(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】糖及び/又は脂質の代謝改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/716 20060101AFI20230221BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230221BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230221BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230221BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
A61K31/716
A61P3/06
A61P3/10
A61P3/04
A61P3/00
(21)【出願番号】P 2020546673
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2019000732
(87)【国際公開番号】W WO2020054090
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-11
(31)【優先権主張番号】P 2018169736
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1)ウェブサイトの掲載日 2018年7月1日 ウェブサイトのアドレス https://www.easd.org/annual-meeting/easd-2018 http://abstractsonline.com/pp8/#!/4612/presentation/4913
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(73)【特許権者】
【識別番号】515161102
【氏名又は名称】株式会社アルチザンラボ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大中 信輝
(72)【発明者】
【氏名】坪内 源
(72)【発明者】
【氏名】赤司 昭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 円
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和彦
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/159714(WO,A1)
【文献】特開2003-286175(JP,A)
【文献】BORJIHAN, G., et al.,Synthesis and Anti-HIV Activity of 6-amino-6-deoxy-(1-3)-β-D-curdlan Sulfate,POLYMERS FOR ADVANCED TECHNOLOGIES,2003年,Vol.14,p.326-329, ISSN 1099-1581,特に、Abstract、Scheme 1
【文献】TAMARU, S., et al.,Giant amino acids designed on the polysaccharide scaffold and their protein-like structural intercon,Organic and Biomolecular Chemistry,2014年,Vol.12,p.815-822, ISSN 1477-0539,Abstract、Scheme 1
【文献】SHIN, M.S., et al.,Structural and Biological Characterization of Aminated-Derivatized Oat β-Glucan,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2005年,Vol.53,p.5554-5558 ISSN 0021-5861,特に、Abstract、Figure 1、Table 1、第5556頁左欄第8行~右欄第5行
【文献】54th Annual Meeting of the European Association for the Study of Diabetes,インターネット,2018年07月01日,https://www.easd.org/annual-meeting/easd-2018,[オンライン], [検索日 2019.02.21],
【文献】SUZUKI, S., et al.,6-amino-6-deoxy paramylon improved obesity and glucose metabolism in a diet-induced obesity mouse mo,インターネット,2018年07月01日,http://abstractsonline.com/pp8/#!/4612/presentation/4913,[オンライン], [検索日 2019.02.21]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラミロン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つの
6位ヒドロキシ基が-NR
1R
2(R
1及びR
2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなる
パラミロン誘導体を含有する、
糖代謝改善剤。
【請求項2】
前記R
1及びR
2が水素原子である、請求項
1に記載の
糖代謝改善剤。
【請求項3】
糖代謝及び脂質代謝の両方を改善するために用いられる、請求項1
又は2に記載の
糖代謝改善剤。
【請求項4】
医薬である、請求項1~
3のいずれかに記載の
糖代謝改善剤。
【請求項5】
(1)メタボリックシンドローム、又は
(2)肥満、糖尿病、及び脂質異常症からなる群より選択される少なくとも一種の予防又は改善に用いられる、請求項1~
4のいずれかに記載の
糖代謝改善剤。
【請求項6】
パラミロン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つの
6位ヒドロキシ基が-NR
1R
2(R
1及びR
2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなる
パラミロン誘導体を対象
(但し、ヒトを除く)に適用することを含む、
糖代謝改善方法。
【請求項7】
糖代謝改善剤を製造するための、
パラミロン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つの
6位ヒドロキシ基が-NR
1R
2(R
1及びR
2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなる
パラミロン誘導体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、糖及び/又は脂質の代謝改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の変化により、内臓脂肪の蓄積に端を発するメタボリックシンドロームが増加している。メタボリック症候群は肥満症、内臓脂肪症候群、耐糖能異常、高血圧などを惹起し、これらにより糖尿病に至ると血管障害を通じて眼症、神経障害、腎症などが招来されることが知られている。そこで、この病態の根源である肥満、内臓脂肪の蓄積を防ぐ手段、例えば脂質代謝や糖代謝を改善するための有効な手段が求められている。
