(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】紫外線硬化性塗料組成物、その硬化方法、及び硬化塗膜
(51)【国際特許分類】
C09D 4/00 20060101AFI20230221BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20230221BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230221BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230221BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20230221BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C09D4/00
C09D4/02
C09D7/63
C09D7/61
B05D3/06 102Z
B05D7/24 301T
(21)【出願番号】P 2019014724
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】津門 貢司
(72)【発明者】
【氏名】本田 清二
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/160891(WO,A1)
【文献】特開2007-191613(JP,A)
【文献】特開2018-193529(JP,A)
【文献】特開2016-050231(JP,A)
【文献】特開昭50-055663(JP,A)
【文献】特開2015-063643(JP,A)
【文献】特開2001-226611(JP,A)
【文献】特開2012-140516(JP,A)
【文献】特開2010-215843(JP,A)
【文献】特開2015-183148(JP,A)
【文献】特開2015-155499(JP,A)
【文献】特開平02-135182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 4/00
B05D 3/06
B05D 7/24
C09D 4/02
C09D 7/61
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化性樹脂又はオリゴマー(a1)と、5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマー(a2)とを含有する紫外線硬化性化合物(A)と、
着色顔料(B)と、
波長360nm以上410nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c1)と、波長340nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c2)とを含有する光重合開始剤(C)と、
を含有する紫外線硬化性塗料組成物であって、
前記着色顔料(B)が、組成物の不揮発分に対して0.01~1質量%の黒色顔料、0.1~10質量%の赤色顔料、0.1~3質量%の黄色顔料及び0.5~18質量%の白色顔料から選ばれる少なくとも1種以上を含む紫外線硬化性塗料組成物を
基材上に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程後に得られる塗布膜に対し、UV-LEDランプにより波長350~420nmの紫外線を照射する照射工程(i)と、
前記照射工程(i)後、前記塗布膜に対し、
少なくとも波長280~350nmの紫外線を照射する照射工程(ii)と、
を行う、紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法。
【請求項2】
前記照射工程(i)と前記照射工程(ii)の波長320~445nmにおける積算光量の合計が600mJ/cm
2以上である、請求項1に記載の紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法。
【請求項3】
前記光重合開始剤(c1)が、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤であり、
前記光重合開始剤(c2)が、オキシフェニル酢酸エステル系光重合開始剤及びα-ヒドロキシケトン系光重合開始剤から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法。
【請求項4】
前記5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマー(a2)が、1分子中のアルキレンオキサイドの付加モル数が5~50モルのアルキレンオキサイド基変性(メタ)アクリレートモノマーである、請求項1~3のいずれかに記載の紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法。
【請求項5】
前記光重合開始剤(C)が、前記組成物の不揮発分に対して3~5質量%である、請求項1~4のいずれかに記載の紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法により硬化塗膜を得る、硬化塗膜の製造方法。
【請求項7】
膜厚を30~120μmとする、請求項6に記載の硬化塗膜の製造方法。
【請求項8】
紫外線硬化性塗料組成物を基材上に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程後に得られる塗布膜に対し、UV-LEDランプにより波長350~420nmの紫外線を照射する照射工程(i)と、
前記照射工程(i)後、前記塗布膜に対し、少なくとも波長280~350nmの紫外線を照射する照射工程(ii)と、
を行う、紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法に使用される前記紫外線硬化性塗料組成物であって、
紫外線硬化性樹脂又はオリゴマー(a1)と、5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマー(a2)とを含有する紫外線硬化性化合物(A)と、
着色顔料(B)と、
波長360nm以上410nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c1)と、波長340nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c2)とを含有する光重合開始剤(C)と、
を含有する紫外線硬化性塗料組成物であって、
