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特許7231226顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのための治療標的
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのための治療標的
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20230221BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230221BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
A61K31/7105 ZNA
A61K48/00
A61P21/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019523836
(86)(22)【出願日】2017-11-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 US2017060410
(87)【国際公開番号】W WO2018085842
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】62/490,783
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/418,694
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507088266
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マサチューセッツ
【住所又は居所原語表記】One Beacon Street,31st Floor,Boston,Massachusetts 02108
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,ペーター,エル.
(72)【発明者】
【氏名】グリーン,マイケル,アール.
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0087636(US,A1)
【文献】上原記念生命科学財団研究報告集, (2018), 32, Report.159, <https://www.ueharazaidan.or.jp/houkokushu/Vol.32/pdf/report/159_report.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00-31/80
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーを有する対象を処置するための医薬組成物であって、DUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子の有効量を含み、ここで、前記エピジェネティックな修飾因子が、対象の筋細胞においてDUX4遺伝子発現を低下させ、ここで、前記エピジェネティックな修飾因子が、KDMC4Cの阻害剤であり、ここで、前記KDMC4Cの阻害剤が、KDM4CのmRNAに結合しKDM4Cを特異的にノックダウンするshRNAである、前記組成物。
【請求項2】
エピジェネティックな修飾因子が、対象の筋細胞においてZSCAN4遺伝子発現を低下させる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
DUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子が、対象の筋細胞においてTRIM43またはZSCAN4を阻害しない、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
DUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子が、1つ以上の筋原性制御遺伝子を阻害しない、請求項1または請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
1つ以上の筋原性制御遺伝子が、ミオゲニン(MyoG)、myoD、およびミオシン重鎖(MyHC)である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
エピジェネティックな修飾因子が、JQ1、またはJQ1のアナログではない、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
DUX4のエピジェネティックな修飾因子が、配列番号1~3のいずれかで表されるshRNAである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
筋細胞が、最終分化した筋細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
有効量が、対象の筋細胞にex vivoで投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
転写活性DUX4遺伝子の存在に基づいて、FSHDを有する対象が同定される、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
筋細胞が、エピジェネティックな修飾因子の有効量の投与の前に、染色体4q35においてエピジェネティックに調節不全となったD4Z4アレイを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
エピジェネティックに調節不全となったD4Z4アレイが、11個より少ない反復単位を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
投与の前および/または後に、対象のDUX4発現レベルが評価され、ここで、DUX4発現レベルの変化が、処置の有効性を示す、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2016年11月7日に出願された米国仮出願番号62/418,694、表題「IDENTIFICATION OF THERAPEUTIC TARGETS FOR FACIOSCAPULOHUMERAL MUSCULAR DYSTROPHY」、および2017年4月27日に出願された米国仮出願番号62/490,783、表題「IDENTIFICATION OF THERAPEUTIC TARGETS FOR FACIOSCAPULOHUMERAL MUSCULAR DYSTROPHY」の出願日の利益を主張し、これらの内容は、その全体において参考として援用される。
【0002】
政府の支援
本発明は、国立衛生研究所により付与されたAR062587下における政府の支援によりなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)は、染色体4q35におけるエピジェネティックに調節不全となったD4Z4アレイからのDUX4遺伝子の異常発現により引き起こされる。この遺伝子は、健康な個体においては、一般に発現しないか、非常に低いレベルにおいて発現する。FSHD患者においては、DUX4遺伝子は、骨格筋において、高いレベルで異常発現する。この異常発現が、最終的に、筋肉の病変、萎縮、および臨床的な脱力をもたらす。開発されているほとんどの治療は、DUX4のmRNAまたはタンパク質を標的とする。
【0004】
DUX4のタンパク質のmRNAを標的とするいくつかの治療剤が、FSHDの処置のために研究されてきた。しかし、有効なヒト用の処置は、なお必要とされている。今日まで、FSHDのための特異的治療は存在せず、現在の処置は、行動症状を改善するためのみに向けられている。したがって、FSHDを処置するための新規の組成物および方法の開発について、一般的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
概要
いくつかの側面において、本開示は、DUX4の異常な発現に関連する疾患(例えば、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、FSHD)の処置のために有用な組成物および方法に関する。いくつかの態様において、本明細書において開示されるエピジェネティックな修飾因子は、DUX4の異常な発現をエピジェネティックに制御(例えば阻害)するため有用である。いくつかの態様において、DUX4の異常な発現により特徴づけられる疾患(例えばFSHD)を有する対象における、エピジェネティックな修飾因子(例えば選択的阻害剤)によるDUX4発現の低下は、病原性DUX4-FLタンパク質の発現の低下をもたらし、それにより、疾患の総体症状を軽減するか、疾患の症状を逆転させることが期待される。いくつかの態様において、エピジェネティックな修飾因子は、対象においてZSCAN4遺伝子発現を低下させる。
【0006】
本開示の側面は、エピジェネティックな修飾因子(例えば選択的阻害剤)によるDUX4遺伝子発現の阻害が、DUX4遺伝子発現の低下および/またはDUX4タンパク質(例えば、DUX4-FL)のタンパク質産生の低下をもたらすという発見に関する。例えば、特定のブロモドメイン含有タンパク質(例えば、BRD2、BAZ1Aなど)、ヒストンデメチラーゼ(例えばKDM4C)、特定のメチルトランスフェラーゼ(例えばASH1L)、およびクロマチンリモデリングタンパク質(例えば、SMARCA5、SMARCB1など)をコードする遺伝子の選択的阻害は、DUX4遺伝子発現の低下(例えば、DUX4遺伝子のエピジェネティックサイレンシング)をもたらす。したがって、いくつかの態様において、DUX4遺伝子の選択的なエピジェネティックな修飾因子は、病原性DUX4-FLタンパク質の産生を低下させ、FSHDを処置するために有用である。
【0007】
本開示のいくつかの側面において、それを必要とする対象において顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)を処置するための方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、対象にDUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子の治療有効量を投与することを含む。いくつかの態様において、エピジェネティックな修飾因子は、対象の筋細胞、筋前駆細胞、または筋幹細胞において、DUX4発現を低下させる。
【0008】
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、DUX4とハイブリダイズする干渉性核酸ではない。
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、デメチラーゼ酵素の阻害剤である。いくつかの態様において、デメチラーゼは、リジン特異的デメチラーゼである。いくつかの態様において、リジン特異的デメチラーゼは、KDM4A、KDM4B、KDM4C、KDM4D、KDM6A、KDM6B、およびPHF2からなる群より選択される。いくつかの態様において、リジン特異的デメチラーゼは、KDMC4CおよびKDM4Cを特異的に阻害するエピジェネティックな修飾因子である。
【0009】
いくつかの態様において、エピジェネティックな修飾因子は、ブロモドメイン含有タンパク質(BRD)の阻害剤である。いくつかの態様において、BRDタンパク質は、BRD2、BRD3、BRDT、ASH1L、BRPF1、BRPF3、BPTF、BAZ1A、BAZ1B、またはBAZ2Aである。いくつかの態様において、BRDタンパク質は、BRD2であり、エピジェネティックな修飾因子は、BRD2を特異的に阻害する。いくつかの態様において、BRDタンパク質は、BAZ1Aであり、エピジェネティックな修飾因子は、BAZ1Aを特異的に阻害する。
【0010】
いくつかの態様において、エピジェネティックな修飾因子は、クロマチンリモデリングタンパク質の阻害剤である。いくつかの態様において、クロマチンリモデリングタンパク質は、SMARCA5またはSMARCB1である。
いくつかの態様において、クロマチンリモデリングに関与するタンパク質は、SMARCA5であり、エピジェネティックな修飾因子は、SMARCA5を特異的に阻害する。
【0011】
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、メチルトランスフェラーゼ酵素の阻害剤である。いくつかの態様において、メチルトランスフェラーゼは、CARM1、DOT1L、KMT2A、KMT2C、KMT2E、PRMT1、SETD1A、SETD1B、SMYD3、またはASH1Lである。いくつかの態様において、メチルトランスフェラーゼは、ASH1Lであり、エピジェネティックな修飾因子は、ASH1Lを特異的に阻害する。
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、核酸、ポリペプチド、または小分子である。
【0012】
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、核酸である。いくつかの態様において、核酸は、二本鎖RNA(dsRNA)、siRNA、shRNA、miRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)からなる群より選択される干渉性核酸である。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、表1において列記される配列を有する干渉性核酸である。
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、ポリペプチドである。いくつかの態様において、ポリペプチドは、抗体である。
【0013】
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、小分子である。本開示の側面は、部分的に、筋分化を改変することによりDUX4発現を改変する小分子(例えばJQ1)は、いくつかの態様においては、FSHDの処置のための実行可能な候補ではない、という発見に関する。したがって、いくつかの態様において、小分子は、対象の細胞における1つ以上の筋原性制御遺伝子を改変するかまたはこれを実質的に改変することなく、DUX4発現を阻害する。いくつかの態様において、1つ以上の筋原性制御遺伝子は、ミオゲニン(Myog)、MyoD、およびミオシン重鎖(MyHC)からなる群より選択される。いくつかの態様において、小分子は、対象の細胞において、筋分化(myodifferentiation)を阻害しない。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、JQ1、またはJQ1のアナログではない。
【0014】
いくつかの態様において、筋細胞は、分化した筋細胞、任意に最終分化した筋細胞である。いくつかの態様において、有効量は、対象の筋細胞にex vivoで投与される。
いくつかの態様において、筋細胞は、染色体4q35において、エピジェネティックに調節不全となったD4Z4アレイを含む。いくつかの態様において、エピジェネティックに調節不全となったD4Z4アレイは、11個より少ない反復単位を含む。
【0015】
いくつかの態様において、方法は、投与の前および/または後に、対象のDUX4発現レベルを評価することをさらに含み、ここで、DUX4発現レベルの変化が、処置の有効性を示す。
いくつかの側面において、本開示は、DUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子を同定するための方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、以下を含む:(i)DUX4の発現により特徴づけられる細胞を、DUX4の推定のクロマチンモディファイアーの発現または活性を修飾するための候補の剤と接触させること;(ii)細胞におけるDUX4の発現レベルを検出すること;ならびに、(iii)候補の剤との接触の後でDUX4の発現レベルが対照細胞と比較して低下した場合に、候補の剤を、DUX4のエピジェネティックな修飾因子として同定すること。
【0016】
いくつかの態様において、細胞および/または対照細胞は、最終分化した筋細胞などの筋細胞である。いくつかの態様において、細胞は、エピジェネティックに調節不全となったD4Z4アレイを含む。いくつかの態様において、対応する対照細胞は、エピジェネティックに調節不全となったD4Z4アレイを含まない。
いくつかの態様において、候補の剤は、化合物ライブラリーから選択される。いくつかの態様において、ライブラリーは、デメチラーゼ阻害剤を含むか、またはこれからなる。いくつかの態様において、デメチラーゼ阻害剤は、リジン特異的デメチラーゼ阻害剤である。いくつかの態様において、ライブラリーは、ブロモドメイン阻害剤を含むか、またはこれからなる。いくつかの態様において、ライブラリーは、クロマチンリモデリングタンパク質の阻害剤(例えばSMARCA5阻害剤など)を含むか、またはこれからなる。いくつかの態様において、ライブラリーは、メチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えばASH1L阻害剤)を含むか、またはこれからなる。
【0017】
いくつかの態様において、候補の剤は、核酸、ポリペプチド、または小分子である。
いくつかの態様において、候補の剤は、核酸である。いくつかの態様において、核酸は、二本鎖RNA(dsRNA)、siRNA、shRNA、miRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)からなる群より選択される干渉性核酸である。
【0018】
いくつかの態様において、候補の剤は、ポリペプチドである。いくつかの態様において、ポリペプチドは、抗体である。
いくつかの態様において、候補の剤は、小分子である。
いくつかの態様において、DUX4の発現レベルは、ハイブリダイゼーションベースのアッセイ、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)またはFACSを用いて検出される。
【0019】
本開示の側面は、DUX4遺伝子発現の低下を引き起こすために有用な遺伝子編集複合体および/または分子の開発に関する。したがって、いくつかの側面において、本開示は、細胞においてDUX4遺伝子発現を阻害するための方法を提供し、該方法は、細胞を、組み換え遺伝子編集複合体の有効量と接触させることを含み、ここで、当該遺伝子編集複合体が、当該細胞において、リジン特異的デメチラーゼ、BRDタンパク質、メチルトランスフェラーゼ、または別のクロマチンリモデリングタンパク質の発現の低下を引き起こす。
【0020】
いくつかの態様において、組み換え遺伝子編集複合体は、DUX4とハイブリダイズまたは直接的に結合しない。
いくつかの態様において、組み換え遺伝子編集複合体は、Casタンパク質、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、またはヌクレアーゼ(例えばメガヌクレアーゼ)を含む。
【0021】
いくつかの態様において、Casタンパク質は、Cas9タンパク質、Cpf1タンパク質、またはそのバリアントである。いくつかの態様において、Casタンパク質は、不活性型(dead)Cas9(dCas9)タンパク質、例えば配列番号31において記載される配列を含むdCas9タンパク質などである。
いくつかの態様において、組み換え遺伝子編集複合体は、転写抑制因子ドメインをさらに含む。いくつかの態様において、転写抑制因子ドメインは、KRABドメインである。いくつかの態様において、遺伝子編集複合体は、配列番号29において記載される配列を含む。
【0022】
いくつかの態様において、組み換え遺伝子編集複合体は、ガイドRNA(gRNA)、任意に一本鎖ガイドRNA(sgRNA)をさらに含む。いくつかの態様において、gRNAまたはsgRNAは、リジン特異的デメチラーゼ、BRDタンパク質、メチルトランスフェラーゼ、またはクロマチンリモデリングに関与するタンパク質をコードする遺伝子に特異的にハイブリダイズする。いくつかの態様において、リジン特異的デメチラーゼは、KDM4Cである。いくつかの態様において、BRDタンパク質は、BRD2である。いくつかの態様において、BRDタンパク質は、BAZ1Aである。いくつかの態様において、クロマチンリモデリングタンパク質は、SMARCA5である。いくつかの態様において、メチルトランスフェラーゼは、ASH1Lである。
