(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】化粧料用亜鉛化合物、及び化粧料用亜鉛化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 9/02 20060101AFI20230221BHJP
A61K 8/27 20060101ALN20230221BHJP
A61Q 1/02 20060101ALN20230221BHJP
A61Q 1/08 20060101ALN20230221BHJP
A61Q 1/10 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
C01G9/02 Z
C01G9/02 B
C01G9/02 A
A61K8/27
A61Q1/02
A61Q1/08
A61Q1/10
(21)【出願番号】P 2019030268
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】391015373
【氏名又は名称】大東化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【氏名又は名称】井上 勉
(72)【発明者】
【氏名】後藤 武弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷 昇
(72)【発明者】
【氏名】蔵之上 明希子
(72)【発明者】
【氏名】粂井 貴行
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-083766(JP,A)
【文献】特開2019-026620(JP,A)
【文献】特開平06-115937(JP,A)
【文献】特開2017-197559(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225310(WO,A1)
【文献】特開2013-095668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/02
A61K 8/27
A61Q 1/02
A61Q 1/08
A61Q 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成体である板状の化粧料用亜鉛化合物であって、
全長が5~50μmであり、全長と厚さとの比率であるアスペクト比が6~100である化粧料用亜鉛化合物。
【請求項2】
オレイン酸を含む油脂に添加して含有量が10重量%以上となる油脂混合物を調製した場合において、当該油脂混合物が2~10分で固化又はゲル化するように設定されている請求項1に記載の化粧料用亜鉛化合物。
【請求項3】
板状の化粧料用亜鉛化合物の製造方法であって、
アルカリ金属水酸化物を溶解させた第一原料水溶液と、水溶性亜鉛化合物及び加水分解性アルカリ化可能窒素含有化合物を溶解させた第二原料水溶液とを夫々調製する準備工程と、
前記第一原料水溶液に、前記第二原料水溶液の一部を滴下し、液中に水酸化亜鉛化合物の種結晶を生成する結晶生成工程と、
種結晶を含む混合液に、前記第二原料水溶液の残部を滴下し、結晶を成長させる結晶成長工程と、
結晶を含む混合液から当該結晶を分離する分離工程と、
分離した結晶を乾燥及び焼成する熱処理工程と、
を包含する化粧料用亜鉛化合物の製造方法。
【請求項4】
前記準備工程において、前記第一原料水溶液における前記アルカリ金属水酸化物の濃度を0.1~0.7mol/Lに調整し、前記第二原料水溶液における前記水溶性亜鉛化合物の濃度を0.2~4mol/L、前記加水分解性アルカリ化可能窒素含有化合物の濃度を0.4~12mol/Lに調整する請求項3に記載の化粧料用亜鉛化合物の製造方法。
【請求項5】
前記結晶生成工程は、混合液の水素イオン濃度(pH)が11以下に低減するまで実施される請求項3又は4に記載の化粧料用亜鉛化合物の製造方法。
【請求項6】
前記結晶生成工程は、生成した種結晶を熟成させる第一熟成工程を含む請求項3~5の何れか一項に記載の化粧料用亜鉛化合物の製造方法。
【請求項7】
前記結晶生成工程において、前記第二原料水溶液を滴下する前の前記第一原料水溶液の液温を70~95℃に維持する請求項3~6の何れか一項に記載の化粧料用亜鉛化合物の製造方法。
【請求項8】
前記結晶成長工程は、成長した結晶を熟成させる第二熟成工程を含む請求項3~7の何れか一項に記載の化粧料用亜鉛化合物の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程は、結晶を粉砕した状態で実施される請求項3~8の何れか一項に記載の化粧料用亜鉛化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の化粧料用亜鉛化合物、及び化粧料用亜鉛化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、顔のメイク等に用いる化粧料には、皮脂による油浮きが起こり難いこと、化粧くずれが起こり難いこと、使用感に優れることなどの性能が求められる。これらの性能を向上させるための化粧料の原材料の一つとして、従来から酸化亜鉛が用いられている。酸化亜鉛は、化粧料の使用感に関係する「滑り性」や「肌への付着性」等に影響を与える白色微粒子であり、オレイン酸等の脂肪酸と反応することで当該脂肪酸を固化又はゲル化させるという特性を有する。酸化亜鉛を含む化粧料を用いてメイクを行うと、酸化亜鉛が皮膚の毛穴から滲出する皮脂に含まれる脂肪酸に作用して皮脂の拡散が抑えられ、メイク後ある程度時間が経っても、化粧料の油浮きや化粧くずれが起こり難いものとなる。
【0003】
ところで、酸化亜鉛の性能(物性)は、形状、結晶構造、比表面積等の性状に左右される。本出願人は、化粧料に用いることが可能な酸化亜鉛として、これまで針状酸化亜鉛(特許文献1)や、球状酸化亜鉛(特許文献2)を開発し、これらを各種化粧品に配合して種々の検討を行ってきた。特許文献1には、針状酸化亜鉛粉体を配合した化粧料は、化粧料ののび、広がりやシワ隠し効果が優れたものとなることが記載されている。特許文献2には、球状酸化亜鉛粉体を配合した化粧料は、肌へ塗布した時の透明感、使用感、化粧持ちが優れたものとなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-81201号公報
