(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】水電気分解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 15/023 20210101AFI20230221BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230221BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230221BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20230221BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20230221BHJP
C25B 9/70 20210101ALI20230221BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230221BHJP
H02J 15/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C25B15/023
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/65
C25B15/00 302Z
C25B9/70
H02J3/38 130
H02J15/00 G
(21)【出願番号】P 2021563461
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2019048116
(87)【国際公開番号】W WO2021117096
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】米澤 遊
(72)【発明者】
【氏名】高内 英規
(72)【発明者】
【氏名】中島 善康
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-85602(JP,A)
【文献】特開2018-178175(JP,A)
【文献】特開2019-52377(JP,A)
【文献】特開2005-290557(JP,A)
【文献】特開昭57-123989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/023
C25B 15/00
C25B 1/04
C25B 9/00
C25B 9/65
C25B 9/70
H02J 3/38
H02J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続される複数の水電気分解セルと、
前記複数の水電気分解セルの各々に対して設けられ、対応する水電気分解セルに並列に接続される迂回路に流れる電流を検出する複数の検出回路と、
前記複数の検出回路のうち少なくとも一つの検出回路により検出される前記電流の電流値が閾値を超えると、信号を出力する信号出力回路とを備える、水電気分解装置。
【請求項2】
前記複数の検出回路は、それぞれ、前記迂回路に流れる電流を制限する制限回路を有し、
前記制限回路は、前記対応する水電気分解セルのセル電圧の上昇によって、前記迂回路に流れる電流の制限を緩和する、請求項1に記載の水電気分解装置。
【請求項3】
前記制限回路は、前記対応する水電気分解セルのセル電圧が所定値よりも低い場合、高い場合に比べて、前記迂回路に流れる電流を制限する、請求項2に記載の水電気分解装置。
【請求項4】
前記制限回路は、前記迂回路に直列に挿入される少なくとも一つのダイオードを有し、
前記ダイオードは、前記迂回路に流れる電流の向きを順方向とする、請求項2又は3に記載の水電気分解装置。
【請求項5】
前記制限回路は、前記迂回路に直列に挿入されるスイッチを有し、
前記スイッチは、前記対応する水電気分解セルのセル電圧の上昇によってオンする、請求項2又は3に記載の水電気分解装置。
【請求項6】
前記制限回路は、前記対応する水電気分解セルのセル電圧を分圧する分圧回路を有し、
前記スイッチは、前記分圧回路の出力に基づいてオンする、請求項
5に記載の水電気分解装置。
【請求項7】
前記制限回路は、前記対応する水電気分解セルのセル電圧が低下しても、前記スイッチのオンを保持するラッチ回路を有する、請求項
5又は6に記載の水電気分解装置。
【請求項8】
前記複数の検出回路は、それぞれ、
前記迂回路に流れる電流を検出するセンサと、
前記センサの出力を増幅するアンプと、
