(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】保護素子用ヒューズ素子およびそれを利用した保護素子
(51)【国際特許分類】
H01H 85/12 20060101AFI20230221BHJP
H01H 37/76 20060101ALI20230221BHJP
B23K 35/26 20060101ALI20230221BHJP
H01H 85/06 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
H01H85/12
H01H37/76 F
H01H37/76 Q
B23K35/26 310A
B23K35/26 310C
H01H85/06
(21)【出願番号】P 2019198126
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018247934
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300078431
【氏名又は名称】ショット日本株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中島 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 剛志
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-239405(JP,A)
【文献】特開2012-099307(JP,A)
【文献】特開2008-130697(JP,A)
【文献】特開平11-151591(JP,A)
【文献】特開2013-229295(JP,A)
【文献】国際公開第2018/134860(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
H01H 69/02
H01H 85/00 - 87/00
B23K 35/00 - 35/34
B23K 35/363
B23K 35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属と、前記第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属とを積層した複合金属材からな
り、
前記第1の可溶金属は、Sn-Ag合金であり、そのAg含有量が20質量%を超え30質量%以下で構成され、
前記第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上70質量%以下で構成され、
前記第1の可溶金属と前記第2の可溶金属の共通元素であるSn成分の平衡移動と互いの側に異種元素であるAgとBiの相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節するヒューズ素子。
【請求項2】
前記第2の可溶金属は、少なくとも第2の可溶金属の固相線温度を超え、かつ第1の可溶金属の液相線温度未満の所定接合作業温度で成分の一部または全部が溶融する錫または無鉛錫系はんだ材である請求項1に記載のヒューズ素子。
【請求項3】
前記第1の可溶金属は、
70Sn-30Ag合金であることを特徴とする請求項
1または請求項2に記載のヒューズ素子。
【請求項4】
前記第2の可溶金属は、60Sn-40Bi合金または30Sn-70Bi合金であることを特徴とする請求項
1または請求項2に記載のヒューズ素子。
【請求項5】
絶縁基板と、この絶縁基板に設けた複数の電極と、該電極のうち所定の電極に電気接続したヒューズ素子と、このヒューズ素子を加熱して溶断させるために絶縁基板に設けられた発熱素子とを備え、前記ヒューズ素子は、接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属と、前記第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属とを積層した複合金属材からな
り、
前記第1の可溶金属は、Sn-Ag合金であり、そのAg含有量が20質量%を超え30質量%以下で構成され、
前記第2の可溶金属は、Sn-Bi合金であり、そのBi含有量が40質量%以上70質量%以下で構成され、
