(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】変異型AIM
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230221BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230221BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230221BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230221BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230221BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230221BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230221BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230221BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230221BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230221BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230221BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/47
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
A61K38/02
A61P3/04
A61P1/16
A61P13/12
(21)【出願番号】P 2019553744
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2018037505
(87)【国際公開番号】W WO2019097898
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2017220733
(32)【優先日】2017-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511288304
【氏名又は名称】宮崎 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】新井 郷子
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-517078(JP,A)
【文献】国際公開第2010/140531(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/145723(WO,A1)
【文献】PREDICTED: CD5 antigen-like [Macaca mulatta], GenBank Accession No. XP_001116945.1,2015年12月21日,[2018年11月21日検索] インターネット <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/XP_001116945.1>
【文献】PREDICTED: CD5 antigen-like [Nomascus leucogenys], GenBank Accession No. XP_003258693.1,2015年05月13日, [2018年11月21日検索] インターネット <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/XP_003258693.1>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
C12P
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)から(5)のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、以下に示す活性群から選択される少なくとも1つの活性が野生型ヒトAIMと同等又はそれ以上である、変異型ヒ
トAIM
(1)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、
(2)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、
(3)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換され、かつ配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、
(4)(1)から(3)のいずれか1つのアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有し、かつ(1)から(3)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸は残されている、アミノ酸配列、
(5)(1)から(3)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸以外の箇所において、さらに1から5個のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列、
<活性群>
・マクロファージへのエンドサイトーシス活性、
・マクロファージのアポトーシス抑制活性、
・動脈硬化の維持/促進活性、
・脂肪細胞分化抑制活性、
・脂肪細胞の脂肪滴融解活性、
・脂肪細胞縮小活性、
・CD36結合活性、
・脂肪細胞へのエンドサイトーシス活性、
・FAS結合活性、
・FAS機能抑制活性、抗肥満活性、
・脂肪肝、NASH、肝硬変または肝がんの予防もしくは治療活性、及び、
・急性腎不全、慢性腎炎、慢性腎不全、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、腎硬化症、IgA腎症、高血圧性腎症、膠原病に伴う腎症もしくはIgM腎症の予防または治療活性。
【請求項2】
該別のアミノ酸が、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンからなる群から選択されるアミノ酸である、請求項1に記載の変異型ヒトAIM。
【請求項3】
該別のアミノ酸がセリンである、請求項1に記載の変異型ヒトAIM。
【請求項4】
以下の(1)から(3)のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、以下に示す活性群から選択される少なくとも1つの活性が野生型マウスAIMと同等又はそれ以上である、変異型マウスAIM
(1)配列番号:2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、
(2)(1)のアミノ酸配列と
90%以上の同一性を有し、かつ(1)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたアミノ酸は残されている、アミノ酸配列、
(3)(1)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸以外の箇所において、さらに1から5個のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列、
<活性群>
・マクロファージへのエンドサイトーシス活性、
・マクロファージのアポトーシス抑制活性、
・動脈硬化の維持/促進活性、
・脂肪細胞分化抑制活性、
・脂肪細胞の脂肪滴融解活性、
・脂肪細胞縮小活性、
・CD36結合活性、
・脂肪細胞へのエンドサイトーシス活性、
・FAS結合活性、
・FAS機能抑制活性、抗肥満活性、
・脂肪肝、NASH、肝硬変または肝がんの予防もしくは治療活性、及び、
・急性腎不全、慢性腎炎、慢性腎不全、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、腎硬化症、IgA腎症、高血圧性腎症または膠原病に伴う腎症もしくはIgM腎症の予防または治療活性。
【請求項5】
該別のアミノ酸が、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンからなる群から選択されるアミノ酸である、請求項4に記載の変異型マウスAIM。
【請求項6】
該別のアミノ酸がセリンである、請求項4に記載の変異型マウスAIM。
【請求項7】
以下の(1)または(2)の塩基配列を含む、核酸
(1)請求項1から3のいずれか1項に記載の変異型ヒトAIMをコードする塩基配列、
(2)請求項4から6のいずれか1項に記載の変異型マウスAIMをコードする塩基配列。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の宿主細胞を培養することを含む、変異型ヒトAIMまたは変異型マウスAIMの製造方法。
【請求項11】
以下の(1)または(2)の変異型AIMを含む、医薬組成物
(1)請求項1から3のいずれか1項に記載の変異型ヒトAIM、