前記アンプの出力を検出閾値と比較するコンパレータとを有する、請求項1から
7のいずれか一項に記載の水電気分解装置。
【請求項9】
前記複数の水電気分解セルの両端に電圧を印加する電力変換器を備える、請求項1から
8のいずれか一項に記載の水電気分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水電気分解装置及び水電気分解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直列に接続される複数の電気分解ユニットのそれぞれに一つずつツェナーダイオードが並列に接続された水素ガス生成装置が知られている。劣化によって一つの電気分解ユニットに電流が流れなくなっても、それに並列接続されているツェナーダイオードを介して電流が流れ、他の電気分解ユニットで水素ガスが生成される。そのため、複数の電気分解ユニットのうちの一つに不具合が生じても、水素ガスの生成を継続できる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電気分解ユニットが劣化しても、水素の生成が継続されるため、電気分解ユニットの劣化を認識することが難しい。
【0005】
本開示は、一つの水電気分解セルが劣化しても、他の水電気分解セルでの水電気分解を停止させることなく、警告のための信号を発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
直列に接続される複数の水電気分解セルと、
前記複数の水電気分解セルの各々に対して設けられ、対応する水電気分解セルに並列に接続される迂回路に流れる電流を検出する複数の検出回路と、
前記複数の検出回路のうち少なくとも一つに検出回路により検出される前記電流の電流値が閾値を超えると、信号を出力する信号出力回路とを備える、水電気分解装置を提供する。
【0007】
また、本開示は、
発電装置と
直列に接続される複数の水電気分解セルと、
前記発電装置からの入力電圧を出力電圧に変換し、前記出力電圧を前記複数の水電気分解セルの両端に印加する電力変換器と、
前記複数の水電気分解セルの各々に対して設けられ、対応する水電気分解セルに並列に接続される迂回路に流れる電流を検出する複数の検出回路と、
前記複数の検出回路のうち少なくとも一つに検出回路により検出される前記電流の電流値が閾値を超えると、信号を出力する信号出力回路とを備える、水電気分解システムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、一つの水電気分解セルが劣化しても、他の水電気分解セルでの水電気分解を停止させることなく、警告のための信号を発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一比較形態における水電気分解システムの構成例を示す図である。
【
図3】水電気分解セルの電気特性の一例を示す図である。
【
図4】水電気分解セルの単体の電気特性の一例を示す図である。
【
図5】一つの水電気分解セルが劣化した状態を示す図である。
【
図6】一実施形態における水電気分解システムの構成例を示す図である。
【
図7】一比較形態における劣化時の電流経路を示す図である。
【
図8】一実施形態における劣化時の電流経路を示す図である。
【
図9】一比較形態における等価回路を示す図である。
【
図10】一実施形態における等価回路を示す図である。
【
図11】
図10の等価回路を単純化した等価回路を示す図である。
【
図13】セル電圧とセル抵抗の関係を例示する図である。
【
図15】検出回路の第1の構成例を動作を例示する図である。
【
図17】検出回路の第2の構成例の動作を例示する図である。
【
図19】検出回路の第3の構成例の動作を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について説明する。最初に、本開示の実施形態と比較するため、一比較形態について説明する。
【0011】
図1は、一比較形態における水電気分解システムの構成の一例を示す図である。
図1に示す水電気分解システム1000は、ソーラーパネル10が発電した電気エネルギーにより、水を電気分解することによって水素を生成する。水電気分解システム1000は、ソーラーパネル10から最大電力が出力されるように、ソーラーパネル10から引き出す電力を制御する。水電気分解システム1000は、ソーラーパネル10、電力変換器20、複数のセル30
1~30
N、MPPT(Maximum Power Point Tracking)制御器70及び水素タンク60を備える。Nは、2以上の整数であり、直列に接続されるセルの個数を表す。複数のセル30
