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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1246 20160101AFI20230221BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20230221BHJP
   H01M 8/0656 20160101ALI20230221BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230221BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20230221BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20230221BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20230221BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230221BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230221BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20230221BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230221BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20230221BHJP
   C25B 11/047 20210101ALI20230221BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20230221BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20230221BHJP
【FI】
H01M8/1246
H01M8/00 Z
H01M8/0656
H01M8/12 101
H01M8/1213
H01M8/1253
H01M8/126
H01M4/86 T
H01M4/90 M
H01M4/90 X
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B11/047
C25B11/077
C25B13/04 301
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019025616
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020135987
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮碕 邦典
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145445(JP,A)
【文献】特開2017-071830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C25B 1/00- 9/77
C25B 13/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素極、プロトン伝導性固体電解質層、および水素極を有し、
前記プロトン伝導性固体電解質層が前記酸素極と前記水素極との間に挟まれており、
前記酸素極が、AサイトにBaを含み且つBサイトにCoを含むペロブスカイト型金属酸化物、およびプロトン伝導性固体電解質を含み、
前記酸素極に含まれる前記プロトン伝導性固体電解質が、AサイトにBaおよびSrを含み且つBサイトにZrおよびCeを含むペロブスカイト型のプロトン伝導性金属酸化物であることを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記酸素極に含まれる前記プロトン伝導性固体電解質が、BサイトにY、Nd、GdおよびYbからなる群より選択される1種以上の元素を含むペロブスカイト型のプロトン伝導性金属酸化物である請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記酸素極における前記プロトン伝導性固体電解質の割合が5質量%以上、45質量%以下である請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記水素極が、Ni、CoおよびFeからなる群より選択される1種以上の金属元素と、AサイトにSrを含み且つBサイトにZr、CeおよびYを含むプロトン伝導性金属酸化物を含む請求項1~のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記酸素極および前記水素極の少なくとも一方の上に、更に集電層を有する請求項1~のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の電気化学セルを含むことを特徴とするリバーシブル固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池としても水蒸気電解用セルとしても用いることができ、固体酸化物形燃料電池として発電効率が高く、水蒸気電解用セルとして水素製造効率の高い電気化学セルと、当該電気化学セルを含むリバーシブル固体酸化物形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、資源枯渇や地球温暖化を防止する技術が求められている。特に電力分野においては、温暖化ガスの一つである二酸化炭素の排出を抑制し、化石資源に頼らない再生可能エネルギーの開発が進んでいる。再生可能エネルギーは、太陽光、太陽熱、水力、風力、地熱、バイオマスなど、自然から定常的または反復的に補充される再生可能エネルギー源から得られるエネルギーであり、例えば、バイオマスから水素を製造し、燃料電池を使って水素と空気から発電することにより得られる電力が挙げられる。
【0003】