【0023】
いくつかの態様において、組み換え遺伝子編集複合体は、例えばレンチウイルスベクターまたは組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターなどのウイルスベクターにより、細胞に送達される。
いくつかの態様において、細胞は、筋細胞、任意に最終分化した筋細胞である。
【0024】
いくつかの側面において、本開示は、(i)組み換え遺伝子編集タンパク質;および、(ii)リジン特異的デメチラーゼ、BRDタンパク質、メチルトランスフェラーゼ、またはクロマチンリモデリングに関与するタンパク質に特異的にハイブリダイズするガイドRNA(gRNA)を含む組み換え遺伝子編集複合体を含む組成物を提供し、ここで、細胞における標的遺伝子へのガイド鎖の結合は、細胞におけるDUX4遺伝子発現の阻害をもたらす。
いくつかの側面において、本開示は、本明細書において記載されるような組み換え遺伝子編集複合体を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、組成物は、本開示により記載されるような遺伝子編集複合体をコードするウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクターまたはrAAVベクター)を含む。いくつかの態様において、組成物は、薬学的に受入可能な賦形剤をさらに含む。
【0025】
いくつかの側面において、本開示は、それを必要とする対象において顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)を処置するための方法を提供し、該方法は、本開示により記載されるような治療組み換え遺伝子編集複合体の有効量または本開示により記載されるような組成物を、対象に投与することを含む。
いくつかの態様において、対象は、哺乳動物、任意にヒトである。
【0026】
いくつかの態様において、組み換え遺伝子編集複合体は、注射、任意に筋肉内注射または静脈内注射により、対象に投与される。
いくつかの態様において、組み換え遺伝子編集複合体は、対象の筋細胞、任意に対象の最終分化した筋細胞、筋幹細胞、筋サテライト細胞、または筋芽細胞に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、Dux4(DUX4-fl)、他の筋原性因子(ミオゲニン、MyoD、MyHC)、FSHD領域遺伝子1(FRG1)、ユートロフィン(UTRN)、および18Sの発現に対する、ブロモドメイン含有タンパク質(BRD)ファミリーメンバーBRD2、BRD3、BRD4、およびBRDTのshRNAノックダウンの効果を示す。各々のBRD遺伝子を、2つの異なるレンチウイルスにより発現されるshRNAによりノックダウンした。
【0028】
図2図2は、メチラーゼファミリーメンバーコアクチベーター結合型アルギニンメチルトランスフェラーゼ1(CARM1)およびリジンメチルトランスフェラーゼ2A(KMT2A)、およびリジンデメチラーゼ4A(KDM4A)、リジンデメチラーゼ4B(KDM4B)、リジンデメチラーゼ4C(KDM4C)、およびリジンデメチラーゼ4D(KDM4D)の、Dux4(DUX4-fl)、他の筋原性因子(ミオゲニン、MyoD、MyHC)、FSHD領域遺伝子1(FRG1)、ユートロフィン(UTRN)、および18Sの発現に対する、shRNAノックダウンの効果を示す。各々の遺伝子を、2つの異なるレンチウイルスにより発現されるshRNAによりノックダウンした。
【0029】
図3図3は、Dux4(DUX4-fl)、他の筋原性因子(ミオゲニン、MyoD、MyHC)、FSHD領域遺伝子1(FRG1)、ユートロフィン(UTRN)、および18Sの発現に対する、ジンクフィンガードメイン隣接ブロモドメイン(Bromodomain Adjacent To Zinc Finger Domain)1B(BAZ1B)、ジンクフィンガードメイン隣接ブロモドメイン1A(BAZ1A)、ジンクフィンガードメイン隣接ブロモドメイン2A(BAZ2A)、SWI/SNF関連マトリックス結合型アクチン依存性クロマチン制御因子(SWI/SNF-related matrix-associated actin-dependent regulator of chromatin)サブファミリーBメンバー1(SMARCB1)、SWI/SNF関連マトリックス結合型アクチン依存性クロマチン制御因子サブファミリーAメンバー5(SMARCA5)、BRCA1関連タンパク質1(BAP1)、およびASH1様タンパク質(ASH1L)のshRNAノックダウンの効果を示す。各々の遺伝子を、2つの異なるレンチウイルスにより発現されるshRNAによりノックダウンした。
【0030】
図4A-B】図4A~4Eは、候補標的遺伝子のshRNAノックダウンを示す。図4Aは、3つの異なるshRNAを用いたASH1Lのノックダウンを示す。図4Bは、2つの異なるshRNAを用いたBRD2のノックダウンを示す。
図4C-D】図4A~4Eは、候補標的遺伝子のshRNAノックダウンを示す。図4Cは、3つの異なるshRNAを用いたKDM4Cのノックダウンを示す。図4Dは、2つの異なるshRNAを用いたSMARCA5のノックダウンを示す。
図4E図4A~4Eは、候補標的遺伝子のshRNAノックダウンを示す。図4Eは、2つの異なるshRNAを用いたBAZ1Aのノックダウンを示す。
【0031】
図5図5は、CRISPR/dCas9/KRAB転写修飾の図による説明を示す。
【0032】
図6図6は、17ABic細胞におけるKDM4CのレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。KDM4C、DUX4-fl(D4-fl)、FRG1、MyoG、MyHC、18SおよびMyoDの相対的遺伝子発現を示す。2つの異なるガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。
【0033】
図7図7は、17ABic細胞におけるASH1LのレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。ASH1L、DUX4-fl(D4-fl)、FRG1、MyoG、MyHC、18SおよびMyoDの相対的遺伝子発現を示す。シングルガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。
【0034】
図8図8は、17ABic細胞におけるSMARCA5のレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。SMARCA5、DUX4-fl(D4-fl)、FRG1、MyoG、MyHC、18SおよびMyoDの相対的遺伝子発現を示す。2つの異なるガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。
【0035】
図9図9は、17ABic細胞におけるBAZ1AのレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。BAZ1A、DUX4-fl(D4-fl)、FRG1、MyoG、MyHC、18SおよびMyoDの相対的遺伝子発現を示す。2つの異なるガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。
【0036】
図10図10は、17ABic細胞におけるBRD2のレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。BRD2、DUX4-fl(D4-fl)、FRG1、MyoG、MyHC、18SおよびMyoDの相対的遺伝子発現を示す。シングルガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。
【0037】
図11A-B】図11A~11Fは、エピジェネティックな制御因子のshRNAノックダウンが、FSHD筋細胞においてDUX4-flの発現を低下させることを示す。分化したFSHD筋細胞に、2回の連続したラウンドにおいて、ASH1L(図11A)、BAZ1A(図11B)、BRD2(図11C)、KDM4C(図11D)、SMARCA5(図11E)、またはスクランブル(scramble)した対照に対するshRNAを感染させた。4日後、qRT-PCRによる全長DUX4アイソフォーム(DUX4-fl)、ミオゲニン(Myog)、MyoD、ミオシン重鎖1(MyHC)、FRG1、ユートロフィン(Utr)、および18S遺伝子発現の分析のために、細胞を収集した。図11Fは、ASH1L(16169)、BRD2(6308)、KDM4C(22058)、またはSMARCA5(13214)に対するshRNAが、いくつかのFSHDコホート(05Abic、18Abic、および17Abic)にわたりDUX4-fl発現を低下させることを示す。全てのパネルにおいて、モックまたは対照感染細胞についての相対的mRNA発現を、1に設定する。データを、技術的複製の平均値+SD値としてプロットする。
図11C-D】図11A~11Fは、エピジェネティックな制御因子のshRNAノックダウンが、FSHD筋細胞においてDUX4-flの発現を低下させることを示す。分化したFSHD筋細胞に、2回の連続したラウンドにおいて、ASH1L(図11A)、BAZ1A(図11B)、BRD2(図11C)、KDM4C(図11D)、SMARCA5(図11E)、またはスクランブル(scramble)した対照に対するshRNAを感染させた。4日後、qRT-PCRによる全長DUX4アイソフォーム(DUX4-fl)、ミオゲニン(Myog)、MyoD、ミオシン重鎖1(MyHC)、FRG1、ユートロフィン(Utr)、および18S遺伝子発現の分析のために、細胞を収集した。図11Fは、ASH1L(16169)、BRD2(6308)、KDM4C(22058)、またはSMARCA5(13214)に対するshRNAが、いくつかのFSHDコホート(05Abic、18Abic、および17Abic)にわたりDUX4-fl発現を低下させることを示す。全てのパネルにおいて、モックまたは対照感染細胞についての相対的mRNA発現を、1に設定する。データを、技術的複製の平均値+SD値としてプロットする。
図11E-F】図11A~11Fは、エピジェネティックな制御因子のshRNAノックダウンが、FSHD筋細胞においてDUX4-flの発現を低下させることを示す。分化したFSHD筋細胞に、2回の連続したラウンドにおいて、ASH1L(図11A)、BAZ1A(図11B)、BRD2(図11C)、KDM4C(図11D)、SMARCA5(図11E)、またはスクランブル(scramble)した対照に対するshRNAを感染させた。4日後、qRT-PCRによる全長DUX4アイソフォーム(DUX4-fl)、ミオゲニン(Myog)、MyoD、ミオシン重鎖1(MyHC)、FRG1、ユートロフィン(Utr)、および18S遺伝子発現の分析のために、細胞を収集した。図11Fは、ASH1L(16169)、BRD2(6308)、KDM4C(22058)、またはSMARCA5(13214)に対するshRNAが、いくつかのFSHDコホート(05Abic、18Abic、および17Abic)にわたりDUX4-fl発現を低下させることを示す。全てのパネルにおいて、モックまたは対照感染細胞についての相対的mRNA発現を、1に設定する。データを、技術的複製の平均値+SD値としてプロットする。
【0038】
図12A-B】図12A~12Dは、dCas9-KRABによるエピジェネティックな制御因子の転写抑制が、FSHD筋細胞においてDUX4-flの発現を低下させることを示す。分化したFSHD筋細胞を、dCas9-KRABまたはBAZ1A(図12A)、BRD2(図12B)、KDM4C(図12C)もしくはSMARCA5(図12D)を標的とする個々のsgRNA(各々の標的遺伝子について、g1-2)のいずれかを発現するレンチウイルス上清の組み合わせによる、4回の連続的な共感染に供した。qRT-PCRによる遺伝子発現の分析のために、約72時間後に細胞を収集した(図11A~11Fにおけるものと同様に)。データを、3回の独立した実験の平均値+SD値としてプロットし、dCas9-KRABのみを感染させた細胞についての相対的mRNA発現を、1に設定する。
図12C-D】図12A~12Dは、dCas9-KRABによるエピジェネティックな制御因子の転写抑制が、FSHD筋細胞においてDUX4-flの発現を低下させることを示す。分化したFSHD筋細胞を、dCas9-KRABまたはBAZ1A(図12A)、BRD2(図12B)、KDM4C(図12C)もしくはSMARCA5(図12D)を標的とする個々のsgRNA(各々の標的遺伝子について、g1-2)のいずれかを発現するレンチウイルス上清の組み合わせによる、4回の連続的な共感染に供した。qRT-PCRによる遺伝子発現の分析のために、約72時間後に細胞を収集した(図11A~11Fにおけるものと同様に)。データを、3回の独立した実験の平均値+SD値としてプロットし、dCas9-KRABのみを感染させた細胞についての相対的mRNA発現を、1に設定する。
【0039】
図13A-B】図13A~13Dは、候補制御因子のノックダウンが、D4Z4マクロサテライトにおいてクロマチン抑制を増大させることを示す。分化したFSHD筋細胞に、2回の連続したラウンドにおいて、ASH1L(図13A)、BRD2(図13B)、KDM4C(図13C)、SMARCA5(図13D)、GFP対照、またはスクランブルした対照に対するshRNAを感染させた。4日後、細胞をChIP分析のために収集した。H3K9me3またはH3に対して特異的な抗体を用いて、クロマチンを免疫沈降させ、染色体4のD4Z4アレイ(4-spec D4Z4)、ミオゲニンプロモーター(Myog prom)、D4Z4に近い領域(5’flank)、および染色体4上の4pアレイに対するプライマーを用いたqPCRにより分析した。データを、α-ヒストンH3に対して正規化したαH3K9me3による標的領域のエンリッチメントの倍率として提示し、GFP shRNA感染細胞についてのエンリッチメントを、1に設定する。データを、2回の独立した実験の平均値+SD値としてプロットする。
図13C-D】図13A~13Dは、候補制御因子のノックダウンが、D4Z4マクロサテライトにおいてクロマチン抑制を増大させることを示す。分化したFSHD筋細胞に、2回の連続したラウンドにおいて、ASH1L(図13A)、BRD2(図13B)、KDM4C(図13C)、SMARCA5(図13D)、GFP対照、またはスクランブルした対照に対するshRNAを感染させた。4日後、細胞をChIP分析のために収集した。H3K9me3またはH3に対して特異的な抗体を用いて、クロマチンを免疫沈降させ、染色体4のD4Z4アレイ(4-spec D4Z4)、ミオゲニンプロモーター(Myog prom)、D4Z4に近い領域(5’flank)、および染色体4上の4pアレイに対するプライマーを用いたqPCRにより分析した。データを、α-ヒストンH3に対して正規化したαH3K9me3による標的領域のエンリッチメントの倍率として提示し、GFP shRNA感染細胞についてのエンリッチメントを、1に設定する。データを、2回の独立した実験の平均値+SD値としてプロットする。
【0040】
図14A-B】図14A~14Dは、候補制御因子のノックダウンが、D4Z4マクロサテライトにおいてクロマチン抑制を増大させることを示す。分化したFSHD筋細胞に、2回の連続したラウンドにおいて、BRD2(図14A)、ASH1L(図14B)、SMARCA5(図14C)、KDM4C(図14D)、GFP対照、またはスクランブルした対照に対するshRNAを感染させた。4日後、細胞をChIP分析のために収集した。H3K36me3に対して特異的な抗体を用いて、クロマチンを免疫沈降させ、染色体4のD4Z4アレイ(4-spec D4Z4)、ミオゲニンプロモーター(Myog prom)、D4Z4に近い領域(5’flank)、および染色体4上の4pアレイに対するプライマーを用いたqPCRにより分析した。データを、α-ヒストンH3に対して正規化したαH3K9me3による標的領域のエンリッチメントの倍率として提示し、GFP shRNA感染細胞についてのエンリッチメントを、1に設定する。
図14C-D】図14A~14Dは、候補制御因子のノックダウンが、D4Z4マクロサテライトにおいてクロマチン抑制を増大させることを示す。分化したFSHD筋細胞に、2回の連続したラウンドにおいて、BRD2(図14A)、ASH1L(図14B)、SMARCA5(図14C)、KDM4C(図14D)、GFP対照、またはスクランブルした対照に対するshRNAを感染させた。4日後、細胞をChIP分析のために収集した。H3K36me3に対して特異的な抗体を用いて、クロマチンを免疫沈降させ、染色体4のD4Z4アレイ(4-spec D4Z4)、ミオゲニンプロモーター(Myog prom)、D4Z4に近い領域(5’flank)、および染色体4上の4pアレイに対するプライマーを用いたqPCRにより分析した。データを、α-ヒストンH3に対して正規化したαH3K9me3による標的領域のエンリッチメントの倍率として提示し、GFP shRNA感染細胞についてのエンリッチメントを、1に設定する。
【0041】
図15図15は、FSHD1罹患(A)およびFSHD無症候(B)患者から単離された初代筋芽細胞の、小分子のみ、または、D4Z4のエピジェネティック状態に影響を及ぼす組み合わせによる処置が、DUX4発現に影響を及ぼすことを示す。
【0042】
図16図16は、DUX4のJQ1制御が、間接的であり、いくつかの重要な筋原性制御遺伝子であるミオゲニン(Myog)、myoD、ミオシン重鎖(MyHC)、およびミオスタチン(Myost)の発現を阻害することにより達成されることを示す。
【0043】
図17図17は、FSHDおよび健康なヒト骨格筋筋芽細胞(HSMM)の両方において、筋原性遺伝子であるミオゲニン(Myog)、myoD、ミオシン重鎖(MyHC)が、JQ1により誤制御されることを示す。
【0044】
図18図18は、DUX-4アンチセンスオリゴヌクレオチドの存在下または不在下における、FSHDの骨格筋の筋管におけるZSCAN4発現についての代表的なデータを示す。DUX-4およびZSCAN4の相対的遺伝子発現を示す。
【0045】
図19図19は、SMARCA5およびKDM4Cのアンチセンスオリゴヌクレオチドの存在下または不在下における、FSHDの骨格筋の筋管におけるZSCAN4発現についての代表的なデータを示す。SMARCA5、KDM4CおよびZSCAN4の相対的遺伝子発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
詳細な説明
いくつかの側面において、本開示は、DUX4の異常な発現に関連する疾患(例えば、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、FSHD)の処置のために有用な方法および組成物に関する。本開示は、部分的に、特定のエピジェネティックな修飾因子(例えば、KDM4C、ASH1L、SMARCA5、BAZ1A、BRD2などの阻害剤)を用いてDUX4遺伝子発現を抑制することにより、FSHDに関連する病原性のmRNAアイソフォームであるDUX4-flタンパク質の産生の低下がもたらされるという、驚くべき発見に基づく。いくつかの態様において、本開示により記載される方法および組成物は、例えば、RNA干渉(RNAi)媒介型ノックダウン、遺伝子編集分子媒介型ノックダウン、または小分子阻害剤を通して、DUX4の特定の制御因子(例えば、クロマチンモディファイアー)を標的とすることにより、DUX4遺伝子発現を阻害する。いくつかの態様において、エピジェネティックな修飾因子は、対象においてZSCAN4遺伝子発現を低下させる。
【0047】
本開示の側面は、部分的に、DUX4遺伝子発現の特定の阻害剤(例えば、特定の間接的阻害剤)(例えば、JQ1、またはJQ1のアナログ)が、例えば筋分化の動力学を改変することにより、および/またはミオゲニン(Myog)、MyoD、ミオシン重鎖(MyHC)、およびミオスタチン(Myost)などの筋原性制御因子の異常な発現を引き起こすことにより、筋形成または細胞の筋分化を阻害するという発見に基づく。したがって、いくつかの態様において、本開示により記載されるようなDUX4発現のエピジェネティックな修飾因子は、筋原性制御遺伝子(例えば、Myog、MyoD、MyHC、Myostなど)を阻害しない。いくつかの態様において、DUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子は、JQ1、またはJQ1のアナログではない。
