加熱速度HR1で加熱する加熱温度域は、550℃以上、720℃未満とする。なお、本実施形態における各段の「平均加熱速度」は、各段の温度域の温度範囲(上限値-下限値)を各段の加熱に要した時間で除算することで得られる。なお、1段目加熱の平均加熱速度を測定するにあたっては、便宜的に1段目加熱の上限値を720℃とする。
【0057】
(i-2)2段目加熱(第2加熱処理と呼称する場合がある)
加熱温度域:720℃以上、上記式(2)を満たす温度T1℃以下
平均加熱速度HR2:5℃/秒以上、50℃/秒以下
720℃以上、温度T1℃以下の加熱温度域における加熱速度も重要である。加熱到達温度が上記式(2)を満たす温度T1℃を確実に超えない加熱速度を採用する必要がある。そこで、720℃以上、上記式(2)を満たす温度T1℃以下の温度域における平均加熱速度HR2を5℃/秒以上、50℃/秒以下とする。
【0058】
平均加熱速度HR2が5℃/秒未満であると、生産性が低下するので、平均加熱速度HR2は5℃/秒以上とする。好ましくは7℃/秒以上である。一方、平均加熱速度HR2が50℃/秒を超えると、加熱到達温度が温度T1℃を超える場合があるので、平均加熱速度HR2は50℃/秒以下とする。好ましくは20℃/秒以下である。
【0059】
(ii)脱炭焼鈍(第1焼鈍処理と呼称する場合がある)
焼鈍温度T1:上記式(2)を満たす温度T1℃(770℃以上、900℃以下)
保持時間:50秒以上、1000秒以下
鋼板C量:25ppm以下
脱炭反応は、鋼中炭素の拡散速度、即ち、温度と時間に大きく依存する。焼鈍温度T1が770℃以下であると、脱炭反応の進行が困難になるので、焼鈍温度T1は770℃以上とする。好ましくは800℃以上、より好ましくは810℃以上である。
【0060】
一方、焼鈍温度T1が900℃を超えると、鋼板表面に、Mn、Siに由来する酸化膜が生成して、脱炭反応が拡散律速から界面律速に移行し、脱炭反応の進行が阻害されるので、焼鈍温度T1は900℃以下とする。好ましくは870℃以下、より好ましくは850℃以下である。
【0061】
また、脱炭焼鈍において、焼鈍温度の他、保持時間も重要である。そこで、T1℃における保持時間を50秒以上、1000秒以下とする。保持時間が50秒未満であると、脱炭反応が十分に進行せず、残留したCが磁気時効を引き起こすので、保持時間は50秒以上とする。好ましくは70秒以上、より好ましくは100秒以上である。
【0062】
一方、保持時間が1000秒を超えると、一次再結晶粒が粗大化し、二次再結晶不良の原因となるので、保持時間は1000秒以下とする。好ましくは500秒以下、より好ましくは200秒以下である。
【0063】
本製造方法において、脱炭反応をより促進するため、上記焼鈍(第1焼鈍処理)に続き、下記式(3)を満たす酸素分圧P2の雰囲気中、下記式(4)を満たす温度T2℃で、3秒以上、500秒以下保持する第2焼鈍処理を行うことが有効である。
P2<P1 ・・・(3)
960≧T2≧T1+10 ・・・(4)
【0064】
温度T1℃における脱炭速度は、時間とともに減衰し、脱炭反応は、最終的に熱平衡状態に達する。脱炭反応が熱平衡状態に達した時点で、より高温に加熱すれば、再度、脱炭反応を進行させることが可能である。そこで、製造される一方向性電磁鋼板の炭素残留量をより好適に低減させるため、本製造方法においては、第1焼鈍処理に続き、第2焼鈍処理を行なうことが好ましい。
【0065】
第2焼鈍処理
焼鈍雰囲気の酸素分圧P2:P1未満(上記式(3))
焼鈍温度T2:T1+10℃以上、960℃以下(上記式(4))
保持時間:3秒以上、500秒以下
第2焼鈍処理の焼鈍雰囲気である酸素分圧P2を、第1焼鈍処理の焼鈍雰囲気の酸素分圧P1(0.0010以上、0.20以下)と同じにすると、鋼板表面に酸化膜が生成するので、第2焼鈍処理の焼鈍雰囲気の酸素分圧P2は、上記酸素分圧P1未満とする。好ましくは、P1×0.1以下である。
【0066】