最近、水素を製造するための有力な技術として、水蒸気電解の研究が広く進められている。水蒸気電解は、H2Oを電気分解して水素と酸素を得る際に、液体である水ではなく気体の水蒸気を用いるものであり、高温で作動させることができるため電解に必要な電圧が小さく、エネルギー効率が高いという特徴を有する。
【0004】
従来、水蒸気電解では、電解質として酸素イオン伝導性のものが専ら用いられていた。例えば特許文献1には、固体電解質として、酸素イオン伝導性であるイットリア安定化ジルコニアを用いた水蒸気電解技術が開示されている。酸素イオン伝導性固体電解質を用いて水蒸気電解を行う場合、酸素極および水素極で起こる電極反応はそれぞれ以下の通りである。
酸素極: 2O2- → O2 + 4e-
水素極: 2H2O + 4e- → 2H2 + 2O2-
【0005】
上記式のとおり、この場合には、水素は水素極側で発生し、共存する水蒸気と分離する工程が別途必要になるという問題がある。
かかる問題を解決できる技術としては、例えば特許文献2のように、プロトン伝導性の電解質を用いて水蒸気電解する技術が開発されている。当該技術において酸素極と水素極で起こる電極反応はそれぞれ以下の通りである。
酸素極: 2H2O → O2 + 4H+ + 4e-
水素極: 4H+ + 4e- → 2H2
【0006】
上記式のとおり、この場合には、酸素イオン伝導性電解質を用いた場合と同様に水素は水素極側で発生するものの、水蒸気は酸素極側に導入されるため、水素を水蒸気から分離する必要がないという利点がある。本発明者らは、電流効率により優れたプロトン伝導性固体電解質を含む水蒸気電解用セルを開発している(特許文献3,4)。特許文献3のプロトン伝導性固体電解質は、Ba,Sr,Zr,Ce,およびY等を含むペロブスカイト型金属酸化物で構成されており、特許文献4のプロトン伝導性固体電解質は、AサイトにSrを含むペロブスカイト型金属酸化物と、AサイトにBaとSrを含むペロブスカイト型金属酸化物の二層構造とした上で焼結することにより製造されている。
【0007】
また、水蒸気電解用セルは、原理的に固体酸化物形燃料電池としても利用可能である。水蒸気電解と発電の両方に利用可能なセルであれば、電力が過剰である場合には水蒸気電解によりH2を製造し、電力不足の場合にはH2を使って発電することができる。この様なシステムはリバーシブルSOFC(RSOFC)と呼ばれており、酸素イオン伝導性電解質を有するボーイング社製のセルでは実証試験が行われている。
【0008】
一方、プロトン伝導性固体電解質を含むRSOFCは、学術的には検討されている。例えば非特許文献1には、Sr、CeおよびY、またはSr、CeおよびSmを含む金属酸化物からなるプロトン伝導性固体電解質を含むRSOFCが開示されている。非特許文献2には、BaCe0.5Zr0.30.23-δを含む金属酸化物からなるプロトン伝導性固体電解質を含むRSOFCが開示されている。非特許文献3に開示のRSOFCセルは、電解質がBaCe0.48Zr0.40Yb0.10Co0.023-δ(BCZYbCo)で構成されており、水素極(SOFCのアノードおよびSOECのカソード)がNi-BCZYbCoで構成されており、酸素極(SOFCのカソードおよびSOECのアノード)がBCZYbCo-LSCで構成されている。非特許文献4には、BaZr0.7Pr0.10.23-δからなるプロトン伝導性固体電解質を含むRSOFCが開示されている。非特許文献5には、BaZr0.80.23-δからなる層とBaCe0.80.23-δからなる層の二層構造を有するプロトン伝導性固体電解質を含むRSOFCが開示されている。非特許文献6には、BaCe0.5Zr0.2In0.33-δからなるプロトン伝導性固体電解質を含むRSOFCが開示されている。非特許文献7には、La1.2Sr0.8NiO4またはPr1.2Sr0.8NiO4からなる酸素極を有するプロトン伝導性RSOFCが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-150122号公報
【文献】特開2009-209441号公報
【文献】特開2017-71830号公報
【文献】特開2017-71831号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Meng Niら,Journal of Power Sources,177(2008),pp.369-375
【文献】Fei Heら,Journal of Power Sources,195(2010),pp.3359-3364
【文献】Maria A.Azimovaら,Solid State Ionics,203(2011),pp.57-61
【文献】Lei Biら,Solid State Ionics,275(2015),pp.101-105
【文献】Yabing Wenら,Solid State Ionics,308(2017),pp.167-172
【文献】Shaojing Yangら,International Journal of Hydrogen Energy,42(2017),pp.28549-28558
【文献】Shaojing Yangら,Electrochimica Acta,267(2018),pp.269-277
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、プロトン伝導性固体電解質を含むRSOFCは学術的には検討されているが、その実用化は未だ達成されていない。その理由としては、電流効率や耐久性が十分でないことが考えられる。
そこで本発明は、固体酸化物形燃料電池および水蒸気電解用セルの両方として利用することができ、電流効率の高いプロトン伝導性電気化学セル、および当該電気化学セルを含むリバーシブル固体酸化物形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、酸素極を特定のペロブスカイト型金属酸化物とプロトン伝導性固体電解質を用いて構成することによって、固体酸化物形燃料電池としても水蒸気電解用セルとしても高い電流効率が得られる電気化学セルが得られることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0013】
[1] 酸素極、プロトン伝導性固体電解質層、および水素極を有し、
前記プロトン伝導性固体電解質層が前記酸素極と前記水素極との間に挟まれており、
