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特許7231201移動体位置測定システム、トランスポンダ占有率制御方法およびトランスポンダ占有率制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】移動体位置測定システム、トランスポンダ占有率制御方法およびトランスポンダ占有率制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/78 20060101AFI20230221BHJP
   G08G 5/00 20060101ALI20230221BHJP
   G01S 5/06 20060101ALI20230221BHJP
   G01S 13/91 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
G01S13/78
G08G5/00 A
G01S5/06
G01S13/91 200
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019003728
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020112447
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000232221
【氏名又は名称】日本電気航空宇宙システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】堀河 豊聡
(72)【発明者】
【氏名】長塚 和也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 天平
(72)【発明者】
【氏名】金田 知剛
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-208026(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208277(WO,A1)
【文献】特開平07-005255(JP,A)
【文献】特開2017-032429(JP,A)
【文献】特開2014-199214(JP,A)
【文献】特開2006-113049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 13/74 - G01S 13/84
G01S 5/00 - G01S 5/14
G08G 1/00 - G08G 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置位置が既知の送受信局から移動体のトランスポンダに対して質問信号を送信して、該移動体のトランスポンダから返送されてくる応答信号を、前記送受信局および設置位置が既知の複数の受信局において受信することにより、該移動体の位置を測定する移動体位置測定システムであって、
前記送受信局から前記質問信号として送信する無線電波の送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況に応じて、該質問信号の送信回数、信号種別、周期に関する情報を、前記移動体のトランスポンダの占有率があらかじめ限界値として規定されている占有率閾値以下に収まるように設定している質問マップをあらかじめ有する構成とし、
前記質問マップとして、前記送受信局が送信する無線電波の前記送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況を複数のグループにグループ分けして、それぞれのグループ毎に最適な情報を設定した質問マップをあらかじめ有する構成とし、
前記送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況に応じて、使用する前記質問マップを切り替え、
前記送受信局から前記質問信号を送信する際に、前記質問マップの設定内容に従って、前記質問信号を送信する、
移動体位置測定システム。
【請求項2】
前記質問マップの設定内容として、あらかじめ定めた周期毎に、前記送信覆域内に存在する前記移動体それぞれに送信する前記質問信号の送信タイミングを、該質問信号の信号種別毎に、あらかじめ定めた時間幅のスロット単位に指定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動体位置測定システム。
【請求項3】
移動体の位置を測定するために送受信局から送信する質問信号の送信動作を制御することにより、前記移動体のトランスポンダの占有率を制御するトランスポンダ占有率制御方法であって、
前記送受信局から前記質問信号として送信する無線電波の送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況に応じて、該質問信号の送信回数、信号種別、周期に関する情報を、前記移動体のトランスポンダの占有率があらかじめ限界値として規定されている占有率閾値以下に収まるように設定している質問マップをあらかじめ有する構成とし、
前記質問マップとして、前記送受信局が送信する無線電波の前記送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況を複数のグループにグループ分けして、それぞれのグループ毎に最適な情報を設定した質問マップをあらかじめ有する構成とし、
前記送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況に応じて、使用する前記質問マップを切り替え、
前記送受信局から前記質問信号を送信する際に、前記質問マップの設定内容に従って、前記質問信号を送信する、
トランスポンダ占有率制御方法。
【請求項4】
前記質問マップの設定内容として、あらかじめ定めた周期毎に、前記送信覆域内に存在する前記移動体それぞれに送信する前記質問信号の送信タイミングを、該質問信号の信号種別毎に、あらかじめ定めた時間幅のスロット単位に指定する、
ことを特徴とする請求項に記載のトランスポンダ占有率制御方法。
【請求項5】
移動体の位置を測定するために送受信局から送信する質問信号の送信動作を制御することにより、前記移動体のトランスポンダの占有率を制御する処理をコンピュータによって実行するトランスポンダ占有率制御プログラムであって、
前記送受信局から前記質問信号として送信する無線電波の送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況に応じて、該質問信号の送信回数、信号種別、周期に関する情報を、前記移動体のトランスポンダの占有率があらかじめ限界値として規定されている占有率閾値以下に収まるように設定している質問マップをあらかじめ有する構成とし、