【0003】
一方、現在、糖尿病治療薬や肥満改善薬等として、脂質代謝や糖代謝を改善する医薬が知られている。しかし、これらの多くは合成低分子化合物であるところ、恒常的に摂取可能であるという観点からは、天然成分が望ましい。また、生活習慣病をより根本的に予防できるという観点からは、肥満、内臓脂肪の蓄積、脂質代謝と糖代謝を両方とも改善できることが望ましい。
【0004】
一方、細菌感染症は生物にとって重大な死亡要因である。このため、抗菌剤は、医療分野等の非常に多様な分野において用いられている。新たな抗菌剤の開発が常に求められているが、細菌の耐性獲得スピードは抗生物質の開発スピードを凌駕しつつあり、今後細菌感染は死に至る病になり得ると言われている。この観点から、耐性が獲得されない抗菌活性を持つ物質が有用である。また、環境において細菌の増殖を抑制し、感染症の蔓延を防止することもこれまで以上に重要な役割となる。抗菌物質使用の別の例として、多くの人が接触し得る(例えば公共施設や病院における)部材や器具は、それを通じた細菌感染症の感染及び拡大を防ぐべく、抗菌化されていることが望ましい。
【0005】
創傷は、細菌に対するバリア機能を果たす皮膚が欠損しているが故に細菌感染が起こり易い状態である。また一部の細菌感染により創傷感染を来すと重篤化することもあり、創傷治癒が遅延することがあることから、創傷治療においては、基本的に湿潤治療を行った上に創傷治癒作用を有する成分と共に、抗菌作用を有する成分が用いられることがある。この目的のために銀イオンが汎用されているが、その効果については異論もあり、安定して抗菌力を持つ局所使用可能な物質が求められている。
【0006】
パラミロンは、ミドリムシが産生するβ-1,3-グルカンである。近年、パラミロンが、創傷治療やアレルギー抑制などに有用であることが報告されている(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2011-184371号公報
【文献】日本国特開2014-231479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、糖及び/又は脂質の代謝改善剤を提供することを課題とする。好ましくは、本発明は、糖及び脂質両方の代謝改善剤を提供することを課題とする。
【0009】
本発明の別の形態において、本発明は、新たな有効成分の抗菌剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体が、糖及び/又は脂質の代謝改善作用を発揮することを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0012】
項1. β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体を含有する、糖及び/又は脂質の代謝改善剤。
【0013】
項2. 前記ヒドロキシ基が6位ヒドロキシ基である、項1に記載の代謝改善剤。
【0014】
項3. 前記R1及びR2が水素原子である、項1又は2に記載の代謝改善剤。
【0015】
項4. 前記β1,3-グルカン誘導体がパラミロン誘導体又はカードラン誘導体である、項1~3のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0016】
項5. 前記β1,3-グルカン誘導体が直鎖状であり、且つ糖残基間の結合が全てβ1,3-グルコシド結合である、項1~4のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0017】
項6. 糖代謝及び脂質代謝の両方を改善するために用いられる、項1~5のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0018】
項7. 医薬である、項1~6のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0019】
項8. (1)メタボリックシンドローム、又は
(2)肥満、糖尿病、及び脂質異常症からなる群より選択される少なくとも一種の予防又は改善に用いられる、項1~7のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0020】
項9. 糖及び/又は脂質の代謝改善剤として使用するための、
β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体。
【0021】
項10. β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体を対象に適用することを含む、糖及び/又は脂質の代謝改善方法。
【0022】
項11. 糖及び/又は脂質の代謝改善剤を製造するための、
β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体の使用。
【0023】
また、 本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体が、抗菌活性を有することを見出した。本発明者らはこのような知見に基づき、さらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0024】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0025】
項A. β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体を含有する、抗菌剤。
【0026】
項B. 前記ヒドロキシ基が6位ヒドロキシ基である、項Aに記載の抗菌剤。
【0027】
項C. 前記R1及びR2が水素原子である、項A又はBに記載の抗菌剤。
【0028】
項D. 前記β1,3-グルカン誘導体がパラミロン誘導体又はカードラン誘導体である、項A~Cのいずれかに記載の抗菌剤。
【0029】
項E. 前記β1,3-グルカン誘導体が直鎖状であり、且つ糖残基間の結合が全てβ1,3-グルコシド結合である、項A~Dのいずれかに記載の抗菌剤。
【0030】
項F. 項A~Eのいずれかに記載の抗菌剤を含む、創傷治療剤。
【0031】
項G. 項A~Eのいずれかに記載の抗菌剤を含む、抗菌材料。
【0032】
項H. 抗菌剤、創傷治療剤、又は抗菌材料として使用するための、
β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体。
【0033】
項I. β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体を対象に適用することを含む、抗菌方法、創傷治療方法、又は材料への抗菌性能付与方法。
【0034】
項J. 抗菌剤、創傷治療剤、又は抗菌材料を製造するための、
β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2(R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体の使用。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、糖及び/又は脂質の代謝改善剤を提供することができる。本発明の代謝改善剤によれば、糖及び脂質両方の代謝を改善することも可能である。さらに、本発明の代謝改善剤によれば、肥満、内臓脂肪症候群、メタボリックシンドローム、糖尿病、脂質異常症等の予防又は改善を図ることもできる。
