(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/52 20060101AFI20230221BHJP
F16D 43/21 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
F16D13/52 C
F16D43/21
(21)【出願番号】P 2018048909
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】磯部 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉本 克
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133530(JP,A)
【文献】特開昭64-058816(JP,A)
【文献】特開2008-039082(JP,A)
【文献】特開2017-62048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52
F16D 43/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、
前記原動軸の回転駆動によって回転駆動するフリクションプレートに対向配置されるクラッチプレートを保持して前記従動軸に連結されて同従動軸とともに回転駆動するセンタークラッチと、
前記センタークラッチに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能な状態で対向配置されて前記フリクションプレートまたは前記クラッチプレートを弾性的に押圧するプレッシャークラッチと、
前記センタークラッチおよび前記プレッシャークラッチにそれぞれ設けられて互いに相対回転した際に前記プレッシャークラッチの前記フリクションプレートまたは前記クラッチプレートに対する押圧力を増強または軽減するために前記プレッシャークラッチを前記センタークラッチに対して接近または離隔させる一対のカム面を有するカム部と、
前記プレッシャークラッチと一体的に
構成されて同プレッシャークラッチを前記センタークラッチに対して接近または離隔させるための力を同プレッシャークラッチに伝達するリフタープレートとを備え、
前記センタークラッチは、
前記従動軸の軸方向における前記カム面が形成された側に円筒状に形成されて前記プレッシャークラッチを同軸方向に沿って摺動させるプレッシャークラッチ摺動部および同軸方向における前記プレッシャークラッチ摺動部が形成された側とは反対側に円筒状に形成されて前記リフタープレートを同軸方向に沿って摺動させるリフタープレート摺動部をそれぞれ有し、
前記リフタープレートは、
前記リフタープレート摺動部を摺動する第1センタークラッチ摺動部を有し、
前記プレッシャークラッチは、
前記プレッシャークラッチ摺動部を摺動する第2センタークラッチ摺動部を有しており、
前記第2センタークラッチ摺動部と前記プレッシャークラッチ摺動部との間のクリアランスが前記第1センタークラッチ摺動部と前記リフタープレート摺動部との間のクリアランスよりも大きい値に設定されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載したクラッチ装置において、
前記リフタープレート摺動部は、
前記センタークラッチに円筒状に形成されて前記クラッチプレートを保持するプレート保持部の径方向の内側面に形成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項3】
請求項1に記載したクラッチ装置において、
前記センタークラッチは、
前記センタークラッチに円筒状に形成されて前記クラッチプレートを保持するプレート保持部の先端部に径方向外側に張り出して形成されて前記プレッシャークラッチによって押圧される前記フリクションプレートまたは前記クラッチプレートを受け止めるプレート受け部を有しており、
前記リフタープレート摺動部は、
前記プレート受け部の径方向の内側面に形成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載したクラッチ装置において、
前記第1センタークラッチ摺動部は、
前記従動軸の軸方向の長さが前記第2センタークラッチ摺動部よりも長く形成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載したクラッチ装置において、
前記第2センタークラッチ摺動部は、
前記カム部に対して前記従動軸の軸方向の位置で重なる位置に形成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機によって回転駆動する原動軸の回転駆動力を被動体を駆動させる従動軸に伝達および遮断するクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二輪自動車や四輪自動車などの車両においては、エンジンなどの原動機と車輪などの被動体との間に配置されて原動機の回転駆動力を被動体に伝達または遮断するためにクラッチ装置が用いられている。一般に、クラッチ装置は、原動機の回転駆動力によって回転する複数のフリクションプレートと被動体に連結された複数のクラッチプレートとを互いに対向配置するとともに、これらのフリクションプレートとクラッチプレートとを密着および離隔させることにより回転駆動力の伝達または遮断を任意に行なうことができる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、クラッチプレートを保持して互いに接近または離隔するクラッチ部材(センタークラッチ)およびプレッシャ部材(プレッシャークラッチ)における互いの対向面に回転駆動力の伝達または遮断を素早く行うためのカム面を備えたクラッチ装置が開示されている。このクラッチ装置は、クラッチ部材に対してプレッシャ部材が回転方向および軸方向にそれぞれ摺動しながらクラッチ部材に形成された3つのカム面にプレッシャ部材に形成された3つのカム面が乗り上げる際に生じるアシストトルクによってクラッチ部材とプレッシャ部材とを素早く接近するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載したクラッチ装置においては、プレッシャ部材がクラッチ部材の中央部に形成された円筒部に嵌合して同円筒部上を軸方向に摺動することで3組のカム面が同時に摺動し合うように構成されているため、プレッシャ部材とクラッチ部材との嵌合精度が低いと互いに対向し合うカム面間で傾きが生じて十分な推力を安定的に発生し難くなることがある。このため、従来のクラッチ装置においては、原動機と被動体との間でトルクの伝達が不安定になることがあるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、センタークラッチにおけるカム面とプレッシャークラッチにおけるカム面との密着性を向上させてトルク伝達を安定化させることができるクラッチ装置を提供することにある。
