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特許7231520変位表示装置、制振ダンパー及び土木建築構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】変位表示装置、制振ダンパー及び土木建築構造物
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/00 20060101AFI20230221BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20230221BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20230221BHJP
   E01D 19/02 20060101ALI20230221BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20230221BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
G01B5/00 A
G01B21/00 C
E04H9/02 311
E04H9/02 321F
E01D19/02
F16F15/023 Z
F16F15/02 L
F16F15/02 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019158582
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021038937
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】内藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 泰邦
(72)【発明者】
【氏名】有薗 和樹
(72)【発明者】
【氏名】塩田 啓介
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特許第6546561(JP,B2)
【文献】実開昭60-56204(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00
G01B 21/00
E04H 9/02
E01D 19/02
F16F 15/023
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震時に相対変位を生じる一対の相対変位部の一方に設けられて相対変位方向に直線運動する直線運動伝達部と、前記一対の相対変位部の他方に設けられて前記直線運動伝達部に連結し、前記直線運動伝達部の直線運動を回転運動に変換する回転運動伝達部と、前記回転運動伝達部から伝達された正逆方向の回転を一方向の回転に変換する複数の回転伝達要素で構成された一方向回転変換部と、前記一方向回転変換部から伝達された前記一方向の回転を利用して前記一対の相対変位部の累積変位量を表示する累積変位量表示部と、前記一対の相対変位部の最大変位量を表示する最大変位量表示部と、を備え、
前記直線運動伝達部は、前記相対変位方向にラック歯が形成されている長尺なラック部材であり、前記回転運動伝達部は、前記ラック部材の前記ラック歯に噛合しているピニオンであり、
前記最大変位量表示部は、
前記一対の相対変位部の他方に一体に設けられて前記一方向回転変換部を収納しているケースと、
前記ケースの内部を前記相対変位方向に貫通している前記ラック部材と、
前記ラック部材に固定され、前記ケースの外部で当該ラック部材に対して平行に延在している表示バーと、
門型、或いは輪型に形成され、前記表示バーの長手方向に摺動自在に係合している第1変位表示部材及び第2変位表示部材と、
前記ケースに一体に設けられ、前記第1変位表示部材及び前記第2変位表示部材に当接可能に配置された係止部材と、を備え、
前記表示バーには、前記第1変位表示部材及び前記第2変位表示部材が停止している位置の前記最大変位量の大きさを表示する目盛りが形成されており、
前記ケースと共に前記係止部材が前記相対変位方向の一方に移動すると、当該係止部材に当接した前記第1変位表示部材が前記相対変位方向の一方に前記表示バー上を摺動し、当該係止部材が当接しないときには前記第1変位表示部材が前記表示バー上で停止し、