【0036】
また、本発明によれば、新たな有効成分の抗菌剤を提供することができる。本発明の抗菌剤によれば、多様な種類の細菌に対して、強い抗菌作用(特に殺菌作用)を発揮することができる。また、本発明によれば、本発明の抗菌剤を用いた創傷治療剤や抗菌材料等も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】合成例1-2で得られた化合物のIRデータを示す。
【
図2】合成例1-2で得られた化合物のカーボンNMRデータを示す。
【
図3】合成例1-3で得られた化合物のIRデータを示す。
【
図4】合成例1-3で得られた化合物のカーボンNMRデータを示す。
【
図5】試験例1における、試験飼育期間中の体重(平均値)の推移を示す。
【
図6】試験例2における試験飼育期間中の体重(平均)の推移を示す。
【
図7】試験例3における、肝臓のH-E染色像を示す。図中のバーは100μmを示す。
【
図8】試験例3における、肝臓重量及び白色脂肪組織重量の測定結果を示す。
【
図9】試験例3における、ズダンIV染色粉末を用いた糞便中の中性脂肪の染色像を示す。
【
図10】試験例3における、胆汁酸合成関連遺伝子の発現量の測定結果を示す。
【
図11】試験例3における、糞便1グラム中の胆汁酸組成の測定結果を示す。
【
図12】試験例3における、胃、回腸、結腸、及び直腸のH-E染色像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。また、本明細書中において、「抗菌」とは、「殺菌」、及び「静菌」のいずれも包含する概念である。
【0039】
本発明は、その一態様において、β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体(本明細書において、「本発明のβ1,3-グルカン誘導体」と示すこともある)を含有する、糖及び/又は脂質の代謝改善剤(本明細書において、「本発明の代謝改善剤」と示すこともある)に関する。
【0040】
また、本発明は、その一態様において、β1,3-グルカン誘導体であって、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体(本明細書において、「本発明のβ1,3-グルカン誘導体」と示すこともある)を含有する、抗菌剤(本明細書において、「本発明の抗菌剤」と示すこともある)に関する。以下に、これについて説明する。
【0041】
以下に、これらについて説明する。
【0042】
1.β1,3-グルカン誘導体
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、少なくとも一部のグルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体である。
【0043】
「β1,3-グルカン」は、グルコースがβ1,3結合のみで連結してなる1本の糖鎖(又は糖鎖構造)を主鎖として有するものであれば特に制限されない。β1,3-グルカンは、化学合成により得られたものであってもよいが、入手容易性等の観点から、各種生物が産生する天然β1,3-グルカンが好ましい。天然β1,3-グルカンとしては、例えばパラミロン、カードラン、ラミナラン、カロース、レンチナン、シゾフィラン等が挙げられる。
【0044】
「グルコース残基」は、β1,3-グルカンを構成するグルコースの残基である限り特に制限されず、例えばグルコースがβ1,3結合のみで連結してなる1本の直鎖状の糖鎖におけるグルコース残基とは、式(a)~(c):
【0045】
【0046】
で表される一価又は二価の基である。
【0047】
「少なくとも一部のグルコース残基」とは、β1,3-グルカンを構成するグルコース残基の一部又は全部を意味する。
【0048】
「グルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基」は、グルコース残基の構造内に(通常は複数個)存在するヒドロキシ基の内の、少なくとも1つのヒドロキシ基である限り特に制限されない。例えば式(a)において、グルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基とは、*1で示されるヒドロキシ基、*2で示されるヒドロキシ基、及び*3で示されるヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種を意味する。該ヒドロキシ基は、糖及び/又は脂質の代謝改善活性をより確実に(例えばより低濃度で、等)発揮できるという観点から、6位のヒドロキシ基(式(a)の場合であれば、*1で示されるヒドロキシ基)を含むことが好ましく、6位のヒドロキシ基のみ(すなわち、6位のヒドロキシ基以外のヒドロキシ基は含まない)であることが好ましい。
【0049】
R1及びR2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示す。「各出現においてそれぞれ独立して」とは、R1及びR2がそれぞれ独立して(同一又は異なって)という意味と、-NR1R2が複数存在する場合に、各々のR1及び各々のR2が独立して(同一又は異なって)という意味の両方を包含する。該用語の意味については、後述においても同様である。
【0050】
R1及びR2で示される「炭素原子数1~6のアルキル基」には、直鎖状又は分枝鎖状のいずれのものも包含される。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。
【0051】
糖及び/又は脂質の代謝改善活性をより確実に(例えばより低濃度で、等)発揮できるという観点から、好ましくはR1及びR2の少なくとも一方(R1又はR2、或いはR1及びR2)が水素原子であり、より好ましくはR1及びR2の両方が水素原子である。
【0052】
「グルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなる」とは、換言すれば、グルコース残基の少なくとも1つのヒドロキシ基の代わりに-NR1R2が存在してなることである。例えば、式(a)において、グルコース残基の6位のヒドロキシ基のみが-NR1R2に置き換えられている場合であれば、そのグルコース残基は式(a’):
【0053】
【0054】
で表すことができる。
【0055】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、グルコース及び/又は少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるグルコース誘導体がβ1,3結合のみで連結してなる1本の糖鎖(又は糖鎖構造)を主鎖として有する限りにおいて特に制限されず、直鎖状のものに限らず、分枝鎖を有するものも包含する。
【0056】
直鎖状の場合、糖残基間の結合が全てβ1,3-グルコシド結合である場合(すなわち、本発明のβ1,3-グルカン誘導体が、グルコース及び/又は少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるグルコース誘導体がβ1,3結合のみで連結した1本の糖鎖のみからなる場合)と、該糖鎖の末端と他の結合様式(例えば、β1,4結合)の糖鎖の末端とが連結した場合が包含される。
【0057】