【文献】特開2016-160165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化粧料の油浮きや化粧くずれを防止し、長時間に亘ってメイクを維持するためには、化粧料に含まれる酸化亜鉛と皮脂に含まれる脂肪酸とを効率よく反応させ、皮脂を迅速且つ均一に固化又はゲル化させることが求められる。ところが、これまでに開発してきた酸化亜鉛から得られた知見のみでは、どのような性状を有する酸化亜鉛が脂肪酸と効率よく反応し、化粧料の原材料として最適であるのか、十分に明らかになっているとは言えなかった。つまり、特許文献1の針状酸化亜鉛粉体を配合した化粧料や、特許文献2の球状酸化亜鉛粉体を配合した化粧料においても、化粧料の油浮きや化粧くずれをさらに長時間に亘って防止するという点では、まだ改善の余地があった。また、酸化亜鉛を含む化粧料の使用感に関しても、さらなる知見の蓄積が求められている。
【0006】
また、酸化亜鉛の代表的な製造方法として、水溶性亜鉛化合物の溶液反応を利用したものが知られているが、溶液反応は、亜鉛原料液の添加条件やタイミングによって反応機構や反応速度が変化することがあり、一定の性状を有する酸化亜鉛を安定して製造することが難しい場合がある。特許文献1の針状酸化亜鉛粉体や、特許文献2の球状酸化亜鉛粉体においても、亜鉛原料液として水溶性亜鉛化合物の水溶液を用いているが、溶液反応を行う際の亜鉛原料液の添加条件等については、特に詳細な検討はなされていない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、化粧料に配合したときに優れた使用感を達成しながら、化粧料の油浮きや化粧くずれを防止し、従来よりも長時間に亘ってメイクを維持することが可能な化粧料用亜鉛化合物を提供することを目的とする。また、本発明は、一定の性状を有する化粧料用亜鉛化合物を安定して製造するための化粧料用亜鉛化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明にかかる化粧料用亜鉛化合物の特徴構成は、
板状の化粧料用亜鉛化合物であって、
全長が5~50μmであり、全長と厚さとの比率であるアスペクト比が6~100であることにある。
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の末、数多くの種類の亜鉛化合物の中で板状の形態を有する亜鉛化合物が皮脂に含まれる脂肪酸を固化又はゲル化する性能に優れていることを見出し、さらに、このような板状の化粧料用亜鉛化合物において、全長が5~50μm、全長と厚さとの比率であるアスペクト比が6~100であるものが、化粧料に配合したときの使用感のみならず、脂肪酸を固化又はゲル化する性能に特に優れていることを突き止め、本構成の板状の化粧料用亜鉛化合物を創作するに至った。従って、本構成の化粧料用亜鉛化合物を化粧料の原材料として使用すると、当該化粧料を顔などの皮膚に塗布した場合、皮脂に含まれる脂肪酸が化粧料に含まれる亜鉛化合物と効率よく反応し、皮脂が迅速且つ均一に固化又はゲル化されることになる。その結果、化粧料の油浮きや化粧くずれが防止され、従来よりも長時間に亘ってメイクを維持することが可能となる。また、化粧料に配合したときの使用感も優れたものとなる。
【0010】
本発明にかかる化粧料用亜鉛化合物において、
C16~C20モノ不飽和脂肪酸を含む油脂に添加して含有量が10重量%以上となる油脂混合物を調製した場合において、当該油脂混合物の流動性が2~10分で低減又は消失するように設定されていることが好ましい。
【0011】
皮脂の主成分はC16~C20モノ不飽和脂肪酸である。そこで、板状の化粧料用亜鉛化合物を、C16~C20モノ不飽和脂肪酸を含む油脂に濃度が10重量%以上となるように混合調製したとき、当該油脂混合物の流動性が2~10分で低減又は消失するものとすれば、本構成の化粧料用亜鉛化合物は、化粧料の原材料として使い勝手や化粧料に配合したときの使用感が良好なものでありながら、皮脂による油浮きや化粧くずれがより起こり難いものとなる。従って、化粧料の原材料として極めて有用なものとなり得る。
【0012】
上記課題を解決するための本発明にかかる化粧料用亜鉛化合物の製造方法の特徴構成は、
板状の化粧料用亜鉛化合物の製造方法であって、
アルカリ金属水酸化物を溶解させた第一原料水溶液と、水溶性亜鉛化合物及び加水分解性アルカリ化可能窒素含有化合物を溶解させた第二原料水溶液とを夫々調製する準備工程と、
前記第一原料水溶液に、前記第二原料水溶液の一部を滴下し、液中に水酸化亜鉛化合物の種結晶を生成する結晶生成工程と、
種結晶を含む混合液に、前記第二原料水溶液の残部を滴下し、結晶を成長させる結晶成長工程と、
結晶を含む混合液から当該結晶を分離する分離工程と、
分離した結晶を乾燥及び焼成する熱処理工程と、
を包含することにある。
【0013】
本構成の化粧料用亜鉛化合物の製造方法であれば、第一原料水溶液がアルカリ性であり、このようなアルカリ性環境下から出発して第二原料水溶液を二段階で添加することにより、結晶生成及び結晶成長が各段階で進行し、水酸化亜鉛化合物の結晶が生成する。そして、生成した水酸化亜鉛化合物の結晶を熱処理することで、酸化亜鉛を得ることができる。この酸化亜鉛は、板状の形態を有しており、化粧料に配合したときの使用感、及び皮脂に含まれる脂肪酸を固化又はゲル化する性能に優れているため、化粧料の原材料として有用なものとなる。
【0014】
本発明にかかる化粧料用亜鉛化合物の製造方法において、
前記準備工程において、前記第一原料水溶液における前記アルカリ金属水酸化物の濃度を0.1~0.7mol/Lに調整し、前記第二原料水溶液における前記水溶性亜鉛化合物の濃度を0.2~4mol/L、前記加水分解性アルカリ化可能窒素含有化合物の濃度を0.4~12mol/Lに調整することが好ましい。
【0015】
