(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60K 6/365 20071001AFI20230221BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20230221BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230221BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20230221BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20230221BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20230221BHJP
B60K 17/348 20060101ALI20230221BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230221BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230221BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20230221BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20230221BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20230221BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20230221BHJP
【FI】
B60K6/365 ZHV
B60K6/40
B60K6/48
B60K6/52
B60K6/54
B60K17/04 G
B60K17/348 B
B60L15/20 K
B60L50/16
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60W20/10
(21)【出願番号】P 2018190972
(22)【出願日】2018-10-09
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 聡宏
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029118(JP,A)
【文献】特開2006-131132(JP,A)
【文献】特開2008-290613(JP,A)
【文献】特開2006-082761(JP,A)
【文献】特開2006-117084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/365
B60K 6/48
B60K 6/40
B60K 6/52
B60K 6/54
B60W 10/02
B60W 20/10
B60W 10/10
B60W 10/08
B60K 17/348
B60K 17/04
B60L 15/20
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪とを駆動する車両用駆動装置であって、
前記前輪と前記後輪との一方に連結される第1車軸と、
前記前輪と前記後輪との他方に連結される第2車軸と、
動力源と前記第1車軸との間に設けられる第1動力伝達経路と、
前記第2車軸と前記第1動力伝達経路との間に設けられる第2動力伝達経路と、
前記第1動力伝達経路と前記第2動力伝達経路との間に設けられ、前記第1および第2動力伝達経路を互いに連結する締結状態と、前記第1および第2動力伝達経路の連結を解除する解放状態と、に制御される第1クラッチと、
前記第2動力伝達経路に設けられ、前記第1クラッチに連結される第1回転要素、前記第2車軸に連結される第2回転要素、および電動モータに連結される第3回転要素、を備える動力分割機構と、
前記第1回転要素を制動する締結状態と、前記第1回転要素の制動を解除する解放状態と、に制御されるブレーキと、
前記動力分割機構の差動動作を禁止する締結状態と、前記動力分割機構の差動動作を許容する解放状態と、に制御される第2クラッチと、
前記第1クラッチを締結し、前記第2クラッチを解放し、かつ前記ブレーキを解放した状態のもとで、前記電動モータの回転トルクを制御する分配トルク制御部と、
を有し、
前記動力分割機構は、共線図上で、前記第1回転要素と前記第3回転要素とが両端に配置される構成であ
り、
前記分配トルク制御部は、
前記電動モータの回転トルクを一方側に変化させることにより、前記前輪側の分配トルクを増加させて前記後輪側の分配トルクを減少させ、
前記電動モータの回転トルクを他方側に変化させることにより、前記前輪側の分配トルクを減少させて前記後輪側の分配トルクを増加させる、
車両用駆動装置。
【請求項2】
前輪と後輪とを駆動する車両用駆動装置であって、
前記前輪と前記後輪との一方に連結される第1車軸と、
前記前輪と前記後輪との他方に連結される第2車軸と、
動力源と前記第1車軸との間に設けられる第1動力伝達経路と、
前記第2車軸と前記第1動力伝達経路との間に設けられる第2動力伝達経路と、
前記第1動力伝達経路と前記第2動力伝達経路との間に設けられ、前記第1および第2動力伝達経路を互いに連結する締結状態と、前記第1および第2動力伝達経路の連結を解除する解放状態と、に制御される第1クラッチと、
前記第2動力伝達経路に設けられ、前記第1クラッチに連結される第1回転要素、前記第2車軸に連結される第2回転要素、および電動モータに連結される第3回転要素、を備える動力分割機構と、
前記第1回転要素を制動する締結状態と、前記第1回転要素の制動を解除する解放状態と、に制御されるブレーキと、
前記動力分割機構の差動動作を禁止する締結状態と、前記動力分割機構の差動動作を許容する解放状態と、に制御される第2クラッチと、
前記第1クラッチを解放した状態のもとで、前記電動モータを力行状態に制御するモータ走行制御部と、
を有し、
前記動力分割機構は、共線図上で、前記第1回転要素と前記第3回転要素とが両端に配置される構成であ
り、
前記モータ走行制御部は、
車速が閾値を下回る領域では、前記第2クラッチを解放し、かつ前記ブレーキを締結する一方、
車速が前記閾値を上回る領域では、前記第2クラッチを締結し、かつ前記ブレーキを解放する、
車両用駆動装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の車両用駆動装置において、
前記第1クラッチを解放した状態のもとで、前記電動モータを力行状態に制御するモータ走行制御部、を有し、
前記モータ走行制御部は、
車速が閾値を下回る領域では、前記第2クラッチを解放し、かつ前記ブレーキを締結する一方、
車速が前記閾値を上回る領域では、前記第2クラッチを締結し、かつ前記ブレーキを解放する、
