(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】セラミド産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/42 20060101AFI20230221BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20230221BHJP
A23K 20/105 20160101ALI20230221BHJP
A23K 50/40 20160101ALI20230221BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230221BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230221BHJP
A61K 8/68 20060101ALI20230221BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20230221BHJP
A61K 31/16 20060101ALI20230221BHJP
A61K 31/231 20060101ALI20230221BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20230221BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230221BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20230221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230221BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20230221BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
A61K8/42
A23K10/30
A23K20/105
A23K50/40
A23L2/00 F
A23L33/105
A61K8/68
A61K8/9789
A61K31/16
A61K31/231
A61K36/752
A61P17/00
A61P17/16
A61P43/00 107
A61Q1/00
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2018130515
(22)【出願日】2018-07-10
【審査請求日】2021-05-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼ウェブサイトのアドレス:http://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2018/download_pdf.php?p_code=3B03p02 ウェブサイトの掲載日 平成30年3月5日 ▲2▼集会名:日本農芸化学会2018年度(平成30年度)大会 開催場所:名城大学 天白キャンパス 共通講義棟南(愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501) 開催日: 平成30年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】沢田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】中島 賢則
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-092032(JP,A)
【文献】特表平08-508742(JP,A)
【文献】特開2010-132622(JP,A)
【文献】特開2010-248140(JP,A)
【文献】特開2006-111560(JP,A)
【文献】特開2010-120892(JP,A)
【文献】Basis for improvedpermeability barrier homeostasis induced by PPAR and LXR activators: Liposensorsstimulate lipid synthesis, lamellar body secretion, and post-secretory lipidprocessing,Journal of Investigative Dermatology,2006年,vol.126, no.2,p.386-392
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/00
A23L 5/40-5/49
A23L 31/00-33/29
A23L 2/00-2/84
A23K 50/00-50/90
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される柑橘類由来化合物を有効成分として含み、下記一般式(3)で表されるセラミド2[NS]の産生促進のために使用される、セラミド産生促進剤。
【化1】
[一般式(1)中、R
1は、水酸基を有する炭素数12~28の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基を示し、R
2は、水素原子、単糖残基、オリゴ糖残基、リン酸基又はホスホコリン基を示す。]
【化2】
[一般式(3)中、R
4は、炭素数12~28の直鎖状のアシル基を示す。]
【請求項2】
前記一般式(1)において、R