前記第1の可溶金属と前記第2の可溶金属の共通元素であるSn成分の平衡移動と互いの側に異種元素であるAgとBiの相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節する保護素子。
【請求項6】
前記発熱素子は、前記ヒューズ素子が設けられた前記絶縁基板の基板面とは異なる基板面に設けたことを特徴とする請求項
5に記載の保護素子。
【請求項7】
前記発熱素子は、前記ヒューズ素子が設けられた前記絶縁基板の基板面と同一の基板面に設けたことを特徴とする請求項
5に記載の保護素子。
【請求項8】
前記第2の可溶金属は、少なくとも第2の可溶金属の固相線温度を超え、かつ第1の可溶金属の液相線温度未満の接合作業温度で成分の一部または全部が溶融する錫または無鉛錫系はんだ材である請求項
5ないし請求項
7の何れか1つに記載の保護素子。
【請求項9】
前記第1の可溶金属は、
70Sn-30Ag合金であることを特徴とする請求項
5ないし請求項8の何れか1つに記載の
保護素子。
【請求項10】
前記第2の可溶金属は、60Sn-40Bi合金または30Sn-70Bi合金であることを特徴とする請求項
5ないし請求項8の何れか1つに記載の
保護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属材からなる保護素子用ヒューズ素子およびそれを利用した電気・電子機器の保護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器など小型電子機器の急速な普及に伴い、搭載する電源の保護回路に実装される保護素子も小型薄型のものが使用されている。例えば、二次電池パックの保護回路には、表面実装部品(SMD)のチップ保護素子が好適に利用される。これらチップ保護素子には、被保護機器の過電流により生ずる過大発熱を検知し、または周囲温度の異常過熱に感応して、所定条件でヒューズを作動させ電気回路を遮断する非復帰型保護素子がある。該保護素子は、機器の安全を図るために、保護回路が機器に生ずる異常を検知すると信号電流により抵抗素子を発熱させ、その発熱で可融性の合金材からなるヒューズ素子を溶断させて回路を遮断するか、あるいは過電流によってヒューズ素子を溶断させて回路を遮断できる。例えば、特開2013-239405号公報(特許文献1)には、異常時に発熱する抵抗素子をセラミックス基板などの絶縁基板上に設けた保護素子が開示されている。
【0003】
現在、上述した保護素子のヒューズ素子を構成する可溶合金は、改正RoHS指令などの化学物質の規制強化により鉛フリー化が進んでいる。例えば、特開2015-079608号公報(特許文献2)に記載されるように、無鉛金属複合材のヒューズ素子であって、この保護素子を外部回路板に表面実装する際のはんだ付け作業温度において、溶融可能な易融性の低融点金属材と、前記はんだ付け作業温度で液相の低融点金属材に溶解可能な固相の高融点金属材とから成り、低融点金属材と高融点金属材とを一体成形することで、液相化した低融点金属材を固相の高融点金属材ではんだ付け作業が終わるまで保持することを特徴とするヒューズ素子がある。このヒューズ素子の低融点金属材と高融点金属材とは互いに固着成形され、はんだ付け作業の熱で液相化した低融点金属材を該作業温度で固相の高融点金属材で、溶断しないように保持しながら、液相の低融点金属材でヒューズ素子を保護素子の電極パターンに接合できるようにし工夫されている。さらに、この保護素子を回路基板に表面実装する際のはんだ付け作業温度においてヒューズ素子が溶断するのを防止している。この保護素子は内蔵している抵抗素子を発熱させ、その熱でヒューズ素子の高融点金属材を、媒質である低融点金属材中に拡散または溶解させて溶断動作するようなっている。
【0004】
パワーラインの電流を遮断する働きをする保護素子の電気抵抗値は、できる限り小さい方が電気エネルギーの損失が少なく好ましい。その点、ヒューズ素子に低電気抵抗材である銀製の高融点金属材を有することは、実に好都合である。しかし、銀製高融点金属材は、保護素子の動作温度で可溶しないので、低融点金属材への溶解または拡散が不充分で厚膜で残留した場合に、従来のヒューズ素子では、溶断に余分な時間を要したり極端な場合に溶断不良となったりする恐れがあり、電気抵抗値を下げるために高融点金属材を十分に厚く設けることができなかった。また、保護素子のヒューズ素子や電極基板などの小型化・薄型化の進展に伴い、より薄板のヒューズ素子を用いた場合は、高融点金属材を厚くできないため、高融点金属材が液相の低融点金属材に過度に拡散または溶解されて薄層化してしまい、ヒューズ素子を電極パターンに接合する際に、ヒューズ素子が変形したり、高融点金属材の表面が波打ったりしてエレメントの取り付けに支障を来たす場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1:特開2013-239405号公報