車両用駆動装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の車両用駆動装置において、
前記第1クラッチは、噛合クラッチであり、
前記第2クラッチは、摩擦クラッチであり、
前記ブレーキは、噛合ブレーキである、
車両用駆動装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の車両用駆動装置において、
前記第1回転要素は、リングギヤであり、
前記第2回転要素は、前記リングギヤに噛み合うピニオンを回転自在に支持するキャリアであり、
前記第3回転要素は、前記ピニオンに噛み合うサンギヤである、
車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪と後輪とを駆動する車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前輪と後輪とを駆動する車両用駆動装置として、遊星歯車機構や電動モータを備えた駆動装置が提案されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-170159号公報
【文献】特開2010-125896号公報
【文献】特開2010-162970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前輪と後輪とを駆動する車両用駆動装置においては、車両の走行性能を高める観点から、前後のトルク分配比を制御することが求められる。また、前後のトルク分配比を制御することは、車両用駆動装置の構成を複雑にする要因であることから、トルク分配比を制御可能な車両用駆動装置を簡単に構成することが求められている。
【0005】
本発明の目的は、トルク分配比を制御可能な車両用駆動装置を簡単に構成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態の車両用駆動装置は、前輪と後輪とを駆動する車両用駆動装置であって、前記前輪と前記後輪との一方に連結される第1車軸と、前記前輪と前記後輪との他方に連結される第2車軸と、動力源と前記第1車軸との間に設けられる第1動力伝達経路と、前記第2車軸と前記第1動力伝達経路との間に設けられる第2動力伝達経路と、前記第1動力伝達経路と前記第2動力伝達経路との間に設けられ、前記第1および第2動力伝達経路を互いに連結する締結状態と、前記第1および第2動力伝達経路の連結を解除する解放状態と、に制御される第1クラッチと、前記第2動力伝達経路に設けられ、前記第1クラッチに連結される第1回転要素、前記第2車軸に連結される第2回転要素、および電動モータに連結される第3回転要素、を備える動力分割機構と、前記第1回転要素を制動する締結状態と、前記第1回転要素の制動を解除する解放状態と、に制御されるブレーキと、前記動力分割機構の差動動作を禁止する締結状態と、前記動力分割機構の差動動作を許容する解放状態と、に制御される第2クラッチと、前記第1クラッチを締結し、前記第2クラッチを解放し、かつ前記ブレーキを解放した状態のもとで、前記電動モータの回転トルクを制御する分配トルク制御部と、を有し、前記動力分割機構は、共線図上で、前記第1回転要素と前記第3回転要素とが両端に配置される構成であり、前記分配トルク制御部は、前記電動モータの回転トルクを一方側に変化させることにより、前記前輪側の分配トルクを増加させて前記後輪側の分配トルクを減少させ、前記電動モータの回転トルクを他方側に変化させることにより、前記前輪側の分配トルクを減少させて前記後輪側の分配トルクを増加させる。
本発明の一実施形態の車両用駆動装置は、前輪と後輪とを駆動する車両用駆動装置であって、前記前輪と前記後輪との一方に連結される第1車軸と、前記前輪と前記後輪との他方に連結される第2車軸と、動力源と前記第1車軸との間に設けられる第1動力伝達経路と、前記第2車軸と前記第1動力伝達経路との間に設けられる第2動力伝達経路と、前記第1動力伝達経路と前記第2動力伝達経路との間に設けられ、前記第1および第2動力伝達経路を互いに連結する締結状態と、前記第1および第2動力伝達経路の連結を解除する解放状態と、に制御される第1クラッチと、前記第2動力伝達経路に設けられ、前記第1クラッチに連結される第1回転要素、前記第2車軸に連結される第2回転要素、および電動モータに連結される第3回転要素、を備える動力分割機構と、前記第1回転要素を制動する締結状態と、前記第1回転要素の制動を解除する解放状態と、に制御されるブレーキと、前記動力分割機構の差動動作を禁止する締結状態と、前記動力分割機構の差動動作を許容する解放状態と、に制御される第2クラッチと、前記第1クラッチを解放した状態のもとで、前記電動モータを力行状態に制御するモータ走行制御部と、を有し、前記動力分割機構は、共線図上で、前記第1回転要素と前記第3回転要素とが両端に配置される構成であり、前記モータ走行制御部は、車速が閾値を下回る領域では、前記第2クラッチを解放し、かつ前記ブレーキを締結する一方、車速が前記閾値を上回る領域では、前記第2クラッチを締結し、かつ前記ブレーキを解放する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2動力伝達経路に設けられ、第1クラッチに連結される第1回転要素、第2車軸に連結される第2回転要素、および電動モータに連結される第3回転要素、を備える動力分割機構、を有する。動力分割機構は、共線図上で、第1回転要素と第3回転要素とが両端に配置される構成である。これにより、トルク分配比を制御可能な車両用駆動装置を簡単に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態である車両用駆動装置を示す概略図である。
【
図2】車両用駆動装置の制御系の一例を示す図である。
【
図3】各走行モードにおけるクラッチ、ブレーキおよびエンジンの作動状況を示す図である。
【
図4】第1EVモードにおける車両用駆動装置を示す概略図である。
【
図5】第1EVモードにおける遊星歯車機構の差動状況の一例を示す共線図である。
【
図6】第2EVモードにおける車両用駆動装置を示す概略図である。
【
図7】第1EVモードから第2EVモードに切り替える際の遊星歯車機構の差動状況の一例を示す共線図である。
【
図8】トルク分配モードにおける車両用駆動装置を示す概略図である。
【
図9】トルク分配モードにおける遊星歯車機構の差動状況の一例を示す共線図である。
【
図10】トルク分配モードにおける遊星歯車機構の差動状況の一例を示す共線図である。
【
図11】差動制限モードにおける車両用駆動装置を示す概略図である。
【
図12】差動制限モードにおける遊星歯車機構の差動状況の一例を示す共線図である。
【
図13】トルク分配モードにおける遊星歯車機構の差動状況の他の例を示す共線図である。
【
図14】車速と駆動力との関係を簡単に示した線図である。
【
図15】本発明の他の実施の形態である車両用駆動装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
