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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】シート状の保温具及び保温具セット
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/18 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
B65D81/18 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019026669
(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公開番号】P2020132208
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】大林 徹也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 文紀
【審査官】吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-039655(JP,A)
【文献】特開2010-060151(JP,A)
【文献】特開2012-223281(JP,A)
【文献】特開昭58-213191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保温対象物である精液が収容された収容容器を保温するためのシート状の保温具であって、
前記収容容器を入れる袋部と、
蓄熱材が充填される蓄熱領域を複数有し、前記袋部を包み込むための蓄熱部と、
が一体に設けられていることを特徴とするシート状の保温具。
【請求項2】
前記蓄熱部には、該蓄熱部の温度を確認する温度確認手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載シート状の保温具。
【請求項3】
保温対象物である精液を収容する収容容器と、
前記収容容器を入れる袋部と、蓄熱材が充填される蓄熱領域を複数有するとともに前記袋部を包み込むための蓄熱部と、が一体に設けられているシート状の保温具と、
からなる保温具セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精液や血液のように運搬時に一定の温度に保っておく必要がある検体や適温で使用したい液体ミルク等、これらの保温対象物が収容された収容容器を保温しておくための保温具、保温具セット及び保温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日常の中で、収容容器に収容されている物を一定の温度に保っておきたい、というようなことは多い。例えば、現在日本で年間40万件以上実施されている体外受精では、その半数程度は、自宅で精液を採取してクリニックに運ばれているとみられている。
【0003】
射精された人間の精子は、暑いと運動能力が低下し、寒いと死んでしまう精子が増えてしまうため、20~25℃という適切な温度環境で運搬することが望ましい。従って、適切な温度環境で運搬することが、今後も増加が予想される体外受精の治療成績向上につながることになる。
【0004】
そして、精液を運搬する際に使用されるものとして、特許文献1のような精液保存用容器や、特許文献2のような収容容器や、非特許文献1のようなプラスチック製の容器や、非特許文献2のようなステンレス製の容器が知られている。
【0005】
また、例えば、近く日本でも解禁されるものに液体ミルクがある。この液体ミルクは、封を開ければ常温のまま乳児に飲ませることができるため、現在日本で主流の粉ミルクよりも手軽であることから普及することが予想される。この液体ミルクは、海外では主流であり、海外では常温で使用することに対する不安は聞かれない。
【0006】
しかし、今後の普及が予想される日本では、常温で乳児に飲ませることに対する不安が予想される。何故ならば、日本で主流の粉ミルクは、お湯で溶かした後、40℃程度の適温まで冷まして使用されていることから、粉ミルクに慣れている母親としては、常温で飲ませた場合に、「乳児がお腹をこわしてしまわないか。」、「母乳と並行している場合に乳児が飲みたがらないのではないか。」というような不安が生じてしまうことが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/066514号
