(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】拭き取り検査用キット
(51)【国際特許分類】
G01N 1/04 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
G01N1/04 W
G01N1/04 J
(21)【出願番号】P 2019055920
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000128418
【氏名又は名称】株式会社エルメックス
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100111464
【氏名又は名称】齋藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】白岩 和雄
(72)【発明者】
【氏名】李 宗洙
(72)【発明者】
【氏名】和久 信一
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-516980(JP,A)
【文献】米国特許第05543115(US,A)
【文献】実開昭58-004200(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と、前記容器本体に収納される綿棒軸を固設し、かつ前記容器本体に脱着可能に装着される蓋部とを含む拭き取り検査用キットであって、
前記蓋部は、前記容器本体への装着部と、前記装着部に連設され、前記容器本体の外方に垂設される中空突出部と、前記中空突出部の中空部の開口端を密封する切り取り切片とからなり、
前記綿棒軸は、前記中空部に挿入して固設され、
前記中空部の内壁および/または前記綿棒軸の外壁は、前記中空部に前記綿棒軸を挿入した際に前記中空部の全長に亘って連通する間隙を形成するものであ
り、
前記中空突出部は、外周に、折り曲げ切片を嵌合できる凹部が形成されることを特徴とする、拭き取り検査用キット。
【請求項2】
容器本体と、前記容器本体に収納される綿棒軸を固設し、かつ前記容器本体に脱着可能に装着される蓋部とを含む拭き取り検査用キットであって、
前記蓋部は、前記容器本体への装着部と、前記装着部に連設され、前記容器本体の外方に垂設される中空突出部と、前記中空突出部の中空部の開口端を密封する切り取り切片とからなり、
前記綿棒軸は、前記中空部に挿入して固設され、
前記中空部の内壁および/または前記綿棒軸の外壁は、前記中空部に前記綿棒軸を挿入した際に前記中空部の全長に亘って連通する間隙を形成するものであり、
前記蓋部は、前記開口端において前記切り取り切片の外周に設けられる、コンタミ防止用突起を有し、
前記コンタミ防止用突起は、前記開口端への接触による微生物の付着を防ぐことで、前記容器本体内に収納された液体を前記開口端から排出する際に前記液体へ微生物が混入することを防ぐことを特徴とする、拭き取り検査用キット。
【請求項3】
前記中空部は、前記中空突出部の開口端から前記切り取り切片に向かって断面積S1の中空部T1と断面積S2の中空部T2とで構成され、前記断面積S1>前記断面積S2であることを特徴とする、請求項1
又は2記載の拭き取り検査用キット。
【請求項4】
前記綿棒軸は、軸の長手方向に形成された複数の凸状部を有し、
前記綿棒軸が挿入される前記中空部T1および/または前記中空部T2は断面視多形であることを特徴とする、請求項
3記載の拭き取り検査用キット。
【請求項5】
前記綿棒軸が挿入される前記中空部T1および/または前記中空部T2は、断面視円形または角が丸く成形された方形であることを特徴とする、請求項
3記載の拭き取り検査用キット。
【請求項6】
前記容器本体の底面部は、前記容器本体の外方に延設される翼が形成された平板であり、自立可能であることを特徴とする、請求項1~
5のいずれかに記載の拭き取り検査用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清浄度検査等に使用でき、反転した容器の蓋部から内溶液の全量を排出可能な拭き取り検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、手指や機材、食品加工施設、医療施設などの清浄を評価するために清浄度検査が行われ、評価方法の一つとして拭取り培養法がある。拭き取り培養法に使用する器具として、容器本体に、拭き取りに使用する綿棒が固定されたキャップを装着するものがある(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。予め容器本体に希釈液が収納され、綿棒で被検体の表面を拭き取った後に容器に密封して希釈液を撹拌すると、検体が希釈液中に均一に撹拌された検体液を調製することができる。