前記着色顔料(B)が、組成物の不揮発分に対して0.01~1質量%の黒色顔料、0.1~10質量%の赤色顔料、0.1~3質量%の黄色顔料及び0.5~18質量%の白色顔料から選ばれる少なくとも1種以上を含
み、
前記5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマー(a2)が、1分子中のアルキレンオキサイドの付加モル数が5~50モルのアルキレンオキサイド基変性(メタ)アクリレートモノマーである、紫外線硬化性塗料組成物。
【請求項9】
前記光重合開始剤(c1)が、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤であり、
前記光重合開始剤(c2)が、オキシフェニル酢酸エステル系光重合開始剤及びα-ヒドロキシケトン系光重合開始剤から選択される少なくとも1種である、請求項
8に記載の紫外線硬化性塗料組成物。
【請求項10】
前記光重合開始剤(C)が、前記組成物の不揮発分に対して3~5質量%である、請求項
8又は9に記載の紫外線硬化性塗料組成物。
【請求項11】
請求項
8~
10のいずれか1項に記載の紫外線硬化性塗料組成物が硬化されてなる、硬化塗膜。
【請求項12】
膜厚が30~120μmである、請求項
11に記載の硬化塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化性塗料組成物、その硬化方法、及び硬化塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
家財品や調度品等に対し、エナメル塗料を塗装することにより、外観において高級感及び清潔感が得られる。エナメル塗料とは、着色顔料を含み、被塗物の下地の色を覆い隠す隠ぺい性を有する塗料を指す。
【0003】
エナメル塗料に関し、特許文献1が知られている。特許文献1の[0006]には、紫外線硬化型のエナメル塗料に調色を目的とした顔料が多く含まれている場合、紫外線が顔料によってカットされやすく、エナメル塗料は硬化不良を起こすおそれがあることが記載されており、そのおそれを解消することを課題としている。
【0004】
そして、その課題に対し、特許文献1では、[0043]に記載の手法で隠ぺい率を規定することにより解決を試みている。そして、顔料の種類に応じて隠ぺい力が異なるため、隠ぺい率に対する補正係数を採用したり([0024])、塗布量を調整することにより隠ぺい率を規定範囲に収められることが記載されている([0046][0047])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の課題の基である「紫外線硬化型のエナメル塗料を硬化させる際、照射した紫外線が顔料によってカットされやすい」ことについて、本発明者らは、特許文献1に記載の手法とは別のアプローチにて検討を行った。
【0007】
まず、特許文献1では単に「エナメル塗料は硬化不良を起こすおそれ」と記載している。本発明者らは、この硬化不良によって硬化後の塗膜の表面と内部に硬化収縮の差が発生し、この硬化収縮の差がシワという形で顕在化することに新たに着目した。
【0008】
図1は、基材に対して紫外線硬化性エナメル塗料を塗布し、一般的に用いられる水銀ランプによる紫外線照射を行って硬化塗膜を形成する際の、硬化塗膜表面および内部の硬化収縮の差の様子を示す断面概略図である。
【0009】
基材に対してエナメル塗料を塗布して硬化塗膜を形成する場合、一般的に、塗布膜の最表面側から紫外線を照射する。エナメル塗料中の顔料が多い場合、特許文献1に記載のように、紫外線が顔料によってカットされる。塗布膜の最表面側は、直接紫外線が照射されるため硬化される一方、塗布膜の深部すなわち塗布膜の基材側では、紫外線がカットされ未硬化状態となる。その結果、
図1に示すように、塗布膜の最表面側と基材側とで硬化度合いに差が生じ、ひずみが生じる。そして、硬化収縮の差によって硬化塗膜に盛り上がりが生じ、その盛り上がりはシワという形で顕在化する。この現象は、1回の塗装で十分な膜厚の硬化塗膜を形成すべく塗布量を多くする(30g/m
2以上)際に顕著である。
【0010】
前述のように、エナメル塗装を行うことにより、外観において高級感及び清潔感に優れた硬化塗膜が得られる。そのような硬化塗膜にシワが生じることにより、高級感及び清潔感の劣化は著しくなる。
【0011】
特許文献1に記載の隠ぺい率を使用する手法だと、そもそもエナメル塗料が硬化不良を起こすという課題は解決されており、このような硬化収縮の差に着目する必要もない。しかしながら本発明者らは現状に満足せず、特許文献1に記載の手法とは別のアプローチにて、硬化収縮の差についての検討を行った。
【0012】
本発明は、紫外線硬化性エナメル塗料の塗布膜内において硬化収縮の差を低減する技術、並びにその技術により使用可能となるエナメル塗料及びそれを硬化させた硬化塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題について鋭意検討した。その結果、以下の態様に記載の紫外線硬化性エナメル塗料(紫外線硬化性塗料組成物)に、UV-LEDランプによる紫外線の照射を行い、それに次いで紫外線ランプによる紫外線の照射を行うという手法を採用することにより、前記課題が解決されるという知見を得た。これは言い換えると、前記手法を採用することにより、従来のやり方では、硬化塗膜表面と内部の硬化収縮の差が生じるおそれのある紫外線硬化性エナメル塗料(紫外線硬化性塗料組成物)も、エナメル塗膜を形成可能な塗料として新たに創出可能であることを意味する。
前記知見に基づき得られた態様は以下のとおりである。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、
紫外線硬化性樹脂又はオリゴマー(a1)と、5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマー(a2)とを含有する紫外線硬化性化合物(A)と、
着色顔料(B)と、
波長360nm以上410nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c1)と、波長340nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c2)とを含有する光重合開始剤(C)と、
を含有する紫外線硬化性塗料組成物であって、
前記着色顔料(B)が、組成物の不揮発分に対して0.01~1質量%の黒色顔料、0.1~10質量%の赤色顔料、0.1~3質量%の黄色顔料及び0.5~18質量%の白色顔料から選ばれる少なくとも1種以上を含む、紫外線硬化性塗料組成物である。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様に記載の態様であって、