1~30
Nは、互いに同一の構成を有する水電気分解セルである。以下、各構成及び機能等について説明する。
【0012】
ソーラーパネル10は、発電した第1の直流電力を出力する発電装置の一例であり、パネル面に配列された複数の太陽電池を有する。太陽電池は、光起電力効果を利用し、太陽光のような光エネルギーを直流電力に変換して出力する。
【0013】
太陽電池は、内部抵抗の比較的大きな電池のような電流-電圧特性をもっており、電流を引き出すことで電圧降下が発生する。最大の電力を引き出せる電流と電圧で決まる最大電力点(Maximum Power Point)は、太陽電池を照らす照度(日射量)と太陽電池の温度によって変化する。照度が高ければ、発電量が上がるため、最大電力は増加する。一方で、太陽電池の温度が高くなると内部抵抗が増加し最大電力が低下する。
【0014】
常に最大電力点を満たすように太陽電池から引き出す電力を制御する方法を最大電力点追従(MPPT:Maximum Power Point Tracking)制御と称し、山登り法と呼ばれる制御方法が使用されることが多い。太陽電池を高効率で使うためには、MPPT制御は有効な技術である。以下では、ソーラーパネル10の最大電力点での出力電力を最大電力Psolar_maxと表記する。
【0015】
MPPT制御器70は、ソーラーパネル10の出力ライン71に設置された電流計72及び電圧計73により計算されたソーラーパネル10の出力電力を、最大電力Psolar_maxに近づける制御指令値を生成する。
図1に示すMPPT制御器70は、ソーラーパネル10の負荷の一つである電力変換器20の制御指令値を生成する。制御指令値は、電力変換器20の出力電圧を指令する電圧指令値(電力変換器20の出力電圧の目標値)でもよいし、電力変換器20の出力電圧を制御するデューティ比を指令するデューティ比指令値(デューティ比の目標値)でもよい。
【0016】
電力変換器20は、ソーラーパネル10が出力する第1の直流電力を、MPPT制御器70から供給される制御指令値に応じて、第2の直流電力に変換して出力するDC-DCコンバータである(DC:Direct Current)。電力変換器20は、MPPT制御器70から供給される制御指令値に応じて、ソーラーパネル10からの入力電圧を出力電圧Voutに変換し、直列に接続される複数のセル301~30Nの両端に出力電圧Voutを印加する。これにより、複数のセル301~30Nの各々の両端(陽極と陰極との間)に、出力電圧Voutを分圧した電圧が印加される。
【0017】
図2は、水電気分解セルの構造例を示す図である。セル30は、セル30
1~30
Nのうちの一つのセルを表す。セル30は、電解槽とも称する。セル30は、陽極31と、陰極32と、隔膜33とを有する。隔膜33は、陽極31と陰極32との間に挟まれている。陽極31に供給される水(H
2O)は、陽極31と陰極32との間に印加される電圧により電気分解される。この電気分解によって、陽極31において酸素(O
2)が発生し、水素イオン(H
+)が陽極31側から隔膜33を通って陰極32側に移動して、陰極32において水素(H
2)が発生する。陽極31において発生した酸素は、酸素配管を介して、大気に放出又は貯蔵される。陰極32において発生した水素は、水素配管61(
図1参照)を介して、水素タンク60に貯蔵される。水素タンク60に貯蔵された水素は、エネルギーとして利用される。
【0018】
図3は、水電気分解セルの電気特性の一例を示す図である。水電気分解セルは、ダイオードのような電流‐電圧特性を持っており、1~1.5V程度の閾値電圧V
cellから急激に電流が流れ出し、電気分解が始まる。N個のセルが直列に接続される場合、直列に接続されるN個のセル全体の閾値電圧は、V
cellのN倍となる(V
cell×N)。セルに流れる電流が大きくなるほど、水素の発生量も多くなる。
【0019】
ところが、水電気分解セルを使用し続けると、電極の劣化により水電気分解セルの抵抗が増大し、電流が流れにくくなることがある。
【0020】
図4は、水電気分解セルの単体の電気特性の一例を示す図である。
図5は、一つの水電気分解セルが劣化した状態を示す図である。
図4,5に示すように、多数直列の水電気分解セルでは、直列に接続される複数のセルのうちいずれかのセルが劣化しただけでも、全体の電流量がI
aからI
bに低下する。直列に接続される複数のセルに流れる全体の電流量が低下すると、水素の発生量も低下してしまう。水電気分解システムの常時稼働を保証するためには、各セルの製品保証期間に余裕をもって、システムメンテナンスを行い、各セルの交換をすることが好ましい。また、いずれかのセルが劣化しても、水素の生成が継続されるため、その劣化を認識することが難しい。
