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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20230221BHJP
   E02F 3/43 20060101ALI20230221BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
E02F9/20 M
E02F3/43 A
E02F9/26 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019038871
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020143449
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】成川 理優
(72)【発明者】
【氏名】坂本 博史
(72)【発明者】
【氏名】森木 秀一
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-096006(JP,A)
【文献】特開2011-052383(JP,A)
【文献】特開2010-247968(JP,A)
【文献】国際公開第2014/123228(WO,A1)
【文献】特開2005-330034(JP,A)
【文献】特開2010-095906(JP,A)
【文献】特開2013-189767(JP,A)
【文献】特開2011-063407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20-9/22
E02F 3/42-3/43
E02F 3/84-3/85
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と,
前記下部走行体に対して旋回可能に取り付けられた上部旋回体と,
前記上部旋回体に取り付けられた作業機と,
予め設定された作業領域の位置と前記上部旋回体及び前記作業機の姿勢とに基づいて,前記上部旋回体及び前記作業機が前記作業領域から逸脱する前に前記上部旋回体の旋回を停止させるための旋回角度の目標値である目標旋回停止角度を演算し,旋回中の前記上部旋回体を前記目標旋回停止角度で停止させるための旋回停止指令を出力する制御装置とを備えた作業機械において,
前記制御装置は,
所定の制動トルクによる旋回制動と前記作業機のリーチ長さの最大化とが開始されたと想定して,前記旋回停止指令が出力されたときから前記上部旋回体が停止するときまでの期間である制動期間中に前記上部旋回体が旋回する角度である予測旋回制動角度と,前記上部旋回体が停止するまでの前記作業機のリーチ長さの変化である予測作業機リーチとを,前記作業機の姿勢・速度及び前記上部旋回体の旋回角速度に基づいて演算し,
前記予測作業機リーチで前記上部旋回体を旋回した際に,前記作業機械の一部が前記作業領域から逸脱するか否かを判定し,
前記作業機械の一部が前記作業領域から逸脱すると判定された場合,前記予測作業機リーチと,前記上部旋回体と前記作業領域の境界との距離dとに基づいて,前記目標旋回停止角度を修正し,
前記予測旋回制動角度と前記修正された目標旋回停止角度とに基づいて決定したタイミングで前記旋回停止指令を出力することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
下部走行体と,
前記下部走行体に対して旋回可能に取り付けられた上部旋回体と,
前記上部旋回体に取り付けられた作業機と,
予め設定された作業領域の位置と前記上部旋回体及び前記作業機の姿勢とに基づいて,前記上部旋回体及び前記作業機が前記作業領域から逸脱する前に前記上部旋回体の旋回を停止させるための旋回角度の目標値である目標旋回停止角度を演算し,旋回中の前記上部旋回体を前記目標旋回停止角度で停止させるための旋回停止指令を出力する制御装置とを備えた作業機械において,
前記制御装置は,
前記上部旋回体を旋回した際に,前記上部旋回体が前記作業領域から逸脱するか否かを判定し,
前記上部旋回体が前記作業領域から逸脱すると判定された場合,前記上部旋回体と前記作業領域の境界との距離dと,前記上部旋回体において前記作業領域から逸脱すると判定された部分から前記上部旋回体の旋回中心までの長さLusと,前記作業機の長手方向から前記上部旋回体において前記作業領域から逸脱すると判定された部分までの角度αusとに基づいて,前記目標旋回停止角度を演算し,
前記旋回停止指令が出力されたときから前記上部旋回体が停止するときまでの期間である制動期間中に慣性モーメントが最大値に向かって増加し続けるように前記作業機の姿勢が変化することを仮定して,前記制動期間中に前記上部旋回体が旋回する角度である予測旋回制動角度を演算し,
前記予測旋回制動角度と前記目標旋回停止角度とに基づいて決定したタイミングで前記旋回停止指令を出力することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作業機械において,
前記制御装置は,前記作業機を駆動するアクチュエータの速度特性に基づいて,前記制動期間中の前記作業機の動作を予測することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において,
前記制御装置は,
前記上部旋回体を旋回した際に,前記上部旋回体が前記作業領域から逸脱するか否かを判定し,
前記上部旋回体が前記作業領域から逸脱すると判定された場合,前記上部旋回体と前記作業領域の境界との距離dと,前記上部旋回体において前記作業領域から逸脱すると判定された部分から前記上部旋回体の旋回中心までの長さLusと,前記作業機の長手方向から前記上部旋回体において前記作業領域から逸脱すると判定された部分までの角度αusとに基づいて,第1目標旋回停止角度を演算し,
前記制動期間中に慣性モーメントが最大値に向かって増加し続けるように前記作業機の姿勢が変化することを仮定して,前記制動期間中に前記上部旋回体が旋回する角度である第1予測旋回制動角度を演算し,
前記第1予測旋回制動角度と前記第1目標旋回停止角度とに基づいて決定したタイミングと,前記予測旋回制動角度と前記修正された目標旋回停止角度とに基づいて決定したタイミングとのうち早いほうのタイミングで前記旋回停止指令を出力することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項に記載の作業機械において,
前記制御装置は,前記作業機のリーチ長さが縮む方向に前記作業機が操作されているとき,前記作業機のリーチ長さが伸びる方向に前記作業機が動くまでの遅れ時間を考慮して前記予測旋回制動角度を演算することを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項に記載の作業機械において,
前記作業機は,ブーム,アーム及びアタッチメントの3つの部材を連結した多関節型の作業機であり,
前記3つの部材のうち2つの部材を操作可能な第1操作レバーと,
前記3つの部材から前記2つの部材を除いた残りの1つの部材と前記上部旋回体とを操作可能な第2操作レバーと,
前記第1操作レバーにオペレータが触れているか否かを検出するセンサとを備え,
前記制御装置は,前記センサによって前記第1操作レバーにオペレータが触れていないと検出されたとき,前記制動期間中に前記2つの部材は動作せず前記残りの1つの部材によって前記作業機のリーチ長さが増加することを仮定して,前記予測旋回制動角度を演算することを特徴とする作業機械。
【請求項7】
請求項1に記載の作業機械において,
前記作業機はバケットを含み,
前記制御装置は,前記バケット内の積荷の荷重に基づいて前記上部旋回体の慣性モーメントを演算し,その慣性モーメントを用いて,前記制動期間中の前記上部旋回体及び前記作業機の動作を予測することを特徴とする作業機械。
【請求項8】
請求項1に記載の作業機械において,
前記制御装置は,前記上部旋回体の車体傾斜角に基づいて車体傾斜による重力の影響項を含めて,前記制動期間中の前記上部旋回体及び前記作業機の動作を予測することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧アクチュエータで駆動される作業機(例えば,ブーム,アーム及びアタッチメントからなる多関節型のフロント作業機)を備える作業機械(例えば油圧ショベル)を用いて掘削や積み込み等の作業を行う場合,作業機械の側面に障害物(例えば建物等の構造物)が存在する場合がある。また,一般道路のように作業機が侵入すべきではない領域(以下,侵入禁止領域と称す)と近接した作業現場もある。作業機械のオペレータは,これらの構造物との接触や,侵入禁止領域への侵入を避けるよう,作業機械を操作する必要がある。
【0003】