第2焼鈍処理の焼鈍雰囲気の酸素分圧P2は、上記酸素分圧P1未満において、鋼板表面における酸化膜の生成を抑制しつつ脱炭反応を促進する範囲で、適宜設定すればよいので、下限は、特に限定しないが、酸化膜の生成を確実に抑制する点で、上記酸素分圧はP1×0.01以上が好ましい。
【0067】
第2焼鈍処理の焼鈍温度T2℃が、T1(770℃以上、900℃以下)+10℃未満であると、脱炭反応が再度進行しないので、第2焼鈍処理の焼鈍温度T2℃は、T1℃(770℃以上、900℃以下)+10℃以上とする。好ましくは、T1℃(770℃以上、900℃以下)+20℃以上である。
【0068】
脱炭反応促進の点で、焼鈍温度T2℃に上限はないが、結晶粒径制御の点から、焼鈍温度T2℃は960℃以下とする。好ましくは、950℃以下であり、より好ましくはT1℃+60℃以下である。
【0069】
第2焼鈍処理は、一段目焼鈍処理に続く付加的焼鈍処理であるので、生産性の点で、保持時間は短時間であることが好ましい。保持時間が3秒未満であると、脱炭反応が殆ど進行せず、第2焼鈍処理の効果が得られないので、保持時間は3秒以上とする。好ましくは10秒以上である。
【0070】
一方、保持時間が500秒を超えると、第2焼鈍処理の効果が飽和し、生産性が低下するので、保持時間は500秒以下とする。好ましくは100秒以下である。
【0071】
第1焼鈍処理から第2焼鈍処理に移行する際、脱炭反応が阻害されないように、鋼板表面における酸化膜の生成を抑制する必要がある。そのため、第1焼鈍処理の温度T1℃から第2焼鈍処理の温度T2℃に至るまでの加熱(第3加熱処理と呼称する場合がある)での平均加熱速度HR3は、5℃/秒以上、50℃/秒以下とする。
【0072】
平均加熱速度HR3が5℃/秒未満であると、第2焼鈍処理の温度T2℃に達しないので、平均加熱速度HR3は5℃/秒以上とする。好ましくは10℃/秒以上である。一方、平均加熱速度HR3が50℃/秒を超えると、加熱到達温度が温度T2℃を超え、一次再結晶粒径が粗大化して、二次再結晶不良の原因となり、磁束密度が低下するので、平均加熱速度HR3は50℃/秒以下とする。好ましくは20℃/秒以下である。
【0073】
窒化処理
脱炭焼鈍工程後の鋼板に窒化処理を行ってもよい。この窒化処理の方法は特に限定されず、アンモニア等の窒化能のある雰囲気ガス中で行う方法等が例として挙げられる。窒化処理の処理時間や処理条件は特に限定されず、鋼板中のN量が0.005%以上、好ましくは、鋼板中の(N量)/(酸可溶性Al量)の比率が2/3以上となるように窒化処理を行えばよい。
この窒化処理工程は、鋼片を1300℃未満の温度で加熱した後に熱間圧延工程を行う場合(低温スラブ加熱又は中温スラブ加熱と呼ばれる場合がある)に、特に有効である。一方、鋼片を1300℃以上の温度で加熱してインヒビターと呼ばれる微細析出物をほぼ完全に固溶させた後に熱間圧延工程を行う場合(高温スラブ加熱と呼ばれる場合がある)には、窒化処理工程を行わなくてもよい。
【0074】
以上説明した通り、本実施形態では、冷延後の脱炭焼鈍工程にて、低酸素分圧の雰囲気での焼鈍により、鋼板表面のFe系酸化物の生成を意図的に防止して、フォルステライト皮膜を有しない一方向性電磁鋼板を製造する。さらに、本実施形態では、脱炭焼鈍工程を厳密に制御することにより、Fe系酸化物の生成が抑制される低酸素分圧の雰囲気でも、中間焼鈍を含む二回以上の冷延を経ることなく、安定して脱炭焼鈍を行うことができる。この結果、板厚が厚い場合(例えば板厚が0.23mm以上となる場合)であっても好適に炭素残留量を下げ、かつ、低鉄損を実現することができる。さらに、磁束密度(例えば磁界の強さ800A/mにおける磁束密度B8)を高めることができる。
【実施例】
【0075】
以下、本製造方法の実施例に基づいて、本製造方法の技術的内容を更に説明する。なお、以下に示す実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。また、本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0076】
<実施例1>