前記光重合開始剤(c1)が、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤であり、
前記光重合開始剤(c2)が、オキシフェニル酢酸エステル系光重合開始剤及びα-ヒドロキシケトン系光重合開始剤から選択される少なくとも1種である。
【0016】
本発明の第3の態様によれば、第1又は第2の態様に記載の態様であって、
前記5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマー(a2)が、1分子中のアルキレンオキサイドの付加モル数が5~50モルのアルキレンオキサイド基変性(メタ)アクリレートモノマーである。
【0017】
本発明の第4の態様によれば、第1~第3の態様のいずれかに記載の態様であって、
前記光重合開始剤(C)が、組成物の不揮発分に対して3~5質量%である。
【0018】
本発明の第5の態様によれば、
第1~第4の態様のいずれかに記載の紫外線硬化性塗料組成物が硬化されてなる、硬化塗膜である。
【0019】
本発明の第6の態様によれば、第5の態様に記載の態様であって、
膜厚が30~120μmである。
【0020】
本発明の第7の態様によれば、
基材上に、第1~第4の態様のいずれかに記載の紫外線硬化性塗料組成物を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程後に得られる塗布膜に対し、UV-LEDランプにより波長350~420nmの紫外線を照射する照射工程(i)と、
前記照射工程(i)後、前記塗布膜に対し、紫外線ランプにより紫外線を照射する照射工程(ii)と、
を行う、紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法である。
【0021】
本発明の第8の態様によれば、第7の態様に記載の態様であって、
前記照射工程(i)と前記照射工程(ii)の波長320~445nmにおける積算光量の合計が600mJ/cm2以上である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、紫外線硬化性エナメル塗料の塗布膜内において硬化収縮の差を低減する技術、並びにその技術により使用可能となるエナメル塗料及びそれを硬化させた硬化塗膜を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、基材に対して紫外線硬化性エナメル塗料を塗布し、水銀ランプによる紫外線照射を行って硬化塗膜を形成する際の、硬化塗膜表面および内部の硬化収縮の差の様子を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本明細書における「~」は所定の値以上かつ所定の値以下のことを指す。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルを表し、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルを表す。
また、「紫外線」は、特に断りが無い場合は、200~410nmの波長域の光を指すものとする。
また、「不揮発分」とは、沸点が100℃を超える成分のことを指すものとし、本明細書における「質量%」は、溶媒または希釈剤を併記したり不揮発分の質量%を併記していない限り、不揮発分をベースにした値である。
【0025】
<紫外線硬化性塗料組成物>
本実施形態に係る紫外線硬化性塗料組成物(すなわち紫外線硬化性エナメル塗料)は、主に以下のものが含有(配合)されてなる。
・紫外線硬化性樹脂又はオリゴマー(a1)と、5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマー(a2)とを含有する紫外線硬化性化合物(A)
・着色顔料(B)
・波長360nm以上410nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c1)と、波長340nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c2)とを含有する光重合開始剤(C)
以下、本実施形態の紫外線硬化性塗料組成物を構成する各成分について述べる。なお、以降、各成分のことを単に符号で称することもある(例:紫外線硬化性化合物(A)→成分(A))。
【0026】
<紫外線硬化性化合物(A)>
成分(A)は、紫外線硬化性樹脂又はオリゴマー(a1)と、5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマー(a2)とを含有する。
【0027】
成分(A)は、紫外線硬化性塗料組成物を塗料として使用する際に主にバインダーとしての役割を果たすものである。この役割を果たせさえすれば、成分(a1)には特に限定は無く、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレートの樹脂又はオリゴマーが挙げられるが、これに限定されるものではない。このような成分(a1)は、従来公知の方法により製造することができ、これらの中でも、本発明の塗料組成物を木質基材に塗布する際に塗膜の付着性に優れる観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。
なお、本明細書において、オリゴマーとは、主鎖にモノマー数個~100個から成る繰り返し単位から成る構造を有する化合物を指す。また、樹脂とは、主鎖にモノマー100個超の繰返し単位からなる化合物を指す。
また、(a1)成分は、後述の成分(a2)を含まない。
【0028】
成分(a2)には、5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマーを使用する。成分(a2)は、紫外線照射により硬化するエチレン性不飽和基を有し、硬化塗膜の硬度及び基材との付着性のバランスに優れる。
【0029】
更に、硬化塗膜の濡れ指数を向上させる観点から、成分(a2)が、1分子中のアルキレンオキサイド(例:エチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO))の付加モル数が5~50モルのアルキレンオキサイド基変性(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましく、アルキレンオキサイドの付加モル数が15~30モルのアルキレンオキサイド基変性(メタ)アクリレートモノマーであることがより好ましい。
