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特許7231430樹脂組成物、インクおよび光学フィルター
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  • 特許-樹脂組成物、インクおよび光学フィルター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物、インクおよび光学フィルター
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230221BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20230221BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20230221BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20230221BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20230221BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/37
C08K5/07
C08K5/5415
C09D11/00
G02B5/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019024829
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020132699
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 愛
(72)【発明者】
【氏名】青木 正矩
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-040932(JP,A)
【文献】特開2018-040931(JP,A)
【文献】特開2017-149896(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135300(WO,A1)
【文献】特開2018-177916(JP,A)
【文献】特開2015-078338(JP,A)
【文献】特開2019-014707(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0030129(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C09D 11/00 - 13/00
G02B 5/20 - 5/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、オキソカーボン系化合物と、多価メルカプタン化合物とを含有する樹脂組成物であって、
前記多価メルカプタン化合物の含有量は、前記オキソカーボン系化合物の含有量の1.0質量倍以上8.0質量倍以下であり、
前記オキソカーボン系化合物は、下記式(1)で表されるスクアリリウム化合物、および/または、下記式(2)で表されるクロコニウム化合物であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】
[式(1)および式(2)中、R ~R はそれぞれ独立して、下記式(3)または下記式(4)で表される基を表す。]
【化2】
[式(3)中、
環Pは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表し、
11 ~R 13 はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、またはスルホ基を表し、R 12 とR 13 は互いに連結して環を形成してもよく、
*は、式(1)中の4員環または式(2)中の5員環との結合部位を表す。]
【化3】
[式(4)中、
14 ~R 18 はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、またはスルホ基を表し、R 14 とR 15 、R 15 とR 16 、R 16 とR 17 、R 17 とR 18 はそれぞれ、互いに連結して環を形成していてもよく、
*は、式(1)中の4員環または式(2)中の5員環との結合部位を表す。]
【請求項2】
樹脂組成物の固形分100質量部中、前記多価メルカプタン化合物の含有量が0.5質量部以上8質量部以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(3)中、R 11 ~R 13 はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、R 12 とR 13 は互いに連結して環を形成していてもよく、
前記式(4)中、R 14 ~R 18 はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミド基、アミノ基、または水酸基を表し、R 15 とR 16 、R 16 とR 17 はそれぞれ、互いに連結して環を形成していてもよい請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらにシランカップリング剤、その加水分解物、およびその加水分解縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに紫外線吸収剤を含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物と溶媒とを含有することを特徴とするインク。
【請求項7】
基板と、前記基板上に形成され、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物または請求項6に記載のインクから形成された樹脂層とを有することを特徴とする光学フィルター。
【請求項8】
請求項7に記載の光学フィルターを備えることを特徴とする撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキソカーボン系化合物を含有する樹脂組成物、当該樹脂組成物を含有するインク、および当該樹脂組成物またはインクから形成された樹脂層を有する光学フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクアリリウム化合物やクロコニウム化合物などのオキソカーボン系化合物は、可視光領域の光を高い透過率で透過させつつ、赤色~近赤外領域の光を選択的に吸収することができるという分光特性を利用して、近赤外線カットフィルター、近赤外線吸収フィルム、セキュリティインク等への適用が期待されている。このような用途にオキソカーボン系化合物を適用する場合、オキソカーボン系化合物は樹脂組成物として取り扱うことが望ましく、これによりオキソカーボン系化合物の取り扱い性が向上し、加工性を高めることができる。
【0003】
特許文献1~3には、オキソカーボン系化合物を含有する様々な樹脂組成物が開示されている。特許文献1には特定のオキソカーボン系化合物を含有する樹脂組成物が開示され、特許文献2には特定のスクアリリウム化合物を含有する樹脂組成物が開示され、特許文献3には、オキソカーボン系化合物と硬化触媒とメルカプト基含有化合物を含有する樹脂組成物が開示されている。引用文献3に開示される樹脂組成物は、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂がベース樹脂として用いられ、当該樹脂を硬化させるために硬化触媒を含有している。そして、樹脂組成物にオキソカーボン系化合物と硬化触媒とともにメルカプト基含有化合物を含有させることで、樹脂を熱硬化させて硬化物を形成する際に、エポキシ樹脂ないし硬化触媒によるオキソカーボン系化合物の劣化が抑制され、得られる硬化物の光選択透過性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-074649号公報
【文献】特開2014-148567号公報
【文献】特開2017-149896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に開示される樹脂組成物は、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂をベース樹脂として用いた場合の悪影響を抑えるために、メルカプト基含有化合物を含有させている。換言すれば、熱可塑性樹脂をベース樹脂として用いた場合は、メルカプト基含有化合物を含有させる必要性がなくなる。
【0006】
一方、オキソカーボン系化合物を含有する樹脂組成物の工業的使用を勘案した場合、特に厳密な温度管理をすることなく長期間保存できることが好ましく、例えば、室温で数ヶ月以上保存できることが望ましい。これにより大量の樹脂組成物の保管も可能となる。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱可塑性樹脂とオキソカーボン系化合物を含有する樹脂組成物であって、長期保存安定性に優れた樹脂組成物と、当該樹脂組成物を含有するインク、および当該樹脂組成物またはインクから形成された光学フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の発明を含む。
[1] 熱可塑性樹脂と、オキソカーボン系化合物と、多価メルカプタン化合物とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
[2] 樹脂組成物の固形分100質量部中、前記多価メルカプタン化合物の含有量が0.5質量部以上8質量部以下である[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記オキソカーボン系化合物が、下記式(1)で表されるスクアリリウム化合物、および/または、下記式(2)で表されるクロコニウム化合物である[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【化1】

[式(1)および式(2)中、R1~R4はそれぞれ独立して、下記式(3)または下記式(4)で表される基を表す。]
【化2】

[式(3)中、
環Pは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表し、
11~R13はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表し、R12とR13は互いに連結して環を形成してもよく、
*は、式(1)中の4員環または式(2)中の5員環との結合部位を表す。]
【化3】

[式(4)中、
14~R18はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表し、R14とR15、R15とR16、R16とR17、R17とR18はそれぞれ、互いに連結して環を形成していてもよく、
*は、式(1)中の4員環または式(2)中の5員環との結合部位を表す。]
[4] さらにシランカップリング剤、その加水分解物、およびその加水分解縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] さらに紫外線吸収剤を含有する[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物と溶媒とを含有することを特徴とするインク。
[7] 基板と、前記基板上に形成され、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物または[6]に記載のインクから形成された樹脂層とを有することを特徴とする光学フィルター。