【0021】
図6は、本開示に係る一実施形態における水電気分解システムの構成例を示す図である。
図1に示す構成と同様の構成についての説明は、上述の説明を援用することで、省略する。
図6は、直列に接続されるセルの個数Nが6の場合を例示するが、Nは、2以上の整数であればよい。
図6に示す水電気分解システム1001は、ソーラーパネル10及び水電気分解装置101を備える。水電気分解装置101は、電力変換器20、複数のセル30
1~30
6、MPPT制御器70、複数の検出回路40
1~40
6及び信号出力回路50を備える。
【0022】
複数の検出回路401~406は、複数のセル301~306の各々に対して設けられ、対応するセルに並列に接続される。検出回路401は、セル301に対して設けられ、対応するセル301に並列に接続され、検出回路402は、セル302に対して設けられ、対応するセル302に並列に接続される。他の検出回路403~406も同様である。複数の検出回路401~406は、それぞれ、対応するセルに並列に接続される迂回路に流れる電流を検出する。
【0023】
信号出力回路50は、複数の検出回路401~406のうち少なくとも一つの検出回路により検出される電流の電流値が閾値(以下、閾値Ithともいう)を超えると、信号Aを出力する。信号Aは、警告のための信号の一例である。
【0024】
セルの劣化が進行すると、当該セルの抵抗が増大するので、劣化したセルに比べて、劣化したセルに並列に接続される検出回路の方に、電流が流れやすくなる。水電気分解システム1001は、複数のセル301~306の個々に並列接続される複数の検出回路401~406と、複数の検出回路401~406のうち少なくとも一つに流れる電流の電流値が閾値Ithを超えると信号Aを出力する信号出力回路50とを備える。水電気分解システム1001は、このような構成を備えるので、一つのセルが劣化しても、他のセルでの水電気分解を停止させることなく、信号Aに基づく警告を発することができる。信号A自体又は信号Aに基づく信号を検知することによって、いずれかのセルの劣化を外部から認識することが容易になる。
【0025】
信号出力回路50は、論理回路により形成されてもよいし、プロセッサを備えるマイクロコンピュータを含む回路により形成されてもよい。信号出力回路50が論理回路により形成される場合、信号出力回路50の機能は、論理回路の組み合わせにより実現される。
信号出力回路50がマイクロコンピュータを含む回路により形成される場合、信号出力回路50の機能は、マイクロコンピュータにインストールされた一以上のプログラムがプロセッサに実行させる処理により実現される。
【0026】
図7は、一比較形態(
図1)における劣化時の電流経路を示す図である。Mは、2以上N以下の整数である。一部のセル30
Mが劣化すると、セル30
Mの抵抗値が高くなるので、
図7に示す構成では、直列に接続されるセル30
M,30
M-1全体に流れる電流I
1は、制限される。セル30
Mが劣化すると、セル30
Mに流れる電流だけでなく、セル30
Mに直列に接続される正常なセル30
M-1に流れる電流も減少するので、システム全体での水素の発生量が低下してしまう。
【0027】
これに対し、
図8は、一実施形態(
図6)における劣化時の電流経路を示す図である。一部のセル30
Mが劣化すると、セル30
Mの抵抗値が高くなるので、セル30
Mに流れる電流I
3は減少する。一方、電流は、劣化したセル30
Mよりも、セル30
Mに並列に接続される検出回路40
Mに流れやすくなるので、検出回路40
Mに流れる電流は増加する。このように、高抵抗のセル30
Mは検出回路40
Mによってバイパスされるため、正常なセル30
M-1に流れる電流I
2の減少は抑制され、システム全体での水素の発生量の低下を抑制できる。
【0028】
検出回路40Mは、対応するセル30Mに並列に接続される迂回路46Mと、迂回路46Mに流れる電流を制限する制限回路42Mとを有する。迂回路46Mは、対応するセル30Mの陽極31に電気的に接続される一端と、対応するセル30Mの陰極32に電気的に接続される他端とを有する。制限回路42Mは、対応する迂回路46Mに直列に挿入されている。制限回路42Mは、対応するセル30Mのセル電圧(セル30Mの両端の電位差)の上昇によって、迂回路46Mに流れる電流の制限を緩和する。この構成によれば、セル30Mの劣化前に、迂回路46Mに電流が流れることを制限できる。また、この構成によれば、セル30Mがその後に劣化すると、抵抗値の増大したセル30Mに電流が流れることによりセル30Mのセル電圧が上昇するので、セル30Mよりも迂回路46Mに電流を流しやすくすることができる。