特許文献2:特開2015-079608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、保護素子の化学物質規制および抵抗低減と小型薄型化に対応したヒューズ素子およびそれを利用した電気・電子機器の保護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、所定の接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属と、第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属とを積層した複合金属材からなる温度ヒューズ素子が提供される。第1の可溶金属は、接合作業温度で成分の一部が溶解し、同作業温度で成分の一部または全部が溶融した第2の可溶金属と互いに所定成分同士が混ざり合って、それぞれが所定の溶融温度に漸近してゆく。本発明のヒューズ素子を用いることで、はんだペーストなどの接合材を用いることなくヒューズ素子をリフロー法により接合することができる。ヒューズ素子は、可溶金属で構成されているので溶断残留のおそれがない。また、銀製の高融点金属材を用いることなくヒューズ素子の電気抵抗を低減することができる。ヒューズ素子の変形や表面の波打ちの心配が無くより経済的な生産に寄与できる。
【0008】
本発明の別の観点よると、上記様態のヒューズ素子を利用した保護素子が提供される。すなわち、本発明に係る保護素子は、絶縁基板と、該絶縁基板に設けた複数の電極と、この電極のうち所定の電極に電気接続したヒューズ素子と、ヒューズ素子を加熱して溶断させるために該絶縁基板に設けられた発熱素子とを備え、ヒューズ素子は、接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属と、第1の可溶金属よりも低い溶融温度を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属とを積層した複合金属材からなる保護素子が提供される。
【0009】
本発明に係る保護素子は、少なくとも絶縁基板の所定電極とヒューズ素子の第2の可溶金属表面に接合用のフラックスを塗布し、前記所定電極に前記第2の可溶金属が接触するようにヒューズ素子を載置し、ヒューズ素子を載置した絶縁基板を少なくとも第2の可溶金属の固相線温度を超え、かつ第1の可溶金属の液相線温度未満になるように調整した所定の接合作業温度で、第2の可溶金属の一部または全部を溶融させ、第2の可溶金属に第1の可溶金属の一部を溶解させつつ互いに拡散あるいは混合させて、前記所定電極にヒューズ素子を接合した後、少なくともヒューズ素子に動作用の溶断フラックスを塗布し、溶断フラックスを塗布したヒューズ素子を絶縁基板ごとキャップ状蓋体で覆ってパッケージングして組み立てられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、ヒューズ動作時において通電をより確実に遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るヒューズ素子10(a)およびヒューズ素子20(b)の斜視図を示す。
【
図2】本発明に係る保護素子20の部品部材を分解した斜視図を示す。
【
図3】本発明の実施例1の保護素子30であり、(a)は(b)のd-d線に沿ってキャップ状蓋体を切断した平面図を示し、(b)は(a)のD-D線に沿った断面図を示し、(c)はその下面図を示す。
【
図4】本発明の実施例2の保護素子40であり、(a)は(b)のd-d線に沿ってキャップ状蓋体を切断した平面図を示し、(b)は(a)のD-D線に沿った断面図を示し、(c)はその下面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るヒューズ素子10は、