[8] [7]に記載の光学フィルターを備えることを特徴とする撮像素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物およびインクは、熱可塑性樹脂とオキソカーボン系化合物に加えて多価メルカプタン化合物を含有することにより、長期の保存安定性が高まり、室温(例えば25℃程度)で半年間程度保管しても、オキソカーボン系化合物の劣化が抑制される。このような樹脂組成物またはインクを用いれば、長期保管後も、所望の光選択透過性能を有し、透明性の高い光学フィルターを形成することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例で作製した光学フィルターの透過スペクトルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)オキソカーボン系化合物と、(C)多価メルカプタン化合物とを含有するものである。本発明の樹脂組成物は(A)成分の熱可塑性樹脂と(B)成分のオキソカーボン系化合物に加えて(C)成分の多価メルカプタン化合物を含有するため、長期保存安定性が高まり、室温(例えば25℃程度)で半年間程度保管しても、オキソカーボン系化合物の劣化が抑制される。そのため、樹脂組成物を硬化して樹脂成形体としたり、基板上に樹脂層を形成することで、所望の光選択透過性能を有し、透明性の高い光学フィルター等を形成することができる。以下、本発明の樹脂組成物について詳しく説明する。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、ベース樹脂として、(A)熱可塑性樹脂が用いられる。(A)成分として用いられる熱可塑性樹脂は、加熱することにより軟化する樹脂であれば特に限定されない。熱可塑性樹脂としては、透明性が高い樹脂を用いることが好ましく、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂)、シクロオレフィン系樹脂、ウレタン樹脂、スチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン)、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、フッ素系樹脂(例えば、フッ素化芳香族ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、フッ素化ポリアリールエーテルケトン(FPEK)、フッ素化ポリイミド(FPI)、フッ素化ポリアミド酸(FPAA)、フッ素化ポリエーテルニトリル(FPEN)等)等が挙げられる。これらの中でも、透明性や耐熱性に優れる点から、(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フッ素化芳香族ポリマーが好ましい。
【0013】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸またはその誘導体由来の繰り返し単位を有する重合体であり、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂等の(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位を有する樹脂が好ましく用いられる。(メタ)アクリル系樹脂は主鎖に環構造を有するものも好ましく、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造、マレイミド環構造等のカルボニル基含有環構造;オキセタン環構造、アゼチジン環構造、テトラヒドロフラン環構造、ピロリジン環構造、テトラヒドロピラン環構造、ピペリジン環構造等のカルボニル基非含有環構造が挙げられる。なお、カルボニル基含有環構造には、イミド基などのカルボニル基誘導体基を含有する構造も含む。カルボニル基含有環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、特開2004-168882号公報、特開2008-179677号公報、国際公開第2005/54311号、特開2007-31537号公報等に記載されたものを用いることができる。
【0014】
シクロオレフィン系樹脂は、モノマー成分の少なくとも一部としてシクロオレフィンを用い、これを重合して得られる重合体であり、主鎖の一部に脂環構造を有するものであれば特に限定されない。シクロオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプラスチック社製のトパス(登録商標)、三井化学社製のアペル(登録商標)、日本ゼオン社製のゼオネックス(登録商標)およびゼオノア(登録商標)、JSR社製のアートン(登録商標)等を用いることができる。
【0015】
ポリイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にイミド結合を含む重合体であり、例えば、テトラカルボン酸2無水物とジアミンとを重合させてポリアミド酸を得て、これを脱水・環化(イミド化)させることにより製造することができる。ポリイミド樹脂としては、芳香族環がイミド結合で連結された芳香族ポリイミドを用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、例えば、デュポン社製のカプトン(登録商標)、三井化学社製のオーラム(登録商標)、サンゴバン社製のメルディン(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI3000シリーズ等を用いることができる。
【0016】
ポリアミドイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にアミド結合とイミド結合を含む重合体である。ポリアミドイミド樹脂は、例えば、ソルベイアドバンストポリマーズ社製のトーロン(登録商標)、東洋紡社製のバイロマックス(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI5000シリーズ等を用いることができる。
【0017】
ポリエステル樹脂は、主鎖の繰り返し単位にエステル結合を含む重合体であり、例えば、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)とを縮重合させることにより得ることができる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、例えば、大阪ガス化学社製のOKPシリーズ、帝人社製のTRNシリーズ、テオネックス(登録商標)、デュポン社製のライナイト(登録商標)、三菱化学社製のノバペックス(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチックス社製のノバデュラン(登録商標)、東レ社製のルミラー(登録商標)、トレコン(登録商標)等を用いることができる。
【0018】
ポリアリレート樹脂は、2価フェノール化合物と2塩基酸(例えば、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸)とを縮重合して得られる重合体であり、主鎖の繰り返し単位に芳香族環とエステル結合とを含む繰り返し単位を有する。ポリアリレート樹脂は、例えば、クラレ社製のベクトラン(登録商標)、ユニチカ社製のUポリマー(登録商標)やユニファイナー(登録商標)等を用いることができる。
【0019】
ポリアミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にアミド結合を含む重合体であり、例えば、ジアミンとジカルボン酸とを縮重合させることにより得ることができる。ポリアミド樹脂は主鎖に脂肪族骨格を有するものであってもよく、このようなアミド樹脂として、例えばナイロンを用いることができる。ポリアミド樹脂は芳香族骨格を有するものであってもよく、このようなポリアミド樹脂としてアラミド樹脂が知られている。アラミド樹脂は、耐熱性に優れ、強い機械強度を有する点から好ましく用いられ、例えば、帝人社製のトワロン(登録商標)、コーネックス(登録商標)、デュポン社製のケブラー(登録商標)、ノーメックス(登録商標)等を用いることができる。
【0020】
ポリカーボネート樹脂は、主鎖の繰り返し単位にカーボネート基(-O-(C=O)-O-)を含む重合体である。ポリカーボネート樹脂としては、帝人社製のパンライト(登録商標)、三菱エンジニアリングプラスチック社製のユーピロン(登録商標)、ノバレックス(登録商標)、ザンター(登録商標)、住化スタイロンポリカーボネート社製のSDポリカ(登録商標)等を用いることができる。
【0021】
ポリスルホン樹脂は、芳香族環とスルホニル基(-SO2-)と酸素原子とを含む繰り返し単位を有する重合体である。ポリスルホン樹脂は、例えば、住友化学社製のスミカエクセル(登録商標)PES3600PやPES4100P、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製のUDEL(登録商標)P-1700等を用いることができる。
【0022】
フッ素化芳香族ポリマーは、1以上のフッ素原子を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合およびエステル結合よりなる群から選ばれる少なくとも1つの結合とを含む繰り返し単位を有する重合体であり、これらの中でも、1以上のフッ素原子を有する芳香族環とエーテル結合とを含む繰り返し単位を必須的に含む重合体であることが好ましい。フッ素化芳香族ポリマーは、例えば、特開2008-181121号公報に記載されたものを用いることができる。
【0023】
熱可塑性樹脂は透明性が高いことが好ましく、これにより樹脂組成物を光学用途に好適に適用しやすくなる。熱可塑性樹脂は、例えば、厚さ0.1mmでの全光線透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。熱可塑性樹脂の前記全光線透過率の上限は特に限定されず、全光線透過率は100%以下であればよいが、例えば95%以下であってもよい。全光線透過率は、JIS K 7105に基づき測定する。
【0024】
熱可塑性樹脂はガラス転移温度(Tg)が高いことが好ましく、これにより、樹脂組成物から形成された樹脂層の耐熱性を高めることができる。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、例えば、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度の上限は特に限定されないが、樹脂組成物の成形加工性を高める点から、例えば380℃以下が好ましい。
【0025】
樹脂組成物中の(A)成分の含有量は、樹脂組成物の固形分100質量部中、50質量部以上が好ましく、55質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましく、また99質量部以下が好ましく、97質量部以下がより好ましく、95質量部以下がさらに好ましい。なお、樹脂組成物の固形分量とは、樹脂組成物が溶媒を含有する場合に、溶媒を除いた樹脂組成物の量を意味する。
【0026】
(B)成分として用いられるオキソカーボン系化合物は、炭素酸化物を基本骨格として含む化合物であれば特に限定されないが、赤色~近赤外領域に吸収波長を有し、可視光領域の光線透過率が比較的高い化合物として広く知られているスクアリリウム化合物またはクロコニウム化合物を用いることが好ましい。このようなオキソカーボン系化合物が含まれていれば、樹脂組成物を硬化して樹脂成形体としたり、基板上に樹脂層を形成することで、赤色~近赤外領域の光をカットする光学フィルター等に適用することができる。