【0048】
したがって、いくつかの側面において、本開示は、それを必要とする対象において顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)を処置するための方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、対象にDUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子の治療有効量を投与することを含み、ここで、エピジェネティックな修飾因子は、対象の筋細胞においてDUX4発現を低下させる。
【0049】
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)
本明細書において用いられる場合、用語「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」または「FSHD」とは、骨格筋の量および/または機能の進行的喪失を伴う筋ジストロフィーを指し、ここで、顔面、肩甲(shoulder blades)および上腕の筋肉は、最も影響を受けるものである。FSHDは、DUX4の異常な発現を伴う。ある態様において、FSHDは、DUX4遺伝子の転写活性化からもたらされる。いくつかの態様において、DUX4遺伝子の活性化は、DUX4遺伝子の機能(例えば、病原性DUX4-flの産生)の有害な獲得をもたらし、進行性の骨格筋脱力(例えば、顔面筋脱力、肩の脱力など)、聴覚の喪失、異常な心臓のリズム、二頭筋、三頭筋、三角筋および前腕の筋肉の不均等な衰弱、腹筋および/または下肢の筋肉の強度の喪失、下垂足を含む広範な症状を引き起こす。いくつかの態様において、FSHDにより、対象は換気補助を必要とするようになるか、または車いすにより制限されるようになる。
【0050】
一般に、FSHDは、ヒトゲノムの染色体4上のサブテロメア領域4q35におけるD4Z4反復配列の短縮に関連する。一般に、FSHDを有さない対象の染色体4は、11~150個の反復単位を有するD4Z4反復領域を含み、これは、選択的にスプライシングされた3’が短縮されたDUX4トランスクリプト(DUX4-s)の産生をもたらす。いくつかの態様において、短縮したD4Z4反復配列(例えば、11個以下の反復単位)を有する対象のDUX4遺伝子は、反復配列により媒介される抑制の喪失に起因して転写的に活性化され、これは、病原性の全長DUX4(DUX4-fl)のmRNAおよびタンパク質の産生をもたらす。
【0051】
いくつかの側面において、本発明は、特定のDUX4のクロマチンモディファイアー(例えば、KDM4C、ASH1L、SMARCA5、BAZ1A、BRD2など)の阻害が、対象において(例えば、対象の細胞において)DUX4(例えばDUX4-fl)発現を低下させるという発見に関する。本明細書において用いられる場合、用語「低下したDUX4発現」とは、適切な対照と比較した、対象の細胞におけるDUX4のmRNAおよび/またはタンパク質のレベルの低下を指す。いくつかの態様において、低下したDUX4発現は、転写的に活性な(例えば、発現されたかまたは転写された)状態から、転写活性が低下した状態、例えば転写的に不活性な(例えばサイレンシングされた)状態への、DUX4遺伝子の状態の変化に関連する。例えば、いくつかの態様において、転写的に活性な(例えば発現された)DUX4遺伝子を有する対象(例えば対象における細胞)は、DUX4-flを産生する;例えばDUX4のクロマチンモディファイアーの阻害剤の投与による、対象(例えば、対象における細胞)におけるDUX4発現のノックダウン(例えばサイレンシング)は、対象において低下した(または阻害された)DUX4-flの発現および産生をもたらす。
【0052】
いくつかの態様において、DUX4発現の低下は、DUX4のクロマチンモディファイアーの阻害剤による処置の前の試料中のDUX4(例えば、DUX4-fl)の発現レベルと比較した、DUX4のクロマチンモディファイアーの阻害剤による処置の後の試料(例えば、細胞または対象)中のDUX4の発現レベルとして測定することができる。一般に、DUX4(例えばDUX4-fl)の発現レベルは、当該分野において公知の任意の好適な方法により、例えば、ハイブリダイゼーションベースのアッセイ(例えば、RT-PCR、qRT-PCR、ノーザンブロット)、タンパク質ベースの方法(例えば、ウェスタンブロット)、分光学的方法(例えば、質量分析)、および細胞ベースの方法(例えば、フローサイトメトリー、蛍光励起セルソーティング(FACS))により、測定することができる。
【0053】
DUX4のエピジェネティックな修飾因子
本明細書において用いられる場合、用語「エピジェネティックな修飾因子」とは、例えば、その遺伝子のクロマチンの状態に影響を及ぼすこと(例えば、転写を阻害する凝縮したクロマチン状態または転写を増強する弛緩したクロマチン状態を促進すること)により、遺伝子(例えばDUX4)の転写活性を改変する剤を指す。いくつかの態様において、エピジェネティックな修飾因子は、細胞、例えば筋細胞に送達された場合に、活性なDUX4遺伝子に接触して、細胞におけるDUX4の転写を低下させる剤である。いくつかの態様において、エピジェネティックな修飾因子は、DUX4遺伝子発現を直接的に修飾する。いくつかの態様において、エピジェネティックな修飾因子は、DUX4遺伝子発現を間接的に修飾する(例えば、DUX4遺伝子座またはD4Z4反復配列アレイに直接的には結合しないか、またはDUX4遺伝子発現の直接的なクロマチンモディファイアーの発現または活性を制御する)。例えば、いくつかの態様において、エピジェネティックな修飾因子は、DUX4遺伝子発現の正の制御因子(例えば、DUX4遺伝子座におけるオープンなクロマチン状態を促進するクロマチンモディファイアー)を標的とするRNAi分子または小分子阻害剤であり、それにより、負のDUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子として機能する。
【0054】
本開示の側面は、例えばRNAiまたは小分子阻害剤を用いてDUX4遺伝子発現の特定の制御因子(例えば、KDM4C、BRD2、BAZ1A、ASH1L、SMARCA5などのクロマチンモディファイアー)を阻害することは、DUX4遺伝子発現の阻害をもたらし、したがって、異常なDUX4発現により特徴づけられる疾患または状態(例えばFSHD)の処置のために有用であり得るという発見に関する。
【0055】
細胞のクロマチンの状態(例えば、ヒストンおよび非ヒストンタンパク質によるDNAのパッケージング)は、遺伝子発現に対して顕著な影響を有する。いくつかの態様において、本開示は、ノックダウンされた場合に細胞(例えば、最終分化した筋細胞などの筋細胞)においてDUX4遺伝子の発現を低下させるクロマチンモディファイアー(例えば、クロマチンリモデリングタンパク質およびこれをコードする遺伝子)に関する。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、クロマチンモディファイアーを標的とする。本明細書において用いられる場合、用語「クロマチンモディファイアー」とは、DNAを修飾する(例えば、メチル化により)かまたはヒストンタンパク質を転写後に修飾して(例えばリン酸化、アセチル化、メチル化、またはユビキチン化により)、クロマチン構造の改変をもたらし、それにより遺伝子発現の修飾をもたらす剤(例えば、酵素または転写因子)を指す。クロマチンモディファイアーの例として、これらに限定されないが、ヒストンデメチラーゼ(例えば、リジンデメチラーゼ酵素)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、特定のブロモドメイン含有タンパク質、キナーゼ(例えば、ヒストンをリン酸化するキナーゼ)、およびアクチン依存性のクロマチンの制御因子が挙げられる。いくつかの態様において、クロマチン構造リモデリング複合体(RSC)中に1つ以上のクロマチンリモデリングタンパク質が存在する。したがって、いくつかの態様において、DUX4のクロマチンモディファイアーは、RSCの構成成分(例えば、その中に存在するタンパク質)である。
【0056】
本明細書において用いられる場合、用語「ヒストンデメチラーゼ」とは、ヒストンタンパク質からのメチル基の除去を触媒する酵素を指す。いくつかの態様において、ヒストンデメチラーゼ酵素は、以下のドメインのうちの1つ以上を含む:Swi3、RscおよびMoira(SWIRM1)ドメイン、十文字NまたはC末端(JmjNまたはJmjC)ドメイン、PHDフィンガードメイン、ジンクフィンガードメイン、アミンオキシダーゼドメイン、およびTudorドメイン。例えば、いくつかの態様において、ヒストンデアセチラーゼは、少なくとも1つのTudorドメインおよび2つのJmjドメイン(例えば、1つのJmjNドメインおよび1つのJmjCドメイン)を含む。いくつかの態様において、ヒストンデメチラーゼは、リジン特異的ヒストンデメチラーゼである。リジン特異的ヒストンデメチラーゼの非限定的な例として、KDM4A、KDM4B、KDM4C、KDM4D、KDM6A、KDM6B、およびPHF2が挙げられる。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、ヒストンデメチラーゼ阻害剤である。
【0057】
本明細書において用いられる場合、用語「ブロモドメイン含有タンパク質」とは、モノアセチル化されたリジン残基を認識するブロモドメインを有するタンパク質を指す。一般に、ブロモドメイン含有(BRD)タンパク質は、アセチル化されたヒストンに結合し、いくつかの態様において、クロマチンリモデリングを媒介する。いくつかの態様において、BRDタンパク質は、少なくとも1つのブロモドメイン(例えば、1、2、3、4、5、またはそれより多くのブロモドメイン)および1つの末端外(ET)ドメインを含む。BRDタンパク質の非限定的な例として、BRD2、BRD3、BRD4、BRDT、BRPF1、BRPF3、BPTF、BAZ1A、BAZ1B、およびBAZ2Aが挙げられる。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、BRDタンパク質阻害剤である。
【0058】
本明細書において用いられる場合、用語「アクチン依存性のクロマチンの制御因子」とは、タンパク質は、SWI/SNF関連マトリックス結合型アクチン依存性クロマチン制御因子のファミリーのメンバーを指す。一般に、SWI/SNFタンパク質ファミリーのメンバーは、ヘリカーゼドメインおよびATPaseドメインを含み、クロマチン構造を改変することにより特定の遺伝子の転写を制御するように機能する。いくつかの態様において、アクチン依存性のクロマチンの制御因子は、1つ以上のSwi3、Ada2、N-Cor、およびTFIIIB(SANT)ドメインをさらに含む。いくつかの態様において、1つ以上のアクチン依存性のクロマチンの制御因子は、クロマチンリモデリングおよびスプライシング因子(RSF)複合体中に存在する。アクチン依存性のクロマチンの制御因子の非限定的な例として、SMARCA5、SMARCB1、SMARCA4、SMARCC1、SMARCC2、SMARCD1、SMARCD2、およびSMARCD3が挙げられる。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、アクチン依存性のクロマチンの制御因子阻害剤である。
【0059】
本明細書において用いられる場合、用語「ヒストンメチルトランスフェラーゼ」とは、ヒストンタンパク質少なくとも1つのメチル基(例えば、1、2、3、またはそれより多くのメチル基)のリジンおよび/またはアルギニン残基への移動を触媒する酵素を指す。一般に、ヒストンメチルトランスフェラーゼ酵素は、リジン特異的またはアルギニン特異的メチルトランスフェラーゼのいずれかとして特徴づけられる。
【0060】
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、リジン特異的メチルトランスフェラーゼの阻害剤である。リジン特異的メチルトランスフェラーゼの2つのファミリー:SETドメイン含有メチルトランスフェラーゼおよび非SETドメイン含有メチルトランスフェラーゼが存在する。リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼの例として、これらに限定されないが、ASH1L、DOT1L、EHMT1、EHMT2、EZH1、EZH2、MLL、MLL2、MLL3、MLL4、MLL5、NSD1、PRDM1、KMT2A、KMT2C、KMT2E、SET、SETBP1、SETD1A、SETD2、SETD3、SETD4、SETD5、SETD6、SETD7、SETD9、SETD1B、SMYD1、SMYD2、SMYD3、SMYD4、SMYD5、SUV39H1、SUV39H2、SUV420H1、およびSUV420H2が挙げられる。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、リジン特異的メチルトランスフェラーゼ阻害剤である。
【0061】
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、アルギニン特異的メチルトランスフェラーゼの阻害剤である。アルギニン特異的メチルトランスフェラーゼは、PRMTとも称され、一般に、2つの群に分類される。PRMT1、PRMT3、CARM1、PRMT4およびRmt1/Hmt1を含むPRMTの1つの群は、モノメチルアルギニンおよび不斉性のジメチルアルギニン残基を生成する。JBP1およびPRMT5を含むPRMTの第2の群は、モノメチルまたは不斉性のジメチルアルギニン残基を生成する。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、アルギニン特異的メチルトランスフェラーゼ阻害剤である。
【0062】
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、キナーゼ(例えば、セリン-スレオニンキナーゼ、例えばNEK6)、デアセチラーゼ酵素(例えば、ヒストンデアセチラーゼ、例えばHDAC1)、スプライシング因子タンパク質(例えば、スプライシング因子3bタンパク質複合体のメンバー、例えばSF3B1)、ポリメラーゼ(例えば、PARP1、PARP2、PARP3など)、リガーゼ(例えば、UFL1)、ヒドラーゼ(例えば、BAP1)、ペプチダーゼ(例えば、ユビキチン特異的ペプチダーゼ、例えばUSP3、USP7、USP16、USP21、もしくはUSP22)、またはプロテアーゼ(例えば、ヒストンデユビキチナーゼ、例えばMYSM1)の阻害剤である。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、前述のタンパク質のうちのいずれか1つの阻害剤(例えば、キナーゼ阻害剤、デアセチラーゼ酵素阻害剤、スプライシング因子タンパク質阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、リガーゼ阻害剤、ヒドラーゼ阻害剤、ペプチダーゼ阻害剤、またはプロテアーゼ阻害剤)である。
【0063】
本発明の側面は、特定のクロマチンモディファイアーの阻害が、DUX4遺伝子発現の低下および/またはDUX4タンパク質(例えば、DUX4-fl)タンパク質産生の低下をもたらすという発見に関する。本明細書において用いられる場合、用語「阻害剤」とは、標的分子または遺伝子の活性または発現を低下させる(例えば妨げる)任意の剤(例えば、DUX4のクロマチンモディファイアー)を指す。阻害剤は、核酸(例えば、干渉RNA)、ペプチド、タンパク質、ポリペプチド(例えば、抗体)、小分子、または前述のものの任意の組み合わせであってよい。
【0064】
本開示の側面は、部分的に、DUX4遺伝子発現の特定の阻害剤(例えば、特定の間接的阻害剤)が、筋形成または細胞の筋分化を阻害し、したがって、FSHDの処置のために好適であり得るという発見に基づく。例えば、いくつかの態様において、小分子JQ1は、DUX4遺伝子発現のみならず、TRIM43およびZSCAN4の発現をも阻害し、筋分化の動力学を改変する。JQ1は、ブロモドメインタンパク質のBETファミリーの選択的阻害剤である。JQ1のアナログはまた、例えばSyeda et al. (2015) Tetrahedron Letters 56(23):3454-3457により記載されるとおり、当該分野において公知である。したがって、いくつかの態様において、本開示により記載されるようなDUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子は、筋形成または細胞の筋分化を阻害しない。いくつかの態様において、DUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子は、JQ1またはJQ1のアナログではない。
【0065】
特定の間接的DUX4遺伝子発現の阻害剤(例えば、JQ1)はまた、ミオゲニン(Myog)、MyoD、ミオシン重鎖(MyHC)、およびミオスタチン(Myost)などの筋原性制御因子の異常な発現を引き起こすことが観察されている。したがって、いくつかの態様において、本開示により記載されるようなDUX4発現のエピジェネティックな修飾因子は、筋原性制御遺伝子(例えば、Myog、MyoD、MyHC、Myostなど)を阻害しない。いくつかの態様において、筋原性制御遺伝子の阻害とは、DUX4遺伝子発現の阻害剤により処置されていない細胞における遺伝子の発現と比較した、DUX4遺伝子発現の阻害剤により処置された細胞における遺伝子の発現の低下である。いくつかの態様において、遺伝子の発現の低下とは、DUX4発現の阻害剤により処置されていない細胞における遺伝子の発現よりも、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約99%少ないことである。
【0066】
いくつかの態様において、DUX4遺伝子発現のエピジェネティックな修飾因子は、選択的阻害剤である。本明細書において用いられる場合、「選択的に阻害する」と言われる「選択的阻害剤」または阻害剤とは、特定のクラスの標的分子の活性または発現を、当該クラスの他の分子と比較して、優先的に阻害する阻害剤を指す。いくつかの態様において、特定のクラスの標的分子の選択的阻害剤は、標的分子に対して、当該クラスの1つ以上の他のメンバーに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
選択的阻害剤は、メチルトランスフェラーゼ(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼもしくはヒストンメチルトランスフェラーゼ、例えばリジン特異的メチルトランスフェラーゼもしくはアルギニン特異的メチルトランスフェラーゼ)、BRDタンパク質、ヒストンデメチラーゼ、またはアクチン依存性のクロマチンの制御因子(例えば、クロマチン構造リモデリング複合体(RSC)の構成成分)の阻害剤である。
【0067】
いくつかの態様において、選択的阻害剤は、ヒストンデメチラーゼを選択的に阻害する。いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンデメチラーゼであるKDM4Cの選択的阻害剤は、KDM4Cに対して、1つ以上の他のヒストンデメチラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンデメチラーゼであるKDM4Aの選択的阻害剤は、KDM4Aに対して、1つ以上の他のヒストンデメチラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0068】
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンデメチラーゼであるKDM4Bの選択的阻害剤は、KDM4Bに対して、1つ以上の他のヒストンデメチラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンデメチラーゼであるKDM4Dの選択的阻害剤は、KDM4Dに対して、1つ以上の他のヒストンデメチラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0069】