【発明の概要】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、原動軸の回転駆動によって回転駆動するフリクションプレートに対向配置されるクラッチプレートを保持して従動軸に連結されて同従動軸とともに回転駆動するセンタークラッチと、センタークラッチに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能な状態で対向配置されてフリクションプレートまたはクラッチプレートを弾性的に押圧するプレッシャークラッチと、センタークラッチおよびプレッシャークラッチにそれぞれ設けられて互いに相対回転した際にプレッシャークラッチのフリクションプレートまたはクラッチプレートに対する押圧力を増強または軽減するためにプレッシャークラッチをセンタークラッチに対して接近または離隔させる一対のカム面を有するカム部と、プレッシャークラッチと一体的に構成されて同プレッシャークラッチをセンタークラッチに対して接近または離隔させるための力を同プレッシャークラッチに伝達するリフタープレートとを備え、センタークラッチは、従動軸の軸方向におけるカム面が形成された側に円筒状に形成されてプレッシャークラッチを同軸方向に沿って摺動させるプレッシャークラッチ摺動部および同軸方向におけるプレッシャークラッチ摺動部が形成された側とは反対側に円筒状に形成されてリフタープレートを同軸方向に沿って摺動させるリフタープレート摺動部をそれぞれ有し、リフタープレートは、リフタープレート摺動部を摺動する第1センタークラッチ摺動部を有し、プレッシャークラッチは、プレッシャークラッチ摺動部を摺動する第2センタークラッチ摺動部を有しており、第2センタークラッチ摺動部とプレッシャークラッチ摺動部との間のクリアランスが第1センタークラッチ摺動部とリフタープレート摺動部との間のクリアランスよりも大きい値に設定されていることにある。
【0008】
この場合、カム面には、プレッシャークラッチがセンタークラッチに接近する際にセンタークラッチに形成されたカム面にプレッシャークラッチに形成されたカム面が乗り上げてプレッシャークラッチが接近する力を増加させるアシスト用のカム面と、プレッシャークラッチがセンタークラッチから離隔する際にセンタークラッチに形成されたカム面にプレッシャークラッチに形成されたカム面が乗り上げてプレッシャークラッチが離隔する力を増加させるスリッパー用のカム面とがある。したがって、本発明におけるカム部には、アシスト用の一対のカム面およびスリッパー用の一対のカム面のうちの少なくとも一方で構成されている。
【0009】
このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ装置は、カム面の近傍で互いに摺動する第2センタークラッチ摺動部とプレッシャークラッチ摺動部との間のクリアランスがカム面から離れた位置で互いに摺動する第1センタークラッチ摺動部とリフタープレート摺動部との間のクリアランスよりも大きい値に設定されている。このため、クラッチ装置は、第1センタークラッチ摺動部がリフタープレート摺動部を摺動することでプレッシャークラッチをセンタークラッチと同軸上で案内させつつ、第2センタークラッチ摺動部とプレッシャークラッチ摺動部との間のクリアランスによってプレッシャークラッチの傾き変化を許容してプレッシャークラッチのカム面をセンタークラッチにおけるカム面に密着させて摺動させることができる。これにより、クラッチ装置は、センタークラッチにおけるカム面とプレッシャークラッチのカム面との密着性を向上させてトルク伝達を安定化させることができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、リフタープレート摺動部は、センタークラッチに円筒状に形成されてクラッチプレートを保持するプレート保持部の径方向の内側面に形成されていることにある。
【0011】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、リフタープレート摺動部がセンタークラッチにおけるクラッチプレートを保持する比較的肉薄な円筒状のクラッチプレート保持部の径方向の内側の面に形成されているため、狭いクリアランスで互いに摺動し合うリフタープレート摺動部と第1センタークラッチ摺動部との摺動熱をクラッチプレートおよびフリクションプレートを空冷または油冷するための気体(例えば、空気)または液体(例えば、クラッチオイル)などの冷却媒体で効果的に冷却することができる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、センタークラッチは、センタークラッチに円筒状に形成されてクラッチプレートを保持するプレート保持部の先端部に径方向外側に張り出して形成されてプレッシャークラッチによって押圧されるフリクションプレートまたはクラッチプレートを受け止めるプレート受け部を有しており、リフタープレート摺動部は、プレート受け部の径方向の内側面に形成されていることにある。
【0013】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、センタークラッチに径方向に張り出して形成された肉厚なプレート受け部の径方向の内側の面にリフタープレート摺動部が形成されているため、センタークラッチは狭いクリアランスで嵌合するリフタープレートを安定的に案内することができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、第1センタークラッチ摺動部は、従動軸の軸方向の長さが第2センタークラッチ摺動部よりも長く形成されていることにある。
【0015】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、第1センタークラッチ摺動部における従動軸の軸方向の長さが第2センタークラッチ摺動部よりも長く形成されているため、プレッシャークラッチを精度良くセンタークラッチの軸方向に往復摺動させることができる。
【0016】
