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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】二枚貝開殻方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A22C 29/04 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
A22C29/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019065677
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162472
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】594142160
【氏名又は名称】三工電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(74)【代理人】
【識別番号】100146020
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 善光
(74)【代理人】
【識別番号】100062328
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 剛啓
(72)【発明者】
【氏名】上川 哲治
(72)【発明者】
【氏名】友國 慶子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 吉光
(72)【発明者】
【氏名】黒川 義之
(72)【発明者】
【氏名】白鷹 常和
(72)【発明者】
【氏名】濱田 一三
(72)【発明者】
【氏名】中野 良広
(72)【発明者】
【氏名】東 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】坂本 智則
(72)【発明者】
【氏名】田村 善光
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-224058(JP,A)
【文献】特開2006-288371(JP,A)
【文献】特開2002-218904(JP,A)
【文献】特開平09-238610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牡蠣の殻内に環境水が流入可能な、殻の欠落部分を形成する殻欠落部分形成工程と、
牡蠣を開殻させる成分を添加した環境水に前記殻欠落部分形成工程後の牡蠣を浸漬させる牡蠣浸漬工程と、を備えることを特徴とする二枚貝開殻方法。
【請求項2】
前記殻の欠落部分が、牡蠣の殻のうちの蝶番側でない周縁部の一部であることを特徴とする請求項1に記載の二枚貝開殻方法。
【請求項3】
前記殻の欠落部分が、牡蠣の殻のうちの蝶番側でない周縁部の一部に、回転刃物を用いた切削加工により形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の二枚貝開殻方法。
【請求項4】
前記殻の欠落部分が、牡蠣に衝撃を与えて前記牡蠣の殻を破砕させて形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の二枚貝開殻方法。
【請求項5】
前記牡蠣を開殻させる成分が、二酸化炭素、塩化マグネシウム、あるいは、二酸化炭素及び塩化マグネシウムの混合物であることを特徴とする請求項1~4のいずれかの二枚貝開殻方法。
【請求項6】
牡蠣の殻内に環境水が流入可能な、殻の欠落部分を形成する殻欠落部分形成手段と、
牡蠣を開殻させる成分を添加した環境水に前記殻の欠落部分を形成した牡蠣を浸漬させる牡蠣浸漬手段と、を備えることを特徴とする二枚貝開殻装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牡蠣やホタテ貝等の二枚貝の殻を開ける二枚貝開殻方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二枚貝の開殻方法として、特許文献1には二枚貝の外殻を液体瓦斯で急冷させて二枚貝を開殻させる技術が開示されている。また、特許文献2には海水中に二枚貝を入れ二酸化炭素注入により前記海水のpHを5.5~6.5の範囲に低下させることにより開殻させる二酸化炭素による二枚貝の開殻方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には二枚貝を生息環境下の塩類濃度以上の濃度の塩類溶液であって、その生息環境下のマグネシウムイオン濃度より高い濃度でマグネシウムイオンを含む溶液に浸して二枚貝を開き、その二枚貝の2枚の貝殻の間に貝殻を開いた状態で保つための支持体を設ける開殻二枚貝の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献4には、アワビの体を麻酔により弛緩させてアワビ貝殻の内面に小核の固着をする方法が開示され、麻酔剤として、二酸化炭素、メチルアルコール、2-アミノ-1-フェニルチアゾール、p-アミノ安息香酸エチルエステル、2-メチルキノリン、メチル-1-メチルペンゾイル-イミダゾール-5-カルボキシレートが記載されている。