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンデメチラーゼであるKDM6Aの選択的阻害剤は、KDM6Aに対して、1つ以上の他のヒストンデメチラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンデメチラーゼであるKDM6Bの選択的阻害剤は、KDM6Bに対して、1つ以上の他のヒストンデメチラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0070】
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンデメチラーゼであるPHF2の選択的阻害剤は、PHF2に対して、1つ以上の他のヒストンデメチラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、選択的阻害剤は、ヒストンメチルトランスフェラーゼを選択的に阻害する。いくつかの態様において、アルギニン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるCARM1の選択的阻害剤は、CARM1に対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0071】
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるASH1Lの選択的阻害剤は、ASH1Lに対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるDOT1Lの選択的阻害剤は、DOT1Lに対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0072】
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるKMT2Aの選択的阻害剤は、KMT2Aに対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるKMT2Cの選択的阻害剤は、KMT2Cに対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0073】
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるKMT2Eの選択的阻害剤は、KMT2Eに対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるPRMT1の選択的阻害剤は、PRMT1に対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0074】
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるSETD1Aの選択的阻害剤は、SETD1Aに対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるSETD1Bの選択的阻害剤は、SETD1Bに対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0075】
いくつかの態様において、リジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼであるSMYD3の選択的阻害剤は、SMYD3に対して、1つ以上のリジン特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼに対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、選択的阻害剤は、BRDタンパク質を選択的に阻害する。いくつかの態様において、BRD2の選択的阻害剤は、BRD2に対して、1つ以上のBRDタンパク質に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0076】
いくつかの態様において、BRD3の選択的阻害剤は、BRD3に対して、1つ以上のBRDタンパク質に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、BRDTの選択的阻害剤は、BRDTに対して、1つ以上のBRDタンパク質に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0077】
いくつかの態様において、BRPF1の選択的阻害剤は、BRPF1に対して、1つ以上のBRDタンパク質に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、BRPF3の選択的阻害剤は、BRPF3に対して、1つ以上のBRDタンパク質に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0078】
いくつかの態様において、BRPTFの選択的阻害剤は、BRPTFに対して、1つ以上のBRDタンパク質に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、BAZ1Aの選択的阻害剤は、BAZ1Aに対して、1つ以上のBRDタンパク質に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0079】
いくつかの態様において、BAZ1Bの選択的阻害剤は、BAZ1Bに対して、1つ以上のBRDタンパク質に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
いくつかの態様において、BAZ2Aの選択的阻害剤は、BAZ2Aに対して、1つ以上のBRDタンパク質に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0080】
いくつかの態様において、選択的阻害剤は、アクチン依存性のクロマチンの制御因子(例えば、SMARCA5、SMARCB1)を選択的に阻害する。いくつかの態様において、SMARCA5の選択的阻害剤は、SMARCA5に対して、1つ以上のアクチン依存性のクロマチンの制御因子に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。いくつかの態様において、SMARCB1の選択的阻害剤は、SMARCB1に対して、1つ以上のアクチン依存性のクロマチンの制御因子に対するIC50よりも、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍低い最大半量阻害濃度(IC50)を有する。
【0081】
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子は、干渉RNAである。干渉RNAの例として、これらに限定されないが、二本鎖RNA(dsRNA)、siRNA、shRNA、miRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)が挙げられる。阻害性オリゴヌクレオチドは、遺伝子の発現、転写および/または翻訳を妨害し得る。一般に、阻害性オリゴヌクレオチドは、相補性の領域を介して標的ポリヌクレオチドに結合する。例えば、阻害性オリゴヌクレオチドの標的ポリヌクレオチドへの結合は、RNAi経路により媒介される標的ポリヌクレオチド(dsRNA、siRNA、shRNAなどの場合)の分解を引き起こし得るか、転写の機構(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)を遮断し得る。阻害性オリゴヌクレオチドは、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。いくつかの態様において、阻害性オリゴヌクレオチドは、DNAまたはRNAである。いくつかの態様において、阻害性オリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNAおよびmiRNAからなる群より選択される。いくつかの態様において、阻害性オリゴヌクレオチドは、修飾された核酸である。
【0082】
用語「ヌクレオチドアナログ」または「改変されたヌクレオチド」または「修飾されたヌクレオチド」とは、天然に存在しないリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドを含む、標準的でないヌクレオチドを指す。いくつかの態様において、ヌクレオチドアナログは、ヌクレオチドの特定の化学的特性を改変するが、ヌクレオチドアナログがその意図される機能を行う能力を保持するために、任意の位置において修飾される。誘導体化され得るヌクレオチドの位置の例として、5位、例えば、5-(2-アミノ)プロピルウリジン、5-ブロモウリジン、5-プロピンウリジン、5-プロペニルウリジンなど;6位、例えば、6-(2-アミノ)プロピルウリジン;アデノシンおよび/またはグアノシンについては8位、例えば、8-ブロモグアノシン、8-クロログアノシン、8-フルオログアノシンなどが挙げられる。ヌクレオチドアナログはまた、デアザヌクレオチド、例えば、7-デアザ-アデノシン;O-およびN-修飾された(例えばアルキル化された、例えばN6-メチルアデノシン、または当該分野において他に公知であるように)ヌクレオチド;ならびに他のヘテロ環が修飾されたヌクレオチドアナログ、例えばHerdewijn, Antisense Nucleic Acid Drug Dev., 2000 Aug. 10(4):297-310において記載されるものを含む。
【0083】
ヌクレオチドアナログはまた、ヌクレオチドの糖部分に対する修飾を含んでもよい。例えば、2’OH-基を、H、OR、R、F、Cl、Br、I、SH、SR、NH、NHR、NR、COOR、またはORから選択される基により置き換えてもよく、ここで、Rは、置換されたまたは未置換のC-Cアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールなどである。他の可能な修飾として、米国特許第5,858,988号および同第6,291,438号において記載されるものが挙げられる。しばしばアクセス不能な(inaccessible)RNAとしても言及されるロックド核酸(LNA)は、修飾されたRNAヌクレオチドである。LNAヌクレオチドのリボース部分は、2’酸素と4’炭素とを連結する余分の架橋により修飾される。
【0084】
ヌクレオチドのリン酸基もまた、リン酸基の酸素のうちの1つ以上を硫黄で置換することにより(例えばホスホロチオエート)、または、例えば、Eckstein, Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 2000 Apr. 10(2):117-21、Rusckowski et al. Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 2000 Oct. 10(5):333-45、Stein, Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 2001 Oct. 11(5): 317-25、Vorobjev et al. Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 2001 Apr. 11(2):77-85、および米国特許第5,684,143号において記載されるような、ヌクレオチドがその意図される機能を行うことを可能にする他の置換を行うことにより、修飾される。上で言及される修飾のうちの特定のもの(例えばリン酸基修飾)は、好ましくは、例えば前記アナログを含むポリヌクレオチドのin vivoまたはin vitroでの加水分解の速度を低下させる。いくつかの態様において、阻害性オリゴヌクレオチドは、修飾された阻害性オリゴヌクレオチドである。いくつかの態様において、修飾された阻害性オリゴヌクレオチドは、ロックド核酸(LNA)、ホスホロチオエート骨格、および/または2’-OMe修飾を含む。以下の表1は、DUX4発現の修飾因子である干渉RNAの例を提供する。
【0085】
表1 DUX4発現を修飾するための干渉RNAの例
【表1】
【0086】
遺伝子編集分子
本開示の側面は、いくつかの態様において、遺伝子編集複合体(例えば、遺伝子編集分子)は、DUX4遺伝子発現を阻害するためのエピジェネティックな修飾因子として有用であるという発見に関する。したがって、いくつかの側面において、本開示は、細胞においてDUX4遺伝子発現を阻害するための方法を提供し、該方法は、細胞を、組み換え遺伝子編集複合体の有効量と接触させることを含み、ここで、遺伝子編集複合体が、細胞においてリジン特異的デメチラーゼ、BRDタンパク質、メチルトランスフェラーゼ、またはクロマチンリモデリングタンパク質の発現を阻害する。
【0087】
本明細書において用いられる場合、「遺伝子編集複合体」とは、例えば標的DNAにおいて二本鎖切断(DSB)を引き起こすことにより、ゲノム配列(例えば遺伝子配列)を加えるか、破壊するかまたはこれを変更するために、あるいは、標的DNA配列の転写を阻害する(例えば、CRISPR/Cas系または類似の系の1つ以上の構成成分を用いて)ために設計された、生物学的に活性な分子(例えば、タンパク質、1つ以上のタンパク質、核酸、1つ以上の核酸、または前述のものの任意の組み合わせ)を指す。遺伝子編集複合体の例として、これらに限定されないが、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、改変メガヌクレアーゼの再設計ホーミングエンドヌクレアーゼ(engineered meganuclease re-engineered homing endonuclease)、CRISPR/Cas系、およびメガヌクレアーゼ(例えば、メガヌクレアーゼI-SceI)が挙げられる。いくつかの態様において、遺伝子編集複合体は、CRISPR/Cas系に関連するタンパク質または分子(例えば構成成分)を含み、これは、限定されないが、Cas9、Cas6、dCas9、Cpf1、CRISPR RNA(crRNA)、トランス活性化crRNA(tracrRNA)、およびこれらのバリアントを含む。
【0088】
本明細書において用いられる場合、用語「エンドヌクレアーゼ」および「ヌクレアーゼ」とは、ポリヌクレオチド鎖中のホスホジエステル結合を切断する酵素を指す。ヌクレアーゼは、天然に存在するものであっても、遺伝子操作されたものであってもよい。遺伝子操作されたヌクレアーゼは、ゲノム編集のために特に有用であり、一般に、4つのファミリーに分類される:ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ(例えば、改変メガヌクレアーゼ)およびCRISPR関連タンパク質(Casヌクレアーゼ)。いくつかの態様において、ヌクレアーゼは、ZFNである。いくつかの態様において、ZFNは、FokI切断ドメインを含む。いくつかの態様において、ZFNは、CysHis折りたたみ基(fold group)を含む。いくつかの態様において、ヌクレアーゼは、TALENである。いくつかの態様において、TALENは、FokI切断ドメインを含む。いくつかの態様において、ヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼである。メガヌクレアーゼの例として、これらに限定されないが、I-SceI、I-CreI、I-DmoI、およびこれらの組み合わせ(例えば、E-DreI、DmoCre)が挙げられる。
【0089】
用語「CRISPR」とは、「クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)」を指し、これは、塩基配列の短い反復配列を含むDNA遺伝子座である。CRISPR遺伝子座は、外来遺伝子材料に対する耐性を付与する、原核生物の獲得免疫系の一部を形成する。各々のCRISPR遺伝子座には、ウイルスゲノム材料に由来する「スペーサーDNA」の短いセグメントが隣接する。II型CRISPR系において、スペーサーDNAは、トランス活性化RNA(tracrRNA)にハイブリダイズして、CRISPR-RNA(crRNA)にプロセッシングされ、その後、CRISPR関連ヌクレアーゼ(Casヌクレアーゼ)に結合して、外来DNAを認識して分解する複合体を形成する。ある態様において、ヌクレアーゼは、CRISPR関連ヌクレアーゼ(Casヌクレアーゼ)である。CRISPRヌクレアーゼの例として、これらに限定されないが、Cas9、dCas9、Cas6、Cpf1、およびこれらのバリアントが挙げられる。いくつかの態様において、ヌクレアーゼは、Cas9である。いくつかの態様において、Cas9は、細菌Streptococcus pyogenes(例えば、SpCas9)またはStaphylococcus aureus(例えば、SaCas9、例えば配列番号28)に由来する。いくつかの態様において、Casタンパク質は、ヌクレアーゼ活性を失うように修飾される(例えば遺伝子操作される)。例えば、不活性型Cas9(dCas9)タンパク質は、標的遺伝子座に結合するが、前記遺伝子座を切断しない。いくつかの態様において、dCas9タンパク質は、配列番号31において記載される配列を含む。いくつかの態様において、Casタンパク質またはそのバリアントは、例えばRan et al. (2015) Nature. 520(7546);186-91において記載されるような、レンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターのパッケージング能力を超えない。例えば、いくつかの態様において、Casタンパク質をコードする核酸は、約4.6kb未満の長さである。
【0090】
本開示の側面は、CRISPR干渉などのCRISPRにより媒介される転写の制御の、DUX4発現の低下(例えばサイレンシング)のための使用に関する。例えば、いくつかの態様において、触媒的に不活性型のCas9タンパク質(例えば、不活性型Cas9、「dCas9」)は、Qi et al. (2013) Cell. 152(5);1173-1183およびGilbert et al. (2013) Cell. 154(2);442-451において記載されるように、転写制御因子ドメインに融合(例えば共有結合)して、標的遺伝子(例えば、DUX4遺伝子発現の制御因子、例えばKDM4C、ASH1L、BRD2、BAZ1A、SMARCA5などのクロマチンモディファイアー)の発現を修飾する(例えば阻害する)。いくつかの態様において、dCas9は、配列番号31において記載される配列を含む。いかなる特定の理論によっても拘束されることは望まないが、dCas9(または別の触媒的に不活性型のCasタンパク質)は、いくつかの態様においては、標的配列への転写機構(例えば、RNAポリメラーゼ複合体)の結合を立体的に妨害することにより、転写抑制を媒介する。
【0091】
いくつかの態様において、CRISPR Casタンパク質(例えばdCas9)は、転写制御因子ドメインに融合する。本明細書において用いられる場合、「転写制御因子ドメイン」とは、転写活性の改変(例えば、転写活性化または転写抑制)をもたらすクロマチン分子の構造または化学的変化を触媒する、タンパク質ドメインである。いくつかの態様において、転写制御因子ドメインは、転写抑制因子ドメインである。いくつかの態様において、抑制性ドメインは、Kruppel関連ボックスドメイン(KRABドメイン)を含む。KRABドメインの非限定的な例として、KOX1 KRABドメイン、KOX8 KRABドメイン、ZNF43 KRABドメイン、およびZNF184 KRABドメインが挙げられる。いくつかの態様において、KRABドメインは、KOX1 KRABドメインである。いくつかの態様において、遺伝子編集タンパク質は、配列番号29または配列番号30において記載される配列を含む。抑制性ドメインのさらなる非限定的な例として、Chromo Shadow(CS)ドメイン(例えば、HP1αのCSドメイン)およびWRPWドメイン(例えば、Hes1のWRPWドメイン)が挙げられる。
【0092】
いくつかの態様において、転写制御因子ドメインは、転写活性化因子ドメインである。いくつかの態様において、転写活性化因子ドメインは、VP16などの単純ヘルペスウイルスの転写活性化ドメイン、またはそのバリアントを含む。一般に、例えばBeerli et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95(25);14628-33により記載されるように、転写因子は、複数の活性化ドメインを含み得る。したがって、いくつかの態様において、転写活性化因子ドメインは、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の活性化ドメインを含む。いくつかの態様において、転写活性化因子ドメインは、VP64、VP96、またはVP160である。
【0093】