このような好ましい成分(a2)としては、付加モル数が前記範囲内であるEO変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、EO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、PO変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、PO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。
【0030】
成分(A)の含有量は、紫外線硬化性塗料組成物(不揮発分)100質量%に対して、5~90質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、23~55質量%が特に好ましい。
成分(a1)の含有量は、紫外線硬化性塗料組成物(不揮発分)100質量%に対して、4~60質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。
成分(a2)の含有量は、紫外線硬化性塗料組成物(不揮発分)100質量%に対して、1~30質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましい。
【0031】
<着色顔料(B)>
成分(B)は、着色顔料であり、硬化塗膜に意匠性と隠ぺい性を付与する。本実施形態においては、着色顔料の色に応じ、紫外線硬化性塗料組成物(不揮発分)100質量%に対する質量%の範囲を以下のように規定する。
・黒:0.01~1質量%、好ましくは0.1~1質量%、より好ましくは0.3~1質量%
・赤:0.1~10質量%、好ましくは1~10質量%、より好ましくは3~10質量%
・黄:0.1~3質量%、好ましくは0.3~3質量%、より好ましくは0.8~3質量%
・白:0.5~18質量%、好ましくは3~18質量%、より好ましくは5~18質量%
【0032】
各色顔料は、顔料として公知のものを使用しても構わない。以下、あくまで一例を例示する。
黒色顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、黒色酸化鉄等が挙げられる。
赤色顔料としては、赤色酸化鉄、赤色酸化鉛、ジケトピロロピロール、ペリノン、アントラキノン、ペリレン、インジゴイド、キナクリドン等が挙げられる。
黄色顔料としては、黄色酸化鉄、亜鉛黄、クロムイエロー、イソインドリノン、イソインドリン、アゾメチン、アントラキノン、アントロン、キサンテン、ジスアゾ系顔料等が挙げられる。
白色顔料としては、二酸化チタン、亜鉛華等が挙げられる。
以降、着色顔料のことを単に顔料とも称する。
【0033】
ちなみに本実施形態においては4色の顔料を例示したが、4色の顔料を適宜組み合わせても構わない。また、青色顔料、緑色顔料等の他の色についても本発明の技術的思想を適用可能である。他の色については本発明者らが鋭意研究中である。
【0034】
<光重合開始剤(C)>
成分(C)は、波長360nm以上410nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c1)と、波長340nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c2)とを含有する。
【0035】
成分(C)は、紫外線照射によりラジカル又はカチオンを発生させて、成分(A)を重合させることで、紫外線硬化性塗料組成物を硬化させるものである。
【0036】
この役割を果たし、且つ、波長360nm以上410nm以下の領域に極大吸収波長を有するものであれば、成分(c1)には特に限定は無く、例えば、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤が挙げられる。
【0037】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。
このような好ましい光重合開始剤(c1)の市販品としては、「Omnirad TPO G」(IGM Resins製)、「HYCURE TPO」(ChemFine製)、「IRGACURE 819」(BASF製)等が挙げられる。
【0038】
また、波長340nm以下の領域に極大吸収波長を有するものであれば、成分(c2)には特に限定は無く、例えば、オキシフェニル酢酸エステル系光重合開始剤、α-ヒドロキシケトン系光重合開始剤、アルキルフェノン系光開始剤、分子内水素引抜型光開始剤、アミノアルキルフェノン系開始剤、アセトフェノン系光開始剤等を使用すればよい。これらの中でも、硬化塗膜の表面硬度に優れる観点から、オキシフェニル酢酸エステル系光重合開始剤及びα-ヒドロキシケトン系光重合開始剤から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0039】
成分(C)の含有量は、紫外線硬化性塗料組成物(不揮発分)100質量%に対して、1~10質量%が好ましく、3~5質量%がより好ましい。なお、成分(c1)の含有量は0.01~10質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましい。また、成分(c2)の含有量は0.1~10質量%が好ましく、1~3質量%がより好ましい。
【0040】
本来、光重合開始剤である成分(C)は、紫外線をカットする要因の一つであるため、紫外線硬化性塗料組成物中の含有量が少ない方が好ましい。その一方で、成分(C)の含有量が少ないと酸素阻害により光重合が始まらず、塗布膜が充分に硬化されない。
【0041】
そのような状況下で成された本発明(詳しくは一態様である後掲の紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法)により、成分(C)を多量に存在させずとも、また逆に極少量だけ存在させることなく、本発明の課題を更に好適に解決可能となる。
【0042】
例えば、成分(C)の含有量が、上記範囲のうち上限について好適なものであればあるほど、硬化塗膜の硬度、耐候性、及び基材への密着性が向上する。その一方で、上記範囲のうち下限について好適なものであればあるほど、酸素阻害により光重合を適切に開始させることができ、塗布膜を充分に硬化されられる。
【0043】
<成分(a2)以外のエチレン性二重結合を有するモノマー(D)>
本実施形態に係る紫外線硬化性塗料組成物には、反応性希釈剤や他の塗膜形成成分として前記成分(a2)以外のエチレン性二重結合を有するモノマーを使用することが好ましい。このようなモノマーとしては、例えば、公知のエチレン性二重結合を1~4つ有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