このような環境においてオペレータの操作を支援する技術として,侵入禁止領域の外側に作業領域を設定し,そこから作業機械の逸脱を防止することで侵入禁止領域への侵入を避ける技術がある。特許文献1には,固定子に対し回転子を回転させて上部旋回体を旋回駆動する電動モータと,回転子の角速度をモータ角速度として検出する角速度検出手段と,該モータ角速度が旋回操作レバーで設定された該旋回速度に対応する大きさとなるように,電動モータの回転速度を制御する電動モータ制御手段と,モータ角速度の時間積分値に基づき上部旋回体の旋回角度を算出する旋回角度算出手段と,上部旋回体の旋回範囲(作業領域)を設定する旋回範囲設定手段と,旋回角度が該旋回範囲を超えないように電動モータの作動を停止させる停止制御手段と,を備える作業機械の旋回制御装置が開示されている。
【0004】
また特許文献2には,コントローラは所定の旋回減速度で旋回停止角度位置に旋回体を停止させるための旋回制動開始時期およびその後の目標旋回角速度を旋回体の旋回残り角度に基づいて決定する旋回角速度制御を実行し,この制御にかかわらず外乱(すなわち,旋回の抵抗となり得る外力(例えば,傾斜姿勢の上部旋回体に作用する重力や風))に起因して旋回停止角度位置よりも手前の位置で旋回体が停止してしまった場合に目標旋回角速度を増大させる補正をして再始動可能な旋回トルクを発生させる,旋回式作業機械の旋回停止制御装置及び方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-52383号公報
【文献】特開2010-247968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの先行技術文献では,旋回動作中の作業機械(旋回体)に対して制動力(制動トルク)を加えて所定の旋回角度で停止させる制御(旋回制動制御)が開示されている。しかし,制動力により旋回体が停止するまでの間にフロント作業機が操作されてフロント作業機の長さや慣性モーメントが変化することまでは考慮されておらず,不具合が生じ得る。
【0007】
まず,前者のフロント作業機(腕部)の長さに関して,例えばフロント作業機の側面側に直線状の作業領域を規定した場合,同じ旋回角度で同じ制動トルクをかけても,フロント作業機(腕部)の長さによって作業領域を逸脱する場合と逸脱しない場合が生じ得る。しかし,上記の先行技術文献ではそのような状況が考慮されていなため,フロント作業機の長さによっては,所定の旋回角度で停止させてもフロント作業機が作業領域から逸脱する(すなわち侵入禁止領域に侵入する)恐れがある。
【0008】
また,後者の慣性モーメントは,フロント作業機の姿勢によって変動して旋回動作に影響を与えるため,旋回制動時に考慮する必要がある。作業領域からの逸脱を防ぐための旋回制動が行われ,旋回動作が減速している最中にフロント作業機が操作されると,フロント作業機の姿勢変化に応じて慣性モーメントが変動する。仮に慣性モーメントが増大する方向へフロント作業機が操作されると,旋回制動が実行されてから停止するまでの旋回角度である旋回制動角度が増大し,作業領域から逸脱する可能性がある。このような事態を回避するために,例えば慣性モーメントが常に大きい状況を元に逸脱を防止する保守的な制御を実施すると,フロント作業機が作業領域の境界から大きく離れて停止することになり,オペレータ操作と作業機械の実際の動作が大きく乖離してオペレータに違和感を与える。また,逸脱を防止するための旋回制動が行われている最中はフロント作業機の操作を無効又は禁止することにすると,慣性モーメントの変動は生じないが,旋回制動中にフロント作業機の操作を所望するオペレータに違和感を与える。
【0009】
本発明の目的は,旋回動作中の旋回体に制動力を加えて所定の旋回角度で停止させる旋回制動制御の実行に,フロント作業機が操作されることによる不具合の発生を防止できる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが,その一例を挙げるならば,下部走行体と,前記下部走行体に対して旋回可能に取り付けられた上部旋回体と,前記上部旋回体に取り付けられた作業機と,予め設定された作業領域の位置と前記上部旋回体及び前記作業機の姿勢とに基づいて,前記上部旋回体及び前記作業機が前記作業領域から逸脱する前に前記上部旋回体の旋回を停止させるための旋回角度の目標値である目標旋回停止角度を演算し,旋回中の前記上部旋回体を前記目標旋回停止角度で停止させるための旋回停止指令を出力する制御装置とを備えた作業機械において,前記制御装置は,所定の制動トルクによる旋回制動と前記作業機のリーチ長さの最大化とが開始されたと想定して,前記旋回停止指令が出力されたときから前記上部旋回体が停止するときまでの期間である制動期間中に前記上部旋回体が旋回する角度である予測旋回制動角度と,前記上部旋回体が停止するまでの前記作業機のリーチ長さの変化である予測作業機リーチとを,前記作業機の姿勢・速度及び前記上部旋回体の旋回角速度に基づいて演算し,前記予測作業機リーチで前記上部旋回体を旋回した際に,前記作業機械の一部が前記作業領域から逸脱するか否かを判定し,前記作業機械の一部が前記作業領域から逸脱すると判定された場合,前記予測作業機リーチと,前記上部旋回体と前記作業領域の境界との距離dとに基づいて,前記目標旋回停止角度を修正し,前記予測旋回制動角度と前記修正された目標旋回停止角度とに基づいて決定したタイミングで前記旋回停止指令を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,旋回制動制御中にフロント作業機が操作されることによる不具合の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの構成図。
図2図1の油圧ショベルの制御コントローラを油圧駆動装置とともに示す図。
図3図2中の制御用油圧ユニットの詳細図。
図4図1の油圧ショベルの制御コントローラのハードウェア構成図。
図5】油圧ショベルにおける座標系(ショベル基準座標系)を示す図。
図6】本発明の第1実施形態に係る制御コントローラの機能ブロック図。
図7】本発明の実施形態に係る作業領域とショベルの位置関係を示す図。
図8】本発明の第1実施形態に係る逸脱防止制御のフローチャートを示す図。
図9】本発明の第2実施形態に係る逸脱防止制御のフローチャートを示す図。
図10】本発明の第3実施形態に係る制御コントローラの機能ブロック図。
図11】パイロット圧とアクチュエータ速度の相関テーブルを示す図。
図12】本発明の第1実施形態の変形例に係る逸脱防止制御のフローチャートの一部を示す図。
図13】本発明の実施形態に係る作業領域とショベルの位置関係を示す図。
図14】本発明の第1実施形態の変形例に係る制御コントローラの機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお,以下では,作業機械として,作業機の先端の作業具(アタッチメント)としてバケットを備える油圧ショベルを例示するが,バケット以外のアタッチメントを備える作業機械に本発明を適用してもよい。また,旋回可能な構造物の上に,複数のリンク部材(アタッチメント,ブーム,アーム等)を連結して構成される多関節型の作業機を有するものであれば,油圧ショベル以外の作業機械への適用も可能である。
【0014】
また,以下の説明では,同一の構成要素が複数存在する場合,符号の末尾にアルファベットの小文字を付すことがあるが,当該アルファベットの大文字を省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。例えば,同一の3つのポンプ190a,190b,190cが存在するとき,これらをまとめてポンプ190と表記することがある。
【0015】
<第1実施形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係る油圧ショベルの構成図であり,図2は本発明の実施形態に係る油圧ショベルの制御コントローラ(制御装置)40を油圧駆動装置と共に示す図であり,図3図2中のフロント制御用油圧ユニット160の詳細図である。
【0016】
図1において,油圧ショベル1は,多関節型のフロント作業機1Aと,車体(機械本体)1Bで構成されている。車体(機械本体)1Bは,左右の走行油圧モータ3a,3bにより走行する下部走行体11と,下部走行体11の上に取り付けられ,旋回油圧モータ4によって駆動され左右方向に旋回可能な上部旋回体12とからなる。
【0017】
フロント作業機1Aは,垂直方向にそれぞれ回動する複数のフロント部材(ブーム8,アーム9及びバケット10)を連結して構成されており,上部旋回体12に取り付けられている。ブーム8の基端は上部旋回体12の前部においてブームピンを介して回動可能に支持されている。ブーム8の先端にはアームピンを介してアーム9が回動可能に連結されており,アーム9の先端にはバケットピンを介してバケット10が回動可能に連結されている。ブーム8はブームシリンダ5によって駆動され,アーム9はアームシリンダ6によって駆動され,バケット10はバケットシリンダ7によって駆動される。
【0018】
ブーム8,アーム9,バケット10の回動角度α,β,γ(図5参照)を測定可能なように,ブームピンにブーム角度センサ30,アームピンにアーム角度センサ31,バケットリンク14にバケット角度センサ32が取付けられ,上部旋回体12には基準面(例えば水平面)に対する上部旋回体12(車体1B)の傾斜角θ(図5参照)を検出する車体傾斜角センサ33が取付けられている。なお,角度センサ30,31,32はそれぞれ基準面(例えば水平面)に対する角度を検出する角度センサ(例えば,慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit))に代替可能である。または各油圧シリンダ5,6,7のストロークを検出するシリンダストロークセンサに代替し,得られたシリンダストロークを角度に換算しても良い。