【0003】
大腸菌や大腸菌群等の菌数を測定するには、検体液をフィルム培地や寒天培地などで培養する。ピペットを使用せずに検体液を取り出すため、反転した容器の蓋部から検体液を排出させる拭き取り検査用の器具もある(特許文献6、特許文献7、特許文献8)。例えば、特許文献6の拭き取り検査用キットでは、
図7に示すように、キャップ20が、螺条を形成した外壁部22とこれに連続する頂壁部23と、前記頂壁部23を被覆する上蓋25とで構成されている。前記頂壁部23の中央に、下方に突出する中空筒状部24が形成され、中空筒状部24の両端が開口している。綿棒軸4は、中空筒状部24に挿入により固定される。中空筒状部24の内周側には、軸方向に延長する複数の突条27が形成されており、挿入された綿棒軸4と突条27との間に形成された空隙が連通路30となる。容器を反転してキャップ20を下方に向けると、容器内の検体液が、連通路30から開口を経て容器外に排出される仕組みとなっている。
【0004】
一方、微生物の検出および同定法として、RT-PCR法やリアルタイムRT-PCR法などの遺伝子検出法が普及しつつある。例えば、急性胃腸炎の主要な原因体としてノロウイルス等がある。ウイルスは、大腸菌などの細菌と相違して組織培養法で分離・検出することができないため、細菌培養に代えてウイルス遺伝子の検出を行っている。ウイルスの毒性に鑑みて、調製した検査液をピペットなどの器具を使用せず、反転した容器の蓋部から検体液を取り出せるものが好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-229871号公報
【文献】特開2008-32541号公報
【文献】特開2008-101971号公報
【文献】特開2011-069778号公報
【文献】特開2016-70820号公報
【文献】特開2003-344232号公報
【文献】特開2013-108803号公報
【文献】特開2016-050911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微生物培養に使用される従来の拭き取り検査用器具は、通常10mlの希釈液が収納される(特許文献6)。微生物培養に使用される検査液が1mlであり、検査結果の正確を期すためデュープリケートで行い、容器に残存する検査液を保存すること、および検体液の調製の容易さなどを勘案し10ml程度が好ましい。一方、遺伝子検出法は、検体から抽出した核酸を材料として特定の遺伝子配列だけを増やす核酸増幅法であり、微生物培養と相違して短時間で結果が得られる特徴がある。PCR法の検体採取に従来の拭き取り検査用キットを使用すると、検体液に含まれる核酸量が不足し、迅速な検査が困難な場合がある。
【0007】
また、検体濃度を10倍にするため、収納する希釈液量を1/10、例えば1mlに低減すると、蓋部から検体液が排出されないという問題が生じる。例えば、
図7に示すキャップ20では、容器を反転すると、頂壁部23を底部とし、螺条を形成した外壁部22を外周とする空間に検体液が移動する。頂壁部23の直径は約20mmであり、中空筒状部24の直径は約6mmであるから、1mlの検体液の深さは約3.5mm程度となる。中空筒状部24は、綿棒軸4を固定するために頂壁部23から5~10mm程度の長さで垂下しているため、検体液は中空筒状部24内の連通路30に導入できず、開口から容器外に排出させることができない。
【0008】
中空筒状部24は、綿棒軸4を固定するものであり、安定した固定のために所定の長さを必要とする。したがって、従来のキャップ構造では、キャップの径を小型化しても希釈液が残留し、収納した希釈液の全量を排出させることができない。
【0009】