具体的には、1,9-ノナンジオールジアクリレート(1,9-NDDA)、N-アクリロイルモルフォリン(ACMO)、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロロピレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールEO変性ジアクレリレート等を挙げることができる。中でも、基材との付着性の観点から、1,9-ノナンジオールジアクリレート(1,9-NDDA)が好ましい。
【0044】
成分(D)を用いる場合、その含有量は、紫外線硬化性塗料組成物(不揮発分)100質量%に対して、1~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0045】
<その他成分>
本実施形態に係る紫外線硬化性塗料組成物には、必要に応じて、有機溶剤、重合禁止剤、非反応性希釈剤、消泡剤、沈降防止剤、レベリング剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、体質顔料等を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。有機溶剤としては、従来公知のものを使用でき、具体的には、芳香族炭化水素類(例:キシレン、トルエン等)、ケトン類(例:メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル類(例:酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等)、アルコール類(イソプロピルアルコール、ブタノール等)、グリコールエーテル類(プロピレングリコールモノメチルエーテル等)等の各種有機溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0046】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、ソーダ長石、アルミナ、炭化ケイ素、有機樹脂ビーズ、ワックス微粒子等を用いることができる。体質顔料を用いることで、本発明の紫外線硬化性塗料組成物を貯蔵する際の着色顔料(B)の沈降を防止することができる。また、本発明の塗料組成物を、木材等の多孔質基材に塗布する場合に、基材を目止めし、塗料組成物の過剰な吸い込みを防止することができる。体質顔料としては、シリカを用いることが好ましい。これらの体質顔料は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0047】
本発明の紫外線硬化性塗料組成物は、公知の製造方法により製造することができる。例えば、前述の各成分(A)~(D)及びその他の成分を、一度にあるいは任意の順序で撹拌容器に添加し、公知の撹拌・混合手段で各成分を混合して、溶剤中に分散又は溶解させてもよい。撹拌・混合手段としては、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロール、ロスミキサー、プラネタリーミキサー等が挙げられる。
【0048】
<紫外線硬化性塗料組成物の硬化方法>
本実施形態の硬化塗膜は、前記紫外線硬化性塗料組成物を用いた上で、主に以下の工程により作製される。
・基材上に、前記紫外線硬化性塗料組成物を塗布する塗布工程
・前記塗布膜に対し、UV-LEDランプにより波長350~420nmの紫外線を照射する照射工程(i)
・照射工程(i)に引き続き、前記塗布膜に対し、紫外線ランプにより紫外線を照射する照射工程(ii)
以降、照射工程(i)及び照射工程(ii)を続けて行うことを二段階照射とも称する。
【0049】
なお、上記各工程の具体的な手法としては、公知の方法を適宜利用しても構わない。
【0050】
また、紫外線硬化性塗料組成物を塗装する基材としては、特に限定されず、エナメル塗装を行うことにより、外観において高級感及び清潔感を得るべき対象を挙げることができ、例えば、家具、内装材(例:キッチンパネル、テーブル等)が好ましい。
【0051】
塗装工程における塗装方法および塗装条件は、紫外線硬化性塗料組成物の種類や組成、基材の種類などに応じて適宜変更することができる。塗装方法としては、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法などが挙げられる。
【0052】
前記塗装工程において、基材の表面上に紫外線硬化性塗料組成物を塗装して塗布膜を形成する。このときの紫外線硬化性塗料組成物の塗装膜厚は、特に限定されない。
【0053】
但し、塗装膜厚が過度に厚すぎると、いかに本実施形態の手法を採用しても塗布膜の最表面側と基材側とで硬化度合いに差が生じるおそれが生じる。そのため、塗布膜を硬化させた後の硬化塗膜の膜厚は、塗装作業性の観点から、例えば、30~120μmとなるように、適宜調整すればよい。硬化塗膜の膜厚が前記範囲であると、1度の施工のみで、比較的高い隠ぺい性を有する硬化塗膜を得ることができる。硬化塗膜の膜厚が前記範囲より薄い場合は、施工を2回以上繰り返して、所望の隠ぺい率を有する硬化塗膜を得ればよい。
【0054】
いずれにせよ、本実施形態の手法(いわゆる二段階照射)を採用することにより、二段階照射を採用しない同条件且つ同組成のエナメル塗料に比べ、塗布膜内において硬化収縮の差を低減することが可能となる。更に、その技術により、従来だと硬化不良による塗膜欠陥のおそれがあるとみなされても仕方が無かったエナメル塗料及びそれを硬化させた硬化塗膜を好ましく使用できる。
【0055】
以下、二段階照射について詳述する。
【0056】
まず、塗布膜に対し、UV-LEDランプにより波長350~420nmの紫外線を照射する照射工程(i)を行う。波長350~420nmの紫外線は、後述する紫外線ランプの照射工程(ii)において高い割合を占める、波長280~350nmの紫外線と比較して、散乱強度が小さい。散乱強度は、波長の4乗に反比例するため、例えば、波長385nmの紫外線は、波長300nmの紫外線と比較して、約2.7倍散乱強度が小さく、散乱されにくい。塗布膜に照射された紫外線は、塗布膜中の成分、特に着色顔料である成分(B)によって散乱されるが、照射工程(i)で照射される紫外線は、このような塗布膜中においても散乱されにくい。
【0057】
そのため、UV-LEDランプにより照射された紫外線は、塗布膜内の深部である基材側まで到達し、塗布膜内の基材側に存在する光重合開始剤である成分(c1)と反応し、塗布膜の基材側が主に硬化されることになる。なお、塗布膜内の最表面側は酸素阻害により、塗布膜の基材側に比べて硬化度合いが低くなる。
【0058】