[全体構造]
図1は本発明の一実施の形態である車両用駆動装置10を示す概略図である。
図1に示すように、車両に搭載される車両用駆動装置10は、前輪11に連結されたフロントアクスル軸(第1車軸)12を駆動する前輪駆動系13と、後輪14に連結されたリヤアクスル軸(第2車軸)15を駆動する後輪駆動系16と、前輪駆動系13と後輪駆動系16との間に設けられる第1クラッチCL1と、を有している。
【0011】
前輪駆動系13は、エンジン(動力源)20と、これに連結されるトランスミッション21と、を有している。トランスミッション21の変速出力軸22には歯車列23を介して前輪出力軸24が連結されており、前輪出力軸24にはフロントデファレンシャル機構25を介してフロントアクスル軸12が連結されている。つまり、エンジン20とフロントアクスル軸12との間には、トランスミッション21、変速出力軸22、歯車列23、前輪出力軸24、およびフロントデファレンシャル機構25等からなる前輪動力伝達経路(第1動力伝達経路)26が設けられている。なお、エンジン20には、発電電動機であるISG(Integrated Starter Generator)27が連結されている。また、トランスミッション21には、図示しないトルクコンバータや変速機構等が組み込まれている。
【0012】
後輪駆動系16は、第1クラッチCL1を介して前輪動力伝達経路26に連結される動力分割ユニット30を有している。この動力分割ユニット30のユニット出力軸31には後輪出力軸32が連結されており、後輪出力軸32にはリヤデファレンシャル機構33を介してリヤアクスル軸15が連結されている。つまり、前輪動力伝達経路26とリヤアクスル軸15との間には、動力分割ユニット30、ユニット出力軸31、後輪出力軸32およびリヤデファレンシャル機構33等からなる後輪動力伝達経路(第2動力伝達経路)34が設けられている。
【0013】
[動力分割ユニット]
後輪動力伝達経路34に設けられる動力分割ユニット30は、遊星歯車機構(動力分割機構)40、第2クラッチCL2、ブレーキBRおよびモータジェネレータ(電動モータ)41を有している。また、動力分割ユニット30を構成する遊星歯車機構40は、リングギヤ(第1回転要素)Rと、リングギヤRに噛み合うピニオンPを回転自在に支持するキャリア(第2回転要素)Cと、ピニオンPに噛み合うサンギヤ(第3回転要素)Sと、を有している。リングギヤRには第1クラッチCL1を介して前輪動力伝達経路26が連結されており、キャリアCにはユニット出力軸31等を介してリヤアクスル軸15が連結されており、サンギヤSには中空軸42および歯車列43を介してモータジェネレータ41が連結されている。後述するように、遊星歯車機構40は、共線図上で、リングギヤRとサンギヤSとが両端に配置される構成を有している。
【0014】
動力分割ユニット30に設けられる第2クラッチCL2は、スリップ状態に制御可能な摩擦クラッチである。この第2クラッチCL2は、キャリアCに連結されるクラッチハブ50と、サンギヤSに中空軸42を介して連結されるクラッチドラム51と、クラッチハブ50とクラッチドラム51との間に設けられる複数の摩擦プレート52と、を有している。第2クラッチCL2を締結状態に制御することにより、遊星歯車機構40のキャリアCとサンギヤSとは互いに拘束され、遊星歯車機構40の差動動作が禁止される。一方、第2クラッチCL2を解放状態に制御することにより、キャリアCとサンギヤSとの拘束は解除され、遊星歯車機構40の差動動作が許容される。なお、第2クラッチCL2は、クラッチドラム51内に油圧室53を備えた油圧クラッチである。
【0015】
動力分割ユニット30に設けられるブレーキBRは、引き摺り抵抗の少ない噛合ブレーキである。このブレーキBRは、リングギヤRに連結されるブレーキハブ60と、動力分割ユニット30のハウジング61に連結されるブレーキハブ62と、これらブレーキハブ60,62の外周部に噛み合うブレーキスリーブ63と、を有している。また、ブレーキスリーブ63には、油圧アクチュエータ64のスライドフォーク65が取り付けられている。油圧アクチュエータ64によってブレーキスリーブ63を矢印α方向にスライドさせると、双方のブレーキハブ60,62にブレーキスリーブ63が噛み合い、ブレーキBRはリングギヤRを制動する締結状態に制御される。一方、油圧アクチュエータ64によってブレーキスリーブ63を矢印β方向にスライドさせると、一方のブレーキハブ62からブレーキスリーブ63が外れ、ブレーキBRはリングギヤRの制動を解除する解放状態に制御される。
【0016】
前述したように、前輪動力伝達経路26と後輪動力伝達経路34との間には、噛合クラッチである第1クラッチCL1が設けられている。この第1クラッチCL1は、変速出力軸22に連結されるクラッチハブ70と、リングギヤRに連結されるクラッチハブ71と、これらクラッチハブ70,71の外周部に噛み合うクラッチスリーブ72と、を有している。また、クラッチスリーブ72には、油圧アクチュエータ73のスライドフォーク74が取り付けられている。油圧アクチュエータ73によってクラッチスリーブ72を矢印α方向にスライドさせると、双方のクラッチハブ70,71にクラッチスリーブ72が噛み合い、第1クラッチCL1は双方の動力伝達経路26,34を互いに連結する締結状態に制御される。一方、油圧アクチュエータ73によってクラッチスリーブ72を矢印β方向にスライドさせると、一方のクラッチハブ71からクラッチスリーブ72が外れ、第1クラッチCL1は双方の動力伝達経路26,34の連結を解除する解放状態に制御される。
【0017】
[制御系]
続いて、車両用駆動装置10の制御系について説明する。
図2は車両用駆動装置10の制御系の一例を示す図である。
図2に示すように、車両用駆動装置10は、動力分割ユニット30等を制御するため、マイコン等からなるメインコントローラ80を有している。後述するように、車両用駆動装置10は、車両の走行モードとして、モータジェネレータ41によって後輪駆動系16を駆動する後輪駆動モードと、エンジン20およびモータジェネレータ41によって前輪駆動系13および後輪駆動系16を駆動する全輪駆動モードと、を有している。そこで、メインコントローラ80には、後輪駆動モードを実行する第1走行制御部(モータ走行制御部)81と、全輪駆動モードを実行する第2走行制御部(分配トルク制御部)82と、が設けられている。
【0018】