(2)請求項4から6のいずれか1項に記載の変異型マウスAIM。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型AIM、該変異型AIMをコードする核酸、該核酸を含む発現ベクター、該発現ベクターを含む宿主細胞、該宿主細胞を用いた変異型AIMの製造方法、および該変異型AIMを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage、またはCD5L)は、本発明者らが同定したマクロファージが特異的に産生し、マクロファージ自身のアポトーシスを抑制する因子であり(非特許文献1)、これまでにいくつかの疾患との関連が示唆されている。例えば、AIMは、肥満に伴い血中濃度が上昇し、CD36を介したエンドサイトーシスにより脂肪細胞に取り込まれ、蓄積している中性脂肪の分解(lipolysis)を誘導することから、抗肥満との関係が示唆されている(非特許文献2)。また、AIMは、中性脂肪の分解により脂肪細胞から遊離脂肪酸を放出させ、放出された脂肪酸が、toll様受容体の刺激を介して脂肪組織に慢性炎症を惹起/維持する。メタボリックシンドロームは、肥満に伴うインスリン抵抗性獲得がその基盤となるが、脂肪組織における慢性炎症が重要であることから、AIMがメタボリックシンドロームと関係があるとされている(非特許文献3)。本発明者らもまた、AIMが脂肪前駆細胞の成熟脂肪細胞への分化を抑制し、脂肪細胞における脂肪滴の分解を誘導することを明らかにし、AIMの肥満への適用の可能性を報告した(特許文献1)。さらに、本発明者らは、高カロリー食を負荷した肥満AIM knockout (KO)マウスが、肥満、脂肪肝、肝実質の線維化、発がんというヒトNASH病態に近似した病態を示すことを明らかにし、AIMの肝臓疾患への適用の可能性を報告した(特許文献2)。加えて、本発明者らは、両側性の一過性腎虚血再灌流を行ったAIM KOマウスに急性腎不全が生じ、壊死した尿細管細胞の蓄積とそれにともなう腎障害の急速な進行と、全身状態の悪化が生じ、高い頻度の死亡が確認できたことを明らかにした。そして、発明者らは、該AIM KOマウスにAIMを投与したところ、BUN値が改善し、腎機能の急速な改善が認められ、それに伴う全身症状と死亡率の改善が認められることを示し、AIMの補充による急性腎不全の治療および慢性腎疾患の予防又は治療の可能性を報告した(特許文献3)。また、発明者らは、血中においてAIMは、Fc領域においてIgM 5量体と複合体を形成し、それによって腎ろ過からAIMが保護され、血中AIMが高レベルに維持されていることを報告した(非特許文献4、5)。
【0003】
通常、薬理効果を有するタンパク質を医薬品として使用する場合、機能が維持されている、凝集していない等の条件を満たした均一なタンパク質を調製する必要がある。タンパク質の調製方法としては、所望のタンパク質をコードする核酸を有する発現ベクターを導入された細胞を培養し、細胞内または細胞から培養液に分泌された組換えタンパク質を単離および精製する方法が代表的方法として挙げられる。本方法では、遺伝子導入や培養等の取扱いの容易さから宿主細胞として大腸菌が好ましく使用されるが、本来の環境と異なる条件下でのタンパク質の調製の際には問題が生じる場合がある。例えば、真核生物由来のタンパク質は高次構造を形成する際にシステイン間で分子内ジスルフィド結合を形成することがある。そのようなタンパク質を大腸菌を形質転換することによって調製する場合、大腸菌の細胞質内は強い還元条件下にあるためジスルフィド結合の形成が妨げられる。結果として、本来の高次構造が再現されず、精製した組換えタンパク質が本来の機能を喪失している、または毒性を示すなどの問題が生じ得る。また、宿主細胞として哺乳動物細胞を用いる場合、目的とするタンパク質によっては、細胞内で通常存在する以上の濃度で発現させた場合、組換えタンパク質同士がジスルフィド結合によって多量体化してしまい、組換えタンパク質の精製や生体内における薬物動態に影響を与えることもある。AIMは、多数のシステインを含む約100アミノ酸からなるscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインを3つ含むため、組換えAIMを製造する場合には宿主細胞として大腸菌は適さず、哺乳動物細胞を使用する場合であっても、組換えAIMが多量体化するか否かを検証した上で、多量体化が確認された場合、多量体化させないための手段を検討する必要があった。しかし、これまでに組換えAIMの多量体化に関する報告はなされていない。さらに、IgM 5量体と複合体を形成したAIMは不活性となるため、組換えAIM を医薬品として投与する場合、AIMとIgM 5量体の複合体の形成をコントロールする必要があった。しかし、その課題は未解決のままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2010/140531
【文献】WO2013/162021
【文献】WO2015/119253
【非特許文献】
【0005】
【文献】T. Miyazaki et al., J Exp Med. 189:413-422, 1999
【文献】J. Kurokawa et al., Cell Metab. 11:479-492, 2010
【文献】J. Kurokawa, Proc Natl Acad Sci U S A., 108:12072-12077, 2011
【文献】S. Arai et al., Cell Rep. 3:1187-1198, 2013
【文献】T. Miyazaki et al., Cell Mol Immunol. 15:562-574, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、機能が維持され、多量体化せず、かつIgMによって不活性化されない組換えAIMを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、野生型ヒト組換えAIMをHEK293を用いて発現させたところ、多量体が形成されることを確認し、多量体化の原因としてヒトAIMに含まれるシステインに着目した。本発明者らは、ヒトAIMの立体構造予測から、配列番号:1で表される野生型ヒトAIMのアミノ酸番号168のシステインおよびアミノ酸番号277のシステインが多量体形成に関与していると予測し、該システインをセリンに置換した変異型ヒト組換えAIMを作製したところ、変異型ヒト組換えAIMは多量体化しないことを確認した。また、野生型組換えAIMに比べて、変異型組換えAIMは回収効率が上昇していた。さらに、変異型ヒト組換えAIMは野生型ヒトAIMが有する機能の1つであるマクロファージへのエンドサイトーシス活性を維持しており、驚くべきことに、配列番号:1で表される野生型ヒトAIMのアミノ酸番号168のシステインをセリンに置換したAIMに至っては、該活性が大きく向上していることを確認した。また、野生型マウス組換えAIMが二量体形成することも確認し、配列番号:2で表される野生型マウスAIMのアミノ酸番号168のシステインが二量体形成の原因であることも見出した。さらに、野生型ヒトAIMのアミノ酸番号168のシステインおよび野生型マウスAIMのアミノ酸番号168のシステインをそれぞれセリンに置換した変異型ヒトAIMおよび変異型マウスAIMは、IgM 5量体と複合体を形成しないことを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]以下の(1)から(5)のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、野生型ヒトAIMの活性を有する、変異型ヒトAIM
(1)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、
(2)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、
(3)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換され、かつ配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、
(4)(1)から(3)のいずれか1つのアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1)から(3)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸は残されている、アミノ酸配列、
(5)(1)から(3)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列;
[2]該別のアミノ酸が、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンからなる群から選択されるアミノ酸である、[1]に記載の変異型ヒトAIM;
[3]該別のアミノ酸がセリンである、[1]に記載の変異型ヒトAIM;
[4]以下の(1)から(3)のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、野生型マウスAIMの活性を有する、変異型マウスAIM
(1)配列番号:2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、
(2)(1)のアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたアミノ酸は残されている、アミノ酸配列、
(3)(1)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列;
[5]該別のアミノ酸が、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンからなる群から選択されるアミノ酸である、[4]に記載の変異型マウスAIM;
[6]該別のアミノ酸がセリンである、[4]に記載の変異型マウスAIM;