表1に示す化学組成のインゴットを真空溶解して鋳造し、鋼片とした。この鋼片を1150℃に加熱し、熱間圧延に供し、板厚2.3mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板を、1000~1100℃で2分間焼鈍した後、酸洗し、酸洗後、冷間圧延に供し、最終板厚0.23~0.30mmの冷延鋼板とした。
【0077】
【0078】
冷延鋼板を、水素と窒素を含有する湿潤ガス中(P1=PH2O/PH2=0.10)において、820℃で、140秒脱炭焼鈍した。550℃以上、720℃未満の温度域における平均加熱速度HR1を80℃/秒とし、720℃以上、820℃以下(つまり、T1:820℃)の温度域における平均加熱速度HR2を10℃/秒とした。
【0079】
脱炭焼鈍後の鋼板に、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を、水スラリー状で塗布して、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍は、1200℃までは、窒素を含有する雰囲気中で15℃/時間の昇温速度で行い、1200℃で水素100%に切り替え20時間焼鈍を行った。
【0080】
以上の工程を経た二次再結晶済みの鋼板から評価用の試料を採取し、該試料に、窒素と水素含有の乾燥ガス雰囲気下で、800℃×2時間の歪取り焼鈍を施した後、窒素雰囲気下で150℃×300時間の時効処理を施し、SST(Single Sheet Tester)で磁束密度及び鉄損を測定し、さらに、残留炭素量を分析した。
【0081】
表2に、時効処理後の磁束密度B8(T)、鉄損(W17/50)、及び、残留炭素量(ppm)を示す。
【0082】
【0083】
残留炭素量の分析は、JIS G 1211-4:2011に準じて行った。磁気時効の観点から、残留炭素量は25ppm以下を目標とした。SSTは、JIS C 2553に準じて行った。鉄損は、周波数50Hz、最大磁束密度1.7Tのときの鉄損W17/50(W/kg)で評価した。W17/50(W/kg)は0.85以下を目標とした。
【0084】
磁束密度は、磁界の強さ800A/mにおける磁束密度B8で評価した。B8は1.88T以上を目標とし、B8が1.88T未満の試料については、鉄損を評価しなかった。また、冷間圧延が不可の鋼板については、残留炭素量を分析せず、磁束密度と鉄損を評価しなかった。発明例では、23ppm以下の残留炭素量、1.89T以上の磁束密度B8、0.84以下の鉄損W17/50(W/kg)が得られていることが解る。
【0085】
<実施例2>
表1に示す化学組成のインゴットを真空溶解して鋳造し、鋼片とした。この鋼片を1150℃に加熱し、熱間圧延に供し、板厚2.3mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板を、1000~1100℃で2分間焼鈍した後、酸洗し、酸洗後、冷間圧延に供し、最終板厚0.23~0.30mmの冷延鋼板とした。
【0086】
この冷延鋼板に、表3に示す条件で脱炭焼鈍を施した。HR1は、550℃以上、720℃未満の温度域での平均加熱速度で、HR2は720℃以上、焼鈍温度T1℃以下の温度域での平均加熱速度である。また、表3の「保持時間」は、脱炭焼鈍中、T1℃での保持時間を表す。
【0087】
【0088】
脱炭焼鈍後の鋼板に、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を、水スラリー状で塗布して、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍は、1200℃までは、窒素含有の雰囲気中で15℃/時間の昇温速度で行い、1200℃で水素100%に切り替えて20時間行った。
【0089】