また、メインコントローラ80には、エンジン20の運転状態を制御するエンジンコントローラ83、車両の走行速度である車速を検出する車速センサ84、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルセンサ85、およびブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキセンサ86等が接続されている。そして、メインコントローラ80は、各種センサやコントローラからの情報に基づき制御信号を生成し、エンジンコントローラ83、バルブユニット87、インバータ88等に対して制御信号を出力する。つまり、メインコントローラ80の第1走行制御部81や第2走行制御部82は、エンジンコントローラ83を介してエンジン20やISG27を制御し、油圧制御用のバルブユニット87を介してクラッチCL1,CL2やブレーキBRを制御し、電力変換機器であるインバータ88を介してモータジェネレータ41を制御する。なお、モータジェネレータ41には、インバータ88を介してバッテリ89が接続されている。
【0019】
[走行モードの概要]
続いて、各走行モードにおける車両用駆動装置10の作動状態について詳細に説明する。
図3は各走行モードにおけるクラッチCL1,CL2、ブレーキBRおよびエンジン20の作動状況を示す図である。
【0020】
図3に示すように、車両の走行モードとして、後輪駆動系16を駆動する後輪駆動モードがあり、前輪駆動系13と後輪駆動系16との双方を駆動する全輪駆動モードがある。後輪駆動モードにおいては、第1クラッチCL1の解放によって前輪駆動系13と後輪駆動系16とが切り離され、モータジェネレータ41によって後輪駆動系16が駆動される。このように、モータジェネレータ41を用いて走行する後輪駆動モードとして、低速走行時に実施される第1EVモードがあり、中高速走行時に実施される第2EVモードがある。また、全輪駆動モードにおいては、第1クラッチCL1の締結によって前輪駆動系13と後輪駆動系16とが連結され、エンジン20およびモータジェネレータ41によって前輪駆動系13および後輪駆動系16が駆動される。この全輪駆動モードとして、モータジェネレータ41を用いて遊星歯車機構40の差動動作を制御するトルク分配モードがあり、第2クラッチCL2を用いて遊星歯車機構40の差動動作を制限する差動制限モードがある。
【0021】
これらの走行モードは、メインコントローラ80によって、車速や要求駆動力等に基づき設定される。例えば、要求駆動力の小さなモータ走行領域では、車速に応じて第1EVモードや第2EVモードが設定される。つまり、モータ走行領域での低車速時には第1EVモードが設定され、モータ走行領域での中高車速時には第2EVモードが設定される。また、アクセルペダルの踏み込み等によって要求駆動力が増加し、要求駆動力が所定のモータ走行領域を超える場合には、エンジン20およびモータジェネレータ41によって前輪11および後輪14を駆動するトルク分配モードが設定される。また、バッテリ89のSOC低下等によってモータジェネレータ41の制御が困難な場合や、前輪11や後輪14の空転を防止して車両の走破性を高める場合等には、遊星歯車機構40の差動動作を制限する差動制限モードが設定される。
【0022】
[後輪駆動モード]
(第1EVモード)
まず、第1EVモードについて説明する。
図4は第1EVモードにおける車両用駆動装置10を示す概略図であり、
図5は第1EVモードにおける遊星歯車機構40の差動状況の一例を示す共線図である。なお、
図4に示す黒塗りの矢印は、トルクの伝達状況を示している。また、
図5の共線図において、符号Sはサンギヤを示し、符号Cはキャリアを示し、符号Rはリングギヤを示している。
【0023】
図3および
図4に示すように、第1EVモードにおいては、第1クラッチCL1が解放状態に制御され、第2クラッチCL2が解放状態に制御され、ブレーキBRが締結状態に制御され、かつエンジン20が停止状態に制御される。この状態のもとで、モータジェネレータ41を力行状態に制御することにより、モータジェネレータ41から出力されるモータトルクは、各回転要素が差動回転する遊星歯車機構40を経て後輪14に伝達される。これにより、モータジェネレータ41によって後輪14を駆動することができ、モータトルクによって車両を走行させることができる。
【0024】
つまり、
図5に示すように、停車状態(線L1)から車両を発進させる際には、矢印a1で示すように、モータジェネレータ41が正転方向に駆動される。これにより、矢印b1で示すように、キャリアCを正転方向に駆動することができ、後輪14を前進方向に駆動して車両を前進させることができる。一方、矢印a2で示すように、モータジェネレータ41を逆転方向に駆動することにより、矢印b2で示すように、キャリアCを逆転方向に駆動することができ、後輪14を後退方向に駆動して車両を後退させることができる。なお、第2クラッチCL2を解放して遊星歯車機構40の差動動作を許容することにより、遊星歯車機構40を減速歯車列として機能させることができ、モータトルクを増幅させて後輪14に伝達することができる。
【0025】
(第2EVモード)
続いて、第2EVモードについて説明する。
図6は第2EVモードにおける車両用駆動装置10を示す概略図であり、
図7は第1EVモードから第2EVモードに切り替える際の遊星歯車機構40の差動状況の一例を示す共線図である。なお、
図6に示す黒塗りの矢印は、トルクの伝達状況を示している。また、
図7の共線図において、符号Sはサンギヤを示し、符号Cはキャリアを示し、符号Rはリングギヤを示している。
【0026】
図3および
図6に示すように、第2EVモードにおいては、第1クラッチCL1が解放状態に制御され、第2クラッチCL2が締結状態に制御され、ブレーキBRが解放状態に制御され、かつエンジン20が停止状態に制御される。この状態のもとで、モータジェネレータ41を力行状態に制御することにより、モータジェネレータ41から出力されるモータトルクは、各回転要素が一体に回転する遊星歯車機構40を経て後輪14に伝達される。このように、第2クラッチCL2を締結して遊星歯車機構40の差動動作を禁止することにより、前述した第1EVモードに比べて、キャリアCやこれに連結される後輪14の回転速度を高めることができる。これにより、モータジェネレータ41の回転速度を過度に上昇させることなく、幅広い車速領域でモータ走行を維持することができる。
【0027】
また、車速上昇に伴って第1EVモードから第2EVモードに切り替える際には、
図3に示すように、ブレーキBRが解放状態に制御され、第2クラッチCL2が締結状態に制御される。つまり、
図7に示すように、第1EVモードでの走行状態(線L2)から、第2EVモードでの走行状態(線L3)に切り替える際には、ブレーキBRを解放してリングギヤRの拘束を解くとともに、矢印a1で示すように、キャリアCに対してサンギヤSを同期させるようにモータジェネレータ41を減速させる。
【0028】
そして、キャリアCとサンギヤSとの回転速度が同期したタイミングで、第2クラッチCL2が締結状態に制御される。ここで、第2クラッチCL2は摩擦クラッチであることから、キャリアCとサンギヤSとの回転速度が完全に一致していない場合であっても、第2クラッチCL2を締結状態に制御することができ、第1EVモードから第2EVモードに走行モードを容易に切り替えることができる。なお、第2EVモードにおいては、遊星歯車機構40の各回転要素が一体に回転するため、モータジェネレータ41の回転速度を上げることにより(矢印a2)、後輪14の回転速度を上げることができ(矢印b2)、モータジェネレータ41の回転速度を下げることにより(矢印a3)、後輪14の回転速度を下げることができる(矢印b3)。