2が水素原子である、請求項1に記載のセラミド産生促進剤。
【請求項3】
前記柑橘類が温州ミカンである、請求項1又は2に記載のセラミド産生促進剤。
【請求項4】
飲食品
として用いられる、請求項1~3のいずれかに記載のセラミド産生促進剤。
【請求項5】
医薬品
として用いられる、請求項1~3のいずれかに記載のセラミド産生促進剤。
【請求項6】
ペットフード
として用いられる、請求項1~3のいずれかに記載のセラミド産生促進剤。
【請求項7】
化粧品
として用いられる、請求項1~3のいずれかに記載のセラミド産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド産生促進剤、並びにそれを含有する飲食品、医薬品、化粧品、及びペットフードに関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ脂質は、脂肪酸と長鎖塩基であるスフィンゴイド塩基が酸アミド結合をした化合物の総称であり、代表的なものとしてセラミドが挙げられる。一般に、脂肪酸と長鎖塩基から構成されるセラミドアグリコンや、セラミドアグリコンにグルコースが結合したグルコシルセラミド、ホスホリルコリンが結合したスフィンゴミエリン等がセラミドと呼称される。セラミドアグリコン及びグルコシルセラミドは皮膚の表皮に多く存在していることが明らかとなっている。表皮は、外界からの異物の侵入を阻止したり、体内に含まれる水分の外界への蒸散を抑制したりするなどの機能を有している。
【0003】
表皮の中でも、最も外側に位置する角質層は、水分の蒸散抑制に重要な働きを示している。角質層の間における脂質(即ち、角質間細胞脂質)の分泌が損なわれると水分を保てなくなり、アトピー性皮膚炎等、水分不足に起因して様々な皮膚疾患を発症する。
【0004】
角質間細胞脂質の主要成分はセラミドであり、上述のように、皮膚の水分不足を抑制するという役割を担っている。このセラミドが、角質層で脂溶性成分の層を作り出すことで、外部からの異物の侵入や、内部からの水分の蒸発を抑制している。しかしながら、セラミド量は加齢によって減少する傾向にある(非特許文献1)。
【0005】
皮膚に含まれるセラミドのうち、セラミド1[EOS]はアシルセラミドと呼ばれ、皮膚に固有な分子種である。アトピー性皮膚炎患者において、セラミド1[EOS]の生成量が顕著に低下していることから(非特許文献2)、セラミド1[EOS]は特に肌のバリア機能に重要であると考えられている。また、セラミド2[NS]は皮膚や毛髪に多く存在し、皮膚に含まれるセラミドのうち約20%を占めることが報告されている(非特許文献3)。また、セラミド2[NS]は種々あるセラミドの中でも保水に優れており、特に肌の保湿機能に重要な役割を果たしている。衰えた肌のバリア機能や保湿機能を改善するには、これらのセラミドを補うことが重要である。
【0006】
このような状況の下、従来、表皮中のセラミドの産生を促進することが検討されてきた。具体的には、植物由来のグルコシルセラミドを経口摂取することにより、表皮におけるセラミド生合成を活性化させ、セラミドアグリコンの産生を促進させる方法(特許文献1)等が挙げられる。
【0007】
柑橘類以外の植物由来グルコシルセラミドを構成する主要なスフィンゴイド塩基は、植物性のスフィンゴイド塩基である4,8-スフィンガジエニン及び4-ヒドロキシ-8-スフィンゲニンであり、これらが表皮のセラミド産生促進の活性本体であると考えられている。4,8-スフィンガジエニンはセラミド3[NP]を、4-ヒドロキシ-8-スフィンゲニンはセラミド1[EOS]及びセラミド2[NS]、さらにセラミド3[NP]を産生促進することが報告されている(非特許文献4)。一方、動物性のスフィンゴイド塩基であるスフィンゴシンには、セラミド産生促進がないことも報告されている(非特許文献4)。そのため、従来、セラミド産生促進作用を示すスフィンゴイド塩基には、8位の炭素原子が二重結合していることが必須であると考えられている。
【0008】
一方、スフィンゴ脂質が経口摂取されると、消化管内で酵素によりスフィンゴイド塩基まで分解されて血中に取り込まれることによってセラミドを産生する効果が発現することが知られている。しかしながら、極性基を有するスフィンゴ脂質(グルコシルセラミドやスフィンゴミエリン)は体内に吸収されにくいことが明らかとなっている(非特許文献5)。スフィンゴミエリンに関して、消化管内の極性基を遊離する酵素活性が低く、摂取したスフィンゴミエリンの大部分が未分解のまま体外に排泄されることが報告されているが(非特許文献6)、グルコシルセラミドもほぼ同様であると考えられている。
【0009】
温州ミカンにはグルコースが結合していないセラミドアグリコンが豊富に含まれており、且つ、セラミドを構成する主要なスフィンゴイド塩基は動物性スフィンゴイド塩基であるフィトスフィンゴシンであることから、温州ミカン由来のセラミドは人間の角質層に存在するセラミドと同型であることが明らかとなっている(非特許文献7)。しかしながら、フィトスフィンゴシン及び温州ミカン由来のセラミドが、表皮のセラミド1[EOS]およびセラミド2[NS]の産生に及ぼす作用については、これまで報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Acta Derm-Venereol. 74, 337-340 (1994)
【文献】J. Invest. Dermatol. 96, 523-526 (1991)
【文献】J. Lipid. Res. 35, 2060-2068 (1994)
【文献】Lipids Health Dis. 11, 108-116 (2012)
