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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】ド・ディオンアクスル構造
(51)【国際特許分類】
   B60G 9/04 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
B60G9/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019142692
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021024385
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真
(72)【発明者】
【氏名】田島 史渉
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-010970(JP,A)
【文献】特開2009-220690(JP,A)
【文献】実開昭54-083102(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部の間に、ド・ディオンチューブ部が架け渡されたド・ディオンアクスル構造であって、
前記ド・ディオンチューブ部の両端部に設けられたチューブフランジと、前記サスペンション取付部に設けられたサスペンションフランジと、該サスペンションフランジに設けられた凸部または凹部からなる嵌合部と、前記チューブフランジに設けられた凹部または凸部からなる被嵌合部とを備え、前記嵌合部および前記被嵌合部が、断面楕円形状、楕円の一部を切除した形状、円の一部を切除した形状または陸上トラック形状であり、前記嵌合部および前記被嵌合部の先端に、面取り形状、アール形状またはテーパー形状からなるガイド部が形成され、
前記チューブフランジおよび前記サスペンションフランジに貫通形成されたボルト挿通孔にボルトを挿通してナットを螺合させ、前記チューブフランジと前記サスペンションフランジとが密着して前記嵌合部が前記被嵌合部に嵌合されたとき、前記ボルト挿通孔と前記ボルトの軸部とのクリアランスよりも、前記嵌合部と前記被嵌合部とのクリアランスが小さい、ことを特徴とするド・ディオンアクスル構造。
【請求項2】
前記ド・ディオンチューブ部が、平面視で後方に湾曲した形状であり、
斯かるド・ディオンチューブ部の両端部に夫々設けられた前記チューブフランジが、平面視で斜め前方に向いた形状であり、
これらチューブフランジに密着される前記サスペンションフランジが、平面視で斜め後方に向いた形状である、ことを特徴とする請求項1に記載のド・ディオンアクスル構造。
【請求項3】
前記ド・ディオンチューブ部が、上下方向に長い断面楕円形状であり、
前記嵌合部および前記被嵌合部が、上下方向に長い断面楕円形状、その楕円の左右側部を切除した形状、円の左右側部を切除した形状または上下方向に長い陸上トラック形状である、ことを特徴とする請求項1または2に記載のド・ディオンアクスル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部の間に、ド・ディオンチューブ部が架け渡されたド・ディオンアクスル構造に係り、特に、ド・ディオンチューブ部をサスペンション取付部に対して容易に精度よく連結切り離しできるド・ディオンアクスル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ド・ディオンアクスル構造とは、所謂バネ下重量を軽減するため、デファレンシャル機構をアクスルハウジングから切り離して車体側に架装したアクスル構造であり、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部と、これらサスペンション取付部の間に架け渡されたド・ディオンチューブ部とを備えている(特許文献1参照)。
【0003】
図1に、本発明者が開発中のド・ディオンアクスル構造1を示す。このド・ディオンアクスル構造1は、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部2と、これらサスペンション取付部2の間に架け渡されたド・ディオンチューブ部3とを備えており、サスペンション取付部2とド・ディオンチューブ部3とが、車両搭載時または点検整備時に分割可能なように、ボルト4、ナット5によって連結切り離し自在となっている。すなわち、サスペンション取付部2に設けられたサスペンションフランジ2aとド・ディオンチューブ部3に設けられたチューブフランジ3aとが、複数のボルト4、ナット5によって連結切り離し自在に締結されている。
【0004】
