(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】透明樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230221BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
B32B27/36 102
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2019079208
(22)【出願日】2019-04-18
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】平林 正樹
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049704(WO,A1)
【文献】特開2012-230354(JP,A)
【文献】特開平11-70747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/36
C08L 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で表されるビスフェノールAに由来する構造単位を主成分とするポリカーボネート系樹脂(A)を
主成分として含む層の少なくとも一方の面に、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を
主成分として含む層が積層されてなる樹脂積層体であって、
【化1】
前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)が、下記式[2]で表されるビスフェノールCに由来する構造単位(b1)を60~98重量%と、下記式[3]で表されるビスフェノールAP(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン)に由来する構造単位(b2)を2~40重量%とを含む、
【化2】
【化3】
前記樹脂積層体。
【請求項2】
前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)が、ポリマーアロイである、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)を
主成分として含む層の厚さが20~250μmであり、前記樹脂積層体の全体厚みが0.05~3.5mmの範囲である、請求項1または2に記載の樹脂積層体。
【請求項4】
前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)を
主成分として含む層および前記ポリカーボネート系樹脂(A)を
主成分として含む層の少なくとも一方が紫外線吸収剤を含有する、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂積層体。
【請求項5】
前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)を
主成分として含む層の表面にハードコート層をさらに備える、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂積層体。
【請求項6】
前記樹脂積層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理および防汚処理からなる群から選択されるいずれか一つ以上の処理が施されてなる、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂積層体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の樹脂積層体を含む透明基板材料。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の樹脂積層体を含む透明保護材料。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の樹脂積層体を含むタッチパネル前面保護板。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の樹脂積層体を含む、OA機器用または携帯電子機器用の前面板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な基板材料や保護材料に好適に使用され、ポリカーボネート系樹脂層と、特定のポリカーボネート樹脂層とを有する樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は表面硬度、透明性、耐擦傷性および耐候性などに優れる。一方、ポリカーボネート樹脂は耐衝撃性などに優れる。このことからアクリル樹脂層とポリカーボネート樹脂層とを有する積層体は、表面硬度、透明性、耐擦傷性、耐候性および耐衝撃性などに優れ、自動車部品、家電製品、電子機器および携帯型情報端末のディスプレイに用いられている。しかし、アクリル樹脂層とポリカーボネート樹脂層とを有する積層体は、高温高湿下である屋外や車中で使用される場合に、反りが発生する問題を抱えている。
【0003】
上記の問題を解決すべく、特許文献1(国際公開2014/061817号)ではビスフェノールC(2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン)に由来する構造単位とビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)に由来する構造単位とからなるポリカーボネート樹脂の表層や、ビスフェノールCに由来する構造単位からなるポリカーボネート樹脂の表層とビスフェノールAに由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂からなる層とを備える積層体が報告されている。かかる積層体は、85℃85%の高温高湿下で反りを抑えることが報告されている。