前記ケースと共に前記係止部材が前記相対変位方向の他方に移動すると、当該係止部材に当接した前記第2変位表示部材が前記相対変位方向の他方に前記表示バー上を摺動し、当該係止部材が当接しないときには前記第2変位表示部材が前記表示バー上で停止することを特徴とする変位表示装置。
【請求項2】
前記表示バーには、変位量許容値オーバーゾーンの表示が設けられており、前記第1変位表示部材及び前記第2変位表示部材が前記変位量許容値オーバーゾーンまで移動すると、前記一対の相対変位部が許容値を超えた変位量で変位していることを示すことを特徴とする請求項1記載の変位表示装置。
【請求項3】
ダンパー本体と、前記ダンパー本体に設けられている請求項1又は2に記載の変位表示装置とを備え、
前記ダンパー本体は、振動エネルギーを吸収する吸収部を備え、前記吸収部が前記振動エネルギーを吸収する際に前記変位表示装置の一対の相対変位部が相対変位することを特徴とする制振ダンパー。
【請求項4】
前記ダンパー本体は、座屈拘束ブレースであることを特徴とする請求項3記載の制振ダンパー。
【請求項5】
前記吸収部は、軸方向に作用する圧縮及び引張りの軸荷重を弾性変形及び塑性変形により吸収する軸力材で構成され、
前記軸力材の両端に取付け部材が固定され、
前記軸力材を内挿する補剛部材の一端が前記軸力材の一端側の前記取付け部材に固定されており、
前記補剛部材の他端及び前記軸力材の他端側の前記取付け部材は固定せず、前記補剛部材の他端に前記最大変位量表示部の前記ラック部材が固定され、前記軸力材の他端側の前記取付け部材に前記ケースが固定されていることを特徴とする請求項3又は4記載の制振ダンパー。
【請求項6】
構造枠部の内部に請求項5記載の制振ダンパーをブレース材として配置して振動エネルギーを吸収するようにした土木建築構造物であって、
前記制振ダンパーの前記軸力材の一端側の前記取付け部材が、前記構造枠部の内部に設けた第1のガセットプレートに固定されており、
前記軸力材の他端側の前記取付け部材が、前記構造枠部の内部に設けた第2のガセットプレートと添接板を介して固定されているとともに、前記添接板に、前記ケースが着脱自在に固定されていることを特徴とする土木建築構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に相対変位を生じる一対の相対変位部の最大変位量を表示する変位表示装置、変位表示装置を備えた制振ダンパー、及び制振ダンパーを備えた土木建築構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁、水門、ボックスカルバート、ビル、倉庫などの土木建築構造物の地震対策として、土木建築構造物の部材間に制振ダンパーが設置されている。
制振ダンパーは、鋼材を使用したものが多用されており、その一つに、座屈拘束ブレースやダンパーブレースと呼ばれるものがある。これらの制振ダンパーは、軸方向に作用する軸荷重により伸縮する軸部材と、この軸部材を内挿して軸部材の座屈を防止する補剛部材とを備え、軸部材の伸縮に伴う塑性変形によってエネルギーを吸収する。
この制振ダンパーは、安定したエネルギー吸収能を発揮するために、変形性能の限界値を表すための最大変位量と、疲労耐久性を表すための累積変位量の二つの指標によって安全性の管理を行っている。
【0003】
本出願人は、特許文献1に示すように、電力を使用せずに機械式で最大変位量と累積変位量を計測する変位表示装置を備えた制振ダンパーを開発した。
特許文献1の制振ダンパーの変位表示装置は、地震時に相対変位を生じる一対の相対変位部の一方に設けられて相対変位方向に直線運動する直線運動伝達部と、一対の相対変位部の他方に設けられて直線運動伝達部に連結し、直線運動伝達部の直線運動を回転運動に変換する回転運動伝達部と、回転運動伝達部から伝達された正逆方向の回転を一方向の回転に変換する複数の回転伝達要素で構成された一方向回転変換部と、一方向回転変換部から伝達された一方向の回転を利用して一対の相対変位部の累積変位量を表示する累積変位量表示部と、一対の相対変位部の最大変位量を表示する最大変位量表示部と、を備えている。
【0004】
直線運動伝達部は、相対変位方向にラック歯が形成されている長尺なラック部材であり、このラック部材のラック歯に回転運動伝達部のピニオンが噛合している。
特許文献1の最大変位量表示部は、一対の相対変位部の他方に設けられて一方向回転変換部を収納しているケースと、ケースを相対変位方向に貫通しており、長手方向の外周に変位位置を示す目盛り表示が設けられているラック部材と、相対変位方向を向くケースの一方の側面側でラック部材の短尺方向の外周に摺動自在に係合している第1変位表示部材と、ケースの一方の側面に対して相対変位方向の逆側であるケースの他方の側面側でラック部材の短尺方向の外周に摺動自在に係合している第2変位表示部材と、を備えている。