【文献】Biochim. Biophys. Acta 164, 575-584 (1968)
【文献】J. Nutr. Biochem. 8, 112-118 (1997)
【文献】食品と開発、 Vol. 51、 No. 10、 72-74 (2016)
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、表皮中のセラミド1[EOS]及びセラミド2[NS]を効果的に増加させることが可能なセラミド産生促進剤を提供することである。また、本発明の他の目的は、当該セラミド産生促進剤を利用して、表皮におけるセラミド1[EOS]及びセラミド2[NS]の産生を促進できる飲食品、医薬品、化粧品、及びペットフードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、フィトスフィンゴシン骨格を有する化合物は、ヒト皮膚モデルにおいてセラミド1[EOS]及びセラミド2[NS]の産生を促進する効果が優れていることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0014】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 下記一般式(1)で表される化合物を有効成分として含む、セラミド産生促進剤。
【化1】
[一般式(1)中、R
1は、水素原子、或は水酸基を有していてもよい炭素数12~28の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基を示し、R
2は、水素原子、単糖残基、オリゴ糖残基、リン酸基又はホスホコリン基を示す。]
項2. 前記一般式(1)において、R
1が水酸基を有していてもよい炭素数12~28の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基である、項1に記載のセラミド産生促進剤。
項3. 前記一般式(1)において、R
2が水素原子である、項2に記載のセラミド産生促進剤。
項4. 前記一般式(1)で表される化合物が柑橘類由来である、項2又は3に記載のセラミド産生促進剤。
項5. 前記柑橘類が温州ミカンである、項4に記載のセラミド産生促進剤。
項6. 下記一般式(2)で表されるセラミド1[EOS]、及び/又は下記一般式(3)で表されるセラミド2[NS]の産生促進のために使用される、項1~5のいずれかに記載のセラミド産生促進剤。
【化2】
[一般式(2)中、R
3は、基-(C=O)-(CH
2)
n-(nは26~36の整数)を示す。]
【化3】
[一般式(3)中、R
4は、炭素数12~28の直鎖状のアシル基を示す。]
項7. 項1~6のいずれかに記載のセラミド産生促進剤を含有する、セラミド産生促進用の飲食品。
項8. 項1~6のいずれかに記載のセラミド産生促進剤を含有する、セラミド産生促進用の医薬品。
項9. 項1~6のいずれかに記載のセラミド産生促進剤を含有する、セラミド産生促進用のペットフード。
項10. 項1~6のいずれかに記載のセラミド産生促進剤を含有する、セラミド産生促進用の化粧品。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセラミド産生促進剤によれば、表皮におけるセラミド(特に、セラミド1[EOS]及び/又はセラミド2[NS])の産生を促進できるので、皮膚のバリア機能や保湿機能等の改善又は向上を図り、健康的な皮膚状態に維持又は改善することができる。また、本発明のセラミド産生促進剤は、天然由来成分を使用しているので安全で、しかも安価である。更に、本発明のセラミド産生促進剤は、例えば、食品の形態等でも使用できるので、本発明のセラミド産生促進剤を含む食品の摂取という日常的で簡便な手法で、表皮におけるセラミドの産生を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】製造例で得た精製みかんセラミドをTLCで分析した結果を示す図である。
【
図2】実施例1において、フィトスフィンゴシンによるセラミド生合成酵素遺伝子及び脂肪酸伸長酵素の発現亢進作用を評価した結果を示す図である。
【
図3】実施例2において、3次元皮膚モデルでフィトスフィンゴシンによるセラミド産生促進効果を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のセラミド産生促進剤は、フィトスフィンゴシン骨格を有する化合物を有効成分として含むことを特徴とする。以下、本発明のセラミド産生促進剤について詳述する。
【0018】
[有効成分]
本発明のセラミド産生促進剤では、有効成分として、下記一般式(1)で表される化合物を使用する。
【化4】
【0019】
一般式(1)において、R1は、水素原子、或は水酸基を有していてもよい炭素数12~28の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基を示す。
【0020】
本発明において、アシル基とは、カルボン酸から水酸基を除いて得られる基(即ち、アルカノイル基)を指す。前記アシル基に含まれる炭化水素鎖は、飽和又は不飽和のいずれであってもよいが、好ましくは飽和炭化水素が挙げられる。前記アシル基の炭素数は、12~28であればよいが、好ましくは18~28、更に好ましくは20~28が挙げられる。前記アシル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状が挙げられる。また、前記アシル基において、水酸基を有していてもよく、水酸基を有する場合、アシル基1個当たりの水酸基の数としては、例えば、1~5個、好ましくは1~3個、更に好ましくは1又は2個が挙げられる。例えば、水酸基を1個以上有するアシル基としては、少なくとも、アシル基を構成する-(C=O)-部分に隣接する炭素原子(アシル基を構成する-(C=O)-部分の炭素原子を1位として、2位の炭素原子)に水酸基が結合している態様が挙げられる。また、例えば、水酸基を2個有するアシル基としては、アシル基を構成する-(C=O)-部分の炭素原子を1位として、2位及び3位の炭素原子にそれずれ水酸基が結合している態様が挙げられる。