分枝鎖としては、特に制限されず、例えば主鎖上のグルコース残基又は少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるグルコース誘導体残基の6位のヒドロキシ基と他の糖のヒドロキシ基とがグリコシド結合して、そこから伸びていく分枝鎖が挙げられる。
【0058】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、代謝への影響がなく、側鎖の導入により均一な分子が形成されやすいという観点から、側鎖がない直線状が好ましい。糖及び/又は脂質の代謝改善活性をより確実に(例えばより低濃度で、等)発揮できるという観点から、好ましくは直鎖状であり、より好ましくは直鎖状であり且つ糖残基間の結合が全てβ1,3-グルコシド結合である。
【0059】
また、同様の観点から、本発明のβ1,3-グルカン誘導体において、主鎖(グルコース及び/又は少なくとも1つのヒドロキシ基が-NR1R2に置き換えられてなるグルコース誘導体がβ1,3結合のみで連結してなる1本の糖鎖(又は糖鎖構造))を構成する糖残基の数は、本発明のβ1,3-グルカン誘導体全体を構成する糖残基の総数100%に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0060】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体の重量平均分子量は、特に限定されないが、糖及び/又は脂質の代謝改善活性をより確実に(例えばより低濃度で、等)発揮できるという観点から、例えば1×104~2×106、好ましくは5×104~1×106、更に好ましくは1×105~1×106ある。
【0061】
なお、重量平均分子量は、GPC法により測定することができる
糖及び/又は脂質の代謝改善活性をより確実に(例えばより低濃度で、等)発揮できるという観点から、本発明のβ1,3-グルカン誘導体において、-NR1R2を有するグルコース誘導体残基の数は、本発明のβ1,3-グルカン誘導体全体を構成する糖残基の総数100%に対して、例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは40%以上、よりさらに好ましくは60%以上、よりさらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、である。
【0062】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体においては、構成糖残基のヒドロキシ基の一部が、-NR1R2以外の他の基で置き換えられていてもよい。
【0063】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体の好ましい一態様としては、例えば一般式(1):
【0064】
【0065】
[式中、R3及びR4は、各出現においてそれぞれ独立して、ヒドロキシ基又は-NR1R2(R1及びR2は前記に同じ)を示す(但し、全てのR3及び全てのR4が同時にヒドロキシ基である場合を除く)。nは25~25000の整数を示す。]
で表される構造を主鎖として有するβ1,3-グルカン誘導体が挙げられ、好ましくは一般式(2):
【0066】
【0067】
[式中、R3、R4、及びnは、前記に同じである。]
で表されるβ1,3-グルカン誘導体が挙げられる。
【0068】
nは、糖及び/又は脂質の代謝改善活性をより確実に(例えばより低濃度で、等)発揮できるという観点から、好ましくは50~5000、より好ましくは100~2000、さらに好ましくは200~1000である。
【0069】
R4は、糖及び/又は脂質の代謝改善活性をより確実に(例えばより低濃度で、等)発揮できるという観点から、好ましくはヒドロキシ基である。
【0070】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、塩の形態も包含する。塩は、薬学的に許容される塩である限り、特に制限されるものではない。該塩としては、特に制限されないが、例えば-NR1R2との酸性塩が挙げられる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0071】
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、溶媒和物の形態も包含する。溶媒としては、例えば、水や、薬学的に許容される有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0072】
2.β1,3-グルカン誘導体の製造方法
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、様々な方法で合成することができる。例えば、Carbohydrate Polymer 122 (2015) 84-92.や日本国特開2012-180328号公報等の公知文献に記載の方法に準じて合成することができる。一例として、少なくとも一部のグルコース残基の6位のヒドロキシ基がアミノ基に置き換えられてなるβ1,3-グルカン誘導体については、β1,3-グルカンを出発材料として、例えば以下の反応式:
【0073】
【0074】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。部分構造Aは出発材料であるβ1,3-グルカン中のグルコース残基を示す。部分構造B~Dはβ1,3-グルカン誘導体中のグルコース誘導体残基を示す。]
に従って合成することができる。また、その他の構造を有する本発明のβ1,3-グルカン誘導体についても、上記式に準じた方法、上記式に公知の反応を組み合わせた方法等によって合成することができる。
【0075】
(2-1)出発材料(部分構造Aを有するβ1,3-グルカン)→部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体
本工程では、出発材料(部分構造Aを有するβ1,3-グルカン)とハロゲン化剤とを反応させることで、部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体を得ることができる。
【0076】
ハロゲン化剤は、β1,3-グルカンの6位のヒドロキシ基をハロゲン基に置き換えることができる限りにおいて特に制限されない。ハロゲン化剤としては、例えばトリフェニルホスフィンとN-ハロスクシンイミドとの組合せ、トリフェニルホスフィンと四ハロゲン化炭素との組合せ等が挙げられる。ハロゲン化剤は、収率、合成の容易さ等の観点から、トリフェニルホスフィンとN-ハロスクシンイミドとの組合せが好ましい。
【0077】
ハロゲン化剤の使用量は、ハロゲン化剤の種類に応じて異なるが、収率、合成の容易さ等の観点から、通常、出発材料1 gに対して、ハロゲン化剤の総量2~20 gが好ましく、5~15 gがより好ましい。
【0078】
本工程は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒の1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、収率、合成の容易さ等の観点から、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0079】
本工程においては、N,N-ジメチルアセトアミドを使用する場合、さらにハロゲン化リチウムが添加される。また、他の溶媒を使用する場合も、必要に応じて、ハロゲン化リチウムが添加される。
【0080】