なお、第1センタークラッチ摺動部の従動軸の軸方向の長さが第2センタークラッチ摺動部よりも長いとは、第1センタークラッチ摺動部がリフタープレート摺動部に接触する軸方向の長さが、第2センタークラッチ摺動部がプレッシャークラッチ摺動部に接触する軸方向の長さよりも長いことを意味する。また、クラッチ装置は、第1センタークラッチ摺動部における従動軸の軸方向の長さが第2センタークラッチ摺動部よりも短く形成することでプレッシャークラッチの傾きの許容量を増加させることもできる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、第2センタークラッチ摺動部は、カム部に対して従動軸の軸方向の位置で重なる位置に形成されていることにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、第2センタークラッチ摺動部がカム部に対して従動軸の軸方向の位置において重なる位置に形成されているため、第2センタークラッチ摺動部とプレッシャークラッチ摺動部との間のクリアランスでプレッシャークラッチの傾き量を規定し易くすることができる。
【0019】
なお、クラッチ装置は、第2センタークラッチ摺動部をカム部に対して従動軸の軸方向における第1センタークラッチ摺動部側とは反対側でカム部とは重ならない位置に形成することもできる。これによれば、クラッチ装置は、第1センタークラッチ摺動部と第2センタークラッチ摺動部との距離が更に長くなるため、プレッシャークラッチの傾き量をより微細な量で規定でき傾き量を高精度に規定し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置の全体構成の概略をクラッチONの状態で示す断面図である。
【
図2】
図1に示すクラッチ装置内に組み込まれるセンタークラッチの外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図3】
図1に示すクラッチ装置内に組み込まれるセンタークラッチ、プレッシャークラッチおよびリフタープレートを互いに組み付けた状態の外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図4】
図1に示すクラッチ装置内に組み込まれるプレッシャークラッチの外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図5】
図1に示す破線円A内の構成を拡大した部分拡大図である。
【
図6】
図1に示すクラッチ装置内に組み込まれるリフタープレートの外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図7】
図1に示す破線円B内の構成を拡大した部分拡大図である。
【
図8】(A),(B)は
図1に示すクラッチ装置におけるカム面の作動状態を示しており、(A)はセンター側アシストカム面上にプレッシャー側アシストカム面が乗り上げた状態を模式的に示す断面図であり、(B)はセンター側スリッパーカム面上にプレッシャー側スリッパーカム面が乗り上げた状態を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図1に示すクラッチ装置におけるクラッチOFFの状態を示す断面図である。
【
図10】本発明の変形例に係るクラッチ装置の全体構成の概略をクラッチONの状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るクラッチ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るクラッチ装置100の全体構成の概略を示す断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。このクラッチ装置100は、二輪自動車(オートバイ)における原動機であるエンジン(図示せず)の駆動力を被動体である車輪(図示せず)に伝達および遮断するための機械装置であり、同エンジンと変速機(トランスミッション)(図示せず)との間に配置されるものである。
【0022】
(クラッチ装置100の構成)
クラッチ装置100は、クラッチハウジング101を備えている。クラッチハウジング101は、フリクションプレート103を保持するとともにこのフリクションプレート103にエンジンからの駆動力を伝達するための部品であり、アルミニウム合金材を有底円筒状に成形して構成されている。より具体的には、クラッチハウジング101の筒状部には、内歯歯車状のスプラインが形成されており、このスプラインに複数枚(本実施形態においては9枚)のフリクションプレート103がクラッチハウジング101の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチハウジング101と一体回転可能な状態でスプライン嵌合して保持されている。
【0023】
このクラッチハウジング101は、図示左側側面がトルクダンパ101aを介してリベット101bによって入力ギア102に取り付けられている。入力ギア102は、エンジンの駆動により回転駆動する図示しない原動軸に連結された駆動ギアと噛合って回転駆動する歯車部品であり、軸受(図示せず)を介して後述するシャフト111に回転自在に支持されている。すなわち、クラッチハウジング101は、シャフト111と同心位置でシャフト111と独立して入力ギア102と一体的に回転駆動する。
【0024】
フリクションプレート103は、クラッチプレート104に押し当てられる平板環状の部品であり、アルミニウム材からなる薄板材を環状に成形して構成されている。この場合、各フリクションプレート103の外周部には、クラッチハウジング101の前記内歯状のスプラインに噛み合う外歯が形成されている。これらのフリクションプレート103における各両側面(表裏面)には、図示しない複数の紙片からなる摩擦材が貼り付けられているとともに各摩擦材間に図示しない油溝が形成されて構成されている。また、これらのフリクションプレート103は、クラッチハウジング101の内側に設けられるセンタークラッチ105およびプレッシャークラッチ112ごとにそれぞれ同じ大きさおよび形状に形成されている。
【0025】
クラッチハウジング101の内側には、複数枚(本実施形態においては8枚)のクラッチプレート104が前記フリクションプレート103で挟まれた状態でセンタークラッチ105およびプレッシャークラッチ112にそれぞれ保持されている。クラッチプレート104は、前記フリクションプレート103に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。これらのクラッチプレート104における各両側面(表裏面)には、クラッチオイルを保持するための深さ数μm~数十μmの図示しない油溝が形成されているとともに、耐摩耗性を向上させる目的で表面硬化処理がそれぞれ施されている。