本構成の化粧料用亜鉛化合物の製造方法であれば、上記の濃度に調整した第一原料水溶液及び第二原料水溶液を用いて溶液反応を進行させることにより、化粧料に配合したときの使用感、及び皮脂に含まれる脂肪酸を固化又はゲル化する性能に特に優れた酸化亜鉛を含む化粧料用亜鉛化合物を効率的に且つ容易に製造することが可能となる。また、このような製造方法は、大量生産にも対応できるため、工業的製造にも適用可能となる。
【0016】
本発明にかかる化粧料用亜鉛化合物の製造方法において、
前記結晶生成工程は、混合液の水素イオン濃度(pH)が11以下に低減するまで実施されることが好ましい。
【0017】
本構成の化粧料用亜鉛化合物の製造方法であれば、結晶生成工程を混合液の水素イオン濃度(pH)が11以下に低減するまで実施することで、液中に水酸化亜鉛化合物の微結晶(種結晶)が大量に生成し易くなる。
【0018】
本発明にかかる化粧料用亜鉛化合物の製造方法において、
前記結晶生成工程は、生成した種結晶を熟成させる第一熟成工程を含むことが好ましい。
【0019】
本構成の化粧料用亜鉛化合物の製造方法であれば、結晶生成時に種結晶を熟成させる第一熟成工程を行うことで、種結晶の性状が安定し、その後の結晶成長を確実に行うことが可能となる。
【0020】
本発明にかかる化粧料用亜鉛化合物の製造方法において、
前記結晶生成工程において、前記第二原料水溶液を滴下する前の前記第一原料水溶液の液温を70~95℃に維持することが好ましい。
【0021】
本構成の化粧料用亜鉛化合物の製造方法であれば、第二原料水溶液を滴下する前の第一原料水溶液の液温を70~95℃に維持することで、液中に水酸化亜鉛化合物の微結晶が大量に生成し、これが種結晶となって、その後の結晶成長を効率よく進行させることが可能となる。
【0022】
本発明にかかる化粧料用亜鉛化合物の製造方法において、
前記結晶成長工程は、成長した結晶を熟成させる第二熟成工程を含むことが好ましい。
【0023】
本構成の化粧料用亜鉛化合物の製造方法であれば、結晶成長時に結晶を熟成させる第二熟成工程を行うことで、水酸化亜鉛化合物の結晶の成長が促進され、結晶サイズが適度に大きいものとなる。このような水酸化亜鉛化合物の結晶を熱処理すれば、化粧料に配合したときの使用感、及び皮脂に含まれる脂肪酸を固化又はゲル化する性能が良好でありながら、取り扱いも容易な板状の酸化亜鉛を得ることができる。
【0024】
本発明にかかる化粧料用亜鉛化合物の製造方法において、
前記熱処理工程は、結晶を粉砕した状態で実施されることが好ましい。
【0025】
本構成の化粧料用亜鉛化合物の製造方法であれば、結晶を粉砕した状態で熱処理工程を実施することで、水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の酸化亜鉛への転化(脱水反応)が確実に進行し、純度の高い化粧料に適した酸化亜鉛を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、実施例1の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、実施例1における原料混合液の水素イオン濃度(pH)の変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例2の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、実施例3の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、実施例4の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、実施例5の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、実施例6の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、実施例7の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、実施例8の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、実施例9の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、比較例1の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図12】
図12は、比較例2の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図13】
図13は、比較例3の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図14】
図14は、比較例4の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【
図15】
図15は、比較例5の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の化粧料用亜鉛化合物、及び化粧料用亜鉛化合物の製造方法について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態及び実施例に限定されることを意図するものではない。
【0028】
<化粧料用亜鉛化合物>
本発明の化粧料用亜鉛化合物は、その名に示すとおり化粧料(例えば、ファンデーション、頬紅、アイシャドウ、マスカラ、アイライナー等)の原材料として使用されるものである。亜鉛化合物は、主成分として酸化亜鉛を含むものであるが、当該亜鉛化合物には、酸化亜鉛の前駆体であって製造過程で残留した水酸化亜鉛化合物が含まれている可能性がある。しかしながら、本発明の化粧料用亜鉛化合物は、全体としては酸化亜鉛の特性が支配的であり、酸化亜鉛として見なしても特に支障がないため、以降の説明では、亜鉛化合物を酸化亜鉛として取り扱うものとする。
【0029】