【0029】
これまで説明したように、モータ走行を行う後輪駆動モードにおいては、第1クラッチCL1を解放した状態のもとで、モータジェネレータ41が力行状態に制御される。そして、車速が閾値(例えば30km/h)を下回る領域では、第2クラッチCL2が解放され、かつブレーキBRが締結される。このように、低車速領域において第1EVモードを実行することにより、モータトルクを増幅させて後輪14を駆動することができるため、小型のモータジェネレータ41を用いて車両を発進させることができる。一方、車速が閾値(例えば30km/h)を上回る領域では、第2クラッチCL2が締結され、かつブレーキBRが解放される。このように、中高車速領域において第2EVモードを実行することにより、第1EVモードに比べて後輪14の回転速度を高めることができるため、モータジェネレータ41の回転速度を過度に上昇させることなく、幅広い車速領域でモータ走行を維持することができる。なお、第1EVモードや第2EVモードにおいては、トランスミッション21内の図示しないクラッチが解放されており、停止中のエンジン20は前輪駆動系13から切り離されている。
【0030】
[全輪駆動モード]
(トルク分配モード)
続いて、トルク分配モードについて説明する。
図8はトルク分配モードにおける車両用駆動装置10を示す概略図であり、
図9および
図10はトルク分配モードにおける遊星歯車機構40の差動状況の一例を示す共線図である。なお、
図8に示す黒塗りの矢印は、トルクの伝達状況を示している。また、
図9および
図10の共線図において、符号Sはサンギヤを示し、符号Cはキャリアを示し、符号Rはリングギヤを示している。なお、以下の説明において、前輪側の分配トルクとは、前輪11に分配されるエンジントルクやモータトルクであり、後輪側の分配トルクとは、後輪14に分配されるエンジントルクやモータトルクである。
【0031】
図3および
図8に示すように、トルク分配モードにおいては、第1クラッチCL1が締結状態に制御され、第2クラッチCL2が解放状態に制御され、ブレーキBRが解放状態に制御され、かつエンジン20が運転状態に制御される。つまり、
図8に示すように、第1クラッチCL1の締結によって前後の動力伝達経路26,34が接続されるため、エンジントルクは前輪動力伝達経路26を介して前輪11に伝達されるだけでなく、エンジントルクは後輪動力伝達経路34を介して後輪14に伝達される。また、第2クラッチCL2およびブレーキBRが解放されるため、遊星歯車機構40の差動動作については、リングギヤRに入力されるエンジントルクと、サンギヤSに入力されるモータトルクと、に応じて制御される。後述するように、トルク分配モードにおいては、モータジェネレータ41を力行状態または回生状態に制御することにより、遊星歯車機構40の差動動作を制御して前後のトルク分配比を調整する。
【0032】
図9に示すように、前輪11と後輪14とを駆動するトルク分配モードにおいて、車速を上昇させる際には、エンジン20の回転速度(以下、エンジン回転数と記載する。)を上げることにより、リングギヤRの回転速度を上昇させる(矢印a1)。そして、リングギヤRの回転速度の上昇幅に合わせるように、モータジェネレータ41の回転速度(以下、モータ回転数と記載する。)を上げることにより、サンギヤSの回転速度を上昇させる(矢印b1)。これにより、リングギヤRとキャリアCとの回転速度、つまり前輪11と後輪14との回転速度を共に上げることができ(矢印a1,c1)、車速を上昇させることができる。一方、車速を低下させる際には、エンジン回転数を下げることにより、リングギヤRの回転速度を低下させる(矢印a2)。そして、リングギヤRの回転速度の下降幅に合わせるように、モータ回転数を下げることにより、サンギヤSの回転速度を低下させる(矢印b2)。これにより、リングギヤRとキャリアCとの回転速度、つまり前輪11と後輪14との回転速度を共に下げることができ(矢印a2,c2)、車速を低下させることができる。
【0033】
このトルク分配モードにおいては、遊星歯車機構40の差動動作を制御することにより、前輪11と後輪14とのトルク分配比が目標値に向けて制御される。
図10に示すように、トルク分配モードにおいて、前輪側の分配トルクを増加させて後輪側の分配トルクを減少させる際には、矢印α1で示すように、モータジェネレータ41から正転側に出力されるモータトルク(回転トルク)が下げられる。つまり、モータジェネレータ41を回生状態に制御することにより、サンギヤSに対して制動トルクつまり減速トルクが与えられる。このように、サンギヤSを制動することにより、
図10に線L4で示すように、後輪側のキャリアCに減速トルクを与えることができ(矢印α2)、前輪側のリングギヤRに加速トルクを与えることができる(矢印α3)。これにより、後輪側の分配トルクを減少させることができ、前輪側の分配トルクを増加させることができる。なお、サンギヤSに与える減速トルクの大きさに応じて、キャリアCの減速トルクやリングギヤRの加速トルクの大きさを調整することができるため、後輪側の分配トルクの減少量や前輪側の分配トルクの増加量を自在に調整することが可能である。
【0034】
一方、トルク分配モードにおいて、前輪側の分配トルクを減少させて後輪側の分配トルクを増加させる際には、矢印β1で示すように、モータジェネレータ41から正転側に出力されるモータトルク(回転トルク)が上げられる。つまり、モータジェネレータ41を力行状態に制御することにより、サンギヤSに対して加速トルクが与えられる。このように、サンギヤSを加速させることにより、
図10に線L5で示すように、後輪側のキャリアCに加速トルクを与えることができ(矢印β2)、前輪側のリングギヤRに減速トルクを与えることができる(矢印β3)。これにより、後輪側の分配トルクを増加させることができ、前輪側の分配トルクを減少させることができる。なお、サンギヤSに与える加速トルクの大きさに応じて、キャリアCの加速トルクやリングギヤRの減速トルクの大きさを調整することができるため、後輪側の分配トルクの増加量や前輪側の分配トルクの減少量を自在に調整することが可能である。
【0035】
このように、トルク分配モードにおいては、モータジェネレータ41のモータトルクを減速側(一方側)に変化させることにより、前輪側の分配トルクを増加させて後輪側の分配トルクを減少させることができる。一方、モータジェネレータ41のモータトルクを加速側(他方側)に変化させることにより、前輪側の分配トルクを減少させて後輪側の分配トルクを増加させることができる。このように、トルク分配モードにおいては、モータトルクを減速側や加速側に変化させることにより、前後のトルク分配比を自在に調整することが可能である。なお、