【0027】
樹脂組成物に含まれるオキソカーボン系化合物は、スクアリリウム化合物であってもよいし、クロコニウム化合物であってもよいし、両者が含まれていてもよい。樹脂組成物に含まれるオキソカーボン系化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0028】
スクアリリウム化合物としては、下記式(1)で表されるスクアリリウム骨格を有する化合物が具体的に示され、クロコニウム化合物としては、下記式(2)で表されるクロコニウム骨格を有する化合物が具体的に示される。下記式(1)および式(2)において、R1~R4はそれぞれ独立して有機基を表す。
【0029】
【化4】
【0030】
オキソカーボン系化合物としては、上記式(1)および式(2)において、R1~R4がそれぞれ独立して、下記式(3)または下記式(4)で示される基であるものが好ましい。下記式(3)で表される基を有するスクアリリウム化合物またはクロコニウム化合物は、赤色~近赤外領域の吸収ピークが幅広に形成され、比較的広い波長域の光をカットすることができる。一方、下記式(4)で表される基を有するスクアリリウム化合物またはクロコニウム化合物は、赤色~近赤外領域の吸収ピークがシャープに形成されるため、この吸収ピークに対応した波長域の光を選択的にカットすることが可能となる。
【0031】
【化5】
【0032】
【化6】
【0033】
式(3)中、環Pは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表し、R11~R13はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表し、R12とR13は互いに連結して環を形成してもよい。式(4)中、R14~R18はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表し、R14とR15、R15とR16、R16とR17、R17とR18はそれぞれ、互いに連結して環を形成していてもよい。*は、式(1)中の4員環または式(2)中の5員環との結合部位を表す。
【0034】
スクアリリウム化合物とクロコニウム化合物には共鳴関係にある化合物が存在している場合があるが、上記式(1)で表されるスクアリリウム化合物と上記式(2)で表されるクロコニウム化合物には、これらの共鳴関係にある化合物も含まれる。
【0035】
上記式(1)において、スクアリリウム骨格の一方側と他方側に結合した基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。上記式(2)において、クロコニウム骨格の一方側と他方側に結合した基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。スクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格の一方側と他方側に結合した基が同一の場合は、スクアリリウム化合物またはクロコニウム化合物の熱や光に対する耐久性の向上が期待できる。スクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格の一方側と他方側に結合した基が互いに異なる場合は、スクアリリウム化合物またはクロコニウム化合物の分子どうしの会合や凝集が抑制され、溶剤や樹脂に対する溶解性の向上が期待できる。
【0036】
11~R18の有機基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基(カルボン酸基)、シアノ基等が挙げられる。R11~R18の極性官能基としては、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基(スルホン酸基)等が挙げられる。
【0037】
11~R18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等の環状(脂環式)アルキル基等が挙げられる。アルキル基は置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、水酸基、カルボキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。ハロゲノ基を有するアルキル基としては、モノハロゲノアルキル基、ジハロゲノアルキル基、トリハロメチル単位を有するアルキル基、パーハロゲノアルキル基等が挙げられる。ハロゲノ基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。アルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は1~20が好ましく、具体的には、直鎖状または分岐状のアルキル基であれば炭素数1~20が好ましく、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~5であり、環状のアルキル基であれば炭素数4~10が好ましく、5~8がより好ましい。
【0038】
11~R18のアルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基に含まれるアルキル基の具体例は、上記のアルキル基に関する説明が参照される。
【0039】
11~R18のアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、インデニル基等が挙げられる。アリール基は置換基を有していてもよく、アリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、6~20が好ましく、より好ましくは6~12である。
【0040】
11~R18のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。アラルキル基は置換基を有していてもよく、アラルキル基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、シアノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、7~25が好ましく、より好ましくは7~15である。
【0041】
11~R18のアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基に含まれるアリール基の具体例は、上記のアリール基に関する説明が参照される。
【0042】
11~R18のヘテロアリール基としては、例えば、チエニル基、チオピラニル基、イソチオクロメニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラリジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラニル基、ピラニル基等が挙げられる。ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。ヘテロアリール基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2~20が好ましく、より好ましくは3~15である。
【0043】
11~R18のアミノ基としては、式:-NRa1a2で表され、Ra1およびRa2がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるものが挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照され、アルケニル基とアルキニル基としては、上記に例示したアルキル基の炭素-炭素単結合の一部が二重結合または三重結合に置き換わった基が挙げられる。Ra1とRa2は互いに連結して環形成していてもよい。
【0044】
11~R18のアミド基としては、式:-NH-C(=O)-Ra3で表され、Ra3がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるものが挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照される。
【0045】
11~R18のスルホンアミド基としては、式:-NH-SO2-Ra4で表され、Ra4がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるものが挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基の具体例は、上記のこれらの基の説明が参照される。
【0046】
11~R18のハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0047】
12~R18から形成される各環構造としては、炭化水素環や複素環が挙げられ、これらの環構造は芳香族性を有していても有していなくてもよいが、非芳香族炭化水素環または非芳香族複素環であることが好ましい。非芳香族炭化水素環としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等のシクロアルカン;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン(例えば、1,3-シクロヘキサジエン)、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン等のシクロアルケン等が挙げられる。非芳香族複素環としては、前記に説明したような非芳香族炭化水素環の環を構成する炭素原子の1個以上が、N(窒素原子)、S(硫黄原子)およびO(酸素原子)から選ばれる少なくとも1種以上の原子に置き換わった環が挙げられる。非芳香族複素環としては、例えば、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロチオフェン環、ピペリジン環、テトラヒドロピラン環、テトラヒドロチオピラン環、モルホリン環、ヘキサメチレンイミン環、ヘキサメチレンオキシド環、ヘキサメチレンスルフィド環、ヘプタメチレンイミン環等が挙げられる。
【0048】
式(3)においてR11~R13が独立した基である場合、R11~R13はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、またはアラルキル基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、またはアリール基がより好ましい。R11~R13のアルキル基とアリール基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が好ましく挙げられる。
【0049】
式(3)において、R12とR13が連結して形成される環構造としては、4~9員の不飽和炭化水素環であることが好ましく、なかでもシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のシクロアルカンモノエンがより好ましい。このように式(3)の基が構成されていれば、赤色~近赤外領域の吸収波形のショルダーピークが低減され、吸収ピークがシャープなものとなる。
【0050】