本発明の酸化亜鉛は、板状の形態を有する結晶性の金属酸化物として得られる。酸化亜鉛のサイズとしては、全長が5~50μm、好ましくは10~45μmに設定される。また、アスペクト比は、6~100、好ましくは10~70に設定される。ここで、酸化亜鉛の全長とは、板状の酸化亜鉛を上方視した場合における最大幅(長軸)を意味する。アスペクト比とは、板状結晶における全長と厚さとの比率を意味する。酸化亜鉛の全長及び厚さは、簡便には、電子顕微鏡写真から複数の結晶粒子を任意に抽出し、各結晶粒子の全長及び厚さの計測値の平均値として特定することができる。このような形態を有する酸化亜鉛は、化粧料に配合したときの使用感だけでなく、脂肪酸(特に、C16~C20モノ不飽和脂肪酸)を固化又はゲル化させる性能に特に優れており、このような特性は、本発明者らの研究によって初めて明らかとなった。
【0030】
従って、本発明の酸化亜鉛を化粧料の原材料として使用すると、当該化粧料を顔などの皮膚に塗布した場合、皮脂に含まれる脂肪酸(主に、C18モノ不飽和脂肪酸であるオレイン酸)が化粧料に含まれる酸化亜鉛と効率よく反応し、皮脂が迅速且つ均一に固化又はゲル化されることになる。その結果、化粧料の油浮きや化粧くずれが防止され、従来よりも長時間に亘ってメイクを維持することが可能となり、化粧料に配合したときの使用感も優れたものとなる。
【0031】
本発明の酸化亜鉛は、C16~C20モノ不飽和脂肪酸を含む油脂に添加して含有量が10重量%以上となる油脂混合物を調製した場合において、当該油脂混合物の流動性が2~10分で低減又は消失するように設定されていることが好ましい。ここで、油脂混合物の流動性は、例えば、上記油脂混合物を水平に載置したガラス板の上に滴下し、ガラス板を揺動したとき、油脂混合物が流れ出さないことを以って、流動性が消失したと判断することができる。また、ガラス板の揺動によって上記油脂混合物が若干流れ出したとしても、流動量(ガラス板上での流動距離)が元の油脂の流動量の1/2以下となっていれば、流動性が低減したと判断することができる。このような油脂に対する固化又はゲル化性能を発揮できる酸化亜鉛であれば、化粧料の原材料として使い勝手や化粧料に配合したときの使用感が良好なものでありながら、皮脂による油浮きや化粧くずれがより起こり難いものとなる。従って、本発明の酸化亜鉛は、化粧料の原材料として極めて有用なものとなり得る。
【0032】
<化粧料用亜鉛化合物の製造方法>
本発明の酸化亜鉛(化粧料用亜鉛化合物)は、アルカリ性環境下において、水溶性亜鉛化合物を含む水溶液中での加水分解性アルカリ化可能窒素含有化合物の加水分解を利用した反応により製造されるものである。以下、本発明の酸化亜鉛の製造方法における各工程について説明する。
【0033】
初めに、準備工程として、アルカリ金属水酸化物を溶解させたアルカリ性水溶液(これを第一原料水溶液とする)と、水溶性亜鉛化合物及び加水分解性アルカリ化可能窒素含有化合物を溶解させた亜鉛含有水溶液(これを第二原料水溶液とする)とを夫々調製する。第一原料水溶液を調製するためのアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムが挙げられ、特に水酸化ナトリウムが好適に使用される。第二原料水溶液を調製するための水溶性亜鉛化合物としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、及び硝酸亜鉛が挙げられ、これらのうち硫酸亜鉛、及び塩化亜鉛が好適に使用される。加水分解性アルカリ化可能窒素含有化合物としては、尿素、及びヘキサメチレンテトラミンが挙げられ、入手容易性及びコストの点で尿素が好適に使用される。
【0034】
第一原料水溶液の調製においては、調製後の水溶液中に含まれるアルカリ金属水酸化物が0.1~0.7mol/Lとなるように、好ましくは0.4~0.5mol/Lとなるように濃度調整される。この場合、第一原料水溶液の水素イオン濃度(pH)は、12以上となる。第二原料水溶液の調製においては、調製後の水溶液中に含まれる水溶性亜鉛化合物が0.2~4mol/Lとなるように、好ましくは0.6~2mol/Lとなるように濃度調整され、また、調製後の水溶液中に含まれる加水分解性アルカリ化可能窒素含有化合物が0.4~12mol/Lとなるように、好ましくは1.2~9mol/Lとなるように濃度調整される。上記の濃度に調整した第一原料水溶液及び第二原料水溶液を用いて溶液反応を進行させることにより、本発明の酸化亜鉛の前駆体となる水酸化亜鉛化合物を効率的に且つ容易に製造することが可能となる。また、このような製造方法は、大量生産にも対応できるため、工業的製造にも適用可能となる。
【0035】
本発明の酸化亜鉛の製造方法における反応機構は、種結晶(核)となる水酸化亜鉛化合物の微結晶を水溶液中に発生させ、これを成長させる反応である。すなわち、次に説明する結晶生成工程(一段目)と結晶成長工程(二段目)とを実行することにより、酸化亜鉛の前駆体となる水酸化亜鉛化合物の結晶が得られる。
【0036】
結晶生成工程では、第一原料水溶液に、第二原料水溶液の一部を滴下し(一段目)、液中に水酸化亜鉛化合物の種結晶を生成させる。その後、種結晶を安定させるため、必要に応じて熟成を行なう。結晶生成工程では、予め第一原料水溶液を加熱して一定の液温を維持しておくことが好ましい。その際の第一原料水溶液の液温は、70~95℃が好ましく、80~90℃がより好ましい。これにより、液中に水酸化亜鉛化合物の微結晶が大量に生成し、これが種結晶となって、その後の結晶成長を効率よく進行させることが可能となる。第二原料水溶液の滴下量は、第二原料水溶液全体の0.2~0.9倍量とすることが好ましく、0.5~0.8倍量とすることがより好ましい。上記の条件で第二原料水溶液を第一原料水溶液に滴下すれば、混合液のpHの低下が穏やかなものとなるため、種結晶が安定して生成される。なお、第一原料水溶液への第二原料水溶液の滴下は、混合液のpHが11以下に低減するまで実施することが好ましい。これにより、液中に水酸化亜鉛化合物の微結晶(種結晶)が大量に生成し易くなる。
【0037】