[7]以下の(1)または(2)の塩基配列を含む、核酸
(1)[1]から[3]のいずれか1つに記載の変異型ヒトAIMをコードする塩基配列、
(2)[4]から[6]のいずれか1つに記載の変異型マウスAIMをコードする塩基配列;
[8][7]に記載の核酸を含む、発現ベクター;
[9][8]に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞;
[10][9]に記載の宿主細胞を培養することを含む、変異型ヒトAIMまたは変異型マウスAIMの製造方法;
[11]以下の(1)または(2)の変異型AIMを含む、医薬組成物
(1)[1]から[3]のいずれか1つに記載の変異型ヒトAIM、
(2)[4]から[6]のいずれか1つに記載の変異型マウスAIM;
などを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の変異AIMは、野生型組換えAIMと同等の機能を維持するか、または向上した該機能を有し、かつ組換えAIMとして発現させた場合、多量体化しないという特徴を有する。多量体化を生じないことによって、組換えAIMが不溶化して析出せず、結果として組換えAIMの回収率の向上および体内投与時の危険性の回避につながる。また、本発明の変異AIMは、生体に投与した場合、IgM 5量体と複合体を形成せず、結果として不活性かされないという特徴を有する。そのため、投与された変異AIMの力価の減少を防ぎ、投与量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、精製および濃縮後の野生型ヒトrAIMの電気泳動像を示す。Monomer:単量体、Dimer: 二量体、Polymer: 多量体をそれぞれ示す。ゲルの上部に色濃く存在する部分(矢印で示す)は、巨大な分子量を有する多量体である。
【
図2】
図2は、精製および濃縮後の野生型マウスrAIMの電気泳動像を示す。Monomer: 単量体、Dimer: 二量体をそれぞれ示す。
【
図3】
図3は、野生型、2CS、3CSおよび2/3CSヒトAIMのアミノ酸配列を示す。下線部はSRCRドメイン間を連結するヒンジ示す。
【
図4】
図4は、野生型ヒトAIMの立体構造を示す。
【
図5】
図5は、野生型マウスAIMの立体構造を示す。
【
図6】
図6は、野生型および2CSマウスAIMのアミノ酸配列を示す。下線部はSRCRドメイン間を連結するヒンジを示す。
【
図7】
図7は、精製および濃縮後の野生型、2CS、3CSおよび2/3CSヒトrAIMの電気泳動像を示す。Monomer: 単量体、Dimer: 二量体、Polymer: 多量体をそれぞれ示す。なお、それ以外のバンドはAIM以外の非特異的タンパク質の混入である。
【
図8】
図8は、精製および濃縮後の野生型および2CSマウスrAIMの電気泳動像を示す。Monomer: 単量体、Dimer: 二量体をそれぞれ示す。
【
図9】
図9は、腹腔マクロファージ細胞によるrAIMの取り込みを示す図である。縦軸は、蛍光強度を示す。
【
図10】
図10は、野生型または2CSマウスrAIMとマウスIgM 5量体を含む培養上清から得られるタンパク質に対するウェスタンブロット像(A)、ならびに野生型または2CSヒトrAIMとヒトIgM 5量体を含む培養上清から得られるタンパク質に対するウェスタンブロット像(B)を示す。a-mAIM:抗マウスAIM、a-hAIM:抗ヒトAIM、a-mIgM:抗マウスIgM、a-hIgM:抗ヒトIgM。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、以下の(1a)から(5a)のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、野生型ヒトAIMの活性を有する、変異型ヒトAIM(以下、本発明の変異型ヒトAIMともいう)を提供する。
(1a)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列。
(2a)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列。
(3a)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換され、かつ配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列。
(4a)(1a)から(3a)のいずれか1つのアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1a)から(3a)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸は残されている、アミノ酸配列。
(5a)(1a)から(3a)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸を欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列。
また、本発明の変異型ヒトAIMは、好ましくは、以下の(1b)から(5b)のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。
(1b)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号:3)。
(2b)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号:4)。
(3b)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインがセリンに置換され、かつ配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号:5)。
(4b)(1b)から(3b)のいずれか1つのアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1b)から(3b)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリンは残されている、アミノ酸配列。
(5b)(1b)から(3b)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリン以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸を欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列。
【0012】
本発明において配列番号:1で表されるアミノ酸配列は、野生型ヒトAIMのアミノ酸配列を表す。野生型ヒトAIMは、システインを多く含む3つのScavenger-Receptor Cysteine-Rich(SRCR)ドメインを含む、主に血中に存在するタンパク質である。野生型ヒトAIM に含まれるSRCR1ドメイン、SRCR2ドメインおよびSRCR3ドメインはそれぞれ8つ、9つ、9つのシステインを含み、これらのシステインのうちそれぞれ8つ、8つ、8つのシステインが分子内ジスルフィド結合の形成に寄与し、野生型ヒトAIMは高次構造を形成する。一方、生体内における野生型ヒトAIMの高次構造形成に関与しないシステインとしては、配列番号:1のアミノ酸番号168のシステインおよびアミノ酸番号277のシステインが挙げられる。野生型ヒトAIMに存在するこれら2つシステインは、分子内ジスルフィド結合には寄与しない代わりに、組換えヒトAIM間に分子間ジスルフィド結合を形成させる。その結果、組換えヒトAIMは多量体化し、不溶化タンパク質として析出する。さらに、上記の配列番号:1のアミノ酸番号168のシステインは、IgM 5量体中の特定のシステインと分子間ジスルフィド結合を形成することによって、野生型ヒトAIMとヒトIgM 5量体からなる複合体を形成させ、野生型ヒトAIMを不活性化させる。
【0013】
上記の通り、本発明の変異型ヒトAIMは、下記の(1a)から(3a)のいずれかのアミノ酸配列を含む。
(1a)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列。
(2a)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列。
(3a)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換され、かつ配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列。
【0014】