式(3)の環Pの芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、フルオランテン環、シクロテトラデカヘプタエン環等が挙げられる。芳香族炭化水素環は、環構造を1個のみ有するものであってもよく、2個以上の環構造が縮合したものであってもよい。環Pの芳香族複素環は、N(窒素原子)、O(酸素原子)およびS(硫黄原子)から選ばれる1種以上の原子を環構造に含み、芳香族性を有するものであり、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、プリン環、プテリジン環等が挙げられる。芳香族複素環は、環構造を1個のみ有するものであってもよく、2個以上の環構造が縮合したものであってもよい。環Pのこれらの環構造を含む縮合環は、芳香族炭化水素環と芳香族複素環とが縮環した構造を有するものであり、例えば、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、ベンゾピラン環、アクリジン環、キサンテン環、カルバゾール環等が挙げられる。環Pのπ共役系を適宜設定することにより、赤色~近赤外領域の吸収波長を容易に調整することができる。
【0051】
環Pは置換基を有していてもよく、当該置換基としては上記に説明した有機基や極性官能基が挙げられる。環Pが置換基を有する場合、その数は1~3が好ましく、1~2がより好ましく、さらに好ましくは1である。環Pは置換基を有さなくてもよい。
【0052】
式(3)で表される基を有するスクアリリウム化合物およびクロコニウム化合物の詳細は、例えば特開2016-74649号公報の記載が参照される。
【0053】
式(4)においてR14~R18が独立した基である場合、R14~R18はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アミド基、または水酸基であることが好ましい。R14~R18を適宜選択することで、スクアリリウム化合物やクロコニウム化合物の吸収極大波長を所望の値に制御することが可能となる。なかでも、スクアリリウム化合物やクロコニウム化合物の安定性や製造容易性の点から、R14~R18はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアミド基であることが好ましい。この場合のアルキル基は、直鎖状または分岐状であることが好ましく、またその炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0054】
式(4)で表される基は、R15とR16が連結して環を形成していることが好ましく、さらにR16とR17が連結して環を形成していてもよい。この場合、少なくともR14とR18は独立した基となる。このように式(4)の基が構成されていれば、赤色~近赤外領域の吸収ピークがシャープなものとなる。なお、R15とR16から形成される環構造やR16とR17から形成される環構造の環員数は5以上が好ましく、6以上がより好ましく、また12以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。
【0055】
式(4)で表される基では、R16がアミノ基であるか、アミノ基であるR16がR15と連結して環を形成しているか、さらにR17とも連結して環を形成していることが好ましい。この場合、吸収極大波長が長波長側(例えば685nm以上)にシフトして、赤色領域の光の透過率を高めて、透過光の色味を実際のものに近付けることができる。また、同様の観点から、R14またはR18がアミド基であることが好ましい。
【0056】
式(4)で表される基を有するスクアリリウム化合物およびクロコニウム化合物は、スクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格の両側のベンゼン環が連結基によって連結していてもよい。そのような化合物としては、例えば特開2015-176046号公報に開示されるスクアリリウム化合物が示される。
【0057】
樹脂組成物中の(B)成分の含有量は、所望の性能を発現させる点から、樹脂組成物の固形分100質量部中、0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物の成形性や成膜性等を高める点から、樹脂組成物中の(B)成分の含有量は、樹脂組成物の固形分100質量部中、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。なお、樹脂組成物中の(B)成分の含有量は、(B)成分としてオキソカーボン系化合物が複数種含まれる場合は、それら複数種のオキソカーボン系化合物の合計含有量を意味する。
【0058】
樹脂組成物は、(C)成分として、多価メルカプタン化合物を含有する。本発明者らが、熱可塑性樹脂とオキソカーボン系化合物とを含有する樹脂組成物について、その保存安定性を検討したところ、1~2ヶ月といった期間では特に劣化は認められないものの、室温(例えば25℃程度)で半年間程度保管すると、オキソカーボン系化合物の分光特性の劣化(例えば、可視光領域の光の透過率低下や近赤外領域の光の吸光度の低下)や、フィルム化したときに微かなもやが発生することが確認された。そのため、このような長期保管後の樹脂組成物を用いて光学フィルターなどを形成する場合、所望の光選択透過性能が得られなかったり、透明性が低下するおそれがある。
【0059】
そこで本発明では、熱可塑性樹脂とオキソカーボン系化合物とを含有する樹脂組成物の長期の保存安定性を確保するために、樹脂組成物に多価メルカプタン化合物を含有させている。多価メルカプタン化合物を含有させることにより、樹脂組成物に含まれるオキソカーボン系化合物の劣化が抑えられ、樹脂組成物の長期保存安定性が向上する。なお、このようなオキソカーボン系化合物の劣化抑制効果は、一般的な酸化防止剤を添加しても得ることはできず、多価メルカプタン化合物を用いることで、特に効果的にオキソカーボン系化合物の劣化を抑制することができる。多価メルカプタン化合物は、オキソカーボン系化合物の劣化を抑制するメルカプト基が1分子中に複数存在する点で好ましいだけでなく、分子量が大きくなることによって、長期間保存しても樹脂組成物から揮発せずに残存しやすくなる点でも好ましい。
【0060】
多価メルカプタン化合物は、1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、1,2-エタンジチオール、1,2-プロパンジチオール、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、1,3-ビス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、2,3-ビス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン-1-チオール等のアルカンポリチオールまたはアルカンポリチオールに含まれる-CH2-の一部が-O-、-S-で置き換えられたポリチオール;トリメチロールプロパントリメルカプトアセテート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトアセテート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキスメルカプトアセテート、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等のメルカプトアルキルカルボン酸とポリオール(例えば、アルカンポリオール、アルカンポリオールに含まれる-CH2-の一部が-O-で置き換えられたポリオール、トリス(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレート)とのエステル化物などが挙げられる。樹脂組成物に含まれる多価メルカプタン化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。これらの中でも、より多くのメルカプト基を有する多価メルカプタン化合物を得ることが容易な点から、メルカプトアルキルカルボン酸とポリオールとのエステル化物が好ましい。またこのようなメルカプタン化合物は、比較的分子量も大きくなるため、長期間保存しても揮発せずに樹脂組成物に残存しやすくなる。
【0061】
多価メルカプタン化合物としては、オキソカーボン系化合物の劣化抑制効果がより高まる観点から、メルカプト基を3個以上有することが好ましく、4個以上がより好ましい。一方、多価メルカプタン化合物の入手容易性や製造容易性の観点から、多価メルカプタン化合物の有するメルカプト基は10個以下が好ましく、8個以下がより好ましい。
【0062】
多価メルカプタン化合物は、有機メルカプタン化合物であることが好ましい。有機メルカプタン化合物としては、具体的には、炭素原子、酸素原子、水素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ハロゲン原子のみから構成される化合物が好ましく、炭素原子、酸素原子、水素原子、硫黄原子、窒素原子のみから構成される化合物がより好ましい。多価メルカプタン化合物はまた、式:-O-C(=O)-R20-SHで表される基(ただし、R20は炭素数1~6の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表す)を2つ以上有するものが好ましい。
【0063】
樹脂組成物中の(C)成分の含有量は、樹脂組成物の長期保存安定性を高める点から、樹脂組成物の固形分100質量部中、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上がさらに好ましい。一方、樹脂組成物中に(C)成分が過剰に含まれていても、長期保存安定性を高める効果がそれ以上あまり向上しないことから、樹脂組成物の固形分100質量部中、(C)成分の含有量は8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0064】
樹脂組成物中の(C)成分の含有量は、樹脂組成物の長期保存時のオキソカーボン系化合物の分解を抑制する点から、(B)成分のオキソカーボン系化合物の含有量の1.0質量倍以上が好ましく、1.2質量倍以上がより好ましく、1.5質量倍以上がさらに好ましく、2.0質量倍以上がさらにより好ましい。一方、樹脂組成物中に(C)成分が過剰に含まれていても長期保存時のオキソカーボン系化合物の分解抑制効果がそれ以上あまり向上しないことから、樹脂組成物中の(C)成分の含有量は(B)成分の含有量の8.0質量倍以下が好ましく、6.0質量倍以下がより好ましく、5.0質量倍以下がさらに好ましい。
【0065】
樹脂組成物は、(D)成分として、シランカップリング剤、シランカップリング剤の加水分解物、およびシランカップリング剤の加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。樹脂組成物が(D)成分を含有することにより、当該樹脂組成物を用いて基板上に樹脂層を形成した際に、樹脂層の基板への密着性を高めることができる。このような樹脂組成物から形成された樹脂層積層基板は、光学フィルターに好適に適用することができる。以下、シランカップリング剤、シランカップリング剤の加水分解物、およびシランカップリング剤の加水分解縮合物をまとめて、「特定シラン化合物」と称する場合がある。
【0066】
シランカップリング剤は、エポキシ基含有基、アミノ基含有基、メルカプト基含有基または重合性二重結合含有基を有することが好ましく、このような官能基とアルコキシシリル基を有する化合物を用いることが好ましい。シランカップリング剤には、上記の官能基が1つのみ含まれていてもよく、複数含まれていてもよく、またアルコキシシリル基が1つのみ含まれていてもよく、複数含まれていてもよい。
【0067】
シランカップリング剤がアルコキシシリル基を1つのみ含むものである場合、当該シランカップリング剤としては、下記式(5)で表されるアルコキシシランが好ましく用いられる。従って、(D)成分としては、下記式(5)で表されるシランカップリング剤、その加水分解物、およびその加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