【0026】
また、各クラッチプレート104の内周部には、センタークラッチ105に形成されたプレート保持部105cおよびプレッシャークラッチ112に形成されたプレートサブ保持部112bにそれぞれスプライン嵌合する内歯歯車状のスプラインがそれぞれ形成されている。これらのクラッチプレート104は、センタークラッチ105およびプレッシャークラッチ112ごとにそれぞれ同じ大きさおよび形状に形成されている。なお、前記摩擦材は、前記フリクションプレート103に代えてこのクラッチプレート104に設けられていてもよいことは当然である。
【0027】
センタークラッチ105は、
図2および
図3にそれぞれ示すように、前記クラッチプレート104およびプレッシャークラッチ112をクラッチハウジング101とともにそれぞれ収容するとともにエンジンの駆動力を変速機側に伝達するための部品であり、アルミニウム合金材を略円筒状に成形して構成されている。より具体的には、センタークラッチ105は、主として、シャフト連結部105a、リング状中間部105bおよびプレート保持部105cを一体的に形成して構成されている。
【0028】
シャフト連結部105aは、プレッシャークラッチ112が嵌合しつつシャフト111に連結される部分であり、センタークラッチ105の中心部に軸方向に延びる円筒状に形成されている。このシャフト連結部105aの内周面には、センタークラッチ105の軸線方向に沿って内歯歯車状のスプラインが形成されており、このスプラインにシャフト111がスプライン嵌合している。すなわち、センタークラッチ105は、クラッチハウジング101およびシャフト111と同心位置でシャフト111とともに一体的に回転する。
【0029】
また、シャフト連結部105aには、外周面上における軸方向中央部にプレッシャークラッチ摺動部106が形成されている。プレッシャークラッチ摺動部106は、プレッシャークラッチ112における第2センタークラッチ摺動部113が嵌合して軸方向に摺動する部分であり、円周面状に形成されている。このプレッシャークラッチ摺動部106は、後述するセンター側カム部107に対して軸方向の位置が同じ位置、換言すれば、センター側カム部107の径方向内側に位置する位置に形成されている。また、プレッシャークラッチ摺動部106の軸方向の長さは、プレッシャークラッチ112の軸方向のストロークよりも若干長い長さに形成されている。
【0030】
リング状中間部105bは、シャフト連結部105aとプレート保持部105cとの間に形成された部分であり、円周方向に配置された3つのセンター側カム部107の間に3つの支柱貫通孔108がそれぞれ形成されて構成されている。3つのセンター側カム部107は、センター側アシストカム面107aおよびセンター側スリッパーカム面107bを形成する凸状に隆起した部分であり、センタークラッチ105の周方向に沿って延びて形成されている。
【0031】
この場合、3つのセンター側カム部107は、センタークラッチ105の周方向に沿って均等に形成されている。また、各センター側カム部107は、内周部分がシャフト連結部105aに一体的に繋がって形成されている。そして、これらのセンター側カム部107におけるセンタークラッチ105の周方向の両端部には、センター側アシストカム面107aおよびセンター側スリッパーカム面107bがそれぞれ形成されている。
【0032】
各センター側アシストカム面107aは、後述するプレッシャー側アシストカム面114aと協働してフリクションプレート103とクラッチプレート104との圧接力を増強する力であるアシストトルクを発生させるための部分であり、センタークラッチ105の円周方向に沿って徐々にプレッシャークラッチ112側に張り出す傾斜面でそれぞれ構成されている。この場合、各センター側アシストカム面107aは、各支柱貫通孔108に面する向きでそれぞれ形成されている。
【0033】
各センター側スリッパーカム面107bは、後述するプレッシャー側スリッパーカム面114bと協働してフリクションプレート103とクラッチプレート104とを早期に離隔させて半クラッチ状態に移行させる力であるスリッパートルクを生じさせるための部分であり、センター側アシストカム面107aとは周方向の反対側にセンター側アシストカム面107aと同じ方向に傾斜する傾斜面でそれぞれ構成されている。
【0034】
この場合、各センター側スリッパーカム面107bは、センター側アシストカム面107aとは反対側のプレッシャークラッチ112側に面する向きでそれぞれ形成されている。また、各センター側スリッパーカム面107bは、各センター側アシストカム面107aが径方向に延びる長さと同じ長さに形成されている。すなわち、各センター側スリッパーカム面107bは、各センター側アシストカム面107aが形成された径方向位置と同じ位置に各センター側アシストカム面107aの面積と同じ面積で形成されている。
【0035】
なお、各センター側スリッパーカム面107bは、各センター側アシストカム面107aが形成された径方向位置と異なる位置(径方向にずれた位置)に各センター側アシストカム面107aの面積と異なる面積で形成されていてもよい。また、前記したクラッチ装置100の半クラッチ状態とは、クラッチ装置100におけるフリクションプレート103とクラッチプレート104とが完全に密着する前の状態においてエンジンの駆動力の一部が駆動輪側に伝達される不完全な伝達状態のことである。
【0036】
3つの支柱貫通孔108は、後述する3つの筒状支柱115をそれぞれ貫通させるための貫通孔である。これら3つの支柱貫通孔108は、前記3つのセンター側カム部107の間の位置にセンタークラッチ105の周方向に沿って均等に形成されている。
【0037】
プレート保持部105cは、前記複数枚のクラッチプレート104の一部をフリクションプレート103とともに保持する部分であり、センタークラッチ105の外縁部に軸方向に延びる円筒状に形成されている。このプレート保持部105cは、外周部が外歯歯車状のスプラインで構成されており、クラッチプレート104とフリクションプレート103とを交互に配置した状態でセンタークラッチ105の軸線方向に沿って変位可能かつ同センタークラッチ105と一体回転可能な状態で保持している。このプレート保持部105cには、このプレート保持部105cの径方向内側から径方向外側に向かってクラッチオイルを導くための貫通孔からなる油孔105dが軸方向に沿って断続的に形成されている。
【0038】