図2に、ド・ディオンアクスル構造1を車体フレーム6に取り付けた様子を示す。図示するように、サスペンション取付部2には、Uボルト7によってリーフスプリング8の中央部が取り付けられており、リーフスプリング8の両端部が、ピボット9、シャックル10を介して車体フレーム6に取り付けられている。また、サスペンション取付部2には、車輪のハブを取り付けるためのスピンドル2bが設けられており、デファレンシャル機構11から延出された駆動用シャフト12が挿通されている。
【0005】
デファレンシャル機構11には、車体側に固定されたモーター13から駆動力が供給されるようになっている。なお、モーター13の代わりに、エンジンの駆動力がプロペラシャフトを介してデファレンシャル機構1に供給されるようになっていてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-49353号公報
【文献】特開2017-7527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ド・ディオンアクスル構造1は、車体フレーム6に対する車輪の取付位置を定めるものであるため、適正な車両姿勢を確保するためには、高い組立精度が要求される。図1に示すド・ディオンアクスル構造1においては、サスペンション取付部2とド・ディオンチューブ部3とがボルト4、ナット5によって連結切り離し自在となっているため、連結時に高い連結精度が要求される。要求精度としては、例えば、左右のスピンドル2bの長手軸相互の平行度(ズレ量0.1mm以下)、左右のサスペンション取付部2のサス取付座2eのサス取付角度の左右相対角度(20’(分)以下)、程度が要求される。
【0008】
通常、ボルト4とナット5で締結する場合、ボルト孔のボルト軸部に対するクリアランス(通常0.5mm程度)によって連結部に軸ズレが発生する。従って、ボルト4、ナット5で連結されるサスペンション取付部2とド・ディオンチューブ部3との連結精度を、上述の要求精度まで高めることは困難である。ボルト締結での軸ズレを回避する方法としては、「だぼ」や「ほぞ」等の位置決め部材を用いる方式、または、リーマボルト等を用いてクリアランスを無くす方式等が考えられる。
【0009】
「だぼ」等の位置決め部材を用いる方式の場合、組付前のサスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとの間隔を「だぼ」の繋ぎ凸部以上に広くとり、且つ、「だぼ」の繋ぎ凸部と「だぼ穴」を連結方向に沿って正確に位置を定める必要がある。加えて、「だぼ」が「だぼ穴」に対して傾いていると差し込むことができないため、締結用の複数のボルト4およびナット5を少しずつ均等に締めてサスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとを平行に近接移動させなければ適切に連結できない。
【0010】
ここで、図2に示すように、車体に搭載済みのド・ディオンアクスル構造1を整備のためにサスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとの連結部分で分解してド・ディオンチューブ部3を切り離し、再度、組み付ける場合の問題点を考える。切り離す前、チューブフランジ3aとサスペンションフランジ2aとは接している状態であり、この状態から例えばフランジ3aに設けた「だぼ」をフランジ2aに設けた「だぼ穴」から引き抜くためには、両フランジ2a、3a同士を「だぼ穴」の軸方向に沿って「だぼ」の繋ぎ凸部の高さ以上に離間させなければならない。
【0011】
しかし、左右のサスペンション取付部2は、リーフスプリング8を介して車体フレーム6に固定され、サスペンション取付部2の内部には車体側に装着されたディファレンシャル機構11から延出された駆動用シャフト12が組み込まれているため、サスペンションフランジ2aを大きく動かすことができない。リーフスプリング8のUボルト7のナットを緩めることでサスペンションフランジ2aの動きはやや大きくなるが、「だぼ」の繋ぎ凸部の高さ以上に「だぼ穴」の軸方向に沿って正確に動かすことは困難であり、ド・ディオンチューブ部3を取り外すことは難しい。
【0012】
また、仮にド・ディオンチューブ部3を取り外せたとしても、一旦取り外したド・ディオンチューブ部3を再度組み付ける際、「だぼ」と「だぼ穴」とを正規の位置に合わせて、サスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとを相対的に「だぼ穴」の軸方向に沿って正確に動かすことは非常に困難である。従って、位置決め部材方式、すなわち、「だぼ」と「だぼ穴」を用い、締結方向に平行に正確に穴位置を合わせて、ド・ディオンチューブ部3をサスペンション取付部2に脱着する作業は実際には困難を極める。
【0013】
一方、リーマボルトを用いる芯だし方式では、ボルト孔を正確な位置に合わせておかなければリーマボルト自体がボルト孔を通らず締め付けができない。すなわち、一般に精度出しに有効に用いられている、「だぼ」や「ほぞ」等の位置決め部材を用いる方式、リーマボルト等を用いてボルト孔とのクリアランスを無くす方式のどちらの方式も、締結部材を自由に動かせない分割式のド・ディオンアクスル構造のボルト締結には適していない。