本発明の変異型ヒトAIMは、上記の配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインおよび/またはアミノ酸番号277のシステインをそれぞれ別のアミノ酸に置換することによって、組換えヒトAIM間の分子間ジスルフィド結合形成を妨げ、組換えヒトAIMの多量体化を防ぐことが可能となる。また、上記の配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインを別のアミノ酸に置換することによって、組換えヒトAIMとIgM 5量体間の分子間ジスルフィド結合形成を妨げ、組換えヒトAIMの不活性化を防ぐことが可能となる。上記の配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインおよび/またはアミノ酸番号277のシステインを置換するための別のアミノ酸としては、得られる変異型ヒトAIMが野生型ヒトAIMの有する活性(ここで「活性」とは、例えば、マクロファージへのエンドサイトーシス活性、マクロファージのアポトーシス抑制活性、動脈硬化の維持/促進活性、脂肪細胞分化抑制活性、脂肪細胞の脂肪滴融解活性、脂肪細胞縮小活性、CD36結合活性、脂肪細胞へのエンドサイトーシス活性、FAS結合活性、FAS機能抑制活性、抗肥満活性、肝疾患(脂肪肝、NASH、肝硬変、肝がん)の予防または治療活性、腎疾患(急性腎不全、慢性腎炎、慢性腎不全、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、腎硬化症、IgA腎症、高血圧性腎症、膠原病に伴う腎症またはIgM腎症)の予防または治療活性などをいう。)と同様の活性を維持または向上できる限りは特に制限されないが、システインと物理化学的性質において類似したアミノ酸が好ましく挙げられる。なお、上記の配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインを置換するための別のアミノ酸とアミノ酸番号277のシステインを置換するための別のアミノ酸は互いに同一であっても異なっていてもよい。システインの類似アミノ酸としては、極性中性アミノ酸に分類されるアミノ酸が挙げられ、具体的には、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンからなる群から選択されるアミノ酸が挙げられる。その中でも、構造上の最も類似するという観点から、セリンが好ましい。従って、上記(1a)から(3a)のいずれかのアミノ酸配列を含む本発明の変異型ヒトAIMは、好ましくは、下記のいずれかのアミノ酸配列を含む変異型ヒトAIMであってもよい。
(1b)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号:3)。
(2b)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号:4)。
(3b)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインがセリンに置換され、かつ配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号277のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号:5)。
特に、(1b)配列番号:1で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号:3)を含む変異型ヒトAIMのマクロファージへのエンドサイトーシス活性は、後述する実施例の通り、野生型ヒトAIMの該活性より高く、AIMとしての機能がより優れていることが示唆される。
【0015】
本発明の変異型ヒトAIMはまた、上記(1a)から(3a)のいずれかのアミノ酸配列に代わり、下記の(4a)または(5a)のアミノ酸配列を含んでよい。
(4a)(1a)から(3a)のいずれか1つのアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1a)から(3a)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸は残されている、アミノ酸配列。
(5a)(1a)から(3a)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列。
本発明の変異型ヒトAIMはまた、上記(1b)から(3b)のいずれかのアミノ酸配列に代わり、下記の(4b)または(5b)のアミノ酸配列を含んでよい。
(4b)(1b)から(3b)のいずれか1つのアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1b)から(3b)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリンは残されている、アミノ酸配列。
(5b)(1b)から(3b)のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリン以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸の欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列。
【0016】
上記(1a)から(3a)(または、上記(1b)から(3b))のいずれか1つのアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ上記(1a)から(3a)(または、上記(1b)から(3b))のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)は残されている、アミノ酸配列としては、具体的には、上記(1a)から(3a)(または、上記(1b)から(3b))のいずれか1つのアミノ酸配列のアミノ酸番号10、26、39、44、73、83、91、101、124、140、153、158、168、185、195、205、215、230、246、259、264、277、292、302、312および322のシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)は変化しておらず、かつ該アミノ酸以外のアミノ酸配列部分において配列番号:1で表されるアミノ酸配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe, Trp, Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala, Leu, Ile, Val)、極性アミノ酸(Gln, Asn)、塩基性アミノ酸(Lys, Arg, His)、酸性アミノ酸(Glu, Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser, Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly, Ala, Ser, Thr, Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら, Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
【0017】
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST (National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら,J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version2.0)に組み込まれている]、Pearsonら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
【0018】
より好ましくは、上記(1a)から(3a)(または、上記(1b)から(3b))のいずれか1つのアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ上記(1a)から(3a)(または、上記(1b)から(3b))のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)は残されている、アミノ酸配列とは、上記(1a)から(3a)(または、上記(1b)から(3b))のいずれか1つのアミノ酸配列のアミノ酸番号10、26、39、44、73、83、91、101、124、140、153、158、168、185、195、205、215、230、246、259、264、277、292、302、312および322のシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)は変化しておらず、かつ該アミノ酸以外のアミノ酸配列部分において配列番号:1で表されるアミノ酸配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0019】
また、上記(1a)から(3a)(または、上記(1b)から(3b))のいずれか1つのアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)以外の箇所とは、具体的には、上記(1a)から(3a)(または、上記(1b)から(3b))のいずれか1つのアミノ酸配列のアミノ酸番号10、26、39、44、73、83、91、101、124、140、153、158、168、185、195、205、215、230、246、259、264、277、292、302、312および322のアミノ酸以外の箇所であって、欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含む変異型ヒトAIMが、野生型ヒトAIMの有する活性を維持または向上できる箇所であれば、特に制限されない。欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせのアミノ酸の数は1から数個、好ましくは、1から5個、1から4個、1から3個、または1から2個である。なお、置換に用いられるアミノ酸としては、上記の類似アミノ酸と同様であってよい。
【0020】
本発明はまた、以下の(1c)から(3c)のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、野生型マウスAIMの活性を有する、変異型マウスAIM(以下、本発明の変異型マウスAIMともいう)を提供する。
(1c)配列番号:2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列。
