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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】生体分子の可逆的保護のための試薬
(51)【国際特許分類】
   C07D 498/04 20060101AFI20230221BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20230221BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230221BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C07D498/04 111
C07D498/04 CSP
C12N9/10
C12Q1/686 Z
C12N9/99
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019523188
(86)(22)【出願日】2017-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 FR2017051925
(87)【国際公開番号】W WO2018011527
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-05-15
(31)【優先権主張番号】1656791
(32)【優先日】2016-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(73)【特許権者】
【識別番号】519010318
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ ドゥ カーン ノルマディー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ウルスギ,シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ロラン,アラン
(72)【発明者】
【氏名】ラヨン,アリ
(72)【発明者】
【氏名】ファビ,フレデリック
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-529100(JP,A)
【文献】国際公開第2004/052312(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/003929(WO,A1)
【文献】J. Org. Chem.,1998年,63,6797-6801
【文献】ISIDOR MORRIS HEILBRON,CCXCII.―CHEMICAL REACTIVITY AND CONJUGATION. PART II. THE REACTIVITY OF THE 以下備考,JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY,1925年,VOL:127,PAGE(S):2167 - 2175,http://dx.doi.org/10.1039/CT9252702167,2-METHYL GROUP IN THE 4-QUINAZOLONE SERIES
【文献】Eur J Med Chem,1993年,28,505-511
【文献】REGISTRY(STN)[online],2016年02月22日,RN:1871509-91-9、[検索日2021/06/22]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の化合物:
【化1】

(式中、
Xは、共有結合またはC~Cアルキルであり、
Yは、O、S、NR、O-NR、NH-O、NH-NR、C(O)-O-NR、C(O)-NH-O、C(O)-NH-NR、O-C(O)-NH-NR、NH-C(O)-NH-NR、O-C(O)-NH-O、NH-C(O)-NH-O、O-C(O)-O-NR、NH-C(O)-O-NR、または、C(O)-Sから選択される求核基であり、Rは、HまたはC-Cアルキル基であり、
但し、Yが、O、S、およびNRから選択される場合、Xは結合ではなく、
、Z、Zは、それぞれ互いに独立して、NまたはCを表し、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~Cアルキル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル、置換されたもしくは置換されていないアリール基、または置換されたもしくは置換されていないヘテロ環であり、
は、アミド、エーテル、エステル、アセタール、カーボネート、チオエーテル、チオエステル、チオアセタール、チオカーボネート、モノメトキシトリチル(MMT)、ジメトキシトリチル(DMT)、置換され得るフェノキシ酢酸、シトラコニル、tert-ブトキシカルボニル(BOC)、ベンジルオキシカルボニル、トリチル(Trt)、メトキシトリチル、ジメトキシトリチル、ベンジルオキシメチル(Bom)またはt-ブトキシメチル(Bum)から選択される保護基であり、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~C12アルキル基、置換されたもしくは置換されていないアリール基、置換されたもしくは置換されていないヘテロ環、アシル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル基、ハロゲン、またはシアノ基である)。
【請求項2】
下記式(II)の、請求項1に記載の化合物。
【化2】
【請求項3】
記R は、tert-ブトキシカルボニル(BOC)基、置換されたもしくは置換されていないフェノキシアセチル基、トリチル基、メトキシトリチル基、ジメトキシトリチル基、またはシトラコニル基から選択される、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
がメチル基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
がヨウ素である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
がN、かつZがCである、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
下記構造式の1つに特徴づけられる、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【化3】

【化4】

【化5】
【請求項8】
保護された生体分子を形成するために、前記生体分子の1つ以上の求核基がアシル化される条件下において、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物を、1つ以上の求核基を含む生体分子と接触するように配置する工程を含み、前記生体分子は、核酸ポリマー、多糖類、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質から選択される、保護された生体分子の作製方法。
【請求項9】
下記式(III)の保護された生体分子:
【化6】

(式中、
Biomolは、核酸ポリマー、多糖類、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質から選択される生体分子であり、
Wは、前記生体分子の求核基であり、
Xは、共有結合またはC~Cアルキルであり、
Yは、O、S、NR、O-NR、NH-O、NH-NR、C(O)-O-NR、C(O)-NH-O、C(O)-NH-NR、O-C(O)-NH-NR、NH-C(O)-NH-NR、O-C(O)-NH-O、NH-C(O)-NH-O、O-C(O)-O-NR、NH-C(O)-O-NR、または、C(O)-Sから選択される求核基であり、Rは、HまたはC-Cアルキル基であり、
但し、Yが、O、S、およびNRから選択される場合、Xは結合ではなく、
、Z、Zは、それぞれ互いに独立して、NまたはCを表し、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC-Cアルキル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル、置換されたもしくは置換されていないアリール基、または置換されたもしくは置換されていないヘテロ環であり、
は、アミド、エーテル、エステル、アセタール、カーボネート、チオエーテル、チオエステル、チオアセタール、チオカーボネート、モノメトキシトリチル(MMT)、ジメトキシトリチル(DMT)、置換され得るフェノキシ酢酸、シトラコニル、tert-ブトキシカルボニル(BOC)、ベンジルオキシカルボニル、トリチル(Trt)、メトキシトリチル、ジメトキシトリチル、ベンジルオキシメチル(Bom)またはt-ブトキシメチル(Bum)から選択される保護基であり、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~C12アルキル基、置換されたもしくは置換されていないアリール基、置換されたもしくは置換されていないヘテロ環、アシル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル基、ハロゲン、またはシアノ基である)。
【請求項10】
前記Biomolが、酵素から選択される、請求項9に記載の保護された生体分子。
【請求項11】
前記Biomolが、核酸重合反応で使用される酵素である、請求項10に記載の保護された生体分子。
【請求項12】
酵素を可逆的に失活させるための、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項13】
前記酵素が、核酸重合反応で使用される酵素である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
核酸増幅反応における、請求項11に記載の保護された生体分子の使用。
【請求項15】
請求項9~11のいずれか一項に記載の保護された生体分子における、求核基の脱保護方法であって、前記R をそれぞれ熱処理および/または酸処理することで開裂させる工程、およびこれに付随する求核基の脱保護を含む、求核基の脱保護方法。
【請求項16】
(i)請求項11に記載の保護された生体分子の使用、
(ii)前記生体分子の脱保護のための少なくとも1つの工程、
(iii)工程(ii)において脱保護されたポリメラーゼを用いた核酸重合工程、を含む核酸の重合方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、生体分子の可逆的保護のための試薬に関する。本発明は、特に、アザイサト酸無水物由来の化合物、および生体分子(特に、酵素)を保護し、該生体分子の活性を阻害するための該化合物の使用に関する。また、本発明は、上述の方法で保護された生体分子、および該試薬を使用する方法に関する。
【0002】
〔背景技術〕
生体サンプルに存在する標的核酸の特異的で迅速な定量のために生体分子技術を用いた、近年のインビトロにおける診断テストでは、特定のプライマーから標的核酸を増幅させることができる、ポリメラーゼ酵素がもっともよく使用される。
【0003】
いわゆる「ホットスタート」ポリメラーゼは、野生型と比較すると多くの点で優れ、特に診断テストにおいて優れた感度を示すため、開発された。
【0004】
「ホットスタート」ポリメラーゼの作用原理は、抗体、アプタマー、または化学薬品によって活性を一時的に阻害し、PCR増幅の間に温度を急速に上昇させて活性を回復させる。
【0005】
低コストであるため、化学薬品によって阻害することが特に有利である。リジン残基のアミン官能基のアシル化によるポリメラーゼの失活は、先行技術に記載されている(例えば、Ariel Louwrier, Anne van der Valkによる、Enzyme and Microbial Technology 36 (2005) 947-952, 「Thermally reversible inactivation of Taq polymerase in an organic solvent for implementation in hot start PCR」を参照のこと。)。第1PCRサイクル中の95℃での変性工程または、引き上げられた温度での前活性化工程において、保護基が開裂し、酵素活性が回復する。
【0006】
米国特許US5677152およびUS5773258は、Taqポリメラーゼのリジン中のNH基を一時的に保護するための、水性溶媒におけるシトランコン酸無水物およびその誘導体の使用を開示する。無水物とアミンの反応後に生成されるアミドは、PCR反応で用いられるトリス緩衝液の存在下における熱処理後に酸性化した溶媒によって、加水分解される。
【0007】
また、イサト酸無水物誘導体が、タンパク質上に存在するアミンのような求核基と反応することができることが示されている。1982年に、Moorman A. R.らは、イサト酸無水物による、タンパク質、キモトリプシンのアシル化を開示した(Moorman A. R., Abeles R. H. J., Am. Chem. Soc., 1982, 104, 6785-6786)。この反応は、安定なアントラリン誘導体を生成することで、タンパク質を失活させる。より近年、Hookerらは、イサト酸無水物の反応性を用いて、リゾチーム分子のリジン残基を改変し、さらに酸化カップリングを通して機能できるようになるアニリンモチーフを導入する(Hooker J. M., Esser-Kahn A.B., Francis M. B., J. Am. Chem. Soc., 2006, 106, 1558-1559)。このように、リジンの側鎖上に存在するアミン基の、イサト酸無水物によるアシル化により、非常に安定したアミド結合を形成する。