【0014】
なお、特許文献2には、車輪を位置決めする円筒状のインロー部を有するハブユニットが開示されている。インロー部を設けることで結合部材である車輪の中心軸をハブの中心に合わせることができるが、単なるインロー継ぎ手であるため、回転方向の位置を合わせることができない。従って、分割式のド・ディオンアクスル構造のボルト締結に適用しても、サスペンション取付角度の左右差の精度確保ができない。
【0015】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、車両搭載時または点検整備時等に、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部の間にド・ディオンチューブ部を着脱する際、着脱部材を大きく動かせない場合であっても、ド・ディオンチューブ部をサスペンション取付部から容易に取り外すことができ、取り外したド・ディオンチューブ部をサスペンション取付部に中心軸および周方向位置を高精度に合わせて容易に装着できるド・ディオンアクスル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成すべく創案された本発明によれば、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部の間に、ド・ディオンチューブ部が架け渡されたド・ディオンアクスル構造であって、ド・ディオンチューブ部の両端部に設けられたチューブフランジと、サスペンション取付部に設けられたサスペンションフランジと、サスペンションフランジに設けられた凸部または凹部からなる嵌合部と、チューブフランジに設けられた凹部または凸部からなる被嵌合部とを備え、嵌合部および被嵌合部が、断面楕円形状、楕円の一部を切除した形状、円の一部を切除した形状または陸上トラック形状であり、嵌合部および被嵌合部の先端に、面取り形状、アール形状またはテーパー形状からなるガイド部が形成され、チューブフランジおよびサスペンションフランジに貫通形成されたボルト挿通孔にボルトを挿通してナットを螺合させ、チューブフランジとサスペンションフランジとが密着して嵌合部が被嵌合部に嵌合されたとき、ボルト挿通孔とボルトの軸部とのクリアランスよりも、嵌合部と被嵌合部とのクリアランスが小さい、ことを特徴とするド・ディオンアクスル構造が提供される。
【0017】
本発明に係るド・ディオンアクスル構造においては、ド・ディオンチューブ部が、平面視で後方に湾曲した形状であり、斯かるド・ディオンチューブ部の両端部に夫々設けられたチューブフランジが、平面視で斜め前方に向いた形状であり、これらチューブフランジに密着されるサスペンションフランジが、平面視で斜め後方に向いた形状であってもよい。
【0018】
本発明に係るド・ディオンアクスル構造においては、ド・ディオンチューブ部が、上下方向に長い断面楕円形状であり、嵌合部および被嵌合部が、上下方向に長い断面楕円形状、その楕円の左右側部を切除した形状、円の左右側部を切除した形状または上下方向に長い陸上トラック形状であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車両搭載時または点検整備時等に、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部の間にド・ディオンチューブ部を着脱する際、着脱部材を大きく動かせない場合であっても、ド・ディオンチューブ部をサスペンション取付部から容易に取り外すことができ、取り外したド・ディオンチューブ部をサスペンション取付部に中心軸および周方向位置を高精度に合わせて容易に装着できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るド・ディオンアクスル構造の斜視図である。
図2】上記ド・ディオンアクスル構造を車体フレームに取り付けた様子を示す斜視図である。
図3】上記ド・ディオンアクスル構造のサスペンションフランジとチューブフランジとをボルトナットで連結する様子を示す説明図であり、(a)は締付前の大まかな位置を合わせた状態を示し、(b)はボルトが締まりながら嵌合部と被嵌合部とがガイド部で案内されて嵌合していく状態を示し、(c)は連結完了の状態を示す。
図4】本発明の変形例に係るド・ディオンアクスル構造のド・ディオンチューブ部を輪切り方向から見た説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
(ド・ディオンアクスル構造1の概要)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るド・ディオンアクスル構造1は、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部2の間に、ド・ディオンチューブ部3が架け渡されたアクスル構造であって、ド・ディオンチューブ部3の両端部に設けられたチューブフランジ3aと、サスペンション取付部2に設けられたサスペンションフランジ2aと、サスペンションフランジ2aに設けられた凸部からなる嵌合部14(図3参照)と、チューブフランジ3aに設けられた凹部からなる被嵌合部15(図3参照)とを備えている。なお、図3(a)~図3(c)の右図はド・ディオンチューブ部3を輪切り方向から見た図、左図はその縦断面図である。