【文献】特開平8-38484号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】株式会社ナカメディカル、70cc採精用コンテナ、[平成30年12月25日検索]、インターネット〈URL:http://www.nakamedical.co.jp/pdf_img/201409/ivf/cata_nm4370s.pdf〉
【文献】株式会社TENGAヘルスケア、SEED POD、2018年12月17日、[平成30年12月25日検索]、インターネット〈URL:https://files.value-press.com/czMjYXJ0aWNsZSM1NDczMiMyMTMwNjUjNTQ3MzJfTnJwSlV5bmZMTC5wZGY.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1や非特許文献1のようなプラスチック製の容器では、精液を適切な温度環境で搬送することは難しく、温度を保つための対策を別にとる必要がある。
【0010】
また、特許文献2のように注射器(シリンジ)を堅牢な樹脂製容器に収容する構成は、高価なものになってしまう。一般的に精液を搬送するために使用する道具は、使用者の心理的なことを考慮すると、使い捨てであることが望ましい。従って、使用する道具はできるだけ安価なことが望まれる。
また、非特許文献2のようにステンレス製の外装容器に入れておくことも、本発明者の実験によると十分な保温時間を確保することが難しかった。
【0011】
また、特許文献や非特許文献に記載されているものは、当然ながら液体ミルクのような保温対象物を一定の温度に保温しておくためのものではない。従って、特許文献や非特許文献に記載されているものは、保温対象物が収容された収容容器を保温しておくための保温具として考えた場合に、様々な保温対象物に使用できるものではない。
【0012】
そこで、本発明は、精液や血液のような検体や液体ミルク等、多種の保温対象物に対して、保温対象物が収容された収容容器を保温することのできる保温具、保温具セット及び保温方法を提供することを目的とする。また、本発明は、安価で十分な保温時間を確保することのできる保温具、保温具セット及び保温方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の保温具は、保温対象物が収容された収容容器を保温するためのシート状の保温具であって、前記収容容器を入れる袋部と、蓄熱材が充填される蓄熱領域を複数有し、前記袋部を包み込むための蓄熱部と、からなることを特徴とする。
【0014】
このような本発明の保温具は、蓄熱材が充填される複数の蓄熱領域で蓄熱部が構成されているので、蓄熱領域と蓄熱領域の間で曲げることができ、蓄熱部を変形させることができる。このため、袋部内の収容容器を蓄熱部で包み込んで蓄熱材を密着させることができるので、十分な保温時間を確保することができる。また、構成が簡単であることから安価な保温具となり、使い捨てとして使用することに適している。また、この保温具は、例えば、検体が収容されている収容容器にも、液体ミルクが収容されている収容容器にも使用することができるので、多種の保温対象物について用いることができる。
【0015】
また、保温具は、前記袋部が、前記蓄熱部と一体に設けられていることが好ましい。蓄熱部と袋部とが一体に設けられているので、簡単で確実に袋部の収容容器を蓄熱部で包み込むことができる。また、袋部に収容容器を入れておくことで、収容容器の紛失や取り違え等が生じ難くなることから、慎重な取り扱いが必要な精液等の検体の保温具として適している。
【0016】
また、保温具は、前記蓄熱部に、該蓄熱部の温度を確認する温度確認手段が設けられていることが好ましい。温度確認手段が設けられていることから、蓄熱部の温度を確認することができる。温度が確認することができることは、蓄熱部で包み込まれた収容容器の保温温度を使用者が客観的に知ることができるため、大きな安心感を与える。例えば、保温対象物が精液である場合に、蓄熱部の温度が20~25℃の適切な温度に保たれていることが客観的にわかる場合とわからない場合とでは、慎重に搬送している使用者の心理面に大きな影響を与えるものである。また、保温対象物が液体ミルクである場合、蓄熱部の温度が35~45℃の適切な温度に保たれていることが客観的にわかる場合とわからない場合とで、散歩等の外出中に液体ミルクを乳児に与えようとする母親の安心感に対して大きく影響してくる。