【0008】
フランス特許出願FR1257526は、リボ核酸(RNA)またはキメラ核酸(RNA/DNA)を機能化、ラベリング、捕捉、または分離するためのイサト酸無水物由来のアシル化試薬を開示する。より具体的には、アシル化試薬は、これらの生体分子において所望の官能基を修正する目的で記載されている。
【0009】
本発明は、生体分子の可逆的保護のための新しい試薬、特に、「ホットスタート」酵素(「ホットスタート」酵素とは、熱処理によって簡単に脱保護される酵素を意味する)を作製するための試薬を提供する。該新しい試薬は、好ましくは、1つ以上の以下の優れた点を有する:
高価でない、
安定している、
水性溶媒に溶解する、
反応速度、ならびに脱保護速度が効率的である、
生体分子と反応したときの生成物が安定である、
熱による脱保護のためのトリス緩衝液の使用が不要である、および/または、
不要な副反応が発生しない。
【0010】
そのため、本願中に記載される試薬は、Taqポリメラーゼのような核酸の重合に関する酵素、または特定の逆転写酵素、およびインビトロにおける診断技術で使用されるより一般的な酵素を一時的に不活性化するのに、特に適している。
【0011】
〔概要〕
そのため、本発明は、下記式(I)の化合物に関する:
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、
Xは、共有結合またはC~Cアルキルであり、
Yは、求核基であり、好ましくは、O、S、NR、O-NR、NH-O、またはNH-NRであり、Rは、HまたはC~Cアルキル基であり、
、Z、Zは、それぞれ互いに独立して、NまたはCを表し、好ましくは、ZはCを表し、より好ましくは、ZはCであり、かつRはZに位置し、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~Cアルキル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル、置換されたもしくは置換されていないアリール基、または置換されたもしくは置換されていないヘテロ環であり、好ましくは、Rはメチル基またはエチル基であり、
は、非耐熱性および/または非耐酸性保護基であり、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~C12アルキル基(例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、または2,2-ジメチルプロピル基)、置換されたもしくは置換されていないアリール基、置換されたもしくは置換されていないヘテロ環、アシル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル基、ハロゲン(例えばF、Cl、BrおよびI)、またはシアノ基である)。
【0014】
好ましい実施形態において、本発明に係る化合物は、下記式(II)である:
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、X、Y、Z、Z、R、RおよびRは、上述の式(I)と同一である)。
【0017】
特定の一実施形態において、上記式(I)および式(II)中の前記非耐熱性および/または非耐酸性基Rは、tert-ブトキシカルボニル(BOC)基、置換されたもしくは置換されていないフェノキシアセチル基、トリチル基、メトキシトリチル基、ジメトキシトリチル基、またはシトラコニル基から選択される。
【0018】
特定の一実施形態では、先行する実施形態と組み合わせてもよく、Rはメチル基である。
【0019】
特定の一実施形態では、先行する実施形態と組み合わせてもよく、Rはヨウ素である。
【0020】
特定の一実施形態では、先行の実施形態と組み合わせてもよく、ZはN、かつZはCである。
【0021】
特に、本発明は、下記構造式を有する化合物のうちの1つに関する。
【0022】
【化3】
【0023】
また、本発明は、保護された生体分子を形成するために、前記生体分子の1つ以上の求核基がアシル化される条件下において、上述のような本発明の化合物を、1つ以上の求核基を含む生体分子と接触するように配置する工程を含む、保護された生体分子の作製方法に関する。
【0024】
特に好ましい実施形態において、生体分子はアミン官能基を含む。特に、生体分子は、求核官能基、特にタンパク質のリジン残基またはアミノ酸末端におけるアミン官能基、セリンにおけるアルコール官能基、および/またはシステインのチオール官能基を含む、タンパク質である。
【0025】
本発明は、特に、下記式(III)で表される保護された生体分子に関する:
【0026】
【化4】
【0027】
(式中、
Biomolは生体分子であり、
Wは、前記生体分子の求核基(好ましくは、NH、SまたはO)であり、かつ、
Xは、共有結合またはC~Cアルキルであり、
Yは、求核基であり、好ましくは、O、S、NR、O-NR、NH-O、またはNH-NRであり、Rは、HまたはC~Cアルキル基であり、
、Z、Zは、それぞれ互いに独立して、NまたはCを表し、好ましくは、ZはCを表し、より好ましくは、ZはCであり、かつRはZに位置し、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~Cアルキル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル、置換されたもしくは置換されていないアリール基、または置換されたもしくは置換されていないヘテロ環であり、好ましくは、Rはメチル基またはエチル基であり、
は、H、または非耐熱性および/または非耐酸性保護基であり、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~C12アルキル基(例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、または2,2-ジメチルプロピル基)、置換されたもしくは置換されていないアリール基、置換されたもしくは置換されていないヘテロ環、アシル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル基、ハロゲン(例えば、F、Cl、BrおよびI)、またはシアノ基である)。
【0028】
特定の一実施形態において、Biomolは、タンパク質、特に酵素から選択される。
【0029】
特に好ましい実施形態において、Biomolは、核酸重合反応で使用される酵素(例えばDNAポリメラーゼ)である。
【0030】
また、開示されるのは、本発明に係る化合物によって保護された生体分子における、求核基の脱保護方法であって、該方法は、1つまたは複数の前記非耐熱性および/または非耐酸性基Rをそれぞれ熱処理および/または酸処理することで開裂させる工程、およびこれに付随する生体分子における求核基の脱保護を含む方法である。
【0031】
そのため、本発明は、酵素を可逆的に失活させるための、本発明の化合物の使用にも関する。好ましい一実施形態において、本発明の化合物は、核酸重合反応で使用される酵素(例えばDNAポリメラーゼ)の可逆的失活のために使用される。
【0032】
本発明は、さらに、本発明に係る化合物によって、失活したポリメラーゼ酵素の使用、および、核酸増幅工程に先行する、1つまたは複数の非耐熱性基Rが開裂し、求核基を脱保護できるような温度での少なくとも1回の熱処理工程を含む核酸の増幅方法に関する。
【0033】
<定義>
「置換されたもしくは置換されていない」なる用語は、基に存在する1つ以上の水素が、官能基(例えば、以下の群より選択される:アミン、イミン、ニトリル、シアノ、アミド、イミド、ヒドロキシル、アルコキシル、カルボニル、カルボキシル、エステル、チオール、チオエーテル、チオエステル、およびハロゲン化物)によって置換されていてもよいことを意味する。
【0034】
「C~Cアルキル基」は、x~y個の炭素原子を有する、直鎖状もしくは分枝鎖状アルキル鎖、またはシクロアルキルを表す。直鎖状のアルキル鎖の例として、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、およびn-デシルが挙げられる。分枝鎖状アルキル鎖の例として、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチル、イソペンチル、2,2-ジメチルプロピル、イソオクチル、イソノニル、およびイソデシルが挙げられる。シクロアルキルの例として、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが挙げられる。
【0035】
「アリール」なる用語は、環中、ヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素を表す。例えば、アリール基は、芳香族環の一部に6~14個の炭素原子を含んでいても良い。アリール基の例として、フェニル、ビフェニル、フェナントレニル、ピレニル、クリセニル、アントラセニル、およびナフチルが挙げられる。
【0036】
「ヘテロ環」なる用語は、飽和または不飽和の少なくとも1つの環を有する官能基を表し、環を形成する原子の少なくとも1つは、ヘテロ原子(例えば、N、OまたはS等)である。ヘテロ環は、複数の縮合環から成ってもよい。例えば、ヘテロ環は、環の一部に6~14個の原子を含んでもよい。
【0037】
「アシル」なる用語は、カルボニル基、カルボニルの炭素原子を介して分子と結合している、アシル基を含むグループを表す。また、炭素原子は、置換されたもしくは置換されていないアルキル基、置換されたもしくは置換されていないアリール基、または置換されていないヘテロ環に属する他の炭素原子に結合する。例えば、アシル基は、2~12個の炭素原子を含む。
【0038】
「アルケニル」なる用語は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する、直鎖状もしくは分枝鎖状アルキル鎖、またはシクロアルキルを表す。アルケニル基の例として、ビニル、-CH=CH(CH)、-CH=C(CH、-C(CH)=CH、-C(CH)=CH(CH)、-C(CHCH)=CH、シクロヘキシニル、シクロペンテニル、シクロヘキサジエニル、ブタジエニル、ペンタジエニル、およびヘキサジエニルが挙げられる。例えばアルケニル基は、2~12個の炭素原子を含む。
【0039】
「求核」または「求核基」なる用語は、適した反応条件下において、結合を形成するのに必要な2つの電子を供給することによって、反応部(求電子)と共有結合を形成することができる基を表す。1つ以上の求核基は、自然に生体分子(例えば、タンパク質または酵素中の、リジンにおけるアミン基、ポリペプチド鎖のアミン末端、セリンのアルコール、またはシステインにおけるチオール基)中に存在し得る。
【0040】
「保護基」なる用語は、分子の反応性の一部またはすべてを隠すために、化学官能基から分子へ導入される官能基を表す。分子上の化学官能基を隠す(保護する)ことで、その後の反応の選択性が向上する。そのため、「保護」または「保護された」なる用語は、保護基との反応後の分子の状態を表す。「保護された生体分子」は、保護基によって保護された1つ以上の化学官能基を有する生体分子である。酵素において、保護された酵素は失活していてもよい。脱保護は、保護された分子から一部またはすべての保護基を分離し、好ましくは、本発明の化合物による保護以前の当初の状態の分子を得る工程を表す。
【0041】
「非耐熱性保護基」は、室温(例えば、15℃~25℃)で安定であり、熱処理(加熱工程)によって、結合している分子から開裂、分離、塩析される、保護基を表す。熱処理とは、例えば、50℃~100℃の温度で、特に、生体分子(例えば、酵素)が最適に機能するのに適した緩衝液の存在下での処理である。
【0042】
非耐熱性保護基は、特に、Koukhareva et al, Anal. Chem., 2009, 81, 4955-4962;またはTrinlink Biotechnologies(WO2012/09434およびUS8,133,669)に記載の保護基を含む。
【0043】
非耐熱性保護基の例として、一般的に、アミド、エーテル、エステル、アセタール、カーボネート、チオエーテル、チオエステル、チオアセタール、チオカーボネート、および特に、Koukhareva et al, Anal. Chem., 2009, 81, 4955-4962に記載の保護基、またはモノメトキシトリチル(MMT)、ジメトキシトリチル(DMT)、および/または置換されたもしくは置換されていないフェノキシ酢酸が挙げられる。
【0044】
「非耐酸性保護基」なる用語は、中性状態または塩基性状態において安定であり、室温で酸性状態(例えば、pH6.0または5.0未満での処理)で開裂、分離、または塩析される、保護基を表す。非耐酸性保護基の例として、特に、シトラコニル、tert-ブトキシカルボニル(BOC)、ベンジルオキシカルボニル、トリチル(Trt)、メトキシトリチル、ジメトキシトリチル、ベンジルオキシメチル(Bom)、またはt-ブトキシメチル(Bum)が挙げられる。その他の非耐酸性保護基の例は、Chem. Rev., 2009, 109 (6), pp 2455-2504に記載される。より具体的には、2467頁および2493頁に、保護基がヒドロキシル官能基の保護基であるかまたはアミン官能基の保護基である旨が記載されている。
【0045】