(2c)(1c)のアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1c)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたアミノ酸は残されている、アミノ酸配列。
(3c)(1c)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたアミノ酸以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸を欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列。
また、本発明の変異型マウスAIMは、好ましくは、以下の(1d)から(3d)のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。
(1d)配列番号:2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号:6)、
(2d)(1d)のアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1d)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリンは残されている、アミノ酸配列。
(3d)(1d)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリン以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸を欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列。
【0021】
本発明において配列番号:2で表されるアミノ酸配列は、野生型マウスAIMのアミノ酸配列を表す。野生型ヒトAIMと同様、野生型マウスAIMは、3つのSRCRドメインを含むが、SRCR1ドメイン、SRCR2ドメインおよびSRCR3ドメインに含まれるシステインは、野生型ヒトAIMと異なり、それぞれ8つ、9つ、8つである。また、生体内における野生型マウスAIMの高次構造形成に関与しないシステインは、配列番号:2のアミノ酸番号168のシステインのみが挙げられる。野生型マウスAIMに存在するこのシステインは、分子内ジスルフィド結合には寄与しない代わりに、組換えマウスAIM間に分子間ジスルフィド結合を形成させ、組換えマウスAIMは二量体化する。さらに、上記の配列番号:2のアミノ酸番号168のシステインは、IgM 5量体中の特定のシステインと分子間ジスルフィド結合を形成することによって、野生型マウスAIMとマウスIgM 5量体からなる複合体を形成させ、野生型マウスAIMを不活性化させる。
【0022】
上記の通り、本発明の変異型マウスAIMは、(1c)配列番号:2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインが別のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む。
【0023】
本発明の変異型マウスAIMは、上記の配列番号:2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインを別のアミノ酸に置換することによって、組換えマウスAIM間の分子間ジスルフィド結合形成を妨げ、組換えマウスAIMの二量体化を防ぐことが可能となる。また、上記の配列番号:2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインを別のアミノ酸に置換することによって、組換えマウスAIMとIgM 5量体間の分子間ジスルフィド結合形成を妨げ、組換えマウスAIMの不活性化を防ぐことが可能となる。上記の配列番号:2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインを置換するための別のアミノ酸としては、得られる変異型マウスAIMが野生型マウスAIMの有する活性(ここで「活性」とは、野生型ヒトAIMと同様であってよい。)と同様の活性を維持または向上できる限りは特に制限されないが、システインと物理化学的性質において類似したアミノ酸が好ましく挙げられる。システインの類似アミノ酸としては、極性中性アミノ酸に分類されるアミノ酸が挙げられ、具体的には、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンからなる群から選択されるアミノ酸が挙げられる。その中でも、構造上の最も類似するという観点から、セリンが好ましい。従って、上記の本発明の変異型マウスAIMは、好ましくは、(1d)配列番号:2で表されるアミノ酸配列のアミノ酸番号168のシステインがセリンに置換されたアミノ酸配列(配列番号:6)を含む、変異型マウスAIMであってもよい。
【0024】
本発明の変異型マウスAIMはまた、上記(1c)のアミノ酸配列に代わり、下記の(2c)または(3c)のアミノ酸配列を含んでよい。
(2c)(1c)のアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1c)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたアミノ酸は残されている、アミノ酸配列。
(3c)(1c)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたアミノ酸以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸を欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列。
本発明の変異型マウスAIMはまた、上記(1d)のアミノ酸配列に代わり、下記の(2d)または(3d)のアミノ酸配列を含んでよい。
(2d)(1d)のアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ(1d)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリンは残されている、アミノ酸配列。
(3d)(1d)のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換されたセリン以外の箇所において、さらに1から数個のアミノ酸を欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含むアミノ酸配列。
【0025】
上記(1c)(または、上記(1d))のアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ上記((1c)(または、上記(1d))のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)は残されている、アミノ酸配列としては、具体的には、上記(1c)(または、上記(1d))のアミノ酸配列のアミノ酸番号10、26、39、44、72、82、91、101、124、140、153、158、168、185、195、204、214、229、245、258、263、291、301、311および321のシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)は変化しておらず、かつ該アミノ酸以外のアミノ酸配列部分において配列番号:2で表されるアミノ酸配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「相同性」とは、上記と同様であってよい。
【0026】
より好ましくは、上記(1c)(または、上記(1d))のアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ上記((1c)(または、上記(1d))のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)は残されている、アミノ酸配列とは、上記(1c)(または、上記(1d))のアミノ酸配列のアミノ酸番号10、26、39、44、72、82、91、101、124、140、153、158、168、185、195、204、214、229、245、258、263、291、301、311および321のシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)は変化しておらず、かつ該アミノ酸以外のアミノ酸配列部分において配列番号:2で表されるアミノ酸配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0027】
また、上記(1c)(または、上記(1d))のアミノ酸配列に存在するシステインおよび該置換された別のアミノ酸(好ましくは、該置換された別のアミノ酸はセリン)以外の箇所とは、具体的には、上記(1c)(または、上記(1d))のアミノ酸番号10、26、39、44、72、82、91、101、124、140、153、158、168、185、195、204、214、229、245、258、263、291、301、311および321のアミノ酸以外の箇所であって、欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせを含む変異型マウスAIMが野生型マウスAIMの有する活性を維持または向上できる箇所であれば、特に制限されない。なお、野生型マウスAIMの有する活性、置換に用いられるアミノ酸、欠失、付加、挿入または置換あるいはその組み合わせのアミノ酸の数等に関しては、本発明の変異型ヒトAIMにおける記載と同様であってよい。