SiR21 k22 m(OR23n(OH)4-k-m-n (5)
【0068】
式(5)中、R21はエポキシ基含有基、アミノ基含有基、メルカプト基含有基または重合性二重結合含有基を表し、R22とR23はそれぞれ独立してアルキル基を表し、kは1~3の整数を表し、mは0~2の整数を表し、nは1~3の整数を表す。kが2以上のとき、複数のR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、mが2のとき、複数のR22は互いに同一であっても異なっていてもよく、nが2以上のとき、複数のOR23は互いに同一であっても異なっていてもよい。R21とR22とOR23とOHは、それぞれSiに直接結合する基である。
【0069】
21のエポキシ基含有基は、エポキシ基を含むものであれば特に限定されず、グリシドキシ基含有基やシクロアルケンオキサイド(脂環式エポキシ基)含有基が挙げられる。グリシドキシ基やシクロアルケンオキサイドは、アルキレン基(好ましくは炭素数1~10のアルキレン基)等の連結基を介してケイ素原子に結合していてもよい。R21にはエポキシ基が1つのみ含まれていることが好ましい。R21のエポキシ基含有基としては、グリシドキシ基、3-グリシドキシプロピル基、8-(グリシドキシ)-n-オクチル基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基等が挙げられる。
【0070】
21のアミノ基含有基は、アミノ基を有するものであれば特に限定されず、1級アミノ基を有するものであってもよく、2級アミノ基を有するものであってもよく、3級アミノ基を有するものであってもよく、複数のアミノ基(例えば1級アミノ基と2級アミノ基)を有するものであってもよい。アミノ基は、アルキレン基(好ましくは炭素数1~10のアルキレン基)等の連結基を介してケイ素原子に結合していることが好ましい。R21のアミノ基含有基としては、3-アミノプロピル基、3-(2-アミノエチル)アミノプロピル基、3-(6-アミノヘキシル)アミノプロピル基、3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル基、N-フェニルアミノメチル基、N-フェニル-3-アミノプロピル基、N-ベンジル-3-アミノプロピル基、N-シクロヘキシルアミノメチル基等が挙げられる。
【0071】
21のメルカプト基含有基としては、メルカプト基を有するものであれば特に限定されないが、メルカプトアルキル基が好ましい。メルカプトアルキル基中のアルキル基は、直鎖状であってもよいし分岐状であってもよく、その炭素数は1~12が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましい。R21にはメルカプト基が1つのみ含まれていることが好ましい。R21のメルカプト基含有基としては、3-メルカプトプロピル基、2-メルカプトエチル基、2-メルカプトプロピル基、6-メルカプトヘキシル基等が挙げられる。
【0072】
21の重合性二重結合含有基としては、重合性二重結合基を有するものであれば特に限定されず、重合性二重結合基としてはビニル基、スチリル基、(メタ)アクリル基等が挙げられる。重合性二重結合基は、ケイ素原子に直接結合していてもよいし、アルキレン基(好ましくは炭素数1~10のアルキレン基)等の連結基を介してケイ素原子に結合していてもよい。R21の重合性二重結合含有基としては、ビニル基、2-プロペニル基、スチリル基、3-(メタ)アクリロキシプロピル基等が挙げられる。
【0073】
なお、樹脂層の基板への密着性を高める観点から、R21に含まれるエポキシ基、アミノ基、メルカプト基または重合性二重結合基はケイ素原子との距離が離れすぎないことが好ましく、これらの基はケイ素原子に直接結合しているか、炭素数1~6のアルキレン基を介してケイ素原子に結合していることが好ましい。
【0074】
22とR23のアルキル基は、炭素数1~6が好ましく、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1~3である。R22としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が好ましく挙げられる。OR23としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基が好ましく挙げられる。
【0075】
式(5)において、kは1または2が好ましく、1がより好ましく、これにより樹脂層の基板への密着性を高めやすくなる。また、mは0または1が好ましく、0がより好ましく、nは2または3が好ましい。
【0076】
シランカップリング剤がアルコキシシリル基を複数含むものである場合、当該シランカップリング剤としては、ポリマー型多官能シランカップリング剤を用いることができる。ポリマー型多官能シランカップリング剤は、有機ポリマー鎖に基とアルコキシシリル基含有基が結合した構造を有しており、1分子中にアルコキシシリル基を複数含むとともに、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、重合性二重結合基等の官能基も複数含むことができる。なお、ポリマー型多官能シランカップリング剤の有機鎖にはポリシロキサンは含まれない。ポリマー型多官能シランカップリング剤はこのように構成されることにより、樹脂や基板との反応点が多く形成され、樹脂層の基板への密着性を高めることができる。
【0077】
(D)成分として用いられるシランカップリング剤の加水分解物は、当該シランカップリング剤に含まれるアルコキシシリル基を加水分解によりシラノール基に変換することで得ることができる。また、シランカップリング剤の加水分解縮合物は、当該シランカップリング剤の加水分解物に含まれるシラノール基を脱水縮合させてシロキサン結合(-Si-O-Si-)を形成することにより得ることができる。通常シランカップリング剤を加水分解させると、シランカップリング剤の加水分解物が得られるとともに、当該加水分解物に含まれるシラノール基の脱水縮合反応も起こることにより、シランカップリング剤の加水分解縮合物も容易に得られる。シランカップリング剤の加水分解縮合物は、同種のシランカップリング剤の加水分解物の脱水縮合物であってもよく、異種のシランカップリング剤の加水分解物の脱水縮合物であってもよい。
【0078】
(D)成分としては、エポキシ基含有シランカップリング剤、その加水分解物、およびその加水分解縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。従って、上記式(5)のR21はエポキシ基含有基であることが好ましい。これにより、樹脂層と基板との密着性を高めることが容易になる。
【0079】
樹脂組成物には、(D)成分が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。なお樹脂組成物には、(D)成分として、少なくともシランカップリング剤の加水分解物および/または加水分解縮合物が含まれることが好ましく、これにより樹脂層の基板への密着性、とりわけ過酷な条件である水煮沸後の密着性を高めることができる。より好ましくは、エポキシ基含有シランカップリング剤の加水分解物または加水分解縮合物が、(D)成分に少なくとも含まれる。
【0080】
(D)成分には、シランカップリング剤の加水分解縮合物が含まれることがより好ましい。この場合の脱水縮合物としては、アルコキシシラン(例えば、上記式(5)で表されるアルコキシシラン)の二量体や三量体が少なくとも含まれることが好ましい。例えば、(D)成分として用いられる特定シラン化合物の重量平均分子量を測定したときに、五量体相当(ただし、アルコキシ基は全て水酸基になっているとする)の分子量以下となることが好ましく、四量体相当の分子量以下となることがより好ましい。当該重量平均分子量の具体的な値としては、例えば、300以上が好ましく、また1000以下が好ましく、800以下がより好ましく、600以下がさらに好ましい。
【0081】
樹脂組成物中の(D)成分の含有量は、樹脂組成物の固形分100質量部中、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、また20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。樹脂組成物の固形分100質量部中、(D)成分が0.1質量部以上の含有量で含まれていれば、当該樹脂組成物を用いて基板上に樹脂層を形成した際に、樹脂層の基板への密着性を高めやすくなる。一方、樹脂組成物中に(D)成分が過剰に含まれていても、樹脂層の基板への密着性を高める効果がそれ以上あまり向上しないことから、樹脂組成物の固形分100質量部中、(D)成分の含有量は20質量部以下であることが好ましい。(A)成分の熱可塑性樹脂を基準とした(D)成分の含有量としては、(A)成分の熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、また30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0082】
樹脂組成物は、(E)成分として、紫外線吸収剤を有していてもよい。樹脂組成物が紫外線吸収剤を含有することにより、樹脂組成物の紫外~紫色領域の光に起因する劣化を抑制することができる。また、樹脂組成物を硬化して樹脂成形体としたり、基板上に樹脂層を形成することで、紫外~紫色領域の光をもカットする光学フィルターを形成することができる。さらに、樹脂組成物の保管の際や光学フィルターの製造・加工(例えば蒸着や実装など)の際に紫外光にさらされても、当該紫外光から樹脂成分や樹脂組成物中に含まれる他の成分、特に(B)成分を保護し、これらの成分の劣化を抑制することができる。
【0083】
紫外線吸収色素としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチル酸系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンゾオキサゾール系化合物、メロシアニン系化合物、トリアジン系化合物等の公知の紫外線吸収剤を用いることができる。紫外線吸収剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。紫外線吸収剤は、市販の物質を用いてもよく、例えば、ADEKA社製のアデカスタブ(登録商標)シリーズや、BASF社製のTINUVIN(登録商標)シリーズ、三共化成社製のジスライザー(登録商標)シリーズ、住友化学社製のスミソーブ(登録商標)シリーズ、共同薬品社製のバイオソーブ(登録商標)シリーズ、シプロ化成社製のシーソーブ(登録商標)シリーズ等を用いることができる。
【0084】
紫外線吸収剤としては、下記式(6)で表されるスチレン系化合物を用いることも好ましい。下記式(6)で表されるスチレン系化合物は、波長350nm~395nmの範囲に吸収波長域を形成するとともに、当該吸収波長域の長波長側では、吸収波長域と透過波長域との境目をシャープに形成することができる。
【0085】
【化7】
【0086】
上記式(6)において、R31はシアノ基、アシル基、カルボン酸エステル基またはアミド基を表し、R32は水素原子、シアノ基、アシル基、カルボン酸エステル基、アミド基、炭化水素基またはヘテロアリール基を表し、R31とR32がともにアシル基、カルボン酸エステル基またはアミドである場合、R31とR32は互いに連結して環を形成していてもよく、R33は水素原子またはアルキル基を表し、R34は水素原子、有機基または極性官能基を表し、複数のR34は互いに同一または異なっていてもよく、Xは硫黄原子または酸素原子を表し、Lは水素原子または2価以上の連結基を表し、aは1以上の整数を表し、aが2以上である場合、Lに結合する複数の基は互いに同一または異なっていてもよい。式(6)中、R31(またはR32)はR33に対して、シス位にあってもよく、トランス位にあってもよい。