また、プレート保持部105cには、先端部にプレート受け部105eが形成されている。プレート受け部105eは、プレッシャークラッチ112に押圧されたクラッチプレート104およびフリクションプレート103を受け止めてこれらをプレッシャークラッチ112とで挟む部分であり、円筒状に形成されたプレート保持部105cの先端部が径方向外側にフランジ状に張り出して形成されている。また、円筒状に形成されたプレート保持部105cの径方向の内周面には、リフタープレート摺動部110が形成されている。
【0039】
リフタープレート摺動部110は、リフタープレート116が軸方向に往復摺動する部分であり、円筒状に形成されたプレート保持部105cの内周面で構成されている。このリフタープレート摺動部110は、プレート保持部105cにおけるプレート受け部105e側の端部からリフタープレート116の軸方向のストロークよりも若干長い長さに形成されている。
【0040】
シャフト111は、中空状に形成された軸体であり、一方(図示
右側)の端部側が軸受(図示せず)を介して入力ギア102およびクラッチハウジング101を回転自在に支持するとともに、前記スプライン嵌合するセンタークラッチ105をナット(図示せず)を介して固定的に支持する。このシャフト111における他方(図示左側
外)の端部は、二輪自動車における変速機(図示せず)に連結されている。すなわち、シャフト111は、本発明における従動軸に相当する。なお、
図1において、シャフト111を二点鎖線で示している。
【0041】
プレッシャークラッチ112は、
図4に示すように、フリクションプレート103を押圧することによってこのフリクションプレート103とクラッチプレート104とを互いに密着させるための部品であり、アルミニウム合金材をクラッチプレート104の外径と略同じ大きさの外径の略円盤状に成形して構成されている。より具体的には、プレッシャークラッチ112は、
図4に示すように、主として、リング状中間部112aおよびプレートサブ保持部112bを一体的に形成して構成されている。
【0042】
リング状中間部112aは、凹凸を有するリング状に形成されており、このリング体の円周状に配置された3つのプレッシャー側カム部114の中間部分に3つの筒状支柱115をそれぞれ有して構成されている。このリング状中間部112aは、センタークラッチ105におけるシャフト連結部105aの外周面上に摺動自在な状態で嵌合している。より具体的には、リング状中間部112aは、中央部に形成された貫通孔の内周面で構成された第2センタークラッチ摺動部113がシャフト連結部105aの外周面に形成されたプレッシャークラッチ摺動部106上に摺動自在な状態で嵌合している。
【0043】
これにより、プレッシャークラッチ112は、クラッチハウジング101、センタークラッチ105およびシャフト111と同心位置でセンタークラッチ105およびシャフト111とは独立して回転可能に設けられている。第2センタークラッチ摺動部113は、プレッシャークラッチ112の軸方向に対する傾倒を許容しつつ同軸方向に案内する部分である。この第2センタークラッチ摺動部113の軸方向の長さは、後述する第1センタークラッチ摺動部120における軸方向の長さよりも短く形成されている。
【0044】
ここで、第2センタークラッチ摺動部113とプレッシャークラッチ摺動部106との間の隙間であるクリアランスC2は、
図5に示すように、プレッシャークラッチ112が軸方向に往復摺動する際に同軸方向に対して傾倒することを許容する量に設定される。この場合、プレッシャークラッチ112の傾倒とは、プレッシャークラッチ112の軸方向への円滑な往復摺動を確保しつつ、センター側カム部107とプレッシャー側カム部114とが接触し合って摺動する際にセンター側カム部107のカム面に対してプレッシャー側カム部114のカム面が平行になるまたは平行に近づいて互いのカム面が理想的には全面で面当たりまたは全面の面当たりに近づくように傾倒させるものである。
【0045】
このクリアランスC2は、後述するクリアランスC1に対して3倍以上かつ10倍以下で設定されるとよく、更には4倍以上かつ7倍以下に設定されるとよい。この場合、クリアランスC2は、0.1mm~0.5mmの範囲で設定されるとよい。本実施形態においては、クリアランスC2は、0.2mmに設定されている。
【0046】
3つのプレッシャー側カム部114は、プレッシャー側アシストカム面114aおよびプレッシャー側スリッパーカム面114bを形成する凸状に隆起した部分であり、プレッシャークラッチ112の周方向に沿って延びて形成されている。この場合、3つのプレッシャー側カム部114は、プレッシャークラッチ112の周方向に沿って均等に形成されている。また、各プレッシャー側カム部114は、外周部分がプレートサブ保持部112bに一体的に繋がって形成されている。そして、各プレッシャー側カム部114におけるプレッシャークラッチ112の周方向の両端部には、プレッシャー側アシストカム面114aおよびプレッシャー側スリッパーカム面114bがそれぞれ形成されている。
【0047】
各プレッシャー側アシストカム面114aは、前記センタークラッチ105のセンター側アシストカム面107a上を摺動する部分であり、プレッシャークラッチ112の円周方向に沿って徐々にセンタークラッチ105側に張り出す傾斜面で構成されている。すなわち、センター側アシストカム面107aとプレッシャー側アシストカム面114aとでアシスト機構が構成されている。
【0048】
各プレッシャー側スリッパーカム面114bは、前記センター側スリッパーカム面107b上を摺動する部分であり、プレッシャー側アシストカム面114aとは周方向の反対側にプレッシャー側アシストカム面114aと同じ方向に延びる傾斜面でそれぞれ構成されている。すなわち、センター側スリッパーカム面107bとプレッシャー側スリッパーカム面114bとでスリッパー機構が構成されている。
【0049】
これらの各プレッシャー側スリッパーカム面114bは、各プレッシャー側アシストカム面114aと径方向の長さおよび面積がそれぞれ同じ長さおよび面積で形成されている。すなわち、各プレッシャー側スリッパーカム面114bは、センター側スリッパーカム面107bに対向する位置にセンター側スリッパーカム面107bと同じ面積で形成されている。なお、各プレッシャー側スリッパーカム面114bは、各プレッシャー側アシストカム面114aが形成された径方向位置と異なる位置(径方向にずれた位置)に各プレッシャー側アシストカム面114aの面積と異なる面積で形成されていてもよい。
【0050】
3つの筒状支柱115は、リフタープレート116を支持するためにセンタークラッチ105の軸方向に柱状に延びた円筒状の部分であり、その内周部に雌ネジが形成されている。これら3つの筒状支柱115は、プレッシャークラッチ112の周方向に沿って均等に形成されている。