【0019】
また,上部旋回体12と下部走行体11の回転中心近傍に,上部旋回体12と下部走行体11の相対角度(旋回角度θsw)を検出可能な旋回角度センサ19が取り付けられている。また,旋回の角速度を検出可能な旋回角速度センサ17が上部旋回体12に取り付けられている。
【0020】
上部旋回体12に設けられた運転室内には,走行右レバー23a(図1)を有し走行右油圧モータ3a(下部走行体11)を操作するための操作装置47a(図2)と,走行左レバー23b(図1)を有し走行左油圧モータ3b(下部走行体11)を操作するための操作装置47b(図2)と,操作右レバー22a(図1)を共有しブームシリンダ5(ブーム8)及びバケットシリンダ7(バケット10)を操作するための操作装置45a,46a(図2)と,操作左レバー22b(図1)を共有しアームシリンダ6(アーム9)及び旋回油圧モータ4(上部旋回体12)を操作するための操作装置45b,46b(図2)が設置されている。以下では,操作右レバー22a,操作左レバー22b,走行右レバー23aおよび走行左レバー23bを操作レバー22,23と総称することがある。
【0021】
上部旋回体12に搭載された原動機であるエンジン18は,油圧ポンプ2とパイロットポンプ48を駆動する。油圧ポンプ2はレギュレータ2aによって容量が制御される可変容量型ポンプであり,パイロットポンプ48は固定容量型ポンプである。本実施形態においては,図2に示すように,パイロットライン144,145,146,147,148,149の途中にシャトルブロック162が設けられている。操作装置45,46,47から出力された油圧信号が,このシャトルブロック162を介してレギュレータ2aにも入力される。シャトルブロック162の詳細構成は省略するが,油圧信号がシャトルブロック162を介してレギュレータ2aに入力されており,油圧ポンプ2の吐出流量が当該油圧信号に応じて制御される。
【0022】
操作装置45,46,47は,油圧パイロット方式であり,パイロットポンプ48から吐出される圧油をもとに,それぞれオペレータにより操作される操作レバー22,23の操作量(例えば,レバーストローク)と操作方向に応じたパイロット圧(操作圧と称することもある)を発生する。このように発生したパイロット圧は,コントロールバルブユニット20内の対応する流量制御弁15a~15f(図2参照)の油圧駆動部150a~155bにパイロットライン144a~149b(図2参照)を介して供給され,これら流量制御弁15a~15fを駆動する制御信号として利用される。
【0023】
油圧ポンプ2から吐出された圧油は,流量制御弁15a,15b,15c,15d,15e,15f(図2参照)を介して走行右油圧モータ3a,走行左油圧モータ3b,旋回油圧モータ4,ブームシリンダ5,アームシリンダ6,バケットシリンダ7に供給される。供給された圧油によってブームシリンダ5,アームシリンダ6,バケットシリンダ7が伸縮することで,ブーム8,アーム9,バケット10がそれぞれ回動し,バケット10の位置及び姿勢が変化する。また,供給された圧油によって旋回油圧モータ4が回転することで,下部走行体11に対して上部旋回体12が旋回する。そして,供給された圧油によって走行右油圧モータ3a,走行左油圧モータ3bが回転することで,下部走行体11が走行する。以下では,走行油圧モータ3,旋回油圧モータ4,ブームシリンダ5,アームシリンダ6,バケットシリンダ7を総称して,油圧アクチュエータ3-7と総称することがある。
【0024】
図4は本実施形態に係る油圧ショベルが備える逸脱防止制御システム(旋回制動制御システム)の構成図である。図4のシステムは,操作レバー22bに対してオペレータから旋回操作が入力されて上部旋回体12が旋回したときに,ショベル1の移動が許可される予め設定された作業領域からショベル1(より具体的にはフロント作業機1A及び上部旋回体12)が逸脱することを防止するために(すなわち侵入禁止領域への侵入防止のために),旋回油圧モータ4を強制的に減速または停止する逸脱防止制御を実行するものである。特に,本実施形態では旋回動作を制御することで作業領域からの逸脱防止を実現するため,この制御のことを「旋回制動制御」と称する。
【0025】
旋回制動制御では,操作レバー22bの操作によって旋回油圧モータ4の動作が指示された場合,作業領域60の境界(作業領域境界)61(図7参照)と油圧ショベル1との位置関係に基づいて,作業領域境界61に近づこうとする旋回油圧モータ4の動作を制限するような制御信号を流量制御弁15dに出力し,それにより油圧ショベル1の作業領域からの逸脱を防止している。
【0026】
逸脱防止制御システムによれば,油圧ショベル1の各部の作業領域60(図7参照)からの逸脱を防止できるため,オペレータは,侵入禁止領域を意識することなく,掘削作業のような油圧ショベル1の本来の作業に専念することが可能となる。なお,図7の例ではショベル1の側面(下部走行体11の側面)に沿って設定される作業領域60を示している。
【0027】
図4のシステムは,作業機姿勢検出装置51と,作業領域設定装置52と,オペレータ操作検出装置53と,旋回角度検出装置54と,旋回角速度検出装置55,逸脱防止制御をつかさどる制御コントローラ(制御装置)40と,作業領域60と油圧ショベル1の位置関係を表示可能な表示装置83と,電磁比例弁87(87a,87b)とを備えている。
【0028】
作業機姿勢検出装置51は,上部旋回体12(車体1B)とフロント作業機1Aの姿勢情報を検出するセンサであり,フロント作業機1Aに取り付けられたブーム角度センサ30,アーム角度センサ31及びバケット角度センサ32と,上部旋回体12に取り付けられたIMUである車体傾斜センサ33とから構成される。
【0029】
旋回角度検出装置54は,上部旋回体12と下部走行体11の相対角度(旋回角度θsw)を検出する旋回角度センサ19から構成される。
【0030】
旋回角速度検出装置55は,上部旋回体12の旋回角速度を検出する旋回角速度センサ17から構成される。なお,旋回角速度は,旋回角度検出装置54(旋回角度センサ19)で検出した旋回角度θswの差分(時間変化)から取得することもでき,この場合は旋回角速度センサ17の省略が可能である。
【0031】
作業領域設定装置52は,図7に示すような油圧ショベル1の作業領域60を設定可能なインターフェースであり,具体的には,作業領域境界61を設定することで作業領域60を設定する。作業領域設定装置52を介した作業領域60の設定は,オペレータが手動で行っても良いし,作業領域設定装置52を外部端末と接続し,その外部端末によって設定された作業領域60を旋回制動制御に利用しても良い。また,作業領域60は,例えば,油圧ショベル1(例えば下部走行体11)に設定されたローカル座標系(ショベル基準座標系)上に設定できる。その他にも,グローバル座標系(地理座標系)や現場に設定された現場座標系等,所望の座標系上に設定することも可能である。グローバル座標系上に作業領域60を設定した場合には,油圧ショベル1に2本のGNSS(Global Navigation Satellite System)アンテナ56を取り付け,GNSSアンテナ56で受信した衛星信号に基づいて油圧ショベル1のグローバル座標を演算し,その座標から所定の範囲に存在する作業領域60を制御コントローラ40に読み込むことで旋回制動制御を実行しても良い。
【0032】
オペレータ操作検出装置53は,オペレータによる操作レバー22,23の操作によって図2に示したパイロットライン144~149に生じる操作圧を検出する圧力センサ70a~75a及び圧力センサ70b~75b(図2参照)から構成される。つまり,オペレータ操作検出装置53(圧力センサ70~75)は,油圧アクチュエータ3-7に関するオペレータの操作を検出している。
【0033】
制御コントローラ40は,作業領域60の位置と,上部旋回体12及びフロント作業機1Aの姿勢とに基づいて,上部旋回体12及びフロント作業機1Aが作業領域60から逸脱する前に上部旋回体12の旋回を停止させるための旋回角度の目標値である目標旋回停止角度θstop(後述)を演算し,旋回中の上部旋回体12を目標旋回停止角度で停止させる旋回制動制御を行うための旋回停止指令を出力する。制御コントローラ40は,オペレータによる操作レバー22bの操作によりパイロットライン147a,147bに発生する操作圧を制御用油圧ユニット160(図2参照)で適宜変更することで旋回制動制御を実行する。図3に制御用油圧ユニット160の詳細を示す。この図に示すように,制御用油圧ユニット160は,2本のパイロットライン147a,147bにそれぞれ設置された減圧弁である電磁比例弁87a,87bを備えている。電磁比例弁87a,87bは,制御コントローラ40に電気的に接続されており,制御コントローラ40から出力される制御信号に基づいて弁開度が制御され,それによりパイロットライン147a,147bの操作圧(パイロット圧)を低減できる。電磁比例弁87a,87bは,非通電時には開度が最大であり,制御コントローラ40からの制御信号である電流を増大させるほど開度は小さくなる。つまり,電磁比例弁87a,87bは,オペレータが操作レバー22bを操作したことによって生じたパイロット圧を強制的に低減したパイロット圧を発生できる。