【0029】
図8に示す形態では、制限回路42
Mは、迂回路46
Mに直列に挿入される少なくとも一つのダイオード41を有し、ダイオード41は、迂回路46
Mに流れる電流の向きを順方向とする。この構成により、制限回路42
Mは、対応するセル30
Mのセル電圧が所定値V
Rよりも低い場合、高い場合に比べて、迂回路46
Mに流れる電流を制限できる。所定値V
Rは、セル30
Mの閾値電圧V
cellよりも高い電圧値に設定され、少なくとも一つのダイオード41の順方向電圧の総和によって決定される。対応するセル30
Mのセル電圧が所定値V
Rよりも上昇すると、ダイオード41による電流制限が緩和されるので、電流を迂回路46
Mに流し始めることができる。
【0030】
同様に、検出回路40M-1は、対応するセル30M-1に並列に接続される迂回路46M-1と、迂回路46M-1に流れる電流を制限する制限回路42M-1とを有する。制限回路42M-1の構成は、制限回路42Mと同一なので、その説明は、上述の説明を援用することで省略する。
【0031】
図9は、一比較形態(
図1)における等価回路を示す図である。過渡的に流れる電流ではなく定常的に流れる電流について示すため、
図9に示す等価回路11は、単純化されている。詳細には、
図9では、セルに並列に接続されるキャパシタ成分は省略されている。等価回路11を用いて、一個の水電気分解セルが劣化した場合における、全体の電流量と水素発生量との関係について説明する。直列に接続される複数のセル30
1~30
Nのうち任意の一個のセル30
Nの抵抗値が増大したときのセル全体に流れる電流I
cellの電流値は、
【0032】
【0033】
と表すことができる。Eは、直列に接続される複数のセル301~30Nの両端に印加される電圧、Vcellは、セル一個当たりの閾値電圧、Nは、直列に接続されるセルの個数(正常なセルと劣化したセルの合計)を表す。Rcは、正常なセルの抵抗値、Rcdは、劣化したセルの抵抗値を表す。
【0034】
図10は、一実施形態(
図6)における等価回路を示す図である。
図9と同様、
図10に示す等価回路12では、セルに並列に接続されるキャパシタ成分は省略されている。
図11は、
図10の等価回路を単純化した等価回路を示す図である。
図11に示す等価回路13は、理想ダイオード34,35,36を使い、セルの回路をまとめることで、単純化されている。
図10,11において、直列に接続される複数のセル30
1~30
Nのうち任意の一個のセル30
Nの抵抗値が増大したときのセル全体に流れる電流I
cellの電流値は、以下の3つの状態に分けて、定義されることができる。
【0035】
状態1は、電圧Eの分圧によるセル301~30Nの各々の両端電圧が、セル301~30Nの各々の閾値電圧Vcellよりも低く、セル301~30N及び迂回路461~46Nに電流が流れない状態を示す。
【0036】
【0037】
状態2は、電圧Eの分圧によるセル301~30Nの各々の両端電圧が、セル301~30Nの各々の閾値電圧Vcellよりも高く、セル301~30Nに電流が流れるが、迂回路461~46Nに電流が流れない状態を示す。
【0038】
【0039】
状態3は、電圧Eの分圧によるセル301~30Nの各々の両端電圧が、セル301~30Nの各々の閾値電圧Vcellよりも高く、セル301~30N及び迂回路46Nに電流が流れる状態を示す。状態3では、セル30Nの両端に印加される電圧は、電流制限を緩和する閾値である上述の所定値VRよりも高いので、迂回路46Nには電流が流れる。しかし、状態3では、セル301~30N-1の各々の両端に印加される電圧は、所定値VRよりも低いので、迂回路461~46N-1には電流が流れない。
【0040】
【0041】
また、
図9及び
図10,11において、セル30
1~30
N全体での単位時間当たりの水素発生量V
H2は、
【0042】
【数5】
で表される。nはモル数、V
mはモル体積、Fはファラデー定数、Rは気体定数、Tは温度、Pは圧力を表す。
【0043】
図12は、計算結果の一例を示す図である。電流I
cellは、式1の計算結果(等価回路11)と式6の計算結果(等価回路13)を示す。電流I
cdは、式3の計算結果(等価回路13)を示す。電流I
dは、式4の計算結果(等価回路13)を示す。水素発生量V
H2は、式7の計算結果(等価回路11及び等価回路13)を示す。