結晶成長工程では、種結晶を含む混合液に、第二原料水溶液の残部を滴下し(二段目)、結晶を成長させる。なお、この第二原料水溶液の残部の滴下(二段目)は、一度に(すなわち、連続的に)行ってもよいし、複数回に分けて(すなわち、間欠的に)行うことも可能である。その後、結晶の成長を促進させるため、必要に応じて熟成を行なう。第二原料水溶液の残部を滴下する際の混合液の液温は、結晶生成工程における液温(70~95℃)と同程度又は低い温度であっても構わない。また、混合液への第二原料水溶液の残部の滴下は、少量ずつ攪拌しながら行うことが好ましい。これにより、混合液中の種結晶が板状の結晶へと効率よく成長することができる。上記の条件で第二原料水溶液の残部を混合液に滴下すれば、混合液の最終的なpHは弱酸性となる5~6の範囲に落ち着くため、結晶の成長が適度に促進され、アスペクト比が適度に大きい板状の結晶が安定して生成される。
【0038】
上記の溶液反応で得られた結晶は、水酸化亜鉛が主成分である水酸化亜鉛化合物の結晶である。そこで、結晶を含む混合液から当該結晶を分離する分離工程を実施し、さらに、分離した結晶を乾燥及び焼成する熱処理工程を実施する。分離工程は、フィルタープレス、遠心分離機等を用いて行うことができる。熱処理工程では、焼成炉にて乾燥及び焼成を一連の工程として連続的に実施してもよいし、乾燥機で一旦乾燥を行った後に焼成炉で焼成を行うようにしてもよい。乾燥条件は、温度30~100℃で0.5~3時間とすることが好ましい。焼成条件は、400~800℃で1~5時間とすることが好ましい。水酸化亜鉛化合物の結晶を熱処理すると、水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛が脱水反応によって酸化亜鉛へと転化する。なお、熱処理工程は、結晶を粉砕した状態で行うことが好ましい。これにより、水酸化亜鉛の酸化亜鉛への転化(脱水反応)が確実に進行し、結晶性及び純度の高い化粧料に適した全長5~50μm、アスペクト比6~100を有する本発明の化粧料用酸化亜鉛を得ることができる。
【実施例】
【0039】
本発明にかかる酸化亜鉛を種々の条件にて製造し、それらの特性を評価した(実施例1~9)。また、比較のため、本発明とは異なる条件にて酸化亜鉛を製造し、同様に特性を評価した(比較例1~5)。実施例及び比較例にかかる酸化亜鉛の製造条件を表1に纏めるとともに、具体的な製造方法を以下に説明する。
【0040】
【0041】
〔実施例1〕
第一原料水溶液として、0.4mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、0.6mol/Lの硫酸亜鉛及び1.2mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下した(一段目)。滴下後の混合液の水素イオン濃度(pH)は11以下となり、液中に無数の水酸化亜鉛化合物の種結晶が析出していることが確認された。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの硫酸亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて500℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、実施例1の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が15μm、アスペクト比が50であり、板状の形態を有するものであった。実施例1の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図1に示す。また、水酸化ナトリウム水溶液(第一原料水溶液)に硫酸亜鉛/尿素混合水溶液(第二原料水溶液)を滴下するにあたり、得られた原料混合液の水素イオン濃度(pH)の変化を示すグラフを
図2に示す。
図2によれば、水酸化ナトリウム水溶液に対して一段目の硫酸亜鉛/尿素混合水溶液を滴下することにより混合液のpHは10.9となり、熟成後、二段目の硫酸亜鉛/尿素混合水溶液の滴下を開始すると混合液のpHは急激に低下し、その後、混合液のpHの低下は徐々に緩やかとなり、最終的に混合液のpHは5.5付近で落ち着いた。
【0042】
〔実施例2〕
第一原料水溶液として、0.4mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、2.0mol/Lの硫酸亜鉛及び4.0mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液50mL(0.2倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下した(一段目)。滴下後の混合液の水素イオン濃度(pH)は11以下となり、液中に無数の水酸化亜鉛化合物の種結晶が析出していることが確認された。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの硫酸亜鉛/尿素混合水溶液200mL(0.8倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて500℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、実施例2の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が18μm、アスペクト比が60であり、板状の形態を有するものであった。実施例2の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図3に示す。
【0043】
〔実施例3〕
第一原料水溶液として、0.5mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、0.6mol/Lの硫酸亜鉛及び1.2mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下した(一段目)。滴下後の混合液の水素イオン濃度(pH)は11以下となり、液中に無数の水酸化亜鉛化合物の種結晶が析出していることが確認された。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの硫酸亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて500℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、実施例3の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が20μm、アスペクト比が60であり、板状の形態を有するものであった。実施例3の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図4に示す。