【0087】
31とR32のアシル基(アルカノイル基)としては、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基、ヘプタデカノイル基、オクタデカノイル基、ノナデカノイル基、エイコサノイル基等が挙げられる。アシル基は、水素原子の一部が、アリール基、アルコキシ基、ハロゲノ基、水酸基等で置換されていてもよい。前記アシル基中のアルキル基は、直鎖状であってもよく分岐状であってもよい。アシル基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2~21が好ましく、より好ましくは2~11であり、さらに好ましくは2~6である。
【0088】
31とR32のカルボン酸エステル基としては、式:-C(=O)-O-Rb1で表され、Rb1がアルキル基、アリール基、アラルキル基であるものが挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基の具体例は、上記のR11~R18のこれらの基の説明が参照される。
【0089】
31とR32のアミド基としては、式:-C(=O)-NRb2b3で表され、Rb2が水素原子またはアルキル基であり、Rb3がアルキル基、アシル基、アリール基またはアラルキル基であるものが挙げられる。Rb2とRb3のアルキル基、アリール基、アラルキル基の具体例は、上記のR11~R18のこれらの基の説明が参照され、Rb3のアシル基の具体例は、上記のR31とR32のアシル基の説明が参照される。
【0090】
31とR32がともにアシル基であって、互いに連結して環を形成する場合のR31とR32から形成される基としては、式:-C(=O)-Rb4-C(=O)-で表される基が示される。R31とR32がともにカルボン酸エステル基であって、互いに連結して環を形成する場合のR31とR32から形成される基としては、式:-C(=O)-O-Rb5-O-C(=O)-で表される基が示される。R31とR32がともにアミド基であって、互いに連結して環を形成する場合のR31とR32から形成される基としては、式:-C(=O)-NRb6-Rb7-NRb8-C(=O)-で表される基が示される。これらの式中、Rb4、Rb5およびRb7はそれぞれ独立して、直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Rb6とRb8はそれぞれ独立して、水素原子または炭化水素基を表し、これらの式に示された構造の両末端のカルボニル基の炭素原子は式(6)のエチレン二重結合の炭素原子に結合する。Rb4、Rb5およびRb7のアルキレン基は、水素原子の一部が、アリール基、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基等で置換されていてもよい。Rb4、Rb5およびRb7のアルキレン基の炭素数(置換基を除く炭素数)は、2~10が好ましく、3~8がより好ましい。Rb6とRb8の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基またはアラルキル基が好ましく挙げられ、これらの基の具体例は、上記のR11~R18のアルキル基、アリール基およびアラルキル基の説明が参照される。
【0091】
式(6)のR33は水素原子またはアルキル基を表し、アルキル基の具体例は、上記のR11~R18のアルキル基に関する説明が参照される。R33のアルキル基は、好ましくは炭素数1~3であり、より好ましくは炭素数1~2である。R33としては水素原子が特に好ましい。
【0092】
式(6)のR34の有機基と極性官能基の詳細は、上記のR11~R18の有機基と極性官能基の説明が参照される。R34としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アラルキル基、アリールオキシ基およびアリールチオ基から選ばれる1種以上であることが好ましく、水素原子またはアルキル基であることが好ましい。当該アルキル基の炭素数は、1~4が好ましく、1~3がより好ましい。なかでも、式(6)のベンゼン環に結合する4つのR34のうち、2以上が水素原子であることが好ましく、3以上が水素原子であることがより好ましく、4つ全てが水素原子であることが特に好ましい。
【0093】
式(6)において、Xは、R31~R33を含むエチレン構造部に対して、オルト位に結合していてもよく、メタ位に結合していてもよく、パラ位に結合していてもよい。なお、スチレン系化合物の製造容易性の観点からは、Xはエチレン構造部に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0094】
式(6)において、Lが2価以上の連結基である場合、当該連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、-O-、-CO-、-S-、-SO-、-SO2-、-NH-等の2価の連結基;アルキル基を有していてもよいメチン基(-C<)、-N<等の3価の連結基;>C<等の4価の連結基;およびこれらを組み合わせた連結基が挙げられる。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。また、アルキレン基とアリーレン基は、水酸基および/またはチオール基を有していてもよい。
【0095】
スチレン系化合物の耐熱性を高める観点からは、aは2以上の整数であり、Lは2価以上の連結基を表すことが好ましい。また、連結基Lは、水素原子の一部が水酸基および/またはチオール基で置き換えられていてもよいアルキレン基、水素原子の一部が水酸基および/またはチオール基で置き換えられていてもよいアリーレン基、-O-、-S-、およびこれらの基を組み合わせた連結基が好ましい(ただし、エーテル結合およびチオエーテル結合は連続しない)。直鎖状または分岐状のアルキレン基の炭素数(連続する炭素数)は6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。環状のアルキレン基であれば、炭素数は4以上が好ましく、5以上がより好ましく、また10以下が好ましく、8以下がより好ましい。アリーレン基の炭素数は、5以上が好ましく、6以上がより好ましく、また10以下が好ましく、8以下がより好ましい。
【0096】
スチレン系化合物としては、下記式(7)に示されるスチレン系化合物が特に好ましく示される。このようなスチレン系化合物は、例えば波長300nm~420nmの範囲に吸収極大を有するピークを有し、紫外(UVA)~紫色領域の光を効果的に吸収できるとともに、安定性に優れるものとなり、製造が容易になる。下記式(7)において、R31aとR31bの説明は上記のR31の説明が参照され、R32aとR32bの説明は上記のR32の説明が参照され、R33aとR33bの説明は上記のR33の説明が参照され、XaとXbの説明は上記のXの説明が参照される。
【0097】
【化8】
【0098】
式(6)や式(7)で表されるスチレン系化合物の詳細は、国際公開第2019/009093号の記載が参照される。
【0099】
樹脂組成物中の(E)成分の含有量は、所望の性能を発現させる点から、樹脂組成物の固形分100質量部中、0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物の成形性や成膜性等を高める点から、樹脂組成物中の(E)成分の含有量は、樹脂組成物の固形分100質量部中、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。樹脂組成物が(E)成分としてスチレン系化合物を含有する場合は、スチレン系化合物の含有量が上記範囲にあることも好ましい。なお、(B)成分と(E)成分との合計含有量は、樹脂組成物の固形分100質量部中、25質量部以下となることが好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0100】
樹脂組成物は、オキソカーボン系化合物以外の近赤外吸収色素および/または可視光吸収色素をさらに含有していてもよい。近赤外吸収色素と可視光吸収色素は、有機色素であっても、無機色素であっても、有機無機複合色素(例えば、金属原子またはイオンが配位した有機化合物)であっても、特に限定されない。オキソカーボン系化合物以外の近赤外吸収色素および可視光吸収色素としては、例えば、中心金属イオンとして銅(例えば、Cu(II))や亜鉛(例えば、Zn(II))等を有していてもよい環状テトラピロール系色素(ポルフィリン類、クロリン類、フタロシアニン類、ナフタロシアニン類、コリン類等)、シアニン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キサンテン系色素、インドリン系色素、アリールメタン系色素、クアテリレン系色素、ジイモニウム系色素、ペリレン系色素、キナクドリン系色素、オキサジン系色素、ジピロメテン系色素、ニッケル錯体系色素、銅イオン系色素等が挙げられる。樹脂組成物が可視光吸収色素を含有する場合は、着色フィルターやブルーライト軽減フィルター形成用などの樹脂組成物とすることができる。
【0101】
樹脂組成物が他の色素をも含有する場合、他の色素の含有量は、(B)成分のオキソカーボン系化合物と他の色素の合計100質量部に対し、60質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、他の色素を実質的に含まないことが特に好ましい。また、(B)成分と他の色素の合計含有量が、樹脂組成物の固形分100質量部中、25質量部以下となることが好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。樹脂組成物が(E)成分の紫外線吸収剤を含有する場合は、(E)成分の紫外線吸収剤をも含めた合計含有量が前記範囲にあることが好ましい。
【0102】
樹脂組成物は、溶媒を含有するものであってもよい。例えば、樹脂組成物が塗料化された樹脂組成物である場合は、溶媒を含むことにより樹脂組成物の塗工が容易になる。溶媒を含有する樹脂組成物は、インク組成物として用いることができる。
【0103】
溶媒は、樹脂組成物に含まれる各成分を溶解するように機能するものであっても、分散媒として機能するものであってもよい。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;PGMEA(2-アセトキシ-1-メトキシプロパン)、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体類(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;N-メチル-ピロリドン(具体的には、1-メチル-2-ピロリドン等)等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
溶媒の含有量としては、樹脂組成物(またはインク組成物)100質量部中、例えば50質量部以上であることが好ましく、70質量部以上がより好ましく、また100質量部未満が好ましく、95質量部以下がより好ましい。溶媒の含有量をこのような範囲内に調整することにより、各成分濃度の高い樹脂組成物を得ることが容易になる。
【0105】
樹脂組成物は表面調整剤を含んでいてもよく、これにより、樹脂組成物を硬化して樹脂層を形成した際に、樹脂層にストライエーションや凹み等の外観上の欠陥を生じることを抑制することができる。表面調整剤の種類は特に限定されず、シロキサン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系レベリング剤などを用いることができる。表面調整剤としては、例えば、ビックケミー社製のBYK(登録商標)シリーズや信越化学工業社製のKFシリーズ等を用いることができる。