【0034】
本稿では,旋回中の上部旋回体12を目標旋回停止角度θstop(後述)で強制的に停止する旋回制動制御を実行するために制御コントローラ40から電磁比例弁87a,87bに対して出力される制御信号を「旋回停止指令」と称することがある。なお,本実施形態の旋回停止指令はパイロットライン147a,147bの操作圧(パイロット圧)を低減するものであるが,上部旋回体12の旋回を制動するものであれば他の操作圧を生成しても良い。他の操作圧としては,例えば,オペレータ操作が規定する旋回方向と逆方向に上部旋回体12を旋回させるものがある。また,旋回停止指令は時間経過や旋回速度変化に応じてパイロット圧を変化させるものでも構わない。
【0035】
制御コントローラ40のハードウェア構成について図4を用いて説明する。図4において制御コントローラ40は,入力インターフェース91と,プロセッサである中央処理装置(CPU)92と,記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)93及びランダムアクセスメモリ(RAM)94と,出力インターフェース95とを有している。
【0036】
入力インターフェース91は,作業機姿勢検出装置51である角度センサ30,31,32,34及び傾斜角センサ33からの信号と,作業領域60を設定するための装置である作業領域設定装置52からの信号と,操作装置45~47からの操作量を検出する圧力センサ(圧力センサ70~75を含む)であるオペレータ操作検出装置53からの信号と,旋回角度検出装置54である旋回角度センサ19からの信号と,旋回角速度検出装置55である旋回角速度センサ17からの信号を入力し,CPU92が演算可能なように変換する。
【0037】
ROM93は,後述するフローチャートに係る処理を含め逸脱防止制御(旋回制動制御)を実行するための制御プログラムと,当該フローチャートの実行に必要な各種情報等が記憶された記録媒体であり,CPU92は,ROM93に記憶された制御プログラムに従って入力インターフェース91及びメモリ93,94から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。
【0038】
出力インターフェース95は,CPU92での演算結果に応じた出力用の信号を作成し,その信号を電磁比例弁87(87a,87b)または表示装置55に出力することで,旋回油圧モータ4を制御したり,フロント作業機1A,車体1B,バケット10及び作業領域60等の画像を表示装置83の画面上に表示させたりする。
【0039】
なお,図4の制御コントローラ40は,記憶装置としてROM93及びRAM94という半導体メモリを備えているが,記憶装置であれば代替可能であり,例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置を備えても良い。
【0040】
図6は,制御コントローラ40の機能ブロック図である。制御コントローラ40は,ROM93に記憶されたプログラムをCPU92によって実行することによって,旋回角度演算部70と,作業領域演算部71と,作業機姿勢演算部72と,旋回角速度演算部73と,オペレータ操作速度推定部74と,表示制御部75と,電磁比例弁制御76と,目標停止角度演算部101と,旋回制動挙動予測部102と,目標停止角度修正部103と,旋回指令演算部104として機能する。以下,各部における処理を説明する。
【0041】
旋回角度演算部70は,旋回角度検出装置54(旋回角度センサ19)からの情報に基づき,ショベル基準座標系(ローカル座標系)における上部旋回体12の旋回角度θswを演算する。
【0042】
作業機姿勢演算部72は,ショベル基準座標系におけるフロント作業機1Aの姿勢を演算する。油圧ショベル1の姿勢は,図5のショベル基準座標系上に定義できる。図5のショベル基準座標系は,旋回中心軸のうち,下部走行体11が地面と接する点を原点としている。下部走行体11が直進する際の進行方向と,フロント作業機1Aの動作平面が平行となり,かつフロント作業機1Aの伸ばし方向の動作方向と,下部走行体11を前進させたときの動作方向が一致する向きをX軸,上部旋回体12における旋回中心をZ軸,前述したX軸及びZ軸と右手座標系を構成するようにY軸を定めた。また,旋回角度θswについては,フロント作業機1AがX軸と平行になる状態を0度とした。X軸に対するブーム8の回転角をブーム角α,ブーム8に対するアーム9の回転角をアーム角β,アーム9に対するバケット10爪先の回転角をバケット角γ,下部旋回体11に対する上部旋回体12の旋回角を旋回角θswとした。ブーム角αはブーム角度センサ30により,アーム角βはアーム角度センサ31により,バケット角γはバケット角度センサ32により,旋回角θswは旋回角度センサ19により検出される。これらの角度情報と,予めROM93に記憶されている油圧ショベル1の各部の寸法情報を用いることで,ショベル基準座標系における油圧ショベル1の各部の姿勢及び位置を演算できる。また,重力方向に対して直角な水平面(基準面)に対する車体1Bの傾斜角θは,車体傾斜角センサ33で検出可能である。
【0043】
作業領域演算部71は,作業領域設定装置52からの情報に基づき,作業領域60の位置情報を図5に示すショベル基準座標系に変換する演算を実行する。本実施形態では,図7に示すような単一の作業領域境界61により規定される作業領域60を示しているが,複数の作業領域境界61によって定義される作業領域60であっても良い。作業領域境界61は図7に示した直線に限らず曲線であっても良いし,図7に示すようなX軸と略平行な直線に限らない。
【0044】
オペレータ操作速度推定部74は,オペレータ操作検出装置53(圧力センサ70~75)で検出したパイロット圧(操作圧)と,制御コントローラ40内のROM93に予め保持してあるパイロット圧とアクチュエータ速度の相関テーブル(例えば図11参照)とに基づいて,オペレータ操作による油圧アクチュエータ3-7の速度を推定する。なお,圧力センサ70-75による操作量の検出は一例に過ぎず,例えば各操作レバー22,23の回転変位(傾倒量)を検出する位置センサ(例えば,ロータリーエンコーダ)で当該操作レバー22,23の操作量を検出し,その検出したレバー操作量と,レバー操作量とパイロット圧の相関テーブルとに基づいてレバー操作量からパイロット圧を算出し,さらに図11に例示した壮観テーブルを利用して油圧アクチュエータ3-7の速度を推定しても良い。また,オペレータの操作量から各油圧アクチュエータ3-7の動作速度を推定する構成に代えて,角度センサ30~32や車体傾斜角センサ33の検出値から油圧シリンダ3-7の変位を算出し,当該変位の時間変化を基に動作速度を算出しても良い。
【0045】
旋回角速度演算部73は,旋回角速度検出装置55(旋回角速度センサ17)の検出値に基づき,上部旋回体12の旋回角速度を演算する。
【0046】
目標停止角度演算部101は,作業領域演算部71で演算された作業領域60(作業領域境界61)の位置と,作業機姿勢演算部72で演算されたフロント作業機1A及び上部旋回体12の姿勢とに基づいて,フロント作業機1A及び上部旋回体12が作業領域60から逸脱する前に上部旋回体12の旋回を停止させるための旋回角度の目標値である目標旋回停止角度θstopを演算する。本実施形態の目標停止角度演算部101は,ショベル基準座標系において,フロント作業機1Aのリーチ長さ(単に「リーチ」と称することもある)Rbk(図5)と,本体1Bから作業領域境界61までの距離とから,目標の旋回停止角度θstopを演算する。例えば,図7の作業領域境界61に対して,バケット10の左端部10Lが接近するときの,目標旋回停止角度θstopの算出について説明する。作業領域境界61とショベル基準座標系の原点(上部旋回体12の旋回中心120)との距離d(図7),上部旋回体12の旋回中心120とブームピン8aのX軸方向の長さをLsb(図5),ブームピン8aからアームピン9aまでの長さをLbm(図5),アーピン9aからバケットピン10aまでの長さをLam(図5),バケットピン10aからバケット先端10bまでの長さをLbk(図5),バケット先端の幅方向の長さをWbk(図7),ブーム8,アーム9,バケット10の回動角度をα,β,γ(図5)とする。なお,旋回中心120と,ブームピン8に,Z軸方向やY軸方向のオフセットは無いものとする。このとき,フロント作業機1AのリーチRbkは下記の式(1)で表される。
【0047】
【数1】
【0048】
ここで旋回角度をθswとすると,バケット先端10bの左端の10Lの位置Ybkは,下記の式(2)として表される。
【0049】
【数2】
【0050】