図10に示した例では、トルク作用方向を明確にするため、当初の線Lxから線L4,L5を大きく傾けて表示しているが、モータトルクを減速側や加速側に変化させた場合であっても、前輪11と後輪14とに回転速度差が生じていない場合には、線Lxが傾くことはなく水平に維持される。
【0036】
(差動制限モード)
前述したように、トルク分配モードにおいては、モータジェネレータ41を力行状態や回生状態に制御することにより、前輪11と後輪14とのトルク分配比を制御することが可能である。しかしながら、バッテリ89のSOC(充電状態:State of Charge)の過度な上昇や低下により、モータジェネレータ41を力行状態や回生状態に制御することが困難である場合等には、トルク分配モードに代えて差動制限モードが実行される。続いて、差動制限モードについて説明する。
【0037】
図11は差動制限モードにおける車両用駆動装置10を示す概略図であり、
図12は差動制限モードにおける遊星歯車機構40の差動状況の一例を示す共線図である。なお、
図11に示す黒塗りの矢印は、トルクの伝達状況を示している。また、
図12の共線図において、符号Sはサンギヤを示し、符号Cはキャリアを示し、符号Rはリングギヤを示している。
【0038】
図3および
図11に示すように、差動制限モードにおいては、第1クラッチCL1が締結状態に制御され、第2クラッチCL2がスリップ状態または締結状態に制御され、ブレーキBRが解放状態に制御され、かつエンジン20が運転状態に制御される。つまり、
図11に示すように、第1クラッチCL1の締結によって前後の動力伝達経路26,34が接続されるため、エンジントルクは前輪動力伝達経路26を介して前輪11に伝達されるだけでなく、エンジントルクは後輪動力伝達経路34を介して後輪14に伝達される。また、第2クラッチCL2がスリップ状態または締結状態に制御されるため、第2クラッチCL2の締結力に応じて遊星歯車機構40の差動動作が制限される。
【0039】
図12に示すように、差動制限モードにおいて、車速を上昇させる際には、エンジン回転数を上げることにより、リングギヤRの回転速度を上昇させる(矢印a1)。これにより、後輪側のキャリアCの回転速度を上昇させることができ(矢印b1)、車速を上昇させることができる。一方、車速を低下させる際には、エンジン回転数を下げることにより、リングギヤRの回転速度を低下させる(矢印a2)。これにより、後輪側のキャリアCの回転速度を低下させることができ(矢印b2)、車速を低下させることができる。なお、差動制限モードにおいて、第2クラッチCL2の締結力を弱めた場合には、遊星歯車機構40の差動動作が許容されるため、車両用駆動装置10の特性は前輪駆動車用のパワートレインに近づくことになる。一方、差動制限モードにおいて、第2クラッチCL2の締結力を強めた場合には、遊星歯車機構40の差動動作が禁止されるため、車両用駆動装置10の特性は前輪11と後輪14とを直結したパワートレインに近づくことになる。
【0040】
なお、前述の説明では、モータジェネレータ41の適切な制御が困難である場合に、トルク分配モードに代えて差動制限モードを実行しているが、これに限られることはない。例えば、前輪11や後輪14の空転を防止して車両の走破性を高める場合に、遊星歯車機構40の差動動作を制限する差動制限モードを実行しても良い。また、差動制限モードを実行する際に、エンジン20の運転状態を積極的に制御するだけでなく、モータジェネレータ41を積極的に力行状態や回生状態に制御しても良いことはいうまでもない。
【0041】
(トルク分配モード:他の実施形態)
前述した
図9に示すように、トルク分配モードで車両を走行させた場合には、遊星歯車機構40を構成する各回転要素、つまりリングギヤR、キャリアCおよびサンギヤSの回転速度が互いに一致している。つまり、各回転要素の回転速度が互いに一致するように、歯車列23、フロントデファレンシャル機構25およびリヤデファレンシャル機構33等のギヤ比が設定されているが、これに限られることはない。例えば、トルク分配モードで車両を走行させた場合に、リングギヤR、キャリアCおよびサンギヤSの回転速度が互いに離れるように、歯車列23、フロントデファレンシャル機構25およびリヤデファレンシャル機構33等のギヤ比を設定しても良い。
【0042】
ここで、
図13はトルク分配モードにおける遊星歯車機構40の差動状況の他の例を示す共線図である。なお、
図13の共線図において、符号Sはサンギヤを示し、符号Cはキャリアを示し、符号Rはリングギヤを示している。
図13に示すように、所定車速で車両を走行させた場合において、モータジェネレータ41に連結されるサンギヤSの回転速度が「0」付近に位置するように、歯車列23、フロントデファレンシャル機構25およびリヤデファレンシャル機構33等のギヤ比を設定しても良い。このように、歯車列23、フロントデファレンシャル機構25およびリヤデファレンシャル機構33等のギヤ比を設定することにより、トルク分配モードを実行する際のモータ回転数を低く抑えることができるため、モータジェネレータ41の消費電力を抑制することが可能である。
【0043】
また、
図13に示すように、サンギヤSの回転速度が「0」付近に位置するように各種ギヤ比を設定した場合であっても、モータジェネレータ41のモータトルクを制御することにより、前輪11と後輪14とのトルク分配比を制御することが可能である。
図13に示すように、前輪側の分配トルクを増加させて後輪側の分配トルクを減少させる際には、矢印α1で示すように、モータジェネレータ41から逆転側にモータトルク(回転トルク)が出力される。つまり、モータジェネレータ41を逆転側に回転駆動することにより、サンギヤSに対して逆転側の加速トルクが与えられる。このように、サンギヤSを逆転側に加速させることにより、後輪側のキャリアCに減速トルクを与えることができ(矢印α2)、前輪側のリングギヤRに加速トルクを与えることができる(矢印α3)。これにより、後輪側の分配トルクを減少させることができ、前輪側の分配トルクを増加させることができる。
【0044】
一方、前輪側の分配トルクを減少させて後輪側の分配トルクを増加させる際には、矢印β1で示すように、モータジェネレータ41から正転側にモータトルクが出力される。つまり、モータジェネレータ41を正転側に回転駆動することにより、サンギヤSに対して正転側の加速トルクが与えられる。このように、サンギヤSを正転側に加速させることにより、後輪側のキャリアCに加速トルクを与えることができ(矢印β2)、前輪側のリングギヤRに減速トルクを与えることができる(矢印β3)。これにより、後輪側の分配トルクを増加させることができ、前輪側の分配トルクを減少させることができる。
【0045】
このように、
図13に示したトルク分配モードにおいては、モータジェネレータ41のモータトルクを逆転側(一方側)に変化させることにより、前輪側の分配トルクを増加させて後輪側の分配トルクを減少させることができる。一方、モータジェネレータ41のモータトルクを正転側(他方側)に変化させることにより、前輪側の分配トルクを減少させて後輪側の分配トルクを増加させることができる。このように、トルク分配モードにおいては、モータトルクを逆転側と正転側とに変化させることにより、前後のトルク分配比を自在に調整することが可能である。