図1に示すように、接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属11と、第1の可溶金属11よりも低い溶融温度を有し、前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属12とを積層した複合金属材10からなる。第1の可溶金属11は、接合作業温度で成分の一部が溶解し、同作業温度で成分の一部または全部が溶融した第2の可溶金属12と互いに拡散あるいは混合されて、それぞれ所定の溶融温度に漸近してゆく。このヒューズ素子の第1の可溶金属11の一例として80Sn-20Ag合金(液相線温度370℃、固相線温度221℃)の合金材がある。さらに第2の可溶金属12の一例として60Sn-40Bi合金(液相線温度175℃、固相線温度139℃)の合金材がある。第1の可溶金属11の表面に第2の可溶金属12を積層した複合金属材によってヒューズ素子10を構成する。第1の可溶金属は、特に限定されず、少なくとも第2の可溶金属の固相線温度を超え、かつ第1の可溶金属の液相線温度未満(但し、周辺部品の耐熱性からピーク温度が概ね300℃未満であるのが好ましい)の所定の接合作業温度で成分の一部が溶解する無鉛錫系はんだ材であればよい。第2の可溶金属は、上記所定の接合作業温度で成分の一部または全部が溶融する錫または無鉛錫系はんだ材であればよい。また、第2の可溶金属12は、単一融点を有する金属単体または共晶合金でも溶融範囲を有する合金でもよい。前述の一例の他にも第1の可溶金属として、Sn-Cu合金、Sn-Sb合金、Sn-Zn合金、Sn-Al合金が利用でき、同様に他の第2の可溶金属として、Sn、Sn-Ag合金、Sn-Ag-Cu合金、Sn-Ag-Cu-Bi合金、Sn-Cu合金、Sn-In合金、Sn-Ag-In合金、Sn-Bi-Ag合金、Sn-Ag-Bi-In合金、Sn-Sb合金、Sn-Zn合金、Sn-Zn-Bi合金、Sn-Al合金などが利用できる。第1の可溶金属および第2の可溶金属は、何れもSnの含有量が多い無鉛金属材であり、従来の有鉛金属材と比べて酸化しやすい欠点がある。このため、さらに第1の可溶金属と第2の可溶金属の両方または何れか一方に、酸化防止の微量元素としてP、Ga、Geの少なくとも1つを、3ppmを超え300ppm未満となるように添加したものを使用してもよい。第1の可溶金属11が平板状の場合は、
図1(a)に示すように、第1の可溶金属11の板面の片面に第2の可溶金属12を積層してヒューズ素子10のようにするとよい。また
図1(b)に示すように、第1の可溶金属11の板面の両面に第2の可溶金属12を積層してヒューズ素子20のようにしてもよい。第1の可溶金属11に第2の可溶金属12を積層する手段は、特に限定されず第1の可溶金属11に第2の可溶金属12を積層できればよい。例えば、クラッド(圧着)、めっき、溶融コートなどの手段が利用できる。本発明のヒューズ素子は、はんだペーストを用いることなく直接電極上に載置してリフロー法により電極に接合させることができる。このヒューズ素子は、可溶金属で構成されているので溶断残留のおそれがない。なお、本明細書において80Sn-20Ag合金等の合金組成表記における元素記号の前の数字は該当元素の質量%を表す。
【0013】
本発明に係るヒューズ素子は、
図2に示すように、耐熱性の絶縁基板23に設けた導電部材からなる電極24aに溶融接合され保護素子のヒューズ素子25として使用される。接合作業温度は、少なくとも第2の可溶金属の固相線温度を超え、かつ第1の可溶金属の液相線温度未満となるように設定するのがよい。そして、少なくともヒューズ素子25を接合する所定電極24aと少なくともヒューズ素子25の第2の可溶金属22表面に接合用のフラックスを塗布し、所定電極24aに第2の可溶金属22が接触するようにヒューズ素子25を載置し、ヒューズ素子25と絶縁基板23とが上記接合作業温度になるまで加熱して、第1の可溶金属21の一部と第2の可溶金属22の一部または全部を溶融させて、所定電極24aにヒューズ素子25を接合させる。その後、少なくともヒューズ素子25に動作用の溶断フラックスを塗布し、溶断フラックスを塗布したヒューズ素子25を絶縁基板23ごとキャップ状の蓋体26で覆ってパッケージングし、組み立てられる。
【0014】