【0021】
一般式(1)において、R2は、水素原子、単糖残基、オリゴ糖残基、リン酸基又はホスホコリン基を示す。
【0022】
前記単糖残基としては、例えば、グルコース残基、マンノース残基、ガラクトース残基、フルクトース残基、ラムノース残基等が挙げられる。これらのグルコース残基の中でも、好ましくはグルコース残基が挙げられる。R2が単糖残基である場合、単糖残基の1位の炭素原子が酸素原子(一般式(1)においてR2が結合している酸素原子)に結合していればよい。
【0023】
前記オリゴ糖残基としては、例えば、スクロース残基、ラクトース残基、トレハロース残基、マルトース残基、ラフィノース残基、パノース残基、マルトトリオース残基、メレジトース残基、ゲンチアノース残基、スタキオース残基等の二糖又は三糖の残基が挙げられる。R2がオリゴ糖残基である場合、オリゴ糖残基の還元末端側の構成単糖の1位の炭素原子が酸素原子(一般式(1)においてR2が結合している酸素原子)に結合していればよい。
【0024】
R2として、好ましくは水素原子又は単糖残基が挙げられる。
【0025】
一般式(1)で表される化合物は、R1及びR2が水素原子である場合にはフィトスフィンゴシンに該当し、R1が水酸基を有していてもよい炭素数12~28の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基である場合にはフィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドに該当する。
【0026】
一般式(1)で表される化合物の中でも、表皮におけるセラミドの産生をより一層効果的に促進させるという観点から、好ましくはフィトスフィンゴシン(一般式(1)においてR1及びR2が水素原子である化合物)が挙げられる。限定的な解釈を望むものではないが、フィトスフィンゴシンは、フィトスフィンゴシン骨格を有するセラミド(一般式(1)においてR1が水酸基を有していてもよい炭素数12~28の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基である化合物)に比べて、体内のセラミドを合成する酵素がより増加すると考えられる。
【0027】
また、一般式(1)で表される化合物の内、フィトスフィンゴシン骨格を有するセラミド(一般式(1)においてR1が水酸基を有していてもよい炭素数12~28の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基である化合物)については、生体内で分解されてフィトスフィンゴシンを生成し、当該フィトスフィンゴシンによって優れたセラミド産生促進効果を奏させることができる。
【0028】
一般式(1)で表される化合物の内、フィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドについては、表皮におけるセラミドの産生をより一層効果的に促進させるという観点から、好ましくは、セラミドアグリコン(一般式(1)において、R1が水酸基を有していてもよい炭素数12~28の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、且つR2が水素原子である化合物);更に好ましくは、セラミドアグリコン(一般式(1)において、R1が水酸基を有していてもよい炭素数20~28の直鎖状のアシル基、且つR2が水素原子である化合物)が挙げられる。
【0029】
一般式(1)で表される化合物は、公知の手法によって製造することができる。
【0030】
例えば、一般式(1)で表される化合物がフィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドである場合であれば、当該セラミドを含む植物素材から抽出することにより得ることができる。
【0031】
フィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドの抽出原料となる植物素材としては、例えば、温州ミカン、アマナツ、イヨカン、オレンジ、カラマンダリン、キヨミ、ナツミカン、タンゴール、ハッサク、ヒュウガナツ、ブンタン等の柑橘類が挙げられる。とりわけ、柑橘類由来(特に、温州ミカン由来)のフィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドは、表皮におけるセラミドの産生をより一層効果的に促進させ得るので、好ましい。
【0032】
また、植物素材からフィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドを抽出するための抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ピリジン類等が挙げられる。これらの抽出溶媒は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明のセラミド産生促進剤を飲食品に使用する場合であれば、これらの抽出溶媒の中でも、好ましくはエタノール、ヘキサンが挙げられる。また、抽出溶媒には、抽出効率を上げるために、水、酵素、各種界面活性剤等が、本発明の効果を損なわない範囲で含まれていてもよい。