「生体分子」なる用語は、有機生命体によって合成可能なすべてのマクロ分子を含むと、広く理解されたい。特に、「生体分子」は、核酸ポリマー(特に、DNAまたはRNA)、多糖類、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質(特に、酵素)を含む。
【0046】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」なる用語は、相互変換可能であり、アミノ酸のポリマーまたはオリゴマーを表す。そのようなポリマーのアミノ酸は、2つのアミノ酸のカルボキシル基とアミン基との間が、ペプチド結合によって結合している。タンパク質は、非共有結合および/またはジスルフィド架橋によって結合した複数のポリペプチドを含み得る。
【0047】
本発明の意味において、「アミノ酸」なる用語は、自然発生的アミノ酸もしくは非自然発生的アミノ酸、またはこれらの置換された誘導体を含む。
【0048】
<生体分子の保護のための試薬>
生体分子の保護のための本発明の化合物または試薬は、生体分子(例えば、タンパク質)の一時的保護(「可逆的」保護)求核基(アミン等)として有用なイサト酸無水物誘導体である。
【0049】
本発明の化合物は、生体分子、特に、タンパク質の求核基と反応する。例えば、化合物は、タンパク質(または酵素)中のリジンのアミンεまたはタンパク質(または酵素)中のN末端アミン、タンパク質(または酵素)中のセリンのアルコールまたはタンパク質中のシステインのチオールと反応し、それぞれ、アミド結合、エステル結合またはチオエステル結合を形成し得る。タンパク質または酵素中の求核官能基のうち、好ましくは、少なくとも1つが、タンパク質の官能基および/または酵素の官能基の立体配座を維持するのに重要な働きをもつ。そのため、上述の重要な求核官能基(例えば、リジン、セリンまたはシステイン)を保護することで、タンパク質または酵素を失活させる。
【0050】
有利には、生体分子と本発明の化合物との間で得られるアミド結合、エステル結合、および/またはチオエステル結合は、特に、低温または室温で安定である。生体分子は、例えば、保存または輸送における室温条件下で、本発明の化合物と併せると、失活し得る。より具体的には、以下の原則に沿って、酵素の脱保護のための条件を生じさせることで、酵素の反応開始点を制御することが可能である:
第1工程において、本発明の化合物と酵素の求核基とのアシル化反応により、本発明の化合物を反応させ、保護された酵素を得る工程、
第2工程において、酸処理および/または熱処理によって、本発明の化合物中に存在する非耐熱性および/または非耐酸性保護基を開裂させることで、本発明の化合物の求核官能基を脱保護し、本発明の化合物の前記求核官能基を保護する工程、
第3工程において、酵素の可逆的なアシル化、脱保護、および酵素活性の保存が付随的に可能となる、本発明の化合物中の脱保護された求核官能基と、酵素のアシル化によって得られるアミド、エステル、またはチオエステル中のカルボニルと、の間を環化する工程。
【0051】
以下の文章中において、明言されない限り、「本発明の化合物」なる用語は、下記式(I)の化合物、ならびにこれらの特定の下位の式(特に式(II)~(VI))、これらの化合物の塩、これらの立体異性体(ジアステレオマーおよびエナンチオマーを含む)、互変体、および同位体標識した化合物(重水素置換体および放射性同位体を含む)を表す。
【0052】
下記式(I)の本発明の化合物は、特に、
【0053】
【化5】
【0054】
分子中の求核基をアシル化できる、アザイサト無水物モチーフ、
ひとたび分離すると、アシル化によって生成されたアミド結合を開裂させる、非耐熱性および/または非耐酸性基Rによって保護された求核官能基Y、
求核官能基の脱保護後の環化を促すよう設計された、イサト酸無水物と求核官能基との間の接続腕X、
熱処理および/または酸処理工程中、求核官能基Yを分離でき、これにより分子間環化する、求核基Y中の非耐熱性および/または非耐酸性保護基R
好ましくは、求核周辺の立体障害および分子間環化運動の促進を引き起こすことができる、立体的に嵩高い基R(このような立体障害の存在が、分子間環化運動に非常に有利となり、生体分子中の求核基の脱保護の速度にも非常に有利となることが、偶然にも発見された)、を提供する。
【0055】
よって、本発明の目的は、下記式(I)の化合物である:
【0056】
【化6】
【0057】
(式中、
Xは、共有結合またはC~Cアルキルであり、
Yは、求核基であり、
、Z、Zは、それぞれ互いに独立して、NまたはCを表し、好ましくは、ZはCを表し、より好ましくは、ZはCであり、かつRはZに位置し、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~Cアルキル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル、置換されたもしくは置換されていないアリール基、または置換されたもしくは置換されていないヘテロ環であり、好ましくは、Rはメチル基またはエチル基であり、
は、非耐熱性および/または非耐酸性保護基であり、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~C12アルキル基(例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、または2,2-ジメチルプロピル基)、置換されたもしくは置換されていないアリール基、置換されたもしくは置換されていないヘテロ環、アシル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル基、ハロゲン(例えばF、Cl、BrおよびI)、またはシアノ基である)。
【0058】
好ましくは、前記基Z、ZおよびZのうち1つだけが、Nである。
【0059】
特定の一実施形態において、Xは、置換されていないC~Cアルキル(例えば、メチル)である。
【0060】
一実施形態において、Rは、H、C~Cアルキル基、アルケニル、アリール基またはヘテロ環である。前記アルキル、アルケニル、アリール基またはヘテロ環は、ニトリル、シアノ、アミド、イミド、アルコキシ、カルボニル、カルボキシル、エステル、チオエーテル、チオエステル、およびハロゲン化物から選択される1つ以上の官能基によって置換され得る。
【0061】
一実施形態において、Rは、ニトリル、シアノ、アミド、イミド、アルコキシ、カルボニル、カルボキシル、エステル、チオエーテル、チオエステルおよびハロゲン化物から選択される1つ以上の官能基によって置換され得るC~Cアルキル基である。
【0062】
一実施形態において、Rは、アミド、エーテル、エステル、アセタール、カーボネート、チオエーテル、チオエステル、チオアセタール、チオカーボネート、モノメトキシトリチル(MMT)、ジメトキシトリチル(DMT)、置換され得るフェノキシ酢酸、シトラコニル、tert-ブトキシカルボニル(BOC)、ベンジルオキシカルボニル、トリチル(Trt)、メトキシトリチル、ジメトキシトリチル、ベンジルオキシメチル(Bom)またはt-ブトキシメチル(Bum)から選択される保護基である。
【0063】
一実施形態において、Rは、H、C~C12アルキル基、アリール基、ヘテロ環、アシル基、アルケニル基、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、およびI)またはシアノである。前記アルキル、アリール、ヘテロ環、またはアルケニル基は、ニトリル、シアノ、アミド、イミド、アルコキシ、カルボニル、カルボキシル、エステル、チオエーテル、チオエステル、およびハロゲン化物基から選択される1つ以上の官能基によって置換され得る。
【0064】
一実施形態において、Rは、C~C12アルキル基またはハロゲン(例えば、F、Cl、Br、およびI)である。前記アルキル基は、ニトリル、シアノ、アミド、イミド、アルコキシ、カルボニル、カルボキシル、エステル、チオエーテル、チオエステル、およびハロゲン化物基から選択される1つ以上の官能基によって置換され得る。
【0065】
は、環化運動を促進するように配置される。例えば、一実施形態において、Rは、好ましくは6番の位置である。
【0066】
特定の一実施形態において、Rは、tert-ブチル基、イソプロピル基、シアノ基またはヨウ素原子である。
【0067】
特定の一実施形態において、YはS-S結合とは異なる。特定の他の実施形態において、2価の求核基Yは、O、S、NR、O-NR、NH-O、NH-NR、C(O)-O-NR、C(O)-NH-O、C(O)-NH-NR、O-C(O)-NH-NR、NH-C(O)-NH-NR、O-C(O)-NH-O、NH-C(O)-NH-O、O-C(O)-O-NR、NH-C(O)-O-NR、C(O)-Sから選択され、かつ、Rは、HまたはC~Cアルキル基である。
【0068】
一実施形態において、環Rに結合している主鎖上の原子の数を意味する、X+Yの直線原子の数(異なるH、またはR置換基は数に入れない)は、2以上(例えば2~4)である。
【0069】
好ましくは、Yは、O、S、およびNHから選択される。この場合、Xは結合ではない。
【0070】
好ましい他の実施形態において、Yは、O、S、およびNRから選択され、Xは結合ではない。より好ましい実施形態において、本発明の化合物は、下記式(II)の化合物である。
【0071】
【化7】
【0072】
特定の一実施形態において、上記式(I)および式(II)中の非耐熱性または非耐酸性基Rは、tert-ブトキシカルボニル(BOC)、置換されたもしくは置換されていないフェノキシアセチル、トリチル、メトキシトリチル、ジメトキシトリチル、またはシトラコニル基から選択される。
【0073】
フェノキシ酢酸基の非耐熱性特性は、Lebedev A.らによって証明された(Koukhareva I., Lebedev A., Anal. Chem. 2009, 81, 4955-4962)。特定の一実施形態において、保護基Rは、非耐熱性保護基であり、置換されたもしくは置換されていないフェノキシアセチル、好ましくはハロゲンによって置換されたフェノキシアセチル(例えばフルオロフェノキシアセチル)である。
【0074】
当業者は、例えば、WO2012/094343、US8,133,669または下記文献に記載されているため、所望の機能に特に適した他の非耐熱性および/または非耐酸性保護基を特定できるだろう:
Greene's Protective Groups in Organic Synthesis by Peter G. M. Wuts, Publisher: Wiley-Blackwell; Edition: 5th Edition (December 23, 2014)、または、
Protecting Groups by PJ Kocienski, Publisher: Thieme Publishing Group; Edition: 3rd Revised edition (January 1, 2005)。
【0075】
式(II)に係る化合物の特定の一実施形態では、先行する実施形態と組み合わせてもよく、Rはメチル基である。
【0076】
式(II)に係る化合物の特定の一実施形態では、先行する実施位形態と組み合わせ得、Rは、ハロゲン(例えば、ヨウ素)である。
【0077】
式(II)に係る化合物の特定の一実施形態では、先行する実施形態と組み合わせてもよく、ZはNであり、かつ、ZはCである。
【0078】
特に、本発明は、下記構造式を有する化合物(実施例にも記載されている)のうちの1つに関する:
【0079】
【化8】
【0080】
【化9】
【0081】
【化10】
【0082】
<本発明の化合物の作製方法>
本発明の化合物は、実施例に記載の方法、または先行技術として公知の他の合成方法に沿って容易に合成され得る。
【0083】
例えば、式(II)に係る本発明の化合物のいくつかは、合成が実施例1に記載されるヒドロキシル化された前駆体化合物6から合成され得る。非耐熱性または非耐酸性基Rが、前駆体化合物6中のヒドロキシル基と反応することで、前駆体化合物6は改変され得る。従来の化学手法によっても、また、Rおよび/またはR基はこれらの前駆体化合物またはこれらの誘導体と反応し得る。式(II)に係る本発明の化合物は、例えば、下記実施例1における図式3の工程(i)に記載されるように、求核置換による環化によって最終的に得られ得る。
【0084】
<生体分子を保護するための方法>
本発明の化合物は、酵素、タンパク質および1つ以上の求核基を有するより一般的な生体分子、例えば、1つ以上のアミンを含む生体分子の保護、可逆的改変または失活のために有用である。
【0085】
本発明は、特に、1つ以上の保護された求核基を含む生体分子を作製するための方法に関する。前記方法は、1つ以上の保護された求核基を含む生体分子(または、本明細書中で「保護された生体分子」とも称する)を形成するために、生体分子中の1つ以上の求核基がアシル化できる条件下で、上述のような本発明の化合物を、前記生体分子と接するように配置する工程を含む。
【0086】
生体分子の求核基が加わることで、無水物のカルボニル官能基のうちの1つが求核置換され、COが除外されることによってアシル化がおこる。
【0087】
特に好ましい一実施形態において、生体分子はアミン官能基を含む。特に、生体分子は、リジン残基のε-アミン官能基または末端アミノ酸のアミンを含むタンパク質である。これらの実施形態において、リジン残基のε-アミン官能基または末端アミンのアシル化により、特に、長期保存の条件下(例えば、室温で24時間超または数日間)において、非常に安定なアミド結合を形成することができる。
【0088】
説明図として、式(II)の好ましい試薬を用いたアシル化反応を下記図式1に記載する(ここで、Rはメチル基、ZはN、ZはC、Rはヨウ素原子である)。
【0089】