【0106】
樹脂組成物は分散剤を含んでいてもよく、これにより、樹脂組成物の分散性を安定化し、再凝集を抑制することができる。分散剤の種類は特に限定されず、エフカアディティブズ社製のEFKAシリーズ、ビックケミー社製のBYK(登録商標)シリーズ、日本ルーブリゾール社製のソルスパース(登録商標)シリーズ、楠本化成社製のディスパロン(登録商標)シリーズ、味の素ファインテクノ社製のアジスパー(登録商標)シリーズ、信越化学工業社製のKPシリーズ、共栄社化学社製のポリフローシリーズ、ディーアイシー社製のメガファック(登録商標)シリーズ、サンノプコ社製のディスパーエイドシリーズ等を用いることができる。
【0107】
樹脂組成物には、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、比抵抗調整剤、密着性向上剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0108】
樹脂組成物は、硬化することにより硬化物とすることができる。樹脂組成物は、例えば、射出成形、押出成形、真空成形、圧縮成形、ブロー成形等をすることにより硬化物とすることができる。この場合、樹脂組成物は、例えば150℃~350℃程度に加熱し溶融させた後、成形すればよい。成形品の形状は特に限定されるものではないが、板状、シート状、粒状、粉状、塊状、粒子凝集体状、球状、楕円球状、レンズ状、立方体状、柱状、棒状、錐形状、筒状、針状、繊維状、中空糸状、多孔質状等が挙げられる。また樹脂を混練する際に、可塑剤等の通常の樹脂成形に用いられる添加剤を加えてもよい。
【0109】
樹脂組成物は、スピンコート法、溶媒キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等により塗工できるよう塗料化されたものであってもよい。樹脂組成物がインク組成物である場合は、このような方法により任意の基材に塗工することができる。この場合、液状またはペースト状の樹脂組成物を基板(例えば、樹脂板、フィルム、ガラス板等)上に塗工することで、厚さ200μm以下のフィルム状や、厚さ200μm超のシート状の硬化物を得ることができる。このようにして得られた樹脂組成物の硬化物は、基材と一体化して取り扱うことができる。
【0110】
本発明の樹脂組成物は、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、機械部品、電気・電子部品等の様々な用途で用いられるフィルター形成用の樹脂組成物として好ましく使用できる。樹脂組成物は、例えば、近赤外線カットフィルターや光選択透過フィルター等の光学フィルター用途に用いることができる。
【0111】
光学フィルターとしては、本発明の樹脂組成物を硬化した樹脂層が基板上に形成されたものが好ましく、これにより基板と樹脂層とが積層一体化した光学フィルターが得られる。樹脂層は、基板の一方面のみに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。
【0112】
樹脂層の厚さは特に限定されないが、所望の光選択透過性能を確保する点から、例えば0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。樹脂層の厚みの上限としては、例えば1mm以下であってもよく、500μm以下、200μm以下、あるいは50μm以下であってもよい。塗料化された樹脂組成物をスピンコート法により基板上に塗工する場合は、樹脂層の厚みをさらに薄く形成することができ、より薄い光学フィルターを形成する観点からは、樹脂層は20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましく、3μm以下がさらにより好ましく、2μm以下が特に好ましい。
【0113】
基板としては、樹脂板、樹脂フィルム、ガラス板等の透明基板を用いることが好ましい。なかでも、基板としてはガラス基板を用いることが好ましい。樹脂層をガラス基板上に設けることにより、耐熱性に優れた光学フィルターを得ることができる。このようにして得られた光学フィルターは、例えば、半田リフローにより、光学フィルターを電子部品に実装することが可能となり、電子部品の小型化を図ることができる。またガラス基板は、高温にさらされても割れや反りが起こりにくいため、樹脂層との密着性を確保しやすくなる。特に樹脂組成物が(D)成分を含有する場合は、(D)成分の作用によって樹脂層とガラス基板との密着性を高めることが容易になる。
【0114】
ガラス基板に用いられるガラスは、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス等の公知のガラスを用いることができる。これらのガラスは、ケイ素原子、ホウ素原子またはリン原子が、酸素原子と網目構造を形成してガラスの主骨格を形成しており、ガラス中には、これらの原子以外にナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウム、鉄、銀、銅、コバルト、ニッケル、鉛、亜鉛、フッ素等の原子またはイオンが存在していてもよい。ガラスは無色透明であってもよく、用途によってはブルーガラスのような着色ガラスを用いてもよい。
【0115】
基板の厚みは、例えば、強度を確保する点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、また薄型化の点から、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。
【0116】
本発明の樹脂組成物から形成された樹脂層には、第2の樹脂層として、当該樹脂層と同一または異なる樹脂から構成された保護層を積層させてもよい。保護層を設けることにより、樹脂層に含まれる各成分の耐久性(耐分解性)を高めることができる。保護層は、樹脂層の一方面のみに設けられてもよく、両面に設けられてもよい。
【0117】
光学フィルターは、蛍光灯等の映り込みを低減する反射防止性や防眩性を有する層(反射防止膜)、傷付き防止性能を有する層、その他の機能を有する透明基材等を有していてもよい。光学フィルターは、樹脂層上に紫外線反射膜や近赤外線反射膜を有していてもよい。紫外線反射膜や近赤外線反射膜は、樹脂層よりも入光側に設けられていることが好ましい。光学フィルターに紫外線反射膜や近赤外線反射膜が設けられていれば、光学フィルターの透過光から紫外線や近赤外線をよりカットすることができる。紫外線反射膜と近赤外線反射膜は、1つで紫外線反射機能と近赤外線反射機能を有するものであってもよい。
【0118】
紫外線反射膜、近赤外線反射膜、反射防止膜(可視光反射防止膜)は、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜から構成することができる。従って、このような機能を光学フィルターに付与する場合は、光学フィルターは誘電体多層膜を有することが好ましい。高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常1.7~2.5の材料が選択される。高屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫、酸化ビスマス等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;前記酸化物や前記窒化物の混合物やそれらにアルミニウムや銅等の金属や炭素をドープしたもの(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO))等が挙げられる。低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、屈折率の範囲が通常1.2~1.6の材料が選択される。低屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
【0119】
光学フィルターはまた、アルミ蒸着膜、貴金属薄膜、酸化インジウムを主成分とし酸化スズを少量含有させた金属酸化物微粒子を分散させた樹脂膜等を有していてもよい。
【0120】
光学フィルターの厚みは、例えば、1mm以下であることが好ましい。これにより、例えば、撮像素子の小型化への要請に十分に応えることができる。光学フィルターの厚みは、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下、さらにより好ましくは150μm以下であり、また30μm以上が好ましく、50μm以上がさらに好ましい。
【0121】
本発明の光学フィルターは、撮像素子用途に特に好適である。本発明には、光学フィルターを有する撮像素子も含まれる。撮像素子は、固体撮像素子やイメージセンサチップとも称され、被写体の光を電気信号に変換し、電気信号として出力する電子部品である。撮像素子は、通常、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の検出素子(センサー)を有し、レンズを有していてもよい。撮像素子は、例えば、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等に用いられる。撮像素子は、本発明の光学フィルターを1または2以上含み、必要に応じて、さらに他の部材を有していてもよい。
【実施例
【0122】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0123】
(1)化合物の合成
(1-1)合成例1:近赤外吸収色素Aの合成
特開2016-74649号公報の実施例1-18に記載の方法に従い、表1に示す近赤外吸収色素A(スクアリリウム化合物)を合成した。近赤外吸収色素Aのトルエン中の透過スペクトルを測定したところ、吸収極大波長は737nmであった。
【0124】
(1-2)合成例2:近赤外吸収色素Bの合成
300mLの4口フラスコに、クロロホルム110g、酢酸1.8g、7-ニトロ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン5.4g(0.0303mol)、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリド12.84g(0.0606mol)を入れ、窒素流通下(10mL/min)、撹拌羽を用いて撹拌しながらイソブチルアルデヒド4.37g(0.0606mol)を10分間かけて滴下した。滴下終了後、得られた反応液を水300gに加え、塩酸を用いて中和した。そこに酢酸エチル300gを加え、分液ロートにて有機相を抽出し、抽出した有機相に硫酸マグネシウム(無水)を加えて脱水した。この有機相から固形物(無機分)をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を濃縮後、適宜シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用い、また濃縮および真空乾燥を行うことにより、1-イソブチル-7-ニトロ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリンを得た。
【0125】