本工程においては、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0081】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、加熱下及び常温下のいずれでも行うことができ、通常、20~150℃(特に50~100℃)で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、10分間~8時間、好ましくは1時間~6時間とすることができる。
【0082】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理をすることもできる。また、精製処理を施さずに次の工程を行うこともできる。
【0083】
(2-2)部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体→部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体
本工程では、部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体とアジド化剤とを反応させることで、部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体を得ることができる。
【0084】
アジド化剤は、部分構造Bのハロゲン原子をアジド基に置き換えることができる限りにおいて特に制限されない。アジド化剤としては、例えばアジ化ナトリウム、アジ化リチウム等が挙げられる。アジド化剤は、収率、合成の容易さ等の観点から、アジ化ナトリウムが好ましい。
【0085】
アジド化剤の使用量は、アジド化剤の種類に応じて異なるが、収率、合成の容易さ等の観点から、通常、部分構造Bを有するβ1,3-グルカン誘導体1 gに対して、0.5~3 gが好ましく、1~2 gがより好ましい。
【0086】
本工程は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒の1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、収率、合成の容易さ等の観点から、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0087】
本工程においては、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0088】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、加熱下及び常温下のいずれでも行うことができ、通常、20~150℃(特に50~100℃)で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、8時間~48時間、好ましくは16時間~32時間とすることができる。
【0089】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理をすることもできる。また、精製処理を施さずに次の工程を行うこともできる。
【0090】
(2-3)部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体→部分構造Dを有するβ1,3-グルカン誘導体
本工程では、部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体と還元剤とを反応させることで、部分構造Dを有するβ1,3-グルカン誘導体を得ることができる。
【0091】
還元剤は、部分構造Cのアジド基をアミノ基に還元できる限りにおいて特に制限されない。還元剤としては、例えば水素ガス、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化シアノホウ素ナトリウム(NaBH3CN)等が挙げられる。還元剤は、収率、合成の容易さ等の観点から、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)が好ましい。
【0092】
還元剤の使用量は、還元剤の種類に応じて異なるが、収率、合成の容易さ等の観点から、通常、部分構造Cを有するβ1,3-グルカン誘導体1 gに対して、2~8 gが好ましく、3~5 gがより好ましい。
【0093】
本工程は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の極性溶媒の1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、収率、合成の容易さ等の観点から、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0094】
本工程においては、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0095】
反応雰囲気は、通常、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)を採用し得る。反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、通常、0~150℃(特に70~120℃)で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、8時間~48時間、好ましくは16時間~32時間とすることができる。
【0096】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理をすることもできる。また、精製処理を施さずに次の工程を行うこともできる。
【0097】
3.用途1
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、肥満、内臓脂肪の蓄積というメタボリック症候群の原因を改善すること、糖及び/又は脂質の代謝改善作用を有することから、糖及び/又は脂質の代謝改善剤の有効成分として、利用することができる。なお、本明細書において、糖代謝とは、糖の摂取から排泄までの一連の現象のそれぞれを包含する。また、本明細書において、脂質代謝とは、脂質又は脂質へと変換可能な物質の摂取から、脂質又は脂質から変換された物質の排出までの一連の現象のそれぞれを包含する。
【0098】
また、糖及び/又は脂質の代謝改善作用に基づく他の用途、例えば、以下に列挙する用途:
(A)メタボリックシンドローム、又は高コレステロール血症、高脂血症などの脂質異常症、糖尿病、肥満、及び脂肪肝からなる群より選択される少なくとも1種の疾患又は状態などの予防又は改善剤、
(B)体重抑制剤、
(C)体重増加の抑制剤、
(D)体脂肪及び/又は内臓脂肪抑制剤、
(E)体脂肪及び/又は内臓脂肪増加の抑制剤、
(F)脂肪消費促進剤、
(G)血中脂質(例えばコレステロール、中性脂肪等)及び/又は血糖値の抑制剤、
(H)血中脂質(例えばコレステロール、中性脂肪等)及び/又は血糖値上昇の抑制剤、
(I)血中LDLコレステロール、総コレステロール抑制剤、
(J)血中LDLコレステロール、総コレステロール上昇の抑制剤、
(K)二次胆汁酸抑制剤、
(L)一次胆汁酸増進剤、
(M)胆汁酸合成促進剤、
(N)代謝疾患の予防剤
(O)大腸がん予防剤
(P)肝がん予防剤
(Q)感染性胃腸炎の治療剤
(R)肝性脳症の改善剤、アンモニア抑制剤
(S)非アルコール性脂肪肝炎抑制剤
(T)腸内細菌叢調整剤
(U)腸内細菌叢改善剤
(H)腸内細菌叢dysbiosis誘発剤