【0017】
また、保温具は、前記袋部が、前記蓄熱部を袋状にして形成されており、前記袋部の形状を保持する保持具を更に備えることが好ましい。蓄熱部を袋状にして袋部を形成するので、様々なサイズや形状の収容容器にも対応することができる。また、蓄熱部を袋状にした際、この袋形状が保持具で保持されているので、収容容器を袋部に入れ易くなる。
【0018】
また、保温具は、前記袋部の底部に蓄熱領域が位置することが好ましい。このような構成により、袋部の底部にも蓄熱領域に充填された蓄熱材が位置することになるので、袋部の収容容器の底部に蓄熱材が確実に位置し、より一層保温性が高まる。
【0019】
本発明の保温具セットは、保温対象物を収容する収容容器と、前記収容容器を入れる袋部と蓄熱材が充填される蓄熱領域を複数有するとともに前記袋部が一体に設けられている蓄熱部とからなるシート状の保温具と、からなる。
【0020】
このような本発明の保温具セットは、蓄熱材が充填される複数の蓄熱領域で蓄熱部が構成されているので、蓄熱領域と蓄熱領域の間で曲げることができ、蓄熱部を変形させることができる。このため、袋部内の収容容器を蓄熱部で包み込んで蓄熱材を密着させることができるので、十分な保温時間を確保することができる。また、構成が簡単であることから安価な保温具となり、使い捨てとして使用することに適している。また、保温具セットは、収容容器も有することから、精液や血液を保温対象物にする場合には非常に便利である。
【0021】
また、保温具セットは、前記収容容器が、シリンジであることが好ましい。このような保温具セットは、保温対象物をシリンジで採取することができるため、検体の採取、特に精液の採取に適している。
【0022】
本発明の保温方法は、保温対象物が収容された収容容器を入れる袋部と、蓄熱材が充填される蓄熱領域を複数有し前記袋部を覆う蓄熱部と、からなる保温具を用いて前記収容容器を保温する工程と、前記保温具により保温された前記収容容器を更に外装容器に収納する工程と、からなる。
このような本発明の保温方法は、収容容器内の保温対象物について十分な保温時間を確保することができ、外出する場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係る保温具セットの平面図である。
図2】第1実施形態に係る保温具セットの使用方法を示す使用工程図である。
図3】Aは第1実施形態に係る保温具セットの試作品を用いた第1の使用状態の写真であり、Bは試作品を用いた第2の使用状態の写真である。
図4】Aは第1実施形態に係る保温具セットの試作品を用いた第3の使用状態の写真であり、Bは試作品を用いた第4の使用状態の写真である。
図5】Aは第1実施形態に係る保温具の変形例1の平面図であり、Bは保温具の変形例2の平面図である。
図6】第2実施形態に保温具の使用方法を示す工程概念図である。
図7】第2実施形態に係る保温具の変形例3の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0025】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の保温具セット1である。保温具セット1は、自宅で採取した精液をクリニックへ搬送する際の使用を想定したものである。具体的には、保温具セット1は、保温対象物である精液を収容する収容容器としてのシリンジ10と、シート状の保温具20と、からなるものである。
【0026】
このシリンジ10は、注射針を装着していない注射筒のようなものであり、精液を吸引するための可動式のプランジャが一体となったものである。このようなシリンジ10としては市販品を用いることができ、例えば、株式会社ジェイ・エム・エスのジェイフィード(登録商標)注入器(JF-SY10VZ)を用いることができる。
【0027】
保温具20は、シリンジ10からなる収容容器を保温するためのものである。そして、保温具20は、矩形のシート状をしており、蓄熱部21と、シリンジ10を入れる袋部22と、からなる。