【0046】
[前輪および後輪の駆動力]
図14は車速と駆動力との関係を簡単に示した線図である。なお、
図14に示した特性線AWDは、前輪11および後輪14の駆動力を合算した最大値である。また、特性線Fmaxは前輪11の駆動力の最大値であり、特性線Rmaxは後輪14の駆動力の最大値である。さらに、特性線EV1は第1EVモードで得られる後輪14の駆動力の最大値であり、特性線EV2は第2EVモードで得られる後輪14の駆動力の最大値である。
【0047】
これまで説明したように、車両用駆動装置10は、走行モードとして、第1および第2EVモードを有するだけでなく、前後のトルク分配比を自在に調整可能なトルク分配モードを有している。これにより、第1および第2EVモードだけを有する駆動装置よりも、幅広い車速領域において後輪14の駆動力を増加させることができる。つまり、後輪駆動用に小型のモータジェネレータ41を採用した場合であっても、前述したトルク分配モードを実行することにより、後輪14に対して積極的にエンジントルクを分配することができるため、
図14にハッチングで示すように、幅広い車速領域において後輪14の駆動力を増加させることが可能である。
【0048】
このように、車両用駆動装置10は、幅広い車速領域でのモータ走行が可能な第1および第2EVモードを有するだけでなく、前後のトルク分配比を自在に調整可能なトルク分配モードを有しているが、これらの走行モードは簡単な構成によって実現されている。つまり、
図1に示した例では、エンジン20やトランスミッション21からなる前輪駆動系13を備えた車両に対し、動力分割ユニット30を備えた後輪駆動系16を追加するだけの簡単な構成によって、第1EVモード、第2EVモードおよびトルク分配モードを実現することが可能である。
【0049】
[他の実施形態]
図1に示した例では、車両用駆動装置10を構成する動力分割ユニット30を、リヤデファレンシャル機構33に対して別個に設けているが、これに限られることはなく、動力分割ユニット30とリヤデファレンシャル機構33とを一体に設けても良い。ここで、
図15は本発明の他の実施の形態である車両用駆動装置90を示す概略図である。なお、
図15において、
図1に示した部品や構成と同様の部品や構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0050】
図15に示すように、車両に搭載される車両用駆動装置90は、前輪11に連結されたフロントアクスル軸(第1駆動軸)12を駆動する前輪駆動系13と、後輪14に連結されたリヤアクスル軸(第2車軸)15を駆動する後輪駆動系16と、を有している。また、前輪駆動系13にはプロペラシャフト91等からなる動力伝達系92が連結されており、動力伝達系92には第1クラッチCL1を介して後輪駆動系16が連結されている。つまり、前輪駆動系13と後輪駆動系16との間には、動力伝達系92および第1クラッチCL1が設けられている。
【0051】
前輪駆動系13は、エンジン(動力源)20と、これに連結されるトランスミッション21と、を有している。トランスミッション21の変速出力軸22には歯車列23を介して前輪出力軸24が連結されており、前輪出力軸24にはフロントデファレンシャル機構25を介してフロントアクスル軸12が連結されている。つまり、エンジン20とフロントアクスル軸12との間には、トランスミッション21、変速出力軸22、歯車列23、前輪出力軸24、およびフロントデファレンシャル機構25等からなる前輪動力伝達経路(第1動力伝達経路)26が設けられている。
【0052】
後輪駆動系16は、動力伝達系92および第1クラッチCL1を介して前輪動力伝達経路26に連結される動力分割ユニット30を有している。この動力分割ユニット30のユニット出力軸31には、リヤデファレンシャル機構33を介してリヤアクスル軸15が連結されている。つまり、前輪動力伝達経路26とリヤアクスル軸15との間には、動力分割ユニット30、ユニット出力軸31およびリヤデファレンシャル機構33等からなる後輪動力伝達経路(第2動力伝達経路)34が設けられている。
【0053】
後輪動力伝達経路34に設けられる動力分割ユニット30は、遊星歯車機構(動力分割機構)40、第2クラッチCL2、ブレーキBRおよびモータジェネレータ(電動モータ)41を有している。また、動力分割ユニット30を構成する遊星歯車機構40は、リングギヤ(第1回転要素)Rと、リングギヤRに噛み合うピニオンPを回転自在に支持するキャリア(第2回転要素)Cと、ピニオンPに噛み合うサンギヤ(第3回転要素)Sと、を有している。リングギヤRには動力伝達系92および第1クラッチCL1を介して前輪動力伝達経路26が連結されており、キャリアCにはユニット出力軸31およびリヤデファレンシャル機構33を介してリヤアクスル軸15が連結されており、サンギヤSには中空軸42および歯車列43を介してモータジェネレータ41が連結されている。
【0054】
動力分割ユニット30に設けられる第2クラッチCL2は、スリップ状態に制御可能な摩擦クラッチである。第2クラッチCL2を締結状態に制御することにより、遊星歯車機構40のキャリアCとサンギヤSとは互いに拘束され、遊星歯車機構40の差動動作が禁止される。一方、第2クラッチCL2を解放状態に制御することにより、キャリアCとサンギヤSとの拘束は解除され、遊星歯車機構40の差動動作が許容される。また、動力分割ユニット30に設けられるブレーキBRは、引き摺り抵抗の少ない噛合ブレーキである。ブレーキBRを締結状態に制御することにより、ハウジング61に拘束されてリングギヤRは制動される。一方、ブレーキBRを解放状態に制御することにより、ハウジング61との拘束が解かれてリングギヤRの制動は解除される。
【0055】
前述したように、前輪動力伝達経路26と後輪動力伝達経路34との間には、動力伝達系92および第1クラッチCL1が設けられている。また、動力伝達系92は、変速出力軸22に連結されるプロペラシャフト91と、プロペラシャフト91に第3クラッチCL3を介して連結される小歯車93と、小歯車93に噛み合う大歯車94と、を有している。さらに、動力伝達系92の大歯車94には、第1クラッチCL1のクラッチハブ70が連結されている。このように、前後の動力伝達経路26,34の間に設けられる第1クラッチCL1および第3クラッチCL3は、引き摺り抵抗の少ない噛合クラッチである。第1および第3クラッチCL1,CL3を締結状態に制御することにより、双方の動力伝達経路26,34が互いに連結される。一方、第1および第3クラッチCL1,CL3を解放状態に制御することにより、双方の動力伝達経路26,34が互いに切り離される。
【0056】
図15に示すように、車両用駆動装置90を構成する動力分割ユニット30を、リヤデファレンシャル機構33に対して一体に設けた場合であっても、