等の有効成分として、利用することができる。
【0099】
さらには、以下に列挙する用途、目的、対象:
(a) 内臓脂肪を減らす
(b) 体脂肪の増加を抑える、体脂肪を減らす、脂肪の吸収を抑える
(c) 中性脂肪を減らす
(e) 血糖値の上昇をおだやかにする、又は血糖値を改善する
(f) 糖分の吸収を抑える、糖質の吸収を抑える
(g) 血中コレステロールを低下させる
(j) 内臓脂肪が気になる方へ
(k) BMIが高めの方へ
(l) 中性脂肪が高めの方へ
(m) コレステロールが気になる方へ
(n) 食後の血糖値が高めの(気になる)方へ
に利用することもできる。
【0100】
なお、メタボリックシンドロームは内臓脂肪型肥満に加えて、(1)高血圧である、(2)血糖値が高い、(3)HDLコレステロールが低いか中性脂肪が高い、の3つのうち、いずれか2つ以上あてはまる状態である。
【0101】
本発明の剤は、各種分野において、例えば医薬、食品添加剤、食品組成物(健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)を包含する)などとして用いることができる。
【0102】
本発明の剤の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0103】
形態としては、用途が医薬、食品添加剤、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0104】
形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキーなどが挙げられる。
【0105】
本発明の剤は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、医薬、食品添加剤、食品組成物、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。
【0106】
本発明の剤が本発明のβ1,3-グルカン誘導体以外の成分を含む場合、有効成分の含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~95質量%、好ましくは0.001~50質量%とすることができる。
【0107】
本発明の剤の対象生物に対する適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分である本発明のβ1,3-グルカン誘導体の乾燥重量として、一般に一日あたり0.1~10000 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)に分けて適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0108】
4.用途2
本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、抗菌作用を発揮することができる。したがって、本発明のβ1,3-グルカン誘導体は、抗菌剤の有効成分として、好適に用いることができる。さらに、本発明の抗菌剤は、各種組成物(外用医薬組成物、化粧料組成物、医療用洗浄用組成物、体内および血管内に留置する医療用機器用組成物、皮膚消毒用組成物、食器用殺菌洗浄用組成物、口腔消毒用組成物、表面抗菌用組成物等)に配合して使用してもよい。好適には、本発明の抗菌剤は、創傷治療剤や医療用をはじめ抗菌材料を構成する一成分として利用することもできる。
【0109】
本発明の抗菌剤は、適用対象菌の種類を問わず、グラム陽性菌用又はグラム陰性菌用として用いることができる。適用対象のグラム陽性菌としては、例えば、ブドウ球菌属菌(例えば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌)、腸球菌(例えばエンテロコッカス属菌)、レンサ球菌属菌(例えば双球菌、4連、8連球菌等、肺炎球菌、溶血連鎖球菌)、バシラス属菌(例えば炭疽菌、枯草菌)、クロストリジウム属菌(例えば破傷風菌、ボツリヌス菌)、コリネバクテリウム属菌(例えばジフテリア菌)、リステリア属菌、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、プロピオニバクテリウム属菌(例えばニキビの原因となるアクネ菌)、及び放線菌が挙げられる。適用対象のグラム陰性菌としては、例えば、エシェリヒア属菌(例えば大腸菌)、サルモネラ属菌、シュードモナス属菌(例えば緑膿菌)、ヘリコバクター属菌、インフルエンザ菌、ナイセリア属菌(例えば淋菌、髄膜炎菌)が挙げられる。これらの中でも、本発明の抗菌剤は、好ましくはブドウ球菌属菌、シュードモナス属菌、エシェリヒア属菌等に対して用いることができる。
【0110】
本発明の抗菌剤は、本発明のβ1,3-グルカン誘導体を含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0111】
本発明の抗菌剤の使用態様は、特に制限されず、その種類に応じて適切な使用態様を採ることができる。本発明の剤は、例えば動物に適用することにより使用することもできるし、生体以外(細胞、部材、器具等)に適用することにより使用することもできる。
【0112】
本発明の抗菌剤を動物に適用する場合、その適用対象動物は特に限定されず、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類動物等が挙げられる。
【0113】
本発明の抗菌剤の剤形は特に制限されず、その使用態様に応じて適切な剤形を採ることができる。例えば、塗布剤、貼付剤、エアゾール剤、点鼻剤、吸入剤、肛門坐剤、挿入剤、浣腸剤、ゼリー剤等の外用剤等が挙げられる。また、本発明の剤は、固形剤、半固形剤、液剤のいずれでもよい。
【0114】
本発明の抗菌剤中の本発明のβ1,3-グルカン誘導体の含有量は、使用態様、適用対象、適用対象の状態等に左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~95重量%、好ましくは0.001~50重量%とすることができる。
【0115】
本発明の抗菌剤を動物に適用する場合の適用量は、薬効を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分である本発明のβ1,3-グルカン誘導体の重量として、1日あたり0.01~100 mg/適用対象部である。上記適用量は1日1回又は2~3回に分けて適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0116】
本発明の抗菌剤を創傷治療剤に利用する場合、創傷治療剤は、本発明の抗菌剤を含む限りにおいて特に制限されない。典型的には、本発明の抗菌剤に加えて、創傷治療作用を有する成分を含有する。創傷治療剤の剤形は、特に制限されるものではないが、例えば塗布剤、貼付剤、エアゾール剤、点鼻剤、吸入剤、肛門坐剤、挿入剤、浣腸剤、ゼリー剤等の外用剤等が挙げられる。また、創傷治療剤は、創傷保護するシート(又はフィルム)状の基材に本発明の抗菌剤が保持された形態のものであってもよい。
【0117】
本発明の抗菌剤を抗菌材料に利用する場合、抗菌材料は、本発明の抗菌剤を含む限りにおいて特に制限されない。抗菌材料の形態は、本発明の抗菌剤がその抗菌作用を発揮できる形態である限り特に制限されず、例えば本発明の抗菌剤と樹脂等の材料とを混合後に成形して得られたもの、本発明の抗菌剤を樹脂、金属、ガラス等の材質の表面上にコーティングして得られたものが挙げられる。
【実施例】