【0028】
蓄熱部21は、シート状の保温具20でシリンジ10を包み込むように簡単に折り曲げることができるよう、蓄熱材25が充填されている複数の蓄熱領域26を備えた構成となっている。
【0029】
この蓄熱部21は、具体的には、耐熱性、耐薬品性を備える2枚の透明シートを貼り合わせ作成されており、5つの蓄熱領域26にそれぞれ蓄熱材25が充填されている。蓄熱領域26に充填されている蓄熱材25は、物質の相変化のエネルギーを利用して特定の温度を維持することのできる材料である。本実施形態では、この蓄熱材26として具体的には、株式会社スギヤマゲンのサーモストレージ20(サーモストレージ:登録商標)を用いている。
【0030】
そして、シート状の保温具20は、具体的には、まず2枚の透明シートをシーラーで熱圧着してコの字状の6つの小部屋を形成する。次に、コの字の開放部から棒状に凝固させておいた蓄熱材25を5つの小部屋に入れる。そして、シーラーを再度用いて、開放部を熱圧着する。この時、蓄熱材25が充填された5つの小部屋と、何も入っていない1つの小部屋である袋部22ができる。そして、何も入っていない袋部22については、表側の透明シートの一部を切断して、シリンジ10を入れる(図1の破線で示した)挿入口22aを形成することで、保温具20ができる。このように保温具20は、袋部22が蓄熱部21と一体になってシート状の保温具20に設けられている。
【0031】
また、保温具20は、蓄熱部21における蓄熱領域26の温度を確認するための温度確認手段として、シール状の温度表示ラベル27を有している。本実施形態では、この温度表示ラベル27として、ミクロン株式会社の室内液晶温度シールを用いている。
【0032】
なお、蓄熱部21に設けられる温度確認手段として、本実施形態のような温度表示ラベル27以外に例えば温度計等、他のものを用いることもできる。しかしながら、保温具20は蓄熱部21でシリンジ10を包み込む必要があることから、フレキシブルな温度表示ラベル27が好ましく、また、保温具20は使い捨てできることが好ましいことから、廃棄やコストの面でも、温度表示ラベル27が好ましい。
【0033】
また、蓄熱部21に温度確認手段を設けることは、本実施形態のように保温対象物が精液である場合には非常に好ましい。何故ならば、使用者は精液の搬送に対して非常に不安になっていることから、適切な温度である20~25℃が搬送時に確保できていることが客観的にわかることで、使用者の心理面に大きな安心感を与えることができるためである。
【0034】
また、温度表示ラベル27のような温度確認手段を収容容器に直接設けておくことも可能であるが、その場合温度確認のために保温具を外す必要が生じる。従って、本実施形態のような構成であれば収容容器を保温具20で包み込んだままで温度を確認することができる。
【0035】
このような構成の本実施形態の保温具セット1の具体的な使用方法について、図を用いている説明する。図2は、保温具セット1の使用方法を示す使用工程図である。最初に述べたように、本実施形態の保温具セット1は、自宅で採取した精液をクリニックへ搬送する際の使用を想定したものである。
【0036】
そのため、自宅で精液を採取する場合には、事前にクリニックから保温具セット1を受ける等して、まず保温具セットを準備する(ステップ1)。なお、図3(A)には第1の使用状態として、この準備した保温具セット1の試作品の写真を示している。図1を用いて説明したように、保温具セット1は、精液を収容するシリンジ10と、保温具20と、からなる。また、保温具20は、蓄熱材25が充填されている複数の蓄熱領域26を備えた蓄熱部21と、この蓄熱部21と一体に設けられた袋部22袋部22と、からなる。また、保温具20の蓄熱部21には温度確認手段としての温度表示ラベル27が、貼り付けられている。
【0037】
次に、保温具20の温度調整を行う(ステップ2)。具体的には、温度表示ラベル27で蓄熱部21の温度を確認する。そして、例えば、温度表示ラベル27の温度が20℃以下を示している場合には、保温具20をぬるま湯で蓄熱材25が透明になるまで湯煎により温める。また、温度表示ラベル27の温度が20~25℃であれば、精液の搬送に適した温度環境なので、そのまま保温具20を使用する。また、温度表示ラベル27の温度が25℃以上であれば、保温具20を冷蔵庫で蓄熱材25が白濁に凝固する程度まで(だいたい30~40分程度)冷やし、温度表示ラベルの温度が20~25℃となるようにする。