前記酸素極が、AサイトにBaを含み且つBサイトにCoを含むペロブスカイト型金属酸化物、およびプロトン伝導性固体電解質を含むことを特徴とする電気化学セル。
[2] 前記酸素極に含まれる前記プロトン伝導性固体電解質が、AサイトにBaおよびSrを含み且つBサイトにZrおよびCeを含むペロブスカイト型のプロトン伝導性金属酸化物である上記[1]に記載の電気化学セル。
[3]前記酸素極に含まれる前記プロトン伝導性固体電解質が、BサイトにY、Nd、GdおよびYbからなる群より選択される1種以上の元素を含むペロブスカイト型のプロトン伝導性金属酸化物である上記[1]または[2]に記載の電気化学セル。
[4] 前記酸素極における前記プロトン伝導性固体電解質の割合が5質量%以上、45質量%以下である上記[1]~[3]のいずれかに記載の電気化学セル。
[5] 前記水素極が、Ni、CoおよびFeからなる群より選択される1種以上の金属元素と、AサイトにSrを含み且つBサイトにZr、CeおよびYを含むプロトン伝導性金属酸化物を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の電気化学セル。
[6] 前記酸素極および前記水素極の少なくとも一方の上に、更に集電層を有する上記[1]~[5]のいずれかに記載の電気化学セル。
[7] 上記[1]~[6]のいずれかに記載の電気化学セルを含むことを特徴とするリバーシブル固体酸化物形燃料電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電気化学セルは、固体酸化物形燃料電池としても、水蒸気電解用セルとしても利用することができ、発電と水素製造を交互に且つ連続的に行うことも可能である。また、固体酸化物形燃料電池として効率的に発電することができ、水蒸気電解用セルとして水蒸気を水素と酸素へ効率的に分解することができる。よって本発明に係る電気化学セルは、エネルギーの供給システムの構成要素として産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係るリバーシブル固体酸化物形燃料電池を水蒸気電解用セルおよび固体酸化物形燃料電池として連続的に運転した場合のセル端子電圧の測定結果を示すグラフである。
図2図2は、本発明に係るリバーシブル固体酸化物形燃料電池を水蒸気電解用セルおよび固体酸化物形燃料電池として連続的に運転した場合の水素生成速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.プロトン伝導性固体電解質層
本発明に係る電気化学セルは、酸素極、プロトン伝導性固体電解質層、および水素極を有し、プロトン伝導性固体電解質層が酸素極と水素極との間に挟まれている。電気化学セルには、主に電解質支持型セルと電極支持型セルがあり、電解質支持型セルの場合、一般的に、プロトン伝導性固体電解質層、酸素極、水素極の中ではプロトン伝導性固体電解質層の焼成温度が最も高いことから、先ず、プロトン伝導性固体電解質層を準備する。プロトン伝導性固体電解質層の作製方法としては、例えば、電解質用粉体に、エタノールやテルピネオールなどの有機溶媒、分散剤、可塑剤、およびエチルセルロースなどのバインダーなどを加え、ボールミルなどで湿式粉砕混合し、スラリーとする。このスラリーをドクターブレード法などでシート化し、次いで焼成することにより、プロトン伝導性固体電解質シートとすることができる。電極支持型セルの場合には、支持層となる電極層の上に電解質層を形成するため、例えば、支持層となる電極層の上に上記スラリーをスクリーン印刷法などで塗布して電解質前駆体層とし、次いで焼成することにより、支持電極層の上にプロトン伝導性固体電解質層を形成するとよい。
【0017】
プロトン伝導性固体電解質層を構成する材料としては、プロトン伝導性を示す金属酸化物であれば特に制限されないが、例えば、下記式(I)、(II)の組成を有する金属酸化物を挙げることができる。
【0018】
SrZraCeb1 cx (I)
[式中、Srはストロンチウム、Zrはジルコニウム、Ceはセリウム、M1はスカンジウム、イットリウム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウムおよびイッテルビウムからなる群より選択される1種以上の元素、好ましくはイットリウム、ネオジム、ガドリニウムおよびイッテルビウムからなる群より選択される1種以上の元素、Oは酸素であり、a、b、cおよびxはそれぞれ、Zr、Ce、M1およびOの原子比を表し、0.1≦a≦0.9、0.1≦b≦0.9、0≦c≦0.3であり、xは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。]
【0019】
式(I)において、aについては、好ましくは0.2≦a≦0.8、より好ましくは0.3≦a≦0.7、更に好ましくは0.4≦a≦0.6である。bについては、好ましくは0.2≦b≦0.8、より好ましくは0.3≦b≦0.7、更に好ましくは0.3≦b≦0.6である。
【0020】
1としてイットリウムを含むことが好ましい。イットリウムの原子比c1については、好ましくは0.01≦c1≦0.2、より好ましくは0.05≦c1≦0.15、より更に好ましくは0.07≦c1≦0.12、特に好ましくは0.09≦c1≦0.11である。イットリウム以外のM1の原子比c2については、好ましくは0≦c2≦0.1、より好ましくは0≦c2≦0.05、より更に好ましくは0である。
【0021】
Ba1-dSrdZreCef2 gx (II)
[式中、Baはバリウム、Srはストロンチウム、Zrはジルコニウム、Ceはセリウム、M2はスカンジウム、イットリウム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウムおよびイッテルビウムからなる群より選択される1種以上の元素、好ましくはイットリウム、ネオジム、ガドリニウムおよびイッテルビウムからなる群より選択される1種以上の元素、より好ましくはイットリウム、Oは酸素であり、d、e、f、gおよびxはそれぞれ、Sr、Zr、Ce、M2およびOの原子比を表し、0.01≦d≦0.3、0.1≦e≦0.8、0.1≦f≦0.8、0≦g≦0.3であり、xは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。]