照射工程(i)に引き続き、塗布膜に対し、紫外線ランプにより紫外線を照射する照射工程(ii)を行う。なお、紫外線ランプとしては、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極ランプ等の紫外線ランプが挙げられる紫外線ランプの波長は、通常約200~600nmの範囲に広く分布しているが、この波長範囲の短波長側の光量の割合が高い。例えば、一般的な高圧水銀ランプの場合、波長280~350nmの範囲の光量の割合が高い。このような、波長280~350nmの紫外線は、前記UV-LEDランプから照射される紫外線と比較して、散乱しやすい。そのため、塗布膜内の最表面側に存在する、波長340nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤である成分(c2)が照射により反応する。その結果、塗布膜内の最表面側が主に硬化される。これにより、最表面側を後から硬化させることができる。その結果、紫外線の過度な照射を行わずに済むうえ、塗膜内部に未硬化部が無く、膨れやシワ等の塗膜欠陥が無い硬化塗膜を形成することができる。
【0059】
前記照射工程(i)と前記照射工程(ii)の波長320~445nmにおける積算光量は、600mJ/cm2以上が好ましく、1,600mJ/cm2以上がより好ましい。また、前記積算光量の上限は、3,500mJ/cm2以下であることが好ましい。
また、前記UV-LEDランプにより紫外線を照射する際の波長320~445nmにおける積算光量は、後掲の紫外線ランプ(水銀ランプ:Hg-UV)の積算光量との兼ね合いもあるが、例えば、200mJ/cm2以上が好ましく、500mJ/cm2以上がより好ましい。また、前記積算光量の上限は、1,500mJ/cm2以下であることが好ましい。
また、前記紫外線ランプにより紫外線を照射する際の波長320~445nmにおける積算光量は、UV-LEDランプの積算光量との兼ね合いもあるが、例えば、400mJ/cm2以上が好ましく、1,100mJ/cm2以上がより好ましい。また、前記UV-LEDランプの積算光量の上限は、2,000mJ/cm2以下であることが好ましい。
積算光量が前記範囲内であると、硬化塗膜の硬度及び基材との付着性のバランスに優れる。
【0060】
なお、必要に応じ、前記各工程以外の工程(例えば、洗浄工程、加熱工程、乾燥工程等)を行っても構わない。
【0061】
なお、前記硬化塗膜は、基材の片面もしくは両面のどちらに形成されても良い。また、基材と本発明の硬化塗膜の間に他の層が形成されても良い。
本発明の硬化塗膜は必要に応じて、塗装や印刷、スパッタや蒸着、粘着剤塗布等の後加工を施すことができる。
【0062】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、UV-LEDランプによる紫外線の照射を行い、それに次いで紫外線ランプによる紫外線の照射を行うという手法を採用することにより、前記課題が解決される。すなわち、エナメル塗料の塗布膜内において硬化収縮の差を低減することが可能となる。更には、前記手法を採用することにより、従来のやり方では硬化不良が生じるおそれのある紫外線硬化性エナメル塗料(紫外線硬化性塗料組成物)も、エナメル塗膜を形成可能な塗料として新たに創出可能となり、使用可能となる。
【0063】
もちろん、着色顔料の含有量が多い場合であっても、塗膜を十分に薄くすれば硬化することはできる。但し、その発想に囚われる限り、塗膜の膜厚依存からは脱却できない。本発明の技術的思想は、完全ではないにせよ、そのような塗膜の膜厚依存からの脱却を図る画期的なものである。つまり、従来のやり方だと硬化が不十分であり使用が覚束なかった紫外線硬化性塗料組成物でも、本発明の一態様であるところの二段階照射を使用することにより技術的な価値を見出したことも、本発明の技術的思想の優れた一面である。
【0064】
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【実施例】
【0065】
次に、本発明について実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0066】
[実施例1]
実施例1では、塗料ベースに対して着色顔料を混合することにより、本発明に係る紫外線硬化性塗料組成物を調製した。
【0067】
(塗料ベース)
以下の表1に記載する原材料(各製品)を、同じく表1に記載の配合量に設定して塗料ベースを調製した。なお、表1中のUV-56には、紫外線硬化樹脂又はオリゴマーである成分(a1)と、成分(a2)以外のエチレン性二重結合を有するモノマーである成分(D)(1,9-NDDA)が共に含有されている。UV-56のうち成分(D)は25質量%を占める。
【0068】
このように調製された塗料ベースのことを塗料ベース(その1)とも称する。なお、塗料ベースの調製は、具体的には、表1に記載の各原材料をディスパーにて混合・撹拌して行った。
【表1】
【0069】
なお、各成分の詳細(製品名、製造元、製品の詳細)は以下の通りである。
成分(a1),(D):UV-56、大竹明新(株)製、ウレタンアクリレート(25% 1,9-NDDA) Mw:1550
成分(a1):紫光 UV-7600B、日本合成化学工業(株)製、ウレタンアクリレート Mw:1400
成分(a2):MIRAMER M246、MIWON製、5~6官能モノマー[DPE(EO)24A](ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートのEO24モル付加物)
成分(D):ニューフロンティア ND-DA、第一工業製薬(株)製、二官能アクリレートモノマー(1,9-NDDA)
成分(c1):Omnirad TPO G、IGM Resins製、アシルホスフィンオキサイド系光開始剤
成分(c2):HYCURE 184-2、ChemFine International製、アルキルフェノン系光開始剤
成分(c2):Omnirad 754、IGM Resins製、分子内水素引抜型光開始剤
その他成分:BYK-1791、ビックケミー・ジャパン(株)製、ポリマー系消泡剤
その他成分:BYK UV-3500、ビックケミー・ジャパン(株)製、高極性シリコ-ン系表面調整剤
その他成分:ミズカシルP-802Y、水澤化学工業(株)製、不定形シリカ
【0070】
(顔料)
本実施形態で述べたように、目的とする硬化塗膜の色に応じて、用いる着色顔料を選択する。例えば、実施例1では黒色のエナメル塗装を実現すべく、顔料としてカーボンブラック(三菱カーボンブラック MA100、三菱ケミカル(株)製)を使用した。
【0071】
(塗布工程)
表1の割合にて調製した塗料ベース(その1)に対し、反応性希釈剤として、成分(D)であるACMO(N-アクリロイルモルフォリン)を使用したうえで、前記カーボンブラックを顔料として後掲の表2に記載の配合にて混合し、実施例1の紫外線硬化性塗料組成物を得た。次に、測定紙(太佑機材(株)製、H-2030)に対し、6ミルのフィルムアプリケーターを用いてこの紫外線硬化性塗料組成物を塗布した。