【0004】
しかしながら、ビスフェノールCに由来する構造単位とビスフェノールAに由来する構造単位とからなるポリカーボネート樹脂の表層とビスフェノールAに由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂からなる層とを備える積層体は、85℃85%の高温高湿下で反りを抑えられるが、ガラス転移温度が向上するものの、鉛筆硬度は低下する。
また、ビスフェノールCに由来する構造単位からなるポリカーボネート樹脂の表層とビスフェノールAに由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂からなる層とを備える積層体は、85℃85%の高温高湿下で反りを抑えられるが、ディスプレイの加工メーカーからは85℃85%の高温高湿下で反りを更に抑制することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透明な基板材料や保護材料に使用され、高温高湿下に曝されても耐反り変形性に優れ、且つ、鉛筆硬度が良好な樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の本発明により上記課題を解決できることを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
<1> 下記式[1]で表されるビスフェノールAに由来する構造単位を主成分とするポリカーボネート系樹脂(A)を含む層の少なくとも一方の面に、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層が積層されてなる樹脂積層体であって、
【化1】
前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)が、下記式[2]で表されるビスフェノールCに由来する構造単位(b1)を60~98重量%と、下記式[3]で表されるビスフェノールAP(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン)に由来する構造単位(b2)を2~40重量%とを含む、
【化2】
【化3】
前記樹脂積層体である。
<2> 前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)が、ポリマーアロイである、上記<1>に記載の樹脂積層体である。
<3> 前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の厚さが20~250μmであり、前記樹脂積層体の全体厚みが0.05~3.5mmの範囲である、上記<1>または<2>に記載の樹脂積層体である。
<4> 前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層および前記ポリカーボネート系樹脂(A)を含む層の少なくとも一方が紫外線吸収剤を含有する、上記<1>~<3>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<5> 前記変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の表面にハードコート層をさらに備える、上記<1>~<4>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<6> 前記樹脂積層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理および防汚処理からなる群から選択されるいずれか一つ以上の処理が施されてなる、上記<1>~<5>のいずれかに記載の樹脂積層体である。
<7> 上記<1>~<6>のいずれかに記載の樹脂積層体を含む透明基板材料である。
<8> 上記<1>~<6>のいずれかに記載の樹脂積層体を含む透明保護材料である。
<9> 上記<1>~<6>のいずれかに記載の樹脂積層体を含むタッチパネル前面保護板である。
<10> 上記<1>~<6>のいずれかに記載の樹脂積層体を含む、OA機器用または携帯電子機器用の前面板である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温高湿下に曝されても耐反り変形性に優れ、且つ、鉛筆硬度が良好な樹脂積層体が提供され、該樹脂積層体は透明基板材料や透明保護材料として用いることができる。具体的には携帯電話端末、携帯型電子遊具、携帯情報端末、モバイルPCといった携帯型のディスプレイデバイスや、ノート型PC、デスクトップ型PC液晶モニター、液晶テレビといった設置型のディスプレイデバイスなどにおいて、例えばこれらの機器を保護する前面板として、好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について製造例や実施例等を例示して詳細に説明するが、本発明は例示される製造例や実施例等に限定されるものではなく、本発明の内容を大きく逸脱しない範囲であれば任意の方法に変更して行うこともできる。
【0010】
<ポリカーボネート系樹脂(A)>
本発明におけるポリカーボネート系樹脂(A)を含む層に使用されるポリカーボネート系樹脂(A)は、下記式[1]で表されるビスフェノールAに由来する構造単位を主成分とするポリカーボネート系樹脂(A)である。
ここで、「ビスフェノールAに由来する構造単位を主成分とする」とは、ビスフェノールAに由来する構造単位が50重量%を超えることを意味する。ポリカーボネート系樹脂(A)は、ビスフェノールAに由来する構造単位が75質量%以上を含んでいるのが好ましく、ビスフェノールAに由来する構造単位が90質量%以上を含んでいるのがより好ましい。ビスフェノールAに由来する構造単位を増やすことで耐衝撃性に優れた樹脂積層体を得ることができる。