上記現状に鑑み、本発明は、内容量が少量であっても、容器を反転させて蓋部から内容量の全量を排出させることができる拭き取り検査用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、拭き取り検査用キットについて詳細に検討した結果、蓋部を、容器本体への装着部と、容器本体の外方に垂設される中空突出部と、この中空突出部の一方の開口端を密封する切り取り切片とで構成すると、綿棒軸を中空突出部の中空部に挿入して安定に固定できること、中空部と綿棒軸との接触部に間隙を形成すれば中空部内に流通路を形成できること、切り取り切片を除去することで、容器本体の検体液の全量を前記流通路を経て開口端から排出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、容器本体と、前記容器本体に収納される綿棒軸を固設し、かつ前記容器本体に脱着可能に装着される蓋部とを含む拭き取り検査用キットであって、
前記蓋部は、前記容器本体への装着部と、前記装着部に連設され、前記容器本体の外方に垂設される中空突出部と、前記中空突出部の中空部の開口端を密封する切り取り切片とからなり、
前記綿棒軸は、前記中空部に挿入して固設され、
前記中空部の内壁および/または前記綿棒軸の外壁は、前記中空部に前記綿棒軸を挿入した際に前記中空部の全長に亘って連通する間隙を形成するものであることを特徴とする、拭き取り検査用キットを提供するものである。
【0012】
また本発明は、前記中空部は、前記中空突出部の開口端から前記切り取り切片に向かって断面積S1の中空部T1と断面積S2の中空部T2とで構成され、前記断面積S1>前記断面積S2であることを特徴とする、前記拭き取り検査用キットを提供するものである。
【0013】
また本発明は、前記綿棒軸は、軸の長手方向に形成された複数の凸状部を有し、
前記綿棒軸が挿入される前記中空部T1および/または前記中空部T2は断面視多形であることを特徴とする、前記拭き取り検査用キットを提供するものである。
【0014】
また本発明は、前記綿棒軸が挿入される前記中空部T1および/または前記中空部T2は、断面視円形または角が丸く成形された方形であることを特徴とする、前記拭き取り検査用キットを提供するものである。
【0015】
また本発明は、前記中空突出部は、外周に、折り曲げ切片を嵌合できる凹部が形成されることを特徴とする、前記拭き取り検査用キットを提供するものである。
【0016】
また本発明は、前記蓋部は、前記切り取り切片の外周に、コンタミ防止用突起を有することを特徴とする、前記拭き取り検査用キットを提供するものである。
【0017】
また、前記容器本体の底面部は、前記容器本体の外方に延設される翼が形成された平板であり、自立可能であることを特徴とする、前記拭き取り検査用キットを提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の拭き取り検査用キットは、容器を反転すると蓋部から検体液の全量を排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(A)は、本発明の拭き取り検査用キットの正面図であり、
図1(B)は、側面図であり、
図1(C)は、縦断斜視面図である。
【
図2】
図2(A)は、拭き取り検査用キットを構成する容器本体と蓋部の正面図であり、
図2(B)は、これらの縦断面図である。
【
図3】
図3(A)は、蓋部を説明する図であり、
図3(B)は蓋部の底面図であり、
図3(C)および
図3(D)は、中空部と綿棒軸との関係を説明する図である。また、
図3(E)は、切り取り切片を除去した後に拭き取り検査用キットを反転し、検体液が流出できることを説明する図であり、
図3(F)は、切り取り切片を除去した後の蓋部の平面図である。
【
図4】
図4(A)は、拭き取り検査用キットを構成する容器本体と蓋部の側面図であり、
図4(B)は綿棒軸を固定した蓋部と容器本体の縦断面図であり、
図4(C)は、希釈液を収納した拭き取り検査用キットの縦断面図である。
【
図6】
図6(A)は、拭き取り検査用キットの正面図であり、
図6(B)は側面図であり、
図6(C)は、蓋部の凹部に他の拭き取り検査用キットの切り取り切片を挿入した状態を説明する図である。
【
図7】
図7は、従来の拭き取り検査用キットの蓋部の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、容器本体と、前記容器本体に収納される綿棒軸を固設し、かつ前記容器本体に脱着可能に装着される蓋部とを含む拭き取り検査用キットであって、
前記蓋部は、前記容器本体への装着部と、前記装着部に連設され、前記容器本体の外方に垂設される中空突出部と、前記中空突出部の中空部の開口端を密封する切り取り切片とからなり、
前記綿棒軸は、前記中空部に挿入して固設され、