【0028】
本発明の変異型ヒトAIMおよび変異型マウスAIM(以下、本発明の変異型ヒトAIMおよび変異型マウスAIMは、まとめて本発明の変異型AIMともいう。)は、さらにシグナルペプチドを付加されていてもよい。野生型ヒトAIMは、配列番号:7で表されるシグナルペプチドが配列番号:1で表されるアミノ酸配列のN末端に連結された未成熟な野生型ヒトAIMとして細胞内で翻訳され、細胞外に分泌される際に前記シグナルペプチドが切断され、成熟型タンパク質に変換される。同様に、野生型マウスAIMは、配列番号:8で表されるシグナルペプチドが配列番号:2で表されるアミノ酸配列のN末端に連結された未成熟な野生型マウスAIMとして細胞内で翻訳され、細胞外に分泌される際に前記シグナルペプチドが切断され、成熟型タンパク質に変換される。シグナルペプチドが付加されていることによって、組換えAIMとして変異型AIMを細胞で発現させた場合、細胞外に変異型AIMが分泌されるため、回収が容易となる。
【0029】
本発明の変異型AIMは、公知のペプチド合成法に従って製造することができる。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明の変異型AIMを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とする変異型AIMを製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)および(2)に記載された方法に従って行われる。
(1)M. BodanszkyおよびM. A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966年)
(2)SchroederおよびLuebke, The Peptide, Academic Press, New York (1965年)
【0030】
このようにして得られた本発明の変異型AIMは、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られる本発明の変異型AIMが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に本発明の変異型AIMが塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0031】
さらに、本発明の変異型AIMは、それをコードする核酸を含む発現ベクターを含有する宿主細胞を培養し、得られる培養物から変異型AIMを分離精製することによって製造することもできる。本発明の変異型AIMをコードする核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(即ち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(即ち、非コード鎖)であってもよい。
本発明の変異型AIMをコードするDNAとしては、合成DNAなどが挙げられる。例えば、細胞もしくは組織より調製した全RNAもしくはmRNA画分を鋳型として用い、Reverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅した全長AIM cDNA(例えば、ヒトの場合、配列番号:9で表される塩基配列、マウスの場合、配列番号:10で表される塩基配列が挙げられる。)を、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(TAKARA BIO INC.)、MutanTM-K(TAKARA BIO INC.)等と変異導入するためのプライマーを用いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することによって取得することができる。あるいは、上記した全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、クローニングしたcDNAを、上記の方法に従って変換することによっても取得することができる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
【0032】
本発明の変異型AIMをコードする塩基配列を含む核酸としては、本発明の変異型AIMのアミノ酸配列に対応するコドンを含む核酸であれば制限されないが、例えば、シグナルペプチドが付加されている変異型ヒトAIMの場合、配列番号:9で表される塩基配列の塩基番号572のGをCに置換した配列番号:11で表される塩基配列、配列番号:9で表される塩基配列の塩基番号899のGをCに置換した配列番号:12で表される塩基配列、または両方の置換を有する配列番号:13で表される塩基配列と同一または実質的に同一な塩基配列を含むDNAなどが挙げられ、シグナルペプチドが付加されている変異型マウスAIMの場合、配列番号:10で表される塩基配列の塩基番号581のGをCに置換した配列番号:14で表される塩基配列と同一または実質的に同一な塩基配列を含むDNAなどが挙げられる。
ここで「実質的に同一な塩基配列」とは、元の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を変化させないような変異(silent mutation)を有する塩基配列が挙げられる。
【0033】
本発明の変異型AIMをコードする核酸を含む発現ベクターは、前記の変異型AIMをコードするDNA断片を単離し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。例えば、配列番号:11で表される塩基配列からなるDNAを発現ベクターpCAGGSに挿入し、得られたプラスミドを大腸菌に形質転換することによって、本発明の変異型ヒトAIMをコードするDNAを含む発現ベクターを取得することができる。
発現ベクターとしては、動物細胞発現プラスミド(例:pCAGGS, pSRα, pA1-11, pXT1, pRc/CMV, pRc/RSV, pcDNAI/Neo)が用いられる。
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
例えば、宿主が動物細胞である場合、β-アクチンプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、trcプロモーター、trc改変プロモーターなどが用いられる。
【0034】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点(以下、SV40 oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(以下、dhfrと略称する場合がある、メソトレキセート(MTX)耐性)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、チミジンを含まない培地によって目的遺伝子を選択することもできる。
【0035】
上記した変異型AIMをコードする核酸を含む発現ベクターを宿主細胞に遺伝子導入し、得られる宿主細胞を培養することによって、該変異型AIMを製造することができる。
宿主細胞としては、本発明の変異型AIMの場合、動物細胞が好ましい。
動物細胞としては、例えば、COS-7, Vero, CHO, CHO(dhfr-), CHO-K1, CHO-S, L, AtT-20, GH3, FL, HEK293, NIH3T3, Balb3T3, FM3A, L929, SP2/0, P3U1, B16, P388などの細胞が用いられる。
【0036】
遺伝子導入は、公知の方法に従って実施することができる。
動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267 (1995)(秀潤社発行)、Virology,52巻,456 (1973)に記載の方法に従って遺伝子を導入することができる。
【0037】
遺伝子導入された宿主細胞の培養は、公知の方法に従って実施することができる。
宿主細胞が動物細胞である場合、培養に使用される培地としては、例えば、約5~約20%の胎児ウシ血清を含む最小必須培地(MEM),ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM),RPMI 1640培地,199培地などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6~約8である。培養は、通常約30~約40℃で、約15~約60時間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
以上のようにして、宿主細胞の細胞内または細胞外に本発明の変異型ヒトAIMを製造せしめることができる。
【0038】
前記の遺伝子導入された宿主細胞を培養して得られる培養物から本発明の変異型AIMを自体公知の方法に従って分離精製することができる。
例えば、本発明の変異型AIMを宿主細胞の細胞質から抽出する場合、培養物から公知の方法で集めた宿主細胞を適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって宿主細胞を破壊した後、遠心分離やろ過により可溶性タンパク質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。該緩衝液は、尿素や塩酸グアニジンなどのタンパク質変性剤や、トリトンX-100TMなどの界面活性剤を含んでいてもよい。また、本発明の変異型AIMが細胞外に分泌される場合には、培養物から遠心分離またはろ過等により培養上清を分取するなどの方法が用いられる。