【化4】
具体的には、ポリカーボネート系樹脂(A)として、例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社から市販されている、ユーピロンS-2000、ユーピロンS-1000、ユーピロンE-2000等が使用可能である。
【0011】
近年、前面板にも曲げ加工を行うような要望が増えていることから、ポリカーボネート系樹脂(A)は、下記一般式[4]で表わされる1価フェノールを末端停止剤として用いて合成することが好ましい。
【化5】
(式中、R
1は、炭素数8~36のアルキル基、又は炭素数8~36のアルケニル基を表し、
R
2~R
5はそれぞれ水素、ハロゲン、又は置換基を有してもよい炭素数1~20のアルキル基若しくは炭素数6~12のアリール基を表し、置換基は、ハロゲン、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基である。)
【0012】
一般式[4]の1価フェノールは、下記一般式[5]で表わされる1価フェノールであることがより好ましい。
【化6】
(式中、R
1は、炭素数8~36のアルキル基、又は、炭素数8~36のアルケニル基を表す。)
【0013】
一般式[4]又は一般式[5]におけるR1の炭素数は特定の数値範囲内であることがより好ましい。具体的には、R1の炭素数の上限値として36が好ましく、22がより好ましく、18が特に好ましい。また、R1の炭素数の下限値として、8が好ましく、12がより好ましい。
【0014】
一般式[4]又は一般式[5]で示される1価フェノール(末端停止剤)の中でも、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル、パラヒドロキシ安息香酸2-ヘキシルデシルエステルのいずれかもしくは両方を末端停止剤として使用することが特に好ましい。
【0015】
R1として、例えば、炭素数16のアルキル基を有する1価フェノール(末端停止剤)を使用した場合、ガラス転移温度、溶融流動性、成形性、耐ドローダウン性、ポリカーボネート樹脂製造時の1価フェノールの溶剤溶解性が優れており、本発明に用いるポリカーボネート樹脂に使用する末端停止剤として、特に好ましい。
【0016】
一方、一般式[4]又は一般式[5]におけるR1の炭素数が増加しすぎると、1価フェノール(末端停止剤)の有機溶剤溶解性が低下する傾向があり、ポリカーボネート樹脂製造時の生産性が低下することがある。
一例として、R1の炭素数が36以下であれば、ポリカーボネート樹脂を製造するにあたって生産性が高く、経済性も良い。R1の炭素数が22以下であれば、1価フェノールは、特に有機溶剤溶解性に優れており、ポリカーボネート樹脂を製造するにあたって生産性を非常に高くすることができ、経済性も向上する。
一般式[4]又は一般式[5]におけるR1の炭素数が小さすぎると、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が十分に低い値とはならず、熱成形性が低下することがある。
【0017】
ポリカーボネート系樹脂(A)を含む層に含まれる他の樹脂としては、ポリエステル系樹脂がある。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸を主成分として含んでいればよく、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分を含んでいてもよい。例えば、主成分であるエチレングリコール80~60(モル比率)に対して1,4-シクロヘキサンジメタノールを20~40(モル比率、合計100)含むグリコール成分とが重縮合してなるポリエステル系樹脂、所謂「PETG」が好ましい。また、ポリカーボネート系樹脂(A)を含む層には、エステル結合とカーボネート結合をポリマー骨格中に有するポリエステルカーボネート系樹脂が含まれていてもよい。
【0018】
本発明において、ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量は、樹脂積層体の耐衝撃性および成形条件に影響する。つまり、重量平均分子量が小さすぎる場合は、樹脂積層体の耐衝撃性が低下するので好ましくない。重量平均分子量が高すぎる場合は、ポリカーボネート系樹脂(A)を含む層を積層させる時に過剰な熱源を必要とする場合があり、好ましくない。また成形法によっては高い温度が必要になるので、ポリカーボネート系樹脂(A)が高温にさらされることになり、その熱安定性に悪影響を及ぼすことがある。ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量は、15,000~75,000が好ましく、20,000~70,000がより好ましい。さらに好ましくは25,000~65,000である。
【0019】
<ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量の測定法>
ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量は、特開2007-179018号公報の段落0061~0064の記載に基づいて測定することができる。測定法の詳細を以下に示す。
[重量平均分子量の測定条件]
装置 Waters社製「Aliance」
カラム 昭和電工製「Shodex K-805L」(2本)
検出器 UV検出器:254nm
溶離液 クロロホルム
【0020】
標準ポリマーとしてポリスチレン(PS)を使用して測定を行った後、ユニバーサルキャリブレーション法により、溶出時間とポリカーボネート(PC)の分子量との関係を求めて検量線とする。そして、PCの溶出曲線(クロマトグラム)を検量線の場合と同一の条件で測定し、溶出時間(分子量)とその溶出時間のピーク面積(分子数)とから各平均分子量を求める。分子量Miの分子数をNiとすると、重量平均分子量は、以下のように表される。また換算式は以下の式を使用した。