上記の式(2)において,三角関数の合成による係数をa,b,δ,ショベル基準座標系の原点と作業領域境界61との距離をdとすると,目標旋回停止角度θstopは下記の式(3)として表される。このときの目標旋回停止角度θstopは,図13に示すように,バケット先端の左端10Lが作業領域境界61上に位置するときの旋回角度θswである。この場合,バケット先端の左端10Lが,上部旋回体12の旋回動作により油圧ショベル1上の点で最も早く作業領域境界61上に到達する点である。但し,上部旋回体12の旋回方向と作業領域境界61の位置に応じて,上部旋回体12の旋回動作により油圧ショベル1上の点で最も早く作業領域境界61上に到達する点はその都度変わり得る。
【0051】
【数3】
【0052】
旋回制動挙動予測部102は,制御コントローラ40から旋回停止指令が出力されたとき(旋回制動の開始)から上部旋回体12が停止するときまで期間(本稿では「制動期間」と称することがある)中の上部旋回体12及びフロント作業機1Aの動作を上部旋回体12の旋回角速度とフロント作業機1Aの姿勢とから予測することで,制動期間中に上部旋回体12が旋回する角度である予測旋回制動角度θpreを演算する。旋回制動挙動予測部102は,例えば制御周期で決められた所定のタイミングにおいて,その瞬間のフロント作業機1Aの姿勢,フロント作業機1Aの速度,上部旋回体12の角速度を初期条件として,制動期間中の上部旋回体12とフロント作業機1Aの挙動を予測する。より具体的には,旋回制動挙動予測部102は,旋回制動制御による制動期間において,ブーム8,アーム9,バケット10の回動角度であるα,β,γが変化することによるフロント作業機1Aのリーチの予測値(「予測作業機リーチ」とも称する)Rpreの変化と,同じく制動期間中に上部旋回体12が旋回する角度(すなわち,旋回制動の開始から旋回が停止するまでに要する角度)である旋回制動角度の予測値(「予測旋回制動角度」とも称する)θpreとを算出する。このフロント作業機1AのリーチRpreの変化と,旋回制動角度θpreは,例えば下記式(4)の運動方程式に基づいて算出できる。τを旋回の制動トルク,ωを旋回角速度,Jをフロント作業機1Aの姿勢(作業機姿勢)に依存する上部旋回体12の慣性モーメント,Bを粘性減衰係数,Cを作業機姿勢に依存する遠心力に関する項とすると,上部旋回体12の運動方程式は下記の式(4)のようになる。作業機姿勢に依存する項である慣性モーメントの項Jと遠心力の項Cとを変化させ,各時刻において下記の式(4)を解くことで,フロント作業機1Aの姿勢が変化する場合の,旋回制動角度と,フロント作業機1Aのリーチの変化を演算することができる。
【0053】
【数4】
【0054】
制動期間中のフロント作業機1AのリーチRpreの変化は,制動期間中の油圧アクチュエータ5-7の速度の変化を油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)5-7の速度特性に基づいて規定し,その速度変化を回動角度α,β,γの変化に幾何学的に変化することで算出可能である。本実形態では油圧アクチュエータ5-7の速度特性として,オペレータ操作速度推定部74が利用する図11に示したパイロット圧と油圧アクチュエータ5-7の相関テーブルを利用している。また,本実施形態では,制動期間中の油圧アクチュエータ5-7の速度の変化のさせ方として,式(2)に示したフロント作業機1AのリーチRbkを演算時(現時点)の姿勢から最大値に向かって制動期間中に増加し続けるように変化させている。作業範囲60からの逸脱を確実に防止する観点からは,リーチRbkの時間あたりの増加量はショベル1の仕様から規定される理論上の最大値とすることが好ましい。なお,制動期間中にリーチRbkが最大値に達すれば,それ以降は最大値を維持するものとする。このようなアクチュエータ速度の変化を想定することで,現在のフロント作業機1Aの姿勢および速度から,フロント作業機1Aのリーチが最大値に向かって増加するようにオペレータが操作した場合の旋回制動制御時の挙動を予測することができ,その挙動に基づいて予測旋回制動角度θpreも算出できる。以上を換言すると,本実施形態の旋回制動挙動予測部102は,制動期間中にフロント作業機1AのリーチRbkが増加し続けることを仮定して予測制動角度θpreを演算しているといえる。
【0055】
なお,仮に現時刻においてフロント作業機1AのリーチRbkが最大となっている場合は,旋回制動挙動予測部102は,制動期間中のフロント作業機1Aの姿勢の変化を想定せず,現時点の姿勢(すなわちリーチRbkが最大値)のまま旋回制動角度θpreを算出する。
【0056】
目標停止角度修正部103は,旋回制動挙動予測部102によるフロント作業機1Aの動作の予測結果(具体的にはフロント作業機1AのリーチRpre)から目標旋回停止角度θstopを修正する。ここでは目標旋回停止角度θstopの修正値を修正旋回停止角度θrsと称することがある。本実施形態の修正旋回停止角度θrsは,フロント作業機1Aのリーチを現在値から所定のルールに従って最大値に向かって伸ばしながら作業領域境界61に向かって旋回したときに,ショベル1上の点で最も早く作業領域境界61に到達する点(図13の場合はバケット先端の左端10L)が作業領域境界61上に位置するときの旋回角度θswとなる。修正旋回停止角度θrsは,現時刻でリーチが最大でない場合にはリーチが増加することでθstopより小さくなることが通常である。なお,現時刻において作業機姿勢がフルリーチ(最大値)に到達している場合は,θrsとθstopは等しい値となる。以上を換言すると,本実施形態の目標停止角度修正部103は,制動期間中にフロント作業機1AのリーチRbkが増加し続けることを仮定して目標旋回停止角度θstopを修正することで修正旋回停止角度θrsを演算しているといえる。
【0057】
旋回指令演算部104では,修正旋回停止角度θrsと,現在の旋回角度θc(旋回角度センサ19により検出される旋回角)と,予測旋回制動角度θpreとに基づいて決定したタイミングで旋回停止指令(上部旋回体12の旋回を減速して停止する指令)を電磁比例弁87に出力する。本実施形態では,下記式(5)の条件を満たすと,旋回の制動トルクτ(式(4)参照)にて減速させる旋回停止指令を出力し,旋回制動制御を実行する。ただし,後述する図8,9のフローチャートでは,予測旋回制動角度θpreと現在の旋回角度θcの和が修正旋回停止角度θrs(作業機リーチが既に最大のときはθstop)に達した時,制動トルクτを加える旋回制動を行うことと説明している。
【0058】
【数5】
【0059】
上記式(5)を満たすタイミングで旋回停止指令を出力することで,仮に現在の姿勢から作業機1Aのリーチが最大に向かうような操作が制動期間中にオペレータによって行われた場合であっても,作業領域60を逸脱することなく,またフロント作業機1Aの動作を制限することなく,ショベル1の旋回動作を停止させることができる。
【0060】
-フローチャート(図8)-
次に,図8に基づいて,上記の構成を備えた油圧ショベル1による制御処理手順を説明する。図8は本実施形態の制御コントローラ40が実行する逸脱防止制御のフローチャートを示しており,各ステップ番号にSを付して表す。制御コントローラ40はオペレータの操作レバー22bによる旋回操作が実行されると図8のフローを開始する。但し,旋回中は所定の周期で図8のフローが繰り替えし実行される。
【0061】
まず,制御コントローラ40は,ステップS100で,作業領域演算部71で演算された作業領域60の位置に基づいて,油圧ショベル1(自機)の現在の位置に作業領域60の設定がされているか否かを判断する。例えば,自機の位置を中心にして所定の範囲内に作業領域境界61が存在するか否かを判定し,当該所定の範囲内に作業領域境界61が存在する場合には作業領域60の設定がされていると判断する。また,逸脱防止制御の実行のON/OFFを切り替えるスイッチを備え,そのスイッチを介してONとされた場合には作業領域60の設定があり,OFFの場合には作業領域60の設定はないと判断するものもある。S100で作業領域60の設定がされていると判断された場合にはS101に進み,設定がないと判断された場合にはステップS110へ進む。
【0062】
ステップS101では,制御コントローラ40(作業機姿勢演算部72)は,作業機姿勢検出装置51からのデータ入力(フロント作業機1の姿勢情報の入力)を受けて,現時点(ステップS101の実行時)においてフロント作業機1Aがフルリーチ(最大)に達しているか否かを判断する。フロント作業機1Aのリーチが最大と判断された場合ステップS102へ進み,フルリーチに達していない場合ステップS105へ進む。
【0063】
ステップS102では,制御コントローラ40(目標停止角度演算部101)は,フロント作業機1Aがフルリーチ姿勢において,旋回動作によって作業領域60から逸脱するか否かを判定する。すなわち,フルリーチで旋回したとき油圧ショベル1が作業領域60の外に出るか否かを判定することで,作業領域60からの逸脱の有無を判定する。逸脱すると判定した場合はステップS103へ進み,逸脱しないと判定した場合はステップS110へ進む。
【0064】