図12に示すように、等価回路13は、等価回路11に比べて、劣化したセル30
Nの抵抗値R
cdが増加しても、電流I
cellの減少を抑制できるので、水素発生量V
H2の低下を抑制できる。例えば、抵抗値R
cdが正常値10[mΩ]の場合、水素発生量V
H2は、等価回路11の場合も等価回路13の場合もいずれも、1.036[Nm
3/h]となる。抵抗値R
cdが100[mΩ]に増大した場合、水素発生量V
H2は、等価回路11の場合、0.545[Nm
3/h]まで低下するのに対し、等価回路13の場合、1.002[Nm
3/h]までの低下に抑制される。
【0044】
なお、
図12の計算結果における計算条件を、
セルの個数N:10[個]
セル一個あたりの閾値電圧V
cell:1.229[V]
ダイオードの抵抗値R
d:1[mΩ]
ダイオードの個数N
d:3[個]
正常なセルの抵抗値R
c:10[mΩ]
劣化したセルの抵抗値R
cd:100[mΩ]
セル全体に印加する電圧E:35[V]
ダイオードの順方向電圧V
f:1.2[V]
とする。
【0045】
図13は、セル電圧とセル抵抗の関係を例示する図である。一のセルに並列に接続される一又は複数のダイオード41の順方向電圧の総和は、対応するセルのセル電圧の最小値と最大値との間にあることが好ましい。
図13において、セル電圧の正常値は、セル電圧の最小値の一例であり、セル電圧の劣化判定値は、セル電圧の最大値の一例を示す。セル電圧の正常値は、セルが劣化する前の初期状態でセルの両端に発生する電圧値を表す。セル電圧の劣化判定値は、劣化したセルの抵抗上限値とセルに流す最大電流との積を表す。劣化したセルの抵抗上限値は、セルの製造メーカにより規定される。
【0046】
ダイオード41の順方向電圧の総和が、対応するセルのセル電圧の最小値と最大値との間にあることで、劣化前の正常時には、ダイオード41に流れる電流を阻止できる一方、セルの抵抗値が上限値に到達する前に、ダイオード41に電流を流すことを許容できる。
【0047】
一のセルに並列に接続されるダイオード41の個数Ndは、(セル電圧の正常値/一のダイオードの順方向電圧Vf)よりも大きく、且つ、(セル電圧の劣化判定値/一のダイオードの順方向電圧Vf)よりも小さい整数に設定されるとよい。例えば、初期抵抗100[mΩ]のセルが、上限の200[mΩ]まで増大したとする。この場合、最大電流を20[A]としたとき、セル電圧は4[V]に上昇する。ダイオードの順方向電圧Vfを1.2[V]とすると、個数Ndは、3に設定される。
【0048】
図14は、検出回路の第1の構成例を示す図である。セル30は、セル30
1~30
Nのうちの一つのセルを表す。
図14に示す検出回路40Aは、自身に対応する一のセル30に並列に接続される。検出回路40Aは、迂回路46に流れる電流I
dの電流値が所定の閾値I
thを超えると、セル30の劣化を検出したことを表す検出出力Bを発生させる。
図14に示していないモジュールは、検出出力Bを受けると、警告メッセージを発する。
図14に示す構成では、閾値I
thは、検出閾値Dにより設定される。検出回路40Aは、セル30に並列に接続される迂回路46と、迂回路46に流れる電流を検出するセンサ53と、センサ53の出力電圧を増幅するアンプ54と、アンプ54の出力電圧を検出閾値Dと比較するコンパレータ55とを有する。
【0049】
図15は、検出回路の第1の構成例(
図14)の動作を例示する図であり、電流I
cdと電流I
dと検出出力Bとの関係を例示する。セル30の両端への印加電圧(セル電圧V
cd)が閾値電圧V
cellを超えると、セル30に電流I
cdが流れ始める。セル電圧V
cdが所定値V
R(=V
f×N
d)を超えると、セル30に並列に接続される迂回路46に電流I
dが流れ始める。閾値I
thは、検出閾値Dにより設定される。コンパレータ55は、電流I
dの電流値が閾値I
thよりも低い状態(すなわち、アンプ54の出力電圧が検出閾値Dよりも低い状態)では、セル30の劣化を検出していないことを表すローレベルの検出出力Bを発生させる。一方、コンパレータ55は、電流I
dの電流値が閾値I
thよりも高い状態(すなわち、アンプ54の出力電圧が検出閾値Dよりも高い状態)では、セル30の劣化を検出したことを表すハイレベルの検出出力Bを発生させる。検出出力Bは、信号出力回路50(
図6参照)に入力される。信号出力回路50は、ハイレベルの検出出力Bがいずれかの検出回路から入力されると、信号Aを出力する。
【0050】