【0005】
第1変位表示部材は、ラック部材の相対変位方向の移動によりケースの一方の側面に当接することでラック部材上を摺動し、一方の側面に接触しないときにはラック部材上で停止する。また、第2変位表示部材は、ラック部材の相対変位方向の移動によりケースの他方の側面に当接することでラック部材上を摺動し、他方の側面に接触しないときにはラック部材上で停止する。そして、ラック部材に設けた目盛り表示を使用してケースの一方の側面から第1変位表示部材までの第1距離を測定し、ラック部材の目盛り表示を使用してケースの他方の側面から第2変位表示部材までの第2距離を測定することで、引張り側、圧縮側の最大変位量を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6546561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の最大変位量表示部を構成するラック部材は、ラック歯に回転運動伝達部のピニオンが噛合するので、例えばステンレス材のような高硬度の金属部材で形成されている。このような、高硬度の金属部材のラック部材には、ケガキにより目盛り表示が設けられているが、明瞭に目盛りを形成することが難しく、遠方からラック部材上で停止している第1及び第2変位表示部材を見て最大変位量を測定することは容易ではない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、遠方から第1及び第2変位表示部材の停止位置を見ても最大変位量を正確に測定することができる変位表示装置、この変位表示装置を備えた制振ダンパー、及びこの制振ダンパーを備えた土木建築構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る変位表示装置は、地震時に相対変位を生じる一対の相対変位部の一方に設けられて相対変位方向に直線運動する直線運動伝達部と、一対の相対変位部の他方に設けられて直線運動伝達部に連結し、直線運動伝達部の直線運動を回転運動に変換する回転運動伝達部と、回転運動伝達部から伝達された正逆方向の回転を一方向の回転に変換する複数の回転伝達要素で構成された一方向回転変換部と、一方向回転変換部から伝達された一方向の回転を利用して一対の相対変位部の累積変位量を表示する累積変位量表示部と、一対の相対変位部の最大変位量を表示する最大変位量表示部と、を備えている。直線運動伝達部は、相対変位方向にラック歯が形成されている長尺なラック部材であり、回転運動伝達部は、ラック部材の前記ラック歯に噛合しているピニオンである。最大変位量表示部は、一対の相対変位部の他方に一体に設けられて一方向回転変換部を収納しているケースと、ケースの内部を前記相対変位方向に貫通しているラック部材と、ラック部材に固定され、ケースの外部でラック部材に対して平行に延在している表示バーと、門型、或いは輪型に形成され、表示バーの長手方向に摺動自在に係合している第1変位表示部材及び第2変位表示部材と、ケースに一体に設けられ、第1変位表示部材及び第2変位表示部材に当接可能に配置された係止部材と、を備えている。そして、表示バーには、第1変位表示部材及び前記第2変位表示部材が停止している位置の最大変位量の大きさを表示する目盛りが形成されている。そして、ケースと共に係止部材が相対変位方向の一方に移動すると、係止部材に当接した第1変位表示部材が相対変位方向の一方に前記表示バー上を摺動し、係止部材が当接しないときには第1変位表示部材が表示バー上で停止する。また、ケースと共に係止部材が相対変位方向の他方に移動すると、係止部材に当接した第2変位表示部材が相対変位方向の他方に表示バー上を摺動し、係止部材が当接しないときには第2変位表示部材が表示バー上で停止する。
【0010】
また、本発明に係る制振ダンパーは、ダンパー本体と、ダンパー本体に設けられている上記変位表示装置とを備え、ダンパー本体は、振動エネルギーを吸収する吸収部を備え、吸収部が振動エネルギーを吸収する際に変位表示装置の一対の相対変位部が相対変位する。
【0011】