【0033】
植物素材からフィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドを抽出するには、公知の方法を用いればよく、抽出を複数回行うこともできる。また、超臨界抽出法を使用することもできる。
【0034】
抽出処理によって得られた抽出液は、フィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドが抽出された状態で含まれているので、そのまま使用してもよいが、濃縮操作により濃縮物にしてもよい。濃縮操作としては、例えば、エバポレーター等の減圧濃縮装置を用いたり、加熱したりして、溶媒を除去することが挙げられる。更に、濃縮物を精製手段により精製することで、フィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドの精製品を得てもよい。例えば、前記濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで数回精製したり、アルカリ処理や溶媒分画等により不純物を除去した後に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したりすることにより、フィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドの精製品を得ることができる。
【0035】
また、例えば、一般式(1)で表される化合物がフィトスフィンゴシンである場合であれば、フィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドからアシル基等を遊離させることにより得ることができる。具体的には、フィトスフィンゴシン骨格を有するセラミドを、含水メタノール性塩酸等と共に加熱して、フィトスフィンゴシンに分解し、更に必要に応じて、溶媒抽出、濃縮、精製等を行うことにより、フィトスフィンゴシンを得ることができる。
【0036】
[その他の添加成分]
本発明のセラミド産生促進剤には、本発明の効果を妨げない範囲で、一般式(1)で表される化合物以外のスフィンゴイド塩基を含む化合物(セラミド等)が含まれていてもよい。表皮におけるセラミド産生をより一層効果的に促進させるという観点から、本発明のセラミド産生促進剤において、一般式(1)で表される化合物と、それ以外のスフィンゴイド塩基を含む化合物の総量100質量部当たり、一般式(1)で表される化合物が30質量部以上、好ましくは50質量部以上、更に好ましくは70質量部以上、特に好ましくは90質量部以上を占めていることが望ましい。
【0037】
本発明のセラミド産生促進剤は、一般式(1)で表される化合物以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、剤型に応じて、他の添加成分を含有してもよい。本発明のセラミド産生促進剤に含有され得る添加成分としては、例えば、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、植物抽出エキス類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、アルコール、多価アルコール、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加成分は、1種類単独で混合しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加成分の含有量については、使用する添加成分の種類や、本発明のセラミド産生促進剤が適用される製品の剤型等に応じて適宜設定される。
【0038】
[使用対象となる製品]
本発明のセラミド産生促進剤が使用される製品の剤型については、特に制限されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよく、セラミド産生促進剤の適用方法等に応じて適宜設定すればよい。
【0039】
本発明のセラミド産生促進剤の適用方法としては、特に制限されないが、経口適用(経口摂取、経口投与)、経皮適用、経粘膜適用等が挙げられる。これらの中でも、経口適用及び経皮適用は、簡便で使用者の負担が少ないため好ましい。
【0040】
本発明のセラミド産生促進剤が使用される製品の製剤形態については、特に制限されないが、例えば、飲食品、医薬品(外用医薬品、内服用医薬品)、化粧品、ペットフード等が挙げられる。
【0041】
本発明のセラミド産生促進剤を飲食品に使用する場合、本発明のセラミド産生促進剤を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製して、セラミド産生促進用の飲食品として提供される。このような飲食品としては、一般の飲食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に制限されないが、具体的にはカプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、リポソーム製剤等のサプリメント;パン類、麺類等の主菜となりうるもの;チーズ、ハム、ウィンナー、魚介加工品等の副菜となりうるもの;栄養ドリンク、果汁飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等の飲料;クッキー、ケーキ、ゼリー、プリン、キャンディー、ヨーグルト等の嗜好品等が例示される。これらの飲食品の中でも、好ましくはサプリメント、更に好ましくはカプセル剤が挙げられる。
【0042】