【0023】
図3に示すように、嵌合部14および被嵌合部15は、断面が円の一部を切除した形状であり、嵌合部14および被嵌合部15の先端に、面取り形状からなるガイド部16、17が夫々形成されている。そして、図3(a)、図3(b)に示すように、サスペンションフランジ2aおよびチューブフランジ3aに貫通形成されたボルト挿通孔18、19にボルト4を挿通してナット5を螺合させ、サスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとが密着して嵌合部14が被嵌合部15に嵌合されたとき、図3(c)に示すように、ボルト挿通孔18、19とボルト4の軸部とのクリアランスXよりも、嵌合部14と被嵌合部15とのクリアランスYの方が小さい。以下、本実施形態に係るド・ディオンアクスル構造1の各構成要素について説明する。
【0024】
(サスペンション取付部2)
図1に示すように、このド・ディオンアクスル構造1は、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部2を有する。サスペンション取付部2は、中空の略直方体形状に形成された本体2cと、本体2cから車幅方向内方に延出された中空の延出部2dと、延出部2dの先端に設けられたサスペンションフランジ2aと、本体2cから車幅方向外方に延出された中空のスピンドル2bとを備えている。サスペンションフランジ2aには、ボルト挿通孔18(図3参照)が複数(本実施形態では4個)形成されている。スピンドル2bには、車輪のハブが装着される。
【0025】
図1に示す本体2cの上面のサスペンション座2eには、図2に示すように、Uボルト7によってリーフスプリング8の中央部が取り付けられ、リーフスプリング8の両端部が、ピボット9、シャックル10を介して車体フレーム6に取り付けられる。本体2cには、車体側に支持されたデファレンシャル機構11から延出された駆動用シャフト12が挿通される。デファレンシャル機構11は、車体側に固定されたモーター13に取り付けられており、モーター13から駆動力が供給される。なお、デファレンシャル機構11は、エンジンの駆動力がプロペラシャフトを介して供給されるようになっていてもよい。
【0026】
(ド・ディオンチューブ部3)
図1に示すように、車幅方向左右のサスペンション取付部2のサスペンションフランジ2aの間には、ド・ディオンチューブ部3が架け渡されている。ド・ディオンチューブ部3の両端部には、チューブフランジ3aが設けられている。チューブフランジ3aには、図3に示すように、サスペンションフランジ2aのボルト挿通孔18の位置に合わせて、複数(本実施形態では4個)のボルト挿通孔19がド・ディオンチューブ部3を囲むようにして穿設されている。チューブフランジ3aは、車両搭載時または点検整備時等に、サスペンションフランジ2aと連結切り離しされる。
【0027】
図2に示すように、ド・ディオンチューブ部3は、デファレンシャル機構11との干渉を避けるため、上方から見たとき即ち平面視で車体の後方に湾曲した形状となっており、斯かるド・ディオンチューブ部3の両端部に夫々設けられたチューブフランジ3aが、平面視で斜め前方に向いた形状(姿勢)となっている。これに伴い、サスペンションフランジ2aは、平面視で斜め後方に向いた形状(姿勢)となっている。これにより、ド・ディオンチューブ部3を後方からサスペンション取付部2に着脱する際、チューブフランジ3aに対してサスペンションフランジ2aが受ける姿勢となるので、両フランジ2a、3aが車体前後方向に平行な場合と比べて着脱が容易となる。
【0028】
(嵌合部14、被嵌合部15)
図3(a)~図3(c)に示すように、サスペンションフランジ2aには、凸部からなる嵌合部14が形成され、チューブフランジ3aには、凹部からなる被嵌合部15が形成されている。嵌合部14、被嵌合部15の凸部、凹部は、逆の関係でもよい。嵌合部14および被嵌合部15は、断面が夫々同心円の上下端部の一対の円弧を削除した略小判形状となっており、嵌合されたとき周方向への回転が規制されるようになっている。嵌合部14および被嵌合部15は、嵌合時に周方向への回転が規制される断面形状であれば足り、断面円の一部を切除した形状、断面楕円形状、断面楕円の一部を切除した形状、断面陸上トラック形状でもよい。
【0029】