図1に示した車両用駆動装置10と同様に、第1EVモード、第2EVモード、トルク分配モードおよび差動制限モードを実行することができる。つまり、前述した車両用駆動装置10と同様に、各走行モードに対応して、クラッチCL1,CL2、ブレーキBR、エンジン20、モータジェネレータ41を制御することにより、第1EVモード、第2EVモード、トルク分配モードおよび差動制限モードを実行することができる。
【0057】
また、第3クラッチCL3については、第1クラッチCL1と同様に制御される。つまり、第1EVモードや第2EVモードを実行する際には、第3クラッチCL3が解放状態に制御される一方、トルク分配モードや差動制限モードを実行する際には、第3クラッチCL3が締結状態に制御される。なお、車両用駆動装置90においては、第1EVモードや第2EVモードを実行する際に、第3クラッチCL3を解放することにより、小歯車93や大歯車94の回転を停止させる。これにより、車両の走行抵抗を低減することができるため、第1および第2EVモードにおけるモータジェネレータ41の消費電力を抑制することができる。
【0058】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、動力源として内燃機関であるエンジン20を用いているが、これに限られることはない。例えば、動力源としてエンジン20およびモータジェネレータを用いても良く、動力源としてモータジェネレータのみを用いても良い。つまり、本発明の車両用駆動装置を、ハイブリッド車両や電気自動車に搭載しても良い。また、前述の説明では、前輪駆動系13にエンジン20を設ける一方、後輪駆動系16にモータジェネレータ41を備えた動力分割ユニット30を設けているが、これに限られることはない。例えば、前輪駆動系13にモータジェネレータ41を備えた動力分割ユニット30を設ける一方、後輪駆動系16にエンジン20を設けても良い。この場合には、後輪14に連結されたリヤアクスル軸15が第1車軸として機能し、前輪11に連結されたフロントアクスル軸12が第2車軸として機能する。
【0059】
前述の説明では、動力分割ユニット30の回転抵抗を低減するとともに、各走行モードの切替制御を容易にするため、第1クラッチCL1として噛合クラッチを用い、第2クラッチCL2として摩擦クラッチを用い、ブレーキBRとして噛合ブレーキを用いているが、これに限られることはない。例えば、第1クラッチCL1として摩擦クラッチを用いても良く、第2クラッチCL2として噛合クラッチを用いても良く、ブレーキBRとして摩擦ブレーキを用いても良い。また、噛合クラッチや噛合ブレーキの構造として、ハブおよびスリーブ等からなる構造を例示しているが、これに限られることはない。例えば、噛合クラッチや噛合ブレーキの構造として、内輪と外輪との間に複数のカムを配置した構造であっても良い。
【0060】
前述の説明では、第2クラッチCL2を締結状態に切り替えることにより、キャリアCとサンギヤSとを互いに拘束し、遊星歯車機構40の差動動作が禁止しているが、これに限られることはない。例えば、遊星歯車機構40の差動動作を禁止する際には、遊星歯車機構40を構成する各回転要素の少なくとも2つを拘束すれば良い。このため、第2クラッチCL2を締結することにより、キャリアCとリングギヤRとを拘束しても良く、サンギヤSとリングギヤRとを拘束しても良く、キャリアCとサンギヤSとリングギヤRとを拘束しても良い。
【0061】
前述の説明では、第1回転要素であるリングギヤRに第1クラッチCL1が連結されており、第3回転要素であるサンギヤSにモータジェネレータ41が連結されているが、これに限られることはない。例えば、サンギヤSに第1クラッチCL1を連結し、リングギヤRにモータジェネレータ41を連結しても良い。この場合には、第1クラッチCL1に連結されたサンギヤSが第1回転要素として機能し、モータジェネレータ41に連結されたリングギヤRが第3回転要素として機能する。また、図示する例では、動力分割機構として、シングルピニオン型の遊星歯車機構40を設けているが、これに限られることはない。例えば、動力分割機構として、ダブルピニオン型やラビニョウ型等の遊星歯車機構を採用しても良く、複数のベベルギヤ等からなる動力分割機構を採用しても良い。
【0062】
前述の説明では、バッテリ89のSOCの過度な上昇や低下によって、モータジェネレータ41の制御が困難である場合に、トルク分配モードに代えて差動制限モードを実行しているが、これに限られることはない。例えば、トルク分配モードにおいて、バッテリ89のSOCが過度に低下した場合には、エンジン20に連結されるISG27を発電状態に制御することにより、バッテリ89を充電しながらトルク分配モードを継続させても良い。また、トルク分配モードにおいて、バッテリ89のSOCが過度に上昇した場合には、エンジン20に連結されるISG27を力行状態に制御することにより、バッテリ89を放電させながらトルク分配モードを継続させても良い。
【0063】
前述したように、車両の走行モードとして、第1EVモード、第2EVモード、トルク分配モードおよび差動制限モードを有しているが、これらの各走行モード間においては走行モードを自在に切り替えることが可能である。例えば、エンジン20を始動してクラッチCL1,CL2やブレーキBRを制御することにより、第1EVモードからトルク分配モードや差動制限モードに走行モードを切り替えても良い。また、前述の説明では、第1EVモードを用いて車両を発進させているが、これに限られることはなく、第2EVモードを用いて車両を発進させても良く、トルク分配モードや差動制限モードを用いて車両を発進させても良い。
【0064】
また、トルク分配モードや差動制限モードでの走行中に、アクセルペダルの踏み込みが解除された場合や、ブレーキペダルが踏み込まれた場合には、走行モードが、トルク分配モードや差動制限モードから、第1EVモードや第2EVモードに切り替えられる。これにより、前輪11や後輪14からエンジン20を切り離して停止させることができるため、車両減速度を過度に高めることなくモータジェネレータ41の回生電力を高めることができ、車両のエネルギー効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 車両用駆動装置
11 前輪
12 フロントアクスル軸(第1車軸)
14 後輪
15 リヤアクスル軸(第2車軸)
20 エンジン(動力源)
26 前輪動力伝達経路(第1動力伝達経路)
34 後輪動力伝達経路(第2動力伝達経路)
40 遊星歯車機構(動力分割機構)
41 モータジェネレータ(電動モータ)
81 第1走行制御部(モータ走行制御部)
82 第2走行制御部(分配トルク制御部)
90 車両用駆動装置
R リングギヤ(第1回転要素)
C キャリア(第2回転要素)
S サンギヤ(第3回転要素)
CL1 第1クラッチ(噛合クラッチ)
CL2 第2クラッチ(摩擦クラッチ)
BR ブレーキ(噛合ブレーキ)