(重量平均分子量)
Mw=Σ(NiMi2)/Σ(NiMi)
(換算式)
MPC=0.47822MPS1.01470
なお、MPCはPCの分子量、MPSはPSの分子量を示す。
【0021】
本発明に使用されるポリカーボネート系樹脂(A)の製造方法は、公知のホスゲン法(界面重合法)、エステル交換法(溶融法)等、使用するモノマーにより適宜選択できる。
【0022】
<変性ポリカーボネート系樹脂(B)>
本発明に使用される変性ポリカーボネート系樹脂(B)は、ビスフェノールCに由来する構造単位(b1)と、ビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)とを含むが、それぞれの構成要素について以下に説明する。
【0023】
<ビスフェノールCに由来する構造単位(b1)>
ビスフェノールCに由来する構造単位(b1)は、下記式[2]で表わされるビスフェノールCに由来する構造単位である。
【化7】
【0024】
<ビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)>
ビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)は、下記式[3]で表わされるビスフェノールAPに由来する構造単位である。
【化8】
【0025】
本発明に使用される変性ポリカーボネート系樹脂(B)は、ビスフェノールCに由来する構造単位(b1)を60~98重量%、好ましくは70~95重量%、より好ましくは80~90重量%含み、ビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)を2~40重量%、好ましくは5~30重量%、より好ましくは10~20重量%含んでいる。また、その他カルボニル基を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を0~10重量%を含んでもよい。
本発明に使用される変性ポリカーボネート系樹脂(B)は、ポリマーアロイであることが、狙い通りの構造単位割合を有する樹脂を得る観点から好ましい。
【0026】
上記ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシフェニルエーテル等が挙げられる。
【0027】
変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層は、他の樹脂を含んでもよい。
他の樹脂としては、芳香族(メタ)アクリレート単量体単位5~80質量%およびメチルメタクリレート単量体単位95~20質量%からなるアクリル系共重合体がある。ここで、芳香族(メタ)アクリレート単量体単位としては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが例示できる。例えば、フェニルメタクリレート34質量%とメチルメタクリレート66質量%の共重合体である所謂「三菱レイヨン(株)製のメタブレン(MATABLEN)H-880」が好ましい。
【0028】
本発明において、変性ポリカーボネート系樹脂(B)の重量平均分子量は、樹脂積層体の耐衝撃性および成形条件に影響する。つまり、重量平均分子量が小さすぎる場合は、樹脂積層体の耐衝撃性が低下するので好ましくない。重量平均分子量が高すぎる場合は、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層を積層させる時に過剰な熱源を必要とする場合があり、好ましくない。また成形法によっては高い温度が必要になるので、変性ポリカーボネート系樹脂(B)が高温にさらされることになり、その熱安定性に悪影響を及ぼすことがある。変性ポリカーボネート系樹脂(B)の重量平均分子量は、5,000~60,000が好ましく、8,000~55,000がより好ましい。さらに好ましくは10,000~50,000である。
【0029】
<変性ポリカーボネート系樹脂(B)の重量平均分子量の測定法>
変性ポリカーボネート系樹脂(B)の重量平均分子量は、上述した<ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量の測定法>と同様の方法に基づいて測定することができる。
【0030】
本発明に使用される変性ポリカーボネート系樹脂(B)の製造方法には特に制限はなく、ビスフェノールCに由来する構造単位(b1)とビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)とを公知のホスゲン法(界面重合法)、エステル交換法(溶融法)等で合成するといった公知の方法や、ビスフェノールCに由来する構造単位(b1)を有するポリカーボネート樹脂とビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)を有するポリカーボネート樹脂とを、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの混合機を用いて予め混合しておき、その後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダーなどの機械で溶融混練するといった公知の方法が適用できる。
【0031】
<樹脂積層体>
本発明において、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の厚さは、樹脂積層体の表面硬度やコストに影響する。つまり、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の厚さが薄すぎると表面硬度が低くなり好ましくない。変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の厚さが大きすぎるとコスト高になり好ましくない。変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の厚さは20~250μmが好ましく、30~200μmがより好ましい。さらに好ましくは60~150μmである。