いくつかの態様において、Casタンパク質は、転写制御因子ドメインに融合せず、ヌクレアーゼ活性(例えばDNA切断)を介して遺伝子発現を修飾する(例えば阻害する)ことができる。一般に、Cas9は、ガイドRNAによりターゲティングされた部位においてDNAを切断し、次いで、不正確かつしばしばターゲティングされた配列を破壊する小さな挿入または欠失(InDel)をもたらす非相同末端結合(NHEJ)により修復されるか、あるいは、特異的な位置におけるゲノム中への変更されたかまたは新たなDNA配列の挿入を可能にする相同組み換えDNA修復(homology directed DNA repair)により修復される。いかなる特定の理論によっても拘束されることは望まないが、Casタンパク質によるDNA切断およびその後の修復は、遺伝子発現に有害に作用(例えば阻害)し得る標的DNA配列中に修飾を導入する。したがって、いくつかの側面において、本開示は、機能的ヌクレアーゼおよびガイドRNAを含む遺伝子編集複合体であって、DUX4遺伝子発現の制御因子(例えば、KDM4C、ASH1L、BAZ1A、BRD2、SMARCA5など)をコードする遺伝子にハイブリダイズするか、および/またはこれと相補的であり、当該因子の発現を阻害することができ、それにより、対象(例えば対象の細胞)においてDUX4の発現を阻害することができるものを指す。
【0094】
ゲノム編集の目的のために、CRISPR系は、tracrRNAおよびcrRNAを、シングルガイドRNA(sgRNA)またはただの(gRNA)中に組み合わせるために修飾されていてもよい。本明細書において用いられる場合、用語「ガイドRNA」、「gRNA」、および「sgRNA」とは、細胞における標的配列に対して相補的であり、Casヌクレアーゼと結合し、それにより、Casヌクレアーゼを標的配列に方向づけるポリヌクレオチド配列を指す。いくつかの態様において、gRNA(例えばsgRNA)は、1~30ヌクレオチド長の範囲である。いくつかの態様において、gRNA(例えばsgRNA)は、5~25ヌクレオチド長の範囲である。いくつかの態様において、gRNA(例えばsgRNA)は、10~22ヌクレオチド長の範囲である。いくつかの態様において、gRNA(例えばsgRNA)は、14~24ヌクレオチド長の範囲である。いくつかの態様において、Casタンパク質およびガイドRNA(例えばsgRNA)は、同じベクターから発現される。いくつかの態様において、Casタンパク質およびガイドRNA(例えばsgRNA)は、別々のベクター(例えば、2つ以上のベクター)から発現される。いかなる特定の理論によっても拘束されることは望まないが、ガイドRNA(例えば、gRNAまたはsgRNA)は、標的配列にハイブリダイズして(例えばワトソン・クリック塩基対形成により特異的に結合して)、それにより、CRISPR/Casタンパク質を標的配列に方向づける。いくつかの態様において、ガイドRNAは、DUX4のクロマチンモディファイアーをコードする遺伝子(例えば核酸配列)にハイブリダイズする(例えばターゲティングする)。いくつかの態様において、ガイド鎖は、ヒストンデメチラーゼ(例えば、リジンデメチラーゼ酵素)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ブロモドメイン含有タンパク質、キナーゼ(例えば、ヒストンタンパク質をリン酸化するキナーゼ)、またはアクチン依存性クロマチン制御因子をコードする遺伝子にハイブリダイズする。
【0095】
いくつかの態様において、ガイド鎖は、ヒストンデメチラーゼをコードする遺伝子(例えば核酸配列)にハイブリダイズする。いくつかの態様において、ガイド鎖は、リジン特異的ヒストンデメチラーゼ、例えばKDM4A、KDM4B、KDM4C、KDM4D、KDM6A、KDM6B、またはPHF2にハイブリダイズする。いくつかの態様において、ガイド鎖は、配列番号12(
【数1】

;PAMを太字とした)または配列番号13(
【数2】

;PAMを太字とした)により記載される配列を含む。
【0096】
いくつかの態様において、ガイド鎖は、BRDタンパク質、例えばBRD2、BRD3、BRD4、BRDT、BRPF1、BRPF3、BPTF、BAZ1A、BAZ1B、またはBAZ2Aをコードする遺伝子(例えば核酸配列)にハイブリダイズする。いくつかの態様において、ガイド鎖は、配列番号14(
【数3】

;PAMを太字とした)により記載される配列を含む。いくつかの態様において、ガイド鎖は、配列番号15(
【数4】

;PAMを太字とした)または配列番号16(
【数5】

;PAMを太字とした)により記載される配列を含む。
【0097】
いくつかの態様において、ガイド鎖は、アクチン依存性のクロマチンの制御因子、例えばSMARCA5、SMARCB1、SMARCA4、SMARCC1、SMARCC2、SMARCD1、SMARCD2、またはSMARCD3をコードする遺伝子(例えば核酸配列)にハイブリダイズする。いくつかの態様において、ガイド鎖は、配列番号17(
【数6】

;PAMを太字とした)または配列番号18(
【数7】

;PAMを太字とした)により記載される配列を含む。
【0098】
いくつかの態様において、ガイド鎖は、リジン特異的メチルトランスフェラーゼ、例えばASH1L、DOT1L、EHMT1、EHMT2、EZH1、EZH2、MLL、MLL2、MLL3、MLL4、MLL5、NSD1、PRDM1、KMT2A、KMT2C、KMT2E、SET、SETBP1、SETD1A、SETD2、SETD3、SETD4、SETD5、SETD6、SETD7、SETD9、SETD1B、SMYD1、SMYD2、SMYD3、SMYD4、SMYD5、SUV39H1、SUV39H2、SUV420H1、またはSUV420H2をコードする遺伝子(例えば核酸配列)にハイブリダイズする。いくつかの態様において、ガイド鎖は、配列番号19(
【数8】

;PAMを太字とした)により記載される配列を含む。
【0099】
いくつかの態様において、ガイド鎖は、アルギニン特異的メチルトランスフェラーゼ、例えばPRMT1、PRMT3、CARM1、PRMT4、Rmt1/Hmt1、JBP1、またはPRMT5をコードする遺伝子(例えば核酸配列)にハイブリダイズする。
いくつかの態様において、いくつかの態様において、ガイド鎖は、キナーゼ(例えば、セリン-スレオニンキナーゼ、例えばNEK6)、デアセチラーゼ酵素(例えば、ヒストンデアセチラーゼ、例えばHDAC1)、スプライシング因子タンパク質(例えば、スプライシング因子3bタンパク質複合体のメンバー、例えばSF3B1)、ポリメラーゼ(例えば、PARP1、PARP2、PARP3など)、リガーゼ(例えば、UFL1)、ヒドラーゼ(例えば、BAP1)、ペプチダーゼ(例えば、ユビキチン特異的ペプチダーゼ、例えばUSP3、USP7、USP16、USP21、もしくはUSP22)、またはプロテアーゼ(例えば、ヒストンデユビキチナーゼ、例えばMYSM1)をコードする遺伝子(例えば核酸配列)にハイブリダイズする。
【0100】
処置の方法
いくつかの側面において、本開示は、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)を有する対象を処置するための方法を提供する。例えば、DUX4遺伝子の転写活性化は、対象においてFSHDをもたらし得る。本明細書において用いられる場合、「対象」は、「それを必要とする対象」と交換可能であり、これらはいずれも、FSHDを有する対象、またはかかる障害を発症するリスクが、集団全般と比較して増大している対象を指す。例えば、いくつかの態様において、対象は、染色体4q35において11以下の反復単位を含むD4Zアレイを有するが、FSHDの徴候および症状を示さない。それを必要とする対象は、転写活性DUX4遺伝子を有する対象(例えば、DUX4-flタンパク質を発現する対象であってもよい。対象は、ヒト、非ヒト霊長類、ラット、マウス、ネコ、イヌ、または他の哺乳動物であってもよい。
【0101】
本明細書において用いられる場合、用語「処置」、「処置すること」、および「治療」とは、治療的処置および予防的(prophylactic)または防止的(preventative)処置を指す。用語は、さらに、既知の症状、例えばFSHDに関連する症状を寛解させること、さらなる症状を防止すること、症状の根底にある原因を寛解または防止すること、症状の原因を防止または逆転させることを含む。したがって、用語は、FSHDを有するか、またはかかる障害を発症する可能性を有する対象に、有益な結果が与えられることを意味する。さらに、用語「処置」は、疾患、疾患の症状、または疾患への素因を、治癒させる(cure)か、治癒させる(heal)か、軽減するか、緩和するか、改変するか、治療するか、寛解させるか、改善するか、またはこれに影響を与えることを目的として、疾患、疾患の症状、または疾患への素因を有し得る対象、または対象から単離された組織もしくは細胞株への、剤(例えば、治療剤または治療用組成物)の適用または投与として定義される。
【0102】
治療剤あたは治療用組成物は、特定の疾患(例えばFSHD)の症状を防止および/または軽減する薬学的に受入可能な形態において、化合物を含んでもよい。例えば、治療用組成物は、FSHDの症状を防止および/または軽減する医薬組成物であってもよい。本発明の治療用組成物は、任意の好適な形態において提供されるであろうことが、企図される。治療用組成物の形態は、本明細書において記載されるような投与の様式を含む、多数の要因に依存するであろう。治療用組成物は、本明細書において記載されるような他の成分の中で、希釈剤、アジュバントおよび賦形剤を含んでもよい。
【0103】
いくつかの側面において、本開示は、細胞において転写活性DUX4遺伝子を阻害する(例えばサイレンシングする)ための方法を提供し、該方法は、細胞を、DUX4のエピジェネティックな修飾因子の有効量と接触させることを含み、ここで、エピジェネティックな修飾因子は、細胞においてDUX4発現を低下させる。いくつかの態様において、細胞は、in vitroまたはex vivoのものである。
【0104】
本明細書において用いられる場合、「ex vivoで修飾された細胞」とは、対象から取り除かれて、遺伝子的に修飾され(例えば、外来核酸により遺伝子導入または形質導入されたか、または遺伝子的に再プログラムされ)、培養されるかまたは増殖させられ(expand)、および任意に、対象(例えば、同じ対象または異なる対象のいずれか)に戻された細胞(例えば、哺乳動物細胞)を指す。一般に、ex vivoで修飾された細胞は、自家細胞治療または同種細胞治療のために有用である。例えば、細胞を、特定の遺伝子異常に関連する疾患(例えばFSHD)を有する対象から取り除き、遺伝子異常を修正する(例えば、DUX4の発現を低下させる)遺伝子編集複合体で遺伝子導入し、対象中に再導入する。別の非限定的な例において、細胞を、対象から取り除き、遺伝子的に再プログラムし(例えば、筋細胞に分化させるか、分化転換させ)、増殖させ、対象に再導入する。
【0105】
DUX4のエピジェネティックな修飾因子の有効量と接触させられる細胞は、転写活性DUX4遺伝子を有する任意の細胞であってよい。例えば、細胞は、筋細胞(例えば、筋芽細胞、最終分化した筋細胞、筋サテライト細胞、または筋幹細胞)であってよい。
転写活性DUX4遺伝子を有する細胞はまた、DUX4遺伝子の染色体4q35におけるD4Z4反復配列アレイの短縮を含んでもよい。アレイ中の反復単位の数は、変化し得る。いくつかの態様において、短縮中の反復単位の数は、11以下(例えば、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、または0)個の反復単位である。
【0106】
医薬組成物
いくつかの側面において、本開示は、DUX4のエピジェネティックな修飾因子を含む、医薬組成物に関する。いくつかの態様において、組成物は、DUX4のエピジェネティックな修飾因子および薬学的に受入可能なキャリアを含む。本明細書において用いられる場合、用語「薬学的に受入可能なキャリア」は、医薬の投与に適合する任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などを含むことを意図する。薬学的に活性な物質のためのかかる媒質および剤の使用は、当該分野において周知である。任意の慣用的な媒質または剤が活性化合物と不適合である場合を除き、組成物におけるそれらの使用が企図される。補足的な活性化合物もまた、組成物中に組み込むことができる。医薬組成物は、以下に記載されるように調製することができる。活性成分は、任意の慣用的な薬学的に受入可能なキャリアまたは賦形剤と混合または配合することができる。組成物は、無菌であってもよい。
【0107】
典型的には、医薬組成物は、剤(例えば、DUX4のエピジェネティックな修飾因子)の有効量を送達するために処方される。一般的に、活性剤の「有効量」とは、所望される生物学的応答(例えば転写抑制、例えば活性なDUX4遺伝子のサイレンシングまたは阻害)を引き起こすために十分な量を指す。剤の有効量は、所望される生物学的エンドポイント、化合物の薬物動態学、処置されている疾患(例えばFSHD)、投与の様式、および患者などの要因に依存して、変化し得る。
【0108】
組成物は、その投与が、レシピエント患者により耐容され得る場合に、「薬学的に受入可能なキャリア」であると言われる。無菌のリン酸緩衝化食塩水は、薬学的に受入可能なキャリアの一例である。他の好適なキャリアは、当該分野において周知である。例えば、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES、第18版(1990年)を参照。
【0109】
当業者は、投与の任意の様式、慣用的に使用され、活性剤に関して不活性なビヒクルまたはキャリアを、本開示の医薬組成物を調製および投与するために利用することができることを、理解するであろう。かかる方法、ビヒクルおよびキャリアの説明は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第4版(1970年)において記載されるものであり、この開示は、本明細書において参考として援用される。本開示の原理に触れた当業者は、好適かつ適切なビヒクル、賦形剤およびキャリアを決定することにおいて、または活性成分をそれらと配合して本開示の医薬組成物を形成させることにおいて、何らの困難も経験しないであろう。
【0110】
化合物(例えば、アンチセンス核酸(例えば、オリゴヌクレオチド)、遺伝子編集複合体、または小分子DUX4のエピジェネティックな修飾因子)の有効量は、治療有効量としてもまた言及され、細胞において、またはかかる修飾を必要とする個体において、遺伝子の活性化(例えば、転写活性化)または増大した発現に関連する、少なくとも1つの有害効果を寛解させるために十分な量である。いくつかの態様において、有効量は、細胞において、またはDUX4阻害を必要とする個体において、DUX4遺伝子を阻害する(例えば転写的に抑制する)ために、十分な量である。医薬組成物中に含められるべき治療有効量は、各々の場合において、いくつかの要因、例えば、処置されるべき患者の型、サイズおよび条件、意図される投与の様式、患者が意図される投与形態を取り入れる能力などに依存する。一般に、活性剤の量は、約0.1~約250mg/kg、および好ましくは約0.1~約100mg/kgを提供するように、各々の投与形態中に含まれる。当業者は、経験的に適切な治療有効量を決定することができるであろう。
【0111】
本明細書において提供される教示と組み合わせて、多様な活性化合物の中から選択すること、および強度、相対的なバイオアベイラビリティー、患者の体重、有害な副作用の重篤度、および選択される投与の様式などの要因を比較することにより、実質的な毒性を引き起こさず、しかし特定の対象を処置するために完全に有効である有効な予防的または治療的処置レジメンを計画することができる。任意の特定の適用のための有効量は、処置されている疾患もしくは状態、投与されている特定の治療剤、対象のサイズ、または疾患もしくは状態の重篤度などの要因に依存して変化し得る。当業者は、過度の実験を必要とすることなく、特定の核酸および/または他の治療剤の有効量を、経験的に決定することができる。
【0112】
いくつかの場合において、本開示の化合物は、コロイド状分散系中で調製される。コロイド状分散系は、水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、およびリポソームを含む、脂質ベースの系を含む。いくつかの態様において、本開示のコロイド状の系は、リポソームである。リポソームは、送達ベクターとしてin vivoまたはin vitroで有用な人工の膜管である。0.2~4.0μmの範囲のサイズの大単層小胞(large unilamellar vesicle:LUV)は、大きな巨大分子を封入することができることが示されている。RNA、DNAおよび完全なビリオンを、水性の内部に封入して、生物学的に活性な形態において細胞に送達することができる。Fraley et al. (1981) Trends Biochem Sci 6:77。
【0113】
リポソームは、リポソームを、モノクローナル抗体、糖、糖脂質またはタンパク質などの特異的リガンドにカップリングさせることにより、特定の組織に対してターゲティングすることができる。リポソームを、例えば平滑筋細胞に対してターゲティングするために有用であり得るリガンドとして、限定されないが、平滑筋細胞に特異的な受容体と相互作用する完全な分子または分子のフラグメント、およびがん細胞の細胞表面マーカーと相互作用する、抗体などの分子が挙げられる。かかるリガンドは、当業者に周知の結合アッセイにより、容易に同定することができる。さらに他の態様において、リポソームは、それを、当該分野において公知の抗体とカップリングすることにより、組織に対してターゲティングすることができる。
【0114】
遺伝子導入のための脂質処方物は、QIAGENから、例えば、EFFECTENE(商標)(非リポソーム性の脂質、および特別なDNA縮合増強剤)およびSUPERFECT(商標)(新規の活性型デンドリマー技術)として、市販されている。
リポソームは、Gibco BRLから、例えば、LIPOFECTIN(商標)およびLIPOFECTACE(商標)として市販されており、これらは、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)-プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)およびジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)などのカチオン性脂質からなる。リポソームを作製するための方法は、当該分野において周知であり、多くの刊行物において記載されている。リポソームはまた、Gregoriadis G (1985) Trends Biotechnol 3:235-241により概説されている。
【0115】
特定のN-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)-プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチル硫酸塩(DOTAP)を含む特定のカチオン性脂質は、本開示のDUX4のエピジェネティックな修飾因子(例えば、干渉RNA)と組み合わせた場合に、有利となり得る。
【0116】
本開示のいくつかの側面において、圧縮剤の使用もまた、望ましい場合がある。圧縮剤はまた、単独で、または生物学的もしくは化学的/物理的ベクターと組み合わせて使用してもよい。「圧縮剤」とは、本明細書において用いられる場合、ヒストンなどの、核酸に対する負の電荷を中和して、それにより核酸の微細な顆粒への圧縮を可能にする剤を指す。核酸の圧縮は、標的細胞による核酸にの取り込みを促進する。圧縮剤は、例えばDUX4のエピジェネティックな修飾因子を、細胞によってより効率的に取り込まれる形態において送達するために単独で、または上記のキャリアのうちの1つ以上と組み合わせて用いることができる。
【0117】
DUX4のエピジェネティックな修飾因子の取り込みを促進するために用いられる他の例示的な組成物として、リン酸カルシウムおよび他の細胞内輸送の化学メディエーター、マイクロインジェクション組成物、エレクトロポレーションおよび相同組み換え組成物(例えば、核酸を、標的細胞の染色体中の予め選択された位置に組み込むためのもの)が挙げられる。
【0118】