また、本発明に係る土木建築構造物は、構造枠部の内部に上記制振ダンパーをブレース材として配置して振動エネルギーを吸収するようにした土木建築構造物であって、制振ダンパーの軸力材の一端側の取付け部材が、前記構造枠部の内部に設けた第1のガセットプレートに固定されており、軸力材の他端側の前記取付け部材が、構造枠部の内部に設けた第2のガセットプレートと添接板を介して固定されているとともに、添接板にケースが着脱自在に固定されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る変位表示装置、制振ダンパー及び土木建築構造物によると、変位表示装置に設けられている最大変位量表示部は、ラック部材に固定され、ケースの外部でラック部材に対して平行に延在している表示バーを備えており、この表示バーの長手方向に摺動自在に係合する第1変位表示部材及び第2変位表示部材が配置され、表示バーには、前記第1変位表示部材及び前記第2変位表示部材が停止している位置の最大変位量の大きさを表示する目盛りが形成されているので、遠方から第1変位表示材及び第2変位表示部材の停止位置を見ても最大変位量を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る土木建築構造物である橋梁を示す模式図である。
図2図1の橋梁を構成する橋脚と、この橋脚に配置された本発明に係る制振ダンパーを示す図である。
図3】制振ダンパーの構造を示す図である。
図4】制振ダンパーに連結されている一方の取付け板を、橋脚のガセットプレートに連結した構造を示す図である。
図5】制振ダンパーに連結されている一方の取付け板側に変位表示装置を構成する本発明に係る第1実施形態の最大変位量表示部が配置されている状態を示す図である。
図6】変位表示装置を構成する部材を示す図である。
図7】第1実施形態の最大変位量表示部を構成する表示バー及び第1及び第2変位表示部材を示す図である。
図8】制振ダンパーの軸力材が引張り方向に変位するときの第1実施形態の最大変位量表示部の動作を示す図である。
図9】制振ダンパーの軸力材が圧縮方向に変位するときの第1実施形態の最大変位量表示部の動作を示す図である。
図10】本発明に係る第2実施形態の最大変位量表示部を示す図である。
図11】本発明に係る第2実施形態の最大変位量表示部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
[橋梁について]
図1は、本発明に係る橋梁1を模式的に示したものである。橋梁1は、上部構造2が、地盤3から立設された複数の橋脚4で支持されている。
複数の橋脚4は、図2に示すように、地盤3に埋設された基礎5から2本の柱材6a,6bが平行に立ち上がっている。2本の柱材6a,6bの間には、水平方向に延在する複数本の水平材7a~7dが上下方向に離間して連結されており、これら柱材6a,6b及び水平材7a~7dで囲まれた上下方向の空間に複数の構造枠部8a~8dが形成されている。
【0016】
所定の水平材7a,7cの長手方向両端部及び2本の柱材6a,6bの連結位置には、ガセットプレート9aが設けられており、他の水平材7b,7dの長手方向中央部にもガセットプレート9bが設けられている。
そして、複数の構造枠部8a~8dの内部には、ガセットプレート9a,9bに連結されて斜め方向に延在する軸降伏型の複数の制振ダンパー10A~10Hが配置されている。このように構成された複数の橋脚4の上部に、上部構造2が連結されている。
ここで、構造枠部8cの内部空間に配置されている制振ダンパー10Eが、変位表示装置15を備えている。
【0017】
図3は、制振ダンパー10A~10Hの構造を示すものであり、中空形状の軸力材11と、軸力材11の軸方向の両端11a,11bに円板形状のエンドプレート12a,12bを介して固定された取付け部材13a,13bと、軸力材11を内装する補剛部材14と、を備えている。軸力材11は、履歴減衰特性(塑性変形に伴うエネルギー減衰特性)を有する普通鋼又は低降伏点鋼の鋼管からなり、軸方向に作用する軸荷重に対して伸縮して降伏する。補剛部材14は、軸力材11に軸方向の圧縮荷重が作用したときに軸力材11の座屈を防止する。ここで、補剛部材14の一方の端部14aはエンドプレート12aに固定されておらず、補剛部材14の他方の端部14bはエンドプレート12bに固定されている。
【0018】
制振ダンパー10A~10Hは、各々の取付け部材13a,13bを橋脚4に設けたガセットプレート9a,9bにボルト接合することで、複数の構造枠部8a~8dの内部で斜め方向に延在して配置される。
上記構成のように複数の橋脚4が上部構造2を支持している橋梁1は、図2に示すように、上部構造2が地震動によって白抜きの矢印方向に変位すると、複数の制振ダンパー10A~10Hの軸力材11の伸縮(図2の実線矢印方向)に伴う塑性変形によって、地震動エネルギーを吸収することで上部構造2の変位が抑制される。