このようにして得られた可溶性画分、培養上清中に含まれる本発明の変異型AIMの単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;抗体を用いた方法などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0039】
かくして得られる本発明の変異型AIMの存在は、該変異型AIMに対する抗体を用いたエンザイムイムノアッセイやウエスタンブロッティングなどにより確認することができる。
【0040】
本発明はまた、本発明の変異型AIMを含む医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物ともいう)を提供する。発明者らはこれまでにAIMが肥満、肝疾患、腎疾患の予防または治療に用いることができることを報告してきた(WO2010/140531、WO2013/162021、WO2015/119253)。本発明の変異型AIMもまた、野生型AIMと同様の活性を維持または向上させていることから、肥満、肝疾患、腎疾患の予防または治療に用いることができる。
【0041】
本発明の医薬組成物の投与対象は、ヒトまたは他の温血動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリなど)があげられる。
【0042】
本発明の医薬組成物の適用対象となる肝疾患は、例えば、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変、肝臓癌があげられる。また、本発明の医薬組成物の適用対象となる腎疾患は、例えば、急性腎不全、慢性腎炎、慢性腎不全、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、腎硬化症、IgA腎症、高血圧性腎症、膠原病に伴う腎症またはIgM腎症があげられ、好ましくは急性腎不全または慢性腎不全が挙げられる。膠原病に伴う腎症としては代表的なものは、ループス腎炎が挙げられる。
【0043】
本発明の医薬組成物は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは他の温血動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリなど)に対して経口的または非経口的(例、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。
【0044】
非経口投与のための医薬組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の変異型ヒトAIMを通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記変異型AIMを通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
【0045】
経口投与のための医薬組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような医薬組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0046】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、成人に使用する場合には、本発明の変異型AIMを1回量として、通常0.01~20mg/kg体重程度、好ましくは0.1~10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1~5mg/kg体重程度を、1日1~5回程度、好ましくは1日1~3回程度、静脈注射により、1日~21日程度、好ましくは1日~14日程度投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
【0047】
なお、本発明の医薬組成物は、本発明の変異型AIMとの配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
【実施例】
【0048】
以下において、実施例および参考例により本発明をより具体的にするが、この発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
実施例1:野生型ヒト組換えAIM(rAIM)の多量体の形成
野生型ヒトrAIMの調製は以下のように行った。すなわち、pCAGGS-human AIM発現ベクターをHEK293に導入することによって得られるヒトAIM安定発現株を5%FBS、Glutamax、ゲンタマイシン含有Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM、Invitrogen)で3日間培養後、培養上清を回収した。回収した培養上清について、マウス抗ヒトAIMモノクローナル抗体(clone 7、自家作製)をHiTrap NHS-activated HP column (GE Healthcare Life Sciences)に固定化することによって得られる抗体カラムを用いてヒトrAIMを精製した。pH2.5の0.1 M glycine-HClで抗体カラムに結合したヒトrAIMを溶出させ、その後ただちに1M Tris-HCl pH 8.5によって中和を行い、ヒトrAIM溶出液を得た。溶出液中の緩衝液をAmicon Ultra filter concentrators (Millipore)を用いてDulbecco's Phosphate-Buffered Saline (DPBS)へ置換し、濃縮をおこなった。ヒトrAIM濃縮液をBcinchoninic acid (BCA) アッセイ(Pierce)を用いてタンパク質量の定量を行い、DPBSを用いて終濃度を2.0 mg/mLに調整した。上記のように精製および濃縮した野生型ヒトrAIMタンパク質 1 μg を非還元条件下においてポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分子量の違いによって分離した後、Coomassie Brilliant Blue (CBB)染色を行い、野生型ヒトrAIMの検出を行った。
その結果、ヒトAIM安定発現株からヒトrAIMを精製し、高濃度溶液として調製した場合、ヒトrAIMは多量体を形成した(
図1)。特に、分子量が大きい一部の多量体(多くのrAIMが重合した複合体:
図1のレーンAにおける分子量の大きいバンドに該当する多量体rAIM、並びにスロットに残留している多量体rAIM)は析出してしまうことが懸念された。このことは、ヒトrAIMを精製し、治療薬剤として生体に投与する際、析出した多量体が微細な血管を閉塞し重大な事故につながりかねない危険性を示唆するものである。したがって、将来的なヒトrAIMの臨床的な応用の可能性を鑑みて、少なくとも分子量が大きい多量体を形成しない変異型ヒトAIMの創出が望まれた。
【0050】
実施例2:野生型マウス組換えAIM(rAIM)の多量体の形成
野生型マウスrAIMの調製は以下のように行った。すなわち、pCAGGS-mouse AIM発現ベクターをHEK293に導入することによって得られるマウスAIM安定発現株を5%FBS、Glutamax、ゲンタマイシン含有DMEMで3日間培養後、培養上清を回収した。回収した培養上清について、ラット抗マウスAIMモノクローナル抗体(clone 36、自家作製)をHiTrap NHS-activated HP columnに固定化することによって得られる抗体カラムを用いてマウスrAIMを精製した。pH2.3の0.1 M glycine-HClで抗体カラムに結合したマウスrAIMを溶出させ、その後ただちに1 M Tris-HCl pH 8.5によって中和を行い、マウスrAIM溶出液を得た。溶出液中の緩衝液をAmicon Ultra filter concentratorsを用いてDPBSへ置換し、濃縮をおこなった。マウスrAIM濃縮液をBCA アッセイによってタンパク質量の定量を行い、DPBSを用いて終濃度を2.0 mg/mLに調整した。上記のように精製および濃縮した野生型マウスrAIMタンパク質 1 μg を非還元条件下においてSDS-PAGEで分子量の違いによって分離した後、CBB染色を行い、野生型マウスrAIMの検出を行った。
その結果、マウスrAIMは、ヒトrAIMのような多量体は形成せず、単量体と二量体のみ存在した(
図2)。
【0051】
実施例3:野生型ヒトおよびマウスAIMの立体構造の予測
野生型ヒトAIMは3つのSRCRドメイン(SRCR1、SRCR2、SRCR3)にそれぞれ8、9、9個のシステインを有する(
図3)。また、未成熟なAIMはN末端にシグナルぺプチドが連結されており、細胞外に分泌される際に、該シグナルペプチドが切断され、成熟タンパク質に変換される。発明者らは、ヒトAIMに存在する上記のシステインによるジスルフィド結合が多量体化に関与している可能性を検証するため、ヒトAIMの立体構造を予測した。ヒトAIMの立体構造の予測は、3つのSRCRドメインよって表される部分構造と、3つのSRCRドメインとヒンジ(