【0022】
式(II)において、dについては、好ましくは0.05≦d≦0.2、より好ましくは0.07≦d≦0.15、更に好ましくは0.09≦d≦0.11である。eについては、好ましくは0.20≦e≦0.75、より好ましくは0.30≦e≦0.65、更に好ましくは0.40≦e≦0.55である。fについては、好ましくは0.1≦f≦0.6、より好ましくは0.1≦f≦0.5、更に好ましくは0.1≦f≦0.4である。gについては、好ましくは0.01≦g≦0.25、より好ましくは0.1≦g≦0.22、更に好ましくは0.15≦g≦0.2、特に好ましくは0.2である。
【0023】
また、プロトン伝導性固体電解質層を二層構造としてもよい。例えば、式(I)の組成を有する金属酸化物で構成されている層と、式(II)の組成を有する金属酸化物で構成されている層の二層構造とすることができる。但し、前駆体の状態で二層構造としても、焼結により境界間で分子移動が起こり、境界が曖昧となり実質的に一層構造となる場合がある。
【0024】
プロトン伝導性固体電解質の材料としては、上記一般式で表される限り特に限定はなく、比表面積が3g/cm2以上、20g/cm2以下のものが好ましく、より好ましくは4g/cm2以上、18g/cm2以下、更に好ましくは5g/cm2以上、15g/cm2以下、特に粉体形状を使用することが好ましい。
【0025】
プロトン伝導性固体電解質層を形成するための好ましい焼成条件としては、例えば、空気雰囲気下、1000℃以上、1500℃以下で、1時間以上、5時間以下とすることができる。焼成温度について、1000℃未満では、強度が十分ではなく剥離が生じ、性能が低下してしまう可能性があり得、一方、1500℃より高いと焼成治具の成分とセルの成分とが一部反応してしまう虞があり、また、セルの反りや割れなどが発生しやすくなり歩留りが低下するため好ましくない。焼成温度として好ましくは1300℃以上である。
【0026】
プロトン伝導性固体電解質層の厚さは特に制限されず、セル形状などに応じて適宜設定すればよい。例えば、電解質支持型セルの場合では50μm以上、500μm以下とすることが好ましい。当該厚さが50μm未満であると、十分な強度が得られない可能性がある。一方、当該厚さが500μmを超えると、プロトン伝導性に支障が生じる虞がある。電極支持型セルの場合では、当該厚さは1μm以上、50μm以下とすることが好ましい。当該厚さが1μm未満であると、スクリーンプリントなどの工業的プロセスでプロトン伝導性固体電解質層を形成することが難しくなり得る。一方、当該厚さが50μmを超えると、プロトン伝導性に支障が生じる虞がある。
【0027】
プロトン伝導性固体電解質層は、短絡防止などの観点から緻密質である必要がある。具体的には、プロトン伝導性固体電解質層の相対密度としては98%以上が好ましく、99%以上がより好ましく、99.5%以上または99.8%以上がより更に好ましい。なお、相対密度(%)は(測定密度/理論密度)×100の式により計算される。
【0028】
2.酸素極の形成
電気化学セルの酸素極は、固体酸化物形燃料電池の場合は還元反応、即ち電子を受け取る反応が起こるカソードに相当し、水蒸気電解セルの場合は酸化反応、即ち電子を失う反応が起こるアノードに相当する。
【0029】
本発明の電気化学セルが電解質支持型セルである場合には、プロトン伝導性固体電解質シートに電極層ペーストを塗布した後に焼成する。酸素極と水素極は、各ペーストをプロトン伝導性固体電解質シートに塗布した後に同時に焼成して形成しても、別々に焼成して形成してもよいが、酸素極と水素極の焼成温度が同じであるとは限らないため、一般的には、焼成温度がより高い電極層を先に形成した後に、他方の電極層を形成することが好ましい。
【0030】
本発明の電気化学セルが電極支持型セルである場合には、支持層となる電極層の上に電解質層を形成し、更に当該電解質層の上に他方の電極層を形成してもよい。この場合、一般的には酸素極よりも水素極の焼成温度が高いため、水素極またはその前駆体を支持層とし、その上に電解質層を形成し、更に当該電解質層の上に酸素極を形成するとよい。
【0031】
本発明に係る電気化学セルの酸素極層は、セルを固体酸化物形燃料電池として利用する場合にはO2 + 4H+ + 4e- → 2H2Oの反応を促進し、セルを水蒸気電解用セルとして利用する場合には2H2O → O2 + 4H+ + 4e-の反応を促進する触媒作用を示すと共に、電子伝導性を有する必要がある。そこで本発明では、AサイトにBaを含み且つBサイトにCoを含むペロブスカイト型金属酸化物と、プロトン伝導性固体電解質を含む材料により酸素極を構成する。
【0032】
酸素極を構成する上記ペロブスカイト型金属酸化物は、AサイトにBaを含み且つBサイトにCoを含む以外、他の金属元素を含んでいてもよい。例えば、上記ペロブスカイト型金属酸化物としては、Ba-La-Co系、La-Ba-Co-Fe系、Ba-La-Co-Y系、Ba-La-Sr-Co系、Ba-La-Co-Ti系、Ba-Pr-Co系、Ba-Sr-Co系などのペロブスカイト型金属酸化物を用いることができ、より具体的には、下記式(III)の組成を有する金属酸化物を用いることができる。
【0033】
Bah3 1-hCoi4 1-ix (III)
[式中、Baはバリウム、M3はストロンチウム、ランタン、プラセオジムおよびネオジウムからなる群より選択される1種以上の元素、Coはコバルト、M4は鉄、チタン、イットリウムおよびイッテルビウムからなる群より選択される1種以上の元素、Oは酸素であり、h、iおよびxはそれぞれBa、Co、Oの原子比を表し、0.3≦h≦0.7、0.85≦i≦1.0であり、xは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。]
【0034】
式(III)において、hについては、好ましくは0.35≦h≦0.65、より好ましくは0.4≦h≦0.6である。iについては、より好ましくは0.9≦i≦1.0である。
【0035】
酸素極を構成する上記プロトン伝導性固体電解質としては、プロトン伝導性固体電解質層の構成材料として挙げた式(I)、(II)の組成を有する金属酸化物と同様の金属酸化物を挙げることができ、式(II)の組成を有する金属酸化物と同様の金属酸化物を好適に用いることができる。
【0036】