【0019】
[変位表示装置を備えた制振ダンパーについて]
次に、変位表示装置15を備えた制振ダンパー10Eについて、図4から図6を参照して説明する。
図4に示すように、制振ダンパー10Eの一方の取付け部材13a及びガセットプレート9bは、所定の互いに対向する連結板16,17同士が、固定用添接板18を介してボルト接合されている。また、固定用添接板18で連結されていない連結板16,17同士には、変位表示装置用添接板19がボルト接合されている。
【0020】
図5に示すように、変位表示装置用添接板19には、後述する変位表示装置15の一方向回転変換部23を内蔵するケース20が固定されている。
ここで、制振ダンパー10Eの他方の取付け部材13bの軸方向変位及び補剛部材14の他方の端部14bの軸方向変位は等しくなるので、軸力材11の伸縮量は、補剛部材14の一方の端部14aと一方の取付け部材13aとの間で生じる相対変位量と等しくなる。
【0021】
変位表示装置15は、図6に示すように、補剛部材14の一方の端部14aと一方の取付け部材13aとの間で生じる相対変位を正逆方向の回転運動に変換するラック&ピニオン部21と、ラック&ピニオン部21のピニオン22から伝達された正逆方向の回転を一方向の回転に変換する一方向回転変換部23と、一方向回転変換部23から得られた一方向の回転により累積変位量を表示する累積変位量表示部24と、後述する最大変位量表示部25と、を備えている。
ラック&ピニオン部21は、ラック部材26と、ラック部材26のラック歯26aに噛合しているピニオン22と、を備えている。
【0022】
ラック部材26は、図5に示すように、補剛部材14及び一方の取付け部材13aの相対変位方向Rdに沿ってラック歯26aが並んでおり、その一端側が、補剛部材14の一方の端部14aの外周に固定された締結バンド27及びラック固定部材28を介して補剛部材14に連結されている。そして、ラック部材26は、変位表示装置用添接板19に固定された一方向回転変換部23のケース20を貫通した状態で配置され、ケース20に配置されたピニオン22に噛合している。
一方向回転変換部23のケース20内には、図6に示すように、入力軸29に、ラック&ピニオン部21のピニオン22及びウォーム30が軸方向に離間して固定されている。そして、第1回転軸31に固定されたウォーム歯車32がウォーム30に噛合されていることで、入力軸29の回転が減速されてウォーム歯車32に伝達されるようになっている。第1回転軸31には、第1ワンウェイクラッチ33及び第2ワンウェイクラッチ34がウォーム歯車32に対して同軸に、互いに軸方向に離間して固定されている。
【0023】
第1ワンウェイクラッチ33及び第2ワンウェイクラッチ34は、図示しないが、外輪と、内輪と、外輪及び内輪の間に配置され、第1回転軸31に伝達された正逆方向の回転の一方向の回転のみを外輪に伝達する回転制御部とを備えた装置である。第1ワンウェイクラッチ33の外輪の外周に第1クラッチ歯車35が固定され、第2ワンウェイクラッチ34の外輪の外周に第2クラッチ歯車36が固定されている。
第1クラッチ歯車35は、第2回転軸37に固定された第1分岐歯車38に噛合されており、第2回転軸37には、第1分岐歯車38に対して軸方向に離間した位置に第2分岐歯車39が固定されている。第2クラッチ歯車36は、出力軸40に固定された第3分岐歯車41に噛合されているとともに、出力軸40には、第3分岐歯車41に対して軸方向に離間し位置に合成歯車42が固定されている。この合成歯車42に、第2回転軸37に固定された第2分岐歯車39が噛合されている。
【0024】
また、累積変位量表示部24は、図6に示すように、表示回転軸43から回転が伝達される指針44と、一方向回転変換部23のケース20に固定され、指針44が回転する表示円の範囲内に3つの表示領域が表示されている表示プレート45と、を備えている。
ここで、変位表示装置15の一方向回転変換部23及び累積変位量表示部24は、特許文献1(特許第6546561号公報)と同様の構成、動作を行うので、本実施形態では説明を省略する。
【0025】
[第1実施形態の最大変位量表示部について]
次に、図5図7から図9を参照して、変位表示装置15を構成する第1実施形態の最大変位量表示部25について説明する。
図5は、制振ダンパー10Eの軸力材11が圧縮側及び引張り側に変位していない初期状態の第1実施形態の最大変位量表示部25を示すものである。