本発明のセラミド産生促進剤の飲食品への配合量については、特に制限されず、飲食品の種類、期待される効果等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、有効成分である一般式(1)で表される化合物の配合量として0.0001~95質量%、好ましくは0.001~80質量%、更に好ましくは0.01~70質量%が挙げられる。
【0043】
また、本発明のセラミド産生促進剤を医薬品に使用する場合、本発明のセラミド産生促進剤を、を単独で、又は他の薬理活性成分、薬学的に許容される基剤や添加成分等と組み合わせて所望の形態に調製して、セラミド産生促進用の医薬品として提供される。このような医薬品としては、具体的には、液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、ゼリー剤、シロップ剤、リポソーム製剤等の内服用医薬品;乳液剤、懸濁液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、噴霧剤、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤、坐剤等の外用医薬品等が挙げられる。
【0044】
本発明のセラミド産生促進剤の医薬品への配合量については、特に制限されず、医薬品の製剤形態、投与方法、期待される効果等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、有効成分である一般式(1)で表される化合物の配合量として0.0001~95質量%、好ましくは0.001~80質量%、更に好ましくは0.01~70質量%が挙げられる。
【0045】
また、本発明のセラミド産生促進剤を化粧品に使用する場合、本発明のセラミド産生促進剤を香粧学的に許容される基材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製して、セラミド産生促進用の化粧品として提供される。このような化粧品の形態としては、特に制限されないが、具体的には、乳液、クリーム、化粧水(ローション)、パック、美容液、洗浄剤、メーキャップ化粧料等が挙げられる。
【0046】
本発明のセラミド産生促進剤の化粧品への配合量については、特に制限されず、化粧品の形態、期待される効果等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、有効成分である一般式(1)で表される化合物の配合量として0.00001~95質量%、好ましくは0.0001~80質量%、更に好ましくは0.001~70質量%が挙げられる。
【0047】
また、本発明のセラミド産生促進剤をペットフードに使用する場合、本発明のセラミド産生促進剤を単独で又は他の飼料原料と組み合わせて所望の形態に調製して、セラミド産生促進用のペットフードとして提供される。ペットフードに使用される飼料原料としては、例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦等の穀類;ふすま、米ぬか等のぬか類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の粕類;脱脂粉乳、ホエー、魚粉、骨粉等の動物性飼料類;ビール酵母等の酵母類;リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム類;ビタミン類;油脂類;アミノ酸類;糖類等が挙げられる。
【0048】
本発明のセラミド産生促進剤のペットフードへの配合量については、特に制限されず、ペットフードの形態、適用対象となるペットの種類、期待される効果等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、有効成分である一般式(1)で表される化合物の配合量として0.0001~95質量%、好ましくは0.001~80質量%、更に好ましくは0.01~70質量%が挙げられる。
【0049】
また、本発明のセラミド産生促進剤を含む各種製品には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、種々の機能性成分が含まれていてもよい。機能性成分としては、例えば、ビタミンC、コラーゲン、スクワラン、ナイアシン、ナイアシンアミド、ヒアルロン酸、プラセンタエキス、ソルビトール、キチン、キトサン、各種植物抽出物等が挙げられる。これらの機能性成分の配合量については、機能性成分の種類等に応じて適宜設定すればよい。
【0050】
[用途・適用量]
本発明のセラミド産生促進剤は、表皮においてセラミドの産生を促進する目的で使用される。本発明のセラミド産生促進剤は、特に表皮におけるセラミド1[EOS]及びセラミド2[NS]の産生促進作用に優れており、セラミド1[EOS]及び/又はセラミド2[NS]の産生促進の目的で好適に使用される。
【0051】
本発明のセラミド産生促進剤によって産生が促進されるセラミド1[EOS]としては、具体的には、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
【0052】
一般式(2)において、R3は、基-(C=O)-(CH2)n-[nは26~36の整数、好ましくは20である]である。一般式(2)において、R3は、-(C=O)側の末端が窒素原子と結合し、(CH2)n-側の末端が酸素原子と結合している。
【0053】
また、本発明のセラミド産生促進剤によって産生が促進されるセラミド2[NS]としては、具体的には、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【化6】