前記質問マップとして、前記送受信局が送信する無線電波の前記送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況を複数のグループにグループ分けして、それぞれのグループ毎に最適な情報を設定した質問マップをあらかじめ有する構成とし、
前記送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況に応じて、使用する前記質問マップを切り替え、
前記送受信局から前記質問信号を送信する際に、前記質問マップの設定内容に従って、前記質問信号を送信する、
トランスポンダ占有率制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体位置測定システム、トランスポンダ占有率制御方法およびトランスポンダ占有率制御プログラムに関し、特に、航空管制システムやレーダシステムに好適に適用することができる移動体位置測定システム、トランスポンダ占有率制御方法およびトランスポンダ占有率制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
マルチラテレーション(MLAT:multilateration)システムは、移動体のトランスポンダが発信する信号を、位置が既知の状態にある複数の受信局で受信し、各受信局における受信時刻を用いて、移動体の位置を測位するシステムである。特に、航空管制の分野においては、既存の航空監視レーダであるSSR(Secondary Surveillance Radar:二次監視レーダ)システムを利用したマルチラテレーション(MLAT)システムが既に存在している(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
現状の航空管制においては、SSRシステムがあらかじめ定めた規定の質問信号を無線電波として送信すると、該SSRシステムに対応したトランスポンダを有する航空機(移動体に相当する)は、該質問信号に対する応答信号(自機の識別情報や高度情報等を示す信号)を無線電波として発する。したがって、MLATシステムの近隣にSSRシステムが存在する場合には、MLATシステムにおいても該応答信号を取得することができ、取得した該応答信号により、パッシブ型MLAT機能を実現して、航空機の位置を測位することができる。また、航空機のトランスポンダが、スキッタ信号(移動体固有のアドレスを含む信号)や拡張スキッタ信号と呼ばれる、SSRシステムの応答信号に相当するフォーマットによる信号を自動的に発する場合があり、その場合にも、該信号を利用してパッシブ型MLAT機能を実現することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
なお、MLATシステムの場合は、通常、設置位置が既知の固定局(地上局)として、4局以上の複数の受信局を設置し、各受信局が受信したそれぞれの応答信号の受信時刻を、中央処理装置に集めて、中央処理装置において各受信局間の受信時刻差(TDOA:Time Difference Of Arrival)を利用したMLATアルゴリズムを用いて航空機等の移動体の位置の測位結果が算出される。
【0005】
しかし、広域マルチラテレーション(WAM:Wide Area Multilateration)システムとして送受信局を実装した場合には、当該送受信局からSSR質問信号を送信して、航空機等の移動体に搭載したトランスポンダからの応答信号を受信することにより、該質問信号の送信から応答信号の受信までに要する時間を算出して、当該送受信局と航空機との間の距離を測定(測距)することができる。したがって、該測距情報とMLATアルゴリズムとを複合することによって、最低、受信局2局と送受信局1局との3局構成におけるレンジングMLATシステムが成立する。該レンジングMLATシステムにおいては、通常のMLATシステムと比較して、設置位置が既知の地上局(受信局)を1局以上削減した状態であっても、航空機等の移動体の測位が可能になる。
【0006】
地上局(受信局)の削減が可能な点は、国土を海で囲まれ、山野の多い日本においては非常に経済的、地理的に利点が大きい。なお、レンジングMLATシステムは、前述したように、送受信局と受信局との合計局数が最低3局以上で成立する方式ではあるものの、送受信局からの無線電波の送信を不必要に行うことは、電波環境を悪化させてしまうことや、電波法により定められた制約(すなわち、WAMシステムの送受信局が送信する航空機のトランスポンダへの質問によるトランスポンダ占有率は、2%以内に抑えなければならないという制約)からも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/121709号
【非特許文献】
【0008】
【文献】“Multilateration system development history and performance at Dallas/Ft.Worth Airport”, Digital Avionics Systems Conference, 2000.Proceedings.DASC.The 19th, Volume 1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、飛行中の航空機をマルチラテレーション(MLAT:multilateration)位置測位方法を用いて監視するシステムをMLATシステムと称している。そして、MLATシステムのみならず、その1種である広域マルチラテレーション(WAM:Wide Area Multilateration)システムに関しても、地上の送受信局から航空機に搭載されているトランスポンダへの無線電波の送信によるトランスポンダ占有率を2%以内に抑えることが電波法により定められている。
【0010】
ここで、地上の送受信局からの無線電波の送信によるトランスポンダの占有率を考える場合、送信対象の航空機だけでなく、該無線電波の送信覆域内に存在する全ての航空機も考慮する必要がある。つまり、送受信局から特定の航空機に対して該航空機の監視目的等の質問信号を無線電波として送信する場合、該無線電波の送信覆域内に存在する他の航空機に対しても該質問信号の無線電波が届いてしまう。この結果、送信覆域内の各航空機のトランスポンダにおいては、自機以外に対する質問信号に対しても検出処理を行うことになり、該検出処理を行うためにトランスポンダを占有していることになると見做される。
【0011】