【0005】
また、二枚貝の貝殻の切断装置として、特許文献5には、モーター駆動する回転砥石と、前記回転砥石を被覆、露呈し得る少なくとも正面が開口したフードと、前記フードを載置しかつ前記回転砥石を支持する支持体とを有してなり、支持体は回転砥石を支持し、かつこれを被覆する被覆体、フードの支持台を備える、二枚貝の殻を切削する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開S55-21747号公報
【文献】特開平8-224058号公報
【文献】特開平9-238610号公報
【文献】特開平3-247222号公報
【文献】特開平7-194294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~4のうちのいずれかの発明は、二枚貝の貝柱や靭帯を弛緩させて開殻させる成分を海水に添加して、二枚貝を開殻させる方法である。しかし、例えば牡蠣が殻を閉じているときは2枚の殻の周縁部を完全に密着させるので、牡蠣が閉殻している状態で開殻させる有効成分の添加された海水に浸漬しても貝殻の内部に開殻させる有効成分の添加された海水が入ってこない。牡蠣が呼吸のために殻を開けたときでないと有効成分が殻内に入らないので、開殻効果を得るまで時間を要するという問題があり、それぞれの牡蠣ごとに有効成分が効き始まるまでの時間がばらつくという問題があった。
【0008】
特に、牡蠣については、元来、潮間帯に生息する生物であるため、殻を閉じて殻内の海水を保持した状態で24時間以上開殻せずに生存できる機能をもっており、有効成分が添加された海水に浸漬しても、牡蠣の個体によっては12時間以上経過しても開殻しない牡蠣がある。牡蠣は海水中に浸漬させているときは短時間で開殻することもあるが、水中に二酸化炭素や塩化マグネシウム等の異物を混入すると長時間閉殻状態を持続しなかなか開殻しないので、開殻させる有効成分を添加した海水に二枚貝を浸漬する方法では、処理時間が非常に長くなるという大きな問題があった。
【0009】
また、開殻が始まるまでの時間に非常に大きな個体差があったことから、処理時間を長くすると、処理の早い時間に開殻した個体は開殻状態での放置時間が長くなり、細菌等の微生物の付着や、殻等に付着した泥や底生生物等の死骸が付着する等の衛生面での問題があった。
【0010】
また、特許文献5の発明は、二枚貝の殻にナイフ挿入可能な切り欠きをつくっているが、ナイフ挿入を容易にできる大きさの切り欠きをつくらねばならないことから、切り欠きを切断加工などでつくるときに二枚貝の殻の周縁近傍にある軟体部を殻と同時に切断してしまうという問題があった。また、前記ナイフ挿入時は、貝柱が弛緩していないので二枚の貝殻を強く閉じている状態であるので、ナイフでこじ開けねばならないという問題があった。
【0011】
本発明はこうした問題に鑑み創案されたもので、二枚貝の軟体部を切断で損なうことなく、二枚貝の開殻処理時間を短く且つその開殻処理時間のばらつきがないように開殻を実現させることができる二枚貝開殻方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明における環境水とは、海産二枚貝において海水のことを意味し淡水産二枚貝においてが淡水のことを意味する。
【0013】
請求項1に記載の二枚貝開殻方法は、牡蠣の殻内に環境水が流入可能な、殻の欠落部分を形成する殻欠落部分形成工程と、牡蠣を開殻させる成分を添加した環境水に前記殻欠落部分形成工程後の牡蠣を浸漬させる牡蠣浸漬工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の二枚貝開殻方法は、請求項1において、前記殻の欠落部分が、牡蠣の殻のうちの蝶番側でない周縁部の一部であることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の二枚貝開殻方法は、請求項1又は2において、前記殻の欠落部分が、牡蠣の殻のうちの蝶番側でない周縁部の一部に、回転刃物を用いた切削加工により形成されることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の二枚貝開殻方法は、請求項