【0044】
〔実施例4〕
第一原料水溶液として、0.4mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、0.6mol/Lの硫酸亜鉛及び1.2mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下した(一段目)。滴下後の混合液の水素イオン濃度(pH)は11以下となり、液中に無数の水酸化亜鉛化合物の種結晶が析出していることが確認された。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの硫酸亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま120分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて500℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、実施例4の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が25μm、アスペクト比が70であり、板状の形態を有するものであった。実施例4の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図5に示す。
【0045】
〔実施例5〕
第一原料水溶液として、0.4mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、0.6mol/Lの硫酸亜鉛及び9.0mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下した(一段目)。滴下後の混合液の水素イオン濃度(pH)は11以下となり、液中に無数の水酸化亜鉛化合物の種結晶が析出していることが確認された。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの硫酸亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて500℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、実施例5の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が13μm、アスペクト比が40であり、板状の形態を有するものであった。実施例5の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図6に示す。
【0046】
〔実施例6〕
第一原料水溶液として、0.4mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、0.6mol/Lの硫酸亜鉛及び1.2mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下した(一段目)。滴下後の混合液の水素イオン濃度(pH)は11以下となり、液中に無数の水酸化亜鉛化合物の種結晶が析出していることが確認された。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの硫酸亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて600℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、実施例6の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が20μm、アスペクト比が60であり、板状の形態を有するものであった。実施例6の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図7に示す。
【0047】
〔実施例7〕
第一原料水溶液として、0.4mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、0.6mol/Lの硫酸亜鉛及び1.2mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下した(一段目)。滴下後の混合液の水素イオン濃度(pH)は11以下となり、液中に無数の水酸化亜鉛化合物の種結晶が析出していることが確認された。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの硫酸亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて800℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、実施例7の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が20μm、アスペクト比が60であり、板状の形態を有するものであった。実施例7の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図8に示す。
【0048】
〔実施例8〕