本発明に係る水蒸気電解用セルの酸素極には、上記ペロブスカイト型金属酸化物およびプロトン伝導性固体電解質に加え、電子伝導性成分が含まれていてもよい。電子伝導性成分としては、銀、白金、パラジウム、ルテニウム等の金属;酸化銀など、空気雰囲気下で電子伝導性金属に変化する金属酸化物;或いはこれらの金属酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライト等の複合金属酸化物が挙げられる。これらは単独で使用し得るほか、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用できる。これらの中でも、銀またはこれらの酸化物が好ましい。
【0037】
電子伝導性成分の使用量は特に制限されるものではないが、例えば、電極全体に対する質量割合で、2.0質量%以上、10質量%以下とすることが好ましい。当該割合が2.0質量%以上であれば、電子伝導性がより確実に発揮される。一方、当該割合が大き過ぎると電極の気孔率が過剰に低下するおそれがあるので、当該割合としては25質量%以下が好ましい。
【0038】
本発明に係る電気化学セルの酸素極の主成分は、上記ペロブスカイト型金属酸化物およびプロトン伝導性固体電解質であることが好ましい。本発明において「ペロブスカイト型金属酸化物およびプロトン伝導性固体電解質が酸素極の主成分である」とは、酸素極形成時において、バインダーや溶媒など焼成により消失する成分を除いた酸素極構成成分の原料に占めるペロブスカイト型金属酸化物およびプロトン伝導性固体電解質の合計割合が60v/v%以上であることをいうものとする。当該割合としては65v/v%以上が好ましく、70v/v%以上がより好ましく、75v/v%以上がさらに好ましい。一方、当該割合の上限は特に制限されず、不可避的不純物や不可避的残留物を除いた実質的に100v/v%がペロブスカイト型金属酸化物およびプロトン伝導性固体電解質であってもよい。
【0039】
また、酸素極におけるプロトン伝導性固体電解質の割合としては、5質量%以上、45質量%以下が好ましい。当該割合としては、10質量%以上または20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がより更に好ましく、また、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がより更に好ましい。
【0040】
酸素極における上記ペロブスカイト型金属酸化物およびプロトン伝導性固体電解質の割合は、適宜調整すればよい。例えば、上記ペロブスカイト型金属酸化物とプロトン伝導性固体電解質の合計100%に対する上記ペロブスカイト型金属酸化物の割合を50質量%以上、95質量%以下とすることができる。当該割合としては、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、また、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がより更に好ましい。
【0041】
酸素極は、常法により形成することができる。例えば、プロトン伝導性固体電解質層の場合と同様に上記構成成分のペーストを調製した後に、上記プロトン伝導性固体電解質シート上に所望の膜厚が得られるよう塗布した後、焼成すればよい。電極層を支持層とする電極支持型セルの場合には、支持体としての役割も有する当該電極層を形成した後、その上にプロトン伝導性固体電解質層を形成し、さらに当該電解質層の上に他方の電極層を形成すればよい。また、当該電極層の下(電解質層の反対側)に多孔質のサポート層を形成してもよい。酸素極を形成するための好ましい焼成条件は、例えば、空気雰囲気下、700℃以上、900℃以下で、30分間以上、2時間以下とすることができる。焼成温度について、700℃未満では電極の密着性が低くなるため剥離が生じ、性能が低下してしまう可能性があり、一方、900℃より高いと水素生成速度が低下する虞があるため好ましくない。焼成温度としては、好ましくは750℃以上、900℃以下であり、より好ましくは800℃以上、900℃以下である。焼成時間としては、好ましくは45分間以上、1時間30分以下である。
【0042】
酸素極の厚さは特に限定されず、セル形状などに応じて適宜決定すればよい。酸素極の厚さは、例えば、電解質支持型セルと電極支持型セルのいずれにおいても好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0043】
酸素極は、原料ガスの反応の効率化の観点から、多孔質であることが好ましい。具体的には、酸素極の相対密度としては50%以上、80%以下が好ましい。当該相対密度としては、60%以上がより好ましく、70%以上がより更に好ましく、また、75%以下がより好ましい。なお、酸素極が電子伝導性成分として酸化銀などの金属酸化物または銀などの金属を含む場合には、上記相対密度は空気雰囲気下で測定されるものとする。
【0044】
3.水素極の形成
電気化学セルの水素極は、固体酸化物形燃料電池の場合は酸化反応、即ち電子を失う反応が起こるアノードに相当し、水蒸気電解セルの場合は還元反応、即ち電子を受け取る反応が起こるカソードに相当する。
【0045】
本発明に係るセルの水素極層は、セルを固体酸化物形燃料電池として利用する場合には2H2 - → 4H+ + 4e-の反応を促進し、セルを水蒸気電解用セルとして利用する場合には4H+ + 4e- → 2H2の反応を促進する触媒作用を示すと共に、電子伝導性を有する必要がある。このような材料としては、Pt、Pd、Ni、Co、Fe、Ruなどの金属元素の他、当該金属元素とプロトン伝導性固体電解質層の材料であるペロブスカイト型金属酸化物との混合物を挙げることができ、プロトン伝導性固体電解質層との親和性や密着性の観点から、水素極層は、金属元素とペロブスカイト型金属酸化物との混合物を含有することが好ましい。
【0046】
上記金属元素を含む成分としては、Pt、Pd、Ni、Co、Fe、Ruなどの金属;酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄のように還元性雰囲気で電子伝導性金属に変化する金属酸化物;或いはこれらの酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライトのような複合金属酸化物が挙げられる。これらは単独で使用することができ、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、Ni、Co、Feおよびこれらの酸化物から選択される1以上が好ましく、より好ましくは酸化ニッケルである。