【0054】
一般式(3)において、R4は、炭素数12~28、好ましくは炭素数24の直鎖状のアシル基である。
【0055】
セラミド1[EOS]は、肌のバリア機能を担っており、更に、アトピー性皮膚炎患者において産生量が低下していることが知られている。これに対して、本発明のセラミド産生促進剤は、表皮におけるセラミド1[EOS]の産生を促進できるので、肌のバリア機能の改善又は向上等の用途に使用できる。また、肌のバリア機能の改善又は向上は、アトピー性皮膚炎、老人性乾皮症、乾燥肌、荒れ肌等の皮膚疾患や皮膚症状の予防又は改善に有効であることから、本発明のセラミド産生促進剤は、当該皮膚疾患や皮膚症状の予防又は改善の用途にも使用できる。
【0056】
また、セラミド2[NS]は、肌の保湿機能に重要な役割を果たしていることが知られている。これに対して、本発明のセラミド産生促進剤は、表皮におけるセラミド2[NS]の産生を促進できるので、肌の保湿機能の改善又は向上等の用途に使用できる。また、肌の保湿機能の改善又は向上は、老人性乾皮症、乾燥肌等の皮膚疾患や皮膚症状の予防又は改善に有効であり、更に、肌のきめ、つや、はり、うるおい等の皮膚状態の付与にも有効であることから、本発明のセラミド産生促進剤は、当該皮膚疾患や皮膚症状の予防又は改善、並びに当該皮膚状態の付与の用途にも使用できる。
【0057】
本発明のセラミド産生促進剤の適用量については、特に限定されず、適用方法、使用される製品の種類、用途、投与対象、期待される効果等に応じて適宜設定するとよい。例えば、セラミド産生促進剤を経口適用(摂取又は投与)する場合であれば、一般式(1)で表される化合物の適用量(摂取量又は投与量)として、成人1日当たり0.01~1000mg、好ましくは0.1~100mgが挙げられる。また、一日あたりの量が前述の範囲となるように、1回又は数回に分けて投与してもよい。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0059】
製造例:みかんセラミドの調製
温州みかん搾汁残渣(みかんジュース粕、水分率約90%)1kgに食品加工用ペクチナーゼ酵素剤であるスミチームPX(新日本化学工業株式会社製、ペクチナーゼ5,000ユニット/g、アラバナーゼ90ユニット/g)1gとセルラーゼ/ヘミセルラーゼ酵素剤であるセルラーゼY-NC(ヤクルト薬品工業株式会社製、セルラーゼ30,000ユニット/g)1gを添加し、よくかき混ぜて室温で8時間静置反応を行った。この反応液を遠心分離して上清を除去した後、水を添加して撹拌し、再度遠心分離により上清を除去した。得られた沈殿物を凍結乾燥機により乾燥し、ナイフ式粉砕機(Retsch社、GM200)にて5分間粉砕後、300メッシュの篩を通過する粉砕物(組成物1)50gを得た。
【0060】
組成物1に混合溶媒(クロロホルム/メタノール=1/1、体積比)を添加して、脂質成分を抽出し、脂質混合物を得た。更に、脂質混合物からセラミド成分をHPLCを用いて分離精製することにより精製みかんセラミドを得た。なお、HPLCは以下に記載の条件で行った。
<HPLC条件>
カラム:Inertsil SIL100A (3.0×100mm、3μm)(ジーエルサイエンス社製)
溶離液:A液(クロロホルム)、B液(クロロホルム/メタノール=1/1、体積比)、およびA液とB液のグラジェント
流速:1.0ml/min
カラム温度:37℃
検出:蒸発光散乱検出
【0061】
続いて、精製みかんセラミドに含まれる主要なセラミドの構造を明らかにするために、薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開し、検出されたスポットに含まれるセラミドの構造をNMR及びLC-MS/MSを用いて解析した。具体的な手法は、以下の通りである。
【0062】
先ず、混合溶媒(クロロホルム/メタノール=1/1、体積比)に精製みかんセラミドを溶解し、TLC板(Merck社製、「TLC Silica gel60F254」)を用いて展開した。展開溶媒としては、混合溶媒(クロロホルム/メタノール/水=83/9/1、体積比)を使用した。
【0063】
前記のTLC条件で精製みかんセラミドを展開させ、その後、硫酸発色により2つのスポットを検出した。得られた結果を
図1に示す。
図1から、得られた2つのスポットをそれぞれセラミド混合物A、セラミド混合物Bとした。セラミド混合物Aとセラミド混合物Bについて、HPLCを用いて上記に示した条件でそれぞれ分離精製し、NMR及びLC-MS/MSを用いて分析し、主要なセラミドの構造を特定した。その結果、セラミド混合物Aの主要なセラミドの構造はスフィンゴイド塩基部分がフィトスフィンゴシン、脂肪酸部分の構造は2位にOH基を持つ炭素鎖長24の飽和脂肪酸であり、セラミド混合物Bの主要なセラミドの構造はスフィンゴイド塩基部分がフィトスフィンゴシン、脂肪酸部分の構造は2位及び3位にOH基を持つ炭素鎖長24の飽和脂肪酸であることが確認された。
【0064】
実施例1:フィトスフィンゴシンによるセラミド生合成酵素遺伝子及び脂肪酸伸長酵素の発現亢進作用の評価
正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ社製、NHEK)を、5.0×104細胞/ウェルとなるように、HuMedia-KB2培地(クラボウ社製)を添加した12ウェルプレート(コーニング社製)に播種した。その後、37℃、5%CO2の環境下、インキュベーター(アステック社製)中で培養を行った。2日に一度、培地交換を行いながら、80%コンフルエントな状態になるまで培養を継続した。
【0065】