前記中空部の内壁および/または前記綿棒軸の外壁は、前記中空部に前記綿棒軸を挿入した際に前記中空部の全長に亘って連通する間隙を形成するものであることを特徴とする、拭き取り検査用キットである。以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の拭き取り検査用キットの好適な実施態様の一例として、容器本体10に、蓋部20が脱着可能に装着された拭き取り検査用キット100の正面図を
図1(A)に、側面図を
図1(B)に示す。容器本体10は、正面よりも側面がやや幅狭く構成された横断面視略楕円の筒状である。容器本体10の開口部1に蓋部20の装着部21を嵌着すると容器本体10に蓋部20を装着することができる。蓋部20は、容器本体10の外方に垂設される中空突出部25と切り取り切片27とを装着部21と一体に有する。
図1(C)は拭き取り検査用キット100の縦断面斜視図である。蓋部20の中空突出部25には、容器本体10と連通する中空部23が形成され、中空部23には、拭き取り部8を有する綿棒軸7が挿入されている。なお、中空部23の他端は、切り取り切片27によって密封されている。
【0022】
容器本体10の素材は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等の圧縮変形可能な軟質材料である。また、蓋部は、ABS、PS、PP等が好適である。
【0023】
本発明で使用する蓋部20は、装着部21と中空突出部25と切り取り切片27とが一体に形成されたことを特徴とする。
図2(A)に容器本体10および蓋部20の正面図を、
図2(B)にこれらの縦断面図を示す。装着部21の形状は、容器本体10の開口部1の形状に対応して適宜選択することができる。
図2(A)に示す容器本体10の開口部1は筒状であるため、蓋部20の装着部21も前記筒状に嵌着できる筒状となっている。しかしながら、本発明ではこれに限定されず、例えば開口部1の外周に螺条を形成した場合には、装着部21にもこれに対応する螺条を形成するものであってもよい。開口部1と装着部21とを螺着させ、蓋部20を容器本体10に装着することができ、および螺条を逆方向に回転することで蓋部20を離脱することができる。なお、中空突出部25は、中空部23が装着部21より容器本体10の外方に形成されることを条件に、装着部21との結合部より容器本体10側に向かう部分を有していてもよい。例えば、
図2(B)に、中空突出部25の一部として、装着部21と平行する軒部22が形成される態様を示す。軒部22により、開口部1と装着部21との嵌着部から物質が混入するのを回避することができる。なお、
図2(A)の符号28aは、軽量化を目的として削られた軽量化用凹部である。
【0024】
図2(B)に示すように、中空突出部25には、容器本体10側の開口23aから切り取り切片27側の端部23bに連通する中空部23が形成され、開口23aは解放端であり容器本体10と連通する。中空部23は、綿棒軸7を固定する機能と、容器本体10の検体液を蓋部20から排出させるための流通路を形成する機能とを有する。開口23aから図示しない綿棒軸7を挿入すると、綿棒軸7を蓋部20に固定することができる。したがって、中空部23の長さは綿棒軸7を安定して固定できる長さとする。なお、端部23bは切り取り切片27で密封されている。
【0025】
中空部23は、全長にわたり同径であってもよいが、
図3(A)に示すように、断面積の異なる中空部23T1と中空部23T2とで構成されるものであってもよい。例えば、中空部23T1の断面積をS1、中空部23T2の断面積をS2とした場合に断面積S1>断面積S2となるように設計すると、異なる太さや形状の綿棒軸7を中空部23で固設することができる。この際、中空部23T1および中空部23T2の長さは、それぞれ、綿棒軸7を安定して固定できる長さとする。
【0026】
中空部23の内壁と綿棒軸7の外壁は、中空部23に綿棒軸7を挿入した際に中空部23の全長を連通する間隙24が形成されることを要する。この間隙24が検体液の流通路となる。
図3(B)に蓋部20の底面図の一例を示す。この蓋部20は、中央に方形の中空部23T2と、中空部23T2の外周に、角が丸く成形された方形の中空部23T1とが形成される態様となっている。
図3(C)に中空部23T2に固定する円柱状の綿棒軸7の横断面図を、
図3(D)に中空部23T1に固定する軸の長手方向の4か所に凹部7aを形成した多形の綿棒軸7の横断面図を示す。