トランスポンダ占有率を抑える方法としては、各航空機に対して、質問信号を例えば1秒間に1送信だけ行うというシンプルな方法が考えられるが、これでは、質問信号の送信効率が悪くなってしまう。また、リアルタイムにトランスポンダ占有率を算出して占有率を抑えるように制御する方法も考えられるが、処理が複雑になるとともに、処理負荷が高くなるという問題も生じる。
【0012】
(本開示の目的)
本開示は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、航空機等の移動体におけるトランスポンダ占有率をあらかじめ定めた限界値以下に低減することが容易に可能になる移動体位置測定システム、トランスポンダ占有率制御方法およびトランスポンダ占有率制御プログラムを提供することを、その目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の課題を解決するため、本発明による移動体位置測定システム、トランスポンダ占有率制御方法およびトランスポンダ占有率制御プログラムは、主に、次のような特徴的な構成を採用している。
【0014】
(1)本発明による移動体位置測定システムは、
設置位置が既知の送受信局から移動体のトランスポンダに対して質問信号を送信して、該移動体のトランスポンダから返送されてくる応答信号を、前記送受信局および設置位置が既知の複数の受信局において受信することにより、該移動体の位置を測定する移動体位置測定システムであって、
前記送受信局から前記質問信号として送信する無線電波の送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況に応じて、該質問信号の送信回数、信号種別、周期に関する情報を、前記移動体のトランスポンダの占有率があらかじめ限界値として規定されている占有率閾値以下に収まるように設定している質問マップをあらかじめ有する構成とし、
前記送受信局から前記質問信号を送信する際に、前記質問マップの設定内容に従って、前記質問信号を送信するものである。
【0015】
(2)本発明によるトランスポンダ占有率制御方法は、
移動体の位置を測定するために送受信局から送信する質問信号の送信動作を制御することにより、前記移動体のトランスポンダの占有率を制御するトランスポンダ占有率制御方法であって、
前記送受信局から前記質問信号として送信する無線電波の送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況に応じて、該質問信号の送信回数、信号種別、周期に関する情報を、前記移動体のトランスポンダの占有率があらかじめ限界値として規定されている占有率閾値以下に収まるように設定している質問マップをあらかじめ有する構成とし、
前記送受信局から前記質問信号を送信する際に、前記質問マップの設定内容に従って、前記質問信号を送信するものである。
【0016】
(3)本発明によるトランスポンダ占有率制御プログラムは、
移動体の位置を測定するために送受信局から送信する質問信号の送信動作を制御することにより、前記移動体のトランスポンダの占有率を制御する処理をコンピュータによって実行するトランスポンダ占有率制御プログラムであって、
前記送受信局から前記質問信号として送信する無線電波の送信覆域内に存在する前記移動体のトラフィック状況に応じて、該質問信号の送信回数、信号種別、周期に関する情報を、前記移動体のトランスポンダの占有率があらかじめ限界値として規定されている占有率閾値以下に収まるように設定している質問マップをあらかじめ有する構成とし、
前記送受信局から前記質問信号を送信する際に、前記質問マップの設定内容に従って、前記質問信号を送信するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の移動体位置測定システム、トランスポンダ占有率制御方法およびトランスポンダ占有率制御プログラムによれば、主に、以下のような効果を奏することができる。
【0018】
すなわち、本発明においては、送受信局からの無線電波の送信による移動体におけるトランスポンダ占有率をあらかじめ規定されている占有率以下に確実に低減することができる。その理由は、送受信局が質問信号として送信する無線電波の送信回数、信号種別、周期等を、該無線電波の送信覆域内に存在する移動体のトラフィック状況に応じてあらかじめ設定した質問マップを用いて、無線電波の送信動作を制御する仕組みを有しているからである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る移動体位置測定システムのシステム構成の一例を示すシステム構成図である。
図2図1に示した移動体の内部構成の一例を示すブロック構成図である。
図3図1に示した第1受信局の内部構成の一例を示すブロック構成図である。
図4図1に示した送受信局の内部構成の一例を示すブロック構成図である。
図5図1に示した中央局の内部構成の一例を示すブロック構成図である。
図6図1に示した移動体位置測定システムの動作の一例を説明するシーケンスチャートである。
図7図5に示した中央局の質問制御メッセージ処理部にあらかじめ保持している質問マップの一例を示すテーブルである。
図8図1に示した移動体におけるトランスポンダ占有率を算出する算出式の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による移動体位置測定システム、トランスポンダ占有率制御方法およびトランスポンダ占有率制御プログラムの好適な実施形態について添付図を参照して説明する。なお、以下の説明においては、本発明による移動体位置測定システムおよびトランスポンダ占有率制御方法について説明するが、かかるトランスポンダ占有率制御方法をコンピュータにより実行可能なトランスポンダ占有率制御プログラムとして実施するようにしても良いし、あるいは、トランスポンダ占有率制御プログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録するようにしても良いことは言うまでもない。また、以下の各図面に付した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、本発明を図示の態様に限定することを意図するものではないことも言うまでもない。
【0021】
(本発明の特徴)
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の特徴についてその概要をまず説明する。本発明は、移動体の位置測定用として、設置位置が既知の送受信局から無線電波として送信する質問信号による移動体側のトランスポンダ占有率を低減することを可能にする仕組みを実現することを主要な特徴とするものであり、特に、航空機等の飛翔体の位置を測定するために、地上局(設定位置が既知の固定局)である送受信局から無線電波として質問信号を送信する場合に好適に適用することができることを特徴としている。