化合物は、単独で(例えば食塩水または緩衝液中で)、または当該分野において公知の任意の送達ビヒクルを用いて、投与することができる。例えば、以下の送達ビヒクルが記載されている:コクリエート;エマルソーム(Emulsome);ISCOM;リポソーム;生細菌ベクター(例えば、Salmonella、Escherichia coli、Bacillus Calmette-Guerin、Shigella、Lactobacillus);生ウイルスベクター(例えば、ワクシニア、アデノウイルス、単純ヘルペス、レンチウイルス);マイクロスフェア;核酸ワクチン;ポリマー(例えば、カルボキシメチルセルロース、キトサン);ポリマー環;プロテアソーム;フッ化ナトリウム;トランスジェニック植物;ビロソーム;およびウイルス様粒子。いくつかの態様において、本開示により記載されるDUX4のエピジェネティックな修飾因子は、レンチウイルスベクターにより送達される。
【0119】
本開示の処方物は、薬学的に受入可能な溶液中で投与され、これは、慣用的に、薬学的に受入可能な濃度の塩、緩衝化剤、保存剤、適合性のキャリア、アジュバントおよび任意に他の治療成分を含んでもよい。
【0120】
用語薬学的に受入可能なキャリアとは、ヒトまたは他の脊椎動物への投与のために好適な、1つ以上の適合性の固体または液体の充填剤、希釈剤または封入用物質を意味する。キャリアという用語は、適用を容易にするために活性成分を組み合わせる、天然または合成の有機または無機の成分を意味する。医薬組成物の構成成分はまた、本開示の化合物と、互いに、所望される薬学的な効率を実質的に損なう相互作用が存在しない様式において、混合することができる。
【0121】
糖衣錠のコアは、好適なコーティングを備える。この目的のために、濃縮された糖溶液を用い、これは、任意に、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含んでもよい。活性化合物の用量の異なる組み合わせの同定のため、またはこれらを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠のコーティングに、染料または色素を添加してもよい。
【0122】
本明細書において記載される処方物に加えて、化合物はまた、デポー製剤として処方してもよい。かかる長期作用型処方物は、好適なポリマー性または疎水性の材料により(例えば、受入可能な油脂中のエマルジョンとして)、またはイオン交換樹脂により、または難溶性の誘導体として、例えば難溶性の塩として、処方することができる。
医薬組成物はまた、好適な固相またはゲル相のキャリアまたは賦形剤を含んでもよい。かかるキャリアまたは賦形剤の例として、これらに限定されないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、多様な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコールなどのポリマーが挙げられる。
【0123】
好適な液体または固体の医薬製剤形態は、例えば、吸入のための水溶液または食塩水溶液、マイクロカプセル化、コクリエート化、顕微鏡用金粒子上に被覆したもの、リポソーム中に含まれるもの、噴霧化したもの、エアロゾル、皮膚中への移植のためのペレット、または皮膚中に引っ掻くための鋭い物体上で乾燥させたものである。医薬組成物はまた、顆粒、粉末、錠剤、コーティングされた錠剤、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、エマルジョン、懸濁液、クリーム、滴下剤、または活性化合物の長期放出を有する製剤を含み、これらの製剤中に、賦形剤および添加物および/または助剤、例えば崩壊剤、結合剤、コーティング剤、膨潤剤、潤滑剤、香味剤、甘味剤または可溶化剤は、上記のように習慣的に用いられる。医薬組成物は、多様な薬物送達系における使用のために好適である。薬物送達のための方法の簡単な概説については、本明細書において参考として援用されるLanger R (1990) Science 249:1527-1533を参照。
【0124】
化合物は、それ自体(ニート)で、または薬学的に受入可能な塩の形態において投与することができる。医薬において用いられる場合、塩は、薬学的に受入可能であるべきであるが、薬学的に受入不可能な塩もまた、その薬学的に受入可能な塩を調製するために便利に用いることができる。かかる塩として、これらに限定されないが、以下の酸から調製されるものが挙げられる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸。また、かかる塩は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えばカルボン酸基のナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩として、調製することができる。
【0125】
好適な緩衝化剤は、酢酸および塩(1~2%w/v);酢酸および塩(1~3%w/v);ホウ酸および塩(0.5~2.5%w/v);ならびにリン酸および塩(0.8~2%w/v)が挙げられる。好適な保存剤として、塩化ベンザルコニウム(0.003~0.03%w/v);クロロブタノール(0.3~0.9%w/v);パラベン(0.01~0.25%w/v)およびチメロサール(0.004~0.02%w/v)が挙げられる。
【0126】
組成物は、単位投与形態において、便利に提示することができ、製薬の分野において周知の方法のうちのいずれかにより、調製することができる。全ての方法は、化合物を、1つ以上の補助成分を構成するキャリアと組み合わせるステップを含む。一般的に、組成物は、化合物を、液体のキャリア、微細に分割された固体のキャリア、またはその両方と、均一にかつ緊密に組み合わせて、次いで必要な場合には、製品を成形することにより、調製される。液体の用量の単位は、バイアルまたはアンプルである。固体の用量の単位は、錠剤、カプセルおよび坐剤である。
【0127】
投与の様式
本開示の医薬組成物は、好ましくは、化合物または混合物を、錠剤、カプセルもしくは丸剤として経口で、または非経口で、静脈内で、皮内で、筋肉内で、もしくは皮下で、もしくは経皮で、投与可能にするために好適な、薬学的に受入可能なキャリアまたは賦形剤を含む。
【0128】
いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子の治療有効量は、標的組織または標的細胞に送達される。いくつかの態様において、DUX4(例えば、DUX4-fl)は、FSHDを有する対象の筋細胞において発現される。したがって、いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子の有効量は、対象の筋細胞に送達される。いくつかの態様において、筋細胞は、最終分化した筋細胞である。分化した筋細胞の例として、筋細胞および筋管が挙げられる。
【0129】
DUX4のエピジェネティックな修飾因子および/または他の化合物を含む医薬組成物は、医薬を投与するための任意の好適な経路により投与することができる。多様な投与経路が利用可能である。選択される特定の様式は、無論、選択される特定の剤、処置されている特定の状態、および治療効力のために必要とされる投与量に依存するであろう。本開示の方法は、一般的に言って、医学的に受入可能な任意の投与の様式を用いて実施することができ、これは、臨床的に受け入れることができない有害効果を引き起こさない任意の様式を意味する。多様な投与の様式が、本明細書において議論される。治療における使用のために、DUX4のエピジェネティックな修飾因子の有効量および/または他の治療剤は、所望される表面、例えば全身、筋肉内などに剤を送達する任意の様式により、対象に投与することができる。
【0130】
本開示の医薬組成物を投与することは、当業者に公知の任意の手段により達成することができる。投与の経路として、これらに限定されないが、経口、非経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻内、舌下、気管内、吸入、皮下、眼、膣、および直腸が挙げられる。全身経路は、経口および非経口を含む。いくつかの型のデバイスは、吸入による投与のために定期的に用いられる。これらの型のデバイスは、定量噴霧式吸入器(MDI)、吸気感応型MDI、乾燥粉末吸入器(DPI)、MDIと組み合わせたスペーサー/保持チャンバー、およびネブライザーを含む。
【0131】
経口投与のために、化合物は、活性化合物を、当該分野において周知の薬学的に受入可能なキャリアと組み合わせることにより、容易に処方することができる。かかるキャリアは、本開示の化合物を、処置されるべき対象による経口摂取のために、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして処方することを可能にする。経口での使用のための医薬製剤は、固体の賦形剤として得ることができ、任意に、必要な場合には好適な助剤を添加した後で、生じた混合物を粉砕し、顆粒の混合物を処理して、錠剤または糖衣錠のコアを得る。好適な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖;トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、馬鈴薯デンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース製剤、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの充填剤である。所望される場合、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を添加してもよい。任意に、経口処方物はまた、内部の酸条件を中和するための食塩水または緩衝液中で処方してもよく、いかなるキャリアも用いずに投与してもよい。
【0132】
経口で用いることができる医薬製剤は、ゼラチン製のプッシュ・フィット式カプセル、ならびに軟性のゼラチンおよび可塑化剤(グリセロールまたはソルビトールなど)からできた密封カプセルを含む。プッシュ・フィット式カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはたるくもしくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および任意に安定化剤との混合物中に、活性成分を含んでもよい。軟性のカプセル中で、活性化合物は、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの好適な液体中で溶解または懸濁してもよい。加えて、安定化剤を添加してもよい。経口投与のために処方されたマイクロスフェアもまた、用いることができる。かかるマイクロスフェアは、当該分野においてよく定義されている。経口投与のための全ての処方物は、かかる投与のために好適な投与量であるべきである。
【0133】
頬側投与のために、組成物は、慣用的な様式において処方された錠剤またはロゼンジの形態をとってもよい。
吸入による投与のために、本開示による使用のための化合物は、好適な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適な気体を使用する、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレーの体裁の形態において、便利に送達することができる。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、計量された量を送達するための値を提供することにより、決定することができる。吸入器または注入器(insufflator)における使用のための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物と、ラクトースまたはデンプンなどの好適な粉末基剤との粉末混合物を含めて処方することができる。
【0134】
化合物は、それらを全身に送達することが望ましい場合、注射による、例えばボーラス注射または持続注入による、非経口投与のために処方してもよい。注射のための処方物は、単位投与形態において、例えば、アンプルにおいて、または複数用量容器において、保存剤を添加して、提示してもよい。組成物は、油性または水性のビヒクル中の、懸濁液、溶液または乳液などの形態をとってもよく、懸濁剤、安定化剤、および/または分散剤などの処方剤を含んでもよい。
【0135】
非経口投与のための医薬処方物は、水溶性の形態における活性化合物の水溶液を含む。したがって、活性化合物の懸濁液は、適切な油性の注射用懸濁液として調製してもよい。好適な親油性の溶媒またはビヒクルとして、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成の脂肪酸エステル、またはリポソームを含む。水性の注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストリンなどの、懸濁液の粘性を増大させる物質を含んでもよい。任意に、懸濁液はまた、化合物の可溶性を増大させて、高濃度の溶液の調製を可能にする、好適な安定化剤を含んでもよい。
【0136】
あるいは、活性化合物は、好適なビヒクル、例えば無菌のパイロジェンフリー水により、使用の前に再構成するために、粉末形態であってもよい。
化合物はまた、例えばカカオバターまたは他のトリグリセリドなどの慣用的な坐剤用基剤を含む、坐剤または停留浣腸などの直腸または膣用組成物において処方してもよい。
【0137】
他の送達系は、時間放出、遅延放出または持続放出送達系を含んでもよい。かかる系は、化合物の繰り返し投与を回避することができ、対象および医師に対する利便性を増大することができる。多くの型の放出送達系が利用可能であり、当業者に公知である。それらは、ポリ(ラクチドグリコリド)、コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸およびポリ無水物などのポリマーベースの系を含む。薬物を含む前述のポリマーのマイクロカプセルは、例えば、米国特許第5,075,109号において記載される。送達系はまた、非ポリマー系:すなわち、コレステロール、コレステロールエステルなどのステロール、および、モノ、ジおよびトリグリセリドなどの脂肪酸または中性脂肪を含む脂質;ハイドロゲル放出系;サイラスティック系;ペプチドベースの系;ワックスコーティング;慣用的な結合剤および賦形剤を用いて圧縮成形された錠剤;部分的に融合したインプラント;などを含む。具体例として、これらに限定されないが、(a)本開示の剤がマトリックス内の形態において含まれる浸食性の系、例えば、米国特許第4,452,775号、同第4,675,189号および同第5,736,152号において記載されるもの、ならびに(b)活性な構成成分がポリマーから制御された速度において浸透する拡散性の系、例えば、米国特許第3,854,480号、同第5,133,974号および同第5,407,686号において記載されるものが挙げられる。加えて、ポンプベースのハードウェア送達系を用いてもよく、そのうちのいくつかは、移植のために適切である。
【0138】
いくつかの態様において、阻害性オリゴヌクレオチド(例えば干渉RNA)は、阻害剤オリゴヌクレオチドを発現するように操作された発現ベクターを介して、細胞に送達することができる。発現ベクターは、所望される配列を、制御配列に作動的に連結されてRNAトランスクリプトとして発現されることができるように、例えば制限酵素切断およびライゲーションにより、挿入することができるものである。発現ベクターは、典型的には、タンパク質のための、または阻害性オリゴヌクレオチドのためのコード配列であるインサート、例えばshRNA、miRNA、またはmiRNAを含む。ベクターは、当該ベクターにより形質転換または遺伝子導入されているか、またはそうされていない細胞の同定における使用のために好適な、1つ以上のマーカー配列をさらに含んでもよい。マーカーとして、例えば、抗生物質または他の化合物に対する耐性または感受性のいずれかを増大または減少させるタンパク質をコードする遺伝子、その活性が標準的なアッセイまたは蛍光タンパク質などにより検出可能である酵素をコードする遺伝子が挙げられる。
【0139】
本明細書において用いられる場合、コード配列(例えば、タンパク質コード配列、miRNA配列、shRNA配列)と制御配列とは、それらが、コード配列の発現または転写を、制御配列の影響または制御下におくように、共有結合により連結される場合に、「作動的に」連結していると言われる。コード配列が、機能的タンパク質に翻訳されることが望ましい場合、2つのDNA配列は、5’制御配列中のプロモーターの誘導が、コード配列の転写をもたらす場合、および、2つのDNA配列の間の連結の性質が、(1)フレーム-シフト変異の導入をもたらさない、(2)プロモーター領域がコード配列の転写を指揮する能力を妨げない、または(3)対応するRNAトランスクリプトがタンパク質に翻訳される能力を妨げない場合に、作動的に連結していると言われる。したがって、生じたトランスクリプトが所望されるタンパク質またはポリペプチドに翻訳され得るように、プロモーター領域がそのDNA配列の転写をもたらすことができる場合に、プロモーター領域はコード配列に作動的に連結される。コード配列が、miRNA、shRNAまたはmiRNAをコードし得ることが、理解されるであろう。
【0140】
遺伝子発現のために必要とされる制御配列の正確な性質は、種または細胞型の間で変化し得るが、一般的に、必要である場合には、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5’非転写および5’非翻訳配列、例えばTATAボックス、キャップ配列、CAAT配列などを含むべきである。かかる5’非転写制御配列は、作動的に連結された遺伝子の転写の制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含むであろう。制御配列はまた、所望される場合、エンハンサー配列または上流のアクチベーター配列を含んでもよい。本開示のベクターは、任意に、5’リーダーまたはシグナル配列を含んでもよい。
【0141】
いくつかの態様において、核酸分子の送達のためのウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスおよび弱毒化ポックスウイルスを含むポックスウイルス、セムリキ森林ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、レトロウイルス、シンドビスウイルス、ならびにTyウイルス様粒子からなる群より選択される。外来核酸を送達するために用いられてきたウイルスおよびウイルス様粒子の例として、以下が挙げられる:複製欠損アデノウイルス、修飾されたレトロウイルス、非複製性レトロウイルス、複製欠損セムリキ森林ウイルス、カナリアポックスウイルスおよび高度に弱毒化されたワクシニアウイルス誘導体、非伴複製ワクシニアウイルス、伴複製ワクシニアウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、レンチウイルスベクターおよびTyウイルス様粒子。
【0142】
特定の適用のために有用な別のウイルスは、アデノ随伴ウイルスである。アデノ随伴ウイルスは、広範な細胞型および種に感染することができ、複製欠損になるように操作され得る。それはさらに、熱および脂質溶媒安定性、造血細胞を含む多様な系統の細胞における高い形質導入頻度、および重複感染の阻害の欠失により複数の一連の形質導入を可能にすることなどの利点を有する。アデノ随伴ウイルスは、
部位特異的な様式においてヒト細胞DNA中に組み込み、それにより、挿入変異の可能性および挿入遺伝子の発現の変異性を最小化することができる。加えて、野生型アデノ随伴ウイルス感染は、選択圧の不在下における100回を超える継代にわたる組織培養において継続し、このことは、アデノ随伴ウイルスのゲノム組み込みが、比較的安定なイベントであることを意味する。アデノ随伴ウイルスはまた、染色体外での様式においても機能し得る。
【0143】