【0118】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0119】
合成例1:6-アミノ-6-デオキシパラミロンの合成
Carbohydrate Polymer 122 (2015) 84-92.に記載の方法に準じて、パラミロンから、中間体(6-ブロモ-6-デオキシパラミロン及び6-アジド-6-デオキシパラミロン)を経て、一部のグルコース残基のヒドロキシ基が-NH2に置き換えられてなるパラミロン誘導体(6-アミノ-6-デオキシパラミロン)を合成した。具体的には以下のようにして合成した。
【0120】
合成例1-1:6-ブロモ-6-デオキシパラミロン
アルゴン雰囲気化、重量平均分子量が約20万のパラミロン(200.00 g)、ジメチルアセトアミド(10000 ml)、及び臭化リチウム(639.10 g)を加え、撹拌した。攪拌しながら100℃に昇温して、さらに4時間攪拌した。攪拌後、各成分が溶解していることを確認してから、放冷した。反応混合物へ、トリフェニルホスフィン(1298.00 g)及びN-ブロモスクシンイミド(879.00 g)を含むジメチルアセトアミド(2500 ml)溶液を、ゆっくり滴下した。反応混合物を70℃に昇温して、約3時間撹拌した。攪拌後に放冷してから、反応混合物を、水とメタノールの混合溶媒(50.0 L、w/w = 1/1)にゆっくり滴下した。静置後、孔径3.0μmのフィルターでろ過し、固形分を回収した。固形分をジメチルスルホキシド(3500 ml)に溶解させ、得られた溶液をエタノール(17500 ml)に滴下した。遠心分離(6000 rpm×10min)で固形物を回収した。このジメチルスルホキシドとエタノールによる再沈殿操作を再度行った。減圧乾燥(40℃)して、目的物(一部のグルコース残基のヒドロキシ基が-Brに置き換えられてなるパラミロン誘導体(6-ブロモ-6-デオキシパラミロン))(359.80 g)を得た。
【0121】
合成例1-2:6-アジド-6-デオキシパラミロン
アルゴン雰囲気化、合成例1-1で得られた6-ブロモ-6-デオキシパラミロン(359.00 g)とジメチルスルホキシド(63000 ml)を20Lナスフラスコに入れ、撹拌した。溶解を確認し、反応混合物にアジ化ナトリウム(516.90 g)とジメチルスルホキシド(2700 ml)を加えた。反応混合物を80℃に昇温して、24時間撹拌した。攪拌後に放冷してから、反応混合物をイオン交換水(106 L)にゆっくり滴下した。静置後に孔径3.0μmのフィルターでろ過し、固形分を回収した。固形分をアセトン(2500 ml)に溶解させ、得られた溶液を水(10000 ml)に滴下した。遠心分離(6000 rpm×10min)で固形物を回収した。このアセトンと水による再沈殿操作を再度行った。減圧乾燥(40℃)して、目的物(一部のグルコース残基のヒドロキシ基が-N
3に置き換えられてなるパラミロン誘導体(6-アジド-6-デオキシパラミロン))(187.20 g)を得た。得られた化合物については、IR及びカーボンNMRにより確認した結果、IRよりアジドの特徴的なピークが2110cm
-1に確認でき(
図1)、またカーボンNMRより6位のカーボンに化学シフト(51 ppm付近)が確認できた(
図2)。これらは、既報(Carbohydrate Polymer 122 (2015) 84-92.)の値と一致しており、確かに目的物が得られていることが確認できた。
【0122】
合成例1-3:6-アミノ-6-デオキシパラミロン
アルゴン雰囲気化、合成例1-2で得られた6-アジド-6-デオキシパラミロン(185.70 g)とジメチルスルホキシド(15000 ml)を20 Lナスフラスコに入れ、撹拌した。溶解を確認し、反応混合物に水素化ホウ素ナトリウム(753.40 g)を加えた。反応混合物を100℃に昇温し、24時間撹拌した。室温まで放冷後、氷浴中で、反応混合物に、1N HClをガスが発生しなくなるまで加えた。反応混合物のpHを、飽和した炭酸水素ナトリウム水溶液でpH 7に調整した。反応混合物を、イオン交換水を用いて14日間透析した(透析膜:MWCO=3.5 kD、溶媒交換2回/1日)。透析後、約3/4量を濃縮し、濃縮した溶液を凍結乾燥して、目的物(一部のグルコース残基のヒドロキシ基が-NH
2に置き換えられてなるパラミロン誘導体(6-アミノ-6-デオキシパラミロン))(151.50 g)を得た。得られた化合物については、IR及びカーボンNMRにより確認した結果、IRより、特徴的なアジドのピークが消えていること、及びアミンを示すと思われる3000cm-1前後の大きなブロードピークが確認でき(
図3)、またカーボンNMRより6位のカーボンに化学シフト(44 ppm付近)が確認できた(
図4)。これらは、既報(Carbohydrate Polymer 122 (2015) 84-92.)の値と一致しており、確かに目的物が得られていることが確認できた。また、
図4より、パラミロンのC6を示すピークが反応後完全にコンバートしていることから、C6の水酸基のみがアミンに置換しており、置換度が1であることが分かった。
【0123】
試験例1.糖及び脂質代謝への影響の解析1
マウスを、合成例1で得られた6-アミノ-6-デオキシパラミロンを含む飼料を餌として飼育し、体重、総摂餌量、総飲水量、血糖値、及び血中総コレステロール濃度を測定した。具体的には以下のようにして行った。
【0124】
<試験例1-1.飼料の調製>
合成例1で得られた6-アミノ-6-デオキシパラミロンと粉末高脂肪飼料(リサーチダイエット社製、60kcla%脂肪含有)を混合し、パラミロン誘導体を2重量%含有する被検飼料(2%)を調製した。一方で、粉末高脂肪飼料からなる対照飼料を調製した。
【0125】
<試験例1-2.実験動物及び飼育条件>
8週齢の雄C57BL/6Jマウス(日本チャールズ・リバー社製)を用いた。通常飼料(MF オリエンタル酵母)を与え、約1週間馴化飼育した。馴化後、9週齢となったマウスについて、被検飼料である6-アミノ-6-デオキシパラミロン含有飼料を摂取させる群、及び対照飼料を摂取させる群にそれぞれランダムに割りつけた。
【0126】
試験飼育において、マウスには、飼料(被検飼料又は対照飼料)と水道水とを、5週間自由摂取させた。
【0127】
なお、飼育条件は次のとおりである。床敷(オリエンタル酵母)を入れたアルミ製ケージ(W220×D320×H110mm)で個別飼育した。床数の交換は週2回以上とし、新しい飼料を給餌する際に交換した。室温は25±2度、湿度は50 ±10%、照明は1日12時間(7時~19時)点灯とした。
【0128】
<試験例1-3.測定方法、評価方法>
<試験例1-3-1.体重、総摂餌量、総飲水量の測定>
試験飼育期間中、週2回以上体重を測定した。また、試験飼育期間中の総摂餌量及び総飲水量を測定した。
【0129】
<試験例1-3-2.血糖値、血中総コレステロール濃度の測定>
試験飼育第5週にマウスを剖検した。剖検日の朝、体重を測定した後、1-2時間絶食させた。イソフルラン麻酔下でテイルカットし、静脈血を血糖測定キット(TERUMO社製)で測定したのちに開腹し、EDTA-2N処理したシリンジで左心室から全採血後、安楽殺した。得られた血液を約2,000×gで約10分間遠心分離し血漿を回収した。得られた血漿中の総コレステロール濃度を、ゲルろ過HPLC法により測定した。
【0130】
<試験例1-4.結果>
<試験例1-4-1.体重、総摂餌量、総飲水量、血糖値、及び血中総コレステロール濃度>
試験飼育期間中の体重推移をグラフ化したものを