【0032】
本発明において、樹脂積層体(シート)の全体厚さと変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の厚さが、樹脂積層体の耐衝撃性に影響する。つまり、全体厚さが薄く、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の厚さが相対的に厚くなると耐衝撃性は悪くなり、全体厚さが厚く、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の厚さが相対的に薄くなると耐衝撃性は良くなる傾向がある。具体的には、ポリカーボネート系樹脂(A)を含む層と変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の合計厚みは、好ましくは0.05~3.5mm、より好ましくは0.1~3.0mm、さらに好ましくは0.12~2.5mmである。ポリカーボネート系樹脂(A)を含む層と変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層との合計厚みに対する変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の割合は、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、さらに好ましくは30%未満である。
【0033】
<任意の添加剤>
本発明において、基材層を形成するポリカーボネート系樹脂(A)および/または表層を形成する変性ポリカーボネート系樹脂(B)には、上述の主たる成分以外の成分を含めることができる。
【0034】
例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)および/または変性ポリカーボネート系樹脂(B)には、紫外線吸収剤を混合して使用することができる。紫外線吸収剤の含有量が多過ぎると、成形法によっては過剰な紫外線吸収剤が高い温度がかかることによって飛散し、成形環境を汚染するため不具合を起こすことがある。このことから紫外線吸収剤の含有割合は0~5質量%が好ましく、0~3質量%がより好ましく、さらに好ましくは0~1質量%である。紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;サリチル酸フェニル、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤;ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケートなどのヒンダードアミン系紫外線吸収剤;2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジンなどのトリアジン系紫外線吸収剤、2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]エチルメタクリレート、2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]エチルアクリレート、3-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]プロピルメタクリレート、3-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]プロピルアクリレート、4-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]ブチルメタクリレート、4-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル]ブチルアクリレート、2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イルオキシ]エチルメタクリレート、2-[2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イルオキシ]エチルアクリレート、2-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]エチルメタクリレート、2-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]エチルアクリレート、4-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]ブチルメタクリレート、4-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]ブチルアクリレート、2-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]エチルメタクリレート、2-[3-{2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-イル}プロパノイルオキシ]エチルアクリレート、2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5カルボキシレート、2-(アクリロイルオキシ)エチル2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレート、4-(メタクリロイルオキシ)ブチル2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレート、4-(アクリロイルオキシ)ブチル2-(6-ヒドロキシベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレート等などのセサモール型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などが挙げられる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0035】