1又は2において、前記殻の欠落部分が、牡蠣に衝撃を与えて前記牡蠣の殻を破砕させて形成されることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の二枚貝開殻方法は、請求項1~4のいずれかにおいて、前記牡蠣を開殻させる成分が、二酸化炭素、塩化マグネシウム、あるいは、二酸化炭素及び塩化マグネシウムの混合物であることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の二枚貝開殻装置は、牡蠣の殻内に環境水が流入可能な、殻の欠落部分を形成する殻欠落部分形成手段と、牡蠣を開殻させる成分を添加した環境水に前記殻の欠落部分を形成した牡蠣を浸漬させる牡蠣浸漬手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の二枚貝開殻方法又は二枚貝開殻装置は、二枚貝の軟体部を切断で損なうことなく、二枚貝の開殻処理時間を短く且つその開殻処理時間のばらつきがないように開殻を実現させることができ
る。これにより、菌等の微生物の付着や、殻等に付着した泥や底生生物等の死骸が付着する等の衛生面の問題を解消させることができた。
【0020】
また、本発明の二枚貝開殻方法又は二枚貝開殻装置を使用して得られた二枚貝は、開殻している状態であるので、刃物等の道具を使用して貝柱や靭帯を殻から切断して可食部である軟体部を切り出す作業が極めて容易になる。
【0021】
また、刃物等の道具を使用しないで、貝柱や靭帯と殻との結合部分を加熱又は冷却して可食部である軟体部を脱殻させる場合があるが、従来のように殻内が可食部と水分で満たされているときは殻外からかけた加熱又は冷却が可食部の品質に悪影響を与えるという問題があったが、本発明の二枚貝開殻方法又は二枚貝開殻装置を使用して得られた二枚貝の場合は、開殻によって殻内の水分が流出しやすいので、その水分を流出させれば水分より熱伝導率の低い空気等の環境中の気体に置き換わるため、可食部への悪影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】二枚貝開殻方法の工程を示す図である。
図2】炭酸ガス曝気時間とpHの変化を示す図である。
図3】炭酸ガス含有海水に浸漬した牡蠣の開殻割合の経時変化を示す図である。
図4】2%塩化マグネシウム海水に浸漬した牡蠣の開殻割合の経時変化を示す図である。
図5】牡蠣の平面視の図で、(a)が牡蠣の欠落部分を示す図で、(b)が欠落部分を有する牡蠣の図である。
図6】牡蠣の側面視の図で、(a)が牡蠣の欠落部分を示す図で、(b)が欠落部分を有する牡蠣の図で、(c)が二枚貝を開殻させる成分を添加した環境水に浸漬させて開殻した牡蠣を示す図である。
図7】二枚貝開殻工程の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の二枚貝開殻方法又は二枚貝開殻装置は、牡蠣やホタテ貝等の貝殻から生のままの可食部である軟体部を取り出す二枚貝の開殻に使用される。
【0024】
本発明の二枚貝開殻方法1は、図1に示すように、二枚貝10の殻内に環境水15が流入可能な、殻の欠落部分8を形成する殻欠落部分形成工程2と、二枚貝10を開殻させる成分を添加した環境水15に前記殻欠落部分形成工程2後の二枚貝10を浸漬させる二枚貝浸漬工程3と、を備える。
【0025】
二枚貝の貝の軟体部を取り出す工程は、図7に示すように、まず水揚げした二枚貝10に付いた藻や泥を除去する洗浄工程21、次に二枚貝10の殻内に環境水15が流入可能な、殻の欠落部分8を形成する殻欠落部分形成工程2、次に二枚貝10を開殻させる成分を添加した環境水15に前記殻欠落部分形成工程2後の二枚貝10を浸漬させる二枚貝浸漬工程3、次にナイフを使用したり、加熱又は冷却したりして軟体部を取り出す軟体部取り出し工程23、次にパッケージ等を行って出荷する出荷工程24を備えている。
【0026】
二枚貝10は開閉運動をする2枚の殻を有しており、牡蠣10の殻は比較的平らでフタをするようになっているフタ殻6と、深く窪んで膨らんでいる身殻7との2枚の殻を有している。そして、2枚の殻と身を連結しているのが、牡蠣10等の場合のように貝柱4のみである二枚貝10と、アサリやハナグリ等の場合のように貝柱4及び靭帯の2か所である二枚貝10がある。
【0027】
前記殻欠落部分形成工程2は、二枚貝10の殻内に環境水15が流入可能な、殻の欠落部分8を形成する工程である。牡蠣10の場合でいえば、フタ殻6や身殻7に隙が約1mm以上ある欠落部分8が形成されていればよい。例えば、図6(c)に示すように、欠落部分8の隙hが約1mm以上あれば環境水15が殻内に侵入してくる。さらに、欠落部分8が2個以上あれば環境水15の殻内への換水はより早くなる。なお、前記殻の欠落部分8は、牡蠣10の場合でいえば、フタ殻6と身殻7との密着させている殻の周縁部に限らず、フタ殻6と身殻7とのどちらかに孔(図示せず)を設けてもよい。すなわち、殻内に環境水15が流入可能な欠落部分8があればよい。