図5に示す。また、試験飼育期間終了後の各データを表1に示す。表1中、各測定項目の数値は平均値±標準偏差であり、p値はt検定で得られた値である。また、これらのデータ中、被検飼料群は、パラミロン誘導体を2重量%含有する被検飼料(2%)を摂取させた群である。
【0131】
【0132】
図5及び表1に示されるように、被検飼料摂取群は、対照飼料摂取群に比べて、総摂餌量及び総飲水量に有意な変化が無いにも関わらず、顕著に体重増加が抑制されていた。さらに、被検飼料摂取群は、対照飼料摂取群に比べて、血糖値及び総コレステロール濃度が顕著に低かった。これらのことから、被検飼料の摂取により、糖代謝や脂質代謝が改善したことが示唆された。
【0133】
試験例2.糖及び脂質代謝への影響の解析2
総コレステロール濃度に代えてトリグリセライド濃度を測定する以外は、試験例1と同様にして行った。なお、トリグリセライド濃度の測定は、酵素法を用いて行った。
【0134】
試験飼育期間中の体重推移をグラフ化したものを
図6に示す。また、試験飼育期間終了後の各データを表2に示す。表2中、各測定項目の数値は平均値±標準偏差であり、p値はt検定で得られた値である。
【0135】
【0136】
体重及び血糖値について、試験例1と同様の結果が得られた。また、トリグリセライド濃度については、被検飼料摂取群は、対照飼料摂取群に比べて顕著に低かった。
【0137】
試験例3.糖及び脂質代謝への影響の解析3
パラミロン誘導体を2重量%含有する被験飼料群(2%)、1重量%含有する被験飼料群(1%)を摂取させた以外は試験例1と同様にマウスを飼育した。
【0138】
<試験例3-3.測定方法、評価方法>
<試験例3-3-1.体重変化量の測定>
試験飼育期間中、週2回以上体重を測定し、飼育期間5週間の前後における体重変化量を算出した。
【0139】
<試験例3-3-2.脂肪肝抑制作用の評価>
試験飼育第5週にマウスを剖検し、肝臓重量を測定した。また、得られた肝臓をH-E染色した。
【0140】
<試験例3-3-3.中性脂肪排出促進作用の評価>
試験飼育第4週に糞便を採取し、ズダンIV染色粉末を用いて糞便中の中性脂肪を染色した。
【0141】
<試験例3-3-4.胆汁酸合成促進作用の評価>
試験飼育第5週にマウスを剖検し、肝細胞内のCYP7A1 mRNA量、及びSHP mRNA量を測定した。CYP7A1は、コレステロールから胆汁酸への生合成経路の最初の反応を触媒する酵素の遺伝子であり、SHPはCYP7A1の発現抑制因子の遺伝子である。
【0142】
<試験例3-3-5.胆汁酸への影響の評価>
試験飼育第4週に糞便を採取し、糞便1グラム中の胆汁酸の組成をLC-QTOF MS法によって測定した。
【0143】
<試験例3-3-6.消化管への安全性の評価>
試験飼育5週間のマウスを解剖し、胃、回腸、結腸、及び直腸の切片を作成した。これらをH-E染色し、細胞の大きさ、形態等を観察した。
【0144】
また、腎臓の細胞中の炎症マーカー量(IL-6 mRNA量、MCP-1 mRNA量、Col4α1 mRNA量、TGF-βmRNA量)を測定した。
【0145】
<試験例3-4. 結果>
<試験例3-4-1.体重変化量>
試験期間終了後の体重変化量と総摂餌量を表3に示す。
【0146】
【0147】
体重変化量はこれまでの試験結果と同様の傾向がみられた。なお、対象飼料群と被験飼料群(1%)との間、及び、対象飼料群、被験飼料群(1%)と被験飼料群(2%)との間で何れも有意差が見られた(p < 0.05)。その一方で総摂餌量に有意差は見られなかった。
【0148】
<試験例3-4-2.脂肪肝抑制作用>
肝臓のH-E染色像を
図7に示し、肝臓重量及び白色脂肪組織重量の測定結果を
図8に示す。対照飼料群に比べ、被検飼料群では肝臓重量及び白色脂肪組織重量が有意に低下していた。また、H-E染色により肝臓を確認したところ、対照飼料群では脂肪により肥大していることが確認されたが、被検飼料群では正常な肝臓であることが確認された。
【0149】
<試験例3-4-3.中性脂肪排出促進作用>
ズダンIV染色粉末を用いた糞便中の中性脂肪の染色像を
図9に示す。対照飼料群に比べ被験飼料群では糞便中に中性脂肪が混合している様子が確認された。被験飼料摂取により中性脂肪の吸収が抑制されることが示唆された。
【0150】
<試験例3-4-4.胆汁酸合成促進作用>
胆汁酸合成関連遺伝子の発現量の測定結果を
図10に示す。対照飼料群に比べ被験飼料群ではSHP mRNA量が有意に減少し、CYP7A1 mRNA量が有意に増加していた。被験飼料の摂取により、CYP7A1の発現抑制因子であるSHPが低下し、その結果、CYP7A1が増加したと考えられた。この結果から被験飼料摂取により胆汁酸の合成が促進されていることが分かった。
【0151】
<試験例3-4-5.胆汁酸への影響>
糞便1グラム中の胆汁酸組成の測定結果を
図11に示す。対照飼料群では糞便中に二次胆汁酸が含まれることが分かるが、被験飼料群ではほとんど二次胆汁酸が含まれず、また、一次胆汁酸の濃度が高い事が分かった。このことから、通常は一次胆汁酸から二次胆汁酸が生成されるのに対して、被験飼料摂取時には二次胆汁酸がほとんど合成されず一次胆汁酸主体で生成されていることが分かった。この結果は、被験飼料の摂取により腸内細菌叢が変化したためと考えられる。
【0152】
二次胆汁酸量を抑制することにより、糖尿病や代謝疾患の予防、さらには大腸がん、肝がんの予防が可能であることが知られている。よって、被験飼料はこれらの予防効果を有することが示唆された。
【0153】
<試験例3-4-6.消化管への安全性>
胃、回腸、結腸、及び直腸のH-E染色像を
図12に示す。細胞を観察したところ被験飼料摂取群では特に異常は見られなかった。腎臓の細胞中のIL-6 mRNA量、MCP-1 mRNA量、Col4α1 mRNA量、及びTGF-βmRNA量を測定したところ、有意差は見られず、腎臓に異常が見られないことが分かった。
【0154】
試験例4:抗菌活性の評価
既報文献(セルロース繊維のn-alkyl, 3-chloro-2-hydroxypropyl, ammonium chloridesによるカチオン化とそれらの抗菌活性について, 澤裕子ら著, 武庫川女子大紀要 2000, 48, 19-26)を参考にして、接触振とう法変法により、被検物質(合成例1と同様の方法で得られた6-アミノ-6-デオキシパラミロン)の抗菌活性の評価試験を行った。具体的には以下に示す手順で行った。
【0155】
<手順>
(1) 供試菌(S. aureus、S. epidermidis、P. aeruginosa、又はE. coli)をLB培地で35℃で一晩振とう培養した。
(2) 供試菌培養液を回収し遠心分離(10000g, 25℃, 5min)した。
(3) 上澄みを捨てて、純水に懸濁した。
(4) 各種濃度の被験物質水溶液に対して、(3) の懸濁液を、10%の濃度((3)の懸濁容量/被検物質水溶液容量)になるよう植菌した。
(5) 対照系として被験物質を含まない滅菌水に対しても同様の実験を実施した。
(6) 35℃、120rpmで1時間往復振とう培養した。
(7) 純水で任意に希釈してから、標準寒天培地にプレーティングした。
(8) (7)から24時間後にコロニー数を計数し、被験物質を含まないサンプルを対照系として残存生菌数を求めた。
【0156】
結果を表4に示す。
【0157】
【0158】
表4に示されるように、6-アミノ-6-デオキシパラミロンは、濃度依存的に、各種細菌に対して抗菌活性(特に、殺菌活性)を発揮することが示された。