【化11】
【0090】
生体分子が複数の保護された求核基を有する場合、使用される試薬の量を、所望の改変(保護)の度合いに応じて、調整することができる。特に、酵素の場合、所望の改変の度合いは、好ましくは、酵素が失活する閾値以上を意味する。この閾値は、簡単な試験によって経験的に測定可能である。
【0091】
保護反応に使用される緩衝液は、一般的にpHが6~9、好ましくはpH7~9、より好ましくはpH7~8の緩衝液である。緩衝液の例として、リン酸緩衝液および前記pHの範囲内で作用する非求核緩衝液が挙げられる。前記非求核緩衝液は、最大50%のDMSOを含み得る。このような緩衝液は、http://www.sigmaaldrich.com/life-science/core-bioreagents/biological-buffers.htmlに示されるように、当業者にとって公知である。
【0092】
アシル化反応、特に、式(I)または式(II)の化合物の少なくとも1つとの酵素のアシル化は、好ましくは、例えばpH7.4である、リン酸緩衝液中で行われることが好ましい。
【0093】
保護工程は、好ましくは、4℃~40℃の温度、例えば4℃~25℃の温度で行われる。
【0094】
上述の方法で得ることができる、1つ以上の保護された求核基を有する生体分子もまた、本発明の一部である。特に、酵素は、ポリペプチド配列中に複数のリジンが存在することで保護された複数のアミン基を有していてもよく、またはセリンもしくはシステインが存在することで、それぞれ、OH基もしくはSH基を有していてもよい。
【0095】
そのため、本発明は、下記式(III)によって表される保護された生体分子に関する:
【0096】
【化12】
【0097】
(式中、
Biomolは生体分子であり、
Wは、前記生体分子の求核基(好ましくはNH、SまたはO)であり、
Xは、共有結合またはC~Cアルキルであり、
Yは、求核基であり、好ましくは、O、S、NR、O-NR、NH-O、またはNH-NRであり、Rは、HまたはC~Cアルキル基であり、
、Z、Zは、それぞれ互いに独立して、NまたはCを表し、好ましくは、ZはCを表し、より好ましくは、ZはCであり、かつRはZに位置し、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~Cアルキル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル、置換されたもしくは置換されていないアリール基、または置換されたもしくは置換されていないヘテロ環であり、好ましくは、Rはメチル基またはエチル基であり、
は、H、または非耐熱性および/または非耐酸性保護基であり、
は、H、置換されたもしくは置換されていないC~C12アルキル基(例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、または2,2-ジメチルプロピル基)、置換されたもしくは置換されていないアリール基、置換されたもしくは置換されていないヘテロ環、アシル基、置換されたもしくは置換されていないアルケニル基、ハロゲン(例えば、F、Cl、BrおよびI)、またはシアノ基である)。
【0098】
もちろん、生体分子が複数の求核基を有する、例えばいくつかのリジンを含むタンパク質である場合、単一の生体分子は本発明に係る試薬を用いたアシル化によって一部またはすべてが保護された求核基を有してもよい。
【0099】
特に、式(II)の試薬が1つ以上の求核基を有する生体分子と反応する場合、下記式(VII)の保護された生体分子が得られる:
【0100】
【化13】
【0101】
上述の式(IV)、(V)および(VI)の試薬から1つを選択することで、式(VIII)、(IX)および(X)のうち1つに係る保護された生体分子がそれぞれ得られる。
【0102】
【化14】
【0103】
【化15】
【0104】
【化16】
【0105】
特定の一実施形態において、生体分子(またはBiomol)は、酵素から選択される。
【0106】
前記方法はいずれの種類の酵素にも適用可能である。特定の所望の酵素として、分子生物学技術において、遺伝子設計のためまたは核酸の重合のために使用される酵素、より具体的には、インビトロにおける診断法に使用される酵素が挙げられる。
【0107】
図のように、これらの酵素は、リパーゼ、プロテアーゼ、グリコラーゼ、またはヌクレアーゼを含む。
【0108】
特に、所望の酵素として、制限酵素、リガーゼ、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼI、IIもしくはIII、またはDNAポリメラーゼα、βもしくはγ等のDNAポリメラーゼ、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)またはテロメラーゼ、DNA依存RNAポリメラーゼ、プライマーゼまたはDNA依存RNAポリメラーゼ(逆転写酵素)が挙げられる。
【0109】
より具体的な好ましい一実施形態において、本発明に係る生体分子は、核酸重合反応において使用される酵素、例えば、DNAポリメラーゼである。核酸の重合に適するポリメラーゼは、当業者によく知られている。重合反応は、特に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅の進行における重合反応である。
【0110】
一実施形態において、本発明に係る保護方法において使用される所望の酵素は、以下のポリメラーゼから選択される:T7DNAポリメラーゼ、KornbergDNAポリメラーゼ、KlenowDNAポリメラーゼ、TaqDNAポリメラーゼ、MicrococcalDNAポリメラーゼ、αDNAポリメラーゼ、PfuDNAポリメラーゼ、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、E.coliRNAポリメラーゼ、SP6、T3、またはT7RNAポリメラーゼ。特に、一実施形態において、熱に安定であり、および/またはエクソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼ(例えば3’5’ エクソヌクレアーゼ)は、本発明に係る方法において、保護されたポリメラーゼを作製するために使用される。
【0111】
これらの保護されたポリメラーゼは、特に、ホットスタート法に有用である。ポリメラーゼを保護することで、低温でのDNAの非特定の増幅を防ぎ、そのため増幅反応の効率が促進され、高温での酵素が非耐熱性基の開裂によってのみ脱保護される。
【0112】
これらの熱に安定なポリメラーゼにおいて、特に、50℃~100℃で酵素の構造が変性し、および/または酵素の活性が失活する傾向がなく、酵素がひとたび脱保護されると、50℃~100℃で酵素の機能が活性化する傾向がある酵素をリスト化する。特に、ポリメラーゼ:TAQポリメラーゼおよびKlenTAQポリメラーゼである。
【0113】
他の熱に安定な酵素は、以下の生物体由来であり得る:Thermus antranikianii、Thermus aquaticus、Thermus caldophilus、Thermus chliarophilus、Thermus filiformis、Thermus flavus、Thermus igniterrae、Thermus lacteus、Thermus oshimai、Thermus ruber、Thermus rubens、Thermus scotoductus、Thermus silvanus、Thermus species Z05、Thermus species sps-17、Thermus thermophilus、Thermotoga maritima、Thermotoga neapolitana、Thermosipho africanus、Anaerocellum thermophilum、Bacillus caldotenax、Bacillus stearothermophilus等。
【0114】
<本発明の化合物を使用する方法>
本発明に係る保護された生体分子は、選択されるR基に依存する簡単な熱処理および/または酸処理によって、有利に脱保護され得る。
【0115】
熱処理または酸処理による、式(VII)に係る保護された生体分子(酵素)を用いた脱保護の原理を下記図式2に記載する。式中、Rはメチル基、ZはN、ZはCおよびRはヨウ素原子である:
【0116】
【化17】
【0117】
熱処理または酸処理は、非耐熱性または非耐酸性基を開裂させることで、本発明の化合物の求核官能基を分離する。上述のように分離された求核官能基は、生体分子の環化および脱保護によってアシル化が逆行する。有利には、脱保護反応によって生成された副生成物は、反応しない。加えて、この保護反応は、トリス緩衝液または酸および高温条件を引き起こす緩衝液を使用する必要はない。特に、脱保護工程は、pH6.5~9.5、好ましくはpH8~9.0、より好ましくはpH8.5~9.0の条件下での熱処理によって行うことができる。
【0118】
そのため、本発明の化合物によって保護された生体分子の求核基の脱保護のための方法もまた記載される。前記方法は、熱処理および/または酸処理によって、それぞれ非耐熱性基および/または非耐酸性基Rをそれぞれ開裂させる工程を含み、求核基の脱保護が付随する。
【0119】
上述の方法の利点の1つは、酵素を失活させることができる点である。「失活」とは、保護以前の適切な活性条件下での触媒活性と比較して、本発明の方法によって保護された酵素の触媒活性が、かなり低減されるかまたは皆無であることを意味すると理解されたい。
【0120】
その結果、上述の脱保護方法によって、保護された酵素の酵素活性を回復することができる。
【0121】
そのため、本発明は、酵素の可逆的な失活のための本発明の化合物の使用にも関する。好ましい一実施形態において、本発明の化合物は、核酸増幅反応において使用される酵素(例えば、ポリメラーゼ)の可逆的な失活のために使用される。
【0122】
本発明は、特に、ホットスタート法の酵素(例えば、核酸増幅反応(「PCR」として知られる反応)において使用されるポリメラーゼ)に適している。
【0123】
そのため、本発明はまた、核酸を増幅する方法にも関する。前記方法は、(i)本発明の化合物によって保護されているまたは失活されるポリメラーゼ酵素の使用、(ii)ポリメラーゼの脱保護のための少なくとも1つの工程(例えば、1つまたは複数の非耐熱性基Rを開裂することができる温度での熱処理)、(iii)工程(ii)において脱保護されたポリメラーゼを使用する核酸増幅工程を含む。
【0124】
特定の一実施形態において、増幅方法は、Taqポリメラーゼ、Pfuポリメラーゼ、T7ポリメラーゼ、E.coliDNAポリメラーゼおよび/または逆転写酵素のKlenow断片、または上述のようなその他のポリメラーゼを用いて行われる。
【0125】
他の一実施形態では、上述の実施形態と組み合わされてもよく、増幅方法は、当業者によく知られる、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR反応)である。PCRプロトコルは、例えば20~40サイクルを有し、それぞれのサイクルが、少なくとも(i)一般的に90℃~95℃の温度での、増幅されるDNAの変性段階、(ii)一般的に55℃~65℃の温度で増幅される、DNAとのプライマーのハイブリダイゼーション段階、および(iii)一般的に68℃~75℃の温度での伸長段階を含む。
【0126】
この場合、本発明に係る保護されたポリメラーゼは、好ましくは、熱に安定な保護されたポリメラーゼ、例えば、保護されたTaq(Thermus aquaticus)ポリメラーゼ、保護されたPfu(Pyrococcus furiosus)ポリメラーゼ、保護されたVentまたはTli(Thermococcus litoralis)ポリメラーゼ、またはこれらの改良型、特に組み換え型である。好ましくは、保護されたポリメラーゼが、室温において失活または実質的に失活し、PCR増幅に使用されるプライマーのアニーリング温度以上の温度で脱保護され得るように、前記ポリメラーゼ中の十分な数のアミンが保護されている。
【0127】
本発明の保護された酵素および保護されたポリメラーゼは、PCRによる核増幅のための種々の方法において有利に使用される。特に、ネステッドPCR、定量PCR(またはqPCR)、半定量的PCRまたはリアルタイムPCR、「エラープローン」PCR、または逆転写PCR(RT-PCR)が挙げられる。
【0128】
<キットおよびツールキット>
また、本発明は、本発明に係る保護された酵素を含むキットまたはツールキットに関する。これらは、試薬、緩衝液、コントロールおよび/または取扱説明書等を含み得る。
【0129】
特に、本発明は、ホットスタート核酸増幅のためのキットに関する。前記キットは以下を含む:
i.本発明に係る保護された熱に安定なDNAポリメラーゼ(例えば、式(III)、(VII)、(VIII)、(IX)、または(X)(前記式中、Biomolが熱に安定なDNAポリメラーゼである))、
ii.適切な場合には、核酸検出試薬(例えば、蛍光試薬)、
iii.適切な場合には、緩衝液、dNTP等。
【0130】
これらのキットは、特に、上述の増幅方法を実行するために有用である。
【0131】
本発明は、後述する実施例および添付の図面によってよりよく理解されるだろう。
【0132】
〔図面の説明〕
図1:アザアントラニル酸フェノキシ酢酸誘導体10の開裂およびフェニルエチルアミンの分離をモニタリングするHPLC。
【0133】
図2:フルオロアザアントラニル酸フェノキシ酢酸誘導体14の開裂およびフェニルエチルアミンの分離をモニタリングするHPLC。
【0134】