【0022】
つまり、本発明においては、設定位置が既知の固定局である送受信局が移動体に対して質問信号として送信する無線電波の送信回数、信号種別、周期等を該無線電波の送信覆域内に存在する移動体のトラフィック状況に応じて設定した質問マップを、移動体の位置を算出する機能を有するとともに該送受信局と接続した構成の中央局内、あるいは、該送受信局内に、装置パラメータとしてあらかじめ配備しておき、該装置パラメータに従って無線電波の送信動作を制御することを主要な特徴としている。
【0023】
而して、中央局内または送受信局内に装置パラメータとして配備した質問マップの設定内容をあらかじめ規定された占有率閾値(制限値)以下となるように事前に設定しておくことにより、送受信局から質問信号として送信する無線電波による移動体側のトランスポンダの占有率を、あらかじめ指定した前記占有率閾値以下となるように確実に制御することが可能になる。
【0024】
さらに、本発明の特徴をより具体的に説明すると、次の通りである。前述したように、本発明においては、送受信局が質問信号として送信する無線電波の送信回数、信号種別、周期等を、該無線電波の送信覆域内に存在する移動体のトラフィック状況に応じて、制御することによって、航空機等の移動体のトランスポンダ占有率をあらかじめ規定された占有率閾値(制限値)以下とすることを可能にしている。ここで、送受信局における無線電波の送信制御には、送受信局が質問信号として送信する無線電波の送信回数、信号種別、周期等を、該無線電波の送信覆域内に存在する移動体のトラフィック状況に応じてあらかじめ設定した質問マップを用いる。
【0025】
該質問マップの具体例として、例えば、送受信機から質問信号として送信される無線電波の送信覆域内に存在する航空機等の移動体それぞれに対して、あらかじめ定めた周期毎に(例えば1秒間の周期毎に)送信する質問信号の送信タイミング(送信回数や送信周期・頻度)を、該質問信号の信号種別毎に、あらかじめ定めた時間幅(例えば1ミリ秒(1msec))のスロットを単位にして指定する。なお、航空機等の移動体におけるトランスポンダ占有時間は、質問信号の信号種別により異なっている。
【0026】
例えば、SSR(Secondary Surveillance Radar:二次監視レーダ)システムを利用した広域マルチラテレーション(WAM:Wide Area Multilateration)システムを用いる場合は、質問の信号種別として、航空機の識別情報を取得するためのモードA質問、気圧高度情報を取得するためのモードC質問、航空機の固有情報(航空機名・機体状態等)を含めた各種情報を個別に取得するためのモードS質問が定義されており、トランスポンダ占有時間は、モードA質問、モードC質問、モードS質問(自移動体に対する質問)、モードS質問(他移動体に対する質問)の信号種別それぞれにより異なる。
【0027】
そこで、本発明においては、処理負荷の軽減を図るために、質問信号の信号種別それぞれのトランスポンダ占有時間をあらかじめ規格化して、移動体のトランスポンダの占有率を算出する際に用いるとともに、該質問マップの各スロットには、モードA質問、モードC質問、移動体毎のモードS質問のうちいずれの質問を送信するかという情報を設定する。
【0028】
また、該質問マップを、無線電波の送信覆域内に存在する移動体のトラフィック状況に応じて、中央局または送受信局内に複数準備し、移動体のトラフィック状況により、最適な移動体マップに切り替えて使用する。そして、該質問マップそれぞれの作成に当たっては、無線電波の送信覆域内に存在する移動体のトラフィック状況の如何によらず、いずれも、移動体のトランスポンダ占有率があらかじめ規定された占有率閾値以下(例えば2%以下)となるように、質問の送信回数、質問の信号種別、質問の送信周期を適切に設定する。その結果、航空機等の移動体側のトランスポンダの占有率をあらかじめ規定された占有率閾値(制限値)以下(例えば2%以下)に常に維持することが可能になる。
【0029】
(本発明の実施形態の構成例)
次に、本発明に係る移動体位置測定システムの構成例について図面を参照しながら説明する。まず、本発明に係る移動体位置測定システムのシステム構成の一例を、図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る移動体位置測定システムのシステム構成の一例を示すシステム構成図であり、無線電波を移動体に対して送信する送受信局を備えたWAMシステムとしての全体構成例を示している。図1に示す移動体位置測定システム100は、移動体1、第1受信局21、第2受信局22、送受信局3、中央局4により構成され、第1受信局21、第2受信局22、送受信局3と中央局4との間は、LAN(Local Area Network)ケーブル等の通信媒体を介して接続されている。
【0030】
移動体1は、位置測定の対象(ターゲット)である。ここで、本実施形態においては、後述するように、該移動体1に搭載されているトランスポンダの占有率を低減する仕組みを有している。また、第1受信局21と第2受信局22とは、移動体1から無線電波として送信されてくる応答信号を受信して、受信時刻などとともに応答信号に関する情報(例えば、移動体1が航空機の場合には高度情報等)を出力する機能を有する受信局であり、いずれも、設置位置は既知である。
【0031】
また、送受信局3は、第1受信局21と第2受信局22と同様の受信局としての機能に加え、さらに、移動体1に対してあらかじめ定めた情報を問い合わせる質問信号を無線電波として送信する機能も有する送受信局であり、設置位置は既知である。なお、例えばターゲットの移動体1として航空機を対象とするSSR(Secondary Surveillance Radar:二次監視レーダ)システムを利用した広域マルチラテレーション(WAM:Wide Area Multilateration)システムを用いる場合には、送受信局3から移動体1に向けて送信される質問信号は、1030MHz周波数の無線電波であり、また、移動体1のトランスポンダから第1受信局21、第2受信局22、送受信局3に向けて送信される応答信号は、1090MHzの周波数の無線電波である。
【0032】
また、中央局4は、第1受信局21、第2受信局22および送受信局3からの情報を取得し、対象(ターゲット)の移動体1の測位計算を実施する機能、および、送受信局3から送信する質問に関する送信動作を制御する機能を有している。なお、図1に示すように、中央局4には、質問の送信動作を規定している質問マップ44aを内蔵しているが、質問マップ44aの詳細については後述する。
【0033】