第一原料水溶液として、0.5mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、1.0mol/Lの塩化亜鉛及び2.0mol/Lの尿素を含む塩化亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに塩化亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下した(一段目)。滴下後の混合液の水素イオン濃度(pH)は11以下となり、液中に無数の水酸化亜鉛化合物の種結晶が析出していることが確認された。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの塩化亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて400℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、実施例8の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が20μm、アスペクト比が13であり、板状の形態を有するものであった。実施例8の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図9に示す。
【0049】
〔実施例9〕
第一原料水溶液として、0.5mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、2.0mol/Lの塩化亜鉛及び2.0mol/Lの尿素を含む塩化亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに塩化亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下した(一段目)。滴下後の混合液の水素イオン濃度(pH)は11以下となり、液中に無数の水酸化亜鉛化合物の種結晶が析出していることが確認された。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの塩化亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて400℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、実施例9の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が6μm、アスペクト比が6であり、板状の形態を有するものであった。実施例9の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図10に示す。
【0050】
〔比較例1〕
第一原料水溶液の代わりに水500mLを準備し、さらに、第二原料水溶液として、2.0mol/Lの硫酸亜鉛及び4.0mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液の全量250mLを攪拌しながら60分かけて滴下し、液中に水酸化亜鉛化合物の結晶を生成させた。滴下後の液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて500℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、比較例1の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が50μm、アスペクト比が125であり、板状の形態を有するものであった。比較例1の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図11に示す。
【0051】
〔比較例2〕
第一原料水溶液として、0.75mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、0.6mol/Lの硫酸亜鉛及び1.2mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下し(一段目)、液中に水酸化亜鉛化合物の種結晶を生成させた。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの硫酸亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて500℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、比較例2の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、板状の形態を有するものではなかった。比較例2の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図12に示す。
【0052】
〔比較例3〕
第一原料水溶液の代わりに水500mLを準備し、さらに、第二原料水溶液として、1.0mol/Lの塩化亜鉛及び2.0mol/Lの尿素を含む塩化亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに塩化亜鉛/尿素混合水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下し(一段目)、液中に水酸化亜鉛化合物の種結晶を生成させた。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの塩化亜鉛/尿素混合水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて400℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、比較例3の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、板状の形態を有するものではなかった。比較例3の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図13に示す。
【0053】
〔比較例4〕