図3:n-Bocアザアントラニル酸誘導体19の開裂およびフェニルエチルアミンの分離をモニタリングするHPLC。
【0135】
図4:異なる濃度で使用される化合物13による、ヘモグロビンのアシル化。
【0136】
図5:熱処理後のヘモグロビンの逆アシル化
上段図(A):8MGuHCにおけるヘモグロビン
中断図(B):化合物13によってアシル化され、8MGuHClに採取されたヘモグロビン
下段図(C):化合物13によってアシル化され、pH9のトリス緩衝液で95℃に熱せられ、8MGuHClに採取されたヘモグロビン。
【0137】
図6:化合物13によるアシル化によるTaqポリメラーゼの失活、およびPCR条件下において95℃で15分間の熱処理後の活性の回復(2回行った実験の平均を示す)。左側の白地にドット:活性無し、右側の濃い網掛け:95℃での活性化の15分後。
【0138】
〔実施例〕
後述の実施例において、下記の略語を使用する:
ACN:アセトニトリル
AcOEt:酢酸エチル
BocO:ジ-tert-ブチルジカーボネート
TLC:薄層クロマトグラフィ
CDCl:重水素化クロロホルム
d:ダブレット
DCM:ジクロロメタン
dd:ダブレットのダブレット
DMF:ジメチルホルムアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
DMSO-d:重水素化ジメチルスルホキシド
ミリQ水:超純水(Millipore, Molsheim, France)
EDC:N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
eq:当量
PE:石油エーテル
EtO:ジエチルエーテル
HPLC:高性能液体クロマトグラフィ
LCMS:質量分析計を備える液体クロマトグラフ機器
HOBt:ヒドロキシベンゾトリアゾール
IA:イサト酸無水物
m:多重状態
nd:測定不可
NIS:N-ヨードスクシンイミド
q:四重線
Yld:収率
RfまたはRT:保持時間
NMR:核磁気共鳴
s:シングレット
t:トリプレット
rt:室温
TBDMS:tert-ブチルジメチルシリル
TEA:トリエチルアミン
THF:テトラヒドロフラン。
【0139】
<一般的条件>
後述の実施例において使用される化学的化合物の分析および合成のための一般的条件を以下に示す。
【0140】
HPLC分析を、PDA 996ダイオードアレイ検出器(Waters)、ZQ 2000質量分析検出器(Waters)、Empower software version 2、および30℃で流速1ml/分(260nmまたは最大プロットにおける検出)で使用される、Waters XTerra MS C18カラム(4.6×30、2.5μm)を備える、WATERS 2795 Alliance HPLCシステムを用いて行う。ZQ 2000質量分析は、エレクトロスプレーイオン化源を有する。イオン化を、コーン電圧が20Vおよび毛細管電圧が3.5kVである正のモードで行う。
【0141】
HPLC分析における条件は、下記の通りである。
【0142】
【表1】
【0143】
NMRスペクトルを、Jeol Lambda 400MHz分光計で記録した。化学シフト(δ)は、内部基準として使用される溶液のピーク(CDCl:7.26ppm;DMSO-d:2.49ppm)に相対的なppmで示される。スペクトルを、上記略語(s、d、t、q、quおよびm)を用いて記載する。結合定数(J)を、ヘルツ(Hz)で表す。
【0144】
カラムクロマトグラフィを、Macherey-Nagel Kieselgel 60、メッシュ0.063~0.2mm/70~230、またはMerck LiChroprep(登録商標)RP-18 40~63μmシリカゲルで行った。
【0145】
薄層クロマトグラフィによる分析を、Macherey-Nagel POLYGRAM(登録商標)SIL G/UV254、0.20mm、またはALUGRAM(登録商標)RP-18 W/UV254 0.15mmプレートで行った。
【0146】
<実施例1:O-フェノキシ酢酸非耐熱性保護基を有する本発明のアザイサト酸無水物分子(9)(化合物IVに対応)の合成>
本実施例において、本発明の化合物の(図式3に係る)合成が記載される。初めの前駆体ヒドロキシル化合物6は、6つの工程のうち最初に合成される。これは、本発明の他の化合物の合成の出発化合物として提供される。それから、化合物6をフェノキシアセチル化し、化合物7を得る。そして、化合物7をヨード化し、化合物8を得る。最後に、化合物8を環化し、タンパク質または他の生体分子と反応し、それらを一時的に保護することができる、所望のアザイサト酸化合物9を得る。
【0147】
【化18】
【0148】
[実施例1.1:4-クロロ-1-ヒドロキシフルロ[3,4-c]ピリジン-3(1H)-オン(1)の合成]
【0149】
【化19】
【0150】
窒素下における500mLシュレンク管中で、19.30mLの2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(114.24mmol、3当量)を、150mLのTHFに溶かす。-10℃で、60.13mLのn-BuLi(ヘキサン中1.9M、114.24mmol、3当量)を加え、反応混合物を10分間撹拌する。-80℃で、6.00gの2-クロロニコチン酸(38.08mmol、1当量)を加え、反応物を-50℃で3時間撹拌する。そして、17.69mLのDMF(228.48mmol、6当量)を-80℃で投入し、反応混合物を1時間30分撹拌する。室温に戻した後、100mLの水を加え、その溶液を、AcOEt(3×150mL)を用いて抽出する。その後、水相を、濃縮したHCl溶液でpH2まで酸性化し、さらに、AcOEt(3×200mL)を用いて抽出する。そして、有機相を混合し、MgSOで乾燥させ、濾過し、最後に蒸発させる。得られた油を、勾配溶離(DCMからDCM/AcOEt 85/15)によってシリカゲルカラムで精製する。
【0151】
最終生成物は、白色粉末として得られ、収率は69%である(4.88g、26.30mmol)。
【0152】
Mp = 191-193℃;IR (KBr): v, 3100 (OH), 2913, 2766, 1776 (C=O), 1609, 1584, 1408, 1194, 1136, 1093, 1047, 925, 755 cm-1;1H NMR (400MHz , DMSO-d6):δ 6.67 (bs, 1H); 7.79 (d, 1H, 3J = 5.0 Hz); 8.50 (bs, 1H); 8.74 (d, 1H , 3J = 5.0 Hz);13C NMR (100 MHz, DMSO- d6): δ 96.9; 118.8; 120.4; 147.0; 154.6; 159.3; 164.6。
【0153】
[実施例1.2:tert-ブチル2-クロロ-4-ホルミルニコチネート(2)の合成]
【0154】
【化20】
【0155】
250mLフラスコに、室温で、3.5gの化合物1(18.86mmol、1当量)、35mlのDCM、および2.62mlのTEA(18.86mmol、1当量)を加える。混合物を室温で10分間撹拌する。0℃で、8.54mlのt-BuBr(75.45mmol、4当量)および8.74gのAgO(37.72mmol、2当量)を少しずつ加える。反応物を室温で2時間撹拌する。前記混合物を、セライトを通して濾過し、蒸発させ、勾配溶離(シクロヘキサン/AcOEt 95/5からシクロヘキサン/AcOEt 90/10)によって、シリカゲルカラムで精製する。最終生成物は、白色粉末として得られ、収率は67%である(3.07g、12.70mmol)。
【0156】
Mp = 97-99℃;IR (KBr): v, 3077, 1732 (C=O), 1708 (C=O), 1578, 1370, 1294, 1261, 1178, 1133, 847 cm-1;1H NMR (400MHz, CDC13): δ 1.64 (s, 9H); 7.65 (d, 1H, 3J = 5.0 Hz); 8.65 (d, 1H, 3J = 5.0 Hz); 10.06 (s, 1H);13C NMR (100 MHz, CDC13): δ 27.9 (3C), 85.1; 121.0; 130.1; 140.6; 149.1; 150.9; 163.0; 188.2。
【0157】
[実施例1.3:tert-ブチル2-クロロ-4-(ヒドロキシメチル)ニコチネート(3)の合成]
【0158】
【化21】
【0159】
100mLフラスコ中、35mLのEtOHに3.00gの化合物2(12.41mmol、1当量)を溶かす。-10℃で、0.51gのNaBH(13.65mmol、1.1当量)を少しずつ加え、その反応混合物を30分間撹拌する。それから、50mLの水を加え、その溶液を、DCM(3×75mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、NaCl飽和溶液(2×50mL)で洗浄し、MgSOで乾燥させて、蒸発させる。
【0160】
最終生成物は、白色粉体として得られ、収率は97%(2.94g、12.06mmol)である。
【0161】
Mp = 122-124℃;IR (KBr): v, 3263 (OH), 3003, 2980, 1717 (C=O), 1592, 1387, 1365, 1299, 1170, 1131, 1080, 1063, 869, 846 cm-1;1H NMR (400MHz, CDCl3): δ 1.60 (s, 9H); 2.89 (t, 1H, 3J = 6.3 Hz); 4.69 (d, 2H, 3J = 6.3 Hz); 7.39 (d, 1H, 3J = 5.0 Hz); 8.37 (d, 1H, 3J = 5.0 Hz);13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 27.9 (3C); 61.3; 84.3; 120.6; 128.6; 147.2; 149.8; 150.8; 164.8。
【0162】
[実施例1.4:tert-ブチル4-(((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)メチル)-2-クロロニコチネート(4)の合成
【0163】
【化22】
【0164】
100mLフラスコに、室温で、2.25gの化合物3(9.23mmol、1当量)、30mLのDCM、1.88gのイミダゾール(27.70mmol、3当量)、および2.78gのTBDMSCl(18.47mmol、2当量)を加える。反応混合物を室温で、4時間撹拌する。それから、50mLの水を加え、その溶液を、DCM(3×75mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、NaCl飽和溶液(2×50mL)で洗浄し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。そして、粗反応生成物を勾配溶離(PEからPE/EtOH 95/5)によってシリカゲルカラムで精製する。最終生成物は、無色の油として得られ、収率は95%(3.15g、8.80mmol)である。
【0165】
IR (KBr): v, 2956, 2931, 2859, 1717 (C=O), 1584, 1369, 1291, 1259, 1168, 1127, 840 cm-l;1H NMR (400MHz, CDCl3): δ 0.10 (s, 6H); 0.94 (s, 9H), 1.60 (s, 9H); 4.74 (s, 2H); 7.50 (d, 1H, 3J = 5.0 Hz); 8.39 (d, 1H, 3J = 5.0 Hz);13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ -5.6 (2C); 18.2; 25.7 (3C), 27.9 (3C); 61.1; 83.6; 119.7; 127.6; 146.7; 149.7; 151.0; 164.1。
【0166】
[実施例1.5:tert-ブチル4-(((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)メチル)-2-メチルアミノ)ニコチネート(5)の合成]
【0167】
【化23】
【0168】
シールド管に、室温で、4.00gの化合物4(11.17mmol、1当量)、15mLのt-BuOH、および4.83mLのMeNH(HO中、40%w/w、55.87mmol、5当量)を加える。その反応混合物を100℃で、24時間撹拌する。蒸発後に、それから50mLの水を加え、その溶液を、DCM(3×75mL)を用いて抽出する。そして、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PEからPE/EtOH 90/10)によって、シリカゲルカラムで精製する。
【0169】
最終生成物は、無色の油として得られ、収率は70%(3.10g、8.79mmol)である。
【0170】
IR (KBr): v, 3377 (N-H), 2931, 2857, 1732 (C=O), 1584, 1370, 1291, 1259, 1190, 1169, 1127, 1112, 839 cm-1;1H NMR (400MHz, CDCl3): δ 0.11 (s, 6H); 0.96 (s, 9H); 1.59 (s, 9H); 3.02 (d, 3H, 3J = 4.9 Hz); 4.90 (s, 2H); 6.97 (d, 1H, 3J = 5.2 Hz); 7.87 (bs, 1H); 8.25 (d, 1H, 3J = 5.2 Hz);13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ -5.4 (2C); 18.4; 25.9 (4C), 28.4 (3C); 63.9; 82.2; 104.9; 109.0; 151.8; 154.6; 159.5; 167.8。