ここで、図1に示す移動体位置測定システム100には、送受信局3からの無線電波の送信覆域内に存在する移動体1として、対象(ターゲット)となる移動体1の1個のみを記載しているが、複数個であっても構わない。また、図1には、受信局に関しては第1受信局21と第2受信局22との2局、送受信局に関しては送受信局3の1局の場合として、MLAT計算が可能な最低の受信局数の場合を示している。しかし、MLAT計算が可能な最低の受信局数以上であれば、如何なる局数が設置されていても構わない。また、図1には、中央局4を1局のみ記載しているが、複数局であっても勿論構わないし、あるいは、場合によっては、中央局4を送受信局3と一体化した構成としても構わない。
【0034】
次に、図1に示した移動体1の内部構成の一例について、図2を用いて説明する。図2は、図1に示した移動体1の内部構成の一例を示すブロック構成図であり、本発明に関連する主要部のみを示している。図2に示すように、移動体1は、アンテナ11とトランスポンダ12とを有している。アンテナ11は、送受信局3からの質問信号に関する無線電波の取り込み、および、第1受信局21、第2受信局22、送受信局3に向けて送信する応答信号に関する無線電波の出力(放送)の機能を有する。また、トランスポンダ12は、アンテナ11から入力されてくる質問信号に関する無線電波を受信して、デコードし、デコード結果に基づいて、自移動体向けの質問信号か否かを判別し、自移動体向けの質問信号であると認識した場合には、該質問信号に対応する応答信号を生成して、生成した応答信号を無線信号としてアンテナ11へ出力する機能を有する。
【0035】
次に、図1に示した第1受信局21、第2受信局22の内部構成の一例について説明する。なお、第1受信局21と第2受信局22とは、全く同様の内部構成からなっており、ここでは、第1受信局21の内部構成について、図3を用いて説明することとし、第2受信局22に関しては説明を省略する。図3は、図1に示した第1受信局21の内部構成の一例を示すブロック構成図であり、本発明に関連する主要部のみを示している。図3に示すように、第1受信局21は、アンテナ211、RF信号処理部212、時刻カウンタ213、受信データ処理部214、タイムスタンプ部215、メッセージ作成部216およびメッセージ伝送部217を有している。
【0036】
図3の第1受信局21において、アンテナ211は、移動体1が出力する応答信号の無線電波を取り込み、第1受信局21内のRF信号処理部212へ出力する機能を有する。また、RF信号処理部212は、アンテナ211から出力されてくる応答信号の無線電波から振幅情報、位相情報等の信号情報を取り出すなどの無線信号(RF:Radio Frequency)に関する信号処理を行い、得られた処理結果を応答信号として受信データ処理部214とタイムスタンプ部215とに出力する機能を有する。また、時刻カウンタ213は、他の受信局(例えば第2受信局22)や送受信局3、中央局4など他の装置(構成部)と時刻情報を一致させることを目的として、例えばGPS(Global Positioning System)等を利用して、第1受信局21内のシステム時刻を生成して、受信データ処理部214とタイムスタンプ部215とに出力する機能を有する。
【0037】
また、受信データ処理部214は、RF信号処理部212から出力されてくる応答信号を示す信号情報と時刻カウンタ213から出力されてくるシステム時刻とに基づいて、応答信号の受信時刻を決定するとともに、受信処理データを生成してメッセージ作成部216に出力する機能を有する。また、タイムスタンプ部215は、RF信号処理部212から出力されてくる応答信号を示す信号情報と時刻カウンタ213から出力されてくるシステム時刻とに基づいて、RF信号処理部212から応答信号を示す信号情報が入力されたタイミングで、時刻カウンタ213にて生成されたシステム時刻をタイムスタンプとして取得して、タイムスタンプデータを生成してメッセージ作成部216に出力する機能を有する。
【0038】
また、メッセージ作成部216は、受信データ処理部214、タイムスタンプ部215それぞれから出力されてくるデータを伝送することを目的として、あらかじめ定めた規定インタフェースによるフォーマットに従ってデータを加工して、加工データとしてメッセージ伝送部217に出力する機能を有する。また、メッセージ伝送部217は、メッセージ作成部216から出力されてくる加工データをあらかじめ定めた前記規定インタフェースに従って、メッセージデータとして中央局4へ伝送する機能を有する。
【0039】
なお、第2受信局22は、前述したように、第1受信局21と全く同様の内部構成から構成されている。しかし、以下の説明において、第1受信局21内の構成部とは別の第2受信局22側の構成部であることを明確に示すことが好ましい場合には、図3の第1受信局21の場合におけるアンテナ211、RF信号処理部212、時刻カウンタ213、受信データ処理部214、タイムスタンプ部215、メッセージ作成部216およびメッセージ伝送部217それぞれの構成部に付している符号を、第2受信局22側の各構成部を明示することが可能な符号に変更して、アンテナ221、RF信号処理部222、時刻カウンタ223、受信データ処理部224、タイムスタンプ部225、メッセージ作成部226およびメッセージ伝送部227として記載することとする。
【0040】
次に、図1に示した送受信局3の内部構成の一例について、図4を用いて説明する。図4は、図1に示した送受信局3の内部構成の一例を示すブロック構成図であり、本発明に関連する主要部のみを示している。図4に示すように、送受信局3は、アンテナ31、RF信号処理部32、時刻カウンタ33、受信データ処理部34、タイムスタンプ部35、メッセージ作成部36、メッセージ伝送部37、送信データ処理部38およびRF信号生成部39を有している。
【0041】
ここで、送受信局3のアンテナ31、RF信号処理部32、時刻カウンタ33、受信データ処理部34、タイムスタンプ部35、メッセージ作成部36、メッセージ伝送部37の各構成部は、図3に示した第1受信局21のアンテナ211、RF信号処理部212、時刻カウンタ213、受信データ処理部214、タイムスタンプ部215、メッセージ作成部216およびメッセージ伝送部217それぞれの各構成部と全く同様であり、ここでの重複する説明は割愛する。
【0042】
送信データ処理部38は、中央局4から送信されてきた質問制御メッセージを、メッセージ伝送部37を介して受信して、該質問制御メッセージに基づいて、移動体1に対する質問信号を生成して、RF信号生成部39に出力する機能を有する。また、RF信号生成部39は、送信データ処理部38から出力されてきた質問信号に基づいて、SSR質問信号を生成して、無線信号に変換して、アンテナ31に出力する機能を有する。
【0043】