【0038】
次に、精液の採取を行う(ステップ3)。精液の採取は、まず別途用意した容量120ml程度の滅菌容器に精液を放出することにより行う。なお、この別途用意する滅菌容器についても、保温具セット1の構成としても構わない。
【0039】
次に、シリンジ10で滅菌容器内の精液を回収する(ステップ4)。なお、シリンジ10は、通常密閉された袋に入っているので、使用の際にはこの袋を開封して取り出す必要がある。また、この時、精液の管理・確認を行うために、例えば、男女氏名を記入したり、バードコードや管理番号が記載されている管理用ラベルをシリンジ10の側面に貼り付けたりすることができる。そして、使用者は、このシリンジ10で精液を回収し、余分な空気を抜いてキャップを先端に装着する。
【0040】
次に、シリンジ10を挿入口22aから保温具20の袋部22に入れる(ステップ5)。なお、図3(B)には第2の使用状態として、保温具20の袋部22にシリンジ10が入れられている写真を示している。また、本実施形態においては、袋部22が蓄熱部21と一体に設けられている構成となっているため、この袋部22にシリンジ10を入れてしまえば、シリンジ10の紛失や取り違え等が非常に生じ難くなる。
【0041】
次に、袋部22のシリンジ10を保温具20で包み込む(ステップ6)。なお、図4(A)には第3の使用状態として、袋部22のシリンジ10が保温具20で巻かれて、保温具20の裏側に位置している写真を示している。また、図4(B)には第4の使用状態として、このようにしてシリンジ10が巻かれることで、保温具20の蓄熱部21によって袋部22ごと包み込まれた写真を示している。
【0042】
このように、袋部22のシリンジ10は、保温具20の蓄熱部21に密着して包み込まれるため、保温対象である精液の保温時間を十分に確保することできる。また、保温具20の蓄熱部21は、蓄熱材25が充填された複数の蓄熱領域26で構成されていることから、シリンジ10の形状に沿って柔軟に蓄熱部21を曲げることができ、袋部22内のシリンジ10と蓄熱材25との十分な接触面積を確保することができる。
【0043】
また、本実施形態の保温具セット1では、保温具20の袋部22が蓄熱部21と一体に設けられている。従って、蓄熱部21と袋部22とが別体で設けられている場合に比べ、袋部22に入れたシリンジ10を、簡単で確実に蓄熱部21で包み込むことができる。
なお、ステップ6のように、シリンジ10を保温具20で包み込んだものを、その状態を確保しておくために、輪ゴム等で止めておいても構わない。
【0044】
次に、本実施形態においては、保温具20で包み込まれたシリンジ10を、更に保温バッグからなる第1外装容器(図示せず)に収納する(ステップ7)。保温具セット1からなる保温具20で包み込まれたシリンジ10は、細長い筒状なので、自宅にあるような保温バッグであれば収納することができる。従って、自宅からクリニックまでの搬送中の持ち運びやすさや、一層の保温時間の確保のために、保温バッグに収納することが好ましい。なお、保温バッグとしては、500ml程度のペットボトルが入る大きさで十分であることから、専用の保温バッグとして、保温具セット1の構成としても構わない。
【0045】
また次に、本実施形態においては、保温バッグからなる第1外装容器に収納された保温具20を、更に携帯用魔法瓶からなる第2外装容器(図示せず)に収納する(ステップ8)。保温具セット1であれば、先にも述べたように大きなものではないので、自宅からクリニックまでの一層の保温時間の確保のために、携帯用魔法瓶に収納することが好ましい。携帯用魔法瓶であれば、最近であれば自宅に置いてあることも多いことから、比較的簡単に準備することができ、簡単に長時間の保温時間を確保することができる。この携帯用魔法瓶としては、500ml程度のもので十分ある。
そして、使用者は、保温具セット1をステップ1~8のように使用し、自宅からクリニックまでの搬送を開始する(終了)。
【0046】
なお、本発明者の検証によると、ステップ8までの保温方法によることで、2時間以上の十分な保温時間を確保することができる。従って、自宅からクリニックまでの搬送時間が2時間程度であれば、ステップ7までの保温方法でも構わない。
【0047】