【0072】
(照射工程(i))
この塗膜に対し、UV-LEDランプ(パナソニック(株)製、UD-90)を用いて、最大ピーク波長385nmの紫外線を、波長320~445nmにおける積算光量560mJ/cm2(光源との距離:150mm)にて照射し、塗膜内部を硬化させた。
【0073】
(照射工程(ii))
続いて、高圧水銀ランプ(アイグラフィックス(株)製、HAL500NL)を用いて、紫外線を、波長320~445nmにおける積算光量1,200mJ/cm2(光源との距離:245mm)にて照射し、塗膜表面を硬化させた。
【0074】
なお、UV-LEDランプ及び高圧水銀ランプの積算光量は、紫外線光量計(Electronic Instrumentation&Technology社製、UV Power Pack II)にて測定し、UVA、UVB、UVC、UVVの4つのセンサの値の合計を積算光量とした。
【0075】
なお、本発明は、従来のやり方では硬化不良が生じるおそれのある紫外線硬化性エナメル塗料(紫外線硬化性塗料組成物)も、エナメル塗膜を形成可能な塗料として新たに創出可能としたという技術的意義がある。実施例1に係る紫外線硬化性塗料組成物も、この技術的意義に基づき創出されたものである。この技術的意義を明確化すべく、実施例1に係る紫外線硬化性塗料組成物に対し、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った結果と、本発明の一態様であるところの二段階照射(例:UV-LEDランプ及び高圧水銀ランプ)を行った結果とを対比する。つまり、従来のやり方だと硬化が不十分であり使用が覚束なかった紫外線硬化性塗料組成物でも、本発明の一態様であるところの二段階照射を使用することにより技術的な価値が見出されたことを、実施例1にて示すべく試験を行った。試験項目は以下のとおりである。
【0076】
(硬化性)
紫外線照射後の硬化塗膜表面を目視にて観察した。更に、カッターナイフを用いて、硬化塗膜表面から基材側へ垂直に切り込みを入れ、塗膜内部の未硬化部の有無を観察し、以下の評価基準で硬化性の評価を行った。
○…塗膜表面に欠陥がなく、塗膜内部まで完全に硬化している。
△…塗膜表面に欠陥がないが、塗膜内部に未硬化部が見られる。
×…塗膜表面に未硬化部及び膨れやシワなどの欠陥が見られる。
硬化性については〇を合格とし、それ以外を不合格とした。
【0077】
(耐傷性)
紫外線照射後の硬化塗膜に対し、以下の評価基準で耐傷性の評価を行った。
○…爪で擦った際、白化傷が生じない。
△…爪で擦った際、白化傷が生じる。
×…爪で擦った際、容易に大きな白化傷が生じる。
-…塗膜の硬化性が△又は×のため、耐傷性評価ができないものを指す。
耐傷性については〇を合格とし、それ以外を不合格とした。
【0078】
(隠ぺい率)
隠ぺい率試験紙(TP技研(株)製)に上記と同様の方法で塗膜を作製し、JIS K 5600に基づき、塗膜の隠ぺい率を測定した。具体的には、測色計(JUKI産機テクノロジー(株)製)にて白地部分の塗膜の三刺激値のY値(YW)及び黒地部分の塗膜の三刺激値のY値(YB)を測定、以下の式を用いて塗膜の隠ぺい率(HP)を算出した。
HP[%]=YB/YW
なお、隠ぺい率は一部の試験例に対してのみ得た。
【0079】
前記各工程を行った結果を以下の表2に示す。なお、表2中における着色顔料濃度[質量%(不揮発分)]は、塗料組成物全体における不揮発分100%に対する着色顔料の質量%を指す(以降同様)。また、膜厚は、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、VK-X1000/1050)により、本発明の一態様である二段階照射を行った場合の硬化塗膜の膜厚を測定した。
【表2】
実施例1の試験結果は、以下のとおりである。
従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合、硬化性は使用に堪えない状態であり、耐傷性に至っては評価できなかった。ところが、本発明の一態様である二段階照射を行ったところ、硬化性も耐傷性も合格であった。
【0080】
[実施例2]
実施例2では、実施例1における着色顔料濃度を0.38質量%に増加させ、硬化塗膜の膜厚が70μmであったことを除けば、実施例1と同様に試験を行った。試験結果を表2に示す。
その結果、実施例1と同様、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合、硬化性は使用に堪えない状態であり、耐傷性に至っては評価できなかったが、本発明の一態様である二段階照射を行ったところ、硬化性も耐傷性も合格であった。
【0081】
[実施例3]
実施例3では、実施例1における着色顔料濃度を0.57質量%に増加させ、4ミルのフィルムアプリケーターを用い、硬化塗膜の膜厚が48μmであったことを除けば、実施例1と同様に試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0082】
実施例3では、実施例1と同様、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合、硬化性は使用に堪えない状態であり、耐傷性に至っては評価できなかったが、本発明の一態様である二段階照射を行ったところ、硬化性も耐傷性も合格であった。
【0083】
なお、前述の<本実施形態に係る効果>にて述べたように、本発明の技術的思想は、完全ではないにせよ、そのような塗膜の膜厚依存からの脱却を図るものである。実施例3では、着色顔料濃度の増加に伴い、硬化塗膜の膜厚を薄くしてはいるが、従来のやり方だと硬化が不十分であり使用が覚束なかった状態であることに変わりはない。つまり、実施例3に係る紫外線硬化性塗料組成物が、本発明の一態様であるところの二段階照射を使用することにより技術的な価値を見出されたことに変わりはない。
【0084】
[実施例4]
実施例4では、実施例1における着色顔料を黒色から赤色に変更した。実施例4では赤色のエナメル塗装を実現すべく、顔料として、キナクドリン(Cinquasia Red L 4100 HD、BASFジャパン(株)製)を使用した。実施例4では、表3に記載の配合で各成分を混合した。着色顔料濃度は3.81質量%とし、硬化塗膜の膜厚は76μmであった。試験結果を表3に示す。
【表3】
【0085】
実施例4では、実施例1と同様、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合、硬化性は使用に堪えない状態であり、耐傷性に至っては評価できなかったが、本発明の一態様である二段階照射を行ったところ、硬化性も耐傷性も合格であった。
【0086】
[実施例5]