培地中のジメチルスルホキシド濃度が0.1%(v/v)となるような濃度でフィトスフィンゴシン(東京化成工業社製)をジメチルスルホキシド(和光社製)に溶解させ、上述の培地にフィトスフィンゴシン濃度が6.4μg/mlとなるように添加した培地で24時間培養することで、正常ヒト表皮角化細胞にフィトスフィンゴシンを作用させた。
【0066】
コントロール群として、溶媒であるジメチルスルホキシドが0.1%(v/v)となるように上述の培地に溶解させたものを用いた。
【0067】
24時間経過後、培養液をプレートから除去し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄後、核酸抽出キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、PureLink RNA Mini Kit)を用いて細胞中の全RNAを抽出した。次いで、逆転写反応キット(タカラバイオ社製、PrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real Time))を使用し、cDNAを得た。
得られたcDNAを用い、リアルタイムPCR(タカラバイオ社製)を使用して、セラミド生合成関連酵素(SPT、CerS1、CerS2、GCS、β-GCS、aSMase、nSMase)、脂肪酸伸長酵素(ELOVL1、ELOVL7)、及び核内受容体(PPARβ、PPARγ)の遺伝子発現量を定量した。
【0068】
得られた結果を
図2に示す。なお、
図2において、各遺伝子の発現量は、コントロール群での各遺伝子発現量を100とした相対値として示した。
図2から明らかなように、みかん由来セラミドを構成する主要スフィンゴイド塩基であるフィトスフィンゴシンは、セラミド生合成関連酵素遺伝子及び脂肪酸伸長酵素遺伝子の発現亢進作用を有し、フィトスフィンゴシン又はミカン由来セラミドはセラミド産生促進効果があることが示された。
【0069】
更に、フィトスフィンゴシンは核内受容体PPARβ及びPPARγの産生促進作用があり、フィトスフィンゴシン又はミカン由来セラミドは、セラミド産生促進や肌のターンオーバー活性化に関与する角化細胞の分化を促進することが示された。
【0070】
実施例2:3次元皮膚モデルを使用したセラミド産生促進試験
3次元皮膚モデルLabCyte EPI-MODEL 12 6D(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社製)を使用し、以下の方法でセラミド産生促進効果を確認した。
【0071】
先ず、LabCyte EPI-MODEL 12 6Dを所定の培地で培養した。ここで、培地中のジメチルスルホキシド濃度が0.1%(v/v)となるようにジメチルスルホキシド(和光社製)にフィトスフィンゴシン(東京化成工業社製)、製造例で調製した精製みかんセラミド、又は4,8-スフィンガジエニンを溶解させ、上述の培地にフィトスフィンゴシン製造例で調製した精製みかんセラミド、又は4,8-スフィンガジエニンが10μg/mlとなるように添加して、24時間培養を行った。なお、コントロール群としては、溶媒であるジメチルスルホキシドが0.1%(v/v)となるように上述の培地に溶解させたものを用いた。
【0072】
24時間経過後、LabCyte EPI-MODEL 12 6Dを剥離し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄後、混合溶媒(クロロホルム/メタノール=1/1、体積比)を添加し、ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)を用いてホモジナイズすることで、LabCyte EPI-MODEL 12 6Dに含まれているセラミドの抽出を行った。その後、抽出液を回収し、ブロックヒーターを用いて濃縮乾固し、抽出乾燥物を得た。抽出乾燥物にアセトン(和光社製)を添加し、-20℃で2時間静置後、遠心分離によって沈殿物を回収した。次いで、沈殿物を、混合溶媒(クロロホルム/メタノール=1/1、体積比)を用いて溶解し、これをセラミド抽出液とした。以下に示す条件で薄層クロマトグラフィー(TLC)を実施することにより、セラミド抽出液に含まれるセラミド量を定量した。
<薄層クロマトグラフィによる分析>
【0073】
TLC板(Merck社製、「HPTLC Plates Silica gel60」)を用いて、セラミド抽出液、及びセラミド2[NS]の標準品(クローダジャパン社製)を使用して、TLCを実施した。
【0074】
展開溶媒としては、混合溶媒(クロロホルム/メタノール/酢酸=190/9/1、体積比)を使用した。
【0075】
前記のTLC条件でセラミド抽出液を展開させ、その後、発色試薬混合溶媒(リン酸/水=8/92、質量比)に10質量%の濃度となるように硫酸銅を溶解させた水溶液をTLC板に噴霧し、ヒートブロックを使用して加熱することでスポットを発色させた。イメージアナライザ(LAS-3000、富士フィルム社製)を使用して、セラミドのスポットを選択し、その濃さと大きさから各セラミド量を定量した。なお、セラミド1[EOS]及びセラミド2[NS]の定量は、セラミド2[NS]の標準品を基準として行った。
【0076】
得られた結果を
図3に示す。なお、
図3において、各セラミドの産生量は、コントロール群での各セラミドの産生量を100とした相対値として示した。
図3から明らかなように、フィトスフィンゴシン又は精製みかんセラミドには、3次元ヒト皮膚モデルのセラミド1[EOS]及びセラミド2[NS]の産生が顕著に促進する作用があり、4,8-スフィンガジエニンをはるかに凌ぐセラミド産生促進効果が認められた。