水電気分解セルの抵抗値の増加による水素発生量の低下を許容する基準、ハイレベルの検出出力Bを発生させる基準及び信号Aを出力する基準は、システムによって異なる。コンパレータ55の検出閾値Dを変更することによって、それらの基準を容易に設定変更できる。
【0051】
図16は、検出回路の第2の構成例を示す図である。セル30は、セル30
1~30
Nのうちの一つのセルを表す。
図16に示す検出回路40Bは、自身に対応する一のセル30に並列に接続される。検出回路40Bは、迂回路46に流れる電流I
dを制限する制限回路42Bを有する。制限回路42Bは、迂回路46に直列に挿入されるスイッチ43を有する。スイッチ43は、対応するセル30のセル電圧V
cdの上昇によってオンするスイッチング素子であり、より具体的には、Nチャネル型のFET(Field Effect Transistor)である。制限回路42Bは、対応するセル30のセル電圧V
cdを分圧する分圧回路47を有する。スイッチ43は、分圧回路47の出力に基づいてオンする。
【0052】
図17は、検出回路の第2の構成例(
図16)の動作を例示する図である。セル30の抵抗値の増大により、セル電圧V
cdは上昇する。セル電圧V
cdの上昇に伴って、セル電圧V
cdを分圧回路47の抵抗44,45により分圧することにより得られるゲート電圧V
gも上昇する。ゲート電圧V
gがスイッチ43の閾値電圧V
thを超えると、スイッチ43に電流I
dが流れ始める。抵抗44,45の抵抗値を変更することで、電流を迂回路46に流すか否かの切り替え閾値を容易に設定変更できる。
【0053】
図18は、検出回路の第3の構成例を示す図である。セル30は、セル30
1~30
Nのうちの一つのセルを表す。
図18に示す検出回路40Cは、自身に対応する一のセル30に並列に接続される。検出回路40Cは、迂回路46に流れる電流I
dを制限する制限回路42Bを有する。制限回路42Bは、対応するセル30のセル電圧V
cdが低下しても、コンパレータ55の検出出力Bに基づいて、スイッチ43のオンを保持するラッチ回路56を有する。ラッチ回路56は、コンパレータ55の検出出力Bがローレベルからハイレベルに切り替わると、スイッチ43のオンを保持するハイレベルのオン信号Rを出力する。ラッチ回路56は、その後、コンパレータ55の検出出力Bが再びローレベルに切り替わっても、ハイレベルのオン信号Rの出力を継続する。スイッチ43のオンによりセル30の両端は短絡するので、劣化したセル30に電流を流さずに、迂回路46に電流を流すようにすることができる。
【0054】
図19は、検出回路の第3の構成例(
図18)の動作を例示する図である。セル30の抵抗値の増大により、セル電圧V
cdは上昇する。セル電圧V
cdの上昇に伴って、セル電圧V
cdを分圧回路47の抵抗44,45により分圧することにより得られるゲート電圧V
gも上昇する。ゲート電圧V
gがスイッチ43の閾値電圧V
thを超えると、スイッチ43に電流I
dが流れ始める。電流I
dの電流値が、検出閾値Dによって決まる閾値I
thを超えると、検出出力Bがハイレベルに切り替わり、ハイレベルのオン信号Rが出力される。ハイレベルのオン信号Rが出力されると、スイッチ43はオンするので、セル電圧V
cdの電圧値は略零に低下する。セル電圧V
cdの電圧値が略零に低下し、検出出力Bが再びローレベルに切り替わっても、ラッチ回路56は、オン信号Rをハイレベルに保持する。このように、劣化したセル30の両端が短絡された状態が保持されるので、劣化したセル30に電流が流れ続けないようにすることができる。
【0055】
以上、実施形態について説明したが、本開示の技術は上記の実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が可能である。
【0056】
例えば、発電装置は、再生可能エネルギーの一つである太陽光を用いて電力を発電する装置に限られず、風力などの他の再生可能エネルギーを用いて電力を発電する装置でもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 ソーラーパネル
11,12,13 等価回路
20 電力変換器
30,301~30N 水電気分解セル
31 陽極
32 陰極
33 隔膜
40A,40B,40C,401~40N 検出回路
41 ダイオード
42,421~42N,42B 制限回路
43 スイッチ
46,461~46N 迂回路
47 分圧回路
50 信号出力回路
53 センサ
54 アンプ
55 コンパレータ
56 ラッチ回路
60 水素タンク
70 MPPT制御器
101 水電気分解装置
1000,1001 水電気分解システム