【0171】
[実施例1.6:tert-ブチル4-(ヒドロキシメチル)-2-(メチルアミノ)ニコチネート(6)の合成]
【0172】
【化24】
【0173】
100mLフラスコ中、30mLのDCMに3.00gの化合物5(8.51mmol、1当量)を溶かす。0.97mLのAcOH(17.02mmol、2当量)および17.02mLのTBAF(THF中1M、17.02mmol、2当量)を同時に加える。その反応物を室温で、15時間撹拌する。それから、70mLの水を加え、その溶液を、DCM(3×70mL)を用いて抽出する。そして、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。それから、粗反応生成物を勾配溶離(PE/AcOEt 80/20からPE/AcOEt 60/40)によって、シリカゲルカラムで精製する。
【0174】
最終生成物は、白色粉末として得られ、収率は92%(1.86g、7.81mmol)である。
【0175】
IR (KBr): v, 3348 (N-H), 3242 (O-H), 2980, 2944, 1667 (C=O), 1596, 1557, 1530, 1367, 1242, 1165, 1126, 1074, 1061, 805 cm-1;1H NMR (400MHz, CDCl3): δ 1.60 (s, 9H), 3.01 (d, 3H, 3J = 4.9 Hz); 4.73 (s, 2H); 6.73 (d, 1H, 3J = 5.2 Hz); 7.58 (bs, 1H); 8.22 (d, 1H, 3J = 5.2 Hz);13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 28.3 (3C); 28.4; 64.0; 83.0; 106.4; 110.7; 151.8; 153.2; 159.2; 167.5。
【0176】
[実施例1.7:tert-ブチル2-(メチルアミノ)-4-((2-フェノキシアセトキシ)メチル)ニコチネート(7)]
【0177】
【化25】
【0178】
50mLフラスコ中、5mLのDCMに204μLのフェノキシアセチルクロライド(1.47mmol、1当量)を溶かす。198mgのHOBt(1.47mmol、1当量)を加え、その反応混合物を室温で撹拌する。10分後、350mgの化合物6(1.47mmol、1当量)を加え、その反応物を、室温で24時間撹拌する。それから、40mLの水を加え、その溶液を、EtO(4×30mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PEからPE/AcOEt 8/2)によって、シリカゲルカラムで精製する。
【0179】
最終生成物は、白色粉末として得られ、収率は70%(385mg、1.03mmol)である。
【0180】
Mp = 149-151℃;IR (KBr): v, 3365, 2970, 1760, 1668, 1583, 1192, 752;1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 1.59 (s, 9H); 3.01 (d, 3H, 3J = 4.9 Hz); 4.75 (s, 2H); 5.45 (s, 2H); 6.53 (d, 1H, 3J = 5.1 Hz); 6.94 (m, 2H); 7.01 (t, 1H, 3J = 7.3 Hz); 7.30 (m, 2H); 7.89 (d, 1H, 3J = 4.2 Hz); 8.18 (d, 1H, 3J = 5.12 Hz);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.3 (4C); 65.2; 65.4; 83.1; 105.6; 108.9; 114.6 (2C); 121.8; 129.6 (2C); 147.4; 152.0; 157.6; 159.6; 167.1; 168.6。
【0181】
[実施例1.8:tert-ブチル5-ヨード-2-(メチルアミノ)-4-((2-フェノキシアセトキシ)メチル)ニコチネート(8)
【0182】
【化26】
【0183】
25mLフラスコに、280mgの化合物7(0.75mmol、1当量)、5mLのDCM、253mgのNIS(1.12mmol、1.5当量)、および500μLの酢酸を加える。その反応混合物を、室温で3時間撹拌する。それから、前記反応混合物を、20mLのチオ硫酸ナトリウム飽和水溶液で中和し、NaHCO飽和溶液で20mLに採取する。そして、EtO(4×30mL)を用いて抽出する。有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PEからPE/AcOEt 9/1)によって、シリカゲルカラムで精製する。
【0184】
最終生成物は、黄色の粉末として得られ、収率は91%(340mg、0.68mmol)である。
【0185】
Mp= 127-129℃;IR (KBr) v, 3424, 2934, 1755, 1704, 1576, 1193, 752;1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 1.56 (s, 9H); 2.97 (d, 3H, 3J = 4.6 Hz); 4.64 (s, 2H); 5.4 (s, 2H); 6.90 (d, 2H, 3J = 7.8 Hz); 6.99 (t, 1H, 3J = 7.3 Hz); 7.27 (m, 2H); 8.50 (s, 1H);N-Hシグナルは見当たらない;13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.1 (3C); 28.4; 65.0; 68.7; 82.5; 83.7; 112.7; 114.6 (2C); 121.8; 129.5 (2C); 144.6; 157.5; 157.7; 158.3; 166.5; 168.3。
【0186】
[実施例1.9:(6-ヨード-1-メチル-2,4-ジオキソ-2,4-ジヒドロ-1H-ピリド[2,3-d][1,3]オキサジン-5-イル)メチル2-フェノキシ酢酸(9)
【0187】
【化27】
【0188】
窒素下における50mLフラスコ中、10mLのDCMに300mgの化合物8(0.60mmol、1当量)を溶かす。951μLのホスゲン(トルエン中20%、1.80mmol、3当量)および251μLのTEA(1.80mmol、3当量)を同時に加え、その反応物を、室温で撹拌する。これを3回繰り返し、すべての原材料を変化させる。それから、40mLの水を加え、その溶液を、EtO(5×50mL)を用いて抽出する。有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。反応混合物を乾燥するまで蒸発させ、そのまま、勾配溶離(HO/ACN 95/5からHO/ACN 5/95)によって、C18-グラフテッドシリカゲルカラムで精製する。最終生成物は、白色粉末として得られ、収率は90%(255mg、0.54mmol)である。
【0189】
Mp = 162-164℃;IR (KBr) v (cm-1): 3439, 2935, 1787, 1757, 1728, 1450, 1176, 756;1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 3.65 (s, 3H); 4.65 (s, 2H); 5.79 (s, 2H); 6.86 (d, 2H, 3J = 8.5 Hz); 6.96 (t, 1H, 3J = 7.5 Hz); 7.27 (m, 2H); 9.00 (s, 1H);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 31.2; 64.8; 66.7; 94.7; 107.7; 114.6 (2C); 121.8; 129.5 (2C); 146.8; 150.0; 153.3; 155.1; 157.5; 162.7; 168.2。
【0190】
<実施例2.O-フルオロ-フェノキシ酢酸非耐熱性保護基を有する本発明のアザイサト酸無水物分子13の1種(化合物Vに対応)の合成>
ここでは、(図式4に係る)本発明の他の例示的な化合物の合成が記載される。前駆体化合物6は、フルオロ-フェノキシアセチル(より非耐熱性であり得る基)であり、これから化合物11を得る。前記化合物11をヨード化することで、化合物12を得る。最後に、前記化合物12を環化することで、アザイサト酸化合物13を得る。
【0191】
【化28】
【0192】
[実施例2.1:tert-ブチル4-((2-(4-フルオロフェノキシ)アセトキシ)メチル)-2-(メチルアミノ)ニコチネート(11)
【0193】
【化29】
【0194】
50mLフラスコに、149mgの4-フルオロフェノキシ酢酸(0.88mmol、1.05当量)、5mLのDCM、169mgのEDC(0.88mmol、1.05当量)、および119mgのHOBt(0.88mmol、1.05当量)を加える。室温で5分間経過後、200mgの化合物6(0.84mmol、1当量)を加え、その反応物を、室温で3時間撹拌する。それから、30mLの水を加え、その溶液を、EtO(3×30mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PE/AcOEt 9/1からPE/AcOEt 8/2)によって、シリカゲルカラムで精製する。
【0195】
最終生成物は、黄色の粉末として得られ、収率は57%(190mg、0.49mmol)である。
【0196】
Mp = 151-153℃; IR (KBr) v, (cm-1): 3376, 2977, 2935, 1758 (CO), 1683 (CO), 1586, 1189, 831;1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 1.60 (s, 9H); 3.02 (d, 3H, 3J = 4.6 Hz); 4.71 (s, 2H); 5.45 (s, 2H); 6.54 (d, 1H, 3J = 5.2 Hz); 6.88 (m, 2H); 6.99 (t, 2H, 3J = 8.3 Hz); 7.88 (S, 1H); 8.20 (d, 1H, 3J = 5.2 Hz);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.1; 28.3 (3C); 65.4; 65.9; 83.1; 105.6; 109.0; 115.9 (d, 3JC-F = 8 Hz, 2C); 116.0 (d, 2JC-F = 23 Hz, 2C); 147.3; 152.0; 153.8 (d, 4JC-F = 2Hz, 1C); 157.8 (d, 1JC-F = 239 Hz, 1C); 159.5; 167.1; 168.4。
【0197】
[実施例2.2:(6-ヨード-1-メチル-2,4-ジオキソ-2,4-ジヒドロ-1H-ピリド[2,3-d][1,3]オキサジン-5-イル)メチル2-(4-フルオロフェノキシ)酢酸(12)
【0198】
【化30】
【0199】
25mLフラスコ中、3mLのDCMに200mgの化合物11(0.51mmol、1当量)を溶かす。172mgのNIS(0.77mmol、1.5当量)および150μLの酢酸を加え、その反応溶媒を2時間撹拌する。その反応混合物を、20mLのチオ硫酸ナトリウム飽和水溶液で中和し、NaHCO飽和溶液20mLに採取する。そして、EtO(4×30mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PEからPE/AcOEt 9/1)によって、シリカゲルカラムで精製する。最終生成物は、黄色の油として得られ、収率は68%(180mg、0.35mmol)である。
【0200】
IR (KBr): v, 3413, 2926, 1763, 1688, 1506, 1183, 828;1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 1.56 (s, 9H); 2.97 (d, 3H, 3J = 4.64 Hz); 4.60 (s, 2H); 5.37 (s, 2H); 6.85 (m, 2H); 6.96 (m, 2H); 8.50 (s, 1H);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.1 (3C); 28.4; 65.7; 68.7; 82.4; 83.7; 112.7; 115.9 (d, 2JC-F = 23 Hz, 2C); 116.0 (d, 3JC-F = 8 Hz, 2C); 144.5; 153.7; 157.7; 157.8 (d, 1JC-F = 239 Hz, 1C); 158.3; 166.4; 168.2。
【0201】
[実施例2.3:(6-ヨード-1-メチル-2,4-ジオキソ-2,4-ジヒドロ-1H-ピリド[2,3-d][1,3]オキサジン-5-イル)メチル2-(4-フルオロフェノキシ)酢酸(13)
【0202】
【化31】
【0203】