また、本発明者は、ステップ6までの保温方法によるものと、非特許文献2のものとを冬場の搬送を想定し、25℃(室温)から4℃の冷蔵庫に入れて、温度の低下について小型温度記録装置を用いて比較検証した。その結果、ステップ6までの本発明より保温したものは、2時間でも-1℃の低下であったの対して、非特許文献2のものは、1時間弱程度で精子に悪影響を及ぼす15℃以下に低下していた。なお、従来臨床で用いられている非特許文献1のようなプラスチックケースでは、8分程度で15℃以下に低下していた。
【0048】
その他、本発明者は、ステップ1~6とステップ8による保温方法(ステップ7を除いた工程)での検証を行った。具体的には、夏場の搬送を想定して、まず、ステップ2で保温具20を冷蔵庫で40分程度放置し、次に37℃のインキュベーターへ入れて温度の計測を行ったところ、5時間程度経過しても当初の23.5℃からほとんど温度が変化しなかった。また、反対に冬場の搬送を想定して、25℃から4℃の冷蔵庫に入れて温度の計測を行ったところ、こちらも7時間程度経過しても25℃からほとんど温度が変化しなかった。
【0049】
以上のような検証から本実施形態の保温具セット1によれば、搬送時の保温時間を考量して、ステップ1~6までの保温方法や、ステップ1~6とステップ7或はステップ8の組合せのように、様々なバリエーションを採用して、簡単に保温対象物の保温時間を確保することができる。
【0050】
[変形例1]
次に、本実施形態における保温具セット1を構成する保温具20の変形例1について図5(A)を用いて説明する。なお、保温具20と同様の構成については、同じ符号を用いるとともに、説明を適宜省略する。保温具20は、図1に示すように蓄熱部21が5つの蓄熱領域26で形成されていた。
【0051】
一方、変形例1の保温具20Aは、複数の蓄熱領域26Aが格子状に形成されている。具体的には、縦方向に4つ、横方向に5つの蓄熱領域26Aが形成されている。このような保温具20Aによれば、蓄熱領域26Aと蓄熱領域26Aとの間でより一層曲げ易くなるため、保温具20Aにおいて蓄熱部21Aを自在に変形することができ、袋部22内のシリンジ10に蓄熱材25Aを密着させることができる。従って、保温具20Aは、本実施形態のようなシリンジ10とは異なる収容容器に対しても容易に対応可能であり、例えば、非特許文献1のようなプラスチック製の容器に用いることもできる。
【0052】
[変形例2]
次に、保温具20の変形例2について図5(B)を用いて説明する。変形例2の保温具20Bは、気泡緩衝材のように丸形状の複数の蓄熱領域26Bが形成されている。このような保温具20Bによっても、より一層曲げ易くなるため、袋部22内のシリンジ10に蓄熱材25Bを密着させることができる。なお、変形例2のような保温具20Bは、様々な形状に変形させ易いので、袋部22と蓄熱部25Bとが別体のような場合や、収容容器がシリンジ10とは異なるような場合(例えば、プラスチック製の円筒容器)のような場合にも適している。
【0053】
以上のように、本実施形態の保温具20は、シリンジ10を保温するためのシート状の保温具20であって、シリンジ10を入れる袋部22と、蓄熱材25が充填される蓄熱領域26を複数有し、袋部22を包み込むための蓄熱部21と、からなるものである。そして、蓄熱材25が充填される複数の蓄熱領域26で蓄熱部が構成されているので、蓄熱領域26と蓄熱領域26の間で簡単に曲げることができ、蓄熱部21を変形させることができる。このため、袋部22内のシリンジ10を蓄熱部21で包み込んで蓄熱材25を密着させることができるので、十分な保温時間を確保することができる。また、構成が簡単であることから安価な保温具20となり、使い捨てとして使用することに適している。
【0054】
なお、本実施形態において、保温具20の袋部22は蓄熱部21と一体に設けられている構成であってが、袋部22が蓄熱部21と別体で構成された形態を採用することも可能である。しかしながら、精液等の検体を保温対象物とする場合には、紛失や取り違え等のおそれをできるだけ低減する上では、本実施形態のような袋部22と蓄熱部21とが一体に設けられている構成が好ましい。
【0055】
また、本実施形態の保温具セット1は、保温具20と共に収容容器であるシリンジ10がセットになっているので、上記のような精液や血液等の検体を保温対象物にする場合には非常に便利であり、特にシリンジ10を用いることは、精液の保温に適している。