本発明において、基材層を形成するポリカーボネート系樹脂(A)および/または表層を形成する変性ポリカーボネート系樹脂(B)には、上記紫外線吸収剤以外にも、各種添加剤を混合して使用することができる。そのような添加剤としては、例えば、抗酸化剤や抗着色剤、抗帯電剤、離型剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、樹脂改質剤、相溶化剤、有機フィラーや無機フィラーといった強化材などが挙げられる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0036】
<任意の処理>
本発明において、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の表面、またはポリカーボネート系樹脂(A)を含む層の表面にハードコート処理を施してもよい。例えば、熱エネルギーおよび/または光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料を用いるハードコート処理によりハードコート層を形成する。熱エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、ポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などの熱硬化性樹脂組成物が挙げられる。また、光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、1官能および/または多官能であるアクリレートモノマーおよび/またはオリゴマーからなる樹脂組成物に光重合開始剤が加えられた光硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0037】
本発明における変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の表面、またはポリカーボネート系樹脂(A)を含む層の表面上に施す、光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、1,9-ノナンジオールジアクリレート20~60質量%と、1,9-ノナンジオールジアクリレートと共重合可能な2官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーならびに2官能以上の多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーおよび/または2官能以上の多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーおよび/または2官能以上の多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる化合物40~80質量%とからなる樹脂組成物の100質量部に、光重合開始剤が1~10質量部添加された光硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0038】
本発明におけるハードコート塗料を塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、メニスカスコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビートコート法、捌け法などが挙げられる。
【0039】
ハードコートの密着性を向上させる目的で、ハードコート前に塗布面の前処理を行うことがある。処理例として、サンドブラスト法、溶剤処理法、コロナ放電処理法、クロム酸処理法、火炎処理法、熱風処理法、オゾン処理法、紫外線処理法、樹脂組成物によるプライマー処理法などの公知の方法が挙げられる。
【0040】
本発明におけるポリカーボネート系樹脂(A)を含む層、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層及びハードコート層の各材料、例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)および変性ポリカーボネート系樹脂(B)等は、フィルター処理によりろ過精製されることが好ましい。フィルターを通して生成あるいは積層することにより異物や欠点といった外観不良が少ない樹脂積層体を得ることができる。ろ過方法に特に制限はなく、溶融ろ過、溶液ろ過、あるいはその組み合わせ等を使うことができる。
【0041】
使用するフィルターに特に制限はなく、公知のものが使用でき、各材料の使用温度、粘度、ろ過精度により適宜選ばれる。フィルターの濾材としては、特に限定されないが、ポリプロピレン、コットン、ポリエステル、ビスコースレイヨンやグラスファイバーの不織布あるいはロービングヤーン巻物、フェノール樹脂含浸セルロース、金属繊維不織布焼結体、金属粉末焼結体、ブレーカープレート、あるいはこれらの組み合わせなど、いずれも使用可能である。特に耐熱性や耐久性、耐圧力性を考えると金属繊維不織布を焼結したタイプが好ましい。
【0042】
ろ過精度は、ポリカーボネート系樹脂(A)と変性ポリカーボネート系樹脂(B)については、50μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。また、ハードコート剤のろ過精度は、樹脂積層体の最表層に塗布されることから、20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0043】