図3の下線部)を含む全体構造の2段階のモデリングによっておこなった。SRCRドメインごとのホモロジーモデリングには、Swiss-Model server(http://swissmodel.expasy.org/SWISS-MODEL)を用いた。ヒトAIMの3つのSRCRドメインに対して個別にBlastおよびHHBlitsによる配列相同性検索をおこなった結果、ヒトAIMが属するSRCRスーパーファミリーGroup Bに同様に属するヒトCD6(5a2e.1.A; PDB ID: 5A2E)が、すべてのSRCRドメインに対して30%以上の良好な配列相同性を示した。そこで、ヒトCD6を鋳型とし、Promod-II6により3つのSRCRドメインの立体構造をそれぞれ構築した。次にPrime version 4.2 (Schrodinger, LLC, New York, NY, 2015)を用いて、SRCRドメイン以外の配列(ヒンジ)を導入することでヒトAIMの全体構造を構築した。ヒトAIM全体の立体構造は、OPLS_2005を力場としたDesmondによる分子動力学計算(310 K, 20 ns)を用い、水分子(SPC)で満たした周期的箱型モデル内でヒトAIMの全体構造を平衡化して得た。また、ヒトAIMの各SRCRドメイン内の4つのジスルフィド結合は、ヒトCD6のSRCRドメインを鋳型として再現した。野生型ヒトAIMの立体構造予測の結果を
図4に示す。野生型ヒトAIMの3つのSRCRドメイン内にそれぞれ8、9、9個存在するシステインのうちそれぞれ8個のシステインは各SRCRドメイン内でジスルフィド結合に用いられることが分かった。しかし、野生型ヒトAIM には、SRCR2ドメインおよびSRCR3ドメインに1つずつ孤立したシステイン(Solitary Cys)、即ち、配列番号:1で表される野生型ヒトAIMのアミノ酸番号168のシステインおよびアミノ酸番号277のシステインが存在することを発明者らは見出した。
また、同様の手法を用いて、発明者らはマウスAIMの立体構造を予測した。野生型マウスAIMの立体構造予測の結果を
図5に示す。野生型マウスAIMの各SRCRドメイン内にはシステインがそれぞれ8、9、8個存在する(
図6)。該システインのうちそれぞれ8個のシステインは各SRCRドメイン内でジスルフィド結合に用いられることが分かった。しかし、野生型マウスAIMには、SRCR2ドメインに孤立したシステイン(Solitary Cys)、即ち、配列番号:2で表される野生型マウスAIMのアミノ酸番号168のシステインが存在することを発明者らは見出した。
【0052】
実施例4:変異型ヒトrAIMの多量体の形成
発明者らは、配列番号:1で表される野生型ヒトAIMのアミノ酸番号168のシステインおよびアミノ酸番号277のシステインが野生型ヒトrAIMの多量体化に関係している可能性を検証するため、上記のシステインを別のアミノ酸に置換した変異型ヒトrAIMを調製した。まず、野生型ヒトrAIMの機能を維持するために、置換に用いるアミノ酸を検討した。システインは親水性(水素結合形成可能)、電荷0、非芳香族であるから、類似アミノ酸としてセリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミンの4つを選んだ。分子形状と大きさの比較から、上記4つのアミノ酸のうち、セリンがシステインに最も近い構造および性質を持っているため、置換に用いるアミノ酸としてセリンを選択した。変異型ヒトrAIMの調製は以下のように行った。すなわち、配列番号:1で表される野生型ヒトAIMのアミノ酸番号168のシステインをコードするコドンTGCをTCCに置換することによって得られる、変異型ヒトAIM(以下、実施例4、6、7において「2CS」ともいう)(配列番号:3)、配列番号:1で表される野生型ヒトAIMのアミノ酸番号277のシステインをコードするコドンTGCをTCCに置換することによって得られる、変異型ヒトAIM(以下、「3CS」ともいう)(配列番号:4)、および前記の両方の置換を有する変異型ヒトAIM(以下、「2/3CS」ともいう)(配列番号:5)をそれぞれ発現する、pCAGGS-human AIM-2CS、pCAGGS-human AIM-3CS、およびpCAGGS-human AIM-2/3CS発現ベクターをそれぞれ作製した。次に、エレクトロポレーション法を用いて該発現ベクターをHEK293T細胞に導入し、3日間培養することによって一過性発現させた各変異型ヒトrAIMを培養上清から回収した。その後、実施例1と同様の方法で、抗体カラムを用いて各変異型ヒトrAIMの精製および濃縮を行った。精製および濃縮した野生型、2CS、3CS、2/3CSのヒトrAIMタンパク質、各100 ngを非還元条件下においてSDS-PAGEで分子量の違いによって分離した後、Oriole染色を行い、各ヒトrAIMタンパク質の検出を行った。
その結果、SRCR2ドメインおよびSRCR3ドメインにそれぞれ1つ存在する孤立したシステインをそれぞれセリンに置換することによって得られる2CSおよび3CSは、多量体を形成せず、野生型マウスAIMと同じく単量体と二量体のみを形成した(
図7)。また、上記の孤立したシステインを共にセリンに置換することによって得られる2/3CSは、単量体のみを形成した(
図7)。従って、野生型ヒトrAIMの多量体化は、配列番号:1で表される野生型ヒトAIMのアミノ酸番号168のシステインおよびアミノ酸番号277のシステインが原因であることが分かった。なお、培養上清から最終的な精製後rAIM(野生型ヒトrAIMにおける析出分は除く)の回収率は、野生型、2CS、3CS、2/3CSの順に、32、52、53、61%(3回の一過性発現および精製後の回収率の平均値)であり、回収率は変異型で上昇していた。
【0053】
実施例5:変異型マウスrAIMの二量体の形成
発明者らは、配列番号:2で表される野生型マウスAIMのアミノ酸番号168のシステインが野生型マウスrAIMの二量体化に関係している可能性を検証するため、実施例4と同様に、上記のシステインをセリンに置換した変異型マウスrAIMを調製した。変異型マウスrAIMの調製は以下のように行った。すなわち、配列番号:2で表される野生型マウスAIMのアミノ酸番号168のシステインをコードするコドンTGTをTCTに置換することによって得られる、変異型マウスAIM(以下、本実施例5、7において「2CS」ともいう)(配列番号:6)を発現するpCAGGS-mouse AIM-2CS発現ベクターを作製した。次に、エレクトロポレーション法を用いて該発現ベクターをHEK293T細胞に導入し、3日間培養することによって一過性発現させた変異型マウスrAIMを培養上清から回収した。その後、実施例2と同様の方法で、抗体カラムを用いて変異型マウスrAIMの精製および濃縮を行った。精製および濃縮した野生型、2CSのマウスrAIMタンパク質、各100 ng を非還元条件下においてSDS-PAGEで分子量の違いによって分離した後、Oriole染色を行い、各マウスrAIMタンパク質の検出をおこなった。
その結果、SRCR2ドメインに1つ存在する孤立したシステインをセリンに置換することによって得られる2CSは、単量体のみを形成し、二量体を形成しなかった(
図8)。従って、野生型マウスrAIMの二量体化は、配列番号:2で表される野生型マウスAIMのアミノ酸番号168のシステインが原因であることが分かった。
【0054】
実施例6:変異型ヒトrAIMの機能
AIMはマクロファージを始め、肝細胞、脂肪細胞等の種々の細胞に取り込まれ、それぞれの細胞に対して様々な作用を発動する。発明者らは、各変異型ヒトrAIM(2CS、3CS、および2/3C)が、変異により上記の細胞に取り込まれる機能を喪失したかどうか、マクロファージ細胞を用いて検証した。野生型および各変異型(2CS、3CS、および2/3C)のヒトrAIMについて、fluorescein-4-isothiocyanate (同仁化学研究所)を用いてFITC標識を行った。各ヒトrAIMの標識率は同程度であった。その後、各ヒトrAIMを20μg/mLの濃度で5%FBS含有DMEM中においてAIM欠損マウス腹腔より単離したF4/80陽性マクロファージと30分間共培養し、細胞によるヒトrAIMの取り込み反応を行った。細胞を回収し、洗浄後、flowcytometer (BD FACSCelesta)を用いてF4/80陽性マクロファージにおけるFITC平均蛍光強度を測定することにより、各rAIMの細胞内取り込みを解析した。
その結果、各変異型ヒトrAIMのマクロファージへの取り込みは、野生型ヒトrAIMに比べて減弱しなかった。従って、各変異型ヒトrAIMは機能的に減弱しなかったと考えられる。それどころか、興味深いことに、2CSはむしろ野生型AIMに比して、マクロファージによりよく取り込まれた(
図9)。
【0055】
実施例7:野生型または変異型rAIMとIgM 5量体の複合体形成
IgMとJ鎖を強制発現させたHEK293T細胞と、野生型または変異型(2CS)のrAIMを強制発現させたHEK293T細胞とを24時間共培養し、その培養上清に含まれるタンパク質を非還元条件下においてSDS-PAGEによって分離した。次いで、メンブレンフィルターに分離したタンパク質を転写し、抗AIM(a-AIM)抗体または抗IgM(a-IgM)抗体を用いてrAIMとIgM 5量体が複合体を形成するか検証した(マウス (
図10A)、ヒト(
図10B))。その結果、マウス、ヒト、いずれも野生型rAIMはIgMに結合したが、2CSはIgMに結合しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の変異AIMは、野生型AIMと同等の機能を維持するか、または向上した該機能を有し、かつ組換えAIMとして発現させた場合、多量体化しないという特徴を有する。多量体化を生じないことによって、組換えAIMが不溶化して析出せず、結果として組換えAIMの回収率の向上および体内投与時の危険性の回避につながる。本発明の変異AIMは、生体に投与した場合、IgM 5量体と複合体を形成しないため、不活性化されず、力価の減少を防ぐことができる。本効果はヒトAIMの臨床応用において極めて有用であると考えられる。本出願は、日本で出願された特願2017-220733(出願日:平成29年11月16日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。
【配列表】