【0028】
そして、図5(b)や図6(b)、(c)に示すように、前記殻の欠落部分8が二枚貝10の殻のうちの蝶番5側でない周縁部の一部にある。牡蠣10の場合で言えば、図5に示すように、貝柱4が欠落部分8の近傍となることから、ナイフなどの切断具を使用する場合に貝柱4の付け根を殻から切り離しやすい。
【0029】
また、前記殻の欠落部分8を、二枚貝10の殻のうちの蝶番5側でない周縁部の一部に、例えば図5(a)や図6(a)の切断部位11の位置において、回転刃物を用いた切削加工により形成したり、前記殻の欠落部分8を二枚貝10に衝撃を与えて前記二枚貝の殻を破砕させて形成させることができる。前記回転刃物により切削加工した牡蠣は、図5(b)や図6(b)に示すように蝶番5側でない周縁部の一部に欠落部分8が形成される。前記欠落部分8は、図5図6に示すように蝶番5側でなく蝶番5側とは反対側の殻の周縁部に形成されるのが好ましい。
【0030】
前記回転刃物を用いた切削加工としては例えばドリルやグラインダー等が該当し、前記衝撃を与える事例としては、例えば回転ドラム内に牡蠣を複数個入れ、前記回転ドラムを回転させることによって、回転ドラム内の複数個の牡蠣が転がり、前記回転ドラム内壁や他の牡蠣と衝突させ、殻の一部が破砕されて欠落部分8をつくる方法がある。前記回転ドラムを使用する場合は、牡蠣の表面に付着している藻や泥等を除去するための洗浄作業を行う洗浄工程21のときに同時に行ってもよい。また殻欠落部分形成工程2では、叩いて殻を破砕して欠落部分8をつくってもよい。
【0031】
次に、二枚貝浸漬工程3を説明する。二枚貝浸漬工程3は、前記殻欠落部分形成工程2の次の工程であり、二枚貝10を開殻させる成分を添加した環境水15に前記殻欠落部分形成工程2後の二枚貝10を浸漬させる。前記二枚貝10を開殻させる成分としては、例として二酸化炭素、塩化マグネシウム、あるいは、二酸化炭素及び塩化マグネシウムの混合物がある。
【0032】
二枚貝浸漬工程3は、図7に示すように、二枚貝10を開殻させる成分を添加した環境水15を満たした水槽20に、牡蠣等の二枚貝10を浸漬させる。浸漬させた牡蠣は、例えば図6(c)に示すように、蝶番5側でない周縁部の一部に形成された欠落部分8が開殻し隙hが生じる。
【0033】
二枚貝10が開殻し、密着しているフタ殻6の周縁部と身殻7の周縁部との間に隙hが生じたのは、前記約1mmの開口部を有する欠落部分8から、二枚貝10を開殻させる成分を添加した環境水15が殻内に流入し換水された効果である。前記開殻は、二枚貝10を開殻させる成分が、フタ殻6と身殻7とを密着させている貝柱4を弛緩させたものと推定する。
【0034】
次に、軟体部取り出し工程23では、ナイフ等を開殻した箇所、例えば図6(c)における隙hから殻内に挿入して貝柱4を殻から切り離すが、二枚貝10が開殻しているので、こじあける必要がなくスムースにナイフを挿入でき、さらに前記欠落部分8を貝柱4の近傍に形成させた場合は極めて瞬時に容易に切り離すことができる。
【0035】
次に、出荷工程24である。殻欠落部分形成工程3で殻のうちの蝶番5側でない周縁部の一部に、殻内に環境水15が流入可能な隙1mm程度の欠落部分8を形成させて二枚貝10を開殻させたので、軟体部が切断されてないので、損傷がない軟体部を出荷することができる。
【0036】
次に、二枚貝開殻装置は、二枚貝10の殻内に環境水15が流入可能な、殻の欠落部分8を形成する殻欠落部分形成手段と、二枚貝10を開殻させる成分を添加した環境水15に前記殻の欠落部分8を形成した二枚貝10を浸漬させる二枚貝浸漬手段と、を備えている。そして、二枚貝開殻装置は二枚貝開殻方法1を実行する装置である。
【0037】
前記二枚貝開殻装置の前記欠落部分形成手段は、二枚貝開殻方法1の殻欠落部分形成工程2を実行する手段でありグラインダーやドリルなどの切削装置等を備え、前記二枚貝浸漬手段は二枚貝開殻方法1の二枚貝浸漬工程3を実行する手段であり、二酸化炭素、塩化マグネシウム、あるいは、二酸化炭素及び塩化マグネシウムの混合物である二枚貝10を開殻させる成分を環境水15に添加する二枚貝開殻成分添加部30と、前記二枚貝10を開殻させる成分を添加した環境水15を満たした水槽20とを備える。
【0038】
次に、実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0039】
まず、炭酸ガス添加実験を実施した。海水(開始時pH8.04)を水槽20に約45L入れ、炭酸ガスを5L/minの流量にて曝気させ、pH計にてpHの変化を記録した。その結果を、図2に示す。図2において測定したpHをpH値Pで示している。