一般的に、他の有用なウイルスベクターは、必須でない遺伝子が目的の遺伝子で置き換えられている非細胞傷害性の真核生物ウイルスに基づく。非細胞傷害性のウイルスとして、その生活環が、ゲノムウイルスRNAのDNAへの逆転写と、その後の宿主細胞のDNA中へのプロウイルス性組み込みを含む、特定のレトロウイルスが挙げられる。一般的に、レトロウイルスは、複製欠損である(例えば、所望されるトランスクリプトの合成を指揮することはできるが、感染性粒子を産生することはできない)。かかる遺伝子改変されたレトロウイルス発現ベクターは、in vivoでの遺伝子の高効率での形質移入のために、一般的な有用性を有する。複製欠損レトロウイルスを産生するための標準的なプロトコル(外来遺伝子材料のプラスミド中への組み込み、プラスミドによるパッケージング細胞株の遺伝子導入、パッケージング細胞株による組み換えレトロウイルスの産生、組織培養培地からのウイルス粒子の回収、およびウイルス粒子による標的細胞の感染を含む)は、Kriegler, M.、「Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual」、W.H. Freeman Co.、New York(1990年)およびMurry, E.J.編、「Methods in Molecular Biology」、第7巻、Humana Press, Inc.、Clifton、New Jersey(1991年)において提供される。いくつかの態様において、DUX4のエピジェネティックな修飾因子(例えば、干渉RNAまたは遺伝子編集複合体)は、レンチウイルスベクターにより、細胞(例えば、対象の細胞)に送達される。
【0144】
本開示の核酸分子を細胞中に導入するために、核酸分子が宿主においてin vitroで導入されるのかin vivoで導入されるのかに依存して、多様な技術を使用することができる。かかる技術として、核酸分子-リン酸カルシウム沈殿物の遺伝子導入、DEAEに関連する核酸分子の遺伝子導入、目的の核酸分子を含む前述のウイルスによる遺伝子導入または感染、リポソーム媒介型遺伝子導入などが挙げられる。他の例として、以下が挙げられる:Sigma-AldrichによるN-TER(商標)ナノ粒子遺伝子導入系、Polyplus Transfectionによる昆虫細胞のためのFectoFly(商標)遺伝子導入試薬、Polysciences, Inc.によるポリエチレンイミン「Max」、Cosmo Bio Co., Ltd.によるユニークな非ウイルス性遺伝子導入ツール、InvitrogenによるLipofectamine(商標)LTX遺伝子導入試薬、StratageneによるSatisFection(商標)遺伝子導入試薬、InvitrogenによるLipofectamine(商標)遺伝子導入試薬、Roche Applied ScienceによるFuGENE(登録商標)HD遺伝子導入試薬、Polyplus TransfectionによるGMP準拠in vivo-jetPEI(商標)遺伝子導入試薬、およびNovagenによるInsect GeneJuice(登録商標)遺伝子導入試薬。
【0145】
スクリーニング方法
いくつかの側面において、本開示は、DUX4のエピジェネティックな修飾因子として機能にする剤を同定する方法に関する。したがって、いくつかの態様において、本開示は、DUX4のエピジェネティックな修飾因子を同定するための方法を提供し、該方法は、DUX4(例えばDUX4-fl)の発現により特徴づけられる細胞を、DUX4の推定のクロマチンモディファイアーの発現または活性を修飾するための候補の剤と接触させること;細胞におけるDUX4の発現レベルを検出すること;ならびに、候補の剤との接触の後でDUX4の発現レベルが対照細胞と比較して低下した場合に、候補の剤を、DUX4のエピジェネティックな修飾因子として同定することを含む。例示的な候補の剤として、これらに限定されないが、小分子、抗体、抗体コンジュゲート、ペプチド、タンパク質、アンチセンス分子(例えば、干渉RNA)または他の核酸が挙げられる。いくつかの態様において、本開示により記載される方法は、新たなDUX4のエピジェネティックな修飾因子を同定するために、候補化合物の大きなライブラリー(例えば、化合物ライブラリー)をスクリーニングするために有用である。いくつかの態様において、化合物ライブラリーは、特定の標的核酸(例えば核酸配列)または特定のタンパク質標的、例えばヒストンデメチラーゼ(例えば、リジンデメチラーゼ酵素)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ブロモドメイン含有タンパク質、キナーゼ(例えば、ヒストンタンパク質をリン酸化するキナーゼ)、またはアクチン依存性のクロマチンの制御因子に対して特異的な、候補の剤からなる。いくつかの態様において、候補の剤は、ヒストンデメチラーゼ(例えば、リジンデメチラーゼ酵素)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ブロモドメイン含有タンパク質、キナーゼ(例えば、ヒストンタンパク質をリン酸化するキナーゼ)、またはアクチン依存性のクロマチンの制御因子の阻害剤である。
【0146】
当業者は、活性化されたDUX4遺伝子を有する細胞を候補化合物と接触させるためのいくつかの方法を認識する。例えば、自動液体操作システムが、一般に、ハイスループット薬物スクリーニングのために利用される。自動液体操作システムは、ロボットアームにより制御される液体分配容器のアレイを利用して、固定された容積の液体をアッセイプレートのウェルに分配する。一般に、アレイは、96、384または1536個の液体分配チップを含む。自動液体操作システムの非限定的な例として、デジタルディスペンサー(例えば、HP D300 Digital Dispenser)およびピンニング機(例えば、MULTI-BLOT(商標)Replicator System、CyBio、Perkin Elmer Janus)が挙げられる。自動化されていない方法もまた、本開示により企図され、これらに限定されないが、手動のデジタルリピートマルチチャネルピペットが挙げられる。
【0147】
いくつかの態様において、本開示により記載されるスクリーニング方法は、ハイスループットモードにおいて行われる。いくつかの態様において、ハイスループットスクリーニングは、マルチウェル細胞培養プレート中で行われる。いくつかの態様において、マルチウェルプレートは、プラスチックまたはガラスである。いくつかの態様において、マルチウェルプレートは、6、24、96、384または1536ウェルのアレイを含む。しかし、当業者は、マルチウェルプレートは、複数の6、24、96、384または1536のウェルの数を有するマルチウェルプレートなどの多様な他の受入可能な形状に構築することができることを理解する。例えば、いくつかの態様において、マルチウェルプレートは、3072ウェルのアレイを含む(これは複数の1536である)。
【0148】
細胞におけるDUX4の発現レベルは、当該分野において公知の任意の好適な手段により測定することができる。例えば、細胞におけるDUX4の発現レベルは、ハイブリダイゼーションベースの方法により測定することができる。ハイブリダイゼーションベースのアッセイの例として、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量RT-PCR(qRT-PCR)、ノーザンブロット、およびサザンブロットが挙げられる。いくつかの態様において、細胞におけるDUX4(例えばDUX4-fl)の発現レベルは、タンパク質ベースの方法により測定される。タンパク質ベースのアッセイの例として、これらに限定されないが、ウェスタンブロット、ブラッドフォードアッセイ、ローリータンパク質アッセイ、および分光学的方法(例えば、質量分析、高圧液体クロマトグラフィーなど)が挙げられる。いくつかの態様において、細胞におけるDUX4(例えばDUX4-fl)の発現レベルは、細胞ベースの方法により決定される。細胞ベースのアッセイの例として、フローサイトメトリー、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、磁気活性化細胞ソーティング(MACS)が挙げられる。いくつかの態様において、細胞は、DUX4阻害が耐性遺伝子の発現に作動的に連結され、それにより、DUX4の阻害(例えば転写抑制)が、選択培地の存在下において細胞の増殖および選択を可能にするように、修飾される。細胞におけるDUX4の発現レベルを定量するさらなる方法は、当業者には容易に明らかとなるであろう。
【0149】
候補化合物は、候補化合物の存在下におけるDUX4の量が、候補化合物の不在下における量よりも少ない(例えば、これと比較して低下している)場合に、DUX4のエピジェネティックな修飾因子として同定することができる。DUX4のエピジェネティックな修飾因子の存在下において発現されるDUX4の量は、DUX4のエピジェネティックな修飾因子の不在下において発現されるDUX4の量よりも、約1%~約100%少ない、約5%~約50%少ない(例えば、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、または約50%少ない)、約10%~約40%少ない、または約20%~約30%少ない範囲であってよい。いくつかの態様において、DUX4は、DUX4のエピジェネティックな修飾因子の存在下においては発現されず(例えば、転写的に不活性であるか、またはサイレンシングされている)、DUX4のエピジェネティックな修飾因子の不在下において発現される(例えば、転写的に活性である)。
【0150】

例1
この例は、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)の処置のために、DUX4の転写の異常な増大を支配する制御機構をターゲティングすることを記載する。正常な対象(例えば、FSHDを有さない対象)において、DUX4発現は、通常オフである。ここでは、FSHDを有する対象の筋肉においてDUX4をオンにする制御因子の同定を記載する。かかる制御因子は、いくつかの態様において、FSHDを処置するための小分子治療のための標的である。
【0151】
DUX4発現に関与する遺伝子(例えば、FSHD筋細胞においてこれらの遺伝子の発現が低下している場合、DUX4発現もまた減少する)を同定するためのスクリーニングを行った。簡単に述べると、FSHDを有する対象に由来する初代分化筋細胞を、候補遺伝子を標的とするshRNAで処置し、病原性DUX4-flのmRNAの発現レベルを定量した。DUX4ノックダウンの間接的効果を評価するために、他の筋原性制御因子(例えば、ミオゲニン、MyoD、MyHD)および他の標的(例えば、FRG1、UTRN、および18S)の発現レベルもまた定量した。試料スクリーニングプロトコルを、以下に示す:

例のスクリーニングプロトコル
1.低継代初代FSHD筋芽細胞を増殖させる。
2.6ウェルプレート中に播種する。
3.細胞をコンフルーエンシーに達させ、分化させる(約48時間)。
4.細胞にレンチウイルスshRNAコンストラクトを感染させ、24時間にわたりインキュベートする。
5.細胞にレンチウイルスshRNAコンストラクトを再感染させる。
6.第2の感染の4日後に細胞を収集する。
7.RNAを細胞から抽出して、DUX4-flおよび他の目的の遺伝子の発現レベルについてアッセイする。
【0152】
候補遺伝子の非限定的な例を提供するリストを、表2において提供する。合計で39個の表2からの候補遺伝子をスクリーニングした;各々の候補遺伝子に、また表2において示される2~3種の異なるshRNAを感染させた。DUX4、ミオゲニン、MyoD、MyHC、FRG1、UTRN、および18Sについての相対的遺伝子発現を、表3において示す。

表2
【表2】
【0153】
表3
【表3】
【0154】
図1は、Dux4(DUX4-fl)、他の筋原性因子(ミオゲニン、MyoD、MyHC)、FRG1、UTRN、および18Sの発現に対するBRD2、BRD3、BRD4、およびBRDTのshRNAノックダウンの効果を示す。データは、2つの異なるshRNAによるBRD2のノックダウンは、DUX4-fl発現を低下させることを示す。しかし、BRD4のノックダウンは、DUX4発現に対してほとんど効果を有さない。
【0155】
図2は、Dux4(DUX4-fl)、およびさらなる目的の遺伝子のパネル(ミオゲニン、MyoD、MyHC、FRG1、UTRN、および18S)の発現に対する、CARM1、KMT2A、およびKDM4A-4DのshRNAノックダウンの効果を示す。データは、2つの異なるshRNAによるCARM1のノックダウンが、各々、DUX4-fl発現の低下をもたらすことを示す。CARM1を標的とする第3のshRNAは、DUX4-fl発現の低下をもたらさなかった。3つの異なるshRNAを用いたKDM4Cのノックダウンは、DUX4-fl発現の低下をもたらした。
【0156】
図3は、Dux4(DUX4-fl)、他の筋原性因子(ミオゲニン、MyoD、MyHC)、FSHD領域遺伝子1(FRG1)、ユートロフィン(UTRN)、および18Sの発現に対する、ジンクフィンガードメイン隣接ブロモドメイン1B(BAZ1B)、ジンクフィンガードメイン隣接ブロモドメイン1A(BAZ1A)、ジンクフィンガードメイン隣接ブロモドメイン2A(BAZ2A)、SWI/SNF関連マトリックス結合型アクチン依存性クロマチン制御因子サブファミリーBメンバー1(SMARCB1)、SWI/SNF関連マトリックス結合型アクチン依存性クロマチン制御因子サブファミリーAメンバー5(SMARCA5)、BRCA1関連タンパク質1(BAP1)、およびASH1様タンパク質(ASH1L)の、shRNAノックダウンの効果を示す。各々の遺伝子を、2つの異なるレンチウイルスにより発現されるshRNAによりノックダウンした。
【0157】
図4は、上記のスクリーニングから、以下の基準に適合する5つの候補遺伝子(SMARCA5、BRD2、KDM4C、ASH1L、およびBAZ1A)が同定されたことを示す:1)候補遺伝子が別々の経路において機能し、各々の遺伝子のノックダウンが、個別にDUX4発現を減少させる;2)これらの候補遺伝子各々を標的とする複数のshRNAが、類似のDUX4発現のノックダウンを生じる(例えば、起こり得るオフターゲット効果を最小化するために);3)これらの候補遺伝子のターゲティングは、細胞の形態学または筋肉特異的遺伝子の発現に有害な影響を及ぼさなかった;ならびに、4)候補遺伝子によりコードされるタンパク質が、小分子ドラッガブル(druggable)ドメインを含む。
【0158】
したがって、いくつかの態様において、小分子を用いる、これらの候補遺伝子(または上記のスクリーニング方法により同定される別の候補遺伝子)のうちの任意の1つまたは組み合わせの阻害またはノックダウンは、DUX4の転写を阻害するかまたは低下させ、D4Z4反復配列アレイにおいて、抑制性のクロマチン環境を誘導することができる。
【0159】
発明者の知識の及ぶ限りにおいて、このスクリーニングにおいて同定される遺伝子は、先には認識されていないDUX4発現の制御因子であり、FSHDのための治療標的である。加えて、この例において記載されるスクリーニングは、他のスクリーニングにおいては存在しない可能性が高いいくつかの重要な実験的側面を組み入れる:1)FSHD患者からの初代筋細胞の使用;2)最終分化した筋細胞(患者の筋肉におけるもののような)においてスクリーニングを行うこと;3)レポーターまたは下流の標的ではなく、病原性のDUX4アイソフォーム(DUX4-fl)のmRNAのレベルを直接的にアッセイすること;4)筋原性遺伝子に影響を及ぼす候補を排除すること;ならびに、5)D4Z4反復配列アレイクロマチンを非病原性状態に戻すこと(これは、いくつかの態様において、同定された候補遺伝子を標的とする治療をより安定かつ長期的なものにする)。
【0160】
例2
この例は、遺伝子編集複合体を用いたDUX4クロマチンモディファイアーの阻害によるDUX4発現の修飾を記載する。簡単に述べると、DUX4発現のクロマチンモディファイアー(例えば、KDM4C、ASH1L、SMARCA5、BAZ1A、BRD2)を標的とするシングルガイドRNA(sgRNA)を用いて、KRAB抑制因子に融合したdCas9を含む遺伝子編集分子を用いたDUX4の転写の修飾を指揮した。図5は、この例において記載されるCRISPR/dCas9/KRAB転写修飾系の図説である。
【0161】
FSHD患者に由来する筋原性細胞である17ABic細胞において、ノックダウンを行った。各々の候補遺伝子について、6~8種のsgRNAを試験した。表4は、DUX4のクロマチンモディファイアーを標的とするガイドRNAの例を記載する。

表4:ガイドRNA(gRNA)
【表4】
*sgRNAは、各々遺伝子のプロモーターまたはエクソン1を標的とする。
**sgRNAは、SaCas9およびSpCas9の両方により認識される二重PAMに隣接する配列を標的とする。
***スコアおよび特異性は、sgRNA Designer scores(CRISPR Design Tool;http://crispr.mit.edu)である。
【0162】
各々の候補遺伝子、DUX4-fl(D4-fl)、FRG1、MyoG、MyHC、18SおよびMyoDについての相対的発現レベルを定量した。一般に、遺伝子特異的ノックダウンのレベルは、当該分野において報告されるCRISPR/Cas9媒介型ノックダウン(例えば。Radzisheuskaya et al. (2016) Nucleic Acids Research 1;doi: 10.1093/nar/gkw583により記載されるもの)と一致した。
【0163】
図6は、17ABic細胞におけるKDM4CのレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。2つの異なるガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。各々のガイド鎖は、DUX4-fl(D4-fl)の減少を媒介した。KDM4Cの発現レベルは、ノックダウンの後で約80%であり、このことは、DUX4の発現が、KDM4Cの発現レベルの変化に対して非常に感受性であることを示している。
図7は、17ABic細胞におけるASH1LのレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。シングルガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。ASH1Lのノックダウン(約20%)は、DUX4-flの発現の減少をもたらした。MyoGおよびMyoDの発現レベルは、顕著には変化しなかった。
【0164】
図8は、17ABic細胞におけるSMARCA5のレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。2つの異なるガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。各々のガイド鎖は、DUX4-fl(D4-fl)の減少を媒介した。SMARCA5の発現レベルは、ノックダウンの後で約75%であり、このことは、DUX4の発現が、SMARCA5の発現レベルの変化に対して非常に感受性であることを示している。MyoGおよびMyoDの発現レベルは、顕著には変化しなかった。
図9は、17ABic細胞におけるBAZ1AのレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。2つの異なるガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。各々のガイド鎖は、DUX4-fl(D4-fl)の減少を媒介し、これは、BAZ1Aの発現レベルの低下と相関する。BAZ1Aのノックダウンは、試験された任意の遺伝子のうちで、DUX4の発現レベルの最大の減少をもたらした。
【0165】
図10は、17ABic細胞におけるBRD2のレンチウイルスベースのdCas9-KRABノックダウンについての代表的なデータを示す。シングルガイドRNA(gRNA)を用いた実験からのデータを示す。DUX4の発現レベルの減少を観察した。
まとめると、遺伝子編集複合体を用いたKDM4C、ASH1L、SMARCA5、BAZ1A、BRD2のノックダウンは、DUX4のクロマチンモディファイアーを阻害することによりDUX4発現レベルを低下させることに関して、例1において記載されるRNAiの結果を確認する。
【0166】
例3
プラスミドおよび抗体。
pHAGE EF1-dCas9-KRAB(Addgene plasmid#50919)およびpLKO.1-puro U6 sgRNA BfuAI stufferレンチウイルスプラスミドを入手した。この例において使用されるChIP-グレードの抗体、α-H3K9me3(ab8898)およびα-ヒストンH3(ab1791)は、市販のソースから購入した。
【0167】
sgRNAの設計およびプラスミド構築。