図3(D)に示すように、角が丸く成形された方形の中空部23T1に多形の綿棒軸7を挿入すると、綿棒軸7の4つの凹部7aを中空部23の全長に亘る間隙24、すなわち流通路とすることができる。また、中空部23T1と綿棒軸7との接触面が大きいため、綿棒軸7を安定して固定することができる。なお、角が丸く成形された方形の中空部23T1に円柱状の綿棒軸7(
図3(C)参照)を挿入すれば、前記方形の角部が間隙24となり、中空部23の全長に亘る間隙24を形成することができる。上記は一例である。中空部23T1や中空部23T2の内壁と綿棒軸7の外周の双方に凹凸加工し、綿棒軸7の固定と間隙24の形成による流通路の確保とを同時に行う態様等であってもよい。
【0027】
中空部23の端部23bは切り取り切片27で密封されている(
図3(A)参照)。切り取り切片27を把持して応力を負荷すると切り取り切片27を切り離すことができ、中空部23T2の封止端が解放され端部23bが開口する。切り取り切片27を除去した後に、蓋部20が下方になるように拭き取り検査用キット100を反転すると、容器本体10に収納された希釈液4が、装着部21と中空突出部25とによって構成される空間に移動し、中空突出部25の開口23aから中空部23に導入され、中空部23に形成された間隙24を経て開口した端部23bから排出される(
図3(E))。
図3(F)に切り取り切片27を除去した蓋部20の平面図を示す。中空突出部25の中央に端部23bが開口している。
【0028】
図4(A)に容器本体10および蓋部20の側面図を示す。容器本体10のほぼ中央には容器本体10の長手方向に延びる楕円形の凹部3が形成され、凹部3には、容器本体10の幅方向に平行する複数の凸条2が形成され、容器本体10を容易に押圧できる構成となっている。また、
図4(B)に容器本体10の縦断面図と、中空部23T2に綿棒軸7を挿入した蓋部20の縦断面図を、
図4(C)に希釈液4を収納した
図4(B)の拭き取り検査用キット100の縦断面図を示す。綿棒軸7は、中空部23T2に挿入して固定されている。拭き取り部8で被検体を拭き取る際に、凹部3を押圧して拭き取り部8に含浸される希釈液4の液量を調整することができる。中空部23T2の内壁と綿棒軸7との間に間隙24が形成され、この間隙24は開口23aから端部23bまで連通している。切り取り切片27を切り離すと中空部23T2の端部23bが開口し、希釈液4の全量を排出することができる。
【0029】
蓋部20の中空突出部25は、中空部23を有すれば外周の形状に特に限定はない。
図5に蓋部20の一例の斜視図を示す。符号28aは軽量化用凹部であり、符号28bは、他の拭き取り検査用キット100の切り取り切片27を嵌着して切り取るための嵌着用凹部であり、符号27aはコンタミを防止するためのコンタミ防止用突起である。嵌着用凹部28bは、切り取り切片27近傍から装着部21近傍に至る略楕円形で構成されることが好ましい。
図6(A)に、拭き取り検査用キット100の正面図、
図6(B)に側面図を示し、
図6(C)に、二つの拭き取り検査用キット100の蓋部20どうしを90度の角度で対抗させ、一方の拭き取り検査用キット100の嵌着用凹部28bに、他の拭き取り検査用キット100の切り取り切片27を挿入した状態を示す。一方の切り取り切片27を他方の嵌着用凹部28bで固定し折り曲げると、切り取り切片27を容易に切り離すことができる。嵌着用凹部28bは、このような切り取り切片27を簡便に切り離すための機構として使用することができる。その際、コンタミ防止用突起27aが存在すると、端部23bと切除される切り取り切片27との間にコンタミ防止用突起27aの高さの間隙が形成される。開口された端部23bが他の拭き取り検査用キット100のいずれの部分とも接触しないため、端部23bから微生物が混入することを防止することができる。
【0030】
拭き取り検査用キット100の外形は、例えば
図6(A)、(B)に示すように、容器本体10は、正面の幅が側面の幅より長く形成され、その横断面は略楕円形である。一方、容器本体の底面部5を楕円に限定せず、容器本体10から突出する翼6を有する円盤状としてもよい。これにより、底面部5を机上に載置すると、拭き取り検査用キット100を自立させることができる。
【0031】