ステップS103では,制御コントローラ40(目標停止角度演算部101)は,現時点の作業機姿勢(フルリーチ)で,作業領域60を逸脱しないための目標停止角度θstopを算出する。具体的には,目標停止角度演算部101は,ブーム8,アーム9,バケット10の回動角度α,β,γと,ショベル基準座標系の原点と作業領域境界61との距離dと,式(1)-(3)とに基づいてフルリーチ時の目標停止角度θstopを算出し,それを旋回指令演算部104に出力する。ステップS104が終了したら,その後ステップS104へ処理を進める。
【0065】
ステップS104では,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,現時点の作業機姿勢(フルリーチ)において,旋回制動を開始してから上部旋回体12が停止するまでに要する角度である予測旋回制動角度θpreを算出し,それを旋回指令演算部104に出力する。その後ステップ108へ進む。
【0066】
ステップS108では,制御コントローラ40(旋回指令演算部104)は,ステップS104で演算した予測旋回制動角度θpreと,旋回角度演算部70から入力される現在角度θcの和が,ステップ103で演算した目標旋回停止角度θstopに達したか否かを判定する。これらの和が目標旋回停止角度θstopに達した場合にはステップS109へ処理を進め,達していない場合にはステップS110へ処理を進める。
【0067】
ステップS109では,制御コントローラ40(旋回指令演算部104)は,旋回制動制御,すなわち旋回制動を実行し,それにより上部旋回体12の旋回動作が減速され,作業領域60からの逸脱が防止される。
【0068】
ステップS110では,制御コントローラ40による旋回制動制御は実行されず,ショベル1の旋回動作はオペレータの操作通りに行われる。ステップS110の処理は,ステップS100,ステップS102,ステップS106,ステップS108で否と判定された場合に行われる。
【0069】
一方,ステップS105では(すなわち,ステップS101でフロント作業機1Aがフルリーチに達していないと判定された場合には),制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,旋回制動制御により旋回制動を開始してから上部旋回体12が停止するまでの間にフロント作業機1AのリーチRpreの変化(予測作業機リーチ)と,同じく旋回制動を開始してから上部旋回体12が停止するまでに要する角度である予測旋回制動角度θpreとを算出する。具体的には,現時点(ステップS105の実行時)のフロント作業機1Aの姿勢・速度および上部旋回体12の角速度の状態で,所定の制動トルクτによる旋回制動と作業機リーチの最大化とを開始したと想定し,上部旋回体12が停止するまでに要する角度(予測旋回制動角度)θpreと,上部旋回体12が停止するまでのフロント作業機1AのリーチRpreの変化(予測作業機リーチ)とを上記の式(4)の運動方程式に基づいて算出する。なお,本実施の形態における作業機リーチの最大化は,既述の通り,式(2)に示したフロント作業機1AのリーチRbkを演算時(現時点)の姿勢から最大化するように回動角度α,β,γ(各シリンダ5-7の速度)を予め定めたルールに従って変化させる。予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreの演算が完了したら,それらを目標停止角度修正部103及び旋回指令演算部104に出力して,ステップS106に進む。
【0070】
ステップS106では,制御コントローラ40(目標停止角度修正部103)は,ステップS105で演算した予測作業機リーチで(即ち,作業機リーチを最大に向かって増加しながら)油圧ショベル1を旋回した際に,油圧ショベル1の一部が作業領域60から逸脱するか否かを判定する。判定はステップS102と同様に行うことができる。ここで逸脱すると判定された場合はステップS107へ進み,逸脱しないと判定された場合はステップS110へ進む。
【0071】
ステップS107では,制御コントローラ40(目標停止角度修正部103)は,ステップS105で演算した予測作業機リーチ(回動角α,β,γの変化)と,距離dと,上記式(1)-(3)とから,作業領域60を逸脱しないための目標旋回停止角度(修正旋回停止角度θrs)を算出する。その後ステップS108へ進む。
【0072】
ステップS107を経由してステップS108に来た場合,制御コントローラ40(旋回指令演算部104)は,ステップS105で演算した予測旋回制動角度θpreと,旋回角度演算部70から入力される現在角度θcの和が,ステップ107で演算した目標旋回停止角度(修正旋回停止角度θrs)に達したか否かを判定する。これらの和が目標旋回停止角度(修正旋回停止角度θrs)に達した場合にはステップS109へ処理を進め(すなわち旋回制動を実行し),達していない場合にはステップS110へ処理を進める。
【0073】
-効果-
上記のように構成された油圧ショベル1では以下のような効果が発揮される。
【0074】
(1)旋回中にフロント作業機1Aが操作されても作業領域60を逸脱する可能性がないとき
上部旋回体12の旋回中にフロント作業機1Aがオペレータに操作されても油圧ショベル1が作業領域60から逸脱する可能性がないとき,つまり,ステップS100,S102,S106のいずれかでNOと判定されてステップS110に到達するときは,旋回制動制御は実行されないため,不要な旋回制動制御(旋回制動)の実行が回避されて作業効率が低下することを防止できる。
【0075】
(2)旋回中にフロント作業機1Aが操作されて作業領域60を逸脱するとき
一方,上部旋回体12の旋回により油圧ショベル1が作業領域60から逸脱する可能性があるときは,旋回中にフロント作業機1Aのリーチ長さを最大値に向かって増加した場合の目標旋回停止角度(修正旋回停止角度θrs)が演算されるとともに,旋回制動(旋回制動制御)を開始してから上部旋回体12が停止するまでに要する角度である予測旋回制動角度θpreの演算にフロント作業機1Aのリーチ長さと慣性モーメントが考慮されることとなる。このように構成することで,旋回制動制御中にオペレータによるフロント作業機1Aの操作を許容しつつ,作業領域60からの逸脱を防止することができる。仮に,常にフロント作業機1Aがフルリーチであると仮定して,予測旋回制動角度θpreと予測作業機リーチを演算した場合には,本実施形態でS105,106,107を通過した際に演算されるθpreと予測作業機リーチに比して大きな値をとるため,制御結果としては保守的になる。しかしながら,本実施形態では,現時刻のフロント作業機1Aの姿勢を基準に予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを逐次算出するため,実際に起こり得る妥当な条件のもとで,旋回制動制御を実行することができる。
【0076】
したがって,本実施形態によれば,旋回制動制御中にオペレータによるフロント作業機1Aの操作を許容しても,それによる不具合の発生(例えば,作業領域60からの逸脱や,オペレータの操作フィーリングの低下等)を防止できる。
【0077】
なお,図8のステップS102は,ステップS100でYESと判定された後に実行し,そこでYESと判定された後にステップS101を実行するようにフローチャートを構成しても良い。すなわち,図8においてステップS101とS102の順番の前後は交換可能である。ステップS101とS102の前後を入れ替えた場合,ステップS106は省略可能である。
【0078】
なお,図5に示すように油圧ショベル1が傾斜地にある場合,旋回動作は斜面の傾斜による重力の影響を受ける。この場合,図6に示す旋回制動挙動予測部102は,車体傾斜角センサ33(作業機姿勢演算部72)で検出される車体1B(上部旋回体12)の傾斜角θに基づいて,重力の影響を考慮して旋回制動制御時の予測される作業機のリーチであるRpre,予測される旋回制動角度であるθpreを算出し得る。具体的には,重力の影響の項(重力の影響項)をGとして,下記の運動方程式(式(6))を利用する。
【0079】
【数6】
【0080】
これにより,重力の影響を受ける場合であっても,精度よく旋回制動制御時の挙動を予測することが可能となる。
【0081】
<変形例>
上記の第1実施形態では,上部旋回体12の旋回中にオペレータがフロント作業機1Aの操作を実際に行うか否かに関わらず,オペレータの操作によってフロント作業機1Aのリーチが最大値に向かって増大する場面を想定した旋回制動について説明したが,以下に示すような方法でオペレータの操作を考慮しても良い。
【0082】
(1)オペレータが操作右レバー22aに触れていない場合