次に、図1に示した中央局4の内部構成の一例について、図5を用いて説明する。図5は、図1に示した中央局4の内部構成の一例を示すブロック構成図であり、本発明に関連する主要部のみを示している。図5に示すように、中央局4は、受信局データ処理部41、MLAT測位計算部42、測位結果管理部43および質問制御メッセージ処理部44を有している。
【0044】
受信局データ処理部41は、第1受信局21、第2受信局22および送受信局3それぞれからのメッセージデータを受信して、必要に応じて、該メッセージデータ内のデータの並べ替え、データの削除などのフィルタリングを行う機能を有する。さらに、受信局データ処理部41は、特定のターゲットとなる移動体1が同一時刻に出力したと推測される応答信号毎に、第1受信局21、第2受信局22および送受信局3それぞれからのメッセージデータの紐付け(グルーピング)を実施し、グルーピングデータとして後段のMLAT測位計算部42へ出力する機能も有する。
【0045】
また、MLAT測位計算部42は、受信局データ処理部41(グルーピング処理部)から出力されてくるグルーピングデータを利用して、MLAT計算を実施し、設置位置が既知の第1受信局21、第2受信局22および送受信局3それぞれの受信時刻の差を算出した結果に基づいて、ターゲットの移動体1の位置を算出し、測位情報として、測位結果管理部43に出力する機能を有する。
【0046】
また、測位結果管理部43は、MLAT測位計算部42において測位した移動体1の識別情報と該移動体1の測位情報とを紐付けして、紐付けした情報を測位結果として蓄積して管理する機能を有する。また、質問制御メッセージ処理部44は、移動体1に対する質問信号を送受信局3から放送させるための制御用メッセージを質問制御メッセージとして生成して、送受信局3に伝送する機能を有する。
【0047】
なお、質問制御メッセージ処理部44内には、送受信局3において質問信号として送信する無線電波の送信回数、信号種別、周期等に関する情報を、該無線電波の送信覆域内に存在する移動体のトラフィック状況に応じてあらかじめ設定している質問マップ44aを保有しており、当該質問制御メッセージ処理部44は、質問マップ44aを参照することにより、質問制御メッセージを生成して、送受信局3に対して送信する。
【0048】
(本発明の実施形態の動作の説明)
次に、本発明の一実施形態として図1図5に示した移動体位置測定システム100の動作について、その一例を、図面を参照しながら詳細に説明する。図6は、図1に示した移動体位置測定システム100の動作の一例を説明するシーケンスチャートであり、WAMシステムとして動作する移動体位置測定システム100におけるデータの流れの一例を示している。
【0049】
図6のシーケンスチャートにおいて、移動体1のトランスポンダ12は、自発的に、もしくは、SSR(Secondary Surveillance Radar:二次監視レーダ)システムまたは送受信局3から送信されてくる質問信号に応答するために、応答信号を無線電波として送信する(シーケンスSeq20)。移動体1から送信された無線電波は、空間を伝搬して、第1受信局21、第2受信局22、送受信局3それぞれに到着する。第1受信局21、第2受信局22、送受信局3それぞれは、移動体1から到着してきた無線電波である応答信号を検知すると、受信データ処理部214、受信データ処理部224、受信データ処理部34それぞれにおいて、受け取ったそれぞれの応答信号に関する受信処理(応答信号処理)を実施し、それぞれの受信処理データを生成する(シーケンスSeq21、Seq22、Seq23)。
【0050】
しかる後、第1受信局21、第2受信局22、送受信局3それぞれは、生成したそれぞれの受信処理データを、あらかじめ定めた規定インタフェースに従ったデータに加工して、メッセージ伝送部217、メッセージ伝送部227、メッセージ伝送部37それぞれから、それぞれのメッセージデータ(第1受信局21データ、第2受信局22データ、送受信局3データ)として、LAN(Local Area Network)ケーブル等の通信媒体を介して中央局4に送信する(シーケンスSeq24)。
【0051】
中央局4は、第1受信局21、第2受信局22、送受信局3それぞれから送信されてきたメッセージデータ(第1受信局21データ、第2受信局22データ、送受信局3データ)を受信すると、受信局データ処理部41にて受信処理(受信局データ処理)を行い、MLAT測位計算部42に出力する(シーケンスSeq25)。そして、MLAT測位計算部42によってMLAT測位計算を実施して、ターゲットである移動体1の位置を算出して測位結果として出力する(シーケンスSeq26)。測位結果は、中央局4内の測位結果管理部43において、管理対象のターゲットである移動体1の移動履歴(例えば、移動体1が航空機の場合は、航跡)として設定登録される(シーケンスSeq27)。
【0052】
しかる後、中央局4は、質問制御メッセージ処理部44を起動して、測位結果管理部43において管理されている移動体1の移動履歴情報を基にして、設定登録された移動体1を質問対象として認識し、該移動体1に対する質問制御メッセージを作成して、送受信局3にLANケーブル等の通信媒体を介して送信する(シーケンスSeq28)。
【0053】
送受信局3は、中央局4から送信されてきた質問制御メッセージを受信すると、送信データ処理部38において、該質問制御メッセージを基にして、質問信号処理を行い、ターゲットである移動体1に向けた質問信号を生成して、RF信号生成部39、アンテナ31を経由して、移動体1に対して無線電波として送信する(シーケンスSeq29)。
【0054】
送受信局3から送信された無線電波が、空間を伝搬して、ターゲットである移動体1に到着すると、移動体1のトランスポンダ12は、自発的に、もしくは、該無線電波の質問信号に応答するために、応答信号を無線電波として送信する(シーケンスSeq30)。移動体1から送信された無線電波が、空間を伝搬して、第1受信局21、第2受信局22、送受信局3それぞれに到着すると、シーケンスSeq21~Seq29の動作と同様の動作が繰り返される。
【0055】
なお、シーケンスSeq28において、中央局4の質問制御メッセージ処理部44が、測位結果管理部43において管理されている移動体1の移動履歴情報を基にして、質問制御メッセージを作成する旨を記載した。しかし、該質問制御メッセージを作成する際に、測位結果管理部43において管理されている移動体1の移動履歴情報を基に生成するモードS質問のみならず、該移動体1の移動履歴情報の如何に関わらず生成するモードA質問やモードC質問のうちいずれかの質問に関する質問制御メッセージも作成する。以下に、質問制御メッセージ処理部44の動作についてさらに説明する。
【0056】