拭き取り検査用キット100に使用する綿棒は、綿棒軸7が間隙24を形成できればよく、他の条件は従来公知のものを使用することができる。例えば、材質は、拭き取り時に力を加えても折れにくい可撓性樹脂等を好適に使用する。同様に、拭き取り部8の形状や素材も、拭き取り箇所や検体液の分析方法によって適宜選択することができる。したがって、容器本体10に収納できることを条件に、形状は、球形でも板状でもよい。また、拭き取り部8の素材は、綿などの天然物の他、ポリエステル、ポリアミドなどの合成樹脂やガラスウールなどであってもよい。これら素材は、繊維状の他、スポンジ状、その他、任意に選択することができる。特に、検体液をPCR法で分析する場合には、拭取り部8に由来する核酸が含まれていないことが好ましい。拭き取り部8が合成樹脂であれば、熱溶着、合成樹脂系接着剤などを介して綿棒軸7に拭き取り部8を固定することが好ましい。
【0032】
容器本体10には、あらかじめ所定量の希釈液4を収容することができる。拭き取り検査用キットの使用目的に応じて希釈液4の種類を選択することができ、例えば、精製水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、緩衝ペプトン水等を例示することができる。希釈液量は、拭き取り検査用キット100から排出した際の液量が0.5~3mlとなることが好ましく、より好ましくは1~2mlである。本発明の拭き取り検査用キット100は、希釈液4の全量を排出することができるため、希釈液量を少なくして高濃度の検体液を調製することができる。
【0033】
拭き取り試料としては、食品工場、飲料工場、半導体製造工場、その他の環境中より採取した拭き取り試料の他、拭き取り部8をペットや家畜の飼料、医薬品、土壌、上下水、生体組織、生体排出物に接触して得た試料等であってもよい。
【0034】
本発明の拭き取り検査用キット100は、拭き取り試料を使用して、培養法による大腸菌やサルモネラなどの食中毒菌の検出に使用できる。より好ましくは、拭き取り試料からDNAやRNAなどの核酸を抽出し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により核酸を増幅することを特徴とする、遺伝子検出法による検出である。例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)によりノロウイルスやロタウイルスなどに特異な核酸を増幅し、リアルタイムPCR装置、RT-PCR(Reverse Transcription-PCR)、RT-LAMP(Reverse Transcription-Loop-mediated Isothermal Amplification)等の測定器を用いて、食中毒原因ウイルスを検出することができる。また、検出目的のウイルスの抗体を利用した抗原検出法(ELISA法や、BLEIA法、イムノクロマト法)を導入し、免疫学的手法によって食中毒原因ウイルスを検出することもできる。本発明の拭き取り検査用キット100は、高濃度の検体液を調製できるため、遺伝子検査法や免疫学的手法により、短時間に検出結果を得ることができる。
【0035】
更に、本発明の拭き取り検査用キット100は、ATP拭き取り検査に使用することもできる。全ての生物にはATP(アデノシン三リン酸)が含まれるため、拭き取り試料からATPを抽出し、所定の試薬で発光させ、その発光量(Relative Light Unit;RLU)を測定し、拭き取り面の汚染を評価する方法である。発光量の多寡が拭取り面の生物量と比例するため、発光量をモニタリングして衛生管理を行うことができる。
【0036】
本発明の拭き取り検査用キット100の用途は、清浄度検査に限定されるものではない。例えば、拭き取り試料を遺伝子検査法で評価する際に、PCRで増幅する核酸を小麦、蕎麦、ラッカセイ、エビ、カニなどのアレルギー物質に変更すれば、アレルゲン検査に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の拭き取り検査用キットは、微生物検査を簡便かつ迅速に行えるため、有用である。
【符号の説明】
【0038】
1・・・開口部、
4・・・希釈液、
5・・・底面部、
7・・・綿棒軸、
8・・・拭き取り部、
10・・・容器本体、
20・・・蓋部、
21・・・装着部、
23、23T1、23T2・・・中空部、
24・・・間隙、
25・・・中空突出部、
27・・・切り取り切片、
27a・・・コンタミ防止用突起、
28a・・・軽量化用凹部、
28b・・・嵌着用凹部、
100・・・拭き取り検査用キット