ポリカーボネート系樹脂(A)と変性ポリカーボネート系樹脂(B)のろ過については、例えば熱可塑性樹脂溶融ろ過に用いられているポリマーフィルターを使うことが好ましい。ポリマーフィルターは、その構造によりリーフディスクフィルター、キャンドルフィルター、パックディスクフィルター、円筒型フィルターなどに分類されるが、特に有効ろ過面積が大きいリーフディスクフィルターが好適である。
【0044】
本発明の樹脂積層体には、その片面または両面に耐指紋処理、反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理のいずれか一つ以上を施すことができる。反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、反射低減塗料を塗布する方法、誘電体薄膜を蒸着する方法、帯電防止塗料を塗布する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0046】
実施例および比較例で得られた樹脂積層体の評価は以下のように行った。
【0047】
<高温高湿環境下の反り試験>
樹脂積層体の中央付近から縦10cm、横6cmの試験片を切り出した。試験片を2点支持型のホルダーにセットして温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機に24時間以上投入して状態調整した後、反りを測定した。このときの値を処理前反り量の値とした。次に試験片をホルダーにセットして温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に投入し、その状態で120時間保持した。さらに温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機の中にホルダーごと移動し、その状態で4時間保持後に再度反りを測定した。このときの値を処理後反り量の値とした。反りの測定には、電動ステージ具備の3次元形状測定機を使用し、取り出した試験片を上に凸の状態で水平に静置し、1mm間隔でスキャンし、中央部の盛り上がりを反りとして計測した。処理前後の反り量の差、すなわち、(処理後反り量)-(処理前反り量)を反り変化量として評価した。その際、変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層側が凸の場合は「-」符号、ポリカーボネート系樹脂(A)を含む層側が凸の場合は「+」符号で評価した。
【0048】
<鉛筆引っかき硬度試験>
JIS K 5600-5-4に準拠し、樹脂積層体の中央付近の変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の表面に対して角度45度、荷重750gで変性ポリカーボネート系樹脂(B)を含む層の表面に次第に硬度を増して鉛筆を押し付け、傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度として評価した。
【0049】
<全光線透過率測定>
反射・透過率計HR-100型(株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて樹脂積層体の全光線透過率をJIS K7361-1に準じて評価した。
【0050】
<Haze測定>
反射・透過率計HR-100型(株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて樹脂積層体のHazeをJIS K7136に準じて評価した。
【0051】
<ポリカーボネート系樹脂(A-1)及びビスフェノールCに由来する構造単位(b1)を有するポリカーボネート系樹脂(b1-1)>
ポリカーボネート系樹脂(A-1)及びビスフェノールCに由来する構造単位(b1)を有するポリカーボネート系樹脂(b1-1)として、下記に示す材料を使用したが、これらに限定されるわけではない。
ポリカーボネート系樹脂(A-1):三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ユーピロンE-2000(ビスフェノールAに由来する構造単位:100重量%、重量平均分子量:34,000、ガラス転移温度:147℃)
ビスフェノールCに由来する構造単位(b1)を有するポリカーボネート系樹脂(b1-1):三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ユーピロンKS3412UR 7533NS(ビスフェノールCに由来する構造単位:98重量%以上、重量平均分子量:34,000、ガラス転移温度:116℃)
【0052】
<ビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)を有するポリカーボネート系樹脂(b2-1)の製造例>
100リットル反応容器に、8.0質量/質量%の水酸化ナトリウム水溶液34リットルを加え、ビスフェノールAP5.8kg(本州化学工業株式会社製、20mol)とハイドロサルファイト10gを加え溶解した。これにジクロロメタン22リットルを加え、15℃に保ちながら撹拌しつつ、ホスゲン2.6kgを30分かけて吹き込んだ。
吹き込み終了後、1分間激しく撹拌して反応液を乳化させ、p-ターシャルブチルフェノール150g(1.00mol)を加え、さらに10分間撹拌後、20mlのトリエチルアミンを加え、さらに50分撹拌を継続し重合させた。