ヒューズ素子25の第1の可溶金属21の一例として80Sn-20Ag合金(液相線温度370℃、固相線温度221℃)と、第2の可溶金属22の一例として60Sn-40Bi合金(液相線温度175℃、固相線温度139℃)がある。この例の場合、上記の接合作業の結果、第1の可溶金属21は、上記作業温度で成分の一部が同作業温度で成分の一部または全部が溶融した第2の可溶金属22と互いに拡散混合されて、それぞれ所定の溶融温度に漸近して行く。第1の可溶金属21では、第2の可溶金属22側から液相拡散によりSnが移行して平衡状態に近づくのでSn成分が増加し、Ag濃度も拡散により第2の可溶金属22に移行し減少する。その結果、第1の可溶金属21におけるAg濃度は相対的に低下し、液相線温度が当初の370℃より固相線温度の221℃に向かって低下して行く。一方、第2の可溶金属22では、第1の可溶金属21の溶解および拡散によりSnが第1の可溶金属21側に移動して平衡状態に近づくのでSn成分が減少し、Bi濃度も拡散により第1の可溶金属21に移行し減少する。その結果、第2の可溶金属22においては、相対的にBi濃度が増加し、液相線温度が固相線温度の139℃に向かって低下するようになる。つまり、ヒューズ素子を接合するともに、第1の可溶金属21と第2の可溶金属22の共通元素であるSn成分の平衡移動と互いの側に異種元素であるAgとBiの相互拡散を利用して、互いの液相線温度と固相線温度の差を減少させて、ヒューズ動作温度範囲を自己調節させる。上記構成のヒューズ素子は、従来ヒューズ素子の固体純銀被覆をSn系の無鉛はんだで溶食させるより速やかに溶断させることができ、また、銀被覆を使用しないため、硫化腐食や銀マイグレーション、銀被覆の残留による溶断不良の心配がない。
【0015】
本発明に係る保護素子は、前記ヒューズ素子を利用したものであり、
図2に示すように、絶縁基板23と、絶縁基板23に設けた複数の電極24a、24bと、電極24a、24bのうち所定の電極(
図2では24a)に電気接続したヒューズ素子25と、ヒューズ素子25を加熱して溶断させるために絶縁基板23に設けられ所定の電極に電気接続した発熱素子(
図2では絶縁基板23の裏面に配置)とを備え、ヒューズ素子25は、接合作業温度で成分の一部が溶解する第1の可溶金属21と、第1の可溶金属21よりも低い温度の溶融範囲を有し前記接合作業温度で少なくとも成分の一部が溶融する第2の可溶金属22とを積層した複合金属材25からなる。
【実施例】
【0016】
本発明に係る実施例1のヒューズ素子10は、
図1(a)に示すように、厚さ80μmの70Sn-30Ag合金(液相線温度415℃、固相線温度221℃)の合金板からなる第1の可溶金属11と、厚さ10μmの60Sn-40Bi合金(液相線温度175℃、固相線温度139℃)の合金板からなる第2の可溶金属12とをクラッドにより積層した複合金属材10で構成される。この他にも
図1(a)に示すヒューズ素子10には、厚さ65μmの67Sn-33Ag合金(液相線温度416℃、固相線温度220℃)の合金板からなる第1の可溶金属11と、厚さ25μmの30Sn-70Bi合金(液相線温度173℃、固相線温度139℃)の合金板からなる第2の可溶金属12とをクラッドにより積層した複合金属材10なども利用できる。
【0017】
本発明に係る実施例2のヒューズ素子20は、
図1(b)に示すように、厚さ80μmの80Sn-20Ag合金(液相線温度370℃、固相線温度221℃)の合金板からなる第1の可溶金属11の上下面に、厚さ5μmの60Sn-40Bi合金(液相線温度175℃、固相線温度139℃)の合金板からなる第2の可溶金属12をクラッドにより積層した3層の複合金属材で構成される。ヒューズ素子20は、第1の可溶金属11の上下面に第2の可溶金属12を設けることで表裏の方向性が無く、保護素子の組立工程おいてヒューズ素子板の誤載置を防止することができる。
【0018】
実施例1または実施例2のヒューズ素子は、それぞれ、
図2に示すようなアルミナ・セラミックスの絶縁基板23の表面に設けたAg合金の電極24aに接合されて、以下に示す実施例4または実施例5の保護素子を形成する。該ヒューズ素子は、予め接合フラックスを塗布した絶縁基板の電極24aとヒューズ素子25の第2の可溶金属22とを互いに接触させて載置し、温度プロファイルが余熱温度110~130℃で滞留時間70秒、150℃以上の滞留時間が30秒、ピーク温度が170℃となるようにリフロー炉に通して、第1の可溶金属21の一部を溶解させ、第2の可溶金属22の一部または全部を溶融させて互いの共通元素のSn相を相互拡散させ平衡状態に漸近させるとともに、溶融した第2の可溶金属22によりヒューズ素子25を電極24aに接合させる。ヒューズ素子25を電極24aに接合させた後、ヒューズ素子25に溶断フラックスを塗布し、絶縁基板23ごとヒューズ素子25を耐熱プラスチック製のキャップ状蓋体26で覆って、キャップ状蓋体26と絶縁基板23とをエポキシ系樹脂で固定して保護素子とする。