【0056】
なお、本実施形態においては、保温対象物として精液を例に説明したが、精液以外の保温対象物であっても保温具セット1は使用可能である。また、例えば、人間の精液であれば、20~25℃が搬送の際の適温であったが、豚の精液であれば15~20℃が適温であり、哺乳類培養細胞の搬送であれば35~37℃が適温となる。
【0057】
また、本実施形態の保温方法は、シリンジ10を入れる袋部22と、蓄熱材25が充填される蓄熱領域26を複数有して袋部22を覆う蓄熱部21と、からなる保温具20を用いて保温する工程と、保温具20により保温されたシリンジ10を更に第1外装容器や第2外装容器に収納する工程と、からなる。このため、保温対象物である精液について十分な保温時間を確保することができ、クリニックまでの搬送に非常に適している。
【0058】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の保温具40について図6を用いて説明する。図6は保温具40の使用方法を示す工程概念図である。実施形態1は、保温対象物を収容する収容容器(シリンジ10)と、保温具20とがセットになっていた保温具セット1であったが、本実施形態は保温具40のみで構成されている。
【0059】
本実施形態は、保温具40を用いる保温対象物として、液体ミルクを用いた具体例について説明する。なお、保温対象物である液体ミルクは、日本においては将来的に販売が予定されているものであり、液体ミルクそのものは専用の容器(収容容器)に入れられて販売されることになる。収容容器の形状としては、一般的な哺乳瓶のように円筒状や、四角いパック状等、様々な形状が想定される。
【0060】
このように市販される液体ミルクを保温対象物として、保温具40は使用される。図6(A)は、市販されている液体ミルクMと、保温具40である。液体ミルクMを保温したい時には、液体ミルクMと共に保温具40を準備する。なお、この時の液体ミルクMは、常温で保管されていれば常温であり、冷蔵庫等で保管されていれば低温となっている。
【0061】
保温具40は、矩形のシート状をしており、液体ミルクMを保温するためのものである。そして、保温具40は、蓄熱部41と、液体ミルクMを入れる袋部42と、からなる。より具体的には、蓄熱部41は、蓄熱材45が充填されている複数の蓄熱領域46を備えた構成となっている。従って、シート状の保温具40は、図6(B)に示すように液体ミルクを包み込むような形状に簡単に折り曲げることができる。そして、本実施形態においては、袋部42は、図6(B)に示すように、蓄熱部41を袋状にして形成されている。保温具40は、蓄熱部41を備えた袋状となっている。
【0062】
また、保温具40は、このような袋状に形成された蓄熱部41(袋部42)の形状を保持する保持具50を更に備えて構成されている。この保持具50としては、袋状の蓄熱部41の形状を保持しておく道具であればよく、例えば、液体ミルクMの形状にあわせて円形の輪や四角い輪でもよく、輪ゴムのような物でもよく、またクリップのようなものや、型枠のようなものでも構わない。
【0063】
そして、蓄熱部41で形成した袋部42に液体ミルクMを入れる。この時、蓄熱部41が袋部42の底部42bに蓄熱領域46を備える形状としておくことで、液体ミルクMの保温性をより一層高めることができる。なお、この時に保温具40は、後述するヒーターHの中に事前に入れておき、温めておくことが望ましい。
【0064】
そして、常温或は低温の液体ミルクMが収容された保温具40を、図6(C)に示すように、ヒーターHに入れて、このヒーターHを用いて液体ミルクMとしての適温(40~45℃)に温める。
【0065】
加熱に用いるヒーターHは、市販品の調理器具を用いることができ、例えば、一定温度を保ってヨーグルトを作る調理器として市販されているものを用いることもできる。また、このような市販品でなくとも液体ミルクMを加熱するための専用の器具であっても構わない。また、適温に温めることができればよいので、図6(C)のような加熱のためのヒーターHを用いなくとも、湯煎により液体ミルクMを温めても構わない。なお、専用のヒーターHであれば、図6(C)のように液体ミルクMを一つだけ温めるような構造よりも、例えば3つ等、複数の液体ミルクMを一度に温められるような装置であることが好ましい。