第1実施形態の最大変位量表示部25は、ラック部材26に固定されて平行に延在している表示バー46と、表示バー46の長手方向に摺動自在に係合している引張り側表示部材47及び圧縮側表示部材48と、ケース20の一方のケース側面20aに固定されて引張り側表示部材47に接触している引張り側係止部材49と、ケース20の他方のケース側面20bに固定されて圧縮側表示部材48に接触している圧縮側係止部材50と、を備えている。
【0026】
表示バー46は、ケース側面20a及びラック固定部材28の間で連結したバー固定部材51と、ケース側面20aから突出しているラック部材26の先端で連結したバー固定部材52とに固定されてラック部材26に平行に延在している。
引張り側表示部材47及び圧縮側表示部材48は互いに対向しており、引張り側表示部材47に対向していない圧縮側表示部材48の裏面に、ケース20の他方のケース側面20bに固定された圧縮側係止部材50の先端側が接触している。また、圧縮側表示部材48に対向していない引張り側表示部材47の裏面に、ケース20の一方のケース側面20aに固定された引張り側係止部材49の先端側が接触している。
【0027】
表示バー46は、図7(a)に示すように、矩形断面の金属部材である。図5に示すように、この表示バー46の表示面46aに、センター位置Sと、このセンター位置Sを中心位置として図5の右側方向及び左側方向に距離Cまで離れた位置からセンター位置Sに向けて目盛り(不図示)が表示されている。また、センター位置Sを含む右側及び左の所定範囲(図5の網かけ部分)に、伸縮量許容値オーバーゾーン46bが表示されている。
表示バー46は、表示面46aに、センター位置S、目盛り、伸縮量許容値オーバーゾーン46bがケガキにより容易に設けられるように、従来のようにステンレス材のような高硬度の金属部材を使用せず、比較的に硬度の低い金属部材で形成されている。
また、引張り側表示部材47及び圧縮側表示部材48は、表示バー46の外周に内周面が摺動する四角枠状の金属部材である。
【0028】
ここで、図7(b)に示すように、矩形断面の表示バー46に、門型形状の引張り側表示部材47及び圧縮側表示部材48を摺動自在に係合してもよい。また、図7(c)に示すように、円形断面の表示バー46に、リング形状の引張り側表示部材47及び圧縮側表示部材48を摺動自在に係合してもよく、或いは、図7(d)に示すように、円形断面の表示バー46に、リング形状の一部を切り欠いた引張り側表示部材47及び圧縮側表示部材48を摺動自在に係合してもよい。
【0029】
さらに、図7(e)に示すように、四角枠状の引張り側表示部材47(圧縮側表示部材48)の一部にプランジャ55を設けることで、表示バー46に対して引張り側表示部材47及び圧縮側表示部材48の摺動摩擦を調整するようにしてもよい。具体的には、プランジャ55は、表示バー46に接触しているボール56と、表示バー46に向けて引張り側表示部材47(圧縮側表示部材48)を貫通したねじ孔57にねじ込まれたプランジャ本体58と、プランジャ本体58に設けた凹部59に収納され、ボール56を表示バー46に向けてバネ付勢力で押し付けている付勢バネ60と、を備えている。そして、ねじ孔57に対するプランジャ本体58のねじ込み量を変化させることで。ボール56に対する付勢バネ60のバネ付勢力を変化させ、表示バー46に対する引張り側表示部材47及び圧縮側表示部材48の摺動摩擦を調整する。なお、プランジャ55を設ける構造は、図7(a)の構造に限るものではなく、図7(b)、(c)、(d)の構造にも設けることができる。
【0030】
次に、図8及び図9は、制振ダンパー10Eの軸力材11が伸縮する際の第1実施形態の最大変位量表示部25の動作を示したものである。
図8に示すものは、図5で示した初期位置から軸力材11が軸方向に寸法Pだけ伸長した状態を示すものである。この場合、軸力材11の伸長とともに、制振ダンパー10Eの一方の取付け部材13aに変位表示装置用添接板19を介して固定された一方向回転変換部23のケース20も寸法Pだけ同一方向に移動するので、ケース20に固定されている引張り側係止部材49が引張り側表示部材47をセンター位置S側に移動させる。これにより、引張り側表示部材47はセンター位置Sに対して「C-P」となる位置まで移動し、引張り側表示部材47が停止している表示面46aの目盛り「P]が軸力材11の伸長量となる。ここで、引張り側表示部材47が伸縮量許容値オーバーゾーン46bに重なる位置まで移動した場合には、軸力材11の伸長量が許容値を超えていることを示す。