【0047】
ペロブスカイト型金属酸化物は、AサイトにSrを含み、Bサイトに周期律表の第4族から第14族に属する3価あるいは4価の元素を含むペロブスカイト型金属酸化物、当該ペロブスカイト型金属酸化物のAサイトおよび/またはBサイトの一部をLa、Pr、Nd、Sm、Gd、Yb、Sc、Y、Ce、In、Ga、Fe、Co、Ni、Zn、TaおよびNbからなる群より選択される1以上の元素に置換したペロブスカイト型金属酸化物を用いることができる。本発明の水素極層には、下記一般式(IV)で表されるペロブスカイト型金属酸化物が好ましく用いられる。
【0048】
SrZrjCeklx (IV)
[式中、j、k、lおよびxはそれぞれ、Zr、Ce、YおよびOの原子比を表し、0.4≦j≦0.7、0.1≦k≦0.6、0.1≦l≦0.2であり、xは各々の元素の酸化状態によって定まる数値である。]
【0049】
式(IV)において、jは、好ましくは0.45以上、より好ましくは0.47以上、好ましくは0.65以下、より好ましくは0.60以下であり、kは、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.20以上、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.50以下であり、lは、好ましくは0.18以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは0.12以下、より更に好ましくは0.1である。
【0050】
水素極材料として電子伝導性成分とペロブスカイト型金属酸化物との混合物を用いる場合、これらの割合は特に制限されず、具体的に使用する材料の電子伝導性や触媒能などを考慮して適宜調整すればよいが、例えば、電子伝導性成分とペロブスカイト型金属酸化物との合計に対するペロブスカイト型金属酸化物の割合を20質量%以上、80質量%以下とすることができる。当該割合としては、25質量%以上がより好ましく、また、70質量%以下がより好ましい。水素極支持型セルの場合には、支持体における電子伝導性成分の量をより多くしてもよい。
【0051】
水素極を構成する電子伝導性成分としては、酸素極の電子伝導性成分として例示したものの他、ニッケル、コバルト、鉄などの金属;酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄などの金属酸化物を用いてもよい。
【0052】
水素極層の厚さは特に限定されず、セル形状などに応じて適宜決定すればよいが、例えば、電解質支持型セルの場合では5μm以上、100μm以下とすることが好ましい。当該電極層を支持層とする電極支持型セルの場合では、当該厚さは100μm以上、2000μm以下とすることが好ましく、150μm以上、1000μm以下がより好ましい。下限と上限の規定理由は、電解質支持型セルの場合と同様である。
【0053】
水素極層を形成する方法として、例えば、プロトン伝導性固体電解質層の場合と同様に上記構成成分のペーストを調製した後に、上記プロトン伝導性固体電解質層上に所望の膜厚が得られるよう塗布した後、焼成すればよい。当該水素極層を支持層とする電極支持型セルの場合には、支持体としての役割も有する当該水素極層を形成した後、その上にプロトン伝導性固体電解質層を形成し、さらに当該電解質層の上に酸素極層を形成すればよい。或いは、当該水素極層の下(電解質層の反対側)に多孔質のサポート層を形成してもよい。なお、金属元素材料として金属酸化物を用いた場合には、積極的に還元処理を行うことにより金属酸化物が金属元素に還元され、その分体積が減少して水素極層を多孔質にすることができる。かかる多孔質水素極層を有する電気化学セルは、発電能力およびH2製造能力がより一層高い。
【0054】
水素極層を形成するための好ましい焼成条件としては、例えば、1000℃以上、1500℃以下で、1時間以上、5時間以下とすることができる。焼成温度について、1000℃未満では、強度が十分ではなく剥離が生じ、性能が低下してしまう可能性があり、一方、1500℃より高いと焼成治具の成分と水素極あるいは電解質の成分とが一部反応してしまう虞があり、また、セルの反りや割れなどが発生しやすくなり歩留りが低下するため好ましくない。焼成温度として、好ましくは1100℃以上であり、さらに好ましくは1300℃以上である。焼成時間として、好ましくは1時間30分間以上、4時間以下である。
【0055】
また、水素極層は、最外層として集電層を有するものであってもよい。集電層は、例えば、上記金属または金属酸化物で構成されていてもよいし、上記金属または金属酸化物と電解質との混合物で構成されていてもよい。電解質は、上記ペロブスカイト型金属酸化物であってもよいし、YSZやScSZなどであってもよい。
【0056】
本発明に係る電気化学セルは、固体酸化物形燃料電池として利用することもできるし、水蒸気電解セルとして利用することもできる。即ち、500~1000℃程度で水素極に水素を供給し、酸素極に空気など酸素を含むガスを供給することにより効率的に発電することができ、また、500~1000℃程度で電極間に電圧をかけて電流を流しつつ酸素極に水蒸気を供給することにより、H2を効率的に製造することができる。
【0057】
また、本発明は、上記電気化学セルを含むリバーシブル固体酸化物形燃料電池にも関する。具体的には、リバーシブル固体酸化物形燃料電池は、水素タンク、電気化学セルの水素極へ水素を供給するための水素供給管、電気化学セルの酸素極へ酸素を含むガスを供給するための酸素供給管を有し、電気化学セルは固体酸化物形燃料電池として外部へ電力を供給することができる。また、リバーシブル固体酸化物形燃料電池は、水蒸気供給装置、電気化学セルの酸素極へ水蒸気を供給するための水蒸気供給管、電源を有し、電気化学セルは水蒸気電解用セルとして水蒸気から水素を製造することができる。製造した水素は、水素タンクへ貯蔵できる。また、リバーシブル固体酸化物形燃料電池は更に蓄電池を有していてもよく、電気化学セルから得られた電力を蓄電しておいてもよいし、水素製造に必要な電力を蓄電池から得てもよい。また、水素極には水蒸気と水素の混合ガスを供給してもよい。