質問制御メッセージ処理部44は、現在の時刻を示すシステム時刻に基づいて、例えば1秒間の周期の間に実施する質問送信の割り当て情報をあらかじめ設定したマップ(「質問マップ」と称する)を参照することにより、1msec(1ミリ秒)単位のスロットを単位にして質問の信号種別を抽出する。図7は、図5に示した中央局4の質問制御メッセージ処理部44にあらかじめ保持している質問マップの一例を示すテーブルである。図7の質問マップ44aは、1秒間周期のテーブルであり、横方向に0~49msecまでの1msec刻みの時刻を示し、縦方向に0msec、50msec、100msec、…、950msecまでの50msec刻みの時刻を示している。
【0057】
そして、質問マップ44aの横方向と縦方向との交点の位置(スロット)に、1秒周期に実施する質問に関する送信タイミングとして、質問の信号種別を、1msec(ミリ秒)の時間幅を単位とする各スロットにあらかじめ割り当てて設定登録している。ここで、移動体1のトランスポンダ12の占有時間は、モードA質問、モードC質問、モードS質問(自移動体に対する質問)、モードS質問(他移動体に対する質問)のそれぞれの信号種別により異なる時間になる。したがって、質問マップ44aの各スロットには、送受信局3からの無線電波の送信覆域内に存在する移動体1のトラフィック状況(例えば総数)に応じて、モードA質問、モードC質問、移動体1毎のモードS質問のうちいずれの信号種別の質問を送信するかという情報をあらかじめ割り当てて設定している。言い換えると、質問マップ44aには、前述したように、送受信局3が質問信号として送信する無線電波の送信回数、信号種別、周期等に関する情報を、該無線電波の送信覆域内に存在する移動体1のトラフィック(数)に応じてあらかじめ設定している。
【0058】
図7の質問マップ44aにおいて、各スロット位置を示すボックスに“A”の文字が設定されているスロットは、モードA質問を送信するスロットであることを示し、“C” の文字が設定されているスロットは、モードC質問を送信するスロットであることを示し、また、“1”~“55”の数字が設定されているスロットは、モードS質問を送信するスロットであることを示している。
【0059】
なお、モードS質問を示す数字“1”~“55”は、送受信局3の送信対象(ターゲット)となる移動体1を表す通番を示している。また、図7に示す質問マップ44aは、同一の送信覆域を無線電波がカバーしている送受信局3が複数存在している場合を例示している。そして、図7の質問マップ44aの各スロット位置を示すボックスに施している背景模様の違いが、質問信号を送信する送受信局3が異なることを示している。なお、モードS質問を送信する場合は、質問を送信する送受信局3が選択され、かつ、送受信局3毎の通番管理により、ターゲットに該当する或る移動体1に対するスロットとして、質問マップ44a上に該移動体1のためのスロットが割り当てられる。そして、スロットが割り当てられた当該移動体1は、質問を完全に終了するまで、次の1秒周期以降においても、割り当てられた同一のスロットを継続して使用する。
【0060】
つまり、質問マップ44aの設定内容として、あらかじめ定めた周期(本実施形態においては1秒周期)毎に、送受信局3が質問信号として送信する無線電波の送信覆域内に存在する移動体1それぞれに送信する質問信号の送信タイミングを、該質問信号の信号種別毎に、あらかじめ定めた時間幅のスロット単位(本実施形態においては1ミリ秒幅のスロット単位)に指定する構成としている。さらに、本実施形態においては、移動体1のトランスポンダ12の占有率を算出する際に、処理負荷を軽減するために、質問信号の信号種別それぞれに関する移動体1側のトランスポンダ占有時間をあらかじめ規格化して用いることにする。質問信号の信号種別毎の具体的なトランスポンダ占有時間の設定例については図8の説明において後述する。
【0061】
以上のような質問マップ44aの仕組みにより、同一の質問マップ44aを継続して使用することによって、どの1秒間の周期(すなわち1000スロット分の周期)においても、或る移動体1が受信するモードA質問、モードC質問、モードS質問(自移動体に対する質問)、モードS質問(他移動体に対する質問)の各質問の数を、同一の数とすることができる。而して、質問マップ44aにあらかじめ設定する質問の信号種別・個数を、移動体1のトランスポンダ12の占有率が所定の値以下になるように設定することにより、移動体1に送信する質問に関する当該移動体1のトランスポンダ12のトランスポンダ占有率を、全てのタイミングにおいてあらかじめ指定した占有率閾値(制限値)以下に抑えることができる。
【0062】
なお、トランスポンダ占有率の算出については、処理負荷の軽減を図るために、次のような条件を設定して、算出式を用いて算出することとする。まず、質問マップ44aに設定した全ての送受信局の送信覆域が互いに重複する同一グループと見做して、モードA質問およびモードC質問は、リング状にSAC段の構成とし、かつ、1つのリング状の送信覆域(1段当たりの送信覆域)に対して送信する質問は、モードA質問およびモードC質問を合わせてNAC回の送信を実施するものと仮定する。そして、モードA質問およびモードC質問の送信は、RAC秒間隔であって、全ての送受信局(総局数T)において繰り返し実施するものとする。また、質問送信対象となる1つの移動体1に対するモードS質問の送信数をNとし、かつ、送信覆域内に存在している移動体1の数すなわち捕捉中の状態にある移動体1の数のうち、モードS質問を送信する対象とするターゲットの移動体1の数をEとする。
【0063】
そして、質問信号の信号種別毎に、移動体1のトランスポンダ12の占有時間は、例えば、次の通りであるものと仮定する。
(1)モードA質問およびモードC質問の場合の占有時間TAC
占有時間TAC=47μsec
(2)モードS質問(自移動体に対する質問)の場合の占有時間TS1
占有時間TS1=377.75μsec
(3)モードS質問(他移動体に対する質問)の場合の占有時間TS2
占有時間TS2=49.75μsec
【0064】
以上のような仮定および変数を用いると、1秒間における移動体1のトランスポンダ占有率Rを算出する算出式は、図8に示す式(1)によって表すことができる。図8は、図1に示した移動体1におけるトランスポンダ占有率を算出する算出式の一例を示す説明図である。したがって、図8に示す式(1)の算出式によって算出したトランスポンダ占有率Rが、あらかじめ規定されている占有率閾値以下(例えば2%以下)に収まるように、図7の質問マップ44aを作成することにすれば良い。
【0065】