第1実施形態に係る油圧ショベル1は,図2に示すように,フロント作業機1Aを構成する3つのフロント部材(ブーム8,アーム9,バケット10)のうち2つのフロント部材であるブーム8及びバケット10を操作可能な操作右レバー22aと,3つのフロント部材から前記2つのフロント部材を除いた残りの1つのフロント部材であるアーム9と上部旋回体12とを操作可能な操作左レバー22bとを備えている。上部旋回体12の旋回時には,オペレータは,通常,操作左レバー22bを介して左手で旋回操作を入力し,フロント作業機1Aの操作が必要な場合は,この旋回操作に加えて他の操作を入力する。そのため,操作左レバー22bによる旋回操作中にオペレータが操作右レバー22aに触れていない場合には,ブーム8およびバケット10は動作しない。そこで,オペレータが操作右レバー22aに触れているか否かを検出可能な接触検知センサを操作右レバー22aに取り付け,そのセンサの出力信号に応じて図8のS105の予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreの演算内容を変更しても良い。具体的には,オペレータが操作右レバー22aに触れていると判定された場合には,図8のステップS105で既に説明した処理に基づいて予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを演算し(すなわち,作業機リーチが最大化することを想定して演算する),反対に,オペレータが操作右レバー22aに触れていないと判定された場合には,その時のフロント作業機1Aの姿勢からブーム8およびバケット10は動作しないものとし,アーム9の押し動作のみで作業機リーチが増加すると仮定して予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを演算するようにフローチャートを変更しても良い(すなわち,作業機リーチはアームダンプ動作だけで増加するものとして演算する)。
【0083】
(2)作業機リーチが小さくなる方向に操作レバー22a,22bが操作されている場合
オペレータの操作レバー22a,22bの操作によって作業機リーチが縮む方向へフロント作業機1Aが操作されている場合,オペレータが操作方向を作業機リーチが伸びる方向へ逆転させ,実際にアクチュエータが逆方向に動くまでに生じる遅れ時間を考慮して,図8のステップS105に示す旋回制動を開始し停止するまでの予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを算出するステップを演算してもよい。例えば操作左レバー22bが,オペレータによってアーム9の巻き込み方向(アームシリンダ6が伸長する方向)に操作されている場合,アクチュエータが逆方向に動く,つまりアーム9が伸長する方向(アームシリンダ6が収縮する方向)に動くまでに要する遅れを考慮して,ステップS105の演算を実施しても良い。
【0084】
(3)まとめ(図12図14
ここで上記(1)及び(2)の内容を反映させた第1実施形態の変形例に係る油圧ショベルについて説明する。図14は,本変形例に係る油圧ショベルの制御コントローラ40の機能ブロック図である。図14に示した接触検知センサ58は,オペレータが操作右レバー22aに触れているか否かを検出するためのセンサであり,操作右レバー22aに取り付けられている。接触検知センサ58は制御コントローラ40と電機的に接続されており,接触検知センサ58の検出信号は制御コントローラ40内の旋回制動挙動予測部102に出力されている。
【0085】
図12は,図14に示した制御コントローラ40が実行する処理のフローチャートの一部を示しており,図8のステップS105に対して,上記(1)及び(2)の内容を反映させたものとなっている。図12におけるステップS1051-S1057までの処理は図8のステップS105に代替する処理であり,ステップS1051の処理は図8のステップS101でNOと判定されたときに実行され,S1053-S1057のいずれかの処理が終了したら図8のステップS106に復帰するものとし,その他の処理は図8と同じであるとする。
【0086】
まず,ステップS1051において,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,接触検知センサ58からの信号に基づいて操作右レバー22aにオペレータが触れているか否かを判定する。操作右レバー22aにオペレータが触れていると判定された場合,ステップS1052へ進む。
【0087】
ステップS1052では,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,オペレータ操作検出装置53からの信号に基づいて,操作右レバー22aと操作左レバー22bの操作によりフロント作業機1Aのリーチが縮む方向に操作されているか否かを判定する。操作右レバー22aと操作左レバー22bによりフロント作業機1Aが縮む方向に操作されていると判定された場合,ステップS1053へ進む。
【0088】
ステップS1053では,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,縮み方向に操作されているアクチュエータが逆方向(伸び方向)に動くまでの遅れ時間を考慮した上で,旋回制動を開始し停止するまでの予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを算出する。すなわち,その遅れ時間の経過後に作業機リーチが最大値に向かって増加すると仮定して予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを算出する。
【0089】
ステップS1052で縮み方向に操作されていないと判定された場合,ステップS1054へ進み,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,図8のステップS105と同じ処理,すなわち,旋回制動を開始し停止するまでの予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを算出する。
【0090】
一方,ステップS1051で操作右レバー22aに触れていないと判定された場合,ステップS1055へ進む。
【0091】
ステップS1055では,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,オペレータ操作検出装置53からの信号に基づいて,操作左レバー22bがアーム9の縮む方向に操作されているか否かを判定する。縮む方向に操作されていると判定された場合,ステップS1056へ進む。
【0092】
ステップS1056では,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,ブーム8とバケット10は動かないとして,縮み方向に操作されているアーム9が逆方向(伸び方向)に動くまでの遅れを考慮して,旋回制動を開始し停止するまでの予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを算出する。すなわち,その遅れ時間の経過後に作業機リーチがアーム9のみの動作によって最大値(ただし,ブーム8とバケット10は同じ姿勢に保持したままでアーム操作のみによる最大値)に向かって増加する場合を想定して予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを算出する。
【0093】
ステップ1055で縮み方向に操作されていないと判定された場合,ステップS1057へ進む。
【0094】
ステップS1057では,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,ブーム8とバケット10は動かないとして,旋回制動を開始し停止するまでの予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを算出する。すなわち,作業機リーチがアーム9のみの動作によって最大値(ただし,ブーム8とバケット10は同じ姿勢に保持したままでアーム操作のみによる最大値)に向かって増加する場合を想定して予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを算出する。
【0095】
このように図8のフローチャートのステップS105を図12に示したS1051-1057に代替すると,予測作業機リーチと予測旋回制動角度θpreを過大に予測することを防ぐことができるので,第1実施形態と比較して,作業効率とオペレータの操作フィーリングが向上し得る。
【0096】
<第2実施形態>
本実施形態では,旋回動作によって,フロント作業機1Aではなく,上部旋回体12が作業領域60から逸脱し得る場面での旋回制動制御について説明する。ここでは,図7に示すように,旋回動作(右旋回)によって上部旋回体12の左側後端部12BLが作業領域60を逸脱するおそれがある場合の旋回制動制御についての例を示す。なお,第1実施形態と共通する部分は説明を省略することがある。
【0097】
図7において,旋回中心120から左側後端部12BLまでの長さをLus,フロント作業機長手方向(旋回角度がゼロの時はX軸と一致)から左側後端部12BLまでの角度をαusとすると,旋回中心120に対する上部旋回体12の左側後端部12BLのY軸方向の位置Yusは下記の式(7)のように表される。
【0098】
【数7】
【0099】
このとき,旋回中心120と作業領域境界61との距離をdとすると,目標旋回停止角度θusstopは,下記の式(8)で表される。
【0100】
【数8】
【0101】