【0031】
次に、図9は、図5で示した初期位置から軸力材11が軸方向に寸法Qだけ圧縮した状態を示すものである。ここで、軸力材11は、この圧縮状態の前に軸方向に寸法Pだけ伸長し、引張り側表示部材47が表示面46aの目盛り「P]で停止している。そして、軸力材11が軸方向に寸法Qだけ圧縮する場合には、軸力材11の圧縮とともに、変位表示装置用添接板19を介して固定されたケース20も寸法Qだけ同一方向に移動するので、ケース20に固定されている圧縮側係止部材50が圧縮側表示部材48をセンター位置S側に移動させる。これにより、圧縮側表示部材48がセンター位置Sに対して「C-Q」となる位置まで移動し、圧縮側表示部材48が停止している表示面46aの目盛り「Q]が軸力材11の圧縮量となる。ここで、圧縮側表示部材48が伸縮量許容値オーバーゾーン46bに重なる位置まで移動した場合には、軸力材11の圧縮量が許容値を超えていることを示す。
【0032】
[橋梁、制振ダンパー及び最大変位量表示部の効果について]
図1及び図2に示した橋梁1は、上部構造2が地震動により変位すると、上部構造2を支持している複数の橋脚4が、複数の制振ダンパー10A~10Hの軸力材11の伸縮に伴う塑性変形によって地震動エネルギーを吸収するので、上部構造2の変位を確実に抑制することができる。
また、制振ダンパー10A~10Hの一つ(制振ダンパー10E)に最大変位量表示部25を備えているので、制振ダンパー10A~10Hの変形性能に関わる歪みの度合いを、目視で簡単に測定することができる。
【0033】
また、最大変位量表示部25を備えている制振ダンパー10Eは、一方の取付け部材13a及びガセットプレート9bの間に変位表示装置用添接板19が接合されており、この変位表示装置用添接板19に、最大変位量表示部25を構成するラック部材26が内部を貫通する一方向回転変換部23のケース20が着脱自在に固定されているので、ケース20を堅固に取付け部材13a及びガセットプレート9bに固定することにより地震時のケース20の揺れを低減することができ、一方向回転変換部23,累積変位量表示部24及び最大変位量表示部25の誤作動を防止することができる。
【0034】
また、制振ダンパー10Eに備えている最大変位量表示部25は、地震時における軸力材11の引張り方向、圧縮方向の変位動作が一方向回転変換部23のケース20に伝達され、ケース20に一体化した引張り側係止部材50、圧縮側係止部材51が、表示バー46に摺動自在に配置した引張り側表示部材47、圧縮側表示部材48を最大変位量まで移動させるので、軸力材11が伸縮する際の最大変位量を引張り側表示部材47、圧縮側表示部材48が正確に表示することができる。
【0035】
また、表示バー46は、バー固定部51,52を介してラック部材26に平行に延在した部材であり、ラック部材26のようにステンレス材のような高硬度の金属部材を使用せず、比較的に硬度の低い金属部材で形成され、表示面46aには、センター位置Sを中心位置として図5の右側方向及び左側方向に距離Cまで離れた位置からセンター位置Sに向けて目盛りが明瞭に表示されている。このため、遠方から引張り側表示部材47、圧縮側表示部材48の停止位置を見ても、最大変位量を正確に測定することができる。
さらに、表示バー46の表示面46aには、伸縮量許容値オーバーゾーン46bが表示されており、引張り側表示部材47、圧縮側表示部材48が伸縮量許容値オーバーゾーン46bに重なる位置まで移動した場合には、軸力材11の伸長量が許容値を超えていると判断し、制振ダンパー10A~10Hの変形性能寿命の程度を高精度に確認することができる。
【0036】
[第2及び第3実施形態の最大変位量表示部について]
ここで、図10及び図11は、第2及び第3実施形態の最大変位量表示部25を示すものである。
図10に示す第2実施形態の最大変位量表示部25が、図5で示した第1実施形態と異なる構成は、ケース20の一方のケース側面20aに圧縮側係止部材50が固定され、この圧縮側係止部材50より右側(センター位置Sから離間する側)に圧縮側表示部材48が配置されている。また、ケース20の他方のケース側面20bに引張り側係止部材49が固定され、この引張り側係止部材49より左側(センター位置Sから離間する側)に引張り側表示部材47が配置されている。
【0037】