なお、質問制御のさらなる効率化を図るために、全ての送受信局3の送信覆域に存在している質問送信対象となる移動体1のトラフィック状況(例えば移動体1の総数)を複数のグループにグループ分けして、それぞれのグループ毎に最適な情報を設定した複数の質問マップをあらかじめ用意しておき、送信覆域内に存在する移動体1のトラフィック状況に応じて、最適な質問マップに切り替えるように制御することが望ましい。ただし、使用する質問マップが変更となった際には、その周期内においては質問送信対象の移動体1のスロットの割り当てが途中で変更されてしまって、各移動体1に対する質問数が同一の数にはならなくなることから、質問マップが変更された次の周期になるまで、各移動体1に対するモードS質問の送信を実施しないように制御する。
【0066】
同様に、スロット割り当て済みの移動体1に対する質問を送信する送受信局3が変更となった場合には、その周期内においては当該移動体1のスロットの割り当てが変更されてしまって、当該移動体1に対する質問数が他の移動体1と同一の数にはならなくなることから、送受信局3が変更された次の周期になるまで、当該移動体1に対するモードS質問の送信を実施しないように制御する。
【0067】
なお、以上の説明における質問送信対象の移動体1のトランスポンダ12に関しては、航空管制システムやレーダシステムとして図1に示した移動体位置測定システム100を適用して、航空機のトランスポンダであっても良いし、それ以外のトランスポンダであっても構わない。つまり、図1に示した移動体位置測定システム100を好適に適用することが可能であれば、如何なる種類の移動体のトランスポンダであっても構わない。
【0068】
また、前述の説明においては、固定局(地上局)である送受信局3が移動体1に対して送信する無線電波の送信回数、信号種別、周期等を設定した質問マップ44aを中央局4にあらかじめ設定しておき、質問マップ44aの設定内容を質問制御メッセージとして送受信局3に対して送信することにより、送受信局3が質問マップ44aの設定内容に従って無線電波の送信動作を行う場合について説明した。しかし、このような質問マップ44aを、中央局4に設置するのではなく、送受信局3内に設置するようにしても良い。同様に、対象(ターゲット)の移動体1の測位計算を実施する機能に関しても、中央局4ではなく、送受信局3に配置するようにしても良い。つまり、図1に示した中央局4を送受信局3に併合した構成としても良い。
【0069】
また、前述の説明においては、移動体1のトランスポンダ12に対する無線電波の送信動作を、1秒周期の繰り返しで、1ミリ秒単位のスロットを用いて制御する場合について説明したが、移動体1のトランスポンダ12に対する無線電波の送信スケジューリングとして、質問マップ44aの作成において前述したようなあらかじめ設定した一定の条件を満たす限り、1秒以外の他の周期や1ミリ秒単位以外の他の単位を用いても勿論構わない。
【0070】
また、前述の説明においては、質問マップ44aに基づいて、移動体1のトランスポンダ12に対する無線電波の送信スケジューリングを制御することを対象として説明したが、本発明は、かかる場合に限るものではない。例えば、無線電波の送信スケジューリングを制御する対象として、移動体1のトランスポンダ以外をターゲット(例えば固定設置したトランスポンダをターゲット)として、該ターゲットに対する無線電波の送信スケジューリングとして、質問マップ44aのような質問マップを用いて制御するようにしても良い。
【0071】
(実施形態の効果の説明)
以上に詳細に説明したように、本実施形態においては、以下のような効果を奏することができる。
【0072】
第1の効果は、送受信局3からの無線電波の送信による移動体1におけるトランスポンダ占有率をあらかじめ規定されている占有率以下に確実に低減することができる。その理由は、送受信局3が質問信号として送信する無線電波の送信回数、信号種別、周期等を、該無線電波の送信覆域内に存在する移動体1のトラフィック状況に応じてあらかじめ設定した質問マップ44aを用いて、無線電波の送信動作を制御する仕組みを有しているからである。而して、移動体1のトランスポンダ占有率をあらかじめ規定されている占有率閾値以内(例えば2%以内)に制御しつつ、低い処理負荷で、高頻度の質問を効率良く送信することが可能になる。
【0073】
第2の効果は、送受信局3からの無線電波の送信に伴う電波環境の悪化を抑制することができることである。その理由は、送受信局3からの無線電波の送信覆域内に存在する移動体1のトラフィック状況の変動に応じて使用する質問マップ44aを切り替えることにより、送信覆域内に存在する移動体1のトラフィック状況に応じた最適な質問を送信することができ、不要な質問が送信されてしまう確率を低減することができるからである。
【0074】
第3の効果は、WAMシステムとして機能する移動体位置測定システム100の送信覆域の拡張および検出率の向上を図ることができることである。その理由は、送受信局3から無線電波の送信を行うことにより、第1受信局21、第2受信局22の受信局2局と送受信局3の1局との3局におけるレンジングMLATが成立しているからである。すなわち、レンジングMLATが成立することにより、通常のMLATシステムと比較して、地上局(受信局)を1局以上削減した状態であっても、移動体1の測位を行うことが可能になる確率を向上させることができるからである。さらに、あらかじめ設定した質問マップ44aに基づく質問制御を行うことにより、移動体1のトランスポンダ占有率をあらかじめ指定した占有率閾値以内(例えば2%以内)に制御しつつ、低い処理負荷で、高頻度の質問をターゲットの移動体1に対して送信することも可能になる。
【0075】
以上、本発明の好適な実施形態の構成を説明した。しかし、かかる実施形態は、本発明の単なる例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではないことに留意されたい。本発明の要旨を逸脱することなく、特定用途に応じて種々の変形変更が可能であることが、当業者には容易に理解できよう。
【符号の説明】
【0076】
1 移動体
3 送受信局
4 中央局
11 アンテナ
12 トランスポンダ
21 第1受信局
22 第2受信局
31 アンテナ
32 RF信号処理部
33 時刻カウンタ
34 受信データ処理部
35 タイムスタンプ部
36 メッセージ作成部
37 メッセージ伝送部
38 送信データ処理部
39 RF信号生成部
41 受信局データ処理部
42 MLAT測位計算部
43 測位結果管理部
44 質問制御メッセージ処理部
44a 質問マップ
100 移動体位置測定システム
211 アンテナ
212 RF信号処理部
213 時刻カウンタ
214 受信データ処理部
215 タイムスタンプ部
216 メッセージ作成部
217 メッセージ伝送部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8