重合液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返し、精製した重合樹脂液を得た。得られた樹脂液濃度をジクロロメタンで希釈し10.0質量/質量%に調整した。得られた樹脂液の内、5kgを45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、ビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)を有するポリカーボネート系樹脂(b2-1)の粉末を得た。(ビスフェノールAPに由来する構造単位:100重量%、重量平均分子量:14,000、ガラス転移温度:170℃)
【0053】
製造例1〔樹脂ペレット(B-1)の製造〕
上記のユーピロンKS3412UR 7533NS(b1-1)を89質量部と、上記のビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)を有するポリカーボネート系樹脂(b2-1)を11質量部との合計100質量部に対して、リン系添加剤PEP-36(株式会社ADEKA製)500ppm、およびステアリン酸モノグリセリド(製品名:H-100、理研ビタミン株式会社製)0.2質量部を加え、ブレンダーで20分混合後、スクリュー径26mmの2軸押出機(東芝機械株式会社製、TEM-26SS、L/D≒40)を用い、シリンダー温度270℃で溶融混錬して、ストランド状に押出してペレタイザーでペレット化した。ペレットは安定して製造できた。(重量平均分子量:33,000、ガラス転移温度:120℃)
【0054】
製造例2〔樹脂ペレット(B-2)の製造〕
上記のユーピロンKS3412UR 7533NS(b1-1)を82質量部と、上記のビスフェノールAPに由来する構造単位(b2)を有するポリカーボネート系樹脂(b2-1)を18質量部との合計100質量部に対して、リン系添加剤PEP-36(株式会社ADEKA製)500ppm、およびステアリン酸モノグリセリド(製品名:H-100、理研ビタミン株式会社製)0.2質量部を加え、製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。(重量平均分子量:31,000、ガラス転移温度:121℃)
【0055】
比較製造例1〔樹脂ペレット(C-1)の製造〕
上記のユーピロンKS3412UR 7533NS(b1-1)の100質量部に対して、リン系添加剤PEP36(株式会社ADEKA製)500ppm、およびステアリン酸モノグリセリド(製品名:H-100、理研ビタミン株式会社製)0.2質量部を加え、製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。
【0056】
実施例1〔樹脂積層体(D-1)の製造〕
軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結されたTダイとを有する多層押出機に各押出機と連結したマルチマニホールドダイとを有する多層押出装置を用いて樹脂積層体を成形した。軸径32mmの単軸押出機に製造例1で得た樹脂(B-1)を連続的に導入し、シリンダー温度270℃、吐出量を2.4kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機にポリカーボネート系樹脂(A-1)を連続的に導入し、シリンダー温度280℃、吐出量を30.0kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備え、温度270℃にして樹脂(B-1)と樹脂(A-1)を導入し積層した。その先に連結された温度270℃のTダイでシート状に押し出し、上流側から温度130℃、140℃、180℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、樹脂(B-1)と樹脂(A-1)との樹脂積層体(D-1)を得た。得られた樹脂積層体(D-1)の全体厚みは中央付近で1000μm、樹脂(B-1)から成る層の厚みは中央付近で75μmであった。高温高湿環境下の反り変化量は-146μm、鉛筆引っかき硬度試験の結果はH、全光線透過率は90.3%、Hazeは0.3%であった。
【0057】
実施例2〔樹脂積層体(D-2)の製造〕
樹脂(B-1)の代わりに樹脂(B-2)を使用した以外は、実施例1と同様にして樹脂(B-2)と樹脂(A-1)との樹脂積層体(D-2)を得た。得られた樹脂積層体(D-2)の全体厚みは中央付近で1000μm、樹脂(B-2)から成る層の厚みは中央付近で75μmであった。高温高湿環境下の反り変化量は-66μm、鉛筆引っかき硬度試験の結果はH、全光線透過率は90.3%、Hazeは0.3%であった。
【0058】
比較例1〔樹脂積層体(E-1)の製造〕
樹脂(B-1)の代わりに樹脂(C-1)を使用した以外は、実施例1と同様にして樹脂(C-1)と樹脂(A-1)との樹脂積層体(E-1)を得た。得られた樹脂積層体(E-1)の全体厚みは中央付近で1000μm、樹脂(C-1)から成る層の厚みは中央付近で75μmであった。高温高湿環境下の反り変化量は-209μm、鉛筆引っかき硬度試験の結果はH、全光線透過率は90.3%、Hazeは0.3%であった。
【表1】
【0059】
以上のように、本発明の条件を満たす樹脂積層体とすることで、高温高湿下に曝されても耐反り変形性に優れ、且つ、鉛筆硬度が良好な樹脂積層体にすることができるという有利な効果を奏する。
即ち、ビスフェノールC単量体単位(b1-1)とビスフェノールAP単量体単位(b2-1)とを含む変性ポリカーボネート系樹脂(B)を使用した実施例1及び実施例2の樹脂積層体と、ビスフェノールC単量体単位(b1-1)のみを使用した比較例1の樹脂積層体とを比較すると、実施例1及び実施例2の樹脂積層体の方が高温高湿環境下の反り変化量が小さかった。また、実施例1及び実施例2と比較例1は同じ鉛筆硬度であった。
【0060】
以上のように、高温高湿下に曝されても耐反り変形性に優れ、且つ、鉛筆硬度が良好な樹脂積層体は、ガラスの代替品として、透明基材材料や透明保護材料などとして好適に用いられ、特にタッチパネル前面保護板、OA機器用または携帯電子機器用の前面板として好適に用いることができる。