図3(c)に示すように、サスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとを正規の位置に連結したとき、嵌合部14と被嵌合部15との間のクリアランスY(例えば0.05mm程度)は、ボルト4の軸部とボルト孔18、19とのクリアランスX(例えば0.5mm程度)より小さい。よって、ボルト4による締結のみに頼った場合よりも、サスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとを精度よく(上記の寸法例では一桁違いの精度で)連結できる。なお、クリアランスX、Yの具体的な数値は、一例であり、限定されるものではない。
【0030】
嵌合部(凸部)14の高さは、車両搭載時または点検整備時等に、図2に示すド・ディオンチューブ部3およびサスペンション取付部2を動かして、チューブフランジ3aとサスペンションフランジ2aとを相対的に離間させることができる間隔よりも低く設定されている。詳述すると、図2に示すUボルト7のナットを緩めることで、サスペンション取付部2の移動自由度が大きくなり、サスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとの間隔Gを最低でも10mm程度広げられるので、嵌合部(凸部)14の高さを例えば5mmとすれば被嵌合部(凹部)15から容易に外せる。
【0031】
(ガイド部16、17)
図3(a)~図3(c)に示すように、嵌合部14および被嵌合部15の先端には、面取り形状からなるガイド部16、17が夫々形成されている。ガイド部16、17は、嵌合部14および被嵌合部15の先端に周方向に沿って面取り形状に形成されており、ボルト4、ナット5を締め付けて嵌合部14と被嵌合部15とを係合させるとき、嵌合部14と被嵌合部15との位置がボルト4の軸部とボルト挿通孔18、19とのクリアランスXの範囲で相対的にズレたとしても、正規の位置に案内する機能を発揮する。なお、ガイド部16、17は、この機能を発揮する形状であれば足り、アール形状、テーパー形状でもよい。
【0032】
図3(a)に示すように、ガイド部16のサイズaは、嵌合部14の高さ方向に3mm程度であり、嵌合部14の根元のストレート部の高さ方向のサイズbは2mm程度である。すなわち、嵌合部14の高さ(a+b)はガイド部16を含めて5mm程度となっている。よって、サスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとの間隔Gを5mm程度広げることができれば、嵌合部を被嵌合部から外せるところ、上述したように、図2に示すUボルト7のナットを緩めることで、サスペンションフランジ2aとチューブフランジ3aとの間隔Gを最低でも10mm程度広げられるので、容易に外せる。
【0033】
(作用・効果)
図3(a)~図3(c)に取り外したド・ディオンチューブ部3のチューブフランジ3aをサスペンション取付部2のサスペンションフランジ2aにボルト4、ナット5で締結する様子を示す。
【0034】
先ず、図3(a)に丸印zで示すように、嵌合部(凸部)14の外周の一点が被嵌合部(凹部)15の内周の一点に接し、且つ、サスペンションフランジ2aのボルト挿通孔18とチューブフランジ3aのボルト挿通孔19とが略見通せる位置となるように、両フランジ2a、3aの位置を大まかに定める。位置決めは、「だぼ」等の大きく突出した部材を用いないため、両フランジ2a、3aを大きく離間して調整代を確保する必要がなく、作業は容易である。すなわち、両フランジ2a、3aの間に、嵌合部(凸部)14の高さをクリアできる間隔、即ち5mm程度の間隔Gがあればよい。
【0035】
両フランジ2a、3aの間隔Gは、図2に示すリーフスプリング8をサスペンション取付部2に固定するUボルト7のナットを緩めることで、サスペンション取付部2の移動自由度が大きくなって、最低でも10mm程度までは容易に広げられるため、一層作業し易い状況となる。位置合わせは、両フランジ2a、3aのボルト挿通孔18、19同士にボルト4が通る程度に合わせる。ボルト4が通らない程ボルト挿通孔18、19がずれていれば、所謂「寄せポンチ」や「ドリフトピン」等の工具をボルト挿通孔18、19に差し入れてボルト挿通孔18、19同士を引き寄せる。このとき、図3(a)に示すように、両フランジ2a、3a同士が相互密着せずとも、嵌合部(凸部)14の外周の一点が被嵌合部(凹部)15の内周の一点に接し、対角線上の被嵌合部15が嵌合部14に乗り上がり、両フランジ2a、3a同士が傾斜して隙が生じた状態でもよい。
【0036】
図2に示すように、ド・ディオンチューブ部3の形状は、車体側に支持されたディファレンシャル機構11を避ける目的で車両後方に湾曲しており、車幅方向左右のチューブフランジ3a同士の車幅方向の間隔が、車両前方へ向かうに連れて狭くなっている。これにより、ド・ディオンチューブ部3を後方からサスペンション取付部2aに着脱する際、図3(a)に示すように、チューブフランジ3aに対してサスペンションフランジ2aが受ける姿勢となり、且つ、被嵌合部(凹部)15に嵌合部(凸部)14を差し入れ易い姿勢となるため、ド・ディオンチューブ部3が湾曲しておらず両フランジ2a、3aが車体前後方向に平行な場合と比べて着脱が容易となる。
【0037】