【0051】
プレートサブ保持部112bは、前記複数枚のクラッチプレート104の他の一部をフリクションプレート103とともに保持する部分であり、プレッシャークラッチ112の外縁部の軸方向に延びる円筒状に形成されている。このプレートサブ保持部112bは、外周部が外歯歯車状のスプラインで構成されており、クラッチプレート104とフリクションプレート103とを交互に配置した状態でプレッシャークラッチ112の軸線方向に沿って変位可能かつ同プレッシャークラッチ112と一体回転可能な状態で保持している。この場合、プレートサブ保持部112bは、センタークラッチ105におけるプレート保持部105cよりも大きな内径に形成されており、プレート保持部105cに非接触で嵌合するように構成されている。このプレートサブ保持部112bには、先端部にプレート押し部112cが形成されている。
【0052】
プレート押し部112cは、プレート保持部105cに保持されたクラッチプレート104およびフリクションプレート103をプレート受け部105e側に押圧してクラッチプレート104とフリクションプレート103とを高い圧力で互いに密着させるための部分であり、円筒状に形成されたプレートサブ保持部112bの根元部分が径方向外側にフランジ状に張り出して形成されている。
【0053】
リフタープレート116は、
図6に示すように、プレッシャークラッチ112を軸方向に往復変位させるための部品であり、金属材を円筒状に形成して構成されている。より具体的には、リフタープレート116は、主として、操作受け部116aおよび張出部116bをそれぞれ備えて構成されている。操作受け部116aは、クラッチレリーズ機構がレリーズピン117を介して押す部分であり、レリーズピン117によって押圧されるベアリングを収容する円筒状に形成されている。ここで、クラッチレリーズ機構とは、クラッチ装置100が搭載される自走式車両の運転者のクラッチ操作レバー(図示しない)の操作によってレリーズピン117をシャフト111側に押圧する機械装置である。なお、
図1において、レリーズピン117を二点鎖線で示している。
【0054】
張出部116bは、クラッチスプリング118をセンタークラッチ105のリング状中間部105bとで挟むとともにリフタープレート116を軸方向に案内するための部分であり、操作受け部116aの外周部から径方向外側に張り出して板状に形成されている。この場合、張出部116bは、操作受け部116aの外周部の周方向における均等な間隔を介した3ヶ所から張り出して形成されている。
【0055】
これらの各張出部116bは、センタークラッチ105に対してプレッシャークラッチ112とは反対側にてリング状中間部105bとの間でクラッチスプリング118を挟んだ状態で3つの筒状支柱115の先端部に取付ボルトを介してそれぞれ取り付けられている。すなわち、リフタープレート116は、プレッシャークラッチ112とともに一体的にセンタークラッチ105に対して変位するとともに相対回転する。
【0056】
クラッチスプリング118は、プレッシャークラッチ112をセンタークラッチ105側に押圧することによってプレッシャークラッチ112のプレート押し部112cをフリクションプレート103に押圧するための弾性体であり、ばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングによって構成されている。このクラッチスプリング118は、3つの筒状支柱115の各間にそれぞれ配置されている。そして、これらの各張出部116bの先端部には、第1センタークラッチ摺動部120がそれぞれ形成されている。
【0057】
第1センタークラッチ摺動部120は、リフタープレート116を軸方向に案内するための部分であり、3つの張出部116bの外周面に円周面状に形成されている。この場合、各第1センタークラッチ摺動部120は、クラッチスプリング118を押さえる内側部分よりも板厚が厚く形成されている。また、これらの第1センタークラッチ摺動部120の軸方向の長さは、第2センタークラッチ摺動部113における軸方向の長さよりも長く形成されている。
【0058】
ここで、第1センタークラッチ摺動部120とリフタープレート摺動部110との間の隙間であるクリアランスC1は、
図7に示すように、リフタープレート116が軸方向に往復摺動する際にリフタープレート116の姿勢変化を抑えつつ円滑に往復摺動する量に設定される。具体的には、クリアランスC1は、0.01mm~0.08mmの範囲で設定される。本実施形態においては、クリアランスC1は、0.02mmに設定されている。
【0059】
そして、このクラッチ装置100内には、所定量のクラッチオイル(図示しない)が充填されている。クラッチオイルは、主として、フリクションプレート103とクラッチプレート104との間に供給されてこれらの間で生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗を防止する。すなわち、このクラッチ装置100は、所謂湿式多板摩擦クラッチ装置である。
【0060】
(クラッチ装置100の作動)
次に、上記のように構成したクラッチ装置100の作動について説明する。このクラッチ装置100は、前記したように、車両におけるエンジンと変速機との間に配置されるものであり、車両の運転者によるクラッチ操作レバーの操作によってエンジンの駆動力の変速機への伝達および遮断を行なう。
【0061】
具体的には、クラッチ装置100は、
図1および
図8(A)にそれぞれ示すように、車両の運転者(図示せず)がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作しない場合においては、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン117を押圧しないため、プレッシャークラッチ112がクラッチスプリング118の弾性力によってフリクションプレート103を押圧する。これにより、センタークラッチ105は、フリクションプレート103とクラッチプレート104とが互いに押し当てられて摩擦連結されたクラッチONの状態となって回転駆動する。すなわち、原動機の回転駆動力がセンタークラッチ105に伝達されてシャフト111が回転駆動する。
【0062】
このようなクラッチON状態においては、センタークラッチ105に形成されたセンター側アシストカム面107aにプレッシャークラッチ112に形成されたプレッシャー側アシストカム面114aが乗り上げるカム作用(図においてa矢印)によってプレッシャークラッチ112がセンタークラッチ105に対して相対回転しながら接近する方向に変位(図においてb矢印)して押圧力が急激に強まるアシスト機能が作用する。これにより、プレッシャークラッチ112は、アシスト機構によって強い力でセンタークラッチ105に押し付けられる。