【0019】
本発明に係る実施例4の保護素子は、実施例1または実施例2のヒューズ素子を利用した保護素子であり、
図3に示すように、アルミナ・セラミックスの絶縁基板33と、絶縁基板33の上下面に設けた複数のAg合金製パターン電極34と、パターン電極34と電気接続され絶縁基板33の下面に設けた抵抗発熱素子38と、絶縁基板33の上面のパターン電極34に電気接続したヒューズ素子35と、ヒューズ素子35の上部を覆って絶縁基板に固着した液晶ポリマー製のキャップ状蓋体36とを備え、ヒューズ素子35は、厚さ80μmの70Sn-30Ag合金(液相線温度415℃、固相線温度221℃)の合金板からなる第1の可溶金属31と、厚さ10μmの60Sn-40Bi合金(液相線温度175℃、固相線温度139℃)の合金板からなる第2の可溶金属32とをクラッドにより積層した複合金属材35からなり、パターン電極34は、基板上下面のパターン電極34を電気接続するAg合金のハーフ・スルーホール37を有する。特に図示しないが、実施例4の抵抗発熱素子の表面はガラス材のオーバーグレーズを施している。実施例4の保護素子の発熱素子38は、ヒューズ素子35が設けられた絶縁基板33の基板面(上面)とは異なる基板面(下面)に設けられている。
【0020】
本発明に係る実施例5の保護素子は、実施例4の保護素子を変形したもので、実施例1または実施例2のヒューズ素子を利用した保護素子である。
図4に示すように、アルミナ・セラミックスの絶縁基板43と、絶縁基板43の上下面に設けた複数のAg合金製パターン電極44と、パターン電極44と電気接続され絶縁基板43の上面に設けた抵抗発熱素子48と、抵抗発熱素子48に当接して絶縁基板43の上面のパターン電極44に電気接続したヒューズ素子45と、ヒューズ素子45の上部を覆って絶縁基板43に固着した液晶ポリマー製のキャップ状蓋体46とを備え、ヒューズ素子45は、厚さ80μmの80Sn-20Ag合金(液相線温度370℃、固相線温度221℃)の合金板からなる第1の可溶金属41と、厚さ10μmの60Sn-40Bi合金(液相線温度175℃、固相線温度139℃)の合金板からなる第2の可溶金属42とをクラッドにより積層した複合金属材45からなり、パターン電極44は、基板上下面のパターン電極44を電気接続するAg合金のハーフ・スルーホール47を有する。特に図示しないが、実施例5の抵抗発熱素子48の表面はガラス材のオーバーグレーズを施している。実施例5の保護素子の発熱素子48は、ヒューズ素子45が設けられた絶縁基板43の基板面(上面)と同一の基板面(上面)に設けられている。
【0021】
実施例4および実施例5の保護素子は、絶縁基板上下面のパターン電極を電気接続する配線手段は、ハーフ・スルーホールに替えて該基板を貫通した導体スルーホールや、平面電極パターンによる表面配線に変更してもよい。
【0022】
実施例1ないし実施例5の第2の可溶金属を構成するSn-Bi合金は、電極に対する濡れ性を向上させるため、上記Sn-Bi合金にさらにAgを添加したSn-Bi-Ag合金に替えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の複合金属材からなるヒューズ素子は、リフローなど全体加熱溶融により保護素子に組込み搭載できる。このヒューズ素子を用いた保護素子は、他の表面実装部品と共に再びリフロー・ソルダリングにより電気回路基板にはんだ付け実装されて、電池パックなど2次電池の保護装置に利用できる。
【符号の説明】
【0024】
10、20・・・ヒューズ素子、
11、21、31、41・・・第1の可溶金属、
12、22、32,42・・・第2の可溶金属、
23、33、43・・・絶縁基板、
24a、24b、34、44・・・電極、
25、35、45・・・ヒューズ素子(複合金属材)、
26、36、46・・・蓋体、
27、37、47・・・ハーフ・スルーホール、
38、48・・・発熱素子。