次に、嵌合部(凸部)14および被嵌合部(凹部)15の先端に夫々面取り形状に設けられたガイド部16、17の作用について述べる。
【0038】
図3(a)に丸印zで示すように、ボルト4、ナット5の締め込み前においては、嵌合部(凸部)14のガイド部16と被嵌合部(凹部)15のガイド部17とが当たっており、両フランジ2a、3aの間に隙間Gがある状態となっている。その後、ボルト4、ナット5を締め込むと、嵌合部(凸部)14のガイド部16と被嵌合部(凹部)15のガイド部17との接触部がガイドの起点となり、図3(b)に示すように、ボルト4、ナット5の締め込みに伴って、ボルト4に発生する軸力によって、ガイド部16、17には嵌合部14、被嵌合部15を正規の位置へ動かす力が働く。
【0039】
すなわち、図3(b)に示すように、嵌合部(凸部)14と被嵌合部(凹部)15とが周方向にずれていても、嵌合部14の外周形状および被嵌合部15の内周形状は大きな曲率を有しているため、ボルト4、ナット5を締め込むに伴って嵌合部14が被嵌合部15に適切に嵌り込む方向に回転し、図3(c)に示すように、ボルト4、ナット5の締め込みが完了すると同時に、嵌合部14が被嵌合部15に正規の位置に嵌合する。この結果、ド・ディオンチューブ部3が中心軸および周方向位置を合わせてサスペンション取付部2に装着されることになる。
【0040】
図3(c)にボルト4、ナット5の締結が完了した後の嵌合部14および被嵌合部15を示す。嵌合部(凸部)14の外周形状および被嵌合部(凹部)15の内周形状は、円の上下端部の円弧を削除した略小判形状であり、且つ、嵌合部14と被嵌合部15とのクリアランスY(0.05mm程度)は、ボルト挿通孔18、19とボルト4の軸部とのクリランスX(0.5mm程度)に対し非常に小さい。よって、ボルト4、ナット5の締結作業は極めて容易であるにも関わらず、チューブフランジ3aとサスペンションフランジ2aとを、中心軸および周方向位置を高精度に合わせて連結できる。
【0041】
このように、本実施形態に係るド・ディオンチューブ構造1によれば、車両搭載時または点検整備時等に、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部2の間にド・ディオンチューブ部3を着脱する際、着脱部材を大きく動かせない場合であっても、ド・ディオンチューブ部3をサスペンション取付部2から容易に取り外すことができ、取り外したド・ディオンチューブ部3をサスペンション取付部2に中心軸および周方向位置を高精度に合わせて容易に装着できる。
【0042】
(変形例)
図4に、本発明の変形例に係るド・ディオンアクスル構造1のド・ディオンチューブ部3を輪切り方向から見た説明図を示す。この変形例は、基本的な構成が前実施形態と同様であり、ド・ディオンチューブ部3が上下方向に長い断面楕円形状であり、嵌合部14および被嵌合部15が円の左右側部を切除した形状(略小判形状)である点が前実施形態と異なる。
【0043】
この変形例によれば、ド・ディオンチューブ部3が上下方向に長い断面楕円形状であるので、車重や路面反力などにより上下方向から荷重を受けた場合の断面係数が、円断面のド・ディオンチューブ部3よりも高まり、剛性が向上する。同様に、嵌合部14および被嵌合部15が円の左右側部を切除した縦向きの略小判形状であるので、上下方向から荷重を受けた場合の断面係数が、円の上下端部を切除した横向きの略小判形状(図3参照)よりも高まり、剛性が向上する。
【0044】
なお、変形例の嵌合部14および被嵌合部15は、円の上下端部を切除した横向きの略小判形状(図3参照)よりも上下方向の荷重に対して断面係数が大きな形状であればよく、例えば、上下方向に長い断面楕円形状、その楕円の左右側部を切除した形状または上下方向に長い陸上トラック形状であってもよい。変形例の基本的な作用効果は、前実施形態と同様である。
【0045】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、車幅方向に間隔が隔てられた一対のサスペンション取付部の間にド・ディオンチューブ部が架け渡されたド・ディオンアクスル構造であって、車両搭載時または点検整備時等に、ド・ディオンチューブ部をサスペンション取付部に対して着脱可能なド・ディオンアクスル構造に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 ド・ディオンアクスル構造
2 サスペンション取付部
2a サスペンションフランジ
3 ド・ディオンチューブ部
3a チューブフランジ
4 ボルト
5 ナット
14 嵌合部
15 被嵌合部
16 ガイド部
17 ガイド部
18 ボルト挿通孔
19 ボルト挿通孔
G サスペンションフランジとチューブフランジとの間隔
X ボルト挿通孔とボルトの軸部とのクリアランス
Y 嵌合部と被嵌合部とのクリアランス
Z 嵌合部と被嵌合部との最初の接触点
a 嵌合部のガイド部のサイズ
b 嵌合部の根元のストレート長さ
図1
図2
図3
図4