【0063】
このセンター側アシストカム面107aとプレッシャー側アシストカム面114aとが強い圧力で密着するアシスト機能が作用する過程においてセンター側アシストカム面107aとプレッシャー側アシストカム面114aとが互いに平行でなくセンター側アシストカム面107aに対してプレッシャー側アシストカム面114aが相対的に傾いている場合には、プレッシャー側アシストカム面114aがセンター側アシストカム面107aに倣ってプレッシャークラッチ112全体が傾斜する。
【0064】
これは、センタークラッチ105におけるプレッシャークラッチ摺動部106とプレッシャークラッチ112における第2センタークラッチ摺動部113との間にクリアランスC2が設けられていることでプレッシャークラッチ112における第2センタークラッチ摺動部113側が傾倒可能に支持されているためである。これにより、センター側アシストカム面107aおよびプレッシャー側アシストカム面114aは、互いに平行または平行に近い状態に近づいて互いのカム面が全面で面当たりまたは全面での面当たりに近い状態で密着するため効率的なトルク伝達が行なわれる。
【0065】
また、このクラッチON状態において、運転者による変速機に対するシフトダウン操作などによってエンジン側の回転数よりも駆動輪側の回転数が上回った場合には、シャフト111の回転数が入力ギア102の回転数を上回ってクラッチ装置100にバックトルクが作用することがある。この場合、クラッチ装置100は、
図8(B)に示すように、センタークラッチ105に形成されたセンター側スリッパーカム面107bにプレッシャークラッチ112に形成されたプレッシャー側スリッパーカム面114bが乗り上げるカム作用(図においてc矢印)によってプレッシャークラッチ112がセンタークラッチ105に対して相対回転しながら離隔する方向に変位(図においてd矢印)して押圧力が急激に弱まるスリッパー機能が作用する。これにより、クラッチ装置100は、フリクションプレート103とクラッチプレート104とが互いに離隔し始めて互いに押し付け合っている状態が弱まって摩擦連結が弱まる状態になる。
【0066】
このセンター側スリッパーカム面107bとプレッシャー側スリッパーカム面114bとが強い圧力で密着するスリッパー機能が作用する過程においてセンター側スリッパーカム面107bとプレッシャー側スリッパーカム面114bとが互いに平行でなくセンター側スリッパーカム面107bに対してプレッシャー側スリッパーカム面114bが相対的に傾いている場合には、前記アシスト機能が作用している場合と同じように、プレッシャー側スリッパーカム面114bがセンター側スリッパーカム面107bに倣ってプレッシャークラッチ112全体が傾斜する。これにより、センター側スリッパーカム面107bおよびプレッシャー側スリッパーカム面114bは、互いに平行または平行に近い状態に近づいて互いのカム面が全面で面当たりまたは全面での面当たりに近い状態で密着して効率的なトルク伝達が行なわれる。
【0067】
一方、クラッチ装置100は、
図9に示すように、クラッチON状態において車両の運転者がクラッチ操作レバーを操作した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン117を押圧するため、プレッシャークラッチ112がクラッチスプリング118の弾性力に抗してセンタークラッチ105から離隔する方向に変位する。この場合、プレッシャークラッチ112は、リフタープレート116の第1センタークラッチ摺動部120がセンタークラッチ105のリフタープレート摺動部110をクリアランスC1を介して摺動することでセンタークラッチ105の軸方向に沿って円滑かつ安定的に案内される。
【0068】
これにより、センタークラッチ105は、フリクションプレート103とクラッチプレート104との摩擦連結が解消されたクラッチOFFの状態となるため、回転駆動が減衰または回転駆動が停止する状態となる。すなわち、原動機の回転駆動力がセンタークラッチ105に対して遮断される。この場合、センター側アシストカム面107aとプレッシャー側アシストカム面114a、およびセンター側スリッパーカム面107bとプレッシャー側スリッパーカム面114bとはそれぞれ離隔した状態であるため、アシストトルクおよびスリッパートルクはそれぞれ発生しない。
【0069】
そして、このクラッチOFF状態において運転者クラッチ操作レバーを解除した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)によるレリーズピン117を介したリフタープレート116の押圧が解除されるため、プレッシャークラッチ112がクラッチスプリング118の弾性力によってセンタークラッチ105に接近する方向に変位する。この場合、プレッシャークラッチ112は、リフタープレート116の第1センタークラッチ摺動部120がセンタークラッチ105のリフタープレート摺動部110をクリアランスC1を介して摺動することでセンタークラッチ105の軸方向に沿って円滑かつ安定的に案内される。
【0070】
また、このクラッチOFF状態からクラッチON状態に移行する過程において、センタークラッチ105とプレッシャークラッチ112との間に相対回転が生じた場合には、前記アシスト機能が作用する。この場合、センター側アシストカム面107aにプレッシャー側アシストカム面114aが接触した際に、プレッシャー側アシストカム面114aがセンター側アシストカム面107aに対して相対的に傾いている場合には、前記アシスト機能の作用時と同じように、プレッシャー側アシストカム面114aがセンター側アシストカム面107aに倣ってプレッシャークラッチ112全体が傾斜する。これにより、センター側アシストカム面107aおよびプレッシャー側アシストカム面114aは、互いに平行または平行に近い状態に近づいて互いのカム面が全面で面当たりまたは全面での面当たりに近い状態で密着して効率的なトルク伝達が行なわれる。