【0066】
そして、液体ミルクMは、蓄熱部41で形成された袋部42の中で加熱されるため、加熱を止めた後であっても、長時間保温しておくことができる。また、ヒーターHの電源を止めても温度維持ができるので、保温具40を用いない場合に比べて節電にもなる。また、事前に温めておいた保温具40に液体ミルクMを入れて加熱することで、液体ミルクMが蓄熱部41の蓄熱材45とも密着することになり、保温具40は液体ミルクMを迅速に温めることができる。そして更に、袋部42の底部42bに蓄熱領域46が位置することで、保温具40は、より早く液体ミルクMを温めることができる。
【0067】
また、散歩等、外出する場合であれば、保温具40ごと液体ミルクMをヒーターHから取り出し、図6(D)に示すように外装容器60にそのまま入れて持ち歩くことで、保温具40に保温されている液体ミルクMは、長時間適温に維持される。このような外装容器60としては、第1実施形態の第1外装容器や第2外装容器のような、保温バッグや携帯用魔法瓶を用いることができる。また、保温具40で保温された液体ミルク専用の外装容器60であっても構わない。
【0068】
このように本実施形態の保温具40は、液体ミルクM(収容容器)を保温するためのシート状の保温具40であって、液体ミルクMを入れる袋部42と、蓄熱材45が充填される蓄熱領域46を複数有し、袋部42を包み込むための蓄熱部41と、からなるものである。そして、蓄熱材45が充填される複数の蓄熱領域46で蓄熱部41が構成されているので、蓄熱領域46と蓄熱領域46の間で簡単に曲げることができ、蓄熱部41を変形させることができる。このため、袋部42内の液体ミルクMを蓄熱部41で包み込んで蓄熱材45を密着させることができるので、十分な保温時間を確保することができる。
【0069】
また、保温具40は、袋部42が、蓄熱部41を袋状にして形成されており、袋部42の形状を保持する保持具50を更に備える構成となっている。従って、保温具40は、様々なサイズや形状の液体ミルクMであって、対応することができる。また、保温具40は、保持具50によって袋部42の形状を保持するので、液体ミルクMを袋部42に入れ易くなっている。
【0070】
[変形例3]
次に、本実施形態における保温具40の変形例3について図7の斜視図を用いて説明する。なお、保温具40と同様の構成については、説明を適宜省略する。第2実施形態における保温具40は、図6に示すようにシート状のものであり、液体ミルクMを入れておく袋部42が蓄熱部41を袋状にして形成されていた。
【0071】
一方、変形例3の保温具40Aは、蓄熱部41Aを最初から袋状に形成して袋部42Aとして構成されている。具体的には、上面が開放した四角柱状の箱からなる袋部42Aとして蓄熱部41Aが形成されている。また、この袋部42Aの底部42bには、図示していないが、蓄熱材45Aが充填された蓄熱領域46Aが設けられている。つまり、袋状の保温具40Aは、蓄熱部41Aを備える構成となっている。
このような構成であれば、液体ミルクMを簡単に袋部42Aに入れてることができ、また蓄熱領域46Aで液体ミルクMを確実に包み込むことができる。
【0072】
また、第2実施形態のような保持具50も不要となる。また、このように蓄熱部41Aを袋状とした袋部42Aからなる保温具40Aは、第2実施形態における液体ミルクMのような収容容器が大きなサイズのものには適しており、収容容器の形状が統一されているのであれば、第2実施形態のようなシート状の保温具40よりも、収容容器の形状にあわせた専用形状とした保温具40Aとすることが好ましい。
【0073】
また、変形例3のような保温具40Aは、第2実施形態における外装容器60に入れて持ち歩くよう場合には、外装容器60に入れ易くなる。従って、保温具40Aにより保温された液体ミルクMのような収容容器を更に外装容器60に収納する工程を備える保温方法を採用する場合には、変形例3の保温具40の構成が特に適している。
【符号の説明】
【0074】
1:保温具セット
10:シリンジ(収容容器)
20、40:保温具
21、41:蓄熱部
22、42:袋部
22a:挿入口
25、45:蓄熱材
26、46:蓄熱領域
27:温度表示ラベル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7