【0058】
本発明に係るリバーシブル固体酸化物形燃料電池は、発電と水素製造を交互に且つ連続的に行っても電流効率が低下しないことが実験的に証明されている。
【実施例
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0060】
実施例1: 電気化学セルの作製
(1)電解質粉体の調製
市販の純度99.9質量%のBaCO3、SrCO3、ZrO2、CeO2およびY23の粉末を、SrZr0.5Ce0.40.13-δまたはBa0.9Sr0.1Zr0.44Ce0.360.23-δの組成となるように混合した。得られた各混合物にエタノールを加え、遊星ボールミルで2時間湿式粉砕した後、120℃で10時間乾燥した。次いで、空気雰囲気下、1200℃で10時間焼成することにより、電解質粉体を得た。さらに得られた電解質粉体にエタノールを加え、遊星ボールミルで3時間湿式粉砕した後、120℃で10時間乾燥することにより、電解質層材料として使用できる電解質粉末を得た。得られた電解質粉末の組成は、それぞれSrZr0.5Ce0.40.13-δとBa0.9Sr0.1Zr0.44Ce0.360.23-δであり、X線回折により、共にペロブスカイトからなる単一相であることを確認した。
【0061】
(2)水素極第1層(支持体)の前駆体の調製
市販の酸化ニッケル粉末(製品名「Green」正同化学工業社製,BET比表面積:3.6m2/g、D50:0.6μm)と上記(1)で作製した電解質粉末SrZr0.5Ce0.40.13-δ粉体とを、当該酸化ニッケル粉末72vol%、電解質粉末28vol%となるように秤量して混合し、混合物1とした。得られた混合物1に、バインダーとして市販のアクリル樹脂、および溶剤としてトルエンと酢酸エチルを添加し、さらに可塑剤としてαオレフィン・無水マレイン酸共重合物、および分散剤としてカルボキシ基含有ポリマー変性物を添加し、混合物2を得た。得られた混合物2をボールミルにより40時間湿式粉砕混合することによりスラリーを調製した。得られたスラリーを、テープキャスト法によりシート状に成形した後、100℃で1時間乾燥し、水素極第1層(支持体)前駆体を調製した。
【0062】
(3)水素極第2層ペーストの調製
市販の酸化ニッケル粉末(製品名「Green」正同化学工業社製,BET比表面積:3.6m2/g、D50:0.6μm)と電解質粉末としてSrZr0.5Ce0.40.13-δ粉体とを、当該酸化ニッケル粉末50vol%、電解質粉末50vol%となるように秤量して混合し、混合物3とした。得られた混合物3にバインダーとして市販のメタクリル樹脂、可塑剤として市販のジブチルフタレート、分散剤として市販のソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、および溶剤としてα-テルピネオールを添加した後、3本ロールミル(型式「M-80S」EXAK technologies社製,ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、水素極第2層ペーストを調製した。
【0063】
(4)プロトン伝導性固体電解質用ペーストの調製
上記(1)で得られたSrZr0.5Ce0.40.13-δとバインダーとして市販のエチルセルロース、溶剤として市販のα-テルピネオール、可塑剤として市販のジブチルフタレート、および分散剤として市販のソルビタン酸エステル系界面活性剤とを予備混合した後、3本ロールミル(型式「M-80S」EXAKT technologies社製,ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、プロトン伝導性固体電解質用ペースト1を調製した。Ba0.9Sr0.1Zr0.44Ce0.360.23-δも、プロトン伝導性固体電解質用ペースト1と同様にバインダー、溶剤、可塑剤および分散剤と予備混合した後、3本ロールミル(型式「M-80S」EXAKT technologies社製,ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、プロトン伝導性固体電解質用ペースト2を調製した。
【0064】
(5)ハーフセルの作製
上記(2)で作製した水素極第1層(支持体)前駆体上に、上記(3)で作製した水素極第2層ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、80℃で30分間乾燥することにより水素極第2層前駆体層を形成した。次に、上記(4)で作製したプロトン伝導性固体電解質用ペースト1をスクリーン印刷法で塗布し、80℃で30分間乾燥することにより電解質前駆体層1を形成した。さらに、その上にプロトン伝導性固体電解質用ペースト2をスクリーン印刷法で塗布し80℃で30分間乾燥することにより電解質前駆体層2を形成した。その後、1375℃、空気雰囲気下で焼成し、ハーフセルを作製した。各層の厚みを走査型電子顕微鏡(SEM)の写真から求め、プロトン伝導性固体電解質の厚さが8μm、水素極第2層の厚さが8μm、水素極第1層(支持体)の厚さが360μmであった。なお、プロトン伝導性固体電解質における境界は、焼成による成分移動により曖昧になっており、実質的に一層となっていた。
【0065】
(6)酸素極層の作製
市販の純度99.9質量%のLa23、BaCO3およびCo34の粉末を、Ba0.5La0.5CoO3-δの組成となるように混合した。得られた混合物にエタノールを加え、ボールミルで60時間湿式粉砕した後、120℃で10時間乾燥した。次いで、1100℃で10時間熱処理することにより粉末を得た。さらに、得られた粉末にエタノールを加え、ボールミルで100時間湿式粉砕した後、120℃で10時間乾燥することにより、酸素極層材料とすることができる原料粉末とした。得られた酸素極層原料粉末の組成はLa0.5Ba0.5CoO3-δであり、X線回折によりペロブスカイトからなる単一相であることを確認した。
上記酸素極層原料粉末とBa0.9Sr0.1Zr0.44Ce0.360.23-δ電解質粉末の質量比が90/10の混合紛体に、バインダーとしてエチルセルロース、溶媒としてα-テルピネオール、および気孔形成材を加え、予備混合した。次いで、3本ロールミル(型式「M-80S」EXAKT technologies社製)を用いて混練し、酸素極用ペーストを得た。