次いで、1-イソブチル-7-ニトロ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリンを2.8g(0.012mol)、濃塩酸(塩酸濃度36重量%)を9.0g入れ、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、塩化スズ・2水和物9.1gと濃塩酸(塩酸濃度36重量%)9.1gの入った溶液を、反応熱に注意しながら少しずつ添加した。添加後、3時間ほど室温にて撹拌した。その後、純水100gと酢酸エチル100gの入ったビーカーに、得られた反応液を撹拌させながら加えた。そこに水酸化カリウム溶液を少しずつ添加し、水溶液のpHが10付近になったところでしばらく撹拌した後、分液ロートにて有機相を抽出し、抽出した有機相に硫酸マグネシウム(無水)を加えて脱水した。この有機相から固形物(無機分)をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を濃縮後、適宜シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用い、また濃縮および真空乾燥を行うことにより、1-イソブチル-7-アミノ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリンを得た。
【0126】
次いで、100mLの3口フラスコに、1-イソブチル-7-アミノ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリンを2.86g(0.0143mol)、超脱水クロロホルムを50g入れ、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、トリエチルアミンを4.34g(0.0429mol)、パルミトイルクロリド(n-ヘキサデカノイルクロリド)を7.86g(0.0286mol)加え、室温にて12時間反応させた。反応終了後、得られた反応液をイオン交換水に加えて酢酸エチルで抽出を行った。抽出した有機相に硫酸マグネシウム(無水)を加えて脱水した。この有機相から固形物(無機分)をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を濃縮後、適宜シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)を用い、また濃縮および真空乾燥を行うことにより、1-イソブチル-7-(N-パルミトイルアミノ)-1,2,3,4-テトラヒドロキノリンを得た。
【0127】
次いで、300mLの2口フラスコに、1-イソブチル-7-(N-パルミトイルアミノ)-1,2,3,4-テトラヒドロキノリンを6.3g(0.0143mol)、スクアリン酸0.82g(0.0072mmol)、1-ブタノール30g、トルエン30gを入れ、窒素流通下(10mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌し、かつディーンスターク装置を用いて溶出してくる水を取り除きながら、還流条件にて3時間反応させた。反応終了後室温まで冷却させ、析出物をろ別した。ろ別した析出物をメタノールで洗浄し、再び析出物のみをろ過して、得られたケーキ(固形物)をアルミナによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)によって精製を行った。得られた精製物を真空乾燥機を用いて60℃で12時間乾燥し、表1に示す近赤外吸収色素B(スクアリリウム化合物)を得た。近赤外吸収色素Bのトルエン中の透過スペクトルを測定したところ、吸収極大波長は700nmであった。
【0128】
(1-3)合成例3:紫外線吸収剤Aの合成
200mLの4口フラスコに、4-フルオロベンズアルデヒド4.98g(0.039mol)、エチレングリコールビス(2-メルカプトエチル)エーテル3.57g(0.020mol)、炭酸カリウム10.86g(0.079mol)、アセトニトリル74gを仕込み、窒素流通下(10mL/min)、撹拌羽を用いて撹拌しながら60℃で12時間反応させた。反応終了後、減圧ろ過によって不溶分をろ別した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた濃縮物を200mLの4口フラスコに入れ、そこにシアノ酢酸イソブチル11.09g(0.079mol)、ピペリジン3.32g(0.039mol)、メタノール68gを加え、還流条件下で4時間反応させた。反応終了後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた濃縮物をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)によって精製を行い、表1に示す紫外線吸収剤Aを得た。紫外線吸収剤Aのトルエン中の透過スペクトルを測定したところ、吸収極大波長は364nmであった。
【0129】
【表1】
【0130】
(2)樹脂組成物の調製
撹拌翼を備えた容量2リットルの反応容器に、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10.01g(0.044mol)、水酸化ナトリウム3.59g(0.090mol)、イオン交換水300gを仕込み、溶解させた後、そこにトリエチルアミン0.89g(0.009mol)を加えて溶解させた。テレフタル酸ジクロリド3.57g(0.021mol)とイソフタル酸ジクロリド3.57g(0.021mol)を500gの塩化メチレンに溶解させた溶液を滴下ロートに入れ、これを前記反応容器に取り付けた。反応容器中の溶液を20℃に保ちながら撹拌し、滴下ロートから塩化メチレン溶液を60分間かけて滴下した。さらにそこに、塩化ベンゾイル0.71g(0.005mol)を10gの塩化メチレンに溶解させた溶液を添加し、60分間撹拌した。得られた反応液に酢酸水溶液を加えて中和して、水相のpHを7にしてから分液ロートを用いて油相と水相を分離した。得られた油相を、撹拌下、メタノールに滴下してポリマーを再沈させ、沈殿をろ過により回収し、80℃オーブンで乾燥して白色固体のポリアリレート樹脂(PAR樹脂)を得た。得られたポリアリレート樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は33,780、数平均分子量(Mn)は8,130であった。
【0131】
上記で得られたポリアリレート樹脂9.9質量部をトルエン34.5質量部とo-キシレン52.5質量部の混合溶媒に加え、さらにそこに近赤外吸収色素Aを0.8質量部、近赤外吸収色素Bを0.3質量部、紫外線吸収剤Aを1.1質量部、表面調整剤としてビックケミー社製BYK-310(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)を0.03質量部加え、均一に混合した。このようにして得られたベース樹脂組成物をエポキシ基含有シランカップリング剤の加水分解溶液と、ベース樹脂組成物:シランカップリング剤加水分解溶液=99:1の質量比で25℃で均一に混合し、これを孔径0.1μmのフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過して異物を取り除くことで、樹脂組成物Aを得た。なお、エポキシ基含有シランカップリング剤の加水分解溶液は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、OFS-6040)4.0質量部と2-プロパノール5.7質量部と蒸留水0.1質量部とを配合し、25℃で均一に混合した後、ギ酸0.2質量部を加えて90分間混合し、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解反応を進行させることにより調製した。
【0132】
(3)保存安定性評価
(3-1)樹脂組成物の保存安定性
上記で得られた樹脂組成物Aを6ヶ月間保管したときの保存安定性を調べた。樹脂組成物Aに、添加剤として、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(PEMP)を加えた場合と、添加剤を加えない場合について、6ヶ月保管後の粘度変化、固形分濃度の変化、光学スペクトルの変化を調べた。樹脂組成物Aに添加剤を加える場合は、樹脂組成物Aの100質量部に対し、PEMPを0.3質量部加えた。樹脂組成物A(添加剤あり/なし)は、溶媒が揮発しない容器に入れ、25℃にて遮光下で6ヶ月間保管した。また、参考として、添加剤を加えない樹脂組成物Aを同条件で10℃で保管した。光学スペクトルは、樹脂組成物Aをトルエンで2000倍に薄めた樹脂溶液について、波長550nmと波長720nmにおける光線透過率を調べた。
【0133】
結果を表2に示すが、PEMPを添加しない場合は、25℃で6ヶ月保管後、可視光領域の波長550nmの透過率が下がり、近赤外領域の波長720nmの透過率が上がった。これは、樹脂組成物Aに含まれる近赤外吸収色素のスクアリリウム化合物が劣化したことを示している。一方、PEMPを添加した場合は、25℃で6ヶ月保管後も光学スペクトルに変化はなく、保存安定性に優れるものとなった。なお、PEMPを添加せずに10℃で6ヶ月間保管した場合は、PEMPを添加せずに25℃で6ヶ月間保管した場合よりも劣化の程度は低減したが、その場合でもPEMPを添加して25℃で保管した場合の方が保存安定性が優れる結果となった。
【0134】
【表2】
【0135】
(3-2)保管後の樹脂組成物から作製した光学フィルターの光学特性
保管前の樹脂組成物A、PEMPを添加して25℃で6ヶ月保管した後の樹脂組成物A、PEMPを添加せずに25℃で6ヶ月保管した後の樹脂組成物A、PEMPを添加せずに10℃で6ヶ月保管した後の樹脂組成物Aを用いて、それぞれ光学フィルターを作製した。
【0136】
光学フィルターは次のように作製した。樹脂組成物をガラス基板(Schott社製、D263Teco)上に1cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H-D7)を用い、0.3秒間かけて1900回転にし、1秒間その回転数で保持しガラス基板上に成膜した。樹脂組成物を成膜したガラス基板を、イナートオーブン(ヤマト科学社製、DN610I)を用いて50℃で30分間窒素置換した後、15分程度で190℃に昇温し、窒素雰囲気下、190℃で60分間乾燥することにより、ガラス基板上に樹脂層(吸収層)を形成した。ガラス基板上に形成した樹脂層の厚みは1.6μmであった。なお、樹脂層の厚みは、樹脂層を形成したガラス基板の厚みとガラス基板単独の厚みをそれぞれマイクロメーターにより測定し、両者の差から求めた。
【0137】
保管前の樹脂組成物A、PEMPを添加して25℃で6ヶ月保管した後の樹脂組成物A、PEMPを添加せずに10℃で6ヶ月保管した後の樹脂組成物Aから形成した光学フィルターはいずれも、強い光源(ポラリオンライト)を照射しても欠陥が認められず、優れた透明性を有していた。一方、PEMPを添加せずに25℃で6ヶ月保管した後の樹脂組成物Aから形成した光学フィルターは、異物による濁りやモヤが認められた。
【0138】
PEMPを添加して25℃で6ヶ月保管した後の樹脂組成物Aを用いて作製した光学フィルター(これを「光学フィルター1」と称する)と、光学フィルター1の樹脂層側にAR膜(蒸着法により、TiO2膜とSiO2膜を交互に5層積層)を積層した光学フィルター2について、透過スペクトルを測定した。結果を図1に示すが、光学フィルター2は、高い可視光透過性と近赤外領域に幅広い吸収帯を有していた。光学フィルター2は、煮沸試験、高温高湿試験、ヒートサイクル試験、太陽光暴露試験後も、光学スペクトル変化や外観、密着性の変化がなく、高い耐久性を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の樹脂組成物は、基板上に塗工して樹脂層を形成することにより、光学デバイス、表示デバイス、機械部品、電気・電子部品等の用途に有用な光学フィルターなどに用いることができる。
図1