【0071】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、クラッチ装置100は、センター側カム部107およびプレッシャー側カム部114の近傍で互いに摺動する第2センタークラッチ摺動部113とプレッシャークラッチ摺動部106との間のクリアランスC2がこれらの各カム部から離れた位置で互いに摺動する第1センタークラッチ摺動部120とリフタープレート摺動部110との間のクリアランスC1よりも大きい値に設定されている。このため、クラッチ装置100は、第1センタークラッチ摺動部120がリフタープレート摺動部110を摺動することでプレッシャークラッチ112をセンタークラッチ105と同軸上で案内させつつ、第2センタークラッチ摺動部113とプレッシャークラッチ摺動部106との間のクリアランスC2によってプレッシャークラッチ112の傾き変化を許容してプレッシャークラッチ112のプレッシャー側カム部114をセンタークラッチ105におけるセンター側カム部107に密着させて摺動させることができる。これにより、クラッチ装置100は、センタークラッチ105におけるセンター側カム部107とプレッシャークラッチ112のプレッシャー側カム部114との密着性を向上させてトルク伝達を安定化させることができる。
【0072】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記に示す各変形例においては、上記実施形態におけるクラッチ装置100と同様の構成部分にはクラッチ装置100に付した符号に同一の符号または対応する符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0073】
例えば、上記実施形態においては、クラッチ装置100は、センター側カム部107をセンター側アシストカム面107aおよびセンター側スリッパーカム面107bを備えて構成するとともに、プレッシャー側カム部114をプレッシャー側アシストカム面114aおよびプレッシャー側スリッパーカム面114bを備えて構成した。すなわち、センター側カム部107およびプレッシャー側カム部114が本発明に係るカム部に相当する。しかし、センター側カム部107およびプレッシャー側カム部114は、アシスト側のカム面およびスリッパー側のカムのうちの少なくとも一方を備えて構成されていればよい。
【0074】
また、上記実施形態においては、リフタープレート摺動部110は、プレート保持部105cの径方向の内側面に形成した。これにより、リフタープレート116は、プレート保持部105cの径方向内側に対向する位置で摺動するため、油孔105dを介してフリクションプレート103およびクラッチプレート104に供給されてこれら冷却するクラッチオイルによって摺動性が向上する。しかし、リフタープレート摺動部110は、プレート受け部105eの径方向の内側面に形成して同部分にリフタープレート116が摺動するように構成することもできる。この場合、プレート受け部105eは、厚さ(軸方向の長さ)をリフタープレート116のストロークと同等以上に形成するとよい。これによれば、リフタープレート116は、厚さの厚いプレート受け部105eによって安定的に摺動することができる。
【0075】
また、上記実施形態においては、第1センタークラッチ摺動部120は、シャフト111の軸方向の長さが第2センタークラッチ摺動部113よりも長く形成した。これにより、クラッチ装置100は、プレッシャークラッチ112を精度良くセンタークラッチ105の軸方向に往復摺動させることができる。しかし、クラッチ装置100は、第1センタークラッチ摺動部120におけるシャフト111の軸方向の長さを第2センタークラッチ摺動部113よりも短く形成することでプレッシャークラッチ112の傾きの許容量を増加させることもできる。なお、第1センタークラッチ摺動部120は、シャフト111の軸方向の長さを第2センタークラッチ摺動部113の長さと同じにしてもよいことは当然である。
【0076】
また、上記実施形態においては、第2センタークラッチ摺動部113は、プレッシャー側カム部114に対してシャフト111の軸方向の位置において重なる位置、換言すれば、プレッシャー側カム部114の径方向内側に形成した。これにより、クラッチ装置100は、第2センタークラッチ摺動部113とプレッシャークラッチ摺動部106との間のクリアランスC2でプレッシャークラッチ112の傾き量を規定し易くすることができる。
【0077】
しかし、第2センタークラッチ摺動部113は、
図10に示すように、プレッシャー側カム部114に対してシャフト111の軸方向における第1センタークラッチ摺動部120側とは反対側でプレッシャー側カム部114とは重ならない位置に形成することもできる。これによれば、クラッチ装置100は、第1センタークラッチ摺動部120と第2センタークラッチ摺動部113との距離が更に長くなるため、プレッシャークラッチ112の傾き量をより微細な量で規定でき傾き量を高精度に規定し易くすることができる。
【0078】
また、上記実施形態においては、第1センタークラッチ摺動部120は、リフタープレート116における3つの張出部116bにそれぞれ形成した。しかし、第1センタークラッチ摺動部120は、張出部116bを4つ以上設けて、これらの張出部116bの外周面上に形成してよいし、張出部116bを1つの連続的に繋がった円板状に形成してその円板体の外周面に形成するようにしてもよい。
【0079】
また、上記実施形態においては、第2センタークラッチ摺動部113は、リング状中間部112aの内周面上に連続する円周面で形成した。しかし、第2センタークラッチ摺動部113は、リング状中間部112aの内周面上に径方向内側に向かって張り出す1または複数の張出部を設けてこの張出部の内周面に円弧状に形成することもできる。
【符号の説明】
【0080】
C1…第1センタークラッチ摺動部とリフタープレート摺動部との間の隙間、C2…第2センタークラッチ摺動部とプレッシャークラッチ摺動部との間の隙間、
100…クラッチ装置、101…クラッチハウジング、101a…トルクダンパ、101b…リベット、102…入力ギア、103…フリクションプレート、104…クラッチプレート、105…センタークラッチ、105a…シャフト連結部、105b…リング状中間部、105c…プレート保持部、105d…油孔、105e…プレート受け部、106…プレッシャークラッチ摺動部、107…センター側カム部、107a…センター側アシストカム面、107b…センター側スリッパーカム面、108…支柱貫通孔、
110…リフタープレート摺動部、111…シャフト、112…プレッシャークラッチ、112a…リング状中間部、112b…プレートサブ保持部、112c…プレート押し部、113…第2センタークラッチ摺動部、114…プレッシャー側カム部、114a…プレッシャー側アシストカム面、114b…プレッシャー側スリッパーカム面、115…筒状支柱、116…リフタープレート、116a…操作受け部、116b…張出部、117…レリーズピン、118…クラッチスプリング、
120…第1センタークラッチ摺動部。