上記(5)で得たハーフセルのプロトン伝導性固体電解質の水素極支持体と反対側の面に、上記酸素極用ペーストをスクリーンプリント法により塗布した後、空気雰囲気下、850℃で1時間焼成することにより、厚さ20μmの酸素極層を形成した。
【0066】
実施例2
酸素極層原料粉末Ba0.5La0.5CoO3-δとBa0.9Sr0.1Zr0.44Ce0.360.23-δ電解質粉末の質量比を80/20にした以外は実施例1と同様の条件で電気化学セルを作製した。
【0067】
実施例3
酸素極層原料粉末Ba0.5La0.5CoO3-δとBa0.9Sr0.1Zr0.44Ce0.360.23-δ電解質粉末の質量比を70/30にした以外は実施例1と同様の条件で電気化学セルを作製した。
【0068】
実施例4
酸素極層原料粉末Ba0.5La0.5CoO3-δとBa0.9Sr0.1Zr0.44Ce0.360.23-δ電解質粉末の質量比を60/40にした以外は実施例1と同様の条件で電気化学セルを作製した。
【0069】
比較例1
酸素極層をBa0.5La0.5CoO3-δのみから構成した以外は実施例1と同様の条件で電気化学セルを作製した。
【0070】
比較例2
酸素極層をLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83-δのみから構成した以外は実施例1と同様の条件で電気化学セルを作製した。
【0071】
試験例1:燃料電池性能評価
実施例1~4および比較例1,2で作製したセルを、その酸素極に接触しないよう2つのガラスリングで挟み、800℃で軟化させることによりガスシールした。次いで、作動温度である600℃まで降温した後、10v/v%H2ガスを含むN2ガスを導入して水素極支持体中のNiOを還元した。
酸素極側に、水蒸気を3v/v%含む空気である混合ガスを流量200NmL/分で導入し、水素極側に、水蒸気3v/v%と水素を含む混合ガスを流量100NmL/分で導入した。ポテンショガルバノスタットを用い、電流を掃引し、各電流密度の電圧を測定した。結果を表1に示す。なお、表中、「BLC」はBa0.5La0.5CoO3-δを示し、「BSZCY」はBa0.9Sr0.1Zr0.44Ce0.360.23-δを示し、「LSCF」はLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83-δを示す。
【0072】
【表1】
【0073】
試験例2: 水蒸気電解性能評価
試験例1と同様にガスシールとNiOの還元処理を実施した。
次いで、酸素極側に水蒸気20v/v%と酸素1v/v%を含むアルゴンガスを流量100NmL/分で導入し、水素極側に水蒸気2v/v%と水素1v/v%を含むアルゴンガスを流量100NmL/分で導入した。ポテンショガルバノスタットを用い、セルに電流密度0.5A/cm2までの電流を印加し、各電流密度の電圧を測定した。
水素極において発生した水素の濃度をガスクロマトグラフィで定量し、さらに、水素極出口ガスの流量を高精度精密膜流量計(堀場エステック社製)で測定した。得られた測定値から、下記式により水素生成速度を算出した。
水素生成速度(μmol/h・cm2)=[{(Qv0×Hc0/100)-(Qv1×Hc1/100)}×60×106]/(22400×S)
Qv0: 非通電時の水素極出口ガス流量(NmL/分)
Hc0: 非通電時の水素極出口ガス中の水素濃度(v/v%)
Qv1: 通電時の水素極出口ガス流量(NmL/分)
Hc1: 通電時の水素極出口ガス中の水素濃度(v/v%)
S: 酸素極の電極面積(cm2
また、下記式により理論水素生成速度を算出した。
理論水素生成速度(μmol/h・cm2)={通電した電流(A)×3600(s)×106}/{2×F×電流面積(cm2)}
F: ファラデー定数
さらに、測定値に基づく水素生成速度と理論水素生成速度から、下記式により電流効率を算出した。
電流効率(%)=(水素生成速度/理論水素生成速度)×100
結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表1,2に示す結果の通り、酸素極が特定のペロブスカイト型金属酸化物とプロトン伝導性固体電解質から構成されている本発明に係る実施例1~4の電気化学セルは、プロトン伝導性固体電解質を含まないか或いはプロトン伝導性固体電解質のみから構成されている酸素極を有する電気化学セル(比較例1,2)に比べて、固体酸化物形燃料電池セルとしても固体酸化物形電解セルとしても優れていることが示された。
【0076】
試験例3: リバーシブルSOFC評価
実施例3の電気化学セルを、固体酸化物形燃料電池(SOFC)および固体酸化物形電解セル(SOEC)として交互に且つ連続的に用い、それぞれの性質の安定性を評価した。具体的には、先ず、600℃で酸素極側に水蒸気20v/v%と酸素1v/v%を含むアルゴンガスを流量100NmL/分で、水素極側に水蒸気2v/v%と水素1v/v%を含むアルゴンガスを流量100NmL/分で70時間導入し、ポテンショガルバノスタットを用い、セルに電流密度0.5A/cm2の電流を印加し、電流密度の電圧を測定した。また、試験例2と同様に水素極において発生した水素の濃度をガスクロマトグラフィで定量し、水素生成速度を算出した。
次いで、酸素極側に水蒸気を3v/v%含む空気である混合ガスを流量200NmL/分で導入し、水素極側に水蒸気3v/v%と水素を含む混合ガスを流量100NmL/分で導入し、ポテンショガルバノスタットを用い、セルに電流密度0.4A/cm2の電流を印加し、電流密度の電圧を測定した。
更に、SOECとして約70時間、SOFCとして約100時間、SOECとして約70時間連続的に運転した。運転中のセル端子電圧を図1に、水素生成速度を図2に示す。図1中、太線はSOECモードでのセル端子電圧を示し、細線はSOFCモードでのセル端子電圧を示す。
図1,2に示す結果の通り、本発明に係る電気化学セルは、水蒸気電解モードおよび燃料電池モードでの運転を交互に且つ連続的に行っても、水蒸気電解モードではセル端子電圧が1.35~1.37V、電流効率は92~95%、水素生成速度は8582~8860μmol/h・cm2で、燃料電池モードではセル端子電圧が0.58~0.62Vで、安定的に運転することができた。
図1
図2