【0040】
図2から、曝気時間約5分でpH値Pが5.22となり、炭酸ガスが海水中で水と結びついてイオン化したと推定される。曝気開始後2分で、pH値Pは5.65まで下がり、その後は曝気を終了した5分経過時まで緩やかに低下した。水槽20の形状や水温などの条件にもよるが、pH5程度の炭酸ガス含有海水は、10分以下の短時間の炭酸ガス曝気処理で得ることができ、かつ、使用機材やガス原料も比較的安価で手軽に調達できることがわかった。
【実施例1】
【0041】
次に、実施例1として、炭酸ガスによるマガキ開殻試験を実施した。まず、マガキに殻の欠落部分8を形成した。回転刃物としてダイヤモンド工具を装着したグラインダーを使用し、切断した隙間から殻内部の空洞が確認できるように、図5(a)や図6(a)における殻の削除部位11を幅5mm、殻内に向かって2mm程度の位置で切断した。
【0042】
実験は3回繰り返し実施した。検体は、本発明の二枚貝開殻方法1に基づくように殻の一部を切断し欠落部分8を形成して殻内に殻外から海水が入るようにした牡蠣20個と、比較例として殻内に海水流入用の欠落部分8がない10個を用いた。これらの検体の合計30個を同時にpH5前後の炭酸ガス含有海水を満たした水槽20内に投入し、前記海水中での開殻状況(開殻している割合)と、水槽20から取り上げて開殻を継続している個体について計数した。その結果を表1に示す。また、2回目の実験では、水槽20内での開殻状況について、投入3分後、5分後、10分後、20分後、75分後に計数した。その結果を表2及び図3に示す。図3において、実施例の殻切断牡蠣の開殻割合を開殻割合線Aで示し、比較例の通常牡蠣の開殻割合を開殻割合線Bで示している。
【0043】
【0044】
【0045】
表1、表2、図3から、pH5前後の炭酸ガス含有海水へ、幅5mmで殻内に向かって2mm程度の位置で切断した欠落部分8を形成した牡蠣を投入すると、投入後15分経過後には45%~55%が開殻したが、比較例の欠落部分8を形成しない牡蠣の場合は、投入後15分経過後は開殻割合が0%であり、顕著な効果が示された。
【0046】
また、pH5前後の炭酸ガス含有海水へ、幅5mmで殻内に向かって2mm程度の位置で切断した欠落部分8を形成した牡蠣を投入し、投入後75分経過後には85%が開殻したが、比較例の欠落部分8を形成しない牡蠣の場合は、投入後75分経過後は開殻割合が10%に留まっており、顕著な効果が示された。
【実施例2】
【0047】
次に、実施例2として、塩化マグネシウム(にがり)による開殻実験を実施した。まず、マガキ(牡蠣)に殻の欠落部分8を形成した。回転ドラム内に牡蠣を複数個入れ、前記回転ドラムを回転させて前記回転ドラム内壁や他の牡蠣と衝突させ、殻の一部を破砕した。破砕した殻の隙間から殻内部の空洞が確認できた牡蠣を殻の欠落部分8を形成した牡蠣のサンプルとして使用した。
【0048】
次に、海水を容器に約6.5L入れ、130gの塩化マグネシウム(にがり)を溶かし入れ、約2%塩化マグネシウム海水を作出した。そして、2%塩化マグネシウム海水に、図5(a)や図6(a)における殻の削除部位11を幅5mm、殻内に向かって2mm程度の位置で切断して欠落部分8を形成した牡蠣を6個と、比較例として欠落部分8を形成しない牡蠣6個を2回に分けて投入し、投入から開殻までにかかった秒数を確認した。その結果を、表3及び図4に示す。投入後、2分30秒間観察し、2分30秒後までに開殻しなかった牡蠣は表3において、「・・・」で表示した。図4において、実施例の殻切断牡蠣の開殻割合を開殻割合線Cで示し、比較例の通常牡蠣の開殻割合を開殻割合線Dで示している。
【0049】
【0050】
表3及び図4から、2%塩化マグネシウム海水の場合は、牡蠣の開殻状況は、pH5前後の炭酸ガス含有海水より短時間で開殻割合が大きいことが示された。開殻割合は投入後2分間で12個中9個で66.7%と高いことが示された。一方、比較例の開殻割合は投入後2分間で12個中2個で16.7%であった。これにより、2%塩化マグネシウム海水に投入する前に殻に小さな欠落部分8を形成させた牡蠣の方が、欠落部分8を形成しない牡蠣より約4倍も開殻割合が高いという顕著な効果が得られた。
【符号の説明】
【0051】
1 二枚貝開殻方法
2 殻欠落部分形成工程
3 二枚貝浸漬工程
4 貝柱
5 蝶番
6 フタ殻
7 身殻
8 欠落部分
10 二枚貝
11 切断部位
15 環境水
20 水槽
21 洗浄工程
23 軟体部取り出し工程
24 出荷工程
30 二枚貝開殻成分添加部
A 開殻割合線
B 開殻割合線
C 開殻割合線
D 開殻割合線
h 隙
P pH値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7