窒素下における50mLフラスコ中、3mLのDCMに160mgの化合物12(0.31mmol、1当量)を溶かす。489μLのホスゲン(THF中20%、0.98mmol、9当量)および129μLのTEA(0.98mmol、9当量)を同時に加え、その反応物を30分間撹拌する。それから、30mLの水を加え、その溶液を、EtO(3×30mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その反応混合物を、乾燥するまで蒸発させ、そのまま、勾配溶離(HO/ACN 95/5からHO/ACN 5/95)によって、C18-グラフテッドシリカゲルカラムで精製する。
【0204】
最終生成物は、白色粉末として得られ、収率は77%(115mg、0.24mmol)である。
【0205】
Mp = 150-152℃;IR (KBr) v (cm-1): 3454, 3078, 2934, 1787, 1745, 1504, 1194, 825;1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 3.66 (s, 3H); 4.62 (s, 2H); 5.78 (s, 2H); 6.83 (m, 2H); 6.95 (m, 2H); 9.01 (s, 1H);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 31.2; 65.6; 66.8; 94.7; 107.7; 115.9 (d, 2JC-F = 23 Hz, 2C); 115.9 (d, 3JC-F = 8 Hz, 2C); 146.7; 150.0; 153.4; 153.7 (d, 4JC-F = 2Hz, 1C); 155.2; 157.8 (d, 1JC-F = 239 Hz, 1C); 162.8; 168.1。
【0206】
<実施例3.N-Boc非耐酸性/非耐熱性保護基を有する本発明のアザイサト酸無水物分子18の一種の合成(化合物VIに対応)>
ここでは、(図式5に係る)本発明の他の例示的な化合物の合成を記載する。まず、前駆体化合物6をアミン化合物の前駆体であるアジド化合物15に変化させる。前記化合物15はアミン化合物の前駆物質であり、アミン官能基をBOC保護基と結合させ、化合物16を得る。前記化合物16のヨウ素化反応によって化合物17が得られる。最終的に、前記化合物17を環化することで、アザイサト酸化合物18が得られる。
【0207】
【化32】
【0208】
[実施例3.tert-ブチル4-(アジドメチル)-2-(メチルアミノ)ニコチネート(15)]
【0209】
【化33】
【0210】
窒素下における100mLのフラスコ中、20mLのDMFに1.40gの化合物6(5.88mmol、1当量)を溶かす。0℃で、0.91mLのMeSOCl(11.76mmol、2当量)および4.08mlのTEA(29.3mmol、5当量)を同時に加える。その反応混合物を室温で撹拌し、TLC(PE/EtO 1/1)によってモニタリングする。対応するメシラート誘導体が完全に形成された後、1.15gのNaN(17.64mmol、3当量)を加え、その混合物を、室温で3時間撹拌する。それから、50mLの水を加え、その溶液を、EtO(3×60mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PE/EtO 9/1からPE/EtO 8/2)によって、シリカゲルカラムで精製する。最終生成物は、黄色の油として得られ、収率は73%(1.13g、4.29mmol)である。
【0211】
IR (KBr) v, 3374, 2978, 2104 (N3), 1679, 1586, 1425, 1125, 847, 655;1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 1.60 (s, 9H); 3.01 (d, 3H, 3J = 5.0 Hz); 4.58 (s, 2H); 6.61 (d, 1H, 3J = 5.0 Hz); 7.73 (s, 1H); 8.24 (d, 1H, 3J = 5.0 Hz);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.3 (3C); 53.9; 77.0; 83.1; 106.7; 111.5; 146.8; 152.0; 159.5; 167.1。
【0212】
[実施例3.1:tert-ブチル4-(((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)メチル)-2-(メチルアミノ)ニコチネート(16)
【0213】
【化34】
【0214】
25mLフラスコ中、5mLのTHFに、180mgの化合物15(0.68mmol、1当量)および447mgのBocO(2.05mmol、3当量)を溶かす。750μLのNaOH水溶液(0.75mmol、1.1当量、HO中1M)および230mgのPCy3を続けて加える。その反応物を、室温で2時間撹拌する。それから、30mLの水を加え、その溶液を、EtO(3×30mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PE/ AcOEt 9/1からPE/AcOEt 8/2)によって、シリカゲルカラムで精製する。最終生成物は、黄色の油として得られ、収率は59%(135mg、0.40mmol)である。
【0215】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 1.44 (s, 9H); 1.60 (s, 9H); 3.01 (d, 3H, 3J = 4.6 Hz); 4.40 (d, 2H, 3J = 6.1 Hz); 5.02 (sl, 1H); 6.57 (d, 1H, 3J = 5.1 Hz); 7.52 (sl, 1H); 8.18 (d, 1H, 3J = 5.1 Hz);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.4 (6C); 28.5; 43.9; 79.6; 83.0; 107.6; 111.6; 150.5; 151.5; 155.7; 159.2; 167.4。
【0216】
[実施例3.2:tert-ブチル4-(((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)メチル)-5-ヨード-2-(メチルアミノ)ニコチネート(17)
【0217】
【化35】
【0218】
25mLフラスコ中、4mLのDCMに130mgの化合物16(0.39mmol、1当量)を溶かす。225mgのNIS(0.58mmol、1.5当量)および200μLの酢酸を加え、その反応混合物を12時間撹拌する。それから、前記反応混合液を、10mLのチオ硫酸ナトリウム飽和水溶液で中和し、NaHCOで10mLに採取する。そして、EtO(4×30mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PEからPE/AcOEt 9/1)によって、シリカゲルカラムで精製する。
【0219】
最終生成物は、黄色の粉末として得られ、収率は67%(121mg、0.26mmol)である。
【0220】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 1.44 (s, 9H); 1.60 (s, 9H); 2.95 (d, 3H, 3J = 4.6 Hz); 4.39 (d, 2H, 3J = 5.2 Hz); 4.82 (sl, 1H); 6.67 (sl, 1H); 8.48 (s, 1H);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.1 (3C); 28.3 (4C); 47.6; 79.5; 82.9; 83.9; 113.1; 147.7; 154.9; 157.5; 158.3; 166.7。
【0221】
[実施例3.4:tert-ブチル(6-ヨード-1-メチル-2,4-ジオキソ-2,4-ジヒドロ-1H-ピリド[2,3-d][1,3]オキサジン-5-イル)メチルカルバミン酸(18)
【0222】
【化36】
【0223】
窒素下における25mLフラスコ中、3mLのDCMに100mgの化合物17(0.22mmol、1当量)を溶かす。342μLのホスゲン(0.65mmol、トルエン中20%、3当量)および90μLのTEA(0.65mmol、3当量)を同時に加え、その反応物を、室温で30分間撹拌する。この操作を3回繰り返し、すべての原材料を変化させる。それから、30mLの水を加え、その溶液を、DCM(3×30mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。こうして得られるアザト酸無水物18を、さらなる精製工程を行うことなく、そのまま反応させる。
【0224】
<実施例4:本発明のアザイサト酸無水物由来の分子の、アミン化合物との反応>
本実施例では、実施例1~3において合成された分子(それぞれ分子9、13および18)が、フェニルエチルアミンのようなアミン化合物と反応することを実証している。
【0225】
【化37】
【0226】
[実施例4.1:(5-ヨード-2-(メチルアミノ)-3-(フェネチルカルバモイル)ピリジン-4-イル)メチル2-フェノキシ酢酸(10)
【0227】
【化38】
【0228】
10mLフラスコに、65mgの化合物9(0.13mmol、1当量)、1mLのDCM、および17.4μLのフェニルエチルアミン(0.13mmol、1当量)を加える。その反応混合物を、室温で1時間撹拌する。それから、15mLの水を加え、その溶液を、EtO(5×20mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PE/AcOEt 9/1からPE/AcOEt 7/3)によって、シリカゲルカラムで精製する。
【0229】
最終生成物は、黄色みがかった粉末として得られ、収率は71%(50mg、0.09mmol)である。
【0230】
Mp = 164-166℃;IR (KBr) v (cm-1): 3428, 3296, 2924, 1761, 1627, 1433, 1170, 754;1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 2.86 (s, 3H); 2.88 (d, 2H, 3J = 7.1 Hz); 3.69 (m, 2H); 4.57 (s, 2H); 4.98 (s, 2H); 5.58 (d, 1H, 3J = 4.5 Hz); 6.54 (t, 1H, 3J = 5.6 Hz); 6.88 (d, 2H, 3J = 8.8 Hz); 7.00 (t, 1H, 3J = 7.6 Hz); 7.21 (m, 2H); 7.28 (m, 5H); 8.40 (s, 1H);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.4; 35.2; 40.6; 64.9; 67.3; 80.3; 114.6 (2C); 118.6; 122.0; 126.8; 128.6 (2C); 128.7 (2C); 129.7 (2C); 138.1; 140.7; 156.3; 156.8; 157.5; 166.5; 168.3。
【0231】
[実施例4.2:(5-ヨード-2-(メチルアミノ)-3-(フェネチルカルバモイル)ピリジン-4-イル)メチル2-(4-フルオロフェノキシ)酢酸(14)
【0232】
【化39】
【0233】
10mLフラスコに、50mgの化合物13(0.10mmol、1当量)、1mLのDCM、および12.9μLのフェニルエチルアミン(0.10mmol、1当量)を加える。その反応物を、室温で1時間撹拌する。それから、10mLの水を加え、その溶液を、EtO(5×15mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PE/AcOEt 7/3からPE/AcOEt 6/4)によって、シリカゲルカラムで精製する。最終生成物は、黄色みがかった粉末として得られ、収率は87%(50mg、0.09mmol)である。
【0234】
Mp = 165-167℃;IR (KBr): v, 3388, 3376, 2924, 1742, 1661, 1577, 1504, 1191, 824;1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 2.86 (d, 3H, 3J = 4.64 Hz); 2.89 (t, 2H, 3J = 6.84 Hz); 3.72 (m, 2H); 4.51 (s, 2H); 4.99 (s, 2H); 5.55 (d, 1H, 3J = 4.6 Hz); 6.51 (t, 1H, 3J = 8.0 Hz); 6.83 (m, 2H); 6.97 (m, 2H); 7.21 (m, 3H); 7.30 (m, 2H); 8.40 (s, 1H);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.4; 35.1; 40.5; 65.6; 67.3; 80.2; 115.9 (d, 3JC-F = 8 Hz, 2C); 116.1 (d, 2JC-F = 23 Hz, 2C); 118.6; 126.8; 128.6 (2C); 128.7 (2C); 138.1; 140.7; 153.6 (d, 4JC-F = 2Hz, 1C); 156.3; 156.8; 157.9 (d, 1JC-F = 222 Hz, 1C); 166.5; 168.1。
【0235】
[実施例4.3:tert-ブチル((5-ヨード-2-(メチルアミノ)-3-(フェネチルカルバモイル)ピリジン-4-イル)メチル)カルバミン酸(19)