実施例5では、実施例4における着色顔料濃度を4.72質量%に増加させ、4ミルのフィルムアプリケーターを用い、硬化塗膜の膜厚が60μmであったことを除けば、実施例1と同様に試験を行った。試験結果を表3に示す。
その結果、実施例4と同様、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合、硬化性は使用に堪えない状態であり、耐傷性に至っては評価できなかったが、本発明の一態様である二段階照射を行ったところ、硬化性も耐傷性も合格であった。
【0087】
[実施例6]
実施例6では、実施例1における着色顔料を黒色から白色に変更した。実施例6では白色のエナメル塗装を実現すべく、顔料として、二酸化チタンを使用し、反応性希釈剤としてジプロピレンジアクリレートを使用した。実施例6では、表4に記載の配合で各成分を混合した。着色顔料濃度は9.01質量%とし、4ミルのフィルムアプリケーターを用い、硬化塗膜の膜厚は52μmであった。試験結果を表4に示す。
【表4】
【0088】
実施例6では、実施例1と同様、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合、硬化性は使用に堪えない状態であり、耐傷性に至っては評価できなかったが、本発明の一態様である二段階照射を行ったところ、硬化性も耐傷性も合格であった。
【0089】
[実施例7]
実施例7では、実施例1における着色顔料を赤色と黒色とを混合したものに変更した。実施例7では赤黒混合色のエナメル塗装を実現すべく、顔料として、実施例1で使用したカーボンブラックと、実施例4で使用したキナクドリンとを共に使用した。実施例7における着色顔料濃度は、0.68質量%(内訳:カーボンブラックは0.31質量%、キナクドリンは0.37質量%)とし、4ミルのフィルムアプリケーターを用い、硬化塗膜の膜厚は50μmであった。試験結果を表5に示す。
【表5】
【0090】
実施例7では、実施例1と同様、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合、硬化性はも使用に堪えない状態であり、耐傷性に至っては評価できなかったが、本発明の一態様である二段階照射を行ったところ、硬化性も耐傷性も合格であった。
【0091】
[実施例8~10]
なお、着色顔料を黄色とした場合についても試験を行った。試験結果を表6に示す。
【表6】
表6に示すように、実施例8~10では黄色のエナメル塗装を実現すべく、顔料として、ジスアゾ系顔料(セイカファーストエローM、大日精化工業(株)製)を使用した。
実施例8~9では、表6に記載の配合で各成分を混合した。実施例8における着色顔料濃度は0.98質量%とし、硬化塗膜の膜厚は56μmであった。
実施例9における着色顔料濃度は1.46質量%とし、4ミルのフィルムアプリケーターを用い、硬化塗膜の膜厚は50μmであった。
実施例10における着色顔料濃度は2.88質量%とし、2ミルのフィルムアプリケーターを用いた。
実施例8~10では、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合も、本発明の一態様である二段階照射を行った場合も、硬化性も耐傷性も合格であった。二段階照射による効果は顕著ではないが、実施例8~10に示す紫外線硬化性塗料組成物が二段階照射により良好に硬化したことは確かである。
【0092】
[実施例11~13]
実施例11~13では、実施例1における着色顔料は黒色のままとしつつ、塗料ベースの成分を変更した(前掲の表1に記載)。具体的には、光重合開始剤である成分(C)を構成する、波長360nm以上410nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c1)と、波長340nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c2)とを増量した(実施例11~12)。実施例13での塗料ベースでは、成分(c2)のみを増量した。
実施例11においては、成分(c1)及び成分(c2)を増量した塗料ベース(その2)を使用した以外は実施例1と同様に試験を行った。硬化塗膜の膜厚は74μmであった。
実施例12においては、実施例11に対し、着色顔料濃度は0.57質量%に増量し、4ミルのフィルムアプリケーターを用いた以外は、実施例11と同様に試験を行った。硬化塗膜の膜厚は50μmであった。
実施例13においては、成分(c2)を増量した塗料ベース(その3)を使用し、着色顔料濃度は0.57質量%に増量し、4ミルのフィルムアプリケーターを用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。硬化塗膜の膜厚は50μmであった。
試験結果を表7に示す。表7には参考までに実施例1を再掲する。
【表7】
【0093】
その結果、実施例1と同様、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合、硬化性は使用に堪えない状態であり、耐傷性に至っては評価できなかったが、本発明の一態様である二段階照射を行ったところ、硬化性も耐傷性も合格であった。
【0094】
[比較例1~3]
比較例1~3では、実施例1における着色顔料は黒色のままとしつつ、塗料ベースの成分を変更した(前掲の表1に記載)。
比較例1においては、紫外線硬化性化合物(A)を構成する、5官能以上のエチレン性不飽和基含有モノマー(a2)を用いない塗料ベース(その4)を使用した。硬化塗膜の膜厚は72μmであった。
比較例2においては、光重合開始剤である成分(C)を構成する、波長360nm以上410nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c1)を用いない塗料ベース(その5)を使用した。
比較例3においては、光重合開始剤である成分(C)を構成する、波長340nm以下の領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤(c2)を用いない塗料ベース(その6)を使用した。
試験結果を表8に示す。表8には参考までに実施例1を再掲する。
【表8】
【0095】
その結果、比較例1~3は、従来のやり方であるところの高圧水銀ランプでの照射を2回行った場合も、本発明の一態様である二段階照射を行った場合も、硬化性は使用に堪えない状態であり、耐傷性に至っては評価できないか、あるいは硬化性が合格でも、耐傷性が不合格となる結果であった。具体的には、比較例1は、本発明の一態様である二段階照射を行ったところ、硬化性は良好であったが耐傷性で劣っていた。また、比較例2及び3の硬化塗膜は、二段階照射を行った場合でも硬化性が不良のため、膜厚測定ができず、耐傷性に至っては評価できなかった。