以上の工程を経た二次再結晶済みの鋼板から評価票の試料を採取し、該試料に、窒素と水素含有の乾燥ガス雰囲気下で、800℃、2時間の歪取り焼鈍を施した後、窒素雰囲気下で150℃×300時間の時効処理を施し、SSTで磁束密度及び鉄損を測定し、さらに、残留炭素量を分析した。磁性の評価方法及び残留炭素量の分析方法は、実施例1と同様である。
【0090】
表3に、時効処理後の磁束密度B8(T)、鉄損(W17/50)、及び、残留炭素量(ppm)を併せて示す。発明例では、22ppm以下の残留炭素量、1.90T以上の磁束密度B8、0.78以下の鉄損W17/50(W/kg)が得られていることが解る。なお、比較例c9では平均加熱速度HR1が500℃/秒を超えており、平均加熱速度HR1での加熱の際に鋼板の温度がT1の上限値を超えた。このため、平均加熱速度HR2を測定することができなかった。
【0091】
<実施例3>
表1に示す化学組成のインゴットを真空溶解して鋳造し、鋼片とした。この鋼片を1150℃に加熱し、熱間圧延に供し、板厚2.3mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板を、1000~1100℃で2分間焼鈍した後、酸洗し、酸洗後、冷間圧延に供し、最終板厚0.23~0.30mmの冷延鋼板とした。
【0092】
この冷延鋼板に、P1=0.10の焼鈍雰囲気中で、T1=820℃、140秒の脱炭焼鈍を施した。その際、T1までの加熱は、550℃以上、720℃未満の温度域では平均加熱速度HR1:80℃/秒で行い、720℃以上、820℃以下の温度域では平均加熱速度HR2:10℃/秒で行った。
【0093】
冷延鋼板に、820℃、140秒の脱炭焼鈍を施した後、引続き、保持温度を下げることなく、表4に示す条件にて第2焼鈍処理を施した。
【0094】
【0095】
第2焼鈍処理後の鋼板に、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を、水スラリー状で塗布して、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍は、窒素含有の雰囲気中で、1200℃まで、15℃/時間の昇温速度で昇温し、1200℃で、水素100%に切り替え20時間行った。
【0096】
以上の工程を経た二次再結晶済み鋼板から評価用の試料を採取し、この試料に、窒素と水素含有の乾燥ガス雰囲気下で、800℃、2時間の歪取り焼鈍を施した後、窒素雰囲気下で150℃、300時間の時効処理を施し、SSTで磁束密度と鉄損を測定し、さらに、残留炭素量を分析した。磁性の評価方法及び残留炭素の分析方法は、実施例1と同様である。
【0097】
表4に、時効処理後の鋼板の磁束密度B8(T)、鉄損(W17/50)、及び、残留炭素量(ppm)を併せて示す。24ppm以下の残留炭素量、1.89T以上の磁束密度B8、0.80以下の鉄損W17/50(W/kg)が得られていることが解る。特に、本実施形態で説明した第2焼鈍処理及び第3加熱処理の好ましい条件を満たす発明例D1~D7、D14~D16では、残留炭素量または鉄損がより低下する傾向にあった。なお、D14、D15では板厚が減少しており、この点でも鉄損が良好な値となった。
【0098】
<実施例4>
実施例4では、窒化処理を第2焼鈍処理と仕上げ焼鈍工程との間で行った他は実施例3の発明例D1~D16と同様の処理を行った。ここで、窒化処理は、鋼板をアンモニアガス雰囲気中で、700~800℃にて30秒保持することで行った。結果を表5に示す。いずれの発明例でも、残留炭素量は25ppm以下、磁束密度B8は1.88T以上、鉄損W17/50(W/kg)は0.85以下となった。
【0099】
【産業上の利用可能性】
【0100】
前述したように、本発明によれば、冷延後の脱炭焼鈍工程にて、低酸素分圧の雰囲気での焼鈍により、鋼板表面のFe系酸化物の生成を意図的に防止して、フォルステライト皮膜を有しない一方向性電磁鋼板を製造する方法において、Fe系酸化物の生成が抑制される低酸素分圧の雰囲気でも、中間焼鈍を含む二回以上の冷延を経ることなく、安定して脱炭焼鈍を行うことができる。よって、本発明は、電磁鋼板製造産業において利用可能性が高いものである。