【0236】
【化40】
【0237】
10mLフラスコ中、1mLのDCMにアザイサト酸無水物18を溶かす。それから、27.6μLのフェニルエチルアミン(0.22mmol、1当量)を加え、その反応混合物を、室温で1時間撹拌する。それから、10mLの水を加え、その溶液を、EtO(4×20mL)を用いて抽出する。それから、有機相を混合し、MgSOで乾燥させて蒸発させる。その後、粗反応生成物を、勾配溶離(PE/AcOEt 7/3からPE/AcOEt 4/6)によって、シリカゲルカラムで精製する。
【0238】
最終生成物は、黄色みがかった粉末として得られ、収率は54%(61mg、0.12mmol)である。
【0239】
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ 1.34 (s, 9H); 2.79 (d, 3H, 3J = 4.6 Hz); 2.88 (t, 2H, 3J = 7.1 Hz); 3.67 (m, 2H); 3.87 (d, 2H, 3J = 6.5 Hz); 5.47 (sl, 1H); 5.72 (sl, 1H); 7.18 (m, 5H); 8.27 (s, 1H); 8.98 (sl, 1H);13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ 28.3 (3C); 28.4; 30.0; 40.6; 44.9; 80.0; 80.6; 118.9; 126.4; 128.4 (2C); 128.7 (2C); 138.8, 143.1; 156.1; 156.2; 156.7; 166.7。
【0240】
<実施例5:ホットスタートPCR条件下での、アザアントラニル酸化合物の脱保護およびフェニルエチルアミンの分離の方法>
ここでは、実施例3で合成した誘導体10,14および19を、ホットスタートPCR条件において開裂でき、タンパク質によく似たフェニルエチルアミンを分離できることを実証する。
【0241】
<基本手順>
2.5mMアミド(誘導体10,14または19)のDMSO溶液20μLおよび遺伝物質増幅反応に従来から使用される緩衝液(60mM トリス(pH9)、50mM KO、1mM MgCl)180μLを1.5mLチューブに加える。それから、95℃にて熱混合器で混合物を撹拌する。LCMSモニタリングをt=15分、30分および1時間にて行う。
【0242】
[実施例5.1:アザアントラニルフェノキシ酢酸誘導体10の95℃での開裂の評価]
【0243】
【化41】
【0244】
フェノキシ酢酸基の熱脱保護により、対応するベンジルアルコールの形成が起こる(図式7を参照のこと)。それから、アミド結合に関与しているカルボニルに対するアルコールの求核攻撃により、対応するラクトンが生成されることで、溶媒へのフェニルエチルアミンの分離が起こる。
【0245】
この反応カスケードは図1のHPLCクロマトグラムに示される。
【0246】
95℃での15分間の後、脱保護されたアルコール、および、フェニルエチルアミンの分離を示す生じ得るラクトンの形成に気付くであろう。この結果は、対応するアルコールの形成により生じるフェノキシ酢酸基の非耐熱性を明確に実証している。環化後、生じ得るラクトンの存在に気付く。これは、アミド結合の開裂、およびこれによりフェニルエチルアミンが溶媒に分離されたことを実証している。95℃での1時間の後、最初のアミドおよびアルコールの集まりはラクトンに代わってほぼ完全に消えていた。
【0247】
この結果は、分子間環化系によって95℃でのアミド結合の開裂が起こり得ることを実証している。
【0248】
[実施例5.2:フルオロアザアントラニル酸フェノキシ酢酸誘導体14の95℃での開裂の評価]
【0249】
【化42】
【0250】
また、フルオロフェノキシ酢酸誘導体14を用いて、脱保護方法が行われた。95℃での15分間の後、アミドの集まりはかなり減る。特に、誘導体10で観察された結果よりも少ない(図2を参照のこと)。フッ素原子の存在により、フェノキシ酢酸基の開裂が促進される。それゆえ、30分後、アルコール、および、フェニルエチルアミンの分離を示す多量のラクトンの代わりに、このアミドの集まりはほぼ完全に消滅した。
【0251】
[実施例5.3:N-Bocアザアントラニル酸誘導体19の95℃での開裂の評価]
【0252】
【化43】
【0253】
この場合は、N-boc基の脱保護により、ベンジルアミン中間体誘導体が生じる。
【0254】
それから、この誘導体は環化され、溶媒へのフェニルエチルアミンの分離により対応するラクトンが形成され得る(上記の図式9)。種々の中間体を示すHPLCモニタリングが図3に示される。
【0255】
この誘導体では、非環式の脱保護型(中間体アミン)は検出されない。従って、この実施例は、脱保護後のN-boc基の迅速な環化、これによるフェニルエチルアミンの形成を実証している。これにより、速い環化には、アルコール官能基に比べて、5番の位置のアミノ官能基が好都合であることが確認される。それゆえ、当業者は、即座の環化およびフェニルエチルアミンの分離の結果、十分に速い脱保護を起こすために適切な、芳香環の5番の位置のNH官能基の保護基を見つけ得る。
【0256】
[実施例6:本発明に記載されているような、アザイサト酸化合物13によるヘモグロビンの可逆的保護]
ここでは、フルオロフェノキシ非耐熱性基を有するアザイサト酸誘導体13が、穏やかな条件下、水性溶媒中において、タンパク質と反応でき、タンパク質-フルオロフェノキシアザアントラニル酸誘導体を形成することを実証する。
【0257】
95℃での熱処理後の保護基の除去により、天然タンパク質を再生成することができる。
【0258】
<プロトコル>
以下のように混合物を作製する。AL 600 1x~AL 600 0.25xを実験する。AL 600 1x~AL 600 0.25xはそれぞれ、DMSOとpH7.4のPBSとの混合物中で、濃度を上げたアザイサト酸化合物に反応させたヘモグロビン33μgに対応する(PBS=タブレットを溶解させることにより得られたリン酸緩衝生理食塩水、参照:Sigma P4417、200mLの水(pH7.4)中)。Waters XBridge BEH C4 300カラム(Milford, USA)にHPLC分析用のアリコートを回収する前に、混合物を室温で2時間インキュベートし、120分後において、10mMトリフルオロ酢酸溶液中、20~72%の勾配のアセトニトリルを得る。
【0259】
【表2】
【0260】
図4において、AL 602 CTRL 0.25xのクロマトグラムは、コントロールのヘモグロビンは化合物13と反応していないことを示す。タンパク質部分のヘム並びにアルファおよびベータの2つのサブユニットを理解できる。以下の3つのクロマトグラム(AL 600 0.25x~1x)は、アザイサト酸化合物13によりアシル化されたアルファサブユニットおよびベータサブユニットに対応する右側への大規模な移動に対応して、タンパク質部分が消滅していることを示す。ピークの広がりは、タンパク質の反応部のランダムなアシル化に対応している。
【0261】
このように、記載されているような本発明のアザイサト酸化合物はタンパク質と反応できることを実証している。
【0262】
反応溶媒AL 600 1xが、PCRバッファ(主にトリス(pH9)からなる)中での95℃で15分間の熱処理に供される時、ベンジルアミド部分の加水分解が観察され、これにより、天然ヘモグロビンのクロマトグラフの特徴が戻る。これは、図5において明らかである。図5では、上段図のクロマトグラム(A)が、8MのGuHClに採取された天然のヘモグロビンを示し、中段図のクロマトグラム(B)が、化合物13によりアシル化され、8MのGuHClに採取されたヘモグロビンを示し、下段図のクロマトグラム(C)が、化合物13によりアシル化され、その後、トリス緩衝液(pH8)中で加熱され、8MのGuHClに採取されたヘモグロビンを示す。すでに述べたように、ヘモグロビンのアシル化により多量のアシル化タンパク質が形成され、その後、天然のタンパク質を再生するための熱処理後に多量のアシル化タンパク質は消滅することが明確に理解できる。
【0263】
なお、熱処理中に沈殿し得るタンパク質部分の溶解度を高めるため、反応後に、反応溶媒を8MのGuHClに移した。この実施例は、本発明に記載されるような化合物13によるモデルタンパク質の可逆的アシル化を実証している。
【0264】
[実施例7:本発明に記載されているアザイサト酸化合物13による、Taqポリメラーゼの可逆的アシル化の実証]
ここでは、非耐熱性フルオロフェノキシ基を有するアザイサト酸誘導体13が、穏やかな条件下、水性溶媒中において、熱に安定なポリメラーゼ(Taq)と反応でき、Taq-アザアントラニル酸フルオロフェノキシ誘導体が形成されることを実証する。PCR条件下での95℃の熱処理後の保護基の除去により、ポリメラーゼの活性を回復させることができる。これは、活性を測定することにより実証される。
【0265】
このように、ポリメラーゼの活性を一時的に隠して、熱処理後にはポリメラーゼの活性を回復させるため、うまく改変されたアザイサト酸無水物を用いる、という構想が明示される。
【0266】
<プロトコル>
Genscript Taq(2500u/100μL REF E00012)を用いたが、この酵素の求核の形跡をすべて取り除くため、あらかじめAmicon 10 KD microcon(no.42407)を通過させることにより、緩衝液を変更した。こうして、酵素懸濁液をmicroconに沈殿させ、緩衝液がなくなるまで遠心分離した。100μLのPBS(pH7.4)で5回洗浄を行い、その後、チューブを反転させることにより、最下層の残渣を回収し、PBSとともにQSP20μLに加え、125u/μLの懸濁液を得た。このように、この方法によってかなり満足のいくやり方でトリスおよびグリセロールが除去されることを実証した。
【0267】
それから、表2に記載される混合物を作製する。AL 604 0.25x~AL 604 0.375xを実験する。AL 604 0.25x~AL 604 0.375xはそれぞれ、DMSOとpH7.4のPBSとの混合物中で、濃度を上げたアザイサト酸化合物に反応させたTaqポリメラーゼ625ユニットに対応する(PBS=タブレットを溶解させることにより得られたリン酸緩衝生理食塩水、参照:Sigma P4417、200mL水(pH7.4)中)。ホットスタートPCR条件での酵素活性を評価する前に、軽くボルテックスで混合することにより、混合物を室温で3時間インキュベートする。
【0268】
【表3】
【0269】
[化合物13により改変されたTAQのポリメラーゼ活性の測定]
「ヘアピン」構造で末端処理された45塩基のオリゴヌクレオチドプローブを用いてTAQポリメラーゼの重合活性を測定する。構造の先端に蛍光消光剤が、プローブ配列の末端に蛍光標識が存在することを特徴とする。これにより、消光剤がフルオロフォアに空間的に近く、この構造において蛍光シグナルが測定できないようにしている。ポリメラーゼ活性の作用により、前記プローブの先端に相補的な19塩基のオリゴヌクレオチドを用いてこのプローブを伸長する。伸長作用により、プローブのヘアピン構造を開き、フルオロフォアを放出でき、それから蛍光が測定できる。酵素の活性に必要な試薬(dNTP、MgC1および塩基性緩衝液(pH9.5))の存在下で60℃の温度で20分間この蛍光測定を行う。
【0270】
測定の開始時において蛍光の増加は線形的であり、伸長の時間(分)につき発される蛍光の量に対応した初速度を計算できる。既知の活性を有する特定のポリメラーゼの種々の濃度に対して初速度(U/μL)を測定することにより、未知の活性を有する同様の酵素の活性の測定を可能とする校正曲線を作製することができる。
【0271】
失活を目的とした、ポリメラーゼの化学改変は、この方法により測定される。酵素の改変後の残りの活性レベルの測定により、所定の位置での保護の効果を調べることができる。化学改変により完全に失活したポリメラーゼは、90℃を超える温度での熱による活性化を行わない限り、活性を引き起こすことは全くできないに違いない。
【0272】
95℃で15分間加熱した後の酵素の活性の回復能力は、例えば、同じ方法によって容易に測定可能である。
【0273】
このように、図6は、選択されたアシル化試薬の濃度に依存して、Taqのポリメラーゼ活性を完全に失活させることができ、ホットスタートPCR条件下で95℃で15分間処理した後に回復させることができることを示す(AL 604 0.375xに対応する棒グラフを参照のこと)。
【図面の簡単な説明】
【0274】
図1図1:アザアントラニル酸フェノキシ酢酸誘導体10の開裂およびフェニルエチルアミンの分離をモニタリングするHPLC。
図2図2:フルオロアザアントラニル酸フェノキシ酢酸誘導体14の開裂およびフェニルエチルアミンの分離をモニタリングするHPLC。
図3図3:n-Bocアザアントラニル酸誘導体19の開裂およびフェニルエチルアミンの分離をモニタリングするHPLC。
図4図4:異なる濃度で使用される化合物13による、ヘモグロビンのアシル化。
図5図5:熱処理後のヘモグロビンの逆アシル化 上段図(A):8MGuHCにおけるヘモグロビン 中断図(B):化合物13によってアシル化され、8MGuHClに採取されたヘモグロビン 下段図(C):化合物13によってアシル化され、pH9のトリス緩衝液で95℃に熱せられ、8MGuHClに採取されたヘモグロビン。
図6図6:化合物13によるアシル化によるTaqポリメラーゼの失活、およびPCR条件下において95℃で15分間の熱処理後の活性の回復(2回行った実験の平均を示す)。左側の白地にドット:活性無し、右側の濃い網掛け:95℃での活性化の15分後。
図1
図2
図3
図4
図5
図6