また、表示バー46の表示面46aには、引張り側係止部材49から左側方向に向けて目盛り(不図示)が表示されているとともに、この目盛りの左側端部に伸縮量許容値オーバーゾーン46cが表示されている。また、圧縮側係止部材50から右側方向に向けて目盛り(不図示)が表示されているとともに、この目盛りの右側端部に伸縮量許容値オーバーゾーン46dが表示されている。
【0038】
第2実施形態の最大変位量表示部25は、軸力材11が軸方向に伸長すると、軸力材11の伸長とともに、制振ダンパー10Eの一方の取付け部材13aに変位表示装置用添接板19を介して固定されたケース20も同一方向に移動するので、ケース20に固定されている引張り側係止部材49が引張り側表示部材47をセンター位置Sから離間する方向に移動させる。また、軸力材11が軸方向に圧縮すると、ケース20も同一方向に移動するので、ケース20に固定されている圧縮側係止部材50が圧縮側表示部材48をセンター位置Sから離間する方向に移動させる。
【0039】
また、図11に示す第3実施形態の最大変位量表示部25は、ケース20から1本の係止部材53が表示バー46に向けて延在しており、この係止部材53の右側に圧縮側表示部材48が配置され、係止部材53の左側に引張り側表示部材47が配置されている。
また、表示バー46の表示面46aには、センター位置S(不図示)から右側方向及び左側方向に向けて目盛り(不図示)が表示されている。さらに、表示バー46の右側端部及び左側端部に、伸縮量許容値オーバーゾーン46e,46fが表示されている。
第3実施形態の最大変位量表示部25は、軸力材11が軸方向に伸長すると、軸力材11の伸長とともに、制振ダンパー10Eの一方の取付け部材13aに変位表示装置用添接板19を介して固定されたケース20も同一方向に移動するので、ケース20に固定されている係止部材53が引張り側表示部材47をセンター位置Sから離間する方向に移動させる。また、軸力材11が軸方向に圧縮すると、ケース20も同一方向に移動するので、係止部材53が圧縮側表示部材48をセンター位置Sから離間する方向に移動させる。
【0040】
このように第2及び第3実施形態の最大変位量表示部25も、第1実施形態の最大変位量表示部25と同様に、軸力材11が伸縮する際の最大変位量を引張り側表示部材47、圧縮側表示部材48が正確に表示することができる。
さらに、第2及び第3実施形態の最大変位量表示部25は、引張り側表示部材47、圧縮側表示部材48が伸縮量許容値オーバーゾーン46c,46d(46e,46f)に重なる位置まで移動した場合には、軸力材11の伸長量が許容値を超えていると判断し、制振ダンパー10A~10Hの変形性能寿命の程度を高精度に確認することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 橋梁
2 上部構造
3 地盤
4 橋脚
5 基礎5
6a,6b 柱材
7a~7d 水平材
9a ガセットプレート(第1のガセットプレート)
9b ガセットプレート(第2のガセットプレート)
8a~8d 構造枠部
10A~10H 複数の制振ダンパー
11 軸力材
11a,11b 軸力材11の軸方向の端部
12a,12b エンドプレート
13a,13b 取付け部材
14 補剛部材
15 変位表示装置
16,17 連結板
18 固定用添接板
19 変位表示装置用添接板
20 ケース
20a ケースの一方の側面
20b ケースの他方の側面
21 ラック&ピニオン部
22 ピニオン
23 一方向回転変換部
24 累積変位量表示部
25 最大変位量表示部
26 ラック部材
26a ラック歯
27 締結バンド
28 ラック固定部材
29 入力軸
30 ウォーム
31 第1回転軸
32 ウォーム歯車
33 第1ワンウェイクラッチ
34 第2ワンウェイクラッチ
35 第1クラッチ歯車
36 第2クラッチ歯車
37 第2回転軸
38 第1分岐歯車
39 第2分岐歯車
40 出力軸
41 第3分岐歯車
42 合成歯車
43 表示回転軸
44 指針
45 表示プレート
46 表示バー
46a 表示面
46b、46c,46d、46e,46f 伸縮量許容値オーバーゾーン(変位量許容値オーバーゾーン)
47 引張り側表示部材(第1変位表示部材)
48 圧縮側表示部材(第2変位表示部材)
49 引張り側係止部材(係止部材)
50 圧縮側係止部材(係止部材)
51,52 バー固定部
55 プランジャ
56 ボール
57 ねじ孔
58 プランジャ本体
59 凹部
60 付勢バネ
S センター位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11