本実施形態において旋回制動挙動予測部102は,式(4)(または式(6))において,慣性モーメントの項Jが現時点から最大値に向かって増加しつづけるようにフロント作業機1Aの姿勢を現時点から変化させることを仮定して旋回制動角度θpreを算出する。これは,式(4)(または式(6))から明らかなように,上部旋回体12の後端部と作業領域境界61の位置関係は,フロント作業機1Aの姿勢の影響を受けない。一方で,旋回制動角度θpreは,フロント作業機1Aの姿勢に依存する慣性モーメントの項Jの影響を受ける。そのため,本実施形態のような旋回動作による上部旋回体12の作業領域60からの逸脱を防止するためには,慣性モーメントの項Jの影響を考慮すればよい。この場合のフローチャートは図9に示すようになる。なお,本実施形態のフロント作業機1Aの姿勢の変化の算出にも,第1実施形態と同様に図11に示した相関図を利用することができる。
【0102】
図9は本実施形態の制御コントローラ40が実行する逸脱防止制御のフローチャートを示している。制御コントローラ40はオペレータの操作レバー22bによる旋回操作が実行されると図9のフローを開始する。但し,旋回中は所定の周期で図9のフローが繰り替えし実行される。なお,図8と同じ処理(ステップ)には同じ符号を付して説明を省略することがある。
【0103】
ステップS200において,制御コントローラ40(目標停止角度演算部101)は,旋回動作で上部旋回体12の後端部が作業領域60から逸脱するか否かを判定する。逸脱すると判定された場合にはステップS201へ進み,逸脱しないと判定された場合にはステップS110へ進む。
【0104】
ステップS201では,制御コントローラ40(目標停止角度演算部101)は,上記の式()を用いて目標旋回停止角度θusstopを算出する。その後,ステップS202へ進む。
【0105】
ステップS202では,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,現時点(ステップS202の演算時)において,フロント作業機1Aの姿勢によって定まる慣性モーメントJが最大となっているか否かを判定する。慣性モーメントJの最大値は予め演算されており,ここでは現時点での慣性モーメントJが当該最大値に達しているか否かが判定される。現時点でJが最大である場合にはステップS104へ進み,最大ではない場合にはステップS203へ進む。
【0106】
ステップS104では,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,現時点の作業機姿勢のまま(すなわち,慣性モーメントJを最大としたまま),旋回制動を開始してから上部旋回体12が停止するまでに要する角度である予測旋回制動角度θpreを算出し,それを旋回指令演算部104に出力する。その後ステップ108へ進む。
【0107】
ステップS203では,制御コントローラ40(旋回制動挙動予測部102)は,制動期間中に慣性モーメントJが最大値に向かって増加しつづけるようにフロント作業機1Aの姿勢を変化することを仮定して予測旋回制動角度θpreを演算し,その後ステップS108へ進む。
【0108】
ステップS100,S108,S109,S110の処理は第1実施形態と同一であるため説明は省略する。
【0109】
本実施形態では,第1実施形態とは異なり上部旋回体12の後端部の作業領域60が逸脱防止制御の対象であるため,フロント作業機1Aの姿勢によって目標旋回停止角度θusstopが変化しない。そのため,旋回制動制御時の挙動を予測して目標旋回停止角度θusstopを変更するステップ(図8のステップS107)は不要であり行われない。
【0110】
また,本実施形態と,第1実施形態とを組み合わせて,フロント作業機1Aと上部旋回体12のうちいずれが作業領域60を逸脱する可能性が高いかを判断し,フロント作業機1Aと上部旋回体12のうち作業領域60を逸脱する可能性が高いものを優先して旋回制動制御を実行する構成としても良い。すなわち,フロント作業機1Aの方が逸脱可能性が高い場合は図8のフローチャートを実行して旋回停止指令を出力するタイミングを決定し,上部旋回体12の方が逸脱可能性が高い場合は図9のフローチャートを実行して旋回停止指令を出力するタイミングを決定することとなる。なお,逸脱可能性の高さの判定は,例えば,ステップS108で先に目標旋回停止角度に達する方を逸脱可能性が高いと判断することができる。
【0111】
<第3実施形態>
ところで,バケット10内の積荷の重量は慣性モーメントJに影響を与える。そこで,本実施形態では,バケット10内の積荷の重量(荷重)を演算し,その荷重値に基づいて演算した慣性モーメントJを用いて制動期間中の上部旋回体12とフロント作業機1Aの動作を予測する場合について説明する。第1実施形態と共通する部分は説明を省略する。
【0112】
図10は,本実施形態に係る油圧ショベルの制御コントローラ40の機能ブロック図である。図6に示した第1実施形態の機能ブロック図に荷重算出部105が追加されている。
【0113】
荷重算出部105は,シリンダ圧力検出装置57と接続されている。シリンダ圧力検出装置57は,ブームシリンダ5のロッド部とボトム部に備えられた圧力センサから構成される。荷重算出部105は,フロント作業機1Aの姿勢と,シリンダ圧力検出装置57からのブームシリンダ5のロッド部とボトム部の差圧から,バケット10の積載物(積荷)の荷重を算出する。
【0114】
旋回制動挙動予測部102は,荷重算出部105の荷重算出結果に基づき,上記式(4)(または式(6))に示す慣性モーメントの項Jを算出する。さらにそれに基づき,第1実施形態と同様に,旋回制動制御時の予測される作業機のリーチであるRpre,予測される旋回制動角度であるθpreを算出する。
【0115】
例えば,バケット10に積載物がある場合,同じ姿勢で積載物がない場合と比較して,積載物の荷重の分,慣性モーメントが大きくなり,制動距離は長くなる。バケットの荷重を考慮することで,予測旋回制動角度θpreを精度良く推定することが可能となり,作業領域60からの逸脱をより確実に防止できる。
【0116】
なお,これまでに示した各実施形態において,オペレータによる操作レバー22の操作に応じてパイロット圧を出力する油圧レバーを備えた作業機械(油圧ショベル)を例として構成を説明してきたが,同様のレバー操作に応じて電気信号を出力する電気レバーを備えた作業機械にも,本発明は適用可能である。また,リーチとしてバケット10の先端を例として説明したが,バケット10の先端以外の部位(例えばバケット10の後端や,バケットシリンダ7のロッド側先端など)がリーチとして最大の値となる場合は,そのバケット10の先端以外の部位から目標旋回停止角度θstopを算出する構成としてもよい。
【0117】
また,上記では詳細な説明は省略したが,旋回制動制御が実行されていることを表示装置83の画面に表示してオペレータに通達する構成としても良い。
【0118】
なお,本発明は,上記の各実施の形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば,本発明は,上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず,その構成の一部を削除したものも含まれる。また,ある実施の形態に係る構成の一部を,他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0119】
また,上記の制御装置(制御コントローラ40)に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は,それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また,上記の制御装置に係る構成は,演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該制御装置の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は,例えば,半導体メモリ(フラッシュメモリ,SSD等),磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク,光ディスク等)等に記憶することができる。
【0120】
また,上記の各実施の形態の説明では,制御線や情報線は,当該実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが,必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0121】
1A…フロント作業機(作業機),1B…車体,8…ブーム,9…アーム,10…バケット(アタッチメント),12…上部旋回体,33…車体傾斜角センサ,40…制御コントローラ(制御装置),60…作業領域,θstop,θusstop…目標旋回停止角度,θpre…予測旋回制動角度,θrs…修正旋回停止角度,Rpre…フロント作業機のリーチ(作業機のリーチ長さ),22a…操作右レバー(第1操作レバー),22b…操作左レバー(第2操作レバー),58…接触検知センサ(センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14