公共で利用可能なsgRNA設計ツールを用いて、ヒトBAZ1A、BRD2、KDM4CおよびSMARCA5(表4)のプロモーター/エクソン1領域を標的とする候補一本鎖ガイドRNA(sgRNA)を同定した。本研究の範囲を超えて実験の適応性を構築するために、SaCas9およびSpCas9の両方により認識可能な二重のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に隣接する配列を標的とするsgRNAに優先順位を付けた。予測されるオフターゲットマッチを、CRISPR Design Tool(http://crispr.mit.edu)を用いて決定した。各々の標的遺伝子について6~8種のsgRNAを、個々に、pLKO.1-puro U6 sgRNA BfuAI stufferプラスミド中のBfuAI部位中にクローニングして、配列を検証した。
【0168】
細胞培養、一過性遺伝子導入、およびレンチウイルス感染。
無関係なFSHD1患者(05Abic、17Abicおよび18Abic)の二頭筋に由来する筋原性培養を、20%FBS(Hyclone)、0.5%ニワトリ胚抽出物、1%抗生物質&抗真菌薬、および1.2mMのCaClを添加したハムF-10培地中で増殖させた。293Tパッケージング細胞を、
DMEM+10%FBS+0.1%ペニシリン-ストレプトアビジン中で増殖させた。shRNAノックダウン実験のために、293T細胞に、レンチウイルスパッケージングプラスミド(pCMV-dR8.91)、エンベローププラスミド(VSV-G)、およびSIGMA MISSION shRNA発現プラスミドで遺伝子導入した。レンチウイルス上清を収集し、定量分割し、-80℃で冷凍した。FSHD1骨格筋芽細胞を、コラーゲンコートされた6ウェルプレート(遺伝子発現分析のために)または10-cmプレート(ChIPのために)中に播種し、コンフルーエンシーまで増殖させ、次いで、増殖培地中で約48時間にわたり自己分化させた。細胞を、2ラウンドの感染に供した。簡単に述べると、レンチウイルス上清+8μg/mlのポリブレンを培養に添加して、プレートを15分間にわたり37℃でインキュベートし、次いで、パラフィルムでラップして、その後30分間にわたり1100gで遠心分離した(32℃)。遠心分離の後で、ウイルス上清を、増殖培地で置き換えた。細胞を、増殖培地中で維持し、最後のラウンドの感染の4日後に収集した。dCas9-KRAB感染について、293T細胞に、TransIT-LT1遺伝子導入試薬を用いて、レンチウイルスパッケージングプラスミド(pCMV-dR8.91)、エンベローププラスミド(VSV-G)、およびdCas9-KRAB発現プラスミド(#50919)またはsgRNA発現プラスミドのいずれかで遺伝子導入した。レンチウイルス上清を遺伝子導入後72~108時間、11時間の間隔で収集した。FSHD1骨格筋芽細胞を、コラーゲンコートされた6ウェルプレート中に播種し、約80%のコンフルーエンシーまで増殖させ、次いで、2日間にわたり4回の連続感染に供した。細胞を、増殖培地中で約8時間にわたり回復させ、その後、次のラウンドの感染を行った。最後の感染の後に、これらの自己分化した培養を、増殖培地中で72時間にわたり維持し、その後、収集した。
【0169】
定量逆転写PCR(qRT-PCR)。
TRIzol(Invitrogen)を用いて全RNAを抽出し、カラム上でのDNase I消化の後で、RNeasy Miniキット(Qiagen)を用いて精製した。Superscript III逆転写酵素(Invitrogen)を用いるcDNA合成のために全RNA(2μg)を用い、qPCR分析のために200ngのcDNAを用いた。オリゴヌクレオチドプライマー配列を、表5において提供する。
表5
【表5】
*この位置におけるGは、染色体10(T)と比較して、染色体4(G)に特異的である。
【0170】
クロマチン免疫沈降(ChIP)。
レンチウイルスに感染した17Abic分化筋細胞により、Fast ChIP法(Nelson)をいくつかの改変により用いて、ChIPアッセイを行った。細胞を、DMEM中の1%ホルムアルデヒド中で10分間にわたり固定し、10回ダウンス(dounce)し、その後超音波処理した。細胞を、Branson Sonifier 450(VWR Scientific)において65%の出力で、12ラウンドにわたり15秒間のパルスで超音波処理し、DNAを約200~800bpのラダーに剪断し、アガロースゲル電気泳動により、剪断の効率を検証した。クロマチンを、2μgの特異的抗体を用いて免疫沈降させた。94℃で15秒間、55℃で30秒間、および72℃で30秒間を40サイクルにわたり、SYBRグリーン定量PCRアッセイを行った。PCR生成物を、1.5%アガロースゲル上で分析し、生成物の正確なサイズおよびプライマーアニーリングの特異性を検証した。オリゴヌクレオチドプライマー配列を、表5において提供する。
【0171】
FSHD筋細胞において複数のエピジェネティックな経路がDUX4-flの発現を制御する。
DUX4をコードするD4Z4マクロサテライトアレイは、成体の体細胞においては、通常、強力なエピジェネティック抑制下にある。一般に、FSHD患者は、この抑制の喪失を示し、4qのD4Z4アレイにおけるDNAの低メチル化、ならびに4qおよび10qの両方におけるD4Z4アレイにおけるクロマチンの弛緩(抑制性H3K9me3マーク、HP1γおよびコヒーシンのエンリッチメントの低下)を示す。36個のDUX4-flの候補アクチベーターを、潜在的な薬物標的として調べた(表3)。これらの候補は、転写制御因子、クロマチンリモデラ―(remodeler)、およびヒストン修飾酵素を含む。最初のスクリーニングのために、FSHD1患者(05Abic)からの、最終分化した場合に一貫して相対的に高いレベルのDUX4-flを発現する骨格筋細胞を用いた。レンチウイルスによりコードされるshRNAを用いて、各々の候補を、最終分化した培養中でノックダウンし、次いで、4日後に細胞を収集し、DUX4-flおよび他の遺伝子の発現について評価した。
【0172】
データは、これらの候補のうちの多くが、DUX4-flの発現を制御することにおいて役割を果たすと考えられることを示す。例えば、ポリコーム媒介型遺伝子サイレンシングを相殺するショウジョウバエのトライソラクス群タンパク質の哺乳動物の相同体であるASH1Lは、FSHDにおいてDUX4発現を活性化することができるヒストンメチルトランスフェラーゼである。いくつかの態様において、ASH1Lは、DBE-T lncRNAによりD4Z4アレイの近傍に動員され、H3K36me2のエンリッチメントおよびFSHD遺伝子座の抑制解除をもたらす。3種の異なるshRNAによるASH1Lのノックダウンが、DUX4-fl発現を約70~80%低下させることが観察された(図11A)。同様に、エピジェネティックリーダーBRD2(図11C)、リジン特異的ヒストンデメチラーゼKDM4C(図11D)、およびクロマチンリモデリング因子であるBAZ1AおよびSMARCA5のノックダウンは、DUX4-flのレベルを実質的に低下させた(図11Bおよび11E)。重要なことに、これらのノックダウンは、重要な筋転写因子であるMyoDおよびミオゲニン、または筋肉の構造タンパク質であるミオシン重鎖1の発現に対して、最少の効果を有した(図11A~11E)。D4Z4アレイの近傍に存在するFSHD候補遺伝子であるFRG1の発現はまた、相対的に不変であった(図11A~11E)。ユートロフィンの発現の低下もまた、FSHD筋細胞におけるBRD2のノックダウンの後で観察された(図11C)。
【0173】
これらのデータは、FSHDにおいてDUX4-flの発現を制御する特定のエピジェネティック経路が、分化した筋細胞に対して主要な有害効果を伴うことなく修飾され得ることを示す。FSHD患者コホートにわたって候補を確認するために、2つの他の無関係なFSHD1患者(18Abicおよび17Abic)あらの筋細胞において、ASH1L、BRD2、KDM4CおよびSMARCA5のshRNAノックダウンを試験し、類似の結果を得た。shRNAがDUX4-flの発現を低下させることができなかった場合にについての原因である可能性が高いウイルスのプレップにおける差異にもかかわらず、各々の標的についての少なくとも1つのshRNAは、3つ全ての患者コホートにおいて、筋細胞におけるDUX4-flのレベルを実質的に低下させた(図11F)。
【0174】
dCas9-KRABによる候補制御因子の転写の抑制は、FSHD筋細胞におけるDUX4-fl発現を低下させる。
少なくとも2種のshRNAによる8種の候補のノックダウン(例えば、1候補あたり2種のshRNA)は、>70%のDUX4-flの発現の低下をもたらし、他の試験された遺伝子に対しては効果は最小限であった。候補のうちの5つ、ASH1L、BAZ1A、BRD2、KDM4C、およびSMARCA5を、第2の遺伝子サイレンシングモダリティーによる調査のために選択した。適切なsgRNAによりガイドされ、転写エフェクター(KRAB、LSD1、VP64、p300)に融合した酵素的に不活性なdCas9は、哺乳動物細胞における内在標的遺伝子発現を修飾することができる。活性な遺伝子の転写開始部位(TSS)の近傍の領域に動員された場合(例えば、-50~+250塩基対)、dCas9-KRABは、有効な転写抑制因子となり得る。したがって、各々の候補について、プロモーターまたはエクソン1を標的とする6~8種のsgRNAを設計した。sgRNAおよびdCas9-KRABを、4回の連続した遠心分離による共感染を用いて、17Abic筋細胞中に形質導入した。72時間後に細胞を収集し、遺伝子発現の変化についてアッセイした。
【0175】
ASH1Lを標的とする試験されたsgRNAのうちのいずれも、この候補遺伝子の発現に対して一貫して影響を及ぼさなかった。BRD2を標的とする1つの機能的sgRNA(図12B)、ならびにBAZ1A(図12A)、KDM4C(図12C)、およびSMARCA5(図12D)についての2つの独立した機能的sgRNAを同定した。しかし、shRNAノックダウンを用いた場合と同様に、標的遺伝子発現のわずかな低下ですら、DUX4-flのレベルを実質的に(約30~60%)低下させるために十分であることが証明された(図12A~12D)。対照的に、他の遺伝子(FRG1、MyoD、ミオゲニン、ミオシン重鎖1、および18S)の発現レベルは、候補制御因子の低下によって著しくは影響を受けなかった(図12A~12D)。DUX4-flは、両方の抑制の方法(shRNAノックダウンおよびCRISPR阻害)により実質的に低下することが試験された唯一の遺伝子であった。
【0176】
候補制御因子のノックダウンは、D4Z4マクロサテライトにおいてクロマチン抑制を増大する。
病原性遺伝子座におけるクロマチンの変化を調べた。DUX4は、4qおよび10qの両方のアレルにおいて、全てのD4Z4反復単位において存在するが、これらのアレルのうちの3つにおけるクロマチンは、既に圧縮されたヘテロクロマチン状態にある。したがって、短縮したアレルにおける抑制を評価する試みは、他の3つのアレルの存在により弱められ得る。分析から10qアレルを取り除くために、DUX4のエクソン2中の染色体4に特異的な配列多型・対・染色体10に特異的な配列多型を、プライマーを設計する場合に、計算に入れた。
【0177】
17Abic FSHD筋細胞において、ASH1L(図13A)、BRD2(図13B)、KDM4C(図13C)、またはSMARCA5(図13D)のいずれかのshRNAノックダウンの後で、いくつかのヒストン修飾について、クロマチン免疫沈降(ChIP)を行った。試験した全てのFSHDコホートにわたる各々の標的遺伝子の強力な一貫したノックダウンを提供するshRNAを、評価した。プロモーターH3K4me3マーク、活性なH3K27acマーク、および抑制性H3K9me3マークの相対的占有率を、染色体4のDUX4エクソン1/イントロン1、D4Z4アレイ、ヘテロクロマチンの4pマクロサテライトアレイ、および活性なミオゲニンプロモーターに近い領域において調べた。各々のエピジェネティック標的のノックダウンは、D4Z4遺伝子座におけるH3K4me3またはH3K27acのレベルに対して検出可能な効果を有さなかったが、抑制性H3K9me3マークのレベルは増大した(図13A~13D)。エンリッチメントのレベルは、約40%~2倍であり、ヘテロクロマチンの4q反復配列のバックグラウンドの中でも、遠位の抑制解除された病原性反復配列における抑制の増大を示す。このことに関して、患者17Aは、短縮した4A161アレルにおいて約5個の反復単位、および短縮していない4A~L161アレルにおいて約26個の反復単位を有する。
【0178】
BRD2、KDM4C、またはSMARCA5がノックダウンされた細胞において、増強された抑制は、概ね、D4Z4マクロサテライトに対して特異的であると考えられる。なぜならば、他の試験した領域におけるH3K9me3レベルは、対照shRNAを用いて観察されたものよりも高くはならなかったからである(図13A~13D)。このことは、これらのDUX4制御因子のノックダウンが、ミオゲニンを含む他の遺伝子に対して、非常にわずかな効果しか有しないことを示す。
【0179】
4特異的D4Z4(例えば、Rプライマーの3’末端における染色体4に特異的な多型・対・染色体10に特異的な多型)、D4Z4の5’隣接配列(flank)(アレイの上流)、ミオゲニンプロモーター(活性な筋特異的遺伝子プロモーター)、および4pアレイ(ch4上の別のヘテロクロマチンアレイ)におけるH3K36me3の相対的占有率もまた、BRD2(図14A)、ASH1L(図14B)、SMARCA5(図14C)、およびKDM4C(図14D)のノックダウンの後で評価した。データは、BRD2およびKDMC4ノックダウン細胞における4特異的D4Z4における著しいエンリッチメントを示す(図14Aおよび14D)。ミオゲニンプロモーターにおけるエンリッチメントは、空ベクター対照と比較して有意ではなく、ヘテロクロマチン4pアレイにおいては、エンリッチメントはほとんど~全く存在しなかった。
【0180】
まとめると、この例において記載されるデータは、複数のクロマチン制御因子の独立したノックダウンが、D4Z4におけるクロマチン抑制、およびFSHD筋細胞におけるDUX4-fl発現の実質的な減少をもたらすこと、ならびに、特定のエピジェネティック経路の適度な阻害により、DUX4-flのレベルを実質的に低下させることができることを示し、このことは、FSHDのための新規の薬物標的としてのそれらの潜在能力を実証している。
【0181】
例4
この例は、エピジェネティックな因子を標的とする小分子が、DUX4の発現を修飾することができることを示す。トリコスタチンA(TSA)は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤であり、5-アザ-2’-デオキシシチジン(5’ADC)は、DNAメチル化阻害剤であり、カエトシン(chaetocin:CH)は、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤である。FSHD1を罹患する患者(例えば、コホート28A、29A、30A、および15A)ならびにFSHD無症候の患者(例えば、コホート28B、29B、30B、および15B)から単離した初代筋芽細胞の、D4Z4反復配列のエピジェネティック状態に影響を及ぼす小分子のみ、または組み合わせにおける処置は、DUX4の発現に影響を及ぼす(図15)。
【0182】
筋分化を改変することによりDUX4の発現に影響を及ぼす小分子は、間接的に作用しており、FSHDのための実行可能な候補ではない。
JQ1は、初代FSHD筋細胞(09Abic)においてDUX4の発現および下流の遺伝子TRIM43およびZSCAN4を阻害すると考えられる小分子エピジェネティック薬である。しかし、処置の時間経過は、DUX4のJQ1制御は間接的であり、いくつかの重要な筋原性制御遺伝子であるミオゲニン(Myog)、myoD、ミオシン重鎖(MyHC)、およびミオスタチン(Myost)の発現を阻害することにより達成されることを示す(図16)。DUX4の発現は、筋分化の間に誘導され、このプロセスを遮断することまたは遅延させることは、JQ1を用いる場合、DUX4の発現を見かけ上阻害するが、このとき、実際には、それはあくまで筋原性分化の動力学を改変させているのである。重要なことに、これらの遺伝子は、FSHDおよび健康なヒト骨格筋筋芽細胞(HSMM)の両方において、JQ1により誤制御される(図17)。したがって、JQ1は、非特異的小分子の例であり、FSHD治療薬としての使用のためには適切ではない。
【0183】
例5
この例は、DUX-4、SMARCA5、およびKDM4CのノックダウンによるZSCAN4の発現の修飾を記載する。ZSCAN4は、テロメア維持および胚性幹細胞の多能性の制御において役割を果たす。簡単に述べると、FSHDの骨格筋の筋管を、DUX-4、SMARCA5、またはKDM4Cを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドで処置し、示された遺伝子の相対的発現を、RT-PCRを用いて決定した。
以下の材料を、例5において用いた。含まれた細胞:FTCE-00016-01(不死化FSDH筋芽細胞株、6.3反復配列)、同質遺伝子系統A4対照、健康な正常な、およびC12 FSHDの筋芽細胞。
【0184】
含まれた培地構成成分および組織培養材料:骨格筋増殖培地(PromoCell、C-23160)に15%FBS(Hyclone、SH30071)およびPen/Strep(Gibco、15140148)を添加したもの。骨格筋細胞分化培地(PromoCell、C-23061)に、20%のKnockOut血清置換物(Gibco、10828010)およびPen/Strepを添加したもの(分化培地)。EmbryoMax 0.1%ゼラチン溶液(EMDmillipore ES-006-B)。PBS(Gibco、10010023)組織培養物処理された96ウェルマイクロプレート(Corning、CLS3595)、TC処理されたマルチウェル細胞培養プレート(Falcon、353046)。
【0185】
リアルタイムPCR試薬は、以下を含んだ:溶解バッファー-Roche Realtime Ready溶解バッファー19.5uL(20uLのために)(Roche、07248431001)、DNAse I(Ambion, AM2222)0.25uL、Protector RNase阻害剤(Roche、3335402001)0.25uL、RNeasy Microキット(Qiagen、74004)、Taqman Preamp Master Mix(ThermoFisher Scientific、4391128)、Taqman Multiplex Master Mix(ThermoFisher Scientific、4484262)、ZSCAN4 Taqmanアッセイ(ThermoFisher Scientific、Hs00537549_m1、FAM-MGB)、MYOG Taqmanアッセイ(ThermoFisher Scientific、Hs01072232_m1、JUN-QSY)、RPLP0 Taqmanアッセイ(ThermoFisher Scientific、Hs99999902_m1)、LEUTX Taqmanアッセイ(ThermoFisher Scientific、Hs00418470_m1)。
アンチセンスオリゴヌクレオチド配列を、表5において示す。
表6
【表6】
【0186】
図11は、FSHDの骨格筋の筋管におけるZSCAN4の発現が、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたDUX-4のノックダウンにより低下したことを示す。DMSO処置されたFSHDの骨格筋の筋管、および野生型の筋管を、対照として用いた。
図12は、FSHDの骨格筋の筋管におけるZSCAN4の発現が、SMARCA5およびKDM4Cのノックダウンにより低下したことを示す。ターゲティングされていないアンチセンスオリゴヌクレオチドを、対照として用いた。
まとめると、これらの結果は、DUX-4、SMARCA5、またはKDM4Cの阻害またはノックダウンが、ZSCAN4の発現を低下させることができることを示した。
【0187】
配列
SaCas9タンパク質(配列番号20)
【数9】
【0188】
Sa-dCas9-KRAB(配列番号21)
【数10】
【0189】
Sp-dCas9-KRAB(配列番号22)
【数11】
【0190】
Sa-dCas9(配列番号23)
【数12】
図1
図2
図3
図4A-B】
図4C-D】
図4E
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A-B】
図11C-D】
図11E-F】
図12A-B】
図12C-D】
図13A-B】
図13C-D】
図14A-B】
図14C-D】
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
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