第一原料水溶液として、0.5mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液の代わりに1.0mol/Lの塩化亜鉛を含む塩化亜鉛水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに塩化亜鉛水溶液100mL(0.4倍量)を攪拌しながら10分かけて滴下し(一段目))、液中に水酸化亜鉛化合物の種結晶を生成させた。次いで、種結晶を含む混合液をそのまま10分間攪拌することで種結晶を熟成させ、その後、混合液を攪拌しながら残りの塩化亜鉛水溶液150mL(0.6倍量)を60分かけて滴下し(二段目)、結晶を成長させた。成長後の結晶は、板状の水酸化亜鉛化合物の結晶であることが確認された。次いで、混合液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、混合液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて400℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、比較例4の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、全長(長軸)が20μm、アスペクト比が5であり、板状の形態を有するものであった。比較例4の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図14に示す。
【0054】
〔比較例5〕
第一原料水溶液として、0.4mol/Lの水酸化ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液500mLを調製し、さらに、第二原料水溶液として、0.6mol/Lの硫酸亜鉛及び1.2mol/Lの尿素を含む硫酸亜鉛/尿素混合水溶液250mLを調製した。水酸化ナトリウム水溶液を90℃まで加温し、これに硫酸亜鉛/尿素混合水溶液の全量250mLを攪拌しながら1分かけて滴下し、液中に水酸化亜鉛化合物の結晶を生成させた。滴下後の液をそのまま30分間攪拌することで結晶を熟成させ、その後、液から結晶を濾別し、水洗した。その後、水酸化亜鉛化合物の結晶を乾燥させ、続いて500℃で3時間焼成を行って水酸化亜鉛化合物に含まれる水酸化亜鉛の脱水反応を進行させ、比較例5の酸化亜鉛の結晶を得た。この酸化亜鉛は、板状の形態を有するものではなかった。比較例5の酸化亜鉛の電子顕微鏡写真を
図15に示す。
【0055】
実施例1~9の酸化亜鉛は、本発明の製造条件の範囲内で実施したものであり、全長が5~50μmであり、アスペクト比が6~100である板状の酸化亜鉛であった。特に、第二原料液として硫酸亜鉛を含むものを使用した実施例1~7の酸化亜鉛は、アスペクト比が適度に大きくなり、化粧料用亜鉛化合物として最適なものであった。また、実施例1、6、7の酸化亜鉛を比較すると、それらの電子顕微鏡写真(
図2、
図7、
図8)より、熱処理工程における焼成温度を高くなる程、結晶の多孔質化が進行することが確認された。
【0056】
一方、比較例1の酸化亜鉛は、出発原料液として第一原料水溶液の代わりに水を用いたことにより反応開始時のpHが低くなったため、結晶生成が十分に進行せず、その結果、結晶生成と結晶成長とのバランスが崩れ、アスペクト比が過大なものとなった。比較例2の酸化亜鉛は、第一原料水溶液における水酸化ナトリウムの含有量が過剰であったことにより反応開始時のpHが高くなったため、結晶成長が十分に進行せず、その結果、板状の結晶を形成することができなかった。比較例3の酸化亜鉛は、比較例1と同様に出発原料液として第一原料水溶液の代わりに水を用いたものであるが、第二原料水溶液として塩化亜鉛を含むものを使用すると、板状の結晶が形成されず不定形の粒子が形成された。比較例4の酸化亜鉛は、第二原料水溶液が尿素を含まないものであるが、この場合、第二原料水溶液の滴下によるpHの変化が過大となるため、結晶成長が十分に進行せず、その結果、結晶生成と結晶成長とのバランスが崩れ、アスペクト比が過少なものとなった。比較例5の酸化亜鉛は、第二原料水溶液の滴下を二段階で行わず一度に行ったものであるが、この場合、結晶生成と結晶成長とが十分に進行せず、その結果、不定形の粒子が形成された。
【0057】
<性能評価>
実施例1~9及び比較例1~5の酸化亜鉛を使用し、(1)使用感、(2)油脂の固化又はゲル化性能について評価を行った。夫々の評価方法を以下に説明する。
【0058】
(1)使用感
実施例1~9及び比較例1~5の酸化亜鉛を夫々含む化粧料(パウダーファンデーション)を調合し、各化粧料をパフで顔に塗布したときの使用感をパネラー10名により評価する官能評価試験を実施した。官能評価試験はアンケート形式で実施し、滑り性、付着性、化粧崩れ等の総合的な使用感について0点から5点の間の評価点をつけ、0点は使用感が最も悪く、5点は使用感が最も優れるものとして数値化し、結果を全パネラーの平均点として表した。
【0059】
(2)油脂の固化又はゲル化性能
油脂としてオレイン酸9gに、実施例1~9及び比較例1~5の酸化亜鉛1gを夫々混合して供試サンプルとした。各供試サンプル1gを水平に載置したガラス板の上に滴下し、ガラス板を揺動させて供試サンプルの流動性を目視により判断する確認試験を実施した。そして、試験開始から供試サンプルの流動性が低減又は消失した時点までの時間を固化又はゲル化時間とした。
【0060】
実施例1~9及び比較例1~5の酸化亜鉛を用いた評価結果を以下の表2に示す。
【0061】
【0062】
実施例1~9の酸化亜鉛を配合したパウダーファンデーションは、使用感の評価点が何れも4点以上となり、全体として優れた使用感を有する化粧料であると評価された。また、実施例1~9の酸化亜鉛によるオレイン酸の固化又はゲル化時間については、2~10分の範囲内となり、化粧料の原材料として使い勝手が良いものでありながら、化粧料の油浮きや化粧くずれを防止できるものであった。
【0063】
一方、比較例1~5の酸化亜鉛を配合したパウダーファンデーションは、使用感の評価点が何れも4点未満であり、化粧料として満足できるものではなかった。比較例1~5の酸化亜鉛によるオレイン酸の固化又はゲル化時間については、比較例1の酸化亜鉛は120分以上もの非常に長い時間を要しており、化粧料の原材料として適さないものであった。比較例2、5の酸化亜鉛も10分を超える時間を要しており、化粧料の原材料として使い勝手が良いとは言えなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の化粧料用亜鉛化合物は、ファンデーション、頬紅、アイシャドウ、マスカラ、アイライナー等の化粧料の原材料として利用可能である。また、本発明の化粧料用亜鉛化合物の製造方法は、上記化粧料の製造産業において利用可能である。